平板型画像表示装置
【課題】FEDや有機EL素子を用いた画像表示装置において、発光均一性が高く、高画質の画像表示を可能とする。
【解決手段】電流により輝度が定まる線順次駆動を行うマトリクス構造の表示素子FEを用いて、制御電極ラインGLを順次駆動する一選択期間の終了直前での陰極ラインKLの閾電圧を閾電圧測定部VMで測定し、測定された閾電圧を画素毎に記録し、記録された閾電圧の値を用いて、同画素選択時の駆動信号を補正することにより、陰極Kから放出される電荷を制御する。
【解決手段】電流により輝度が定まる線順次駆動を行うマトリクス構造の表示素子FEを用いて、制御電極ラインGLを順次駆動する一選択期間の終了直前での陰極ラインKLの閾電圧を閾電圧測定部VMで測定し、測定された閾電圧を画素毎に記録し、記録された閾電圧の値を用いて、同画素選択時の駆動信号を補正することにより、陰極Kから放出される電荷を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電流により輝度が変化する発光素子を用い、発光部に断続的に流入する電荷量を制御することにより、発光輝度を調節する平板型画像表示装置に係り、特に、電子源である陰極からの電子放出が生じて発光を開始する閾値である電子放出開始電圧の差異による輝度ばらつきを抑制することを可能にした平板型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の時間内に電子放出源から発光層に入射する電荷量、つまりは電流により発光強度が決まる電流駆動型の表示素子がある。その例として、フィールドエミッションディスプレイ(Field Emission Display、以下「FED」という。)や、有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence Display、以下「有機EL」という。)がある。
【0003】
FEDは、複数ある画素毎に形成された多数の冷電子源から真空を介して蛍光面に向かって電子線を照射することにより発光を得る。
【0004】
また、FEDには、用いる電子源によりいくつかのタイプがあり、微細な円錐形電子源を用いたSpindt型や、表面伝導型と呼ばれる電子源を用いたもの、酸化膜の超薄膜を介したMIM型電子源を用いたものや、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube、以下「CNT」という。)を用いたCNT−FEDなどがあるが、いずれの電子源を用いた場合にも、その発光強度は発光層である蛍光面の電圧と、単位時間内における蛍光面への電子線の照射量、つまり電流により決まる。
【0005】
この蛍光体の特性から蛍光面の電圧は、数kV以上の高電圧が用いられることから、直流電圧を印加することが一般的であり、FEDの輝度は専ら蛍光面電流である入射電子線量により変化する。
【0006】
そこで、入射電子線量は、電子源からの電子放出量を変化させることで決められているが、例えば、Spindt型やCNT−FEDでは、電子源からの電子放出量は、陰極と制御電極に適切な電圧を印加することで制御している。
【0007】
また、MIM型や表面伝導型においては、陰極と制御電極という構成をしていないが、いずれも2電極間に電圧を印加して流れる電流の一部を電子放出として真空中に取り出している。
【0008】
一方、有機ELでは、画素毎に形成された発光層に、陰極から電子を陽極から正孔を注入することにより発光を得ている。有機薄膜である発光層に注入された電子と正孔の再結合により発せられるエネルギにより、発光層内で励起状態が生じ、それが緩和されることにより発光が生じる。したがって、有機ELにおける発光強度は単位時間内に発光層に注入される電子・正孔の数で概ね決まる。
【0009】
つまりは、陽極から陰極に向かって発光層を流れる電流により決まっていることになるが、一般的には、陽極と陰極に印加する電圧により制御している。(FEDにおける陰極からの電子放出と、有機ELにおける陰極からの電子注入を合せて、以下「電子放出」ともいう。)
【0010】
以上のように、FED・有機ELともに、電流により発光強度が決まる素子であるにもかかわらず、所定の電極電圧を印加する電圧駆動を行っている。この場合、複数ある各画素のそれぞれにおける電極電圧−電子放出特性の違いの影響を受け、所定の電極電圧を印加した場合においても、画素毎の輝度差が生じる可能性がある。
【0011】
これを避けるためには、素子を流れる電流を直接制御することが検討されており、これを有機ELに適用する従来技術が、下記特許文献1に記載されている。
【0012】
この特許文献1においては、有機ELの発光強度を陰極に接続する定電流源により駆動することにより発光強度を制御し、さらには、各陰極において非選択から選択への遷移時における浮遊容量への充電を、他の大容量の定電流源又は定電圧源から行っている。これにより、浮遊容量充電にかかる時間を短くし、陰極選択時における発光の立ち上がり特性を改善して応答性を高くしている。
【0013】
また、FEDや有機ELのような表示素子は、マトリクス構造を有しており、マトリクスを構成する2種の電極のいずれか一方を順次選択していく線順次表示方法を用いている。
【0014】
この駆動方法では、各画素においては、短時間の選択期間と比較的長時間の非選択期間との2種の状態の組合せからなる。一選択期間は短時間であるため、その中での輝度変化は観察者には認識されにくい。したがって、選択期間中に一定輝度で発光した場合でも、選択期間中に短時間に強く発光した場合でも、一選択期間内の輝度積分が同じならば同じ輝度として認識される。
【0015】
この現象を用いて、一選択期間内に、陰極電源から陰極に流れ込む総電荷量を制御して、一選択期間内の積分発光強度を制御する方法を、FEDに適用した従来技術が下記特許文献2に、さらに、有機ELにも適用した従来技術が下記特許文献3に記載されている。これらの従来技術においては、一旦、浮遊容量又は外部容量素子に充電した電荷を、陰極からパルス的に放出させる方法を用いている。
【0016】
FEDや有機ELのような表示素子は、マトリクス構造を有するため必然的に電極同士が対向する領域が大きく、各電極には浮遊容量を有する。さらには、外部容量によりその容量を補正することもできる。その総容量のばらつきを小さくすることは、電子放出素子の電圧−電流特性のばらつきを小さくすることと比較して容易であり、画素間の輝度ばらつきを小さくすることができる。さらには、既知の容量素子への充電電荷は、その素子に印加する充電電圧により決まるため、駆動には構成が簡単な定電圧源を用いることができる。
【0017】
ここで、本発明が対象としているFEDにおける電極間電圧−電子放出特性、いわゆる電圧−電流特性を図3に、有機ELの電極間電圧−素子電流特性の一例を図11に示す。
【0018】
いずれの素子においても、図3に示すように、FEDにおける制御電極と陰極の間には、電子放出開始電圧が存在し、図11に示すように、有機ELにおける陽極と陰極の間の電極間電圧には、発光開始電圧と示した閾値が存在し、この閾値以下では電流が流れず、これを超えると急激に電流が流れ始めて発光を生じるという特性を持っている。(以下、図11に示す有機EL素子においても、陰極からの電子放出により発光が始まるので、発光開始電圧も含めて「電子放出開始電圧」という。)
【0019】
このように、陰極から電子放出を生じさせるためには、電極間電圧が電子放出開始電圧に達するまでに必要な電荷Qcと、所定の輝度の発光を得るのに必要な電荷Qeの和を供給する必要がある。電荷Qcは、陰極及び陰極ラインが持つ浮遊容量の影響も大きく受けるため、FED素子において浮遊容量を決める絶縁膜厚のばらつきが必要な電荷量Qcに影響与える。
【0020】
このため絶縁膜厚のばらつきに対応した電子放出開始電圧設定と、放出させるための電荷注入を組み合わせることにより、画素間の輝度ばらつきを抑制する従来技術が、下記特許文献4に記載されている。
【0021】
この従来技術においては、画素選択時の第一期間において、制御電極には電子放出抑制電圧を印加したまま、制御電極に電子放出電圧を印加しても電極間電圧が電子放出開始電圧よりやや低い電圧となるような電圧V1を陰極に印加して充電する。
【0022】
次に、V1に加えて、さらに放出させる電荷Qeを充電するための電圧を印加した後に、制御電極に電子放出電圧を印加する。これにより、均一性が改善された電子放出を電圧源のみで生じさせることができる。
【特許文献1】特開平11−231834号公報
【特許文献2】特開2000−133116号公報
【特許文献3】特開2002−23688号公報
【特許文献4】特開2002−55652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記特許文献1に示された定電圧源又は定電流源により、第一期間において電極を充電し、第二期間において定電流源により輝度制御する方法では、定電圧源と比較して構成の複雑な定電流源を備える必要があり高価になるという問題に加え、第一期間における充電条件の設定(電圧、電流、時間)が難しく、各画素の素子状態の時間変化に対応できないという問題もある。
【0024】
また、上記特許文献2,3に示されている電荷を制御する方法においては、浮遊容量を活用することにより電圧駆動とほぼ同じ回路構成で実現できるため、駆動回路が複雑化することはないが、陰極の特性である電子放出開始電圧が存在することに対して配慮されていない。このため電子放出に寄与せず電極電圧を開始電圧まで変化させるに必要な電荷量分だけ陰極からの放出電荷量が減少するという問題がある。
【0025】
これに対処し、電子放出開始電圧を考慮したものが上記特許文献4であるが、電子放出開始電圧を考慮した補正が、製造時の絶縁膜厚つまりは電極間の浮遊容量しか考慮の対象になっていない。この特許文献4が対象としているFEDの陰極では、表面が接している雰囲気内のガス吸着等により、表面状態が変化する。このような陰極表面の状態変化は、電極形成後の真空排気プロセス中や表示動作中にも生じ、それに伴って電子放出開始電圧の時間変化が生じる恐れがある。
【0026】
また、特許文献4に示された技術においては、電極構造形成後やその後の動作中における電子放出開始電圧の変化に対する考慮がなされていなかった。さらに、特許文献4の対象はFEDのみであるが、有機ELにおいても動作中に陰極を含む各層間の界面状態の変化に伴い、発光を開始する電子放出開始電圧の変化が生じるため、動作中の時間変化に対応できる機構が必要となる。
【0027】
そこで、本発明の目的は、FEDや有機ELにおいて、陰極から放出される電荷量を制御する駆動機構を有し、かつ、発光を開始する電子放出開始電圧を測定する機構を駆動装置内に備えて、電子放出開始電圧の変化を検出し、その結果を基に駆動信号を補正する機構を備えることにより、発光均一性が高く、高画質の画像表示を可能とした平面型画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するため、本発明は、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、(1)複数の第1電極ラインと複数の第2電極ラインとの交差部に配置された画素と、前記第1電極ラインに輝度信号に応じた電圧を印加する第1電極駆動部と、前記第2電極ラインに選択電圧を印加する第2電極駆動部と、前記選択電圧による選択期間内で輝度信号に応じた電圧を一時的に保持する浮遊容量とを有する平板型画像表示装置において、
前記第1電極駆動部が第1電極ラインを開放した状態で選択期間終了直前における第1電極ラインの電圧を測定する電圧測定部と、測定された電圧の値を記録する記録テーブルと、記録された電圧の値を基に第1電極ラインに印加する輝度信号に応じた電圧を補正する電圧補正部とを備えたことにより達成することができる。
【0029】
また、本発明は、前記記録テーブルに記録されている電圧の値と新規に測定された電圧の値とを用いて演算処理を行い、その演算結果を新たな電圧の値として記録テーブルに記録させる演算処理部を備えるものである。
【0030】
また、本発明は、前記第2電極駆動部は第2電極ラインに非選択電圧を印加し、前記第1電極駆動部は第1電極ラインに輝度信号に応じた電圧を印加して浮遊容量を充電した後に、第1電極ラインを開放し、第2電極駆動部は選択された第2電極ラインに選択電圧を印加することを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明は、前記第1電極ラインに外部容量を付加させるものである。
【0032】
さらに、本発明は、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、(2)前記第1電極ラインに接続された第1電極と、前記第2電極ラインに接続された第2電極とを備え、第1電極から放出された電子が、大気圧よりも低く減圧された空間を介して蛍光面パネルに入射し、蛍光面が発光することにより画像を表示することを特徴とする。
【0033】
また、本発明は、前記第1電極から電子放出が生じる状態における、第1電極電圧をVk、第2電極電圧をVg及び蛍光面電圧をVpとし、蛍光面と第1電極との間の距離をdpk、蛍光面と第2電極との間の距離をdpgとしたとき、dpk>dpgであって、Vg<(Vp−Vk)/dpk×(dpk−dpg)+Vkである表示素子を用いたことを特徴とする。
【0034】
また、本発明は、前記第1電極から電子放出が生じる状態における、第1電極電圧をVk、第2電極電圧をVg及び蛍光面電圧をVaとし、蛍光面と第1電極との間の距離をdpk、蛍光面と第2電極との間の距離をdpgとしたとき、dpk−dpgの絶対値が、第1電極の膜厚と第2電極の膜厚のうち厚い方の膜厚以下であって、Vg≦Vkである表示素子を用いたことを特徴とする。
【0035】
また、本発明は、前記第1電極の表面に、繊維状炭素材料を含む表示素子を備えたことを特徴とする。
【0036】
さらに、本発明は、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、(3)前記第1電極と第2電極との間に有機発光層を有する発光素子を用いたことを特徴とする。
【0037】
なお、本発明は、上記の各構成及び後述する実施例に記載される構成に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱することなく、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、FEDや有機ELに代表される電圧ではなく電流により輝度が決まるマトリクス構造の表示素子を用いた画像表示装置において、画素間の電子放出開始電圧すなわち閾電圧の違いや、動作中における閾電圧の変動を補正することができる。これにより、輝度均一性のよい発光を行わせることが可能となり、高画質の平板型画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0040】
本発明によるFEDを用いた平板型画像表示装置の実施例1について、図1を用いて説明する。図1(a)及び(b)は、本実施例の制御電極及び陰極駆動部の構成を示す図である。
【0041】
図1に示したように、本実施例では、表示素子としてFED(FE)を用いており、電子を放出する陰極(K)、陰極表面の電界を制御する制御電極(G)、陰極(K)から放出された電子の入射により発光する蛍光面(P)の3電極を主体に構成される。
【0042】
複数の陰極ライン(KL)と複数の制御電極ライン(GL)とにより、マトリクス構造が形成されており、その交差部に、陰極ライン(KL)に電気的に接続された陰極(K)と、制御電極ライン(GL)に電気的に接続された制御電極(G)とから構成されている電子線源があり蛍光面(P)上の発光部とともに画素を形成する。
【0043】
陰極(K)と制御電極(G)のそれぞれの電極群を接続している陰極ライン(KL)と制御電極ライン(GL)により、マトリクス構造が形成されており、他の電極との対向面も大きいことから、各々の陰極ライン(KL)には浮遊容量Ckが存在する。
【0044】
陰極ライン(KL)には、それぞれのライン毎に電圧設定をすることができる陰極駆動部(DK)が接続されており、発光させたい輝度信号に応じた設定電圧Vbを印加することができるとともに、駆動部を切り換えることにより開放された状態、つまり、ハイインピーダンス状態にもすることができる。
【0045】
一方、制御電極ライン(GL)にも、それぞれのライン毎に電子放出電圧(選択電圧)VgONと電子放出抑制電圧(非選択電圧)VgOFFを選択して印加することができる制御電極駆動部(DG)が接続されている。
【0046】
蛍光面(P)には、その表面に塗布されている蛍光体(図示せず)が発光するのに十分なエネルギーを電子に与えることができる高電圧の蛍光面電源(PP)が接続されている。
【0047】
制御電極ライン(GL)側を順次選択することと、選択する制御電極ライン上にある画素に要求される発光強度に応じた電圧出力を一斉に陰極ライン(KL)側に印加することとの組合せにより、各画素を構成する陰極表面から所望の電子放出を生じさせ、この放出電子が蛍光面(P)上の蛍光体を発光させることにより所望の画像を表示する。
【0048】
本実施例においては、制御電極駆動部(DG)の動作に同期したトリガ信号(TR)により、動作タイミングを制御して、陰極ライン(KL)電圧Vkを測定することができる閾電圧測定部(VM)を備えている。
【0049】
この閾電圧測定部(VM)での閾電圧測定は、陰極駆動部(DK)により、陰極ライン(KL)が陰極電源(PK)から切り離されて、ハイインピーダンス状態になった時に行う。なお、図1(a)においては、閾電圧測定部(VM)を直接陰極ライン(KL)に接続しているが、図1(b)に示すように、陰極駆動部(DK)内の遮断側に接続しても測定することができる。また、閾電圧測定部(VM)内を流れる電流が多いと、測定誤差や放出電子量の低下につながるため、閾電圧測定部(VM)の内部インピーダンスは、安定動作範囲内において高いことが望ましい。
【0050】
本実施例においては、陰極ライン(KL)上の浮遊容量Ckを活用しているが、浮遊容量だけでは容量不足の場合や、各陰極ラインの間で浮遊容量のばらつきが著しく大きい場合には、各陰極ライン(GL)に外部容量を付加させることもできる。この場合には、付加する外部容量を各陰極ラインの浮遊容量の状態に合せて適切に選択することにより、電圧可変範囲の狭い陰極駆動部(DK)を用いても駆動できるようにすることもできる。外部容量を付加した場合は、結局、陰極ライン(KL)上の浮遊容量が大きい場合と同様であるので、以下においては、外部容量を付加した場合の説明は省略する。
【0051】
以下、図1に示した構造における駆動手順を、各電極の電圧変化および電子放出による電流変化を示した図2と、FEDに用いる陰極と制御電極の間の電極間電圧−電子放出強度特性を示した図3とを用いて説明する。
【0052】
図2には、これから選択制御ラインとなるj番目の制御電極ラインの電圧Vg(j)、次の選択制御電極ラインの電圧Vg(j+1)、ある陰極ライン用の陰極駆動部出力電圧Vb、駆動部から同陰極ラインへの流入電流Ik、同陰極ラインの電圧Vk、同陰極からの放出電子による電流Ieを示している。また、図2中に示した各タイミングにおける制御電極と陰極との間の電極間電圧Vgkと電子放出の状態を図3中にT0〜T3により表してある。
【0053】
まず、制御電極電源(PG)と制御電極駆動部(DG)により、j番目の制御電極ライン(GL(j))を含めた全ての制御電極ライン(GL)の電圧を、電子放出抑制電圧VgOFFにした状態にする(タイミング0(T0))。この時には、電極間電圧Vgkは、図3中のT0で示したところとなっており電子放出は生じない。
【0054】
この状態で、これから電子放出を生じさせようとする陰極(K)に接続された陰極ライン(KL)を、陰極駆動部(DK)を介して、陰極電源(PK)に接続し、所望の輝度を得るに必要な電圧Vb1に充電する(第一期間(P1))。
【0055】
この時、出力電圧Vb1の値は、事前に記録してある当該陰極の閾電圧Vthと、所定の発光を得るのに必要な電荷量から決まる電圧の和から決定される。陰極駆動部出力電圧Vbの決定方法については後述する。
【0056】
出力電圧Vb1の陰極駆動出力を接続した陰極ライン(KL)に電子が流入することにより、陰極ライン電圧VkがVb1に向かって低下する。
【0057】
陰極ライン(KL)上に存在する浮遊容量Ckに対して電荷は蓄えられるが、全ての制御電極ライン(GL)に電子放出抑制電圧VgOFFが印加されているので電子放出は生じない。この時の電極間電圧Vgkは、図3中のT1に示したところに移るが、やはり電子放出は生じない。
【0058】
次に、電圧Vb1により浮遊容量Ckに所定の電荷が蓄えられたのち、陰極駆動部(DK)により、陰極電源(PK)と全ての陰極ライン(KL)との間の接続を遮断する(タイミング1(T1))。この状態では、浮遊容量Ckに対して、充電も放電もされないので陰極ライン電圧Vkは維持される(第二期間(P2))。
【0059】
続けて、制御電極駆動部(DG)により電子放出を生じさせようとする画素を含む制御電極ライン(GL(j))のみの電圧Vg(j)を電子放出電圧VgONに切り換える(タイミング2(T2))。
【0060】
これにより制御電極電圧Vg(j)はVgON、陰極電圧(Vk)はVb1となり、電極間電圧Vgkは、図3に示したT2の状態になり電子放出が生じる。したがって、該当する制御電極ライン(GL(j))に接続されている陰極(K)表面から電子放出が生じて電流Ieが流れる。
【0061】
この電子放出に伴い、浮遊容量Ckに充電されていた電荷が放電されて陰極ライン電圧VkがVb1から急激に変化して電極間電圧Vgkが低下(図3のT2からT3に遷移)して、電子放出強度も急激に低下するためにパルス状の電子放出となる(第三期間(P3))。この時の最大電流Iepは、陰極(K)表面に印加されている電界により制限される。
【0062】
陰極ライン電圧Vkが閾電圧Vthに近づくのに応じて、電極間電圧Vgkが電子放出開始電圧に近づき、電子放出電流Ieが減少するので、陰極ライン(KL)からのリーク電流を十分小さくしておけば、陰極ライン電圧VkはVthを越えることはない。
【0063】
したがって、選択制御電極ライン(GL(j))の電圧Vg(j)を、電子放出電圧VgONから電子放出抑制電圧VgOFFに切り換える時(タイミング3(T3))の直前においては、陰極ライン(KL)の電圧は、各陰極ライン上で電子放出を生じたj番目の制御電極ライン(GL(j))との交点に存在する各陰極(K)が持つ閾電圧Vthとなっているので、この値を閾電圧測定部(VM)により測定して、閾電圧記録テーブルに記録する。
【0064】
以上で、j番目の制御電極ライン(GL(j))上の画素の動作が完了し、次の(j+1)番目の制御電極ライン(GL(j+1))上の画素において同様の動作を行う。このように、全ての制御電極ラインにおいて同様の動作を行った後、再びj番目の制御電極ライン(GLj)上の画素の動作を行う場合には、前回記録された閾電圧Vthの値を基にVbを補正することにより、閾電圧Vthの変動を補正することができる。
【0065】
以下に、陰極駆動部(DK)の出力電圧Vbの設定方法について説明する。
【0066】
発光輝度は上記第三期間内における全放出電子量ΔQeに依存する。そして、全放出電子量ΔQeは、当該陰極ライン(KL)が他の電極等との間に持つ浮遊容量Ckの一方の電極である陰極ラインの電圧Vkが、タイミング(T2)におけるVb1の状態から閾電圧であるVthの状態になるまでの蓄積電荷量変化ΔQに相当する。
【0067】
この間、他の電極電圧は変化しないので陰極ライン電圧Vkのみを考慮すればよく、放出電子量ΔQeは、ΔQe=ΔQ=Ck(Vb1−Vth)……(1)となる。
【0068】
瞬間的な電子放出強度には、図3に示したように電極間電圧−電子放出強度特性の影響も考慮しなければならないが、(1)式からわかるように一選択期間内で放出される電荷量の総量ΔQeは浮遊容量Ckと陰極ライン電圧Vkの変化幅(Vb−Vth)のみで決まる。なお、浮遊容量は、FED等の発光素子完成時に測定することができる。
【0069】
設定すべき電圧Vbは、陰極部出力電圧Vb1であるので、閾電圧Vthと、上記電荷量変化ΔQe=ΔQに必要な電圧幅ΔVk=(Vb1−Vth)を求める。
【0070】
発光させる輝度、蛍光面(P)の形状や発光効率、走査線数及び電極形状等から導かれる電子の利用効率等から、一選択期間内に陰極から放出させる必要がある電荷量ΔQbを得ることができる。
【0071】
このΔQbから、必要な電圧幅ΔVkは、ΔVk=(Vb1−Vth)=ΔQb/Ck……(2)となる。
【0072】
したがって、閾電圧Vthを得ることができれば、陰極駆動部の出力電圧Vbを得ることができる。
【0073】
閾電圧Vthの測定は、上記方法によりタイミング3(T3)直前における陰極ライン電圧Vkを測定することができるので、以下に、これを駆動部出力電圧Vbの補正に用いるための流れについて、図4から図6を用いて説明する。
【0074】
図4に、画像表示装置に用いられる制御部の構成の一例を示す。表示素子としては図1に示したようなFEDを用いており、図5に示したような接続になっている。
【0075】
図5において、複数ある陰極ライン(KL)のそれぞれに異なった電圧を印加できる陰極駆動部(DK)と、複数ある制御電極ライン(GL)のうちの0本又は1本に電子放出電圧を印加し、それ以外の制御電極ライン(GL)に電子放出抑制電圧を印加することができる制御電極駆動部(DG)を介して接続している。
【0076】
さらに、陰極ライン(KL)のそれぞれには閾電圧測定部(VM)が接続され、また、蛍光面(P)には蛍光面電源(PP)が接続されている。なお、画像表示を行うための信号の流れについては一般的であるので省略する。
【0077】
本発明の特徴的な構成部は、遮断機構を有する陰極駆動部であるが、その構造は図1を用いて説明したとおりであるので省略する。
【0078】
その他としては、閾電圧測定部や閾電圧記憶テーブルの動作が画像表示に同期させて行えるようタイミング信号が接続されている。
【0079】
図1を用いて説明したように表示素子内の陰極ライン(KL)と陰極駆動部(DK)の間を遮断した状態で電子放出を生じさせた後、制御電極電圧Vgを電子放出電圧VgONから電子放出抑制電圧VgOFFに切り換える直前の時の陰極ライン電圧Vkを閾電圧測定部(VM)を用いて測定することにより、電子放出電圧VgONを印加していた制御電極ライン(GL)上の各画素を構成する陰極(K)の閾電圧Vthを測定することができる。このように測定された閾電圧の値は閾電圧記録テーブルに画素毎に記録する。
【0080】
このようにして、複数ある制御電極ライン(GL)には、順次電子放出電圧VgONを印加していくので、これに同期させて各陰極の閾電圧Vthを測定することにより、全画素の陰極の閾電圧Vthを測定し、記録することができる。
【0081】
図5には、閾電圧測定部(VM)として1系統の測定部しか示していないが、各陰極ライン(KL)のそれぞれに閾電圧測定部(VM)が接続されており、制御電極ライン(GL)を1本選択して駆動する毎に、当該制御電極ライン(GL)上の画素を構成する全陰極の閾電圧を測定することができる。
【0082】
本実施例では、陰極ライン数分の閾電圧測定部(VM)を備えた構造としたので全制御電極を順次選択して、1画面を表示する毎に、全画素に関する閾電圧Vthを測定することができ、閾電圧の変動に対してほぼリアルタイムに補正することができる。
【0083】
しかし、別途陰極ライン切り換え機構を備えることにより、順次ではあるが全画素に関する閾電圧Vthを測定することはできるので、閾電圧Vthの変動がゆるやかな場合は、陰極ラインよりも少ない系統数の閾電圧測定部(VM)を備えることによっても本発明の効果を得ることができる。
【0084】
閾電圧記録テーブルに記録された閾電圧値は、該当する画素が次回以降に選択される際に読み出され、(2)式に基づいて、入力信号である画像信号とともに陰極駆動部出力電圧Vbを決定する。決定された電圧Vbは、D/A変換を介して陰極駆動部に伝えられて実際に表示素子の陰極ラインに印加される。
【0085】
このような、閾電圧測定、記録、読み出し、陰極駆動部出力電圧決定、電圧印加のサイクルを繰り返すことにより、閾電圧Vthが変動した場合の輝度変化を補正することができる。
【0086】
図4では、閾電圧Vthを測定するために閾電圧記録テーブルに直接記録しているが、図6に示したように新たに測定した値と予め記録されている値を用いた演算処理を行い、その結果を閾電圧記録テーブルに新たな値として記録してもよい。
【0087】
この演算として、例えば、重み付き平均化処理を行うことにより、外来ノイズや単発的な閾電圧変化等の影響を抑制して過剰補正を防止することができる。なお、演算処理の内容について平均化に限らず多くの方法が考えられることは言うまでもない。
【0088】
ここで、表示素子としてFEDを用いた場合は、陰極(K)から放出された電子が蛍光面(P)に入射することにより発光を得ており、陰極(K)からの電子放出量を制御することにより発光強度を制御している。
【0089】
なお、電極の構造上、放出された電子の一部が制御電極(G)に入射してしまう状態でも、電極間電圧−電子放出強度特性に電子放出開始電圧が存在し、かつ、放出電子量と制御電極への入射量の比が一定であれば本発明の効果を得ることができる。
【0090】
しかし、本発明の効果を十分に活かすためには、制御電極(G)への電子入射がなく、制御している陰極(K)からの放出電荷量が全て蛍光面(P)への入射電荷量となることが望ましい。
【0091】
この条件を満たすことができ、さらに効果的に本発明を活用することができるFEDの電極構造を図7及び図8に示す。図7及び図8に示すように、FEDは、主に陰極(K)、制御電極(G),蛍光面(P)の3種の電極から構成されている。
【0092】
図7は、制御電極(G)が、陰極(K)と蛍光面(P)の間に配置された構造を示している。この構造において、電子放出が生じている時の陰極(K)の電圧をVk、制御電極(G)の電圧をVg、蛍光面(P)の電圧をVpとし、蛍光面(P)と陰極(K)の間の距離をdpk、蛍光面(P)と制御電極(G)の間の距離をdpgとしたとき、dpk>dpgであって、Vg<(Vp−Vk)/dpk×(dpk−dpg)+Vkとなるような条件下で駆動することにより、陰極(K)から放出された電子線は、制御電極(G)付近において集束し、制御電極(G)への入射を極力抑えることができる。
【0093】
これにより、陰極(K)から放出された電子のほとんどを蛍光面(P)に入射させることができ、本発明の効果を有効に活用することができる。
【0094】
また、図8に示したように、制御電極(G)を陰極(K)と概ね同じ高さの位置に設置することによっても、制御電極(G)への電子入射を抑制し、放出電荷制御の効果を有効に活用することができる。このような電極配置(以下「IPG構造」という。)においては、陰極から放出される電子は、正の高電圧を印加している蛍光面(P)に向かって放出されるため、制御電極(G)の近傍を通過しない。特に、蛍光面電圧Vp、陰極電圧Vk及び蛍光面−陰極間距離dpkにより定まる、蛍光面(P)と陰極(K)間の平均電界Fpk=(Vp−Vk)/dpk……(3)よりも低い電界によっても十分な電子放出を得られる陰極材料を用いた場合において効果的である。
【0095】
このような陰極材料としては、カーボンナノチューブや、カーボンナノファイバを始めとする太さがナノメートルサイズである炭素系繊維材料があり、これらを陰極の下地膜上に直接成長させるか、または、溶剤に分散させたのち樹脂剤等を混合したペーストを印刷することにより、低電界で電子放出が得られる陰極を形成することができる。例えば、カーボンナノチューブをペースト化したものを印刷することにより形成される陰極では、約3V/μm程度で十分な電子放出を得ることができる。
【0096】
この陰極を用いて、図8に示したIPG構造を形成し、蛍光面−陰極(制御電極)間距離dpk(=dpg)を2mm、蛍光面電圧Vpを6kV、制御電極間隔150μmとした場合の、電子放出時の制御電極電圧Vg及び陰極電圧Vkは、いずれも0Vであり、制御電極Vgを−100Vにするか、陰極電圧Vkを+100Vにすることにより電子放出を遮断することができる。
【0097】
この電極電圧制御を組み合わせることによりマトリクス動作の電子線源を構成することができ、図5に示すように、蛍光面パネル(P)と組み合わせることによりFEDを構成することができる。
【実施例2】
【0098】
以上は表示素子としてFEDを用いた場合を示したが、次に表示素子として有機EL素子を用いた実施例2を、図9から図13を用いて説明する。
【0099】
図9は本実施例の有機EL素子を用いた画像表示装置の電極信号印加部の構成を示す図、図10は有機EL素子の発光部の膜構成を表す図、図11は本実施例に用いる有機EL素子の電極間電圧−素子電流特性の一例を表すグラフ、図12は駆動部と表示素子である有機EL素子の接続を表す図、図13は画像表示装置の全体構成図である。
【0100】
図9において、本実施例の表示装置は、各画素の有機EL素子(EL)の画素である発光部(ELC)の陽極同士及び陰極同士を接続して、陽極ライン(AL)及び陰極ライン(KL)を構成し、それぞれのラインに所定の電圧を印加することにより、画素の発光/非発光を制御する。
【0101】
発光部(ELC)は、図10に示した膜構造のものを用いており、陽極(A)上に、正孔注入層(HIL)、発光層(EM)、電子注入層(EIL)、陰極(K)の順に積層したものである。
【0102】
この発光部(ELC)の両端に電圧を印加すると、図11に示すように電極間電圧−素子電流特性を示し、電子放出開始電圧以上の電圧を印加することにより、素子電流が流れて発光する。
【0103】
ここで、図9に示すように、陽極ライン(AL)と陰極ライン(KL)によりマトリクス構造を形成しており、電子放出開始電圧以下の電圧を印加して素子電流が流れていない状態においては、浮遊容量(Ck)の影響を受ける。
【0104】
各陽極ライン(AL)には、陽極電源(PA)により供給される選択電圧VaONと非選択電圧VaOFFの2電圧を切り換えて印加することができる陽極駆動部(DA)が接続されている。
【0105】
一方、陰極ライン(KL)には、陰極電源(PK)により供給される電圧を輝度に応じた所定の電圧Vbに調整して供給したり、陰極ライン(KL)を陰極電源(PK)から遮断してハイインピーダンス状態にしたりすることができる陰極駆動部(DK)が接続されている。
【0106】
そこで、図12に示すように、陰極駆動部(DK)や陽極駆動部(DA)は、それぞれの陽極ライン(AL)や陰極ライン(KL)の電圧を個別に制御できるように接続してある。
【0107】
画像表示の際には、陽極ライン(AL)側を順次選択し、陰極ライン(KL)側に各画素の発光に必要な電圧を印加することにより画像表示を行う。
【0108】
以下に、図9に示すj番目の陽極ライン(AL(j))上の発光部(ELC)を発光させる場合の動作ステップを説明する。
【0109】
まず、j番目の陽極ラインを含めて全ての陽極ラインに非選択電圧VaOFFを印加する。この状態において、陰極駆動部(DK)を陰極電源(PK)側に切り換え、陰極ライン(KL)には、j番目の陽極ライン(AL(j))と各陰極ライン(KL)の交点での画素の発光に必要な電圧Vbを印加する。各陰極ライン(KL)には、それぞれ浮遊容量Ckが存在し、印加した電圧により充電される。この状態では、陽極電圧Vaは非選択電圧VaOFFであり、陽極(A)−陰極(K)間電圧が電子放出開始電圧以下となるように設定しているために発光は生じない(期間1)。
【0110】
その後、陰極駆動部(DK)を開放側に切り換えて、陰極ライン(KL)と陰極電源(PK)を遮断した後に、j番目の陽極ライン(AL(j))に選択電圧VaONを印加する。期間1において充電された陰極ライン上の画素においては、充電された電荷を放電するために陽極(A)−陰極(K)間に素子電流が流れ、充電電荷量に応じた発光を生じる。一方、期間1において充電されなかった陰極ライン上の画素においては、放電されるべき電荷がないので素子電流が流れず発光は生じない(期間2)。
【0111】
充電された画素においては、図11に示した電極間電圧−素子電流特性に応じたピーク電流が流れるが、陰極ライン(KL)が陰極電源(PK)から遮断されているために、陰極(K)電圧はしだいに陽極(A)に近づき、電極間電圧Vakが電子放出開始電圧に達すると素子電流が流れなくなるため、電極間電圧Vakが電子放出開始電圧以下になることはない。
【0112】
電子放出開始電圧に達するまでに素子電流量の積分値、つまりは、1発光期間に素子を流れる電荷量は、FEDの場合と同様に、期間1において陰極ライン(KL)に印加した電圧Vbと放電が終了する時の閾電圧Vthとの差と、浮遊容量Ckにより表される。この浮遊容量Ckは測定することができる。
【0113】
さらには、期間2の放電(発光)期間において、j番目の陽極ライン(AL(j))の印加電圧を選択電圧VaONから非選択電圧VaOFFに切り換える直前には十分放電した状態であるので、この時の各陰極ラインの電圧を測定することにより、j番目の陽極ライン(AL(j))上の画素の閾電圧Vthを閾電圧測定部(VM)により測定することができる。
【0114】
発光に寄与する電荷を充電するに必要な電圧(Vb−Vth)は、電極間電圧−素子電流特性と、発光部(ELC)の持つ発光効率、浮遊容量Ckから求めることができる。したがって、期間1に印加すべき電圧Vbを求めることができる。
【0115】
図13に示す構成により、陽極ラインの線順次走査と各陰極ラインの閾電圧測定を組み合わせて、表示素子内の各画素の閾電圧を閾電圧測定部により測定し、閾電圧記録テーブルに記録する。この閾電圧記録テーブル上の閾電圧を基に補正し、次の発光期間には、輝度信号により要求される発光強度を得るに必要な電圧値Vbを求める。
【0116】
この、閾電圧測定、記録、補正のサイクルは、各表示期間(例えば、1/60秒毎)に行えば、より正確に輝度補正を行うことができるが、表示素子の閾電圧の変動状況に応じて適切な測定周期を選択してもよい。
【0117】
以上のような閾電圧測定及び補正を用いて、1発光期間内に画素を流れる電荷量を制御することにより、FEDの場合と同様に、有機EL素子を表示素子として用いた場合においても発光均一性のよい画像表示装置が得られる。なお、表示素子として有機ELを用いた場合においても、図6に示した演算機能を有する補正部が有効であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1(a)】FED画像表示装置における制御電極及び陰極駆動部の構成図。
【図1(b)】FED画像表示装置における制御電極及び陰極駆動部の他の構成図。
【図2】FED画像表示装置における電極電圧及び電流変化を表すグラフ。
【図3】FED画像表示装置における電極間電圧−電子放出強度特性を表すグラフ。
【図4】FED画像表示装置のブロック図。
【図5】FED画像表示装置の全体構成図。
【図6】FED画像表示装置の他のブロック図。
【図7】陽極−陰極間に制御電極があるFED素子の電極配置の一例を表す図。
【図8】陰極と制御電極が同じ高さあるFED素子の電極配置の一例を表す図。
【図9】有機EL素子を用いた画像表示装置における陰極及び陽極駆動部の構成図。
【図10】有機EL素子の発光部の膜構成を表す図。
【図11】有機EL素子における電極間電圧−素子電流特性を表すグラフ。
【図12】有機EL素子を用いた画像表示装置の全体構成図。
【図13】有機EL素子を用いた画像表示装置のブロック図。
【符号の説明】
【0119】
FE…電界放射型表示素子、P…蛍光面、G…制御電極、K…陰極、KL…陰極ライン、GL…制御電極ライン、Ck…陰極ライン浮遊容量、PP…蛍光面電源、PG…制御電極電源、PK…陰極電源、DG…制御電極駆動部、DK…陰極駆動部、VM…閾電圧測定部、TR…陰極電圧測定トリガ信号、EL…有機EL素子、ELC…有機EL発光部、A…陽極、HIL…正孔注入層、EM…発光層、EIL…電子注入層、AL…陽極ライン、PA…陽極電源、DA…陽極駆動部、e…電子線、dgk…陰極−制御電極間距離、dpg…陽極−制御電極間距離、dpk…陽極−陰極間距離、Vth…閾電圧、Vg…制御電極ライン電圧、VgON…電子放出電圧(選択電圧)、VgOFF…電子放出抑制電圧(非選択電圧)、VaON…選択陽極ライン電圧、VaOFF…非選択陽極ライン電圧、Vk…陰極ライン電圧、Vgk…制御電極−陰極間電圧、Vb…陰極駆動部出力電圧、Ik…陰極ライン流入電流、Ie…電子放出による電流、Iep…電子放出による電流のピーク値、P1…駆動の第一期間(陰極ラインへの充電期間)、P2…駆動の第二期間(陰極ライン電圧維持期間)、P3…駆動の第三期間(電子放出期間)、T0…一選択期間の開始(充電開始)、T1…第1のタイミング(充電終了)、T2…第2のタイミング(電子放出開始)、T3…第3のタイミング(閾電圧測定及び一選択期間終了)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に電流により輝度が変化する発光素子を用い、発光部に断続的に流入する電荷量を制御することにより、発光輝度を調節する平板型画像表示装置に係り、特に、電子源である陰極からの電子放出が生じて発光を開始する閾値である電子放出開始電圧の差異による輝度ばらつきを抑制することを可能にした平板型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の時間内に電子放出源から発光層に入射する電荷量、つまりは電流により発光強度が決まる電流駆動型の表示素子がある。その例として、フィールドエミッションディスプレイ(Field Emission Display、以下「FED」という。)や、有機エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence Display、以下「有機EL」という。)がある。
【0003】
FEDは、複数ある画素毎に形成された多数の冷電子源から真空を介して蛍光面に向かって電子線を照射することにより発光を得る。
【0004】
また、FEDには、用いる電子源によりいくつかのタイプがあり、微細な円錐形電子源を用いたSpindt型や、表面伝導型と呼ばれる電子源を用いたもの、酸化膜の超薄膜を介したMIM型電子源を用いたものや、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube、以下「CNT」という。)を用いたCNT−FEDなどがあるが、いずれの電子源を用いた場合にも、その発光強度は発光層である蛍光面の電圧と、単位時間内における蛍光面への電子線の照射量、つまり電流により決まる。
【0005】
この蛍光体の特性から蛍光面の電圧は、数kV以上の高電圧が用いられることから、直流電圧を印加することが一般的であり、FEDの輝度は専ら蛍光面電流である入射電子線量により変化する。
【0006】
そこで、入射電子線量は、電子源からの電子放出量を変化させることで決められているが、例えば、Spindt型やCNT−FEDでは、電子源からの電子放出量は、陰極と制御電極に適切な電圧を印加することで制御している。
【0007】
また、MIM型や表面伝導型においては、陰極と制御電極という構成をしていないが、いずれも2電極間に電圧を印加して流れる電流の一部を電子放出として真空中に取り出している。
【0008】
一方、有機ELでは、画素毎に形成された発光層に、陰極から電子を陽極から正孔を注入することにより発光を得ている。有機薄膜である発光層に注入された電子と正孔の再結合により発せられるエネルギにより、発光層内で励起状態が生じ、それが緩和されることにより発光が生じる。したがって、有機ELにおける発光強度は単位時間内に発光層に注入される電子・正孔の数で概ね決まる。
【0009】
つまりは、陽極から陰極に向かって発光層を流れる電流により決まっていることになるが、一般的には、陽極と陰極に印加する電圧により制御している。(FEDにおける陰極からの電子放出と、有機ELにおける陰極からの電子注入を合せて、以下「電子放出」ともいう。)
【0010】
以上のように、FED・有機ELともに、電流により発光強度が決まる素子であるにもかかわらず、所定の電極電圧を印加する電圧駆動を行っている。この場合、複数ある各画素のそれぞれにおける電極電圧−電子放出特性の違いの影響を受け、所定の電極電圧を印加した場合においても、画素毎の輝度差が生じる可能性がある。
【0011】
これを避けるためには、素子を流れる電流を直接制御することが検討されており、これを有機ELに適用する従来技術が、下記特許文献1に記載されている。
【0012】
この特許文献1においては、有機ELの発光強度を陰極に接続する定電流源により駆動することにより発光強度を制御し、さらには、各陰極において非選択から選択への遷移時における浮遊容量への充電を、他の大容量の定電流源又は定電圧源から行っている。これにより、浮遊容量充電にかかる時間を短くし、陰極選択時における発光の立ち上がり特性を改善して応答性を高くしている。
【0013】
また、FEDや有機ELのような表示素子は、マトリクス構造を有しており、マトリクスを構成する2種の電極のいずれか一方を順次選択していく線順次表示方法を用いている。
【0014】
この駆動方法では、各画素においては、短時間の選択期間と比較的長時間の非選択期間との2種の状態の組合せからなる。一選択期間は短時間であるため、その中での輝度変化は観察者には認識されにくい。したがって、選択期間中に一定輝度で発光した場合でも、選択期間中に短時間に強く発光した場合でも、一選択期間内の輝度積分が同じならば同じ輝度として認識される。
【0015】
この現象を用いて、一選択期間内に、陰極電源から陰極に流れ込む総電荷量を制御して、一選択期間内の積分発光強度を制御する方法を、FEDに適用した従来技術が下記特許文献2に、さらに、有機ELにも適用した従来技術が下記特許文献3に記載されている。これらの従来技術においては、一旦、浮遊容量又は外部容量素子に充電した電荷を、陰極からパルス的に放出させる方法を用いている。
【0016】
FEDや有機ELのような表示素子は、マトリクス構造を有するため必然的に電極同士が対向する領域が大きく、各電極には浮遊容量を有する。さらには、外部容量によりその容量を補正することもできる。その総容量のばらつきを小さくすることは、電子放出素子の電圧−電流特性のばらつきを小さくすることと比較して容易であり、画素間の輝度ばらつきを小さくすることができる。さらには、既知の容量素子への充電電荷は、その素子に印加する充電電圧により決まるため、駆動には構成が簡単な定電圧源を用いることができる。
【0017】
ここで、本発明が対象としているFEDにおける電極間電圧−電子放出特性、いわゆる電圧−電流特性を図3に、有機ELの電極間電圧−素子電流特性の一例を図11に示す。
【0018】
いずれの素子においても、図3に示すように、FEDにおける制御電極と陰極の間には、電子放出開始電圧が存在し、図11に示すように、有機ELにおける陽極と陰極の間の電極間電圧には、発光開始電圧と示した閾値が存在し、この閾値以下では電流が流れず、これを超えると急激に電流が流れ始めて発光を生じるという特性を持っている。(以下、図11に示す有機EL素子においても、陰極からの電子放出により発光が始まるので、発光開始電圧も含めて「電子放出開始電圧」という。)
【0019】
このように、陰極から電子放出を生じさせるためには、電極間電圧が電子放出開始電圧に達するまでに必要な電荷Qcと、所定の輝度の発光を得るのに必要な電荷Qeの和を供給する必要がある。電荷Qcは、陰極及び陰極ラインが持つ浮遊容量の影響も大きく受けるため、FED素子において浮遊容量を決める絶縁膜厚のばらつきが必要な電荷量Qcに影響与える。
【0020】
このため絶縁膜厚のばらつきに対応した電子放出開始電圧設定と、放出させるための電荷注入を組み合わせることにより、画素間の輝度ばらつきを抑制する従来技術が、下記特許文献4に記載されている。
【0021】
この従来技術においては、画素選択時の第一期間において、制御電極には電子放出抑制電圧を印加したまま、制御電極に電子放出電圧を印加しても電極間電圧が電子放出開始電圧よりやや低い電圧となるような電圧V1を陰極に印加して充電する。
【0022】
次に、V1に加えて、さらに放出させる電荷Qeを充電するための電圧を印加した後に、制御電極に電子放出電圧を印加する。これにより、均一性が改善された電子放出を電圧源のみで生じさせることができる。
【特許文献1】特開平11−231834号公報
【特許文献2】特開2000−133116号公報
【特許文献3】特開2002−23688号公報
【特許文献4】特開2002−55652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記特許文献1に示された定電圧源又は定電流源により、第一期間において電極を充電し、第二期間において定電流源により輝度制御する方法では、定電圧源と比較して構成の複雑な定電流源を備える必要があり高価になるという問題に加え、第一期間における充電条件の設定(電圧、電流、時間)が難しく、各画素の素子状態の時間変化に対応できないという問題もある。
【0024】
また、上記特許文献2,3に示されている電荷を制御する方法においては、浮遊容量を活用することにより電圧駆動とほぼ同じ回路構成で実現できるため、駆動回路が複雑化することはないが、陰極の特性である電子放出開始電圧が存在することに対して配慮されていない。このため電子放出に寄与せず電極電圧を開始電圧まで変化させるに必要な電荷量分だけ陰極からの放出電荷量が減少するという問題がある。
【0025】
これに対処し、電子放出開始電圧を考慮したものが上記特許文献4であるが、電子放出開始電圧を考慮した補正が、製造時の絶縁膜厚つまりは電極間の浮遊容量しか考慮の対象になっていない。この特許文献4が対象としているFEDの陰極では、表面が接している雰囲気内のガス吸着等により、表面状態が変化する。このような陰極表面の状態変化は、電極形成後の真空排気プロセス中や表示動作中にも生じ、それに伴って電子放出開始電圧の時間変化が生じる恐れがある。
【0026】
また、特許文献4に示された技術においては、電極構造形成後やその後の動作中における電子放出開始電圧の変化に対する考慮がなされていなかった。さらに、特許文献4の対象はFEDのみであるが、有機ELにおいても動作中に陰極を含む各層間の界面状態の変化に伴い、発光を開始する電子放出開始電圧の変化が生じるため、動作中の時間変化に対応できる機構が必要となる。
【0027】
そこで、本発明の目的は、FEDや有機ELにおいて、陰極から放出される電荷量を制御する駆動機構を有し、かつ、発光を開始する電子放出開始電圧を測定する機構を駆動装置内に備えて、電子放出開始電圧の変化を検出し、その結果を基に駆動信号を補正する機構を備えることにより、発光均一性が高く、高画質の画像表示を可能とした平面型画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するため、本発明は、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、(1)複数の第1電極ラインと複数の第2電極ラインとの交差部に配置された画素と、前記第1電極ラインに輝度信号に応じた電圧を印加する第1電極駆動部と、前記第2電極ラインに選択電圧を印加する第2電極駆動部と、前記選択電圧による選択期間内で輝度信号に応じた電圧を一時的に保持する浮遊容量とを有する平板型画像表示装置において、
前記第1電極駆動部が第1電極ラインを開放した状態で選択期間終了直前における第1電極ラインの電圧を測定する電圧測定部と、測定された電圧の値を記録する記録テーブルと、記録された電圧の値を基に第1電極ラインに印加する輝度信号に応じた電圧を補正する電圧補正部とを備えたことにより達成することができる。
【0029】
また、本発明は、前記記録テーブルに記録されている電圧の値と新規に測定された電圧の値とを用いて演算処理を行い、その演算結果を新たな電圧の値として記録テーブルに記録させる演算処理部を備えるものである。
【0030】
また、本発明は、前記第2電極駆動部は第2電極ラインに非選択電圧を印加し、前記第1電極駆動部は第1電極ラインに輝度信号に応じた電圧を印加して浮遊容量を充電した後に、第1電極ラインを開放し、第2電極駆動部は選択された第2電極ラインに選択電圧を印加することを特徴とするものである。
【0031】
また、本発明は、前記第1電極ラインに外部容量を付加させるものである。
【0032】
さらに、本発明は、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、(2)前記第1電極ラインに接続された第1電極と、前記第2電極ラインに接続された第2電極とを備え、第1電極から放出された電子が、大気圧よりも低く減圧された空間を介して蛍光面パネルに入射し、蛍光面が発光することにより画像を表示することを特徴とする。
【0033】
また、本発明は、前記第1電極から電子放出が生じる状態における、第1電極電圧をVk、第2電極電圧をVg及び蛍光面電圧をVpとし、蛍光面と第1電極との間の距離をdpk、蛍光面と第2電極との間の距離をdpgとしたとき、dpk>dpgであって、Vg<(Vp−Vk)/dpk×(dpk−dpg)+Vkである表示素子を用いたことを特徴とする。
【0034】
また、本発明は、前記第1電極から電子放出が生じる状態における、第1電極電圧をVk、第2電極電圧をVg及び蛍光面電圧をVaとし、蛍光面と第1電極との間の距離をdpk、蛍光面と第2電極との間の距離をdpgとしたとき、dpk−dpgの絶対値が、第1電極の膜厚と第2電極の膜厚のうち厚い方の膜厚以下であって、Vg≦Vkである表示素子を用いたことを特徴とする。
【0035】
また、本発明は、前記第1電極の表面に、繊維状炭素材料を含む表示素子を備えたことを特徴とする。
【0036】
さらに、本発明は、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、(3)前記第1電極と第2電極との間に有機発光層を有する発光素子を用いたことを特徴とする。
【0037】
なお、本発明は、上記の各構成及び後述する実施例に記載される構成に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱することなく、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、FEDや有機ELに代表される電圧ではなく電流により輝度が決まるマトリクス構造の表示素子を用いた画像表示装置において、画素間の電子放出開始電圧すなわち閾電圧の違いや、動作中における閾電圧の変動を補正することができる。これにより、輝度均一性のよい発光を行わせることが可能となり、高画質の平板型画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0040】
本発明によるFEDを用いた平板型画像表示装置の実施例1について、図1を用いて説明する。図1(a)及び(b)は、本実施例の制御電極及び陰極駆動部の構成を示す図である。
【0041】
図1に示したように、本実施例では、表示素子としてFED(FE)を用いており、電子を放出する陰極(K)、陰極表面の電界を制御する制御電極(G)、陰極(K)から放出された電子の入射により発光する蛍光面(P)の3電極を主体に構成される。
【0042】
複数の陰極ライン(KL)と複数の制御電極ライン(GL)とにより、マトリクス構造が形成されており、その交差部に、陰極ライン(KL)に電気的に接続された陰極(K)と、制御電極ライン(GL)に電気的に接続された制御電極(G)とから構成されている電子線源があり蛍光面(P)上の発光部とともに画素を形成する。
【0043】
陰極(K)と制御電極(G)のそれぞれの電極群を接続している陰極ライン(KL)と制御電極ライン(GL)により、マトリクス構造が形成されており、他の電極との対向面も大きいことから、各々の陰極ライン(KL)には浮遊容量Ckが存在する。
【0044】
陰極ライン(KL)には、それぞれのライン毎に電圧設定をすることができる陰極駆動部(DK)が接続されており、発光させたい輝度信号に応じた設定電圧Vbを印加することができるとともに、駆動部を切り換えることにより開放された状態、つまり、ハイインピーダンス状態にもすることができる。
【0045】
一方、制御電極ライン(GL)にも、それぞれのライン毎に電子放出電圧(選択電圧)VgONと電子放出抑制電圧(非選択電圧)VgOFFを選択して印加することができる制御電極駆動部(DG)が接続されている。
【0046】
蛍光面(P)には、その表面に塗布されている蛍光体(図示せず)が発光するのに十分なエネルギーを電子に与えることができる高電圧の蛍光面電源(PP)が接続されている。
【0047】
制御電極ライン(GL)側を順次選択することと、選択する制御電極ライン上にある画素に要求される発光強度に応じた電圧出力を一斉に陰極ライン(KL)側に印加することとの組合せにより、各画素を構成する陰極表面から所望の電子放出を生じさせ、この放出電子が蛍光面(P)上の蛍光体を発光させることにより所望の画像を表示する。
【0048】
本実施例においては、制御電極駆動部(DG)の動作に同期したトリガ信号(TR)により、動作タイミングを制御して、陰極ライン(KL)電圧Vkを測定することができる閾電圧測定部(VM)を備えている。
【0049】
この閾電圧測定部(VM)での閾電圧測定は、陰極駆動部(DK)により、陰極ライン(KL)が陰極電源(PK)から切り離されて、ハイインピーダンス状態になった時に行う。なお、図1(a)においては、閾電圧測定部(VM)を直接陰極ライン(KL)に接続しているが、図1(b)に示すように、陰極駆動部(DK)内の遮断側に接続しても測定することができる。また、閾電圧測定部(VM)内を流れる電流が多いと、測定誤差や放出電子量の低下につながるため、閾電圧測定部(VM)の内部インピーダンスは、安定動作範囲内において高いことが望ましい。
【0050】
本実施例においては、陰極ライン(KL)上の浮遊容量Ckを活用しているが、浮遊容量だけでは容量不足の場合や、各陰極ラインの間で浮遊容量のばらつきが著しく大きい場合には、各陰極ライン(GL)に外部容量を付加させることもできる。この場合には、付加する外部容量を各陰極ラインの浮遊容量の状態に合せて適切に選択することにより、電圧可変範囲の狭い陰極駆動部(DK)を用いても駆動できるようにすることもできる。外部容量を付加した場合は、結局、陰極ライン(KL)上の浮遊容量が大きい場合と同様であるので、以下においては、外部容量を付加した場合の説明は省略する。
【0051】
以下、図1に示した構造における駆動手順を、各電極の電圧変化および電子放出による電流変化を示した図2と、FEDに用いる陰極と制御電極の間の電極間電圧−電子放出強度特性を示した図3とを用いて説明する。
【0052】
図2には、これから選択制御ラインとなるj番目の制御電極ラインの電圧Vg(j)、次の選択制御電極ラインの電圧Vg(j+1)、ある陰極ライン用の陰極駆動部出力電圧Vb、駆動部から同陰極ラインへの流入電流Ik、同陰極ラインの電圧Vk、同陰極からの放出電子による電流Ieを示している。また、図2中に示した各タイミングにおける制御電極と陰極との間の電極間電圧Vgkと電子放出の状態を図3中にT0〜T3により表してある。
【0053】
まず、制御電極電源(PG)と制御電極駆動部(DG)により、j番目の制御電極ライン(GL(j))を含めた全ての制御電極ライン(GL)の電圧を、電子放出抑制電圧VgOFFにした状態にする(タイミング0(T0))。この時には、電極間電圧Vgkは、図3中のT0で示したところとなっており電子放出は生じない。
【0054】
この状態で、これから電子放出を生じさせようとする陰極(K)に接続された陰極ライン(KL)を、陰極駆動部(DK)を介して、陰極電源(PK)に接続し、所望の輝度を得るに必要な電圧Vb1に充電する(第一期間(P1))。
【0055】
この時、出力電圧Vb1の値は、事前に記録してある当該陰極の閾電圧Vthと、所定の発光を得るのに必要な電荷量から決まる電圧の和から決定される。陰極駆動部出力電圧Vbの決定方法については後述する。
【0056】
出力電圧Vb1の陰極駆動出力を接続した陰極ライン(KL)に電子が流入することにより、陰極ライン電圧VkがVb1に向かって低下する。
【0057】
陰極ライン(KL)上に存在する浮遊容量Ckに対して電荷は蓄えられるが、全ての制御電極ライン(GL)に電子放出抑制電圧VgOFFが印加されているので電子放出は生じない。この時の電極間電圧Vgkは、図3中のT1に示したところに移るが、やはり電子放出は生じない。
【0058】
次に、電圧Vb1により浮遊容量Ckに所定の電荷が蓄えられたのち、陰極駆動部(DK)により、陰極電源(PK)と全ての陰極ライン(KL)との間の接続を遮断する(タイミング1(T1))。この状態では、浮遊容量Ckに対して、充電も放電もされないので陰極ライン電圧Vkは維持される(第二期間(P2))。
【0059】
続けて、制御電極駆動部(DG)により電子放出を生じさせようとする画素を含む制御電極ライン(GL(j))のみの電圧Vg(j)を電子放出電圧VgONに切り換える(タイミング2(T2))。
【0060】
これにより制御電極電圧Vg(j)はVgON、陰極電圧(Vk)はVb1となり、電極間電圧Vgkは、図3に示したT2の状態になり電子放出が生じる。したがって、該当する制御電極ライン(GL(j))に接続されている陰極(K)表面から電子放出が生じて電流Ieが流れる。
【0061】
この電子放出に伴い、浮遊容量Ckに充電されていた電荷が放電されて陰極ライン電圧VkがVb1から急激に変化して電極間電圧Vgkが低下(図3のT2からT3に遷移)して、電子放出強度も急激に低下するためにパルス状の電子放出となる(第三期間(P3))。この時の最大電流Iepは、陰極(K)表面に印加されている電界により制限される。
【0062】
陰極ライン電圧Vkが閾電圧Vthに近づくのに応じて、電極間電圧Vgkが電子放出開始電圧に近づき、電子放出電流Ieが減少するので、陰極ライン(KL)からのリーク電流を十分小さくしておけば、陰極ライン電圧VkはVthを越えることはない。
【0063】
したがって、選択制御電極ライン(GL(j))の電圧Vg(j)を、電子放出電圧VgONから電子放出抑制電圧VgOFFに切り換える時(タイミング3(T3))の直前においては、陰極ライン(KL)の電圧は、各陰極ライン上で電子放出を生じたj番目の制御電極ライン(GL(j))との交点に存在する各陰極(K)が持つ閾電圧Vthとなっているので、この値を閾電圧測定部(VM)により測定して、閾電圧記録テーブルに記録する。
【0064】
以上で、j番目の制御電極ライン(GL(j))上の画素の動作が完了し、次の(j+1)番目の制御電極ライン(GL(j+1))上の画素において同様の動作を行う。このように、全ての制御電極ラインにおいて同様の動作を行った後、再びj番目の制御電極ライン(GLj)上の画素の動作を行う場合には、前回記録された閾電圧Vthの値を基にVbを補正することにより、閾電圧Vthの変動を補正することができる。
【0065】
以下に、陰極駆動部(DK)の出力電圧Vbの設定方法について説明する。
【0066】
発光輝度は上記第三期間内における全放出電子量ΔQeに依存する。そして、全放出電子量ΔQeは、当該陰極ライン(KL)が他の電極等との間に持つ浮遊容量Ckの一方の電極である陰極ラインの電圧Vkが、タイミング(T2)におけるVb1の状態から閾電圧であるVthの状態になるまでの蓄積電荷量変化ΔQに相当する。
【0067】
この間、他の電極電圧は変化しないので陰極ライン電圧Vkのみを考慮すればよく、放出電子量ΔQeは、ΔQe=ΔQ=Ck(Vb1−Vth)……(1)となる。
【0068】
瞬間的な電子放出強度には、図3に示したように電極間電圧−電子放出強度特性の影響も考慮しなければならないが、(1)式からわかるように一選択期間内で放出される電荷量の総量ΔQeは浮遊容量Ckと陰極ライン電圧Vkの変化幅(Vb−Vth)のみで決まる。なお、浮遊容量は、FED等の発光素子完成時に測定することができる。
【0069】
設定すべき電圧Vbは、陰極部出力電圧Vb1であるので、閾電圧Vthと、上記電荷量変化ΔQe=ΔQに必要な電圧幅ΔVk=(Vb1−Vth)を求める。
【0070】
発光させる輝度、蛍光面(P)の形状や発光効率、走査線数及び電極形状等から導かれる電子の利用効率等から、一選択期間内に陰極から放出させる必要がある電荷量ΔQbを得ることができる。
【0071】
このΔQbから、必要な電圧幅ΔVkは、ΔVk=(Vb1−Vth)=ΔQb/Ck……(2)となる。
【0072】
したがって、閾電圧Vthを得ることができれば、陰極駆動部の出力電圧Vbを得ることができる。
【0073】
閾電圧Vthの測定は、上記方法によりタイミング3(T3)直前における陰極ライン電圧Vkを測定することができるので、以下に、これを駆動部出力電圧Vbの補正に用いるための流れについて、図4から図6を用いて説明する。
【0074】
図4に、画像表示装置に用いられる制御部の構成の一例を示す。表示素子としては図1に示したようなFEDを用いており、図5に示したような接続になっている。
【0075】
図5において、複数ある陰極ライン(KL)のそれぞれに異なった電圧を印加できる陰極駆動部(DK)と、複数ある制御電極ライン(GL)のうちの0本又は1本に電子放出電圧を印加し、それ以外の制御電極ライン(GL)に電子放出抑制電圧を印加することができる制御電極駆動部(DG)を介して接続している。
【0076】
さらに、陰極ライン(KL)のそれぞれには閾電圧測定部(VM)が接続され、また、蛍光面(P)には蛍光面電源(PP)が接続されている。なお、画像表示を行うための信号の流れについては一般的であるので省略する。
【0077】
本発明の特徴的な構成部は、遮断機構を有する陰極駆動部であるが、その構造は図1を用いて説明したとおりであるので省略する。
【0078】
その他としては、閾電圧測定部や閾電圧記憶テーブルの動作が画像表示に同期させて行えるようタイミング信号が接続されている。
【0079】
図1を用いて説明したように表示素子内の陰極ライン(KL)と陰極駆動部(DK)の間を遮断した状態で電子放出を生じさせた後、制御電極電圧Vgを電子放出電圧VgONから電子放出抑制電圧VgOFFに切り換える直前の時の陰極ライン電圧Vkを閾電圧測定部(VM)を用いて測定することにより、電子放出電圧VgONを印加していた制御電極ライン(GL)上の各画素を構成する陰極(K)の閾電圧Vthを測定することができる。このように測定された閾電圧の値は閾電圧記録テーブルに画素毎に記録する。
【0080】
このようにして、複数ある制御電極ライン(GL)には、順次電子放出電圧VgONを印加していくので、これに同期させて各陰極の閾電圧Vthを測定することにより、全画素の陰極の閾電圧Vthを測定し、記録することができる。
【0081】
図5には、閾電圧測定部(VM)として1系統の測定部しか示していないが、各陰極ライン(KL)のそれぞれに閾電圧測定部(VM)が接続されており、制御電極ライン(GL)を1本選択して駆動する毎に、当該制御電極ライン(GL)上の画素を構成する全陰極の閾電圧を測定することができる。
【0082】
本実施例では、陰極ライン数分の閾電圧測定部(VM)を備えた構造としたので全制御電極を順次選択して、1画面を表示する毎に、全画素に関する閾電圧Vthを測定することができ、閾電圧の変動に対してほぼリアルタイムに補正することができる。
【0083】
しかし、別途陰極ライン切り換え機構を備えることにより、順次ではあるが全画素に関する閾電圧Vthを測定することはできるので、閾電圧Vthの変動がゆるやかな場合は、陰極ラインよりも少ない系統数の閾電圧測定部(VM)を備えることによっても本発明の効果を得ることができる。
【0084】
閾電圧記録テーブルに記録された閾電圧値は、該当する画素が次回以降に選択される際に読み出され、(2)式に基づいて、入力信号である画像信号とともに陰極駆動部出力電圧Vbを決定する。決定された電圧Vbは、D/A変換を介して陰極駆動部に伝えられて実際に表示素子の陰極ラインに印加される。
【0085】
このような、閾電圧測定、記録、読み出し、陰極駆動部出力電圧決定、電圧印加のサイクルを繰り返すことにより、閾電圧Vthが変動した場合の輝度変化を補正することができる。
【0086】
図4では、閾電圧Vthを測定するために閾電圧記録テーブルに直接記録しているが、図6に示したように新たに測定した値と予め記録されている値を用いた演算処理を行い、その結果を閾電圧記録テーブルに新たな値として記録してもよい。
【0087】
この演算として、例えば、重み付き平均化処理を行うことにより、外来ノイズや単発的な閾電圧変化等の影響を抑制して過剰補正を防止することができる。なお、演算処理の内容について平均化に限らず多くの方法が考えられることは言うまでもない。
【0088】
ここで、表示素子としてFEDを用いた場合は、陰極(K)から放出された電子が蛍光面(P)に入射することにより発光を得ており、陰極(K)からの電子放出量を制御することにより発光強度を制御している。
【0089】
なお、電極の構造上、放出された電子の一部が制御電極(G)に入射してしまう状態でも、電極間電圧−電子放出強度特性に電子放出開始電圧が存在し、かつ、放出電子量と制御電極への入射量の比が一定であれば本発明の効果を得ることができる。
【0090】
しかし、本発明の効果を十分に活かすためには、制御電極(G)への電子入射がなく、制御している陰極(K)からの放出電荷量が全て蛍光面(P)への入射電荷量となることが望ましい。
【0091】
この条件を満たすことができ、さらに効果的に本発明を活用することができるFEDの電極構造を図7及び図8に示す。図7及び図8に示すように、FEDは、主に陰極(K)、制御電極(G),蛍光面(P)の3種の電極から構成されている。
【0092】
図7は、制御電極(G)が、陰極(K)と蛍光面(P)の間に配置された構造を示している。この構造において、電子放出が生じている時の陰極(K)の電圧をVk、制御電極(G)の電圧をVg、蛍光面(P)の電圧をVpとし、蛍光面(P)と陰極(K)の間の距離をdpk、蛍光面(P)と制御電極(G)の間の距離をdpgとしたとき、dpk>dpgであって、Vg<(Vp−Vk)/dpk×(dpk−dpg)+Vkとなるような条件下で駆動することにより、陰極(K)から放出された電子線は、制御電極(G)付近において集束し、制御電極(G)への入射を極力抑えることができる。
【0093】
これにより、陰極(K)から放出された電子のほとんどを蛍光面(P)に入射させることができ、本発明の効果を有効に活用することができる。
【0094】
また、図8に示したように、制御電極(G)を陰極(K)と概ね同じ高さの位置に設置することによっても、制御電極(G)への電子入射を抑制し、放出電荷制御の効果を有効に活用することができる。このような電極配置(以下「IPG構造」という。)においては、陰極から放出される電子は、正の高電圧を印加している蛍光面(P)に向かって放出されるため、制御電極(G)の近傍を通過しない。特に、蛍光面電圧Vp、陰極電圧Vk及び蛍光面−陰極間距離dpkにより定まる、蛍光面(P)と陰極(K)間の平均電界Fpk=(Vp−Vk)/dpk……(3)よりも低い電界によっても十分な電子放出を得られる陰極材料を用いた場合において効果的である。
【0095】
このような陰極材料としては、カーボンナノチューブや、カーボンナノファイバを始めとする太さがナノメートルサイズである炭素系繊維材料があり、これらを陰極の下地膜上に直接成長させるか、または、溶剤に分散させたのち樹脂剤等を混合したペーストを印刷することにより、低電界で電子放出が得られる陰極を形成することができる。例えば、カーボンナノチューブをペースト化したものを印刷することにより形成される陰極では、約3V/μm程度で十分な電子放出を得ることができる。
【0096】
この陰極を用いて、図8に示したIPG構造を形成し、蛍光面−陰極(制御電極)間距離dpk(=dpg)を2mm、蛍光面電圧Vpを6kV、制御電極間隔150μmとした場合の、電子放出時の制御電極電圧Vg及び陰極電圧Vkは、いずれも0Vであり、制御電極Vgを−100Vにするか、陰極電圧Vkを+100Vにすることにより電子放出を遮断することができる。
【0097】
この電極電圧制御を組み合わせることによりマトリクス動作の電子線源を構成することができ、図5に示すように、蛍光面パネル(P)と組み合わせることによりFEDを構成することができる。
【実施例2】
【0098】
以上は表示素子としてFEDを用いた場合を示したが、次に表示素子として有機EL素子を用いた実施例2を、図9から図13を用いて説明する。
【0099】
図9は本実施例の有機EL素子を用いた画像表示装置の電極信号印加部の構成を示す図、図10は有機EL素子の発光部の膜構成を表す図、図11は本実施例に用いる有機EL素子の電極間電圧−素子電流特性の一例を表すグラフ、図12は駆動部と表示素子である有機EL素子の接続を表す図、図13は画像表示装置の全体構成図である。
【0100】
図9において、本実施例の表示装置は、各画素の有機EL素子(EL)の画素である発光部(ELC)の陽極同士及び陰極同士を接続して、陽極ライン(AL)及び陰極ライン(KL)を構成し、それぞれのラインに所定の電圧を印加することにより、画素の発光/非発光を制御する。
【0101】
発光部(ELC)は、図10に示した膜構造のものを用いており、陽極(A)上に、正孔注入層(HIL)、発光層(EM)、電子注入層(EIL)、陰極(K)の順に積層したものである。
【0102】
この発光部(ELC)の両端に電圧を印加すると、図11に示すように電極間電圧−素子電流特性を示し、電子放出開始電圧以上の電圧を印加することにより、素子電流が流れて発光する。
【0103】
ここで、図9に示すように、陽極ライン(AL)と陰極ライン(KL)によりマトリクス構造を形成しており、電子放出開始電圧以下の電圧を印加して素子電流が流れていない状態においては、浮遊容量(Ck)の影響を受ける。
【0104】
各陽極ライン(AL)には、陽極電源(PA)により供給される選択電圧VaONと非選択電圧VaOFFの2電圧を切り換えて印加することができる陽極駆動部(DA)が接続されている。
【0105】
一方、陰極ライン(KL)には、陰極電源(PK)により供給される電圧を輝度に応じた所定の電圧Vbに調整して供給したり、陰極ライン(KL)を陰極電源(PK)から遮断してハイインピーダンス状態にしたりすることができる陰極駆動部(DK)が接続されている。
【0106】
そこで、図12に示すように、陰極駆動部(DK)や陽極駆動部(DA)は、それぞれの陽極ライン(AL)や陰極ライン(KL)の電圧を個別に制御できるように接続してある。
【0107】
画像表示の際には、陽極ライン(AL)側を順次選択し、陰極ライン(KL)側に各画素の発光に必要な電圧を印加することにより画像表示を行う。
【0108】
以下に、図9に示すj番目の陽極ライン(AL(j))上の発光部(ELC)を発光させる場合の動作ステップを説明する。
【0109】
まず、j番目の陽極ラインを含めて全ての陽極ラインに非選択電圧VaOFFを印加する。この状態において、陰極駆動部(DK)を陰極電源(PK)側に切り換え、陰極ライン(KL)には、j番目の陽極ライン(AL(j))と各陰極ライン(KL)の交点での画素の発光に必要な電圧Vbを印加する。各陰極ライン(KL)には、それぞれ浮遊容量Ckが存在し、印加した電圧により充電される。この状態では、陽極電圧Vaは非選択電圧VaOFFであり、陽極(A)−陰極(K)間電圧が電子放出開始電圧以下となるように設定しているために発光は生じない(期間1)。
【0110】
その後、陰極駆動部(DK)を開放側に切り換えて、陰極ライン(KL)と陰極電源(PK)を遮断した後に、j番目の陽極ライン(AL(j))に選択電圧VaONを印加する。期間1において充電された陰極ライン上の画素においては、充電された電荷を放電するために陽極(A)−陰極(K)間に素子電流が流れ、充電電荷量に応じた発光を生じる。一方、期間1において充電されなかった陰極ライン上の画素においては、放電されるべき電荷がないので素子電流が流れず発光は生じない(期間2)。
【0111】
充電された画素においては、図11に示した電極間電圧−素子電流特性に応じたピーク電流が流れるが、陰極ライン(KL)が陰極電源(PK)から遮断されているために、陰極(K)電圧はしだいに陽極(A)に近づき、電極間電圧Vakが電子放出開始電圧に達すると素子電流が流れなくなるため、電極間電圧Vakが電子放出開始電圧以下になることはない。
【0112】
電子放出開始電圧に達するまでに素子電流量の積分値、つまりは、1発光期間に素子を流れる電荷量は、FEDの場合と同様に、期間1において陰極ライン(KL)に印加した電圧Vbと放電が終了する時の閾電圧Vthとの差と、浮遊容量Ckにより表される。この浮遊容量Ckは測定することができる。
【0113】
さらには、期間2の放電(発光)期間において、j番目の陽極ライン(AL(j))の印加電圧を選択電圧VaONから非選択電圧VaOFFに切り換える直前には十分放電した状態であるので、この時の各陰極ラインの電圧を測定することにより、j番目の陽極ライン(AL(j))上の画素の閾電圧Vthを閾電圧測定部(VM)により測定することができる。
【0114】
発光に寄与する電荷を充電するに必要な電圧(Vb−Vth)は、電極間電圧−素子電流特性と、発光部(ELC)の持つ発光効率、浮遊容量Ckから求めることができる。したがって、期間1に印加すべき電圧Vbを求めることができる。
【0115】
図13に示す構成により、陽極ラインの線順次走査と各陰極ラインの閾電圧測定を組み合わせて、表示素子内の各画素の閾電圧を閾電圧測定部により測定し、閾電圧記録テーブルに記録する。この閾電圧記録テーブル上の閾電圧を基に補正し、次の発光期間には、輝度信号により要求される発光強度を得るに必要な電圧値Vbを求める。
【0116】
この、閾電圧測定、記録、補正のサイクルは、各表示期間(例えば、1/60秒毎)に行えば、より正確に輝度補正を行うことができるが、表示素子の閾電圧の変動状況に応じて適切な測定周期を選択してもよい。
【0117】
以上のような閾電圧測定及び補正を用いて、1発光期間内に画素を流れる電荷量を制御することにより、FEDの場合と同様に、有機EL素子を表示素子として用いた場合においても発光均一性のよい画像表示装置が得られる。なお、表示素子として有機ELを用いた場合においても、図6に示した演算機能を有する補正部が有効であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1(a)】FED画像表示装置における制御電極及び陰極駆動部の構成図。
【図1(b)】FED画像表示装置における制御電極及び陰極駆動部の他の構成図。
【図2】FED画像表示装置における電極電圧及び電流変化を表すグラフ。
【図3】FED画像表示装置における電極間電圧−電子放出強度特性を表すグラフ。
【図4】FED画像表示装置のブロック図。
【図5】FED画像表示装置の全体構成図。
【図6】FED画像表示装置の他のブロック図。
【図7】陽極−陰極間に制御電極があるFED素子の電極配置の一例を表す図。
【図8】陰極と制御電極が同じ高さあるFED素子の電極配置の一例を表す図。
【図9】有機EL素子を用いた画像表示装置における陰極及び陽極駆動部の構成図。
【図10】有機EL素子の発光部の膜構成を表す図。
【図11】有機EL素子における電極間電圧−素子電流特性を表すグラフ。
【図12】有機EL素子を用いた画像表示装置の全体構成図。
【図13】有機EL素子を用いた画像表示装置のブロック図。
【符号の説明】
【0119】
FE…電界放射型表示素子、P…蛍光面、G…制御電極、K…陰極、KL…陰極ライン、GL…制御電極ライン、Ck…陰極ライン浮遊容量、PP…蛍光面電源、PG…制御電極電源、PK…陰極電源、DG…制御電極駆動部、DK…陰極駆動部、VM…閾電圧測定部、TR…陰極電圧測定トリガ信号、EL…有機EL素子、ELC…有機EL発光部、A…陽極、HIL…正孔注入層、EM…発光層、EIL…電子注入層、AL…陽極ライン、PA…陽極電源、DA…陽極駆動部、e…電子線、dgk…陰極−制御電極間距離、dpg…陽極−制御電極間距離、dpk…陽極−陰極間距離、Vth…閾電圧、Vg…制御電極ライン電圧、VgON…電子放出電圧(選択電圧)、VgOFF…電子放出抑制電圧(非選択電圧)、VaON…選択陽極ライン電圧、VaOFF…非選択陽極ライン電圧、Vk…陰極ライン電圧、Vgk…制御電極−陰極間電圧、Vb…陰極駆動部出力電圧、Ik…陰極ライン流入電流、Ie…電子放出による電流、Iep…電子放出による電流のピーク値、P1…駆動の第一期間(陰極ラインへの充電期間)、P2…駆動の第二期間(陰極ライン電圧維持期間)、P3…駆動の第三期間(電子放出期間)、T0…一選択期間の開始(充電開始)、T1…第1のタイミング(充電終了)、T2…第2のタイミング(電子放出開始)、T3…第3のタイミング(閾電圧測定及び一選択期間終了)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極ラインと第2電極ラインとの交差部に配置された画素と、前記第1電極ラインに輝度信号に応じた電圧を印加する第1電極駆動部と、前記第2電極ラインに選択電圧を印加する第2電極駆動部と、前記選択電圧による選択期間内で輝度信号に応じた電圧を一時的に保持する浮遊容量とを有する平板型画像表示装置において、
前記第1電極駆動部が第1電極ラインを開放した状態で選択期間終了直前における第1電極ラインの電圧を測定する電圧測定部と、測定された電圧の値を記録する記録テーブルと、記録された電圧の値を基に第1電極ラインに印加する輝度信号に応じた電圧を補正する電圧補正部とを備えたことを特徴とする平板型画像表示装置。
【請求項2】
前記記録テーブルに記録されている電圧の値と新規に測定された電圧の値とを用いて演算処理を行い、その演算結果を新たな電圧の値として記録テーブルに記録させる演算処理部を備えることを特徴とする請求項1に記載の平板型画像表示装置。
【請求項3】
前記第2電極駆動部は第2電極ラインに非選択電圧を印加し、前記第1電極駆動部は第1電極ラインに輝度信号に応じた電圧を印加して浮遊容量を充電した後に、第1電極ラインを開放し、第2電極駆動部は選択された第2電極ラインに選択電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載の平板型画像表示装置。
【請求項4】
前記第1電極ラインに外部容量を付加させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の平板型画像表示装置。
【請求項5】
前記第1電極ラインに接続された第1電極と、前記第2電極ラインに接続された第2電極とを備え、第1電極から放出された電子が、大気圧よりも低く減圧された空間を介して蛍光面パネルに入射し、蛍光面が発光することにより画像を表示することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の平板型画像表示装置。
【請求項6】
前記第1電極から電子放出が生じる状態における、第1電極電圧をVk、第2電極電圧をVg及び蛍光面電圧をVpとし、蛍光面と第1電極との間の距離をdpk、蛍光面と第2電極との間の距離をdpgとしたとき、dpk>dpgであって、Vg<(Vp−Vk)/dpk×(dpk−dpg)+Vkである表示素子を用いたことを特徴とする請求項5に記載の平板型画像表示装置。
【請求項7】
前記第1電極から電子放出が生じる状態における、第1電極電圧をVk、第2電極電圧をVg及び蛍光面電圧をVaとし、蛍光面と第1電極との間の距離をdpk、蛍光面と第2電極との間の距離をdpgとしたとき、dpk−dpgの絶対値が、第1電極の膜厚と第2電極の膜厚のうち厚い方の膜厚以下であって、Vg≦Vkである表示素子を用いたことを特徴とする請求項5に記載の平板型画像表示装置。
【請求項8】
前記第1電極の表面に、繊維状炭素材料を含む表示素子を備えたことを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の平板型画像表示装置。
【請求項9】
前記第1電極と第2電極との間に有機発光層を有する発光素子を用いたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の平板型画像表示装置。
【請求項1】
第1電極ラインと第2電極ラインとの交差部に配置された画素と、前記第1電極ラインに輝度信号に応じた電圧を印加する第1電極駆動部と、前記第2電極ラインに選択電圧を印加する第2電極駆動部と、前記選択電圧による選択期間内で輝度信号に応じた電圧を一時的に保持する浮遊容量とを有する平板型画像表示装置において、
前記第1電極駆動部が第1電極ラインを開放した状態で選択期間終了直前における第1電極ラインの電圧を測定する電圧測定部と、測定された電圧の値を記録する記録テーブルと、記録された電圧の値を基に第1電極ラインに印加する輝度信号に応じた電圧を補正する電圧補正部とを備えたことを特徴とする平板型画像表示装置。
【請求項2】
前記記録テーブルに記録されている電圧の値と新規に測定された電圧の値とを用いて演算処理を行い、その演算結果を新たな電圧の値として記録テーブルに記録させる演算処理部を備えることを特徴とする請求項1に記載の平板型画像表示装置。
【請求項3】
前記第2電極駆動部は第2電極ラインに非選択電圧を印加し、前記第1電極駆動部は第1電極ラインに輝度信号に応じた電圧を印加して浮遊容量を充電した後に、第1電極ラインを開放し、第2電極駆動部は選択された第2電極ラインに選択電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載の平板型画像表示装置。
【請求項4】
前記第1電極ラインに外部容量を付加させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の平板型画像表示装置。
【請求項5】
前記第1電極ラインに接続された第1電極と、前記第2電極ラインに接続された第2電極とを備え、第1電極から放出された電子が、大気圧よりも低く減圧された空間を介して蛍光面パネルに入射し、蛍光面が発光することにより画像を表示することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の平板型画像表示装置。
【請求項6】
前記第1電極から電子放出が生じる状態における、第1電極電圧をVk、第2電極電圧をVg及び蛍光面電圧をVpとし、蛍光面と第1電極との間の距離をdpk、蛍光面と第2電極との間の距離をdpgとしたとき、dpk>dpgであって、Vg<(Vp−Vk)/dpk×(dpk−dpg)+Vkである表示素子を用いたことを特徴とする請求項5に記載の平板型画像表示装置。
【請求項7】
前記第1電極から電子放出が生じる状態における、第1電極電圧をVk、第2電極電圧をVg及び蛍光面電圧をVaとし、蛍光面と第1電極との間の距離をdpk、蛍光面と第2電極との間の距離をdpgとしたとき、dpk−dpgの絶対値が、第1電極の膜厚と第2電極の膜厚のうち厚い方の膜厚以下であって、Vg≦Vkである表示素子を用いたことを特徴とする請求項5に記載の平板型画像表示装置。
【請求項8】
前記第1電極の表面に、繊維状炭素材料を含む表示素子を備えたことを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の平板型画像表示装置。
【請求項9】
前記第1電極と第2電極との間に有機発光層を有する発光素子を用いたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の平板型画像表示装置。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−121430(P2007−121430A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310014(P2005−310014)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】
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