説明

岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法およびその装置

【課題】同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の不安定岩塊を対象として、誰でも簡易に、複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行うことができる岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法およびその装置を提供する。
【解決手段】同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊1を対象として設定し、打撃装置3を用いて前記複数の岩塊1のうちの一つの岩塊2を一定強度で打撃し、この岩塊2を振動させ、この岩塊2の表面に圧着させたフード付きマイクロフォン4で、前記岩塊2の振動によって発生する音を取得する。打撃音解析装置5によって前記音の電気信号の強度を解析し、前記の測定を十分な回数行い、前記複数の岩塊1の全ての岩塊に対して前記の測定を行う。前記複数の岩塊1の岩塊2毎の音の電気信号の強度から、前記複数の岩塊1での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、落石発生に関わる危険度評価の方法として、その素因や誘因の抽出を考慮した方法が提案されている。この手法は、落石の素因、誘因となり得るようような現象の中で、限られた領域・区間を対象として、災害箇所を含む多数の斜面で危険度評価を行うものである。そのような危険度評価の一つの要素としての岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法としては、以下に示すものがあった。
(1)目視調査
岩塊の割れ目状態や風化程度を目視により調査し、その不安定性を経験に基づいて定性的に判断する方法、および統計的手法によって作成された点数表に従って目視結果を点数化し、岩塊の不安定性を定量的に判断する方法。
(2)打音検査
ハンマー等で岩塊を打撃した際の音を聴き、岩塊の不安定性を経験的に判断する方法(下記非特許文献1参照)。
(3)振動測定
岩塊の振動を振動計や変位計を用いて測定し、岩塊の振動特性から不安定性を判断する方法。
【0003】
また、岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法ではないが、本願の出願人らによりトンネルにおけるコンクリートの健全度の計測手法が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特許第3822801号公報
【特許文献2】特許第3822802号公報
【特許文献3】特許第3831300号公報
【非特許文献1】財団法人 鉄道総合技術研究所,「落石対策技術マニュアル」,平成11年3月,pp.38−39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法には、以下のような問題点があった。
【0005】
まず、目視調査は、評価を行う技術者の経験によって評価結果が異なり、また岩塊背面など見えない部分の評価ができないという問題がある。打音検査では専門技術者による評価が必要であり、やはり技術者によって評価結果が異なる可能性がある。また、その評価が定性的であるという問題がある。振動測定は、測定に用いる装置が高価であり、かつ大掛かりとなる。また、試験機器の設置や撤去に時間がかかるだけでなく、現地の状況、特に傾斜の厳しい岩盤斜面上にあっては、測定機器を設置できない場合があるといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の不安定岩塊(割れ目や風化により浮き石化した岩塊)を対象として、誰でも簡易に、複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行うことができる岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法において、(a)同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊を対象として設定し、(b)打撃装置を用いて前記複数の岩塊のうちの一つの岩塊を一定強度で打撃し、この岩塊を振動させ、(c)この岩塊の表面に圧着させたフード付きマイクロフォンで、前記岩塊の振動によって発生する音を取得し、(d)打撃音解析装置によって前記音の電気信号の強度を解析し、(e)前記(b)〜(d)の測定を十分な回数行い、(f)前記複数の岩塊の全ての岩塊に対して前記(b)〜(e)の測定を行い、(g)前記複数の岩塊の岩塊毎の音の電気信号の強度から、前記複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行うことを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法において、前記音の電気信号の強度が大きいほど不安定性が大きいと判断することを特徴とする。
【0009】
〔3〕同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊を対象として、複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行う岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置であって、一定強度で岩塊を打撃する打撃装置と、前記打撃された岩塊から発生される音を取得し、この取得された音を電気信号に変換するフード付きマイクロフォンと、このフード付きマイクロフォンから送られる前記音の電気信号を収録し、その音の電気信号の強度を出力する打撃音解析装置と、前記複数の岩塊の岩塊毎の音の電気信号の強度から、前記複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行う手段とを具備することを特徴とする。
【0010】
〔4〕上記〔3〕記載の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置において、前記マイクロフォンがピンマイクロフォンであることを特徴とする。
【0011】
〔5〕上記〔3〕記載の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置において、前記音の電気信号の強度が大きいほど不安定性が大きいと判定する手段を具備することを特徴とする。
【0012】
〔6〕上記〔3〕記載の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置において、前記打撃装置と前記フード付きマイクロフォンと前記打撃音解析装置とからなる不安定性評価装置は可搬型であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の不安定岩塊(割れ目や風化により浮き石化した岩塊)を対象として、誰でも簡易に、複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法は、(a)同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊を対象として設定し、(b)打撃装置を用いて前記複数の岩塊のうちの一つの岩塊を一定強度で打撃し、この岩塊を振動させ、(c)この岩塊の表面に圧着させたフード付きマイクロフォンで、前記岩塊の振動によって発生する音を取得し、(d)打撃音解析装置によって前記音の電気信号の強度を解析し、(e)前記(b)〜(d)の測定を十分な回数行い、(f)前記複数の岩塊の全ての岩塊に対して前記(b)〜(e)の測定を行い、(g)前記複数の岩塊の岩塊毎の音の電気信号の強度から、複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行う。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施例を示す岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置の模式図、図2はその岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置の現地での測定状況を示す図面代用の写真である。
【0017】
これらの図において、1は同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊、2はその複数の岩塊1のうちの一つの岩塊、3はその岩塊2を一定強度で打撃する打撃装置、4はその打撃装置3による打撃によって振動する岩塊2の振動を音として取得し、取得された音を電気信号に変換するフード付きマイクロフォン、5はフード付きマイクロフォン4に接続され、そのフード付きマイクロフォン4から送られる音の電気信号を収録・解析し、その音の電気信号の強度と周波数を出力する打撃音解析装置である。
【0018】
このように本発明は、同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊を不安定性評価の対象として設定し、一定強度で岩塊を打撃した際に発生する岩塊の振動を音として取得・解析し、解析した音の電気信号の強度を岩塊の不安定性評価の指標として用いることで、岩塊の不安定性を定量的に評価することができる。
【0019】
ここで、打撃装置3は一定強度で岩塊2を打撃する装置であり、片手で持ち運べるサイズ・重量である。この打撃装置3による打撃作業は片手で実施することができる。
【0020】
また、フード付マイクロフォン4は、打撃された岩塊2から発せられる音を取得し、その音を電気信号に変換する装置であり、ノイズを低減するためのフードが装着されている。この装置による作業は片手で実施することができる。
【0021】
打撃音解析装置5はフード付マイクロフォン4から送られる音の電気信号を収録・解析し、その電気信号の強度と周波数を出力する装置である。なお、解析手法としてはウェーブレット変換を用いているが、他の手法による解析でもよい。
【0022】
図2(a)には、打撃装置3とフード付きマイクロフォン4と打撃音解析装置5からなる岩塊の不安定性評価装置が示されている。この不安定性評価装置は、一人で持ち運べる可搬型となっている。図2(b)はその測定状態を示しており、一人が岩塊2に打撃装置3とフード付きマイクロフォン4をセットし、もう一人が打撃音解析装置5でその岩塊2の音の電気信号の強度と周波数を出力している。図2(c)には、岩塊2に打撃装置3とフード付きマイクロフォン4をセットして一定強度で打撃する測定の様子が示されている。
【0023】
本発明の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法を図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0024】
(1)まず、同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊1を不安定性評価の対象として設定する(ステップS1)。
【0025】
(2)次に、打撃装置を用いて、複数の岩塊1のうちの一つの岩塊2を一定強度で打撃し、この岩塊2を振動させる(ステップS2)。
【0026】
(3)岩塊2の表面に圧着させたフード付きマイクロフォン4で、この岩塊2の振動によって発生する音を取得する(ステップS3)。
【0027】
(4)次に、フード付きマイクロフォン4で取得され変換された音の電気信号の強度を打撃音解析装置5によって解析し、出力する(ステップS4)。
【0028】
(5)上記ステップS2〜S4の測定を十分な回数行ったか否かを判断する(ステップS5)。測定が十分な回数行われていなかった場合、上記ステップS2へ戻り測定を続ける。
【0029】
(6)上記ステップS5で十分な回数の測定が行われたと判断した場合、全ての対象岩塊を測定したか否かを確認する(ステップS6)。全ての対象岩塊の測定が終了したと確認された場合、複数の岩塊の各岩塊毎の音の電気信号の強度から、複数の岩塊間での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行う(ステップS7)。上記ステップS6で全ての対象岩塊の測定が終了していないとされた場合には、次の対象岩塊に移動して測定を続ける(ステップS8)。
【0030】
なお、複数の岩塊において、音の電気信号の強度が大きいほど不安定性が大きいと判断する。
【0031】
次に本発明による実地調査例について述べる。
【0032】
山梨県大月市において、砂岩を例として本発明により調査した結果は、以下の通りである。
【0033】
図4は本発明による不安定性評価のために対象として設定した複数の岩塊を示す図面代用の写真であり、数字は打撃箇所の番号を、円の大きさは音の最大強度を示している。図5はその打撃箇所とその卓越周波数(kHz)及び音の最大強度(×103 )の関係を示す図、図6はその卓越周波数(kHz)と音の最大強度(×103 )を示す図である。なお、最大強度の単位は、パスカル・秒の次元を持つ。
【0034】
本発明を用いて不安定性を測定した結果、岩塊Aの音の最大強度は16000程度であり、岩塊BおよびCの音の最大強度は2500程度であった。その結果、岩塊Aは、岩塊B及び岩塊Cに比べて不安定と評価された。この評価は、専門技術者がハンマーによる打音検査で判断した結果と一致した。
【0035】
本発明によれば、誰が実施しても同じ結果を得ることができ、定量的な指標(音の電気信号の強度)により複数の岩塊の不安定性の相対的順位付けを行うことができる。また、ピンマイクロフォンを用いているため測定機器は安価である。さらに、不安定性評価装置全体は1人で運べるサイズであり、測定は2人で実施することができる。試験機器の設置といった準備作業は不要で、作業者が近づける斜面であれば、どこででも迅速に測定可能である。
【0036】
この測定による岩塊の不安定性評価の結果、岩盤斜面上の岩塊に防護ネットを設置した方が良いか否か、また、その他の防護手段を施した方が良いかを迅速的確に判断することができる。特に、日本は山国であり、岩盤斜面上の岩塊が膨大な数に上るだけに本発明の効果は著大である。
【0037】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法およびその装置は、岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価を測定者の経験にかかわらず迅速的確に行うツールとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例を示す岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置の模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置の現地での測定状況を示す図面代用の写真である。
【図3】本発明の実施例を示す岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価フローチャートである。
【図4】本発明による不安定性評価のために対象として設定した複数の岩塊を示す図面代用の写真である。
【図5】本発明による不安定性評価のために対象として設定した複数の岩塊の打撃箇所とその卓越周波数(kHz)及び音の最大強度(×103 )を示す図である。
【図6】本発明による不安定性評価のために対象として設定した複数の岩塊を打撃した時の卓越周波数(kHz)と音の最大強度(×103 )の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊
2 複数の岩塊のうちの一つの岩塊
3 打撃装置
4 フード付きマイクロフォン
5 打撃音解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊を対象として設定し、
(b)打撃装置を用いて前記複数の岩塊のうちの一つの岩塊を一定強度で打撃し、該岩塊を振動させ、
(c)該岩塊の表面に圧着させたフード付きマイクロフォンで、前記岩塊の振動によって発生する音を取得し、
(d)打撃音解析装置によって前記音の電気信号の強度を解析し、
(e)前記(b)〜(d)の測定を十分な回数行い、
(f)前記複数の岩塊の全ての岩塊に対して前記(b)〜(e)の測定を行い、
(g)前記複数の岩塊の岩塊毎の音の電気信号の強度から、前記複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行うことを特徴とする岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法において、前記音の電気信号の強度が大きいほど不安定性が大きいと判定することを特徴とする岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価方法。
【請求項3】
同じ地質条件の岩盤斜面上に存在し、かつ同程度のサイズである複数の岩塊を対象として、複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行う岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置であって、
(a)一定強度で岩塊を打撃する打撃装置と、
(b)前記打撃された岩塊から発生される音を取得し、該取得された音を電気信号に変換するフード付きマイクロフォンと、
(c)該フード付きマイクロフォンから送られる前記音の電気信号を収録し、その音の電気信号の強度を出力する打撃音解析装置と、
(d)前記複数の岩塊の岩塊毎の音の電気信号の強度から、前記複数の岩塊での相対的な不安定性の順位付けを定量的に行う手段とを具備することを特徴とする岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置。
【請求項4】
請求項3記載の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置において、前記マイクロフォンがピンマイクロフォンであることを特徴とする岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置。
【請求項5】
請求項3記載の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置において、前記音の電気信号の強度が大きいほど不安定性が大きいと判定する手段を具備することを特徴とする岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置。
【請求項6】
請求項3記載の岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置において、前記打撃装置と前記フード付きマイクロフォンと前記打撃音解析装置とからなる不安定性評価装置は可搬型であることを特徴とする岩盤斜面上の岩塊の不安定性評価装置。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−287923(P2009−287923A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137384(P2008−137384)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】