説明

希土類金属の回収方法および回収装置

【課題】精製濃縮時に有機溶媒やイオン交換樹脂を使用せず、かつ、電解槽内の電極の交換を必要としない高効率の希土類金属の回収方法および回収装置を提供する。
【解決手段】回収対象の複数種類の希土類金属の各々について、それぞれ融点が異なる金属との合金を生成し当該合金を希土類合金陰極3、4として電解槽1内の複数の陰極容器5a、5bにそれぞれ収納する第1の工程と、回収対象の複数種類の希土類金属を含む溶液にシュウ酸を加え複数種類のシュウ酸塩沈殿物を生成する第2の工程と、前記シュウ酸塩沈殿物を加熱乾燥させ複数種類の希土類酸化物を得る第3の工程と、前記複数種類の希土類酸化物を電解槽1内の溶融塩2と混合溶解させる第4の工程と、融点の低い順に希土類合金陰極を液体化し溶融塩電解により溶融塩中の希土類金属を希土類合金陰極3、4に順次回収する第5の工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類金属を効率的に回収することができる希土類金属の回収方法および回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石やダイオード等の原料として、Nd(ネオジム)やDy(ディスプロシウム)、Ce(セリウム)、Gd(ガドリニウム)等の希土類金属の需要が高まっている。これらは、一般的にバストネサイトやイオン吸着鉱等の鉱石に含まれている。
【0003】
従来の湿式分離法を用いた希土類金属の回収方法では、回収対象の希土類を含む溶液にシュウ酸等を添加してシュウ酸塩沈殿物を生成し、次に沈殿物を加熱乾燥して希土類金属の酸化物を生成した後、溶媒抽出法やイオン交換法等の湿式分離法による精製濃縮を行うことにより、希土類金属を回収していた。
【0004】
また、溶融塩電解法を用いた希土類金属の回収方法も知られている(特許文献1、2)。この溶融塩電解法を用いた希土類金属の回収装置および回収方法について、NdとDyの回収を例として、図5及び図6を用いて説明する。
【0005】
従来の溶融塩電解法による回収装置は、図5に示すように、フッ化リチウム等の溶融塩2が収容された電解槽1と、電源7に接続されたFe固体陰極15及び陽極16と、Fe固体陰極15上に析出したNd、Dyを液体金属として回収する液体合金保持容器17とから構成される。
【0006】
Nd、Dyの回収は、図6に示すように、まず、Nd、Dyを含む溶液を溶媒抽出工程でNd溶液とDy溶液に分離し(S1)、分離したNd溶液にシュウ酸を添加してシュウ酸塩沈殿物を生成し(S2)、次に800〜1000℃で加熱乾燥することで希土類酸化物(Nd23、Dy23)を生成し(S3)、得られた希土類酸化物を電解槽1内のフッ化物溶融塩からなる溶融塩2と混合溶解し(S4)、溶融塩電解法によりFe固体陰極15上に希土類金属が還元析出する(S5)。このFe陰極表面に還元析出した希土類金属は鉄陰極とNd−Fe液体合金をつくり滴下し、これを電解槽底部に設置した液体合金保持容器17に回収する。
【0007】
一方、S1の溶媒抽出行程で分離したDy溶液についても、同様にシュウ酸塩沈殿物の生成(S2)、加熱乾燥(S3)を経て希土類酸化物(Dy23)を生成し、別途用意した電解槽1内の溶融塩2と混合溶解し、溶融塩電解を行って最終的にDy−Fe液体金属を液体合金保持容器17に回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−87888号公報
【特許文献2】特開平03−140490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の精製濃縮時に溶媒抽出法やイオン交換法を用いる湿式分離法は大型の専用設備や多量の薬剤を使用する必要があり、そのため設備費、薬剤コストが高く、また大量の廃棄物が発生するという課題があった。
【0010】
また、従来の溶融塩電解法では鉄陰極がNd−Fe、Dy−Fe液体合金となって消耗するため、電極の交換が必要となるという課題があった。また、回収対象の希土類金属の種別に応じて複数の電解槽を用意する必要があり、大型の設備及び多量の溶融塩等を必要としていた。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、精製濃縮時に有機溶媒やイオン交換樹脂を使用せず、かつ、電解槽内の電極の交換を必要としない高効率の希土類金属の回収方法および回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る希土類金属の回収方法は、回収対象の複数種類の希土類金属の各々について、それぞれ融点が異なる金属との合金を生成し当該合金を希土類合金陰極として電解槽内の複数の陰極容器にそれぞれ収納する第1の工程と、回収対象の複数種類の希土類金属を含む溶液にシュウ酸を加え複数種類のシュウ酸塩沈殿物を生成する第2の工程と、前記シュウ酸塩沈殿物を加熱乾燥し複数種類の希土類酸化物を得る第3の工程と、前記複数種類の希土類酸化物を電解槽内の溶融塩と混合溶解する第4の工程と、融点の低い順に希土類合金陰極を液体化し溶融塩電解により溶融塩中の希土類金属を希土類合金陰極に順次回収する第5の工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る希土類金属の回収装置は、溶融塩が満たされ回収対象の複数の希土類金属の酸化物又はハロゲン化物が混合溶解される電解槽と、前記電解槽内に配置された複数の陰極容器と、前記陰極容器内に収容されそれぞれ融点が異なる複数の希土類合金陰極と、前記複数の希土類合金陰極に電源および切換スイッチを介して接続される陽極と、前記溶融塩の温度を制御する加熱装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、精製濃縮時に有機溶媒やイオン交換樹脂を使用せず、かつ、電解槽内の電極の交換を必要としない高効率の希土類金属の回収方法および回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態に係る希土類金属回収装置の全体構成図。
【図2】第1の実施形態に係る希土類金属回収方法のフロー図。
【図3】第2の実施形態に係る希土類金属回収装置の全体構成図。
【図4】第2の実施形態に係る希土類金属回収方法のフロー図。
【図5】従来の希土類金属回収装置の全体構成図。
【図6】従来の希土類金属回収方法のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る希土類金属の回収方法および回収装置の実施形態について図を用いて説明する。なお、以下の説明において、回収対象の希土類金属としてNdとDyを例に説明するが、これに限定されず、他の希土類金属の回収に適用できることはもちろんである。
【0017】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る希土類金属の回収方法および回収装置について図1及び図2を用いて説明する。
【0018】
(構成)
本第1の実施形態に係る回収装置は、溶融塩2が収容されている電解槽1と、電解槽1内に配置された陽極6と、Nd−Fe希土類合金陰極3とDy−Ni希土類合金陰極4と、各希土類合金陰極3、4を収納する陰極容器5a、5bと、電源7をNd−Fe希土類合金陰極3又はDy−Ni希土類合金陰極4に切換可能に接続する切替スイッチ8と、電解槽1の周囲に設けられ溶融塩2を加熱制御する加熱装置9と、から構成される。
【0019】
陽極6の材料として炭素等の材料が用いられ、陰極容器5a、5bの材料としてMo、Ta、W、C等が用いられる。また、溶融塩2として、LiF、CaF、BaF、LiCl、CaCl等が用いられる。
【0020】
また、Nd−Fe希土類合金陰極3のNd成分を70〜90%mol、Dy−Ni希土類合金陰極4のDy成分を25〜30%molとし、これによりNd−Fe合金とDy−Ni合金の融点は、それぞれ700〜800℃、800〜900℃に設定されている。
なお、希土類合金陰極としてNd−Fe合金以外にNd−Al合金を用いてもよく、また、希土類合金陰極としてDy−Ni合金以外にDy−Al合金、Dy−Fe合金を用いてもよい。
【0021】
(作用)
このように構成された回収装置を用いたNd、Dyの回収方法を、図2を用いて説明する。
まず、回収対象の複数の希土類金属(本例では、Nd、Dy)を含む溶液にシュウ酸を添加し、シュウ酸塩沈殿物を生成する(S10)。
【0022】
次に、上記シュウ酸塩沈殿物を加熱乾燥し(S11)、希土類酸化物(Nd23、Dy23)を生成し、電解槽1内の溶融塩2と混合溶解させる(S12)。
その際、溶融塩2の温度は加熱装置9により700〜800℃に制御され、上述したNd−Fe合金およびDy−Ni合金の融点の相違により、陰極容器5a内のNd−Fe合金は液体化される一方、Dy−Ni合金は固体のままである。
【0023】
この状態で溶融塩電解をおこなうと、Nd−Fe希土類合金陰極3では式(1)で示す反応が起こる(S13)。
Nd3+ + 3e= Nd ・・・(1)
【0024】
このように、溶融塩中のNdイオンが液体状のNd−Fe希土類合金陰極3に取り込まれると同時にFeと結合し液体状のNd−Fe合金となる(S14)。
その際、Nd−Fe希土類合金陰極3の電位を標準水素電極単位(SHE)で−2.25〜−2.30Vとすることにより、NdをNd−Fe合金として効率よく回収することができる。
【0025】
Ndの回収後、次に切替スイッチ8により、電源をDy−Ni希土類合金陰極4に接続し(S15)、溶融塩温度を800〜900℃に制御し、これにより陰極容器5b内のDy−Ni合金が液体化される。この状態で溶融塩電解をおこなうと、Dy−Ni希土類合金陰極4では式(2)に示す反応が生じ、DyがDy−Ni合金として回収される(S16、S17)。
Dy3+ + 3e = Dy・・・(2)
【0026】
なお、上記S10の沈殿工程ではシュウ酸を用いているが、シュウ酸の替わりにハロゲン酸を用いてもよく、その際はハロゲン化物沈殿物が生成し、加熱乾燥後は希土類ハロゲン化物(Nd23、Dy23)が得られ、最終的に図2の工程と同様にNd、Dyは陰極容器5a、5bに回収される。
【0027】
(効果)
このように、本実施形態では、従来のように溶融塩電解の前に希土類金属を分離して個別に電解回収する必要がなく、複数の希土類金属を混合溶解した状態で一つの電解槽で分離回収することができる。また、電解時には液体状態となる希土類合金陰極を用いたことにより電極の交換をおこなう必要がない。
【0028】
なお、溶融塩電解の進行にともない、Nd−Fe希土類合金陰極およびDy−Ni希土類合金陰極のFe、Ni成分が減少していくが、適宜、Fe、Ni成分を補充することによりNd−Fe希土類合金陰極およびDy−Ni希土類合金陰極の組成を所定の範囲に維持する。
【0029】
以上説明したように、本第1の実施形態によれば一つの電解槽で複数の希土類を効率的に分離回収することができるとともに、電極の交換を必要としないメンテナンスの容易な希土類金属の回収方法および回収装置を提供することができる。
【0030】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る希土類金属の回収方法および回収装置について、図3及び図4を用いて説明する。
本第2の実施形態は、上記第1の実施形態の回収方法及び回収装置にNd金属とDy金属を電解精製する工程および装置を付加したものである。
【0031】
本実施形態の回収装置は、図3に示すように、Nd−Fe希土類合金陰極3は切換スイッチ11a、電源12を介して固体陰極10aに接続される。また、Dy−Ni希土類合金陰極4は、同様に切換スイッチ11b、電源12を介して固体陰極10bに接続される。
【0032】
固体陰極10a、10bとしてMo、Ta、W、C等が用いられる。なお、電解精製時には、Nd−Fe希土類合金陰極およびDy−Ni希土類合金陰極は陽極として機能する。
【0033】
このように構成された回収装置において、Ndの電解精製時には、切換スイッチ11aをオンにすることにより、固体容器5aに回収されたNd−Fe合金のNd成分は固体陰極10aに析出し回収される(S19)。その際、溶融塩温度は、Nd−Fe合金が液体状態となる700〜800℃に制御される。
【0034】
一方、Dyの電解精製時には、溶融塩温度は、Dy−Ni合金が液体状態となる800〜900℃に制御され、切換スイッチ11bをオンにすることにより、固体容器5bに回収されたDy−Ni合金のDy成分は固体陰極10bに析出し回収される(S18)。
【0035】
なお、電解精製時には切換スイッチ8はオフにされ、また、切換スイッチ11aと11bは一方がオンのときは他方はオフとされる。
本第2の実施形態によれば、一つの電解槽内で対象とする希土類金属を分離回収及び精製回収をおこなうことができる。
【0036】
上記第1及び第2の実施形態ではNdおよびDyの分離回収及び精製回収を例に説明したが、融点の異なる希土類−金属合金を陰極として用いることにより他の希土類金属の分離回収にも適用できる。さらに、回収対象の希土類金属が3種類以上ある場合、それぞれ融点の異なる希土類合金を陰極として用い、複数の希土類金属を順次回収することが可能である。その際、希土類合金の融点は当該希土類の成分比及び結合される金属の種類等を適宜選択することにより調整される。
さらに、精製回収についても固体陰極の数を増やすことにより3種類以上の希土類金属の回収にも適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1…電解槽、2…溶融塩、3…Nd−Fe希土類合金陰極、4…Dy−Ni希土類合金陰極、5a、5b…陰極容器、6…陽極、7…電源、8切換スイッチ…、9…加熱装置、10a,10b…固体陰極、11a,11b…切換スイッチ、12…電源、15…Fe固体陰極、16…陽極、17…液体金属保持容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収対象の複数種類の希土類金属の各々について、それぞれ融点が異なる金属との合金を生成し当該合金を希土類合金陰極として電解槽内の複数の陰極容器にそれぞれ収納する第1の工程と、回収対象の複数種類の希土類金属を含む溶液にシュウ酸を加え複数種類のシュウ酸塩沈殿物を生成する第2の工程と、前記シュウ酸塩沈殿物を加熱乾燥させ複数種類の希土類酸化物を得る第3の工程と、前記複数種類の希土類酸化物を電解槽内の溶融塩と混合溶解させる第4の工程と、融点の低い順に希土類合金陰極を液体化し溶融塩電解により溶融塩中の希土類金属を希土類合金陰極に順次回収する第5の工程と、を有することを特徴とする希土類金属の回収方法。
【請求項2】
前記第2の工程においてシュウ酸の替わりにハロゲン酸を用いることを特徴とする請求項1記載の希土類金属の回収方法。
【請求項3】
前記希土類合金陰極を陽極とし、当該希土類合金陰極に回収された希土類金属を前記電解槽内に配置された固体陰極に精製回収する第6の工程を有することを特徴とする請求項1又は2記載の希土類金属の回収方法。
【請求項4】
回収対象の希土類金属はNdおよびDyであり、希土類合金陰極はNd−Fe希土類合金陰極およびDy−Ni希土類合金陰極であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の希土類金属の回収方法。
【請求項5】
前記Nd−Fe希土類合金陰極中のNd成分およびDy−Ni希土類合金陰中のDy成分が、それぞれ70〜90mol%および25〜30mol%であることを特徴とする請求項4記載の希土類金属の回収方法。
【請求項6】
溶融塩が収容され回収対象の複数の希土類金属の酸化物又はハロゲン化物が混合溶解される電解槽と、前記電解槽内に配置された複数の陰極容器と、前記陰極容器内に収容されそれぞれ融点が異なる複数の希土類合金陰極と、前記複数の希土類合金陰極に電源および切換スイッチを介して接続される陽極と、前記溶融塩の温度を制御する加熱装置と、を有することを特徴とする希土類金属の回収装置。
【請求項7】
前記複数の希土類合金陰極のそれぞれを、切換スイッチおよび電源を介して固体陰極に接続したことを特徴とする請求項6記載の希土類金属の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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