説明

帯電防止性アクリル樹脂組成物の製造方法

【課題】優れた帯電防止性能、着色性および外観を有するアクリル樹脂組成物を製造する方法を提供することである。
【解決手段】(a)ポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶液、(b)明細書に記載した一般式(1),(2)で表されるオキシアルキレン化合物、(c)明細書に記載した一般式(3)で表される有機スルホン酸塩、(d)アントラキノン染料、(e)10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物、(f)10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物を明細書に記載した割合で含むメタクリル酸メチル系シロップを注型重合法により重合させて、着色された帯電防止性アクリル樹脂組成物を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注型重合法により着色された帯電防止性アクリル樹脂組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、重合開始剤を含むメタクリル酸メチル系シロップをセルや鋳型等に注入して重合させ、メタクリル樹脂成形体を製造する方法は、注型重合法または鋳型重合法として知られている。注型重合法により得られるメタクリル樹脂成形体は、高い透明性、表面硬度および耐久性を有すると共に、簡単に着色できるので、例えば看板、ディスプレイ、照明カバー、クリーンルーム等のパーティション等に幅広く使用されている。ちなみに、これらの用途では、スモーク色、ガラス色等の意匠性を考慮した半透明色が好まれる傾向にある。
【0003】
ところが、メタクリル樹脂成形体は、接触または摩擦等で誘起された静電気を帯び易く、使用中の樹脂表面にゴミや埃等が付着して外観を損ねる問題がある。このため、従来から、メタクリル樹脂成形体に帯電防止性能を付与してゴミや埃等の付着を防止する方法が種々検討されている。
【0004】
例えば特許文献1には、メタクリル樹脂成形体にスルホン酸塩、アルカリ金属塩、オキシアルキレン化合物等を加えて、帯電防止性能を発現させることが記載されている。この特許文献1によると、添加するオキシアルキレン化合物を5〜20重量%添加するため、得られた注型重合成形品の帯電防止性能は高く、広い範囲で使用可能である。
【0005】
しかし、特許文献1では重合開始剤としてアゾ化合物を用いているが、一般的なアゾ化合物を用いると、注型重合中に注型重合成形品とセルとの間に剥離が起こり、型形状の転写性が悪くなるという問題がある。この問題は、600mm角以上の大型ガラス板と塩化ビニル製ガスケットとからなるセルを用いる場合に顕著である。
【0006】
そのため、アゾ化合物に代えて有機過酸化物を用いる必要がある。ここで、注型重合法における染料としては、一般にアントラキノン染料が用いられるが、重合開始剤として有機過酸化物を用いると、注型重合中にアントラキノン染料が有機過酸化物と反応するので、発色性能が低下する。したがって、特許文献1に記載されている方法では、注型重合法により、着色された所望の帯電防止性アクリル樹脂組成物を製造することができない。
【0007】
特許文献2には、メチルメタクリレートを主成分とするアクリル系単量体と所定のスルホン酸塩との共重合体等からなる帯電防止性樹脂組成物が記載されている。特許文献2によると、この帯電防止性樹脂組成物を注型重合法で調製する際の重合開始剤として、過酸化ラウロイルを用いている。
しかしながら、このような重合開始剤を用いて得られる樹脂組成物は、十分な着色性が得られないという問題がある。
【0008】
特許文献3には、メチルメタアクリレートを主体とする重合体、所定のオキシアルキレン化合物、無機塩、有機スルホン酸塩からなる帯電防止性アクリル樹脂組成物が記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3では、この帯電防止性アクリル樹脂組成物を注型重合法により得ており、その際用いる重合開始剤に一般的なアゾ化合物を用いている。したがって、特許文献3に記載されている帯電防止性アクリル樹脂組成物には、前記した特許文献1と同じ問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開平4−209646号公報
【特許文献2】特開昭59−182838号公報
【特許文献3】特開平6−184391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、優れた帯電防止性能、着色性および外観を有するアクリル樹脂組成物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)メタクリル酸メチル系シロップを注型重合法により重合させてアクリル樹脂組成物を製造する方法であって、前記メタクリル酸メチル系シロップが、下記(a)成分〜(f)成分を含むことを特徴とする、着色された帯電防止性アクリル樹脂組成物の製造方法。
(a)ポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶液を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して95.2〜99重量部
(b)下記一般式(1)または(2)で表されるオキシアルキレン化合物を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して1〜4.8重量部
【化4】

(式中、R1およびR2は、それぞれ同一または異なる基であって、水素または炭化水素基を示す。Xは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。mは、数平均で1〜35の整数を示す。)
【化5】

(式中、R3およびR4は、それぞれ同一または異なる基であって、炭化水素基を示す。Yは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。nは、数平均で1〜35の整数を示す。)
(c)下記一般式(3)で表される有機スルホン酸塩を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して0.5〜5重量部
【化6】

(式中、Aは、有機基を示す。Mは、アルカリ金属、アンモニウム、アミン基または4級アンモニウム基を示す。)
(d)アントラキノン染料を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して0.0001〜0.1000重量部
(e)10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物を、(a)成分100重量部に対して0.01〜0.10重量部
(f)10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物を、(a)成分100重量部に対して0.01〜0.10重量部
【0013】
(2)前記(a)成分におけるメタクリル酸メチル溶液が、メタクリル酸メチル系モノマーの部分重合物単独、又はこの部分重合物とメタクリル酸メチル系モノマーとの混合物である前記(1)記載の製造方法。
(3)前記メタクリル酸メチル系シロップが、さらに無機塩を含む前記(1)または(2)記載の製造方法。
(4)前記メタクリル酸メチル系シロップが、前記無機塩を、該無機塩に対して溶解性を有する溶媒と共に含む前記(3)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
前記(1)によれば、(a)メタクリル酸メチル溶液、(b)オキシアルキレン化合物、(c)有機スルホン酸塩、(d)アントラキノン染料を特定の割合で含むメタクリル酸メチル系シロップを注型重合法により重合させる際の重合開始剤として、(e)10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物、(f)10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物を特定の割合で併用して用いる。これにより、得られるアクリル樹脂組成物(メタクリル樹脂成形体・注型重合成形品)が、優れた帯電防止性能、着色性を有すると共に、収縮(いわゆるヒケ)の発生が少なく、外観にも優れたものになるという効果がある。
【0015】
前記(2)によれば、前記(a)成分におけるメタクリル酸メチル溶液が、メタクリル酸メチル系モノマーの部分重合物単独、又はこの部分重合物とメタクリル酸メチル系モノマーとの混合物であるので、メタクリル酸メチル系シロップに適度な粘度を付与することができ、メタクリル酸メチル系シロップをセルへ注入する際の作業性を向上することができる。
前記(3)によれば、前記メタクリル酸メチル系シロップが、さらに無機塩を含むので、得られるアクリル樹脂組成物の帯電防止性をより向上することができる。
前記(4)によれば、前記メタクリル酸メチル系シロップが、前記無機塩を、該無機塩に対して溶解性を有する溶媒と共に含むので、無機塩の溶解性を高めることができ、これにより得られるアクリル樹脂組成物の帯電防止性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかる帯電防止性アクリル樹脂組成物の製造方法は、下記(a)成分〜(f)成分を含むメタクリル酸メチル系シロップを注型重合法により重合させてアクリル樹脂組成物を製造する方法である。
(a)ポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶液
(b)オキシアルキレン化合物
(c)有機スルホン酸塩
(d)アントラキノン染料
(e)10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物
(f)10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物
【0017】
[(a)成分]
ポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶液としては、例えばメタクリル酸メチル系モノマーの部分重合物単独、又はこの部分重合物とメタクリル酸メチル系モノマーとの混合物、さらにメタクリル酸メチル系モノマーの重合物とメタクリル酸メチル系モノマーとの混合物等が挙げられる。前記メタクリル酸メチル系モノマーの部分重合物とは、メタクリル酸メチル系モノマーを部分重合させることにより、メタクリル酸メチル系モノマーの一部が重合し、未反応のモノマー中に分散された部分重合物のことを意味する。
【0018】
前記メタクリル酸メチル系モノマーとは、メタクリル酸メチルを主成分とするモノマーであって、メタクリル酸メチル単独であってもよいし、メタクリル酸メチルおよびこれと共重合可能な不飽和結合を有する共重合性モノマーとの混合物であってもよい。
【0019】
前記共重合性モノマーとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、スチレン、シクロヘキシルマレイミド、アクリロニトリル等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いられる。共重合性モノマーを用いる場合には、その使用量は、メタクリル酸メチルおよび共重合性モノマーの合計量100重量部のうち、通常、35重量部以下であるのが好ましい。
【0020】
メタクリル酸メチル系モノマーの部分重合物を得る工程では、アントラキノン染料を添加しないため、従来公知の重合開始剤を使用することが出来る。
【0021】
前記重合開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(4−メチルクモール)、1、1’−アゾビス(4−イソプロピルクモール)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等のアゾ系開始剤及びラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシアセテート等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。
【0022】
部分重合における重合開始剤の使用量は、モノマーに対して、通常、5ppm〜100ppm程度である。部分重合における重合温度は、モノマーや重合開始剤の種類、使用量等により異なるが、通常、60℃〜90℃程度である。部分重合させることにより、メタクリル酸メチル系モノマーの一部が重合し、重合体となってモノマー中に分散された部分重合物を得ることができる。前記重合体の粘度平均分子量としては、例えば50万〜300万程度であり、この重合体を、メタクリル酸メチル系モノマー100重量部に対して0.1〜10重量部程度の割合で含有するのがよい。
【0023】
メタクリル酸メチル系シロップにおける部分重合物の重合度および粘度は、セルへ注入する際の作業性を考慮して適宜選択される。例えば部分重合物の含有量が多いほど、また重合度が高いほど、メタクリル酸メチル系シロップの粘度が高くなり、部分重合物の含有量が低いほど、また重合度が低いほど、粘度は低くなる。
【0024】
ここで、本発明にかかるメタクリル酸メチル系シロップは、前記したポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶液を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して95.2〜99重量部の割合で含有する。これに対し、前記割合が95.2重量部より少ないと、得られるメタクリル樹脂成形体にヒケが発生しやすくなり、外観が低下する。また、99重量部より多いと、メタクリル樹脂成形体の帯電防止性が低下する。
【0025】
[(b)オキシアルキレン化合物]
本発明の製造方法に用いるオキシアルキレン化合物は、上記一般式(1)または(2)で表されるオキシアルキレン化合物である。このようなオキシアルキレン化合物を添加すると、得られるメタクリル樹脂成形体に親水性を付与することができ、これにより帯電防止性能を向上することができる。
【0026】
ここで、一般式(1)中において、前記R1およびR2は、それぞれ同一または異なる基であって、水素または炭化水素基を示すものであり、該炭化水素基としては、例えば炭素数が20以下のアルキル基やアリール基等が挙げられ、特に、R1の炭素数およびR2の炭素数の合計炭素数が20以下となるような炭化水素基が好ましく、そのような炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、ノニルフェニル基等が挙げられる。
【0027】
また、前記Xは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基(アルキレンオキサイド基)を示し、該オキシアルキレン基としては、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等が挙げられる。
【0028】
前記mは、数平均で1〜35の整数を示す。これに対し、mが1未満であると、帯電防止性能が発現しにくく、mが35より大きくなると、メチルメタアクリレート単量体に溶解しにくく、得られた樹脂の透明性が悪くなる。このような一般式(1)で表されるオキシアルキレン化合物の具体例としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、これらの末端アルコキシ変性体や末端アリールオキシ変性体等が挙げられ、平均分子量としては、特に限定されないが、通常、100〜500程度であるのが好ましい。
【0029】
一般式(2)中において、前記R3およびR4は、それぞれ同一または異なる基であって、炭化水素基を示すものであり、該炭化水素基としては、前記R1およびR2において例示したものと同じ炭化水素基を例示することができる。また、前記Yは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示すものであり、該オキシアルキレン基としては、前記Xにおいて例示したものと同じオキシアルキレン基を例示することができる。前記nは、数平均で1〜35の整数を示すものであり、この理由としては、前記mにおいて挙げた理由と同じ理由が挙げられる。一般式(2)で表されるオキシアルキレン化合物の具体例としては、例えば末端アシル変性ポリエチレングリコール、末端アシル変性ポリプロピレングリコール、末端アシル変性ポリブチレングリコール等が挙げられ、平均分子量としては、特に限定されないが、通常、100〜500程度であるのが好ましい。このような一般式(1)または(2)で表されるオキシアルキレン化合物は、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0030】
ここで、本発明にかかるメタクリル酸メチル系シロップは、前記したオキシアルキレン化合物を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して1〜4.8重量部の割合で含有する。これに対し、前記割合が1重量部未満であると、帯電防止性能が充分発現しない。また、4.8重量部を超えると、注型重合中に注型重合成形品とセルとの間に剥離が起こりやすく、型形状の転写性が悪くなる。
【0031】
[(c)有機スルホン酸塩]
本発明の製造方法に用いる有機スルホン酸塩は、上記一般式(3)で表される有機スルホン酸塩である。このような有機スルホン酸塩を添加すると、得られるメタクリル樹脂成形体に親水性を付与することができ、これにより帯電防止性能を向上することができる。
【0032】
ここで、一般式(3)中において、前記Aは、有機基を示すものであり、該有機基としては、例えばドデシルベンゼン、ヘキサデシル、p−トルエン等の炭化水素基、有機カルボン酸エステル基等が挙げられる。前記Mは、アルカリ金属、アンモニウム、アミン基または4級アンモニウム基を示すものであり、前記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、前記4級アンモニウム基としては、例えば基:−N(CH34、−N(C494で表されるもの等が挙げられる。
【0033】
より具体的には、前記Aが炭化水素基である有機スルホン酸塩としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、前記Aが有機カルボン酸エステル基である有機スルホン酸塩としては、例えば下記一般式(4)で表されるスルホコハク酸エステル塩類等が挙げられる。
【0034】
【化7】

(式中、R5およびR6は、それぞれ同一または異なる基であって、炭素数1〜18の飽和または不飽和の炭化水素基を示す。Zは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。pおよびqは、数平均で0〜35の整数を示す。M1は、アルカリ金属、アンモニウム、アミン基または4級アンモニウム基を示す。)
【0035】
前記一般式(4)中において、前記炭素数1〜18の飽和または不飽和の炭化水素基としては、例えばジオクチル基、アリルトリデシル基等が挙げられ、前記炭素数2〜4のオキシアルキレン基としては、例えば前記Xにおいて例示したものと同じオキシアルキレン基を例示することができ、前記アルカリ金属および4級アンモニウム基としては、例えば前記Mにおいて例示したものと同じアルカリ金属および4級アンモニウム基を例示することができる。このような一般式(4)で表されるスルホコハク酸エステル塩類は、例えば特開昭59−182838号公報に開示されているものが採用可能であり、具体例としては、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アリルトリデシルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。
【0036】
特に、本発明では、前記で例示した有機スルホン酸塩のなかでも、前記Aが有機カルボン酸エステル基のものが好ましく、前記一般式(4)で表されるスルホコハク酸エステル塩類がより好ましい。また、例示した有機スルホン酸塩は、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0037】
ここで、本発明にかかるメタクリル酸メチル系シロップは、前記した有機スルホン酸塩を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して0.5〜5重量部の割合で含有する。これに対し、前記割合が0.5重量部未満であると、帯電防止効果が充分発現しない。また、5重量部を超えると、注型重合中に注型重合成形品とセルとの間に剥離が起こり、型形状の転写性が悪くなる。
【0038】
[(d)アントラキノン染料]
本発明の製造方法に用いるアントラキノン染料としては、特に限定されないが、例えば下記一般式(5)で表されるアントラキノン化合物を使用することができる。
【0039】
【化8】

(式中、R7〜R14は、それぞれ同一または異なる基であって、水素、ハロゲン、炭化水素基、アミノ基、炭化水素基置換アミノ基、水酸基またはフェノキシ基を示す。)
【0040】
前記一般式(5)中において、前記炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素数1〜8の直鎖または分岐したアルキル基、メチル基等の置換基を有していてもよいフェニル基等が挙げられる。
【0041】
このような一般式(5)で表されるアントラキノン化合物の具体例としては、例えばColor Index Generic NameがSolvent Blue 35、Solvent Blue 36、Solvent Blue 78、Solvent Blue 93、Solvent Green 3、Solvent Green 20、Solvent Green 28、Solvent Red 52、Solvent Red 111、Solvent Red 145、Solvent Red 146、Solvent Red 168、Solvent Violet 13、Solvent Violet 28、Solvent Violet 31等であるものが挙げられる。例示したこれらのアントラキノン化合物は、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0042】
ここで、本発明にかかるメタクリル酸メチル系シロップが含有するアントラキノン染料の割合は、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して0.0001〜0.1000重量部であり、この範囲内で求められるメタクリル樹脂成形体の色に応じたアントラキノン染料の組成および添加量を決定すればよい。
【0043】
[(e)10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物]
本発明では、重合開始剤として(e)10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物と、後述する(f)10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物とを特定の割合で併用する。これにより、注型重合の反応制御が簡単になり、異常反応を抑制しつつ、効率よくメタクリル酸メチル系シロップを重合させることができる。
【0044】
10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物としては、トルエン中での10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物が使用可能であり、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0045】
このようなアゾ化合物としては、例えば和光純薬工業(株)製の以下に示すもの等が挙げられる。
・同社製の商品名「V−60」:10時間半減期温度が65℃の2,2’−アゾビスイソブチロニトリル
・同社製の商品名「V−59」:10時間半減期温度が67℃の2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)
・同社製の商品名「V−601」:10時間半減期温度が66℃のジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)
【0046】
ここで、本発明にかかるメタクリル酸メチル系シロップが含有する10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物の割合は、(a)成分100重量部に対して0.01〜0.10重量部であり、この範囲内で注型重合を行う温度、時間等に応じて該アゾ化合物の添加量を決定すればよい。これに対し、前記割合が0.01重量部未満であると、重合時間が著しく遅くなり生産性の観点から好ましくない。また、0.10重量部より多いと、注型重合の反応制御が困難になり、異常反応が起こりやすくなる。
【0047】
[(f)10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物]
10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物としては、トルエン中での10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物が使用可能であり、例えば1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等が挙げられ、このようなアゾ化合物としては、例えば和光純薬工業(株)製の商品名「V−40」〔10時間半減期温度が88℃の1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)〕等が挙げられる。
【0048】
ここで、本発明にかかるメタクリル酸メチル系シロップが含有する10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物の割合は、(a)成分100重量部に対して0.01〜0.10重量部であり、この範囲内で注型重合を行う温度、時間等に応じて該アゾ化合物の添加量を決定すればよい。これに対し、前記割合が0.01重量部未満であると、重合時間が著しく遅くなり生産性の観点から好ましくない。また、0.10重量部より多いと、注型重合の反応制御が困難になり、異常反応が起こりやすくなる。
【0049】
[(g)無機塩]
本発明にかかるメタクリル酸メチル系シロップには、前記した(a)成分〜(f)成分に加えて、さらに(g)成分として無機塩を添加してもよい。これにより、得られるメタクリル樹脂成形体の帯電防止性をより向上することができる。前記無機塩としては、前記(a)成分および(b)成分に溶解する金属塩等が挙げられ、該金属塩としては、例えばLi、Na、K、Cs、Ag、Cu、Mg等の塩が挙げられる。より具体的には、例えばLiCl、LiClO4、LiI、LiSCN、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiPF6、NaI、NaClO4、NaSCN、NaBr、KI、KClO4、KSCN、CsSCN、AgNO3、CuCl6、Mg(ClO42等が挙げられる。例示したこれらの無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0050】
無機塩を使用する場合、その使用量としては、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して3重量部以下、好ましくは1.5重量部以下であるのがよく、また通常0.1重量部以上である。これに対し、前記使用量が3重量部を超えると、メタクリル樹脂成形体が白化し易くなるので好ましくない。
【0051】
[(h)溶媒]
また、前記した無機塩と共に、該無機塩に対して溶解性を有する溶媒を(h)成分としてメタクリル酸メチル系シロップに添加してもよい。これにより、前記無機塩の溶解性が高まるので、得られるメタクリル樹脂成形体の帯電防止性が向上する。前記溶媒としては、例えばホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、メタノール、エタノール等のアルコール類、水等が挙げられる。
【0052】
前記溶媒の添加量は、得られるメタクリル樹脂成形体の透明性に影響するため、通常、前記(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して2重量部以下、好ましくは1重量部以下であるのがよく、前記(g)成分100重量部に対して10〜50重量部であるのがよい。
【0053】
また、本発明にかかるメタクリル酸メチル系シロップは、用途に応じて公知の添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、染料、顔料、無機充填剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0054】
注型重合法に用いるセルとしては、目的とする成形体の形状に応じて適宜選択されて用いられるが、例えば板状のメタクリル樹脂成形体を得るには、スペーサーを介して間隔を空けて配置された2枚の基板からなるものが用いられる。前記基板としては、例えばガラス板、ステンレス板等が挙げられる。
【0055】
前記したメタクリル酸メチル系シロップを注型重合法により重合させてアクリル樹脂組成物を製造するには、該メタクリル酸メチル系シロップをセルに注入した後、例えば加熱することにより重合させればよい。加熱温度としては、重合開始剤(すなわち(e)成分および(f)成分)の分解温度以上であり、通常は、30℃〜130℃、好ましくは35℃〜120℃であるのがよい。重合時間は、重合開始剤の種類や使用量、部分重合物を用いた場合にはその重合度、共重合性モノマーを用いた場合にはその種類や使用量、目的とする板の板厚等により異なるが、通常、2時間〜100時間程度であるのが好ましい。
【0056】
得られるアクリル樹脂組成物のビカット軟化温度としては、特に限定されないが、通常、95〜100℃程度、好ましくは97〜100℃であるのがよい。これにより、得られるアクリル樹脂組成物は、耐熱性に優れたものになる。前記ビカット軟化温度は、JIS K−7206に準拠して測定し得られる値である。
【0057】
また、得られるアクリル樹脂組成物の帯電圧半減期としては、特に限定されないが、通常、0.1〜10秒程度、好ましくは0.1〜2秒であるのがよい。これにより、得られるアクリル樹脂組成物は、帯電防止性能に優れたものになる。前記帯電圧半減期は、例えば後述するように、アクリル樹脂組成物を23℃、50%湿度の状態に24時間放置した後、同雰囲気中でスタティクオネストメーター(宍戸商会製)を用いて印加電圧10kv、印加時間1分、テーブル回転数1300rpmの条件で帯電圧の半減期する時間を帯電圧半減期として測定し得られた値である。
【0058】
得られるアクリル樹脂組成物は、ヒケが少なく、外観に優れる。ここで、得られるアクリル樹脂組成物中のアクリル樹脂の(重量)平均分子量は、特に限定されないが、高い分子量を有するのが好ましく、通常、50万〜500万程度であるのがよい。これにより、得られるアクリル樹脂組成物が、確実に外観に優れたものになる。前記平均分子量は、アクリル樹脂組成物をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0059】
前記した本発明の製造方法によれば、優れた帯電防止性能、着色性および外観を有するアクリル樹脂組成物(メタクリル樹脂成形体・注型重合成形品)を得ることができる。得られたアクリル樹脂組成物は、例えば看板、ディスプレイ、照明カバー、クリーンルーム等のパーティション等に好適に用いることができるが、これらの用途に限定されるものではない。
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ないかぎり重量基準である。また、以下の実施例で使用したアントラキノン染料は以下の通りである。
【0061】
【化9】

【実施例1】
【0062】
<メタクリル樹脂板の作製>
まず、(a)〜(f)成分および(g),(h)成分を表1に示す組み合わせで用いてメタクリル酸メチル系シロップを調製した。具体的には、メタクリル酸メチル100重量部に、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル0.002重量部(20ppm)を加え、70℃で重合させて、粘度平均分子量150万の重合体を5重量部の割合で含む部分重合物を得た。この部分重合物15重量部をメタクリル酸メチル85重量部と混合し、表1に示す(a)ポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶液を100重量部得た。
【0063】
ついで、前記で得た(a)ポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶液と、(b)平均分子量200のポリエチレングリコール、(c)アリルトリデシルスルホコハク酸ナトリウム、(d)Solvent Blue 35、(e)2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業(株)社製の「V−60」、10時間半減期温度=65℃)、(f)1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(和光純薬工業(株)社製の「V−40」、10時間半減期温度=88℃)、(g)過塩素酸リチウム(LiClO4)、(h)純水を表1に示す割合でそれぞれ混合攪拌し、メタクリル酸メチル系シロップを得た。
【0064】
ついで、塩化ビニル樹脂製のガスケットと、このガスケットにより2mmの間隔を空けて配置された2枚の平面状ガラス板により構成されたセルに、上記で得たメタクリル酸メチル系シロップを注入して65℃に加熱した後、同温度を5時間保持した。その後、120℃に昇温し、同温度を2時間保持して重合させ、厚さ2mmのメタクリル樹脂板を得た(注型重合法)。
【実施例2】
【0065】
(e)2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの量を表1に示す量に変更した以外は、前記実施例1と同様の方法でメタクリル酸メチル系シロップを得、このメタクリル酸メチル系シロップを前記実施例1と同様にして注型重合法により重合させ、厚さ2mmのメタクリル樹脂板を得た。
【実施例3】
【0066】
(d)Solvent Blue 35に代えて、(d)Solvent Green 3を2ppm、すなわち表1に示す量で添加した以外は、前記実施例2と同様の方法でメタクリル酸メチル系シロップを得、このメタクリル酸メチル系シロップを前記実施例1と同様にして注型重合法により重合させ、厚さ2mmのメタクリル樹脂板を得た。
【0067】
[比較例1〜5]
(a)〜(h)成分の量を表1に示す量に変更した以外は、前記実施例1と同様の方法でメタクリル酸メチル系シロップを得、このメタクリル酸メチル系シロップを前記実施例1と同様にして注型重合法により重合させ、厚さ2mmの各メタクリル樹脂板を得た。
【0068】
[比較例6]
(e)2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、及び(f)1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)に代えて、ラウロイルパーオキサイドを表1に示す量で添加した以外は、前記実施例1と同様の方法でメタクリル酸メチル系シロップを得、このメタクリル酸メチル系シロップを前記実施例1と同様にして注型重合法により重合させ、厚さ2mmのメタクリル樹脂板を得た。
【0069】
<評価>
上記で得られた各メタクリル樹脂板について、外観、着色性、ビカット軟化温度および帯電圧半減期を評価した。各評価方法を以下に示すと共に、その結果を表1に示す。
【0070】
(外観の評価方法)
得られたメタクリル樹脂板のヒケの有無を目視にて観察した。
【0071】
(着色性の評価方法)
得られたメタクリル樹脂板の色を目視にて観察した。
【0072】
(ビカット軟化温度の評価方法)
得られたメタクリル樹脂板のビカット軟化温度をJIS K−7206に従って測定した。
【0073】
(帯電圧半減期の評価方法)
得られたメタクリル樹脂板を23℃、50%湿度の状態に24時間放置した後、同雰囲気中でスタティクオネストメーター(宍戸商会製)を用いて印加電圧10kv、印加時間1分、テーブル回転数1300rpmの条件で帯電圧の半減期する時間を帯電圧半減期として測定した。ちなみに、この値が小さいほど帯電防止性能に優れていることを示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1から明らかなように、本発明にかかる実施例1〜3のメタクリル樹脂板は、外観、着色性、ビカット軟化温度および帯電圧半減期において優れた結果を示した。これに対し、(b)成分の割合が本発明の範囲外である比較例1,2、(f)成分を添加していない比較例3,4、(a)〜(c)成分の割合が本発明の範囲外でありかつ(f)成分を添加していない比較例5にかかる各メタクリル樹脂板は、外観に劣る結果を示した。また、(a)〜(c)成分の割合が本発明の範囲外でありかつ(e),(f)成分に代えてラウロイルパーオキサイドを添加した比較例6のメタクリル樹脂板は、着色性に劣る結果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル系シロップを注型重合法により重合させてアクリル樹脂組成物を製造する方法であって、前記メタクリル酸メチル系シロップが、下記(a)成分〜(f)成分を含むことを特徴とする、着色された帯電防止性アクリル樹脂組成物の製造方法。
(a)ポリメタクリル酸メチルのメタクリル酸メチル溶液を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して95.2〜99重量部
(b)下記一般式(1)または(2)で表されるオキシアルキレン化合物を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して1〜4.8重量部
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ同一または異なる基であって、水素または炭化水素基を示す。Xは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。mは、数平均で1〜35の整数を示す。)
【化2】

(式中、R3およびR4は、それぞれ同一または異なる基であって、炭化水素基を示す。Yは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示す。nは、数平均で1〜35の整数を示す。)
(c)下記一般式(3)で表される有機スルホン酸塩を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して0.5〜5重量部
【化3】

(式中、Aは、有機基を示す。Mは、アルカリ金属、アンモニウム、アミン基または4級アンモニウム基を示す。)
(d)アントラキノン染料を、(a)成分および(b)成分の総量100重量部に対して0.0001〜0.1000重量部
(e)10時間半減期温度が60〜70℃のアゾ化合物を、(a)成分100重量部に対して0.01〜0.10重量部
(f)10時間半減期温度が85〜100℃のアゾ化合物を、(a)成分100重量部に対して0.01〜0.10重量部
【請求項2】
前記(a)成分におけるメタクリル酸メチル溶液が、メタクリル酸メチル系モノマーの部分重合物単独、又はこの部分重合物とメタクリル酸メチル系モノマーとの混合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記メタクリル酸メチル系シロップが、さらに無機塩を含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記メタクリル酸メチル系シロップが、前記無機塩を、該無機塩に対して溶解性を有する溶媒と共に含む請求項3記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−297472(P2008−297472A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146110(P2007−146110)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】