説明

希土類添加硫化物蛍光体の製造方法

【課題】 効率的な二硫化炭素の還元硫化法を採用しつつ、この方法において使用する容器の還元硫化を防止すると共にフラックス使用時のフラックスとの反応による劣化の問題も解決できる希土類添加硫化物蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 一般式[AS:RE]で表され、Aはアルカリ土類金属元素、REは希土類元素である希土類添加硫化物蛍光体の製造方法であって、一般式[A:RE]の希土類添加酸化物、一般式[ACO3+Z:RE]の希土類添加炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩[ACO]の少なくとも1種と、希土類塩であるRE又はREFを混合した前駆体を二硫化炭素で還元硫化する工程が、前駆体とフラックスの混合物に対して実施されるもので、その混合物を入れる容器が、内側容器と外側容器から構成される2重構造を採り、且つ内側容器がグラファイト製で、外側容器と内側容器間に、不活性ガスが充填されていることを特徴とする希土類添加硫化物蛍光体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明やディスプレイ等に用いられる近紫外から青色の光で高輝度の蛍光を発する蛍光体に好適な希土類添加硫化物蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青色LEDや近紫外LEDの開発に伴い、これらのLEDと蛍光体を組み合わせて白色を得る、白色発光素子の開発が進んでいる。青色LEDを用いて白色発光素子を作成する場合は特許文献1、2、3に記載されているように青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせて白色発光素子を得るが開発されている。
しかしながら、青色とその補色とから構成された白色は、色再現性が悪く、演色性が低いため、3波長型と称される白色発光素子が開発されている。
【0003】
3波長型の白色発光素子として青色を発光する発光素子と、発光素子の青色の発光を受けて、緑色を発光する蛍光体及び赤色を発光する蛍光体を用いた白色発光素子(特許文献4を参照)が知られている。
また、青色の光で励起可能な赤色蛍光体としては、CaAlSiN:Eu(特許文献5)や(Sr、Ca)AlSiN(非特許文献1)、CaSi、SrSi(特許文献6)などの窒化物蛍光体やCaS:Eu、SrS:Euや(Ca,Sr)S:Euなどの硫化物蛍光体(特許文献7)が知られている。
【0004】
硫化物蛍光体は古くから知られており、カルシウムやストロンチウム炭酸塩や硫酸塩と酸化ユーロピウムを混合して前駆体とし、それを硫化水素中で焼成することで蛍光体を作製している。
このため、従来から赤色蛍光体の特性を向上させる試みが多くなされている。
例えば特許文献8及び特許文献9には、硫化カルシウムを母体中心とし、Euを発光中心、Mn、Li、Ce、Gd等を増感剤とした赤色蛍光体が記載されている。
【0005】
また、蛍光体の作製においてフラックスを使うことはよく知られており、硫化水素中で約1000℃の温度で硫化し、その後フラックスを添加して熱処理することが特許文献10に記載されている。また、硫化物とフラックスを混合して焼成する方法が特許文献11に記載されている。
しかしながら硫化水素を用いる硫化法では、硫化水素が有毒なだけではなく、悪臭物質であり、不安定な物質でもあるために、微量であっても、厳しい管理が要求され、製造コストや生産効率などの低下を招いてしまうなどの問題も生じている。
【0006】
これらの問題点を解決するため硫化法として二硫化炭素を用いた酸化物や炭酸塩の還元硫化法が開発された(特許文献12、非特許文献2)。
またフラックスを入れる場合は、硫化とフラックス焼成を分けて2回焼成することが知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−093146号公報
【特許文献2】特開平10−065221号公報
【特許文献3】特開平10−242513号公報
【特許文献4】特開2000−244021号公報
【特許文献5】特開2006−008721号公報
【特許文献6】特開2006−152296号公報
【特許文献7】特開昭56−82876号公報
【特許文献8】特開2002−80845号公報
【特許文献9】特開2003−41250号公報
【特許文献10】特表2005−509081号公報
【特許文献11】特開2005−146190号公報
【特許文献12】特開2009−221264号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hiromu Watanabe and Naoto Kijima,Journal of Alloys and Compounds,475,2009,p.434.
【非特許文献2】Valery Petrykin and Masato Kakihana,Journal of the American Ceramic Society,92,2009,[S1]S27−S31.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
二硫化炭素を用いて酸化物や炭酸塩を硫化する方法は、還元力が強いため硫化水素を用いた場合よりも低温、短時間で硫化できるという利点もあるが、二硫化炭素が炭素と硫黄に分解すると強い還元力のため一般に管状炉に使われている石英管やアルミナ管なども還元硫化し、発生した硫化物が蛍光体に混入するという問題がある。
また、塩化物やフッ化物を混ぜて硫化すると焼成回数が減るため効率的であるが、塩化物やフッ化物が蒸発するため石英管が失透して破損する恐れがあり、アルミナ管も塩化物と反応するという問題もある。
【0010】
本発明者らは、係る種々の技術的課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、効率的な二硫化炭素の還元硫化法を採用しつつ、この方法において炭素を材料とした容器が最適であり、炭素が酸化しないように炭素容器の周囲を不活性ガス雰囲気にすることで、容器の還元硫化を防止すると共にフラックス使用時のフラックスとの反応による劣化の問題も解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の発明は、一般式[AS:RE]で表され、Aはアルカリ土類金属元素、REは希土類元素である希土類添加硫化物蛍光体の製造方法であって、一般式[A:RE]で表される希土類添加酸化物、一般式[ACO3+Z:RE]で表される希土類添加炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩[ACO]の少なくとも1種と、希土類塩であるRE又はREFを混合した前駆体を、二硫化炭素で還元硫化する工程において、その還元硫化が、前駆体とフラックスの混合物に対して実施されるものであり、還元硫化の際にその混合物を入れる容器が、内側容器と外側容器から構成される2重構造を採り、且つ内側容器がグラファイト製で、外側容器と内側容器間に、不活性ガスが充填されていることを特徴とする希土類添加硫化物蛍光体の製造方法である。
【0012】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるフラックスが、アルカリ金属の塩化物、臭化物、フッ化物、アルカリ土類金属の塩化物、臭化物、フッ化物の中から選ばれる1種類以上であることを特徴とする希土類添加硫化物蛍光体の製造方法である。
【0013】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明におけるアルカリ土類金属元素Aが、Ca、Srから選ばれる1種類以上からなり、希土類金属元素REが、Euであることを特徴とする希土類添加硫化物蛍光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、一般式[A:RE]で表される希土類添加酸化物、一般式[ACO3+Z:RE]で表される希土類添加炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩(ACO)の少なくとも1種と、希土類塩のRE又はREFを混合した前駆体とフラックスを、二硫化炭素を含む不活性ガス中で熱処理する還元硫化工程において、反応容器を2重構造の構成とし、二硫化炭素が流れる内側容器をグラファイト製とし、内側容器と外側容器の間に不活性ガスが充填していることを特徴とする蛍光体の製造方法であり、本発明によれば反応容器が二硫化炭素やフラックスの蒸気で破損することなく、また更に有毒な硫化水素を用いることなく、しかも相純度が高く、高輝度の赤色発光蛍光体粒子を安定して得ることができるなど、生産安定性、安全性、高品質、と工業的に顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Arガスに二硫化炭素(CS)を含ませる方法の一例を示す説明図である。
【図2】使用する管状炉の炉心管の構造を示す図で、(A)は従来の炉心管、(B)は本発明の内管にグラファイト管を用いた二重管構造の炉心管を示す図で、(C)は内管にグラファイト管を持つ他の構造を有する炉心管を示す図である。
【図3】グラファイト容器を用いたボックス炉の構成の一例を示す図である。
【図4】反応式(1)より求めたCSの分解における平衡状態で生成するSの割合の変化を示す図である。
【図5】反応式(2)におけるギブスの自由エネルギー変化(ΔG)を示す図である。
【図6】反応式(3)〜(6)におけるギブスの自由エネルギー変化ΔGを計算した結果を示す図である。
【図7】反応式(3)〜(6)における平衡定数Kを計算した結果を示す図である。
【図8】反応式(3)〜(6)において、SiOの代りにAl(アルミナ)を用いた場合のギブスの自由エネルギー変化ΔGの計算結果を示す図である。
【図9】実施例1、2、5、6の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般に、還元性反応ガスを用いる化合物製造では、炉の容器は反応ガスや生成ガスと反応しない容器が使われる。
還元雰囲気では、金属性の容器を用いることもできるが、鉄やタングステン、モリブデンなど金属は硫化するものが多いため、図1に示すような方法で発生させた二硫化炭素を含む不活性ガスを流して還元硫化を行う場合、従来は図2(A)に示すように、炉心管に石英管やアルミナ管などを使う管状炉が用いられている。
【0017】
図1は二硫化炭素(気体)の発生装置を示す概略図で、1は二硫化炭素発生装置、10はウォーターバスで、適温の水11を張ったウォーターバス10に二硫化炭素{液体}を入れたビーカー12をバス内に浸して温度制御し、キャリアガスとして不活性ガス(図1ではArガス)を二硫化炭素(液体)内に吹き込み、気体の二硫化炭素を送出するものである。
図2(A)は従来から用いられている管状炉の炉心管部の概略を示す断面図で、21は従来の石英管、23は石英製摺り合わせ蓋で、石英管21内に置かれた試料に対して、二硫化炭素(CS)を含むキャリアガス(Ar)を流すものである。
【0018】
二硫化炭素を用いた酸化物や炭酸塩の還元硫化は、硫化水素を用いた場合よりも還元力が強く、低温かつ短時間で硫化することができる。
これは二硫化炭素の還元力が強いだけでなく、下記反応式(1)に示すように高温で二硫化炭素が炭素と硫黄に分解し、炭素の微粒子が原料に付着し、それが還元に寄与するためである。
【0019】
【化1】

【0020】
上記反応式(1)からギブスの自由エネルギー変化(ΔG)と平衡定数Kを、熱力学計算ソフト(「HSC chemistry ver4.1」Outotec Research Oy.製)を用いて計算し、[S(g)]/[CS(g)]を求めた結果を図4に示す。
【0021】
図4からCSは、600℃で10%、1000℃では15%以上が分解していることが分かる。この分解で硫黄(S(g))は低温部に移動して析出するが、炭素(C)は高温部に付着する。また、系内に一酸化炭素が存在すると下記反応式(2)の反応が起こる可能性がある。
【0022】
【化2】

【0023】
この反応のΔGの計算結果を図5に示す。
計算結果からCOが存在すると775℃以下でΔGが負になり、Cの生成が起きることになる。すなわち、CSによる硫化反応ではCOが生成する場合がある。その場合COが管内に残留した状態でCSを流しながら温度を下げるとCが生成する。
【0024】
実際に900℃以上で長時間CS還元硫化を行うと試料が黒くなる。この試料のXRD測定では硫化物以外の回折ピークは検出されない。またEPMAなどでは不純物が検出されない。更に大気中又は2酸化炭素中で焼成すると黒色はなくなる。
これらのことから、硫化物の黒色化は炭素が付着したためと思われる。
従って、石英管を用いてCSの還元硫化を行うと、特に繰り返し使う場合は上記理由により発生したCを考慮する必要がある。
次に、下記反応式(3)〜(6)を用いて、ギブスの自由エネルギー変化ΔGと平衡定数Kを計算した結果を図6、図7に示す。
【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
上記反応式(3)〜(6)を用いてギブスの自由エネルギー(ΔG)変化と平衡定数Kを計算した結果を図6、図7に示す。
ΔGの変化から800℃以上では上記反応式(6):「SiO+C+CS(g)=SiS+2CO(g)」の反応が最も起こりやすく、1300℃以上で値が負になる。
これは炭素が無い場合に比べて100℃低い。この場合における1000℃の平衡定数Kは、0.00247と計算された。
これから、[CO(g)]が4.8%、([CO(g)]/[CS(g)]=0.00242)以下であれば還元硫化が進行することが分かる。
【0030】
また、アルミナに関しても同様の計算を行った結果を図8に示す。
ΔGは、炭素が存在すると1200℃以上で値が負になる。これは炭素が無い場合に比べて100℃低く、固体炭素が存在すると還元硫化されやすいことが分かった。
実際に、石英管を用いてCSを流して950℃で2時間還元硫化すると管内に綿状のSiSが析出した。またアルミナを石英管中に入れてCSを流して950℃で2時間還元硫化すると表面にドーム状の突起が発生した。
これらの点から、石英管やアルミナ管は二硫化炭素を用いて800℃以上で還元硫化する製造方法には適していないことが分かる。特に950℃以上で繰り返し使用すると石英管から発生したSiSなどの異物が蛍光体に混入することがあるので好ましくない。
【0031】
そこで、高温で使用可能な材料としてはグラファイトが考えられるが、二硫化炭素を含む不活性ガスを流すには最適である。しかしグラファイトは酸素と反応して燃焼するため、容器を大気と遮断することが必要になる。
グラファイト容器を大気と遮断する方法として、グラファイト容器を内側容器とし、さらに外側(大気側)容器との2重構造にすることが有効である。
【0032】
2重構造の外側(大気側)の容器には、石英やアルミナ、または金属の容器など特に制限なく使用することができるが、外側容器とグラファイト製内側容器を接触させると、大気側の外側容器が金属製の場合では反応して炭化物を形成する恐れがあり、また酸化物製の場合では酸化物容器が還元されるおそれがある。
そのためグラファイト製内側容器と大気側の容器の間に空間があることが必要である。
但し、グラファイト製内側容器と大気側の外側容器の間に空間に酸素があるとグラファイト製内側容器が酸化するため、空間部分に酸素を含まないことが必要であり、空間部分へ不活性ガスを流すことにより達成できる。
【0033】
このような還元硫化装置の一例として、図2(B)、(C)に、グラファイト製内側容器(炉心管)を用いた管状炉の炉心管部の断面図を示し、その構造を示す。
図2(B)、(C)において、20はグラファイト管(内側容器:内側炉心管)、22は石英管(外側容器:外側炉心管)、24はカーボンシート、25は硫黄溜り、26はフランジである。
図2(B)、(C)共に、2重管構造を採り、内側容器(内側炉心管)にグラファイト管20を用い、外側容器(外側炉心管)に石英管22を使用し、内側容器と外側容器の間に、不活性ガス(図中ではArを使用)を流通させて、充填状態にしたものである。
さらに管状炉以外の炉形態として、図3に示すようなグラファイト容器を内側容器に用いたボックス炉を用いても良い。図3において、30はボックス炉、31はグラファイト容器(内側容器)、32は外側容器(石英/カーボンシートの複合体)、36はヒーターである。
【0034】
本発明の製造方法を用いることによって、一般式[AS:RE]で表され、AがCa、Srの1種類以上のアルカリ土類金属元素、REが希土類元素のEuである希土類添加硫化物蛍光体を作製することができる。
具体的には、一般式[A:RE]の希土類添加酸化物、一般式[ACO3+Z:RE]、アルカリ土類金属炭酸塩(ACO)の少なくとも1種と、希土類塩のRE又はREFを混合した前駆体を、二硫化炭素を用いて還元硫化するものである。
使用する前駆体原料として、均一に希土類元素が分布した希土類添加酸化物や希土類添加炭酸塩を使用すると低温での還元硫化が可能になる。一方、アルカリ土類金属炭酸塩(ACO)とRE或いはREFなどの希土類塩を原料として混合したものを前駆体に使用し、還元硫化しても蛍光体を製造しても良い。
【0035】
さらに、本発明の硫化物蛍光体の製造方法では、フラックスを用いた焼成が、還元硫化反応の低温化、短時間化に有効である。
用いるフラックスとしては、KClやNaCl、BaClやSrCl、CaClなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物、KBrやNaBr、BaBr、SrBr、CaBrのような臭化物、BaFやSrF、CaFのようなフッ化物などが好適に使用できる。
【0036】
本発明の硫化物蛍光体の製造方法において、フラックスを熔融させて使用するため、その熱処理温度はフラックスの融点以上、沸点以下が望ましく、さらにフラックスが蛍光体と反応して化合物を形成しないことが望ましい。これらの点から、KClやSrClなどの塩化物を使用することは特に好ましい。
なお、フラックスは融点以上で使用すると蒸発して容器と反応することがある。そのためアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物をフラックスとして用いる場合は、石英管を内側の容器として使用すると反応して失透現象が発生し、失透を放置してフラックスでの硫化を続けると石英管が破損することがある。
したがって本発明のように、内側容器にグラファイト製容器を用いる製造方法では、フラックスによる損傷は殆ど無く、生成する硫化物蛍光体に対する異物混入も認められず、また安定して繰り返し使用することができることも特徴である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例1】
【0038】
酸化ユーロピウム(フルウチ化学株式会社製 3N:Eu)0.005モル(1.9126g)を、硝酸(関東化学株式会社製 60%)に、完全に溶解させた後、その溶解液を蒸発乾固して硝酸Eu(Eu硝酸塩)を得た。この硝酸Euに蒸留水を加えて100mlに定溶してEu濃度0.1モル/リットルの水溶液を作製した。
【0039】
次に、蒸留水50mlを入れたビーカーに、炭酸ストロンチウム(関東化学株式会社製3N)2.4595gを加え、ホットスターラーの設定温度を80℃、その回転数を150rpmとして攪拌した。この攪拌状態の所に、クエン酸16gを加えて1時間攪拌し、炭酸ストロンチウムを完全に溶解させた溶液を作製した。その溶液に硝酸Eu水溶液(0.1モル/リットル)を0.56ml加え、80℃で2時間攪拌し、プロピレングリコール12.7gを加え、120℃で3時間攪拌してゲル化させた。
金属モル数(Sr+Eu):クエン酸:プロピレングリコールの比は1:5:10である。Eu濃度(Eu/(Sr+Eu))は0.2%である。
【0040】
次に、ゲル体をドラフト内に置いたマントルヒーターに入れ、450℃に加熱して、そのゲル体を熱分解して酸化物前躯体を作製した。さらに、これを乳鉢で粉砕して酸化物前駆体粉末を作製した。
得られた酸化物前駆体粉末を、750℃、2時間の焼成を行って残留有機物を焼失させた。
【0041】
得られた粉末0.3960gに、塩化カリウム(KCl)0.0442gを加え、これを乳鉢で粉砕した。これをグラファイト容器に入れ、図1に示す方法で液体の二硫化炭素中を通したAr流通下で、図2(B)に示す石英管中にグラファイト管を入れた炉心管を用いた管状炉に入れて925℃、1時間の熱処理し、還元硫化を行ない、Eu添加SrS硫化物を作製した。図2(B)において、20は内側炉心管(グラファイト管)、22は外側炉心管(石英管)、24はカーボンシートである。
Ar流量は、熱処理開始から10分間は50ml/min、その後温度が460℃に達するまで10ml/min、460℃から925℃に達するまで20ml/min、925℃の1時間の熱処理中と熱処理を終えて炉の温度が40℃になるまで、計4時間20分の間流量を10ml/minにした。
【実施例2】
【0042】
蒸留水100mlを入れたビーカーに炭酸カルシウム(関東化学株式会社製 3N)2.7678gを加え、ホットスターラーの設定温度を80℃,回転数150rpmで攪拌した。この攪拌状態のところにクエン酸31.878gを加えて1時間攪拌し、炭酸カルシウムを完全に溶解した溶液を作製した。これに硝酸Eu水溶液(0.1モル/リットル)を0.277ml加え、80℃で2時間攪拌した。これにプロピレングリコール21.06gを加え、120℃で3時間攪拌してゲル化させた。
金属モル数(Ca+Eu):クエン酸:プロピレングリコールの比は1:6:10である。Eu濃度(Eu/(Ca+Eu))は0.2%である。
【0043】
次に、そのゲル体をドラフト内に置いたマントルヒーターに入れ、450℃に加熱して、そのゲル体を熱分解して酸化物前躯体を作製した。さらに、これを乳鉢で粉砕して酸化物前駆体粉末を作製し、得られた酸化物前駆体粉末を、750℃、2時間の焼成を行って残留有機物を焼失させた。その得られた粉末0.3071gに、塩化カリウム(KCl)0.0382gを加え、これを乳鉢で粉砕した。
この粉砕したものを実施例1と同じ条件で、還元硫化してEu添加CaS硫化物を作製した。
【実施例3】
【0044】
実施例1の還元硫化の最高保持温度を950℃にした以外は、実施例1と同じ方法で、Eu添加SrS硫化物を作製した。
【実施例4】
【0045】
実施例2の還元硫化の最高保持温度を950℃にした以外は、実施例2と同じ方法で、Eu添加CaS硫化物を作製した。
【実施例5】
【0046】
実施例2の還元硫化の最高保持温度を950℃にし、SrとCaの比が85:15になるように炭酸Srと炭酸Caを加えた以外は、実施例2と同じ方法でEu添加(Sr、Ca)S硫化物を作製した。
【実施例6】
【0047】
実施例2の還元硫化の最高保持温度を950℃にし、SrとCaの比が50:50になるように炭酸Srと炭酸Caを加えた以外は、実施例2と同じ方法でEu添加(Sr、Ca)S硫化物を作製した。
【実施例7】
【0048】
フラックスを塩化ストロンチウムに変えた以外は、実施例5と同じ方法でEu添加(Sr、Ca)S硫化物を作製した。
【実施例8】
【0049】
フラックスを塩化ストロンチウムに変えた以外は、実施例6と同じ方法でEu添加(Sr、Ca)S硫化物を作製した。
【実施例9】
【0050】
炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウムと酸化ユーロピウムの粉末を0.499:0.499:0.002のモル比になるように秤量し、メノウの乳鉢で混合した。
この混合粉末に対して塩化カリウムを15重量%加えて更に混合して原料粉末とし、これをグラファイト容器に入れ実施例1と同様の方法でEu添加(Sr、Ca)S硫化物を作製した。
【0051】
(比較例1)
塩化カリウムを加えない以外は、実施例1と同じ方法でEu添加SrS硫化物を作製した。
【0052】
(比較例2)
塩化カリウムを加えない以外は、実施例2と同じ方法でEu添加CaS硫化物を作製した。
【0053】
(比較例3)
塩化カリウムを加えず、還元硫化の最高保持温度を800℃にした以外は、実施例1と同じ方法でEu添加SrS硫化物を作製した。
【0054】
(比較例4)
塩化カリウムを加えず、硫化の最高保持温度を800℃にした以外は、実施例2と同じ方法でEu添加CaS硫化物を作製した。
【0055】
(従来例1)
実施例1のグラファイト管の替りに合成石英製の管を用いた以外は、実施例1と同じ方法でEu添加SrS硫化物を作製した。
還元硫化後に、綿状の物質が石英管に付着していた。
【0056】
(従来例2)
実施例2のグラファイト管の替りに合成石英製の管を用いた以外は、実施例2と同じ方法でEu添加CaS硫化物を作製した。
還元硫化後に綿状の物質が石英管に付着し、硫化試料ブラックライトを照射すると表面が緑に発光した。この発光は試料を乳鉢で粉砕したものでは見えなかった。
【0057】
(従来例3)
実施例1のグラファイト容器の替りにアルミナ容器を用いた以外は、実施例1と同じ方法でEu添加SrS硫化物を作製した。
硫化後にアルミナ容器の変色が発生し、ブラックライトを照射すると変色部が緑に発光した。またアルミナ容器を繰り返し使用すると表面に凹凸が発生した。
【0058】
また、従来例1で合成石英製の管を用いて塩化カリウムを加えた焼成試験を行うと3回の硫化試験後に管の内部に曇りが生じ、さらに還元硫化を行うと石英管からザラメ状の石英が剥離した。
【0059】
(従来例4)
実施例1のグラファイト管の替りに合成石英製の管を用いた以外は、実施例2と同じ方法でEu添加CaS硫化物を作製した。
還元硫化後に、綿状の物質が石英管に付着していた。
【0060】
作製した試料を以下の項目を測定して評価した。
【0061】
[輝度の評価]
輝度の評価は、LED用の黄色蛍光体として良く知られているYAG:Ce(P61:化成オプト製)を基準物として用い、実施例1から実施例9、比較例1から比較例4、及び従来例1から従来例4で作製したEu添加硫化物蛍光体とを比較して行った。
それぞれ発光スペクトルを測定し、ピーク強度、発光波長を比較した結果を、まとめて表1に示す。
測定した実施例1、2、5、6の発光スペクトルを図9に示す。
【0062】
本発明の製造方法により作製した実施例1から実施例9と、製造条件が満たされていなかった比較例1から比較例4のピーク強度を比較すると、還元硫化温度が900℃以上で、フラックスとしてKClを加えることで、輝度が大幅に向上し、YAG:Ceと同等以上であることが分かる。
比較例2のEu添加CaSでは、試料が黒くなったことも輝度低下の原因と思われる。800℃では試料の黒化が無いためEu添加CaSの輝度は、向上したが温度が不足して結晶性が十分ではない。Eu添加SrSはKClを加えないと輝度が不足している。
【0063】
従来例1から従来例4では、石英管やアルミナ容器と硫化物が反応した従来例2、従来例3の輝度が著しく低くなった。
反応しなかった従来例1や従来例4では輝度は比較的高いが、SiSと推定される異物が生成し、蛍光体への混入の恐れがあり、またこの条件で硫化を繰り返し行うと石英管が破損することが分かり、品質的にも安全面でも問題がある。
【0064】
【表1】

【符号の説明】
【0065】
1 二硫化炭素発生装置
10 ウォーターバス
11 水
12 ビーカー
20 グラファイト管
21 石英管(従来の単管炉心管)
22 石英管(外側容器)
23 石英製摺り合わせ蓋
24 カーボンシート
25 硫黄溜り
26 フランジ
30 ボックス炉
31 グラファイト容器(内側容器)
32 外側容器(石英/カーボンシートの複合体)
36 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式 [AS:RE]で表され、Aはアルカリ土類金属元素、REは希土類元素である希土類添加硫化物蛍光体の製造方法であって、
一般式[A:RE]で表される希土類添加酸化物、一般式[ACO3+Z:RE]で表される希土類添加炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩[ACO]の少なくとも1種と、希土類塩であるRE又はREFを混合した前駆体を、
二硫化炭素で還元硫化する工程において、
前記還元硫化が、前記前駆体とフラックスの混合物に対して実施されるものであり、
前記還元硫化の際に前記混合物を入れる容器が、内側容器と外側容器から構成される2重構造を採り、且つ内側容器がグラファイト製で、外側容器と内側容器間に、不活性ガスが充填されていることを特徴とする希土類添加硫化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記フラックスが、アルカリ金属の塩化物、臭化物、フッ化物、アルカリ土類金属の塩化物、臭化物、フッ化物の中から選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の希土類添加硫化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属元素Aが、Ca、Srから選ばれる1種類以上からなり、
前記希土類金属元素REが、Euである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の希土類添加硫化物蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−112739(P2013−112739A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259767(P2011−259767)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】