説明

展開構造体及び衝撃吸収装置

【課題】展開前は平面的で狭小部にも設置することができ、平面から立体に展開して衝突エネルギーを有効に吸収することができる展開構造体を提供する。また、衝突が不可避である場合に、衝突位置に配置された展開構造体を展開させて衝突エネルギーを吸収し、衝撃を吸収(緩和)することができる衝撃吸収装置を提供する。
【解決手段】展開構造体10は平面的な形状を有している。第1展開部材14を第2展開部材16に重ね合わせた状態で、第2展開部材16の回転部40が裏面側から押圧されると、回転部40が移動しながら回転し、弾塑性変形によって連結梁42が撓む。第1展開部材14でも回転部20の移動に伴い連結梁22が撓む。回転部40と回転部20とが押圧方向に限界まで移動すると、ラチェットがロックされて展開構造体10の展開が完了し、連結梁22と連結梁42の複数の梁が交差する立体交差構造12が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、展開構造体及び衝撃吸収装置に係り、特に、平面から立体に展開可能な展開構造体と、衝突位置にある展開構造体を展開させて衝突による衝撃を吸収する衝撃吸収装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の衝突安全構造では、車両の構成部材の変形により衝突エネルギーが吸収され、車両や乗員への衝撃力が緩和されている。例えば、前面衝突であれば、衝突時にフロントボディが壊れて衝突エネルギーを吸収し、乗員への衝撃力が緩和される。このため、車両の構成部材については、衝突エネルギーを効率よく吸収するための構造が種々提案されている(特許文献1)。
【0003】
例えば、特許文献1では、運動変換装置を含む衝撃吸収緩衝装置が提案されている。運動変換装置は、枝状配置要素からなる梁構造を有しており、この梁構造で直線運動(衝撃)を回転運動に変換して、衝撃を吸収・緩衝して衝撃吸収力を向上させている。
【0004】
また、最近では、歩行者の安全にも配慮がなされている。例えば、ショックアブソーバの粘性抵抗を利用して衝突エネルギーを効率よく吸収し、車両や乗員だけではなく、衝突時に歩行者が受ける衝撃力を緩和する構造も種々提案されている(特許文献2、3)。
【0005】
例えば、特許文献2では、二段バンパ構造を備えた車両用フロントバンパ装置が提案されている。二段バンパ構造は、通常バンパの下側に低位バンパが設けられた構造である。この低位バンパによって、衝突時に歩行者がボンネットへ倒れ込むように仕向けられる。特許文献2の車両用フロントバンパ装置は、低位バンパの位置調節手段と、ショックアブソーバ(油圧シリンダなど)とを備えている。歩行者衝突時には、ショックアブソーバの粘性抵抗を調節すると共に低位バンパの位置を調節して、歩行者の倒れ込みモーメントを最適化している。
【0006】
また、特許文献3では、ショックアブソーバでバンパを支持し、ショックアブソーバの弾性力と減衰力とによりバンパに対する衝撃を緩和する車両の衝撃緩和装置が提案されている。特許文献3の衝撃緩和装置は、ショックアブソーバを自動車用のサスペンションとして実用化されている可変ダンパで構成し、歩行者との衝突時には、可変ダンパの減衰力を弱めてバンパを柔らかくしている。
【特許文献1】特開2000−257688号公報
【特許文献2】特開2003−260994号公報
【特許文献3】特開平10−109605号公報
【特許文献4】特表2002−528682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、車両の構成部材に限らず、構成部材の変形により衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収構造においては、衝突エネルギーを有効に吸収するためには、構成部材を変形させるための領域を予め確保しておかなければならない、という問題がある。このため、衝撃吸収構造を適用できる用途や範囲が制限され、狭小部には衝突エネルギーを有効に吸収する衝撃吸収構造を設置することができない。
【0008】
例えば、車両の衝突時に客室空間を保全するためには、ボディの一部を変形領域として予め確保しておかなければならない。前面衝突であれば、フロントボディが壊れて衝突エネルギーを有効に吸収できるが、斜め方向や側面方向からの衝突では、薄いサイドボディが壊れても、衝突エネルギーを十分に吸収しきれない可能性がある。また、特許文献1に記載されたように、梁構造を長さ方向に多数積み上げた構造のサイドメンバーを搭載して、前面衝突に対する衝撃吸収力を向上させることはできるが、サイドボディと客室との隙間は狭く、複雑な梁構造を収納することは難しい。このため、斜め方向や側面方向からの衝突には適用できない。
【0009】
また、特許文献2、3のように、ショックアブソーバ(油圧シリンダ等)の粘性抵抗を利用して衝突エネルギーを吸収する衝突吸収構造は、ショックアブソーバを配置するための領域を予め確保しておかなければならない、という問題がある。ショックアブソーバの小型化は困難であり、構成部材の変形より衝突エネルギーを吸収する衝撃吸収構造と同様に、狭小部には設置することができない。また、特定方向からの衝突には対応できるが、任意方向からの衝突に対応することはできない。
【0010】
一方、特許文献4では、衝撃吸収構造の初期形状をコンパクト化する試みとして、展開型の衝撃吸収装置が提案されている。この衝撃吸収装置では、機械的なアクチュエータ手段により圧縮されたビームが展開して、エネルギー吸収構造体を形成する。このため、初期形状が小さい寸法であるのにもかかわらず、展開後は比較的長い「つぶれ長さ」を提供することができる。
【0011】
確かに、展開後のエネルギー吸収構造体と比べると、初期形状はよりコンパクトである。しかしながら、アクチュエータ手段の構造は複雑でその小型化や軽量化は困難であり、このアクチュエータ手段や圧縮されたビームを収納するための領域を、予め確保しておかなければならない、という問題が依然として存在する。やはり、狭小部には設置することができない。
【0012】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、本発明の目的は、展開前は平面的で狭小部にも設置することができ、平面から立体に展開して衝突エネルギーを有効に吸収することができる展開構造体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、衝突が不可避である場合に、衝突位置に配置された展開構造体を展開させて衝突エネルギーを吸収し、衝撃を吸収(緩和)することができる衝撃吸収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために請求項1に記載の展開構造体は、第1支持枠、前記第1支持枠の内側に配置された第1回転部、及び前記第1回転部が前記第1支持枠から離れる方向に移動するときに、前記第1回転部を第1方向に回転させるように、前記第1回転部と前記第1支持枠とを連結する複数の第1連結梁を備え、前記第1回転部が前記第1支持枠から離れた状態に展開可能な第1展開部材と、第2支持枠、前記第2支持枠の内側に配置された第2回転部、及び前記第2回転部が前記第2支持枠から離れる方向に移動するときに、前記第2回転部を前記第1方向とは逆方向の第2方向に回転させるように、前記第2回転部と前記第2支持枠とを連結すると共に、展開時に前記第1連結梁と干渉しないように設けられた複数の第2連結梁を備え、前記第1展開部材と重なるように配置され、前記第2回転部が前記第2支持枠から離れた状態に展開可能な第2展開部材と、前記第1展開部材及び前記第2展開部材が展開されて、前記第1回転部及び前記第2回転部が所定距離だけ移動したときに、前記第1回転部の前記第1方向とは逆方向の回転及び前記第2回転部の前記第2方向とは逆方向の回転を阻止するように、前記第1回転部及び前記第2回転部の各々対向する側に設けられた回転阻止部材と、を含んで構成されたことを特徴としている。
【0014】
上記の展開構造体の第1展開部材では、第1支持枠の内側に配置された第1回転部が、複数の第1連結梁により第1支持枠に連結されている。第1回転部が第1支持枠から離れた展開状態では、複数の第1連結梁は、第1支持枠と第1回転部との間に配置された梁として機能する。これら複数の第1連結梁は、第1回転部が第1支持枠から離れる方向に移動するときに、第1回転部を第1方向に回転させる。
【0015】
一方、第1展開部材と重なるように配置された第2展開部材では、第2支持枠の内側に配置された第2回転部が、複数の第2連結梁により第2支持枠に連結されている。第2回転部が第2支持枠から離れた展開状態では、複数の第2連結梁は、第2支持枠と第2回転部との間に配置された梁として機能する。これら複数の第2連結梁は、第2回転部が第2支持枠から離れる方向に移動するときに、第2回転部を第2方向に回転させる。
【0016】
複数の第2連結梁は、第2展開部材の展開時に第1展開部材の第1連結梁と干渉しないように設けられているので、第2展開部材が第1展開部材と重なるように配置された状態で、第1展開部材と第2展開部材とが共に平面から立体に展開して、複数の梁を有する立体交差構造を形成する。
【0017】
第1展開部材及び第2展開部材が展開されて、第1回転部及び第2回転部が所定距離だけ移動したときに、回転阻止部材により第1回転部の第1方向とは逆方向の回転及び第2回転部の第2方向とは逆方向の回転が阻止され、展開状態(立体交差構造)が固定される。この立体交差構造は、衝撃が加わると、複数の梁の各々が変形して、衝突エネルギーを吸収する。また、立体交差構造は、真正面からの衝突だけではなく、斜め方向からの衝突においても、有効に衝突エネルギーを吸収することができる。
【0018】
このように、上記の展開構造体は、展開により衝突エネルギーを吸収可能な立体交差構造を形成するので、展開前は平面的で狭小部にも設置することができ、平面から立体に展開して、衝突エネルギーを有効に吸収することができる。
【0019】
上記の展開構造体において、少なくとも前記第1連結梁及び前記第2連結梁の各々が、平板状の弾塑性体で形成されていることが好ましい。展開時には、平板状の弾塑性体で形成された連結部は、回転部の移動に追随して撓り、破断することなく支持枠と回転部との間に梁を形成することができる。また、展開後には、立体交差構造に衝撃が加わると、複数の連結梁の各々が弾塑性変形して、衝突エネルギーを吸収することができる。
【0020】
前記第1展開部材の前記第1支持枠、前記第1回転部、及び前記複数の第1連結梁が、平板状の弾塑性体で一体に形成されていてもよく、前記第2展開部材の前記第2支持枠、前記第2回転部、及び前記複数の第2連結梁が、平板状の弾塑性体で一体に形成されていてもよい。
【0021】
また、立体交差構造中の梁の配置や本数を変えることで、衝突エネルギー吸収量を調整することができる。前記回転阻止部材により逆方向の回転が阻止されたときに、前記第2回転部が前記第2支持枠から離れる方向に移動する距離が最大となるように、前記複数の第1連結梁及び前記複数の第2連結梁が配置されることが好ましい。例えば、前記複数の第1連結梁の各々が前記第1支持枠の内周に沿って配置されると、前記第1連結梁を長くすることができ、展開時のストローク(回転部が押圧方向へ移動する距離)が大きくなって、衝突エネルギーの吸収量が増加する。
【0022】
また、前記第1支持枠の外周形状及び内周形状と前記第1回転部の外周形状とが互いに相似した三角形であると共に、前記内周形状が三角形である第1支持枠の内周の各辺に沿って、3本の前記第1連結梁の各々が配置されることが好ましい。同様に、前記第2支持枠の外周形状及び内周形状と前記第2回転部の外周形状とが互いに相似した三角形であると共に、前記内周形状が三角形である第2支持枠の内周の各辺に沿って、3本の前記第2連結梁の各々が配置されることが好ましい。平面視が三角形の展開構造体は設置部位に隙間なく敷き詰めることができる。また、3本の連結梁で回転部が支持された構造は、遊ぶ連結梁がなく、衝突エネルギーを有効に吸収することができる。
【0023】
前記3本の第1連結梁の各々は、一端が前記第1支持枠の1つの頂部付近で前記第1支持枠に連結されると共に、他端が前記第1支持枠の前記頂部に隣接する他の頂部付近で前記第1回転部に連結されていることがより好ましい。前記第1連結梁を長くすることができ、展開時のストロークが大きくなって、衝突エネルギーの吸収量が増加する。
【0024】
また、前記第1回転部及び前記第2回転部のいずれか一方に回転軸を設けると共に他方に該回転軸を受ける軸受けを設けることが好ましい。回転軸と軸受けとを設けることで、前記第1回転部と前記第2回転部とを同軸で回転させることができる。
【0025】
また、前記第1回転部と連結される前記第1連結梁の端部近傍に切り欠きを設けると共に、前記第2回転部と連結される前記第2連結梁の端部近傍に切り欠きを設けることが好ましい。連結梁の端部近傍に切り欠きを設けることで、展開時に連結部の端部が折れ曲がり易くなり、破断することなく回転部の移動に追随し易くなる。
【0026】
上記目的を達成するために請求項11に記載の衝撃吸収装置は、本発明の展開構造体が平面状に又は並列に複数配列された衝撃吸収部と、衝突物の衝突位置を特定するための情報を取得する情報取得手段と、前記複数配列された展開構造体の各々について個別に設けられ、前記展開構造体の前記第1回転部を前記第1回転部が前記第1支持枠から離れる方向に移動させて前記第1展開部材を展開させると共に、前記展開構造体の前記第2回転部を前記第2回転部が前記第2支持枠から離れる方向に移動させて前記第2展開部材を展開させる複数の展開駆動部と、前記情報取得手段で取得された情報に基づいて、衝突が検知された場合又は衝突が不可避であると予測された場合に、特定された衝突位置に設置された前記展開構造体の前記第1展開部材及び前記第2展開部材を展開させるように、前記複数の展開駆動部を制御する制御部と、を含んで構成されたことを特徴としている。
【0027】
上記の衝撃吸収装置は、衝撃吸収部に本発明の展開構造体を用いているので、狭小部にも設置することができる。また、複数配列された展開構造体の各々について展開駆動部が個別に設けられており、情報取得手段で取得した衝突物の衝突位置を特定するための情報に基づいて、衝突が検知された場合又は衝突が不可避であると予測された場合に、特定された衝突位置に設置された前記展開構造体の前記第1展開部材及び前記第2展開部材を展開させるように、前記複数の展開駆動部を制御するので、衝突が不可避である場合に、衝突位置に配置された展開構造体を展開させて衝突エネルギーを吸収し、衝撃を吸収(緩和)することができる。
【0028】
上記の衝撃吸収装置において、前記展開駆動部は、エアバック装置を含んで構成することが好ましい。或いは、前記展開駆動部は、気体または液体が封入された袋体を前記展開構造体に押し付けることにより、前記第1回転部及び前記第2回転部を移動させる構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように本発明の展開構造体は、展開前は平面的で狭小部にも設置することができ、平面から立体に展開して衝突エネルギーを有効に吸収することができる、という効果がある。また、本発明の衝撃吸収装置は、本発明の展開構造体を用いているので、狭小部にも設置することができ、衝突が不可避である場合に、衝突位置に配置された展開構造体を展開させて衝突エネルギーを吸収し、衝撃を吸収(緩和)することができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0031】
<展開構造体>
まず、本発明の実施の形態に係る展開構造体について説明する。
【0032】
(展開前後の展開構造体の外観)
図1は本実施の形態に係る展開構造体10の展開前の外観を示す斜視図である。図2は同じ展開構造体10の展開後の外観を示す斜視図である。図1に示すように、展開前の展開構造体10は、平面視が略正三角形の平面的な形状を有している。この展開構造体10の中央部が裏面側から押圧されると、図2に示すように、平面から立体に展開して後述するラチェットがロックされ、複数の梁が交差する立体交差構造12を形成する。この立体交差構造12に表面側から衝撃が加わると、複数の梁の各々が弾塑性変形して、衝突エネルギーを吸収する。立体交差構造12であるため、真正面からの衝突だけではなく、斜め方向からの衝突においても、有効に衝突エネルギーを吸収することができる。
【0033】
(展開構造体の分解構造)
図3は展開構造体10の分解斜視図である。展開構造体10は、平面視が略正三角形の平板状の第1展開部材14と、第1展開部材14と同じ大きさで平面視が略正三角形の平板状の第2展開部材16と、で構成されている。第1展開部材14と第2展開部材16の各々は、金属や樹脂など弾塑性を有する板材(平板状の弾塑性体)で形成されている。正三角形の各頂点に相当する縁部は、角が削られて丸く形成されている。第1展開部材14は、その裏面側が第2展開部材16の表面側と対向するように重ねられる。そして、第1展開部材14の後述する支持枠18と、第2展開部材16の後述する支持枠38とが接合される。これにより、展開構造体10が完成する。
【0034】
板材を構成する樹脂材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)などの汎用樹脂や、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。また、繊維強化された複合材料や、金属と繊維材料と樹脂との結合構造体なども、材料として好適である。
【0035】
また、衝突時に梁がすぐ破断したのでは、衝撃の緩和が不十分となり、破断面が露出する等の不具合を生じる。従って、破断しやすい板材を使用する場合には、表面に補強布や補強テープを貼り付けるなど、第1展開部材14と第2展開部材16の各々を補強部材により補強するが好ましい。補強により脆化や破断を回避しながら、弾塑性変形によって衝突エネルギーを有効に吸収することができる。
【0036】
(第1の展開部材)
図4は第1展開部材14の詳細構成を示す図であり、図4(A)は第1展開部材14を表面側から見たときの平面図であり、図4(B)は裏面側から見たときの斜視図である。第1展開部材14は、外周形状及び内周形状が略正三角形の支持枠18と、支持枠18の内側に設けられた外周形状が略正三角形の回転部20と、支持枠18と回転部20とを連結する複数(この例では3本)の連結梁22と、を備えている。支持枠18と連結梁22とは、各々、所定の幅に形成されている。以下では、支持枠18の幅を「枠幅」、連結梁22の幅を「梁幅」という。
【0037】
また、支持枠18、回転部20、及び複数の連結梁22は、平板状の弾塑性体に所定形状の切り込み24を入れることで、平板状の弾塑性体に一体に形成されている。支持枠18、回転部20、及び連結梁22の厚さは、同じでもよいが、異なっていても良い。例えば、弾塑性変形を容易化するために、回転部20及び連結梁22を、支持枠18より薄く形成することが好ましい。
【0038】
切り込み24の各々は、いずれも同じ形状であり、正三角形の中心軸に対し対称な位置に配置されている。本実施の形態では、第1展開部材14に対し、V字状の切り込み24が3つ形成されている。切り込み24の幅は、支持枠18の枠幅や連結梁22の梁幅に比べて狭く、略一定の幅である。以下では、切り込み24の幅を「切込み幅」という。
【0039】
切り込み24の各々は、正三角形の第1展開部材14の3つの頂点のいずれか1つを第1の頂点として、第1の頂点の近傍から始まり、第1の頂点とこれに隣接する第2の頂点とを結ぶ正三角形の一辺に平行に延び、第2の頂点の手前で折れ曲がり、第2の頂点と第3の頂点とを結ぶ正三角形の一辺に平行に延び、第3の頂点の手前で終わる。
【0040】
3つの切り込み24が形成されることで、連結梁22が支持枠18と繋がる3箇所の繋ぎ部26を残して、長尺状の3本の連結梁22が支持枠18から切り離されると共に、連結梁22が回転部20と繋がる3箇所の繋ぎ部28を残して、正三角形の回転部20が連結梁22から切り離される。換言すれば、各々の連結梁22の一端は支持枠18に繋ぎ部26で繋がっており、各々の連結梁22の他端は繋ぎ部28で回転部20に繋がっている。こうして、回転部20は3本の連結梁22により支持枠18に連結されている。
【0041】
第1展開部材14では、連結梁22の長さができるだけ長くなるように、切り込み24を入れることが好ましい。連結梁22が長くなるほど、展開時のストローク(回転部20が押圧方向へ移動する距離)が大きくなる。本実施の形態では、支持枠18の内周のすぐ内側に、正三角形の各辺と平行に連結梁22の各々を配置することで、連結梁22の長さが最も長くなるように設計されている。連結梁22の長さ以外に、支持枠18の枠幅、連結梁22の梁幅、切り込み24の切込み幅、繋ぎ部26、28の幅などを考慮して、切り込み24の形状を設計することが好ましい。
【0042】
例えば、切り込み24の始点は、支持枠18が所定の枠幅を有するように、第1展開部材14の第1の頂点を形成する2辺の各々から、枠幅分だけ内側に在る位置とすることができる。切り込み24の折れ点(V字の頂点)は、連結梁22及び繋ぎ部26が所定の梁幅を有するように、第2の頂点と第3の頂点とを結ぶ正三角形の一辺から、枠幅、梁幅、及び切り込み幅を足し合わせた分だけ内側に在る位置とすることができる。切り込み24の終点は、回転部20と連結梁22の一端とが梁幅と同じ幅で繋がるように、第3の頂点と第1の頂点とを結ぶ正三角形の一辺から、枠幅、梁幅の2倍の幅、及び切り込み幅の2倍の幅を足し合わせた分だけ内側に在る位置とすることができる。
【0043】
本実施の形態では、3箇所の繋ぎ部28の各々は、3つの切り込み24の折れ点の近くに配置されることになる。このため、各々の繋ぎ部28の縁部は、繋ぎ部28の移動を容易化するために、角が削られて丸く形成されている。また、各々の繋ぎ部28の縁部の連結梁22に近い側には、繋ぎ部28での連結梁22の折れ曲げを容易化するために、V字状の切り欠き30が設けられている。
【0044】
回転部20の中央には、正三角形の回転部20の中心点を通る垂線を軸とする貫通孔32が、所定の直径で円状に形成されている。回転部20の裏面側には、貫通孔32の周囲にラチェット用の凹部34が形成されている。本実施の形態では、貫通孔32を取り囲むように6個の凹部34が等間隔に形成されている。
【0045】
支持枠18の裏面側は、第2展開部材16の支持枠38と接合される。支持枠18の裏面側には、接合時の位置合わせを容易化するために、位置合せ用の凹部36が形成されている。本実施の形態では、三角形の第1展開部材14の各頂点の近傍に凹部36が形成され、支持枠18の裏面側には3つの凹部36が形成されている。
【0046】
(第2の展開部材)
図5は第2展開部材16の詳細構成を示す図であり、図5(A)は第2展開部材16を表面側から見たときの平面図であり、図5(B)は表面側から見たときの斜視図である。第2展開部材16は、外周形状及び内周形状が略正三角形の支持枠38と、支持枠38の内側に設けられた外周形状が略正三角形の回転部40と、支持枠38と回転部40とを連結する複数(この例では3本)の連結梁42と、を備えている。支持枠38と連結梁42とは、各々、所定の幅に形成されている。本実施の形態では、支持枠38の枠幅は、第1展開部材14の支持枠18の枠幅と同じ幅とされ、連結梁42の梁幅は、第1展開部材14の連結梁22の梁幅と同じ幅とされている。
【0047】
また、支持枠38、回転部40、及び複数の連結梁42は、平板状の弾塑性体に所定形状の切り込み44を入れることで、平板状の弾塑性体に一体に形成されている。支持枠38、回転部40、及び連結梁42の厚さは、同じでもよいが、異なっていても良い。第1展開部材14と同様に、弾塑性変形を容易化するために、回転部40及び連結梁42を、支持枠38より薄く形成することが好ましい。
【0048】
切り込み44の各々は、いずれも同じ形状であり、正三角形の中心軸に対し対称な位置に配置されている。本実施の形態では、第2展開部材16に対し、V字状の切り込み44が3つ形成されている。切り込み44の幅は、支持枠18の枠幅や連結梁22の梁幅に比べて太い部分と細い部分とがある。以下では、太い部分での切り込み44の幅を「最大幅」といい、細い部分での切り込み44の幅を「最小幅」という。
【0049】
切り込み44の各々は、正三角形の第2展開部材16の3つの頂点のいずれか1つを第1の頂点として、第1の頂点の近傍から始まり、第1の頂点とこれに隣接する第2の頂点とを結ぶ正三角形の一辺に平行に延び、第2の頂点の手前で折れ曲がり、第2の頂点と第3の頂点とを結ぶ正三角形の一辺に平行に延び、第3の頂点の手前で終わる。第1展開部材14で、第1の頂点→第2の頂点→第3の頂点を右回りに設定したとすると、第2展開部材16では、第1の頂点→第2の頂点→第3の頂点は左回りに設定される。回転部40を、第1展開部材14の回転部20とは逆回りに回転させるためである。
【0050】
3つの切り込み44が形成されることで、連結梁42が支持枠38と繋がる3箇所の繋ぎ部46を残して、長尺状の3本の連結梁42が支持枠38から切り離されると共に、連結梁42が回転部40と繋がる3箇所の繋ぎ部48を残して、正三角形の回転部40が連結梁42から切り離される。即ち、各々の連結梁42の一端は支持枠38に繋ぎ部46で繋がっており、各々の連結梁42の他端は回転部40に繋ぎ部48で繋がっている。こうして、回転部40は3本の連結梁42により支持枠38に連結されている。本実施の形態では、繋ぎ部46の幅は、第1展開部材14の繋ぎ部26の幅と同じ幅であり、繋ぎ部48の幅は、第1展開部材14の繋ぎ部28の幅と同じ幅である。
【0051】
また、第2展開部材16の連結梁42と第1展開部材14の連結梁22とが、第1展開部材14を第2展開部材16に重ね合わせた状態で、正三角形の同じ辺に平行に配置されているとき、連結梁42の延びる方向(繋ぎ部46から繋ぎ部48に向う方向)は、連結梁22の延びる方向(繋ぎ部26から繋ぎ部28に向う方向)とは、逆向きである(図3参照)。これにより、第2展開部材16の回転部40は、第1展開部材14の回転部20とは逆回りに回転することになる。
【0052】
第2展開部材16では、展開時に、連結梁42と第1展開部材14の回転部20や連結梁22とが互いに干渉せず、回転部40と第1展開部材14の連結梁22とが互いに干渉しないように、切り込み44を入れる。これらの干渉が生じると、展開構造体10の展開が阻害される。また、第1展開部材14と同様に、連結梁42の長さができるだけ長くなるように、切り込み44を入れることが好ましい。連結梁42が長くなるほど、展開時のストロークが大きくなる。本実施の形態では、支持枠38の内周から、梁幅と最小切込み幅の2倍の幅とを足し合わせた分だけ内側に、正三角形の各辺と平行に連結梁42の各々を配置することで、連結梁42の長さが最も長くなるように設計されている。
【0053】
第1展開部材14と同様に、切り込み44の形状を適宜設計することが好ましい。例えば、切り込み44の始点は、支持枠38が所定の枠幅を有するように、第2展開部材16の頂点を形成する2辺の各々から、枠幅分だけ内側に在る位置とすることができる。切り込み44は、始点から最大幅まで拡がり、最大幅のまま正三角形の一辺に平行に延び、折れ点の手前で点に収束する。切り込み44の折れ点は、連結梁42が所定の梁幅を有するように、第2展開部材16の正三角形の一辺から、枠幅、切り込み44の最大幅、及び梁幅を足し合わせた分だけ内側に在る位置とすることができる。切り込み44は、折れ点から終点まで最小幅で、第2展開部材16の正三角形の一辺に平行に延びる。切り込み44の終点は、回転部40と連結梁42の一端とが梁幅と同じ幅で連続するように、第2展開部材16の正三角形の一辺から、枠幅、切り込み44の最大幅、梁幅の2倍の幅、及び切り込み44の最小幅を足し合わせた分だけ内側に在る位置とすることができる。
【0054】
第1展開部材14と同様に、各々の繋ぎ部48の縁部は、繋ぎ部48の移動を容易化するために、角が削られて丸く形成されている。また、各々の繋ぎ部48の縁部の連結梁42に近い側には、繋ぎ部48での連結梁42の折れ曲げを容易化するために、V字状の切り欠き50が設けられている。
【0055】
回転部40の表面側の中央には、正三角形の回転部40の中心点を通る垂線を軸とする円柱状の凸部52が、所定の直径で形成されている。この円柱状の凸部52は、第1展開部材14を第2展開部材16に重ね合わせた状態で、第1展開部材14の貫通孔32に対し回転可能に嵌め込まれる(図3参照)。即ち、第2展開部材16の円柱状の凸部52が「軸」であり、第1展開部材14の貫通孔32がこの「軸」を受ける「軸受け」として機能し、第1展開部材14の回転部20と第2展開部材16の回転部40とは同軸で回転する。円柱状の凸部52の周囲には、ラチェット用の凸部54が形成されている。本実施の形態では、円柱状の凸部52を取り囲むように3個の凸部54が等間隔に形成されている。
【0056】
また、支持枠38の表面側は、第1展開部材14の支持枠18と接合される。支持枠38の表面側には、接合時の位置合わせを容易化するために、位置合せ用の凸部56が形成されている。本実施の形態では、支持枠38の表面側には、三角形の第2展開部材16の各頂点の近傍に3つの凸部56が形成されている。これら支持枠38の凸部56の各々を、第1展開部材14の支持枠18に設けられた凹部36に嵌め込むことで、支持枠38と第1展開部材14の支持枠18とが上手く重なるように、第1展開部材14と第2展開部材16とが位置合せされる。
【0057】
(ラチェット機構)
展開構造体10は、平面から立体に展開してラチェットがロックされ、複数の梁が交差する立体交差構造12を形成する。ラチェットは動作方向を一方に制限するために用いられる機構である。ここで展開構造体10のラチェット機構について説明する。図6(A)は第1展開部材14の回転部20を表面側から見たときの平面図であり、図6(B)は第2展開部材16の回転部40を表面側から見たときの平面図である。また、図6(C)及び(D)はラチェットがロックされる様子を示す斜視図である。
【0058】
上述した通り、第1展開部材14の回転部20の裏面側には、貫通孔32を取り囲むようにラチェット用の凹部34が形成されている。回転部20は裏面側から押圧されると、回転軸Aに対して左回りに回転する。回転部20の回転に伴い凹部34も移動する。一方、第2展開部材16の回転部40の表面側には、円柱状の凸部52を取り囲むようにラチェット用の凸部54が形成されている。回転部40は裏面側から押圧されると、同じ回転軸Aに対して右回りに回転する。回転部40の回転に伴い凸部54も移動する。
【0059】
ラチェット用の凸部54は、図6(C)に示すように、傾斜面を備えた「爪」状に形成されている。ラチェット用の凹部34は、凸部54と嵌合するように、底部に傾斜面を備えた形状に形成されている。第1展開部材14が第2展開部材16に重ね合わされた状態で、回転部20及び回転部40が裏面側から押圧されて、回転部40と回転部20とが互いに逆回りに回転する。このとき回転部40の凸部54が、回転部20の凹部34に対し、矢印A方向に相対的に移動する。
【0060】
回転部40の凸部54は、回転により回転部20の凹部34に嵌まり込む。凹部34に嵌まり込んだ凸部54は、矢印A方向に相対的に移動する場合には、凹部34の傾斜面に沿って凹部34から抜け出すことができる。一方、矢印A方向とは逆の矢印B方向に移動しようとしても、爪が引っ掛かって凹部34からは抜け出せない。これにより、回転方向は一方向に制限される。
【0061】
回転部20は連結梁22により支持枠18に連結され、回転部40は連結梁42により支持枠38に連結されているので、回転部20及び回転部40が回転軸Aに沿って移動し、各々の支持枠から離れるに従い、回転部を引き戻す方向、即ち、押圧による回転を止める方向に力が働くことになる。しかしながら、上述した通り、回転方向は一方向に制限されているので、回転部を引き戻すことはできない。従って、回転部40と回転部20とが所定角度まで回転した位置で、凸部54と凹部34とは互いに嵌合状態から抜け出せなくなり、ラチェットがロックされる。
【0062】
(展開挙動)
図7(A)〜(C)は展開構造体10の展開挙動を説明するための平面図であり、図8(A)〜(C)は展開構造体10の展開挙動を説明するための斜視図である。いずれの図も、第1展開部材14が第2展開部材16に重ね合わされた状態(展開構造体10)を、裏面側から見ている。
【0063】
図7(A)及び図8(A)は展開前の展開構造体10の状態を示す。展開前の展開構造体10は、平面視が略正三角形の平面的な形状を有している。
【0064】
図7(B)及び図8(B)は展開途中の状態を示す。第1展開部材14を第2展開部材16に重ね合わせた状態で、第2展開部材16の回転部40が裏面側から押圧されると、回転部40が回転軸Aに沿って押圧された方向に移動しながら、回転軸Aの周りに回転する。裏面側から見ると、点線で図示したように、回転部40は回転軸Aの周りに左回りに回転する。更に、回転部40により第1展開部材14の回転部20が裏面側から押圧されて、回転部20が回転軸Aに沿って押圧された方向に移動しながら、同軸で回転する。裏面側から見ると、実線で図示したように、回転部20は回転軸Aの周りに右回りに回転する。
【0065】
第2展開部材16では、回転部40の移動に伴い、弾塑性変形によって連結梁42の両端部が撓み始める。特に、連結梁42が支持枠38に繋がる繋ぎ部46と、連結梁42が回転部40に繋がる繋ぎ部48とが、弾塑性変形により湾曲する。第1展開部材14でも同様に、回転部20の移動に伴い、弾塑性変形によって連結梁22の両端部が撓み始める。特に、連結梁22が支持枠18に繋がる繋ぎ部26と、連結梁22が回転部20に繋がる繋ぎ部28とが、弾塑性変形により湾曲する。
【0066】
図7(C)及び図8(C)は展開後(展開完了時)の状態を示す。回転部40と回転部20とが回転軸Aに沿って押圧された方向に限界まで移動すると、回転部40と回転部20とが所定角度まで回転した位置でラチェットがロックされ、展開構造体10の展開が完了する。この例では、回転部40と回転部20とが互いに約45度ずつ逆方向に回転した位置で展開が完了している。これにより、連結梁22と連結梁42の複数の梁を有する立体交差構造12が形成される。この例では、3本の連結梁22と3本の連結梁42の合計6本の梁を有する立体交差構造12が形成される。
【0067】
第2展開部材16では、回転部40の更なる移動に伴い、弾塑性変形により連結梁42が更に撓む。特に、繋ぎ部46は大幅に湾曲し、繋ぎ部48は切り欠き50の近くで折れ曲がっている。第1展開部材14でも同様に、回転部20の更なる移動に伴い、弾塑性変形により連結梁22が更に撓む。繋ぎ部26は大幅に湾曲し、繋ぎ部28は切り欠き30の近くで折れ曲がっている。
【0068】
(展開時の衝撃吸収能力)
上記の立体交差構造12の衝撃吸収能力を、以下に示す衝突実験により検証した。
まず、立体交差構造12の試作品を作製した。図9は試作品を形成するのに用いた第1展開部材14の設計図である。図9(A)は第1展開部材14を表面側から見た平面図であり、図9(B)は図9(A)の対称軸に沿った断面図である。図10は試作品を形成するのに用いた第2展開部材16の設計図である。図10(A)は第2展開部材16を表面側から見た平面図であり、図10(B)は図10(A)の対称軸に沿った断面図である。
【0069】
記載された数値の単位は、いずれもmm(ミリメートル)である。概説すると、第1展開部材14及び第2展開部材16の各々は、外周形状が一辺の長さが約9cmの正三角形である。支持枠の厚さは3mmであり、回転部及び連結梁の厚さは1mmである。第1展開部材14及び第2展開部材16はABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)からなり、支持枠、回転部及び連結梁は一体に形成されている。図9に示す第1展開部材14と、図10に示す第2展開部材16とを重ね合わせて、上記の展開構造体10を作製した。この展開構造体10の中央部を裏面側から押圧し、ラチェットがロックするまで展開して、立体交差構造12の試作品を得た。立体交差構造12のストローク(展開距離)は約3.5cmだった。
【0070】
図11は衝突実験の方法を示す概略図である。試作された立体交差構造12を取り付けた台車60を剛壁面62に衝突させて、台車が受ける加速度の変化を計測した。L字型の荷台64を備えた台車60を用い、試作された立体交差構造12を荷台64の背面66に取り付けた状態で、台車60を矢印C方向に1.7m/s(メートル/秒)の速度で移動させ、剛壁面62に衝突させた。
【0071】
図12(A)は立体交差構造12を取り付けていない台車60が受ける加速度の変化を表すグラフであり、図12(B)は立体交差構造12を取り付けた台車60が受ける加速度の変化を表すグラフである。縦軸は加速度を表し、その単位はGである。なお、1Gは9.80665m/sに換算される。横軸は時間を表し、その単位はms(ミリ秒)ある。
【0072】
図12(A)に示すように、立体交差構造12を取り付けていない台車60では、衝突時に台車60が受ける加速度が急激に変化(減速)した。衝突から僅か10msの間に、加速度が62Gも変化した。これは台車が受けた衝撃の大きさを表す。一方、図12(B)に示すように、立体交差構造12を取り付けた台車60では、衝突時に台車60が受ける加速度に急激な変化は見られず、加速度の最大値も低下した。衝突から40msの間に、加速度は18Gしか変化しなかった。衝突エネルギーはゆっくりと吸収され、台車60が受ける衝撃力は大幅に緩和されたのである。同様に、被衝突物(剛壁面62)が受ける反力も緩和される。
【0073】
図13(A)〜(I)は衝突実験を撮影した高速度ビデオカメラ画像である。画像は2ms間隔で撮影されたものである。図13(A)は衝突時の画像、図13(B)は衝突から2ms後の画像、図13(C)は衝突から4ms後の画像、図13(D)は衝突から6ms後の画像、図13(E)は衝突から8ms後の画像、図13(F)は衝突から10ms後の画像、図13(G)は衝突から12ms後の画像、図13(H)は衝突から14ms後の画像、図13(I)は衝突から16ms後の画像である。これらの画像から、衝突から16msまでの間に、試作された立体交差構造12の複数の梁の各々が、中央部分で弾塑性変形して撓み、最終的には一部の梁が屈曲して、衝突エネルギーを吸収していることが分かる。
【0074】
<衝撃吸収装置>
次に、本発明の実施の形態に係る衝撃吸収装置の概略構成を説明する。この衝撃吸収装置では、衝突を検知したとき(衝突が不可避と予測されたときを含む)に、上記の展開構造体10(図1等参照)を展開させて、複数の梁を有する立体交差構造12を形成し、衝突エネルギーを吸収する「衝撃吸収構造」を用いる。まず、この衝撃吸収構造について説明する。
【0075】
(衝撃吸収構造)
図14は展開構造体10を備えた衝撃吸収構造70の分解斜視図である。衝撃吸収構造70は、第1展開部材14及び第2展開部材16からなる展開構造体10と、エアバックの作動により展開構造体10の中央部を裏面側から押圧して、展開構造体10を展開させる展開駆動部72と、で構成されている。展開駆動部72は、外周形状及び内周形状が第1展開部材14及び第2展開部材と同じ形状(略正三角形)の支持枠74と、支持枠74の内側に取付けられたエアバック装置76と、を備えている。
【0076】
展開駆動部72は、エアバックが飛び出す表面側が第2展開部材16の裏面側と対向するように重ね合わされる。支持枠74の表面側には、接合時の位置合わせを容易化するために、位置合せ用の凸部78が形成されている。なお、第2展開部材16の裏面側の対応する位置には、凸部78と嵌合する凹部(図示せず)が設けられている。そして、展開駆動部72の支持枠74と、第2展開部材16の支持枠38とが、位置合わせされて接合される。これにより、衝撃吸収構造70が完成する。
【0077】
図15(A)はエアバック装置76の構造を示す断面図であり、図15(B)はエアバック装置76が作動した状態を示す概略図である。エアバック装置76は、ガスを瞬時に発生させるインフレータ80と、インフレータ80から送り込まれたガスにより瞬時に膨らむバック(袋体)82と、を備えている。エアバック装置76が動作する前は、バック82は、第2展開部材16と展開駆動部72との間に、折り畳まれて収納されている。衝突が検知されると、インフレータ80に駆動信号が入力されて(点火電流がONになり)、バック82にガスが送り込まれ、バック82が瞬時に膨張する。
【0078】
(衝撃吸収動作)
図16(A)〜(D)は衝撃吸収構造70が衝突エネルギーを吸収する動作を説明するための側面図である。この側面図では衝撃吸収構造70を、正三角形の一辺の側から見ている。
【0079】
図16(A)は衝突が検知される前(展開前)の衝撃吸収構造70の状態を示す。衝撃吸収構造70は、第1展開部材14、第2展開部材16、及び展開駆動部72をこの順に重ね合わせて構成されており、平面的な形状を有している。立体交差構造12が形成される第1展開部材14側が表面側であり、展開駆動部72側が裏面側である。衝撃吸収構造70は、裏面側を設置面に向けて設置される。
【0080】
図16(B)は衝突が検知された直後(展開完了時)の衝撃吸収構造70の状態を示す。衝突が検知されると、インフレータ80に駆動信号が入力されて、バック82にガスが送り込まれ、バック82が瞬時に膨張する。膨張したバック82により、第1展開部材14の回転部20と、第2展開部材16の回転部40とが表面側に押圧される。回転部20と回転部40とは、押圧された方向に移動しながら同軸で逆回りに回転する。回転部40と回転部20の各々が所定角度まで回転した位置で、ラチェットがロックされ、展開が完了する。
【0081】
上述した通り、第1展開部材14の連結梁22と第2展開部材16の連結梁42とは、各々の両端部が弾塑性変形により撓む。即ち、第1展開部材14の繋ぎ部26と、第2展開部材16の繋ぎ部46とは大幅に湾曲する。また、第1展開部材14の繋ぎ部28は切り欠き30の近くで折れ曲がり、第2展開部材16の繋ぎ部48は切り欠き50の近くで折れ曲がる。これにより、連結梁22と連結梁42の複数の梁が交差する立体交差構造12が形成される。
【0082】
図16(C)は展開が完了した後(展開後)の衝撃吸収構造70の状態を示す。展開が完了すると、バック82からガスが抜け、バック82はしぼむ。バック82がしぼんでも、ラチェットがロックされているので、立体交差構造12は維持される。
【0083】
図16(D)は荷重をかけた後の衝撃吸収構造70の状態を示す。衝撃吸収構造70の立体交差構造12の上に重石84を載せて、衝撃吸収構造70に荷重をかける。これは衝撃吸収構造70に衝突エネルギーを与えたのと同じ状態である。第1展開部材14の連結梁22と、第2展開部材16の連結梁42とは弾塑性変形して、衝突エネルギーを吸収する。
【0084】
衝突エネルギーを吸収する過程では、第1展開部材14の連結梁22は、繋ぎ部26での湾曲が緩和され、中央部分が弾塑性変形により撓み始める。第2展開部材16の連結梁42でも同様に、繋ぎ部46での湾曲が緩和され、中央部分が弾塑性変形により撓み始める。第2展開部材16の連結梁42が、第1展開部材14の連結梁22よりも短い場合には、第2展開部材16は展開前の状態に戻ろうとする。このため、第1展開部材14の連結梁22が、更に弾塑性変形して、連結梁22の中央部分又は繋ぎ部28で折れ曲がる。
【0085】
図17(A)〜(C)は衝撃吸収構造70の衝撃吸収動作の他の一例を説明するための側面図である。図16(A)〜(D)に示した衝撃吸収動作では、展開が完了した後にバック82をしぼませていたが、この衝撃吸収動作では、展開後もバック82内のガス圧を保持し、膨張したバック82も利用して、衝突エネルギーを吸収する。なお、図17(A)は図16(A)と同じ図であり、図17(B)は図16(B)と同じ図であるため、ここでは同じ符号を付して説明を省略する。
【0086】
図17(C)は荷重をかけた後の衝撃吸収構造70の状態を示す。衝撃吸収構造70の立体交差構造12の上に重石84を載せて、衝撃吸収構造70に荷重をかける。第1展開部材14の連結梁22と第2展開部材16の連結梁42とは、弾塑性変形して衝突エネルギーを吸収する。また、膨張したバック82は、バック82内のガスを放出又は移動させることで衝突エネルギーを吸収する。例えば、図示したように、膨張したバック82が平たく変形して、衝突エネルギーを吸収する。
【0087】
衝撃吸収構造70に大きな荷重がかかる場合には、膨張したバック82を併用することが好適である。バック82を併用する場合には、バック82の素材として炭素繊維などの強化繊維を用いることにより、衝突物の特性に応じてバック内の内圧を変化させることができる。立体交差構造12の梁だけでは荷重を支えきれないとき、即ち衝突エネルギーを吸収しきれないときに、バック82の内圧を高めて衝突エネルギーを吸収する。
【0088】
図18は衝撃吸収構造70の配置例を示す平面図である。展開前の衝撃吸収構造70は、平面的な形状を有しているので、多数の衝撃吸収構造70を二次元状に配列して設置することができる。上述した通り、第1展開部材14側が表面側であり、展開駆動部72側が裏面側である。衝撃吸収構造70は、裏面側を設置面に向けて設置される。衝撃吸収構造70に含まれる展開構造体10は、図面では手前側に向って展開する。本実施の形態では、衝撃吸収構造70は、平面視が略正三角形であるため、設置部位に隙間なく敷き詰めることができる。なお、ここでは、衝撃吸収構造70を平面的に配置する例を示したが、用途に応じて、衝撃吸収構造70を並列に配置することもできる。
【0089】
図19は衝撃吸収構造70を車両に設置する場合の設置部位を例示する斜視図である。衝突物との衝突に備えて、フードパネル90、フロントバンパ92、フロントサイドドア94、フロントフェンダーパネル96、フロントピラー98などに設置することができる。コンパクトで平面的な形状を有している衝撃吸収構造70は、フードパネル90を構成するアウタパネルとインナパネルとの隙間や、フロントバンパ92のバンパカバーとバンパフレームとの間、フードパネル90とフロントフェンダーパネル96との隙間など、通常はクラッシュボックスを設置できない狭く小さい部位にも設置することができる。また、バック時の衝突に備えて、ラッゲージドアやリアバンパに設置してもよい。
【0090】
(衝撃吸収装置)
図20は本発明の実施の形態に係る衝撃吸収装置の構成を示すブロック図である。この衝撃吸収装置は、車両に搭載されて使用される。本実施の形態に係る衝撃吸収装置100には、展開構造体10と、衝突物の衝突位置を特定するための情報を取得する情報取得手段として設置されたセンサ群102と、展開構造体10を裏面側から押圧して展開構造体10を展開させる展開駆動部72と、センサ群102から取得した情報に基づいて、展開駆動部72が作動するように展開駆動部72を制御する制御部104と、が設けられている。
【0091】
なお、展開構造体10と展開駆動部72とで、上述した衝撃吸収構造70が構成される。衝撃吸収構造70は、上述した通り、フードパネル90、フロントバンパ92、フロントサイドドア94、フロントフェンダーパネル96、フロントピラー98など、衝突が予想される車両の様々な部位に多数設置されている。
【0092】
センサ群102としては、自車両の前方、側方及び後方を撮影するビデオカメラ102A、自車両の前方、側方及び後方の熱画像を撮影する赤外線カメラ102B、自車両の前方、側方及び後方の障害物(衝突物)を検出するレーダ102C、自車両への前方、側方及び後方からの衝突を検知する感圧センサ102Dが設けられている。レーダ102Cは、レーザレーダでもよく、ミリ波レーダでもよい。ビデオカメラ102A、赤外線カメラ102B、レーダ102C、及び感圧センサ102Dの各々で得られたデータは、制御部104に逐次入力される。
【0093】
制御部104には、衝突物が衝突する部位を推定する衝突部位推定手段106と、推定された衝突部位において衝突物が衝突する範囲を推定する衝突範囲推定手段108と、が設けられている。センサ群102から入力されたデータに基づいて、衝突が検知された場合又は衝突が不可避であると予測された場合に、推定された衝突部位の推定された衝突範囲に設置された衝撃吸収構造70の展開駆動部72を作動して、衝突位置にある展開構造体10を展開させる。展開により複数の梁を有する立体交差構造12が形成され、立体交差構造12によって衝突エネルギーを吸収する。
【0094】
図21は制御部104が行う作動ルーチンの一例を示すフローチャートである。まず、ステップS10で、センサ群102から入力されたデータに基づいて、衝突の危険性を検知する。例えば、レーダ102Cで得られたデータなどから、衝突物の接近の有無や衝突物の接近方向を検知することができる。衝突物の接近方向が分かれば、前面衝突か側面衝突かも判断することができ、衝突物が衝突する部位を推定することができる。次のステップS12で、センサ群102から入力されたデータに基づいて、衝突物の形状・重量・速度を予測する。衝突物の形状・重量・速度が分かれば、衝突物が衝突する部位だけでなく、衝突部位における具体的な衝突の範囲を推定することができる。
【0095】
次に、ステップS14で、予測された衝突物の形状・重量・速度から、衝突を回避できるか否かを判断する。衝突は回避できると判断(肯定判断)した場合には、そこでルーチンを終了する。一方、衝突は回避できないと判断(否定判断)した場合には、衝撃吸収構造70の展開構造体10を展開させるために、展開駆動部72に駆動信号を出力して、ルーチンを終了する。このように、必要な部位の展開構造体10を展開させるなど、衝突物の特性に応じて制御動作を行うことができる。
【0096】
以上説明したように、本実施の形態の展開構造体及び衝撃吸収構造は、展開前はコンパクトで平面的な形状を有しているので、クラッシュボックス等を設置できない狭く小さい部位にも設置することができる。また、本実施の形態の展開構造体及び衝撃吸収構造は、平面視が略正三角形であるため、設置部位に隙間なく敷き詰めることができる。
【0097】
また、本実施の形態の展開構造体及び衝撃吸収構造は、展開後は複数の梁を備えた立体交差構造を形成するので、表面側から衝突による衝撃が加わると、複数の梁の各々が弾塑性変形して、衝突エネルギーを吸収することができる。特に、立体交差構造であるため、真正面からの衝突だけではなく、斜め方向からの衝突においても、有効に衝突エネルギーを吸収することができる。更に、用途に応じて立体交差構造中の梁の配置や本数を変えることで、衝突エネルギー吸収量を調整することができる。即ち、任意の剛性を持たせることが可能である。
【0098】
また、本実施の形態の衝撃吸収装置は、展開構造体を含む衝撃吸収構造が、車両などの被衝突物に多数配置され、個別に駆動制御されているので、衝突位置に配置された展開構造体を展開させて、衝突による衝撃を吸収することができる。即ち、必要な部位の展開構造体を展開させるなど、衝突物の特性に応じて制御動作を行うことができる。
【0099】
また、センサ群から入力されたデータに基づいて、衝突物の有無を判断し、衝突物の形状・重量・速度などを計測して、衝突物が衝突する部位だけでなく、衝突部位における具体的な衝突の範囲を推定することで、衝突が回避できない場合には、推定された衝突位置に配置された展開構造体を展開させて、衝突による衝撃を吸収することができる。
【0100】
<変形例>
以下、上記の実施の形態の変形例について説明する。
【0101】
(展開駆動部の変形例)
上記の実施の形態では、展開構造体を展開させる展開駆動部にエアバック装置を用いる例について説明したが、展開構造体を押圧することができればよく、押圧部材はエアバック装置には限定されない。エアキャップのように気体や液体が封入された袋体を、展開構造体に押し付けるようにしてもよい。
【0102】
(展開駆動機構の変形例)
上記の実施の形態では、押圧により展開構造体を展開させる例について説明したが、加熱や電圧印加により自己変形する材料で展開構造体を形成し、自己変形により展開構造体を展開させることもできる。自己変形する材料としては、熱膨張率の異なる2種類の金属板を合板したバイメタル、電界の作用により高分子ゲル中の可動イオンの濃度分布が変化して膨潤/収縮する高分子アクチュエータなどを用いることができる。
【0103】
図22(A)及び(B)は、加熱により自己変形する材料で展開構造体を形成した例である。図22(A)に示すように、展開構造体10Aは、平板状の第1展開部材14Aと、第1展開部材14Aと同じ大きさで平板状の第2展開部材16Aと、で構成されている。第1展開部材14Aと第2展開部材16Aの各々は、加熱により自己変形する材料で形成されている。
【0104】
展開構造体10Aは、材料以外は、展開構造体10と同じ構成である。即ち、第1展開部材14Aは第1展開部材14と同じ構造であり、第2展開部材16Aは第2展開部材16と同じ構造である。また、第1展開部材14Aと第2展開部材16Aとは、重ね合わせて使用される。
【0105】
展開構造体10Aには、展開構造体10Aを展開させる展開駆動部としてヒータ72Aが取付けられている。ヒータ72Aにより展開構造体10Aが加熱されると、図22(B)に示すように、第1展開部材14Aと第2展開部材16Aの各々が自己変形して展開し、複数の梁を有する立体交差構造12Aを形成する。こうして形成された立体交差構造12Aも、複数の梁の各々が弾塑性変形して、衝突エネルギーを吸収する。
【0106】
図23(A)及び(B)は、電圧印加により自己変形する材料で展開構造体を形成した例である。図23(A)に示すように、展開構造体10Bは、平板状の第1展開部材14Bと、第1展開部材14Bと同じ大きさで平板状の第2展開部材16Bと、で構成されている。第1展開部材14Bと第2展開部材16Bの各々は、電圧印加により自己変形する材料で形成されている。展開構造体10Bは、材料以外は、展開構造体10と同じ構成である。
【0107】
展開構造体10Bは、スイッチ72Bと電源72Cとが直列に接続された制御回路に接続されている。図23(B)に示すように、スイッチ72Bがオンになると、電源72Cにより展開構造体10Bに電圧が印加され、第1展開部材14Bと第2展開部材16Bの各々が自己変形して展開し、複数の梁を有する立体交差構造12Bを形成する。こうして形成された立体交差構造12Bも、複数の梁の各々が弾塑性変形して、衝突エネルギーを吸収する。
【0108】
(適用対象の変形例)
上記の実施の形態では、フロントバンパ等、車両のボディに衝撃吸収構造を設置する例について説明したが、コンパクトで平面的な形状を有している衝撃吸収構造は、狭く小さい部位にも設置することができる。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスとしての利用も可能である。即ち、微細空間における衝突緩衝構造やアクチュエータとしての役割も果たすことができる。
【0109】
(展開構造体の変形例)
上記の実施の形態では、平面視が略正三角形の展開構造体を用い、立体交差構造では3本の連結梁で1つの回転部を支持する構造例について説明したが、展開構造体の構造は、上記実施の形態の構造に限定される訳ではない。用途に応じて好適な形状を選択することができる。立体交差構造中の連結梁の配置や本数を変えることで、衝突エネルギー吸収量を調整することができる。また、展開構造体を構成する第1展開部材と第2展開部材との間で、平面視形状、回転部の形状、連結梁の形状・配置・本数が異なっていてもよい。
【0110】
平面視が正三角形の展開構造体は、平面状に隙間無く配列することができ、平面配列の容易性という観点からは最も好ましいが、展開構造体の平面視形状は、円(真円、楕円など)や、三角形以外の多角形(四角形、五角形、六角形、八角形など)とすることもできる。また、3本の連結梁で回転部を支持する構造は、遊びになる梁がないので、安定感があり最も好ましいが、回転部を支持する連結梁の本数は3本には限られない。2本でもよく、4本以上でもよい。連結梁の本数が増加すると、弾塑性変形による衝突エネルギー吸収量が増加する。連結梁を長くすると、弾塑性変形による衝突エネルギー吸収量が増加する。連結梁の幅を広くすると、弾塑性変形による衝突エネルギー吸収量が増加する。
【0111】
また、連結梁の幅は一定である必要はなく、1本の連結梁の長手方向において、梁幅が変化していてもよい。更に、連結梁の断面形状は矩形状である必要はなく、断面の長手方向において厚さが変化していてもよい。
【0112】
図24は平面視が円形の展開構造体の例である。第1展開部材は2本の連結梁を有し、第2展開部材16Cの連結梁42Cは4本の連結梁を有している。図24(A)は展開構造体を構成する第1展開部材の平面図であり、図24(B)は展開構造体を構成する第2展開部材の平面図であり、図24(C)は展開構造体が展開して形成された立体交差構造の斜視図である。
【0113】
図24(A)に示すように、第1展開部材14Cは、外周形状及び内周形状が円形の支持枠18Cと、支持枠18Cの内側に設けられた外周形状が円形の回転部20Cと、支持枠18Cと回転部20Cとを連結する円弧状の2本の連結梁22Cと、を備えている。支持枠18C、回転部20C、及び2本の連結梁22Cは、平板状の弾塑性体に所定形状の切り込み24Cを入れることで、平板状の弾塑性体に一体に形成されている。本例では、第1展開部材14Cに対し、略C字状の切り込み24Cが2つ形成されている。
【0114】
各々の連結梁22Cの一端は支持枠18Cに繋ぎ部26Cで繋がっており、各々の連結梁22Cの他端は繋ぎ部28Cで回転部20Cに繋がっている。こうして、回転部20Cは2本の連結梁22Cにより支持枠18Cに連結されている。回転部20Cの中央には、円の中心点を通る垂線を軸とする貫通孔32Cが、所定の直径で円状に形成されている。また、各々の繋ぎ部28Cの縁部の連結梁22Cに近い側には、繋ぎ部28Cでの連結梁22Cの折れ曲げを容易化するために、V字状の切り欠き30Cが設けられている。
【0115】
図24(B)に示すように、第2展開部材16Cは、外周形状及び内周形状が円形の支持枠38Cと、支持枠38Cの内側に設けられた外周形状が円形の回転部40Cと、支持枠38Cと回転部40Cとを連結する円弧状の4本の連結梁42Cと、を備えている。支持枠38と連結梁42とは、各々、所定の幅に形成されている。支持枠38C、回転部40C、及び2本の連結梁42Cは、平板状の弾塑性体に所定形状の切り込み44Cを入れることで、平板状の弾塑性体に一体に形成されている。本例では、第1展開部材14Cに対し、部分的に太さが異なる略C字状の切り込み44Cが4つ形成されている。回転部40Cと連結梁42Cとは、展開時に第1展開部材14Cの回転部20C及び連結梁22Cと干渉しないように配置されている。
【0116】
各々の連結梁42Cの一端は支持枠38Cに繋ぎ部46Cで繋がっており、各々の連結梁42Cの他端は繋ぎ部48Cで回転部40Cに繋がっている。こうして、回転部40Cは4本の連結梁42Cにより支持枠38Cに連結されている。回転部40Cの表面側の中央には、円形の回転部40の中心点を通る垂線を軸とする円柱状の凸部52Cが、所定の直径で形成されている。また、各々の繋ぎ部48Cの縁部の連結梁42Cに近い側には、繋ぎ部48Cでの連結梁42Cの折れ曲げを容易化するために、V字状の切り欠き50Cが設けられている。
【0117】
図24(C)に示すように、第1展開部材14Cが第2展開部材16Cに重ね合わされる。第2展開部材16Cの円柱状の凸部52Cが第1展開部材14Cの貫通孔32Cに対し回転可能に嵌め込まれた状態で、第1展開部材14C及び第2展開部材16Cが展開されて、複数の梁が交差する立体交差構造12Cを形成する。この例では、2本の連結梁22Cと4本の連結梁42Cの合計6本の梁を有する立体交差構造12Cが形成される。展開構造体の平面視形状を円形とすることで、支持枠の内径に沿って連結梁22Cと連結梁42Cとを長く形成することができ、展開時のストロークを大きくすることができる。また、図1〜図8に示す展開構造体と比べると、連結梁42Cの本数が増えることで、弾塑性変形による衝突エネルギー吸収量が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本実施の形態に係る展開構造体の展開前の外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示す展開構造体の展開後の外観を示す斜視図である。
【図3】展開構造体の分解斜視図である。
【図4】第1展開部材の詳細構成を示す図であり、(A)は第1展開部材を表面側から見たときの平面図であり、(B)は裏面側から見たときの斜視図である。
【図5】第2展開部材の詳細構成を示す図であり、(A)は第2展開部材を表面側から見たときの平面図であり、(B)は表面側から見たときの斜視図である。
【図6】(A)は第1展開部材の回転部を表面側から見たときの平面図であり、(B)は第2展開部材の回転部を表面側から見たときの平面図である。(C)及び(D)はラチェットがロックされる様子を示す斜視図である。
【図7】(A)〜(C)は展開構造体の展開挙動を説明するための平面図である。
【図8】(A)〜(C)は展開構造体の展開挙動を説明するための斜視図である。
【図9】検証実験に用いた展開構造体を構成する第1展開部材の構成を示す設計図である。(A)は第1展開部材を表面側から見た平面図であり、(B)は(A)のA−A断面図である。
【図10】検証実験に用いた展開構造体を構成する第2展開部材の構成を示す設計図である。(A)は第2展開部材を表面側から見た平面図であり、(B)は(A)のB−B断面図である。
【図11】衝突実験の方法を示す概略図である。
【図12】(A)は立体交差構造を取り付けていない台車が受ける加速度の変化を表すグラフであり、(B)は立体交差構造を取り付けた台車が受ける加速度の変化を表すグラフである。
【図13】(A)〜(I)は衝突実験を撮影した高速度ビデオカメラ画像である。
【図14】展開構造体を備えた衝撃吸収構造の分解斜視図である。
【図15】(A)はエアバック装置の構造を示す断面図であり、(B)はエアバック装置が作動した状態を示す概略図である。
【図16】(A)〜(D)は衝撃吸収構造が衝突エネルギーを吸収する動作を説明するための側面図である。
【図17】(A)〜(C)は衝撃吸収構造の衝撃吸収動作の他の一例を説明するための側面図である。
【図18】衝撃吸収構造の配置例を示す平面図である。
【図19】衝撃吸収構造を車両に設置する場合の設置部位を例示する斜視図である。
【図20】本発明の実施の形態に係る衝撃吸収装置の構成を示すブロック図である。
【図21】制御部が行う作動ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図22】(A)及び(B)は、加熱により自己変形する材料で展開構造体を形成した例を示す側面図である。
【図23】(A)及び(B)は、電圧印加により自己変形する材料で展開構造体を形成した例を示す側面図である。
【図24】平面視が円形の展開構造体の例を示す図である。(A)は展開構造体を構成する第1展開部材の平面図であり、(B)は展開構造体を構成する第2展開部材の平面図であり、(C)は展開構造体が展開して形成された立体交差構造の斜視図である。
【符号の説明】
【0119】
10 展開構造体
10A 展開構造体
10B 展開構造体
12 立体交差構造
12A 立体交差構造
12B 立体交差構造
14 第1展開部材
14A 第1展開部材
14B 第1展開部材
16 第2展開部材
16A 第2展開部材
16B 第2展開部材
18 第1支持枠
20 第1回転部
22 第1連結梁
24 切り込み
26 繋ぎ部
28 繋ぎ部
32 貫通孔
34 凹部
36 凹部
38 第2支持枠
40 第2回転部
42 第2連結梁
44 切り込み
46 繋ぎ部
48 繋ぎ部
52 凸部
54 凸部
56 凸部
60 台車
62 剛壁面
64 荷台
66 背面
70 衝撃吸収構造
72 展開駆動部
72A ヒータ
72B スイッチ
72C 電源
74 支持枠
76 エアバック装置
78 凸部
80 インフレータ
82 バック
84 重石
90 フードパネル
92 フロントバンパ
94 フロントサイドドア
96 フロントフェンダーパネル
98 フロントピラー
100 衝撃吸収装置
102 センサ群
102A ビデオカメラ
102C レーダ
102D 感圧センサ
102B 赤外線カメラ
104 制御部
106 衝突部位推定手段
108 衝突範囲推定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1支持枠、前記第1支持枠の内側に配置された第1回転部、及び前記第1回転部が前記第1支持枠から離れる方向に移動するときに、前記第1回転部を第1方向に回転させるように、前記第1回転部と前記第1支持枠とを連結する複数の第1連結梁を備え、前記第1回転部が前記第1支持枠から離れた状態に展開可能な第1展開部材と、
第2支持枠、前記第2支持枠の内側に配置された第2回転部、及び前記第2回転部が前記第2支持枠から離れる方向に移動するときに、前記第2回転部を前記第1方向とは逆方向の第2方向に回転させるように、前記第2回転部と前記第2支持枠とを連結すると共に、展開時に前記第1連結梁と干渉しないように設けられた複数の第2連結梁を備え、前記第1展開部材と重なるように配置され、前記第2回転部が前記第2支持枠から離れた状態に展開可能な第2展開部材と、
前記第1展開部材及び前記第2展開部材が展開されて、前記第1回転部及び前記第2回転部が所定距離だけ移動したときに、前記第1回転部の前記第1方向とは逆方向の回転及び前記第2回転部の前記第2方向とは逆方向の回転を阻止するように、前記第1回転部及び前記第2回転部の各々対向する側に設けられた回転阻止部材と、
を含むことを特徴とする展開構造体。
【請求項2】
少なくとも前記第1連結梁及び前記第2連結梁の各々が、平板状の弾塑性体で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の展開構造体。
【請求項3】
前記第1展開部材の前記第1支持枠、前記第1回転部、及び前記複数の第1連結梁が、平板状の弾塑性体で一体に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の展開構造体。
【請求項4】
前記第2展開部材の前記第2支持枠、前記第2回転部、及び前記複数の第2連結梁が、平板状の弾塑性体で一体に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の展開構造体。
【請求項5】
前記回転阻止部材により逆方向の回転が阻止されたときに、前記第2回転部が前記第2支持枠から離れる方向に移動する距離が最大となるように、前記複数の第1連結梁及び前記複数の第2連結梁が配置されたことを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の展開構造体。
【請求項6】
前記複数の第1連結梁の各々が、前記第1支持枠の内周に沿って配置されたことを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の展開構造体。
【請求項7】
前記第1支持枠の外周形状及び内周形状と前記第1回転部の外周形状とが互いに相似した三角形であると共に、前記内周形状が三角形である第1支持枠の内周の各辺に沿って、3本の前記第1連結梁の各々が配置されたことを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の展開構造体。
【請求項8】
前記3本の第1連結梁の各々は、一端が前記第1支持枠の1つの頂部付近で前記第1支持枠に連結されると共に、他端が前記第1支持枠の前記頂部に隣接する他の頂部付近で前記第1回転部に連結されたことを特徴とする請求項7に記載の展開構造体。
【請求項9】
前記第1回転部及び前記第2回転部のいずれか一方に回転軸を設けると共に他方に該回転軸を受ける軸受けを設けたことを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項に記載の展開構造体。
【請求項10】
前記第1回転部と連結される前記第1連結梁の端部近傍に切り欠きを設けると共に、前記第2回転部と連結される前記第2連結梁の端部近傍に切り欠きを設けたことを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項に記載の展開構造体。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の展開構造体が平面状に又は並列に複数配列された衝撃吸収部と、
衝突物の衝突位置を特定するための情報を取得する情報取得手段と、
前記複数配列された展開構造体の各々について個別に設けられ、前記展開構造体の前記第1回転部を前記第1回転部が前記第1支持枠から離れる方向に移動させて前記第1展開部材を展開させると共に、前記展開構造体の前記第2回転部を前記第2回転部が前記第2支持枠から離れる方向に移動させて前記第2展開部材を展開させる複数の展開駆動部と、
前記情報取得手段で取得された情報に基づいて、衝突が検知された場合又は衝突が不可避であると予測された場合に、特定された衝突位置に設置された前記展開構造体の前記第1展開部材及び前記第2展開部材を展開させるように、前記複数の展開駆動部を制御する制御部と、
を含むことを特徴とする衝撃吸収装置。
【請求項12】
前記展開駆動部は、エアバック装置を含むことを特徴とする請求項11に記載の衝撃吸収装置。
【請求項13】
前記展開駆動部は、気体または液体が封入された袋体を前記展開構造体に押し付けることにより、前記第1回転部及び前記第2回転部を移動させることを特徴とする請求項11に記載の衝撃吸収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−30747(P2009−30747A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196692(P2007−196692)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】