説明

差動式熱感知器の製造方法

【課題】ダイアフラムが受ける振動や衝撃を緩和しつつ、超音波溶着を安定して行うことができる差動式熱感知器の製造方法を提供する。
【解決手段】差動式熱感知器1の製造方法であって、超音波溶着装置10を使用して、感熱室3を本体2に取り付ける超音波溶着工程と、感熱室3内部に空気を注入し、ダイアフラム4を変位させる空気注入工程とを含み、超音波溶着工程が実行される際、空気注入工程が予め実行されており、ダイアフラム4が変位している状態にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、差動式熱感知器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
差動式熱感知器は、火災時の急激な温度上昇により、本体下部に設けられた感熱室内部の空気が膨張変化するのを利用して、ダイアフラムを変位させ、その変位に連動させて接点機構を閉じて火災を検出するものである。
【0003】
そして、差動式熱感知器は、一般に、感熱室の内外を連通させるリーク孔を備えており、日常の緩慢な温度上昇による感熱室内の空気の膨張変化については、リーク孔から感熱室内の空気を排出して、その膨張変化を打ち消し、接点機構が閉じないようになっている。
【0004】
この種の差動式熱感知器を製造する方法において、感熱室を本体に取り付けるのに、超音波溶着の技術が利用されているが、その際、予め、感熱室を温めて感熱室内部の空気を膨張させて、ダイアフラムを変位させておき、超音波溶着時にダイアフラムが受ける振動や衝撃を緩和するようにした方法が従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−184192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の方法には、溶着に用いる超音波溶着装置の超音波ホーン(溶着部分への超音波伝達体)に感熱室からの熱が伝わり、超音波ホーンが温まって熱膨張することで、超音波の発振状態が変化してしまい、超音波溶着が安定しないという問題がある。
【0007】
この発明は、前記の事情に鑑み、ダイアフラムが受ける振動や衝撃を緩和しつつも、超音波溶着を安定して行うことができる差動式熱感知器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、火災時の急激な温度上昇による感熱室内部の空気の膨張変化によってダイアフラムが変位し、それにより接点機構の接点が閉じて火災を検出するよう構成される差動式熱感知器の製造方法であって、該方法は、超音波溶着装置を使用して、該感熱室を該感知器の本体に取り付ける超音波溶着工程と、該感熱室の内外を連通させる連通路を介して該感熱室内部に空気を注入し、該ダイアフラムを変位させる空気注入工程とを含み、そして、該方法は、該超音波溶着工程が実行される際、該空気注入工程が予め実行されており、該ダイアフラムが変位している状態にあることを特徴とする方法である。
【0009】
また、この発明は、該空気注入工程は、該感熱室に加圧された空気を注入し、該超音波溶着工程が実行される際、該加圧された空気により該ダイアフラムが変位している状態に維持していることを特徴とする方法である。
【0010】
また、この発明は、該空気注入工程は、該ダイアフラムを変位させて、該接点機構の接点を閉じることを特徴とする方法である。
【0011】
また、この発明は、該連通路は該ダイアフラムが取り付けられるダイアフラム取り付け枠を貫通していることを特徴とする方法である。
【0012】
また、この発明は、該感知器が日常の緩慢な温度変化による感熱室内部の膨張変化を打ち消すために設けられるリーク孔を備えており、該空気注入工程は該リーク孔を該連通路として該感熱室内部に空気を注入することを特徴とする方法である。
【0013】
また、この発明は、該空気注入工程は、該リーク孔に代えて、該リーク孔が設けられる開口を該連通路として該感熱室内部に空気を注入することを特徴とする方法である。
【0014】
また、この発明は、該超音波溶着装置は該本体が載置される受け台であって、空気供給路が内部に設けられた受け台を含み、該空気注入工程は該空気供給路を通じて供給される空気を該連通路を介して該感熱室内部に注入することを特徴とする方法である。
【0015】
また、この発明は、該空気注入工程は、該本体に形成された開口に挿通され、該空気供給路と該連通路とを接続する中継パイプを使用し、該空気供給路を介して供給される空気を該中継パイプと該連通路とを介して該感熱室内部に注入することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0016】
この発明においては、空気注入工程により、感熱室を温めることなく、ダイアフラムを変位させ、その状態で超音波溶着工程により、本体に感熱室を取り付けるものとなっており、ダイアフラムを変位させておきつつも、超音波溶着を行う際に、超音波ホーンが温まって熱膨張していることがなく、安定した超音波の発振状態でその溶着を行うことができる。
【0017】
従って、この発明によれば、ダイアフラムが受ける振動や衝撃を緩和しつつも、超音波溶着を安定して行うことができる差動式熱感知器の製造方法を提供することができる。
【0018】
また、この発明においては、感熱室を温めずに、超音波溶着を行うことができるので、超音波溶着の後、次の工程、例えば感度設定の工程を直ちに行うことができる。
【0019】
また、この発明においては、超音波溶着を安定した超音波の発振状態で行うことができるので、その溶着を均一に行うことができ、組品の製造にばらつきが生じるのを少なくすることができる。
【0020】
また、この発明においては、熱感知器が備えているリーク孔又はそのリーク孔が設けられる開口を連通路として感熱室内部に空気を注入することとすれば、連通路を別途設けずとも、その空気の注入をすることができる。
【0021】
また、この発明においては、超音波溶着装置の受け台の内部に設けられた空気供給路から供給される空気を感熱室内部に注入することとすれば、容易に、空気注入工程を実行しつつ、超音波溶着工程を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の差動式熱感知器の製造方法の説明図である。
【図2】この発明の製造方法により製造される差動式熱感知器を示した断面図であって、取付ベースが取り付けられている状態を示したものである。
【図3】同上の差動式熱感知器を示した一部断面図(図2の断面とは異なる断面)であって、中継パイプが接続されている状態を示したものである。
【図4】図3に相当する図であって、他の態様で中継パイプが接続されている状態を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の実施形態を図1乃至4に基づき説明する。
【0024】
先ず、図2乃至図4に基づき、この発明の方法によって製造される差動式熱感知器1の基本構造について説明する。なお、図2は本体2と感熱室3の組品が取付ベース17に取り付けられている状態を示している。また、図3及び図4には中継パイプ16が示されているが、この中継パイプ16は、差動式熱感知器1の製造時に用いられるものであり、差動式熱感知器1の完成品に含まれるものではない。
【0025】
差動式熱感知器1は、本体2と感熱室3等からなり、図2に示すように、感熱室3の上部に設けられたダイアフラム4と、そのダイアフラム4と本体2との間に設けられた可動接点機構5を備えており、感熱室3の感熱板3aが受熱した火災時の熱によって、感熱室3内の空気が急激に膨張してダイアフラム4が変位し、それに連動して可動接点機構5が接点5aを閉じて、火災信号が出力されるものとなっている。
【0026】
また、差動式熱感知器1は、図3に示すように、感熱室3の内外を連通させるリーク孔6aを内部に有するリーク部品6を備えており、日常の気温上昇等による感熱室3内の空気の緩慢な膨張変化に対しては、リーク孔6aから空気が排出されることで、それが打ち消されて、可動接点機構5が閉じないようになっている。
【0027】
なお、本実施の形態において、リーク部品6は、本体2と感熱室3とを区切ると共に、ダイアフラム4が取り付けられるダイアフラム取付枠7に設けられており、具体的には、そのダイアフラム取付枠7に形成された開口7aに外側にパッキン6bが装着された状態で設けられている。
【0028】
また、本実施の形態において、本体2には開口2aがリーク部品6に対応する位置に形成されており、この開口2aを通じて、リーク部品6が本体2の背面側から着脱できるようになっている。
【0029】
そして、差動式熱感知器1は、感熱室3が本体2に超音波溶着の技術により取り付けられており、具体的には、感熱室3を支持可能にその外周に装着された固定リング8が溶着部9により本体2に超音波により溶着されることで取り付けられたものとなっている。
【0030】
次に、図1に基づき、この発明の差動式熱感知器の製造方法について説明する。
【0031】
なお、ここでは空気注入工程と超音波溶着工程の両工程を超音波溶着装置を利用して行う場合を例に説明するが、この発明の方法において、空気注入工程は超音波溶着装置を利用せずとも実行可能であり、そのようにしてもよいことは勿論である。
【0032】
図1に示すように、超音波溶着装置10は超音波ホーン11と受け台12とを備えている。なお、受け台12にはその内部に空気供給路13が設けられており、空気供給路13の基端13bがチューブ14を介して加圧空気供給装置15に接続され、末端13aが受け台12の受け部12a上面に至るものとなっている。
【0033】
この例においては、空気注入工程と超音波溶着工程の両工程を超音波溶着装置10を利用して行うこととしているので、先ずは、差動式熱感知器1の本体2と感熱室3と固定リング8とを超音波溶着装置10にセットする。ここで、感熱室3は、感熱板3aとダイアフラム4とリーク部品6とダイアフラム取付枠7などで囲まれた空間である。この際、図1では図示を省略しているが、図3及び図4に示すように、中継パイプ16を本体2の開口2aに挿通し、その一端16aはリーク部品6の背面に接続して、リーク孔6aに接続するか、リーク部品6が設けられるダイアフラム取付枠7の開口7aにパッキン16cを介して接続する。そして、中継パイプ16の他端16bは受け台12に設けられている空気供給路13の末端13aに接続する。
【0034】
次いで、空気注入工程を実行する。即ち、感熱室3の内外を連通させる連通路を介して、感熱室3内部に空気を注入し、ダイアフラム4を変位させる。具体的には、加圧空気供給装置15から供給される所定圧(例えば1kPa前後)に加圧された空気を空気供給路13、中継パイプ16及びリーク孔6a又は開口7aを介して感熱室3内部に注入し、ダイアフラム4を変位させて、可動接点機構5の接点5aを閉じる。
【0035】
なお、前記のように、リーク孔6aや開口7aを介して感熱室3内部に空気を注入することとすれば、感熱室3に空気を注入するための連通路を別途設けずとも、感熱室3内部に空気を注入することができる。
【0036】
次いで、超音波溶着工程を実行するが、空気注入工程によりダイアフラム4を変位させた状態でそれを実行する。即ち、超音波ホーン11により感熱室3を本体2に取り付けるが、その取り付けをダイアフラム4が空気注入工程により変位させた状態で行う。具体的には、空気注入工程によりダイアフラム4を変位させ、可動接点機構5の接点5aを閉じた状態で、超音波ホーン11により固定リング8と本体2との接合部分を溶着部9として超音波で溶着し、感熱室3を本体2に取り付ける。
【0037】
以上説明したように、この発明の差動式熱感知器の製造方法においては、前記のように、空気注入工程により、感熱室3を温めることなく、ダイアフラム4を変位させ、その状態で超音波溶着工程により、本体2に感熱室3を取り付けるものとなっている。
【0038】
従って、この発明の差動式熱感知器の製造方法によれば、ダイアフラム4を変位させておきつつも、超音波溶着を行う際に、超音波ホーン11が温まって熱膨張していることがなく、安定した超音波の発振状態でそれを行うことができ、ダイアフラム4が受ける振動や衝撃を緩和しつつも、超音波溶着を安定して行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
1:差動式熱感知器 2:本体 2a:開口
3:感熱室 3a:感熱板 4:ダイアフラム
5:可動接点機構 5a:接点 6:リーク部品
6a:リーク孔 6b:パッキン 7:ダイアフラム取付枠
7a:開口 8:固定リング 9:溶着部
10:超音波溶着装置 11:超音波ホーン 12:受け台
12a:受け部 13:空気供給路 13a:末端
13b:基端 14:チューブ 15:加圧空気供給装置
16:中継パイプ 16a:一端 16b:他端
16c:パッキン 17:取付ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災時の急激な温度上昇による感熱室内部の空気の膨張変化によってダイアフラムが変位し、それにより接点機構の接点が閉じて火災を検出するよう構成される差動式熱感知器の製造方法であって、
該方法は、超音波溶着装置を使用して、該感熱室を該感知器の本体に取り付ける超音波溶着工程と、該感熱室の内外を連通させる連通路を介して該感熱室内部に空気を注入し、該ダイアフラムを変位させる空気注入工程とを含み、
そして、該方法は、該超音波溶着工程が実行される際、該空気注入工程が予め実行されており、該ダイアフラムが変位している状態にあることを特徴とする方法。
【請求項2】
該空気注入工程は、該感熱室に加圧された空気を注入し、該超音波溶着工程が実行される際、該加圧された空気により該ダイアフラムが変位している状態に維持していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該空気注入工程は、該ダイアフラムを変位させて、該接点機構の接点を閉じることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該連通路は該ダイアフラムが取り付けられるダイアフラム取り付け枠を貫通していることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
該感知器が日常の緩慢な温度変化による感熱室内部の膨張変化を打ち消すために設けられるリーク孔を備えており、該空気注入工程は該リーク孔を該連通路として該感熱室内部に空気を注入することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
該空気注入工程は、該リーク孔に代えて、該リーク孔が設けられる開口を該連通路として該感熱室内部に空気を注入することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該超音波溶着装置は該本体が載置される受け台であって、空気供給路が内部に設けられた受け台を含み、該空気注入工程は該空気供給路を通じて供給される空気を該連通路を介して該感熱室内部に注入することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
該空気注入工程は、該本体に形成された開口に挿通され、該空気供給路と該連通路とを接続する中継パイプを使用し、該空気供給路を通じて供給される空気を該中継パイプと該連通路とを介して該感熱室内部に注入することを特徴とする請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−209995(P2011−209995A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76878(P2010−76878)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】