説明

常時給電用のハーネス支持具とそれを用いたハーネス配索構造

【課題】スライド構造体の全閉時にハーネス支持具を固定構造体の奥側に配置した場合等において、ワイヤハーネスの垂れ下がりと固定構造体への干渉を防止する。
【解決手段】ワイヤハーネス43,13を少なくとも揺動自在に支持する支持部70と、支持部を経てワイヤハーネスを導出させる開口部64とを備えるハーネス支持具62で、開口部64の一側又は両側に傾斜部66を形成し、傾斜部に沿ってワイヤハーネスを持ち上げ支持した。スライド構造体41と固定構造体47との何れか一方にハーネス支持具62を配置し、ハーネス支持具の開口部64からスライド構造体と固定構造体との何れか他方にワイヤハーネスを配索し、スライド構造体の全閉時又は全閉時と全開時とに傾斜部66に沿ってワイヤハーネスを持ち上げ支持した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のスライドドアから車両ボディ側のハーネス支持具にワイヤハーネスを配索してドア側への常時給電を行わせる常時給電用のハーネス支持具とそれを用いたハーネス配索構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5〜図6は、従来のスライドドア用の常時給電装置を用いたハーネス配索構造の一形態を示すものである(例えば特許文献1参照)。図5はスライドドアの閉じ時の状態、図6はスライドドアの半開状態をそれぞれ示している。
【0003】
この常時給電装置50は、自動車のスライドドア41に配設され、ワイヤハーネス43を屈曲自在に収容する合成樹脂製のプロテクタ42と、プロテクタ内でワイヤハーネス43を上向きに付勢する金属製の板ばね44とを備えたものである。
【0004】
プロテクタ42はプロテクタベース(符号42で代用)とプロテクタカバー(図示せず)とで構成され、プロテクタベースとプロテクタカバーはそれぞれ対向する垂直な基壁51と外周の周壁52とを有し、プロテクタカバーは係止手段でプロテクタベースに係止され、プロテクタベースがボルト56や係止クリップでスライドドア41のパネルに固定されている。
【0005】
板ばね44の下端部がワイヤハーネス43と共にプロテクタ42の前端下部側のハーネス固定部55に固定され、板ばね44の先端側がワイヤハーネス43を摺接自在に支持している。板ばね44の先端には合成樹脂製のキャップ49が装着され、キャップ49でワイヤハーネス43が安定に支持される。
【0006】
ワイヤハーネス43は複数本の電線43aを合成樹脂製のコルゲートチューブ43bで覆って構成され、コルゲートチューブ43bの前端下部がプロテクタ42にテープ巻き等で固定されている。コルゲートチューブ43bは凹溝と凸条とを交互に有して良好な屈曲性を発揮する。
【0007】
ワイヤハーネス43の一方の電線部分43aがプロテクタ42の前部から導出されてスライドドア側の補機に接続される。ワイヤハーネス43の他方のコルゲートチューブ部分43bはプロテクタ42の長形の下部開口45からドア開時の渡り空間を経て車両ボディ47のステップ(スカッフプレート)48側のハーネス支持具(回転クランプ)53にかけて揺動自在に配索され、他方の電線部分(図示せず)はハーネス支持具53を経て車両ボディ側のワイヤハーネス(図示せず)にコネクタ接続されている。プロテクタ42は合成樹脂製のドアトリム(図示せず)で覆われて隠され、ドアトリムの下端の開口からワイヤハーネス43が車両ボディ側に導出される。ハーネス支持具53はスライドドア41の開閉に伴うワイヤハーネス43の揺動時の捩れを吸収する。
【0008】
図7の説明図(正面図)に示す如く、スライドドア41の全閉状態(図7の右側の図)でワイヤハーネス43は後方へ引っ張られ、スライドドア41の全開状態(図7の左側の図)でワイヤハーネス43は前方へ引っ張られ、特にスライドドア41の半開状態でワイヤハーネス43は下向きに弛もうとするが、板ばね44で上向きに付勢されて弛み(余長)が吸収され、垂れ下がりによる挟み込み等が防止される。図7で符号16は環状の屈曲規制壁を示す。
【0009】
図8(a)の説明図(平面図)及び図8(b)の説明図(側面図)に示す如く、スライドドア41(図5)は全閉時に車両ボディ側に近接し、全閉間近から全開時にかけて車両ボディ47(図5)から外側に離間する。それに伴ってワイヤハーネス43はドア全閉時にプロテクタ42から車両ボディ側のハーネス支持具53にかけて短く引き出され、ドア全開時に渡り空間を経て長く引き出される。
【0010】
図9は、ドア全閉時におけるプロテクタ42からハーネス支持具53にかけてのワイヤハーネス43の配索状態を示すものである。ハーネス支持具53は合成樹脂製のアウタクランプ57と回転式のインナクランプ58とで構成されている。アウタクランプ57は開口部59側に拡径されたハーネスガイド壁60を有している。ワイヤハーネス43はコルゲートチューブに覆われた状態でプロテクタ42からインナクランプ58に配索され、アウタクランプ57から電線部分43cのみが車両ボディ内に配索されている。
【特許文献1】特開2002−17032号公報(第4頁、図4〜図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の常時給電用のハーネス配索構造にあっては、例えば図9の如く、車両ボディ側のハーネス支持具53が車両幅方向でスカッフプレート48の上面よりも車両内側に配置された場合(ドア側のプロテクタ42が車両内側に寄って配置された場合等)や、ハーネス支持具53とプロテクタ42とが高さ方向においても接近して配置された場合に、スライドドア41の全閉時(図9の状態)にワイヤハーネス43の垂れ下がりが発生し易く、その際にワイヤハーネス43がスカッフプレート48に干渉して異音を生じたり摩耗したりするといった懸念があった。
【0012】
また、スライドドア41の閉まる直前でドアトリム(図示せず)とスカッフプレート48との間や、ドアインナパネル41a(図1)とスカッフプレート48との間にワイヤハーネス43が挟み込まれ易くなるという懸念もあった。
【0013】
これらの懸念はプロテクタ42の形態やプロテクタ42の有無やワイヤハーネス43の配索形態に係わらず発生し兼ねないものであり、自動車のスライドドア用の給電装置に限らず、ワイヤハーネス43を支持するハーネス支持具53を車両ボディ等の固定構造体側に配置したり、スライドドア等のスライド構造体側に配置した場合(プロテクタ42は固定構造体側に配置される)等においても発生し兼ねないものである。
【0014】
本発明は、上記した点に鑑み、スライド構造体から固定構造体に常時給電を行うべく、ハーネス支持具でワイヤハーネスを支持した際に、例えばスライド構造体の全閉時にハーネス支持具がプレート上で固定構造体の内側(奥側)に配置された場合や、給電装置のプロテクタとハーネス支持具とが高さ方向に接近して配置された場合等において、ワイヤハーネスが垂れ下がって固定構造体等に干渉することのない常時給電用のハーネス支持具とそれを用いたハーネス配索構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る常時給電用のハーネス支持具は、ワイヤハーネスを少なくとも揺動自在に支持する支持部と、該支持部を経て該ワイヤハーネスを導出させる開口部とを備えるハーネス支持具において、前記開口部の一側又は両側に傾斜部が形成され、該傾斜部に沿って前記ワイヤハーネスが持ち上げ支持されることを特徴とする。
【0016】
上記構成により、ハーネス支持具が例えば車両ボディ等の固定構造体の内側(奥側)に配置されたり、スライドドア等のスライド構造体のハーネス導出部分とハーネス支持具とが高さ方向に接近して配置された場合でも、スライド構造体の全閉時に、スライド構造体からハーネス支持具にかけてのワイヤハーネス部分が開口部内の一側の傾斜部で持ち上げられるから、ワイヤハーネス部分とスライド構造体側のスカッフプレート等との干渉や、スライド構造体とスカッフプレート等との間へのワイヤハーネスの挟み込みが防止される。スライド構造体の全開時には開口部内の他側の傾斜部でワイヤハーネス部分が持ち上げられて、ワイヤハーネス部分とスライド構造体側のスカッフプレート等との干渉が防止される。
【0017】
請求項2に係る常時給電用のハーネス支持具を用いたハーネス配索構造は、請求項1記載のハーネス支持具を用いたハーネス配索構造であって、スライド構造体と固定構造体との何れか一方に該ハーネス支持具が配置され、該ハーネス支持具の前記開口部から該スライド構造体と固定構造体との何れか他方にワイヤハーネスが配索され、該スライド構造体の全閉時又は全閉時と全開時とに前記傾斜部に沿って前記ワイヤハーネスが持ち上げ支持されることを特徴とする。
【0018】
上記構成により、ハーネス支持具が固定構造体の内側(奥側)に配置されたり、スライド構造体のハーネス導出部分とハーネス支持具とが高さ方向に接近して配置された場合でも、スライド構造体の全閉時に、スライド構造体からハーネス支持具にかけてのワイヤハーネス部分が開口部内の一側の傾斜部で持ち上げられるから、ワイヤハーネス部分とスライド構造体側のスカッフプレート等との干渉や、スライド構造体とスカッフプレート等との間へのワイヤハーネスの挟み込みが防止される。スライド構造体の全開時には開口部内の他側の傾斜部でワイヤハーネス部分が持ち上げられて、ワイヤハーネス部分とスライド構造体側のスカッフプレート等との干渉が防止される。
【0019】
請求項3に係る常時給電用のハーネス支持具を用いたハーネス配索構造は、請求項2記載の常時給電用のハーネス支持具を用いたハーネス配索構造において、前記スライド構造体と固定構造体との何れか他方にプロテクタが配置され、前記ワイヤハーネスが該プロテクタ内で余長吸収されることを特徴とする。
【0020】
上記構成により、スライド構造体の全閉時にワイヤハーネスがプロテクタ内の例えば板ばね等のばね部材の付勢力やワイヤハーネス自体の復元力でプロテクタ内に引き込まれて、プロテクタとハーネス支持具との間のハーネス余長が吸収される。その状態でプロテクタの外側で垂れ下がろうとするワイヤハーネス部分がハーネス支持部の前記一側の傾斜部で持ち上げられて、ワイヤハーネス部分とスライド構造体側のスカッフプレート等との干渉が防止される。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、例えばハーネス支持具が車両ボディの内側(奥側)に配置されたり、スライドドアのハーネス導出部分とハーネス支持具とが高さ方向に接近して配置された場合でも、スライドドアの全閉時に、スライドドアからハーネス支持具にかけてのワイヤハーネス部分が開口部内の一側の傾斜部で持ち上げられて、車両ボディ側のスカッフプレートとの干渉が防止され、それにより車両走行時の振動による異音やワイヤハーネスの摩耗等が防止され、また、ドア閉じ時にスライドドアとスカッフプレートとの間へのワイヤハーネスの挟み込みが防止されるから、これらにより自動車ドアへの常時給電の信頼性が向上すると共に、車両の品質が高められる。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、例えばハーネス支持具が車両ボディ等の固定構造体の内側(奥側)に配置されたり、スライドドア等のスライド構造体のハーネス導出部分とハーネス支持具とが高さ方向に接近して配置された場合でも、スライド構造体の全閉時に、スライド構造体からハーネス支持具にかけてのワイヤハーネス部分が開口部内の一側の傾斜部で持ち上げられて、固定構造体側のスカッフプレート等との干渉が防止され、それにより全閉時の振動等による異音やワイヤハーネスの摩耗等が防止され、また、スライド構造体の閉じ時にスライド構造体と固定構造体のスカッフプレート等との間へのワイヤハーネスの挟み込みが防止されるから、これらによりスライド構造体への常時給電の信頼性が向上すると共に、スライド構造体と固定構造体とでなる商品の品質が高められる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、プロテクタ内で余長吸収されつつプロテクタ外でワイヤハーネスが垂れ下がろうとした際に、ハーネス支持具の傾斜部が垂れ下がりを抑えて、固定構造体のスカッフプレート等との干渉や、スカッフプレート等とスライド構造体との間への挟み込みを防止することで、請求項2記載の発明の効果が確実に発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明に係る常時給電用のハーネス支持具とそれを用いたハーネス配索構造の一実施形態の要部を示すものである。
【0025】
このハーネス支持具62は車両ボディ47側に配置されて、合成樹脂製のアウタクランプ63と合成樹脂製のインナクランプ58とで構成され、アウタクランプ63が開口部64の下半両側に斜め上向きの傾斜部66を有し、プロテクタ42から導出されたワイヤハーネス43を傾斜部66に沿って持ち上げることを特徴としている。
【0026】
アウタクランプ63は断面矩形筒状に形成され、先端部側(ドア寄り側)にテーパ状に拡径した矩形筒状のハーネスガイド部65を有し、ガイド部65の左右(車両の前後方向)両側の壁部67の下半部に前記傾斜部66を有している。傾斜部66は下側(底側)の壁部68の内面から斜め外向きに立ち上げられた傾斜面(符号66で代用)を有し、傾斜面66の上端は左右の壁部67の高さ方向中間部(上半部)に交差して続いている。底壁68の内面と両傾斜部66の内面と両側壁67の内面と上壁69の内面とで略逆台形状の開口部64が構成されている。
【0027】
傾斜面66は開口部64の奥まで(インナクランプ58に至るまで)続いていることが好ましい。樹脂成形が可能であれば、開口部64の先端側のみに傾斜部66を設けてもよい。この場合、傾斜部66を除く開口部64の奥側(内側)は断面矩形筒状となる。本例で傾斜部66の外面67aは垂直面となっているが、内側の傾斜面と同じ角度等の傾斜面としてもよい。
【0028】
本例で開口部64の下端側は車両ボディ(固定構造体)47のスカッフプレート48の奥側の端面48aで覆われ、スカッフプレート48の上面48bが傾斜面66の中間部に交差し、傾斜面66の上半部ないしそれ以上の長さの範囲で傾斜面66がスカッフプレート48の上面48bよりも上側に露出している。
【0029】
プロテクタ42からインナクランプ58にかけて導出されたハーネス部分43cはスカッフプレート48の上面48bよりも少し上で一側の傾斜面66に接し、傾斜面66で持ち上げられた状態に支持される。これにより、スライドドア(スライド構造体)41(図5)の全閉時におけるスカッフプレート48へのハーネス部分43cの干渉が防止される。
【0030】
この作用は、ハーネス支持具62のガイド部65の底壁68をスカッフプレート48の上面48bと同一面位置に配置した場合でも同様に奏されることは言うまでもない。
【0031】
ガイド部65は中間のインナ支持部(支持部)70と固定部71を経て後方(車両内側)の電線導出部72に続いている。本例の固定部71は垂直なピン(図示せず)で車両ボディ47に水平方向回動自在に支持され、ハーネス支持具62全体が車両の前後方向に揺動自在となっている。
【0032】
インナ支持部70は例えば略球状(断面円弧状)の内部空間を有し、内部空間に略球状のインナクランプ58を回動自在に保持する。アウタクランプ63は上下に二分割可能で、分割した状態で内部にインナクランプ58を組み付け可能である。
【0033】
インナクランプ58はハーネス挿通孔73を有し、挿通孔73の中心から径方向に二分割可能で、挿通孔73内にワイヤハーネス43の外装部材であるコルゲートチューブ(符号43で代用)の凹溝を周方向回動自在に保持する凸条(リブ)を有し、相互に合体した状態で係止手段で係止される。
【0034】
ドア側のプロテクタ42は従来例(図5)のプロテクタでもよく、あるいは後述の他のプロテクタでもよい。図1では便宜上、図5のプロテクタ42を用いたものとして説明する。
【0035】
図1のスライドドアの全閉状態で、プロテクタ42の後端部42aがハーネス支持具62の開口部64の一側部(車両方向で前端側、図1で向かって左側)に最接近し、且つ図8(a)の右側の図の如くプロテクタ42はドア41と共にハーネス支持具62に車両幅方向に近接し、ワイヤハーネス43はプロテクタ42からハーネス支持具62に向けて引っ張られつつ、プロテクタ42内の板ばね44(図5)で上向きにほぼ限界まで付勢され、その状態で、図9の従来例においては開口部59からプロテクタ42にかけて導出されたハーネス部分が垂れ下がってスカッフプレート48に接触(干渉)する恐れがあったが、図1の実施形態においてはハーネス部分43cが開口部64の一側(図1で向かって左側)の傾斜部66に沿って導出され、傾斜部66に接触しつつ持ち上げられることで、ハーネス部分43cとスカッフプレート48との干渉が防止される。また、ワイヤハーネス43が傾斜部66に沿って持ち上げられることで、ドア閉時におけるドア41(図5)とスカッフプレート48との間へのワイヤハーネス43の挟み込みが防止される。
【0036】
図1のドア全閉状態からスライドドア41を後方(図で向かって右側)に開けることで、プロテクタ42がドア41と一体に後方へ移動しつつ、図8(a)の左側の図の如くプロテクタ42が車両ボディ47から外側に離間し、従来例の図6(図6で向かって左側が車両後方)のように、ドア半開状態でワイヤハーネス43はプロテクタ42内の板ばね44で上向きに付勢されて弛みが吸収されて、垂れ下がりが防止される。この際、ハーネス支持具62から導出されたハーネス部分43cは板ばね44で持ち上げられるから、スカッフプレート48と干渉することがない。たとえ干渉したとしても、ドア全閉時すなわち車両走行中における干渉による異音の発生や、振動によるハーネス部分43cの繰り返しの干渉によるダメージに較べれば実使用上の問題は少ない。
【0037】
図6のドア半開状態から図7の左側の図の如くドア41を全開にすると同時に、ワイヤハーネス43が板ばね44の付勢力に抗してハーネス支持具62に向けて前方に引っ張られ、他側(図1で向かって右側)の傾斜部66に沿ってハーネス部分43cが接触しつつ持ち上げられて、スカッフプレート48との干渉が防止される。
【0038】
なお、上記実施形態においては、ハーネス支持具62の開口部64の両側に傾斜部66を設けたが、例えばドア閉時のみにスカッフプレート48との干渉を防止するためであれば、開口部64の一側(車両方向前端側)のみに傾斜部66を設ければよい。
【0039】
また、上記実施形態においては、給電装置のプロテクタ42として既存のものを用いたが、例えば図2〜図4に示すような給電装置10のプロテクタ11を用いた場合においても、図1のハーネス支持具62は有効に作用する。プロテクタ11については別件で提案済である。
【0040】
図2の給電装置10のプロテクタ11においては、ワイヤハーネス13がプロテクタ後半のハーネス固定部12からプロテクタ11の前半部に向けて屈曲して配索され、板ばね14は、ハーネス固定部12から前向きに延設されてワイヤハーネス13を上向きに付勢し、図2及び図4の右側の図の如くスライドドア(スライド構造体)41の全閉時にプロテクタ内でワイヤハーネス13を下向きに略ループ状に屈曲させ、図4の左側の図の如くスライドドア41の全開時にプロテクタ内でワイヤハーネス13を略山型に湾曲させるようにしている。
【0041】
図2の如く、プロテクタ11はプロテクタベース(符号11で代用)と図示しないプロテクタカバーとで構成され、プロテクタ11の後半部ないし中央寄りにおいて垂直な基壁15に環状壁16が設けられ、環状壁16の後端側に板ばね14の基端部(付け根部)がねじ締めや圧入等の固定手段で固定され、板ばね14は環状壁16の上方を斜めに前方に向けて延び、板ばね14の先端に装着した合成樹脂製のキャップ49がプロテクタ11の前半部に達している。プロテクタ11の後半の下部開口19は斜め上向きに切欠されている。プロテクタカバーは図4の右側の図の鎖線23で示す如く後半の下部開口19においてプロテクタベースよりもやや上側に位置している。板ばね14はワイヤハーネス13を上向きに付勢しつつ少し下向き(水平より上向き)に撓んでいる。板ばね14は自由状態で(ワイヤハーネス13の負荷を解除すれば)真直に立ち上がる。
【0042】
板ばね14の基端部の外側にハーネス固定部12が位置し、板ばね14はワイヤハーネス13と環状壁16との間に位置している。ハーネス固定部12は例えばワイヤハーネス外周の合成樹脂製のコルゲートチューブ13bを保持固定する矩形筒状の部材でもよく、あるいは従来例で示した板状の部材(図5の符号55)にワイヤハーネス13をテープ巻き等で固定するものであってもよい。ハーネス固定部12に前記ばね固定手段を一体的に設けてもよい。
【0043】
図2のスライドドア41は車両の左側のドアであり、前方にスライド式に閉じ、後方にスライド式に開く。スライドドア41の開き開始直後にスライドドア41は車両ボディ側のガイドレール(図示せず)に沿ってドア開口部から外側に離間して車両ボディ(固定構造体)47の外壁面に平行に位置する。これらスライドドア41の構造は従来と同様である。
【0044】
図2のスライドドア41の全閉状態で、ワイヤハーネス13の外周のコルゲートチューブ13bがプロテクタ11の環状壁16の外側に固定され、ワイヤハーネス13の内側(前側)に板ばね14が位置し、板ばね14の内側(前側)に環状壁16が位置している。ハーネス固定部12からワイヤハーネス13の電線部分13aがプロテクタ11の後端側の狭い開口17から外部に導出されてスライドドア内の補機等にコネクタ接続されている。コルゲートチューブ13bと複数本の電線13aでワイヤハーネス13が構成されている。
【0045】
ワイヤハーネス13は板ばね14で支持されつつプロテクタ11の前半で下向きに湾曲してプロテクタ11の下端の長形の開口19から導出され、合成樹脂製のドアトリム(図示せず)の下部開口を経て後方に引っ張り気味に延長されて車両ボディ47のステップ48側のハーネス支持具62に達している。
【0046】
図2のドア全閉時にプロテクタ11の開口19の後部からワイヤハーネス13がハーネス支持具62に向けて引き出されつつ、ハーネス支持具62の一側の傾斜部66(図1)に沿って接して持ち上げられ、車両ボディ側のスカッフプレート48との干渉が防止されると共に、スカッフプレート48とドア41との間へのワイヤハーネス43の挟み込みが防止される。
【0047】
図2のスライドドア全閉状態からスライドドア41を後方にスライドさせて開くことで、図3及び図4の左側の図の如く、プロテクタ11内でワイヤハーネス13が板ばね14で上向きに付勢された状態で、図2の略ループ状から略山型状に変化しつつ、車両ボディ側のハーネス支持具62を支点に後方に揺動して前向きに引っ張られる。図4の左側の図のスライドドア全開時においては、ワイヤハーネス13が環状壁16の後端側から上向きに前方に大きな半径で湾曲してプロテクタ外に導出される。ドア41の全開時においてワイヤハーネス13はハーネス支持具62の他側の傾斜部66(図1)に沿って接しつつ持ち上げられて、スカッフプレート48(図3)との干渉が防止される。
【0048】
また、上記各実施形態においては、車両の左側のスライドドア41に常時給電装置10を配置したが、車両の右側のスライドドアに左右勝手違い(対称)の常時給電装置を配置することも可能である。また、上記実施形態においては、スライドドア41を前方にスライドさせて閉め、後方にスライドさせて開けたが、スライドドアを後方にスライドさせて閉め、前方にスライドさせて開ける形態の場合は、図2〜図3の常時給電装置10を前後反転させてスライドドアに取り付ける(図4を表裏反転させて見た状態となる)。
【0049】
上記常時給電装置10は車両のスライドドア41に限らず、例えば工作機械等のスライドドア等といった種々のスライド構造体に適用可能である。スライド構造体をスライド自在に配置する側の車両ボディ47や工作機械本体等は固定構造体と呼称することができる。
【0050】
また、上記常時給電装置10をスライド構造体ではなく車両ボディ47等の固定構造体に横置き(水平)に搭載することも可能である。この場合、プロテクタ11のハーネス固定部12側の開口17から導出されたハーネス部分13aが車両ボディ47側のワイヤハーネス(図示せず)に接続され、プロテクタ11の長形の開口19から導出されたハーネス部分が渡り部を経てスライドドア41側のハーネス支持具62に配索されてドアハーネスや各補機等に接続される。
【0051】
また、プロテクタとしてワイヤハーネスを弦巻ばねで螺旋状にリール巻きする形態のもの(図示せず)を使用することも可能である。この場合もプロテクタから導出されたワイヤハーネスは図1の如くドア全閉時においてハーネス支持具62の傾斜部66で持ち上げられつつ車両ボディ側又はスライドドア側に配索される。
【0052】
また、上記各実施形態においてはインナクランプ58にワイヤハーネス43のコルゲートチューブを固定し、アウタクランプ63内にインナクランプ58を回動自在に保持したハーネス支持具62を用いたが、例えばインナクランプ58を廃除し、分割式のアウタクランプ63にワイヤハーネス43のコルゲートチューブを周方向回動自在に保持させたハーネス支持具を用いることも可能である。前者の場合は断面長円形や平型のコルゲートチューブに好適であり、後者の場合は断面円形のコルゲートチューブに好適である。また、コルゲートチューブに代えて断面円形の網状等の可撓性の保護チューブをインナクランプで挟持固定することも可能である。
【0053】
また、ワイヤハーネス43を周方向回動不能に固定するハーネス支持具を用いることも可能である。何れの場合もワイヤハーネス43はハーネス支持具(62)の支持部(70)で揺動自在に支持される。
【0054】
また、上記実施形態のハーネス支持具62はテーパ状(ラッパ状)に拡径したガイド部65を有したが、例えばテーパ状ではなくストレートなガイド部を有するハーネス支持具において、ガイド部の開口部の一側又は両側に傾斜部66を形成することも可能である。また、上記実施形態のガイド部65は矩形筒状であるが、例えば円筒状のガイド部の一側又は両側に傾斜部66を形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る常時給電用のハーネス支持具とそれを用いたハーネス配索構造の一実施形態を示す要部斜視図である。
【図2】本発明のハーネス配索構造の他の実施形態を示すドア閉じ状態の斜視図である。
【図3】同じくハーネス配索構造を示すドア半開状態の斜視図である。
【図4】同じくドア全開と全閉時の状態を示す説明図(正面図)である。
【図5】従来の常時給電用のハーネス支持具を備えたハーネス配索構造の一形態を示すドア全閉状態の斜視図である。
【図6】同じくドア半開状態の斜視図である。
【図7】同じくドア全開時と全閉時の状態を示す説明図(正面図)である。
【図8】(a)はドア全開時と全閉時のプロテクタの配置状態を示す説明図(平面図)、(b)は同じく説明図(側面図)である。
【図9】ドア全閉時のワイヤハーネスの配索状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
11,42 プロテクタ
13,43 ワイヤハーネス
41 スライドドア(スライド構造体)
47 車両ボディ(固定構造体)
62 ハーネス支持具
64 開口部
66 傾斜部
70 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスを少なくとも揺動自在に支持する支持部と、該支持部を経て該ワイヤハーネスを導出させる開口部とを備えるハーネス支持具において、前記開口部の一側又は両側に傾斜部が形成され、該傾斜部に沿って前記ワイヤハーネスが持ち上げ支持されることを特徴とする常時給電用のハーネス支持具。
【請求項2】
請求項1記載の常時給電用のハーネス支持具を用いたハーネス配索構造であって、スライド構造体と固定構造体との何れか一方に該ハーネス支持具が配置され、該ハーネス支持具の前記開口部から該スライド構造体と固定構造体との何れか他方にワイヤハーネスが配索され、該スライド構造体の全閉時又は全閉時と全開時とに前記傾斜部に沿って前記ワイヤハーネスが持ち上げ支持されることを特徴とする常時給電用のハーネス支持具を用いたハーネス配索構造。
【請求項3】
前記スライド構造体と固定構造体との何れか他方にプロテクタが配置され、前記ワイヤハーネスが該プロテクタ内で余長吸収されることを特徴とする請求項2記載の常時給電用のハーネス支持具を用いたハーネス配索構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−68346(P2007−68346A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252764(P2005−252764)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】