説明

巻線型インダクタ

【課題】所望のインダクタ特性を有しつつ、回路基板上への良好な高密度実装や低背実装が可能な小型の巻線型インダクタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鉄(Fe)とケイ素(Si)と2〜15wt%のクロム(Cr)を含有する軟磁性合金粒子群の集合体からなるドラム型のコア部材11と、該コア部材11に巻回されたコイル導線12と、コイル導線12の端部13A、13Bが接続される一対の端子電極16A、16Bと、上記巻回されたコイル導線12を被覆し、所定の透磁率を有する磁性粉含有樹脂からなる外装部材18と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線型インダクタに関し、特に、磁気コアを有し、回路基板上への面実装が可能な小型化された巻線型インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯型の電子機器における電源の昇降圧回路用コイルや高周波回路で用いられるチョークコイル等として巻線型インダクタが知られている。巻線型インダクタとしては、例えば特許文献1に記載されているように、フェライトコアにコイル導線を巻回し、該コイル導線の両端をフェライトコアの該表面に設けられた一対の端子電極に半田接続した構造のものが知られている。ここで、フェライトコアは、巻芯部と該巻芯部の上端及び下端に設けられた一対の鍔部とを有する、いわゆるドラム型の形状を有している。このような構成を有する巻線型インダクタは、一般に外形寸法(特に高さ寸法)の小型化が可能であることから、回路基板上への高密度実装や低背実装に適しているという特長を有している。
【0003】
一方、巻線型インダクタの他の構造としては、例えば、コイルを鉄又は鉄を含む合金と樹脂により埋め込むように圧粉したメタルコンポジット構造のものも知られている。メタルコンポジット構造のインダクタは、一般にインダクタ特性(特にエネルギー特性)に優れていることから、例えば電源回路等におけるパワーインダクタとして適しているという特長を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−009644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の小型薄型化や高機能化に伴って、インダクタ特性を向上させつつ、さらなる高密度実装や低背実装が可能な巻線型インダクタが求められている。
本発明は、所望のインダクタ特性を有しつつ、回路基板上への高密度実装や低背実装が可能な小型の巻線型インダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る巻線型インダクタは、
柱状の巻芯部及びその両端に設けられた一対の鍔部を有するコア部材と、該コア部材の前記巻芯部に巻回されたコイル導線と、前記鍔部の外表面に設けられ、前記コイル導線の両端部が接続された一対の端子電極と、前記コイル導線部の外周を被覆する絶縁性部材と、を備え、
前記コア部材は、鉄とケイ素とクロムを含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子の酸化層があり、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して前記クロムを多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合され、
前記軟磁性合金は、前記クロムを2〜15wt%含有し、
前記コア部材は、飽和磁束密度が1.2T以上であり、体積抵抗率が10〜10Ω・cmであり、透磁率が10以上であり、
前記絶縁性部材は、磁性粉を含む樹脂材料から構成され、所定の透磁率を有することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の巻線型インダクタにおいて、
前記コア部材は、前記鍔部の外表面を平面視して、外形寸法が縦、横3〜5mmであり、高さ寸法が1.5mm以下であることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の巻線型インダクタにおいて、
前記絶縁性部材を構成する前記磁性粉は、前記コア部材を構成する前記軟磁性合金粒子と同一の組成及び構造を有することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の巻線型インダクタにおいて、
前記絶縁性部材を構成する前記磁性粉は、Ni−ZnフェライトもしくはMn−Znフェライトからなることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の巻線型インダクタにおいて、
前記絶縁性部材は、透磁率が1〜25であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所望のインダクタ特性を有しつつ、回路基板上への高密度実装や低背実装が可能な小型の巻線型インダクタを提供することができ、当該巻線型インダクタを搭載する電子機器の小型薄型化や高機能化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る巻線型インダクタの一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】本実施形態に係る巻線型インダクタの内部構造を示す概略断面図である。
【図3】本実施形態に係る巻線型インダクタに適用されるコア部材を示す概略斜視図である。
【図4】本実施形態に係る巻線型インダクタを回路基板上に実装した状態を示す概略断面図である。
【図5】本実施形態に係る巻線型インダクタの製造方法を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態に係る巻線型インダクタにおけるインダクタ特性の優位性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る巻線型インダクタについて、実施形態を示して詳しく説明する。
(巻線型インダクタ)
図1は、本発明に係る巻線型インダクタの一実施形態を示す概略斜視図である。ここで、図1(a)は、本実施形態に係る巻線型インダクタを上面側(上鍔部側)から見た概略斜視図であり、図1(b)は、本実施形態に係る巻線型インダクタを底面側(下鍔部側)から見た概略斜視図である。図2は、本実施形態に係る巻線型インダクタの内部構造を示す概略断面図である。ここで、図2(a)は、図1(a)に示したA−A線に沿った巻線型インダクタの断面を示す図である。図3は、本実施形態に係る巻線型インダクタに適用されるコア部材を示す概略斜視図である。図4は、本実施形態に係る巻線型インダクタを回路基板上に実装した状態を示す概略断面図である。
【0014】
図1(a)、(b)、図2に示すように、本実施形態に係る巻線型インダクタ10は、概略、ドラム型のコア部材11と、該コア部材11に巻回されたコイル導線12と、コイル導線12の端部13A、13Bが接続される一対の端子電極16A、16Bと、上記巻回されたコイル導線12を被覆する、磁性粉含有樹脂からなる外装部材18と、を有している。
【0015】
具体的には、コア部材11は、図1(a)、図2、図3に示すように、柱状の巻芯部11aと、該巻芯部11aの図面上端に設けられた上鍔部11bと、巻芯部11aの図面下端に設けられた下鍔部11cとを備え、その外観はドラム型の形状を有している。
【0016】
ここで、図1〜図3に示すように、上記コア部材11の巻芯部11aは、所定の巻回数を得るために必要なコイル導線12の長さをより短くできるように、断面が略円形もしくは円形であることが好ましいが、これに限定されるものではない。コア部材11の下鍔部11cの外形は、高密度実装に対応して小型化を図るために、平面視形状が略四角形もしくは四角形であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、多角形や略円形等であってもよい。また、上記コア部材11の上鍔部11bの外形は、高密度実装に対応して小型化を図るために、下鍔部11cに対応して類似の形状であることが好ましく、さらに、下鍔部11cと同サイズもしくは下鍔部11cよりやや小さめのサイズであることが好ましい。
【0017】
このように、巻芯部11aの上端及び下端に上鍔部11b及び下鍔部11cを設けることにより、巻芯部11aに対するコイル導線12の巻回位置を制御しやすくなり、インダクタンスの特性を安定させることができる。また、上鍔部11bの四隅に適宜面取り等を施すことにより、上鍔部11b及び下鍔部11c間に、外装部材18を構成する磁性粉含有樹脂を容易に充填することができる。なお、上鍔部11b及び下鍔部11cの厚さは、その下限値が上記コア部材11における巻芯部11aからの上鍔部11b及び下鍔部11cのそれぞれの張り出し寸法を考慮して、所定の強度を満足するように適宜設定される。
【0018】
そして、図1(b)、図2、図3に示すように、コア部材11の下鍔部11cにおいて、巻芯部11aの中心軸CLと直交する底面(外表面)11Bには、巻芯部11aの中心軸CLの延長線を挟んで一対の端子電極16A、16Bが形成されている。ここで、底面11Bには、一対の端子電極16A、16Bが形成される領域に、例えば図1(b)、図2、図3に示すように、溝15A、15Bが形成されている。この溝15A、15Bは、例えば図2、図3に示すように、少なくとも底部と、該底部の幅方向の両側に、該底部に対し傾斜して設けられた緩斜面と、を備えた略凹状の断面形状を有している。
【0019】
ここで、上記溝15A、15Bの深さは、例えば図2に示すように、溝15A、15Bの底部に端子電極16A、16Bが形成され、かつ、当該底部にコイル導線12の端部13A、13Bが位置する状態で、コイル導線12の端部13A、13B、もしくは、該端部13A、13Bと端子電極16A、16Bを接合する半田17A、17Bの一部が、底面11Bの平坦面の高さ位置を越えて溝15A、15Bから突出するように形成されることが好ましい。また、上記溝15A、15Bの長さ方向の両端は、図1(b)、図3に示すように、下鍔部11cの互いに対向する一対の外側面に達するように形成されていることが好ましい。なお、ここで示した溝15A、15Bの形状は、本発明に係る巻線型インダクタに適用可能な一例を示したものに過ぎず、これに限定されるものではない。例えば、溝15A、15Bは、底部と緩斜面に加え、緩斜面と下鍔部11cの底面11Bが接する領域に、端子電極16A、16Bの幅方向を規制するための、緩斜面よりも急な傾斜を有する側壁が設けられているものであってもよい。また、下鍔部11cの底面11Bに溝を形成することなく、底面11Bに直接端子電極16A、16Bが設けられているものであってもよい。
【0020】
そして、本実施形態に係る巻線型インダクタ10においては、上記のコア部材11が、鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、鉄よりも酸化しやすい元素を含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には、当該軟磁性合金粒子が酸化した酸化層が形成され、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して、上記鉄よりも酸化しやすい元素を多く含み、粒子同士が当該酸化層を介して結合されていることを特徴としている。特に、本実施形態においては、上記鉄よりも酸化しやすい元素として、クロム(Cr)を適用する。すなわち、コア部材11は、鉄とケイ素とクロムを含有する軟磁性合金粒子の集合体により構成されている。ここで、軟磁性合金粒子は、少なくともクロムが2〜15wt%含有されている。また、軟磁性合金粒子の平均粒径は、概ね2〜30μm程度であることがより望ましい。
【0021】
端子電極16A、16Bは、例えば図2、図3に示すように、上記溝15A、15Bに沿って設けられた導電層を含む構成を有し、コイル導線12の各端部13A、13Bが接続されている。また、端子電極16A、16Bは、上記溝15A、15Bによりその幅方向が規制され、幅方向の一端側から他端側に亘るすべての領域が上記溝15A、15B内に設けられていることが好ましい。そのため、溝15A、15B内に端子電極16A、16Bが収まるように、溝15A、15Bの断面形状及び寸法、並びに、端子電極16A、16Bの厚み寸法が適宜設定されていることが好ましい。
【0022】
また、端子電極16A、16Bを構成する導電層は、種々の電極材料を用いることができる。例えば、銀(Ag)、銀(Ag)とパラジウム(Pd)の合金、銀(Ag)と白金(Pt)の合金、銅(Cu)、チタン(Ti)とニッケル(Ni)とスズ(Sn)の合金、チタン(Ti)と銅(Cu)の合金、クロム(Cr)とニッケル(Ni)とスズ(Sn)の合金、チタン(Ti)とニッケル(Ni)と銅(Cu)の合金、チタン(Ti)とニッケル(Ni)と銀(Ag)の合金、ニッケル(Ni)とスズ(Sn)の合金、ニッケル(Ni)と銅(Cu)の合金、ニッケル(Ni)と銀(Ag)の合金、リン青銅等を良好に適用することができる。これらの電極材料を用いた導電層としては、例えば銀(Ag)や、銀(Ag)を含む合金等にガラスを添加した電極ペーストを上記溝15A、15B内や、下鍔部11cの底面11Bに塗布し、所定の温度で焼き付ける形成方法により得られる焼付導体膜を良好に適用することができる。また、導電層の他の形態としては、例えばリン青銅板等からなる導電フレームを、エポキシ系の樹脂等からなる接着剤を用いて下鍔部11cの底面11Bに接着する手法により得られる電極フレームも良好に適用することができる。また、導電層のさらに他の形態としては、例えばチタン(Ti)や、チタン(Ti)を含む合金等をスパッタリング法や蒸着法等を用いて、上記溝15A、15B内や、下鍔部11cの底面11Bに金属薄膜を形成する方法により得られる導体膜も良好に適用することができる。なお、端子電極16A、16Bを構成する導電層として、上述した焼付導体膜や導体膜(金属薄膜)の表面に、電解メッキによりニッケル(Ni)やスズ(Sn)等の金属メッキ層が形成されているものであってもよい。
【0023】
コイル導線12は、図2に示すように、銅(Cu)や銀(Ag)等からなる金属線13の外周に、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等からなる絶縁被覆14が形成された被覆導線が適用される。コイル導線12は、図1、図2に示すように、上記コア部材11の柱状の巻芯部11aの周囲に巻回されるとともに、一方及び他方の端部13A、13Bが、絶縁被覆14が除去された状態で、上記端子電極16A、16Bを構成する各導電層に、半田17A、17Bにより導電接続されている。
【0024】
ここで、コイル導線12は、例えば直径0.1〜0.2mmの被覆導線が、コア部材11の巻芯部11aの周囲に3.5〜15.5回巻回されている。コイル導線12に適用される金属線13は、単線に限定されるものではなく2本以上の線や、撚り線であってもよい。また、該コイル導線12の金属線13は、円形の断面形状を有するものに限定されるものではなく、例えば長方形の断面形状を有する平角線や、正方形の断面形状を有する四角線等を用いることもできる。また、コイル導線12の端部13A、13Bの直径は、上記端子電極16A、16Bが形成された溝15A、15Bの深さよりも大きくなるように設定されていることが好ましい。
【0025】
なお、上記半田17A、17Bによる導電接続とは、上記端子電極16A、16Bと上記コイル導線12の端部13A、13Bとが、半田17A、17Bを介して導電接続されている箇所を有しているものであればばよく、半田のみで導電接続されているものに限らない。例えば、端子電極16A、16Bと上記コイル導線12の端部13A、13Bとが熱圧着により金属間結合で接合された箇所を有するとともに、該接合箇所を覆うように半田で被覆された構造を有しているものであってもよい。
【0026】
外装部材18は、磁性粉含有樹脂から構成され、当該磁性粉含有樹脂が巻線型インダクタ10の使用温度範囲において粘弾性を有していることが好ましい。より具体的には、硬化時の物性として温度に対する剛性率の変化において、ガラス状態からゴム状態に移行する過程におけるガラス転移温度が100〜150℃の磁性粉含有樹脂を良好に適用することができる。上記磁性粉含有樹脂に用いる樹脂としては、シリコン樹脂を良好に適用することができ、コア部材11の上鍔部11b、下鍔部11c間に磁性粉含有樹脂を装入する工程におけるリードタイムを短縮するためには、例えばエポキシ樹脂とカルボキシル基変性プロピレングリコールとの混合樹脂を適用することがより好ましい。
【0027】
また、外装部材18は、透磁率が1〜25に設定されていることが好ましい。ここで、外装部材18を構成する磁性粉含有樹脂に含有される磁性粉としては、種々の磁性粉を用いることができるが、上記のような透磁率を実現するための磁性粉として、例えばコア部材11を構成する軟磁性合金粒子と同一の組成及び構造を有する磁性粉末や、当該磁性粉末を含有するもの、あるいは、Ni−ZnフェライトもしくはMn−Znフェライトからなるものを用いることが好ましい。なお、磁性粉として、コア部材11を構成する軟磁性合金粒子と同一の組成を有する磁性粉末や、当該磁性粉末を含有するものを用いる場合には、当該磁性粉の平均粒径は、概ね5〜30μm程度であることが好ましい。また、磁性粉含有樹脂における磁性粉の含有量は、概ね0〜94wt%程度であることが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る巻線型インダクタ10においては、上述したように、コア部材11を軟磁性合金粒子の集合体により構成し、かつ、当該軟磁性合金粒子におけるクロムの含有率や軟磁性合金粒子の平均粒径を上記の範囲内で任意に設定することにより、高い直流重畳値(Idc)と高いインダクタンス値(L値)を実現することができるとともに、100kHz以上の周波数においても、粒子内で渦電流損失が生じることを抑制することができる。なお、詳しくは、後述する作用効果の検証の欄で説明する。
【0029】
そして、上述したような構成を有する巻線型インダクタ10は、図4に示すように、例えばガラス−エポキシ樹脂基板21上に銅箔からなる実装ランド22が形成された回路基板20上に、半田19により接合されて実装される。ここで、実装ランド22への巻線型インダクタ10の実装方法は、回路基板20上にクリーム半田を印刷した後、実装ランド22上に巻線型インダクタ10を搭載し、例えば245℃に加熱してリフロー半田付け処理を施すことにより実装される。
【0030】
(巻線型インダクタの製造方法)
次に、上述した巻線型インダクタの製造方法について説明する。
図5は、本実施形態に係る巻線型インダクタの製造方法を示すフローチャートである。
上述した巻線型インダクタは、図5に示すように、概略、コア部材製造工程S101と、端子電極形成工程S102と、コイル導線巻回工程S103と、外装工程S104と、コイル導線接合工程S105と、を経て製造される。
【0031】
(a)コア部材製造工程S101
コア部材製造工程S101においては、まず、鉄(Fe)と、ケイ素(Si)と、クロム(Cr)とを所定の比率で含有する軟磁性合金の粒子群を原料粒子として、所定の結合剤を混合して所定の形状の成形体を形成する。具体的には、クロム2〜15wt%、ケイ素0.5〜7wt%、残部に鉄を含有する原料粒子に、例えば熱可塑性樹脂などの結合剤(バインダ)を添加し、攪拌混合させて造粒物を得る。次いで、この造粒物を粉末成形プレスを用いて圧縮成形して成形体を形成し、例えば研削ディスクを用いてセンターレス研摩により上鍔部11b及び下鍔部11c間に、柱状の巻芯部11aが形成されるように凹部を形成してドラム形の成形体を得る。
【0032】
次いで、得られた成形体を焼成する。具体的には、上記成形体を大気中で400〜900℃で熱処理する。このように、大気中で熱処理を行うことで、混合した熱可塑性樹脂を脱脂(脱バインダ処理)するとともに、もともと粒子中に存在し熱処理により表面に移動してきたクロムと、粒子の主成分である鉄を酸素と結合させながら、金属酸化物からなる酸化層を粒子表面に生成させ、かつ、隣接する粒子の表面の酸化層同士を結合させる。生成された酸化層(金属酸化物層)は、主に鉄とクロムからなる酸化物であり、粒子間の絶縁を確保しつつ、軟磁性合金粒子の集合体からなるコア部材11を提供することができる。
【0033】
ここで、上記原料粒子の例としては、水アトマイズ法で製造した粒子を適用することができ、原料粒子の形状の例として、球状、扁平状があげられる。また、上記熱処理において、酸素雰囲気下での熱処理温度を上昇させると、結合剤が分解し、軟磁性合金の粒子が酸化される。このため、成形体の熱処理条件として、大気中、400〜900℃で、1分以上保持することが好ましい。この温度範囲内で熱処理を行うことにより、優れた酸化層を形成することができる。より好ましくは、600〜800℃である。大気中以外の条件、例えば、酸素分圧が大気と同程度の雰囲気中で熱処理してもよい。還元雰囲気又は非酸化雰囲気では、熱処理により金属酸化物からなる酸化層の生成が行われないため、粒子同士が焼結し体積抵抗率が著しく低下する。また、雰囲気中の酸素濃度、水蒸気量については特に限定されないが、生産面から考慮すると、大気あるいは乾燥空気であることが望ましい。
【0034】
上記熱処理において、400℃を越える温度に設定することにより、優れた強度と優れた体積抵抗率を得ることができる。一方、熱処理温度が900℃を超えると、強度は増加するものの、体積抵抗率の低下が発生する。また、上記熱処理温度での保持時間は、1分以上とすることにより鉄とクロムを含む金属酸化物からなる酸化層が生成されやすい。ここで、酸化層厚は一定値で飽和するため保持時間の上限はあえて設定しないが、生産性を考慮し2時間以下とすることが妥当である。
【0035】
このように、熱処理温度、熱処理時間、熱処理雰囲気中の酸素量等により、酸化層の形成を制御することができるので、熱処理条件を上記範囲とすることにより、優れた強度と優れた体積抵抗率を同時に満たし、酸化層を有する軟磁性合金粒子の集合体からなるコア部材11を製造することができる。
【0036】
具体的には、本件よりなる製品のコア部材より円柱状の試料を削りだして評価試料とする。この場合には前記円柱状の試料の両端面に銀(Ag)と樹脂等からなる電極ペーストを塗布硬化し、絶縁計(TOA社製「MEGAOHMMETER MODEL SM-21」により5〜20Vの電圧により体積抵抗率を測定した。
【0037】
そして、本実施形態に係るコア部材11においては、概ね10〜10Ω・cm程度の高い体積抵抗率を得ることができることを確認した。これにより、コア部材11を構成する軟磁性合金粒子が持つ本来の高い透磁率を十分に活かすことができ、直流重畳特性を向上できるとともに、大電流化に大きく貢献することができる。特に、本実施形態に係るコア部材11によれば、各軟磁性体粒子の絶縁層として、当該粒子を酸化して形成した酸化層を用いているので、絶縁のために、樹脂やガラスを軟磁性体粒子に混合して結合させる必要がない。したがって、軟磁性合金粒子を樹脂又はガラスで結合させた巻線型インダクタ(後述するメタルコンポジット構造に相当する)とは異なり、樹脂もガラスも使用することなく、また、大きな圧力をかけて成形する必要もないので、簡易かつ低コストな製造方法により上記の特性を有する巻線型インダクタを製造することができる。
【0038】
なお、上記ドラム形の成形体は、原料粒子を含む造粒物により形成された成形体の周側面に、センターレス研摩により凹部を形成して得る方法に限定するものではなく、例えば、上記の造粒物を粉末成形プレスを用いて乾式一体成形することによりドラム形の成形体を得ることもできる。また、コア部材11のさらに他の製造方法としては、上述したように、予めドラム形の成形体を準備して焼成する方法に限定するものではなく、例えば、上記の造粒物により形成された成形体(周側面に凹部が形成されていない成形体)を準備した後、脱バインダ処理を行い、所定の温度で焼成した後に、当該焼結体の周側面にダイヤモンドホイール等を用いて凹部を切削加工により形成するものであってもよい。
【0039】
また、コア部材11の底面11Bへの溝15A、15Bの形成方法は、上記コア部材11の製造工程において、原料粒子を含む造粒物により成形体を形成する際に、押型の表面に予め一対の突条を設けておき、該成形体の成形と同時に形成する方法のほか、例えば、得られた成形体の表面に切削加工を施して一対の溝を形成するものであってもよい。
【0040】
(b)端子電極形成工程S102
次いで、端子電極形成工程S102においては、上記コア部材11の下鍔部11cの底面11Bに形成された溝15A、15Bに、上述した電極材料からなる導電層を形成する。ここで、電極層の形成方法としては、上述したように、塗布した電極ペーストを所定の温度で焼き付ける方法や、導電フレームを接着剤を用いて接着する方法、スパッタリング法や蒸着法等を用いて薄膜形成する方法等、種々の手法を適用することができる。ここでは、一例として、製造コストが最も安価で、生産性の高い手法として電極ペーストを塗布して焼き付ける方法を示す。
端子電極形成工程は、まず、電極材料(例えば銀や銅等、あるいは、これらを含む複数種類の金属材料)の粉末と、ガラスフリットとを含む電極ペーストを、上記溝15A、15B内、又は、下鍔部11cの底面11Bに塗布した後、コア部材11を熱処理することにより、端子電極16A、16Bを形成する。
【0041】
ここで、電極ペーストの塗布方法としては、例えばローラー転写法やパッド転写法等の転写法、スクリーン印刷法や孔版印刷法等の印刷法のほか、スプレー法やインクジェット法等を適用することができる。なお、端子電極16A、16Bの幅方向の縁部が、上記溝15A、15B内に良好に収容されるためには、転写法を用いる方がより好ましい。
【0042】
また、電極ペーストにおける電極材料やガラスの含有量は、用いる電極材料の種類や組成等に応じて適宜設定される。なお、電極ペーストにおけるガラスは、例えばケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)等からなるガラス及び金属酸化物を含む組成を有している。また、下鍔部11cの底面11Bに電極ペーストを塗布した後のコア部材11の熱処理(電極焼き付け処理)は、例えば、大気雰囲気中や酸素濃度10ppm以下のNガス雰囲気中で、750〜900℃の温度条件で実行される。このような端子電極16A、16Bの形成方法により、コア部材11と所定の電極材料からなる導電層とが強固に接着される。
【0043】
(c)コイル導線巻回工程S103
次いで、コイル導線巻回工程S103においては、上記コア部材11の巻芯部11aに、被覆導線を所定回数巻回する。具体的には、上記コア部材11の巻芯部11aが露出するように、コア部材11の上鍔部11bを巻線装置のチャックに固定する。次いで、例えば直径0.1〜0.2mmの被覆導線を下鍔部11cの底面11Bに形成された端子電極16A、16B(又は、溝15A、15B)のいずれか一方側に仮固定した状態で切断してコイル導線12の一端側とする。その後、上記チャックを回転させて被覆導線を巻芯部11aに、例えば3.5〜15.5回巻回する。次いで、被覆導線を上記端子電極16A、16B(又は、溝15A、15B)の他方側に仮固定した状態で切断してコイル導線12の他端側とすることにより、巻芯部11aにコイル導線12が巻回されたコア部材11が形成される。コイル導線12の一端側及び他端側は、上述した端部13A、13Bに対応する。
【0044】
(d)外装工程S104
次いで、外装工程S104においては、上記コア部材11の上鍔部11bと下鍔部11cとの間であって、巻芯部11aの周囲に巻回されたコイル導線12の外周に、所定の透磁率を有する磁性粉含有樹脂からなる外装部材18が被覆形成される。具体的には、例えばコア部材11を構成する軟磁性合金粒子と同一の組成及び構造を有する磁性粉が含有された磁性粉含有樹脂のペーストをディスペンサーにより、コア部材11の上鍔部11b及び下鍔部11c間の領域に吐出して、コイル導線12の外周に被覆させる。次いで、例えば150℃で1時間加熱して、磁性粉含有樹脂のペーストを硬化させることにより、コイル導線12を被覆する外装部材18が形成される。
【0045】
(e)コイル導線接合工程S105
コイル導線接合工程S105においては、まず、コア部材11に巻回されたコイル導線12の両端部13A、13Bの絶縁被覆14を剥離、除去する。具体的には、コア部材11に巻回されたコイル導線12の両端部13A、13Bに、被覆剥離溶剤を塗布することにより、あるいは、所定のエネルギーのレーザー光を照射することにより、コイル導線12の両端部13A、13B近傍の絶縁被覆14を形成する樹脂材料を溶解又は蒸発させて、完全に剥離、除去する。
【0046】
次いで、絶縁被覆14が剥離されたコイル導線12の両端部13A、13Bを、各端子電極16A、16Bに半田接合して、導電接続する。具体的には、絶縁被覆14が剥離されたコイル導線12の両端部13A、13Bを含む各端子電極16A、16B上に、フラックスを含有する半田ペーストを、例えば孔版印刷法により塗布した後、240℃に加熱されたホットプレートにより加熱押圧して、半田を溶融、固着させることにより、コイル導線12の両端部13A、13Bが各端子電極16A、16Bに半田17A、17Bにより接合される。端子電極16A、16Bへのコイル導線12の半田接合後、フラックス残渣を除去する洗浄処理が行われる。
【0047】
このように、コイル導線12を端子電極16A、16Bに半田接合する工程に先立って、コイル導線12の両端部13A、13Bの絶縁被覆14を剥離することにより、コイル導線12に対する半田の濡れ性を向上させて、コイル導線12を端子電極16A、16Bに良好に導電接続することができるとともに、強固に接合することができる。
【0048】
(作用効果の検証)
次に、本実施形態に係る巻線型インダクタにおける作用効果について説明する。
ここでは、本実施形態に係る巻線型インダクタにおける作用効果を検証するために、次のようなパラメータ及び組成を有する巻線型インダクタを試料として用いた。
【0049】
図1に示した巻線型インダクタ10において、コア部材11は、表面に酸化膜が形成された、鉄(Fe)とケイ素(Si)と2〜15wt%のクロム(Cr)を含有する軟磁性合金粒子群の集合体により形成した。また、図3に示したコア部材11の主要な外形寸法として、長さL=3〜5mm、幅W=3〜5mm、高さH=1.5mm以下の範囲で設定し、また、コア部材11の巻芯部11aに巻回されるコイル導線12として、直径0.1〜0.2mmの被覆導線を用い、3.5〜15.5回の範囲で巻回した。また、外装部材18は、コア部材11を構成する軟磁性合金粒子と同一の組成及び構造を有する磁性粉末を含有する磁性粉含有樹脂により形成した。
【0050】
図6は、本実施形態に係る巻線型インダクタにおけるインダクタ特性の優位性を説明するための図である。ここで、図6は、本実施形態に係る巻線型インダクタと、メタルコンポジット構造の巻線型インダクタにおける、インダクタンス−直流重畳特性(L−Idc特性)を示すグラフである。ここで、インダクタンス−直流重畳特性は、インダクタンス値(L値)に対する直流重畳値(Idc)を示すものであって、当該直流重畳値(Idc)は、インダクタに直流バイアスを流したときに、直流が重畳されて、インダクタンス値(L値)が20%低下した(すなわち−20%になった)ときの電流値を示すものである。
【0051】
本実施形態に係るコア部材11においては、鉄(Fe)とケイ素(Si)と2〜15wt%のクロム(Cr)を含有する軟磁性合金粒子群の集合体を用いることにより、高い透磁率μ(10以上)、及び、高い飽和磁束密度Bs(1.2T以上)を実現することができる。
【0052】
具体的には、本件よりなる製品のコア部材より円柱状の試料を削りだして評価試料とする。前記円柱状の試料は、長さが約1mm、かつ長さに対し直径が1/10倍程度となっている。ここで、VSM(Vibrating Sample Magnetometer:試料振動型磁力計)を用い、この試料の飽和磁束密度Bsと透磁率μを求めた。 上記により得られた値は、飽和磁束密度が1.36T、透磁率が17であった。また、前記コイル導線部の外周を被覆する絶縁性部材の透磁率も同様の測定方法を用いた。
【0053】
そして、本実施形態に係るコア部材11においては、概ね1.2T以上の高い飽和磁束密度Bs、及び、概ね10以上の高い透磁率μを得ることができることを確認した。これにより、本実施形態に係る巻線型インダクタ10は、図6に示すように、優れたインダクタ特性(L−Idc特性)を得ることができる。ここで、図6には、比較対象としてメタルコンポジット構造の巻線型インダクタにおけるインダクタ特性も併記した。なお、メタルコンポジット構造の巻線型インダクタは、既に一般に市販されて種々の電子機器に搭載されているものであって、例えば電源回路等におけるパワーインダクタとして優れたインダクタ特性を有することが、市場において高く評価されているものである。
【0054】
図6に示すように、本実施形態に係る巻線型インダクタとメタルコンポジット構造の巻線型インダクタにおけるL−Idc特性とを比較すると、両者の挙動が近似するとともに、インダクタンス値(L値)に対する直流重畳値(Idc)が本実施形態に係る巻線型インダクタの方が概ね大きくなるという結果が得られた。このことから、本実施形態に係る巻線型インダクタによれば、比較対象であるメタルコンポジット構造の巻線型インダクタと同等、もしくは、同等以上の優れたインダクタ特性(L−Idc特性)を有していることが確認された。
【0055】
したがって、本実施形態によれば、より大きい電流を流すことができるインダクタ特性に優れた巻線型インダクタや、より小型の外形寸法を有するコア部材で同等の電流値の電流を流すことができる低背実装が可能な巻線型インダクタを実現することができる。このような巻線型インダクタは、パワーインダクタ等に適用して極めて有効である。また、この場合、軟磁性合金の粒子を樹脂又はガラスで結合させたメタルコンポジット構造の巻線型インダクタとは異なり、樹脂もガラスも使用することなく、また、大きな圧力をかけて成形する必要もないので、簡易かつ低コストな製造方法により上記の特性を有する巻線型インダクタを製造することができる。加えて、本実施形態に係る巻線型インダクタのコア部材においては、高い飽和磁束密度を維持しつつ、大気中での熱処理後においても、コア部材表面へのガラス成分等の浮き出しが防止されるので、メタルコンポジット構造に比較して、高い寸法安定性を有する小型の巻線型インダクタを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、回路基板上への面実装が可能な小型化された巻線型インダクタに好適である。特に、大電流を流すパワーインダクタ等に適用した場合、インダクタ特性の向上と低背実装を両立させることができ極めて有効である。
【符号の説明】
【0057】
10 巻線型インダクタ
11 コア部材
11a 巻芯部
11b 上鍔部
11c 下鍔部
12 コイル導線
13 金属線
14 絶縁被覆
15A、15B 溝
16A、16B 端子電極
17A、17B 半田
18 外装部材
20 回路基板
22 実装ランド
S101 コア部材製造工程
S102 端子電極形成工程
S103 コイル導線巻回工程
S104 外装工程
S105 コイル導線接合工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の巻芯部及びその両端に設けられた一対の鍔部を有するコア部材と、該コア部材の前記巻芯部に巻回されたコイル導線と、前記鍔部の外表面に設けられ、前記コイル導線の両端部が接続された一対の端子電極と、前記コイル導線部の外周を被覆する絶縁性部材と、を備え、
前記コア部材は、鉄とケイ素とクロムを含有する軟磁性合金の粒子群から構成され、各軟磁性合金粒子の表面には当該軟磁性合金粒子の酸化層があり、当該酸化層は当該軟磁性合金粒子に比較して前記クロムを多く含み、粒子同士は前記酸化層を介して結合され、
前記軟磁性合金は、前記クロムを2〜15wt%含有し、
前記コア部材は、飽和磁束密度が1.2T以上であり、体積抵抗率が10〜10Ω・cmであり、透磁率が10以上であり、
前記絶縁性部材は、磁性粉を含む樹脂材料から構成され、所定の透磁率を有することを特徴とする巻線型インダクタ。
【請求項2】
前記コア部材は、前記鍔部の外表面を平面視して、外形寸法が縦、横3〜5mmであり、高さ寸法が1.5mm以下であることを特徴とする請求項1記載の巻線型インダクタ。
【請求項3】
前記絶縁性部材を構成する前記磁性粉は、前記コア部材を構成する前記軟磁性合金粒子と同一の組成及び構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載の巻線型インダクタ。
【請求項4】
前記絶縁性部材を構成する前記磁性粉は、Ni−ZnフェライトもしくはMn−Znフェライトからなることを特徴とする請求項1又は2記載の巻線型インダクタ。
【請求項5】
前記絶縁性部材は、透磁率が1〜25であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の巻線型インダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−55078(P2013−55078A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183446(P2011−183446)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】