説明

嵩上げ材及びそれを備えるワイヤハーネス組付体

【課題】簡易な構成により、溝部に配索されるワイヤハーネスの長さのばらつきを吸収可能な嵩上げ材及びそれを備えるワイヤハーネス組付体を提供する。
【解決手段】本嵩上げ材2は、車両のフロアパネル10上に配設される嵩上げ材であって、略板状の可撓部材4を備え、可撓部材には、その厚さ方向に陥入するように形成され、且つワイヤハーネス3を配索するための溝部5が形成されているとともに、その変形を吸収するための変形吸収部6が形成されており、変形吸収部が、長さのばらついたワイヤハーネスを溝部に嵌め込んだときに生ずる可撓部材の歪みによる変形を抑制することを特徴とする。ワイヤハーネス組立体1は、この嵩上げ材と、前記溝部に組付けられたワイヤハーネスと、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロアパネルに配設される嵩上げ材及びそれを備えるワイヤハーネス組付体に関する。更に詳しくは、簡易な構成により、溝部に配索されるワイヤハーネスの長さのばらつきを吸収可能な嵩上げ材及びそれを備えるワイヤハーネス組付体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のフロアパネル上に配設される嵩上げ材が知られている。この嵩上げ材は、発泡ポリウレタン等の樹脂発泡体のチップやシュレッダーダスト等を樹脂繊維からなるバインダにより一体に固着させたもの等が一般的であり、可撓性及び防音性を備えているものである。また、車両のフロアパネルは、通常、補強部材等の多くの部材が配設された複雑な形状である。このようなフロアパネルの形状に追随させた嵩上げ材を配設することにより、車室内の床面を平坦にするとともに十分なクッション性等をもたせるようにしている。
また、上述のような嵩上げ材等の内装材に形成した溝に、ワイヤハーネスを配索する構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構造では、内装材に形成した溝にワイヤハーネスを受容するとともに、溝の開口の少なくとも一部を閉塞する閉塞手段を設けることにより、当該溝内にワイヤハーネスを保持するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−148639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、量産されるワイヤハーネスは、その長さにばらつきが生じている。そして、ワイヤハーネスを嵩上げ材に形成した溝に組付ける構造の場合、車両組付上の誤差をなくすために、通常、溝部より外側の長さが一定となるように嵩上げ材に対して位置決めするようにしており、長さの誤差を溝内で調整する必要がある。しかしながら、ワイヤハーネスの長さが溝の長さよりも長い場合、ワイヤハーネスが溝内に収まりきらず、溝の開口側にワイヤハーネスが突出してしまうといった問題があった。この場合、上記特許文献1のように閉塞部材を用いて閉塞する構造であっても、溝内にワイヤハーネスを受容することは困難である。また、ワイヤハーネスが嵩上げ材から突出していると、嵩上げ材の上側に配設されるフロアカーペットが隆起した状態となってしまい、床面の平坦性を確保できず快適性を損なってしまうといった問題があった。更に、隆起した箇所が乗員に踏まれることにより、ワイヤハーネス自体が損傷してしまうといった問題があった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成により、溝部に配索されるワイヤハーネスの長さのばらつきを吸収可能な嵩上げ材及びそれを備えるワイヤハーネス組付体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、車両のフロアパネル上に配設される嵩上げ材であって、略板状の可撓部材を備え、前記可撓部材には、その厚さ方向に陥入するように形成され、且つワイヤハーネスを配索するための溝部が形成されているとともに、前記可撓部材には、その変形を吸収するための変形吸収部が形成されており、前記変形吸収部は、長さのばらついたワイヤハーネスを前記溝部に嵌め込んだときに生ずる前記可撓部材の歪みによる変形を抑制することを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記変形吸収部が、前記溝部に沿って形成され、且つ前記可撓部材の厚さ方向に陥入するように形成された溝であることを要旨とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記変形吸収部には、平面形状が湾曲状の湾曲吸収部が形成されていることを要旨とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3において、前記変形吸収部が、前記可撓部材の両面に形成されていることを要旨とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4において、前記溝部の長さ方向の中央で、前記溝部と交差する方向で切断した際の前記可撓部材の断面において、少なくとも前記溝部からn番目に近い位置の第1変形吸収部と、前記第1変形吸収部の隣に位置して前記溝部からn+1番目に近い位置の第2変形吸収部とが、前記可撓部材の互いに異なる面にそれぞれ形成されていることを要旨とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項において、前記溝部には、平面形状が湾曲状の湾曲溝部が形成されており、前記湾曲溝部に並ぶように前記変形吸収部が形成されていることを要旨とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項において、前記溝部に交差するように交差溝部が形成されていることを要旨とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、ワイヤハーネス組立体であって、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の嵩上げ材と、前記溝部に配索されたワイヤハーネスと、を備えることを特徴とする
【発明の効果】
【0014】
本発明の嵩上げ材及びそれを備えるワイヤハーネス組立体によると、嵩上げ材が略板状の可撓部材を備えており、この可撓部材に、ワイヤハーネスを配索するための溝部と、変形を吸収するための変形吸収部とが形成されている。そして、変形吸収部により、長さのばらついたワイヤハーネスを溝部に嵌め込んだ際に、可撓部材に生じる歪みによる変形が抑制される。これにより、溝部に収容される部分のワイヤハーネスの長さが溝部の長さより長い場合であっても、ワイヤハーネスの余長分が溝部から突出することなく、溝部内に容易に収容することができる。また、ワイヤハーネスを溝部に挿入するのみで、ワイヤハーネスの長さのばらつきによる可撓部材の変形を吸収することができ、嵩上げ材の形状を保持することができる。
【0015】
また、前記変形吸収部が、前記溝部に沿って形成され、且つ前記可撓部材の厚さ方向に陥入するように形成された溝である場合には、簡易な構成により、可撓部材の変形を吸収できる嵩上げ材とすることができる。
【0016】
更に、前記変形吸収部に、平面形状が湾曲状の湾曲吸収部が形成されている場合は、変形吸収部に予め湾曲した部分を形成することにより、可撓部材の変形をより容易に吸収できる嵩上げ材とすることができる。
【0017】
また、前記変形吸収部が、前記可撓部材の両面に形成されている場合には、可撓部材の両面側がバランスよく変形し、容易に嵩上げ材の略板状の形状を保持することができる。
【0018】
更に、前記溝部の長さ方向の中央で、前記溝部と交差する方向で切断した際の前記可撓部材の断面において、少なくとも前記溝部からn番目に近い位置の第1変形吸収部と、前記第1変形吸収部の隣に位置して前記溝部からn+1番目に近い位置の第2変形吸収部とが、前記可撓部材の互いに異なる面にそれぞれ形成されている場合には、可撓部材の両面側がバランスよく変形し、より容易に嵩上げ材の略板状の形状を保持することができる。
【0019】
また、前記溝部には、平面形状が湾曲状の湾曲溝部が形成されており、前記湾曲溝部に並ぶように前記変形吸収部が形成されている場合には、ワイヤハーネスの長さが溝部の長さに対して短い場合であっても、湾曲溝部が直線状に変形することにより、ワイヤハーネスを溝部に嵌め込むことができる。
【0020】
更に、前記溝部に交差するように交差溝部が形成されている場合には、ワイヤハーネスを溝部に嵌め込んだ際に、可撓部材がより容易に変形可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【図1】本実施例に係るワイヤハーネス組立体がフロアパネル上に配設された状態を模式的に示す図である。
【図2】本実施例に係るワイヤハーネス組立体を示す斜視図である。
【図3】本実施例に係る嵩上げ材を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のI−I切断線断面図である。
【図4】本実施例に係る嵩上げ材の拡大断面図である。
【図5】ワイヤハーネスと嵩上げ材との組立てを説明するための図である。
【図6】本実施例に係るワイヤハーネス組立体を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のII−II切断線断面図である。
【図7】他の実施形態に係る嵩上げ材を示す平面図である。
【図8】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す平面図である。
【図9】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す平面図である。
【図10】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す平面図である。
【図11】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す平面図である。
【図12】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のIII−III断面図である。
【図13】嵩上げ部材の変形を説明するための要部拡大平面図である。
【図14】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のIV−IV断面図である。
【図15】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のV−V断面図である。
【図16】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す断面図である。
【図17】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す断面図である。
【図18】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す断面図である。
【図19】更に他の実施形態に係る嵩上げ材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0023】
本実施形態に係るワイヤハーネス組立体は、以下に述べる嵩上げ材と、後述するワイヤハーネスとを備えている。尚、量産されるワイヤハーネスは、通常、個々の長さにばらつきがあり、このようなワイヤハーネスを嵩上げ材に組付ける際には、車両組付時の誤差をなくすために、ワイヤハーネスの嵩上げ材に組付けられる部分以外の部分の長さが所定の長さとなるように組付けられる。即ち、ワイヤハーネスの長さのばらつきは、ワイヤハーネスが組付けられる嵩上げ材で吸収される。
【0024】
上記「嵩上げ材」は、車両のフロアパネル上に配設される嵩上げ材であって、以下に述べる可撓部材を備えている。
【0025】
上記「可撓部材」は、略板状である限り、その大きさ、平面形状等は特に限定されない。この可撓部材としては、例えば、樹脂発泡体のモールド成形体や、樹脂発泡体のチップをバインダにより熱融着させてなる成形体、防音材として用いられる不織布等が挙げられる。上記樹脂発泡体の材質としては、例えば、ポリウレタン(PU)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)等のポレオレフィン、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PCV)、アクリル樹脂(PMMA等)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)等の樹脂を挙げることができる。また、上記成形体の場合、樹脂発泡体のチップとしては、未使用の樹脂を用いて製造するようにしてもよいが、車両のシュレッダーダストから金属、ガラス、ワイヤハーネス等のダストを除いたものを用いてもよい。特に、廃材を用いる場合、車両のシュレッダーダストから発泡ポリウレタン等の樹脂発泡体、及び各種繊維等を選別した良質のダストを用いることが好ましい。この良質のダストとしては、発泡ポリウレタン等の樹脂発泡体のチップが50質量%以上(ダストの全量を100質量%とする。)含有され、残部の多く(残部の90質量%以上)が車両シートの表皮等として用いられていた織物などの繊維片であるダストが挙げられる。更に、品質の調整等、必要に応じて、未使用の樹脂、ゴム等のチップを混合して用いることもできる。
【0026】
上記可撓部材には、その厚さ方向に陥入するように形成され、且つワイヤハーネスを配索するための溝部が形成されているとともに、その変形を吸収するための変形吸収部が形成されている。そして、上記変形吸収部により、長さのばらついたワイヤハーネスを上記溝部に嵌め込んだときに生ずる上記可撓部材の歪みによる変形が抑制されるようになっている。即ち、溝部の長さとワイヤハーネスの溝部に配索される部分の長さとが異なる場合、ワイヤハーネスを溝部に嵌め込んだ際に、溝部における可撓部材が変形することによりワイヤハーネスが収容され、その変形を変形吸収部が吸収することにより可撓部材の略板状の形状が保たれるようになっている。
【0027】
上記「溝部」は、上記可撓部材の厚さ方向に陥入するように形成され、且つワイヤハーネスを配索するためのものである限り、その形状、大きさ等は特に限定されない。この溝部の平面形状としては、例えば、直線状(例えば、図2,3等参照)、湾曲状、直線状の溝部と湾曲状の溝部とを組み合わせた形状(例えば、図11等参照)等を挙げることができる。また、この溝部の断面形状としては、例えば、ワイヤハーネスが収容される部分の幅よりも狭い幅の開口が形成された鍵穴形状(例えば、図4等参照)、略U字形状、略V字形状等を挙げることができる。ワイヤハーネスの溝部内での保持といった観点から、この溝部の断面形状は鍵穴形状であることが好ましい。溝部の断面形状が鍵穴形状である場合、ワイヤハーネスが収容される部分の幅W1と開口の幅W2との比W2/W1は、例えば、1.1〜4であることができ、好ましくは2.25〜4、より好ましくは4であることができる。
【0028】
上記「変形吸収部」は、上記可撓部材の変形を吸収する限り、その形状、大きさ、数量、変形吸収形態等は特に限定されない。この変形吸収部は、例えば、上記溝部に沿って形成され、且つ前記可撓部材の厚さ方向に陥入するように形成された溝であったり、上記可撓部材の一部を部分的に密度を小さくしたその部分であったりすることができる。上記変形吸収部が溝である場合、この溝の長さ、形状、数量等は特に限定されない。上記変形吸収部が溝である場合、この溝の平面形状としては、例えば、直線状(例えば、図2、3等参照)、湾曲状(例えば、図7,8等参照)、直線状の部分と湾曲状の部分とを組み合わせた形状等を挙げることができ、断面形状としては、例えば、略V字形状(例えば、図3(B)、図4等参照)、略U字形状等を挙げることができる。また、この溝の端部の平面形状としては、例えば、略円弧形状(例えば、図3、19等参照)、多角形状等を挙げることができる。
【0029】
上記「平面形状が湾曲状」とは、溝部に沿って形成されている溝状の変形吸収部において、上記溝部側が開となるように湾曲した平面形状(例えば、図7,8等参照)や、上記溝部の反対側が開となるように湾曲した平面形状であることをいうものとする。また、特に、溝状の変形吸収部において、平面形状が湾曲状であるものを湾曲吸収部と呼ぶものとする。
【0030】
上記変形吸収部は、例えば、上記可撓部材の両面に形成されていることができる(例えば、図2、図3(A)、(B)等参照)。この場合、特に、上記溝部の長さ方向の中央で、上記溝部と交差する方向で切断した際の上記可撓部材の断面において、少なくとも上記溝部からn番目に近い位置の第1変形吸収部と、第1変形吸収部の隣に位置して上記溝部からn+1番目に近い位置の第2変形吸収部とが、上記可撓部材の互いに異なる面にそれぞれ形成されていることができる(例えば、図2、図3(A)、(B)等参照)。
【0031】
本実施形態における嵩上げ材では、例えば、溝部における可撓部材の変形をより容易とするための変形補助部を設けるようにしてもよい。この変形補助部としては、例えば、(1)溝部に交差するように形成された交差溝部(例えば、図12(A)、(B)、図13等参照)、(2)溝部の底部側に形成され、且つ上記可撓部材の厚さ方向に陥入する変形補助溝(例えば、図14等参照)(3)溝部の底部側に形成され、且つ上記可撓部材の厚さ方向に貫通する貫通孔(例えば、図15等参照)等を挙げることができる。
【0032】
上記「交差溝部」は、上記溝部に交差する限り、その形状、大きさ、数量等は特に限定されない。上記交差溝部の上記溝部との交差形態としては、例えば、直交する形態(例えば、図12(A)等参照)であってもよいし、所定の角度で交差する形態であってもよい。また、交差溝部の長さは特に限定されないが、例えば、上記溝部の幅W1と同じ長さ(例えば、図12(A)等参照)であってもよいし、W1よりも長くても短くてもよい。更に、この交差溝部は、例えば、上記溝部の開口側のみに形成されていてもよいし(例えば、図12(B)等参照)、溝部の底部側まで延びて形成されていてもよい。
上記「変形補助溝」は、溝部の底部側に形成され、且つ上記可撓部材の厚さ方向に陥入する限り、その形状、大きさ、数量等は特に限定されない。この変形補助溝の平面形状としては、例えば、円形状、長円形状(例えば、図14(A)等参照)、多角形状、矩形状等を挙げることができる。
上記「貫通孔」は、上記溝部の底部に形成され、且つ上記可撓部材の厚さ方向に貫通する限り、その形状、大きさ、数量等は特に限定されない。この貫通孔の平面形状としては、例えば、円形状、長円形状(例えば、図15(A)等参照)、多角形状、矩形状等を挙げることができる。
【0033】
上記「ワイヤハーネス」は、上記溝部に配索される限り、その長さ、材質等は特に限定されない。
【実施例】
【0034】
以下、図面を用いて、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0035】
(1)ワイヤハーネス組立体の構成
本実施例に係るワイヤハーネス組立体1は、嵩上げ材2とワイヤハーネス3とを備えるものである。嵩上げ材2は、図1に示すように、車両のフロアパネル10上に配設される。フロアパネル10には、補強部材10A,10Bや、プロペラシャフト、マフラー等を通すため等のトンネル10C、更に、図示しない部材等がその上方に突出するように設けられている。嵩上げ材2は、このようなフロアパネル10上に配設することにより、車室内の床面を平坦にするとともにクッション性を持たせるようにするものである。
【0036】
嵩上げ材2は、図2及び図3(A)、(B)に示すように、略板状の可撓部材4を備えている。可撓部材4は、発泡ポリウレタンのモールド成形体である。この可撓部材4には、溝部5と変形吸収部6とが形成されている。
【0037】
溝部5は、図3(B)に示すように、平面形状が直線状で、可撓部材4の厚さ方向に陥入するように形成されている。そして、この溝部5にワイヤハーネス3が配索される。図4に示すように、溝部5は、ワイヤハーネス3が収容される部分であって、断面形状が略円形状の収容部5Aと、ワイヤハーネス3を挿入するための開口5Bとからなる。開口5Bの幅W2は、収容部5Aの直径に相当する幅W1と比較して狭くなっており、これらの比W2/W1が約0.25となるように設定されている。尚、収容部5Aの幅W1は、配索されるワイヤハーネス3の直径の約1.1倍に設定されている。
【0038】
変形吸収部6は、図2及び図3(A)、(B)に示すように、溝部5に沿って形成された溝であり、可撓部材4の厚さ方向に陥入するように、溝部5の幅方向の両側に複数(図2中、片側3箇所合計6箇所)形成されている。変形吸収部6は平面形状が直線状で、その端部の平面形状は略半円弧形状である。また、変形吸収部6は、図3(B)に示すように、その断面形状が略V字形状である。これらの変形吸収部6は、同じ長さ、同じ断面形状で形成されている。
【0039】
また、図2及び図3(A)、(B)に示すように、変形吸収部6は、溝部5の長さ方向の中心を対称軸として、溝部5の両側に対称に形成されているとともに、可撓部材4の両面に形成されている。即ち、変形吸収部6は、溝部5から1番目に近い位置であって、溝部5が形成されている面の反対側の面に変形吸収部6A、溝部5から2番目に近い位置であって、溝部5が形成されている面に変形吸収部6B、溝部5から3番目に近い位置であって、溝部5が形成されている面の反対側の面に変形吸収部6C、というように、可撓部材4の互いに異なる面に交互に形成されている。
図4に示すように、変形吸収部6の溝の深さhと開口の幅wとの比h/wは約0.87に設定されている。尚、変形吸収部6の溝の深さhと可撓部材4の厚さtとの関係はh≦t−(5〜10mm)となるように設定されている。
【0040】
(2)ワイヤハーネス組立体の作用
次に、上記構成のワイヤハーネス組立体1の作用について説明する。
図5に示すように、ワイヤハーネス3を嵩上げ材2の溝部5の開口5Bから嵌め込んで収容部5Aに収容し、ワイヤハーネス組立体1を組み立てる。尚、上述のように、量産されるワイヤハーネスは、通常、個々の長さにばらつきがある。このようなワイヤハーネスを嵩上げ材に組付ける際には、車両組付時の誤差をなくすために、図6(A)に示すように、ワイヤハーネス3の嵩上げ材2に組付けられる部分以外の部分の長さL1及びL2がそれぞれ所定の長さとなるように、ワイヤハーネス3を嵩上げ材2に対して位置決めして組付けられる。
ここで、ワイヤハーネス3の溝部5に収容される部分の長さL2が溝部5の長さL1よりも長い場合、図6(A)及び(B)に示すように、可撓部材4が歪んで変形(図6(A)では、左方向へ湾曲するように変形)することによりその余長分を吸収し、ワイヤハーネス3が溝部5内に収容される。この溝部5における可撓部材4の変形は変形吸収部6により吸収される。即ち、溝部5における可撓部材4の変形に倣って変形吸収部6における可撓部材4が変形することにより歪みが吸収され、嵩上げ材2の略板状の形状が保持される。
【0041】
(3)実施例の効果
以上より、本実施例のワイヤハーネス組立体1によると、嵩上げ材2が略板状の可撓部材4を備えており、この可撓部材4に、ワイヤハーネス3を配索するための溝部5と、変形を吸収するための変形吸収部6とが形成されている。そして、変形吸収部6により、長さのばらついたワイヤハーネスを溝部5に嵌め込んだときに生ずる可撓部材4の歪みによる変形が抑制される。これにより、ワイヤハーネス3の余長分が溝部5から突出することなく、溝部5内に収容することができる。また、ワイヤハーネス3を溝部5に挿入するのみで、ワイヤハーネスの長さのばらつきによる可撓部材4の変形を吸収することができ、嵩上げ材2の形状を保持することができる。
【0042】
また、変形吸収部6が、溝部5に沿って形成され、且つ可撓部材4の厚さ方向に陥入するように形成された溝であるので、簡易な構成により可撓部材4の変形を吸収できる嵩上げ材2とすることができる。
【0043】
更に、変形吸収部6が、可撓部材4の両面に形成されており、溝部5の長さ方向の中央で、溝部5と交差する方向で切断した際の可撓部材4の断面において、溝部5から1番目に近い位置の変形吸収部6Aと、変形吸収部6Aの隣に位置して溝部5から2番目に近い位置の変形吸収部6Bとが、可撓部材4の互いに異なる面にそれぞれ形成されているので、可撓部材4の両面側がバランスよく変形し、より容易に嵩上げ材2の略板状の形状を保持することができる。
【0044】
尚、本発明においては、上記の具体的な実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、上記実施例では、複数形成した変形吸収部6A〜6Cをすべて同じ長さとしたが、これに限定されず、例えば、複数の変形吸収部がそれぞれ異なる長さで形成されていてもよい。即ち、例えば、複数の変形吸収部について、溝部から遠ざかるに従って、それらの長さが短くなるように、又は長くなるように形成するようにしてもよい。
【0045】
また、上記実施例では、平面形状が直線状の変形吸収部6を形成するようにしたが、これに限定されず、例えば、図7及び8に示すように、変形吸収部として、平面形状が湾曲状の湾曲吸収部16を形成するようにしてもよい。この場合、図7及び8に示すように、複数設けた湾曲吸収部16の各円弧長がそれぞれ異なる長さとなるように形成することもできる。更に、図7及び8に示す湾曲吸収部16の溝部5に対する湾曲方向とは反対方向に湾曲した湾曲吸収部としてもよい。
【0046】
更に、上記実施例では、溝部5の両側に、溝部5に対して対称となるように変形吸収部6を設けるようにしたが、これに限定されず、例えば、図9に示すように、溝部5の片側のみに変形吸収部6を形成したり、図10に示すように、溝部5の両側に、溝部5の長さ方向にずらして変形吸収部6を形成したりするようにしてもよい。
【0047】
また、上記実施例では、平面形状が直線状の溝部5を形成するようにしたが、これに限定されず、例えば、図11に示すように、平面形状が湾曲状の湾曲溝部15Aが形成された溝部15とし、この湾曲溝部15Aに並ぶように変形吸収部6を形成するようにしてもよい。これにより、ワイヤハーネス3の長さが溝部15の長さに対して短い場合であっても、湾曲溝部15Aが直線状に変形することにより、ワイヤハーネス3を溝部15に嵌め込むことができる。
【0048】
更に、上記実施例では、溝部5及び変形吸収部6のみを形成するようにしたが、これに限定されず、例えば、図12(A)及び(B)に示すように、変形補助部として、溝部5に交差する交差溝部7を形成するようにしてもよい。このような交差溝部を形成することにより、図13に示すように、ワイヤハーネスを溝部に嵌め込んだ際に、可撓部材がより容易に変形可能となる。また、図14に示すように、変形補助部として、溝部5の底部側に形成され、且つ可撓部材4の厚さ方向に陥入する変形補助溝8を形成するようにしてもよい。更に、図15に示すように、変形補助部として、溝部5の底部側に形成され、且つ可撓部材4の厚さ方向に貫通する貫通孔9を形成するようにしてもよい。
【0049】
また、上記実施例では、変形吸収部6を、溝部5から1番目に近い位置であって、溝部5が形成されている面の反対側の面に変形吸収部6A、溝部5から2番目に近い位置であって、溝部5が形成されている面に変形吸収部6B、というように形成するようにしたが、これに限定されず、例えば、図16に示すように、溝部5から1番目に近い位置であって、溝部5が形成されている面に変形吸収部6A、溝部5から2番目に近い位置であって、溝部5が形成されている面の反対側の面に変形吸収部6B、溝部5から3番目に近い位置であって、溝部5が形成されている面に変形吸収部6C、というように形成するようにしてもよい。
【0050】
更に、上記実施例では、溝部5の片側にそれぞれ3箇所、合計6箇所の変形吸収部6を形成するようにしたが、これに限定されず、例えば、図17に示すように、溝部5の片側にそれぞれ2箇所の変形吸収部6を形成するようにしてもよい。また、溝部の片側に4箇所以上の変形吸収部を形成するようにしてもよいし、1箇所のみの変形吸収部としてもよい。
【0051】
また、上記実施例では、変形吸収部の端部の平面形状を略半円弧形状としたが、これに限定されず、例えば、図19に示すように、半円よりも長い円弧形状としてもよいし、また、多角形状等としてもよい。
【0052】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0053】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1;ワイヤハーネス組立体、2;嵩上げ材、3;ワイヤハーネス、4;可撓部材、5,15;溝部、5A;収容部、5B;開口、6,6A,6B,6C;変形吸収部、7;交差溝部、8;変形補助溝、9;貫通孔、10;フロアパネル、10A,10B;補強部材、10C;トンネル、15A;湾曲溝部、16;湾曲吸収部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロアパネル上に配設される嵩上げ材であって、
略板状の可撓部材を備え、
前記可撓部材には、その厚さ方向に陥入するように形成され、且つワイヤハーネスを配索するための溝部が形成されているとともに、
前記可撓部材には、その変形を吸収するための変形吸収部が形成されており、
前記変形吸収部は、長さのばらついたワイヤハーネスを前記溝部に嵌め込んだときに生ずる前記可撓部材の歪みによる変形を抑制することを特徴とする嵩上げ材。
【請求項2】
前記変形吸収部は、前記溝部に沿って形成され、且つ前記可撓部材の厚さ方向に陥入するように形成された溝である請求項1記載の嵩上げ材。
【請求項3】
前記変形吸収部には、平面形状が湾曲状の湾曲吸収部が形成されている請求項2記載の嵩上げ材。
【請求項4】
前記変形吸収部は、前記可撓部材の両面に形成されている請求項2又は3記載の嵩上げ材。
【請求項5】
前記溝部の長さ方向の中央で、前記溝部と交差する方向で切断した際の前記可撓部材の断面において、
少なくとも前記溝部からn番目に近い位置の第1変形吸収部と、前記第1変形吸収部の隣に位置して前記溝部からn+1番目に近い位置の第2変形吸収部とが、前記可撓部材の互いに異なる面にそれぞれ形成されている請求項4記載の嵩上げ材。
【請求項6】
前記溝部には、平面形状が湾曲状の湾曲溝部が形成されており、
前記湾曲溝部に並ぶように前記変形吸収部が形成されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載の嵩上げ材。
【請求項7】
前記溝部に交差するように交差溝部が形成されている請求項1乃至6のいずれか一項に記載の嵩上げ材。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の嵩上げ材と、
前記溝部に配索されたワイヤハーネスと、を備えることを特徴とするワイヤハーネス組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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