説明

帯電防止チュ−ブ

【課題】 帯電しにくく且つアウトガス量が少なく、継手接続性が良好である帯電防止チューブを提供すること。
【解決手段】 少なくとも内周面が、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエステル系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で80:20〜95:5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、帯電防止機能を有するチューブ(この明細書では帯電防止チューブという)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で配管が使用されているが、重量軽減及び配管作業性を考慮して樹脂製チューブが採用されるようになってきている。
【0003】
しかしながら、流量の多い配管系では、樹脂製のチューブが流体との摩擦により帯電して状況によってはスパークが発生し、樹脂製チューブに孔が空いてしまうような最悪の事態も生じることがある。
【0004】
上記問題を解決する一手段としては、例えば、以下に示すような帯電防止用樹脂チューブ接続構造が開発されている。
【0005】
この帯電防止用樹脂チューブ接続構造は、導電性金属よりなるニップルと、導電性素材を混入した樹脂製のチューブとを、非導電性の樹脂より成るコネクタにより接続する構成において、一端部がニップルの導電性内部に、他端部がチューブの内面に、それぞれ電気的接続状態に接触するアースを具備させるようにしたものである(例えば、特許文献1。)。この説置帯電防止用樹脂チューブ接続構造によると、樹脂チューブに電荷が蓄積されることがほとんどないので、上記のような最悪の事態は発生しないことになる。
【0006】
しかしながら、この接続構造を使用する場合、アースの取り付けをしなければならないという面倒さがあり、また、万一アースの使用を忘れた場合にはスパークが発生するという問題がある。
【0007】
そこで、わが社では樹脂製であっても帯電しにくいチューブを開発すべく、高分子型帯電防止剤を添加した樹脂により樹脂製チューブを成形することに着目し、その上で継手接続性が良好で且つ所謂クリーンルーム内でも使用できるアウトガス量が少ない樹脂チューブの開発に取りかかった。
【特許文献1】特開2001−141170号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこでこの発明では、帯電しにくく且つアウトガス量が少なく、継手接続性が良好である帯電防止チューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1記載の発明)
この発明の帯電防止チュ−ブは、少なくとも内周面が、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエステル系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で80:20〜95:5である。
【0010】
(請求項2記載の発明)
この発明の帯電防止チュ−ブは、少なくとも内周面が、ポリエチレンオキシドとアミド系の共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエステル系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で80:10〜95:2.5である。
【0011】
(請求項3記載の発明)
この発明の帯電防止チュ−ブは、少なくとも内周面が、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエチレン系樹脂組成物より形成されており、前記(ポリエチレン系樹脂):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で90:10〜93:7である。
【0012】
(請求項4記載の発明)
この発明の帯電防止チュ−ブは、上記請求項1乃至3のいずれかに記載の発明に関し、チュ−ブ内周面の表面抵抗率が1.0E+11Ω以下であり、且つ1時間当りのアウトガス量が550μg/m2 以下である。
【発明の効果】
【0013】
この発明の帯電防止チューブによると、帯電しにくく且つアウトガス量が少なく、継手接続性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下にこの発明の帯電防止チューブを実施するための最良の形態としての実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
(この実施1の帯電防止チューブについて)
この帯電防止チュ−ブは、少なくとも最内層が、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエステル系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比でX:Yに設定されている。なお、前記X:Y=95:5(試料1)/90:10(試料2)/80:20(試料3)の三種類の試料を用意している。
【0016】
ここで、チューブ基材となるポリエステル系エラストマーとしては、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーであり、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体としては、ポリエチレン系/ポリエーテル、ポリプロピレン系/ポリエーテル等が挙げられる。
【0017】
なお、この実施例1においては具体的には、上記ポリエステル系エラストマーとしては東レデュポン株式会社「ハイトレル5077(登録商標、以下同じ)」を使用しており、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤としては三洋化成工業株式会社「ペレスタット300(登録商標、以下同じ)」を使用している。ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体があるが、ブロック共重合体が特に好ましい。実施例3においても同様である。 上記帯電防止チュ−ブは、「ハイトレル5077」と「ペレスタット300」とを混合機により30分程度混合し、その後、スクリュータイプの押出機により混練しながらダイを介してノズルから吐出させるようにして製造する。この際の押出機の入口付近の温度は215℃程度−中程から出口付近の温度は225〜230℃程度−ダイの入口付近の温度は235℃−ダイの出口付近の温度は230℃程度に設定してある。
【0018】
(この実施1の帯電防止チューブの性能試験について)
上記の方法により製造した外径8mm×内径6mmの三種類の帯電防止チュ−ブを用いて、(1) 帯電性試験(チューブにおける表面抵抗率の測定)、(2) クリーン性能試験(アウトガスの量の測定)、(3) 継手接合性(継手に接続したときの割れを見る試験)を行った。
【0019】
「試験方法」
(1) 帯電性試験
図4に示すように、円筒形の黄銅電極をチューブの内面に密着するよう深さ10mmだけチューブの両端から挿入する。この際の測定値を下記式によって表面抵抗率に換算する。
【0020】
表面抵抗率(Ω)=測定抵抗値(Ω)×(チューブ内径×3.14)/(チューブサ ンプル長さ−電極挿入深さ)
測定器はアドバンテスト株式会社「デジタル超抵抗計R8340」であり、印加電圧500V、印加時間1分である。
【0021】
なお、この試験の判定は、表面抵抗率が1.0E+11Ω以上であれば使用不可(×)とし、それ以下であれば使用可(○)とする。
【0022】
(2) クリーン性能試験
a.カットした試料チューブの両端に、アウトガス発生量が1ng以下になるように洗浄したSUS316製のキャップを取り付け、チューブの剥き出し部100mmとなるような試料1、2、3を作成する。
b.上記試料1を、充分に洗浄した直径175mm、深さ50mmの円筒形SUS容器内に収容する。
c.図5に示すように、窒素ガスボンベからの高純度窒素ガス(99.9995%)を流量計→活性炭フィルタ→円筒形SUS容器(内部に試料1を有する)→捕集管(吸着剤充填硝子管)の経路で気密状態で流すべく配管する。そして、試料1から発生する揮発成分を前記高純度窒素ガスでパージし、捕集管に充填した吸着剤(Akzo RESEARCH LABORATORY社、TenaxGR)で捕集する。
d.捕集した成分をガスクロマトグラフ質量分析計サーマルデソープション法により定性定量を行った。なお、定量にあたっては、ピーク面積をトルエン換算値として求めた。
【0023】
これらの試験は試料2、3についても行う。ガス捕集条件は、温度25℃において、窒素ガスパージ量300ml/min下で1時間行う。
なお、この試験の判定は、吸着材で捕集されたアウトガス量が550μg/m2 (ポリオレフィン系樹脂に対して帯電防止剤無添加時において吸着材で捕集されたアウトガス量)を越える場合は使用不可(×)とし、それ以下であれば使用可(○)とする。実施例2,3も同じ。
【0024】
(3) 継手接合性
試料1、2、3に対して、−50℃から80℃の冷熱サイクルを5回繰り返した後、挿入端部の直径5.9mm、最大直径6.8mmの継手を試料1、2、3に挿入し、割れが発生した場合には使用不可(×)とし、発生しない場合には使用可(○)とする。
【実施例2】
【0025】
この帯電防止チュ−ブは、ポリプロピレン系樹脂及び、ポリエチレンオキシドとアミド系の共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエステル系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤):(ポリプロピレン系樹脂)の割合は重量比でX1:Y1:Y2に設定されている。なお、前記X1:Y1:Y2=95:2.5:2.5(試料4)/90:5:5(試料5)/80:10:10(試料6)の三種類の試料を用意している。
【0026】
ここで、チューブ基材となるポリエステル系エラストマーは実施例1と同様である。
【0027】
ポリエチレンオキシドとアミド系の共重合体である高分子型帯電防止剤としては、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドイミド等が挙げられる。
【0028】
なお、この実施例2においては具体的には、上記ポリエステル系エラストマーとしては東レデュポン株式会社「ハイトレル5077」を使用しており、(ポリプロピレン系樹脂及び、ポリエチレンオキシドとアミド系の共重合体である高分子型帯電防止剤)としては丸菱油化工業株式会社「デノンMB50P(登録商標、以下同じ)」を使用している。
【0029】
上記帯電防止チュ−ブの製造方法、帯電防止チューブの性能試験については、実施例1と同様である。
【0030】
なお、この実施例2ではポリプロピレン系樹脂を含めて帯電防止チューブを形成しているが、前記ポリプロピレン系樹脂はバインダーとしての機能を果たしているだけであるから、ポリプロピレン系樹脂を含めなくても同等の機能を奏すると考えられる。すなわち、基本的には(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤)の割合を重量比でX1:Y1=95:2.5/90:5/80:10でもよい。
【0031】
また、上記ポリプロピレン系樹脂には、低分子量物が20%程度含まれているが、前記低分子量物を取り除いた場合にはその溶出が非常に少なく、アウトガス性能が大きく向上することが確認できた。
【実施例3】
【0032】
この帯電防止チュ−ブは、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエチレン系樹脂組成物より形成されており、前記(ポリエチレン系樹脂):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比でX2:Y3に設定されている。なお、前記X2:Y3=95:5(試料7)/90:10(試料8)/80:20(試料9)の三種類の試料を用意している。
【0033】
ここで、チューブ基材となるポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられ、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体としては、実施例1と同様である。
【0034】
なお、この実施例3においては具体的には、上記ポリオレフィン系樹脂としては日本ユニカー株式会社「GS650」を使用しており、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤としては三洋化成工業株式会社「ペレスタット300」を使用している。
【0035】
上記帯電防止チュ−ブは、「GS650」と「ペレスタット300」とを混合機により30分程度混合し、その後、スクリュータイプの押出機により混練しながらダイを介してノズルから吐出させるようにして製造する。この際の押出機の入口付近の温度は185℃程度−中程から出口付近の温度は195〜200℃程度−ダイの入口付近の温度は200℃−ダイの出口付近の温度は200℃程度に設定してある。上記帯電防止チュ−ブの製造方法、帯電防止チューブの性能試験については、実施例1と同様である。
【0036】
〔試料1〜試料9の試験結果について〕
(1) 帯電性試験
実施例1の試料1〜3の表面抵抗率を見ると、いづれの表面抵抗率も1.0E+11Ω以下であり、試料1〜3は(○)と判断した(図1参照)。
実施例2の試料4〜6の表面抵抗率からして、試料4〜6は(○)と判断した(図2参照)。
実施例3の試料7〜9の表面抵抗率からして、試料7は(×)、試料8、9は(○)と判断した(図3参照)。
【0037】
(2) クリーン性能試験
試料1〜9の全てにおいて吸着材で捕集されたアウトガス量は550μg/m2 以下であるので、クリーン性能試験に関しては試料1〜9の全てが(○)と判断した。
【0038】
(3) 継手接合性
試料1〜9のうち試料9のみに割れが発生したので、その他の試料1〜8は(○)と判断した。
【0039】
(4) 総合判定
以上の(1) 〜(3) より試料7、9は(×)と、試料1、2、3、4、5、6及び試料8は(○)と判断した。これについて、図6に示す。
【0040】
なお、実施例3における帯電性試験の結果を示した図3のグラフからも明らかなように、(ポリエチレン系樹脂):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で90:10〜93:7であれば、判定は(○)になることが判る。
【0041】
また、実施例1においては上記効果が十分に発揮されるべく、(ポリエチレン系樹脂):(高分子型帯電防止剤)の割合を重量比で80:20〜95:5としているが、図1のグラフからすると、80:20〜96:4程度であっても判定は(○)になると予想できる。
【0042】
更に、実施例2においては上記効果が十分に発揮されるべく、(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で80:10〜95:2.5としているが、図2のグラフからすると、80:10〜96:2程度であっても判定は(○)になると予想できる。
【0043】
(他の形態について)
上記実施例1ではチューブ基材としてポリエステル系エラストマーを挙げたが、これをポリウレタン系エラストマー又はポリアミド系エラストマーに置き換えた場合でも同等の機能を発揮する。
【0044】
すなわち、帯電防止チューブの構成を、「少なくとも内周面が、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリウレタン系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリウレタン系エラストマー):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で80:20〜95:5」とすればよい。
【0045】
また、帯電防止チューブの構成を、「少なくとも内周面が、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリアミド系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリアミド系エラストマー):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で80:20〜95:5」とすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1の試料1〜3の帯電性試験の結果を示すグラフ。
【図2】実施例1の試料4〜6の帯電性試験の結果を示すグラフ。
【図3】実施例1の試料7〜9の帯電性試験の結果を示すグラフ。
【図4】帯電性試験に使用した装置の説明図。
【図5】クリーン性能試験に使用したフロー図。
【図6】実施例1〜3の試料1〜9の総合判定を示す表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内周面が、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエステル系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で80:20〜95:5であることを特徴とする帯電防止チュ−ブ。
【請求項2】
少なくとも内周面が、ポリエチレンオキシドとアミド系の共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエステル系エラストマー組成物より形成されており、前記(ポリエステル系エラストマ−):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で80:10〜95:2.5であることを特徴とする帯電防止チュ−ブ。
【請求項3】
少なくとも内周面が、ポリオレフィン/ポリエーテル共重合体である高分子型帯電防止剤を含有するポリエチレン系樹脂組成物より形成されており、前記(ポリエチレン系樹脂):(高分子型帯電防止剤)の割合は重量比で90:10〜93:7であることを特徴とする帯電防止チュ−ブ。
【請求項4】
チュ−ブ内周面の表面抵抗率が1.0E+11Ω以下であり、且つ1時間当りのアウトガス量が550μg/m2 以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の帯電防止チュ−ブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−220232(P2006−220232A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34983(P2005−34983)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000247258)ニッタ・ムアー株式会社 (61)
【Fターム(参考)】