説明

帯電防止剤及び導電性熱可塑性樹脂

【課題】熱可塑性樹脂の帯電防止を容易かつ安価に実現する。
【解決手段】ポリプロピレンのペレット70重量%に、粒径10〜30μmのフライアッシュ25重量%と相溶化剤5重量%とを加えて、タンブラ等で混合する。この混合したものを、160〜260℃程度の溶融温度に加熱しつつ、スクリュー式押出機から押出してストランドを生成する。このストランドをコンベア上で移動させつつ冷却する。表面が冷却したストランドを、回転式カッターによって、所定の長さのペレットに切断する。ペレットの体積抵抗率は、10〜1010Ωcmであり、優れた帯電防止効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の帯電を防止する帯電防止剤、及び導電性熱可塑性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、ポリエチレンやプロピレン等の熱可塑性樹脂からなる多くの種類の
合成樹脂製品が、多量に製造され使用されている。しかるにポリエチレンやプロピレン等は、優れた絶縁性を示すが、その反面、静電気が帯電し易いという特性を有し、これにより問題を生じさせる。
【0003】
例えば熱可塑性樹脂を押出し成形してストランドを成形し、このストランドを切断機によって切断してペレット化する際に、ペレット同士が擦れて静電気を帯び、これによってペレットが塊状に密着して分離が困難となる。また熱可塑性樹脂によってシートを製造する際に、シート同士が静電気によって密着して、引き剥がし等の取り扱いが不便となる。さらには、製品熱可塑性樹脂製からなる絶縁部品を電子部品等に使用したときに、この絶縁部品が帯電すると、塵や埃等が付着するだけでなく、精密な電子部品等の電気的特性を損なう場合もある。
【0004】
そこで熱可塑性樹脂等からなる樹脂製品について、帯電防止剤が各種提案されている。例えば熱可塑性樹脂等に界面活性剤を混入し、表面にブリードする界面活性剤の親水性等によって、導電性を発揮させるものがある(例えば特許文献1参照。)。また熱可塑性樹脂等に、カーボンや導電性金属の粉末や繊維を混入して、導電性を発揮させるものがある(例えば特許文献2参照。)。
【0005】
ところで熱可塑性樹脂の製品等については、剛性や強度等を向上させるために、無機フィラーを混入することが広く行なわれている。この無機フィラーとしては、炭酸カルシウムやタルク等の他に、微粉炭燃焼ボイラーの燃焼ガスから集塵機によって回収したフライアッシュを混入する手段が提案されている(例えば特許文献3及び4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−170952号公報(7頁等。)
【特許文献2】特開平05−93184号公報(2頁等。)
【特許文献3】特開平06−170952号公報(8頁等。)
【特許文献4】特開2003−48268号公報(5頁等。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに上述した手段には、いずれも改良すべき課題がある。すなわち電防止剤として、熱可塑性樹脂等に界面活性剤を混入する手段では、表面にブリードした界面活性剤に水分が付着して、絶縁性が低下する。また高純度の薬品等の収納容器において、界面活性剤が表面にブリードすると、高純度の薬品等が汚染されてしまう。また帯電防止剤として、カーボンや導電性金属の粉末や繊維を混入する手段では、帯電防止効果を上げるために混入量を増加させると、衝撃強度等の低下や、コストが増加するという問題がある。
【0008】
そこで本発明の目的は、熱可塑性樹脂の帯電を防止するために、低コストの帯電防止剤、及び導電性熱可塑性樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、合成樹脂の機械的強度を向上するために充填剤として使用されているフライアッシュ等の石炭灰を、相溶化剤(改質剤)と共に熱可塑性樹脂に混入すると、優れた帯電防止効果を発揮することを見出し、この知見に基づき本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明による帯電防止剤の特徴は、微粉炭燃焼ボイラーで生じる石炭灰90〜97重量%に対して、相溶化剤を3〜10重量%含有することにある。
【0011】
また本発明による導電性熱可塑性樹脂の特徴は、熱可塑性樹脂10〜87重量%に対して、微粉炭燃焼ボイラーで生じる石炭灰を10〜80重量%、及び相溶化剤を3〜10重量%含有することにある。
【0012】
ここで「微粉炭燃焼ボイラーで生じる石炭灰」とは、火力発電所等で使用されている微粉炭燃焼ボイラーの燃焼ガスから、集塵器で採取された「フライアッシュ」、及び微粉炭燃焼ボイラーの炉底に落下採取された「クリンカ」を意味する。いずれもSiO、Al、Fe、CaO、MaO、SO等の成分を含有する微粉末である。また「微粉炭燃焼ボイラーで生じる石炭灰」には、「フライアッシュ」または「クリンカ」がそれぞれ単独の場合の他、両者を混合したものも含む。なお石炭灰の平均粒径は、10〜30μm程度が望ましい。
【0013】
「相溶化剤」とは、異種高分子を機械的に混合してポリマアロイを生成するときに、これらの異種高分子の共重合体を形成するための添加剤を意味するが、本発明においては、熱可塑性樹脂に混合する石炭灰を、この熱可塑性樹脂に均一に分散させるための添加剤を意味する。例えば、日本ポリケム社製のADTEX ER320P、ER333F−2、ER353LA、ER313E−1,旭化成株式会社製のタフテックP2000、H1043、三菱化学株式会社製のモディクP533A,P502,P565、P908A、及びH511L112Aが該当する。「相溶化剤3〜10重量%」としたのは、3重量%未満では、帯電防止効果が不足するためであり、10重量%を超えると、帯電防止効果の増加が頭打ちになるからである。
【0014】
また「導電性熱可塑性樹脂」とは、静電気が帯電しない程度の導電性を有する熱可塑性樹脂を意味し、具体的には体積導電率が10〜1010Ωcm程度、望ましくは10〜1010Ωcmの熱可塑性樹脂を意味する。また「熱可塑性樹脂」とは、熱を加えると溶融流動して可塑性を発揮し、冷却すると固化する有機高分子材を意味する。例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂及びその共重合体、ポリスチレン及びその共重合体、塩化ビニール樹脂及びその共重合体、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド系樹脂やポリカーボネート、メタクリル樹脂等のエンジニアリングプラスチック、並びに熱可塑性エラストマが該当する。
【0015】
「石炭灰を10〜87重量%」としたのは、10重量%未満では、帯電防止効果が不足するためであり、87重量%を超えると、熱可塑性樹脂との混練が困難となったり、成形品が脆くなったりするからである。なお本発明による導電性熱可塑性樹脂を、そのまま成形品と使用する場合には、熱可塑性樹脂の含有率を増やすべく、石炭灰を10〜50重量%に減らすことが望ましく、さらに石炭灰を10〜30重量%に減らすことが望ましい。「相溶化剤3〜10重量%」としたのは、3重量%未満では、帯電防止効果が不足するためであり、10重量%を超えると、帯電防止効果の増加が頭打ちになるからである。
【発明の効果】
【0016】
熱可塑性樹脂に、充填剤として石炭灰を混合して、これに少量の相溶化剤を加えることによって、剛性や曲げ強度等の機械的特性を増強できると共に、他の帯電防止剤を付与することなく、優れた帯電性を発揮させることができる。なお熱可塑性樹脂に、石炭灰だけを混合しても、帯電性は発揮しない。併せて相溶化剤を加えることが必須の条件である。
【0017】
石炭灰であるフライアッシュ及びクリンカアッシュは、火力発電所等から大量に廃棄されるため、入手が容易である。また入手コストも、他の充填剤であるタルクの数分の1以下、あるいは炭酸カルシウムの1.5分の1以下であるため、極めて安価に入手できる。さらに従来技術のように、帯電防止のために、表面活性剤や金属等の導電性の充填物を混合する必要がなくなるため、その分コストを低下させることが可能となり、絶縁性や機械的強度の低下等の、従来技術における問題を解消することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による帯電防止剤は、例えば平均粒径10〜30μmのフライアッシュ95重量%に、相溶化剤を5重量%混合、攪拌して生成する。本発明による導電性熱可塑性樹脂は、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンのペレット70重量%に、粒径10〜30μmのフライアッシュ25重量%と、相溶化剤5重量%とを加えて、タンブラ等で混合する。この混合したものを、160〜260℃程度の溶融温度に加熱しつつ、スクリュー式押出機から押出してストランドを生成する。このストランドをコンベア上で移動させつつ冷却する。表面が冷却したストランドを、回転式カッターによって、所定の長さのペレットに切断する。
【実施例】
【0019】
ポリプロピレン(サンアロマー株式会社の製品「サンアロマーPM900A」)70重量%に、粒径10〜30μmのフライアッシュ25重量%、及び相溶化剤(三菱科学株式会社の製品「モディック908」又は花王株式会社の製品「EBFF」)5重量%を加えて混合し、この混合したものを、160〜260℃程度の溶融温度に加熱しつつ、スクリュー式押出機から押出してストランドを生成した。このストランドをコンベア上で移動させつつ冷却して、表面が冷却したストランドを、回転式カッターによって、所定の長さのペレットに切断した。
【0020】
ペレットの導電性を計測した結果、体積抵抗率は、10〜1010Ωcmであった。ポリプロピレン自体の体積抵抗率は、1016Ωcmであるため、本発明による導電性熱可塑性樹脂は、優れた帯電防止効果を有することが確認された。
【0021】
なおポリプロピレンに石炭灰だけを混合し、相溶化剤を混合しない場合には、上述したような体積抵抗率の低下は生じなかった。したがって帯電防止効果を得るためには、相溶化剤の存在が必要であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0022】
熱可塑性樹脂について、容易かつ低コストに帯電防止効果を得ることができるため、合成樹脂に関する産業に広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉炭燃焼ボイラーで生じる石炭灰90〜97重量%に対して、相溶化剤を3〜10重量%含有する
ことを特徴とする帯電防止剤。
【請求項2】
熱可塑性樹脂10〜87重量%に対して、微粉炭燃焼ボイラーで生じる石炭灰を10〜80重量%、及び相溶化剤を3〜10重量%含有する
ことを特徴とする導電性熱可塑性樹脂。

【公開番号】特開2010−254921(P2010−254921A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109768(P2009−109768)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(506360778)
【出願人】(591152791)株式会社JPハイテック (5)
【出願人】(390027661)株式会社金澤製作所 (29)
【Fターム(参考)】