説明

帽子枠装着用セットフレーム

【課題】ベースフレームに対して回動フレームを回動可能に支持するものにあって、支持部分における荷重の集中を防止し、回動フレームのスムーズな回動を可能とする。
【解決手段】作業台に固定されるベースフレーム12を、4個の係止穴18を有するベース板14、固定機構15、後面側に凸となる円形凸部16aを有する円盤状支持部材16から構成し、ベース板14と円盤状支持部材16との間で、回動フレーム13の回転円板25を挟む。帽子枠が取付けられる回動フレーム13を、円形凸部16aの外周に嵌る嵌合穴25aを有する回転円板25、その前面に固着される円筒状取付部26及び保持用円筒部27から構成する。回転円板25に把持部32,33を設け、把持部33の近傍に係止穴18に選択的に係止される係止部35を有する操作部材34を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍ミシンにより帽子の縫製予定部に刺繍を縫製するために該帽子を保持する帽子枠が、その帽子を着脱する作業を行う際に着脱可能に取付けられる帽子枠装着用セットフレームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、野球帽等の帽子に対し、その帽子の正面部或いは周囲部に刺繍を施すことが可能な刺繍ミシンが供されている。このような刺繍ミシンは、予め帽子を帽子枠にセットしておき、その帽子枠を移動機構に着脱可能に連結することにより、帽子に刺繍を縫製することができるようになっている。また、一般に、作業者が帽子枠に対して帽子を着脱する作業を行うにあたっては、作業台に固定された帽子枠装着用セットフレームに、帽子枠を取付けてから、その帽子枠に帽子を保持させる或いは取外す作業を行うようになっている。
【0003】
従来では、前記帽子枠装着用セットフレームは、作業台(テーブル)に固定的に取付けるための固定機構と、その固定機構の前側に設けられる円筒状の帽子枠支持フレームとを備えて構成されている。前記帽子枠支持フレームに対し、帽子枠の円筒状の本体部が、回転(円周)方向の位置を合わせた状態で、外側から嵌合するように取付けられる。そして、帽子は、前記帽子枠に対し、鍔部がある前面側を上に向けた状態で固定的にセットされる。ところが、従来のものでは、帽子枠支持フレームが固定的に取付けられているため、例えば帽子の後ろ側を帽子枠にクリップで止める等の作業がしにくい問題点があった。
【0004】
そこで、近年では、帽子枠装着用セットフレームを、作業台に固定機構を介して固定されるベースフレームに対して、帽子枠が取付けられる回動フレームを回動可能に設けて構成することが行われている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。これにより、作業者は、回動フレームに装着した帽子枠(帽子)を回動させながら帽子のセット作業を行うことができ、作業性の向上が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−78437号公報
【特許文献2】特開平11−21757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した帽子枠装着用セットフレームには、次のような問題点があった。即ち、特許文献1に記載された帽子枠装着用セットフレームは、円板状のベースフレームの中心に支持軸を設け、この支持軸により、回動フレームを回動可能に支持する構成とされている。ところが、この構成では、支持軸部分で大きな荷重を受けるため、負荷の集中により支持軸が磨耗することがあり、耐久性に劣る不具合があった。
【0007】
これに対し、特許文献2に記載された帽子枠装着用セットフレームは、上記支持軸を設けることに代えて、回動フレームの円板状の底面(基端面)にその回動中心を中心として円弧状に延びるスリットを設ける一方、ベースフレーム側に一対のピン部材を固定的に設け、それらピン部材が前記スリットに挿通されて相対的に摺動することにより、回動フレームを回動可能に支持するようにしている。しかし、この構成では、一対のピン部材が、共に回動中心よりも片側(上側)に配置されているため、回動がスムーズに行われない不具合があった。また、上記特許文献1,2の帽子枠装着用セットフレームは、回動フレームに作業者が手を掛ける所がないため、回動操作しにくいものとなっていた。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、ベースフレームに対して回動フレームを回動可能に支持するものにあって、前記支持部分における荷重の集中を防止することができ、しかも回動フレームのスムーズな回動を可能とした帽子枠装着用セットフレームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の帽子枠装着用セットフレームは、刺繍ミシンにより帽子の縫製予定部に刺繍を縫製するために該帽子を保持する帽子枠が、その帽子を着脱する作業を行う際に着脱可能に取付けられる帽子枠装着用セットフレームであって、所定の作業台に固定される固定機構を基端側に有するベースフレームと、このベースフレームの先端側に設けられ、前記帽子枠が先方から着脱されて該帽子枠が位置決め状態に取付けられる円筒状取付部を有する回動フレームとを備え、前記ベースフレームには、前記回動フレームを回動可能に支持するための円盤状支持部が設けられていると共に、前記回動フレームの基端部には、前記円盤状支持部の外周部に嵌合するようにして該ベースフレームに回動可能に支持される嵌合部が設けられているところに特徴を有する。
【0010】
上記構成によれば、ベースフレームに設けられた円盤状支持部に対し、回動フレームの基端部に設けられた嵌合部が、その円盤状支持部の外周部に嵌合することによって、ベースフレームに対して回動フレームが回動可能に支持される。この場合、軸により支持するものと異なって、円盤状支持部の外周部という、軸に比べて十分に径大に構成できる部分によって、回動フレームを受けることができるので、支持部分の一部に荷重が集中することを未然に防止することができる。しかも、円盤状支持部の外周部全周で回動フレームを受けることによって、回動フレームのスムーズな回転が可能となる。
【0011】
請求項2の帽子枠装着用セットフレームは、請求項1の発明において、前記回動フレームには、外周方向に突出する把持部が設けられているところに特徴を有する。
【0012】
請求項3の帽子枠装着用セットフレームは、請求項2の発明において、前記帽子枠には、ユーザが手で持つための取手部が設けられており、前記把持部は、前記取手部に対応した位置に設けられているところに特徴を有する。
【0013】
請求項4の帽子枠装着用セットフレームは、請求項1から3のいずれかの発明において、前記回動フレームを、前記ベースフレームに対し、回転方向に関して複数の位置で選択的に係止させる係止機構を備えることころに特徴を有する。
【0014】
請求項5の帽子枠装着用セットフレームは、請求項4の発明において、前記係止機構は、前記ベースフレームの複数の位置に設けられた被係止部と、前記回動フレームに設けられ前記被係止部に係止可能な係止部材と、前記係止部材の前記被係止部に対する係止を解除する解除操作部材とを備えて構成されるところに特徴を有する。
【0015】
請求項6の帽子枠装着用セットフレームは、請求項5の発明において、前記回動フレームに外周方向に突出する把持部が設けられているものであって、前記解除操作部材は、前記回動フレームの前記把持部の近傍に位置して設けられているところに特徴を有する。
【0016】
請求項7の帽子枠装着用セットフレームは、請求項5又は6の発明において、前記係止部材と前記解除操作部材とは、ばね性を有する材料から一体に形成されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の帽子枠装着用セットフレームによれば、ベースフレームに対して回動フレームを回動可能に支持するものにあって、前記ベースフレームに、回動フレームを回動可能に支持するための円盤状支持部を設けると共に、前記回動フレームの基端部に、前記円盤状支持部の外周部に嵌合するようにして該ベースフレームに回動可能に支持される嵌合部を設ける構成としたので、支持部分における荷重の集中を防止することができ、しかも回動フレームのスムーズな回動を可能とすることができるという優れた効果を奏する。
【0018】
請求項2の帽子枠装着用セットフレームによれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、回動フレームに外周方向に突出する把持部が設けられているので、作業者は、把持部に手を掛けて回動操作することができ、回動操作の作業性を良好とすることができる。
【0019】
請求項3の帽子枠装着用セットフレームによれば、請求項2に記載の発明の効果に加え、前記把持部は、帽子枠に設けられた取手部に対応した位置に設けられているので、作業者は、帽子枠をその取手部を持って回動フレームの円筒状取付部に装着する際に、前記把持部を、手指を引掛ける手掛け部として利用することによって、帽子枠の取手部に対して力を加えやすくなり、帽子枠の装着の作業性を高めることができる。
【0020】
請求項4の帽子枠装着用セットフレームによれば、請求項1から3に記載の発明の効果に加え、回動フレームを、ベースフレームに対し回転方向に関して複数の位置で選択的に係止させる係止機構を備えるので、作業者は、回動フレームひいては帽子枠を回動させる際に、回転方向に関して例えば作業のしやすい所望の位置に簡単に係止させることができる。
【0021】
請求項5の帽子枠装着用セットフレームによれば、請求項4に記載の発明の効果に加え、係止機構は、ベースフレームの複数の位置に設けられた被係止部と、回動フレームに設けられ前記被係止部に係止可能な係止部材と、前記係止部材の前記被係止部に対する係止を解除する解除操作部材とを備えて構成されるので、係止機構を簡単な構成で実現することができる。
【0022】
請求項6の帽子枠装着用セットフレームによれば、請求項5に発明の効果に加え、前記解除操作部材は、前記回動フレームに外周方向に突出する把持部の近傍に位置して設けられているので、作業者が解除操作部材を操作しやすいものとなる。
【0023】
請求項7の帽子枠装着用セットフレームによれば、請求項5又は6に記載の発明の効果に加え、前記係止部材と前記解除操作部材とを、ばね性を有する材料から一体に形成したので、係止機構の構成をより一層簡単に済ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態を示すもので、刺繍枠装着用セットフレームの前方からの斜視図(a)及び後方からの斜視図(b)を並べて示す図
【図2】回動フレームを90度回動させた状態の図1相当図
【図3】刺繍枠装着用セットフレームの要部の横断平面図
【図4】刺繍枠装着用セットフレームの正面図
【図5】刺繍枠装着用セットフレームの分解斜視図
【図6】ベース板、円盤状支持部材、回転円板の嵌合構造を示す拡大分解斜視図
【図7】ベース板、円盤状支持部材、回転円板の嵌合構造を示す拡大縦断側面図
【図8】刺繍枠装着用セットフレームに対する帽子枠の取付前の様子を示す左側面図
【図9】刺繍枠装着用セットフレームに対する帽子枠の取付前の様子を示す平面図
【図10】刺繍枠装着用セットフレームに対する帽子枠の取付後の様子を示す平面図
【図11】帽子枠の正面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、例えば多針式の刺繍ミシンにおいて、野球帽からなる帽子Cの前面や周囲部(縫製予定部)に対して刺繍縫製を行う際に、前記帽子Cを保持するために帽子枠1が用いられる(図8〜図10参照)。そして、作業者が帽子枠1に対し帽子Cを着脱する作業を行う場合に、本実施形態に係る帽子枠装着用セットフレームに前記帽子枠1が着脱可能に取付けられる。尚、以下の説明では、帽子枠装着用セットフレームに対し帽子枠1を着脱するために作業者が位置する側(手前側)を前方とし、その反対側を後方とする。そして、この前後方向をY方向としている。図8〜図10に示すように、矢印Ya方向が前方(帽子枠1の取外し方向)となり、矢印Yb方向が後方(帽子枠1の取付け(嵌合)方向)となる。
【0026】
まず、図示はしないが、多針式の刺繍ミシンについてごく簡単に述べておく。刺繍ミシンは、ベース部の上部を前方に延びるアーム部が設けられ、その先端に、複数本の針棒を有した針棒ケースが設けられている。前記各針棒の下端部の縫針には、夫々色の異なる刺繍糸がセットされるようになっている。アーム部内には、その針棒ケース内のいずれかの針棒を選択して上下駆動する針棒選択駆動機構が設けられている。前記ベース部には、糸輪捕捉器等を有するシリンダベッドが前方に延びて設けられている。
【0027】
また、前記ベース部には、移送機構が設けられており、この移送機構のキャリッジに、加工布を平面状に保持する周知の刺繍枠、或いは帽子Cを保持する帽子枠1が着脱可能に連結される。この移送機構は、前記刺繍枠を前後(Y)方向及びそれとは直交する左右(X)方向に自在に移動させるように構成されており、また、帽子枠1が連結されることにより、その帽子枠1を、前後(Y)方向に自在に移動させると共に、軸心O(図8,図11に示す帽子枠本体の中心軸)周りに自在に回動させるように構成されている。
【0028】
ここで、前記帽子枠1について、図8から図11を参照して述べる。この帽子枠1は、いわゆるノンフレーム型のものであり、帽子Cを、前面部(鍔Ca部分)を上向きにして前方から被せられた状態で保持するようになっている。この帽子枠1は、後述する帽子枠装着用セットフレーム(回動フレーム)の外周に嵌合される円環状(薄型円筒状)の帽子枠本体2、帽子Cの開口部側端部の内面を受ける帽子支持部3、帽子Cの外面側を押える押え部材4、帽子Cを固定するための受け枠(受け棒)5、この受け枠5に帽子Cの布地を留めて固定するための合計4個のクリップ6と、鍔Ca部分を支持する鍔支持部7などから構成されている。
【0029】
前記帽子枠本体2の外周面には、中央から少し上部寄り部位に、側方に張出すように設けられた一対の取手部8が一体的に設けられている。また、図9等に示すように、前記帽子枠本体2の後端部には、左右に一対の係合穴9が形成されている。さらに、図8〜図10に示すように、前記帽子枠本体2の上端部には、鍔支持部7の前側に位置して、挟持部材10が設けられている。この挟持部材10は、通常時には内周側に折返されている帽子Cの汗取り部(図示せず)を、開いた状態で挟むように保持するものである。前記鍔支持部7は、帽子枠本体2の中央上端部から、後方斜め上側に傾斜状に立上るように設けられている。この鍔支持部7の上端部には、帽子Cの鍔Caの先端部を挟んで固定するための鍔固定部材7aが設けられている。
【0030】
前記帽子支持部3は、帽子枠本体2の前端側に一体的に設けられ、円周方向に並ぶ多数個の爪状部3aを有して構成されている。前記押え部材4は、半円弧状に湾曲した細幅の枠状に構成され、帽子枠本体2の外周面に開閉操作(回動)可能に取付けられている。帽子支持部3(爪状部3a)及び押え部材4により、帽子Cの開口部側が挟み付けられて保持されるようになっている。前記受け枠(受け棒)5は、帽子枠本体2の下部寄り部位から前方に延び、その左右の辺部に、帽子Cの布地をピンと張った状態として、その布地の外側からクリップ6を挟み付けることにより、帽子Cを保持するようになっている。
【0031】
上記した帽子枠1に帽子Cをセットする場合、所定の作業台T(図8〜図10参照)に固定した帽子枠装着用セットフレーム11(後述)に対し、予め帽子枠1を所定の位置に取付けておく。このとき、押え部材4や鍔固定部材7aを予め開いた状態としておき、その状態で、作業者は帽子枠1の帽子支持部3に帽子Cを被せるようにする。次いで、帽子Cの位置合せ状態で、押え部材4や鍔固定部材7aを閉塞操作して帽子Cを固定し、さらに、受け枠(受け棒)5に対し、帽子Cの布地をピンと張った状態として、その布地の外側からクリップ6を挟み付けることによりセットが完了する。
【0032】
さて、本実施形態に係る帽子枠装着用セットフレーム11について、図1〜図7も参照して述べる。この帽子枠装着用セットフレーム11は、大きく分けて、前記作業台Tに固定されるベースフレーム12と、このベースフレーム12の先端側に回動可能に支持され前記帽子枠1が取付けられる回動フレーム13とを備えて構成される。
【0033】
図3、図5等に示すように、前記ベースフレーム12は、ベース板14、その後面側(基端側)に設けられる固定機構15、前面側(先端側)に設けられる円盤状支持部材16とを、ねじ止めにより連結して構成されている。前記ベース板14は、図1,図2にも示すように、全体として円板状をなし、図6,図7等に示すように、その板面のやや外周寄り部分には、前面側に凸となる円環状突条部17が、同心状となるように絞り形成されている。また、ベース板14の外周部には、上下左右に位置して、つまり90度間隔の4箇所に、被係止部としての係止穴18が形成されている。ベース板14の円環状突条部17の内側の中央領域には、4個のねじ止め用の穴14aが形成されている。
【0034】
前記固定機構15は、図8等に示すように、前記ベース板14に取付けられる前板部、上板部、下板部からなる側面コ字形をなす取付部材19と、この取付部材19の下板部のネジ穴を貫通するように螺合(ねじ止め)された締付けねじ20と、この締付けねじ20の上端部に設けられ取付部材19の上板部との間で作業台Tを挟む押圧部材21と、締付けねじ20の下端部に設けられたつまみ部22とから構成されている。これにて、取付部材19を、その上板部と押圧部材21との間に作業台Tを挟むように差込み、つまみ部22を回転させてす締付けねじ20を締付けることにより、帽子枠装着用セットフレーム11が作業台Tに固定されるようになっている。前記取付部材19の前板部には、4個のねじ穴19aが形成されている。尚、図1〜図5では、便宜上、締付けねじ20等の図示を省略している。
【0035】
前記円盤状支持部材16は、図3〜図7に示すように、前記ベース板14よりもやや径小な円板状をなすと共に、図6,図7等に示すように、その板面の外周寄り部分には、円環状突条部17と対応するように、後面側に凸となる円環状突条部23が、同心状となるように絞り形成されている。また、円盤状支持部材16には、円環状突条部23の内側に位置して後面側に凸となる円形凸部16aが、やはり絞り形成されている。この円形凸部16aには、4個のねじ止め用の穴16bが形成されている。
【0036】
図5〜図7等に示すように、前記円盤状支持部材16は、後述する回動フレーム13の回転円板に設けられた嵌合部としての嵌合穴を、円形凸部16aの外周部に嵌合させるようにして、前記ベース板14との間で該回転円板を前後両面側から挟むように配置される。さらに、ベース板14の後面側に固定機構15の取付部材19の前板部が配置された状態で、4本のねじ24(図4参照)が、ねじ止め用の穴16b及び14aに順に通されて、更にねじ穴19aに締付けられることにより、それら三者が相互に連結(固着)されるようになっている。
【0037】
これに対し、前記回動フレーム13は、図1〜図5等に示すように、後端側(基端側)に位置する回転円板25、この回転円板25の前面側の外周縁部に沿って溶接等により固着される円筒状取付部26、この円筒状取付部26の前部に取付けられる保持用円筒部27を備えて構成されている。そのうち円筒状取付部26は、その外周面に前記帽子枠1の帽子枠本体2の内周がほぼ密に嵌合し、該帽子枠1が前後方向及び回転方向の位置決め状態に取付けられるようになっている。
【0038】
このとき、図1,図5,図8,図9等に示すように、円筒状取付部26には、前記帽子枠1(帽子枠本体2)の後端部を受止める鍔状部28が設けられている。これと共に、円筒状取付部26には、鍔状部28の左右部位に位置して2個の係合部材29が設けられている。図8〜図10に示すように、係合部材29は、板バネ29aの先端部に、前記帽子枠本体2の左右2個の係合穴9,9に夫々係合する係合ローラ29bを回転自在に備えて構成されている。板バネ29aの基端側は、円筒状取付部26に固着されており、この板バネ29aによって前記係合ローラ29bが常に係合方向に付勢されている。図10に示すように、これら係合ローラ29bが、各係合穴9に係合することによって、帽子枠1が前後方向及び円周方向の位置決め状態に保持されるようになっている。尚、便宜上、図1〜図5では、係合部材29の図示を省略している。
【0039】
また、前記保持用円筒部27は、帽子枠1が取付けられた際に帽子Cの布地の内側を受ける(保持する)もので、図3に示すように、円筒状取付部26の内周側に嵌合するようにして取付けられている。このとき、図示はしないが、保持用円筒部27を、円筒状取付部26に対し前後方向にスライド移動可能に設けるようにすれば、帽子Cの高さ(深さ)寸法に応じて、前後方向の長さ(円筒状取付部26からの突出寸法)の調節が可能になる。尚、図1,図5,図10等に示すように、保持用円筒部27の先端の上部には、帽子Cの前面中央部に対応した位置に、位置合せ用(帽子Cの布地の上から作業者が手指にて触覚的に確認しながら位置合せを行う)のV字状の切欠部27aが形成されている。
【0040】
そして、図5〜図7に示すように、前記回転円板25は、中心に嵌合部としての嵌合穴25aを有するリング状をなし、その前面側には、図4にも示すように、嵌合穴25aのやや外周寄りに位置して、ほぼ120度間隔で3箇所の突片部30,30,31が設けられている。図4,図7に示すように、これら突片部30,30,31は、前記円盤状支持部材16の外周を受けるように配置される。そのうち、下側左右部位に設けられる2個の突片部30,30は、回転円板25の該当する部分のいわゆる切起しにより形成され、固定的に設けられている。また、上部の1個の突片部31は、別体として、回転円板25に対し上下方向(直径方向)の位置調整が可能に取付けられている。
【0041】
これにて、図3,図7に示すように、回転円板25は、前記ベースフレーム12を構成する円盤状支持部材16とベース板14との間に前後から挟まれた状態に配置される。このとき、嵌合穴25aが、円盤状支持部材16の円形凸部16aの外周部に摺動可能に嵌合されると共に、突片部30,30,31が、円盤状支持部材16の外周を摺動可能に受けるようになっている。更に、円盤状支持部材16の円環状突条部23が回転円板25の前面に接触(摺接)すると共に、ベース板14の円環状突条部17が回転円板25の後面に接触(摺接)する。これにより、回転円板25つまり回動フレーム13は、ベースフレーム12に対し、軸心Oを中心として回動(同軸回転)可能に支持されるのである。
【0042】
この回転円板25には、図1、図4等の状態で、その左右部位に位置して外周方向(左右方向)に突出する把持部32,33が一体に設けられている。図2〜図6にも示すように、これら把持部32,33は、回転円板25の板面とほぼ面一に左右方向に延びた後、前方に折曲り、更に先端が左右方向(外周方向)に延びる(折曲る)ように形成されている。そして、図9、図10に示すように、これら把持部32,33は、前記帽子枠1の取手部8に夫々対向する位置に設けられている。
【0043】
さらに、この回転円板25には、この場合、前記右側の把持部33部分に位置して、回動フレーム13をベースフレーム12に対し回転方向に関して複数の位置で選択的に係止させるため係止機構を、前記ベース板14に形成された複数個の被係止部たる係止穴18と共に構成する操作部材34が設けられている。本実施形態では、この操作部材34は、ばね性を有する金属材料(板ばね)から、前記係止穴18に係止可能な係止部材と、作業者の操作によりその係止を解除する解除操作部材とを一体に形成して構成される。
【0044】
即ち、図6に示すように、この操作部材34は、左右方向に横長な板ばね材を基材として構成され、全体としては、先端側(図で右側)において、前方に折曲り更に右側に折曲がったいわゆるクランク状をなしている。そして、操作部材34の基端側(図で左側)が、2本の切込み溝によっていわば三叉に分れた形態とされており、そのうち上下の2本の片部の左端部が、回転円板25の前面に対しねじ止め固定されている。三叉に分れた部分のうち中央部の片部は、後方に折曲げられ係止部材たる係止部35とされており、この部分が、回転円板25の開口25bを通して後面側に突出している。
【0045】
この操作部材34の中間部(三叉部分の右側部分)は、前記円筒状取付部26に形成された切欠部26a(図5参照)、及び、把持部33の前方に延びる部分に形成された開口部33a(図3参照)を貫通して右方に延び、クランク状に折曲った部分が、把持部33の後面側近傍に配置され、その先端部が解除操作部材たる解除操作部36とされている。この場合、図3に実線で示すように、通常時、つまり操作部材34(解除操作部36)に外部からの力が作用していない状態では、操作部材34自身のばね力により、係止部35が後方に突出するように付勢され、4箇所のうちいずれかの係止穴18に係止可能となっている。これにより、回動フレーム13を、ベースフレーム12に対し回転方向に関し90度間隔の4箇所のいずれかの位置に選択的に係止させることができる。
【0046】
これに対し、図3に想像線で示すように、作業者が、解除操作部36をばね力に抗して手前側に引くように操作することにより、係止部35が手前側に変位し、係止穴18との係止が解除されるようになっている。従って、作業者は、この係止解除の操作を行うことにより、係止部35を係止穴18から一時的に抜出させ、回動フレーム13をベースフレーム12に対し回動させることができるようになっている。このとき、係止解除の操作は、作業者が把持部33の前面に右手の親指をかけて、他の指を解除操作部36の後面にかけて手前に引く、つまり、把持部33及び解除操作部36の両者を右手でつまむようにして行うことができる。
【0047】
次に、上記構成の作用について述べる。作業者が、帽子枠1に帽子Cをセットする場合、予め、図8、図9に示すように、帽子枠装着用セットフレーム11を、固定機構15により所定の作業台Tに固定しておく。この状態では、図1、図3、図4にも示すように、帽子枠装着用セットフレーム11は、ベースフレーム12に対し回動フレーム13の把持部32,33が左右に夫々位置している、つまり、操作部材34の係止部35がベース板14の右側の係止穴18に係止している通常状態とされる。
【0048】
次いで、作業者は、図8,図9に示すように、帽子枠1の取手部8を両手で持って、帽子枠装着用セットフレーム11の回動フレーム13の外周に対し前方から矢印Yb方向に嵌込んで行く。これにて、帽子枠本体2が回動フレーム13の円筒状取付部26の外周に対し前方から嵌合され、図10に示すように、帽子枠本体2が鍔状部28に当接すると共に、帽子枠本体2の2箇所の係合穴9に係合部材29の係合ローラ29bが係合され、以て、帽子枠1が帽子枠装着用セットフレーム11に取付けられる。尚、帽子枠本体2を円筒状取付部26に嵌合させる際に、作業者は、前記把持部32,33を、手指を引掛ける手掛け部として利用することによって、帽子枠2の取手部8に対して力を加えやすくなり、その分、帽子枠1の取付け作業(取外し時も同様)を容易に行うことができる。
【0049】
そして、作業者は、押え部材4や鍔固定部材7a等を開いた状態で、帽子支持部3に帽子Cを被せるようにセットする。このセットの作業は、帽子C(鍔部Caを含む)を、帽子枠1に対し位置合せ状態にし、その後、押え部材4や鍔固定部材7a等を閉じ、更に、帽子Cの布地をピンと張った状態としながら、クリップ6を受け枠5に留めて帽子Cの後部側を保持させることにより行われる。
【0050】
ここで、上記した、帽子枠1を帽子枠装着用セットフレーム11に対して取付ける作業や、その帽子枠1に帽子Cを被せて位置合せし押え部材4で押えるなどの作業は、図1や、図8〜図10に示す回動フレーム13の通常状態(回動フレーム13の鍔状部28が上を向いている回転方向位置)で行うことが作業性の上で好ましい。これに対し、帽子Cの布地をピンと張った状態としながら、クリップ6を受け枠5に留めて帽子Cの後部側を保持させる作業は、通常状態のままでは行いにくく、帽子Cの後部側を横向き(或いは上向き)とした状態で行う方が作業性が良い。
【0051】
そこで、クリップ6を受け枠5に留める作業を、例えば、図2に示すように、帽子枠1(回動フレーム13)をベースフレーム12に対し正面から見て左回り方向(反時計回り方向)に角度90度回動させた状態として行うことができる。この帽子枠1(回動フレーム13)を回動させる場合には、作業者は、まず、左右の手で把持部32,33を持ち、右手で操作部材34の解除操作部36を手前に引く操作を行う。これにより、操作部材34の係止部35がベース板14の係止穴18から外れて係止が解除され、回動可能な状態となる。
【0052】
作業者は、把持部32,33を持って回動フレーム13ひいては帽子枠1を回動させ、角度90度回動させたあたりで解除操作部36から指を離せば、今度は、操作部材34の係止部35がベース板14の上側の係止穴18に係止した状態で、回動フレーム13がベースフレーム12に対し位置決め係止状態とされる。尚、回動フレーム13を角度180度回転させて上下反転させたり、時計回り方向に角度90度回動させたりすることも自在に行うことができることは勿論である。
【0053】
このとき、本実施形態では、ベースフレーム12を構成する円盤状支持部材16に設けられた円形凸部16aの外周部に、回動フレーム13を構成する回転円板25の嵌合穴25が嵌合して回動可能に支持されているので、軸により支持するものと異なって、円盤状支持部材16の円形凸部16aの外周部という、軸に比べて十分に径大に構成できる部分によって、回動フレーム13を受けることができる。従って、ベースフレーム12の回動フレーム13を支持する部分の一部に荷重が集中することを未然に防止することができ、しかも、円形凸部16aの外周部全周で回動フレーム13を受けることによって、回動フレーム13をスムーズに回転させることができたのである。
【0054】
このように本実施形態の帽子枠装着用セットフレーム11によれば、ベースフレーム12に対して回動フレーム13を回動可能に支持するものにあって、軸により支持するものと異なって、軸に比べて十分に径大に構成できる円形凸部16aの外周部によって、回動フレーム13を受けることができるので、支持部分における荷重の集中を防止することができ、しかも回動フレーム13のスムーズな回動を可能とすることができるという優れた効果を得ることができる。
【0055】
また、特に本実施形態においては、回動フレーム13(回転円板25)の左右部位に外周方向に突出する把持部32,33が設けられているので、作業者は、把持部32,33に手を掛けて回動操作することができ、回動操作の作業性を良好とすることができる。しかも、それら把持部32,33は、帽子枠1に設けられた取手部8に対応した位置に設けられているので、帽子枠1の装着の作業性も高めることができる。
【0056】
本実施形態においては、係止機構により、作業者は、回動フレーム13ひいては帽子枠1を回動させる際に、回転方向に関して例えば作業のしやすい所望の位置(4箇所のいずれかの位置)に簡単に係止させることができる。このとき、係止機構を、ベース板14に設けられた係止穴18と、回動フレーム13(回転円板25)の把持部33部分に設けられた板ばね製の操作部材34とから構成したので、作業者が解除操作部36を操作しやすいものとなり、また、係止機構を極めて簡単な構成で実現することができるといった利点を得ることができる。
【0057】
尚、本発明は上記した一実施形態に限定されるものではなく、様々な拡張、変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、ベースフレーム12(ベース板14)に被係止部としての係止穴18を角度90度間隔で4箇所に設けるようにしたが、3箇所あるいは5箇所以上に設けるようにしても良く、被係止部の個数や設ける位置に応じて、回動フレームの回転方向に関する係止位置の選択のパターンを様々に変更することが可能となる。係止機構の構成としても、例えば係止部材と解除部材とを別部材から構成するなど、様々な変形が可能である。また、上記実施形態では、回転円板25に、円盤状支持部材16の外周を受ける突片部30,31を設けるようにしたが、これら突片部30,31を省略して実施することも可能である。
【0058】
更には、回動フレームの保持用円筒部を、下面側が存在しない半円筒状に構成しても良い等、回動フレームの形状や構造としても様々な変形が可能である。その他、例えば帽子枠の構成についても、ノンフレーム型のものに限らず、いわゆるフレーム型のもの(帽子の刺繍縫製領域を囲む枠を有するもの)であっても良く、また、帽子枠と回動フレームとの着脱構造についても種々の変更が可能である等、本発明は要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得るものである。
【符号の説明】
【0059】
1 帽子枠
2 帽子枠本体
8 取手部
11 帽子枠装着用セットフレーム
12 ベースフレーム
13 回動フレーム
14 ベース板
15 固定機構
16 円盤状支持部材
16a 円形凸部
18 係止穴(被係止部)
25 回転円板
25a 嵌合穴(嵌合部)
26 円筒状取付部
27 保持用円筒部
30,31 突片部
32,33 把持部
34 操作部材(係止機構)
35 係止部(係止部材)
36 解除操作部(解除操作部材)
C 帽子
T 作業台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍ミシンにより帽子の縫製予定部に刺繍を縫製するために該帽子を保持する帽子枠が、その帽子を着脱する作業を行う際に着脱可能に取付けられる帽子枠装着用セットフレームであって、
所定の作業台に固定される固定機構を基端側に有するベースフレームと、
このベースフレームの先端側に設けられ、前記帽子枠が先方から着脱されて該帽子枠が位置決め状態に取付けられる円筒状取付部を有する回動フレームとを備え、
前記ベースフレームには、前記回動フレームを回動可能に支持するための円盤状支持部が設けられていると共に、
前記回動フレームの基端部には、前記円盤状支持部の外周部に嵌合するようにして該ベースフレームに回動可能に支持される嵌合部が設けられていることを特徴とする帽子枠装着用セットフレーム。
【請求項2】
前記回動フレームには、外周方向に突出する把持部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の帽子枠装着用セットフレーム。
【請求項3】
前記帽子枠には、ユーザが手で持つための取手部が設けられており、前記把持部は、前記取手部に対応した位置に設けられていることを特徴とする請求項2記載の帽子枠装着用セットフレーム。
【請求項4】
前記回動フレームを、前記ベースフレームに対し、回転方向に関して複数の位置で選択的に係止させる係止機構を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の帽子枠装着用セットフレーム。
【請求項5】
前記係止機構は、前記ベースフレームの複数の位置に設けられた被係止部と、前記回動フレームに設けられ前記被係止部に係止可能な係止部材と、前記係止部材の前記被係止部に対する係止を解除する解除操作部材とを備えて構成されることを特徴とする請求項4記載の帽子枠装着用セットフレーム。
【請求項6】
前記回動フレームに外周方向に突出する把持部が設けられているものであって、
前記解除操作部材は、前記回動フレームの前記把持部の近傍に位置して設けられていることを特徴とする請求項5記載の帽子枠装着用セットフレーム。
【請求項7】
前記係止部材と前記解除操作部材とは、ばね性を有する材料から一体に形成されていることを特徴とする請求項5又は6記載の帽子枠装着用セットフレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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