説明

少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物の製造方法

【課題】 メチル基を1〜3個有するベンゼン化合物を原料として用い、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物を高収率で得る方法を提供すること。
【解決手段】 触媒の存在下、1個〜3個のメチル基を有するベンゼン化合物とメタノールを反応させて少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物を製造する方法において、触媒が触媒成分としてベータゼオライトを含有することを特徴とする、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物は、例えば、多価カルボン酸と多価アミンを、アリールホウ酸の存在下に重縮合反応させてポリアミド、ポリイミド又はポリアミドイミドを製造する際の反応溶媒として用いられることが知られている。また、リチウム二次電池用の抵抗上昇抑制剤及び重合開始剤である有機金属化合物を構成する中性配位子として用いられることも報告されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
従来、気相反応での少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物の製造方法としては、プロトンタイプのモルデナイト型ゼオライト触媒の存在下、ジメチルベンゼン又は1,2,4−トリメチルベンゼンにメタノールを気相で反応させることにより、ペンタメチルベンゼンを製造する方法が知られている(非特許文献1参照)。なお、この方法で、ペンタメチルベンゼンがさらにメチル化されたヘキサメチルベンゼンが得られていない旨が示されている。
【0004】
しかし、上記方法では、生成物中のペンタメチルベンゼンの組成(モル%)が1.2〜4.3%と極めて低いため、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物の工業的製造方法として満足できるものでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO00/53662号公報
【特許文献2】特開2003−31263号公報
【特許文献3】特開2007−291355号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・キャタリシス,1991年,132巻,512頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するために行われたものであって、メチル基を1〜3個有するベンゼン化合物とメタノールを原料として用い、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物を高収率で得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意検討した結果、ベータゼオライトを触媒成分とする触媒の存在下、メチル基を1〜3個有するベンゼン化合物にメタノールを反応させると、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物が高収率で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の[1]に記載の製造方法を提供するものである。
【0010】
[1] 触媒の存在下、1個〜3個のメチル基を有するベンゼン化合物とメタノールを反応させて少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物を製造する方法において、触媒が触媒成分としてベータゼオライトを含有することを特徴とする、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物の製造方法。
【0011】
また、本発明は、前記[1]に記載の製造方法に係る好適な実施態様として、以下[2]〜[6]に記載の製造方法を提供するものである。
【0012】
[2] 1個〜3個のメチル基を有するベンゼン化合物が、一般式(1):
【0013】
【化1】

(式中、mは1〜3の整数を示す。)で表されるベンゼン誘導体であり、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物が、一般式(2):
【0014】
【化2】

(式中、nは、5又は6を示す。)で表されるベンゼン誘導体である[1]に記載の方法。
【0015】
[3] ベータゼオライトがプロトンタイプである[1]又は[2]に記載の方法。
【0016】
[4] ベータゼオライト中のSi/Al原子比が8以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【0017】
[5] メタノールの使用量がメチル基を1〜3個有するベンゼン化合物1モルに対して4〜15モルである[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
【0018】
[6] 反応温度が300〜500℃である[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物を高収率で得ることができる。また、本発明によれば、安価に入手できるメチルベンゼン及びジメチルベンゼンから従来法に比べて高い収率で、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物を得ることができる。したがって、本発明の方法は有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の原料としては、1個〜3個のメチル基を有するベンゼン化合物及びこれらの混合物が用いられる。1個〜3個のメチル基を有するベンゼン化合物としては、一般式(1):
【0021】
【化3】

(式中、mは1〜3の整数を示す。)で表されるベンゼン誘導体が挙げられ、具体的には、例えばメチルベンゼン、1,2−ジメチルベンゼン、1,3−ジメチルベンゼン、1,4−ジメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン及びこれらの混合物を用いることができる。それらの中でも、メチルベンゼン、1,2−ジメチルベンゼン、1,4−ジメチルベンゼン及び1,2,4−トリメチルベンゼンが好ましい。
【0022】
本発明は、メタノールをメチル化剤として用いるものである。用いられるメタノールは、1個〜3個のメチル基を有するベンゼン化合物1モルに対して1モル以上、好ましくは2〜30モル、より好ましくは4〜15モルである。
【0023】
本発明に用いられる触媒は、ベータゼオライトを触媒成分として含有する触媒である。ベータゼオライトは、ゼオライトベータ、β形ゼオライトなどともいい、3次元の酸素12員環細孔からなる既知の合成結晶性アルミノ珪酸塩である。ベータゼオライトは、米国特許第3,308,069号明細書、特開平5−201722号公報、特開平7−247114号公報などに記載された方法によって製造することができる。
【0024】
ベータゼオライト中のSi/Al原子比は、少なくとも8以上であり、好ましくは12以上である。
【0025】
上述の公知方法に従って製造したベータゼオライトは、通常、ナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンタイプであり、このタイプのものを本発明で用いられる触媒の触媒成分として使用できる。本発明で用いられる触媒成分として好ましいものは、このアルカリ金属イオンを公知の方法によってイオン交換されて得られるアンモニウムイオンタイプ又はプロトンタイプであり、特にプロトンタイプが好ましい。
【0026】
触媒は、成形体にして反応器に充填されて使用される。成形体は、ベータゼオライトのみ、または、ベータゼオライトをバインダー(例えば、シリカ、珪藻土、カオリン、ベントナイト、アルミナ、シリカアルミナ、セルロースなど)と混練して打錠機で円柱状や円筒状に成形し、あるいは、ベータゼオライトに上記バインダー及び水、ポリビニルアルコールまたは酢酸ビニルを加えて混練し、押出機で成形して得ることができる。また、流動床用触媒としては、ベータゼオライトに、シリカ、珪藻土、カオリン、ベントナイト、アルミナ及び/あるいはシリカアルミナと水を加えてスラリーとして、これを噴霧乾燥し球状のマイクロビーズとしたものが好適である。
【0027】
上記のように成形されたベータゼオライトは、通常、焼成される。焼成は、大気中あるいは窒素雰囲気中、300〜800℃で数時間行われる。なお、本発明において、触媒は、反応管中で昇温されるため、必ずしも前記焼成は必要でない。
【0028】
本発明は、通常、気相反応で行われる。その反応は、通常、300〜600℃の範囲の温度、好ましくは300〜500℃の範囲で、常圧下又は加圧下で行われる。気相反応の反応方式は、特に制限されず、固定床、流動床又は移動床で行われ、バッチ式、連続式のいずれの方式も採用することができる。
【0029】
気相反応の空間速度は、通常、LHSV(液空間速度)で0.05〜2.0(g/cc−触媒・h)であり、好ましくは0.1〜1.0(g/cc−触媒・h)である。
【0030】
本発明は、溶剤の存在下又は不存在下に行われる。溶剤としては、反応に不活性なものであれば特に限定されることなく、任意のものを用いることができる。具体的には、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカンなどの脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテルなどを用いることができる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
反応終了後、反応ガスを溶剤に吸収させるなどの適宜手段にて生成物を捕集した後、蒸留、晶析などの通常の手段によって、目的物である少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物を得ることができる。
【0032】
生成物として得られる少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物としては、原料が一般式(1) で表されるベンゼン誘導体生成物であるときには、一般式(2):
【0033】
【化4】

(式中、nは、5又は6を示す。)で表されるベンゼン誘導体が挙げられる。具体的な化合物としては、ペンタメチルベンゼン及びヘキサメチルベンゼンである。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明が実施例により限定されるものでないことは言うまでもない。なお、実施例中のガスクロマトグラフィーによる分析は、以下の条件で行った。
【0035】
ガスクロマトグラフィー分析条件
ガスクロマトグラフィー:島津製作所製GC−2010
カラム:J&B社製DB−17、30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
温度:50℃(2分ホールド)→(昇温10℃/分)→70℃(ホールド10分)→(昇温15℃/分)→240℃(ホールド10分)
スプリット比:100
サンプル:1μL
検出器温度:250℃
注入部温度:250℃
検出器:FID
キャリア:ヘリウム
【0036】
実施例1
(触媒Aの調製)
850gのプロトンタイプのベータゼオライトのパウダー(東ソー株式会社製、HSZ940HOA、Si/Al原子比=20)と150gのコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、スノーテックス)を混合した。得られた混合物を押出成形後、500℃で焼成して、直径3mmの触媒Aを調製した。
【0037】
(触媒Aを用いた反応)
内径19mmのガラス反応管に、触媒Aを16ml詰め、その上にカーボランダムを14cmの長さに詰めた。この反応管を400℃に昇温して、上部から窒素を30ml/min、1,2,4−トリメチルベンゼン(以下124−TMBと略記)とメタノールの混合物(混合モル比、124−TMB:メタノール=1:7)をLHSV=0.5g/cc−触媒・hで流した。反応生成物は、メチルベンゼンに吸収させた後、ガスクロマトグラフィーで分析した。反応開始から2時間の平均収率は、ペンタメチルベンゼン(以下PMBと略記)28.2%、ヘキサメチルベンゼン(以下HMBと略記)16.4%であった(124−TMBを基準として平均収率を算出)。
【0038】
実施例2
反応温度を420℃にした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
実施例3
反応温度を450℃にした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
実施例4
124−TMBの代わりに、1,4−ジメチルベンゼン(以下14−DMBと略記)を使用した以外は、実施例2と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す(14−DMBを基準として平均収率を算出)。
【0041】
実施例5
混合モル比を14−DMB:メタノール=1:10とした以外は、実施例4と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
実施例6
内径19mmのガラス反応管に、触媒Aを16ml詰め、その上にカーボランダムを14cmの長さに詰めた。この反応管を450℃に昇温して、上部から窒素を30ml/min、1,2−ジメチルベンゼン(以下12−DMBと略記)とメタノールの混合物(混合モル比、12−DMB:メタノール=1:15)をLHSV=0.5g/cc−触媒・hで流した。反応生成物は、メチルベンゼンに吸収させた後、ガスクロマトグラフィーで分析した。反応開始から2時間の平均収率(12−DMBを基準として算出)を表1に示す。
【0043】
実施例7
12−DMBの代わりにメチルベンゼン(以下MBと略記)を使用した以外は、実施例6と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す(MBを基準として平均収率を算出)。
【0044】
実施例8
(触媒Bの調製)
850gのプロトンタイプのベータゼオライトのパウダー(ズードケミー触媒株式会社製、H−BEA−25、Si/Al原子比=12)と150gのコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、スノーテックス)を混合した。得られた混合物を押出成形後、500℃で焼成して、直径1.5mmの触媒Bを調製した。
【0045】
(触媒Bを用いた反応)
触媒Aの代わりに触媒Bを用いた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
実施例9
(触媒Eの調製)
プロトンタイプのベータゼオライトのパウダー(東ソー株式会社製、HSZ940HOA、Si/Al原子比=20)を圧力60MPaでプレスした。得られた固形物を解砕後、10〜16メッシュに分級して触媒Eを調製した。
【0047】
(触媒Eを用いた反応)
内径19mmのガラス反応管に、触媒Eを16ml詰め、その上にカーボランダムを14cmの長さに詰めた。この反応管を425℃に昇温して、上部から窒素を30ml/min、14−DMBとメタノールの混合物(混合モル比、14−DMB:メタノール=1:7)をLHSV=0.5g/cc−触媒・hで流した。反応生成物は、メチルベンゼンに吸収させた後、ガスクロマトグラフィーで分析した。反応開始から6時間の平均収率(14−DMBを基準として算出)を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
比較例1
(触媒Cの調製)
850gのプロトンタイプのモルデナイト型ゼオライトパウダー(ズードケミー触媒株式会社製、H−MOR20、Si/Al原子比=10)と150gのコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、スノーテックス)を混合した。得られた混合物を押出成形後、500℃で焼成して、直径1.5mmの触媒Cを調製した。
【0050】
(触媒Cを用いた反応)
内径19mmのガラス反応管に、触媒Cを16ml詰め、その上にカーボランダムを14cmの長さに詰めた。この反応管を400℃に昇温して、上部から窒素を30ml/min、124−TMBとメタノールの混合物(混合モル比、124−TMB:メタノール=1:7)をLHSV=0.5g/cc−触媒・hで流した。反応生成物は、メチルベンゼンに吸収させた後、ガスクロマトグラフィーで分析した。反応開始から2時間の平均収率を表2に示す。
【0051】
比較例2
(触媒Dの調製)
850gのUSY型ゼオライトパウダー(エヌ・イー ケムキャット株式会社製)と150gのコロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製、スノーテックス)を混合した。得られた混合物を押出成形後、500℃で焼成して、直径1.5mmの触媒Dを調製した。
【0052】
(触媒Dを用いた反応)
触媒Cの代わりに触媒Dを使用した以外は、比較例1と同様にして反応を行った。その結果を表2に示す。
【0053】
比較例3
124−TMBの代わりに14−DMBを使用した以外は、比較例2と同様にして反応を行った。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、1個〜3個のメチル基を有するベンゼン化合物とメタノールを反応させて少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物を製造する方法において、触媒が触媒成分としてベータゼオライトを含有することを特徴とする、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物の製造方法。
【請求項2】
1個〜3個のメチル基を有するベンゼン化合物が、一般式(1):
【化1】

(式中、mは1〜3の整数を示す。)で表されるベンゼン誘導体であり、少なくとも5個のメチル基を有するベンゼン化合物が、一般式(2):
【化2】

(式中、nは、5又は6を示す。)で表されるベンゼン誘導体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ベータゼオライトがプロトンタイプである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ベータゼオライト中のSi/Al原子比が8以上である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
メタノールの使用量がメチル基を1〜3個有するベンゼン化合物1モルに対して4〜15モルである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
反応温度が300〜500℃である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−138167(P2010−138167A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258262(P2009−258262)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】