説明

工具ホルダ

【課題】加工時に生じる切り粉や切り屑といった加工屑を合理的に排出するのに有効な技術を提供する。
【解決手段】工具ホルダ100のハウジングを形成するホルダ本体と、工具200を把持する工具把持機構120と、空気供給源が接続される第1開口114aと、導出開口116と、第1開口114aと導出開口116とを接続し、空気供給源から供給された空気が第1開口114aから導出開口116へと流通する空気流通経路143、146と、空気流通経路143、146において流路断面積が相対的に絞られた絞り流路152と、絞り流路152と工具200の工具先端領域Bとを接続し、絞り流路152を空気が流通する際に生じる負圧により工具先端領域Bの空気を空気流通経路へと吸引する空気吸引経路とを含み、工具200の工具先端部と工具後端部との間を貫通する貫通孔210によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械加工に用いる工具を把持し、所定の加工作業に供するための工具ホルダの構築技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機械加工に用いる工具において、加工時に生じる切り粉や切り屑といった加工屑を排出する排出構造が種々提案されている。例えば、下記特許文献1には、転削工具の切り屑排出機構が開示されている。この切り屑排出機構は、吸引機構が転削工具の切り屑排出空間に外付けされた構成を有するところ、工具を把持する工具ホルダにおいてこの種の排出構造を採用する場合には、構造が複雑化しコストが嵩むという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−43988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、機械加工に用いる工具を把持する工具ホルダにおいて、加工時に生じる切り粉や切り屑といった加工屑を合理的に排出するのに有効な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明が構成される。なお、本発明は、工具を把持する工具ホルダを対象とするものであって、ここでいう「工具」には、穴あけ加工、研削加工、研磨加工、締付け加工等に用いられる工具が広く包含される。
【0006】
本発明にかかる工具ホルダは、長軸状に延在する工具を把持(「挟持」ないし「保持」ともいう)し、所定の加工作業に供するためのホルダとして構成され、ホルダ本体、工具把持機構、空気導入口、空気導出口、空気流通経路、絞り流路及び空気吸引経路を含む。ここでいう「所定の加工作業」として典型的には、穴あけ加工、研削加工、研磨加工、締付け加工等の作業が挙げられる。なお、工具ホルダによって把持される工具は、当該工具ホルダの一構成要素であってもよいし、或いは当該工具ホルダとは別の要素として構成されてもよい。すなわち、工具が把持された状態の工具ホルダのみならず、工具が把持される前の状態の工具ホルダも、本発明の「工具ホルダ」の範疇に含まれる。
【0007】
ホルダ本体は、工具ホルダのハウジングを形成する。このハウジングは、工具ホルダ自体の外郭をなすハウジングとして構成されてもよいし、或いは工具が工具ホルダごと加工機に取り付けられた状態では、工具ホルダ自体の外郭をなすハウジングと加工機のハウジングとによって構成されてもよい。工具使用の際には、このホルダ本体に取り付けられた工具把持機構を介して工具が把持される。
【0008】
空気導入口は、ホルダ本体に設けられ、空気供給源が接続される開口部分として構成される。空気供給源から供給された空気がこの空気導入口を通じてホルダ本体に導入される。空気導出口は、ホルダ本体に設けられた開口部分として構成される。この空気導出口を通じてホルダ本体から空気が排出される。空気流通経路は、空気導入口と空気導出口とを接続し、空気供給源から供給された空気が空気導入口から空気導出口へと流通する経路として構成される。絞り流路は、空気流通経路において流路断面積が相対的に絞られた領域、すなわち当該空気流通経路の他の領域よりも流路断面積が抑えられた領域として構成される。これにより、空気流通経路を流通する空気は、絞り流路を通過する際に流速が相対的に高められる。空気吸引経路は、空気流通経路の絞り流路と工具の工具先端領域とを接続し、絞り流路を空気が流通する際に生じる負圧により工具先端領域の空気を空気流通経路へと吸引する経路として構成される。この空気吸引経路は、工具内の流路によって構成されてもよいし、或いは工具に沿って取り付けられる別部材によって構成されてもよい。
【0009】
上記構成によれば、工具による被加工材の加工時に空気供給源の空気を空気導入口からホルダ本体に導入することによって、加工時に生じた切り粉や切り屑といった加工屑を、工具先端領域の空気とともに空気吸引経路を通じて空気流通経路へと吸引し、空気流通経路を通じてホルダ本体の空気導出口から排出することが可能となる。本構成では、ホルダ本体を利用して空気流通経路を構成するため合理的である。
【0010】
また、前記の空気吸引経路は、工具の工具先端部と工具後端部との間を貫通する貫通孔によって構成されるのが好ましい。このような構成によれば、空気吸引経路に関し、工具内の貫通孔を利用した合理的な構造が実現される。
【0011】
また本発明にかかる更なる形態の工具ホルダでは、前記のホルダ本体は、工具の長軸方向に沿って長尺状に延在し、当該ホルダ本体のホルダ先端側に工具把持機構が取り付けられ、工具把持機構とは反対側に空気導入口が設けられる構成であるのが好ましい。また、前記の空気流通経路は、第1の流通路、第2の流通路及び第3の流通路を含む構成であるのが好ましい。第1の流通路は、空気導入口からホルダ本体を貫通しつつ当該ホルダ本体の延在方向に沿って工具把持機構側へと延在する流通路として構成される。第2の流通路は、第1の流通路に連通して設けられ、ホルダ本体を貫通しつつ第1の流通路とは反対方向へと延在する流通路として構成される。第3の流通路は、第2の流通路に連通して設けられ、ホルダ本体を貫通しつつ当該ホルダ本体の径方向に延在する流通路として構成される。
このような構成では、長尺状に延在するホルダ本体のうち、工具から離間したホルダ後端側の空気導入口から導入した空気を、工具の貫通孔に近接した位置まで移送することで加工屑が吸引された後、加工屑を含む空気が工具から離間した位置まで移送されてホルダ本体外へと排出される。これにより、比較的簡単な構造によって加工屑の吸引及び排出を行なうことが可能となる。また、ホルダ本体の延在方向に関し、加工屑を含む空気の排出先に自由度を持たせることが可能となる。
【0012】
また本発明にかかる更なる形態の工具ホルダでは、前記のホルダ本体は、加工機側の駆動部に接続され、当該駆動部によって工具の長軸まわりに回転駆動される回転体として構成されるのが好ましい。また、工具ホルダは、固定部材、排出口及び誘導部を備える構成であるのが好ましい。固定部材は、加工機側に固定され、ホルダ本体を前記工具の長軸まわりの回転が可能となるように支持する部材として構成される。排出口は、固定部材に設けられた開口部分として構成される。誘導部は、固定部材に取り付けられ、空気導出口から導出された空気を前記排出口へと誘導(ガイド)する部材として構成される。
このような構成によれば、被加工材の加工に際しホルダ本体が回転駆動されるタイプの工具ホルダにおいて、回転側部材としてのホルダ本体の空気導出口から導出された、加工屑を含む空気を、固定側部材に設けられた排出口を通じて一定方向に排出することが可能となる。
【0013】
また本発明にかかる別の形態の工具ホルダでは、前記のホルダ本体は、工具の長軸方向に沿って長尺状に延在し、当該ホルダ本体のホルダ先端側に工具把持機構が取り付けられ、工具把持機構とは反対側に空気導入口が設けられる構成であるのが好ましい。また、前記の空気流通経路は、第1の流通路、第2の流通路及び排出口を含む構成であるのが好ましい。第1の流通路は、空気導入口からホルダ本体を貫通しつつ当該ホルダ本体の延在方向に沿って工具把持機構側へと延在する流通路として構成される。第2の流通路は、第1の流通路に連通して設けられ、ホルダ本体を貫通しつつ第1の流通路とは反対方向へと延在する流通路として構成される。排出口は、ホルダ本体の空気導入口側において第2の流通路に連通して設けられた開口部分として構成される。
このような構成では、長尺状に延在するホルダ本体のうち、工具から離間したホルダ後端側の空気導入口から導入した空気を、工具の貫通孔に近接した位置まで移送することで加工屑が吸引された後、加工屑を含む空気が工具から離間した位置、特にホルダ本体の空気導入口側の排出口まで移送されてホルダ本体外へと排出される。これにより、比較的簡単な構造によって加工屑の吸引及び排出を行なうことが可能となる。また、ホルダ本体の延在方向に関し、加工屑を含む空気の排出先に自由度を持たせることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、機械加工に用いる工具を把持する工具ホルダにおいて、加工時に生じる切り粉や切り屑といった加工屑を合理的に排出することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の「工具ホルダ」にかかる一実施の形態の工具ホルダ100の縦断面構造を示す図である。
【図2】図1中の工具ホルダ100のA−A線に関する断面構造を示す図である。
【図3】図1及び図2中の規制部材170の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明における一実施の形態の工具ホルダの具体的な構成及び作用効果を、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1には、本発明の「工具ホルダ」にかかる一実施の形態の工具ホルダ100の縦断面構造が図1に示され、図2には図1中の工具ホルダ100のA−A線に関する断面構造が示されている。また、図3には、図1及び図2中の規制部材170の斜視図が示されている。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態の工具ホルダ100は、被加工物(図示省略)の所定の加工作業を行なう工具200を把持(「挟持」ないし「保持」ともいう)するホルダとして構成される。この工具ホルダ100は、長軸状の工具200を把持して当該工具200ごと、加工機10に取り付けられる。ここでいう「所定の加工作業」として典型的には、穴あけ加工、研削加工、研磨加工、締付け加工等の作業が挙げられる。
【0019】
加工機10は、周知の工作機本体として構成され、フレーム12、スピンドル14及び軸受16を備える。スピンドル14は、テーパー形状の装着孔15を有し、この装着孔15に工具ホルダ100の後述する主軸110が装着される。また、このスピンドル14は、固定側部材としてのフレーム12に対し軸受16を介して工具200の軸周りに回転駆動される。ここでいうスピンドル14が、本発明における「加工機側の駆動部」に相当する。
【0020】
なお、本明細書中では、工具ホルダ100の延在方向に関し工具200が把持される側、すなわち図1中に記号「FR」で示す図中右側を「ホルダ先端側」として規定し、その反対側、すなわち図中左側を「ホルダ後端側」として規定する。
【0021】
工具ホルダ100は、概して主軸110、工具把持機構120、ケース130、吸引機構140、排出部材160、規制部材170及び位置決め機構180を備える。
【0022】
主軸110は、工具ホルダ100のハウジングを形成するホルダ本体として構成される部材であり、全体として工具200の軸方向に沿って長尺状に延在する金属製部材とされる。この主軸110は、そのホルダ後端側の後端部110aが加工機10のスピンドル14に設けられた装着孔15に装着され、被加工材の加工時にスピンドル14によって回転駆動される。この主軸110の先端部110b(ホルダ先端側)に工具把持機構120が一体状に取り付けられる。
【0023】
また、この主軸110は、収容空間112及び連通孔114を備える。収容空間112は、主軸110の中間部110cにおいて主軸110の延在方向に長尺状に延在するように形成され、吸引機構140を収容するための収容空間として構成される。連通孔114は、主軸110の後端部110aにおいて、スピンドル14側の第1開口114aと収容空間112側の第2開口114bとの間を連通する連通孔として構成される。加工機10に主軸110が装着された状態において、この連通孔114の第1開口114aが空気供給源(図示省略)に接続される。第1開口114aは、空気供給源からの空気を主軸110内に導入する開口部分であり、主軸110のうち工具把持機構120とは反対側の後端部110aに設けられる。ここでいう第1開口114aが、本発明における「空気導入口」に相当する。
【0024】
工具把持機構120は、長軸状に構成された工具200の工具後端部202を把持する機構として構成される。工具200は、その長軸方向に沿って工具先端部201と工具後端部202との間に長尺状に延在する貫通孔210を備える。ここでいう貫通孔210が、本発明における「貫通孔」に相当し、また後述する「空気吸引経路」を構成する。工具200の工具先端部201は、工具200の各部位のうち被加工物側の工具先端領域Bに面する部位として構成され、工具後端部202は、工具200の各部位のうち吸引機構140に面する部位として構成される。この工具先端部201は、被加工物の加工にかかる加工刃として構成される。この工具200として、典型的には穴あけ加工、研削加工、研磨加工、締付け加工等に用いられる工具が挙げられる。ここでいう工具把持機構120が、本発明における「工具把持機構」に相当する。また工具把持機構120によって把持される工具200が、本発明における「工具」に相当する。
【0025】
ケース130は、加工機10側に固定される円筒状部材として構成され、その筒内にベアリング131を介して主軸110の中間部110cを収容する。このケース130によって、主軸110の中間部110cの工具200の長軸まわりの回転が可能となるように支持される。
【0026】
吸引機構140は、被加工物の加工時に工具先端領域Bで発生した切り粉や切り屑といった固形状の加工屑を吸引する吸引機構として構成され、主軸110内に一体状に組み込まれる。この吸引機構140は、空気流通部材141及び絞り部材150を含む構成とされる。この吸引機構140は主軸110に組み込まれることによって、主軸110のハウジング部分を構成するものであり、主軸110とともに本発明における「ホルダ本体」を構成する。
【0027】
空気流通部材141は、図1及び図2に示すように、導入空間142、第1流通路143、反転空間144、合流空間145、第2流通路146及び導出空間147を含む構成とされる。
【0028】
導入空間142は、主軸110に形成された連通孔114の第2開口114bに接続される開口部分として構成される。主軸110の連通孔114を流通した空気は、この導入空間142を通じて第1流通路143へと導入される。
【0029】
第1流通路143は、導入空間142のホルダ先端側に接続され、この導入空間142と反転空間144との間で主軸110の延在方向に沿って延在する流通路とされる。この第1流通路143は、図1中では破線で示され、図2中では実線で示されている。この第1流通路143は、前述の連通孔114及び導入空間142とともに、主軸110ないし空気流通部材141を貫通しつつ主軸110の延在方向に沿って工具把持機構120側へと延在する流通路を形成しており、これら第1流通路143、連通孔114及び導入空間142によって本発明における「第1の流通路」が構成される。
【0030】
反転空間144は、第1流通路143のホルダ先端側に接続されるとともに、反転空間144のホルダ先端側に接続される空間部分として構成される。従って、第1流通路143をホルダ先端側(図1中右側)へと流れた空気は、反転空間144で流れ方向が逆向きに反転されてホルダ後端側(図1中左側)へと流れた後、合流空間145へと移流する。
【0031】
合流空間145は、反転空間144と絞り部材150の後述する貫通孔151とに接続されるとともに、第2流通路146のホルダ先端側に接続される空間部分として構成される。また、この合流空間145に、後述する絞り流路152が形成される。このような構成により、反転空間144を流れた空気と、絞り部材150の貫通孔151を流れた空気は、合流空間145で合流して第2流通路146に向けてホルダ後端側(図1中左側)へと流れる。
【0032】
第2流通路146は、合流空間145のホルダ後端側に接続され、この合流空間145と導出空間147との間で主軸110の延在方向に沿って延在する流通路とされる。この第2流通路146は、図1中及び図2中の実線で示されている。この第2流通路146は、前述の合流空間145とともに、空気流通部材141を貫通しつつ主軸110の延在方向に沿って工具把持機構120とは反対側へと延在する流通路を形成しており、これら第2流通路146及び合流空間145によって本発明における「第2の流通路」が構成される。
【0033】
導出空間147は、第2流通路146のホルダ後端側に接続されるとともに、主軸110に形成された導出開口116に接続される空間部分として構成される。この導出空間147は、径方向に延在する空間部分として構成される。この導出空間147は、空気流通部材141を貫通しつつ第2流通路146から主軸110の径方向外側(放射方向)へと延在する(主軸110の延在方向と交差する方向に延在する)流通路であり、この導出空間147によって本発明における「第3の流通路」が構成される。
【0034】
主軸110の導出開口116は、導出空間147の径方向外側に配設され、導出空間147と排出部材160の後述する排出口161とを接続する流通路として構成される。従って、第2流通路146を流れた空気は、導出空間147及び導出開口116を通じて排出部材160の排出口161へと流れる。ここでいう導出開口116は、主軸110内を流通した空気が主軸110外へと導出する開口部分であり、この導出開口116が本発明における「空気導出口」に相当する。
【0035】
絞り部材150は、筒内に貫通孔151を有する筒状部材として構成される。この貫通孔151は、一端が工具後端部202において工具200の貫通孔210に接続される一方、他端が空気流通部材141の合流空間145に接続される。また、この絞り部材150は、空気流通部材141との間に絞り流路152を形成した状態で合流空間145に挿設されている。絞り流路152は、空気流通部材141の内周面と絞り部材150の外周面とが対向することによって形成される対向空間とされる。この絞り流路152は、第1流通路143や反転空間144よりも流路断面積が相対的に絞られた(抑えられた)流路として構成される。ここでいう絞り流路152が、本発明における「絞り流路」に相当する。
【0036】
上記構成により、空気供給源から連通孔114の第1開口114aを通じて主軸110内へ導入された空気は、連通孔114、導入空間142、第1流通路143、反転空間144、合流空間145、第2流通路146、導出空間147によって構成される一連の空気流通経路を通じて、主軸110外へと導出される。この一連の空気流通経路は、空気導入口としての第1開口114aと、空気導出口としての導出開口116とを接続し、空気供給源から供給された空気が第1開口114aから導出開口116へと流通する空気流通経路であって、本発明における「空気流通経路」を構成する。
【0037】
また上記構成により、絞り部材150の貫通孔151、及び工具200の貫通孔210によって形成される経路は、空気流通部材141の合流空間145と工具200の工具先端領域Bとを接続する経路として構成される。当該経路は、空気流通部材141の絞り流路152を空気が流通する際に生じる負圧により工具先端領域Bの空気を合流空間145へと吸引する空気吸引経路であって、本発明における「空気吸引経路」を構成する。
【0038】
排出部材160は、規制部材170とともにケース130に対し取り付け固定される円筒状部材として構成され、その筒内に主軸110の中間部110cを収容する。この排出部材160は、径方向に延在する排出口161を備える。この排出口161は、空気流通部材141の導出空間147から主軸110の導出開口116へと流れた空気を大気側へと排出するための排出口として構成される。ここでいう排出部材160は、ケース130に対し取り付け固定される構成であり、ケース130とともに、本発明における「固定部材」を構成する。また、この排出部材160に設けられた排出口161が、本発明における「排出口」に相当する。
【0039】
規制部材170は、図3に示すように、ケース130に対し取り付け固定される円筒状の本体部171と、この本体部171に連接して設けられ、主軸110の導出開口116に配設される誘導部172とを備える。誘導部172は、更に第1円弧面172a及び
第2円弧面172bを備える。
【0040】
第1円弧面172aは、導出開口116の延在方向と交差する方向に延在する円弧面として構成される。従って、この第1円弧面172aは、主軸110の導出開口116を径方向外側(放射方向)へと流れた空気流れを、本体部171の周方向に沿った旋回状の空気流れに変換する機能を果たす。一方、第2円弧面172bは、本体部171の周方向と交差する方向に延在する円弧面として構成される。従って、この第2円弧面172bは、第1円弧面172aで変換された旋回状の空気流れを、排出部材160の排出口161の径方向外側(放射方向)への空気流れに変換する機能を果たす。ここでいう誘導部172(規制部材170)が、本発明における「誘導部」に相当する。これにより、誘導部172は、第1円弧面172a及び第2円弧面172bの双方を備えることによって、回転体としての主軸110の導出開口116を流れる空気を、固定体としての排出部材160の排出口161へと円滑に誘導する機能を果たす。
【0041】
位置決め機構180は、主軸110の位置決めを行なう機構とされ、ケース130に対する主軸110の回転を阻止する係止ピン181を備える。加工機10に主軸110が装着される前の状態では、主軸110に取り付けられた係止部材115に係止ピン181が係合することによって主軸110の回転が阻止され、これにより主軸110の位置決めがなされる。一方、加工機10に主軸110が装着される際、係止部材115と係止ピン181との係合が解除される。これにより、加工機10に主軸110が装着された状態では、ケース130に対する主軸110の回転が許容される。
【0042】
次に、上記構成の工具ホルダ100の作用効果を図1及び図2を参照しつつ説明する。
【0043】
工具200によって被加工物を加工する加工作業の際、加工機10のスピンドル14が回転駆動されることによって、このスピンドル14に装着された主軸110が同様に工具200の長軸まわりに回転駆動される。スピンドル14のこの回転駆動の際、工具ホルダ100は、主軸110とともに回転駆動される回転側部材と、ケース130とともに静止状態とされる静止側部材とに区分される。回転側部材としては、主軸110、係止部材115、工具把持機構120、吸引機構140及び工具200が挙げられる。一方、静止側部材としては、ケース130、排出部材160、規制部材170及び位置決め機構180が挙げられる。
【0044】
また、被加工物の加工作業の際、加工機10側の空気供給源から空気が供給される。この空気は、主軸110の第1開口114aに導入された後、図1中の黒矢印で示す第1の空気流れにしたがって連続的に流れる。具体的には、連通孔114をホルダ先端側(図1中右側)へと第2開口114bまで流れた空気は、その後空気流通部材141の導入空間142に導入される。空気流通部材141では更に、空気が第1流通路143を通じてホルダ先端側(図1中右側)へと流れた後、反転空間144に導入される。この反転空間144では、空気の流れ方向が逆向きに反転され、合流空間145に向けて今度はホルダ後端側(図1中左側)へと流れる。
【0045】
絞り流路152で流路断面積が絞られているため、合流空間145では、空気は絞り流路152を流れる際にその流速が相対的に高められた高速状態で、ホルダ後端側(図1中の左方向)に向けて第2流通路146へと噴射される。このとき、合流空間145から第2流通路146へのこの空気流れによって、合流空間145の貫通孔151側の領域に空気の負圧状態(「真空状態」ともいう)が生じる。これにより、絞り部材150の貫通孔151の空気が負圧によって合流空間145側へと吸引され、またこれに伴って工具200の貫通孔210の空気も貫通孔151を通じて合流空間145側へと吸引される。これにより、空気流通部材141の合流空間145と、工具200の工具先端部201との間には、図1中の白抜き矢印で示す第2の空気流れが連続的に形成される。従って、加工時に工具先端領域Bにおいて生じた切り粉Cは、この第2の空気流れの空気とともに貫通孔210を工具先端部201側から工具後端部202側へ吸引され、合流空間145に導入される。
【0046】
合流空間145で合流した、第1の空気流れの空気及び第2の空気流れの空気(切り粉Cを含む空気)は、第2流通路146をホルダ後端側へと流れた後、導出空間147及び導出開口116において主軸110の径方向外方への流れに変換される。そして、導出開口116を流れた空気(切り粉Cを含む空気)は、規制部材170の誘導部172によって排出部材160の排出口161へと誘導され、この排出口161から大気中へ放出される。
【0047】
このとき、誘導部172の第1円弧面172aにおいて、主軸110の導出開口116を径方向外側へと流れた空気流れが、本体部171の周方向に沿った旋回状の空気流れに変換される。また、この誘導部172の第2円弧面172bにおいて、第1円弧面172aで変換された旋回状の空気流れが、排出部材160の排出口161の径方向外側への空気流れに変換される。かくして、主軸110の導出開口116を流れた空気(切り粉Cを含む空気)は、誘導部172は、第1円弧面172a及び第2円弧面172bの双方によって、排出部材160の排出口161へと円滑に誘導され、この排出口161を通じて大気へと一定方向に排出される。
【0048】
以上のように、本実施の形態の工具ホルダ100によれば、工具200による被加工材の加工時に空気供給源の空気を第1開口114aからホルダ本体(主軸110及び空気流通部材141)に導入することによって、加工時に生じた加工屑を、工具先端領域Bの空気とともに吸引してホルダ本体の導出開口116から排出することが可能となる。本構成では、ホルダ本体を利用して空気流通経路を構成するため合理的である。
【0049】
また、上記実施の形態によれば、加工時に生じた加工屑を工具先端領域Bの空気とともに吸引する空気吸引経路に関し、工具200内の貫通孔210を利用した合理的な構造が実現される。
【0050】
また、上記実施の形態によれば、長尺状に延在する主軸110のうち、工具200から離間したホルダ後端側の第1開口114aから導入した空気を、工具200の貫通孔210に近接した位置まで移送することで加工屑が吸引された後、加工屑を含む空気が工具200から離間した位置まで移送されて主軸110外へと排出される。これにより、比較的簡単な構造によって加工屑の吸引及び排出を行なうことが可能となる。また、主軸110の延在方向に関し、加工屑を含む空気の排出先に自由度を持たせることが可能となる。
【0051】
また、上記実施の形態によれば、被加工材の加工に際し主軸110が回転駆動されるタイプの工具ホルダにおいて、回転側部材としての主軸110の第1開口114aから導出された、加工屑を含む空気を、固定側部材である排出部材160に設けられた排出口161を通じて一定方向に排出することが可能となる。
【0052】
〔他の実施の形態〕
なお、本発明は上記の実施の形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0053】
上記実施の形態では、被加工物の加工時に生じる加工屑の空気吸引経路を、工具200内の貫通孔210を用いて構成する場合について記載したが、本発明では、工具200以外の部材によって空気吸引経路を構成することもできる。例えば、工具200の延在方向に沿って被着される管状部材によって、工具先端領域Bと絞り部材150の貫通孔151或いは合流空間145を接続する構成を採用することもできる。
【0054】
また上記実施の形態では、主軸110の延在方向に沿って工具把持機構120側へと延在する第1の流通路、空気流通部材141を貫通しつつ主軸110の延在方向に沿って工具把持機構120とは反対側へと延在する第2の流通路、及び空気流通部材141を貫通しつつ主軸110の径方向に延在する第3の流通路を用いて空気流通経路を構成する場合について記載したが、空気流通経路を構成する流通路の延在方向、流通路の流路断面積、流通路の数等は、必要に応じて適宜変更が可能である。例えば、前記の第3の流通路を設ける代わりに、図1に示す実施例の第2の流通路を延長することによって、ホルダ本体(主軸110)の空気導入口側において第2の流通路に連通する排出口(本発明における「排出口」に相当する開口部分)を設け、加工屑を含む空気をこの排出口を通じて加工機10側に排出する構成を採用することもできる。
【0055】
また上記実施の形態では、被加工材の加工時に回転駆動される主軸110を備える工具ホルダ100について記載したが、被加工材の加工時にホルダ本体が例えば往復駆動される構成の工具ホルダに対し、本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0056】
10…加工機
12…フレーム
14…スピンドル
15…装着孔
16…軸受
100…工具ホルダ
110…主軸
110a…後端部
110b…先端部
110c…中間部
112…収容空間
114…連通孔
114a…第1開口
114b…第2開口
115…係止部材
116…導出開口
120…工具把持機構
130…ケース
140…吸引機構
141…空気流通部材
142…導入空間
143…第1流通路
144…反転空間
145…合流空間
146…第2流通路
147…導出空間
150…絞り部材
151…貫通孔
152…絞り流路
160…排出部材
161…排出口
170…規制部材
171…本体部
172…誘導部
172a…第1円弧面
172b…第2円弧面
180…位置決め機構
181…係止ピン
200…工具
201…工具先端部
202…工具後端部
210…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸状に延在する工具を把持し、所定の加工作業に供するための工具ホルダであって、
当該工具ホルダのハウジングを形成するホルダ本体と、
前記ホルダ本体に取り付けられ、前記工具を把持する工具把持機構と、
前記ホルダ本体に設けられ、空気供給源が接続される空気導入口と、
前記ホルダ本体に設けられた空気導出口と、
前記空気導入口と前記空気導出口とを接続し、空気供給源から供給された空気が前記空気導入口から前記空気導出口へと流通する空気流通経路と、
前記空気流通経路において流路断面積が相対的に絞られた絞り流路と、
前記空気流通経路の前記絞り流路と前記工具の工具先端領域とを接続し、前記絞り流路を空気が流通する際に生じる負圧により前記工具先端領域の空気を前記空気流通経路へと吸引する空気吸引経路と、
を含み、
前記空気流通経路が、前記工具の工具先端部と工具後端部との間を貫通する貫通孔によって構成されていることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の工具ホルダであって、
前記ホルダ本体は、前記工具の長軸方向に沿って長尺状に延在し、当該ホルダ本体のホルダ先端側に前記工具把持機構が取り付けられ、前記工具把持機構とは反対側に前記空気導入口が設けられる構成であり、
前記空気流通経路は、
前記空気導入口から前記ホルダ本体を貫通しつつ当該ホルダ本体の延在方向に沿って前記工具把持機構側へと延在する第1の流通路と、
前記第1の流通路に連通して設けられ、前記ホルダ本体を貫通しつつ前記第1の流通路とは反対方向へと延在する第2の流通路と、
前記第2の流通路に連通して設けられ、前記ホルダ本体を貫通しつつ当該ホルダ本体の径方向に延在する第3の流通路と、
を含む構成であることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の工具ホルダであって、
前記ホルダ本体は、加工機側の駆動部に接続され、当該駆動部によって前記工具の長軸まわりに回転駆動される回転体として構成され、
加工機側に固定され、前記ホルダ本体を前記工具の長軸まわりの回転が可能となるように支持する固定部材と、
前記固定部材に設けられた排出口と、
前記固定部材に取り付けられ、前記空気導出口から導出された空気を前記排出口へと誘導する誘導部と、
を備える構成であることを特徴とする工具ホルダ。
【請求項4】
請求項1に記載の工具ホルダであって、
前記ホルダ本体は、前記工具の長軸方向に沿って長尺状に延在し、当該ホルダ本体のホルダ先端側に前記工具把持機構が取り付けられ、前記工具把持機構とは反対側に前記空気導入口が設けられる構成であり、
前記空気流通経路は、
前記空気導入口から前記ホルダ本体を貫通しつつ当該ホルダ本体の延在方向に沿って前記工具把持機構側へと延在する第1の流通路と、
前記第1の流通路に連通して設けられ、前記ホルダ本体を貫通しつつ前記第1の流通路とは反対方向へと延在する第2の流通路と、
前記ホルダ本体の前記空気導入口側において前記第2の流通路に連通して設けられた排出口と、
を含む構成であることを特徴とする工具ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−224750(P2011−224750A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98685(P2010−98685)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(591033755)エヌティーツール株式会社 (22)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【出願人】(000152996)株式会社日本ピスコ (9)
【Fターム(参考)】