説明

平板型固体酸化物形燃料電池モジュールの動作方法

【課題】 発電の初期から発電特性が高い平板型固体酸化物形燃料電池モジュールの動作方法を提供する。
【解決手段】 平板型SOFCモジュール7においては、ナット11を締め付け、荷重機構6によってセルスタック2に荷重を掛けて、発電温度まで昇温する第1の工程を行う。この第1の工程を行った後に、そのまま24時間程度放置して、セパレータと単セルとの接着が良好になるまで待って、第2の工程であるセルスタック2の還元を行う。しかる後、ナット11を緩め荷重機構6による荷重を調整して通常運転時と同じ荷重にし、第3の工程である通常運転を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板型固体酸化物形燃料電池モジュール(以下、平板型SOFCモジュールという)の動作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平板型固体酸化物形燃料電池(平板型SOFC:Solid Oxide Fuel Cell、以下、平板型SOFCともいう)は、他の燃料電池に比べて発電効率が高く、また作動温度が高い(700〜1000℃)ため高温の熱を利用することができるという利点を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7に従来の平板型SOFCを示す。1は平板型固体酸化物形燃料電池を1つ内包する発電ユニット、2は発電ユニット1を複数、例えば8つ積層して電気的に直列に接続することにより形成された平板型SOFCスタック(以下、セルスタックという)である。3,4はセルスタック2の上下面を挟持する金属製のトッププレートおよびベースプレート、5はセルスタック2を収納するスタック容器、16はセルスタック2を加圧、シールする荷重機構で、これらによって平板型SOFCモジュール20を構成し、セルスタック2に燃料ガスと酸化剤ガスを供給することにより発電を行なうようにしている。
【0004】
荷重機構16は、スタック容器5の上面を貫通して設けられたスタック荷重棒21と、このスタック荷重棒21を上側の金属板3に押し付ける荷重装置22とで構成され、これにより各単セル間の密着度を高め(常温では隙間だらけ)、接続部分での電力の伝達損失を少なくしている。
【0005】
このような平板型SOFCモジュール20は、定常運転を想定する温度(800〜1000℃)に昇温した後に、アノードの還元を行ってから発電を開始する。一度、還元した単セルは、アノード側を還元雰囲気に保ち続ければ、再度酸化されることはない。すなわち、還元作業が必要なのは、最初に昇温した時のみである。アノードを還元すると、アノードの厚さが減少して単セルが薄くなる。このため、初期の還元で、発電部分であるセルスタック2の高さは、セル自体の痩せ、柔らかい集電部材の潰れ、シール材(ガラス)の溶融等により低くなる。荷重機構16は、荷重装置22のスタック荷重棒21を押す力を一定にしておけば、セルスタック2の高さが変化しても、一定の荷重をセルスタック2に掛けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−339035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来から、平板型SOFCモジュールのセルスタックにおいては、初期特性が低いという問題があった。通電しながら長時間放置すると電圧は上昇し、発電特性の改善は見られるが、発電の初期から発電特性が高い方が望ましい。上記したように、初期特性が低くても、長時間放置すると電圧が回復する。これは、通電しながら荷重機構でセルスタックに荷重を掛け続けることによって、セパレータとセルの電気的接続が徐々に良好となるためである。
【0008】
そこで、本発明者等は、発電特性について鋭意検討した結果、セルはアノード(Ni O2)還元前の方がアノード還元後より厚いので、セパレータとセルとの電気的接続を良好にしておくためには、セルのアノード還元前に十分な時間を取って、セパレータとセルとを押し付けて接着を行う方が、押し付けの効果が大きく、その結果、時間的に効率よく初期発電特性を良好にすることが可能になることを見出した。
【0009】
本発明は上記した従来の課題と知見に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、発電の初期から発電特性が高い平板型固体酸化物形燃料電池モジュールの動作方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明は、平板型固体酸化物形燃料電池を用いたセルスタックと、前記セルスタックを加圧する荷重機構とを備え、前記セルスタックに燃料ガスと酸化剤ガスとを供給することにより発電を行う平板型固体酸化物形燃料電池モジュールの動作方法において、発電温度まで昇温するとともに前記セルスタックに荷重を掛ける第1工程と、前記セルスタックを還元する第2工程と、発電を開始する第3工程とを少なくとも備え、前記第1工程、第2工程、第3工程の順に運転を行い、前記第1工程と前記第2工程との間に所定の時間的な間隔を設けたものである。
【0011】
本発明は、前記発明において、前記第1工程と前記第2工程との間に少なくとも24時間の時間的な間隔を設けるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セルスタックが厚い還元前にセルスタックに荷重を掛けるようにし、かつ還元動作までに十分な時間的間隔を設けたことにより、セパレータとセルとの押し付けによる接着の効果が大きくなるので、時間的に効率よく初期発電特性を良好にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる平板型SOFCモジュールの断面図である。
【図2】発電ユニットの分解斜視図である。
【図3】燃料極支持型の単セルの側面図である。
【図4】本発明と従来技術との交流インピーダンス測定の結果を比較した図である。
【図5】本発明と従来技術とのセルの抵抗値を比較したIV特性図である。
【図6】発電初期における本発明と従来技術との性能の比較図である。
【図7】従来の平板型SOFCモジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図1ないし図6に基づいて説明する。なお、この実施の形態において、上述した図7に示す従来技術において説明した同一または同等の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は適宜省略する。
【0015】
図2および図3において、発電ユニット1は、1枚の単セル25と、複数枚のセパレータセット26と、セルホルダー27等で構成されている。単セル25は、平板型の固体酸化物からなる電解質層28と、この電解質層28の表裏面にそれぞれ形成した空気極29および燃料極30とからなり、燃料極支持型の単セルを形成している。
【0016】
セパレータセット26は、それぞれ所定形状の溝31および穴32を有する、例えば4枚の金属製のセパレータ26A〜26Dとセルホルダー27を重ね合わせることにより構成されている。これらのセパレータ26A〜26Dとセルホルダー27は、単セル25を収納する空間と、空気極29に酸化剤ガスG1を供排出するガス経路と、燃料極30に燃料ガスG2を供排出するガス経路と、単セル25から電気を取り出す経路(いずれも図示せず)を形成している。
【0017】
図1において、荷重機構6は、ベースプレート4上に立設した複数本のボルト(支持部材)10の上部に上下動自在に配設された押圧板8と、この押圧板8とトッププレート3との間に弾装された加圧手段としての高温仕様に耐え得るセラミックスばね9と、各ボルト10の上部にそれぞれ螺合されたナット(荷重調整手段)11とを備えている。押圧板8には、ボルト10が貫通する挿通孔が形成されている。
【0018】
ナット11は、押圧板8をセラミックスばね9に押し付けてその圧縮量を変えることにより荷重機構6による荷重を調整する。荷重機構6によってセルスタック2に荷重を掛けるときは、ナット11を締め付けて押圧板8を押し下げることにより、セラミックスばね9が圧縮され、その圧縮力によって金属板3を押圧しセルスタック2に一定かつ適正な荷重を掛ける。なお、この荷重は、初期還元後に長時間通常運転して発電してもボルト10等の部品が破損しない荷重とされる。
【0019】
このように構成された平板型SOFCモジュール7は、定常運転を想定する温度(800〜1000℃)に昇温した後に、アノードの還元を行ってから発電を開始する。一度還元した単セル25は、アノード側を還元雰囲気に保ち続ければ、再度酸化されることはない。すなわち、還元作業が必要なのは、最初に昇温した時のみである。アノードを還元すると、アノードの厚さが減少して単セル25が薄くなる。このため、初期の還元で、セルスタック2の高さは、単セル25自体の痩せや、柔らかい集電部材の潰れや、シール材(ガラス)の溶融等により低くなる。
【0020】
次に、本発明に係る平板型SOFCモジュール7の運転方法について説明する。本発明に係る平板型SOFCモジュール7においては、初期還元運転時の段階からセパレータ26と単セル25との電気的接続を良好にしておくために、単セル25の燃料極30のアノードの還元(酸化ニッケル→ニッケル)を行う前に十分な時間、本実施の形態においては24時間程度をとって、セパレータ26と単セル25とを押し付けて接着を行っておく。このことは、単セル25はアノード還元前の方がアノード還元後より厚いので、アノード還元前の方が押し付ける効果が大きく、その結果、時間的に効率よく初期発電特性を良好にすることができることによる。
【0021】
すなわち、ナット11を締め付け、荷重機構6によってセルスタック2に荷重を掛けて、発電温度まで昇温する第1の工程を行う。この第1の工程を行った後に、そのまま24時間程度放置して、セパレータ26と単セル25との接着が良好になるまで待って、第2の工程であるセルスタック2の還元を行う。
【0022】
この初期還元時には、荷重機構6によって大きな荷重を掛ける必要があるが、初期還元運転が終了した後も大きな荷重を掛け続けると、ボルト10が破断して、発電装置を破壊するおそれがある。そのため初期還元後は、ナット11を緩め荷重機構6による荷重を調整して通常運転時と同じ荷重にし、第3の工程である通常運転を行なう。
【0023】
図4は本発明と従来技術との交流インピーダンス測定の結果を比較した図であって、複素インピーダンス平面プロット(Complex Impedance Plane Plot)、またはCole-Cole プロットと呼ばれるものである。同図において、「本発明」とは、「セルスタック2に荷重を掛けて発電温度まで昇温させた後に、そのまま1日放置してからセルスタック2の還元を開始する」という本発明の運転方法による実験結果を示し、「従来」とは、「セルスタック2に荷重を掛けて発電温度まで昇温させた直後に(セパレータ26と単セル25との十分な接着を待たずに)、還元を開始する」という運転方法による実験結果を示す。
【0024】
ここでの交流インピーダンス法は、交流の単一正弦波を掃引して複素インピーダンスを測定する方法(FRA法)であって、測定対象にコンデンサ成分が含まれているとプロットは半円を描き、その実軸(横軸)を切る点が抵抗値R(直流抵抗成分)に相当する。同図において、円弧の大きさが抵抗の大・小を示している。同図からわかるように、本発明における低周波側の円弧R1が、従来における低周波側の円弧R2よりも小さくなっている。これは、セパレータとセルとの接続が改善され、電流を流した際の抵抗が小さくなったことを示している。
【0025】
図5は、本発明と従来技術とのセルの抵抗値を比較したIV特性図である。同図に示すように、本発明においては、50Aを流した際の電圧が従来技術よりも20mV程度上昇している。すなわち、セルスタックの還元を行う前に、セルスタックに荷重を掛けてセルスタックの接着を良好とすることにより、従来と比較してセルスタックの抵抗値が小さくなることを示している。
【0026】
図6は、発電初期における本発明と従来技術との性能を比較した図である。同図によれば、本発明の運転方法は、従来よりも発電初期から高い性能が得られることがわかる。
【0027】
このように、セルスタック2が厚い還元前にセルスタック2に荷重機構6によって荷重を掛けるようにし、かつ還元動作までに十分な時間的間隔を設けたことにより、セパレータとセルとの押し付けによる接着の効果が大きくなるので、時間的に効率よく初期発電特性を良好にすることが可能になる。
【符号の説明】
【0028】
1…発電ユニット、2…セルスタック(平板型SOFCスタック)、6…荷重機構、7…平板型固体酸化物形燃料電池モジュール(平板型SOFCモジュール)、9…セラミックスばね、10…ボルト、11…ナット(荷重調整手段)、25…単セル、26…セパレータセット、28…電解質層、29…空気極、30…燃料極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板型固体酸化物形燃料電池を用いたセルスタックと、
前記セルスタックを加圧する荷重機構とを備え、
前記セルスタックに燃料ガスと酸化剤ガスとを供給することにより発電を行う平板型固体酸化物形燃料電池モジュールの動作方法において、
発電温度まで昇温するとともに前記セルスタックに荷重を掛ける第1工程と、
前記セルスタックを還元する第2工程と、
発電を開始する第3工程とを少なくとも備え、
前記第1工程、第2工程、第3工程の順に運転を行い、
前記第1工程と前記第2工程との間に所定の時間的な間隔を設けたことを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池モジュールの動作方法。
【請求項2】
前記第1工程と前記第2工程との間に少なくとも24時間の時間的な間隔を設けることを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池モジュールの動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−38646(P2012−38646A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179359(P2010−179359)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】