説明

少なくとも2色の再生色を有するホログラムの作製方法

【課題】少なくとも2色の再生色を有するホログラムの作製方法の提供。
【解決手段】所定の視野角で少なくとも2色の再生色を有するホログラムを含む製品の作製方法であって、(i)マスターにおいて少なくとも2つの異なる角度のそれぞれでホログラフィック素子を記録する工程、及び(ii)上記マスターをコピーする工程を含む方法。本システムの原理は、鏡面状の背面の表面に2種の表面レリーフ物、A及びBを形成することによって説明される。ホログラフィック記録媒体をこの表面レリーフ物の表面に配置し、次いで上記記録媒体にコヒーレントレーザー光を照射する場合、干渉縞はポリマー内に記録され、現像され、レリーフパターン(C〜E)を描く。ホログラムに白色光を照射し、ホログラム表面の法線方向から見る場合、上記視野角における縞間隔は、表面レリーフ物A及びBに対してそれぞれda及びdcとなり(図C及びE)、上記鏡面に対しては変わらないままである(図D)。この結果として、各種異なる周波数の光又は各種異なる色がそれぞれ特定の視野角において反射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の視野角で少なくとも2色の再生色を有するホログラムの作製方法、及びそのような方法によって得られるホログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチカラーを有するホログラムは、美的理由においても、セキュリティー分野においても非常に望まれるものである。
【0003】
ホログラフィックセキュリティーラベルは、現在、エンボス箔量産技術を用いて大量に製造されている。多数の画像、画像の複雑性、多数の照明形式、メッセージ、コード化メッセージ、可視画像、隠し画像、及びラベル剥離防止策を組み合わせることで種々のセキュリティーレベルが得られる。また、これらにおいて多数の色を有するホログラムを用いることも知られており、上記ホログラムは、シングルレーザーによる偽造が不可能に近く、異なる周波数のマルチレーザーによってでさえ偽造が非常に困難である。
【0004】
特許文献1には、セキュリティー分野で用いる各種のホログラム(マルチカラーホログラム等)を作製するための方法が開示されている。特許文献1において、各種カラー画像又は各階調のカラー画像を有するホログラムは、ある条件下で明確に定義された方法で膨潤させた特定のポリマーを用いること、且つ記録工程におきポリマー材料の膨潤状態を制御することにより作製される。これらは、ホログラムを記録する前に各種の溶剤、水分、熱、圧力、若しくは化学物質中でポリマーを前膨潤/前収縮させることにより、又はポリマーのある部分を化学選択的に硬化若しくは軟化させることにより達成される。
【0005】
各種色の画像は、ポリマーの各種膨潤状態で上記画像を記録することにより、相互に重ね合わせられる。記録中のポリマーの膨潤程度によって、ホログラムが乾燥した際ホログラフィック画像の色がどのように再現されるかが決定される。
【0006】
特許文献2は、マルチプレックスホログラフィック画像に関するものであり、また、各種異なる画像は別々に記録されるはずであると、すなわち感光性ポリマーフィルムがある膨潤状態から別の膨潤状態へと移行する間、連続して上記フィルムのホログラフィック露光を行うことによって各種異なる画像が記録されると教示している。特許文献1の通り、ホログラフィック記録材の膨潤状態は、典型的にはpH、イオン濃度、湿度、水分活性から選択されるいくつかの手段により制御できるはずである。
【0007】
膨潤性ポリマーを用い、各種膨潤状態でホログラフィック素子を記録するとは、マルチカラーホログラムがシングルレーザーで形成可能ではあるが、不利なことに、次の記録工程が時間のかかる、複雑で、高価なものとなるということである。あるいは、マルチカラーを有するホログラムがマルチレーザーを用いて形成可能だが、高価で複雑であるという不利点も持つということである。
【特許文献1】国際公開第05/122099号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第1244902号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、公知方法の上記不利を克服するマルチカラーホログラムの作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、所定の視野角で少なくとも2色の再生色を有するホログラムを含む製品の作製方法を提供するものであり、上記方法は、
(i)マスターにおいて少なくとも2つの異なる角度のそれぞれでホログラフィック素子を記録する工程、及び
(ii)上記マスターをコピーする工程
を含む方法である。
【0010】
第2の態様によれば、本発明は、本発明の第1の態様に係る方法によって得られる製品を含む。
【0011】
本発明は、ホログラムを記録する対象である基材の物理的状態を変えずに、シングルレーザーを用いてマルチカラーホログラムを作製する方法を提供する。この方法は、安全なホログラム(偽造が非常に困難であるという意味で)を簡便且つ安価な工程により作製可能であるため、極めて有益である。
【0012】
そのような方法により作製されたホログラムは、特有の表示特性を有する。
【0013】
発明の詳細な説明
従来法では、ホログラフィック画像を含む市販品は「マスター」を用いて製造され、ホログラムは上記マスターから最終製品に「コピーされる」。このやり方は、大量に製品を製造するやり方として費用対効果が高く且つ効率的であり、ホログラムの量産に用いられる。この工程は、ホログラフィー分野の当業者に周知である。
【0014】
本発明において形成されるマスターは、各種のホログラフィック素子を有しており、再生時の発散角が異なる。上記マスターが製品上にコピーされれば、所定の視野角でそれぞれの素子に対し異なる色が現れる。各種素子の互いに異なる色は、マスターにおいて素子ごとに再生時の相対角度を変えることにより制御される。
【0015】
マスターにおいて少なくとも2つの異なる角度のそれぞれでホログラフィック素子を記録する工程を、マスターに起伏をつけることにより達成するのが好ましい。この実施形態において、マスターの各素子は起伏をつけた表面によって表される。ホログラムの記録にレーザーを用いるのが好ましい。このように、マスターにおけるホログラフィック素子を記録する際、レーザーは固定可能であって、且つ各素子において再生時の角度が異なるホログラフィック素子を記録する。起伏をつけたマスターの形状は、製品において所望される色のバリエーションに応じて選択される。3色を有する製品に対しては、マスターは相対角度の異なる3つの素子を有するように形作られる。
【0016】
あるいは、レーザーに対して異なる角度でマスターが呈示されるように、ホログラムの記録中、記録レーザーに対してマスターを回転させてもよい。
【0017】
本発明の利点は、シングルレーザーを用いてマスターを作製できるので、コピーもシングルレーザーを用いて実施できる点である。
【0018】
本発明は、特に、ホログラフィックセンサーである製品に関する。ホログラフィックセンサー製品は、通常、支持媒体を備え、該媒体にはその容積全体にわたってホログラムが配置されている。上記支持媒体は検体と相互作用し、結果として分極率、反射率、屈折率、又は吸光度等の媒体の物性が変化する。上記変化は、ホログラフィック素子の光学特性における目に見える変化を引き起こす。ホログラムを広帯域入射非イオン化電磁放射によって再生する間に何らかの変化が起これば、それに伴い色の変化が観察される。本発明のホログラムに関して言えば、ホログラムを所定の視野角で見る際に各色において変化が生じる。
【0019】
物性を変化させ、従って光学特性を変化させる多くの基本的な方法がある。変化する物性が、ホログラフィック素子の大きさであることが好ましい。特定の基を支持マトリックスに組み込むことでこの変化を達成してもよい。これは、上記マトリックスにおいて、検体との相互作用によりこれらの基の立体配座が変化し、支持媒体が膨張又は収縮することによる。そのような基は、検体種と特異的に結合する結合体であることが好ましい。物性を変化させる別の方法として、支持媒体の水分活性を変化させる方法がある。
【0020】
ホログラフィックセンサーを、種々の検体の検出に用いてもよく、単に支持媒体の組成を改変することにより可能となる。上記媒体は、ポリマーマトリックスを含むのが好ましく、その組成は、高品質フィルム、すなわちホログラフィック縞を形成できる均一なマトリックスを有するフィルムが得られるように最適化されるはずである。好適なセンサーは、国際公開第95/26499号パンフレット、国際公開第99/63408号パンフレット、及び国際公開第04/081676号パンフレットに記載されている。
【0021】
ホログラフィック効果は、照射(例えば、白色光、UV光又は赤外線下)、特定の温度、磁力若しくは圧力条件、又は特定の化学的、生化学的、若しくは生物学的刺激によって示されてもよい。ホログラムは物体像、又は2次元若しくは3次元効果の画像であってもよく、拡大下でのみ視認可能であるパターン形状であってもよい。
【0022】
本発明のホログラムを物品の真贋鑑定に用いてもよい。例えばホットスタンプテープ上にある転写可能なホログラフィックフィルムを用いて、ホログラムを物品に利用してもよい。物品は、トランザクション・カード、銀行券、パスポート、身分証明証、スマートカード、運転免許証、株券、債務証書、小切手、チェックカード、タックス・バンダロール、商品券、郵便切手、鉄道チケット、航空チケット、テレホンカード、福引券、イベントチケット、クレジットカード、デビットカード、業務用名刺、又は、正規品と偽造品とを区別したり、盗品を識別したりする目的で消費者保護、ブランド保護若しくは製品保護において使用される商品であってもよい。ホログラムは、インテリジェントパッケージ(Intelligent packaging)の用途において、製品を提供し、情報を携帯させるために用いてもよい。「インテリジェントパッケージ」とは、容器、包装紙又は筐体の一部又はそれらの付属物が、製品の情報若しくは品質、又は、環境条件(製品の品質、シェルフライフ若しくは安全性に影響を及ぼす)を監視、表示又は検査するシステムを指し、典型的な実用例としては、経時的な温度、鮮度、水分量、アルコール度数、ガス量及び物理的損傷度などを示すインジケーターなどが挙げられる。物品は不正開封防止ラベル又はシールであってもよい。
【0023】
あるいは、ホログラムを、任意の工業品又は手工芸品〔例えば、以下に限定するものではないが、宝石;衣服(履物を含む);布地;家具;玩具;進物;家庭用品(陶磁器類、ガラス製品を含む);建造物(ガラス、タイル、塗料、金属、レンガ、セラミック、木材、プラスチック、その他内装及び外装を含む);美術品(絵画、彫刻、陶器、ライト・インスタレーションを含む);文具(グリーティングカード、レターヘッド、販促品を含む);及びスポーツ用品〕等の装飾的要素又は用途を有する製品に利用してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下の実施例により本発明を説明する。
【実施例1】
【0025】
ロゴを使って、ニッケルシムからマスターホログラムを構成した。上記シムは、光を全て法線方向から4°の傾きで反射する鏡面状の背面を有していた。532nmの光を法線方向から45°の傾きで反射するようにロゴの青色部分を形成し、532nmの光を法線方向から30°の傾きで反射するようにオレンジ色部分を形成して、特定の視野角で異なる色を反射する素子を有するマスターホログラムを得た。次いで、上記マスターの密着印画を532nmのレーザーを用いてゼラチンフィルムで形成すると、得たホログラムはマスターと同じ色特徴を示した。
【実施例2】
【0026】
本システムの原理は、鏡面状の背面の表面に2種の表面レリーフ物、A及びB(図1A及び1Bを参照)を形成することによって説明される。ホログラフィック記録媒体をこの表面レリーフ物の表面に配置し、次いで上記記録媒体にコヒーレントレーザー光を照射する場合、干渉縞はポリマー内に記録され、現像され、レリーフパターン(図1C〜E)を描く。上記縞間隔はブラッグの式:
λ=2ndcosθ
(式中、
θは入射角であり、dは縞間隔であり、λは回折波長であり、及びnは真空中の平均屈折率である)によりほぼ表せる。従って、縞間隔(d)は、使用するレーザーの周波数によって調節され、記録される表面レリーフ物全て、さらに背面となる鏡面に対して同じである。
【0027】
次に、ホログラムに白色光を照射し、ホログラム表面の法線方向から見る場合、上記視野角における縞間隔は、表面レリーフ物A及びBに対してそれぞれd及びdとなり(図1C及び1E)、上記鏡面に対しては変わらないままである(図1D)。ブラッグの式によれば、この結果として、各種異なる周波数の光又は各種異なる色がそれぞれ特定の視野角において反射され、表面レリーフ物が配置された部分において多数の色を有するホログラムが形成される。背面となる鏡面は、画像を記録するのに使用されるレーザーと同じ周波数又は色を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1A〜1Eはマスターの表面レリーフ、及び結果として得られるホログラフィック縞を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の視野角で少なくとも2色の再生色を有するホログラムを含む製品の作製方法であって、
(i)マスターにおいて少なくとも2つの異なる角度のそれぞれでホログラフィック素子を記録する工程、及び
(iii)前記マスターをコピーする工程
を含む
方法。
【請求項2】
前記マスターは起伏をつけられ、相対角度の異なる少なくとも2種の表面を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホログラフィック素子はレーザーを用いて記録される、
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マスターは工程(i)において前記レーザー光に対して回転する、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
所定の視野角で少なくとも2色の再生色を有するホログラムを含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって得られる製品。
【請求項6】
前記ホログラムは光の回折により生成される、
請求項5に記載の製品。
【請求項7】
前記ホログラムは拡大下でのみ視認可能である、
請求項5又は請求項6に記載の製品。
【請求項8】
前記ホログラフィック画像は物体像である、又は、2次元若しくは3次元効果を与えるものである、
請求項5、6又は7に記載の製品。
【請求項9】
レーザー光が照射された場合に干渉効果を引き起こす手段を更に含む、
請求項5〜7のいずれか1項に記載の製品。
【請求項10】
前記手段は偏光解消層を含む、
請求項9に記載の製品。
【請求項11】
前記ホログラムは白色光、UV光又は赤外線下で視認可能である、
請求項5〜10のいずれか1項に記載の製品。
【請求項12】
前記ホログラムは特定の温度、磁力又は圧力条件下で視認可能である、
請求項5〜11のいずれか1項に記載の製品。
【請求項13】
請求項5〜12のいずれか1項に記載の製品であって、
光学フィルターが前記製品上にある製品。
【請求項14】
前記光学フィルターはバンドパスフィルターである、
請求項5〜13のいずれか1項に記載の製品。
【請求項15】
前記マスターは分散反射面を含む、
請求項5〜14のいずれか1項に記載の製品。
【請求項16】
ある種の光学素子の特定の角度及び/又は色によって異なる機械可読性を有する、
請求項5〜15のいずれか1項に記載の製品。
【請求項17】
ホログラフィックセンサーを含む、
請求項5〜16のいずれか1項に記載の製品。
【請求項18】
サンプル中の検体の検出方法であって、
請求項15に記載のセンサーの媒体に前記サンプルを接触させ、且つ
光学特性における任意の変化を検出する
方法。
【請求項19】
前記検体は化学種、生化学種、又は生物種である、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
光学式リーダー、携帯電話、コンピュータ、及びデジタルカメラから選択されるデバイスを使用して、前記光学特性の変化を検出する、
請求項18又は請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項5〜17のいずれか1項に記載の製品を含む物品。
【請求項22】
トランザクション・カード、銀行券、パスポート、身分証明証、スマートカード、運転免許証、株券、債務証書、小切手、チェックカード、タックス・バンダロール、商品券、郵便切手、鉄道チケット、航空チケット、テレホンカード、福引券、イベントチケット、クレジットカード、デビットカード、業務用名刺、又は、正規品と偽造品とを区別したり、盗品を識別したりする目的で消費者保護、ブランド保護若しくは製品保護において使用される商品である、
請求項21に記載の物品。
【請求項23】
本願明細書で定義されるインテリジェントパッケージの商品である、
請求項22に記載の物品。
【請求項24】
宝石;履物を含む衣服;布地;家具;玩具;進物;陶磁器類、ガラス製品を含む家庭用品;ガラス、タイル、塗料、金属、レンガ、セラミック、木材、プラスチック、その他内装及び外装を含む建造物;絵画、彫刻、陶器、ライト・インスタレーションを含む美術品;グリーティングカード、レターヘッド、販促品を含む文具;及びスポーツ用品から選択される、装飾的要素を含む工業品又は手工芸品である、
請求項21に記載の物品。
【請求項25】
農学研究、環境学研究、医学若しくは獣医学における予後診断、治療的診断、診断学、治療、化学分析、又は石油化学分析で使用される製品又はデバイスである、
請求項21に記載の物品。
【請求項26】
テストストリップ、チップ、カートリッジ、綿球、チューブ、ピペット、コンタクトレンズ、結膜下インプラント、皮下インプラント、ブレサライザー、カテーテル、又は、液体サンプリング装置若しくは分析装置である、
請求項25に記載の物品。
【請求項27】
請求項17に記載のセンサーを含む、
転写可能なホログラフィックフィルム。
【請求項28】
ホットスタンプテープ上にある、
請求項27に記載のフィルム。
【請求項29】
物品の安全性を向上させる方法であって、
請求項27又は請求項28に記載のフィルムから前記物品上に前記センサーを転写する
方法。
【請求項30】
請求項17に記載のセンサーを含むシステムであって、
前記センサーからデータを生成することができる
システム。
【請求項31】
請求項30に記載のシステムによって生成したデータの保存、制御、送信、報告及び/又はモデリングのための前記システムの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−524091(P2009−524091A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550838(P2008−550838)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000137
【国際公開番号】WO2007/083111
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(504370977)スマート ホログラムズ リミテッド (12)
【Fターム(参考)】