説明

巻き取りロールの内部応力解析プログラム

【課題】巻き取りロールの内部応力解析を行うにあたり、実際の巻き取りロールの挙動に近いシミュレーションを行うことのできる巻き取りロールの内部応力解析プログラムを提供する。
【解決手段】ウェブ1の熱粘弾性特性を考慮した巻き取りロール4の内部応力解析プログラムは、コンピュータに、巻き取りロール4の最内層における境界条件式を算出する手順と、最外層における境界条件式を算出する手順と、境界条件の算出結果を巻き取りロール4の半径方向応力増分に関する基礎方程式に適用して応力増分を求める手順と、求められた応力増分に基づいて巻き取りロール4の半径方向応力を算出する手順とを実施させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブの熱粘弾性特性を考慮した巻き取りロールの内部応力解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルム等のウェブは、工業製品を始めとして身近に広く使用されており、日常生活において必要不可欠な素材であることは言うまでもない。
特にフラットパネルディスプレーやフレキシブル電池などの基幹素材としてのフィルムの重要性は年々増してきている。このようなフィルムは、付加価値を高めるため、製膜後に塗工や印刷などの様々な二次加工が施され、ロール状に巻き取られて次工程まで保管、輸送されるのが一般的であり、製品によっては熱処理が施される。その際、ロール内部の応力状態が時々刻々と変化し、巻き取り直後には見られなかった型崩れやシワなどに代表される巻き取り不良が発生して商品価値を損なう場合がある。
【0003】
巻き取りロール周辺の環境温度は、季節や地域、熱処理条件などによって巻き取り時とは異なることが多い。これに起因してロール温度が変化すると、巻き取りロール内に熱歪みが生じて内部応力が変化する。
また、フィルムは、高分子材料を原料とするために粘弾性特性を有する。巻き取りロール内のフィルムは応力が負荷された状態にあるため、クリープ変形が生じて内部応力が変化する。なお、応力と温度は高分子材料のクリープ挙動に影響を及ぼすことが知られている(非特許文献1)。したがって、巻き取りロールにおける内部応力およびロール温度がフィルムのクリープ変形に作用すると考えられる。
【0004】
ここで、巻き取り不良を防止する上で巻き取りロールの内部応力状態を理論的に予測することが重要となる(非特許文献2)。内部応力解析についてはこれまでにいくつか報告されている。その中でもHakielが提示した弾性モデル(非特許文献3)が今日における巻き取りモデルの基本を成しており、これを修正することで様々な影響を考慮した巻き取りモデルが提案されている(非特許文献4乃至非特許文献11)。
【0005】
熱歪みを考慮した巻き取りモデルに関して、Willetらはロール温度が均一に変化すると仮定した熱弾性モデルを報告しており(非特許文献4)、その妥当性をQuallsらが実験的に検証している(非特許文献5)。
ただし,この温度変化に関する仮定は、ロール温度が環境温度に一致した定常状態あるいはロール半径に対して一様に変化する場合には適用できるが、ロール内に温度分布が生じる場合には成立しない。
これに対して、Leiらはロール温度の不均一な変化を仮定した熱弾性モデルを提示している(非特許文献6)。しかしながら、この論文においては非定常状態における内部応力の数値解析結果は示されておらず、単にモデルの提案にとどまっている。
【0006】
一方、フィルムの粘弾性特性を考慮した巻き取りモデルに関して、Quallsらや谷本らはフィルムを線形粘弾性体と仮定し,フィルムの粘弾性特性をクリープ関数により表現した粘弾性モデルを報告しており、谷本らの論文においては実験検証がなされている(非特許文献7、非特許文献8)。ただし、これらのモデルでは粘弾性特性は応力と温度に依存しないとして検討している。
このように熱歪みを考慮した熱弾性モデルおよび粘弾性特性を考慮した粘弾性モデルがそれぞれ提示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中江利昭, “レオロジー工学とその応用技術”, (2001), フジ・テクノシステム
【非特許文献2】Good, J.K., “The Abilities & Inabilities of Wound Roll Models to Predict Winding Defects”, Proceedings of the Eighth International Conference on Web Handling, (2005), p. 453-523
【非特許文献3】Hakiel, Z., “Nonlinear Model for Wound Roll Stress”, TAPPI Journal, Vol. 70, No. 5 (1987), p. 113-117
【非特許文献4】Willett, M.S. and Poesch, W.L., “Determining the Stress Distributions in Wound Reels of Magnetic Tape Using a Nonlinear Finite-Difference Approach”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 55, (1988), p. 365-371
【非特許文献5】Qualls, W.R. and Good, J.K., “Thermal Analysis of a Round Roll”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 64, (1997), p. 871-876
【非特許文献6】Lei, H., Cole, K.A. and Weinstein, S.J., “Modeling Air Entrainment and Temperature Effects in Winding”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 70, (2003), p. 902-914
【非特許文献7】Qualls, W.R. and Good, J.K., “An Orthotropic Viscoelastic Winding Model Including a Nonlinear Radial Stiffness”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vo. 64, No. 1, March, (1997), p. 201-207
【非特許文献8】谷本光史, 河野和清, 高橋定, 佐々木将志, 米谷秀雄, 小川博史, 吉田総仁, “プラスチックフィルムの粘弾性巻き取り解析”, 日本機械学会論文集A編, Vol. 69, No. 681, (2003), p. 880-887
【非特許文献9】Good, J.K. and Holmberg, M.W, “The Effect of Air Entrainment in Center Wound Rolls”, Proceedings of the Second International Conference on Web Handling, (1993), p. 246-264
【非特許文献10】Good, J.K., Wu, Z., and Fikes, M.W.R., “The Internal Stresses in Wound Rolls with the Presence of a Nip Roller”, ASME Journal of Applied Mechanics, Vol. 61, No. 1, (1994), p. 182-185
【非特許文献11】Good, J.K. and Covell, S.M., “Air Entrainment and Residual Stress in Rolls Wound with a Rider Roll”, Proceedings of the Third International Conference on Web Handling, (1995), p. 95-112.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、巻き取りロールが保管、輸送、熱処理される間、内部応力には熱歪みと粘弾性特性の効果が同時に作用することから、前述した先行技術の巻き取りモデルにより得られる内部応力の予測値は十分な予測精度を確保しているとは言い難く、特に粘弾性特性に及ぼす内部応力とロール温度の影響が大きいフィルムにおいてはなおさらである。
【0009】
本発明の目的は、ウェブの熱粘弾性特性を考慮した巻き取りロールの内部応力解析を行うにあたり、実際の巻き取りロールの挙動に近いシミュレーションを行うことのできる巻き取りロールの内部応力解析プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る巻き取りロールの内部応力解析プログラムは、ウェブの熱粘弾性特性を考慮した巻き取りロールの内部熱応力解析を、コンピュータに実行させる巻き取りロールの内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記巻き取りロールの最内層における下記境界条件式(1)を算出する手順と、
前記巻き取りロールの最外層における下記境界条件式(2)を算出する手順と、
境界条件式(1)の算出結果、及び境界条件式(2)の算出結果を、前記巻き取りロールの半径方向の応力増分に関する下記基礎方程式(3)に用いることにより、時間増分Δtにおける巻き取りロールの第k層に生じる応力増分Δσr.k(t)を求める手順と、
求められた応力増分Δσr.k(t)を、下記式(4)に適用して、時間tにおける半径方向応力σr.k(t)を求める手順とを実行させることを特徴とする。
【0011】
【数1】

【0012】
【数2】

【0013】
【数3】

【0014】
【数4】

【0015】
本発明に係る巻き取りロールの内部応力解析プログラムは、
巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響と、ウェブの熱粘弾性特性を考慮した巻き取りロールの内部応力解析を、コンピュータに実行させる巻き取りロールの内部応力解析プログラムであって、
ウェブと空気層を合成した等価層の半径方向のヤング率Ereqを、下記式(5)に基づいて算出する手順と、
前記等価層の円周方向のヤング率Eθeqを、下記式(8)に基づいて算出する手順と、
算出された前記等価層の半径方向のヤング率Ereqに基づいて、前記等価層の半径方向クリープ関数を、下記式(9)に基づいて算出する手順と、
算出された前記等価層の半径方向のヤング率Eθeqに基づいて、前記等価層の円周方向クリープ関数を、下記式(10)に基づいて算出する手順と、
前記巻き取りロールの最内層における下記境界条件式(11)を算出する手順と、
前記巻き取りロールの最外層における下記境界条件式(12)を算出する手順と、
境界条件式(11)の算出結果、及び境界条件式(12)の算出結果を、前記巻き取りロールの半径方向の応力増分に関する下記基礎方程式(13)に用いることにより、時間増分Δtにおける巻き取りロールの第k層に生じる応力増分Δσr.k(t)を求める手順と、
求められた応力増分Δσr.k(t)を、下記式(14)に適用して、時間tにおける半径方向応力σr.k(t)を求める手順とを実行させることを特徴とする。
【0016】
【数5】

【0017】
(空気層の半径方向ヤング率Eralは、下記式(6)で算出され、空気層の厚さhalは、下記式(7)で算出される。)
【0018】
【数6】

【0019】
【数7】

【0020】
【数8】

【0021】
【数9】

【0022】
【数10】

【0023】
【数11】

【0024】
【数12】

【0025】
【数13】

【0026】
【数14】

【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、巻き取りロールの内部応力解析にあたり、ウェブの熱粘弾性を考慮して解析しているため、内部応力解析を高精度に行うことができる。従って、ウェブの巻き取り条件を設定する際、これらの解析プログラムを用いてシミュレーションを行うことにより、巻き取りロール内部の実際の内部応力の発生状態に近い状態でシミュレーションを行うことができるため、ウェブの物性、巻き取りロールの保管・輸送等の環境条件に応じた巻き取り条件を設定することができ、保管・輸送中に巻き取りロールにブロッキングやシワが発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ウェブの中心駆動巻き取りの構造を表す概念図。
【図2】検証実験に用いた試験装置の構造を表す模式図。
【図3】ウェブの半径方向熱歪みと円周方向熱歪みの温度変化の関係を表すグラフ。
【図4】巻き取りロールの半径方向位置とロール温度変化の関係を表すグラフ。
【図5】巻き取りロールの保管庫内での保管時間とロール温度変化の関係を表すグラフ。
【図6】熱粘弾性プログラムによる予測値と実測値とを比較したグラフ。
【図7】熱弾性プログラムによる予測値と実測値とを比較したグラフ。
【図8】粘弾性プログラムによる予測値と実測値とを比較したグラフ。
【図9】巻き取りロールの半径方向位置と円周方向応力の関係を表すグラフ。
【図10】巻き取りロールの内部応力解析プログラムの処理手順を表すフローチャート。
【図11】巻き取りロールの内部応力解析プログラムの処理手順を表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の一形態を図面に基づいて説明する。
[1]熱粘弾性モデル
(1-1)概要
図1は、最も基本的な巻き取り方式のひとつであるニップローラ3を有する場合の中心駆動巻き取りの概念図を示している。フィルム等のウェブ1は、巻き取り張力Tとニップローラ3による押付け荷重Lが与えられた状態で巻芯2に巻き取られ、巻き取りの進行にともない新たな層が追加されると、既に巻き取られた部分の応力は逐次変化していく。これと同時に、ウェブ1の粘弾性特性とロール温度の変化にともなう熱歪みの効果により、巻き取り中および巻き取り後も内部応力は時々刻々と変化する。
【0030】
また、ウェブ1は、通常大気中で巻き取られる。その際、周辺の空気はその粘性作用によって巻き取り中における最外層と既に巻き取られた部分の間に流入し、その結果としてウェブ1間に空気層が形成される。
このような空気層が存在すると巻き取りロール4の見かけの剛性は著しく低下し、内部応力が大きく変化する(非特許文献6、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献11)。これに対し、ニップローラ3は巻き込み空気量を制限し、巻き取りロール4の見かけの剛性を調整する目的で使用される。
本発明では、前述したHakielが提示した弾性モデルを基礎とし、ウェブ1の粘弾性特性と熱歪みの効果により変化する内部応力状態を予測するための巻き取りロールの内部応力解析プログラムを提供する。なお、本解析プログラムに導入するクリープ関数について、応力と温度の依存性を考慮できるように修正するとともに、巻き込み空気層によるロール剛性の変化を考慮できるように拡張する。
【0031】
(1-2)基礎方程式と境界条件式
本解析プログラムの定式化に際し、(1)巻取りロール4は完全な円筒形状を保ち、ウェブ1の厚さ、幅、表面粗さなどは均一である、(2)ウェブ1がスパイラル状に巻かれている効果は無視でき、巻取りロール4を薄肉円筒の重ね合わせで表現し得る、(3)巻取りロール4内部において半径方向応力と円周方向応力が支配的であり、軸方向応力は考慮しなくてよい、とする仮定を置く。
円筒座標系における応力の釣り合い方程式、歪みの適合条件式、歪みと変位の関係式はそれぞれ下記式(15)〜式(17)のように表される。尚、以下の説明では、巻き取りロール4の半径方向位置は、巻き取りロール4の中心を起点として、巻き取りロール4の最外層に向かった位置をいう。
【0032】
【数15】

【0033】
【数16】

【0034】
【数17】

【0035】
また、対象とする層が巻き取られた時間tから現在の時間tまで間における応力と歪みの関係は、ウェブ1を線形粘弾性体と仮定して熱歪みを考慮すれば、時間積分により半径方向および円周方向に関してそれぞれ下記式(18)及び式(19)のように表される。
【0036】
【数18】

【0037】
【数19】

【0038】
ここでJ(t)は、粘弾性力学モデルとして一般化フォークトモデルで表されるクリープ関数であり、線形粘弾性理論に基づいて時間−温度換算則(松本重男, 宮野靖, 杉森勝, 牟岐鹿樓, 國尾武, “粘弾性体の冷却により生ずる残留応力の簡易な数値解析法”, 日本機械学会論文集A編, Vol. 60, N o. 571, (1994), p. 770-776、山田博, 池田雅幸, 新保實, 宮野靖, “時間‐温度換算則に基づくポリプロピレン樹脂のクリープ破壊の予測法”, 成形加工, Vol. 19, N o. 4, (2007), p. 243-247)、及びこの換算則を応用して応力に適用した時間−応力換算則をそれぞれ考慮できるようにした下記式(20)により表すことができる。
【0039】
【数20】

【0040】
尚、t''は、複合換算時間として定義した基準応力σ及び基準温度Tでの換算時間であり、応力σ、ロール温度Tにおける換算時間t’および時間tとの関係は基準応力に対する時間移動因子a(σ)、基準温度に対する時間移動因子a(T)を用いると下記式(21)のように表すことができる。
【0041】
【数21】

【0042】
ここで、式(18)、式(19)中のJrθ(t)及びJθr(t)は、弾性体におけるポアソン成分−νrθ/Eθ、−νθr/Eにそれぞれ相当するが、前述した非特許文献7のQuallsらによれば、これらを無視しても差し支えないとしている。そこで、この考えを考慮して、式(18)及び式(19)におけるJrθ(t)及びJθr(t)を無視し、さらに式(15)、式(16)を用いて整理すると、巻き取りロール4の半径方向応力σrに関する支配方程式は、下記式(22)のようになる。
【0043】
【数22】

【0044】
次に、式(22)を時間に関して離散化する。巻き取りを開始した時間をt=t=0、巻き取りロール4内における任意の第k層が巻き取られたロール半径をr、その時間をtと定義する。時間ti−1において第k層の半径方向応力σr.k(ti−1)およびロール温度Tf.k(ti−1)がそれぞれ既知であるとし,それからの時間増分Δtの間に応力増分Δσr.k(t)、温度増分ΔTf.k(t)が生じるとすれば下記式(23)〜式(25)が成立する。
【0045】
【数23】

【0046】
【数24】

【0047】
【数25】

【0048】
尚、式(22)の積分範囲は時間tからtまでとなる。
粘弾性特性に関する項において、時間積分はJ(t−τ’)の微分次数により2種類の積分に分類できる。そこで、これらをそれぞれ下記式(26)及び(27)で定義する。
【0049】
【数26】

【0050】
【数27】

【0051】
ここで、式(26)及び式(27)中のf(τ')は、σ(τ’)、r・∂σ(τ')/∂r、r・∂σ(τ')/∂rを代表して示している。
まず、式(26)を時間に関して離散化すると、下記式(28)のように表される。
【0052】
【数28】

【0053】
式(28)の右辺第1項は時間増分Δtでの粘弾性特性に起因した応力増分に関する項であり、第2項は今回の時間増分において、既知である過去の粘弾性特性による応力増分の影響項である。
また、式(27)についても同様に考えると、下記式(29)のように書き改められる。
【0054】
【数29】

【0055】
以上より、式(22)中の熱歪みに関する項についても時間に関して離散化し、この結果と式(28)及び式(29)考慮すると、時間増分Δtにおいて、粘弾性特性と熱歪みにより巻き取りロール4の第k層に生じる応力増分Δσr.k(t)に関する基礎方程式は、下記式(30)のように導出される。
【0056】
【数30】

【0057】
最内層において、巻芯2の変位と巻き取りロール4の最内層の変位が等しく、巻芯2の線膨張係数が一定であると仮定すると、下記式(31)が得られる。
【0058】
【数31】

【0059】
式(31)に式(15)、式(19)、式(24)を考慮し、式(30)を求める際の手順と同様に時間に関して離散化すると、最内層の境界条件式が下記式(32)のように求められる。
【0060】
【数32】

【0061】
一方、巻き取りロール4の最外層の外表面では半径方向応力は0である。従って、最外層境界条件式は下記式(33)のように与えられる。
【0062】
【数33】

【0063】
以上より、巻き取りロール4の最内層における境界条件式(32)と、最外層における境界条件式(33)とを、基礎方程式(30)に用いることにより、時間増分Δtにおいて、粘弾性特性と熱歪みにより巻き取りロール4の第k層に生じる応力増分Δσr.k(t)を求めることができる。
そして、求められた応力増分Δσr.k(t)を式(24)に用いることにより、時間tにおける半径方向応力σ(t)が求められる。尚、円周方向応力σθ(t)は、式(15)の関係により求めることができる。
【0064】
[2]空気層を含む等価層の剛性の影響
空気を巻き込んだ状態での巻き取りロール4の剛性は、数値解析上ではウェブ1と空気層を複合した等価層として取り扱うことができる(非特許文献6、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献11)この等価層に対する半径方向ヤング率Ereqは、下記式(34)から求めることができ、円周方向ヤング率Eθeqは、下記式(35)から求めることができる。
【0065】
【数34】

【0066】
【数35】

【0067】
ここで、空気層の厚さhal及び半径方向ヤング率Eralは、巻き取りロール4の巻き取り中及び巻き取り後に変化する半径方向応力に応じて変化する。
最外層に形成される初期空気層厚さhal0は、巻き取りロール4とニップローラ3間に対して弾性流体潤滑理論を適用することで求めることができる。本実施形態では、下記式(36)に示すChangの結果を利用する(Chang, Y.B., Chambers, F.W. and Shelton, J.J., “Elastohydrodynamic Lubrication of Air Lubricated Rollers”, ASME Journal of Tribology, Vol. 118, (1996), p. 623-628)。
【0068】
【数36】

【0069】
巻き取りロール4内に巻き取られた空気が半径方向応力σrによって圧縮されると、空気層厚さはhal0からhal(=hal0−Δhal)に減少する。また、環境温度が変化すると、空気層の温度は巻き取り中の恩智TroomからTalに変化する。空気が巻き取りロール4外に流出しないと仮定し、最外層に巻かれたときの状態を基準としてボイル・シャルルの法則を適用すると、下記式(37)の関係が得られる。
【0070】
【数37】

【0071】
ここで、Pは、最外層内側の層間圧力であり、巻き取り張力Tにニップロール3のニップ部での摩擦によって誘起される張力を考慮した下記式(38)で与えられる。
【0072】
【数38】

【0073】
式(37)より、ある半径方向応力σが作用したときの空気層厚さhalは下記式(39)で求められる。
【0074】
【数39】

【0075】
また、空気層の半径方向ヤング率Eralは、式(39)を歪みの定義に適用して導出される式(40)により求めることができる。
【0076】
【数40】

【0077】
ここで、数値解析上、巻き取りロール4内における空気層の温度Talはウェブ1の温度Tに等しく、また、空気層厚さの変化は、巻き取りロール4内の熱歪みに作用しないと仮定して取り扱う。
次に、等価層のヤング率を粘弾性問題へ展開する。式(34)、式(35)に示した等価層の半径方向ヤング率Ereq及び円周方向ヤング率Eθeqがそれぞれ式(20)に示したクリープ関数における瞬間項Jに対応する。
従って、等価層における半径方向クリープコンプライアンスJreq(t)は、式(41)のように、円周方向クリープコンプライアンスJθeq(t)は、式(42)のように書き改めることができる。
【0078】
【数41】

【0079】
【数42】

【0080】
これらの結果を考慮し、式(30)、式(32)におけるJ(t)、Jθ(t)を、式(41)のJreq(t)、式(42)のJθeq(t)に置き換えることにより、空気層を含んだ場合の等価層の剛性の影響を含んだ半径方向応力を求めることができ、具体的には、基礎方程式は下記式(43)、最内層の境界条件式は下記式(44)のように与えられる。
【0081】
【数43】


【0082】
【数44】

【0083】
[3]非定常熱伝導解析
以下の説明では、巻き取りロール4のロール温度T(t)及びその温度増分ΔT(t)、巻芯2における温度増分ΔT(t)を見積もるための非定常熱伝導解析について説明する。
円筒座標系における非定常熱伝導の基礎方程式は、巻き取りロール4内の空気層が熱伝導に及ぼす影響を無視することができ、発熱がなく、半径方向のみに温度変化があるとした場合に対して下記式(45)のように表される。
【0084】
【数45】

【0085】
巻き取りロール4と周辺空気の接触面において、対流伝熱による熱移動が支配的であると仮定すると、巻き取りロール4の最外層面における境界条件は式(46)で与えられる。
【0086】
【数46】

【0087】
一方、巻き取りロール4の巻芯2の内側面における境界条件は式(47)で与えられる。
【0088】
【数47】

【0089】
また、巻芯2とウェブ1の接触面において巻芯2側とウェブ1側の熱流束および温度がそれぞれ等しいとすると、この接触面における境界条件は、式(48)及び式(49)のように与えられる。
【0090】
【数48】

【0091】
【数49】

【0092】
以上より,基礎式(45)および境界条件式(46)〜(49)を時間tおよびロール半径rに関して適宜離散化し、巻取り中の環境温度を考慮して設定した初期値を用いて解けば、時間tにおける各層のロール温度T(t)と巻芯温度T(t)がそれぞれ得られる。
さらに、これらの結果を式(23)、式(25)に考慮すれば、時間増分Δtにおけるロール温度の増分ΔT(t)及び巻芯2の温度の増分ΔT(t)が求められる。
【0093】
[4]実験による検証
次に、前述した理論予測モデルに基づく巻き取りロールの内部応力解析プログラムの有効性について実験的に検証した。具体的には,巻き取りロール周辺の環境温度を意図的に変化させ,その際に測定したロール温度および半径方向応力の実験値を予測値と比較・検討した。
また、本実験において、ロール温度が内部応力状態に及ぼす影響は大きいと考えられるため、非定常熱伝導解析の妥当性を確認しておく必要がある。そこで、ロール温度に関しても半径方向応力の場合と同様に実験値と予測値を比較・検討する。
【0094】
本実験では、ウェブ1としてポリプロピレンフィルムを用い、図2に示すような巻き出し部11とニップローラ12を有する巻き取り部18から構成される試験装置10で巻き取りを実施した。
本試験装置10は、巻き取りロール13を巻き出し側に設置し、張力や速度を制御するためのローラ15、16を介してウェブ1を搬送する。ローラ16には張力センサ17が設けられている。
最終的には最下流に位置する巻き取り軸に固定した巻芯14に、ニップローラ12による押付け荷重を負荷した状態で巻き取る機構になっている。
【0095】
巻き取りロール13周辺の環境温度は、巻き取り後のロールを保管庫に投入することで変化させた。この保管庫は、熱源、ファンと温度センサを設けた断熱材で囲った箱を用い、その中の温度が一定になるように温度センサの信号によって熱源を制御する機構になっている。
尚、環境温度として、実際の熱処理を想定し、室温Troom=24℃において、巻き取りが完了した0.5時間後、巻き取り中の温度より20K高い温度に制御された保管庫に巻き取りロール13を投入して、巻き取りロール13の環境温度を変化させた。ここで、巻き取りロール13を投入した時間を保管時間tst=0として定義する。
【0096】
巻取りロール13内の半径方向応力と温度の測定にはそれぞれ薄膜の圧力センサと温度センサを用いた。
これらを無次元ロール半径r/r=1.3、1.55、1.8、2.05にそれぞれ設置されるように適宜巻き取り中の最外層部分から挿入し、巻き取りロール4を保管庫に投入した直後から測定を開始した。尚、測定に際しては半径方向応力の測定精度を考慮し、応力測定と温度測定をそれぞれ独立に各3回以上行った。
また、ロール端部からの熱移動の影響を小さくするため,センサの感部がフィルムの幅に対して中央部に位置するように設置した。
【0097】
表1にウェブ1の物性値、表2に実験条件をそれぞれ示す。また、数値解析を実施するには、表1に示したウェブ1の物性値に加えて、式(20)に示したクリープ関数で表されるクリープコンプライアンスと線膨張係数をそれぞれ与える必要がある。本実施形態に係る熱粘弾性解析プログラムでは、半径方向クリープコンプライアンスJ(t)及び円周方向クリープコンプライアンスJθ(t)を実験的に求めた予測式で与える。具体的には、下記式(50)及び式(51)で求めている。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【数50】

【0101】
【数51】

【0102】
尚、これらの式における右辺第1項および第2〜6項は、式(20)における右辺第1項の瞬間項及び第2項の遅延項にそれぞれ対応している。この瞬間項の部分(Jr0=1/E,Jθ0=1/Eθは、温度環境を23℃とした圧縮試験および引張試験により測定した応力とひずみの関係から求めている。
一方、遅延項の部分は様々な応力・温度環境下における圧縮クリープ試験(負荷応力:0.25,0.5,1,1.5MPa,温度:23,31,40℃)、及び引張クリープ試験(負荷応力:2,4,6MPa,温度:23,31,40,50℃)により測定したクリープコンプライアンスと、時間の関係をもとに合成曲線を作成し、その結果を近似して得ている。ここで、ウェブ1の半径方向に関しては圧縮方向、円周方向に関しては引張方向の試験を実施した。
また、合成曲線を作成する際に半径方向および円周方向における基準温度Tf0に対する時間移動因子aTr(T)、aTθ(T)、基準応力σに対する時間移動因子aTr(σ)、aTθ(σθ)がそれぞれ求められる。この結果として得られる基準温度に対する時間移動因子と温度の関係、基準応力に対する時間移動因子と応力の関係は、式(52)〜式(55)のように近似できる。
【0103】
【数52】

【0104】
【数53】

【0105】
【数54】

【0106】
【数55】

【0107】
ここで,基準温度はTf0=23℃、半径方向における基準応力はσr0=0.25MPa、円周方向における基準応力はσr0=2MPaとしている。また、ウェブ1の半径方向の活性化エネルギはΔH=78.45kJ/mol、円周方向の活性化エネルギΔHθ=164.3kJ/molである。
図3は、温度を変化させて測定したウェブ1の半径方向および円周方向における熱歪みの実験値と、その近似値を併せて示したものであり、0℃での歪みを基準としている。この近似式を温度について微分すれば、温度Tにおけるウェブ1の半径方向および円周方向の線膨張係数α(T)、αe(T)は、それぞれ下記式(56)及び式(57)で求められる。
【0108】
【数56】

【0109】
【数57】

【0110】
尚、表2に示した熱伝達率κは、実際の保管環境における実測値である。この測定では巻芯14内側面およびロール最外層面の近傍に熱流速センサを設置し、保管庫内において熱流束qと熱流束センサ測定部の表面温度Tを計測する。これらの測定値を式(58)に代入すればその保管環境における熱伝達率κが算出できる。
【0111】
【数58】

【0112】
[5]実験検証結果及び考察
図4及び図5は、ロール温度の変化量(Tf−Troom)の予測値及び実験値をそれぞれ示したものであり、図4は、横軸に巻き取りロール13の中心を起点とした半径方向位置r/r(半径方向位置を巻芯14の半径で除した無次元半径方向位置)を取ったものであり、図5は、保管時間tstを横軸に取ったものである。
また、図6〜図8は、半径方向応力σの予測値と実験値をそれぞれ示したものであり、図6〜図8において(A)は巻き取りロールの中心を起点とした半径方向位置r/r(半径方向位置を巻芯14の半径で除した無次元半径方向位置)を横軸に取ったものであり、(B)は、保管時間tstを横軸に取ったものである。
また、本発明の熱粘弾性プログラムの有効性を検討するため、図6には、熱粘弾性(Thermal-viscoelastic)プログラムによる予測値を示し、図7には、熱歪みのみを考慮した熱弾性(Thermal-elastic)プログラムによる予測値を示し、図8には粘弾性特性(Viscoelastic)のみを考慮した粘弾性プログラムによる予測値を示している。
尚、これらの図中のプロットは実験結果(実測値)の平均値であり、ばらつきの範囲をエラーバーで表示している。
【0113】
図4及び図5に示すロール温度の変化量の予測値は、巻き取り完了後に巻き取りロール13の周辺の環境温度が上昇すると、巻き取りロール13の内部に温度分布が生じて時々刻々と変化することがわかる。巻き取りロール13を保管庫に投入すると、環境温度が巻き取り中の温度より高くなるため、周辺空気と巻き取りロール13の接触面である巻芯14の内側面及び巻き取りロール13の最外層面から熱が流入し、巻芯14側及び外層側からロール温度が上昇する。このとき、温度変化は巻芯14側に比べて外層側で大きいことがわかる。これは、巻き取りロール13の最外層面の熱伝達率が巻芯14の内側面より高いためであり、その結果として対流伝熱により流入する熱量が多くなることに起因する。
また、時間が経過すれば巻き取りロール13内の温度は、環境温度に達するが、これには、15時間程度要することがわかる。ロール温度の予測値と実験値は良く一致しており、本実施形態で適用した非定常熱伝導解析は本実験の範囲内において妥当であると言える。
【0114】
次に、半径方向応力について検討する。図6に示すように、熱粘弾性モデルによる半径方向応力の予測値は、ロール温度の場合と同様に時々刻々と変化することがわかる。
熱弾性モデルによる予測値の場合、図7に示すように、半径方向応力は、ロール温度の上昇にともない保管開始直後で急激に減少する。さらに時間が経過すると、内層部においてはそのまま減少するが、中間層部および外層部においては、一旦増大に転じることがわかる。
【0115】
このような変化の傾向は、ロール温度の変化によって生じるウェブ1と巻芯14の熱歪みに起因している。式(56)、式(57)、及び表2に示したウェブ1及び巻芯14の線膨張係数を、本実験のロール温度の範囲内で比較すると、ウェブ1の円周方向の線膨張係数αθ(T)は、半径方向の線膨張係数α(T)の1/2程度であり、巻芯14の線膨張係数αより1桁大きい。
したがって、前述した式(30)、式(32)を考慮すると、半径方向応力が温度変化初期で減少するのは巻き取りロール13内に生じる温度分布が主たる要因であり、その後の変化に関しては、内層部ではウェブ1の円周方向の線膨張係数と巻芯14の線膨張係数との差が影響を及ぼし、中間層部と外層部ではウェブ1の円周方向の線膨張係数と半径方向の線膨張係数の差が影響を及ぼしていると考えられる。
【0116】
一方、粘弾性プログラムによる予測値の場合、図8に示すように、時間の経過にともない半径方向応力が緩やかに減少する傾向を示す。これは、そのときの応力と温度に応じて巻取りロール13内のウェブ1がクリープ変形した結果と考えられる。なお,保管時間tst=0hourにおいて両者の値が異なるのは、巻き取り中から巻き取りロール13を、保管庫に投入するまでの間に生じるウェブ1のクリープ変形によるものと考えられる。
また、いずれの場合においても半径方向応力の変化が大きいのは巻き取りロール13の内層側であることがわかる。
【0117】
以上の結果を考慮すると、熱粘弾性プログラムにおける予測値は、熱弾性プログラムの場合と粘弾性プログラムの場合の特徴を同時に有する変化の傾向を示すことがわかる。具体的には、保管時間tst=0hourでは、粘弾性プログラムの場合と同値であり、ロール温度が上昇すると、熱弾性プログラムの場合と同様に熱歪みに起因した変化傾向を示すが、一定の時間が経過したときの中間層部から外層部における半径方向応力の増大量は粘弾性特性の影響により小さくなる。
【0118】
また、保管時間tst=12hour以降において、巻芯14の近傍の半径方向応力は時間経過によりわずかに増大することが確認できる。これは、粘弾性特性に起因していると推察され、巻き取り中にウェブ1が受けた歪みの履歴による記憶現象が関係していると考えられる。
熱粘弾性プログラムによる予測値は実験値と概ね一致しており、本実施形態の巻き取りロールの内部応力解析プログラムは、熱弾性プログラム及び粘弾性プログラムに比べて高い精度で半径方向応力を予測できることがわかる。
ここで、無次元ロール半径r/r=1.30、1.55、1.80、2.05における予測値と実験値は比較的よく一致する。
【0119】
[6]内部応力と巻き取り不良の関係に関する検討
本実験の条件における巻き取りロール13の内部応力の予測値を基に、巻き取り不良との関係について検討を加える。ここで、図9は、図6に示した熱粘弾性モデルによる半径方向応力σの予測値を用いて求めた円周方向応力σθの予測値を示したものである。
図6に示したように、環境温度の変化にともなうロール温度の上昇および時間の経過により、半径方向応力σは、巻き取りロール13内において全体的に減少する。
このような場合、ウェブ1層間が滑りやすくなる。そのため、輸送、保管、及び熱処理している間に受ける外乱による軸方向の力、あるいは次工程で巻き出す際の巻出し張力に起因する円周方向の力によって型崩れが生じる恐れがある。
【0120】
また、図9に示すように、円周方向応力σθも減少する傾向を示し、特に保管時間t=12hour、24hourにおいては、無次元ロール半径位置が概ねr/r=1.45より内層側の範囲で負の値になる。
このような範囲ではウェブ1が座屈することにより、シワが発生する可能性がある。
実際の製造現場では、巻き取り直後に問題のない巻取りロール4であっても、その後に巻き取り不良が生じる場合があるが、ここで検討した内容は、このような不具合に関連していると考えられる。これより、環境温度の変化および時間経過により巻き取り後に発生する巻き取り不良に対し、その発生メカニズムを明らかにすること、さらに対策手段を検討することにおいて、本発明で提示した熱粘弾性プログラムは有用と判断する。
【0121】
[7]まとめ
本実施形態では、ロール温度の変化および時間経過により変化する巻き取りロール13の内部応力状態を予測するための巻き取りロールの内部応力解析プログラムについて検討した。得られた主な結論を以下に記す。
(1)弾性モデルを拡張し、ウェブ1の粘弾性特性と熱歪みの効果を考慮した非定常状態における巻き取りロール4の内部応力に関する熱粘弾性プログラムを提示した。尚、本プログラムに導入したクリープ関数に関して、粘弾性特性における応力と温度の依存性を、考慮できるように修正するとともに、巻き込み空気層によるロール剛性の変化を考慮できるように拡張して用いた。
(2)ウェブ1の半径方向応力について、ポリプロピレンフィルムを用いた検証実験における実験値と、前述した熱粘弾性プログラムによる予測値は概ね一致し、プログラムの妥当性が確認された。
【0122】
[8]巻き取りロールの内部応力解析プログラムの作用
前述した非定常熱伝導解析プログラム及び内部応力解析プログラムは、汎用のコンピュータで実行処理されるプログラムとして構成することができ、コンピュータ上では、図9及び図10のフローチャートに基づいて、実行処理が行われる。
まず、図9に示されるように、初期設定値として表1に示されるようなウェブ1の物性値、表2に示されるような巻き取り条件及び弾性モデルにより求めた内部応力を入力する(手順S1)。
【0123】
式(32)に基づいて、巻き取りロール4の最内層の境界条件設定を行う(手順S2)。続けて、式(33)に基づいて、最外層の境界条件設定を行う(手順S3)。
境界条件の設定が終了したら、この境界条件を基礎方程式(30)に適用し(手順S4)、応力増分Δσr.kを算出する(手順S5)。
応力増分Δσr.kの算出が終了したら、式(24)に基づいて、その時間tにおけるロール内半径方向応力σr.kを更新する(手順S6)。
経過時間tを更新し(手順S7)、手順S2からを繰り返す。
必要な経過時間tすべてについて算出が終了したら(手順S8)、処理を終了する。
【0124】
一方、巻き取りロール4の内部応力解析にあたり、巻き込み空気を考慮する場合には、図10に示されるフローチャートの処理が実行される。
基本的には、図9のフローチャートと同様の処理となるが、空気層のヤング率Eralを算出し(手順S9)、さらに等価層の半径方向ヤング率Ereqを算出し(手順S10)、さらに等価層の円周方向のヤング率Eθeqを算出する(手順S11)。
これらの算出が終了したら、式(44)に基づいて、最内層の境界条件を設定し(手順S12)、前述と同様に最外層の境界条件を設定した(手順S3)後、式(43)にこれらの条件を適用して(手順S13)、応力増分Δσr.kを算出し(手順S14)、前述と同様に半径方向応力Δσr.kの更新を行う(手順S6)。以後は、前述と同様なので、説明を省略する。
【符号の説明】
【0125】
1…ウェブ、2…巻芯、3…ニップローラ、4…巻き取りロール、10…試験装置、11…巻き出し部、12…ニップローラ、13…巻き取りロール、14…巻芯、15、16…ローラ、17…張力センサ、18…巻き取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブの熱粘弾性特性を考慮した巻き取りロールの内部応力解析を、コンピュータに実行させる巻き取りロールの内部応力解析プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記巻き取りロールの最内層における下記境界条件式(1)を算出する手順と、
前記巻き取りロールの最外層における下記境界条件式(2)を算出する手順と、
境界条件式(1)の算出結果、及び境界条件式(2)の算出結果を、前記巻き取りロールの半径方向の応力増分に関する下記基礎方程式(3)に用いることにより、時間増分Δtにおける巻き取りロールの第k層に生じる応力増分Δσr.k(t)を求める手順と、
求められた応力増分Δσr.k(t)を、下記式(4)に適用して、時間tにおける半径方向応力σr.k(t)を求める手順とを実行させることを特徴とする巻き取りロールの内部応力解析プログラム。
【数1】


【数2】

【数3】

【数4】

【請求項2】
巻き取りロール内に巻き込まれた空気の影響と、ウェブの熱粘弾性特性を考慮した巻き取りロールの内部応力解析を、コンピュータに実行させる巻き取りロールの内部応力解析プログラムであって、
ウェブと空気層を合成した等価層の半径方向のヤング率Ereqを、下記式(5)に基づいて算出する手順と、
前記等価層の円周方向のヤング率Eθeqを、下記式(8)に基づいて算出する手順と、
算出された前記等価層の半径方向のヤング率Ereqに基づいて、前記等価層の半径方向クリープ関数を、下記式(9)に基づいて算出する手順と、
算出された前記等価層の半径方向のヤング率Eθeqに基づいて、前記等価層の円周方向クリープ関数を、下記式(10)に基づいて算出する手順と、
前記巻き取りロールの最内層における下記境界条件式(11)を算出する手順と、
前記巻き取りロールの最外層における下記境界条件式(12)を算出する手順と、
境界条件式(11)の算出結果、及び境界条件式(12)の算出結果を、前記巻き取りロールの半径方向の応力増分に関する下記基礎方程式(13)に用いることにより、時間増分Δtにおける巻き取りロールの第k層に生じる応力増分Δσr.k(t)を求める手順と、
求められた応力増分Δσr.k(t)を、下記式(14)に適用して、時間tにおける半径方向応力σr.k(t)を求める手順とを実行させることを特徴とする巻き取りロールの内部応力解析プログラム。
【数5】


(空気層の半径方向ヤング率Eralは、下記式(6)で算出され、空気層の厚さhalは、下記式(7)で算出される。)
【数6】


【数7】


【数8】


【数9】


【数10】


【数11】

【数12】

【数13】

【数14】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−64650(P2013−64650A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203596(P2011−203596)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 一般社団法人 日本機械学会が2011年(平成23年)3月18日に発行した、「IIP2011 情報・知能・精密機器部門講演会 講演論文集」
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(511005723)
【Fターム(参考)】