説明

希土類金属錯体並びにそれを用いた波長変換材料

【課題】発光量子収率に優れ、発光波長に特徴を持ち、しかも安価な原料から製造することができる希土類金属錯体およびその製造方法、並びに該希土類金属錯体を用いた波長変換材料を提供する。
【解決手段】同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子が、中心金属である希土類金属に三座配位していることを特徴とする希土類金属錯体。この希土類金属錯体を含むことを特徴とする波長変換材料。同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子を先に中心金属に三座配位させ、その後に別の配位子を配位させることを特徴とする希土類金属錯体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換効率に優れ、発光波長に特徴を持つ希土類金属錯体およびその製造方法、並びに該希土類金属錯体を用いた波長変換材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類金属錯体は、非常にシャープな狭帯域発光を示すため、蛍光プローブ、エレクトロニクス材料、レーザー用色素、バイオイメージング、センサー、照明などの発光部材として期待されている。狭帯域発光材料としては無機蛍光体も知られているが、希土類金属錯体よりなる蛍光体は無機蛍光体に比べて製造コストが抑えられる上、励起光の吸収効率が高く、励起光を外に逃がしにくいという特徴がある。さらに有機溶剤への溶解性、媒体への分散性に優れるといった利点も多い。
【0003】
強発光希土類金属錯体において、配位子の選択は非常に重要である。これらの錯体においてトリフェニルホスフィンオキシドは良く使われる配位子であるが、さらに発光量子収率と耐久性の向上を目指すものとして、ホスフィンオキシド二座配位子が報告されている(特許文献1,2参照)。
【0004】
しかしながら、これらの錯体においては、スペクトルの形状がいびつで色純度が悪いこと、発光量子収率の高いEu錯体においては、発光極大波長が約610nmとオレンジがかった赤であるために、ディスプレイ用途には不十分であるという問題点があった。また、ホスフィンオキシド二座配位子は原料が高価であるという欠点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−81986号公報
【特許文献2】特開2005−15564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発光量子収率に優れ、発光波長に特徴を持ち、しかも安価な原料から製造することができる希土類金属錯体およびその製造方法、並びに該希土類金属錯体を用いた波長変換材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討の結果、同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子が、中心金属である希土類金属に三座配位している希土類金属錯体が、発光量子収率に優れ、更に、従来中心金属の種類によってほぼ固有と思われていた発光波長を、長波長化できることを見出し、本発明に至った。通常、希土類金属錯体は中心金属の発光準位が決まっているため、発光波長を制御することは極めて困難であるが、本発明の希土類金属錯体であれば、中心金属によらず発光波長を制御することができ、発光波長の長波長化が可能である。
【0008】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] 同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子が、中心金属である希土類金属に三座配位していることを特徴とする希土類金属錯体。
【0010】
[2] 前記同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子の構造が、下記一般式(I)または(II)で示されることを特徴とする[1]に記載の希土類金属錯体。
【0011】
【化1】

【0012】
[式(I)において、
AはC,N,Si,Pのいずれかであり、AがCまたはSiである場合、CまたはSiは更に置換基を有していてもよい。
また、X,Y,Zは、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい複素環基、あるいはこれらの組合せを表し、
11〜R16は、それぞれ独立に、任意の置換基を表す。]
【0013】
【化2】

【0014】
[式(II)において、
,Yは、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい複素環基、あるいはこれらの組合せを表し、
21〜R25は、それぞれ独立に、任意の置換基を表す。]
【0015】
[3] 前記希土類金属がEu,Tb,Er,Yb,Nd,Smのいずれかであることを特徴とする[1]または[2]に記載の希土類金属錯体
【0016】
[4] [1]ないし[3]のいずれか1項に記載の希土類金属錯体を含むことを特徴とする波長変換材料。
【0017】
[5] 同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子を先に中心金属に三座配位させ、その後に別の配位子を配位させることを特徴とする希土類金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の希土類金属錯体は、従来の希土類金属錯体よりも長波長の発光を示す。即ち前述の如く、通常、希土類金属錯体は中心金属の発光準位が決まっているため、発光波長を制御することは極めて困難であったが、本発明の希土類金属錯体であれば、中心金属によらず発光波長を制御することもでき、発光波長の長波長化が可能である。従って、本発明の希土類金属錯体をディスプレイ用蛍光体として使用した場合、より深い赤色に発光し、幅広い色再現が可能となる。しかも、本発明の希土類金属錯体は、可視光光源を用いて励起させることにより、従来の錯体と遜色のない高輝度な発光を示す。
このため、このような希土類金属錯体を用いた本発明の波長変換材料は、可視光発光ダイオードを用いた青色発光装置および発光方法に有効に利用することができ、有機蛍光体本来の特長、即ち、製造コストの低減、低比重であることによる媒体への高分散性や有機溶剤への溶解性を確保した上で、可視光発光ダイオード励起による高効率発光を図ることができる。
【0019】
このような本発明の波長変換材料は、単色発光装置として利用されるだけでなく、RGBの組合せによる白色発光装置として用いることが可能であり、該発光装置を用いることにより、イルミネーション、液晶用バックライト、自動車用ヘッドライト、一般照明などへの応用が期待できる。
【0020】
また、本発明の波長変換材料は、近紫外光(NUV)の吸収効率が高く、NUVを外部に漏らさないので、NUVLED用液晶バックライトに使用した場合、液晶の保護にも役立つ。また、本発明の波長変換材料をNUVカットフィルム、シートとして利用することもできる。これらを有機ELと組み合わせ、有機EL用の色変換材料としても使用可能である。
【0021】
なお、本発明で用いる同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子は、安価な出発原料を用いて、様々な合成経路を経て製造することができるため、従来のホスフィンオキシド二座配位子よりも安価に、工業的に有利に製造することができる点においても、本発明の希土類金属錯体の工業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1のユーロピウム錯体:Eu(hfa−H)(TP=O)と、比較例1のユーロピウム錯体:Eu(hfa−H)(BIPHEPO)の465nm励起での発光スペクトルを示すチャートである。
【図2】実施例4のユーロピウム錯体:Eu(hfa−H)(HTrisO)の単結晶構造を示すORTEP図である。
【図3】実施例5において評価した、硝酸イオン添加によるユーロピウム錯体の発光量子収率の変化を示す発光スペクトルチャートである。
【図4】実施例7において評価した、溶媒の種類によるユーロピウム錯体の発光スペクトルの差異を示すチャートである。
【図5】実施例8において評価した、溶媒の種類によるユーロピウム錯体の発光スペクトルの差異を示すチャートである。
【図6】実施例9における、ユーロピウム錯体の単結晶のX線構造解析結果を示すORTEP図である。
【図7】実施例9における、ユーロピウム錯体の単結晶の顕微発光スペクトルを示すチャートである。
【図8】(a)図は実施例4においてクロロホルム/ヘキサンにて再結晶して得られたユーロピウム錯体の配位構造を示すORTEP図であり、(b)図は実施例9において、アセトン/水で再結晶して得られたユーロピウム錯体の配位構造を示すORTEP図である。
【図9】実施例10における、ユーロピウム錯体の水素結合性分子(アセトン)存在下での発光スペクトルの変化を示すチャートである。
【図10】実施例10における、ユーロピウム錯体の水素結合性分子(アセトニトリル)存在下での発光スペクトルの変化を示すチャートである。
【図11】実施例10における、ユーロピウム錯体の水素結合性分子(メタノール)存在下での発光スペクトルの変化を示すチャートである。
【図12】実施例10における、ユーロピウム錯体の水素結合性分子(ピリジン)存在下での発光スペクトルの変化を示すチャートである。
【図13】実施例10における、ユーロピウム錯体の水素結合性分子(DMSO)存在下での発光スペクトルの変化を示すチャートである。
【図14】実施例11における、ユーロピウム錯体の発光スペクトルの温度依存性(アセトン中)を示すチャートである。
【図15】実施例12における、ユーロピウム錯体の発光スペクトルの温度依存性(ジクロロメタン/アセトン中)を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
1.希土類金属錯体
本発明の希土類金属錯体は、同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子(以下、「3座配位子」と称す場合がある。)が、中心金属である希土類金属に三座配位していることを特徴とする。
本発明において、「置換基を有していてもよい」とは置換基を1以上有していてもよいことをいう。
【0025】
1−1.3座配位子
3座配位子としては、同一分子内に3つ以上のホスフィンオキシドを有し、このうちの3つのホスフィンオキシドが中心金属である希土類金属に三座配位することが可能なものであれば特に制限されない。3座配位子は中心金属に対して1つだけ配位していてもよいし、中心金属の種類に応じて可能な範囲で複数配位していてもよい。また、中心金属に対して3座配位子が複数配位している場合、この複数の3座配位子は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0026】
このような3座配位子としては、例えば下記一般式(I)または(II)で示される化合物が挙げられる。
【0027】
【化3】

【0028】
[式(I)において、
AはC,N,Si,Pのいずれかであり、AがCまたはSiである場合、CまたはSiは更に置換基を有していてもよい。
また、X,Y,Zは、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい複素環基、あるいはこれらの組合せを表し、
11〜R16は、それぞれ独立に、任意の置換基を表す。]
【0029】
【化4】

【0030】
[式(II)において、
,Yは、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい複素環基、あるいはこれらの組合せを表し、
21〜R25は、それぞれ独立に、任意の置換基を表す。]
【0031】
1−1−1.一般式(I)で示される化合物について
<Aについて>
一般式(I)において、Aは3以上のホスフィンオキシドを連結することが可能な元素であればよく、具体的にはC,N,Si,Pのいずれかである。
AがCまたはSiである場合、CまたはSiは更に置換基を有していてもよい。
【0032】
CまたはSiが更に有していてもよい置換基としては、重水素原子;メチル、エチル、プロピル、ブチル等の直鎖状または分岐状のアルキル基;トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル等の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基;シクロヘキシル等のシクロアルキル基;エチニル基;フェニルエチニル、ピリジルエチニル、チエニルエチニル等のアリールエチニル基;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基;フェニル、ナフチル、アントリル等のアリール基;ベンジル、フェネチル等のアラルキル基;フェノキシ、ナフトキシ、ビフェニルオキシ等のアリールオキシ基;ヒドロキシル基;アリル基;アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、トルオイル、ビフェニルカルボニル等のアシル基;アセトキシ、プロピオニルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等のアリールオキシカルボニル基;カルボキシル基;カルバモイル基;アミノ基;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、アセチルメチルアミノ等の置換アミノ基;メチルチオ、エチルチオ、フェニルチオ、ベンジルチオ等の置換チオ基;メルカプト基;エチルスルフォニル、フェニルスルフォニル基等の置換スルフォニル基;シアノ基;ニトロ基;フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード等のハロゲン基;フラン、ピロール、チオフェン、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピリジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、クマリン、ベンゾピラン、カルバゾール、キサンテン、キノリン、トリアジン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、クロマン、ピラゾリン、ピラゾン、クロモン(フラボン)等の環からなる複素環基などが挙げられる。
【0033】
これらの中でも3座配位を妨げず、各種溶媒への溶解性、結晶性の点から、分子量350以下であるものが好ましく、具体的には炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜13のヘテロアリール基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアリールオキシ基、炭素数7〜22、好ましくは7〜12のアラルキル基、エチニル基、ハロゲン基が好ましい。尚、置換基はこれらに限定するものでは無い。またこれらの置換基はさらに置換基を有することがある。さらに有していてもよい置換基としては、例えば上記と同様のものが挙げられる。
【0034】
<X,Y,Zについて>
一般式(I)において、X,Y,Zはそれぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい複素環基、あるいはこれらの組合せを表す。X,Y,Zは互いに同一でも異なっていてもよいが、三座配位が可能であるためにはX〜Zは各々の分子長が大きく異ならないことが好ましい。
【0035】
,Y,Zのアルキレン基としては、炭素数1〜6のものが好ましく、アルキレン基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよい。具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、iso−ブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、ヘキシレン基などの炭素数が1〜6の直鎖又は分岐状の鎖状アルキレン基、シクロプロピレン基、シクロヘキシレン基などの炭素数が3〜6のシクロアルキレン基などが挙げられる。
【0036】
,Y,Zのアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、アントラセニレン基、フェナントリレン基などの炭素数が通常6〜18、好ましくは6〜10のアリーレン基が挙げられ、中でもフェニレン基が好ましい。
【0037】
,Y,Zの複素環基としては、5〜6員環の単環または2〜6縮合環由来のものが好ましく、該複素環が有するヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられる。これらの複素環基は環上にケトン構造を有する場合を含む。複素環基を構成する複素環の具体例としては、フラン、ピロール、チオフェン、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾリンなどの5員環、ピリジン、ピラン、トリアジンなどの6員環、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、クマリン、ベンゾピラン、カルバゾール、キサンテン、キノリン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、クロマン、クロモンなどの5または6員環の2〜6縮合環が挙げられる。
【0038】
なお、上記アルキレン基、アリーレン基、複素環基は更に置換基を有していてもよい。
このような置換基の例としては、上記AがCまたはSiであるときに有していてもよい置換基の具体例が挙げられる。
前記例示置換基の具体例の中でも、上記アルキレン基、アリーレン基、複素環基が更に有していてもよい置換基としては、3座配位を妨げず、各種溶媒への溶解性、結晶性の点から、分子量350以下であるものが好ましく、具体的には炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜13のヘテロアリール基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアリールオキシ基、炭素数7〜22、好ましくは7〜12のアラルキル基、エチニル基、ハロゲン基が好ましい。尚、置換基はこれらに限定するものでは無い。またこれらの置換基はさらに置換基を有することがある。さらに有していてもよい置換基としては、例えば上記と同様のものが挙げられる。
更に耐久性の点から、特にフルオロ基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基が好ましい。
【0039】
また、X、Y、Zはそれぞれそれ自身同士、または各々が有する置換基を介して架橋または環形成を行ってもよい。
【0040】
<R11〜R16について>
一般式(I)において、R1116はそれぞれ独立に、任意の置換基を表す。
【0041】
11〜R16としては、三座配位を妨げないものであれば特に制限はなく、任意の置換基を用いることができる。任意の置換基としては、重水素原子;メチル、エチル、プロピル、ブチル等の直鎖状または分岐状のアルキル基;トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル等の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基;シクロヘキシル等のシクロアルキル基;エチニル基;フェニルエチニル、ピリジルエチニル、チエニルエチニル等のアリールエチニル基;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基;フェニル、ナフチル、アントリル等のアリール基;ベンジル、フェネチル等のアラルキル基;フェノキシ、ナフトキシ、ビフェニルオキシ等のアリールオキシ基;ヒドロキシル基;アリル基;アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、トルオイル、ビフェニルカルボニル等のアシル基;アセトキシ、プロピオニルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等のアリールオキシカルボニル基;カルボキシル基;カルバモイル基;アミノ基;ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、アセチルメチルアミノ等の置換アミノ基;メチルチオ、エチルチオ、フェニルチオ、ベンジルチオ等の置換チオ基;メルカプト基;エチルスルフォニル、フェニルスルフォニル基等の置換スルフォニル基;シアノ基;ニトロ基;フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード等のハロゲン基;フラン、ピロール、チオフェン、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピリジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、クマリン、ベンゾピラン、カルバゾール、キサンテン、キノリン、トリアジン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、クロマン、ピラゾリン、ピラゾン、クロモン(フラボン)等の環からなる複素環基などが挙げられる。
【0042】
これらの中でも炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜13のヘテロアリール基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアリールオキシ基、炭素数7〜22、好ましくは7〜12のアラルキル基、エチニル基、ハロゲン基が好ましい。
【0043】
ただし、R13およびR14としては、t−ブチル基などの嵩高い置換基は、3座配位に際して立体障害となる可能性があるため、炭素数1〜8の3級炭素を含まないアルキル基、炭素数1〜8の3級炭素を含まないアルコキシ基等の嵩の小さい置換基、または、炭素数6〜14、好ましくは炭素数6〜10のアリール基、炭素数3〜13のヘテロアリール基、炭素数3〜11のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアリールオキシ基、炭素数7〜22、好ましくは7〜12のアラルキル基、エチニル基、ハロゲン基等の平面性の高い置換基が好ましい。
【0044】
尚、R11〜R16としての任意の置換基はこれらに限定するものでは無い。またこれらの置換基はさらに置換基を有することがある。このような置換基の例としては、上記任意の置換基の具体例が挙げられる。
【0045】
なお、R11とR12、R15とR16は、それぞれそれ自身同士または各々が有する置換基を介して架橋または環形成を行ってもよい。
【0046】
<水素結合の形成>
一般式(I)で示される3座配位子のうち、Aがホスフィンオキシド以外の置換基を有しないCまたはSiである3座配位子を有する希土類金属錯体は、Aが有する水素原子と、環境中に存在する水素結合性分子、例えば、アセトン、アセトニトリル、メタノール、ピリジン、DMSO(ジメチル スルホキシド)等との間で水素結合を形成する。この水素結合の形成は、希土類金属錯体の配位構造にねじれを生じるため、発光スペクトルの形状に変化を生じる。配位構造のねじれは水素結合性分子の種類に応じて異なると想定され、従って発光スペクトルの形状も錯体近傍に存在する分子の種類に応じて変化すると考えられる。更に、環境中に存在する水素結合性分子の濃度や、水素結合の安定性に寄与する環境温度によっても、発光スペクトル形状は変化すると考えられる。これらの特性は、低温温度センサーや分子認識用途への適用可能性を示唆するものである。
【0047】
1−1−2.一般式(II)で示される化合物について
<X,Yについて>
一般式(II)において、X,Yは、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい複素環基、あるいはこれらの組合せを表す。X,Yは互いに同一でも異なっていてもよいが、三座配位が可能であるためには、それぞれのホスフィンオキシド基が離れ過ぎないことが重要であり、従ってXおよびY各々の分子長が大きく異ならないことが好ましい。好ましくはXおよびY各々のリン原子を結合する最短の原子数が0から6であり、XとYでその数の差が0から4である。
【0048】
,Yのアルキレン基、アリーレン基、複素環基およびこれらの基が有していてもよい置換基の具体例および好適例は、前記式(I)におけるX,Y,Zのそれと同様である。
【0049】
なお、XとYはそれ自身同士または各々が有する置換基やR23を介して架橋または環形成を行ってもよい。
【0050】
<R21〜R25について>
一般式(II)において、R21〜R25はそれぞれ独立に任意の置換基を表す。
【0051】
21〜R25の任意の置換基の具体例および好適例は、前記一般式(I)におけるR11〜R16のそれと同様である。
【0052】
なお、R21とR22、R24とR25はそれ自身同士または各々が有する置換基を介して架橋または環形成を行ってもよい。
【0053】
1−1−3.一般式(I)または(II)で示される化合物の具体例
以下に、本発明の希土類金属錯体が有する3座配位子の具体例を示すが、本発明の希土類金属錯体に用いられる3座配位子は、これらに限定されるものではない。なお、以下において、Phは置換基を有していてもよいフェニル基を表し、Meはメチル基を表す。
【0054】
【化5】

【0055】
【化6】

【0056】
【化7】

【0057】
1−1−4.一般式(I)または(II)で示される化合物の合成方法
一般式(I)で示される化合物は対応するホスフィン化合物に過酸化水素を作用させることで合成することができる。
【0058】
また、一般式(II)で示される化合物は、例えば以下に示すフローに従って合成される。即ち、一般式(II)におけるXの2ハロゲン化物、一般式(II)におけるYの2ハロゲン化物を用意し、各々についてハロゲンの一方をホスフィン化する。次いで得られたホスフィン化合物と2ハロゲン化ホスフィンとを反応させた後、過酸化水素水を作用させることで、一般式(II)で示される化合物が得られる。
【0059】
【化8】

【0060】
このように、本発明の希土類金属錯体に用いられる3座配位子は、出発原料が安価で、しかも様々な合成のバリエーションが可能であり、従来のホスフィンオキシド二座配位子よりも優れている。
【0061】
1−1−5.分子量
本発明の希土類金属錯体に用いられる3座配位子は、置換基を有する場合はその置換基も含めて、通常分子量160〜2000、好ましくは200〜1000である。
【0062】
1−2.中心金属
本発明の希土類金属錯体の中心金属は、希土類金属であればよく、特に制限はないが、発光強度の点から好ましくはEu、Tb、Er、Yb、Nd、Smであり、より好ましくはEu、TbまたはSmであり、特に好ましくはEuである。
【0063】
1−3.その他の配位子
本発明の希土類金属錯体は、上記3座配位子以外に任意の配位子を有していてもよい。
【0064】
このような配位子としては上記3座配位子の3座配位を妨げるようなものでなければよく、特に制限はない。具体的にはβ-ジケトン、水、ハロゲンイオン、硝酸イオン、フェナントロリン、ビピリジン、ピリジン、アセトン、メタノール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの中でも発光量子収率の点からβ-ジケトン、水、硝酸イオンが好ましく、中でもβ-ジケトン、具体的にはヘキサフルオロアセチルアセトン(hfa)、1−(2−テノイル)−4,4,4−トリフルオロ−1,3−ブタンジオネート(TTA)などが好ましい。
【0065】
1−4.本発明の希土類金属錯体の特に好ましい態様
本発明の希土類金属錯体は、特に、以下の一般式(I−1)または(II−1)で示されるものが好ましい。
【0066】
【化9】

【0067】
一般式(I−1)におけるX,Y,Z、R11〜R16は一般式(I)におけると同義であり、一般式(II−1)におけるX,Y、R21〜R25は一般式(II)におけると同義である。
【0068】
また、一般式(I−1)におけるM、一般式(II−1)におけるMは、「1−2.中心金属」の項で説明した中心金属を表し、一般式(I−1)におけるLn、一般式(II−1)におけるLnは、「1−3.その他の配位子」の項において説明したその他の配位子に相当する。n,mは任意の整数であり、1分子中にLn,Lnが複数ある場合、複数のLn,Lnは、同一であっても異なっていてもよい。
【0069】
1−5.本発明の希土類金属錯体の具体例
以下に、本発明の希土類金属錯体の具体例を示すが、本発明の希土類金属錯体は、その要旨を超えない限りこれらに限定されるものではない。以下において、Phは置換基を有していてもよいフェニル基を表し、Meはメチル基を表す。
【0070】
【化10】

【0071】
【化11】

【0072】
1−6.本発明の希土類金属錯体の合成方法
本発明の希土類金属錯体のうち、3座配位子と他の配位子とが希土類金属に配位した希土類金属錯体は、先に同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子(3座配位子)と希土類金属塩とを溶液中で作用させることでホスフィンオキシドを3座配位させ、その後β−ジケトンのような他の配位子を結合させることにより製造される。本発明の希土類金属錯体の製造に際して、3座配位子よりも先にβ−ジケトンなどの他の配位子を希土類金属に配位させてしまうと、後から3座配位子のホスフィンオキシドを3座配位させることは非常に困難である。従って、他の配位子よりも3座配位子を先に配位させる。
【0073】
この反応に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
希土類金属と配位子との反応で生成した希土類金属錯体は、反応液中から反応溶媒を減圧蒸留等で除くことにより得ることができるが、反応生成物の錯体を再結晶等により精製することにより、発光を阻害する不純物が除去され、発光効率の高い結晶型の希土類金属錯体を得ることができ、好ましい。反応溶液から溶媒を留去することによって最初に得られる錯体は、無定形のことがあり不純物を含むことが多いため、その後の精製作業は希土類金属錯体の発光効率を高めるために重要な作業である。なお、得られた希土類金属錯体の粗生成物を精製するための再結晶は、ヘキサン、クロロホルム、塩化メチレン、アセトン、アセトニトリル、トルエン、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、水等の溶媒の1種または2種以上を用いて、常法に従って行うことができる。この再結晶は通常1〜3回程度行われる。
【0075】
1−7.分子量
本発明の希土類金属錯体は、中心金属を除く全配位子の分子量の合計が、配位子が置換基を有する場合はその置換基も含めて、通常500〜5000、好ましくは1000〜3000である。
【0076】
1−8.性能
このようにして得られる本発明の希土類金属錯体は、波長350nm〜480nmに発光極大を有する光源を用いて励起することにより、中心金属の種類に応じて波長490nm〜1500nm程度の光を発する。例えば、中心金属がEuまたはSmの場合、橙色ないし赤色の光、即ち、通常570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲にある光を発する。中心金属がTbの場合には緑色の光、即ち、通常490nm以上、好ましくは500nm以上、より好ましくは505nm以上、また、通常560nm以下、好ましくは555nm以下、より好ましくは550nm以下の波長範囲にある光を発する。また、中心金属がEr,Yb,Ndの場合には波長900nm〜1500nm程度の近赤外光を発する。本発明の希土類金属錯体の発光波長は、従来の二座配位の希土類金属錯体に比べ明らかに長く、そのシフト幅は数nmにも及ぶ。
【0077】
また、本発明の希土類金属錯体は高い発光量子収率を有し、その発光量子収率は通常4%以上、好ましくは30%以上、中でも50%以上である。発光量子収率は高いほどよく、明確な上限はないが、通常80%以下程度である。
【0078】
なお、本発明の希土類金属錯体の耐熱性を示す指標として、融点と分解温度が挙げられ、示差走査熱量計(DSC)や示差熱重量分析装置(TG−DTA)で容易に確認することができる。
励起光源として好適に用いられる可視光発光ダイオードは、経時使用により熱を帯びるが、励起光源の熱により、有機蛍光体が溶融したり分解したりすると、発光効率の低下や色ムラに繋がるため、有機蛍光体には高い耐熱性が求められている。
従って、本発明の希土類金属錯体を有機蛍光体として用いる場合、好ましくは融点120℃以上、さらに好ましくは融点150℃以上であることが求められる。
また、本発明の希土類金属錯体の分解温度としては、窒素フロー条件下で5%以上重量減少する温度が150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。
【0079】
1−9.用途
本発明の希土類金属錯体は、照明装置、表示装置などに用いられる各種波長変換材料として有効に使用することが可能である。
【0080】
2.波長変換材料
本発明の波長変換材料は少なくとも本発明の希土類金属錯体を含むものである。
本発明の波長変換材料が含む本発明の希土類金属錯体は1種類だけでも、2種類以上でも構わない。
また、本発明の波長変換材料は、本発明の希土類金属錯体の発光量子収率や耐久性を損なわなければ、本発明の希土類金属錯体以外の物質、例えば、本発明の希土類金属錯体以外の各種の有機および/または無機蛍光体を含んでいてもよい。
【0081】
本発明の波長変換材料中の蛍光体(本発明の希土類金属錯体および必要に応じて配合されるその他の蛍光体)の存在状態としては、公知の構成を任意に適用することができる。通常は、液体媒体中に蛍光体を溶解した固溶体状態、蛍光体の微粒子を液体媒体に分散した分散状態などがある。この場合、蛍光体は液体媒体により固定され、光源の光を吸収して発光することになる。
【0082】
2−1.液体媒体
本発明の波長変換材料に使用される液体媒体としては、本発明の希土類金属錯体の性能を目的の範囲で損なわない限りにおいて特に限定されない。例えば、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の希土類金属錯体を好適に溶解または分散させるとともに、好ましくない反応を生じないものであれば、特に制限はなく、有機・無機・ハイブリットを問わず、任意である。
【0083】
無機系液体媒体としては、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液、またはこれらの組み合わせた無機系材料(例えばシロキサン結合を有する無機系材料)等を挙げることができる。
【0084】
有機系液体媒体としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具体的には例えば、ポリメタクリル酸メチル等のメタクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;付加反応型シリコーン樹脂、縮合反応型シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂等のシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0085】
液体媒体に蛍光体を分散させて使用する場合、液体媒体の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であり、液体媒体の種類や波長変換材料の用途(適用される発光装置の種類)などによっても異なるが、蛍光体(本発明の希土類金属錯体。本発明の希土類金属錯体に他の蛍光体を併用する場合には両者の合計)に対する重量比で、通常0.1倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上、また通常30倍以下、好ましくは15倍以下の範囲である。液体媒体が少なすぎると輝度が低下したり塗布性が悪化する可能性があり、多すぎると輝度が低下する可能性がある。
【0086】
液体媒体は、本発明の波長変換材料において、主にバインダーおよび封止材料としての役割を有する。液体媒体は、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。例えば、耐熱性や耐光性等を目的としてシリコーン樹脂等を使用する場合は、当該樹脂の耐久性を損なわない程度に、エポキシ樹脂など他の熱硬化性樹脂を含有してもよい。この場合、他の熱硬化性樹脂の含有量は、バインダーである液体媒体全量に対して通常25重量%以下、好ましくは10重量%以下とすることが望ましい。
【0087】
また、液体媒体には、蛍光体以外の添加剤を含有させてもよい。添加剤の例としては、色調補正用の色素、酸化防止剤、燐系加工安定剤等の加工・酸化および熱安定化剤、紫外線吸収剤等の耐光性安定化剤およびシランカップリング剤などが挙げられる。
【0088】
2−2.併用可能な蛍光体
本発明の波長変換材料には、必要に応じて本発明の希土類金属錯体以外の蛍光体、例えば本発明の希土類金属錯体以外の希土類金属錯体、その他の有機蛍光体や無機蛍光体等を併用してもよい。
【0089】
本発明の波長変換材料において、以下に説明する併用可能な蛍光体(橙色ないし赤色蛍光体、緑色蛍光体、青色蛍光体等)の使用の有無およびその種類は、波長変換材料の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0090】
例えば、本発明の波長変換材料を赤色発光のために用いる場合には、本発明の希土類金属錯体のうち中心金属がEu、Smであるものは赤色に発光するため、蛍光体として本発明の希土類金属錯体のみを用いても問題ないが、本発明の希土類金属錯体を他の橙色ないし赤色蛍光体と併用することにより、発光波長を調整することが可能である。
【0091】
一方、本発明の波長変換材料を白色発光のために用いる場合には、所望の白色光が得られるように、本発明の希土類金属錯体と、併用可能な他の蛍光体を適切に組み合わせればよい。
【0092】
また、本発明の希土類金属錯体は、他の蛍光体と混合(ここで、混合とは、必ずしも蛍光体同士が混ざり合っている必要はなく、異種の蛍光体が組み合わされていることを意味する。)して用いることができる。なお、混合する蛍光体の種類やその割合に特に制限はなく、公知の蛍光体を使用することができる。
【0093】
以下に本発明の希土類金属錯体と併用可能な蛍光体の具体例を列挙する。
【0094】
<橙色ないし赤色蛍光体>
橙色ないし赤色蛍光体を用いる場合、当該橙色ないし赤色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができるが、380nmから450nmの波長範囲にピーク波長を有する光を発光する光源からの光の少なくとも一部を吸収して発光するものを用いることが好ましい。
【0095】
橙色ないし赤色蛍光体としては、通常570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発するものが好適である。
【0096】
本発明で用いることができる赤色有機蛍光体としては、例えば、β−ジケトネート、β−ジケトン、芳香族カルボン酸、または、ブレンステッド酸等のアニオン配位子を有する希土類元素イオン錯体からなる赤色有機蛍光体が挙げられる。
【0097】
また、ペリレン系顔料(例えば、ジベンゾ{[f,f’]−4,4’,7,7’−テトラフェニル}ジインデノ[1,2,3−cd:1’,2’,3’−lm]ペリレン)、アントラキノン系顔料、レーキ系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、アントラセン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、フタロシアニン系顔料、トリフェニルメタン系塩基性染料、インダンスロン系顔料、インドフェノール系顔料、シアニン系顔料、ジオキサジン系顔料を用いることも可能である。
【0098】
本発明で用いることができる橙色ないし赤色無機蛍光体としては、例えば、赤色破断面を有する破断粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)Si:Euで表されるユーロピウム賦活アルカリ土類シリコンナイトライド系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Y,La,Gd,Lu)S:Euで表されるユーロピウム賦活希土類オキシカルユゲナイト系蛍光体等が挙げられる。
【0099】
さらに、特開2004−300247号公報に記載された、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、W、およびMoよりなる群から選ばれる少なくも1種の元素を含有する酸窒化物および/または酸硫化物を含有する蛍光体であって、Al元素の一部または全てがGa元素で置換されたアルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体も用いることができる。なお、これらは酸窒化物および/または酸硫化物を含有する蛍光体である。
【0100】
また、その他、赤色蛍光体としては、(La,Y)S:Eu等のEu付活酸硫化物蛍光体、Y(V,P)O:Eu、Y:Eu等のEu付活酸化物蛍光体、(Ba,Mg)SiO:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、LiW:Eu、LiW:Eu,Sm、Eu、Eu:Nb、Eu:Sm等のEu付活タングステン酸塩蛍光体、(Ca,Sr)S:Eu等のEu付活硫化物蛍光体、YAlO:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、Ca(SiO:Eu、LiY(SiO:Eu、(Sr,Ba,Ca)SiO:Eu、SrBaSiO:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、(Y,Gd)Al12:Ce、(Tb,Gd)Al12:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu等のEu付活酸化物、窒化物または酸窒化物蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ce等のCe付活酸化物、窒化物または酸窒化物蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、BaMgSi:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)(Zn,Mg)Si:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、3.5MgO・0.5MgF・GeO:Mn等のMn付活ゲルマン酸塩蛍光体、Eu付活αサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La):Eu,Bi等のEu,Bi付活酸化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)S:Eu,Bi等のEu,Bi付活酸硫化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)VO:Eu,Bi等のEu,Bi付活バナジン酸塩蛍光体、SrY:Eu,Ce等のEu,Ce付活硫化物蛍光体、CaLa:Ce等のCe付活硫化物蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgP:Eu,Mn、(Sr,Ca,Ba,Mg,Zn):Eu,Mn等のEu,Mn付活リン酸塩蛍光体、(Y,Lu)WO:Eu,Mo等のEu,Mo付活タングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)Si:Eu,Ce(但し、x、y、zは、1以上の整数を表す。)等のEu,Ce付活窒化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba,Mg)10(PO(F,Cl,Br,OH):Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、((Y,Lu,Gd,Tb)1−x−yScCe(Ca,Mg)1−r(Mg,Zn)2+rSiz−qGe12+δ等のCe付活珪酸塩蛍光体等を用いることも可能である。
【0101】
以上の中でも、赤色無機蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)S:EuまたはEu錯体を含むことが好ましく、より好ましくは(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ce、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Euまたは(La,Y)S:Eu、もしくはEu(ジベンゾイルメタン)・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体またはカルボン酸系Eu錯体を含むことが好ましく、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Sr,Ca)AlSiN:Euまたは(La,Y)S:Euが特に好ましい。
【0102】
また、橙色蛍光体としては(Sr,Ba)SiO:Euが好ましい。
【0103】
これらの橙色ないし赤色蛍光体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0104】
なお、本発明の希土類金属錯体に、橙色ないし赤色蛍光体を併用する場合、これらの橙色ないし赤色蛍光体の配合比率は、本発明の希土類金属錯体に対する重量比で、通常0重量%〜95重量%、好ましくは0重量%〜75重量%とする。
【0105】
<緑色蛍光体>
緑色蛍光体を用いる場合、当該緑色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができるが、380nmから450nmの波長範囲にピーク波長を有する光を発光する光源からの光の少なくとも一部を吸収して発光するものを用いることが好ましい。
【0106】
緑色蛍光体としては、通常490nm以上、好ましくは500nm以上、より好ましくは505nm以上、また、通常560nm以下、好ましくは550nm以下、より好ましくは545nm以下、特に好ましくは540nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発するものが望ましい。
【0107】
本発明で用いることのできる緑色有機蛍光体としては、ベンゾオキサジノン系、キナゾリノン系、クマリン系、キノフタロン系、ナルタル酸イミド系等の蛍光色素、テルビウム錯体、ペリレン系などの緑色有機蛍光体や特開2002−34568号公報に開示されるピリジン−フタルイミド縮合誘導体などの黄緑色有機蛍光体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0108】
本発明で用いることのできる緑色無機蛍光体としては、例えば、破断面を有する破断粒子から構成され、緑色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)Si:Euで表されるユウロピウム賦活アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、破断面を有する破断粒子から構成され、緑色領域の発光を行なう(Ba,Ca,Sr)SiO:Euで表されるユウロピウム賦活アルカリ土類マグネシウムシリケート系蛍光体等が挙げられる。
【0109】
また、その他、緑色蛍光体としては、SrAl1425:Eu、(Ba,Sr,Ca)Al:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ba)AlSi:Eu、(Ba,Mg)SiO:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn)Si:Eu、(Ba,Ca,Sr,Mg)(Sc,Y,Lu,Gd)(Si,Ge)24:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、YSiO:Ce,Tb等のCe,Tb付活珪酸塩蛍光体、Sr−Sr:Eu等のEu付活硼酸リン酸塩蛍光体、SrSi−2SrCl:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、ZnSiO:Mn等のMn付活珪酸塩蛍光体、CeMgAl1119:Tb、YAl12:Tb等のTb付活アルミン酸塩蛍光体、Ca(SiO:Tb、LaGaSiO14:Tb等のTb付活珪酸塩蛍光体、(Sr,Ba,Ca)Ga:Eu,Tb,Sm等のEu,Tb,Sm付活チオガレート蛍光体、Y(Al,Ga)12:Ce、(Y,Ga,Tb,La,Sm,Pr,Lu)(Al,Ga)12:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、CaScSi12:Ce、Ca(Sc,Mg,Na,Li)Si12:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaSc:Ce等のCe付活酸化物蛍光体、Eu付活βサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、BaMgAl1017:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、SrAl:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(La,Gd,Y)S:Tb等のTb付活酸硫化物蛍光体、LaPO:Ce,Tb等のCe,Tb付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Cu、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al等の硫化物蛍光体、(Y,Ga,Lu,Sc,La)BO:Ce,Tb、NaGd:Ce,Tb、(Ba,Sr)(Ca,Mg,Zn)B:K,Ce,Tb等のCe,Tb付活硼酸塩蛍光体、CaMg(SiOCl:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)(Al,Ga,In):Eu等のEu付活チオアルミネート蛍光体やチオガレート蛍光体、(Ca,Sr)(Mg,Zn)(SiOCl:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、MSi:Eu、MSi12:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素を表す。)等のEu付活酸窒化物蛍光体等を用いることも可能である。
【0110】
これらの緑色蛍光体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0111】
<青色蛍光体>
青色蛍光体を用いる場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができるが、380nmから450nmの波長範囲にピーク波長を有する光を発光する光源からの光の少なくとも一部を吸収して発光するものを用いることが好ましい。
【0112】
青色蛍光体としては、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発するものが望ましい。
【0113】
本発明で用いることのできる青色有機蛍光体としては、例えば特開2005−276785号公報などに開示されるナフタル酸イミド系、ベンゾオキサゾール系、スチリル系、クマリン系、ピラゾン系、トリアゾール系等の蛍光色素、ツリウム錯体等の有機蛍光体や、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼンなどが挙げられる。
【0114】
本発明で用いることのできる青色無機蛍光体としては、例えば、規則的な結晶成長形状としてほぼ六角形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なうBaMgAl1017:Euで表されるユウロピウム賦活バリウムマグネシウムアルミネート系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Ca,Sr,Ba)(POCl:Euで表されるユウロピウム賦活ハロリン酸カルシウム系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ立方体形状を有する成長粒子から構成され、青色領域の発光を行なう(Ca,Sr,Ba)Cl:Euで表されるユウロピウム賦活アルカリ土類クロロボレート系蛍光体、破断面を有する破断粒子から構成され、青緑色領域の発光を行なう(Sr,Ca,Ba)Al:Euまたは(Sr,Ca,Ba)Al1425:Euで表されるユウロピウム賦活アルカリ土類アルミネート系蛍光体などが挙げられる。
【0115】
また、その他、青色蛍光体としては、Sr:Sn等のSn付活リン酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)Al:Euまたは(Sr,Ca,Ba)Al1425:Eu、BaMgAl1017:Eu、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu、BaMgAl1017:Eu,Tb,Sm、BaAl13:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、SrGa:Ce、CaGa:Ce等のCe付活チオガレート蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、Sr(POCl:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu、(Ba,Sr,Ca)(PO(Cl,F,Br,OH):Eu,Mn,Sb等のEu付活ハロリン酸塩蛍光体、BaAlSi:Eu、(Sr,Ba)MgSi:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、Sr:Eu等のEu付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Ag、ZnS:Ag,Al等の硫化物蛍光体、YSiO:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaWO等のタングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)BPO:Eu,Mn、(Sr,Ca)10(PO・nB:Eu、2SrO・0.84P・0.16B:Eu等のEu,Mn付活硼酸リン酸塩蛍光体、SrSi・2SrCl:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、SrSiAl19ON31:Eu、EuSiAl19ON31等のEu付活酸窒化物蛍光体、La1−xCeAl(Si6−zAlz)(N10−z)(ここで、x、およびyは、それぞれ0≦x≦1、0≦z≦6を満たす数である。)、La1−x−yCeCaAl(Si6−zAl)(N10−z)(ここで、x、y、およびzは、それぞれ、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦6を満たす数である。)等のCe付活酸窒化物蛍光体等を用いることも可能である。
【0116】
以上の例示の中でも、青色無機蛍光体としては、(Ca、Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Euまたは(Ba,Ca,Mg,Sr)SiO:Euを含むことが好ましく、(Ca、Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Euまたは(Ba,Ca,Sr)MgSi:Euを含むことがより好ましく、BaMgAl1017:Eu、Sr10(PO(Cl,F):EuまたはBaMgSi:Euを含むことがより好ましい。また、このうち照明用途およびディスプレイ用途としては(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Euまたは(Ca、Sr,Ba)MgAl1017:Euが特に好ましい。
【0117】
これらの青色蛍光体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0118】
<黄色蛍光体>
黄色蛍光体を用いる場合、当該黄色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができるが、380nmから450nmの波長範囲にピーク波長を有する光を発光する光源からの光の少なくとも一部を吸収して発光するものを用いることが好ましい。
【0119】
黄色蛍光体としては、通常530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上、また、通常620nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有する光を発するものが望ましい。
【0120】
本発明で用いることのできる黄色有機蛍光体としては、例えば、brilliant sulfoflavine FF(Colour Index Number56205),basic Yellow HG(Colour Index Number46040),eosine(Colour Index Number45380),rhodamine 6G(Colour Index Number45160)等の蛍光染料等を用いることが可能である。
【0121】
本発明で用いることのできる黄色無機蛍光体としては、前述した黄色有機蛍光体と同等の発光特性を有するもの、例えば各種の酸化物系、窒化物系、酸窒化物系、硫化物系、酸硫化物系等の蛍光体が挙げられる。
【0122】
特に、RE12:Ce(ここで、REは、Y、Tb、Gd、Lu、およびSmからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表し、Mは、Al、Ga、およびScからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。)やM12:Ce(ここで、Mは2価の金属元素、Mは3価の金属元素、Mは4価の金属元素を表す。)等で表されるガーネット構造を有するガーネット系蛍光体、AE:Eu(ここで、AEは、Ba、Sr、Ca、Mg、およびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表し、Mは、Si、および/またはGeを表す。)等で表されるオルソシリケート系蛍光体、これらの系の蛍光体の構成元素の酸素の一部を窒素で置換した酸窒化物系蛍光体、AEAlSiN:Ce(ここで、AEは、Ba、Sr、Ca、MgおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素を表す。)等のCaAlSiN構造を有する窒化物系蛍光体等のCeで付活した蛍光体が挙げられる。
【0123】
また、その他、黄色蛍光体としては、CaGa:Eu、(Ca,Sr)Ga:Eu、(Ca,Sr)(Ga,Al):Eu等の硫化物系蛍光体、Cax(Si,Al)12(O,N)16:Eu等のSiAlON構造を有する酸窒化物系蛍光体等のEuで付活した蛍光体、(M1−a−bEuMn(BO1−p(POX(但し、Mは、Ca、Sr、およびBaからなる群より選ばれる1種以上の元素を表し、Xは、F、Cl、およびBrからなる群より選ばれる1種以上の元素を表す。a、b、およびpは、各々、0.001≦a≦0.3、0≦b≦0.3、0≦p≦0.2を満たす数を表す。)等のEu付活またはEu,Mn共付活ハロゲン化ホウ酸塩蛍光体等を用いることも可能である。
【0124】
これらの黄色蛍光体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0125】
2−3.用途
本発明の波長変換材料は照明ランプ、液晶パネル用等のバックライト、超薄型照明等の種々の照明装置や表示装置として使用することができる。
【実施例】
【0126】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0127】
[実施例1]
【化12】

【0128】
<ビス(o−ジフェニルホスフィノフェニル)フェニルホスフィン(TP)の合成>
200mL4つ口フラスコに、o−ブロモフェニルジフェニルホスフィン(3g,9.55mmol)を入れ、Arガス置換した後、乾燥エーテル(90mL)を加えた。更にn−BuLiの1.6Mヘキサン溶液(6mL,9.64mmol)を−80℃にて滴下した。−80℃で30分撹拌した後、ジクロロフェニルホスフィン(855mg,4.77mmol)を加え、そのまま室温まで戻し3時間撹拌した。水(約30mL)を加えて反応系をクエンチし、生じた白色固体を濾過にて回収した。得られた固体をクロロホルム(約100mL)に溶かして分液漏斗に移し、水にて3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥して溶媒をエバポレートし、得られた固体をクロロホルム/ヘキサンにて再結晶して、無色結晶(1.45g,48%)を得た。
【0129】
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ8.84(m,2H),7.08−7.20(m,31H)
31P NMR(200MHz,CDCl3):δ-14.02(d,J=140Hz),-14.10(d,J=140Hz),-17.41(d,J=140Hz),-18.25(d,J=140Hz)
【0130】
<三座ホスフィンオキサイド(TP=O)の合成>
100mLフラスコにTP(1.45g,2.30mmol)とジクロロメタン(50mL)を加え、氷浴にて0℃に冷却し、ここに30重量%H水溶液(7.8mL,69mmol)を滴下した。氷浴中、4時間撹拌後、水(約10mL)を加えて反応を終了した。有機層を更に水にて3回洗浄し、硫酸マグネシウムにて乾燥後、溶媒をエバポレートして白色固体を得た。これを更にクロロホルム/ヘキサンにて再結晶し、無色結晶(1.40g,収率90%)を得た。
【0131】
1H NMR(500MHz,CDCl3):δ7.98(m,2H),7.25−7.60(m,31H)
31P NMR(200MHz,CDCl3):δ34.90,34.86,32.21,32.17
【0132】
<ユーロピウム錯体(Eu(hfa−H)(TP=O))の合成>
25mLフラスコに、TP=O(164mg,0.24mmol)と(Eu(hfa−H)(HO)(217mg,0.27mmol)、およびメタノール(10mL)を入れ、オイルバスにて11時間加熱還流した。得られた反応溶液をドライアップし、残渣にクロロホルム/ヘキサンを加え、1時間室温にて撹拌後、濾過して放置した。無色結晶を回収し目的物を得た(90mg)。
【0133】
19F NMR(acetone-d6):δ-79.36
31P NMR(acetone-d6):δ0.55,-29.03,-68.37
Anal.Calcd for C57H36EuF18O9P3:C=47.16%,H=2.50%
Found:C=47.28%,H=2.55%
【0134】
得られたユーロピウム錯体について、下記の評価方法に基づいて、アセトンd(重アセトン)中で発光スペクトルを測定したところ、発光ピーク波長は615nm、発光量子収率(φf)は59%となった。図1に示すように、このユーロピウム錯体の発光スペクトルは左右対称の非常にシャープなスペクトル形状である。
【0135】
<発光スペクトル形状の評価>
分光光度計(日立製F4500形)を用いて、発光スペクトルの測定を行った。
励起発光(PL)スペクトル:日立製F4500形分光光度計にて、波長刻み(Increment)0.2nm、積分時間(Integration time)Auto、励起波長:465nmとし、励起側スリット2.5nm、蛍光側スリット1nmの条件で、液体試料測定用セルを用いて室温で測定した。
<発光量子収率の評価>
発光スペクトルをDo→発光で規格化し、Eu(hfa−H)(TPPO)をφf=65%、(Table1;Y.Hasegawa et al. Thin Solid Films 2376−2381(2008)516)として比較法により計算した。
【0136】
[実施例2]
【化13】

【0137】
o−ブロモフェニルジフェニルホスフィンの代りに2−ブロモ−5−フルオロフェニルジフェニルホスフィンを用いて、実施例1と同様の方法で、上記構造式で表される三座ホスフィンオキシド配位ユーロピウム錯体を合成した。
【0138】
19F NMR(acetone-d6):δ-78.27,-106.6
31P NMR(acetone-d6):δ1.39,-28.30,-66.82
Anal.Calcd for C57H36EuF18O9P3:C=46.02%,H=2.30%
Found:C=45.64%,H=2.07%
【0139】
実施例1と同様の条件にて、このユーロピウム錯体について、アセトンd中で発光スペクトルの測定を行ったところ、616nmの発光ピーク波長が確認できた。また、発光量子収率(φf)は67%となった。
【0140】
[実施例3]
【化14】

【0141】
o−ブロモフェニルジフェニルホスフィンの代りに2−ブロモ−5−メトキシフェニルジフェニルホスフィンを用いて、実施例1と同様の方法で、上記構造式で表される三座ホスフィンオキシド配位ユーロピウム錯体を合成した。
【0142】
19F NMR(acetone-d6):δ-79.26
31P NMR(acetone-d6):δ-97.22
Anal.Calcd for C57H36EuF18O9P3:C=46.87%,H=2.67%
Found:C=47.21%,H=2.65%
【0143】
実施例1と同様の条件にて、このユーロピウム錯体について、アセトンd中で発光スペクトルの測定を行ったところ、615nmの発光ピーク波長が確認できた。また、発光量子収率(φf)は69%となった。
【0144】
[比較例1]
下記構造のホスフィンオキシド二座配位子を持つEu(hfa−H)(BIPHEPO)について、実施例1と同様の条件にて、アセトンd中で発光スペクトルを測定したところ、発光ピーク波長は610.0nm、発光量子収率(φf)は60%となった。
図1に示すように、このユーロピウム錯体の発光スペクトルは左右対称ではなく、右側に肩のあるいびつな形をしている。
【0145】
【化16】

【0146】
[実施例4]
【化17】

【0147】
50mLフラスコに、メチリジントリス(ジフェニルホスフィンオキシド)(HTrisO)(302mg,4.9×10−4mol)とEuCl・6HO(577mg,1.6×10−3mol)、およびアセトニトリル(15mL)を入れ、5時間室温で撹拌した。得られた白濁溶液にhfa−H(0.67mL,4.7×10−3mol)を加え、さらに不溶成分を完全に溶かすためにエタノール(3mL)を加えた。16時間室温にて撹拌した後、溶媒をエバポレートした。得られた白色固体にトルエン(20mL)を加え1時間撹拌した後、濾過して可溶成分を回収した。溶媒をエバポレートした後、更にクロロホルム/ヘキサンにて再結晶を行い透明な粒状結晶を得た。
得られた粒状結晶について、IR、NMR、ESI−Mass分析、X線構造解析を行なった結果、下記の結果が得られ、下記構造式および図2に示す結晶構造の三座ホスフィンオキシド(HTrisO)配位ユーロピウム錯体が合成されていることが確認できた。
【0148】
【化18】

【0149】
IR(neat):1649,1483,1252,1200,1137,1097cm-1
19F NMR(CDCl3):−79.4,−80.0
31P NMR(CDCl3):9.17
ESI-Mass:1183.0[Eu(hfa-H)2(HTrisO3)+]
元素分析:C=34.46%,H=1.62%
計算値(C52H34EuF18O9P3・5CHCl3):C=34.46%,H=1.98%
【0150】
<結晶データ>
【表1】

【0151】
実施例1と同様の条件にて、このユーロピウム錯体についてアセトンd中で発光スペクトルの測定を行ったところ、618nmの発光ピーク波長が確認できた。発光量子収率(φf)は35%となった。
【0152】
以上、実施例1〜4および比較例1において評価した希土類金属錯体の最大発光波長の結果から、中心金属が同じでありながら、本発明の希土類金属錯体は、比較例1に対して明らかに、最大発光波長が長波長側にあることが判った。
【0153】
[実施例5]
実施例4において合成した(HTrisO)配位ユーロピウム錯体の1mMアセトンd溶液中に、硝酸テトラブチルアンモニウム(TBA・NO)を添加しながら、実施例1と同様の評価条件で発光スペクトルの評価を行ったところ、図3に示すように発光量子収率の向上が認められ、硝酸イオン濃度15mMに達した時点で平衡に達した。発光量子収率の平衡値は50%であった。
この溶液をNMRにて評価すると、CF部位に明確な分裂ブロード化が認められ、hfa部位の一部が硝酸イオンで置換されたために、発光量子収率が向上したものと考えられた。
【0154】
[実施例6]
EuCl・6HOの代りにSmCl・6HOを用いて、実施例4と同様の方法で、下記構造式の三座ホスフィンオキシド(HTrisO)配位サマリウム錯体を合成した。
IR(neat);1649,1558,1523,1506,1473,1441,1253,1198,1138,1112,1093,799,791,769,732,697,686,660cm-1
19F NMR(CDCl3):−76.0,−76.1
31P NMR(CDCl3):40.78
ESI-Mass:1182.0[Sm(hfa-H)2(HTrisO3)+]
元素分析:C=39.74%,H=2.05%
計算値(C52H34F18O9P3Sm・2CHCl3):C=39.87%,H=2.23%
【0155】
【化19】

【0156】
実施例1と同様の条件にて、このサマリウム錯体について、アセトンd中で発光スペクトルの測定を行ったところ、645nmの発光ピーク波長が確認できた。発光量子収率(φf)は4.7%となった。
【0157】
[実施例7]
実施例4において合成した(HTrisO)配位ユーロピウム錯体をCDCl中に溶解した場合と、アセトンd中で溶解した場合の2通りについて、実施例1と同様の条件にて発光スペクトルを観測した。結果を図4に示す。
図4から、溶媒の種類によって、スペクトル形状に明らかな違いが観測された。
【0158】
[実施例8]
実施例1において合成したEu(hfa−H)(TP=O)錯体をCDCl中に溶解した場合と、重アセトン中で溶解した場合の2通りについて、実施例1と同様の条件にて発光スペクトルを観測した結果を図5に示す。
図5から、溶媒の種類によるスペクトル形状の違いは観測されなかった。
【0159】
[実施例9]
再結晶溶媒をアセトン/水とした以外は実施例4と同様にして、(HTrisO)配位ユーロピウム錯体の単結晶(透明粒状結晶)を得た。得られた結晶について、X線構造解析を行なった結果、図6に示す構造が明らかになった。また、該結晶の顕微発光スペクトル(CCDカメラにてスペクトルを測定)は図7の通りであった。
【0160】
図6から、アセトン分子が三座配位子HTrisOの中心CHと水素結合していることが明らかである。
【0161】
更に、実施例4においてクロロホルム/ヘキサンにて再結晶して得た結晶と比べると(図8(a)参照)、配位構造に違いが認められる。即ち、アセトンが水素結合した結晶(アセトン/水結晶)では、縦方向に配位しているhfa部位がねじれていることがわかる(図8(b)のX部参照)。そして、この配位構造を有するアセトン/水結晶の発光スペクトルは、図7に示すように616.5nmに単一の鋭いピークを有する。
この結果から、溶媒の種類による発光スペクトル形状の違いはこのアセトンの結合による配位構造のねじれによるものと推定された。
【0162】
[実施例10]
実施例7,9において観測された発光スペクトル形状の変化が、アセトン以外の水素結合性分子存在下においても観測されるかどうか、アセトン、アセトニトリル、メタノール、ピリジン、DMSOについて、以下の条件にて実験を行った。
【0163】
<水素結合性分子の滴下実験>
1cmセルに、実施例4において合成した(HTrisO)配位ユーロピウム錯体の1mM濃度のジクロロメタン溶液2mlに、水素結合性分子として、アセトン、アセトニトリル、メタノール、ピリジンまたはDMSOを以下の添加量で滴下しながら、実施例1に記載の条件に従って発光波長の観測を行なった(ただし、励起波長は380nmとした)。
アセトン:0〜250μL
アセトニトリル:0〜200μL
メタノール:0〜200μL
ピリジン:0〜300μL
DMSO:0〜400μL
各水素結合性分子滴下時の発光スペクトル変化を、図9〜図13に示す。図9〜図13において、水素結合性分子の添加量が増加するほど、発光強度のピーク位置が高くなっている。
【0164】
本発明者らによる検討の結果、発光スペクトル形状の変化は、アセトン分子存在下に限られるものではなく、水素結合性の分子、例えばアセトニトリル、メタノール、ピリジン、DMSO(ジメチルスルホキシド)等であれば、類似のスペクトル形状変化が観測されることが判った。また、そのスペクトル形状の変化も、水素結合の強さ(DMSO>メタノール〜ピリジン>アセトン>アセトニトリル)を反映して化合物ごとに異なる様相を呈することが判った。以上より、本発明の一般式(I)で示される3座配位子を有する希土類金属錯体のうち、Aがホスフィンオキシド以外の置換基を有しないCまたはSiであるものは、分子認識用途にも有望であることが期待される。
【0165】
[実施例11]
実施例4において合成した(HTrisO)配位ユーロピウム錯体をアセトン中に溶解し、該アセトン溶液について、183K〜300Kの範囲で発光スペクトルの温度変化を観測した。具体的には、蛍光用石英セル(1×1cm)を液体窒素クライオスタット(Oxford Instruments製Optistat DN)を用いて冷却し、実施例1と同様の手順で発光スペクトルを観測した。結果を図14に示す。
【0166】
[実施例12]
実施例4において合成した(HTrisO)配位ユーロピウム錯体をジクロロメタンに溶解し、該ジクロロメタン溶液に少量(10重量%)のアセトンを添加したものについて、203K〜300Kの範囲で発光スペクトルの温度変化を観測した。具体的には、蛍光用石英セル(1×1cm)を液体窒素クライオスタット(Oxford Instruments製Optistat DN)を用いて冷却し、実施例1と同様の手順で発光スペクトルを観測した。結果を図15に示す。
【0167】
図14および図15のいずれにおいても、300Kでは明瞭に観測される低波長側の肩が低温条件下では小さくなり、高波長側の主ピークの割合が増し、より急峻なピーク形状となることが判った。これは、実施例9において確認したアセトン分子と3座配位子との水素結合が低温下においてはより安定に存在するため、配位構造のねじれを反映する発光スペクトルの高波長側へのシフトがより明確に観測されているものと推測される。
【0168】
以上より、本発明の一般式(I)で示される3座配位子を有する希土類金属錯体のうち、Aがホスフィンオキシド以外の置換基を有しないCまたはSiであるものは、低温温度センサーとしても有望であることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子が、中心金属である希土類金属に三座配位していることを特徴とする希土類金属錯体。
【請求項2】
前記同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子の構造が、下記一般式(I)または(II)で示されることを特徴とする請求項1に記載の希土類金属錯体。
【化1】

[式(I)において、
AはC,N,Si,Pのいずれかであり、AがCまたはSiである場合、CまたはSiは更に置換基を有していてもよい。
また、X,Y,Zは、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい複素環基、あるいはこれらの組合せを表し、
11〜R16は、それぞれ独立に、任意の置換基を表す。]
【化2】

[式(II)において、
,Yは、それぞれ独立に、直接結合、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよい複素環基、あるいはこれらの組合せを表し、
21〜R25は、それぞれ独立に、任意の置換基を表す。]
【請求項3】
前記希土類金属がEu,Tb,Er,Yb,Nd,Smのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の希土類金属錯体
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の希土類金属錯体を含むことを特徴とする波長変換材料。
【請求項5】
同一分子内に3以上のホスフィンオキシドを有する配位子を先に中心金属に三座配位させ、その後に別の配位子を配位させることを特徴とする希土類金属錯体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−242385(P2009−242385A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54988(P2009−54988)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】