説明

小麦アレルギー用減感作食品および減感作薬剤

【課題】 小麦アレルギー患者が経口摂取により寛容を獲得できる小麦アレルギー用の減感作食品および減感作薬剤を提供する。
【解決手段】 ゲル濾過HPLC分析によりタンパク質分解物の分子量分布をクロマトグラムの面積百分率で表したときに65%以上が分子量5000以下となるように、蛋白質を少量の抗原性が残存する低アレルゲン化小麦粉を含有する食品または薬剤による。小麦アレルギーに対して、通常の小麦粉製品を用いるよりも、安全で効率の良い減感作が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小麦アレルギーの減感作のための食品および薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギーは、様々な原因(アレルゲン)や複雑な発症機構を特徴とし、しばしば長期間の治療を伴う完治しにくい疾病である。治療方法としては薬物療法が基本的であるがこれは対症療法であり、根本的に改善させる原因療法ではない。ハウスダストやスギ花粉のような吸入型のアレルゲンを原因とするアレルギーでは原因療法としてアレルゲンを直接注射する減感作療法が行われている。しかし、この療法は痛みを伴うこと、注射のために幾度もの通院が必要なことなど患者の負担は大きい。したがって、吸入型のアレルゲンを経口摂取することで改善させる、経口減感作療法が試みられており、関連する研究報告や特許も多い。特にスギ花粉症に対してはスギ花粉を入れた飴などが花粉症を改善する効果をうたって販売されている。
【0003】
一方、食物をアレルゲンとする食物アレルギーは乳幼児に多い疾患で、これは消化・免疫系の未発達により食物に対する寛容が不完全であることから発症すると考えられている。したがって、原因療法として、一定の期間アレルゲンである食物を摂取せず、成長に伴う自然な寛容獲得を期待する除去食療法が行われている。除去食療法では、加工食品ではアレルゲンが混入している場合があり、治療途中に過ってアレルゲンを摂食してしまうという問題が多く発生している。特に小麦アレルギーにおいては除去期間が長期化することや小麦は多くの食品に使用されていることからその危険性はさらに大きい。また、一般に除去食療法は除去期間中どの程度の寛容が獲得されているのかが不明なため、解除の際、重篤なアレルギー症状を呈する危険性もある。このように除去食療法は広く行われている治療法であるが、多くの問題を抱える治療法でもある。
【0004】
食物アレルギーに関してもスギ花粉症で行われているような経口減感作療法が試みられている。除去食療法とは異なり、アレルゲンである食品を少しずつ食べさせて早期に寛容を獲得させることを目的とするものである。たとえば、小麦アレルギー患者に対してはうどん、卵アレルギー患者に対しては卵を用いた減感作療法が行われている。しかしながら、吸入型のスギ花粉症とは異なり、減感作されたという報告はない。したがって、経口減感作を誘導する食品の報告もない。実際、「食物アレルギー治療のための新しい試み」(Li XM, Sampson HA. Curr Opin Allergy Clin Immunol. 2002
Jun;2(3):273-8)(非特許文献1)の要約中には、「(抗原性が大きく残っている通常の食物による)急速の免疫療法(経口減感作)が報告されているが、いずれも維持が難しく、副反応が高い率で生じる」との記述もある〔( )は補足)〕。加えて、この経口減感作療法においては、投与量によっては重篤なアレルギー発症の危険性も高い。
【0005】
このように食物アレルギーにおいても、安全かつ短期間での寛容獲得が期待できる経口減感作療法が実現すれば、患者の受ける恩恵は計り知れなく、そのような食品の開発が待ち望まれている。
食物アレルギーは食物中の蛋白がアレルゲンとなることが知られている。したがって、酵素等で蛋白質を分解し、アレルギーの発症を抑制する試みが多くなされている。既に乳、米では厚生労働省が認可したアレルギー対応食品も市販されている。これらはアレルギー患者が食べてもアレルギー発症の危険性がない製品であるが、経口減感作を誘導する食品ではない。臨床医の間においても、アレルゲン性がないものでは減感作を誘導することは出来ないと認識されている。事実、ミルクアレルギー用の粉乳は長年使用されているが、減感作が誘導されたという報告はない。また「乳清蛋白に対するTH2免疫応答への加水分解乳の摂取効果」(H.-J.Peng,S.-N.Su,J.-J.Tsai,L.-C.Tsai,H.-L.Kuo and S.-W.Kuo, Clin
Exp Allergy,34,663-670(2004))(非特許文献2)においてもミルクアレルギー用の粉乳では経口減感作が誘導されないと記載されている。
【0006】
小麦においても、小麦アレルギー患者でも食べることが出来る小麦粉として酵素によって低アレルゲン化された小麦粉が開発されている(特許第3727438号公報:特許文献1)。この明細書には低アレルゲン化した小麦粉と小麦アレルギー患者血清との結合性がELISA法によって検出限界以下にまで低減化されていることが示されている。それ故、アレルゲンを含まない低アレルゲン化小麦粉と記載されている。しかしながら、減感作を期待させるような記述はない。
【0007】
さらに小麦アレルギーの主要アレルゲンで小麦の主要蛋白であるグルテンを酵素分解しペプチド化した特許も出されている〔特開平11−116596号公報(特許文献2)、特開2001−37440号公報(特許文献3)、特開2002−238463号公報(特許文献4)〕。しかしこれらには経腸、経口栄養剤、調味料等の用途が記載されているが、減感作に関する記述はない。
【非特許文献1】「食物アレルギー治療のための新しい試み」(Li XM, Sampson HA. Curr Opin Allergy Clin Immunol. 2002Jun;2(3):273-8)
【非特許文献2】「乳清蛋白に対するTH2免疫応答への加水分解乳の摂取効果」(H.-J.Peng,S.-N.Su,J.-J.Tsai,L.-C.Tsai,H.-L.Kuoand S.-W.Kuo, Clin Exp Allergy,34,663-670(2004))
【特許文献1】特許第3727438号公報
【特許文献2】特開平11−116596号公報
【特許文献3】特開2001−37440号公報
【特許文献4】特開2002−238463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、小麦アレルギー患者が経口摂取により寛容を獲得できる小麦アレルギー用の減感作食品および減感作薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
小麦アレルギー患者にとっては短期間でふつうの小麦粉製品が摂取できるようになることがもっとも望ましい。上述のように通常の小麦粉食品での減感作療法はアレルギー発症リスクが大きいだけでなく減感作が得られない。一方で、十分に低アレルゲン化されたものも減感作は得られない。
我々は、低アレルゲン化されているものの、抗原性が少し残存している小麦粉を用いることにより、アレルギー発症リスクが少なくかつ短期間の摂取で寛容が獲得されることを見いだし、経口減感作効果を持つ食品を発明するに至った。
【0010】
かくして、本発明は、蛋白質を分解して低アレルゲン化した小麦粉を含有する小麦アレルギー用減感作食品または減感作薬剤、特に、該低アレルゲン化小麦粉が、ゲル濾過HPLC分析により蛋白分解物の分子量分布を面積百分率で表したとき、分子量5,000以上が35%以下、分子量500〜5,000が30%以下、分子量500以下が35%以上から成る、小麦アレルギー用減感作食品または減感作薬剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
小麦アレルギー治療のための経口減感作食品および減感作薬剤を提供することができる。本発明により小麦アレルギー患者が短期間で通常の小麦を食べることが出来るようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
減感作療法は感作を引き起こすもの、すなわちある程度の抗原性が保持されているほうが望ましい。アレルギー対応食品のようなアレルギー発症の危険性が低いものでは効果がない。このことから本発明では原料となる小麦粉の低アレルゲン化処理に際して抗原性を完全に分解せず特定の割合で残存させる。すなわち、低アレルゲン化小麦粉をゲル濾過HPLC法で分析し、その蛋白分解物の分子量分布をHPLCチャート(クロマトグラム)の面積百分率で表した場合、65%以上が分子量5,000以下になるように、より具体的には、分子量5,000以上が35%以下、分子量500〜5,000以下が30%以下、分子量500以下が35%以上になるように低アレルゲン化させることにした。
【0013】
なお、製品(食品または薬剤)の種類によっては、当該製品を製造するための加工処理により、高分子量の蛋白質が不溶化してHPLC分析のチャートには現れないこともある。したがって、そのような場合も含めて、本発明の小麦アレルギー用減感作食品または減感作薬剤は、製品(最終製品)のゲル濾過HPLC分析をした場合には、分子量5,000以下の面積百分率を100%としたとき、分子量500〜5,000が40%以下、分子量500が60%以上となる。
【0014】
また、よく知られているようにHPLC分析におけるチャートに表れる面積の大きさは、測定条件や用いる機器の違いによる相違が認められている。したがって、本願の特許請求の範囲および明細書に示されているHPLC分析における面積百分率の値は、一般的には±3%程度の誤差を含み得るものとして理解すべきである。
【0015】
本発明に従えば、ゲル濾過HPLCで蛋白質分解物を分析した場合、上述したように65%以上が分子量5,000以下になる程度に抗原性を残存させるが、これは、後述するウサギ抗小麦抗血清を用いるELISA法による1〜5%の範囲の残存抗原性に対応している。
【0016】
本発明の低アレルゲン化処理を行う際に用いる小麦粉は薄力粉・中力粉・強力粉をはじめとしたあらゆる小麦粉を使用することが出来る。
本発明の低アレルゲン化処理を行う際に用いる酵素は蛋白分解酵素を基本とする。蛋白分解酵素であり、既述のように、ピーク面積の65%以上が分子量5,000以下になるように小麦粉を分解できる酵素なら制限はないが、アクチナーゼが好ましい。また、小麦中の多糖類がアレルゲンであることも知られている。多糖類もある程度の低アレルゲン化処理を行うことが望ましいことから、本発明の低アレルゲン化処理を行う際には多糖分解酵素として、セルラーゼも併用することが好ましい。
【0017】
本発明における小麦アレルギー用減感作食品および薬剤としては、他のアレルゲンを含まないものなら特に種類は問わないが、定量的に与えることができる形状のものが望ましい。たとえば、ケーキ、クッキー等の菓子用食品からパン、麺等の主食用食品、さらには錠剤があげられる。
【0018】
低アレルゲン化小麦粉を用いた経口減感作食品および薬剤の設計に際して、本発明は一定量の低アレルゲン化小麦粉食品を一定の期間摂取すること、摂取量を段階的に増量することを摂取基準として構成したものである。従来の低アレルゲン化小麦粉食品の摂取では、小麦の代替えとして位置づけられており、患者が摂取できる量を摂取して与えていた。しかし、低アレルゲン化された小麦粉といえども、相当な量を摂取した場合、ショック等の重篤なアレルギー症状を引きおこすことが確認されている。安全かつ寛容の獲得を確実なものとするために、本発明の減感作食品および薬剤は、安全性が十分に補償された少量の摂取から開始し、一定期間同量を摂取した後、増量するという摂取基準に適したものとした。
【0019】
実際の摂取では、たとえば、低アレルゲン化小麦粉を含む食品を1週間に2回、4週間以上摂取させ、その後負荷量を増加させることが望ましい。1回の負荷量は25mgから4gの範囲で負荷量の増加率は1.25〜2倍の範囲が望ましい。
以下、本発明をさらに具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
(低アレルゲン化小麦粉の製造)
特許第3727438号公報(特許文献1)に記載の実施例3に準じ、低アレルゲン化小麦粉を製造した。小麦粉に対して、重量比0.75%のセルラーゼT「アマノ」4(アマノエンザイム)を重量比0.6の水に溶解して、添加した。これを50℃で、1時間撹拌した。次いでアクチナーゼ(科研ファルマ)を添加するが、使用した小麦粉によって添加量を変更した。すなわち、薄力粉(8%蛋白)では0.035%、中力粉(10%蛋白)では0.041%、強力粉(12%蛋白)では0.053%とした。アクチナーゼ添加後、50℃で4時間撹拌し、バッター状の低アレルゲン化小麦粉を得た。特許第3727438号の請求項4ではアクチナーゼの添加量は小麦粉に対して0.1%〜10%と記載されているが、本特許ではアレルゲン性を残存させるため0.1%未満とした。
【0021】
このようにして製造した低アレルゲン化小麦粉の分子量分布をゲル濾過HPLC法により分析した。試験方法は以下のようであった。低アレルゲン化小麦粉を移動相で50倍希釈し、2,000xg、1分、遠心した。上清をとり、0.5μmのフィルターで濾過し濾液を得、試料とした。分析条件は以下のようであった。
カラム:TSKgel G2000SWXL、移動相:0.1%トリフロロ酢酸/45%アセトニトリル、流速:0.5ml/分、検出:210nm、試料:20μl。分子量マーカーとしてインシュリン(MW.5,750)、インシュリンB鎖(MW.3,496)インシュリンB鎖フラグメント22―30(MW.1086)、トリプトファン(MW.204)を用い、分子量と溶出時間の関係を求め、分子量5,000、分子量500の溶出時間を求めた。
【0022】
このようにして得られたクロマトグラムを図1に示した。また、このときの分子量分布をピーク面積の面積百分率で表した結果を表1に示した。低アレルゲン化前は小麦粉の種類に限らず、ピークは分子量5,000以上のものが大半を占めていた。一方、低アレルゲン化後は小麦粉の種類に限らず分子量5,000以上のピークが全体の約30%に低下しており、分子量5,000以下のピークが全体の約70%を占めていた。このうち分子量500〜5,000のピークが約25%、分子量500以下のピークが約45%であった。
【0023】
【表1】

【0024】
参考までに、ミルクアレルギー用の粉乳であるニューMA−1(森永乳業(株))を同様に分析した結果を図2に示した。ミルクアレルギー用粉乳はアレルギーの発症はないものの、減感作が期待されないものである。本実施例とは異なり、ミルクアレルギー用粉乳は蛋白が高度に分解されており、分子量500以下のピークが97%を占めていた。
これら低アレルゲン化小麦粉の残存抗原性をウサギ抗小麦抗血清を用いたELISA法によって測定した。ウサギ抗小麦抗血清は小麦蛋白をウサギに注射して得た。ELISAは以下のようにして行った。低アレルゲン化小麦粉および原料小麦粉の4M尿素抽出液を10倍ずつ階段希釈し、96穴マイクロタイタープレートに添加した。35℃で1時間放置した後、プレートを水で洗浄し、2%牛血清アルブミンでブロッキングした。35℃、1時間後にプレートを水で洗浄し、ウサギ抗小麦抗血清を35℃、2時間反応させた。0.02%ツイーン80を含むPBS(−)でプレートを洗浄した後、アルカリフォスファターゼ標識されたヤギ抗ウサギIgG抗体を35℃、1時間反応させた。0.02%ツイーン80を含むPBS(−)でプレートを洗浄した後、p−ニトロフェニルリン酸で発色させ、マイクロプレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。残存抗原性は原料小麦粉の吸光度より求めた検量線をもとに同じ吸光度を示す低アレルゲン化小麦粉の濃度を算出することにより求めた。
【0025】
結果は表2に示したが、残存抗原性は1.9%〜3.0%であり、ある程度抗原性が残存していることが明らかとなった。一般的なミルクアレルギー用の粉乳が0.0001%以下に低アレルゲン化されていることと比較した場合、明らかに残存抗原性が高いことが確認された。
【0026】
【表2】

【0027】
薄力粉を原料とした低アレルゲン化小麦粉について、小麦アレルギーの重症患者、軽症患者から取った血清との反応性をみたELISAの結果を表3に示した。特許第3727438号の実施例3では小麦アレルギー患者の血清を用いたELISAでは抗原性が検出限界以下となっていたが、本発明では重症患者、軽症患者ともに検出限界以下ではなく反応性が確認された。しかし低アレルゲン化していない小麦粉よりは反応性が低いものであった。
【0028】
【表3】

【0029】
以上のように、本発明による低アレルゲン化小麦粉はアレルギー発症の可能性が低下しているものの減感作が期待されない程の低アレルゲン化はされていないことが確認された。
【実施例2】
【0030】
(カップケーキ)
薄力粉を原料に特許第3727438号にしたがって作製したバッター状の低アレルゲン化小麦粉320g、グラニュー糖79.2g、食塩0.8gをあわせ、湯浴上で水分を40g蒸発させた。水30gに溶解した重曹2g、水10gに溶解したクエン酸1gを加え、生地とした。生地4gをアルミカップに入れ、8分間蒸し、カップケーキを製作した。このカップケーキには低アレルゲン化小麦粉として2gが含まれていた。ゲル濾過HPLCの移動相を用いてカップケーキより抽出液を調製し、ゲル濾過HPLC分析を行った。得られたクロマトグラムを図3に示した。
【0031】
分子量5,000以下のピークの形状は低アレルゲン化薄力粉と同様であった。一方、分子量5,000以上のピークはカップケーキの加工処理により、移動相に対して不溶性になったと考えられた。分子量5,000以下のピーク面積を100%とした場合、分子量500〜5,000、分子量500以下の面積比を表4に示した。カップケーキ抽出液と低アレルゲン化薄力粉との間に大きな差は認められなかった。低アレルゲン化小麦粉を加工したカップケーキにおいて分子量5,000以下のピークは抽出可能な状態で存在していることが確認された。また、このような操作によって加工品中の低アレルゲン化小麦粉の存在を確認することが出来た。
【0032】
【表4】

【実施例3】
【0033】
(ゲル様食品)
本実施例において得られたカップケーキの生地を水で2倍希釈し、低アレルゲン化小麦粉として25〜800mg含むようにプラスチック製の容器に入れた。3分間沸騰水中で煮沸し、ゲル様食品を製作した。
【実施例4】
【0034】
(錠剤1)
バッター状の低アレルゲン化薄力粉16g(薄力粉として10g)、グラニュー糖4g、デキストリン66gを合わせ、少量の水を添加し、均一に混和した。これを加熱して澱粉を糊化させた後、凍結乾燥し、乾燥物を破砕した。破砕物は打錠器を用いて200mgに打錠した。これは一錠中に25mgの低アレルゲン化薄力粉を含有し、重症の小麦アレルギー患者が最初の摂取に適するものであった。また、2錠で50mg摂取、4錠で100mg摂取に適するものであった。
【実施例5】
【0035】
(錠剤2)
バッター状の低アレルゲン化薄力粉16g(薄力粉として10g)、グラニュー糖4g、デキストリン6gを合わせ、少量の水を添加し、均一に混和した。これを加熱して澱粉を糊化させた後、凍結乾燥し、乾燥物を破砕した。破砕物は打錠器を用いて400mgに打錠した。これは一錠中に200mgの低アレルゲン化薄力粉を含有し、重症の小麦アレルギー患者が摂取量を増加した時の200mg摂取に適するものであった。また、2錠で400mg摂取、4錠で800mg摂取に適するものであった。
【実施例6】
【0036】
(試験例1)
減感作療法:低アレルゲン化小麦粉として25mgを含有するゲル様食品を重症小麦アレルギー患者に対し、1週間に2回、4週間食べさせた。次いで50mg、100mg、200mg、400mg、800mgと増量させながら同様にたべさせた。さらにカップケーキを1/2個(低アレルゲン化小麦粉として1g含有)、1個、2個と増量させながら同様に食べさせた。最後に市販のうどんを食べさせた。
臨床的所見:
表5に結果を示した。被験者4名は重症の小麦アレルギー患者であり、試験開始時はごく微量の小麦粉でもアレルギー症状が出ていたが、試験終了時は全員がうどんを食べられるようになっていた。開始時の25mg摂取ではアレルギー症状はなかった。
【0037】
【表5】

【0038】
生化学的所見:
図4に結果を示した。試験開始時と試験終了時の小麦に対する血中IgE量をELISAによって測定した。IgEはアレルギーを引き起こすもっとも重要な因子であることが知られているが、被験者4名中全員のIgE量が低下し、臨床的所見を裏付ける結果であった。
結論:
ゲル様食品、カップケーキは減感作食品であり、試験例1はそれらを用いた減感作療法として有効であった。重症小麦アレルギー患者には25mgからの摂取が安全かつ有効であった。
【実施例7】
【0039】
(試験例2)
減感作療法:
実施例1のカップケーキを1/4個(低アレルゲン化小麦粉として0.5gを含有)軽症小麦アレルギー患者に対し、1週間に2回、4週間食べさせた。次いで1/2個、1個、2個と増量させながら同様にたべさせた。最後に市販のうどんを食べさせた。
臨床的所見:
表6に結果を示した。被験者4名は軽症の小麦アレルギー患者であり、試験開始時は少量のうどんでもアレルギー症状が出ていたが、試験終了時は全員がうどんを食べられるようになっていた。
【0040】
【表6】

【0041】
生化学的所見:
図5に結果を示した。試験開始時と試験終了時の小麦に対する血中IgE量をELISAによって測定した。IgEはアレルギーを引き起こすもっとも重要な因子であることが知られているが、被験者4名中3名のIgE量が低下していた。この結果は臨床的所見を支持する結果であった。
結論:
カップケーキは減感作食品であり、試験例2はそれを用いた減感作療法として有効であった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明において用いられる各種小麦粉の低アレルゲン化前後のゲル濾過HPLCクロマトグラムを示す。
【図2】参考のために示す、ミルクアレルギー用粉乳のゲル濾過HPLCクロマトグラムである。
【図3】本発明の1例であるカップケーキの抽出液のゲル濾過HPLCクロマトグラムである。
【図4】本発明のゲル様食品を用いて実施した試験における重症患者の減感作の状況を例示するグラフである。
【図5】本発明のカップケーキを用いて実施した試験における軽症患者の減感作の状況を例示するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質を分解して低アレルゲン化した小麦粉を含有することを特徴とする小麦アレルギー用減感作食品または減感作薬剤。
【請求項2】
前記低アレルゲン化小麦粉が、ゲル濾過HPLC分析により蛋白分解物の分子量分布を面積百分率で表したとき、分子量5,000以上が35%以下、分子量500〜5,000が30%以下、分子量500以下が35%以上から成るものであることを特徴とする請求項1の小麦アレルギー用減感作食品または減感作薬剤。
【請求項3】
製品のゲル濾過HPLC分析において、分子量5,000以下の面積百分率を100%としたとき、分子量500〜5,000が40%以下、分子量500が60%以上であることを特徴とする請求項2の小麦アレルギー用減感作食品または減感作薬剤。
【請求項4】
低アレルゲン化小麦粉を25mgから2g含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかの小麦アレルギー用減感作食品または減感作薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−81458(P2008−81458A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264719(P2006−264719)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(593131611)オーム乳業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】