説明

工事現場の緑化用植生基盤、およびそれを用いた工事現場の緑化工法

【課題】工事現場で発生する破砕チップと表土を、再び工事現場に戻して、環境を保全しながら、工事現場を緑化することができる植生基盤と緑化工法を提供する。
【解決手段】表面に複数の開口部を有し、生分解性プラスチック材から成る袋体の中に、工事現場で発生した表土と、工事現場で製造した木質および/または草質の破砕チップと、水和反応を起こして水和化合物を生成する物質を含む結合・団粒化材と、水との混合物が充填されている、工事現場の緑化用植生基盤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事現場の緑化用植生基盤とそれを用いた工事現場の緑化工法に関し、更に詳しくは、表土をはぎ取って工事を行った後の工事現場に裸出した地表に配置することにより工事前に生育していた植物群の再生とその生育を可能にし、そのことによって現に工事が施工された工事現場とその周辺における植物群の生態系の遺伝子情報の撹乱を防止することができる工事現場の緑化用植生基盤とそれを用いた工事現場の緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば法面工事を施工する場合、まず、工事現場に生育している樹木の伐採や抜根などが行われて工事現場が開拓される。その後、法面に例えば金網を張設する場合には、金網設置箇所の表土をはぎ取り、金網の支持箇所には例えばコンクリート製の架台を埋め込む。このような準備を整えた後、例えば厚層基材吹き付け工法などにより法面の緑化工事が施工される。
【0003】
したがって、この工事の施工過程では、大量の伐採樹木やその枝葉などが発生し、また落葉や植物種子などを含んだ表土が大量に発生する。
これらのうち、伐採樹木やその枝葉などは中間処理業者に持ち込まれて細かく破砕されチップ化される。そしてこの破砕チップ(生チップ)の大半は焼却場まで運搬され、そこで大量の熱エネルギーを消費して焼却処分に付されているが、工事面積が広く、したがって大量に破砕チップが発生する場合には、最近では、製紙工場に買い取られて紙原料として使用される場合もある。
【0004】
しかしながら、工事面積が狭い小規模の工事の場合は、発生する破砕チップも少量であるため、上記したような製紙工場の買付けも起こらず、発生した破砕チップは依然として焼却処分に付されている。しかし、破砕チップ(生チップ)には、炭素や窒素などの植物生育にとっての栄養分が含まれているので、これを利用することなく焼却処分してしまうことは、資源の有効利用の点で問題がある。
【0005】
また、発生した表土は、工事現場に集積してそのまま放置しておくか、またはトラック輸送して海浜の埋め立て工事や宅地の造成工事に使用されるかしている。
ところで、上記した従来工事の場合、ある面積の工事現場に存在する植物群と表土が除去され、そして裸出した地表に除去された表土とは別種の客土と種子(特に外来種)が吹き付けられている。
【0006】
したがって、施工が完了した工事現場は、工事前の現場状況と異なった環境になっている。そのため、そこに登場する生態系は工事前の環境下や工事現場に隣接する周辺地域における生態系とは異なってくる。これは、工事現場を含む全体の地域における動植物生態系の遺伝子情報の撹乱を招くことになるものと考えられる。
このように、従来の例えば法面工事においては、発生する破砕チップと表土の処理に関する問題と、工事現場とその周辺地域における遺伝子情報の撹乱に関する問題とが生じていた。
【0007】
そして、前者の問題に関しては、工事現場で発生した伐採木のチップと、同じ工事現場で発生した発生土と、バーク堆肥のような有機質土壌改良材と、光合成細菌のような植物生育促進用微生物とを必須成分とする緑化質材と、それを用いた吹き付け緑化工法が提案されている(特許文献1を参照)。
この先行技術は、工事に際して、工事現場から除去した伐採樹木と表土を再び工事現場に戻しているという点で、生チップと表土を有効利用しつつ、地域全体の生態系における遺伝子情報や環境保全にも貢献しているものと考えられる。
【特許文献1】特開2006−205533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記した特許文献1の緑化資材を用いて法面の吹き付け緑化工法を実施する場合には、大型の吹き付け装置を工事現場に搬入し、また大量の生チップや表土が必要になる。それは、工事現場が吹き付け工法を行なっても採算がとれる程度にある程度大きな規模であることを前提とする。
しかしながら、最近の国家予算においては、土木・建設工事関係の予算が減額傾向にあり、その影響を受けて、国においても地方自治体においても大型工事は減少傾向にある。そして施工される工事は小規模化しつつある。
【0009】
そのため、工事業者にとっては工事現場のある程度の規模を必要とする吹き付け緑化工法の採算ベース割れが生じはじめている。
本発明は、このような事情を背景にして開発された工事現場の緑化工法であって、従来のような吹き付け緑化工法を適用することなく、工事現場で発生した伐採樹木などや表土を有効活用した後述する植生基盤を用いることにより、小規模の工事現場であっても、周辺地域との間での生態系を保全しながら当該工事現場の緑化を再生する工法と、それに用いる緑化用植生基盤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明においては、
表面に複数の開口部を有し、生分解性プラスチック材から成る袋体の中に、工事現場で発生した表土と、工事現場で製造した木質および/または草質の破砕チップと、水和反応を起こして水和化合物を生成する物質を含む結合・団粒化材と、水との混合物が充填されていることを特徴とする、工事現場の緑化用植生基盤が提供される。
【0011】
そして、前記結合・団粒化材が、フライアッシュ、硫酸アルミニウム、および硫酸カルシウムを必須成分として含むことが好ましい。
また、本願発明においては、
表土をはぎ取った工事現場に裸出した地表を覆って、前記した緑化用植生基盤を敷き並べることを特徴とする工事現場の緑化工法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の緑化用植生基盤は、外観形状が袋体形状であって、1つ1つを持ち運びすることができ、工事で表土をはぎ取ったあとに裸出した地表に敷き並べることができる。
そして、袋体は生分解性プラスチック材から成り、充填されている後述の混合物は、その工事現場で発生した伐採樹木などの破砕チップと表土を構成要素としている。
混合物中の結合・団粒化材は、水の共存下で、後述するように、破砕チップと表土と一緒に混合される過程で、これら破砕チップと表土を巻き込みながら水との間の水和反応によって自硬性の水和化合物に転化していく。そして破砕チップと表土がこの自硬性の水和化合物で互いに結着された状態になり、その結果、得られた混合物は微細な連通孔を内蔵する団粒の集合体となり、それは多孔質であり、通気性や保水性を備えたものになる。
【0013】
そして、表土に、そこで生育していた植物群の種子が含まれている場合は、この種子がこの団粒化した混合物から発芽し、袋体の表面に形成された開口部を通って袋体の外部へと生育していく。袋体は生分解性プラスチック材で構成されているので、表土中の微生物などによって経時的に生分解し、最終的には水と炭酸ガスに分解して、外形をとどめることはなく、その結果、この植生基盤を敷き並べた箇所には、表土と破砕チップの混合物が残り、そこに工事前の植物が再生生育している状態になる。
【0014】
すなわち、本発明の工法によれば、工事前の表土は再び工事現場に伐採樹木などの破砕チップと一緒に戻されることになるので、工事後にあっても、周辺の環境は工事前と類似した状態で保全されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の植生基盤は、工事現場の表土と、工事現場で製造された破砕チップと、後述の結合・団粒化材と、水との混合物を、表面に複数の開口部が形成されている生分解性プラスチック製の袋体に充填して製造される。
ここで、袋体としては、生分解性プラスチック材の繊維を袋織りして織成したものが好適である。その場合、繊維間の目合い(開口部)が大きすぎると、充填した混合物が例えば降雨時にそこから流亡することもあり、また目合いが小さすぎると混合物の中に存在する種子が発芽しても、それが目合いから袋体の外部へ生育していくことが阻害されるようになるので、目合いが適切な袋体を選択して用いればよい。目合いとしては0.5〜3mm程度であればよい。
【0016】
なお、袋体としては、上記した繊維を袋織りしたものに限定されるものではなく、例えば表面に複数の孔が形成されている生分解性プラスチック材のフィルムを用いて製造した袋体であってもよい。その場合、充填されている混合物から発芽した種子はフィルムの孔(開口部)を通って生育していくことになる。
これら袋体に用いる生分解性プラスチック材としては、例えば、ポリ乳酸系、ポリブチレンサクシネート系、ポリブチレンサクシネートアジペート系などが好適である。これらの生分解性プラスチック材は、いずれも、微生物によって生分解されて最終的には水と炭酸ガスになるが、そこまでの分解過程で生成する中間体が発芽・生育する種子に栄養源として吸収されると考えられるからである。
【0017】
このような袋体としては、例えば、アミティー土のう袋(商品名、中興化成工業社製)、JKバッグ(商品名、小泉製麻社製)、環キョーBAG(商品名、キョーワ社製)、パーム土のう(商品名、株式会社田中製)、ドノウレンジャー(商品名、株式会社川内スティール製)、GSバック(商品名、フリー工業社製)などの市販品を好適例としてあげることができる。
【0018】
次に充填する混合物の各構成要素について説明する。
破砕チップとしては、工事現場で発生した伐採樹木とその枝葉などを破砕した生チップをあげることができ、また工事現場に群生している草類の裁断チップをあげることができる。これら破砕チップは、樹木の種類によっても異なるが、嵩密度は概ね0.5g/cm3程度である。その大きさは格別限定されるものではないが、概ね、1〜50mm程度であればよい。
【0019】
表土としては、工事現場ではぎ取ったものが使用される。その表土にはそこで生育していた草木の落葉や種子などが混在しているが、はぎ取った表土に対してはいったんふるい機などにかけて落葉などを除き、また、全体をできるだけ1〜30mm程度に整粒化したのち使用することが好ましい。なお、表土の嵩密度は、場所によって異なるが、概ね、0.4〜0.6g/cm3の範囲内にある。
【0020】
本発明の植生基盤における1つの特徴は後述する結合・団粒化材を用いることであるが、この結合・団粒化材は、水との間で水和反応を起こして自硬性の水和化合物を生成する物質を必須成分として含んでいる。具体的には、フライアッシュ、硫酸アルミニウム、および硫酸カルシウムを必須成分として含んでいる。
これら成分のうち、フライアッシュは結合・団粒化材の主成分であって、混合物の調製時に、用いた水にコロイド状に分散し、同時に水との間で水和反応を起こして、少なくとも表面部分はエトリンジャイト(etringite)やケイ酸カルシウム水和物のような水和化合物に転化し、自硬していく。
【0021】
そしてこの混合過程で、この水和化合物が破砕チップと表土を巻き込みながら生成していくので、破砕チップと表土と水和化合物が複合体した多孔質の団粒が形成される。
なお、このフライアッシュに代えて,製紙スラジの焼却灰や高炉スラグなどを使用することもできる。
次に硫酸アルミニウムは、混合物の調製時に、共存する水に溶解して凝集剤として機能し、水に分散するフライアッシュとの間でエトリンジャイトを生成しながらその凝集を促進する。そして同時に、硫酸アルミニウムは水酸化アルミニウムに加水分解するのであるが、その過程で、アルミニウムの重縮合イオンが高分子体として生成し、これが破砕チップと表土を巻き込みながら凝結していく。
【0022】
結合・団粒化材におけるこの硫酸アルミニウムの含有量が少なすぎると、上記した効果は充分に発揮されず、逆に多すぎても効果は飽和に達して無駄になるので、含有量はフライアッシュ100質量部に対して0.1〜10質量部に設定することが好ましい。
硫酸カルシウムも、硫酸アルミニウムの場合と同様に、混合物の調製時に、共存する水に溶解・解離してフライアッシュとの間で水和反応を起こし、破砕チップと表土を巻き込みながらエトリンジャイトやケイ酸カルシウム水和物に転化していく。
【0023】
この硫酸カルシウムの含有量が少なすぎると、上記した効果が充分に発揮されず、逆に多すぎると、硫酸カルシウムはそれ自体が石膏成分であるため、調製された混合物が硬くなってしまい、種子の発芽、根の活着、生育が阻害されるようになるので、含有量はフライアッシュ100質量部に対して0.1〜10質量部に設定することが好ましい。
なお、この結合・団粒化材には、更に、シリカ粉末が配合されていてもよい。シリカ粉末は、混合物の調製時に生成する前記多孔質の団粒の中に分散して、その団粒の強度を高める働きをする。シリカ粉末としては格別限定されるものではないが、ヒュームドシリカや天然シラスが好適である。
【0024】
シリカ粉末の量が少なすぎると、上記した効果が充分に発揮されず、逆に多すぎても効果は飽和に達して無駄であるため、配合量はフライアッシュ100質量部に対して0.1〜10質量部にすることが好ましい。
また、結合・団粒化材にはポルトランドセメントや早強セメントのようなセメント成分を添加してもよい。調製された混合物は凝結して、シリカ粉末の場合と同様に、混合物の強度が向上するからである。
【0025】
しかし、その場合セメント成分の量が少なすぎると、上記した効果は充分に発揮されず、逆に多すぎると、混合物が硬くなりすぎて、種子の発芽や生育が阻害されるので、添加量はフライアッシュ100質量部に対して1〜40質量部にすることが好ましい。
本発明の植生基盤は次のようにして製造することができる。
まず、工事現場で破砕チップを製造し、また表土をはぎ取り、これらと結合・団粒化材を充分に混合し、ついでここに水を投入して更に混合する。このとき、必要に応じては、生育しても周囲の環境に悪影響を与えない植物の種子を同時に配合してもよく、また種子の発芽・生育を促進する肥料成分を配合してもよい。
【0026】
破砕チップ、表土、結合・団粒化材、水の混合において、水の量が多すぎると、調製された混合物は泥状になってしまい、袋体に充填したときに、その目合い(開口部)から流出してしまうことがあり、逆に水の量が少なすぎると、結合・団粒化材の成分との水和反応が充分に進まなくなるので、得られた混合物は種子の発芽・生育にとって好適な通気性と保水性を備えた多孔質な団粒にならない。
【0027】
このようなことから、これら4成分の混合比は、重量比で、結合・団粒化材1に対して水は0.5〜3.0倍量、破砕チップは10〜15倍量、表土は1.5〜2.5倍量にすることが好ましい。このような混合比で調製した混合物は、調製直後に山中式土壌硬度計で硬度測定すると、概ね、5〜20mmの値を示す。
調製した混合物を生分解性プラスチック材からなる袋体に詰め込み、袋体の袋口を封止することにより、本発明の植生基盤が得られる。
【0028】
本発明の緑化工法は、上記した植生基盤を用いて次のようにして行われる。
指定された工事現場に生育している草木を伐採し、その伐採樹木などを破砕チップにする。ついで、工事現場の表土をはぎ取り、それを所定の大きさにふるい分けし、これらを用いて本発明の植生基盤を製造する。
そして、表土をはぎ取った地表に、植生基盤を積み重ねることなく、敷き並べればよい。必要に応じて、伐採した樹木を加工した例えば杭を用いて、これら植生基盤を地表に固定してもよい。
【実施例】
【0029】
面積1mの工事現場の樹木と草木を伐採し、伐採樹木を破砕機にかけて大きさ1〜30mm程度の生チップを(嵩密度は約0.5g/cm)を製造した。また、露出した表土から落葉を取り除いたのちはぎ取った。
一方、フライアッシュ(常磐火力産業社製)12kg、硫酸アルミニウム(日本軽金属社製)0.07kg、硫酸カルシウム(内藤商店製)0.27kg、ヒュームドシリカ(ネオライト興産社製)0.27kgを混合して、全量が12.61kgの結合・団粒化材を調製した。
【0030】
混合タンクに生チップ12.5kg(25L)と表土2.6kg(5L)と結合・団粒化材5kgと肥料(タキポリン:商品名:多木化学社製)0.1kgを投入して混合し、更にここに、水2kg(2L)を加えて、約0.1時間混合した。
得られた混合物は微細な連通孔を内蔵する団粒の集合体であり、その硬度を山中式土壌硬度計で測定(測定温度20℃)したところ、約5mmであり、比較的軟質であった。
【0031】
ついで、この混合物を生分解性プラスチック材の袋体に充填して8個の植生基盤を製造した。袋体としては、GSバック(商品名、フリー工業社製、織り方:フラットヤーン、目合い:12mm×25mm、縦1250mm、幅450mmの袋)を用いた。
この植生基盤を、40cmの間隔に置いて、表土をはぎ取ったあとの地表に敷き並べて固定した。そして2個の植生基盤には伐採した樹木の枝を挿し木しておいた。
【0032】
工事は10月に行ったが、翌春の4月に工事現場を観察したところ、袋体は少し分解していたが、混合物は略原型を止めており、そしてそこからは工事現場周辺と同じ野草が発芽し、生育しており、挿し木も活着して葉が繁っていた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の植生基盤を用いれば、大規模な吹き付け緑化工法を適用しなくても、工事現場で発生する破砕チップと表土を有効利用することにより、当該工事現場をほぼ工事前に復した状態で緑化することができる。そのため、工事の前後における生態系の遺伝子情報の撹乱は抑制されることになり、環境保全に資することができる。
本発明の植生基盤を用いた緑化工法は、とくに、小規模な工事現場に適用して有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の開口部を有し、生分解性プラスチック材から成る袋体の中に、工事現場で発生した表土と、工事現場で製造した木質および/または草質の破砕チップと、水和反応を起こして水和化合物を生成する物質を含む結合・団粒化材と、水との混合物が充填されていることを特徴とする、工事現場の緑化用植生基盤。
【請求項2】
前記結合・団粒化材が、フライアッシュ、硫酸アルミニウム、および硫酸カルシウムを必須成分として含む請求項1の工事現場の緑化用植生基盤。
【請求項3】
前記混合物には、更に、植物の種子や根茎が混合されている請求項1または2の工事現場の緑化用植生基盤。
【請求項4】
表土をはぎ取った工事現場に裸出した地表を覆って、請求項1〜3のいずれかの緑化用植生基盤を敷き並べることを特徴とする工事現場の緑化工法。