説明

巻立て鉄筋

【課題】四角形の断面形状を有するコンクリート柱の外周面に沿って、補強用の鉄筋を所定のピッチで効率良く設置してゆくことのできる巻立て鉄筋を提供する。
【解決手段】四角形の断面形状のコンクリート柱20を補強する補強体11を形成する際に、コンクリート柱20の外周面に沿って設置される巻立て鉄筋10であって、複数の加工鉄筋14を接合して四角形の螺旋形状に連続させることでコンクリート柱20の周囲に設置される。加工鉄筋14は、コンクリート柱20の四角形の断面形状の3つの辺部20eに沿ったコの字形状となるように2箇所の角部14dを備えるコの字状本体部14aと、コの字状本体部14aの一方の端部の先端から折れ曲がって延設する張出し継手部14bとからなる。張出し継手部14bと、コの字状本体部14aの他方の端部14cとを接合することで、複数の加工鉄筋14が四角形の螺旋形状に連続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四角形の断面形状を有する既設コンクリート構造物を補強する補強体を既設コンクリート構造物の周囲に形成する際に、既設コンクリート構造物の外周面に沿って四角形の螺旋形状に設置される巻立て鉄筋、及び該巻立て鉄筋に用いる加工鉄筋に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば高架橋の橋脚、ビルの柱等を構成する四角形の断面形状を有するコンクリート柱や、コンクリート梁等のその他の四角形の断面形状を有する各種の既設コンクリート構造物を耐震補強するための補強構造として、例えばコンクリート柱の周囲に補強用の鉄筋を上下方向に所定のピッチで複数リング形状に巻立てると共に、巻立てた鉄筋を埋設するようにして、既設コンクリート構造物の外周部分に、コンクリートやモルタルを所定の厚さで打設したり吹き付けたりすることによって補強体を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、四角形の断面形状を有する既設コンクリート柱の周囲に補強用の鉄筋を上下方向に所定のピッチで複数リング形状に各々巻立ててゆく作業は、鉄筋は変形し難い材料であるため、リング形状を2分割した形状に加工した鉄筋を施工現場で各々溶接等によって接合して、各リング毎に鉄筋をリング形状に取り付けてゆく必要があることから、接合箇所が各リング毎に2箇所必要になって多くの手間がかかることになる。
【0004】
このようなことから、一般の鉄筋よりも変形が容易な高強度鋼線を、四角形の断面形状のコンクリート柱の外周面に沿った、複数の矩形ループをなす螺旋状の束に加工して、ループ間の間隔を拡げるように高強度鋼線を弾性変形させつつ、既設コンクリート構造物の外周面に沿って、高強度鋼線を四角形の螺旋形状に連続して巻立ててゆくようにした補強構造も開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−151613号公報
【特許文献2】特開平10−148038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の補強構造では、溶接ではなく重ね部を長く設ける一方で、高強度鋼線は、高価な材料であるためコストがかかることになると共に、複数の矩形ループをなす螺旋状の束に加工すると、相当の重量となるため、専用の機械を用いて作業を行う必要を生じてさらにコストがかかることになる。このようなことから、入手が容易で安価な一般の鉄筋を使用して、専用の機械を用いることなく、四角形の断面形状を有する既設コンクリート構造物の外周面に沿って、補強用の鉄筋を所定のピッチで効率良く設置してゆくことを可能にする新たな技術の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、入手が容易で安価な一般の鉄筋を使用して、専用の機械を用いることなく、四角形の断面形状を有する既設コンクリート構造物の外周面に沿って、補強用の鉄筋を所定のピッチで効率良く設置してゆくことのできる巻立て鉄筋、及び該巻立て鉄筋に用いる加工鉄筋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、四角形の断面形状を備える既設コンクリート構造物を補強する補強体を該既設コンクリート構造物の周囲に形成する際に、該既設コンクリート構造物の外周面に沿って四角形の螺旋形状に設置される巻立て鉄筋であって、折曲げ加工された複数の加工鉄筋を、これらの端部を接合して四角形の螺旋形状に連続させることによって前記既設コンクリート構造物の周囲に設置されるようになっており、前記加工鉄筋は、前記既設コンクリート構造物の四角形の断面形状の3つの辺部に沿ったコの字形状となるように、折れ曲がった2箇所の角部を備えるコの字状本体部と、該コの字状本体部の一方の端部の先端から折れ曲がって延設する張出し継手部とからなり、該張出し継手部と、前記コの字状本体部の他方の端部とを接合することで、複数の前記加工鉄筋が四角形の螺旋形状に連続するようになっており、四角形の螺旋形状の各3層の螺旋において、前記張出し継手部と前記他方の端部との接合部は、前記既設コンクリート構造物の四角形の断面形状の異なる4箇所の角部に順次配置されるようになっている巻立て鉄筋を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
本発明の巻立て鉄筋は、前記張出し継手部と前記コの字状本体部の他方の端部との接合部が、溶接による接合部となっていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の巻立て鉄筋は、前記張出し継手部と前記コの字状本体部の他方の端部との接合部が、機械式継手による接合部となっていることが好ましい。
【0011】
そして、本発明の巻立て鉄筋は、前記既設コンクリート構造物が正方形又は略正方形の断面形状を有しており、螺旋形状を形成する複数の前記加工鉄筋は、前記コの字状本体部の各辺部が、前記正方形又は略正方形の断面形状の各辺部と対応する、同じか又は略同じ長さとなった1種類の加工鉄筋によって構成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の巻立て鉄筋は、前記既設コンクリート構造物が長方形の断面形状を有しており、複数の前記加工鉄筋は、前記コの字状本体部の一対の対向辺が前記長方形の断面形状の長辺に対応する長さを備えると共に、中間辺が前記長方形の断面形状の短辺に対応する長さを有する第1加工鉄筋と、前記コの字状本体部の一対の対向辺が前記長方形の断面形状の短辺に対応する長さを備えると共に、中間辺が前記長方形の断面形状の長辺に対応する長さを有する第2加工鉄筋との2種類の加工鉄筋によって構成されていることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の巻立て鉄筋は、前記既設コンクリート構造物が、四角形の断面形状を有するコンクリート柱であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記巻立て鉄筋に用いる加工鉄筋であって、前記既設コンクリート構造物の四角形の断面形状の3つの辺部に沿ったコの字形状となるように、折れ曲がった2箇所の角部を備えるコの字状本体部と、該コの字状本体部の一方の端部の先端から折れ曲がって延設する張出し継手部とからなり、該張出し継手部と、前記コの字状本体部の他方の端部とが接合されることで、四角形の螺旋形状に連続する前記巻立て鉄筋が形成される加工鉄筋を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の巻立て鉄筋、又は該巻立て鉄筋に用いる加工鉄筋によれば、入手が容易で安価な一般の鉄筋を使用して、専用の機械を用いることなく、四角形の断面形状を有する既設コンクリート構造物の外周面に沿って、補強用の鉄筋を所定のピッチで効率良く設置してゆくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係る巻立て鉄筋を用いて既設コンクリート構造物の周囲に形成される補強体の構成を説明する、一部を切り欠いて示す略示斜視図である。
【図2】(a)〜(d)は、巻立て鉄筋に用いる加工鉄筋の説明図である。
【図3】(a)は本発明の好ましい一実施形態に係る巻立て鉄筋の構成を説明する略示斜視図、(b)は加工鉄筋を螺旋形状に連続させてゆく状況の説明図である。
【図4】(a)〜(d)は、既設コンクリート構造物の周囲に補強体を形成する工程の説明図である。
【図5】(a)〜(d)は、既設コンクリート構造物の周囲に補強体を形成する工程の説明図である。
【図6】(a)〜(d)は、他の実施形態に係る巻立て鉄筋に用いる加工鉄筋の説明図である。
【図7】張出し継手部とコの字状本体部の他方の端部との機械式継手による接合部の説明図である。
【図8】張出し継手部とコの字状本体部の他方の端部との機械式継手による接合部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい一実施形態に係る巻立て鉄筋10は、図1に示すように、補強すべき四角形の断面形状を有する既設コンクリート構造物として、例えば高架橋の基礎フーチング21と橋台22との間の橋脚部分を構成するコンクリート柱20を耐震補強する際に、コンクリート柱20の上下方向の略全長に亘る外周面に沿って、四角形の螺旋形状に連続して設置されて用いられる。本実施形態では、コンクリート柱20を耐震補強するための補強体11は、コンクリート柱20の外周面に沿って巻立て鉄筋10を設置した後に、巻立て鉄筋10の外側に金網12を取り付け、さらに巻立て鉄筋10及び金網12を埋設するようにして、吹付けモルタル13を例えば50〜100mm程度の所定の厚さで吹き付けて固化させることで形成されるようになっている。
【0018】
そして、本実施形態の巻立て鉄筋10は、図2〜図4にも示すように、四角形の断面形状を備えるコンクリート柱20を補強する補強体11をコンクリート柱20の周囲に形成する際に、コンクリート柱20の外周面に沿って四角形の螺旋形状に設置される鉄筋であって、折曲げ加工された複数の加工鉄筋14を、これらの端部14b,14cを接合して四角形の螺旋形状に連続させることによってコンクリート柱20の周囲に設置されるようになっており、加工鉄筋14は、コンクリート柱20の四角形の断面形状の3つの辺部20eに沿ったコの字形状となるように、折れ曲がった2箇所の角部14dを備えるコの字状本体部14aと、コの字状本体部14aの一方の端部の先端から折れ曲がって延設する張出し継手部14bとからなり(図2参照)、張出し継手部(加工鉄筋の端部)14bと、コの字状本体部14aの他方の端部(加工鉄筋の端部)14cとを好ましくは溶接によって接合することで、複数の前記加工鉄筋14が四角形の螺旋形状に連続するようになっており、四角形の螺旋形状の各3層の螺旋において、張出し継手部14bとコの字状本体部14aの他方の端部14cとの接合部15は、コンクリート柱20の四角形の断面形状の異なる4箇所の角部20a,20b,20c,20d(図2参照)に順次配置されるようになっている。
【0019】
また、本実施形態では、コンクリート柱20は、正方形又は略正方形の断面形状を有しており、螺旋形状を形成する複数の加工鉄筋14は、コの字状本体部14aの各辺部14eが、コンクリート柱20の正方形又は略正方形の断面形状の各辺部20eと対応する、略同じ長さとなった1種類の加工鉄筋14によって構成されている。
【0020】
本実施形態では、補強体11によって耐震補強されるコンクリート柱20は、上述のように、高架橋の基礎フーチング21と、橋台22との間の橋脚部分を構成するものであり、好ましくは4箇所の角部20a,20b,20c,20dが斜めに面取りされた、一辺の長さが例えば500〜2000mm程度の大きさの正方形又は略正方形の断面形状を備えている。コンクリート柱20の外周部分には、これの外周面に沿って、巻立て鉄筋10が、当該外周面との間に例えば5〜30mm程度の間隔をおいた状態で、上下方向に例えば例えば20〜200mm程度の螺旋ピッチで複数層に配筋されて、四角形の螺旋形状に設置される。
【0021】
本実施形態では、巻立て鉄筋10は、複数の加工鉄筋14を施工現場で連続させて四角形の螺旋形状に設置される。加工鉄筋14は、上述のように、コンクリート柱20の四角形の断面形状の3つの辺部20eに沿ったコの字形状となるように、直角又は略直角に折れ曲がった2箇所の角部14dを備えるコの字状本体部14aと、コの字状本体部14aの一方の端部の先端から直角又は略直角に折れ曲がって延設する張出し継手部14bとからなり、張出し継手部14bと、コの字状本体部14aの他方の端部14cとが、接合部15において好ましくはフレア溶接等の溶接によって接合されることで、四角形の螺旋形状に連続する巻立て鉄筋10が形成される。
【0022】
加工鉄筋14は、例えば鉄筋径dが10〜22mm程度の太さの一般に用いられる異形鉄筋を、当該施工現場や専用の鉄筋加工場等において加工することにより、コンクリート柱20の正方形又は略正方形の断面形状の各辺部20eと対応する、例えば520〜2100mm程度の長さの3つの辺部14eを備えるコの字状本体部14aと、コの字状本体部14aの一方の端部の先端から角部14d’を介して直角又は略直角に折れ曲がって延設する、好ましくは鉄筋径dの10倍以上の溶接(継手)長さとして、例えば100〜220mm程度の溶接(継手)長さを有する張出し継手部14bとからなる形状に形成される(図2(a)〜(d)参照)。
【0023】
また、本実施形態では、加工鉄筋14のコの字状本体部14aの2箇所の角部14d、及びコの字状本体部14aの一方の端部と張出し継手部14bとの1箇所の角部14d’は、湾曲R部を介して直角又は略直角に折れ曲がっている。さらに、加工鉄筋14は、コンクリート柱20の外周面に沿って配置された際に、図3(b)に示すように、コの字状本体部14a(加工鉄筋14)の他方の端部14cよりも、張出し継手部14bによる加工鉄筋14の一方の端部の方が、巻立て鉄筋10の螺旋ピッチの略3/4程度の高低差で高い位置に配置されるように、立体形状に形成されている。
【0024】
そして、本実施形態では、巻立て鉄筋10は、上述のように折曲げ加工された複数の加工鉄筋14を、コンクリート柱20の外周部分に各々装着すると共に、これらの端部14b,14cを接合して四角形の螺旋形状に連続させることによって容易に形成することができる。また、図3(a),(b)及び図2(a)〜(d)に示すように、巻立て鉄筋10の螺旋形状の各3層の螺旋において、張出し継手部14bとコの字状本体部14aの他方の端部14cとの接合部15は、コンクリート柱20の四角形の断面形状の、異なる4箇所の角部20a,20b,20c,20dに順次配置されることになる。
【0025】
すなわち、本実施形態では、複数の加工鉄筋14は、各々、コの字状本体部14aと、コの字状本体部14aの一方の端部の先端から直角又は略直角に折れ曲がって僅かに延設する張出し継手部14bとからなる、四角形の一辺部の略全体が開放されたコの字形状を備えており、加工鉄筋14を弾性変形させつつ張出し継手部14とコの字状本体部14aの他方の端部14cとの間隔を例えば手作業によって僅かに拡げるだけで、これらの間にコンクリート柱20の各辺部14eの長さ(幅)よりも広い間隔を容易に保持できるので、各加工鉄筋14を、僅かな弾性変形で十分に拡げられた当該間隔部分を介して、コンクリート柱20の外周部分に各々スムーズに装着することが可能になる。
【0026】
ここで、加工鉄筋14を構成する、鉄筋径dが10〜22mm程度の太さの異形鉄筋は、高強度鋼線と比較して弾性変形し難い材料であるが、加工鉄筋14は、4角形の一辺部の略全体が開放されたコの字形状を備えており、張出し継手部14bとコの字状本体部14aの他方の端部14cとの間隔を手作業によって拡げる程度の弾性変形は容易であるため、コンクリート柱20の外周部分に装着するために十分に拡げられたこれらの間の間隔部分を介して、各加工鉄筋14を、コンクリート柱20の外周部分に各々スムーズに装着することが可能になる。
【0027】
また、巻立て鉄筋10の螺旋形状の各3層の螺旋において、例えば最下部に配置される加工鉄筋14の他方の端部14cをコンクリート柱20の第1角部20aに配置すれば、図2(a)及び図3(b)に示すように、コの字状本体部14aの各辺部14eは、コンクリート柱20の3つの辺部20eに沿って配置されると共に、加工鉄筋14の張出し継手部14は、コンクリート柱20の第4角部20dに配置されることになる。次に、図2(a),(b)及び図3(b)に示すように、最下部から2番目の加工鉄筋14の他方の端部14cを、コンクリート柱20の第4角部20dに配置された最下部の加工鉄筋14の張出し継手部14bに重ね合わせるようにして、当該第4角部20dに配置すると共に、コの字状本体部14aの各辺部14eを、コンクリート柱20の3つの辺部20eに沿って配置して、2番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bを、コンクリート柱20の第3角部20cに配置する。この状態で、第4角部20dに重ねて配置された、最下部の加工鉄筋14の張出し継手部14bと2番目の加工鉄筋14の他方の端部14cとを溶接して接合部15を形成することにより、最下部の加工鉄筋14と2番目の加工鉄筋14とが連続する。
【0028】
さらに、図2(b),(c)及び図3(b)に示すように、最下部から3番目の加工鉄筋14の他方の端部14cを、コンクリート柱20の第3角部20cに配置された2番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bに重ね合わせるようにして、当該第3角部20cに配置すると共に、コの字状本体部14aの各辺部14eを、コンクリート柱20の3つの辺部20eに沿って配置して、3番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bを、コンクリート柱20の第2角部20bに配置する。この状態で、第3角部20cに重ねて配置された、2番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bと3番目の加工鉄筋14の他方の端部14cとを溶接して接合部15を形成することにより、2番目の加工鉄筋14と3番目の加工鉄筋14とが連続する。
【0029】
さらにまた、図2(c),(d)及び図3(b)に示すように、最下部から4番目(最上部)の加工鉄筋14の他方の端部14cを、コンクリート柱20の第2角部20bに配置された3番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bに重ね合わせるようにして、当該第2角部20bに配置すると共に、コの字状本体部14aの各辺部14eを、コンクリート柱20の3つの辺部20eに沿って配置して、4番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bを、コンクリート柱20の第1角部20aに配置する。この状態で、第2角部20bに重ねて配置された、3番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bと4番目の加工鉄筋14の他方の端部14cとを溶接して接合部15を形成することにより、3番目の加工鉄筋14と4番目の加工鉄筋14とが連続する。
【0030】
引き続いて、図2(d),(a)に示すように、上方の3層の螺旋の最下部の加工鉄筋14の他方の端部14cを、コンクリート柱20の第1角部20aに配置された4番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bに重ね合わせるようにして、当該第1角部20aに配置すると共に、コの字状本体部14aの各辺部14eを、コンクリート柱20の3つの辺部20eに沿って配置して、4番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bを、コンクリート柱20の第4角部20dに配置する。この状態で、第1角部20aに重ねて配置された、4番目の加工鉄筋14の張出し継手部14bと上方の螺旋の最下部の加工鉄筋14の他方の端部14cとを溶接して接合部15を形成することにより、4番目の加工鉄筋14と上方の螺旋の最下部の加工鉄筋14とが連続する。
【0031】
同様の作業を繰り返すことで、4本の加工鉄筋14による螺旋形状の各3層の螺旋において、張出し継手部14bとコの字状本体部14aの他方の端部との接合部15が、コンクリート柱20の異なる4箇所の角部20a,20b,20c,20dに順次配置されて巻立てられた、本実施形態の巻立て鉄筋10が、コンクリート柱20の外周面に沿って四角形の螺旋形状に連続した状態で容易に設置されることになる。
【0032】
上述の構成を備える本実施形態の巻立て鉄筋10をコンクリート柱20の外周部分に取り付けて、コンクリート柱20を耐震補強するための補強体11を形成するには、例えば図4(a)に示すように、まず準備工として、既設のコンクリート柱20である高架橋の橋脚部分から、雨樋29等の障害物を撤去すると共に、施工現場の作業ヤードの周囲に仮囲い23を設置する。しかる後に、図4(b)に示すように、仮設工として、地中部分のコンクリート柱20も補強できるように、基礎フーチング21の周囲を囲んで土留25を設置すると共に、土留25の内側の地盤を基礎フーチング21が現れるまで掘削する。また、基礎フーチング21や土留25の周囲の地盤に支持させて、足場24を組み立てて設置すると共に、作業ヤードに吹付けプラントを設置する。
【0033】
さらに、図4(c)に示すように、表面処理工として、コンクリート柱20の欠損部26の断面補強や、欠損部26において露出する鉄筋の防錆・補強を行うと共に、コンクリート柱20の表面のケレンや清掃を行った後に、本実施形態の巻立て鉄筋10の組立作業を行う。
【0034】
巻立て鉄筋10の組立作業は、図4(d)に示すように、例えば段取り筋27や剥落防止アンカー28をコンクリート柱20に取り付けた後に、作業ヤードに搬入されて基礎フーチング21や足場24の上に仮置きされた加工鉄筋14を、上述のようにしてコンクリート柱20の下部から上部に向って作業員の手によって一本づつ配筋し、仮固定しながら組み立て行く。
【0035】
また、図5(a)に示すように、コンクリート柱20の下部から上部に至るまで、コンクリート柱20の略全長に亘って複数の加工鉄筋14を組み立てたら、重ね合わせた加工鉄筋14の一方の端部の張出し継手部14bと他方の端部14cとの各接合部15に(図3参照)、好ましくはフレア溶接を施すことにより、コンクリート柱20の外周部分に、複数の加工鉄筋14が四角形の螺旋形状に連続する本実施形態の巻立て鉄筋10が形成されることになる。
【0036】
コンクリート柱20の外周部分に巻立て鉄筋10を設置したら、図5(b)に示すように、設置した巻立て鉄筋10の外側を覆って吹付け面の全面に金網12を取り付けた後に、吹付けモルタル13の吹付け工を行う。吹付けモルタル13の吹付け工は、例えば金網12が隠れるまで一次吹付け(下吹き)を行った後に、翌日に二次吹付け(上吹き)を行って、表面仕上げを施工する。
【0037】
二次吹付け(上吹き)の後に表面仕上げを行ったら、図5(c)に示すように、例えば二次吹付けの翌日に、仕上げた吹付けモルタル13の表面に養生ラップ30を巻き付けて、表面ラップ養生を行う。所定の養生期間が経過したら、図5(d)に示すように、養生ラップ30を撤去すると共に、出来形検査を行い、さらに足場24の解体、埋戻し、土留25の撤去、雨樋29等の障害物の復旧、作業ヤードの片付け、仮囲い23の撤去等の作業を行って、コンクリート柱20を耐震補強するための補強体11の構築作業が終了する。
【0038】
そして、上述の構成を備える本実施形態の巻立て鉄筋10によれば、入手が容易で安価な一般の異形鉄筋を使用して、専用の機械を用いることなく、四角形の断面形状を有する既設のコンクリート柱20の外周面に沿って、補強用の鉄筋を所定のピッチで効率良く設置してゆくことができる。
【0039】
すなわち、本実施形態によれば、巻立て鉄筋10は、一般の異形鉄筋を用いて加工された、コの字状本体部14aと張出し継手部14bとかなる加工鉄筋14を、一本一本コンクリート柱20の外周部分に装着して、専用の機械を用いることなく、作業員の手作業によって安価に取り付けてゆくことが可能になる。巻立て鉄筋10は、コンクリート柱20の外周部分に加工鉄筋14を装着した後に、装着された加工鉄筋14の張出し継手部14bとコの字状本体部14aの他方の端部14cとを好ましくは溶接によって接合することで、四角形の螺旋形状に連続して形成されることになるが、螺旋形状の各3層の螺旋において、4箇所の接合部15で溶接すれば良いことから、各リング毎に2箇所、3層のリングでは合計6箇所の溶接を必要としていた従来の一般の鉄筋よる巻立て鉄筋と比較して、好ましくは溶接による接合箇所を2/3に減らすことが可能になり、高強度鋼線よりも安価な一般の異形鉄筋を用いて加工鉄筋14を形成することと相俟って、さらに安価に、リング状(螺旋状)の補強用の鉄筋を、上下方向に所定のピッチで、コンクリート柱20の外周部分に効率良く設置してゆくことが可能になる。
【0040】
また、巻立て鉄筋10を構成する加工鉄筋14は、一般の異形鉄筋を用いて形成されるので、材料の入手が容易で、加工を迅速に行うことができると共に、高強度鋼線をスパイラル状に巻立ててゆくものと比較して、幅広い形状やサイズに対応することも可能になる。
【0041】
さらに、四角形の螺旋形状を有する巻立て鉄筋10の各3層の螺旋において、張出し継手部14bとコの字状本体部14aの他方の端部14cとの接合部15は、コンクリート柱20の四角形の断面形状の異なる4箇所の角部20a,20b,20c,20dに順次配置されるようになっており、張出し溶接部14bとコの字状本体部14aの他方の端部14cとの好ましくは溶接による接合部15は、コンクリート柱20の1箇所の角部に集中することがないので、巻立て鉄筋10によるより安定した補強体11を形成することが可能になる。
【0042】
図6(a)〜(d)は、本発明の他の実施形態に係る巻立て鉄筋に用いる加工鉄筋16,17を既設コンクリート構造物としてのコンクリート柱20’の外周部分に装着する状況を示すものである。本他の実施形態によれば、コンクリート柱20’は長方形の断面形状を有しており、複数の加工鉄筋16,17は、コの字状本体部16aの一対の対向辺16bがコンクリート柱20’の長方形の断面形状の長辺に対応する長さを備えると共に、中間辺16cが長方形の断面形状の短辺に対応する長さを有する第1加工鉄筋16と、コの字状本体部17aの一対の対向辺17bがコンクリート柱20’の長方形の断面形状の短辺に対応する長さを備えると共に、中間辺17cが長方形の断面形状の長辺に対応する長さを有する第2加工鉄筋17との2種類の加工鉄筋16,17によって構成されている。
【0043】
本他の実施形態に係る巻立て鉄筋によっても、張出し継手部16d,17dと、コの字状本体部16a,17aの他方の端部16e,17eとを好ましくは溶接によって接合することで、複数の加工鉄筋16,17を四角形の螺旋形状に容易に連続させることができると共に、四角形の螺旋形状の各3層の螺旋において、張出し継手部16d,17dとコの字状本体部16a,17aの他方の端部16e,17eとの接合部は、コンクリート柱20’の長方形の断面形状の異なる4箇所の角部に順次配置されることになるので、上記実施形態に係る巻立て鉄筋10と同様の作用効果を奏することになる。
【0044】
また、上記各実施形態では、張出し継手部14b,16d,17dとコの字状本体部14a,16a,17aの他方の端部14c,16e,17eとの接合部を、図7及び図8に示すように、機械式継手31による接合部15’とすることができる。機械式継手31としては、例えば柱・梁等のせん断補強筋用機械式継手として公知の、工法名「OSフープクリップ工法」(岡部株式会社製)に用いる、スリーブ31aとウェッジ(くさび)31bとからなるものを好ましく用いることができる。
【0045】
「OSフープクリップ工法」に用いる機械式継手31では、接合すべき一対の鉄筋である張出し継手部14b,16d,17dとコの字状本体部14a,16a,17aの他方の端部14c,16e,17eとを、スリーブ31aに各々挿通させると共に、重ねるようにラップさせた状態でセットした後に、専用のくさび締付け器を用いて、スリーブ31aの中央部分に形成された定着孔31cにウェッジ31bを圧入して、これらの鉄筋を締め付けた状態で定着させることにより、張出し継手部14b,16d,17dとコの字状本体部14a,16a,17aの他方の端部14c,16e,17eとを、容易に且つ強固に接合することができる。ここで、機械式継手31による張出し継手部14b,16d,17dとコの字状本体部14a,16a,17aの他方の端部14c,16e,17eとの接合は、張出し継手部14b,16d,17dの曲げ加工部から1D(鉄筋径)以上離した位置で、且つ1D(鉄筋径)以上の余長を残した状態で行うようにする(図7参照)。
【0046】
張出し継手部14b,16d,17dとコの字状本体部14a,16a,17aの他方の端部14c,16e,17eとの接合部を、機械式継手31による接合部15’とすることで、例えばフレア溶接による接合部15と比較して、施工速度を早くすることが可能になり、施工コストの低減を図ることが可能になる。また風や気温や天候に左右されることなく接合作業を行うことが可能になると共に、接合部15’の品質を安定させることが可能になる。さらに、張出し継手部14b,16d,17dとコの字状本体部14a,16a,17aの他方の端部14c,16e,17eとの重ね寸法を、例えばフレア溶接による場合と比較して、例えば1/2程度に低減することが可能になり、これによってこれらの鉄筋の設置が容易になると共に、使用する鉄筋量を低減させることが可能になる。
【0047】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、外周部分に巻立て鉄筋が巻立てられる四角形の断面形状を有する既設コンクリート構造物は、高架橋の橋脚部分のコンクリート柱である必要は必ずしも無く、ビルの柱等であっても良い。また、垂直に立設するコンクリート柱の他、コンクリ−ト梁等の、横方向や斜め方向に延設する四角形の断面形状を有するコンクリート構造物であっても良い。既設コンクリート構造物は、正方形や長方形以外の四角形の断面形状を有していても良く、平行四辺形、ひし形、台形等の断面形状を有していても良い。平行四辺形やひし形の断面形状の場合、2種類の加工鉄筋が必要となり、台形の断面形状の場合、4種類の加工鉄筋が必要となる。
【0048】
また、張出し継手部とコの字状本体部の他方の端部とを接合部する際に用いる機械式継手は、上述のスリーブとウェッジとからなるものである必要は必ずしも無く、その他の種々の鉄筋用の機械式継手を用いることができる。張出し継手部とコの字状本体部の他方の端部との接合部は、溶接や機械式継手によるものの他、結束線や圧接等による、その他の種々の公知の鉄筋接合手段によるものであっても良い。
【0049】
さらに、本発明では、四角形の断面形状を有する既設コンクリート構造物に適用される巻立て鉄筋について記載したが、本発明を発展させたものとして、既設コンクリート構造物の外周形状の3/4の長さに相当する長さを備える、当該外周形状に沿った形状の鉄筋を使用して、例えば円形、多角形、三角形等の断面形状を有する既設コンクリート構造物に適用できる巻立て鉄筋とすることもできる。
【符号の説明】
【0050】
10 巻立て鉄筋
11 補強体
12 金網
13 吹付けモルタル
14 加工鉄筋
14a,16a,17a コの字状本体部
14b,16d,17d 張出し継手部(加工鉄筋の端部)
14c,16e,17e コの字状本体部の他方の端部(加工鉄筋の端部)
14d コの字状本体部の角部
14e コの字状本体部の各辺部
15 張出し継手部とコの字状本体部の他方の端部との接合部
16 第1加工鉄筋
17 第2加工鉄筋
16b,17b コの字状本体部の一対の対向辺
16c,17c コの字状本体部の中間辺
20,20’ コンクリート柱(四角形の断面形状を有する既設コンクリート構造物)
20a,20b,20c,20d コンクリート柱の角部
20e コンクリート柱の各辺部
31 機械式継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四角形の断面形状を備える既設コンクリート構造物を補強する補強体を該既設コンクリート構造物の周囲に形成する際に、該既設コンクリート構造物の外周面に沿って四角形の螺旋形状に設置される巻立て鉄筋であって、
折曲げ加工された複数の加工鉄筋を、これらの端部を接合して四角形の螺旋形状に連続させることによって前記既設コンクリート構造物の周囲に設置されるようになっており、
前記加工鉄筋は、前記既設コンクリート構造物の四角形の断面形状の3つの辺部に沿ったコの字形状となるように、折れ曲がった2箇所の角部を備えるコの字状本体部と、該コの字状本体部の一方の端部の先端から折れ曲がって延設する張出し継手部とからなり、
該張出し継手部と、前記コの字状本体部の他方の端部とを接合することで、複数の前記加工鉄筋が四角形の螺旋形状に連続するようになっており、
四角形の螺旋形状の各3層の螺旋において、前記張出し継手部と前記他方の端部との接合部は、前記既設コンクリート構造物の四角形の断面形状の異なる4箇所の角部に順次配置されるようになっている巻立て鉄筋。
【請求項2】
前記張出し継手部と前記コの字状本体部の他方の端部との接合部は、溶接による接合部となっている請求項1記載の巻立て鉄筋。
【請求項3】
前記張出し継手部と前記コの字状本体部の他方の端部との接合部は、機械式継手による接合部となっている請求項1記載の巻立て鉄筋。
【請求項4】
前記既設コンクリート構造物は正方形又は略正方形の断面形状を有しており、螺旋形状を形成する複数の前記加工鉄筋は、前記コの字状本体部の各辺部が、前記正方形又は略正方形の断面形状の各辺部と対応する、同じか又は略同じ長さとなった1種類の加工鉄筋によって構成される請求項1〜3の何れか1項記載の巻立て鉄筋。
【請求項5】
前記既設コンクリート構造物は長方形の断面形状を有しており、複数の前記加工鉄筋は、前記コの字状本体部の一対の対向辺が前記長方形の断面形状の長辺に対応する長さを備えると共に、中間辺が前記長方形の断面形状の短辺に対応する長さを有する第1加工鉄筋と、前記コの字状本体部の一対の対向辺が前記長方形の断面形状の短辺に対応する長さを備えると共に、中間辺が前記長方形の断面形状の長辺に対応する長さを有する第2加工鉄筋との2種類の加工鉄筋によって構成される請求項1〜3の何れか1項記載の巻立て鉄筋。
【請求項6】
前記既設コンクリート構造物が、四角形の断面形状を有するコンクリート柱である請求項1〜5の何れか1項記載の巻立て鉄筋。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項記載の巻立て鉄筋に用いる加工鉄筋であって、
前記既設コンクリート構造物の四角形の断面形状の3つの辺部に沿ったコの字形状となるように、折れ曲がった2箇所の角部を備えるコの字状本体部と、該コの字状本体部の一方の端部の先端から折れ曲がって延設する張出し継手部とからなり、該張出し継手部と、前記コの字状本体部の他方の端部とが接合されることで、四角形の螺旋形状に連続する前記巻立て鉄筋が形成される加工鉄筋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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