説明

工事用機械の運転管理システム、運転管理方法、および運転管理プログラム

【課題】過大なコストや手間を伴うことなく、周辺環境への工事振動の影響を効果的に抑制する。
【解決手段】工事現場において稼働中の工事用機械5に関して位置測定手段130による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段101の地図情報126に照合して、現在位置から振動監視対象箇所40までの距離を特定する処理と、稼働中の工事用機械5に関して振動測定手段140による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した距離の情報とを記憶手段101の相関関係の情報125に照合し、振動監視対象箇所40での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械5に備わる所定装置に警告用信号を送る処理とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事用機械の運転管理システム、運転管理方法、および運転管理プログラムに関するものであり、具体的には、過大なコストや手間を伴うことなく、周辺環境への工事振動の影響を効果的に抑制できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場等でバックホウやクレーンなど重機を使用する場合、周辺環境へ及ぶ工事振動を抑制する措置が講じられることが多い。こうした面で従来採用されてきた技術としては、例えば、建設現場等に騒音や振動のセンサーを配置し、このセンサーの測定値が基準値を超えたことを検知して警告を発する技術(特許文献1)などが提案されている。また、重機操作者に対して、慎重な操作を心がけるよう口頭での事前注意を与える措置や、重機の走行範囲に制振マット等を敷設して工事振動を予め低減させるといった措置もとられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−83803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のようなセンサー類や制振マット等を建設現場で広範囲に設置することは、設置・運営に関する過大なコストや手間の発生を招き、現実的で無い場合もある。一方、センサー類の設置範囲が十分でなければ、工事振動が周辺環境に及ぶ事態を迅速、確実に察知して対応することは困難であり、そもそも効果的な措置と言い難い面もある。また、重機操作者に対して口頭での事前注意を与えるとしても、事前注意の内容は定性的なものとなりがちで、具体的にどのような状況でどのように操作を修正していけばよいか重機操作者が確実に把握することは難しい。従って効果的に工事振動の影響を抑制する措置とはなりがたい。
【0005】
そこで本発明では、過大なコストや手間を伴うことなく、周辺環境への工事振動の影響を効果的に抑制できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の工事用機械の運転管理システムは、工事用機械の現在位置を測定する位置測定手段と、工事用機械に生じている振動レベルを測定する振動測定手段と、稼働中の工事用機械に生じる振動レベルと、前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報と、工事用機械の稼働域および振動監視対象箇所を含む地図情報とを保持する記憶手段と、工事現場において稼働中の工事用機械に関して、前記位置測定手段による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段の地図情報に照合して、現在位置から振動監視対象箇所までの距離を特定する処理と、稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、振動監視対象箇所での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、を実行する演算手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
これによれば、工事振動の影響が懸念される振動監視対象箇所(例:工事現場に隣接する住宅敷地等)に、センサー類を設置・運営する必要が無く、これにかかる過大なコストや手間を抑制できる。また、工事用機械の稼働に伴うリアルタイムでの振動監視が可能であり、工事振動が周辺環境に及ぶ事態を迅速、確実に察知して対応することが可能となる。しかも、この振動監視の結果は、工事用機械の操作者等に対して警告用信号の出力としてすぐさま通知されるため、例えば過大な操作等を抑制するための対応が遅れたり或いは対応できないといった懸念も解消される。したがって、過大なコストや手間を伴うことなく、周辺環境への工事振動の影響を効果的に抑制できる効果を奏することとなる。
【0008】
なお、前記工事用機械の運転管理システムにおいて、前記記憶手段は、前記相関関係を示す情報として、稼働中の工事用機械での作業内容に応じて生じる振動レベルと、前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報を更に保持するものであるとしてもよい。
【0009】
この場合、前記演算手段は、稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段から得た振動レベルの情報を所定パターンと比較するか、或いは入力手段から作業内容の指定を受け付けて、作業内容を特定する処理と、稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と、前記特定した作業内容の情報および前記距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、前記作業内容での前記振動レベルに対応する、振動レベル監視対象箇所での地盤振動レベルの推定を行う処理と、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、を実行するとすれば好適である。
【0010】
これによれば、工事用機械での作業内容(例:走行、旋回、ブーム上下動、掘削、ブレーカー動作等)によって異なる振動に対応して、振動監視対象箇所に関するリアルタイムでの振動監視が可能となり、工事用機械での作業内容に応じた工事振動が周辺環境に及ぶ事態を迅速、確実に察知して対応することが可能となる。この振動監視の結果は、工事用機械の操作者等に対して、例えば、作業内容に応じた警告用信号の出力としてすぐさま通知されるため、振動抑制のための対応が遅れたり或いは対応できないといった懸念も解消される。
【0011】
また、前記工事用機械の運転管理システムにおいて、前記記憶手段は、稼働中の工事用機械に生じる振動レベルと、地盤性状で区画された各領域において前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報と、工事用機械の稼働域および振動監視対象箇所と前記領域とを含む地図情報を更に保持するものである、としてもよい。
【0012】
この場合、前記演算手段は、工事現場において稼働中の工事用機械に関して、前記位置測定手段による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段の地図情報に照合して、現在位置が含まれる該当領域と、現在位置から振動監視対象箇所までの距離を特定する処理と、稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した該当領域および距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、前記該当領域における振動監視対象箇所での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、を実行するとすれば好適である。
【0013】
これによれば、工事用機械の稼働域すなわち工事現場等において、地盤性状が場所により異なる場合であっても、稼働中の工事用機械に生じる振動レベルによって、所定距離にある場所で生じる地盤振動レベルを精度良く推定することが可能となり、工事用機械が稼働する地盤性状に応じて、工事振動が周辺環境に及ぶ事態を迅速、確実に察知して対応することが可能となる。
【0014】
また、前記工事用機械の運転管理システムにおいて、前記演算手段は、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置である運転制御装置に対し、警告用信号として、工事用機械での所定の運転内容に関して制限を行う制御信号を送るものであるとしてもよい。
【0015】
これによれば、工事用機械における各種動作(走行、旋回、ブーム上下動、掘削、ブレーカー動作等)の速度や頻度について制限を設けて、振動監視対象箇所での地盤振動レベルが基準以下となるべく工事用機械の自動制御が行われることとなる。従って、工事用機械の操作者が警告用信号に気がつかない状況が生じていたとしても、いわゆるリミッターが工事用機械に自動設定された状態となるため、振動レベルを抑制するための対応が遅れたり或いは対応できないといった懸念は解消される。
【0016】
また、本発明の工事用機械の運転管理方法は、工事用機械の現在位置を測定する位置測定手段と、工事用機械に生じている振動レベルを測定する振動測定手段と、稼働中の工事用機械に生じる振動レベルと、前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報と、工事用機械の稼働域および振動監視対象箇所を含む地図情報とを保持する記憶手段とを備えたコンピュータシステムが、工事現場において稼働中の工事用機械に関して、前記位置測定手段による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段の地図情報に照合して、現在位置から振動監視対象箇所までの距離を特定する処理と、稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、振動監視対象箇所での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、を実行することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の工事用機械の運転管理プログラムは、工事用機械の現在位置を測定する位置測定手段と、工事用機械に生じている振動レベルを測定する振動測定手段と、稼働中の工事用機械に生じる振動レベルと、前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報と、工事用機械の稼働域および振動監視対象箇所を含む地図情報とを保持する記憶手段とを備えたコンピュータシステムに、工事現場において稼働中の工事用機械に関して、前記位置測定手段による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段の地図情報に照合して、現在位置から振動監視対象箇所までの距離を特定する処理と、稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、振動監視対象箇所での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、過大なコストや手間を伴うことなく、周辺環境への工事振動の影響を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態における工事用機械の運転管理方法の適用例1を示す図である。
【図2】本実施形態における工事用機械の運転管理方法の適用例2を示す図である。
【図3】本実施形態の工事用機械の運転管理システムにおけるハードウェア構成を示す図である。
【図4】本実施形態における相関関係情報の構成例を示す図である。
【図5】本実施形態における地図情報の構成例を示す図である。
【図6】本実施形態における波形パターン情報の構成例を示す図である。
【図7】本実施形態における事前測定結果1を示す図である。
【図8】本実施形態における事前測定結果2を示す図である。
【図9】本実施形態における事前測定結果3を示す図である。
【図10】本実施形態における工事用機械の運転管理方法の処理手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
−−−適用例−−−
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態における工事用機械の運転管理方法の適用例1を示す図である。工事用機械の運転管理方法を適用する工事現場としては、当然ながら振動抑制が要求される環境に所在する現場がまず想定される。図1に示す例では、工事現場1の周辺環境が、個人住居2など一般の建物が存在する住宅地3となっている状況を示した。工事現場1と住宅地3とは遮音パネル4等で適宜区切られてはいるが、そのまま何ら措置を施さない場合、工事現場1で稼働する重機5(工事用機械)が発生させる工事振動については地盤6等を介して住宅地3に伝達されてしまう。
【0021】
なお、工事用機械としては、クレーンやバックホウ、削岩機などの重機5の他、ダンプトラックやトレーラー、ミキサー車などの各種車両、コンクリート圧送装置など種々想定出来るが、工事現場で稼働し振動を発生する装置であれば種類は問わない。また、タイヤ15を重機5の稼働域7に敷設し、タイヤ15の上面11に板材20を載置するとしてもよい。なお、(a)上面図において、板材20とそれを支持するタイヤ15らとの関係をわかりやすく示す為に、板材20の一部のみを図示しているが、当然ながら、稼働域7を全面的に板材20が覆っているものとする。
【0022】
このような工事現場1において、本実施形態の工事用機械の運転管理方法を適用するに先立って、重機5が実際に稼働している際に重機自体に生じる振動レベルを測定し、また、この重機5から所定距離にある事前測定箇所30での地盤振動レベルを測定しておく必要がある。例えば、重機5で走行、旋回、掘削などといった各種作業を行った際に、当該重機5からの距離が2.4m、19m、30mの各事前測定箇所30で、地盤振動レベルを測定する。振動レベルの測定手段としては、振動加速度計など振動測定に用いられる一般的な計器を採用すればよい。この、重機5での振動レベルおよび事前測定箇所30での地盤振動レベルの測定により得られた結果に基づいて、稼働中の重機5に生じる振動レベルと、当該重機5から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報すなわち相関関係情報125を求める処理については後述する。
【0023】
なお、工事現場1やその周辺の住宅地3において、その地盤6の性状が領域毎に異なっている場合、図2に示すように、重機5での振動レベルと事前測定箇所30での地盤振動レベルについては、地盤性状で区画された各領域(例:図2中の“性状A”、“性状B”でわかれる領域)においてそれぞれ測定しておくと好適である。なぜなら、地盤性状が相違することによる、稼働中の重機5に生じる振動レベルと重機5から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係のずれを回避できるからである。
【0024】
こうした状況にて稼働する本実施形態の重機5は、図1中の(b)側面図、および図3にて示すように、一般的な重機と比べ工事用機械の運転管理システム10を更に備えている。運転管理システム10(以下システム10)はコンピュータシステムであり、すなわち、重機5の現在位置を測定する位置測定手段130と、重機5に生じている振動レベルを測定する振動測定手段140とを備えている。位置測定手段130としては、GPS装置など一般的な位置測定手段を採用すればよい。また、振動測定手段140としては、上述と同様に振動加速度計など振動測定に用いられる一般的な計器を採用すればよい。
【0025】
また、システム10は、コンピュータチップなどで構成される情報処理装置100を備えている。この情報処理装置100は、図3にて示すとおり、コンピュータとして備えるべき構成を備えるものとなっている。すなわち情報処理装置100は、工事用機械の運転管理方法を実行するにあたって必要となる機能を実装するためのプログラム102と情報125〜127を格納した記憶手段101と、この記憶手段101からプログラム102をメモリ103に読み出して実行するCPUなどの演算手段104と、重機操作者などのユーザから情報入力を受け付けるボタン等の入力手段105と、警告用信号を出力するためのランプやディスプレイ、スピーカーといった出力手段106と、他装置とデータ授受を行うインターフェイス107とを備えている。
【0026】
情報処理装置100は、記憶手段101において、稼働中の重機5に生じる振動レベルと、重機5から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す相関関係情報125と、重機5の稼働域および振動監視対象箇所40を含む地図情報126と、波形パターン情報127を保持している。記憶手段101にて保持されているこれら情報125〜127の詳細については後述する。
【0027】
また、システム10すなわち情報処理装置100の演算手段104は、工事現場1において稼働中の重機5に関して、前記位置測定手段130による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段101の地図情報126に照合して、現在位置から振動監視対象箇所40までの距離を特定する処理を実行する。
【0028】
また、演算手段104は、稼働中の前記重機5に関して、前記振動測定手段140による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した距離の情報とを記憶手段101の相関関係情報125に照合し、振動監視対象箇所40での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理を実行する。
【0029】
また、演算手段104は、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、重機5に備わる所定装置に警告用信号を送る処理を実行する。この重機5に備わる所定装置としては、重機操作座席の目前等に設置されたランプ、ディスプレイ、スピーカーなど前記出力手段106があげられる。或いは所定装置として、走行、ブーム上下、旋回といった動作の加減速や、掘削やブレーカーの打撃圧等を油圧機構など適宜な駆動機構を介して制御する運転制御用CPU150などもあげられる。
【0030】
なお、記憶手段101の相関関係情報125において、稼働中の重機5での作業内容に応じて生じる振動レベルと、重機5から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報を保持しているならば、演算手段104は、稼働中の前記重機5に関して、前記振動測定手段140から得た振動レベルの情報を波形パターン情報127と比較するか、或いは入力手段105から作業内容の指定を受け付けて、作業内容を特定する処理を実行する。
【0031】
この場合、演算手段104は、稼働中の前記重機5に関して、前記振動測定手段140による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と、前記特定した作業内容の情報および前記距離の情報とを記憶手段101の相関関係情報125に照合し、前記作業内容での前記振動レベルに対応する、振動監視対象箇所40での地盤振動レベルの推定を行う。
【0032】
また、演算手段104は、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、重機5に備わる所定装置に警告用信号を送る処理を実行する。
【0033】
なお、記憶手段101の相関関係情報125において、稼働中の重機5に生じる振動レベルと、地盤性状で区画された各領域において前記重機5から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報を保持し、地図情報126において、重機5の稼働域および振動監視対象箇所40と前記領域とを含む情報を保持しているならば、前記演算手段104は、工事現場1において稼働中の重機5に関して、前記位置測定手段130による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段101の地図情報126に照合して、現在位置が含まれる該当領域と、現在位置から振動監視対象箇所40までの距離を特定する処理を実行する。
【0034】
また演算手段104は、稼働中の前記重機5に関して、前記振動測定手段140による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した該当領域および距離の情報とを記憶手段101の相関関係情報125に照合し、前記該当領域における振動監視対象箇所40での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行うことになる。
【0035】
また演算手段104は、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、重機5に備わる所定装置に警告用信号を送る処理を実行する。
【0036】
なお、演算手段104は、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、重機5に備わる運転制御用CPU150等に対し、警告用信号として、重機5での所定の運転内容に関して制限を行う制御信号を送るとしてもよい。この制御信号は、走行、ブーム上下、旋回といった動作の加減速や、掘削やブレーカーの打撃動作等を実行する油圧機構など適宜な駆動機構に関して、駆動電流や駆動油圧などを制限する制御信号となる。
【0037】
−−−情報の構成例−−−
続いて、システム10すなわち情報処理装置100が利用する情報の構成例について説明する。図4は本実施形態における相関関係情報125の構成例を示す図である。この相関関係情報125は、稼働中の重機5に生じる振動レベルと、前記重機5から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報となる。図4に示す相関関係情報125の例では、重機5からの距離である第1距離、第2距離の各距離において、重機5での振動レベルがx(dB)であった場合の地盤振動レベルy(dB)を表す相関式を対応付けている。またこの相関式は、走行、旋回、ブーム上下、掘削、ブレーカーといった重機5での作業内容に応じて定まっている。また、こうした相関関係情報125は、地盤性状毎に用意されている。図に示す例では、“性状A”および“性状B”に関する相関関係情報125が設定されている状況を示した。
【0038】
図5は本実施形態における地図情報126の構成例を示す図である。この地図情報126は、重機5の稼働域7および振動監視対象箇所40を少なくとも含む地図情報であり、図5に示す例では、更に地盤性状で区画された各領域の情報も含んでいる。この地図情報126は、例えば、稼働域7を示す情報として、稼働域7の境界点(各境界点を結ぶと稼働域7となる点)の座標値、振動監視対象箇所40の座標値、地盤性状で区画された領域の境界点(各境界点を結ぶと該当領域となる点)の座標値を含んでいる。なお、これら座標値は、前記位置測定手段130で得られる位置情報と同じ取り扱いができる値であり、位置測定手段130がGPS装置であれば、当然ながら一般的なGPSシステムで取り扱う座標値の規格に対応したものとなる。
【0039】
図6は本実施形態における波形パターン情報127の構成例を示す図である。この波形パターン情報127は、稼働中の前記重機5から振動測定手段140が得た振動レベルの情報を比較して、重機5での作業内容を特定するための情報である。図6に示す波形パターン情報127の例では、走行、旋回、ブーム上下、掘削、ブレーカーといった重機5での作業内容について、該当作業を実行中の重機5で発生する振動のパターン(例:振動の周期や波形の特徴値など)が設定されている。この波形パターン情報127に関しても、地盤性状毎に予め用意されているとすれば好適である。
【0040】
−−−相関関係情報のための事前測定について−−−
次に、上述した相関関係情報125を事前に特定し、記憶手段101に保持しておくために必要な作業について説明する。ここでは、説明の簡便化のため、相関関係情報125のうち、重機5の走行に伴って重機自体に生じる振動レベルと、重機5から所定距離での地盤振動レベルとの関係を取り上げることとした。
【0041】
ここで発明者らは、実際の工事現場において重機5を3種類の速度(0.41km/h、0.53km/h、0.67km/h)で走行させ、その際に、重機5からの距離が2.4m、19m、30mの3点の事前測定箇所30での各地盤振動レベルを測定し、図7に示すグラフ(A)を得た。グラフ(A)中の式(1)〜(3)で示すように、各事前測定箇所30すなわち各距離の地盤振動レベルyは、重機走行速度xを変数とした式で算定できることとなる。なお、例えば1m刻みで重機5からの距離を想定して、該当事前測定箇所30での地盤振動レベルを逐一測定せずとも、複数の事前測定箇所30に関して地盤振動レベルを測定しておいて、測定していない距離における地盤振動レベルに関しては、内挿外挿の処理により、実測値を得た事前測定箇所30からの離間距離に比例して地盤振動レベルが減衰すると推定して、式を決定すればよい。
【0042】
また、発明者らは、同様に重機5を3種類の速度(0.41km/h、0.53km/h、0.67km/h)で走行させ、その際に、重機5に生じる振動レベルを測定し、図7に示すグラフ(B)を得た。グラフ(B)中の式(4)で示すように、重機5に生じた振動レベルyは、重機走行速度xを変数とした式で算定できることとなる。
【0043】
こうして得られたグラフ(A)、(B)は、両者とも重機走行速度xを変数とした式であるから、グラフ(A)、(B)をそれぞれ示す式を併合し、図8に示すグラフ(C)の式(5)、(6)を得る事が出来た。例えば、前記式(1)において、ある重機走行速度aでの地盤振動レベルbを算定し、前記式(4)において、前記重機走行速度aでの重機5での振動レベルcを算定すれば、重機5での振動レベルcでの地盤振動レベルbを特定できることになり、つまり重機走行速度を介してグラフ(C)の式(5)、(6)を得る事が出来るのである。
【0044】
こうした作業を、重機5での作業内容毎に行って、旋回時における地盤振動レベルを示す図8のグラフ(D)、ブーム上下時における地盤振動レベルを示す図9のグラフ(E)、掘削時における地盤振動レベルを示す図9のグラフ(F)、ブレーカー作業時における地盤振動レベルを示す図9のグラフ(G)、の各式が得られる。こうして得られた式は、図4で示した相関関係情報125に設定される相関式となる。
【0045】
−−−手順例−−−
以下、本実施形態における工事用機械の運転管理方法の実際手順について図に基づき説明する。図10は本実施形態における工事用機械の運転管理方法の手順例を示すフロー図である。ここでは、工事現場1において重機5が実際の工事用作業を行っているとする。この時、情報処理装置100の演算手段104は、稼働中の前記重機5に関して、振動測定手段140による振動測定を実行し(s100)、この測定で得た振動レベルの情報が示す振動の周期や特徴値といった値を波形パターン情報127と比較し、重機5での作業内容を特定する(s101)。例えば、振動の周期が“a”、振動レベルの最大振幅が“b”であるとき、この特徴値を有する作業内容は“旋回”などと特定できる。なお、この作業内容を特定する処理に関しては、重機操作者による入力手段105での作業内容の指定を演算手段104が受け付けることで作業内容を特定するとしてもよい。
【0046】
続いて演算手段104は、稼働中の前記重機5に関して、位置測定手段130による現在位置の測定を実行し(s102)、当該測定で得た現在位置を示す座標値を、記憶手段101の地図情報126(図5)に照合して、現在位置が含まれる該当地盤領域を特定する(s103)。例えば、現在位置の座標値が“(123、456)”として、この座標値を範囲に含むのが“A地盤領域”などと特定できる。
【0047】
また演算手段104は、前記ステップs102での現在位置の測定処理により得た座標値と、地図情報126での振動監視対象箇所40の座標値との間の距離を算定し、重機5の現在位置から振動監視対象箇所40までの距離を特定する(s104)。例えば、現在位置の座標値が“(c,d)”であり、ある振動監視対象箇所40の座標値が“(e,f)”であったならば、その間の距離dは、“d=SQRT((c−e)^+(d−f)^))”と算定できる。
【0048】
次に演算手段104は、稼働中の前記重機5に関して、前記振動測定手段140による振動レベルの測定を実行し(s105)、この測定で得た振動レベルの情報と、前記ステップs101特定した作業内容の情報、前記ステップs104で特定した距離の情報、および前記ステップs103で特定した該当地盤領域の情報を、記憶手段101の相関関係情報125に照合し、前記該当地盤領域における前記作業内容での前記振動レベルに対応する、振動監視対象箇所40での地盤振動レベルの推定を行う(s106)。この場合、演算手段104は、例えば、前記ステップs101特定した作業内容が“旋回”、前記ステップs104で特定した距離が“19m”、および前記ステップs103で特定した該当地盤領域が“性状Aを持つA地盤領域”であったとすれば、相関関係情報125にて、“性状A”に関するテーブルを特定し、このテーブルで“旋回”に関する相関式のうち、距離が“19m”(第2距離)に対応した式を読み出し、この式において、前記ステップs105で得た稼働中の前記重機5での振動レベルを代入して、重機5から距離19mにある振動監視対象箇所40での地盤振動レベルを算定する。
【0049】
続いて演算手段104は、前記ステップs106で推定した地盤振動レベルの値を、例えば、記憶手段101に保持している地盤振動レベルに関する基準値と比較し(s107)、地盤振動レベルが前記基準値を越えた場合(s107:NG)、重機5に備わるランプやスピーカーといった出力手段106に、例えば、旋回動作をスローダウンすべきことを警告する信号(出力先の規格に応じたものであり、警告メッセージを発声する音声信号であったり、ランプ点灯用のリレー制御信号であったりする)を送る(s108)。なお、演算手段104は、当該ステップs108において、重機5の運転制御用CPU150に対し、前記インターフェイス107を介して警告用信号として、重機5での所定の運転内容に関して制限を行う制御信号を送るとしてもよい。運転制御用CPU150は、走行、ブーム上下、旋回といった動作の加減速や、掘削やブレーカーの打撃圧等を油圧機構など適宜な駆動機構を介して制御する演算装置となる。こうした制御信号を受けた運転制御用CPU150は、該当振動監視対象箇所40での地盤振動レベルが基準を超えないよう、例えば重機走行用のエンジンに対し、燃料供給量を所定量以下に制限し、速度を一定速度以下に制御するといった処理を実行することになる。
【0050】
以上、本実施形態によれば、過大なコストや手間を伴うことなく、周辺環境への工事振動の影響を効果的に抑制できる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 工事現場
2 個人住居
3 住宅地
4 遮音パネル
5 重機(工事用機械)
6 地盤
7 稼働域
10 工事用機械の運転管理システム
11 タイヤの上面
15 タイヤ
20 板材
30 事前測定箇所
40 振動監視対象箇所
100 情報処理装置
101 記憶手段
102 プログラム
103 メモリ
104 演算手段
105 入力手段
106 出力手段
107 インターフェイス
125 相関関係情報
126 地図情報
127 波形パターン情報
130 位置測定手段
140 振動測定手段
150 運転制御用CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事用機械の現在位置を測定する位置測定手段と、
工事用機械に生じている振動レベルを測定する振動測定手段と、
稼働中の工事用機械に生じる振動レベルと、前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報と、工事用機械の稼働域および振動監視対象箇所を含む地図情報とを保持する記憶手段と、
工事現場において稼働中の工事用機械に関して、前記位置測定手段による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段の地図情報に照合して、現在位置から振動監視対象箇所までの距離を特定する処理と、
稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、振動監視対象箇所での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、
前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、を実行する演算手段と、
を備えることを特徴とする工事用機械の運転管理システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記記憶手段は、前記相関関係を示す情報として、稼働中の工事用機械での作業内容に応じて生じる振動レベルと、前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報を更に保持するものであり、
前記演算手段は、
稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段から得た振動レベルの情報を所定パターンと比較するか、或いは入力手段から作業内容の指定を受け付けて、作業内容を特定する処理と、
稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と、前記特定した作業内容の情報および前記距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、前記作業内容での前記振動レベルに対応する、振動監視対象箇所での地盤振動レベルの推定を行う処理と、
前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、を実行するものである、
ことを特徴とする工事用機械の運転管理システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記記憶手段は、稼働中の工事用機械に生じる振動レベルと、地盤性状で区画された各領域において前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報と、工事用機械の稼働域および振動監視対象箇所と前記領域とを含む地図情報を更に保持するものであり、
前記演算手段は、
工事現場において稼働中の工事用機械に関して、前記位置測定手段による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段の地図情報に照合して、現在位置が含まれる該当領域と、現在位置から振動監視対象箇所までの距離を特定する処理と、
稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した該当領域および距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、前記該当領域における振動監視対象箇所での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、
前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、を実行するものである、
ことを特徴とする工事用機械の運転管理システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記演算手段は、前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置である運転制御装置に対し、警告用信号として、工事用機械での所定の運転内容に関して制限を行う制御信号を送るものであることを特徴とする工事用機械の運転管理システム。
【請求項5】
工事用機械の現在位置を測定する位置測定手段と、工事用機械に生じている振動レベルを測定する振動測定手段と、稼働中の工事用機械に生じる振動レベルと、前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報と、工事用機械の稼働域および振動監視対象箇所を含む地図情報とを保持する記憶手段とを備えたコンピュータシステムが、
工事現場において稼働中の工事用機械に関して、前記位置測定手段による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段の地図情報に照合して、現在位置から振動監視対象箇所までの距離を特定する処理と、
稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、振動監視対象箇所での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、
前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、
を実行することを特徴とする工事用機械の運転管理方法。
【請求項6】
工事用機械の現在位置を測定する位置測定手段と、工事用機械に生じている振動レベルを測定する振動測定手段と、稼働中の工事用機械に生じる振動レベルと、前記工事用機械から所定距離にある場所での地盤振動レベルとの相関関係を示す情報と、工事用機械の稼働域および振動監視対象箇所を含む地図情報とを保持する記憶手段とを備えたコンピュータシステムに、
工事現場において稼働中の工事用機械に関して、前記位置測定手段による現在位置の測定を実行し、当該測定で得た現在位置の情報を記憶手段の地図情報に照合して、現在位置から振動監視対象箇所までの距離を特定する処理と、
稼働中の前記工事用機械に関して、前記振動測定手段による振動レベルの測定を実行し、この測定で得た振動レベルの情報と前記特定した距離の情報とを記憶手段の相関関係の情報に照合し、振動監視対象箇所での前記振動レベルに対応する地盤振動レベルの推定を行う処理と、
前記推定した地盤振動レベルと所定基準とを比較し、地盤振動レベルが所定基準を越えた場合に、工事用機械に備わる所定装置に警告用信号を送る処理と、
を実行させることを特徴とする工事用機械の運転管理プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−8794(P2012−8794A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144032(P2010−144032)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】