説明

希土類オキソイソプロポキシドの合成方法

【課題】無水希土類塩化物よりも安価な希土類金属を原料に用いて、高収率で安全に、希土類オキソイソプロポキシドを合成する方法を提供する。
【解決手段】イソプロピルアルコールを90重量%以上含む溶媒中で希土類金属とイソプロピルアルコールを水銀化合物触媒存在下で反応させた後、溶媒を添加または一部交換し、炭素数6〜10の芳香族炭化水素溶媒または炭素数5〜12の飽和炭化水素溶媒を25重量%以上含む溶媒中で、水を添加し、部分加水分解反応させることにより、希土類オキソイソプロポキシドを合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合触媒や不斉合成触媒の原料として有用な希土類オキソイソプロポキシド(Ln5O(O−i−C3713)の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
La5O(O−i−C3713は、希土類オキソイソプロポキシド(以下、Ln5O(O−i−C3713と表す。Lnは希土類元素を示す。)の一種である。
Ln5O(O−i−C3713は、重合触媒原料として有用であり、例えば、非特許文献1に、YやLaのオキソイソプロポキシドをラクチドの開環重合反応に使用することができることが記載されている。
また、Ln5O(O−i−C3713やそれ以外の希土類アルコキシドは、様々な触媒的不斉合成や重合反応の原料にも用いられている。
【0003】
Ln5O(O−i−C3713の合成方法としては、例えば、非特許文献2に、イソプロピルアルコールとトルエンの混合溶媒中に、金属イットリウムと、触媒として塩化第二水銀と酢酸水銀を加え、還流にて反応させた後、ろ過、再結晶、乾燥を経て、Y5O(O−i−C3713を収率75%で合成したことが記載されている。
【0004】
しかしながら、上記非特許文献2には、水を添加して部分加水分解することは記載されていない。
また、本発明者らが同合成方法を試みたところ、反応液をろ過後、留去乾燥して得られた物質は、THFやトルエン等の有機溶媒には不溶な成分を大量に含む場合もあり、有機溶媒に対する溶解度の再現性に劣り、有機合成触媒原料用としての使用は困難であった。
【0005】
また、非特許文献1には、非特許文献2の方法に従って、La5O(O−i−C3713を合成したことが記載されているが、生成物の同定についての記載はない。
また、本発明者らが同合成方法を試みたところ、反応溶液中のイソプロピルアルコール濃度が50%と低いため、反応を開始するまでの誘導期が20時間以上もあり、反応効率に劣るものであった。さらに、金属ランタンとイソプロピルアルコールを反応させて得られた反応液には、固体成分が、反応に使用した金属ランタンに対し50mol%程度も含まれており、ろ過による除去後に得られるLa5O(O−i−C3713の収率は10〜40%と生産性にも劣るものであった。
【0006】
また、非特許文献3に、イソプロピルアルコール中に粉末状の金属ランタンと塩化第二水銀を加えて加熱還流した後、濃縮、ベンゼン抽出、ろ過、留去乾燥、再結晶を経て、La(O−i−C373を合成する方法が記載されている。
しかしながら、この合成方法も部分加水分解によるものではなく、上記非特許文献1,2と類似の方法であり、合成収率も20〜30%と低いものであった。
【0007】
さらに、特許文献1には、アルコール中に希土類金属と触媒としてヨウ素(および塩化第二水銀)を加えて希土類金属アルコキシドを合成する方法が記載されているが、この合成方法も、部分加水分解によるものではなく、また、生成物は、ヨウ素による汚染を免れられない。
【0008】
さらにまた、非特許文献4に、イソプロピルアルコールとトルエンの混合溶媒中でカリウムイソプロポキシドを合成し、これに水を添加した後、無水ErCl3を添加して反応させることにより、Er5O(O−i−C3713を合成する方法が記載されている。
しかしながら、この方法は、原料となる無水希土類塩化物が高価であり、製造コストが高いという課題を有していた。
【0009】
また、同非特許文献4には、イソプロピルアルコールとトルエンの混合溶媒中で金属エルビウムと反応させた後、オリーブ色の固体成分を除去し、上澄みを留去乾燥することにより、ピンク色の粘稠性物質を収率40〜45%で得、これをイソプロピルアルコールとトルエンの混合溶媒中で部分加水分解して、Er5O(O−i−C3713を合成することができることが記載されている。
【0010】
しかしながら、この方法は金属エルビウムとイソプロピルアルコールの反応によって得られる反応液から固体成分を除去する際、この固体成分に含まれる希土類元素も除去されるため、収率に劣るものであった。また、オリーブ色の固体成分を部分加水分解するものではなく、しかも、La5O(O−i−C3713に関しては、何ら触れられていない。
【0011】
【特許文献1】特開平9−157272号公報
【非特許文献1】V.Simic, N.Spassky, L.G.Hubert-Pfalzgraf,“Macromolecules”, 1997年, vol.30, p.7338-7340
【非特許文献2】O.Poncelet, W.J.Sartain, L.G.Hubert-Pfalzgraf, K.Folting, K.G.Caulton,“Inorganic Chemistry”, 1989年, vol.28, p.263-267
【非特許文献3】岡野多聞ら、「日本化学会誌」、1993年, vol.5, p.487-492
【非特許文献4】G.Westin, M.Kritikos, M.Wijk,“Journal of Solid State Chemistry”, 1998年, vol.141, p.168-176
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
すなわち、従来は、金属ランタンとイソプロピルアルコールの反応によって得られる固体成分を部分加水分解することにより、La5O(O−i−C3713が得られることは知られていなかった。
【0013】
また、希土類金属とイソプロピルアルコールの反応では、少量の希土類金属が未反応のまま残る。従来の方法においては、これらの未反応希土類金属は、ろ過やデカンテーションにより除去していたが、非常に微細で高活性であるため、大気に接触すると酸素と反応し、直ちに発火するため、これらの工程では細心の注意が必要であった。
さらに、従来は、Ln5O(O−i−C3713の合成と同時に、未反応希土類金属を不活性化せることは行われていなかった。
【0014】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、無水希土類塩化物よりも安価な希土類金属を原料に用いて、高収率で安全に、Ln5O(O−i−C3713を合成する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るLn5O(O−i−C3713の合成方法は、希土類金属とイソプロピルアルコールを反応させて得られた、固体成分を含む反応液に、水を添加し、部分加水分解反応により、Ln5O(O−i−C3713を生成させることを特徴とする。
上記のように、反応液中の固体成分および未反応希土類金属を除去することなく、部分加水分解を行うことにより、高収率で、かつ、安全に、Ln5O(O−i−C3713を合成することができる。
【0016】
上記合成方法においては、希土類金属とイソプロピルアルコールを反応させて得られた、固体成分と未反応希土類金属を含有する反応液に、前記反応に用いた希土類金属に対して10〜30mol%の水を添加し、部分加水分解反応させた後、遠心分離またはろ過により前記未反応希土類金属を除去し、蒸発乾固させて、Ln5O(O−i−C3713を得ることが好ましい。
【0017】
また、上記合成方法においては、イソプロピルアルコールを90重量%以上含む溶媒中で希土類金属とイソプロピルアルコールを水銀化合物触媒存在下で反応させた後、溶媒を添加または一部交換し、炭素数6〜10の芳香族炭化水素溶媒または炭素数5〜12の飽和炭化水素溶媒を25重量%以上含む溶媒中で、水を添加し、部分加水分解反応させることが好ましい。
特に、前記炭素数6〜10の芳香族炭化水素溶媒としてトルエンを用いることが好ましい。
【0018】
上記合成方法は、特に、前記希土類金属が金属ランタンである場合に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
上述したとおり、本発明に係る合成方法によれば、無水希土類塩化物よりも安価な希土類金属を原料に用いて、高収率で安価かつ安全に、有機合成触媒の原料として有用なLn5O(O−i−C3713を合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明に係るLn5O(O−i−C3713の合成方法においては、希土類金属とイソプロピルアルコールを反応させて得られた、固体成分を含む反応液に、水を添加し、部分加水分解を行う。
すなわち、希土類金属とイソプロピルアルコールを反応させて得られた、固体成分および未反応希土類金属を含む反応液から、前記固体成分および未反応希土類金属を除去することなく、部分加水分解を行う。
このような合成方法によれば、高収率で、Ln5O(O−i−C3713が得られ、また、生じた少量の未反応希土類金属は、表面が加水分解されているため、大気中でも、直ちに発火することはなく、安全に処理することができる。
【0021】
上記反応に用いられる希土類金属は、粉末や薄片状等の比表面積が大きい形状であることが好ましい。また、希土類金属は大気と接触すると、酸素や水分によって表面が直ちに酸化するため、加工直後にオイル中に保管されているものが好ましい。
【0022】
また、上記反応溶媒には、イソプロピルアルコールを用いる。
イソプロピルアルコールの使用量は、使用する希土類金属に対して2.6〜260mol倍であることが好ましく、より好ましくは13〜130mol倍である。
【0023】
このイソプロピルアルコールは、炭素数6〜10(C6〜C10)の芳香族炭化水素溶媒または炭素数5〜12(C5〜C12)の飽和炭化水素溶媒で希釈してもよい。
ただし、希釈量が多く、イソプロピルアルコール濃度が低くなりすぎると、反応速度および反応率が低下するため、イソプロピルアルコール濃度は、50重量%以上、好ましくは90重量%であり、より好ましくは100重量%である。
また、希土類金属は水分と反応し、表面に酸化皮膜を形成して反応し難くなるため、反応溶媒は、水分含量30ppm以下のものを用いることが好ましい。
【0024】
上記反応においては、触媒として水銀化合物を添加することが好ましい。この水銀化合物としては、塩化第二水銀または酢酸水銀を使用することができる。
前記水銀化合物は、希土類金属に対して0.1〜5mol%添加することが好ましい。添加しない場合は、全く反応が進行しないか、あるいはまた、反応率が極めて低くなる。
なお、前記水銀化合物の触媒は、反応過程で還元され、金属水銀となり、ろ過により、ほぼ完全に除去することができる。
【0025】
上記反応は、反応溶媒中に希土類金属と水銀化合物を添加し、撹拌しながら、還流させることにより開始する。
反応時間は、希土類金属の種類や添加量、形状等にもよるが、5〜50時間程度である。
希土類金属がランタンの場合、反応の進行とともに、金属ランタンは消失し、多量の灰色の固体成分および未反応希土類金属を含む反応液が得られる。反応溶媒がイソプロピルアルコール100%の場合、金属ランタンの85〜95mol%が固体成分になる。
希土類金属がランタン以外の場合は、反応の進行とともに、希土類金属は消失し、少量の固体成分および未反応希土類金属を含む反応液が得られる。
【0026】
前記固体成分を含む反応液は、そのまま部分加水分解反応させてもよいが、Ln5O(O−i−C3713は、イソプロピルアルコールに難溶であるため、部分加水分解を均一に行う観点から、Ln5O(O−i−C3713が溶解しやすい溶媒を加えた後、部分加水分解を行うことが好ましい。
固体成分を含む反応液に添加する溶媒は、Ln5O(O−i−C3713をよく溶解するC6〜C10の芳香族炭化水素溶媒またはC5〜C12の飽和炭化水素溶媒であることが好ましく、これらの中でも、トルエンが特に好ましい。
前記溶媒の添加量は、全溶媒中のC6〜C10の芳香族炭化水素溶媒またはC5〜C12の飽和炭化水素溶媒濃度が25重量%以上になる量とすることが好ましく、より好ましくは50重量%程度とする。
【0027】
前記固体成分は、イソプロピルアルコールおよびC6〜C10の芳香族炭化水素溶媒またはC5〜C12の飽和炭化水素溶媒に対しては、ほとんど溶けない。
前記炭化水素溶媒を添加する前に、イソプロピルアルコールを一部留去してもよい。
ただし、留去工程において、固体成分に対する溶媒量を少なくしすぎると、固体成分が変質し、後の部分加水分解反応が進行しなくなるため注意を要する。
【0028】
部分加水分解反応は、ゆっくり均一に行う必要があり、添加する水は、イソプロピルアルコールまたはイソプロピルアルコールとトルエンの混合溶媒等で希釈しておくことが好ましい。希釈濃度は1.0M以下であることが好ましい。
前記水の添加量は、反応に使用した希土類金属に対して10〜30mol%であることが好ましく、より好ましくは20mol%程度である。
【0029】
前記部分加水分解反応は、室温下、撹拌しながら少しずつ水を添加した後、還流させることにより進行する。
希土類がランタンの場合、反応の進行とともに、固体成分は消失する。
希土類がランタン以外の場合は、反応液の懸濁が若干少なくなる。
3〜24時間で反応は完結する。
部分加水分解後の反応液は、ろ過、遠心分離またはデカンテーションにより、未反応の金属ランタンと未反応の固体成分を除去した後、蒸発乾固させて、目的とするLn5O(O−i−C3713が得られる。
Ln5O(O−i−C3713は、炭化水素溶媒に対して極めて高い溶解性を持つが、イソプロピルアルコールに対してはほとんど溶けないので、必要に応じて、これらを組み合わせた溶媒を用いて再結晶することにより、高純度品を得ることができる。
【0030】
前記ろ過後の残渣には、希土類金属の微粉末が含まれているため、安全性の観点から、直ちに分解処理することが好ましいが、表面が加水分解されているため、活性が低下しており、大気中に放置した場合でも、直ちに発火する危険性はない。
【0031】
なお、上記合成方法においては、反応から再結晶までのすべての合成および操作は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
300mlの三ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール79g、薄片状金属ランタン4.86g(35.0mmol)、塩化第二水銀0.03gを添加し、窒素気流下、オイルバスで100℃に加熱し、還流させながら12時間反応を行い、灰色の固体成分を含む反応液を得た。
この反応液から、減圧下、オイルバス温度90℃で、イソプロピルアルコール39gを留去した後、トルエン43gを添加した。
室温まで冷却した後、1.0Mの水を含んだイソプロピルアルコール7.0mlを20分間かけてゆっくり滴下した。その後、オイルバス温度120℃で加熱し、還流させながら6.5時間撹拌したところ、灰色の固体成分はゆっくり消失し、未反応金属ランタンの粉末と一部の未反応固体成分を含んだ反応溶液が得られた。
この反応溶液をろ過した後、蒸発乾固させて、9.02g(6.1mmol)のLa5O(O−i−C3713を収率87.2%で得た。
ろ過後の残渣は、大気中に曝しても、直ちに発火することなく、安全に処理することができた。
【0033】
得られた物質について、ICP−MS分析を行ったところ、La含量は47.1重量%(理論値47.0重量%)であり、また、Hg含量は1ppm以下であった。
また、ベンゼン凝固点降下法により分子量測定を行ったところ、1550(理論値1478.7)であった。なお、理論値との差は測定誤差範囲内である。
これらにより、得られた物質は、La5O(O−i−C3713であると同定された。
【0034】
[実施例2]
300mlの三ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール40g、薄片状金属ランタン2.50g(18.0mmol)、塩化第二水銀0.02gを添加し、窒素気流下、オイルバスで100℃に加熱し、還流させながら12時間反応を行い、灰色の固体成分を含む反応液を得た。
この反応液に、トルエン43gを添加し、室温まで冷却した後、1.0Mの水を含んだイソプロピルアルコール3.6mlを20分間かけてゆっくり滴下した。その後、オイルバス温度120℃で加熱し還流させながら、6.5時間撹拌したところ、灰色の固体成分はゆっくり消失し、未反応金属ランタンの粉末と一部の未反応固体成分を含んだ反応溶液が得られた。
この反応溶液をろ過した後、蒸発乾固させて、4.78g(3.23mmol)のLa5O(O−i−C3713を収率89.8%で得た。
ろ過後の残渣は、大気中に曝しても、直ちに発火することなく、安全に処理することができた。
【0035】
[比較例1]
300mlの三ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール79g、薄片状金属ランタン3.51g(25.3mmol)、塩化第二水銀0.02gを添加し、窒素気流下、オイルバスで100℃に加熱し、還流させながら12時間反応を行い、灰色の固体成分を含む反応液を得た。
この反応液から、減圧下、オイルバス温度90℃でイソプロピルアルコール38gを留去した後、トルエン43gを添加した。
これをろ過した後、蒸発乾固させて、1.09g(0.74mmol)のLa5O(O−i−C3713を収率14.6%で得た。
この合成収率は、実施例1,2に比較して低く、生産性に劣るものであった。
ろ過後の残渣は、表面が活性化した未反応金属ランタンの微粉が含まれており、大気中に曝すと、直ちに発火した。
【0036】
[比較例2]
300mlの三ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール79g、薄片状金属ランタン3.60g(25.9mmol)、塩化第二水銀0.02gを添加し、窒素気流下、オイルバスで100℃に加熱し、還流させながら12時間反応を行い、灰色の固体成分を含む反応液を得た。
室温まで冷却した後、1.0Mの水を含んだイソプロピルアルコール5.2mlを20分間かけてゆっくり滴下した。その後、オイルバス温度120℃で加熱し、還流させながら6.5時間撹拌した。
これを蒸発乾固した後、トルエンで抽出し、得られた溶液を蒸発乾固させ、1.49g(1.01mmol)のLa5O(O−i−C3713を収率19.4%で得た。
この合成収率は、実施例1,2に比較して低く、生産性に劣るものであった。
ろ過後の残渣は、大気中に曝しても直ちに発火することなく、安全に処理することができた。
【0037】
[比較例3]
300mlの三ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール39g、トルエン43g、薄片状金属ランタン4.05g(29.2mmol)、塩化第二水銀0.02gを添加し、窒素気流下、オイルバスで100℃に加熱し、35時間還流させて、灰色の固体成分を含む反応液を得た。加熱還流開始から反応が開始するまで20時間要した。
この反応液をろ過して灰色の固体成分を除去した後、ろ液を蒸発乾固させて、1.87g(1.26mmol)のLa5O(O−i−C3713を率21.7%で得た。
この合成収率は、実施例1,2に比較して低く、生産性に劣るものであった。
ろ過後の残渣には、表面が活性化した未反応金属ランタンの微粉が含まれており、大気中に曝すと、直ちに発火した。
【0038】
[比較例4]
300mlの三ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール79g、薄片状金属ランタン3.72g(26.8mmol)、塩化第二水銀0.11g、1.0Mの水を含んだイソプロピルアルコール5.4mlを添加し、窒素気流下、オイルバスで100℃に加熱し、還流させながら50時間撹拌したが、金属ランタンはイソプロピルアルコールと反応しなかった。
【0039】
[実施例3]
300mlの三ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール40g、薄片状金属イットリウム1.60g(18.0mmol)、塩化第二水銀0.02gを添加し、窒素気流下、オイルバスで100℃に加熱し、還流させながら24時間反応を行い、未反応金属イットリウムを含む反応液を得た。
この反応液に、トルエン43gを添加し、室温まで冷却した後、1.0Mの水を含んだイソプロピルアルコール3.6mlを20分かけてゆっくり滴下した。その後、オイルバス温度120℃で加熱し、還流させながら6.5時間撹拌したところ、微量の未反応金属イットリウムの沈殿を含む無色透明の反応液が得られた。
この反応液をろ過した後、蒸発乾固させて、3.45gのY5O(O−i−C3713を収率78.0%で得た。
ろ過後の残渣は、大気中に曝しても、直ちに発火することなく、安全に処理することができた。
【0040】
得られた物質について、ICP−MS分析を行ったところ、Y含量は36.9重量%(理論値36.2重量%)であり、また、Hg含量は1ppm以下であった。
また、ベンゼン凝固点降下法により分子量測定を行ったところ、1280(理論値1228.7)であった。なお、理論値との差は測定誤差範囲内である。
これらにより、得られた物質は、Y5O(O−i−C3713であると同定された。
【0041】
[実施例4]
300mlの三ツ口フラスコに、イソプロピルアルコール40g、薄片状金属エルビウム3.0g(18.0mmol)、塩化第二水銀0.03gを添加し、窒素気流下、オイルバスで100℃に加熱し、還流させながら8時間反応を行い、未反応金属エルビウムを含む反応液を得た。
この反応液にトルエン43gを添加し、室温まで冷却した後、1.0Mの水を含んだイソプロピルアルコール3.6mlを20分かけてゆっくり滴下した。その後、オイルバス温度120℃で加熱し還流させながら、6.5時間撹拌したところ、微量の未反応金属エルビウムの沈殿を含む淡紅色透明の反応液が得られた。
この反応液をろ過した後、蒸発乾固させて、4.44gのEr5O(O−i−C3713を収率76.2%で得た。
ろ過後の残渣は、大気中に曝しても、直ちに発火することなく、安全に処理することができた。
【0042】
得られた物質について、ICP−MS分析を行ったところ、Er含量は52.1重量%(理論値51.6重量%)であり、また、Hg含量は1ppm以下であった。
また、ベンゼン凝固点降下法により分子量測定を行ったところ、1680(理論値1620.4)であった。なお、理論値との差は測定誤差範囲内である。
これらにより、得られた物質は、Er5O(O−i−C3713であると同定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属とイソプロピルアルコールを反応させて得られた、固体成分と未反応希土類金属を含む反応液に、水を添加し、部分加水分解反応により、Ln5O(O−i−C3713(Lnは希土類元素を示す。)を生成させることを特徴とする希土類オキソイソプロポキシドの合成方法。
【請求項2】
希土類金属とイソプロピルアルコールを反応させて得られた、固体成分と未反応希土類金属を含有する反応液に、前記反応に用いた希土類金属に対して10〜30mol%の水を添加し、部分加水分解反応させた後、遠心分離またはろ過により前記未反応希土類金属を除去し、蒸発乾固させて、Ln5O(O−i−C3713を得ることを特徴とする希土類オキソイソプロポキシドの合成方法。
【請求項3】
イソプロピルアルコールを90重量%以上含む溶媒中で希土類金属とイソプロピルアルコールを水銀化合物触媒存在下で反応させた後、溶媒を添加または一部交換し、炭素数6〜10の芳香族炭化水素溶媒または炭素数5〜12の飽和炭化水素溶媒を25重量%以上含む溶媒中で、水を添加し、部分加水分解反応させることを特徴とする請求項1または2記載の希土類オキソイソプロポキシドの合成方法。
【請求項4】
前記炭素数6〜10の芳香族炭化水素溶媒としてトルエンを用いることを特徴とする請求項3記載の希土類オキソイソプロポキシドの合成方法。
【請求項5】
前記希土類金属が金属ランタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の希土類オキソイソプロポキシドの合成方法。

【公開番号】特開2009−203222(P2009−203222A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294115(P2008−294115)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000143411)株式会社高純度化学研究所 (18)
【Fターム(参考)】