説明

帯電装置、プロセスカートリッジ及び画像形成装置

【課題】 感光体を帯電させるためにコロナ放電を行った場合に、コロナ放電による感光体の劣化を低減させることである。
【解決手段】 対向する感光体14をコロナ放電により帯電する帯電部18を有し、帯電部18の周囲のコロナ放電が行われる領域を気体供給部19から供給された気体であって放電開始電圧が大気中より低くなる気体で満たし、感光体14を帯電させるコロナ放電を行うために電圧印加部20から帯電部18に印加される電圧を大気中でコロナ放電を行う場合よりも低く設定する。これにより、感光体14を帯電させるためのコロナ放電による感光体14に対する衝撃を軽減でき、感光体14の劣化を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電装置、プロセスカートリッジ及びこれらの帯電装置又はプロセスカートリッジを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置においては、電子写真方式による画像形成方法を採用したものが広く普及している。電子写真方式による画像形成は、以下のようにして行われる。まず、光照射の程度によって抵抗値などが変化する感光体の外周面を均一に帯電させ、感光体の外周面にレーザ光などを照射することにより出力画像に応じた静電潜像を形成する。ついで、感光体の外周面に形成された静電潜像に対し帯電したトナーを付着させ、静電潜像を現像してトナー画像を形成する。ついで、感光体の外周面上に形成されたトナー画像を記録媒体に転写し、トナー画像が転写された記録媒体に熱と圧力とを印加することによりトナー画像を記録媒体に定着させる。
【0003】
感光体の外周面を帯電する方法としては、コロナ帯電法、接触帯電法、非接触帯電法等が知られている。コロナ帯電法は、タングステン等のワイヤを感光体の長手方向に沿って感光体と平行に配設し、ワイヤに数kVの高電圧を印加してコロナ放電を発生させ、ワイヤの周囲の空気中の元素をイオン化し、そのイオンを感光体の外周面に付着させる方法である。接触帯電法は、感光体の外周面に帯電ローラを接触させて配置し、帯電ローラに電圧を印加することにより帯電ローラと感光体との隙間部分にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電によって感光体の外周面を帯電する方法である。非接触帯電法は、感光体の外周面との間に微小な間隔を持って帯電ローラを配置し、帯電ローラに電圧を印加することにより帯電ローラと感光体との隙間部分にコロナ放電を発生させ、このコロナ放電により感光体の外周面を帯電する方法である。
【0004】
コロナ帯電法によれば、ワイヤでコロナ放電を発生させ、このコロナ放電により発生したイオンを感光体の外周面に付着させているので、感光体の帯電に利用される電力はワイヤに供給した電力の5〜30%にすぎず、電力の有効利用が図れていない。これに対し、接触帯電法、非接触帯電法によれば、帯電ローラと感光体との間でコロナ放電が生じるため、電力の有効利用を図ることができる。
【0005】
また、特許文献1、2に開示されたように、コロナ放電が行われる領域に低酸素の気体を供給することにより、コロナ放電に伴って大気中の酸素がイオン化されることにより発生するオゾン(O)や窒素酸化物(NO)を低減させるようにした発明が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−95459号公報
【特許文献2】特開平11−305522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、接触帯電法、非接触帯電法によれば、コロナ帯電法の場合と比較して、放電が帯電ローラと感光体との間で行われるので、感光体の外周面に対して放電の衝撃が作用し、この放電の衝撃によって感光体の外周面が劣化しやすい。特に、感光体の帯電の均一化を図るために、直流電圧に放電開始電圧の2倍程度のピーク間電圧の交流電圧を重畳した電圧を印加した場合には、放電回数が交流電圧の周波数に応じて大幅に増加し、放電に伴って感光体に作用する衝撃が大幅に増大し、感光体の劣化が著しくなる。
【0008】
また、特許文献1、2に開示された発明によれば、酸素濃度が大気より低い気体を放電領域に供給しているため、オゾンや窒化酸化物の発生量を低減できると考えられる。しかし、放電のために印加する電圧については何ら考慮されておらず、放電の衝撃による感光体の劣化を低減させることはできない。さらに、放電領域に供給された気体の酸素濃度を低くした場合において、酸素濃度の低下に伴って窒素の割合が高くなった場合には、パッシェンの法則により放電開始電圧が下がるので、放電のために印加する電圧について何ら考慮されていないとすれば、感光体に対する放電の衝撃が増大し、感光体の劣化が増大する。
【0009】
本発明の目的は、感光体を帯電させるためにコロナ放電を行った場合に、必要な帯電を行いながらコロナ放電による感光体の劣化を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明の帯電装置は、対向する感光体をコロナ放電により帯電する帯電部と、放電開始電圧が大気中より低くなる気体をコロナ放電が行われる領域に供給する気体供給部と、前記感光体をコロナ放電により必要な帯電電位に帯電するために前記帯電部に印加する電圧を、大気中でのコロナ放電により前記感光体を必要な帯電電位に帯電するために前記帯電部に印加する電圧より低い電圧とする電圧印加部と、を具備する。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の帯電装置において、放電開始電圧が大気中より低くなる気体は、大気中の酸素の少なくとも一部を窒素とヘリウムとアルゴンとネオンとの少なくとも一つと置換した気体である。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の帯電装置において、放電開始電圧が大気中より低くなる気体は、大気中の窒素の少なくとも一部をヘリウムとアルゴンとネオンとの少なくとも一つと置換した気体である。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の帯電装置において、前記気体供給部は、大気中の酸素を分離除去する窒素富化膜を備えている。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項2又は4記載の帯電装置において、酸素を窒素と置換することにより得られた気体の窒素濃度は85%以上である。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか一記載の帯電装置において、前記帯電部と前記感光体とは接触させて配置され又は非接触に近接配置され、前記帯電部と前記感光体との間の隙間部分が放電領域とされている。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか一記載の帯電装置において、前記電圧印加部から印加される電圧は、直流電圧に交流電圧を重畳させた電圧である。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項1ないし7のいずれか一記載の帯電装置において、前記帯電部と、コロナ放電が行われる領域と、前記感光体の外周面におけるコロナ放電により帯電される領域とを囲むケースを備え、前記気体供給部から供給される気体が前記ケース内に導入される。
【0018】
請求項9記載の発明のプロセスカートリッジは、感光体とこの感光体をコロナ放電により帯電する帯電部とを共に支持して本体ケース内に着脱可能に装着され、前記帯電部の周囲のコロナ放電が行われる領域が気体供給部から供給される気体であって放電開始電圧が大気中より低くなる気体で満たされ、前記感光体をコロナ放電により帯電するために電圧印加部から前記帯電部に印加される電圧が大気中でのコロナ放電により前記感光体を帯電するために前記帯電部に印加される電圧より低い電圧とされる。
【0019】
請求項10記載の発明の画像形成装置は、請求項9記載のプロセスカートリッジと、放電開始電圧が大気中より低くなる気体を前記プロセスカートリッジ内のコロナ放電が行われる領域に供給する気体供給部と、前記プロセスカートリッジ内の前記感光体をコロナ放電により帯電するために前記帯電部に印加する電圧を、大気中でのコロナ放電により前記感光体を帯電するために前記帯電部に印加する電圧より低い電圧とする電圧印加部と、前記プロセスカートリッジ内の前記感光体を画像データに基づいて露光することにより前記感光体に静電潜像を形成する露光装置と、静電潜像が現像装置により現像されて形成されたトナー画像を記録媒体に転写する転写装置と、を具備する。
【0020】
請求項11記載の発明の画像形成装置は、感光体と、この感光体を一様に帯電する請求項1ないし8のいずれか一記載の帯電装置と、一様に帯電された後の前記感光体を画像データに基づいて露光することにより前記感光体に静電潜像を形成する露光装置と、前記感光体に形成された静電潜像を現像してトナー画像を形成する現像装置と、現像されたトナー画像を記録媒体に転写する転写装置と、を有する。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明の帯電装置によれば、感光体を帯電させるためのコロナ放電が行われる領域の気体が、放電開始電圧が大気中より低くなる気体であり、コロナ放電によって感光体を帯電するために電圧印加部から帯電部に印加する電圧が大気中でのコロナ放電により感光体を必要な帯電電位に帯電するために印加する電圧よりも低いため、感光体を帯電させるためのコロナ放電による感光体に対する衝撃を軽減でき、感光体の劣化を抑制できる。また、帯電部に印加する電圧が下がるので、消費電力を軽減できる。
【0022】
請求項2記載の発明の帯電装置によれば、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオンは、放電開始電圧が酸素より低くなる気体であるので、これらの気体を大気中の酸素と置換することにより、放電開始電圧が大気中より低くなる気体を得ることができる。
【0023】
請求項3記載の発明の帯電装置によれば、ヘリウム、アルゴン、ネオンは、放電開始電圧が窒素より低くなる気体であるので、これらの気体を大気中の窒素と置換することにより、放電開始電圧が大気中より低くなる気体を得ることができる。
【0024】
請求項4記載の発明の帯電装置によれば、気体供給部が大気中の酸素を分離除去する窒素富化膜を備えているので、窒素富化膜を用いて大気中から酸素を分離除去することにより、放電開始電圧が大気中より低くなる気体を容易に得ることができる。
【0025】
請求項5記載の発明の帯電装置によれば、酸素を窒素と置換することにより得られた気体の窒素濃度を85%以上とすることにより、放電開始電圧を大気中での放電開始電圧より下げることができ、それに伴い、感光体を必要な帯電電位に帯電させるために帯電部に印加する電圧を下げることができる。
【0026】
請求項6記載の発明の帯電装置によれば、帯電部と感光体とを接触させて配置した接触帯電法、又は、帯電部と感光体とを非接触に近接配置した非接触帯電法で感光体を帯電させる場合において、放電開始電圧が低くなり、感光体を必要な帯電電位に帯電させるために帯電部に印加する電圧が低くなるので、コロナ放電による感光体に対する衝撃を軽減でき、感光体の劣化を抑制できる。
【0027】
請求項7記載の発明の帯電装置によれば、感光体を帯電させるために電圧印加部により印加される電圧が直流電圧に交流電圧を重畳させた電圧である場合には、帯電部に印加する交流電圧(交流ピーク間電圧)を下げることができ、コロナ放電による感光体に対する衝撃を軽減でき、感光体の劣化を抑制できる。
【0028】
請求項8記載の発明の帯電装置によれば、気体供給部から供給された気体であって帯電開始電圧が大気中より低くなる気体をコロナ放電が行われる領域内に留まらせることができ、コロナ放電が行われる領域を当該気体によって確実に乱すことができ、コロナ放電を行うために印加する電圧を下げた場合でも感光体の帯電を確実に行うことができる。
【0029】
請求項9記載の発明のプロセスカートリッジによれば、感光体を帯電させるためのコロナ放電が行われる領域の気体が、放電開始電圧が大気中より低くなる気体であり、コロナ放電によって感光体を帯電するために電圧印加部から帯電部に印加する電圧が大気中でのコロナ放電により感光体を必要な帯電電位に帯電するために印加する電圧よりも低いため、感光体を帯電させるためのコロナ放電による感光体に対する衝撃を軽減でき、感光体の劣化を抑制でき、プロセスカートリッジの長寿命化を図ることができる。また、帯電部に印加する電圧が下がるので、消費電力を軽減できる。さらに、感光体と帯電部との位置関係を安定させることができ、安定した帯電性能を維持できる。
【0030】
請求項10記載の発明の画像形成装置によれば、請求項9記載の発明と同じ効果を奏することができる。
【0031】
請求項11記載の発明の画像形成装置によれば、請求項1ないし8のいずれか一記載の発明と同じ効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の第1の実施の形態を図1ないし図6に基づいて説明する。図1は画像形成装置である複写機の概略構造を示す縦断側面図、図2は帯電装置を示す斜視図、図3は帯電装置を示す縦断側面図、図4は帯電装置の一部を示す分解斜視図である。
【0033】
図1に示すように、画像形成装置である複写機1の本体ケース2内には、プリンタエンジン3、給紙部4、給紙ローラ5、露光装置6、レジストローラ7、転写装置8、定着装置9、排紙ローラ10等が設けられている。本体ケース2の上部には、原稿の画像を読み取るスキャナ11が設けられている。本体ケース2内には、給紙部4から給紙された記録媒体Pが排紙トレイ12に向けて搬送される搬送経路13が形成され、この搬送経路13上に、給紙ローラ5、レジストローラ7、プリンタエンジン3、転写装置8、定着装置9、排紙ローラ10等が配置されている。
【0034】
プリンタエンジン3は、スキャナ11で読み取った原稿の画像に応じたトナー画像を形成する部分であり、感光体である感光体ドラム14、帯電装置15、現像装置16、クリーニング装置17等により構成されている。プリンタエンジン3によるトナー画像の形成時には、モータ(図示せず)に連結されている感光体ドラム14がモータにより駆動されて中心線回りに矢印a方向に回転し、感光体ドラム14の外周面が帯電装置15により一様に帯電される。一様に帯電された感光体ドラム14が露光装置6から出射されたレーザー光により露光される。露光装置6から出射されたレーザ光は、スキャナ11で読み取った原稿の画像に応じた画像データに基づいて出射された光であり、このレーザー光の露光により感光体ドラム14の外周面に原稿の画像に対応した静電潜像が形成される。
【0035】
静電潜像が形成された感光体ドラム14に対して現像装置16からトナーが供給され、供給されたトナーが静電潜像に付着することにより感光体ドラム14上にトナー画像が形成される。このトナー画像は、搬送経路13上を搬送された記録媒体P上に転写装置8の作用で転写される。トナー画像が記録媒体Pに転写された後の感光体ドラム14の外周面はクリーニング装置17によりクリーニングされ、記録媒体Pに転写されずに感光体ドラム14上に残留したトナーが除去される。
【0036】
トナー画像が転写された記録媒体Pは引き続き搬送経路13上を搬送され、定着装置9において熱と圧力とを加えられてトナーが溶融され、溶融したトナーが記録媒体Pに溶着することによりトナー画像が記録媒体Pに定着される。
【0037】
ここで、帯電装置15について説明する。帯電装置15は、帯電部である帯電ローラ18、帯電ローラ18を収納するケース21、気体供給部19、電圧印加部20等により構成されている。
【0038】
帯電ローラ18は、感光体ドラム14の長手方向に沿って感光体ドラム14と平行に配設されている。帯電ローラ18は、樹脂に導電性粉体を分散した導電性材料等で形成されたローラ部18aと、ステンレス鋼等で形成された軸部18bと、ローラ部18aの長手方向の両端に形成された大径部(図示せず)とから形成されている。軸部18bにはモータ(図示せず)が連結され、帯電ローラ18はモータにより駆動されて中心線回りに矢印b方向に回転する。帯電ローラ18を感光体ドラム14に平行に対向させて配置したとき、大径部が感光体ドラム14の長手方向の両端外周面に当接し、ローラ部18aと感光体ドラム14の外周面との間に所定寸法の隙間“G”を確保する。この隙間部分が、帯電ローラ18と感光体ドラム14との間でコロナ放電が行われる領域とされている。即ち、本実施の形態では、帯電ローラ18と感光体ドラム14とを非接触に近接配置して感光体ドラム14を帯電させる非接触帯電法を採用している。
【0039】
電圧印加部20は、帯電ローラ18の軸部18bの一端側に接続されている。この電圧印加部20は、直流電圧発生部と交流電圧発生部とを有し、直流電圧に交流電圧を重畳させた電圧を帯電ローラ18に印加する。この電圧印加により、ローラ部18aと感光体ドラム14との間の隙間“G”の部分でコロナ放電が発生し、このコロナ放電により感光体ドラム14の外周面が一様に帯電される。この場合、例えば、直流電圧発生部では−750Vの直流電圧を発生させ、交流電圧発生部では放電開始電圧の2倍程度のピーク間電圧の交流電圧を発生させている。
【0040】
ケース21は、帯電ローラ18を収納する長尺形状に形成された本体ケース21aと本体ケース21aの長手方向両端に連結された側板21bとにより形成され、帯電ローラ18、帯電ローラ18と感光体ドラム14との間のコロナ放電が行われる領域、感光体ドラム14の外周面におけるコロナ放電により帯電される領域を囲んで配置されている。本体ケース21aには、帯電ローラ18を収納可能である空間22が形成されている。側板21bには、貫通孔23、凹部24、係合溝25、係合凸部26、位置決め凸部27等が形成されている。本体ケース21aと側板21bとの連結は、係合凸部26を空間22の端部に嵌合し、位置決め凸部27を本体ケース21aに形成された位置決め凹部28に嵌合することにより行われている。本体ケース21aの空間22内に帯電ローラ18を収納し、この本体ケース21aの両端に側板21bを連結したとき、帯電ローラ18の軸部18bは貫通孔23を貫通する位置に位置付けられる。貫通孔23の内周部には、軸部18bの外周面に摺接される軸シール29が取り付けられている。
【0041】
内部に帯電ローラ18を収納したケース21は、係合溝25を本体ケース2内に設けられている突起部30に係合させることにより本体ケース2内に取付けられ、係合溝25と突起部30との係合によりケース21は感光体ドラム14に接離する方向にスライド移動可能とされている。側板21bの凹部24には、圧縮スプリング31の一端が嵌合されている。圧縮スプリング31の他端は本体ケース2の固定部材(図示せず)に当接され、圧縮スプリング31の付勢力によりケース21は感光体ドラム14側に向けて付勢されている。
【0042】
本体ケース21aにおける感光体ドラム14の外周面に対向する縁部には、感光体ドラム14の長手方向に沿って延出したシール部材32が貼付けられている。シール部材32はウレタンゴム材料からなる薄いシート状部材であって可撓性を有し、シール部材32の先端部は感光体ドラム14の外周面に摺接されている。また、側板21bにおける感光体ドラム14の外周面に対向する縁部には、弧状に形成されて感光体ドラム14の外周面に摺接するシール部材33が貼付けられている。シール部材33は、発泡ポリウレタンとフッ素樹脂のテープとの2層構造になっている部材であり、フッ素樹脂のテープが感光体ドラム14の外周面に摺接されている。
【0043】
帯電ローラ18を収納したケース21が本体ケース2内の所定位置に取付けられているとき、圧縮スプリング31の付勢力によりケース21が感光体ドラム14の方向に付勢され、帯電ローラ18の両端の大径部が感光体ドラム14の外周面に当接されることによりケース21及び帯電ローラ18が位置決めされ、ローラ部18aと感光体ドラム14との隙間“G”が一定に維持される。また、帯電ローラ18を収納したケース21が本体ケース2内の所定位置に取付けられているとき、シール部材32、33が感光体ドラム14の外周面に当接されることにより、ケース21内における帯電ローラ18を収納している空間の気密性が維持され、この空間内への大気の入り込みが防止される。
【0044】
気体供給部19は、放電開始電圧が大気中より低くなる気体をケース21内の帯電ローラ18が収納されている空間に供給する機構であり、放電開始電圧が大気中より低くなる気体として、本実施の形態では、大気中の酸素の一部を窒素に置換した気体(窒素富化気体)を用いている。この気体供給部19は、大気中の酸素を分離除去する窒素富化膜34、大気を吸入して窒素富化膜34側に送り込むポンプ35、窒素富化膜34で酸素を除去された気体(即ち、大気中の酸素の一部を窒素に置換することにより窒素の割合が高くなった気体)の供給量を制御する弁36等により構成されている。気体供給部19とケース21との間には、気体供給部19からケース21内に気体(窒素富化気体)を供給するための供給パイプ37が接続されている。窒素富化膜34による酸素除去時間を長くし、又は、窒素富化膜34による酸素の除去を繰り返すことにより、気体中の酸素濃度を限りなく0%に近づけることができる。気体供給部19からケース21内に供給された気体は、ケース21内の圧力がある値に達すると、感光体ドラム14に当接されているシール部材32を感光体ドラム14から浮き上がらせ、ケース21外に排気される。
【0045】
ここで、気体供給部19で作り出した気体(窒素富化気体)のなかでコロナ放電を行うと、大気中でコロナ放電を行う場合と比較して、放電開始電圧が下がる。これは、パッシェンの法則と言われ、大気中の酸素の少なくとも一部を窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオンの少なくとも一つと置換することにより放電開始電圧を下げることができる(東京電気大学出版部発行、S39.4.1初版発行、大学講座:気体放電現象;P68.表4.1参照)。
【0046】
図5は、コロナ放電が行われる領域に存在する気体における窒素濃度と放電開始電圧との関係、及び、コロナ放電が行われる領域に存在する気体における窒素濃度と感光体ドラム14の帯電電位と直流印加電圧との関係を示すグラフである。この図5のグラフによれば、窒素濃度が85%以上の気体(窒素富化気体)の中でコロナ放電を行えば、大気中でコロナ放電を行う場合と比較して、放電開始電圧を約150V下げることができ、感光体ドラム14を目的とする帯電電位に帯電させるために帯電ローラ18に印加する電圧を約150V下げることができることが判明した。
【0047】
本実施の形態では、大気中の酸素を窒素に置換した気体を用いた場合を例に挙げて説明したが、パッシェンの法則に従えば、大気中の酸素をヘリウム、アルゴン、ネオンで置換した場合も同様に放電開始電圧を下げることができ、必要な帯電電位を得るために印加する電圧を下げることができる。
【0048】
また、パッシェンの法則に従えば、ヘリウム、アルゴン、ネオンは窒素に比べて放電開始電圧が低いので、大気中の酸素の割合を代えずに、大気中の窒素をヘリウム、アルゴン、ネオンで置換した場合にも、放電開始電圧を下げることができ、必要な帯電電位を得るために印加する電圧を下げることができる。なお、ヘリウム、アルゴン、ネオンを使用する場合には、これらの気体を貯溜したボンベを用い、酸素富化膜で除去した窒素に代えてヘリウム、アルゴン、ネオンを供給する。
【0049】
図6は、窒素富化気体中と大気中とで直流電圧に交流電圧を重畳した電圧を印加してコロナ放電を行い、感光体ドラム14を帯電した場合において、感光体ドラム14の帯電電位が一定となる変曲点に達するときの交流電圧のピーク間電圧を測定した結果を示すグラフである。なお、印加した直流電圧は−750Vとした。
【0050】
図6のグラフによれば、窒素富化気体中でコロナ放電を行った場合には、大気中でコロナ放電を行った場合に比べて、変曲点に達するときの交流電圧のピーク間電圧を約200V下げられることが判明した。このため、電圧印加部20から帯電ローラ18に印加する電圧を、大気中でのコロナ放電により感光体ドラム14を帯電させる場合に印加する電圧よりも低くすることができる。したがって、感光体ドラム14を均一に帯電させるためのコロナ放電の繰り返しによる感光体ドラム14に対する衝撃を軽減でき、感光体ドラム14の劣化を抑制して感光体ドラム14の耐久性を向上させることができる。さらに、印加する電圧が下がることにより、帯電のための消費電力を軽減することができる。
【0051】
本発明の第2の実施の形態を図7に基づいて説明する。なお、本実施の形態及び他の実施の形態において、先行して説明した実施の形態において説明した部分と同じ部分は同じ符号で示し、説明も省略する。図7は、帯電装置を示す縦断側面図である。
【0052】
本実施の形態の基本的構造は第1の実施の形態と同じであり、本実施の形態と第1の実施の形態とが異なる点は、第1の実施の形態の帯電装置15では非接触帯電法を採用しているのに対し、本実施の形態の帯電装置15Aでは接触帯電法を採用している点である。即ち、本実施の形態では、帯電ローラ18のローラ部18aが感光体ドラム14の外周面に接触して配置されている。帯電ローラ18と感光体ドラム14との間のコロナ放電は、ローラ部18aと感光体ドラム14との接触部の前後における楔形状の隙間部分“S”で発生する。
【0053】
本実施の形態は、第1の実施の形態と比較して、帯電方式を非接触帯電から接触帯電に変更したものであり、他の構成は第1の実施の形態と同じである。このため、本実施の形態では、第1の実施の形態で得られた作用、効果と同じ作用、効果が得られる。
【0054】
本発明の第3の実施の形態を図8に基づいて説明する。図8は、帯電装置を示す縦断側面図である。
【0055】
本実施の形態の帯電装置15Bでは、コロナ帯電法を採用している。この帯電装置15Bでは、感光体ドラム14と平行に帯電部であるワイヤ38が配設されている。ワイヤ38には直流電圧を印加する電圧印加部(図示せず)が接続されている。ワイヤ38と、ワイヤ38の周囲のコロナ放電が行われる領域と、感光体ドラム14の外周面におけるコロナ放電により発生したイオンが付着することにより帯電される領域とを囲むケース39が設けられている。ケース39には、気体供給部19で作製された気体(窒素富化気体)が供給される供給パイプ37、ケース39内への大気の入り込みを防止するためのシール部材32等が設けられている。
【0056】
このような構成において、本実施の形態においても帯電開始電圧を低くすることができ、感光体ドラム14を必要な帯電電位に帯電させるためにワイヤ38に印加する電圧を大気中でコロナ放電する場合よりも低くすることができる。これにより、コロナ放電による感光体ドラム14に対する衝撃を軽減でき、感光体ドラム14の劣化を抑制でき、帯電のための消費電力を軽減できる。
【0057】
本発明の第4の実施の形態を図9に基づいて説明する。図9は画像形成装置である複写機の概略構造を示す縦断側面図である。
【0058】
画像形成装置である本実施の形態の複写機1Aでは、帯電ローラ18と、感光体ドラム14と、現像装置16と、クリーニング装置17とをカートリッジケース40内に収納したプロセスカートリッジ41が用いられている。プロセスカートリッジ41は、本体ケース2内に着脱可能に装着されている。
【0059】
プロセスカートリッジ41を本体ケース2内に装着することにより、本体ケース2内に設けられている気体供給部19からの気体がケース21内に供給可能となるように気体供給部19とケース21とを接続する接続機構(図示せず)が設けられている。また、プロセスカートリッジ41を本体ケース2内に装着することにより、電圧印加部20からの電圧が帯電ローラ18に印加可能となるように電圧印加部20と帯電ローラ18とを接続する接続機構(図示せず)が設けられている。
【0060】
このような構成において、このプロセスカートリッジ41を用いた複写機1Aでは、プロセスカートリッジ41内の帯電ローラ18の周囲に気体供給部19で作り出した気体(窒素富化気体)が供給され、電圧印加部20から帯電ローラ18に印加される電圧も低くなっているため、第1の実施の形態の複写機1で説明した帯電装置15による作用、効果と同じ作用、効果を奏することができる。
【0061】
また、本実施の形態では、プロセスカートリッジ41を構成する部材のいずれかの部材が寿命に達したり故障したりした場合には、プロセスカートリッジ41を全体として交換する。このため、感光体ドラム14や帯電装置15等の各部材を個々に交換する場合に比べて、各部材の位置関係を一定に維持することができ、感光体ドラム14の帯電性能、現像装置16による現像性能等を良好に維持することができ、安定した画像形成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施の形態の画像形成装置である複写機の概略構造を示す縦断側面図である。
【図2】帯電装置を示す斜視図である。
【図3】帯電装置を示す縦断側面図である。
【図4】帯電装置の一部を示す分解斜視図である。
【図5】コロナ放電が行われる領域の気体における窒素濃度と放電開始電圧との関係、及び、コロナ放電が行われる領域の気体における窒素濃度と感光体ドラムの帯電電位と直流印加電圧との関係を示すグラフである。
【図6】直流電圧に交流電圧を重畳した電圧を印加してコロナ放電を行った場合における、コロナ放電が行われる領域の気体における窒素濃度と、帯電電位が一定になる変曲点における交流電圧のピーク間電圧との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施の形態の帯電装置を示す縦断側面図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態の帯電装置を示す縦断側面図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態の画像形成装置である複写機の概略構造を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0063】
6 露光装置
8 転写装置
14 感光体
15 帯電装置
15A 帯電装置
15B 帯電装置
16 現像装置
18 帯電部
19 気体供給部
20 電圧印加部
21 ケース
34 気体富化膜
38 帯電部
39 ケース
41 プロセスカートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する感光体をコロナ放電により帯電する帯電部と、
放電開始電圧が大気中より低くなる気体をコロナ放電が行われる領域に供給する気体供給部と、
前記感光体をコロナ放電により必要な帯電電位に帯電するために前記帯電部に印加する電圧を、大気中でのコロナ放電により前記感光体を必要な帯電電位に帯電するために前記帯電部に印加する電圧より低い電圧とする電圧印加部と、
を具備する帯電装置。
【請求項2】
放電開始電圧が大気中より低くなる気体は、大気中の酸素の少なくとも一部を窒素とヘリウムとアルゴンとネオンとの少なくとも一つと置換した気体である請求項1記載の帯電装置。
【請求項3】
放電開始電圧が大気中より低くなる気体は、大気中の窒素の少なくとも一部をヘリウムとアルゴンとネオンとの少なくとも一つと置換した気体である請求項1記載の帯電装置。
【請求項4】
前記気体供給部は、大気中の酸素を分離除去する窒素富化膜を備えている請求項2記載の帯電装置。
【請求項5】
酸素を窒素と置換することにより得られた気体の窒素濃度は85%以上である請求項2又は4記載の帯電装置。
【請求項6】
前記帯電部と前記感光体とは接触させて配置され又は非接触に近接配置され、前記帯電部と前記感光体との間の隙間部分が放電領域とされている請求項1ないし5のいずれか一記載の帯電装置。
【請求項7】
前記電圧印加部から印加される電圧は、直流電圧に交流電圧を重畳させた電圧である請求項1ないし6のいずれか一記載の帯電装置。
【請求項8】
前記帯電部と、コロナ放電が行われる領域と、前記感光体の外周面におけるコロナ放電により帯電される領域とを囲むケースを備え、前記気体供給部から供給される気体が前記ケース内に導入される請求項1ないし7のいずれか一記載の帯電装置。
【請求項9】
感光体とこの感光体をコロナ放電により帯電する帯電部とを共に支持して本体ケース内に着脱可能に装着され、前記帯電部の周囲のコロナ放電が行われる領域が気体供給部から供給される気体であって放電開始電圧が大気中より低くなる気体で満たされ、前記感光体をコロナ放電により帯電するために電圧印加部から前記帯電部に印加される電圧が大気中でのコロナ放電により前記感光体を帯電するために前記帯電部に印加される電圧より低い電圧とされるプロセスカートリッジ。
【請求項10】
請求項9記載のプロセスカートリッジと、
放電開始電圧が大気中より低くなる気体を前記プロセスカートリッジ内のコロナ放電が行われる領域に供給する気体供給部と、
前記プロセスカートリッジ内の前記感光体をコロナ放電により帯電するために前記帯電部に印加する電圧を、大気中でのコロナ放電により前記感光体を帯電するために前記帯電部に印加する電圧より低い電圧とする電圧印加部と、
前記プロセスカートリッジ内の前記感光体を画像データに基づいて露光することにより前記感光体に静電潜像を形成する露光装置と、
静電潜像が現像装置により現像されて形成されたトナー画像を記録媒体に転写する転写装置と、
を具備する画像形成装置。
【請求項11】
感光体と、
この感光体を一様に帯電する請求項1ないし8のいずれか一記載の帯電装置と、
一様に帯電された後の前記感光体を画像データに基づいて露光することにより前記感光体に静電潜像を形成する露光装置と、
前記感光体に形成された静電潜像を現像してトナー画像を形成する現像装置と、
現像されたトナー画像を記録媒体に転写する転写装置と、
を有する画像形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−3594(P2006−3594A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179479(P2004−179479)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】