説明

嵩高紙

【課題】特に嵩があり、印刷濃度、表面強度、サイズ性に優れた印刷用紙に使用できる嵩高紙を提供することである。
【解決手段】無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して5〜24質量%含有する嵩高紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ繊維を利用した嵩高紙に関するものであり、さらに詳しくは、特に嵩があり、印刷濃度、表面強度、サイズ性に優れた印刷用紙に使用できる嵩高紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、紙は省資源、物流の面から軽量化の傾向にある。また、環境保全・循環型社会構築への取り組みから脱墨パルプの利用が積極的に行われている。しかし、脱墨パルプの比率を高めると紙は薄くなり、白色度、不透明度が低下することから、裏抜けが悪くなるという問題が生じる。これらのことから、紙を嵩高にすることは避けて通れない問題である。
【0003】
紙の主原料には製紙用パルプが用いられている。一般的に製紙用パルプには木材パルプが使用されている。その中でも、化学処理によって非セルロース成分を多量に除去した化学パルプが用いられることが多い。化学パルプの場合、繊維が剛直なために、未叩解で抄紙を行うと繊維間接触面積が小さくなり、嵩高な紙が形成される。そのため、一般的に嵩高効果を得るには軽叩解パルプが使用される。しかし、嵩の増加に伴い、表面強度の低下といった問題が生じる。
【0004】
また、機械的な処理だけを行って製造される機械パルプは、化学パルプより繊維が剛直なため、嵩高効果を得るには有利である。しかし、機械パルプは紙の黄色化の原因となるリグニンを多く含んでおり、紙の退色は避けられない。そのため、上質紙や保存性が要求される用途には用いることができない。
【0005】
非木材パルプも剛直なパルプ原料の一つである。そのため、非木材パルプを配合することも嵩高効果を得る手段の一つである。しかし、非木材パルプは得られる時期や原産地が限られているため、安定供給するのが難しく、大量生産を行うことは難しい。
【0006】
機械的な面における嵩高効果は、抄造時におけるプレス線圧の軽減や、カレンダー処理をソフトにするなどの手段によって得ることができる。しかしながら、機械的な処理だけでは限界があり、満足のいく嵩高効果が得られていないのが現状である。また、プレスやカレンダーでの調整は、その抄紙機ごとに存在する適切な抄紙条件を大きく逸脱することは出来ず、どのような抄紙機にも適応できる手法ではない。
【0007】
さらに近年では、嵩高剤の添加によって紙の嵩を出す手段も行われている。嵩高剤には、親水基と疎水基を持つ化合物である界面活性剤がよく用いられる。しかし、嵩高剤のみによる嵩高効果は小さく、満足のいく水準には達していない。また、嵩高剤は繊維間の水素結合を阻害することで嵩高効果を生み出すため、紙力の低下が著しい。
【0008】
そこで、紙力を低下させず抄紙機に依存しない低密度紙の製造方法として、嵩高い填料を使用することが挙げられる。珪藻土・シリカ粉末・シラスバルーンといった嵩高い填料が用いられて来たが、粒径が大きい填料はその大きさが故に、紙表面に填料が飛び出す形となり、粉落ちしやすいという欠点を解消しきれず、このことは特に印刷用紙に用いるにあたり重大な欠点となる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭52−74001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、特に嵩があり、印刷濃度、表面強度、サイズ性に優れた印刷用紙に使用できる嵩高紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して5〜24質量%含有する嵩高紙によって達成される。
【0011】
本発明における無機顔料は、炭酸カルシウムが好ましい。
【0012】
また、本発明における有機粒子は、アクリルまたはポリウレタン樹脂が好ましい。特にポリウレタン樹脂が好ましい。
【0013】
更に、本発明の嵩高紙の密度は0.5〜0.7g/cm3であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、特に嵩があり、印刷濃度、表面強度、サイズ性に優れた印刷用紙に使用できる嵩高紙を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の嵩高紙について、詳細に説明する。
本発明の嵩高紙は少なくとも無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子を含有させる。本発明に係る無機顔料としては、クレー、焼成クレー、珪藻土、タルク、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタンなどが挙げられる。これらの内、炭酸カルシウムは他の填料に比べて、安価である点、自製可能な点、吸油性、嵩高化に有効である点から好ましく使用される。炭酸カルシウムには、重質炭酸カルシウムと軽質炭酸カルシウムがあるが、抄紙時のワイヤー摩耗を低くする点、及び得られる紙の不透明度が高まる観点から、重質炭酸カルシウムよりは軽質炭酸カルシウムの方がより好ましい。
【0016】
また本発明に係る有機粒子としては、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの内、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂の有機粒子は粒径を広い領域で調整することができ、また粒子分布の再現性が非常に高く、印刷品質を落とすことなく嵩を上げるのに有効であるため、好ましく用いられるが、分けてもポリウレタン樹脂の有機粒子は好適である。
【0017】
本発明において有機粒子は平均粒子径10〜30μmのものを用いる。より好ましいのは12〜25μmである。10μm未満では、嵩に効果的でない。また、30μmを越えると紙の表面強度が低下し、好ましくない。したがって、有機粒子としては平均粒子径10〜30μmのものを用いるが、本発明において嵩及び表面強度を阻害しない範囲において平均粒子径10μm未満の有機粒子や平均粒子径30μmを超える有機粒子を平均粒子径10〜30μmの有機粒子と併用しても良い。
【0018】
本発明は、無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子とは、全パルプ繊維に対して5〜24質量%含有させる。無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子の両者の含有量が5質量%未満では嵩高の効果が小さいため好ましくない。また、配合量が24質量%を超えて多い場合、表面強度の低下が顕著となるため好ましくない。したがって、両者の合計が全パルプ繊維に対して5〜24質量%含有させた場合に印刷濃度、表面強度、サイズ性に優れた嵩高紙が得られる。
【0019】
本発明において、無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子の比率としては、1:5〜5:1であることが好ましい。無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子の比率がこの領域から外れ、無機顔料の比率が多くなると、嵩が効果的に得られにくくなって好ましくない。逆に、平均粒子径10〜30μmの有機粒子の比率が多くなると、オフセット印刷時の表面強度が低下するため好ましくない。無機顔料と有機粒子の配合比率としては、1:3〜3:1が特に好ましい。
【0020】
本発明の嵩高紙における原料パルプとしては、化学パルプ、機械パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプなどを単独もしくは任意の割合で混合して使用することができる。抄紙機は特に限定されず、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、多層抄紙機、ヤンキー抄紙機などを使用することができる。抄紙時のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよい。
【0021】
さらに、本発明の嵩高紙は必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、澱粉、歩留まり向上剤、着色剤、染料、填料、紙力増強剤、消泡剤、低密度化剤などを含有させてもよい。また、各種のサイズプレスやコーターなどの装置で紙の表面に澱粉、ラテックス、表面サイズ剤、顔料、染料などを塗布することも可能である。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。なお、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り、質量部および質量%を示す。
【0023】
実施例1
カナダ標準濾水度470mlの広葉樹晒クラフトパルプ(以下、LBKPと記す)を90部、カナダ標準濾水度480mlの針葉樹晒クラフトパルプ(以下、NBKPと記す)を10部、これに硫酸バンド0.4部、カチオン澱粉0.9部、内添サイズ剤0.13部、嵩高剤0.7部、歩留まり剤0.03部を添加し、さらに填料として無機顔料である炭酸カルシウム(TP−121、奥多摩工業(株)製)及び有機粒子であるポリウレタン樹脂粒子(ウレタンビーズ C−200透明、根上工業(株)製)をそれぞれ紙中含有量が18部及び6部になるように添加した紙料を長網抄紙機にて坪量72g/m2となるように抄紙し、実施例1の嵩高紙を作製した。
【0024】
実施例2〜9、比較例1〜10
実施例1で用いた無機顔料または有機粒子に換えて、それぞれ表1記載の無機顔料または有機/無機顔料を、それぞれの紙中含有量が表1記載の量になるように抄紙した以外は実施例1と同様にして実施例2〜9、比較例1〜10の嵩高紙を作製した。ただし、表1中の無機顔料であるタルクはタルクNTH、日本タルク(株)製、有機粒子であるウレタンビーズ C−400透明、ウレタンビーズ C−800透明、アクリルビーズ GR−400透明、架橋PMMA ST−60はすべて根上工業(株)製である。また、無機粒子である珪藻土(ラジオライトスペシャルフロー)及び珪藻土(ラジオライト #2000)は昭和化学工業(株)製である。それぞれの平均粒子径と併せて表1に記載する。
【0025】
上記実施例1〜9及び比較例1〜10によって作製した嵩高紙について、下記の評価方法により測定し、評価を行った。結果は表1に示した。
【0026】
評価方法:
<密度>
密度は、JIS P 8118に準拠して測定した。紙の密度は0.5〜0.7g/cm3が望まれる。
【0027】
<嵩高感>
無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して5〜24質量%含有する嵩高紙に対して手肉感を触感して、嵩高でラフな印象の手肉感を有するか否かを比較例1の用紙と比較して、以下の4段階で評価した。△以上の品質が望まれる。結果は表1及び表2に示す。
◎:比較例1より嵩高でラフな印象の手肉感を有する。
○:比較例1より嵩高な手肉感を有する。
△:比較例1に比べてラフな手肉感となる。
×:比較例1とほぼ変わらない手肉感しか感じられない。
【0028】
<印刷濃度>
RI印刷適性試験機を用い、灰色インクをベタ印刷し、ベタ部の印刷濃度を、現状オフセット印刷で問題なく使用されている比較例1の用紙と比較して、以下の品質判定基準で目視評価を行った。
◎:比較例1に比べて良好。
○:比較例1と同程度。実用上問題ないレベル。
△:比較例1より劣り、実用上、使用不可レベルを示す。
○以上の品質が望まれる。
【0029】
<表面強度>
RI印刷適性試験機を用い、黒色ベタ印刷を施した後、繊維の剥け、紙表面の填料の剥け起因する白点の状態について、現状オフセット印刷で問題なく使用されている比較例1の用紙と比較して、以下の品質判定基準で目視評価を行った。
◎:比較例1に比べて特性が非常に良好。
○:比較例1に比べて良好。
△:比較例1と同程度。実用上問題ないレベル。
×:比較例1より劣り、実用上、使用不可レベルを示す。
△以上の品質が望まれる。
【0030】
<サイズ性>
サイズ性は、JIS P 8122に準拠して測定した。
【0031】
<粉落ち>
粉落ちは以下の方法にて評価した。1kgの金属製錘の下面にφ5mmの円柱を3本取り付け、円柱が3本足となって立つように足を平面に切断したものを試験器とする。評価試料上に黒紙を乗せ、その上に試験器を乗せて3点加重をかけた状態にし、10cm/秒の速さで黒紙を50cm引張り移動させる。その後に黒紙に転移している填料の量を、比較例1の用紙と比較して、目視にて、以下の品質判定基準で目視評価を行った。
○:比較例1に比べて特性が非常に良好。
△:比較例1と同程度。
×:比較例1より劣り、実用上、使用不可レベルを示す。
△以上の品質が望まれる。
【0032】
【表1】

【0033】
評価:
表1に示した実施例1〜7の結果から明らかなように、すなわち、本発明は、無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して5〜24質量%含有させることによって、嵩高感があり、印刷濃度、表面強度、サイズ性がともに良好な嵩高紙を作製できることがわかる。
【0034】
これに対し、比較例1から明らかなように、無機顔料のみ添加した場合は十分な嵩高効果が得られない。また、比較例2から明らかなように、有機粒子のみ添加した場合は嵩高効果が得られるが、表面強度が低下して実用にならない。さらに、比較例4、10から明らかなように、有機粒子の平均粒子径が10μm未満の場合、良好な嵩高効果が得られない。また、比較例3、5から明らかなように、無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して24質量%を越える量を含有させると、良好な嵩高効果が得られるが、表面強度が低下する、あるいは、比較例7から明らかなように無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して24質量%を越える量を含有させると、十分な嵩高効果が得られない。逆に比較例6から明らかなように、無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して5質量%未満の場合、良好な嵩高効果が得られない。比較例8、9から明らかなように有機粒子を平均粒子径が10〜30μmの無機粒子に換えても粉落ちの問題が生じる。そのため、無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して5〜24質量%含有させることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機顔料と平均粒子径10〜30μmの有機粒子との合計が全パルプ繊維に対して5〜24質量%含有する嵩高紙。
【請求項2】
前記無機顔料が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の嵩高紙。
【請求項3】
前記有機粒子がアクリル樹脂またはポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の嵩高紙。
【請求項4】
密度が0.5〜0.7g/cm3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の嵩高紙。

【公開番号】特開2007−92250(P2007−92250A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285574(P2005−285574)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】