説明

工業用防腐防黴剤組成物

【課題】木材、繊維、接着剤などの工業用原料、紙・パルプ工業における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水、重油スラッジ、金属加工油剤、繊維油剤、塗料、紙用塗工液、ラテックス、糊剤、リグニン溶液やリグニン廃液、リグニン系コンクリート混和剤など工業用原料や製品の防腐および防黴に使用される防腐防黴剤組成物であって、長期間に亘り、防腐防黴効果の持続する上記組成物を提供する。
【解決手段】第一成分として3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートのようなヨードプロパギル誘導体と、第二成分として1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテンのようなハロゲン化酢酸エステル誘導体とを有効成分としてなる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材、繊維、接着剤などの工業用原料、紙・パルプ工業における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水、重油スラッジ、金属加工油剤、繊維油剤、塗料、紙用塗工液、ラテックス、糊剤、リグニン溶液やリグニン廃液、リグニン系コンクリート混和剤など工業用原料や製品の防腐および防黴に使用される防腐防黴剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から紙・パルプ工業における抄紙工程をはじめ、各種工業における冷却水系統には、細菌類や真菌類によるスライムが発生し、生産品の品質低下や生産効率の低下などの障害があることが知られている。また、多くの工業製品、例えば重油スラッジ、金属加工油剤、繊維油剤、各種塗料、各種ラテックス、糊剤などでは細菌類や真菌類による腐敗汚染が発生し、製品を汚損し価値を低下させる。
【0003】
更に、セメント粉砕助剤、コンクリート減水剤などに利用される、リグニン溶液を含有する組成物の中には、糖類などの栄養源が多量に含まれているため、細菌類や酵母類などの微生物が繁殖し易く、腐敗臭や場合によってはガスが発生し容器の膨張など微生物に由来する障害が多発し、品質を劣化させるばかりでなく、発生ガスの臭いなどにより作業環境上好ましくない問題が生じている。
【0004】
これら微生物による障害を防止するため、比較的毒性の少ない、メチレンビスチオシアネート、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンなどの有機窒素硫黄系、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)エタン、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、ビス(トリブロモメチル)スルホンなどの有機ブロム系、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオール−3−オンなどの有機硫黄系などの化合物が工業用殺菌剤として汎用されている。
【0005】
また、メチレンビスチオシアネートとハロゲン化酢酸エステル誘導体とを含有する工業用殺菌防腐剤も提案されているが(例えば特許文献1)、リグニン溶液やそれを含む原料や製品において、黴類に対する有効性は顕著であるものの、腐敗の主原因となっている細菌類や酵母類などに対しては有効ではなく、その貯蔵時に腐敗によるガスの発生などの問題がある。
【0006】
一方、防黴剤としてはヨードプロパギル誘導体が知られているが、毒性の観点から、より安全性の高い防黴剤の開発が行われるようになり、その一例として3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートなどの化合物が提案され(例えば特許文献2)、主に木材やその加工時に、あるいはパルプ・紙などの製造分野において、黴類の発生による製品の劣化を防止するために使用されることが多くなっている。しかし、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートなどのヨードプロパギル誘導体は、単一の成分の使用では、効力を示す微生物の種類が限られるなどの理由で充分な効力が得られず、しばしば薬剤の使用量が増え、コストも高くなることが多い。
【0007】
また、工業用殺菌剤としてハロゲン化酢酸エステル誘導体が知られているが、単独で使用して行く場合には、菌に耐性が生じ、添加量を増やして行く必要がある。しかも、工業用殺菌剤としてのハロゲン化酢酸エステル誘導体は、通常、取扱い性等の点で安価なアルコール系やエステル系の親水性有機溶媒に溶解させた組成物として製品化されているが、保存の際に、有効成分であるハロゲン化酢酸エステルが分解し、その効力が低下する傾向がある。
【0008】
このため各種の防腐防カビ剤を組合せ、抗菌スペクトルの安定化や作用力の増加などが試みられているが、通常は、いずれか一つの成分で効果の発現に留まるか、それぞれの成分が発現する効果しか得られないのが実情である。例えば、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートに、1,4−ビス−(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムを安定剤として使用する方法(特許文献3)、あるいはベンズイミダゾール系化合物を合剤とする方法(特許文献4)が提案されているが、これらの方法では、防腐防黴効力が著しく向上することはない。
また、メチレンビスチオシアネートとハロゲン化酢酸エステル誘導体を有効成分とするリグニン廃液等の工業用殺菌防黴剤(特許文献5)や、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートとメチレンビスチオシアネートを含有する防腐防黴組成物(特許文献6)が知られており、塗料や木材に対し、単独で用いた場合に比べ著しい防腐防黴効果があると記載されている(特許文献6)。しかし、いずれも長期間に亘る防腐防黴作用の持続は充分に得られない。
【0009】
【特許文献1】特公昭60−38361号公報
【特許文献2】特開平6−40819号公報
【特許文献3】特開昭63−41405号公報
【特許文献4】特開平2−164803号公報
【特許文献5】特開平6−65006号公報
【特許文献6】特開平6−157215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、防腐と防黴の両方の効果を有し、従来のものに比べて長期間に亘って効力が持続する防腐防黴剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、抗菌力が強くその効力が長続きする組成物を見出すべく研究を重ねた結果、ヨードプロパギル誘導体とハロゲン化酢酸エステル誘導体を組み合わせた場合、それぞれ単独で用いた場合と比較して飛躍的に防腐防黴作用が増大し、特に酵母類に対して優れた殺酵母作用を奏するのみならず、その防腐防黴・殺酵母作用が長期に渡って持続できることを見出し、本発明を提案するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の防腐防黴剤組成物は、第一成分として下記一般式Iで表されるヨードプロパギル誘導体と、第二成分として下記一般式IIで表されるハロゲン化酢酸エステル誘導体と、を有効成分としてなることを特徴とする。
【0013】
【化2】

(一般式I)

(一般式II)
式I中、Rは1〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖状のアルキルアミノ基、3〜6個の炭素原子を有するシクロアルキルアミノ基またはアリールアミノ基、あるいはハロゲン化アリール基であり、
式II中、Xはハロゲン原子、Yは低級アルキレンまたはアルケニレン基である。
【0014】
本発明において、第一成分のヨードプロパギル誘導体は、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートであることが好ましく、第二成分のハロゲン化酢酸エステル誘導体は、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)−エタン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)−プロパンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
また、本発明の工業用防腐防黴剤組成物は、防腐防黴対象系において、第一成分と第二成分とが同時に、または別々に添加されたものであってよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防腐防黴剤組成物は、第一,第二成分それぞれを単独で使用した場合よりも、顕著な相乗効力を発揮し、従来より少ない添加量で、防腐防黴対象系における各種細菌類、酵母類および黴類の繁殖を効果的に防止し、特にリグニン溶液などに使用する場合には、貯蔵時に問題となっている腐敗臭を効果的に抑制するとともに、ガスの発生をも顕著に防ぐことができる。
そして、これらの効果は、それぞれを単独で使用した場合に比べて、長期間に渡って持続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
リグニン溶液に、腐敗したリグニン溶液を種菌として添加して菌の増殖経過を観察した結果、菌は、添加してすぐに増殖するのではなく、ある時間を経過すると急激に増殖速度が上がる傾向にあることを見出した。具体的には、2週間目や3週間目で腐敗が一気に進む傾向があり、また酵母類が原因と考えられる発泡が目立つことも観察された。
このことと、リグニンは担子菌や子のう菌などの木材腐朽菌によって分解されるとされていることを併せて検討した結果、リグニン溶液中のリグニンは、木材腐朽菌などにより酸化分解され、低分子化され、ある程度の大きさに分解された後、元々そこに極僅かに存在するもしくは、空中落下菌などの酵母類や細菌類により腐敗や発泡が急速に進むとの推測に到達した。
【0017】
以上の観察結果や検討結果あるいは推測から木材腐朽菌などの真菌類の発生を抑えることができれば、リグニンの分解が抑えられ、その結果、酵母類や細菌類による急激な腐敗や発泡が押さえられるとの結論に達した。
木材腐朽菌は真菌類に属し、真菌類には、一般に、キノコ・カビ・酵母と呼ばれる生物が含まれる。従って、リグニンの分解および腐敗や発泡を防止するためには、酵母およびカビを含む真菌類の増殖を抑制・防止する薬剤と、リグニンが分解された場合に増殖する細菌類について、それらの発生・増殖を抑制し防止する薬剤の組合せとする必要がある。
【0018】
本発明では、防黴剤として高い殺黴効果を示す有機ヨード系化合物を第一成分として選択するものであるが、この有機ヨード系としては、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、3−ヨード−2−プロピニルヘキシルカーバメート、3−ヨード−2−プロピニルシクロヘキシルカーバメート、3−ヨード−2−プロピニルフェニルカーバメートなどのヨードプロパギル誘導体を使用する。なかでも、人体に対して安全性が高く、蓄積性もない3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートが好ましい。
【0019】
上記の第一成分であるヨードプロパギル誘導体(防黴剤)と組合せる第二成分としては、抗菌性に優れるハロゲン化酢酸エステル誘導体を選択する。なかでも、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)−エタン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)−プロパンが好ましい。
【0020】
これらの第二成分としてのハロゲン化酢酸エステル誘導体は、抗菌スペクトルに選択性があるが、上記した第一成分としてのヨードプロパギル誘導体と組合せれば、強力な相乗効果を奏して優れた殺細菌・殺真菌性を示すと共に、その殺細菌・殺真菌効果が長期間に及ぶ。
上記の第一成分と第二成分の組合せが、防腐防黴対象系、特にリグニン溶液やそれを含む原料や製品において、貯蔵時に問題となっているガスの発生や腐敗臭を防止できる優れた効果を奏することができる。
【0021】
以上説明した本発明の工業用防腐防黴剤組成物は、対象系に直接添加する手法で使用してもよいし、予め、粉剤、粒剤、液剤、油剤、乳剤、ペースト剤、懸濁剤などの剤型にしておき、これらの剤型を対象系に添加する手法で使用してもよい。
また、他の防腐防黴剤、殺菌剤、殺虫剤、劣化防止剤などに予め配合しておいてもよいし、これらを併用してもよい。
【0022】
さらに、本発明の工業用防腐防黴剤組成物は、防腐防黴対象系に対し、上記の第一成分と第二成分をそれぞれ別々に添加してもよいし、第一成分と第二成分を混合し1つの組成物の形態としておいて添加してもよい。
第一成分と第二成分をそれぞれ別々に添加する場合は、対象系中において本発明の組成物となるようにする。
【0023】
第一成分と第二成分を別々に添加する場合は、それぞれを同時に添加することが相乗効果を確実に得る上では好ましいが、防腐防黴対象系あるいは該対象系の雰囲気によっては、多少間隔をおいて添加してもよい。時間的間隔をおいて2つの成分を添加する場合には、間隔を短くすることが好ましい。具体的には、1分〜1時間程度が実用的である。
【0024】
第一成分と第二成分をそれぞれ別々に添加する場合は、それぞれを、原体で使用してもよいし、上記のような剤型にしておいてもよい。この場合、防腐防黴対象系によっては、第一成分と第二成分の溶解や分散性を考慮し、各種の有機溶媒や、各種の界面活性剤などの分散剤を併用することもできる。
【0025】
第一成分と第二成分を溶解する有機溶媒としては、第一,第二成分が溶解し、溶液中で第一,第二成分の品質が安定で劣化しないものであればどのような溶媒でもよいが、親水性であることが好ましく、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、マレイン酸ジメチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクタムなどのラクトン類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチルなどの塩基酸ジエステル類、N−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等など非プロトン性極性溶媒などが使用でき、これらは単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。溶媒の使用量は、特に制限はなく、使用成分種、採用する剤型、採用する調製方法等に応じて適宜選定できる。
【0026】
また、界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が使用でき、例えば、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシアルキレンソルビタンモノラウレート、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、第四級アンモニウム塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミン塩などが好ましく使用でき、これらは単独で、あるいは複数を混合して用いることができる。
さらに、必要に応じて、消泡剤、酸化防止剤などの添加剤を配合することもできる。
【0027】
本発明の防菌防黴剤組成物は、被防腐対象物に添加することにより優れた微生物防除効果を発揮し、しかも長期間に亘ってこの優れた防菌防黴効果を維持できることに加え、皮膚刺激性が低く、木材、繊維、接着剤などの工業用原料あるいは、紙・パルプ工業における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水、重油スラッジ、金属加工油剤、繊維油剤、塗料、紙用塗工液、ラテックス、糊剤など、またリグニン溶液やリグニン廃液、リグニン系コンクリート混和剤(減水剤)など、広範囲の防菌防黴用途に適用可能である。
【0028】
本発明における第一,第二成分の配合比率は1:99〜99:1(重量比、以下配合比率あるいは配合比と言うときは、重量比を意味する)であり、防腐対象系への添加濃度は、対象系に存在する微生物の種類やその濃度などによっても異なる。
例えば、製紙工業などから発生するリグニン溶液に用いる場合は、一般的に、第一,第二成分が1:1〜1:65の組成物を、防腐対象系中の濃度で、100〜2000ppm程度、好ましくは300〜1000ppm程度となるように使用することが適しており、水性塗料、糊料、紙用塗工液、繊維用油剤、皮革などの工業製品に用いる場合は、上記配合比率で1〜100ppm程度の濃度となるように使用することが好ましい。
【0029】
さらに、長期間の防腐防黴効果を持続させるためには、第一,第二成分の配合比率は1:4〜1:30が好適であり、濃度は、被防腐対象系での防腐防黴効果を1週間以上持続させるためには、対象系が、例えば、金属切削油剤の場合は10ppm以上、好ましくは100ppm以上、リグニン溶液の場合は100ppm以上、好ましくは300ppm以上、より好ましくは500ppm以上が好ましい。
【0030】
従来から存在する種々の防腐剤は、中性からアルカリ性(例えば、pH7〜9程度)の雰囲気下において使用すると、その有効成分は速やかにまた、著しく分解し防腐剤としての効力が低下する。それに対し、本発明の工業用防腐防黴剤組成物はアルカリ雰囲気下の使用においても有効成分の分解が少なく、防腐効果を維持することができるため、pH7〜9程度のアルカリ域において使用可能であり、その防腐効果をより顕著に発揮させることができる。
【0031】
以下に、本発明の実施例および比較例を挙げる。これらの実施例および比較例で使用した殺菌、防腐剤は、次の通りである。
(1)3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート:三井化学社製商品名「ヨートルIP」
(2)ジヨードメチル−P−トリルスルホン:三井化学社製商品名「ヨートルDP−95」
(3)1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン:ブロモケム・ファースト社製商品名「BBAB」
(4)1,2−ビス(ブロモアセトキシ)−エタン:ケミクレア社製商品名「BBAE」
(5)メチレンビスチオシアネート:ブロモケム・ファースト社製商品名「MBT」
(6)1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン:プロム社製商品名「BIT」
(7)5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン:R&H社製商品名「Kathon WT」
【0032】
上記化合物を使用して、表1に示す実施例1〜8の本発明の防腐防黴剤組成物と、表2に示す比較例1〜7の防腐防黴剤組成物とを調製した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
〔試験例1〕(リグニン溶液を用いた防腐試験)
A社製リグニン溶液(pH6.3)に実施例1〜8及び比較例1〜6を所定濃度になるように添加し、A社製の腐敗したリグニン溶液を種菌として、A社製リグニン溶液(未腐敗)の使用量の1%となる量で添加し、30℃で4週間培養した。
なお、種菌は1週間毎に上記と同量ずつを加え、その都度攪拌した。
種菌は、細菌類(4.8×105CFU/mL)、酵母類(3.6×105CFU/mL)、黴類(3.1×103CFU/mL)であった。
【0036】
4週間後の生菌数を測定し、この結果を表3(実施例)、表4(比較例及びBlank)に示す。
表中、Bは細菌類、Yは酵母類、Fは黴類をそれぞれ示す。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
本発明の工業用防腐防黴剤組成物(実施例1〜8)は、いずれのリグニン溶液に添加された供試細菌類、酵母類および黴類に対しても500ppmの濃度で4週間に亘り全ての供試細菌類、酵母類および黴類に対し効果を示すが、比較例1〜6は、全ての供試細菌類、酵母類および黴類に対し4週間後には増殖し、有効な効果を得ることができないことが判る。
【0040】
〔試験例2〕(リグニン溶液を用いたガス発生抑制試験)
試験例1のA社製リグニン溶液に、試験例1で使用した種菌を、該A社製リグニン溶液(未腐敗)の使用量の5%となる量で添加し、30℃で1日振盪培養を行った。
この時の生菌数は、細菌類:1.2×104CFU/mL、酵母類:9.8×103CFU/mL、黴類:2.2×102CFU/mLであった。
これを小分けして、実施例1,2,5および比較例1,2,6を各々500mlになるようにし、それぞれを攪拌後アインホルン管内で30℃で培養、経時でのガス発生量を確認した。
【0041】
【表5】

【0042】
上記結果より、実施例1,2,5はガスの発生を抑制しているが、比較例1,2,6やBlankではガスが発生しており、本発明の組成物は腐敗の進行に伴うガス発生がなく安全性が高いことが判る。
【0043】
〔試験例3〕(金属切削油剤を用いた防腐試験)
B社製金属切削油剤(pH7.8)に実施例1〜8および比較例1〜6の組成物を所定濃度になるように添加し、B社製の腐敗した金属切削油剤を種菌として、未腐敗のB社製金属切削油剤の使用量の1%となるように添加し、30℃で4週間培養した。
なお、菌数測定は毎週行い、菌数測定後に上記種菌を上記と同量ずつ加えた。
種菌は、細菌類5.5×105CFU/mL、酵母類9.2×105CFU/mL、黴類2.6×103CFU/mLであった。
【0044】
【表6】

【0045】
【表7】

【0046】
本発明の工業用防腐防黴剤組成物(実施例1〜8)は、金属切削油剤に添加された供試細菌類、酵母類および黴類に対して300ppmの濃度で4週間に亘り効果を示すが、比較例1〜6は500ppmの濃度でも全ての供試細菌類、酵母類および黴類に対して4週間後には有効な効果を得ることができないことが判る。
【0047】
〔試験例4〕(本発明と従来品との比較試験)
本発明の組成物(実施例1)と公知の、前記特許文献5の工業用殺菌防腐剤(比較例4)と、特許文献6の工業用防腐防黴組成物(比較例7)との比較試験をリグニン溶液を使用し、試験例1と同一試験条件で4週間行い、試験開始時から1週間毎に生菌数を測定した。
【0048】
【表8】

【0049】
図1は、この結果をグラフにしたものである。図1より、金属切削油剤では、従来の組成物は1週間以上で防腐防黴効果が弱くなるのに対し、本発明の組成物では、1週間以上経過しても防腐防黴効果に変化は見られないことが分かる。
このことより、従来品では1週目を過ぎると急激に腐敗が進むが、本発明は真菌類の増殖を抑えることにより、酵母の発生を抑制でき、酵母に由来するガス発生も防止できた。また、添加後4週間経過しても充分な防腐防黴効果を保っていることが分かる。
【0050】
〔試験例5〕(本発明の第一成分と第二成分の配合比の検討)
リグニン溶液を使用し、本発明の第一成分としてヨートルIPを用い、第二成分としてBBAEを用い、第一成分と第二成分の配合比を振り分け防腐防黴効果を試験した。
なお、試験例1に準じ、リグニン溶液に対し組成物として0.5重量%となるように添加し、種菌は1%添加で毎週1回添加した。温度は30℃で培養し、4週目の菌数を測定した。
【0051】
【表9】

【0052】
図2は、この結果をグラフにしたものである。図2より、防腐防黴対象系に対し、第一成分と第二成分の配合比が2:1〜1:65までの範囲で効果はあるが、1:1から1:30までの範囲が最も好ましく4週間経過後まで菌の増殖が抑制されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の防腐防黴剤組成物は、従来の防腐防黴組成物よりも、木材、繊維、接着剤などの工業用原料、紙・パルプ工業における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水、重油スラッジ、金属加工油剤、繊維油剤、塗料、紙用塗工液、ラテックス、糊剤、リグニン溶液やリグニン廃液、リグニン系コンクリート混和剤など工業用原料や製品の防腐および防黴に使用される防腐防黴剤組成物として優れている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の防腐防黴剤組成物(実施例1)と従来品の比較例4及び比較例7を同量添加したリグニン溶液中での菌の増殖を比較したグラフである。
【図2】本発明の防腐防黴剤組成物中の第一成分と第二成分の配合比による菌の増殖を比較したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分として下記一般式Iで表されるヨードプロパギル誘導体と、第二成分として下記一般式IIで表されるハロゲン化酢酸エステル誘導体と、を有効成分としてなることを特徴とする工業用防腐防黴剤組成物。
【化1】

(一般式I)

(一般式II)
式I中、Rは1〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖状のアルキルアミノ基、3〜6個の炭素原子を有するシクロアルキルアミノ基またはアリールアミノ基、あるいはハロゲン化アリール基であり、
式II中、Xはハロゲン原子、Yは低級アルキレンまたはアルケニレン基である。
【請求項2】
第一成分のヨードプロパギル誘導体が、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメートであることを特徴とする請求項1に記載の工業用防腐防黴剤組成物。
【請求項3】
第二成分のハロゲン化酢酸エステル誘導体が、1,4−ビス(ブロモアセトキシ)−2−ブテン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)−エタン、1,2−ビス(ブロモアセトキシ)−プロパンの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の工業用防腐防黴剤組成物。
【請求項4】
防腐防黴対象系において、第一成分と第二成分とが同時に、または別々に添加されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の工業用防腐防黴剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−256236(P2009−256236A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−106619(P2008−106619)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000135760)株式会社パーマケム・アジア (17)
【Fターム(参考)】