説明

工具ホルダ

【課題】内装した引きボルトの締め込みでドリル、エンドミル、リーマなどの各種工具を保持できるようにした工具ホルダにおいて、引きボルトの締め込み時にコレットを真っ直ぐに引き上げられるようにする。
【解決手段】コレット3は、ホルダ本体2のコレット受入部11に対してガイド孔20の直径よりも小さくされたコレット本体部14と、テーパ孔21と嵌合可能とされたテーパ状の頭部15と、コレット本体部14における軸方向の中間部に設けられてホルダ本体2のコレット受入部11に対してガイド孔20の周面に接するガイド部30とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル、エンドミル、リーマなどの各種工具を保持する工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の工具ホルダには、工作機械に装着されるホルダ本体と、このホルダ本体のコレット受入部に保持されるコレットと、コレットと連結可能な引きボルトとを有したものがある(例えば、特許文献1や2等参照)。
ホルダ本体のコレット受入部には先方へ向けて拡大傾向とされたテーパ孔が形成され、コレットには先端ほど拡大傾向となるテーパ状の頭部が設けられている。コレットの頭部は、テーパ孔に嵌合されるようになっている。なお、コレットの頭部にはドリル、エンドミル、リーマなどの各種工具を装着させるための工具挿入孔が形成され、この工具挿入孔のまわりに、軸心から径方向外方へ向けた切り割りが放射状配置で複数本形成されている。
【0003】
この種の工具ホルダでは、コレットの工具挿入孔へ工具を挿入させ、ホルダ本体の基部側から六角レンチ等のレンチを差し込んで引きボルトへ係合させ、このレンチを回転操作させることで引きボルトとコレットとの螺合を締め込んだり緩めたりして、コレットをホルダ本体に保持・解放するようになっている。
【特許文献1】特開平8−90318号公報
【特許文献2】実用新案登録第3013943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の工具ホルダでは、引きボルトをコレットの後端部へ螺合連結させる場合にあって、片当たり現象が生じることがあり、この現象が原因でコレットの後端部に片膨れが起こることがあった。このような片膨れはコレットの後端部においてその外周面と雌ねじ部(引きボルトとの螺合連結部)との同心度に誤差を生じさせることになる。
これらのことから、レンチの回転操作で引きボルトを締め込むときに、ホルダ本体の軸心(工作機械におけるスピンドルの回転中心)に対してコレットを真っ直ぐに引き上げられないということがあった。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、内装した引きボルトの締め込みでドリル、エンドミル、リーマなどの各種工具を保持できるようにした工具ホルダにおいて、引きボルトの締め込み時にコレットを真っ直ぐに引き上げられるようにできる工具ホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る工具ホルダは、工作機械のスピンドルへ装着されるホルダ本体と、このホルダ本体のコレット受け入れ部に保持されるコレットと、コレットと連結可能な引きボルトとを有している。
前記ホルダ本体のコレット受入部には、コレットを案内するガイド孔と、このガイド孔から先方へ向けて拡大傾向とされたテーパ孔とが形成されている。
前記コレットは、前記ホルダ本体のコレット受入部に対してガイド孔の直径よりも小さくされたコレット本体部と、前記テーパ孔と嵌合可能とされたテーパ状の頭部と、前記コレット本体部における軸方向の中間部に設けられていてガイド孔の周面に接するガイド部とを有している。
【0007】
このようにコレットのコレット本体部は、ホルダ本体に設けられたコレット受入部のガイド孔に対してその周面とは全周的に接触せず、しかもコレット本体部における軸方向の中間部にはガイド部が設けられて、このガイド部がガイド孔にガタツキ無く嵌合する構造となっている。
換言すれば、コレットは、テーパ頭部とガイド部との軸方向に離れた2箇所だけがホルダ本体のコレット受入部に対する全周的な接触状態(ガタツキの無い嵌合状態)となるのであって、それら以外の部分はガイド孔に接触しない状態が保たれるので、ホルダ本体の軸心(工作機械におけるスピンドルの回転中心)に対する軸平行が保たれるようになっている。
【0008】
従って、引きボルトをコレットの後端部へ螺合連結させる場合にあって、コレットの後端部に片膨れが生じたとしても、この部分がガイド孔に当たるとがなく、以上によってホルダ本体の軸心に対してコレットを真っ直ぐに引き上げることができる。
なお、引きボルトには、軸方向に貫通するクーラント孔を形成するのが好適である。
このようにすると、コレットに対して工具を保持させ、またホルダ本体の基部側をスピンドルに装着させたうえで、工作機械のスピンドル側からクーラントを供給することにより、クーラントを、ホルダ本体内から引きボルトのクーラント孔へと誘導し、工具の先端側へ供給させるようなことができる。
【0009】
これにより加工時の冷却や潤滑が行えるが、このとき同時にホルダ本体や引きボルト及びコレット自体も冷却され、荒熱が除去されることになるので、コレットの後端部が熱的影響で片膨れ等を起こすのを防止できる効果が期待できる。このことが、次回、引きボルトをコレットの後端部へ螺合連結させる場合にあって、ホルダ本体の軸心に対してコレットを真っ直ぐに引き上げる利点に繋がるのである。
また、前記コレットの後端部には、引きボルトが螺合する雌ねじ部が形成されており、引きボルトは、そのネジ山頂部が平坦状に形成されている。
【0010】
これによれば、引きボルトの外径を小さくすることができ、これに合わせてコレットの後端部のネジ孔を小さくし、この部分の肉厚を大きくしてその強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引きボルトの締め込み時にコレットを真っ直ぐに引き上げられるようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図3は、本発明に係る工具ホルダ1の一実施形態を示している。この工具ホルダ1は、ホルダ本体2とコレット3と引きボルト4とを有している。
ホルダ本体2は、基部側とする方の端部に工作機械のスピンドルへ装着するためのシャンク部10が設けられ、これとは反対側の先端部に、コレット3を差し込むためのコレット受入部11が設けられたものである。
本実施形態において、コレット受入部11は細径のまま突出する中空軸として形成されている。シャンク部10とコレット受入部11との間には、外周にV溝12が形成された自動工具交換用のフランジ部13が設けられている。なお、シャンク部10は基部端寄りほど徐々に径小傾向となるテーパシャンクとして形成されている。
【0013】
コレット3は、ホルダ本体2のコレット受入部11へ挿入可能とされた円柱状のコレット本体部14に対してその先端寄りほど拡大傾向となるテーパ頭部15が形成されたものである。テーパ頭部15はその軸心にドリル、エンドミル、リーマなどの各種工具Tを装着させるための工具挿入孔16が形成されている。この工具挿入孔16まわりには、軸心から径方向外方へ向けた切り割りが放射状配置で複数本形成されている。また、コレット本体部14の後端部には雌ねじ部17が形成されている。
引きボルト4は、ホルダ本体2に対してその基部側からボルト頭部4aを後ろ向きにした状態で差し込むようにされたものである。この引きボルト4は、ホルダ本体2のコレット受入部11側からコレット3のコレット本体部14が挿入されたときに、このコレット本体部14に設けられた雌ねじ部17に対してボルト先端を螺合連結させることが可能となっている。
【0014】
前記したホルダ本体2の内部には当該ホルダ本体2の軸心に沿って基部側と先端部側との間を貫通する状態で孔が形成されており、このうちコレット受入部11に相当する領域の孔は、ガイド孔20とテーパ孔21とが相互連通したものとして形成されている。
テーパ孔21は、コレット3のテーパ頭部15とテーパ嵌合可能とするためのもので、このテーパ孔21の方が先端側配置とされ、ガイド孔20から先方へ向けて拡大傾向となっている。
ホルダ本体2の内部を貫通する孔のうち、ガイド孔20及びテーパ孔21を除く領域には、ホルダ本体2の基部寄りにプルスタッド取付孔22が設けられている。このプルスタッド取付孔22とコレット受入部11のガイド孔20との間には、引きボルト4のボルト頭部4aを収納する中間孔23が設けられている。これらプルスタッド取付孔22及び中間孔23を介し、引きボルト4がガイド孔20へ向けて差し込まれる。
【0015】
プルスタッド取付孔22には雌ねじ24が形成され、プルスタッド(図示略)の着脱が自在に行えるようになっている。また中間孔23は引きボルト4のボルト頭部4aを回転自在な状態で収納できる内径とされている。引きボルト4が六角穴付きボルトである場合には、ボルト頭部4aの外周面に対してそれほど大きなギャップは必要ない。なお、本実施形態において中間孔23はプルスタッド取付孔22よりは一段径小としてある。
コレット受入部11のガイド孔20は、コレット3のコレット本体部14が挿入可能となるように、コレット本体部14よりも径大とされている。また、ガイド孔20は、引きボルト4のボルト頭部4aよりは径小となる内径で形成されている。このガイド孔20と中間孔23との境には段付き部27が形成されるようになっており、この段付き部27で引きボルト4のボルト頭部4aが係止されるようになっている。
【0016】
なお、本実施形態においてホルダ本体2の中間孔23には、引きボルト4のボルト頭部4aがスムーズに回転できるようにするため、段付き部27とボルト頭部4aとの間に、摩擦係数の小さな素材で形成されたスリップ座28を内装させたものとしてある。
コレット本体部14の軸方向の中間部には、コレット本体部14よりも径大化されたガイド部30が設けられている。このガイド部30は、ホルダ本体2におけるコレット受入部11のガイド孔20に対し、その軸方向の一部でガタツキ無く嵌合する外径に形成されている。
【0017】
すなわち、ホルダ本体2のコレット受入部11に対してコレット3を挿入した場合、コレット3は、テーパ頭部15とガイド部30との軸方向に離れた2箇所がコレット受入部11(テーパ孔21及びガイド孔20)に対する全周的な接触状態(ガタツキの無い嵌合状態)となる。そのためコレット3は、ホルダ本体2の軸心(工作機械におけるスピンドルの回転中心)に対して軸平行が保たれるようになっている。
図3に示すように、ガイド部30の長手方向両端部には面取り31が施されており、ホルダ本体2のコレット受入部11に対するコレットの挿入や脱出が円滑且つ容易に行われるようになっている。
【0018】
コレット本体部14をガイド孔20の周面と全周的に未接触状態とさせるため、コレット本体部14の外径はある程度制限されたものとなる(ガイド孔20の内径を基準として考えた場合にコレット本体部14の外径を径小化したことになる)が、これによってコレット本体部14の剛性が低下しないように、次のような対応をしてある。
すなわち、引きボルト4は、ネジ山頂部を平坦状に形成し、この引きボルト4の外径を径小化し、コレット3の後端部に設ける雌ねじ部17を、引きボルト4の径小化に対応した雌ねじ径として形成する。そして、この雌ねじ径に強度確保上の最小肉厚を加えた外径寸法として、コレット本体部14を形成する。このようにすることで、コレット3の後端部は、所定肉厚で所望の強度が確保されたものとなるのである。なお、引きボルト4のネジ山頂部を平坦状に形成することで、通常のネジ山の場合よりも、引きボルト4の外径を約0.1〜0.2mm程度小さくすることができる。
【0019】
コレット本体部14の基端側に設けられた雌ねじ部21と、テーパ頭部15に設けられた工具挿入孔16とは相互連通する状態とされている。そのため、結果としてこのコレット3は軸方向に貫通する中心孔32が形成されていることになる。そしてこれに対応させるようにして、引きボルト4には軸方向に貫通するクーラント孔33(図2参照)が形成されている。
従って、工作機械のスピンドル側からホルダ本体2内へクーラントを供給させた場合、引きボルト4のクーラント孔33を介してコレット3の中心孔32へとクーラントを誘導させることができ、コレット3の切り割り部から工具Tに沿うようにしてその先端側、即ち、工作物の加工位置へとクーラントを噴出させることができる。
【0020】
なお、本実施形態においてホルダ本体2の中間孔23には、引きボルト4のボルト頭部4aが抜けないようにするためのストッパ部材35を内装させたものとしてある。このストッパ部材35は、引きボルト4の回転操作に用いるレンチを通過させるためのレンチ通孔36が設けられた短筒状のものであって、ネジ嵌め構造、圧入構造、接着構造などによりホルダ本体2の中間孔23内で位置固定されている。
レンチ通孔36は必要以上に径大とならないようにしてあり、引きボルト4のボルト頭部4aより径小となる(ボルト頭部4aが非通過となる)関係が維持されている。
【0021】
このようなことから、引きボルト4をコレット3に対する螺合連結が緩む方向に回転させていった場合に、引きボルト4がホルダ本体2の基部側へ後退するように挙動したとしたとしても、この引きボルト4のボルト頭部4aがストッパ部材35に当接した段階で引きボルト4の後退は阻止され、これを受けてコレット3が前進し、ホルダ本体2のコレット受入部11から押し出されるようになる。
すなわち、このストッパ部材35は、コレット3に保持された工具Tを解放する場合のアンクランプとしての作用を奏するもので、このストッパ部材35を設けることで引きボルト4のボルト頭部4aを叩き出すようなことをする必要がなくなる。
【0022】
次に、工具ホルダ1の使用方法を説明する。工作機械のスピンドルから外した状態の工具ホルダ1に対し、ホルダ本体2の基部側からレンチを差し込み、引きボルト4のボルト頭部4aに係合させる。この状態でレンチを回転操作することで引きボルト4を緩め、コレット3を押し出し、場合によってはコレット3をホルダ本体2から取り出し、必要に応じて交換する。
これによってコレット3は工具挿入孔16が解放状態となっているのでこの工具挿入孔16に対して工具Tのシャンク部を挿入し、このコレット3をホルダ本体2のコレット受入部11へ差し込んだ状態に戻す。
【0023】
ホルダ本体2のコレット受入部11に対してコレット3を差し込んだ場合、コレット3は、テーパ頭部15とガイド部30との軸方向に離れた2箇所がコレット受入部11(テーパ孔21及びガイド孔20)に対する全周的な接触状態(ガタツキの無い嵌合状態)となり、それら以外の部分(コレット本体部14)はガイド孔20に接触しない状態が保たれる。
そのためコレット3は、ホルダ本体2の軸心(工作機械におけるスピンドルの回転中心)に対して軸平行が保たれるようになる。このようなことから、この状態でレンチを前記と逆方向へ回転操作し、ホルダ本体2のコレット受入部11に対して引きボルト4を引き込ませても、コレット3の後端部に片膨れが生じたとしてもこの部分はコレット3のガイド孔20の周面に当たることがなく、これによって、ホルダ本体2の軸心に対してコレット3を真っ直ぐに引き上げることができる。
【0024】
かくしてコレット3のテーパ頭部15はホルダ本体2のテーパ孔21内へとテーパ嵌合され、縮径作用を受けるようになり、その結果、工具挿入孔16内の工具Tが締め込まれて固定状態となる。
その後、ホルダ本体2の基部側からレンチを抜き出し、この工具ホルダ1のシャンク部10を従来公知の手順によって工作機械のスピンドル装着する。工作機械の作動による加工時には、スピンドル内からクーラントを供給することで、クーラントがホルダ本体2内を介して引きボルト4のクーラント孔33へと流入し、コレット3の切り割り部から工具Tに沿うようにしてその先端側へと噴出されるようになる。
【0025】
これにより工具T及び工作物の加工部は冷却と潤滑が図られることになるが、このとき同時にホルダ本体2や引きボルト4及びコレット3自体も冷却され、荒熱が除去されることになる。そのため、コレット3の後端部が熱的影響で片膨れ等を起こすのを防止できる。
このことが、次回、引きボルト4をコレット3の後端部へ螺合連結させる場合にあって、ホルダ本体2の軸心に対してコレット3を真っ直ぐに引き上げる利点に繋がる。
ところで、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0026】
例えばホルダ本体2の細部形状(シャンク部10の構造やコレット受入部11の構造など)は何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る工具ホルダの一実施形態を示した側断面図である。
【図2】図1の主要部を拡大して示した側断面図である。
【図3】図2のA部拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
1 工具ホルダ
2 ホルダ本体
3 コレット
4 引きボルト
4a ボルト頭部
10 シャンク部
11 コレット受入部
14 コレット本体部
15 テーパ頭部
17 雌ねじ部
20 ガイド孔
21 テーパ孔
30 ガイド部
33 クーラント孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械のスピンドルへ装着されるホルダ本体(2)と、このホルダ本体(2)のコレット受け入れ部に保持されるコレット(3)と、コレット(3)に連結可能な引きボルト(4)とを有し、
前記ホルダ本体(2)のコレット受入部(11)には、コレット(3)を案内するガイド孔(20)と、このガイド孔(20)から先方へ向けて拡大傾向とされたテーパ孔(21)とが形成されており、
前記コレット(3)は、前記ホルダ本体(2)のコレット受入部(11)に対してガイド孔(20)の直径よりも小さくされたコレット本体部(14)と、前記テーパ孔(21)と嵌合可能とされたテーパ状の頭部(15)と、前記コレット本体部(14)における軸方向の中間部に設けられていて前記ガイド孔(20)の周面に接するガイド部(30)とを有していることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
前記引きボルト(4)には、軸方向に貫通するクーラント孔(33)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項3】
前記コレット(3)の後端部には、引きボルト(4)が螺合する雌ねじ部(17)が形成されており、引きボルト(4)は、そのネジ山頂部が平坦状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の工具ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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