説明

工作機械および加工方法

【課題】 工作物回転治具が、工作物の焼入れ後にも使用でき、工作物に傷を付けることがなく、また工作物の形状が限定されず、加工の自動化が可能な工作機械を提供する。
【解決手段】 主軸21と芯押軸とで支持される工作物30に主軸21の回転を伝達する工作物回転治具1を設ける。この治具1は、治具本体2と、複数の摩擦接触部材3と、複数の接触部材付勢手段4とを備える。治具本体2は、主軸21の先端に同軸状に着脱可能に取付けられ、工作物30の端面に形成されたセンタ孔31に係合するセンタピース5を先端面の中心に有する。摩擦接触部材3は、治具本体2の軸心周りに配置されて、工作物30の端面に当接可能となるように軸方向に進退自在とされる。各摩擦接触部材3は、個々に設け接触部材付勢手段4により付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒研削盤や旋盤などの工作機械、および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作物の加工方法としてセンタ作業がある。このセンタ作業では、工作物をその両端のセンタ孔で支持し、回転伝達手段を介して主軸の回転を工作物に伝達することが行われている。その方法として、工作物にケレ(回し金)を取付けるか、または工作物の一端に穴加工を施し、主軸端に取付けた回し板と工作物の穴やケレとを、丸棒などで連結させて工作物を回転させることが行われている。
【0003】
他の従来例として、主軸端に取付けた治具本体の内部に強力なばねを設け、センタに取付けた先鋭な爪部を前記ばねにより工作物の端面に食い込ませるようにしたフェイスドライバが知られている(例えば特許文献1〜3)。センタ部材は、治具本体に対して軸方向に進退自在とし、ばねにより突出付勢している。さらに他の従来例として、主軸端に取付けた固定センタから、ばねによって突出させた複数のピンを工作物の端面の窪みや、外周の窪みに引っ掛けて回転伝達を行うようにした工作物回転治具が知られている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−14410号公報
【特許文献2】特開昭60−123205号公報
【特許文献3】特開平4−63610号公報
【特許文献4】特開平8−52608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のケレを工作物に取付ける方法は、ケレを取付けるための捨てボスを工作物に設けたり、人作業で取付けることが必要であり、加工作業の自動化に不向きである。
フェイスドライバを用いて工作物の端面に爪部を食い込ませる場合は、焼入前の工作物でなければ適用できない。また、工作物に傷が付くという問題がある。
ピンを工作物の端面や外周の窪みに引っ掛ける場合は、工作物の形状が、ピンによる引っ掛けが可能な形状に特定され、そのため汎用性に乏しい。
【0006】
なお、フェイスドライバのセンタ部材がばねにより軸方向に突出付勢された構成の場合は、センタ部材のクリアランスや摩耗などによりその回転中心に工作物のセンタ孔が対応しなくても加工可能となる。そのため、次工程で同じセンタ孔を使っても工作物に外径の振れが発生し、各工程の共通基準としてのセンタ孔が意味をなさなくなるという問題もある。
【0007】
この発明の目的は、工作物の硬度に左右されることなく使用できて、工作物に傷を付けることもなく、また工作物の形状の特定がなくて汎用性が高く、かつ工作物に捨てボスやケレ等が不要で、加工の自動化が可能な工作機械および加工方法を提供することである。
この発明の他の目的は、工作物のセンタ穴が基準となる多工程の加工に用いても、加工精度が高度に保てるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の工作機械は、工作物を互いの間で支持する主軸および芯押軸と、前記主軸の回転を工作物に伝達する工作物回転治具と、前記主軸と芯押軸で支持された工作物に加工を施す加工手段とを備えた工作機械において、
前記工作物回転治具が、前記主軸の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体と、この治具本体に取付けられ工作物の一端面に形成されたセンタ孔に係合するセンタピースと、前記治具本体の軸心回りに配置されて、それぞれ軸方向に進退自在に支持され、先端面が工作物の端面に当接する平面状の接触面とされた複数の摩擦接触部材と、これら各摩擦接触部材に対して個別に前記治具本体内に設けられ、各摩擦接触部材を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によると、工作物回転治具の摩擦接触部材を工作物の端面に押し当て、摩擦力により主軸の回転を工作物に伝えるようにしたため、端面に爪を噛み込ませるものと異なり、工作物が焼入れ後のものであっても使用でき、また工作物の端面に傷を付けることがない。摩擦力で回転を伝えるが、複数設けられる各摩擦接触部材に対して個別に接触部材付勢手段を設けたため、各摩擦接触部材を連動させて付勢するものと異なり、個々の摩擦接触部材につき、当たり具合の差を吸収して、工作物の端面に滑りを生じることなく接触させ、工作物の連れ回りを生じさせることができる。これによっても工作物の端面に傷が発生することが防止される。摩擦接触部材を工作物の端面に押し当てて連れ回りさせるため、工作物の凹部等に係合させるものと異なり、工作物に端面があるものであれば、形状の特定がなく適用でき、汎用性が高い。また、工作物に捨てボスやケレ等が不要で、加工の自動化が可能となる。
【0010】
この発明において、前記接触部材付勢手段は、ばねであっても、空気圧シリンダであっても、油圧シリンダであっても良い。ばねであると、駆動源が不要で構成が簡素となる。空気圧シリンダや油圧シリンダであると、工作物のセンタ孔へ係合させるときに、接触部材付勢手段を後退させておくことができて、工作物の着脱の作業性が良い。また、ばねまたは空気圧シリンダであると、弾性的に押し付けることができ、複数の摩擦接触部材の間で押し付け力の差を吸収してバランス良く工作物を支持することができる。
【0011】
前記センタピースは、前記治具本体に固定状態に取付けたものであっても良い。センタピースが治具本体に対して進退自在であると、センタピースのクリアランスや摩耗などにより、その回転中心に工作物のセンタ孔が対応しなくても加工可能となる。そのため、次工程で同じセンタ孔を使っても工作物に外径の振れが発生し、各工程の共通基準としてのセンタ孔が意味をなさなくなる恐れがある。これに対して、センタピースが治具本体に固定状態設けられた、いわゆる突き出しセンタであると、回転中心に工作物のセンタ孔が対応しないときは、支持が不完全になり、加工することができない。そのため、回転中心に一致しないままで不測に加工されることが未然に防止でき、多工程であっても、センタ孔を基準として精度の高い加工が行える。
【0012】
この発明の第2の工作機械は、工作物を互いの間で支持する主軸および芯押軸と、前記芯押軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具と、前記主軸と芯押軸で支持された工作物に加工を施す加工手段とを備えた工作機械において、
前記工作物回転治具が、前記芯押軸の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体と、この治具本体に取付けられ工作物の一端面に形成されたセンタ孔に係合するセンタピースと、前記治具本体の軸心回りに配置されて、それぞれ軸方向に進退自在に支持され、先端面が工作物の端面に当接する平面状の接触面とされた複数の摩擦接触部材と、これら各摩擦接触部材に対して個別に前記治具本体内に設けられ、各摩擦接触部材を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段とを備えることを特徴とする。
この構成の工作機械は、工作物回転治具を芯押軸に取付けるようにした点の他は、この発明の第1の工作機械と同様の構成であり、第1の工作機械につき前述したと同様な各作用,効果が得られる。
【0013】
この発明の第3の工作機械は、前記第1の工作機械において、第2の工作機械における工作物回転治具を設けたものである。すなわち、第3の工作機械は、第1の工作機械において、前記芯押軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具を設け、
この芯押軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具が、前記芯押軸の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体と、この治具本体に取付けられ工作物の一端面に形成されたセンタ孔に嵌合するセンタピースと、前記治具本体の軸心回りに配置されて、それぞれ軸方向に進退自在に支持され、先端面が工作物の端面に当接する平面状の接触面とされた複数の摩擦接触部材と、これら各摩擦接触部材に対して個別に前記治具本体内に設けられ、各摩擦接触部材を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段とを備える。
主軸および芯押軸に上記構成の工作物回転治具をそれぞれ取付けて、工作物の両端を支持することにより、摩擦接触による回転伝達がより一層確実に行える。
【0014】
この発明の前記第1〜第3のいずれかの工作機械において、前記加工手段として、工作物の外径研削加工を行う工具を有するものとしても良い。
この構成の工作機械によると、前記構成の工作物回転治具を利点が効果的に発揮され、工作物を傷けることなく支持して、外径研削加工を精度良く行うことができる。
【0015】
この発明の前記第1〜第3のいずれかの工作機械において、前記加工手段として、工作物の外径研削加工を行う工具を有するものとしても良い。
この構成の工作機械によると、前記構成の工作物回転治具を利点が効果的に発揮され、工作物を傷けることなく支持して、外径旋削加工を精度良く行うことができる。
【0016】
この発明の第1の加工方法は、この発明の第1の工作機械を用いて工作物の外径研削加工を行う方法である。
この方法によると、この発明の工作物回転治具の利点が効果的に発揮され、工作物を傷けることなく支持して、外径研削加工を精度良く行うことができる。
【0017】
この加工方法において、前記工作物が、転がり軸受のころであっても良い。転がり軸受のころは、外径の研削加工を精度良く行う必要があり、また多数個量産されるため、この発明の外径研削加工の加工方法がより効果的に発揮される。
【0018】
この発明の第2の加工方法は、この発明の工作機械を用いて工作物の外径旋削加工を行う方法である。
この方法によると、この発明の工作物回転治具を利点が効果的に発揮され、工作物を傷けることなく支持して、外径旋削加工を精度良く行うことができる。
【0019】
この発明の第3の加工方法は、転がり軸受部品の加工方法であって、工作機械の主軸と芯押軸とで転がり軸受部品を支持し、転がり軸受部品の一端面にセンタ孔に形成するとともに、センタピースを嵌合させ、前記センターピースを介して前記主軸の回転を、転がり軸受部品に伝達して、前記センタ孔の軸心周りに複数の摩擦接触部材を配置して、摩擦接触部材を転がり軸受部品に付勢させたことを特徴とする。
この加工方法によると、センターピースを介して前記主軸の回転を、転がり軸受部品に伝達して、前記センタ孔の軸心周りに複数の摩擦接触部材を配置して、摩擦接触部材を転がり軸受部品に付勢させるため、工作物となる転がり軸受部品に傷を付けることもなく、精度良く加工することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の第1の工作機械は、工作物を互いの間で支持する主軸および芯押軸と、前記主軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具と、前記主軸と芯押軸で支持された工作物に加工を施す加工手段とを備えた工作機械において、前記工作物回転治具が、工作機械の主軸と芯押軸とで支持される工作物に、前記主軸の回転を伝達する工作機械の工作物回転治具であって、前記主軸の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体と、この治具本体に取付けられ工作物の一端面に形成されたセンタ孔に係合するセンタピースと、前記治具本体の軸心回りに配置されて、それぞれ軸方向に進退自在に支持され、先端面が工作物の端面に当接する平面状の接触面とされた複数の摩擦接触部材と、これら各摩擦接触部材に対して個別に前記治具本体内に設けられ、各摩擦接触部材を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段とを備えるため、工作物の硬度に左右されることなく使用できて、工作物に傷を付けることもなく、また工作物の形状の特定がなくて汎用性が高く、かつ工作物に捨てボスやケレ等が不要で、加工の自動化が可能となる。
【0021】
この発明の第2の工作機械は、工作物を互いの間で支持する主軸および芯押軸と、前記芯押軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具と、前記主軸と芯押軸で支持された工作物に加工を施す加工手段とを備えた工作機械において、前記工作物回転治具が、前記芯押軸の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体と、この治具本体に取付けられ工作物の一端面に形成されたセンタ孔に嵌合するセンタピースと、前記治具本体の軸心回りに配置されて、それぞれ軸方向に進退自在に支持され、先端面が工作物の端面に当接する平面状の接触面とされた複数の摩擦接触部材と、これら各摩擦接触部材に対して個別に前記治具本体内に設けられ、各摩擦接触部材を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段とを備えるため、工作物の硬度に左右されることなく使用できて、工作物に傷を付けることもなく、また工作物の形状の特定がなくて汎用性が高く、かつ工作物に捨てボスやケレ等が不要で、加工の自動化が可能となる。
【0022】
この発明の第3の工作機械は、上記の工作物回転治具を主軸と芯押軸との両方に取付けるため、工作物の両端をこの工作物回転治具で支持することができて、摩擦接触による回転伝達がより一層確実に行える。
【0023】
この発明の第1の加工方法は、この発明の第1の工作機械を用いて工作物の外径研削加工を行う方法であるため、この発明の工作物回転治具を利点が効果的に発揮され、工作物を傷けることなく支持して、外径研削加工を精度良く行うことができる。
この発明の第2の加工方法は、この発明の第2の工作機械を用いて工作物の外径研削加工を行う方法であるため、この発明の工作物回転治具を利点が効果的に発揮され、工作物を傷けることなく支持して、外径旋削加工を精度良く行うことができる。
【0024】
この発明の第3の加工方法は、工作機械の主軸と芯押軸とで転がり軸受部品を支持し、転がり軸受部品を加工する加工方法であって、転がり軸受部品の一端面にセンタ孔に形成するとともに、センタピースを嵌合させ、前記センターピースを介して前記主軸の回転を、転がり軸受部品に伝達して、前記センタ孔の軸心周りに複数の摩擦接触部材を配置して、摩擦接触部材を転がり軸受部品に付勢させるため、転がり軸受部品を傷けることなく支持して精度良く加工することができる。前記転がり軸受部品は、例えば、転がり軸受の転動体や、軌道輪である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施形態に係る工作機械における工作物回転治具の一部を破断して示す断面図である。
【図2】同工作物回転治具の正面図である。
【図3】同工作物回転治具を用いた工作機械の工作物支持状態を示す説明図である。
【図4】同実施形態の工作機械の工作物支持状態を示す平面図である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る工作機械における工作物回転治具の一部を破断して示す断面図である。
【図6】同工作物回転治具の正面図である。
【図7】工作物の一例となる転がり軸受部品を備えた自動調心ころ軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図4に示すように、この工作機械20は、主軸21と芯押軸22とを有する両センタ支持で工作物30を回転駆動させて、砥石26を有する加工手段51で加工を行う形式であり、主軸21の先端に工作物回転治具1を取付け、主軸21の回転を伝達する。この実施形態の工作機械20では、芯押軸22の先端にも工作物回転治具1Aが取付けられ、両工作物回転治具1,1A間で工作物30が支持される。主軸側の工作物回転治具1と、芯押軸側の工作物回転治具1Aとは、互いに同様な構成ものであり、例えば全く同じ構成の工作物回転治具を2個準備し、1個を主軸側の工作物回転治具1として用い、残り1個を芯押軸側の工作物回転治具1Aとして用いても良い。両工作物回転治具1,1Aにより工作物回転治具セットAが構成される。
【0027】
工作機械20は、主軸21と芯押軸22とを有する両センタ支持形式のものであれば良く、円筒研削盤であっても、また旋盤であっても良いが、図示の例では、工作物30の外径研削を行う円筒研削盤とされている。工作機械20は、ベッド40上に主軸台41と芯押台42が設置され、主軸21は、主軸台41に回転自在に支持され、主軸モータ(図示せず)により回転駆動される。芯押軸22は、主軸21と同心位置で、芯押台42に回転自在にかつ進退自在に支持され、芯押台42に内蔵の油圧シリンダ等の進退駆動源(図示せず)よって進退させられる。工具となる砥石26は回転砥石であって、砥石台である工具台43に、主軸軸心O1と平行な軸心O2回りに回転自在に設置され、工具台43に搭載された砥石駆動モータ(図示せず)により回転駆動される。工具台43は、ベッド40に主軸軸心O1に沿う方向(Z軸方向)に進退自在に設置された送り台44上に、主軸軸心O1と直交する方向(X軸方向)に進退自在に設置されており、送り台44の進退とその上での工具台43の進退とにより、砥石26は直交2軸方向に進退可能である。送り台44および工具台43は、それぞれサーボモータ(図示せず)により進退駆動される。上記砥石26、工具台43、および送り台44により、上記加工手段51が構成される。
【0028】
工作物30は、両側の端面にセンタ孔31,32が形成された軸状部材であり、例えば円筒ころ軸受または円すいころ軸受等の転がり軸受のころである。図4は、工作物30が円すいころである例を、図3では工作物30がスフェリカルローラーである場合を示している。このスフェリカルローラーを用いた自動調心ころ軸受は、後に図5と共に説明する。円筒研削盤の場合は、砥石26には、工作物30の外周面の形状に応じたものが用いられる。工作物30は、円筒ころや、他の転がり軸受部品であっても良い。
【0029】
主軸側の工作物回転治具1は、図1に示すように、主軸21の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体2と、この治具本体2に取付けられ工作物30のセンタ孔31に係合するセンタピース5と、治具本体1の軸心回りに、図2のように等間隔で配置された複数の摩擦接触部材3と、図1のように、これら各摩擦接触部材3に対して個別に治具本体2内に設けられ、各摩擦接触部材3を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段4とを備える。なお、図1は、図2におけるI−I矢視断面図を示す。
【0030】
治具本体2は、治具本体主部品2aと、後述の部材とを組み立ててなる。治具本体主部品2aは、円柱状の主部2aaの後端面中心に、後方に延びるテーパ軸状のシャンク6が形成され、主軸21(図3)の先端中心に設けられた嵌合孔23にシャンク6で嵌合して主軸21に対して着脱可能に取付けられる。治具本体主部品2aの主部2aaの後端外周には、雄ねじ部2bが形成され、主軸21の先端面に当たり主軸21から治具本体を取り外すナット13が螺着されている。このナット13を回すことにより、主軸21より治具本体2を抜き取りことが可能である。
【0031】
治具本体主部品2aの主部2aaの前面の中心には丸軸状の中央軸部2abが形成され、中央軸部2abの先端面に、前記センタピース5が溶接等で固定状態に取付けられて、いわゆる突き出しセンタを構成している。センタピース5は、先端部分が60°の角度を成す円錐形状とされ、摩耗防止のために、治具本体2に対して硬質の材料、例えば焼入れされた鋼材や、鋼材よりも硬質の金属材料等で形成されている。
【0032】
治具本体2は、治具本体主部品2aの前記中央軸部2aにそれぞれ内径孔で嵌合する厚肉円筒状の環状体7および環状状蓋体8を有している。前記治具本体主部品2aと環状体7と環状状蓋体8とで、前記治具本体2が構成される。環状体7には、各摩擦接触部材3に対応して軸方向に貫通する複数の円形の収容孔9が、中央軸部2aを囲む周囲に等配して形成されている。環状蓋体8は、環状体7の収容孔9の先端側を閉鎖する蓋部材であって、環状体7と共に複数のボルト10により治具本体2に締付け固定されている。環状蓋体8には、軸方向に貫通して環状体7の各収容孔9に連通する複数の摩擦接触部材ガイド孔11が設けられている。
【0033】
摩擦接触部材3は、段付き円柱状の部材であって、その小径軸部で、治具本体2における環状蓋体8の各摩擦接触部材ガイド孔11に挿入され、治具本体2の軸方向に進退自在とされている。摩擦接触部材3の先端面である、工作物30の端面に当接する接触面3aは平坦面とされている。各摩擦接触部材3の前記収容孔9内に位置する後端には、摩擦接触部材3の外周に広がったストッパ兼用のばね受け12が設けられている。
【0034】
接触部材付勢手段4は、ここでは前記環状体8の収容孔9内に収容した圧縮コイルばねからなり、収容孔9の底面とばね受け12との間に介在している。摩擦接触部材3は、接触部材付勢手段4の付勢力、すなわち圧縮コイルばねの弾性復元力により、突出側に付勢され、ばね受け12が収容孔9の蓋側底面に接することで、最大突出位置が規制される。なお、接触部材付勢手段4としてコイルばねを用いる代わりに、空気圧シリンダや油圧シリンダを前記収容孔9内に設置しても良い。
【0035】
図4において、芯押軸側の工作物回転治具1Aは、前記のように主軸側の工作物回転治具1と同様な構成であるため、その説明を省略する。芯押軸側の工作物回転治具1Aは、主軸側の工作物回転治具1に対して、各部の半径方向や軸方向の寸法が異なっていても良く、また芯押軸22に取付けるための部分が構成が異なっていても良い。
【0036】
上記構成の工作機械20によると、次のように工作物30を支持して加工が行われる。すなわち、図4のように、主軸31および芯押軸22に、工作物回転治具1,1Aをそれぞれ取付ける。工作物30は、両端のセンタ孔31,32が、両側の工作物回転治具1,1Aのセンタピース5に対応するように配置し、芯押台42に内蔵の油圧シリンダ等で芯押軸22を前進させ、主軸31および芯押軸22とで、工作物回転治具1,1Aを介して挟み込み状態にクランプする。このときの芯押軸22の工作物クランプ力は、例えば350kg程度であり、両工作物回転治具1,1Aの摩擦部材付勢手段4となる各ばねのばね力の総和は、芯押軸22の工作物クランプ力の20〜80%の範囲で任意に決めて使用する。
【0037】
上記のように工作物回転治具1,1Aを使うことにより、工作物30のセンタ軸に対する外径振れは発生せず、次工程での加工基準として全く問題にならない加工精度となる。このことは、同実施形態の工作物回転治具1,1Aを試作して工作機械20に装着し、実際に加工した結果、確認された。
上記構成の主軸側の工作物回転治具1によると、摩擦接触部材3を工作物30の端面に押し当て、摩擦力により主軸21の回転を工作物30に伝えるようにしたため、従来の端面に爪を噛み込ませるものと異なり、工作物30が焼入れ後のものであっても使用でき、また工作物30の端面に傷を付けることがない。摩擦力で回転を伝えるが、複数設けられる各摩擦接触部材30に対して個別に独立した接触部材付勢手段4を設けたため、各摩擦接触部材を連動させて付勢する場合と異なり、個々の摩擦接触部材3につき、当たり具合の差を吸収して、工作物30の端面に滑りを生じることなく接触させ、工作物30の連れ回りを生じさせることができる。これによっても工作物の端面に傷が発生することが防止される。
また、摩擦接触部材3を工作物30の端面に押し当てて連れ回りさせるため、従来の工作物の凹部等に係合させるものと異なり、工作物30に端面があるものであれば、形状に限定されることなく適用でき、汎用性が高い。また、工作物30に捨てボスやケレ等が不要であり、通常のセンタと同様に扱いができるため、取り付け、取り外しが容易であり、加工の自動化が可能となる。
【0038】
芯押軸側の工作物回転治具1Aは、工作物30の回転を芯押軸22に伝え、芯押軸22を工作物30と同期して回転させる。そのため、芯押軸側のセンタピース5と工作物30のセンタ孔31,32とで相対回転が生じず、摩耗が防止される。また、摩擦接触部材3の摩擦によって回転伝達するため、芯押軸側の工作物回転治具1Aで工作物30の端面に傷が生じることが防止される。
なお、デッドセンタでは停止しているため抵抗になるが、この実施形態のように、芯押軸22を連れ回りさせるようにしたライブセンタは、若干の抵抗は生じても、駆動力ロスが非常に少ない。
【0039】
なお、上記実施形態では、芯押軸22を回転自在として工作物30と連れ回りを生じるようにしたが、芯押軸22にモータ等の駆動源(図示せず)を連結して芯押軸22を主軸21と同期して回転させ、工作物30に両端から回転を与えるようにしても良い。その場合、芯押軸22側の工作物回転治具1Aの摩擦接触部材3を介して、芯押軸22の回転を工作物30に与えることになる。
また、上記実施形態では、主軸21と芯押軸22の両方に工作物回転治具1,1Aをそれぞれ取付けるようにしたが、主軸21と芯押軸22のいずれか一方に上記の工作物回転治具1,1Aを取付けても良い。
【0040】
図5および図6は、工作機械の工作物回転治具の他の実施形態を示す。この工作物回転治具1では、図1〜図4の実施形態において、摩擦接触部材3の先端部3aを断面L字状とし、その先端側に突出する縦片部分3aaをセンタピース5に近接した内径側に偏らせて配置している。また、摩擦接触部材3がその先端部3aの形状によって妨げられることなく環状蓋体8の摩擦接触部材ガイド孔11に挿入されるように、環状蓋体8は、外径側蓋部8Aと内径側蓋部8Bに分割して形成されており、これら両蓋部8A,8Bを組み合わせることで、各摩擦接触部材ガイド孔11が構成される。外径側蓋部8Aは、ガイド孔11であり摩擦接触部材3aが回転可能になってしまう。摩擦接触部材3aが回転せず定位置で接触できるように、内径側蓋部8Bの切り欠きにより方向を決められている。外径側二部( 8) Aは、図1〜図3の実施形態における環状蓋体8の場合と同様に、複数のボルト10により環状体7と共に治具本体2に締付け固定される。内径側蓋部8Bは、別の複数のボルト27により環状体7の先端に締付け固定される。その他の構成は図1〜図4に示した実施形態の場合と略同様であり、ここではその説明を省略する。
【0041】
このように、この実施形態の工作物回転治具1では、摩擦接触部材3の先端部3aを断面L字状とし、その先端側に突出する縦片部分3aaをセンタピース5に近接した内径側に偏らせて配置しているので、小径の工作物30であっても、その一端面に各摩擦接触部材3を確実に押し当てることができる。
【0042】
なお、上記した各実施形態では、工作物回転治具1や工作物回転治具セットAを用いた円筒研削盤からなる工作機械20で工作物30の外径研削加工を行う例について説明したが、工作機械20は円筒研削盤に限らず、外径研削以外の加工、例えば外径旋削を行う旋盤等であっても良く、その場合にも高い加工精度を得ることができ、上記と同様な各効果が得られる。
また、この発明の工作機械および加工方法は、特に、工作物30が転がり軸受部品である場合に、より効果的となる。ここで言う転がり軸受部品は、転動体や、軌道輪である内輪や外輪等を言う。転がり軸受は、特に軸受形式を問わないが、例えば次の自動調心転がり軸受に適用できる。
【0043】
図5は、上記いずれかの構成の工作機械20および加工方法で加工する加工物30となるスフェリカルローラーを備えた複列の自動調心ころ軸受の一例を示す。この自動調心ころ軸受60は、内輪61の各列の軌道面63と外輪62の球面状の軌道面64との間に、転動体として、複列にスフェリカルローラー65を介在させたものである。各列のスフェリカルローラー65は、各列毎に設けられた保持器66により保持される。
この自動調心ころ軸受60における転がり軸受部品であるスフェリカルローラー65が、図3等に示した工作物30として、上記いずれかの構成の工作機械20および加工方法により加工される。
【符号の説明】
【0044】
1,1A…工作物回転治具
2…治具本体
3…摩擦接触部材
4…接触部材付勢手段
5…センタピース
20…工作機械
21…主軸
22…芯押軸
30…工作物
31,32…センタ孔
51…加工手段
A…工作物回転治具セット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を互いの間で支持する主軸および芯押軸と、前記主軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具と、前記主軸と芯押軸で支持された工作物に加工を施す加工手段とを備えた工作機械において、
前記工作物回転治具が、前記主軸の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体と、この治具本体に取付けられ工作物の一端面に形成されたセンタ孔に嵌合するセンタピースと、前記治具本体の軸心回りに配置されて、それぞれ軸方向に進退自在に支持され、先端面が工作物の端面に当接する平面状の接触面とされた複数の摩擦接触部材と、これら各摩擦接触部材に対して個別に前記治具本体内に設けられ、各摩擦接触部材を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段とを有することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
請求項1において、前記工作物回転治具の前記接触部材付勢手段がばねである工作機械。
【請求項3】
請求項1において、前記工作物回転治具の前記接触部材付勢手段が空気圧シリンダである工作機械。
【請求項4】
請求項1において、前記工作物回転治具の前記接触部材付勢手段が油圧シリンダである工作機械。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記工作物回転治具の前記センタピースを前記治具本体に固定状態に取付けた工作機械。
【請求項6】
工作物を互いの間で支持する主軸および芯押軸と、前記芯押軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具と、前記主軸と芯押軸で支持された工作物に加工を施す加工手段とを備えた工作機械において、
前記工作物回転治具が、前記芯押軸の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体と、この治具本体に取付けられ工作物の一端面に形成されたセンタ孔に嵌合するセンタピースと、前記治具本体の軸心回りに配置されて、それぞれ軸方向に進退自在に支持され、先端面が工作物の端面に当接する平面状の接触面とされた複数の摩擦接触部材と、これら各摩擦接触部材に対して個別に前記治具本体内に設けられ、各摩擦接触部材を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段とを備えることを特徴とする工作機械。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の工作機械において、前記芯押軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具を設け、
この芯押軸と工作物との間で回転を伝達する工作物回転治具が、前記芯押軸の先端に同軸状に着脱可能に取付けられる治具本体と、この治具本体に取付けられ工作物の一端面に形成されたセンタ孔に嵌合するセンタピースと、前記治具本体の軸心回りに配置されて、それぞれ軸方向に進退自在に支持され、先端面が工作物の端面に当接する平面状の接触面とされた複数の摩擦接触部材と、これら各摩擦接触部材に対して個別に前記治具本体内に設けられ、各摩擦接触部材を先端側に付勢する複数の接触部材付勢手段とを備えることを特徴とする工作機械。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項の工作機械において、前記加工手段が、工作物の外径研削加工を行う工具を有する工作機械。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項の工作機械において、前記加工手段が、工作物の外径研削加工を行う工具を有する工作機械。
【請求項10】
請求項8に記載の工作機械を用いて工作物の外径研削加工を行う加工方法。
【請求項11】
請求項9に記載の工作機械を用いて工作物の外径旋削加工を行う加工方法。
【請求項12】
請求項10において、前記工作物が、転がり軸受のころである加工方法。
【請求項13】
工作機械の主軸と芯押軸とで転がり軸受部品を支持し、転がり軸受部品を加工する加工方法であって、転がり軸受部品の一端面にセンタ孔に形成するとともに、センタピースを嵌合させ、前記センターピースを介して前記主軸の回転を、転がり軸受部品に伝達して、前記センタ孔の軸心周りに複数の摩擦接触部材を配置して、摩擦接触部材を転がり軸受部品に付勢させたことを特徴とする転がり軸受部品の加工方法。




























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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