説明

巻線装置及び巻線方法

【課題】バランスが取り難い被巻線部材であっても、回転数を分けることにより、比較的高速で巻線する。
【解決手段】巻線装置10は、設置場所に設置可能な基台11と、第1モータ12の第1回転軸12aに同軸に取付けられ線材13が巻線される被巻線部材14を支持可能に構成されたスピンドル軸16と、スピンドル軸に対向し第2モータ18によりスピンドル軸と平行な軸を中心に被巻線部材の周囲で回転し線材13を繰出して被巻線部材にその線材を巻回するフライヤ17とを備える。第1モータ12が基台11に移動不能に固定され、フライヤ17が基台11にフライヤ移動手段31を介して移動可能に取付けられる。巻線方法は、フライヤ移動手段31によりフライヤ17の回転軸に沿ってフライヤを往復移動させつつ第2モータによりフライヤをスピンドル軸に対して逆転させ、スピンドル軸に支持されて第1モータにより回転する被巻線部材に線材を巻線する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被巻線部材に線材を巻線する巻線装置及び巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被巻線部材に線材を巻線する巻線装置として、図4に示すように、線材7が巻線される被巻線部材2aを回動可能に支持するスピンドル軸2を備えた線材巻取側と、その被巻線部材2aに線材7を旋回供給するフライヤ6を備えた線材供給側とからなるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この巻線装置1では、スピンドル回転用モータ3により、スピンドル軸2を被巻線部材2aとともに回転させるとともに、フライヤ6を回転させることにより巻線し得るとしており、その巻線時に被巻線部材2aを軸方向に往復移動させるトラバースモータ4を備える。このトラバースモータ4によりその被巻線部材2aを軸方向に往復移動させつつ巻線することにより被巻線部材2aに線材7を均一に巻線を行うとしてしている。
【0003】
一方、図4に示す従来の巻線装置1では、線材7は供給ボビン9に巻回されて貯線され、その供給ボビン9から巻き解かれた線材7を被巻線部材2aに供給するフライヤ6は、丸棒状であってフライヤ回転用モータ8によりその軸を中心として回転するシャフト部6aと、そのシャフト部6aの略半径方向へ弧状に伸びてその先端が被巻線部材2aの外周の延長上に位置する竿部6bとを有する。そして、供給ボビン9における線材7の巻き解き速度を検出する検知機5を備え、その検知機5が検出する線材7の巻き解き速度に対応してフライヤ回転用モータ8がフライヤ6を回転させることにより、線材7にねじれを生じさせることなく被巻線部材2aに線材7を巻線することができるとしている。このため、特に線材7が、その断面が方形を成すいわゆる角線の場合における巻線に適するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−2978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スピンドル軸2に支持される被巻線部材2aには線材7の端部を支持させるためのピンや絡げ部が形成されるのが一般的であり、回転中心に対してバランスがとれた被巻線部材2aは少ない。そして、上記従来の巻線装置1では、巻線の途中に被巻線部材2aとともに回転するスピンドル軸2をトラバースモータ4により軸方向に往復移動させているので、設置場所に設置される基台に対してこのスピンドル軸2はそれを軸方向に移動させるトラバースモータ4を含む移動手段を介して取付けられることになる。してみると、例え基台が振動しないような強固なものであったとしても、その移動手段4の必要不可欠な遊び等により、基台に対するスピンドル軸2の共振を生じさせる固有振動数は低下する。このため、巻線速度を高めることを目的として、例えば、比較的大型のスピンドル回転用モータ3を用いてスピンドル軸2の回転を高速化させようとしても、バランスを欠いた被巻線部材2aを支持してその被巻線部材2aとともに回転するスピンドル軸2の共振を回避する必要から、そのスピンドル軸2の回転速度をその固有振動数を超えて高めることはできなかった。
【0006】
また、上記従来の巻線装置1におけるフライヤ6にあっては、フライヤ回転用モータ8が供給ボビン9における線材7の巻き解き速度に対応してそのフライヤ6を回転させるので、その巻解き速度を超えてフライヤ6の回転速度を高めることは期待されていない。また、そのフライヤ6の竿部6bはそのシャフト部6aの略半径方向へ弧状に伸びるものであるので対称性に欠け、フライヤ6自体の固有振動数は著しく低いものとなる。このため、このフライヤ6の回転速度を高めてフライヤ6による巻線速度を増加させることも困難である。よって、この従来の装置1では、巻線速度を十分に高めることができないという未だ解決すべき課題が残存していた。
【0007】
更に、スピンドル回転用モータ3の最大回転速度よりスピンドル軸2の共振を生じさせる固有振動数が下回っている場合には、そのモータ3の最大出力においてスピンドル軸2を回転させるようなことはなくなり、そのモータ3がいわゆるオーバースペックとなって、装置1自体の大型化を招来させるとともにその単価が押し上げられる問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、巻線速度を十分に高めることができる巻線装置及び巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の巻線装置は、設置場所に設置可能な基台と、第1モータの回転軸に同軸に取付けられ線材が巻線される被巻線部材を支持可能に構成されたスピンドル軸と、スピンドル軸に対向し第2モータによりスピンドル軸と平行な回転軸を中心に被巻線部材の周囲で回転し線材を繰出して被巻線部材に線材を巻回するフライヤとを備える。
【0010】
その特徴ある構成は、第1モータが基台に移動不能に固定され、フライヤが基台にフライヤ移動手段を介して移動可能に取付けられたところにある。
【0011】
そして、第1モータの出力は被巻線部材を支持したスピンドル軸が共振する回転速度未満であって、第2モータの出力はフライヤが共振する回転速度未満であることが好ましく、フライヤは、そのフライヤの回転軸を含む断面がその回転軸を対称線とする対称構造を成すように形成されることが更に好ましい。
【0012】
本発明の巻線方法は、第1モータの回転軸に同軸に取付けられ線材が巻線される被巻線部材を支持可能に構成されたスピンドル軸と、スピンドル軸に対向し第2モータによりスピンドル軸と平行な回転軸を中心に被巻線部材の周囲で回転し線材を繰出して被巻線部材に線材を巻回するフライヤとを備えた巻線装置を用いて巻線する巻線方法である。
【0013】
その特徴ある点は、第1モータを設置場所に設置された基台に移動不能に固定し、フライヤを基台にフライヤ移動手段を介して移動可能に取付け、フライヤ移動手段によりフライヤの回転軸に沿ってフライヤを往復移動させつつ第2モータによりフライヤを回転させ、スピンドル軸に支持されて第1モータにより回転する被巻線部材に線材を巻線するところにある。
【0014】
この場合、被巻線部材の回転速度が被巻線部材に線材を巻線する希望巻線速度未満であり、希望巻線速度と被巻線部材の回転速度の差に相当する回転速度でフライヤを被巻線部材の回転方向と逆方向に回転させることが好ましい。そして、第1モータによる被巻線部材の回転速度が被巻線部材を支持したスピンドル軸が共振する回転速度未満であって、第2モータによるフライヤの回転速度がフライヤが共振する回転速度未満であることが更に好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の巻線装置及び巻線方法では、第1モータを基台に直接固定するので、その回転軸に取付けられて被巻線部材とともに回転するスピンドル軸の固有振動数を高めることができる。このため、スピンドル軸の回転による巻線にあっては、第1モータを基台に直接固定することにより、共振を生じさせることなく被巻線部材とともにスピンドル軸を回転させ得る回転速度が高まり、このスピンドル軸を回転させて巻線する巻線速度を高めることができる。一方、例えば、線材の断面が円形を成すいわゆる丸線である場合には、巻線時に生じる多少のねじれを無視することもできる。このため、そのフライヤをスピンドル軸の回転方向と逆方向に回転させれば、スピンドル軸に支持されて第1モータにより回転する被巻線部材に線材をこのフライヤにより更に巻線することができる。そして、フライヤは、そのフライヤの回転軸を含む断面がその回転軸を対称線とする対称構造を成すように形成されれば、共振を生じ難いものとすることができ、その回転速度を高めることもできる。
【0016】
よって、本発明の巻線装置及び巻線方法では、スピンドル軸の回転速度とフライヤの回転速度の和の速度において被巻線部材に線材を巻線することが可能となり、スピンドル軸及びフライヤの双方の回転速度が制限される従来のものに比較して、被巻線部材に線材を比較的高速で巻線することが可能になる。このため、例えば、第1モータによる被巻線部材の回転速度が希望巻線速度未満である場合には、その希望巻線速度をスピンドル軸による巻線速度とフライヤによる巻線速度に分け、その希望巻線速度と被巻線部材の回転速度の差に相当する回転速度でフライヤを被巻線部材の回転方向と逆方向に回転させることにより、その希望巻線速度における巻線が可能になる。
【0017】
ここで、第1モータの最大出力が被巻線部材を支持したスピンドル軸が共振する回転速度未満であって、第2モータの最大出力がフライヤが共振する回転速度未満であれば、共振を生じさせることなく、その第1及び第2モータの最大出力においてスピンドル軸及びフライヤを回転させることができる。このため、その第1及び第2モータの能力を最大限に引き出すことができ、スピンドル軸を回転させる第1モータ及びフライヤを回転させる第2モータのそれぞれの限界を超えて線材を被巻線部材に巻線することが可能になる。よって、この第1及び第2モータがいわゆるオーバースペックになるようなことはなく、装置自体が大型化してその単価が押し上げられるようなことを回避することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施形態の巻線装置を示す側面図である。
【図2】その巻線装置の上面図である。
【図3】その巻線装置により巻線が成されている状態を示す図である。
【図4】従来の巻線装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の巻線装置10を図1及び図2に示す。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平前後方向、Y軸が水平横方向、Z軸が垂直方向に延びるものとして本発明の巻線装置10について説明する。本発明の巻線装置10は、基台11と、第1モータ12の第1回転軸12aに同軸に取付けられ線材13が巻線される被巻線部材14を支持可能に構成されたスピンドル軸16と、被巻線部材14の周囲で回転し線材13を繰出してその被巻線部材14に線材13を巻回するフライヤ17とを備える。基台11は設置場所に設置可能な箱形形状に構成され、図示しない移動用ローラと設置場所に固定するためのストッパ部材が下部に設けられる。この基台11は設置場所に設置された状態で振動が生じ難い比較的堅牢なものが用いられる。
【0021】
被巻線部材14を支持可能に構成されたスピンドル軸16は第1モータ12の第1回転軸12aに同軸に直接取付けられる。この実施の形態における被巻線部材14は断面が円形を成す筒部14aと、その筒部14aの両側に設けられたフランジ部14b,14cとを有し、一方のフランジ部14bに線材13を絡げるためのピン14dが2本設けられたものを例示するけれども、これに限定するものではない。スピンドル軸16の外径は筒部14aが嵌入可能な大きさに形成され、第1回転軸12aに接続するための大径部16aが形成される。大径部16aにはフランジ部14bに係合してその被巻線部材14がスピンドル軸16に対して回転することを禁止する図示しない係合部が形成される。そして、この被巻線部材14をスピンドル軸16に嵌入することにより、このスピンドル軸16はその被巻線部材14を支持するように構成される。なお、第1モータ12には、この巻線装置10を制御する図示しないコントローラの制御出力が接続され、そのコントローラからの指令により駆動してスピンドル軸16をそこに支持された被巻線部材14とともに回転するように構成される。
【0022】
フライヤ17は、そのスピンドル軸16に対向し第2モータ18によりスピンドル軸16と平行な軸を中心に被巻線部材14の周囲で回転し、線材13を繰出して被巻線部材14に線材13を巻回するように構成される。具体的にこのフライヤ17は、支持部21に枢支されたシャフト部17aと、そのシャフト部17aのスピンドル軸16に臨む先端部に基端が接続されスピンドル軸16に臨む先端がラッパ状に広がったフライヤ部17bとを備える。フライヤ部17bの広がった先端にはシャフト部17aの回転軸を対称線とする対称位置に線材13を転向させる小プーリ17dが外側に向かってそれぞれ設けられ、一方の小プーリ17dの近傍にはその小プーリ17dにより転向した線材13をスピンドル軸16方向に案内するノズル17eが傾斜して設けられる。他方の小プーリ17dの近傍には、回転軸を対称線とする先のノズル17eの対称位置に、そのノズル17eと同形同大のダミーノズル17gが同様に傾斜して設けられる。これによりフライヤ17は、そのフライヤ17の回転軸を含む断面が、その回転軸を対称線とする対称構造を成すように形成される。
【0023】
支持部21は基台11における上面と平行な移動板22に立設され、フライヤ17におけるシャフト部17aの中心軸がスピンドル軸16と平行になるようにそのシャフト部17aが支持部21の支持孔21a(図2)に貫通され、ベアリング23を介してフライヤ17はシャフト部17aの中心軸を回転軸として回転自在に支持される。図2に示すように、シャフト部17aには、その中心軸にガイド筒17cが貫通して固定される。このガイド筒17cには、図示されない線材源からの線材13が導入され、スピンドル軸16に臨む先端から繰出されて一方の小プーリ17dに向かうように構成される。このガイド筒17cの先端と一方の小プーリ17dを連結するフライヤ部17dには、この線材13を通過させる通過孔17fが形成され、ガイド筒17cの先端から繰出された線材13はこの通過孔17fを通過した後一方の小プーリ17dにおいて転向し、ノズル17eを通過して被巻線部材14に供給可能に構成される。
【0024】
シャフト部17aの基端には、シャフト部17aの中心軸に中心軸が一致する第1プーリ24が取付けられ、それらの中心軸に平行な第2回転軸18aを有する第2モータ18がフライヤ17に隣接して設けられる。この第2モータ18は移動板22に立設された取付板26に取付けられ、その第2回転軸18aに第2プーリ27が取付けられる。そして、第1プーリ24と第2プーリ27の間にベルト28が掛け回される。第2モータ18には、図示しないコントローラの制御出力が接続され、そのコントローラからの指令により第2モータ18が駆動してその第2回転軸18aが第2プーリ27とともに回転すると、その回転はベルト28により第1プーリ24に伝達され、その第1プーリ24が設けられたフライヤ17が回転するように構成される。
【0025】
本発明の特徴ある構成は、スピンドル軸16を回転させる第1モータ12が基台11に移動不能に固定され、フライヤ17がその基台11にフライヤ移動手段31を介して移動可能に取付けられたところにある。この実施の形態における第1モータ12は基台11に比較的堅牢な取付部材29を介してその上面に固定される。即ち、第1モータ12と基台11の間には、この第1モータ12を移動させるような移動手段を何ら設けることをしない。第1モータ12を基台11に固定するこの実施の形態における取付部材29は、基台11にボルト29aにより強固に固定される台板29bと、その台板29bに溶接されてZ軸方向に伸びる比較的厚肉の壁板29cとを備え、この壁板29cに第1モータ12がその第1回転軸12aをX軸方向に延ばして取付けられる。
【0026】
本発明において第1モータ12を基台11に直接固定するのは、その第1回転軸12aに取付けられて被巻線部材14とともに回転するスピンドル軸16が共振するような事態を回避するためである。即ち、設置場所に設置される基台11は一般的に振動しないような強固なものであり、そのような基台11に直接固定された第1モータ12は、基台11との間に無駄な遊び等は生じない。このため、第1モータ12を基台11に直接固定することにより、第1モータ12の第1回転軸12aに直接取付けられたスピンドル軸16の共振を生じさせる固有振動数は著しく高まり、そのスピンドル軸16に共振を生じさせることなくそのスピンドル軸16が回転し得る速度を高めることができる。
【0027】
一方、図1に示すように、フライヤ移動手段31は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32〜34の組み合わせにより構成される。この実施の形態におけるこれらの伸縮アクチュエータ32〜34は、細長い箱形ハウジング32d〜35dと、そのハウジング32d〜35d内部に長手方向に伸びて設けられサーボモータ32a〜34aによって回動駆動されるボールネジ32b〜34bと、このボールネジ32b〜34bに螺合して平行移動する従動子32c〜34c等によって構成される。そして、これらの伸縮アクチュエータ32〜34は、サーボモータ32a〜34aが駆動してボールネジ32b〜34bが回転すると、このボールネジ32b〜34bに螺合する従動子32c〜34cがハウジング32d〜34dの長手方向に沿って移動可能に構成される。
【0028】
この実施の形態では、フライヤ17が設けられた移動板22をX軸方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ32のハウジング32dに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ32とともにその移動板22をZ軸方向に移動可能に、その従動子32cがL形ブラケットを介してZ軸方向伸縮アクチュエータ34のハウジング34dに取付けられる。また、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ34の従動子34cをY軸方向伸縮アクチュエータ33の従動子33cに取付け、そのX軸及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32,34とともにその移動板22をY軸方向に移動可能に、そのY軸方向伸縮アクチュエータ33のハウジング33dが基台11の側壁に取付けられる。それらの各伸縮アクチュエータにおけるX軸サーボモータ32a、Y軸サーボモータ33a及びZ軸サーボモータ34aは、これらを制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。そして、このフライヤ移動手段31はコントローラからの指令により、各伸縮アクチュエータ32〜34が駆動して、中央移動板22とともにフライヤ17を基台11に対して3軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0029】
本発明において、フライヤ17を基台11にフライヤ移動手段31を介して移動可能に取付けるのは、このフライヤ17による被巻線部材14への巻線において、その巻線時にフライヤ17を被巻線部材14の軸方向に往復移動させることにより線材13をその被巻線部材14にいわゆる整列巻き可能にするためである。一方、フライヤ17自体は共振を生じ難い対称形に製作される。このため、フライヤ移動手段31を介して基台11に取付けても、そのフライヤ17が共振する固有振動数が著しく低下することはない。ここで、フライヤ17による巻線にあっては線材13がねじれることはあるけれども、線材13の断面が円形を成すいわゆる丸線である場合には、巻線時に生じる多少のねじれを無視することもできる。このため、そのフライヤ17をスピンドル軸16の回転方向と逆方向に回転させれば、スピンドル軸16に支持されて第1モータ12により回転する被巻線部材14に線材をこのフライヤ17により更に巻線することができることになり、本発明の巻線装置10では、その巻線速度を著しく高速化させることができる。
【0030】
ここで、第1モータ12としては、その最大出力が被巻線部材14を支持したスピンドル軸16が共振する回転速度未満のものが選定され、第2モータ18としては、その最大出力がフライヤ17が共振する回転速度未満のものが選定される。すると、その第1及び第2モータ12,18の最大出力においてスピンドル軸16及びフライヤ17を回転させても、そのスピンドル軸16やフライヤ17に共振が生じることはない。このため、その第1及び第2モータ12,18の能力を最大限に引き出すことができ、スピンドル軸16を回転させる第1モータ12及びフライヤ17を回転させる第2モータ18のそれぞれの限界を超えて線材13を被巻線部材14に巻線することが可能になる。よって、この第1及び第2モータ12,18がいわゆるオーバースペックになるようなことはなく、装置自体が大型化してその単価が押し上げられるようなことを回避することもできる。
【0031】
図2に示すように、この巻線装置10には、線材13の端部を絡げ保持する線材係止具41が設けられる。この線材係止具41は、第1モータ12に対してY軸方向にずれて基台11に設けられたエアシリンダ42と、そのエアシリンダ42の可動スライダ42aに設けられた絡げピン43とを有する。エアシリンダ42は、可動スライダ42aがY軸方向に往復移動可能に基台11に取付けられ、その可動スライダ42aに絡げピン43はスピンドル軸16に並ぶようにX軸方向に伸びて設けられる。エアシリンダ42は、圧縮エアの供給の有無によりこの可動スライダ42aをY軸方向に移動可能に構成される。そして、フライヤ17から供給される線材13は当初この絡げピン43に絡げられ、実際の巻線に際して被巻線部材14に案内されて巻線されることになる。
【0032】
次に、上記巻線装置を用いた本発明の巻線方法について説明する。
【0033】
本発明の巻線方法は、第1モータ12の第1回転軸12aに同軸に取付けられ線材13が巻線される被巻線部材14を支持可能に構成されたスピンドル軸16と、スピンドル軸16に対向し第2モータ18によりスピンドル軸16と平行な軸を中心に被巻線部材14の周囲で回転し線材13を繰出して被巻線部材14に線材13を巻回するフライヤ17とを備えた巻線装置10を用いて巻線する巻線方法である。その特徴ある点は、第1モータ12を設置場所に設置された基台11に移動不能に固定し、フライヤ17を基台11にフライヤ移動手段31を介して移動可能に取付け、フライヤ移動手段31によりフライヤ17の回転軸に沿ってフライヤ17を往復移動させつつ第2モータ18によりフライヤ17を回転させ、スピンドル軸16に支持されて第1モータ12により回転する被巻線部材14に線材13を巻線するところにある。
【0034】
実際の巻線の手順は、図3(a)に示すように、先ず、線材13が供給されるノズル17eを被巻線部材14における一方のピン14dの周囲に周回させて、ノズル17eから繰出される線材13をそのピン14dに絡げる。このとき、図2に示すエアシリンダ42は可動スライダ42aを絡げピン43とともにその被巻線部材14に近づけておく。その後、図3(b)に示すように、第1モータ12によりスピンドル軸16を被巻線部材14とともに実線矢印で示すように回転させ、これによりフライヤ17におけるノズル17eから繰出される線材13をその被巻線部材14に巻取って巻線する。このとき、フライヤ17を破線矢印で示すように被巻線部材14の回転方向と逆方向に回転させることにより、線材13を被巻線部材14に巻線する。そして、この巻線時に、フライヤ移動手段31(図1)によりフライヤ17の回転軸12aに沿ってフライヤ17を一点鎖線矢印で示すように往復移動させ、被巻線部材14における筒部14aの全長に亘って線材13の巻線を行う。
【0035】
所望の回数線材13を被巻線部材14に巻線することができた後は、図3(c)に示すように、線材13が供給されるノズル17eを被巻線部材14における他方のピン14dの周囲に周回させて、ノズル17eから繰出される線材13をそのピン14dに絡げる。そして、その被巻線部材14に近づけている図2に示す可動スライダ42aの絡げピン43の周囲にそのノズル17eを周回させてその絡げピン43にその線材13を絡げる。その後エアシリンダ42は可動スライダ42aとともに絡げピン43を被巻線部材14から遠ざけることにより、被巻線部材14のピン14dと絡げピン43の間にあるワイヤを切断し、これにより一連の巻線作業を終了させる。
【0036】
そして、本発明の方法では、第1モータ12を基台11に直接固定するので、第1モータ12の第1回転軸12aに直接取付けられたスピンドル軸16の共振を生じさせる固有振動数を著しく高めることができる。よって、例えば、そのスピンドル軸16に支持された被巻線部材14のバランスが多少崩れていようとも、スピンドル軸16の回転による共振は生じ難いものとなり、その固有振動数が第1モータ12の最高回転速度を超えるようにすれば、スピンドル軸16に共振を生じさせることなく、第1モータ12の最大出力において被巻線部材14を回転させることが可能になる。このため、その巻線速度を著しく向上させることができる。
【0037】
また、フライヤ17を基台11にフライヤ移動手段31を介して移動可能に取付け、フライヤ移動手段31によりフライヤ17の回転軸に沿ってフライヤ17を往復移動させつつ第2モータ18によりフライヤ17を回転させるのは、線材13が被巻線部材14の同一箇所に比較的多く巻線されることを回避するためである。即ち、第1モータ12を基台11に固定するので、被巻線部材14が回転して巻線が行われている間、その被巻線部材14が軸方向に往復移動することはない。このため、本発明の方法では、巻線を行っている間、回転するフライヤ17を被巻線部材14の巻線が成される範囲において軸方向に往復移動させ、これにより線材13が被巻線部材14の同一箇所に比較的多く巻線されることを回避するものである。
【0038】
一方、巻線される線材13の供給能力に限界がある場合はその限界により巻線速度が決定され、またこの巻線装置10が設置される製造ラインの搬送速度からその巻線装置10における巻線速度が決定される場合もある。このように線材13の供給能力や製造ラインの搬送速度等から決定される巻線速度を希望巻線速度とすると、第1モータ12による被巻線部材14の回転速度がその希望巻線速度未満である場合には、その希望巻線速度と被巻線部材14の回転速度の差に相当する回転速度でフライヤ17を被巻線部材14の回転方向と逆方向に回転させることにより、第1モータ12では足りない巻線をそのフライヤ17が補って、その希望巻線速度における巻線が可能となる。換言すれば、希望巻線速度を、第1モータ12による被巻線部材14の回転速度と、第2モータ18によるフライヤ17の回転速度に分けて巻線することができる。このことは、スピンドル軸16を回転させる第1モータ12及びフライヤ17を回転させる第2モータ18のそれぞれの限界を超えて、線材13を被巻線部材14に巻線することが可能になることを意味する。
【0039】
ここで、フライヤ17にあっては、それ自体を対称形に製作することにより共振が生じ難いものとすることができ、フライヤ移動手段31を介して基台11に移動可能に取付けても、その固有振動数を比較的高い値に維持することができる。このため、このフライヤ17にあっても、共振を生じさせることなく比較的速い速度で回転させることが可能になり、そのフライヤ17をスピンドル軸16の回転方向と逆方向に回転させることにより、スピンドル軸16の回転速度とフライヤ17の回転速度の和の速度において被巻線部材14に線材13を巻線することが可能となる。即ち、本発明の巻線方法では、第1モータ12による被巻線部材14の回転速度が被巻線部材14を支持したスピンドル軸16が共振する回転速度未満であり、第2モータ18によるフライヤ17の回転速度がフライヤ17が共振する回転速度未満であっても、第1モータ12によるスピンドル軸16の回転速度と、第2モータ18によるフライヤ17の回転速度のバランスを取ることにより、その希望巻線速度における巻線が可能になる。よって、この希望巻線速度が、第1モータ12及び第2モータ18のそれぞれの限界を超えた比較的高い値であったとしても、その希望巻線速度における巻線が可能になり、このような巻線速度を従来に比較して十分に高めることができる。
【0040】
例えば、第1及び第2モータ12,18におけるそれぞれの限界が1分間に2万回転であり、その希望巻線速度が1分間に3万回転である場合には、第1モータ12により被巻線部材14をスピンドル軸16とともに1分間に2万回転させ、それとともにフライヤ17を被巻線部材14の回転方向と逆方向に1分間に1万回転させることにより、線材13をその被巻線部材14に希望巻線速度である1分間に3万回転の速度で巻線することができる。また、被巻線部材14が著しい非対称形であって、その被巻線部材14を支持したスピンドル軸16の固有振動数が1分間に2万回転まで低下したような場合には、その共振を回避するために、第1モータ12により被巻線部材14をスピンドル軸16とともに、その固有振動数未満である1分間に1万回転程度まで低下させ、それとともにフライヤ17を被巻線部材14の回転方向と逆方向に1分間に2万回転させることにより、線材13をその被巻線部材14に希望巻線速度である1分間に3万回転の速度で巻線することができる。このように、例えば、1分間に3万回転という希望巻線速度が第1及び第2モータ12,18における最高回転速度を超えていても、その希望巻線速度をスピンドル軸16による巻線速度とフライヤ17による巻線速度に分けることにより、第1及び第2モータ12,18における限界を超えて線材13を被巻線部材14に巻線することが可能になる。
【0041】
即ち、本発明の巻線装置10及び巻線方法では、基台11に固定された第1モータ12の第1回転軸12aにスピンドル軸16を取付け、第2モータ18により回転して被巻線部材14に線材13を繰出すフライヤ17を備えたので、希望巻線速度を第1モータ12によるスピンドル軸16の回転速度と、第2モータ18によるフライヤ17の回転速度に分け、双方の回転速度のバランスを取って巻線することにより、被巻線部材14等の共振を回避しつつ巻線速度を従来よりも十分に高めることができるのである。
【0042】
なお、上述した実施の形態では、第1モータ12が基台11に取付部材29を介して固定される場合を示したけれども、この第1モータ12は、基台11に対して移動不能に比較的強固に固定され得る限り、取付部材29を用いることなく基台11に直接固定するようにしても良い。
【0043】
また、上述した実施の形態では、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32〜34の組み合わせにより構成されたフライヤ移動手段31を用いて説明したけれども、フライヤ移動手段はこの構造のものに限るものではなく、フライヤ17が基台11に対して移動可能である限り、このフライヤ移動手段は他の形式のものであっても良い。
【符号の説明】
【0044】
10 巻線装置
11 基台
12 第1モータ
12a 第1回転軸
13 線材
14 被巻線部材
16 スピンドル軸
17 フライヤ
18 第2モータ
31 フライヤ移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置場所に設置可能な基台(11)と、
第1モータ(12)の第1回転軸(12a)に同軸に取付けられ線材(13)が巻線される被巻線部材(14)を支持可能に構成されたスピンドル軸(16)と、
前記スピンドル軸(16)に対向し第2モータ(18)により前記スピンドル軸(16)と平行な回転軸を中心に前記被巻線部材(14)の周囲で回転し前記線材(13)を繰出して前記被巻線部材(14)に前記線材(13)を巻回するフライヤ(17)と
を備えた巻線装置であって、
前記第1モータ(12)が前記基台(11)に移動不能に固定され、
前記フライヤ(17)が前記基台(11)にフライヤ移動手段(31)を介して移動可能に取付けられた
ことを特徴とする巻線装置。
【請求項2】
第1モータ(12)の出力は被巻線部材(14)を支持したスピンドル軸(16)が共振する回転速度未満であって、第2モータ(18)の出力はフライヤ(17)が共振する回転速度未満である請求項1記載の巻線装置。
【請求項3】
フライヤ(17)は、前記フライヤ(17)の回転軸を含む断面が前記回転軸を対称線とする対称構造を成すように形成された請求項1又は2記載の巻線装置。
【請求項4】
第1モータ(12)の第1回転軸(12a)に同軸に取付けられ線材(13)が巻線される被巻線部材(14)を支持可能に構成されたスピンドル軸(16)と、前記スピンドル軸(16)に対向し第2モータ(18)により前記スピンドル軸(16)と平行な回転軸を中心に前記被巻線部材(14)の周囲で回転し前記線材(13)を繰出して前記被巻線部材(14)に前記線材(13)を巻回するフライヤ(17)とを備えた巻線装置を用いて巻線する巻線方法であって、
前記第1モータ(12)を設置場所に設置された基台(11)に移動不能に固定し、
前記フライヤ(17)を前記基台(11)にフライヤ移動手段(31)を介して移動可能に取付け、
前記フライヤ移動手段(31)により前記フライヤ(17)の回転軸に沿って前記フライヤ(17)を往復移動させつつ第2モータ(18)により前記フライヤ(17)を回転させ、
前記スピンドル軸(16)に支持されて前記第1モータ(12)により回転する前記被巻線部材(14)に前記線材(13)を巻線する巻線方法。
【請求項5】
被巻線部材(14)の回転速度が前記被巻線部材(14)に線材(13)を巻線する希望巻線速度未満であり、前記希望巻線速度と前記被巻線部材(14)の回転速度の差に相当する回転速度で前記フライヤ(17)を前記被巻線部材(14)の回転方向と逆方向に回転させる請求項4記載の巻線方法。
【請求項6】
第1モータ(12)による被巻線部材(14)の回転速度が前記被巻線部材(14)を支持したスピンドル軸(16)が共振する回転速度未満であって、第2モータ(18)によるフライヤ(17)の回転速度が前記フライヤ(17)が共振する回転速度未満である請求項4又は5記載の巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−69678(P2012−69678A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212431(P2010−212431)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】