説明

尿素噴射制御システム

【課題】例えばのろのろ運転又は市街地運転であっても、このような運転に有利に働くように尿素を選択的触媒還元(SCR)システム中に噴射するための尿素噴射制御システムを提供する。
【解決手段】SCR触媒(18)及び尿素を排気ライン中に噴射する尿素噴射器(14)と流体連通状態にある排気ライン(16)を備えた車両のための尿素噴射制御システム(10)が、尿素噴射器のところの尿素噴射流量を制御する制御装置(12)を含む。制御装置(12)は、最適尿素流量(20)を変動流量計算器により求められた変動尿素流量(22)と比較する。制御装置(12)は、最適尿素流量(20)及び変動尿素流量(22)のうちの最小値を選択し、尿素を最小値で噴射するよう尿素噴射器を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、SCR(selective catalytic reduction :選択的触媒還元)システムに関し、詳細には、尿素をSCRシステム中に噴射するための制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、尿素選択的触媒還元システム(尿素SCRシステム)は、エンジンからの窒素酸化物(NOx)を減少させるために用いられている。尿素SCRシステムは、SCR触媒の上流側における車両の排気ガスライン中への32.5%尿素水溶液の噴射を利用している。SCR触媒中において、尿素は分解され、触媒からのエミッションは、N2、H2O及びCO2である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
噴射時点において、尿素水溶液温度は、代表的には、周囲温度に近く、好ましくは60℃未満である。SCR反応には、気体アンモニアが必要である。気体アンモニアを生じさせるためには、噴射された尿素水溶液を好ましくは150℃を超える温度まで加熱して水を蒸発させると共に残りの固体尿素をアンモニアとイソシアン酸に分解しなければならない。蒸発及び分解が完全ではない場合、還元体を不十分に得られず、SCR触媒性能が低下する。さらに、尿素の固体付着物(デポジット)が排気ガスパイプ中に生じる場合があり、それにより、SCRシステムの全体的故障が生じる場合がある。
【0004】
蒸発及び分解に必要な熱は、排気ガスにより提供される。排気ガス温度が低い場合、利用可能な熱は、尿素水溶液の完全な蒸発及び分解を行う上で不十分な場合がある。
【0005】
現在、SCRシステムは、厳格な温度リミットを課す方式によって制御されている。排気ガス温度が設定限度、代表的には150℃〜250℃を下回った状態になると、尿素噴射が止まる。ガス温度が設定限度よりも高い場合、尿素噴射量は、排気ガス中のNOxフラックス、SCR触媒の性能特性及びSCR触媒のアンモニア貯蔵容量に基づく制御方式によって決定される。
【0006】
しかしながら、厳格な温度リミットを設定することは、望ましいことではない。温度リミットが低すぎる値に設定された場合、その結果として、蒸発不良及び付着物生成が生じる場合がある。温度リミットが高すぎる値に設定された場合、制御システムは、SCR反応に利用可能な全温度範囲を利用することがなくなる。SCR反応に利用可能な全温度範囲を利用することができるようにすることは、温度が一般に低く、あらかじめ設定された限度を下回る場合が多いときの移行動作にとって特に重要である。このような動作の一例は、ストップアンドゴー運転、又は市街地車両運転サイクルである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
SCR触媒と流体連通する排気ラインと、尿素を排気ライン中に噴射する尿素噴射器とを備えた車両のための尿素噴射制御システムが、尿素噴射器のところの尿素噴射流量を制御する制御装置を含む。制御装置は、最適尿素流量を変動流量計算器により求められた変動尿素流量と比較する。制御装置は、最適尿素流量及び変動尿素流量のうちの最小値を選択し、尿素を最小値で噴射するよう尿素噴射器を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】SCRシステムに尿素を噴射する制御方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照すると、最大許容尿素溶液噴射量(Furea_max)に対する変動リミットが、排気ガス流量(Fexh)及び排気ガス温度(Texh)に応じて尿素投与量を制限し、制限ルールは、経験的又は実験的に定められる。本発明の変動リミットは、尿素噴射が排気ガス温度が温度リミットの範囲内に収まらない場合に停止される先行技術の厳格なリミットとは異なる。
【0010】
尿素噴射制御システム10では、制御装置12は、尿素噴射器14のところで尿素の流量を制御し、尿素噴射器は、尿素を車両の排気ガスライン16中に噴射してSCR触媒18の上流側で分解を行わせる。制御装置12は、最適値20及び変動値計算器22を有している。最適値20は、最適SCR触媒性能に必要なアンモニアの濃度によって決まり、このような最適値は、種々の要因、例えばNOxフラックス、NOx変換要件、SCR運動論的量、アンモニア貯蔵状態及び/又は特定のSCRシステムに関するアンモニア貯蔵要件を含む場合がある。代表的には、最適値20は、尿素溶液の蒸発及び尿素の分解に関する要件を考慮に入れない。
【0011】
変動値計算器22は、排気ガス流量(Fexh)及び排気ガス温度(Texh)の入力値を受け取る。或る特定の用途、例えば内燃エンジンを備えた自動車では、排気ガス流量測定値は入手できず、吸入空気流量及び燃料流量の値から又はエンジン制御ユニットから利用できる他のパラメータを用いて計算できる。例えば、酸素の濃度データは、1つ又は2つ以上の酸素センサ又はNOxセンサを用いて得られ、1つのセンサは、SCR触媒18の上流側に配置されてフィードフォワードSCR制御装置12のために用いられ、別のセンサは、テールパイプ内に配置されてSCR制御装置12中へのフィードバックのために用いられる。燃料流量データを用いて排気ガス流量を計算することができる。
【0012】
次に、以下の公式、即ち、
〔数1〕
Furea_max =A・Fexh(Texh−Tmin
を用いて最大許容尿素流量Furea_maxを計算する。
上式において、
Furea_max =尿素溶液流量(単位:g/hr)
exh =排気ガス流量(単位:kg/hr)
exh =排気ガス温度(単位:℃)
min =カットオフ温度(単位:℃)
A =係数
である。
【0013】
所定のSCRシステムの場合、係数A及びTminを経験的又は実験的に求めることができ又は較正することができる。実験による較正は、特定のSCRシステムの固有のパラメータ、例えば熱損失、尿素噴霧パラメータ、尿素水溶液噴射が起こるSCRシステムの部分の幾何学的形状、蒸発及び分解及び排気ガス流との混合が起こるSCRシステムの部分の幾何学的形状を考慮に入れるのに必要であるということが見込まれる。
【0014】
係数A及びTminを次のようにして基本的な熱力学的相関から導き出すことも可能である。尿素は、SCR触媒18の上流側で車両の排気ガスライン中に噴射されるときには32.5%水溶液である。噴射される尿素水溶液は、排気ガスの温度(Texh)よりも低温であり、従って、エネルギーは排気ガスから尿素溶液に伝えられる。エネルギー伝送の結果として、排気ガスの温度(Texh)は低くなる。伝送されたエネルギーは、尿素溶液を昇温させ、水を蒸発させ、尿素を蒸発させ、そして尿素を分解するのに用いられ、即ち、(NH22CO→NH3+HNCOである。また、HNCO加水分解が低く、エネルギーバランスへのその寄与が無視できるということが仮定されている。
【0015】
最終の平衡状態では、全ての成分は同一温度状態にあり、最終の温度は、尿素の蒸発及び分解を保証しなければならない。さらに、尿素の分解が始まる理論値は、132.7℃であり、尿素分解は、約130℃〜180℃、好ましくは約150℃で最大である。パイプ壁への熱損失に起因して、安全マージンが必要な場合がある。したがって、推奨尿素投与量(Furea)の結果として、最終混合物温度(Tmin)が常に150℃以上でなければならず、それにより、理論値を超える132.7℃の安全率が得られる。
【0016】
最大尿素水溶液流量(Furea_max)は、排気ガス流量及び排気ガス温度値の組み合わせが任意所与の場合、単純化された次の方程式、即ち、
〔数2〕
Furea_max =0.388Fexh(Texh−Tmin
を用いてエネルギーバランスから計算でき、なお、
上式において、
Furea_max =尿素溶液流量(単位:g/hr)
exh =排気ガス流量(単位:kg/hr)
exh =排気ガス温度(単位:℃)
min =カットオフ温度(単位:℃)
である。
【0017】
これとは異なる係数値が種々のユニットについて使用できることが解る。さらに、より正確な分析の結果として、幾分異なる値が得られる場合があり、正確に言えば、0.388ではなく、好ましくは、約0.35〜0.45である。いずれの場合においても、車両において用いられるべき係数は、試験データを用いて経験的に調節され又は較正されるべきであることが想定される。
【0018】
Furea_maxを計算した後、排気ガスライン16への尿素流量(Furea)をFurea_max及び最適流量(Foptimum)のうちの最も小さい値としてセレクタ24のところで選択する。制御装置12は、尿素をセレクタ24によって定められた流量(Furea)で噴射するよう尿素噴射器14を制御する。このように、噴射流量(Furea)は、SCR触媒性能にとって最適値として制御システム10によって定められる。
【0019】
本発明の制御システム10は、尿素噴射量(Furea)を微調整する。このような微調整の結果として、制限された量の尿素だけを安全に噴射する温度範囲が良好に利用され、このような微調整は、排気系統中の望ましくない尿素付着物の発生の阻止を助ける。提案される本発明は、公知のどの尿素噴射方法にも付け加えられるセーフガードとして利用できると共に任意の業界標準の制御装置に具体化できる。
【0020】
本発明をその思想、又は本質的な特徴から逸脱しないで他の特定の形態で実施できる。説明した実施形態は、あらゆる点において例示として解されるべきであり、本発明を制限するものと解釈されてはならない。したがって、本発明の範囲は、上述の説明ではなく特許請求の範囲の記載に基づいて定められる。特許請求の範囲に記載された文言上の意味及びその均等範囲に属するあらゆる変更は、本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0021】
12 制御装置
14 尿素噴射器
16 排気ライン
18 SCR触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ラインのための尿素噴射制御システムであって、前記排気ラインは、SCR触媒と尿素を排気ライン中に噴射する尿素噴射器と流体連通状態にあり、前記尿素噴射制御システムは、
前記尿素噴射器のところの尿素噴射流量を制御する制御装置を有し、前記制御装置は、最適尿素流量を変動尿素流量計算器により求められた変動尿素流量と比較し、前記制御装置は、前記最適尿素流量及び前記変動尿素流量のうちの最小値を選択し、尿素を前記最小値で噴射するよう前記尿素噴射器を制御する、
ことを特徴とする尿素噴射制御システム。
【請求項2】
前記変動尿素流量計算器は、排気ガス流量及び排気ガス温度の入力を受け取る、
請求項1記載の尿素噴射制御システム。
【請求項3】
前記変動尿素流量計算器は、次の方程式、即ち、
〔数1〕
Furea_max =A・Fexh(Texh−Tmin
を用いて前記変動尿素流量を求め、
上式において、
Furea_max =変動尿素流量(単位:g/hr)
exh =排気ガス流量(単位:kg/hr)
exh =排気ガス温度(単位:℃)
min =カットオフ温度(単位:℃)
A =係数
である、
請求項2記載の尿素噴射制御システム。
【請求項4】
係数Aは、0.35〜0.45である、
請求項3記載の尿素噴射制御システム。
【請求項5】
minは、130℃〜180℃である、
請求項3記載の尿素噴射制御システム。
【請求項6】
前記変動尿素流量計算器は、吸入空気流量、燃料流量、酸素濃度及び燃料流量の少なくとも1つの入力を受け取って前記排気ガス流量及び前記排気ガス温度を計算する、
請求項1記載の尿素噴射制御システム。
【請求項7】
前記変動尿素流量計算器は、次の方程式、即ち、
〔数2〕
Furea_max =A・Fexh(Texh−Tmin
を用いて前記変動尿素流量を求め、
上式において、
Furea_max =変動尿素流量(単位:g/hr)
exh =排気ガス流量(単位:kg/hr)
exh =排気ガス温度(単位:℃)
min =カットオフ温度(単位:℃)
A=係数
である、
請求項6記載の尿素噴射制御システム。
【請求項8】
係数Aは、0.35〜0.45である、
請求項7記載の尿素噴射制御システム。
【請求項9】
minは、130℃〜180℃である、
請求項7記載の尿素噴射制御システム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記最適尿素流量及び前記変動尿素流量のうちの最小値を選択し、尿素を前記最小値で噴射するよう前記尿素噴射器を制御するセレクタを更に有する、
請求項1記載の尿素噴射制御システム。
【請求項11】
排気ラインのための尿素噴射制御システムであって、前記排気ラインは、SCR触媒及び尿素を排気ライン中に噴射する尿素噴射器と流体連通状態にあり、前記尿素噴射制御システムは、
前記尿素噴射器のところの尿素噴射流量を制御する制御装置を有し、前記制御装置は、最適尿素流量を変動尿素流量計算器により求められた変動尿素流量と比較し、前記変動尿素流量計算器は、排気ガス流量及び排気ガス温度の入力を受け取り、
前記制御装置に設けられ、前記最適尿素流量及び前記変動尿素流量のうちの最小値を選択するセレクタを有し、
前記尿素噴射器は、前記セレクタによって命令されて尿素を前記最小値で噴射する、
ことを特徴とする尿素噴射制御システム。
【請求項12】
前記変動尿素流量計算器は、次の方程式、即ち、
〔数3〕
Furea_max =A・Fexh(Texh−Tmin
を用いて前記変動尿素流量を求め、
上式において、
Furea_max =変動尿素流量(単位:g/hr)
exh =排気ガス流量(単位:kg/hr)
exh =排気ガス温度(単位:℃)
min =カットオフ温度(単位:℃)
A =係数
である、
請求項11記載の尿素噴射制御システム。
【請求項13】
係数Aは、0.35〜0.45である、
請求項12記載の尿素噴射制御システム。
【請求項14】
minは、130℃〜180℃である、
請求項12記載の尿素噴射制御システム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−38521(P2011−38521A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181262(P2010−181262)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(501402947)インターナショナル エンジン インテレクチュアル プロパティー カンパニー リミテッド ライアビリティ カンパニー (69)
【Fターム(参考)】