説明

布の貼着成形品

【課題】布の貼着成形品であっても、冷却効率が高く、しかも従来と同じ時間で成形品を離型したときに変形が抑制される布の貼着成形品を提供する。
【解決手段】布の貼着成形品1がブロー成形により得られる中空成形体の外側表面に布3を貼着して構成する基材2は、23℃の曲げ剛性が1500MPa以上であり60℃での曲げ剛性が700MPa以上であるとともに、熱可塑性樹脂90〜50重量%に対してタルクを10〜50重量%ブレンドしたブレンド材により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性合成樹脂からなる基材の外側表面に基材の溶融状態時に布を配置することにより基材の外側表面に布を貼着した布の貼着成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このように布を成形時に成形品の外側表面に貼着するものとしては、繊維シートを金型の外側表面に配置しブロー成形するものがある(特開昭57−185120号公報参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−185120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記するような布を成形品の外側表面に貼着したものは、美麗な外観が得られるともに高級な風合いが得られるものであり、市場に有利な商品を提供することができるものである。これをブロー成形により成形時一体に製造することを考えると、成形品の冷却の点で採用が懸念されるものであった。
【0005】
一般にブロー成形は金型により成形品の壁の外側からパリソンの熱量を奪う方途とブローエアーにより成形品の壁の内側からパリスンの熱量を奪う方途の二つがある。そして最も成形品の冷却に効果を有するのは、金型による成形品の壁の外側からの冷却である。しかし、このように中空成形品の壁の外側の表面に布を貼着するものでは、成形品と金型との間に布が介在するために、成形品の熱がなかなか金型に伝わらず、成形品の冷却に時間がかかり成形サイクルの低下となっていた。そこで、例えば離型する時間を従来の時間と同じようにすると、十分に冷却される前に金型を開くこととなるので、成形品を離型した後の成形面を放置している間に冷却が進むこととなり、その結果、成形品の成形収縮による成形品の変形が発生する。特に布が成形品の片側のみに形成されている場合や成形品の一部に形成されている場合は、布を貼着した壁は布による冷却不足が発生し、この部分には離型後の放置により成形収縮が発生し、逆に布の貼着のない成形品の壁には金型内で冷却が完了しているので離型後の成形品の収縮は発生しないのである。したがって、この両者の成形収縮の差が大きく発生して全体に歪んだ変形を有する成形品となるのである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、布の貼着成形品であっても、冷却効果が高く、しかも従来と同じ時間で成形品を離型したときに変形が抑制される布の貼着成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の布の貼着成形品は、ブロー成形により得られる中空成形体の基材の外側表面に基材の溶融状態時に布を配置し、布を基材の表面にブロー圧力にて押圧することにより中空成形体の外側表面に布を貼着した布の貼着成形品において、基材は23℃の曲げ剛性が1500MPa以上であり60℃での曲げ剛性が700MPa以上であるとともにポリプロピレンのブロックコーポリマーを有する熱可塑性合成樹脂90〜50重量%に対して熱の伝導率が上記熱可塑性合成樹脂より大きな平均粒径が100ミクロン以下のタルクを10〜50重量%ブレンドして実質的に樹脂の熱量の伝達速度を上げたブレンド材より構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以上のように構成したので、布を外側表面に一体に形成したものであっても、冷却時間を短時間に抑えることができ、しかも変形のない剛性の高い成形品が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1には本発明の一実施形態にかかる布の貼着成形品が示されている。1は布の貼着成形品であり、布の貼着成形品1は基材2と布3より構成されている。基材2はエチレンを1重量%以下の割合で有するポリプロピレンのブロック共重合体に、タルクをブレンドしたブレンド材より構成されるものである。
【0010】
この基材2を構成するブレンド材は、23℃の曲げ剛性が1500MPa以上であり60℃での曲げ剛性が700MPa以上であることが必要である。ここで曲げ剛性とは、JISK7203の規格に基いて測定されたものである。
【0011】
次に上記する布の貼着成形品1の製造方法を図2により説明する。図2において、10a,10bは分割金型であり、その分割金型10a,10b間に押出ダイ11より押し出した管状パリソン12を配置し、一方の分割金型10aとパリソン12との間には布13を配置し、パリソン12の下部には吹き込みノズル14を配置している。
【0012】
このとき、パリソン12は、押出機にて混練して製造するものを使用する。パリソン12の製造は、押出機のホッパーにポリプロピレンのブロック共重合体の熱可塑性合成樹脂とタルクを上記する割合で予めブレンドしたブレンド材を投入し、押出機内にてこのブレンド材を加熱し、押出機内のスクリュウにてこのブレンド材を可塑化溶融する。押出機内での混練は円柱状のシリンダー部とその中に挿入されているスクリュウより行われ、このスクリュウはモーターにて一定速度にて回転させる。シリンダー内のブレンド材は、樹脂にもよるが一般的には200℃〜300℃の温度に昇温されており、熱可塑性樹脂は溶融状態となっている。
【0013】
しかし、タルクは、融点がはるかに高いためにシリンダー内で溶融することなくそのままの形で存在する。そこで、溶融混練は十分に行うことが必要である。また、このようなタルクの混練には、スクリュウの表面の磨耗が大きく進むので、スクリュウの表面の硬度が大きいものを使用する必要がある。スクリュウの表面硬度の小さいものを使用すると磨耗が大きく、使用できる期間が極端に短くなることに留意しなければならない。
【0014】
押出機のホッパーに投入する熱可塑性樹脂とタルクの予めのブレンドは、熱可塑性樹脂の粒径とタルクの粒の状態とが大きく食い違うので、つまり両者の嵩比重が異なるので、慎重なるブレンド作業が必要である。このため、予めタルクを樹脂内に混ぜ込んでマスターバッチとしたバンバリーミキサーや2軸のスクリューを有する混練押出機で予め混練押出しすることが必須である。
【0015】
本発明の基材を構成する熱可塑性樹脂とは、ブロー成形が可能な熱可塑性合成樹脂であるが、特に高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレテレフタレート、ポリカーボネート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレンゴム・スチレン樹脂、さらにはポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテルなどのエンジニアリング・プラスチックなどが好適である。
【0016】
基材にブレンドするタルクとは、アルミニウム、銅、鉄、鉛、ニッケル、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、ケイ素、アンチモン、チタンなどの金属の酸化物、その水和物(水酸化物)、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩のごとき化合物、これらの複塩ならびにこれらの混合物に大別される。この具体的な例としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、その水和物、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム(マグネシア)、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛(亜鉛華)、鉛丹および鉛白のごとき鉛の酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ホワイトカーボン、アスベスト、マイカ、タルク、ガラス繊維、ガラス粉末、ガラスビーズ、クレー、ケイソウ土、シリカ、ワラストナイト、酸化鉄、酸化アンチモン、酸化チタン(チタニア)、リトボン、軽石粉、硫化アルミニウム(石膏など)、ケイサンジルコニウム、酸化ジルコニウム、炭酸バリウム、ドロマイト、二硫化モリブデンおよび砂鉄があげられるが、このなかでもタルクが特に好ましい。
【0017】
布とは、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ビシコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維及びこれらのブレンド繊維並びにこれらを加工して得られる織物、編物、不織布などの布地であり、その要素とするのは、その内部に気泡などの断熱部分を有するものであり、断熱材として作用するものである。
【0018】
本発明は、ブロー成形により得られる中空成形体の金型による冷却が、タルクを10〜50重量%ブレンドすることにより早まるという驚くべき事実に着目して創案したものであるが、このようにタルクを10〜50重量%ブレンドするとなぜ金型にて冷却するような外部からの冷却に対して,冷却効果がアップするかについての正確な理由ははっきりしないが、発明者は以下のように思慮している。
【0019】
ところで、一般に樹脂のブロー成形工程において冷却とは、溶融された熱可塑性樹脂基材を冷却された金型にて接触することにより、熱可塑性樹脂の熱量を金型に伝導させ吸収させるものであるが、本発明のような布の貼着成形品の冷却の場合は、金型と熱可塑性樹脂基材との間に布が介在するので熱可塑性樹脂から金型へ伝わる熱量の伝導の効率化が、その布が一種の断熱材となって阻害されることは上記する通りである。したがって、布の貼着成形品の成形は、冷却が悪く、成形サイクルが低下することが十分に予想され、この冷却の悪さが、この種の成形品の採用および製造を設計者をして躊躇せしめている原因となっていたのである。
【0020】
ところが、この合成樹脂の熱量の伝達は、合成樹脂の中を熱量が順次伝導するもので、溶融された樹脂のなかでもまず金型が接触する金型の界面付近の樹脂から冷却が始まりその冷却は合成樹脂の中をこの金型付近から順に中央付近に移り、最後に壁の内側が冷却されて全体の冷却が完成するものである。つまり冷却は合成樹脂のなかを熱量の移動が行われることにより進行してゆくものであることがわかる。ここで合成樹脂の熱量の伝達は、金型のそれに比べて極めて悪く金型の冷却がたとえ効率よく進んだとしても、どうしても樹脂内での熱量の伝達がネックとなり、それ以上の伝達が阻害されるのである。つまり成形品の冷却は樹脂の中の熱量の移動の速度に左右されることが大きいのである。
【0021】
そこで、本発明においてブレンドするタルクはこの伝達が樹脂に比べて効率がよいためにたとえ金型と樹脂との間に冷却を阻害する部材である布が介在したとしても、実質的に冷却効率を左右していたのは従来懸念されていた布ではなく、樹脂の熱量の伝達性の悪さによるところが大であるので実質的に樹脂の熱量の伝達速度を上げることにより布により発生する欠点を解消することが判明したのである。
【0022】
本発明のように熱可塑性樹脂の中にタルクを10〜50重量%ブレンドすると、このタルクは熱の伝導率が熱可塑性樹脂に比べてはるかに大きくしかも10〜50%と比較的全体に占める割合も大きいので、熱可塑性樹脂と金型との間に布を介在させていたとしても熱可塑性合成樹脂内の効率良い冷却により熱可塑性樹脂の熱量を金型を経由して外部へに逃がすことができるものである。なお、冷却を考慮するとタルクのブレンド量は多ければ多いほどよいが、タルクの比率が上がると合成樹脂としての伸びが悪くなるので、50%を越えるとブロー成形性の点で好ましくない。
【0023】
さらにもう一つの要因として考えられるのは、タルクによる樹脂の剛性のアップである。熱を含んだ樹脂は材料としての剛性が低下するし内部の力により変形を起こすこととなるが、本発明のように剛性のアップにつながるタルクをブレンドすると、この加熱時の剛性の低下を抑制するだけでなく、樹脂本来の剛性のアップとなるので、従来よりも高い温度で金型を離型したとしても、成形品の自然放置の段階で変形の起きない冷却をうることができるものであると解される。
【実施例】
【0024】
表1に示す配合のブレンド材を予め2軸混練押出機でペレット化したものをスクリュウ径が70mmの押出機で加熱して溶融混練し、押出ヘッド内で環状のパリソンを形成し分割金型間に押出した。分割金型には、図3に示すような横・縦・高さをそれぞれ700mm×300mm×30mmの寸法の板状の中空部材を形成するキャビティが賦形されており、型締力70トンの型締機には分割金型がセットされている。分割金型の一方のキャビティには肉厚6mmで目付重量が350g/mであるポリエステル系繊維を使用して環状起毛処理を行ったニードル・パンチ不織布が上方を仮固定して配置してある。パリソンの配置が完了後、型締めし、パリスン内に6Kg/cmの圧力空気を噴出してブロー成形をした。
【0025】
ここで、上記する基材のブレンド材を構成する熱可塑性合成樹脂としては、以下に示すポリプロピレンのブロックコーポリマー(以下、PP)と高密度ポリエチレン(以下、PE1およびPE2)とを使用した。
PP:日本ポリケム製『EC9』
曲げ剛性(23℃)
1200MPaPE1:旭化成工業製『サンテック−HD,B470』
曲げ剛性(23℃)
1100MPaPE2:日本ポリオレフィン製『ジェイレスクHDS4002』
曲げ剛性(23℃)
780MPaまた、基材のブレンド材を構成するタルクとして平均粒径が100ミクロン以下のタルク(以下、タルクという)とを使用した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1において、冷却時間とは、吹き込みを開始してから離型するまでの時間を測定しこれを冷却時間とした。また、変形は、離型してから自由状態で常温(23℃)空間に1時間放置した後の変形を測定するものとし、変形は布側の面が凹形状となる布側に凹んだ形状となるので、測定は成形品の布側を下にして定板の上に置き、定板からの成形品の高さを測定し、略中央部の寸法から端部の寸法を差し引いた寸法(mm)をその変形による量とした。成形性は、成形品に穴が発生したり極端に肉厚の薄い部分が発生したりすることを黙視により検査した。
【0028】
【表2】

【0029】
表2より、PPにタルクを10〜50重量%ブレンドしたものは、1分の冷却時間で変形を1.5mm以内に抑えることができることがわかる。一般にこの種の大きさの成形品であれば、良品であるかどうかの変形の度合いは、変形が1.5mm以内かどうかで判定される。冷却時間は、生産性を考慮すると1分以内であることが一種の判定基準となっている。ここでは、変形の良品の基準を、1.5mmとし、冷却時間を1分間とした。
【0030】
なお、表2から表4において、成形性の『×』は、ブレンド材の伸びの不足により局部的にピンホールが発生し、ブロー成形の十分な圧力が得られないまま金型を開いたものであり、製品の形状をなさなかったものである。したがってこのように成形品にピンホールの発生したものは、変形の評価もできなかったので、表中では『−』としてある。
【0031】
【表3】

【0032】
表3は、表2において基材として使用したPPの代わりにPE1を使用し、タルクをブレンドしたものである。表3より、PE1はPPより冷却性が若干落ちることがわかる。
【0033】
【表4】

【0034】
表4は、基材としてPE2を使用し、タルクをブレンドしたものである。実験例13よりブレンド材は60℃の曲げ剛性が700MPaを超えることにより変形を抑えることができることがわかる。逆に60℃の曲げ剛性が700MPaをきると離型後の放置により変形が進むことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例にかかる布の貼着成形品の斜視図である。
【図2】本発明の製造方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明の実験例の評価に使用した板状体の全体斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 布の貼着成形品
2 基材
3、13 布
10a、10b 分割金型
11 押出ダイ
12 パリソン
14 吹き込みノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロー成形により得られる中空成形体の基材の外側表面に基材の溶融状態時に布を配置し、布を基材の表面にブロー圧力にて押圧することにより中空成形体の外側表面に布を貼着した布の貼着成形品において、
基材は23℃の曲げ剛性が1500MPa以上であり60℃での曲げ剛性が700MPa以上であるとともにポリプロピレンのブロックコーポリマーを有する熱可塑性合成樹脂90〜50重量%に対して熱の伝導率が上記熱可塑性合成樹脂より大きな平均粒径が100ミクロン以下のタルクを10〜50重量%ブレンドして実質的に樹脂の熱量の伝達速度を上げたブレンド材より構成されることを特徴とする布の貼着成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−279778(P2008−279778A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188434(P2008−188434)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【分割の表示】特願平8−330245の分割
【原出願日】平成8年11月26日(1996.11.26)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】