平板状膜エレメント及びそれを用いた膜ユニット
【課題】処理槽のサイズが能力的に大きすぎる場合に、処理槽内での液循環への悪影響を可及的に回避しつつ、濾過処理能力を低く調節して最適化を図ることで、環境的にも経済的にも一層優れた対応を可能と為し得る、新規な構造の平板状膜エレメントを提供すること、及び、かかる平板状膜エレメントを用いて構成された浸漬型膜分離装置用の膜ユニットを提供すること。
【解決手段】剛性を有する濾板20の一方の面32に濾過膜シート30を重ね合わせて濾過膜シート30の周縁を濾板20に固着すると共に、濾過膜シート30を透過した濾過液を外部に導く濾過液流路40を濾板20に形成することにより、濾板20の一方の面32側に濾過処理面34を構成する一方、濾板20の他方の面36を露呈させることにより、濾板20の他方の面36側に非濾過処理面38を構成した。
【解決手段】剛性を有する濾板20の一方の面32に濾過膜シート30を重ね合わせて濾過膜シート30の周縁を濾板20に固着すると共に、濾過膜シート30を透過した濾過液を外部に導く濾過液流路40を濾板20に形成することにより、濾板20の一方の面32側に濾過処理面34を構成する一方、濾板20の他方の面36を露呈させることにより、濾板20の他方の面36側に非濾過処理面38を構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽に貯留された濾過対象液に浸漬されて濾過に使用される平板状膜エレメントと、当該平板状膜エレメントを用いて構成されて浸漬型膜分離装置を構成する膜ユニットとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
浄化槽汚泥や生活系排水汚泥、し尿、施設排水等の処理対象液を濾過処理する設備として浸漬型膜分離装置が知られている。かかる浸漬型膜分離装置は、一般に、特許文献1(特開2003−117357号公報)に記載されているように、平板状膜エレメントの複数枚を組み付けた膜ユニットを備えており、この膜ユニットを処理対象液に浸漬して濾過処理するようになっている。
【0003】
また、上記膜ユニットを構成する平板状膜エレメントは、上記特許文献1や特許文献2(特開2001−212436号公報)にも記載されているように、剛性を有する濾板の表裏両面にそれぞれ濾過膜シートを重ね合わせて各濾過膜シートの周縁を濾板に溶着すると共に、各濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を濾板に形成してなる構造とされている。即ち、従来構造の平板状膜エレメントは、表裏の区別がない表裏同一構造であって、表裏の両面が何れも濾過処理面とされた両面濾過式とされている。
【0004】
ところで、このような平板状膜エレメントの複数枚を組み付けた膜ユニットは、濾過対象液を貯留する処理槽内に設置されるが、濾過対象液の状態等に応じて必要とされる膜ユニットに要求される濾過処理能力が異なる。必要以上の処理能力の浄化槽を設置することは、定期的に交換が必要となる平板状膜エレメントの数が必要以上に多くなって不経済であるだけでなく、浄化槽内の微生物の環境も不適当になるおそれもあるからである。そこで、従来から、処理槽のサイズを予め複数種類準備しておいて、適合する大きさの処理槽を選択して設置するようになっている。
【0005】
しかしながら、予め設定されて市場に提供されている浄化槽のサイズが段階的であるために、必ずしも適当なサイズの浄化槽を設置できない場合がある。具体的には、例えば一般住宅の場合は現状で最小が5人槽であり、その上は7人槽、10人槽等と段階的に処理槽の大きさが設定されているだけであるから、たとえ一人住まいでも5人槽のサイズの浄化槽が設置されることが多い。
【0006】
また、し尿浄化槽は、JIS規格により建築物用途や床面積等に応じて設置する大きさが規定されているが、実際に設置された浄化槽に要求される濾過処理能力は建築物の場所や実質的居住人数等によっても大きく異なる。そのために、JIS規格等の規則で定められる大きさの処理槽を設置しても、それが実情にそぐわずに大きすぎる場合もある。
【0007】
なお、上述の如き理由により、設置された浄化槽のサイズが大きすぎて処理能力に余裕があり過ぎる場合に、膜ユニットにおける平板状膜エレメントを適当に間引いて減らすことで対応することも考えられる。ところが、平板状膜エレメントを間引くとクロスフロー領域の隙間(平板状膜エレメントの対向面間距離)が大幅に変化してしまい、設計時に予定した槽内の液循環が阻害されることによって、浄化効率が大幅に低下してしまったり、局所的な滞留が発生して、異臭や故障等のトラブルの原因になるおそれがある。また、平板状膜エレメントを間引いたところに、平板状膜エレメントと同じ形状のプレートを配設することで隙間を小さく維持することも考えられるが、結局、濾過膜を備えない単なるプレートでは液が負圧吸引されないから、そこに液の滞留が発生し易く、トラブルの原因になるおそれがあることに変わりはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−117357号公報
【特許文献2】特開2001−212436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、処理槽のサイズが能力的に大きすぎる場合に、処理槽内での液循環への悪影響を可及的に回避しつつ、濾過処理能力を低く調節して最適化を図ることで、環境的にも経済的にも一層優れた対応を可能と為し得る、新規な構造の平板状膜エレメントを提供すること、及び、かかる平板状膜エレメントを用いて構成された浸漬型膜分離装置用の膜ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
平板状膜エレメントに関する本発明の特徴とするところは、処理槽内で鉛直方向に配置されて濾過対象液に浸漬される平板状膜エレメントであって、剛性を有する濾板の一方の面に濾過膜シートを重ね合わせて該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成することにより、該濾板の一方の面側に濾過処理面を構成する一方、該濾板の他方の面を露呈させることにより、該濾板の他方の面側に非濾過処理面を構成した片面濾過式の平板状膜エレメントにある。
【0012】
本発明に従う構造とされた平板状膜エレメントは、濾過対象液を濾過膜シートを通じて吸引濾過処理する濾過処理面を、濾板の一方面だけに備えた片面濾過式とされている。また、濾板によって実現される全体の形状や大きさ等は、両面に濾過膜シートを配した従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメントと同じに設定することが出来る。それ故、複数枚の平板状膜エレメントを所定間隔で並置した膜ユニットにおいて、従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメントの幾つかを、本発明に係る片面濾過式の平板状膜エレメントに交換して装着することが出来る。
【0013】
これにより、膜ユニットにおいて、本発明に係る片面濾過式の平板状膜エレメント同士を対向配置させることにより、従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメント同士を対向配置させた場合に比して、対向面間のクロスフロー領域における濾過処理の面積を半分に減少させることが出来る。しかも、並置された平板状膜エレメント間の対向面間距離は、従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメント同士を対向配置させた場合と同様に維持される。
【0014】
従って、膜ユニットにおいて、従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメントの適当数を、本発明に係る片面濾過式の平板状膜エレメントに置き換えたとしても、平板状膜エレメントの対向面間における処理液の滞留ひいては処理槽内における液流動が著しく阻害されることがない。そして、処理槽内における液流動の局所的な滞留等に起因する浄化効率の大幅な低下や異臭,故障等のトラブルの発生を回避つつ、膜ユニットにおける全体的な有効濾過面積を適宜に且つ簡単に調節することで環境的にも優れた対応が可能となる。
【0015】
また、本発明に従う構造とされた片面濾過式の平板状膜エレメントを採用することにより、要求される能力に合致した適当な処理槽の大きさが無い場合でも、膜ユニットにおける両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントとの混在割合を調節することによって、大きめの処理槽を用いて適当な濾過処理能力を備えた処理槽を提供することが可能となる。それ故、結果的に、処理槽の大きさを細かく取り揃えておく必要がなくなり、処理槽の製造や設置のコストの低減も図られ得て経済的にも優れた対応が可能となる。
【0016】
ところで、平板状膜エレメントに関する本発明では、濾過膜シートとして、基材の一方の面だけに高分子濾過層を被着形成した片面濾過層型の濾過膜シートを用いることが望ましい。
【0017】
本発明では、濾過膜シートとして、目的とする濾過処理能力に応じて公知のものが任意に選択使用され得るが、従来から浄化槽に多く使用されている基材両面に高分子濾過層を形成した構造のものよりも、基材の片面だけに高分子濾過層を形成したものが好適に用いられる。かかる片面濾過層型の濾過膜シートでは、両面濾過層型の濾過膜シートに比して、濾過抵抗の低減が図られることにより、瞬間的な濾過性能を維持することが可能となる。
【0018】
従って、このような片面濾過層型の濾過膜シートを、本発明における片面濾過式の平板状膜エレメントに採用することにより、両面濾過層型の濾過膜シートを備えた従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメントを採用する場合に比して、膜ユニットにおいて、瞬間的な濾過性能を同等に維持しつつ、有効濾過面積を小さく(例えば、全ての両面濾過式の平板状膜エレメントを片面濾過式の平板状膜エレメントに置換すると有効濾過面積は半分になる)できる。その結果、全有効濾過面積(全ての平板状膜エレメントが備える濾過膜の総面積)に比例して行われる物理的な洗浄や化学的な洗浄(薬液洗浄等)の頻度は高くされる。それ故、例えば処理槽において設計流入液量よりも実態流入液量が少ない現場や、適当なサイズが無いために仕方なく大きなサイズの処理槽を設置した場合等、濾過膜の目詰まりが生じ難いような状況では、本発明に係る片面濾過式の平板状膜エレメントに片面濾過層型の濾過膜シートを組み合わせて採用することで、より一層のコストダウンが達成可能となる。
【0019】
また、前述の片面濾過層型の濾過膜シートとして、より好適には、高分子濾過層に比して液体を容易に透過し得る織布や不織布、紙、多孔質膜等からなる基材に対して、その一方の片面に、ポリテトラフルオロエチレンの多孔質層からなるPTFE分離膜からなる高分子濾過層を被着形成したものが採用される。更に好適には、かかる基材として、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂の不織布の他、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリオサフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン)の不織布などが採用される。
【0020】
また、平板状膜エレメントに関する本発明では、非濾過処理面とされた濾板の他方の面が、濾過処理面とされた濾板の一方の面における濾過膜シートの配設領域に対応する中央部分において、滑らかな滑状表面とされることが望ましい。
【0021】
膜ユニットにおいて平板状膜エレメントを対向配置した際、非濾過処理面は、隣り合う平板状膜エレメントの濾過膜シートに対向位置せしめられることとなる。それ故、この濾過膜シートに対向位置する非濾過処理面を滑状表面とすることで、濾過膜シートが例えば圧力流体の逆送による物理的洗浄(濾過膜シートの目詰まり解消)等に際して外方に膨らんで、かかる非濾過処理面に接触した場合でも、当該接触に起因する濾過膜シートの損傷が回避され得る。
【0022】
なお、非濾過処理面の滑状表面における滑らかさの程度は、濾過膜シートの接触に対して損傷を与えない程度であれば良く、具体的には目視や手指の触診で角が認められない程度に滑らかであれば良い。より好適には、対向位置する濾過膜シートが接触する可能性がある領域(中央部分)が、その全体に亘って段差のない一様な平面又は湾曲面とされる。
【0023】
また、平板状膜エレメントに関する本発明では、非濾過処理面とされた濾板の他方の面において、濾過処理面とされた濾板の一方の面における濾過膜シートの配設領域に対応する中央部分が、その周囲の外周部分に比して凹んだ凹形状とされることが望ましい。
【0024】
かくの如く、非濾過処理面における中央部分を周囲の外周部分に比して凹形状とすることにより、濾板の強度を確保しつつ容積(樹脂ボリューム)を抑えて材料及びコストの低減を図ることが出来る。しかも、対向位置する濾過膜シートが接触する可能性がある領域(中央部分)を凹ませることにより、当該濾過膜シートの接触が低減されて、接触に起因する濾過膜シートの損傷のおそれも効果的に回避される。
【0025】
また、平板状膜エレメントに関する本発明では、濾過液流路の外方開口部分が、濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、濾板の上端縁部における該ノズル部の基端側下方には、濾板の両面においてそれぞれ外方に突出して、下方から上方に向かって次第に外方に大きく突出する傾斜面を形成する基端側突出部が設けられている態様が、好適に採用され得る。
【0026】
すなわち、ノズル部には外部管体の端部が外挿接続されることとなるが、このノズル部に接続された外部管体の先端面よりも下方に位置して、基端側突出部が設けられることとなる。そして、かかる基端側突出部は、下方から上方に向かって例えばテーパ状に拡径するような外周傾斜面を備えていることから、平板状膜エレメントの表面に沿って下方から上昇流動せしめられる濾過対象液が、基端側突出部の外周傾斜面によりノズル部から離れる方向に案内される。その結果、ノズル部に外挿接続された外部管体の端面に対する濾過対象液の流体圧力が軽減されることとなり、外部管体のノズル部からの抜け出しが効果的に防止され得るのである。
【0027】
特に、外部管体にはもともと負圧吸引力が及ぼされることから、ノズル部からの抜け出しのトラブルは発生し難いと解されているが、下方からのエア曝気で上昇流動する濾過対象液の粘度が大きい場合や流体流動速度が大きい場合等には、かくの如き基端側突出部が一層好適に用いられ得る。
【0028】
また、平板状膜エレメントに関する本発明では、濾過液流路の外方開口部分が、濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、該濾板の上端縁部において該ノズル部を挟んだ長さ方向の両側に位置して、それぞれ、該濾板の上端縁部から上方に向かって突出するガード突部が設けられている態様が、好適に採用され得る。
【0029】
このようなガード突部を設けることにより、平板状膜エレメントを移送や交換等に際して取り扱う場合に、その上端縁部から外方に突設されたノズル部に対して他部材が打ち当たる等してノズル部が損傷してしまう問題を効果的に防止することが出来る。
【0030】
また、このようなガード突部を採用するに際しては、ノズル部を挟んだ両側に設けられたガード突部の少なくとも一方において、ノズル部に対する遠位側から近位側に向かって次第に上方に大きく突出する傾斜上辺を設けることが一層望ましい。
【0031】
かような傾斜上辺を設けることにより、平板状膜エレメントの表面に沿って下方から上昇流動せしめられる濾過対象液が、傾斜上辺の傾斜によって上方に生ぜしめられる圧力勾配に従って、ノズル部から離れるように斜め上方に向かって流動せしめられることとなる。これにより、ノズル部に外挿接続された外部管体の端面に対する濾過対象液の流体圧力が軽減されることとなり、外部管体のノズル部からの抜け出しが効果的に抑えられ得る。
【0032】
さらに、浸漬型膜分離装置用の膜ユニットに関する本発明の特徴とするところは、平板状膜エレメントの複数をそれぞれが鉛直方向に広がるように且つ互いに水平方向で所定間隔を隔てて重なり合うように位置決め配置されており、処理槽内に設置されて濾過対象液に浸漬されることにより隣り合う各平板状膜エレメントの対向面間にクロスフロー領域が形成されるようにした浸漬型膜分離装置用の膜ユニットにおいて、(i)剛性を有する濾板の両面にそれぞれ濾過膜シートを重ね合わせて各濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、各濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成した両面濾過式の平板状膜エレメントと、(ii)前述の本発明に従う構造とされた片面濾過式の平板状膜エレメントとの、両方を採用してそれら両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントとを組み合わせて前記複数の平板状膜エレメントを構成したことにある。
【0033】
このような本発明に従う構造とされた浸漬型膜分離装置用の膜ユニットにおいては、両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントとが相互置換可能に同一形状で構成されて採用されており、それら両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントの装着割合を適宜に変更設定することが可能である。そして、両面濾過式の平板状膜エレメントに代えて片面濾過式の平板状膜エレメントを装着することで、平板状膜エレメントの対向面間に形成されるクロスフロー領域の隙間寸法(隣り合う平板状膜エレントの対向面間距離)を維持しつつ、濾過膜面積を半分にすることが出来る。
【0034】
それ故、浸漬型膜分離装置用の膜ユニットのサイズおよび装着される平板状膜エレメントの枚数をそのままに維持して、各クロスフロー領域での濾過対象液の局所的な滞留等の問題を回避しつつ、濾過膜面積を細かく調節することが出来、設置条件に対して経済的且つ環境的に優れた対応をとることが可能となるのである。
【0035】
さらに、本発明の曝気装置としては、従来から公知のものが何れも採用可能である。また、曝気装置によって原水中に供給される気体の種類は、原水の性状等に応じて適宜選択される。例えば、好気性微生物による分解機能を発揮させるのであれば、空気等の酸素が含まれた気体が選択される。嫌気性微生物による分解機能を発揮させるのであれば、窒素が選択される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態としての浸漬型膜分離装置用の膜ユニットを示す正面図。
【図2】図1に示された膜ユニットの側面図。
【図3】図1に示された膜ユニットの部分拡大図。
【図4】図3におけるIV−IV断面図。
【図5】図1に示された平板状膜エレメントの表面図。
【図6】図5の平板状膜エレメントの要部拡大図。
【図7】図5に示された平板状膜エレメントの裏面図。
【図8】図7の平板状膜エレメントの要部拡大図。
【図9】図5に示された平板状膜エレメントの部分拡大平面図。
【図10】図9におけるX−X断面図。
【図11】図5の平板状膜エレメントの要部拡大図。
【図12】図11におけるXII−XII断面図。
【図13】図7の平板状膜エレメントの部分拡大図。
【図14】図5に示された平板状膜エレメントの部分拡大底面図。
【図15】図5に示された平板状膜エレメントを構成する濾板の表面図。
【図16】図15の濾板の要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0038】
図1及び図2には、本発明の実施形態としての浸漬型膜分離装置用の膜ユニット10が示されている。この膜ユニット10は、矩形タワー形骨格構造のケース枠体12に対して複数の平板状膜エレメント14が収容状態で装着された構造となっている。そして、かかる膜ユニット10は、図示しない処理槽の中に収容状態で固定的に設置されて、処理層に貯留された濾過対象液に浸漬されて使用される。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、膜ユニット10の設置状態における鉛直上下方向となる図1,2中の上下方向をいう。
【0039】
より詳細には、ケース枠体12は、押出形材等の適当な剛性材の複数本を溶接やボルト等で連結して組み合わせることによって形成されている。また、中空構造とされたケース枠体12の内部には、複数の平板状膜エレメント14が装着されている。
【0040】
なお、ケース枠体12では、周壁が外方に開口されて、内部に装着された平板状膜エレメント14が外部に露出されている。また、ケース枠体12は、上下に開放されていると共に、ケース枠体12の下部には、曝気用管体16、16が配管されている。これら曝気用配管16、16の周壁に形成された噴出孔から、エア等が濾過対象液中に噴出されるようになっている。
【0041】
そして、曝気用配管16、16から噴出されたエア等は、ケース枠体12内に装着された複数の平板状膜エレメント14の対向面間の隙間(クロスフロー領域)を通じて上方に浮上されるようになっており、このエア等の浮上によって、かかるクロスフロー領域に存在する濾過対象液に対して下方から上方に向かう流体流動が生ぜしめられるようになっている。なお、ケース枠体12において、曝気用配管16、16から平板状膜エレメント14の下端縁部にまで至る領域は、周壁板18によって周囲を覆われており、曝気用配管16、16から噴出されたエア等が、不必要に拡散することなく、クロスフロー領域に対して効率的に導かれるようになっている。
【0042】
ここにおいて、本実施形態の平板状膜エレメント14は、略矩形平板形状の濾板20を備えている。この濾板20は、ABS等の硬質樹脂材料によって一体成形されており、特に本実施形態では、矩形平板形状の本体部分に対して、その上端部分において左右両側に突出する一対の耳部22,22が、各短冊形状をもって一体形成されている。そして、図3〜4に示されているように、これら左右一対の耳部22,22が、それぞれ、ケース枠体12で固定的に把持されることによって、平板状膜エレメント14がケース枠体12内で位置決めされて組み付けられている。
【0043】
なお、各耳部22には、略中央部分を板厚方向に貫通してサービス孔23が形成されており、これらのサービス孔23,23を利用して、平板状膜エレメント14を吊り上げることが出来るようになっている。また、各耳部22には、ゴム弾性体等で形成された袋状の保護カバー24が被せられている。そして、ケース枠体12を構成する構造材26,28により、保護カバー24を介して、耳部22が挟持されることにより、平板状膜エレメント14がケース枠体12に対して位置決めされている。
【0044】
そして、上述の如くしてケース枠体12に装着された複数枚の平板状膜エレメント14は、板厚方向で相互に微小間隔を隔てて互いに平行に重ね合わされた状態で、相互に位置決めされている。なお、隣接配置された平板状膜エレメント14、14の対向面間距離は、特に限定されるものでないが、例えば濾板20の厚さ寸法と略同じ程度に設定される。
【0045】
さらに、平板状膜エレメント14には濾板20の表面上に濾過膜シート30が重ね合わされており、この濾過膜シート30による濾過作用を利用して濾過機能が発揮されるようになっている。
【0046】
ところで、図5〜14に示されているように、平板状膜エレメント14は、濾板20の表裏両面において互いに異なる構造とされている。特に図5,6,11に示されているように、濾板20の一方の面(以下「表面」という)32側には、濾過膜シート30が重ね合わされて略全面を覆うように配されて、濾過処理面34が構成されている。一方、濾板20の他方の面(以下「裏面」という)36側には濾過膜シートが配されておらず、濾板20が直接に露呈されて、非濾過処理面38が構成されている。
【0047】
また、濾板20には、左右両側部分において、上端面から上方に向かって突出する略円筒形状のノズル部40が一体形成されている。そして、このノズル部40の中心軸上に貫設された吸引孔42が、濾板20の表面32において、濾過膜シート30で覆われる部位に開口せしめられている。これにより、ノズル部40に対して樹脂チューブ等の外部管体44の一端を外挿接続し、該外部管体44を通じて外部の吸引ポンプ等の負圧力を及ぼすことにより、平板状膜エレメント14が浸漬される濾過対象液を濾過膜シート30に透過させて外部管体44から濾過吸引し、外部管体44を通じて排出し得るようになっている。なお、このことから明らかなように、本実施形態では、ノズル部40の先端における吸引孔42の開口部分によって、濾過膜シート30で濾過された濾過液流路の外方開口部分が構成されている。
【0048】
なお、本実施形態の濾板20の上端縁部には、ノズル部40の基端側下方に位置する部分において、濾板20の表裏両面にそれぞれ突出する基端側突出部46,46が形成されている。これら表裏の基端側突出部46,46は、全体として半球体を濾板20の上端縁部に埋め込んだような形状とされており、下方から上方に向かって外方に膨らんで拡径している。
【0049】
そして、これら基端側突出部46,46の外周面により、濾板20の下方から上方に向かって次第に外方に大きく突出する傾斜面48,48が形成されている。即ち、これら傾斜面48,48は、図10に示されているように、ノズル部40の基端側の直下において、ノズル部40に向かって拡開する逆スカート形状を呈しているのである。
【0050】
なお、基端側突出部46,46の突出高さは、その上端の最大突出部位において、濾板20の表裏両側の基端側突出部46,46の頂部間距離(図10中のL)が、ノズル部40に外挿された外部管体44の下端外径寸法(図10中のD)以上となるように設定されることが望ましい。これにより、処理層内において濾板20の表面に沿って下方から上方に向かって流動せしめられる濾過対象液に対して、図10中に矢印で示されているように、基端側突出部46,46の傾斜面48,48による整流作用(案内作用)が一層効果的に発揮される。即ち、かかる傾斜面48,48の整流作用により、下方からノズル部40に向かって上昇流動する濾過対象液がノズル部40から外周側に離れる方向に案内されて、該ノズル部40に外挿された外部管体44の下端面に対する流体圧の作用が一層効果的に低減され得るのである。
【0051】
さらに、本実施形態の濾板20の上端縁部には、ノズル部40を挟んだ左右方向(濾板20の上端縁部の長さ方向となる図6,7中の左右方向)の両側に位置して、上方に向かって突出するガード突部50,50が一体形成されている。特に本実施形態では、これら両側のガード突部50,50が、ノズル部40を挟んで対称形状とされており、何れも、上方への突出先端縁部が、ノズル部40からの遠位端から近位端に向かって次第に突出高さの大きくなる傾斜上辺52とされている。
【0052】
特に本実施形態では、かかるガード突部50が、濾板20の外周縁部と略同じ厚さ寸法をもって形成された不等辺の直角三角形状とされている。そして、直角の角部をノズル部40側に向け、斜辺を傾斜上辺52として形成されている。また、かかる傾斜上辺52における濾板20の上端縁部からの最大突出高さ(換言すれば、ノズル部40に対峙する辺の長さ)は、ノズル部40の突出高さと略同じか、それより僅かに大きくされることが望ましい。
【0053】
これらのガード突部50,50は、ノズル部40の両側を保護する機能を発揮する。すなわち、濾板20を搬送したり、濾板20をケース枠体12に対して着脱する場合などにおいて、ノズル部40が他部材に打ち当たる場合には、その前に、ガード突部50が当該他部材に打ち当り易い。それ故、ノズル部40が予期せずに他部材に打ち当たることに起因するノズル部40の損傷を防止することが出来る。
【0054】
しかも、本実施形態では、ガード突部50が傾斜上辺52を備えていることから、処理層内において濾板20の表面32に沿って下方から上方に向かって流動せしめられる濾過対象液に対して、かかる傾斜上辺52による整流作用(案内作用)も発揮される。即ち、濾板20の上端縁部では、上方に向かう流体流動に対して、濾板20の直上で濾板20が無くなることによる渦流が発生して局部的な圧力低下が生ずるが、この渦流による圧力低下位置が傾斜上辺52に沿った傾斜線上とされる。その結果、傾斜上辺52に対して略直交する方向で圧力勾配が大きくなることにより、図6中に矢印で示されているように、傾斜上辺52による整流効果が発揮されて、下方からノズル部40に向かって上昇流動する濾過対象液がノズル部40から外周側に離れる方向に案内されて、該ノズル部40に外挿された外部管体44の下端面に対する流体圧の作用が一層効果的に低減され得るのである。
【0055】
一方、濾板20において、濾過膜シート30が重ね合わされる表面32には、図15〜16にも示されているように、外周縁部に沿って延びる溶着代54が形成されている。この溶着代54は、周方向の全周に亘って連続して延びるように全体として略矩形枠体形状をもって形成されている。本実施形態では、かかる溶着代54は、一定の山形断面で周方向に連続して延びる2条の平行な溶着リブ56,58と、それら溶着リブ56,58の外周側を所定幅で取り囲むようにして周方向に広がる格子形状の溶着突起60とを、含んで構成されている。更に、2条の溶着リブ56,58の間には、四角部分において、それぞれ、カギ形に延びる角部溶着リブ62が形成されている。
【0056】
さらに、かかる溶着代54で囲まれた表面32の中央部分には、その略全体に亘って枝状に繋がって広がる凹溝64が形成されている。本実施形態では、かかる凹溝64が、表面32の上部を左右に延びる横溝部64aと、表面32の幅方向で互いに所定間隔を隔ててそれぞれ上下方向に延びる複数の縦溝部64bを含んで構成されており、各縦溝部64bの上端部が横溝部64aに接続されている。また、横溝部64aの長さ方向両側部分には、上方に向かって溶着代54の近くまで延びる接続溝66が形成されており、この接続溝66の上端部が、ノズル部40に貫設された吸引孔42の内方端部に対して連通されている。これにより、外部管体44からノズル部40を通じてて及ぼされる吸引力が、濾板20の表面32に形成された凹溝64の全体に亘って及ぼされるようになっている。
【0057】
そして、このような凹溝64が形成された濾板20の表面32に対して、濾過膜シート30が重ね合わされて装着されている。かかる濾過膜シート30は、溶着代54に対して外周部分が重ね合わされるだけの大きさをもった膜形状を有しており、特に本実施形態では、その外周端縁が、溶着突起60の内周端縁よりも一回り大きく且つ溶着突起60の外周端縁よりも一回り小さな大きさの矩形平膜形状とされている。
【0058】
この濾過膜シート30は、濾板20の表面32に重ね合わされた状態で、その外周部分が溶着代54に対して溶着処理されることにより、図5,6,9,10,11,12に示されているように、溶着代54を構成する溶着リブ56,58や角部溶着リブ62及び溶着突起60に対して溶着で一体化されて固着されている。なお、図5,6,11に示された溶着リブ56,58及び角部溶着リブ62は、濾過膜シート30の溶着後に該濾過膜シート30を透過して表面から視認することが出来る状態を表している。
【0059】
なお、濾過膜シート30としては、従来から公知のものが採用可能であるが、例えば多孔質の濾材としてPTFEを採用したものであって、その全体がPTFE単体で形成されているものの他、補強等の目的で、他の材質との一体的な複合構造や積層構造等とされたものが、好適に採用される。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレートの基材(基膜)に対してポリテトラフルオロエチレンをコーティングしたものが好適に採用される。
【0060】
ここにおいて、かかる補強材として機能する基材は、PTFE製の多孔質膜よりも大きな孔径の多孔体等であって通水性に優れたものであれば、特に限定されることはない。例えば、フェルト,不織布,織布,メッシュ(網目状シート)等を用いることが出来るが、強度や捕集性,柔軟性等の観点から不織布が望ましい。なお、補強材の繊維材料としては、ポリオレフィン(ポリエチレンやポリプロピレン等),ポリアミド,ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等),芳香族ポリアミド、或いは、これらを複合したもの等が特に好適に採用される。
【0061】
また、補強材等である基材とPTFE多孔質膜の積層体を製造する方法としては、例えば、単に重ね合わせて(必要に応じて加熱して)圧着するだけでも良いし、接着剤ラミネートや熱ラミネート等の方法を用いても良い。或いは、ホットメルトパウダーのような融着材を介在させて接着積層にしても良い。
【0062】
より好適には、基材の片面にPTFE分離膜を被着形成した片面濾過層型の濾過膜シート30が採用される。このような片面濾過層型の濾過膜シート30は、例えば基材の一方の表面にPTFE膜素材たる高分子物質溶液をキャストして基材上にPTFE膜を成膜することによって溶融流延で形成することが出来る他、溶融押出で形成したPTFE膜を基材の一方の表面に重ね合わせて溶着等することによって形成するなど、公知の手法によって製造することが出来る。
【0063】
そして、このようにして基材の片面にPTFE分離膜を被着形成した片面濾過層型の濾過膜シート30は、基材の片面だけにPTFE膜が形成されていることと、基材に対してPTFE膜が含浸されていないこととが相俟って、従来から一般に濾過膜として用いられている両面濾過層型のエチレン系濾過膜シートに比して、略同じ濾過孔径を実現しつつ、シート濾過抵抗を略半分程にまで抑えることが可能となる。
【0064】
また、本発明においては、濾過膜シート30の厚さ寸法が0.1mm〜0.3mmであることが望ましい。これにより、濾板20に対する固着強度と耐久性を一層有利に得ることが出来る。即ち、分離膜の厚さ寸法が0.1mmよりも小さい場合、分離膜に十分な耐久性を与えることが難しく、分離膜の厚さ寸法が0.3mmよりも大きい場合には、モジュール本体への固着強度を充分に得ることが難しくなるおそれがある。
【0065】
なお、本実施形態では、濾過膜シート30が重ね合わされて覆われる表面32において、溶着代54で周囲を囲まれた領域には、細かな凹凸が付されており、濾過膜シート30の密着が防止されるようになっている。
【0066】
また、必要に応じて、濾板20の表面32と濾過膜シート30の間には、濾過膜シート30の表面32への密着を防止して有効濾過面積を安定確保したり、濾過膜シート30を裏面から担持することで耐久性を向上させたり等する目的で、膜状のスペーサを配設することも可能である。例えば、ポリエチレンテレフタレート等を用いて形成された、濾過膜シート30よりも充分に大きい孔径の多孔質膜からなる膜状スペーサを、濾板20の表面32と濾過膜シート30との間に重ね合わせ、かかる膜状スペーサの外周縁部を濾過膜シート30の外周縁部と共に、溶着代54に対して溶着して装着することも可能である。
【0067】
このようにして、濾板20の表面32に濾過膜シート30が重ね合わされることによって形成された濾過処理面34にあっては、ノズル部40から及ぼされる吸引力が凹溝64を通じて、表面32上において濾過膜シート30との間に画成された内部領域の略全体に及ぼされる。その結果、濾過膜シート30の外面が晒される処理対象液に対して、濾過膜シート30を通じての吸引力が及ぼされ、濾過膜シート30を透過することで濾過作用を加えられた後、かかる内部領域からノズル部40の吸引孔42を通じて、外部管体44から外部に排出される濾過処理が施されることとなる。なお、この濾過膜シート30による処理対象液の濾過吸引方向は、処理槽内を曝気エア作用で流動せしめられる上方への流体流動方向に対して直交する方向となることから、処理槽内において並設された濾板20,20間の流体流動領域はクロスフロー領域とも言われている。
【0068】
これに対して、濾板20において非濾過処理面38を構成する裏面36は、前述のとおり濾過膜シートが配されておらずに濾板20が直接に露呈されている。この裏面36は、任意の形状や構造を採用することが可能であるが、特に本実施形態では、図7,8,10,12,13にも示されているように、例えば表面32の溶着代54の内周縁の外周側に対応する、その外周部分68は、溶着リブや溶着突起が形成されていないだけで表面32と実質的に同一形状とされている。即ち、濾板20の外周部分は、溶着用の突起等の有無が異なるだけで表裏が実質的に同一形状とされている。
【0069】
一方、裏面36において、かかる外周部分68に取り囲まれた中央領域の広い部分、換言すれば表面32において濾過膜シート30で覆われた濾過領域に対応する部分は、外周部分よりも僅かに凹んだ凹形状の中央部分70とされている。しかも、この中央部分70は、その表面が滑らかで突起等が無い滑状表面とされている。
【0070】
これにより、本実施形態の濾板20においては、裏面36側において、不必要な樹脂材料の削減と共に、軽量化も図られている。
【0071】
しかも、図1〜2に示されているように複数の平板状膜エレメント14が所定間隔のクロスフロー領域を隔てて並設された膜ユニット10において、互いに水平方向で所定間隔を隔てて重なり合うように平板状膜エレメント14を位置決め配置して、一方の平板状膜エレメント14の濾過処理面34と他方の平板状膜エレメント14の非濾過処理面38とが互いにクロスフロー領域を挟んで対向する状態で配設することにより、相互干渉による不具合の発生を効果的に防止することが可能となる。即ち、互いに隣り合う一方の平板状膜エレメント14の表面32に配設された濾過膜シート30が、吸引ポンプのオン/オフや濾過膜シート30の目詰り防止等のメンテナンスに際しての正圧供給等の物理的作用等によって外方に膨らんだ場合でも、隣り合う他方の平板状膜エレメント14の裏面36が凹形状の中央部分70とされていることから、膨らんだ濾過膜シート30の接触が軽減乃至は回避されて、損傷が防止され耐久性の向上が図られ得るのである。しかも、かかる裏面36の中央部分70が滑状面とされていることにより、たとえ平板状膜エレメント14が接触した場合でも、悪影響が可及的に軽減され得る。
【0072】
従って、上述の如き構造とされた平板状膜エレメント14を、膜ユニット10に装着されるものの少なくとも一つに採用することで、クロスフロー領域の隙間寸法を殆ど変えることなく、濾過表面積を減少させて調節することが可能となるのであり、これにより、例えば大形の膜ユニットを設置せざるを得ないような場合において、その濾過処理能力を経済的及び環境的に適合した状態に精度良く設定することが出来るのである。
【0073】
なお、かかる膜ユニット10では、従来構造に従う両面濾過式の平板状膜エレメントとして、前記実施形態に示した平板状膜エレメント14における濾過処理面34側の構造を表裏両面に採用したものが用いられる。このような両面濾過式の平板状膜エレメントと、上述の構造とされた片面濾過式の平板状膜エレメント14とが、適当な割合で、全体として規定数だけ膜ユニット10に装着されることとなる。
【0074】
そして、このように両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメント14とが、実質的に同一サイズ及び形状の濾板を備えているものを膜ユニット10に装着することから、それら両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメント14との装着割合を任意に変更しても、膜エレメント間に形成されるクロスフロー領域の大きさは略同一に保たれ、且つかかるクロスフロー領域において濾過吸引作用が(少なくとも一方の面側に向かって)維持されることとなる。これにより、処理槽内における局所的な滞留等の問題が効果的に回避され、全体として安定した濾過処理性能が発揮され得るのである。
【0075】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明は当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0076】
例えば、前記実施形態の濾板20では、その下端縁部の略全長に亘って、図12,13,14に示されているように、下方に向かって次第に板厚寸法が小さくなる先細断面形状の下端案内部72が形成されている。この下端案内部72は、板厚方向の両側面が上方に行くに従って板厚方向外方に向かって次第に突出する傾斜面74 ,74とされている。これにより、下方から上方に向かって上昇する処理対象液の流動に対して傾斜面74,74が案内作用を為し、クロスフロー領域へ侵入する際の流体流動の乱れを抑えるようになっている。その結果、濾板20に対して及ぼされる流体圧による振動が軽減乃至は防止されて、濾板20の振動に起因する支持部の磨耗の軽減や異音の低減等が図られ得る。更に、本実施形態では、下端案内部72における最上端の最大厚寸法が、濾板20の外周部分68の板厚寸法よりも僅かに大きくされて、濾板20の表裏両面から僅かに突出されている。これにより、下方から上昇流動せしめられる処理対象液の流体圧が、濾板20の表面32に溶着された濾過膜シート30の端縁部に直接に作用することが軽減され、濾過膜シート30の耐久性や、剥離耐久性の向上等も図られている。
【0077】
なお、本明細書において記載したノズル部40の下方の基端側突出部46,46による傾斜面48,48や、ノズル部40の左右両側のガード突部50,50およびその傾斜上辺52,52、更に、濾板20の下端縁部における先細断形状の下端案内部72等は、何れも、本発明から独立して、それぞれ単独で発明を構成し得るものである。尤も、本出願では、それらの各発明を、出願の単一性という形式的な要件を充足する目的で、特許請求の範囲において従属的に記載している。即ち、以下の何れの発明も、それぞれ単独で技術的に認識され得るものであるが、本出願では、上記形式的理由から、単独では権利請求していない。
【0078】
剛性を有する濾板の少なくとも一方の面に濾過膜シートを重ね合わせて該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成することにより、該濾板の少なくとも一方の面側に濾過処理面を構成した、処理槽内で鉛直方向に配置されて濾過対象液に浸漬される平板状膜エレメントであって、前記濾過液流路の外方開口部分が、前記濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、該濾板の上端縁部における該ノズル部の基端側下方には、該濾板の両面においてそれぞれ外方に突出して、下方から上方に向かって次第に外方に大きく突出する傾斜面を形成する基端側突出部が設けられている構成の平板状膜エレメント。
【0079】
剛性を有する濾板の少なくとも一方の面に濾過膜シートを重ね合わせて該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成することにより、該濾板の少なくとも一方の面側に濾過処理面を構成した、処理槽内で鉛直方向に配置されて濾過対象液に浸漬される平板状膜エレメントであって、前記濾過液流路の外方開口部分が、前記濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、該濾板の上端縁部において該ノズル部を挟んだ長さ方向の両側に位置して、それぞれ、該濾板の上端縁部から上方に向かって突出するガード突部が設けられている構成の平板状膜エレメント。なお、上記ノズル部を挟んだ両側に設けられたガード突部の少なくとも一方は、該ノズル部に対する遠位側から近位側に向かって次第に上方に大きく突出する傾斜上辺を備えていることが好適である。
【符号の説明】
【0080】
10:膜ユニット、14:平板状膜エレメント、20:濾板、30:濾過膜シート、32:表面(一方の面)、34:濾過処理面、36:裏面(他方の面)、38:非濾過処理面、40:ノズル部(濾過液流路)、42:吸引孔、44:外部管体、46:基端側突出部、48:傾斜面、50:ガード突部、52:傾斜上辺、68:外周部分、70:中央部分
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽に貯留された濾過対象液に浸漬されて濾過に使用される平板状膜エレメントと、当該平板状膜エレメントを用いて構成されて浸漬型膜分離装置を構成する膜ユニットとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
浄化槽汚泥や生活系排水汚泥、し尿、施設排水等の処理対象液を濾過処理する設備として浸漬型膜分離装置が知られている。かかる浸漬型膜分離装置は、一般に、特許文献1(特開2003−117357号公報)に記載されているように、平板状膜エレメントの複数枚を組み付けた膜ユニットを備えており、この膜ユニットを処理対象液に浸漬して濾過処理するようになっている。
【0003】
また、上記膜ユニットを構成する平板状膜エレメントは、上記特許文献1や特許文献2(特開2001−212436号公報)にも記載されているように、剛性を有する濾板の表裏両面にそれぞれ濾過膜シートを重ね合わせて各濾過膜シートの周縁を濾板に溶着すると共に、各濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を濾板に形成してなる構造とされている。即ち、従来構造の平板状膜エレメントは、表裏の区別がない表裏同一構造であって、表裏の両面が何れも濾過処理面とされた両面濾過式とされている。
【0004】
ところで、このような平板状膜エレメントの複数枚を組み付けた膜ユニットは、濾過対象液を貯留する処理槽内に設置されるが、濾過対象液の状態等に応じて必要とされる膜ユニットに要求される濾過処理能力が異なる。必要以上の処理能力の浄化槽を設置することは、定期的に交換が必要となる平板状膜エレメントの数が必要以上に多くなって不経済であるだけでなく、浄化槽内の微生物の環境も不適当になるおそれもあるからである。そこで、従来から、処理槽のサイズを予め複数種類準備しておいて、適合する大きさの処理槽を選択して設置するようになっている。
【0005】
しかしながら、予め設定されて市場に提供されている浄化槽のサイズが段階的であるために、必ずしも適当なサイズの浄化槽を設置できない場合がある。具体的には、例えば一般住宅の場合は現状で最小が5人槽であり、その上は7人槽、10人槽等と段階的に処理槽の大きさが設定されているだけであるから、たとえ一人住まいでも5人槽のサイズの浄化槽が設置されることが多い。
【0006】
また、し尿浄化槽は、JIS規格により建築物用途や床面積等に応じて設置する大きさが規定されているが、実際に設置された浄化槽に要求される濾過処理能力は建築物の場所や実質的居住人数等によっても大きく異なる。そのために、JIS規格等の規則で定められる大きさの処理槽を設置しても、それが実情にそぐわずに大きすぎる場合もある。
【0007】
なお、上述の如き理由により、設置された浄化槽のサイズが大きすぎて処理能力に余裕があり過ぎる場合に、膜ユニットにおける平板状膜エレメントを適当に間引いて減らすことで対応することも考えられる。ところが、平板状膜エレメントを間引くとクロスフロー領域の隙間(平板状膜エレメントの対向面間距離)が大幅に変化してしまい、設計時に予定した槽内の液循環が阻害されることによって、浄化効率が大幅に低下してしまったり、局所的な滞留が発生して、異臭や故障等のトラブルの原因になるおそれがある。また、平板状膜エレメントを間引いたところに、平板状膜エレメントと同じ形状のプレートを配設することで隙間を小さく維持することも考えられるが、結局、濾過膜を備えない単なるプレートでは液が負圧吸引されないから、そこに液の滞留が発生し易く、トラブルの原因になるおそれがあることに変わりはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−117357号公報
【特許文献2】特開2001−212436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、処理槽のサイズが能力的に大きすぎる場合に、処理槽内での液循環への悪影響を可及的に回避しつつ、濾過処理能力を低く調節して最適化を図ることで、環境的にも経済的にも一層優れた対応を可能と為し得る、新規な構造の平板状膜エレメントを提供すること、及び、かかる平板状膜エレメントを用いて構成された浸漬型膜分離装置用の膜ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
平板状膜エレメントに関する本発明の特徴とするところは、処理槽内で鉛直方向に配置されて濾過対象液に浸漬される平板状膜エレメントであって、剛性を有する濾板の一方の面に濾過膜シートを重ね合わせて該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成することにより、該濾板の一方の面側に濾過処理面を構成する一方、該濾板の他方の面を露呈させることにより、該濾板の他方の面側に非濾過処理面を構成した片面濾過式の平板状膜エレメントにある。
【0012】
本発明に従う構造とされた平板状膜エレメントは、濾過対象液を濾過膜シートを通じて吸引濾過処理する濾過処理面を、濾板の一方面だけに備えた片面濾過式とされている。また、濾板によって実現される全体の形状や大きさ等は、両面に濾過膜シートを配した従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメントと同じに設定することが出来る。それ故、複数枚の平板状膜エレメントを所定間隔で並置した膜ユニットにおいて、従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメントの幾つかを、本発明に係る片面濾過式の平板状膜エレメントに交換して装着することが出来る。
【0013】
これにより、膜ユニットにおいて、本発明に係る片面濾過式の平板状膜エレメント同士を対向配置させることにより、従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメント同士を対向配置させた場合に比して、対向面間のクロスフロー領域における濾過処理の面積を半分に減少させることが出来る。しかも、並置された平板状膜エレメント間の対向面間距離は、従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメント同士を対向配置させた場合と同様に維持される。
【0014】
従って、膜ユニットにおいて、従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメントの適当数を、本発明に係る片面濾過式の平板状膜エレメントに置き換えたとしても、平板状膜エレメントの対向面間における処理液の滞留ひいては処理槽内における液流動が著しく阻害されることがない。そして、処理槽内における液流動の局所的な滞留等に起因する浄化効率の大幅な低下や異臭,故障等のトラブルの発生を回避つつ、膜ユニットにおける全体的な有効濾過面積を適宜に且つ簡単に調節することで環境的にも優れた対応が可能となる。
【0015】
また、本発明に従う構造とされた片面濾過式の平板状膜エレメントを採用することにより、要求される能力に合致した適当な処理槽の大きさが無い場合でも、膜ユニットにおける両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントとの混在割合を調節することによって、大きめの処理槽を用いて適当な濾過処理能力を備えた処理槽を提供することが可能となる。それ故、結果的に、処理槽の大きさを細かく取り揃えておく必要がなくなり、処理槽の製造や設置のコストの低減も図られ得て経済的にも優れた対応が可能となる。
【0016】
ところで、平板状膜エレメントに関する本発明では、濾過膜シートとして、基材の一方の面だけに高分子濾過層を被着形成した片面濾過層型の濾過膜シートを用いることが望ましい。
【0017】
本発明では、濾過膜シートとして、目的とする濾過処理能力に応じて公知のものが任意に選択使用され得るが、従来から浄化槽に多く使用されている基材両面に高分子濾過層を形成した構造のものよりも、基材の片面だけに高分子濾過層を形成したものが好適に用いられる。かかる片面濾過層型の濾過膜シートでは、両面濾過層型の濾過膜シートに比して、濾過抵抗の低減が図られることにより、瞬間的な濾過性能を維持することが可能となる。
【0018】
従って、このような片面濾過層型の濾過膜シートを、本発明における片面濾過式の平板状膜エレメントに採用することにより、両面濾過層型の濾過膜シートを備えた従来構造の両面濾過式の平板状膜エレメントを採用する場合に比して、膜ユニットにおいて、瞬間的な濾過性能を同等に維持しつつ、有効濾過面積を小さく(例えば、全ての両面濾過式の平板状膜エレメントを片面濾過式の平板状膜エレメントに置換すると有効濾過面積は半分になる)できる。その結果、全有効濾過面積(全ての平板状膜エレメントが備える濾過膜の総面積)に比例して行われる物理的な洗浄や化学的な洗浄(薬液洗浄等)の頻度は高くされる。それ故、例えば処理槽において設計流入液量よりも実態流入液量が少ない現場や、適当なサイズが無いために仕方なく大きなサイズの処理槽を設置した場合等、濾過膜の目詰まりが生じ難いような状況では、本発明に係る片面濾過式の平板状膜エレメントに片面濾過層型の濾過膜シートを組み合わせて採用することで、より一層のコストダウンが達成可能となる。
【0019】
また、前述の片面濾過層型の濾過膜シートとして、より好適には、高分子濾過層に比して液体を容易に透過し得る織布や不織布、紙、多孔質膜等からなる基材に対して、その一方の片面に、ポリテトラフルオロエチレンの多孔質層からなるPTFE分離膜からなる高分子濾過層を被着形成したものが採用される。更に好適には、かかる基材として、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂の不織布の他、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリオサフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン)の不織布などが採用される。
【0020】
また、平板状膜エレメントに関する本発明では、非濾過処理面とされた濾板の他方の面が、濾過処理面とされた濾板の一方の面における濾過膜シートの配設領域に対応する中央部分において、滑らかな滑状表面とされることが望ましい。
【0021】
膜ユニットにおいて平板状膜エレメントを対向配置した際、非濾過処理面は、隣り合う平板状膜エレメントの濾過膜シートに対向位置せしめられることとなる。それ故、この濾過膜シートに対向位置する非濾過処理面を滑状表面とすることで、濾過膜シートが例えば圧力流体の逆送による物理的洗浄(濾過膜シートの目詰まり解消)等に際して外方に膨らんで、かかる非濾過処理面に接触した場合でも、当該接触に起因する濾過膜シートの損傷が回避され得る。
【0022】
なお、非濾過処理面の滑状表面における滑らかさの程度は、濾過膜シートの接触に対して損傷を与えない程度であれば良く、具体的には目視や手指の触診で角が認められない程度に滑らかであれば良い。より好適には、対向位置する濾過膜シートが接触する可能性がある領域(中央部分)が、その全体に亘って段差のない一様な平面又は湾曲面とされる。
【0023】
また、平板状膜エレメントに関する本発明では、非濾過処理面とされた濾板の他方の面において、濾過処理面とされた濾板の一方の面における濾過膜シートの配設領域に対応する中央部分が、その周囲の外周部分に比して凹んだ凹形状とされることが望ましい。
【0024】
かくの如く、非濾過処理面における中央部分を周囲の外周部分に比して凹形状とすることにより、濾板の強度を確保しつつ容積(樹脂ボリューム)を抑えて材料及びコストの低減を図ることが出来る。しかも、対向位置する濾過膜シートが接触する可能性がある領域(中央部分)を凹ませることにより、当該濾過膜シートの接触が低減されて、接触に起因する濾過膜シートの損傷のおそれも効果的に回避される。
【0025】
また、平板状膜エレメントに関する本発明では、濾過液流路の外方開口部分が、濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、濾板の上端縁部における該ノズル部の基端側下方には、濾板の両面においてそれぞれ外方に突出して、下方から上方に向かって次第に外方に大きく突出する傾斜面を形成する基端側突出部が設けられている態様が、好適に採用され得る。
【0026】
すなわち、ノズル部には外部管体の端部が外挿接続されることとなるが、このノズル部に接続された外部管体の先端面よりも下方に位置して、基端側突出部が設けられることとなる。そして、かかる基端側突出部は、下方から上方に向かって例えばテーパ状に拡径するような外周傾斜面を備えていることから、平板状膜エレメントの表面に沿って下方から上昇流動せしめられる濾過対象液が、基端側突出部の外周傾斜面によりノズル部から離れる方向に案内される。その結果、ノズル部に外挿接続された外部管体の端面に対する濾過対象液の流体圧力が軽減されることとなり、外部管体のノズル部からの抜け出しが効果的に防止され得るのである。
【0027】
特に、外部管体にはもともと負圧吸引力が及ぼされることから、ノズル部からの抜け出しのトラブルは発生し難いと解されているが、下方からのエア曝気で上昇流動する濾過対象液の粘度が大きい場合や流体流動速度が大きい場合等には、かくの如き基端側突出部が一層好適に用いられ得る。
【0028】
また、平板状膜エレメントに関する本発明では、濾過液流路の外方開口部分が、濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、該濾板の上端縁部において該ノズル部を挟んだ長さ方向の両側に位置して、それぞれ、該濾板の上端縁部から上方に向かって突出するガード突部が設けられている態様が、好適に採用され得る。
【0029】
このようなガード突部を設けることにより、平板状膜エレメントを移送や交換等に際して取り扱う場合に、その上端縁部から外方に突設されたノズル部に対して他部材が打ち当たる等してノズル部が損傷してしまう問題を効果的に防止することが出来る。
【0030】
また、このようなガード突部を採用するに際しては、ノズル部を挟んだ両側に設けられたガード突部の少なくとも一方において、ノズル部に対する遠位側から近位側に向かって次第に上方に大きく突出する傾斜上辺を設けることが一層望ましい。
【0031】
かような傾斜上辺を設けることにより、平板状膜エレメントの表面に沿って下方から上昇流動せしめられる濾過対象液が、傾斜上辺の傾斜によって上方に生ぜしめられる圧力勾配に従って、ノズル部から離れるように斜め上方に向かって流動せしめられることとなる。これにより、ノズル部に外挿接続された外部管体の端面に対する濾過対象液の流体圧力が軽減されることとなり、外部管体のノズル部からの抜け出しが効果的に抑えられ得る。
【0032】
さらに、浸漬型膜分離装置用の膜ユニットに関する本発明の特徴とするところは、平板状膜エレメントの複数をそれぞれが鉛直方向に広がるように且つ互いに水平方向で所定間隔を隔てて重なり合うように位置決め配置されており、処理槽内に設置されて濾過対象液に浸漬されることにより隣り合う各平板状膜エレメントの対向面間にクロスフロー領域が形成されるようにした浸漬型膜分離装置用の膜ユニットにおいて、(i)剛性を有する濾板の両面にそれぞれ濾過膜シートを重ね合わせて各濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、各濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成した両面濾過式の平板状膜エレメントと、(ii)前述の本発明に従う構造とされた片面濾過式の平板状膜エレメントとの、両方を採用してそれら両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントとを組み合わせて前記複数の平板状膜エレメントを構成したことにある。
【0033】
このような本発明に従う構造とされた浸漬型膜分離装置用の膜ユニットにおいては、両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントとが相互置換可能に同一形状で構成されて採用されており、それら両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントの装着割合を適宜に変更設定することが可能である。そして、両面濾過式の平板状膜エレメントに代えて片面濾過式の平板状膜エレメントを装着することで、平板状膜エレメントの対向面間に形成されるクロスフロー領域の隙間寸法(隣り合う平板状膜エレントの対向面間距離)を維持しつつ、濾過膜面積を半分にすることが出来る。
【0034】
それ故、浸漬型膜分離装置用の膜ユニットのサイズおよび装着される平板状膜エレメントの枚数をそのままに維持して、各クロスフロー領域での濾過対象液の局所的な滞留等の問題を回避しつつ、濾過膜面積を細かく調節することが出来、設置条件に対して経済的且つ環境的に優れた対応をとることが可能となるのである。
【0035】
さらに、本発明の曝気装置としては、従来から公知のものが何れも採用可能である。また、曝気装置によって原水中に供給される気体の種類は、原水の性状等に応じて適宜選択される。例えば、好気性微生物による分解機能を発揮させるのであれば、空気等の酸素が含まれた気体が選択される。嫌気性微生物による分解機能を発揮させるのであれば、窒素が選択される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態としての浸漬型膜分離装置用の膜ユニットを示す正面図。
【図2】図1に示された膜ユニットの側面図。
【図3】図1に示された膜ユニットの部分拡大図。
【図4】図3におけるIV−IV断面図。
【図5】図1に示された平板状膜エレメントの表面図。
【図6】図5の平板状膜エレメントの要部拡大図。
【図7】図5に示された平板状膜エレメントの裏面図。
【図8】図7の平板状膜エレメントの要部拡大図。
【図9】図5に示された平板状膜エレメントの部分拡大平面図。
【図10】図9におけるX−X断面図。
【図11】図5の平板状膜エレメントの要部拡大図。
【図12】図11におけるXII−XII断面図。
【図13】図7の平板状膜エレメントの部分拡大図。
【図14】図5に示された平板状膜エレメントの部分拡大底面図。
【図15】図5に示された平板状膜エレメントを構成する濾板の表面図。
【図16】図15の濾板の要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0038】
図1及び図2には、本発明の実施形態としての浸漬型膜分離装置用の膜ユニット10が示されている。この膜ユニット10は、矩形タワー形骨格構造のケース枠体12に対して複数の平板状膜エレメント14が収容状態で装着された構造となっている。そして、かかる膜ユニット10は、図示しない処理槽の中に収容状態で固定的に設置されて、処理層に貯留された濾過対象液に浸漬されて使用される。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、膜ユニット10の設置状態における鉛直上下方向となる図1,2中の上下方向をいう。
【0039】
より詳細には、ケース枠体12は、押出形材等の適当な剛性材の複数本を溶接やボルト等で連結して組み合わせることによって形成されている。また、中空構造とされたケース枠体12の内部には、複数の平板状膜エレメント14が装着されている。
【0040】
なお、ケース枠体12では、周壁が外方に開口されて、内部に装着された平板状膜エレメント14が外部に露出されている。また、ケース枠体12は、上下に開放されていると共に、ケース枠体12の下部には、曝気用管体16、16が配管されている。これら曝気用配管16、16の周壁に形成された噴出孔から、エア等が濾過対象液中に噴出されるようになっている。
【0041】
そして、曝気用配管16、16から噴出されたエア等は、ケース枠体12内に装着された複数の平板状膜エレメント14の対向面間の隙間(クロスフロー領域)を通じて上方に浮上されるようになっており、このエア等の浮上によって、かかるクロスフロー領域に存在する濾過対象液に対して下方から上方に向かう流体流動が生ぜしめられるようになっている。なお、ケース枠体12において、曝気用配管16、16から平板状膜エレメント14の下端縁部にまで至る領域は、周壁板18によって周囲を覆われており、曝気用配管16、16から噴出されたエア等が、不必要に拡散することなく、クロスフロー領域に対して効率的に導かれるようになっている。
【0042】
ここにおいて、本実施形態の平板状膜エレメント14は、略矩形平板形状の濾板20を備えている。この濾板20は、ABS等の硬質樹脂材料によって一体成形されており、特に本実施形態では、矩形平板形状の本体部分に対して、その上端部分において左右両側に突出する一対の耳部22,22が、各短冊形状をもって一体形成されている。そして、図3〜4に示されているように、これら左右一対の耳部22,22が、それぞれ、ケース枠体12で固定的に把持されることによって、平板状膜エレメント14がケース枠体12内で位置決めされて組み付けられている。
【0043】
なお、各耳部22には、略中央部分を板厚方向に貫通してサービス孔23が形成されており、これらのサービス孔23,23を利用して、平板状膜エレメント14を吊り上げることが出来るようになっている。また、各耳部22には、ゴム弾性体等で形成された袋状の保護カバー24が被せられている。そして、ケース枠体12を構成する構造材26,28により、保護カバー24を介して、耳部22が挟持されることにより、平板状膜エレメント14がケース枠体12に対して位置決めされている。
【0044】
そして、上述の如くしてケース枠体12に装着された複数枚の平板状膜エレメント14は、板厚方向で相互に微小間隔を隔てて互いに平行に重ね合わされた状態で、相互に位置決めされている。なお、隣接配置された平板状膜エレメント14、14の対向面間距離は、特に限定されるものでないが、例えば濾板20の厚さ寸法と略同じ程度に設定される。
【0045】
さらに、平板状膜エレメント14には濾板20の表面上に濾過膜シート30が重ね合わされており、この濾過膜シート30による濾過作用を利用して濾過機能が発揮されるようになっている。
【0046】
ところで、図5〜14に示されているように、平板状膜エレメント14は、濾板20の表裏両面において互いに異なる構造とされている。特に図5,6,11に示されているように、濾板20の一方の面(以下「表面」という)32側には、濾過膜シート30が重ね合わされて略全面を覆うように配されて、濾過処理面34が構成されている。一方、濾板20の他方の面(以下「裏面」という)36側には濾過膜シートが配されておらず、濾板20が直接に露呈されて、非濾過処理面38が構成されている。
【0047】
また、濾板20には、左右両側部分において、上端面から上方に向かって突出する略円筒形状のノズル部40が一体形成されている。そして、このノズル部40の中心軸上に貫設された吸引孔42が、濾板20の表面32において、濾過膜シート30で覆われる部位に開口せしめられている。これにより、ノズル部40に対して樹脂チューブ等の外部管体44の一端を外挿接続し、該外部管体44を通じて外部の吸引ポンプ等の負圧力を及ぼすことにより、平板状膜エレメント14が浸漬される濾過対象液を濾過膜シート30に透過させて外部管体44から濾過吸引し、外部管体44を通じて排出し得るようになっている。なお、このことから明らかなように、本実施形態では、ノズル部40の先端における吸引孔42の開口部分によって、濾過膜シート30で濾過された濾過液流路の外方開口部分が構成されている。
【0048】
なお、本実施形態の濾板20の上端縁部には、ノズル部40の基端側下方に位置する部分において、濾板20の表裏両面にそれぞれ突出する基端側突出部46,46が形成されている。これら表裏の基端側突出部46,46は、全体として半球体を濾板20の上端縁部に埋め込んだような形状とされており、下方から上方に向かって外方に膨らんで拡径している。
【0049】
そして、これら基端側突出部46,46の外周面により、濾板20の下方から上方に向かって次第に外方に大きく突出する傾斜面48,48が形成されている。即ち、これら傾斜面48,48は、図10に示されているように、ノズル部40の基端側の直下において、ノズル部40に向かって拡開する逆スカート形状を呈しているのである。
【0050】
なお、基端側突出部46,46の突出高さは、その上端の最大突出部位において、濾板20の表裏両側の基端側突出部46,46の頂部間距離(図10中のL)が、ノズル部40に外挿された外部管体44の下端外径寸法(図10中のD)以上となるように設定されることが望ましい。これにより、処理層内において濾板20の表面に沿って下方から上方に向かって流動せしめられる濾過対象液に対して、図10中に矢印で示されているように、基端側突出部46,46の傾斜面48,48による整流作用(案内作用)が一層効果的に発揮される。即ち、かかる傾斜面48,48の整流作用により、下方からノズル部40に向かって上昇流動する濾過対象液がノズル部40から外周側に離れる方向に案内されて、該ノズル部40に外挿された外部管体44の下端面に対する流体圧の作用が一層効果的に低減され得るのである。
【0051】
さらに、本実施形態の濾板20の上端縁部には、ノズル部40を挟んだ左右方向(濾板20の上端縁部の長さ方向となる図6,7中の左右方向)の両側に位置して、上方に向かって突出するガード突部50,50が一体形成されている。特に本実施形態では、これら両側のガード突部50,50が、ノズル部40を挟んで対称形状とされており、何れも、上方への突出先端縁部が、ノズル部40からの遠位端から近位端に向かって次第に突出高さの大きくなる傾斜上辺52とされている。
【0052】
特に本実施形態では、かかるガード突部50が、濾板20の外周縁部と略同じ厚さ寸法をもって形成された不等辺の直角三角形状とされている。そして、直角の角部をノズル部40側に向け、斜辺を傾斜上辺52として形成されている。また、かかる傾斜上辺52における濾板20の上端縁部からの最大突出高さ(換言すれば、ノズル部40に対峙する辺の長さ)は、ノズル部40の突出高さと略同じか、それより僅かに大きくされることが望ましい。
【0053】
これらのガード突部50,50は、ノズル部40の両側を保護する機能を発揮する。すなわち、濾板20を搬送したり、濾板20をケース枠体12に対して着脱する場合などにおいて、ノズル部40が他部材に打ち当たる場合には、その前に、ガード突部50が当該他部材に打ち当り易い。それ故、ノズル部40が予期せずに他部材に打ち当たることに起因するノズル部40の損傷を防止することが出来る。
【0054】
しかも、本実施形態では、ガード突部50が傾斜上辺52を備えていることから、処理層内において濾板20の表面32に沿って下方から上方に向かって流動せしめられる濾過対象液に対して、かかる傾斜上辺52による整流作用(案内作用)も発揮される。即ち、濾板20の上端縁部では、上方に向かう流体流動に対して、濾板20の直上で濾板20が無くなることによる渦流が発生して局部的な圧力低下が生ずるが、この渦流による圧力低下位置が傾斜上辺52に沿った傾斜線上とされる。その結果、傾斜上辺52に対して略直交する方向で圧力勾配が大きくなることにより、図6中に矢印で示されているように、傾斜上辺52による整流効果が発揮されて、下方からノズル部40に向かって上昇流動する濾過対象液がノズル部40から外周側に離れる方向に案内されて、該ノズル部40に外挿された外部管体44の下端面に対する流体圧の作用が一層効果的に低減され得るのである。
【0055】
一方、濾板20において、濾過膜シート30が重ね合わされる表面32には、図15〜16にも示されているように、外周縁部に沿って延びる溶着代54が形成されている。この溶着代54は、周方向の全周に亘って連続して延びるように全体として略矩形枠体形状をもって形成されている。本実施形態では、かかる溶着代54は、一定の山形断面で周方向に連続して延びる2条の平行な溶着リブ56,58と、それら溶着リブ56,58の外周側を所定幅で取り囲むようにして周方向に広がる格子形状の溶着突起60とを、含んで構成されている。更に、2条の溶着リブ56,58の間には、四角部分において、それぞれ、カギ形に延びる角部溶着リブ62が形成されている。
【0056】
さらに、かかる溶着代54で囲まれた表面32の中央部分には、その略全体に亘って枝状に繋がって広がる凹溝64が形成されている。本実施形態では、かかる凹溝64が、表面32の上部を左右に延びる横溝部64aと、表面32の幅方向で互いに所定間隔を隔ててそれぞれ上下方向に延びる複数の縦溝部64bを含んで構成されており、各縦溝部64bの上端部が横溝部64aに接続されている。また、横溝部64aの長さ方向両側部分には、上方に向かって溶着代54の近くまで延びる接続溝66が形成されており、この接続溝66の上端部が、ノズル部40に貫設された吸引孔42の内方端部に対して連通されている。これにより、外部管体44からノズル部40を通じてて及ぼされる吸引力が、濾板20の表面32に形成された凹溝64の全体に亘って及ぼされるようになっている。
【0057】
そして、このような凹溝64が形成された濾板20の表面32に対して、濾過膜シート30が重ね合わされて装着されている。かかる濾過膜シート30は、溶着代54に対して外周部分が重ね合わされるだけの大きさをもった膜形状を有しており、特に本実施形態では、その外周端縁が、溶着突起60の内周端縁よりも一回り大きく且つ溶着突起60の外周端縁よりも一回り小さな大きさの矩形平膜形状とされている。
【0058】
この濾過膜シート30は、濾板20の表面32に重ね合わされた状態で、その外周部分が溶着代54に対して溶着処理されることにより、図5,6,9,10,11,12に示されているように、溶着代54を構成する溶着リブ56,58や角部溶着リブ62及び溶着突起60に対して溶着で一体化されて固着されている。なお、図5,6,11に示された溶着リブ56,58及び角部溶着リブ62は、濾過膜シート30の溶着後に該濾過膜シート30を透過して表面から視認することが出来る状態を表している。
【0059】
なお、濾過膜シート30としては、従来から公知のものが採用可能であるが、例えば多孔質の濾材としてPTFEを採用したものであって、その全体がPTFE単体で形成されているものの他、補強等の目的で、他の材質との一体的な複合構造や積層構造等とされたものが、好適に採用される。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレートの基材(基膜)に対してポリテトラフルオロエチレンをコーティングしたものが好適に採用される。
【0060】
ここにおいて、かかる補強材として機能する基材は、PTFE製の多孔質膜よりも大きな孔径の多孔体等であって通水性に優れたものであれば、特に限定されることはない。例えば、フェルト,不織布,織布,メッシュ(網目状シート)等を用いることが出来るが、強度や捕集性,柔軟性等の観点から不織布が望ましい。なお、補強材の繊維材料としては、ポリオレフィン(ポリエチレンやポリプロピレン等),ポリアミド,ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等),芳香族ポリアミド、或いは、これらを複合したもの等が特に好適に採用される。
【0061】
また、補強材等である基材とPTFE多孔質膜の積層体を製造する方法としては、例えば、単に重ね合わせて(必要に応じて加熱して)圧着するだけでも良いし、接着剤ラミネートや熱ラミネート等の方法を用いても良い。或いは、ホットメルトパウダーのような融着材を介在させて接着積層にしても良い。
【0062】
より好適には、基材の片面にPTFE分離膜を被着形成した片面濾過層型の濾過膜シート30が採用される。このような片面濾過層型の濾過膜シート30は、例えば基材の一方の表面にPTFE膜素材たる高分子物質溶液をキャストして基材上にPTFE膜を成膜することによって溶融流延で形成することが出来る他、溶融押出で形成したPTFE膜を基材の一方の表面に重ね合わせて溶着等することによって形成するなど、公知の手法によって製造することが出来る。
【0063】
そして、このようにして基材の片面にPTFE分離膜を被着形成した片面濾過層型の濾過膜シート30は、基材の片面だけにPTFE膜が形成されていることと、基材に対してPTFE膜が含浸されていないこととが相俟って、従来から一般に濾過膜として用いられている両面濾過層型のエチレン系濾過膜シートに比して、略同じ濾過孔径を実現しつつ、シート濾過抵抗を略半分程にまで抑えることが可能となる。
【0064】
また、本発明においては、濾過膜シート30の厚さ寸法が0.1mm〜0.3mmであることが望ましい。これにより、濾板20に対する固着強度と耐久性を一層有利に得ることが出来る。即ち、分離膜の厚さ寸法が0.1mmよりも小さい場合、分離膜に十分な耐久性を与えることが難しく、分離膜の厚さ寸法が0.3mmよりも大きい場合には、モジュール本体への固着強度を充分に得ることが難しくなるおそれがある。
【0065】
なお、本実施形態では、濾過膜シート30が重ね合わされて覆われる表面32において、溶着代54で周囲を囲まれた領域には、細かな凹凸が付されており、濾過膜シート30の密着が防止されるようになっている。
【0066】
また、必要に応じて、濾板20の表面32と濾過膜シート30の間には、濾過膜シート30の表面32への密着を防止して有効濾過面積を安定確保したり、濾過膜シート30を裏面から担持することで耐久性を向上させたり等する目的で、膜状のスペーサを配設することも可能である。例えば、ポリエチレンテレフタレート等を用いて形成された、濾過膜シート30よりも充分に大きい孔径の多孔質膜からなる膜状スペーサを、濾板20の表面32と濾過膜シート30との間に重ね合わせ、かかる膜状スペーサの外周縁部を濾過膜シート30の外周縁部と共に、溶着代54に対して溶着して装着することも可能である。
【0067】
このようにして、濾板20の表面32に濾過膜シート30が重ね合わされることによって形成された濾過処理面34にあっては、ノズル部40から及ぼされる吸引力が凹溝64を通じて、表面32上において濾過膜シート30との間に画成された内部領域の略全体に及ぼされる。その結果、濾過膜シート30の外面が晒される処理対象液に対して、濾過膜シート30を通じての吸引力が及ぼされ、濾過膜シート30を透過することで濾過作用を加えられた後、かかる内部領域からノズル部40の吸引孔42を通じて、外部管体44から外部に排出される濾過処理が施されることとなる。なお、この濾過膜シート30による処理対象液の濾過吸引方向は、処理槽内を曝気エア作用で流動せしめられる上方への流体流動方向に対して直交する方向となることから、処理槽内において並設された濾板20,20間の流体流動領域はクロスフロー領域とも言われている。
【0068】
これに対して、濾板20において非濾過処理面38を構成する裏面36は、前述のとおり濾過膜シートが配されておらずに濾板20が直接に露呈されている。この裏面36は、任意の形状や構造を採用することが可能であるが、特に本実施形態では、図7,8,10,12,13にも示されているように、例えば表面32の溶着代54の内周縁の外周側に対応する、その外周部分68は、溶着リブや溶着突起が形成されていないだけで表面32と実質的に同一形状とされている。即ち、濾板20の外周部分は、溶着用の突起等の有無が異なるだけで表裏が実質的に同一形状とされている。
【0069】
一方、裏面36において、かかる外周部分68に取り囲まれた中央領域の広い部分、換言すれば表面32において濾過膜シート30で覆われた濾過領域に対応する部分は、外周部分よりも僅かに凹んだ凹形状の中央部分70とされている。しかも、この中央部分70は、その表面が滑らかで突起等が無い滑状表面とされている。
【0070】
これにより、本実施形態の濾板20においては、裏面36側において、不必要な樹脂材料の削減と共に、軽量化も図られている。
【0071】
しかも、図1〜2に示されているように複数の平板状膜エレメント14が所定間隔のクロスフロー領域を隔てて並設された膜ユニット10において、互いに水平方向で所定間隔を隔てて重なり合うように平板状膜エレメント14を位置決め配置して、一方の平板状膜エレメント14の濾過処理面34と他方の平板状膜エレメント14の非濾過処理面38とが互いにクロスフロー領域を挟んで対向する状態で配設することにより、相互干渉による不具合の発生を効果的に防止することが可能となる。即ち、互いに隣り合う一方の平板状膜エレメント14の表面32に配設された濾過膜シート30が、吸引ポンプのオン/オフや濾過膜シート30の目詰り防止等のメンテナンスに際しての正圧供給等の物理的作用等によって外方に膨らんだ場合でも、隣り合う他方の平板状膜エレメント14の裏面36が凹形状の中央部分70とされていることから、膨らんだ濾過膜シート30の接触が軽減乃至は回避されて、損傷が防止され耐久性の向上が図られ得るのである。しかも、かかる裏面36の中央部分70が滑状面とされていることにより、たとえ平板状膜エレメント14が接触した場合でも、悪影響が可及的に軽減され得る。
【0072】
従って、上述の如き構造とされた平板状膜エレメント14を、膜ユニット10に装着されるものの少なくとも一つに採用することで、クロスフロー領域の隙間寸法を殆ど変えることなく、濾過表面積を減少させて調節することが可能となるのであり、これにより、例えば大形の膜ユニットを設置せざるを得ないような場合において、その濾過処理能力を経済的及び環境的に適合した状態に精度良く設定することが出来るのである。
【0073】
なお、かかる膜ユニット10では、従来構造に従う両面濾過式の平板状膜エレメントとして、前記実施形態に示した平板状膜エレメント14における濾過処理面34側の構造を表裏両面に採用したものが用いられる。このような両面濾過式の平板状膜エレメントと、上述の構造とされた片面濾過式の平板状膜エレメント14とが、適当な割合で、全体として規定数だけ膜ユニット10に装着されることとなる。
【0074】
そして、このように両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメント14とが、実質的に同一サイズ及び形状の濾板を備えているものを膜ユニット10に装着することから、それら両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメント14との装着割合を任意に変更しても、膜エレメント間に形成されるクロスフロー領域の大きさは略同一に保たれ、且つかかるクロスフロー領域において濾過吸引作用が(少なくとも一方の面側に向かって)維持されることとなる。これにより、処理槽内における局所的な滞留等の問題が効果的に回避され、全体として安定した濾過処理性能が発揮され得るのである。
【0075】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明は当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0076】
例えば、前記実施形態の濾板20では、その下端縁部の略全長に亘って、図12,13,14に示されているように、下方に向かって次第に板厚寸法が小さくなる先細断面形状の下端案内部72が形成されている。この下端案内部72は、板厚方向の両側面が上方に行くに従って板厚方向外方に向かって次第に突出する傾斜面74 ,74とされている。これにより、下方から上方に向かって上昇する処理対象液の流動に対して傾斜面74,74が案内作用を為し、クロスフロー領域へ侵入する際の流体流動の乱れを抑えるようになっている。その結果、濾板20に対して及ぼされる流体圧による振動が軽減乃至は防止されて、濾板20の振動に起因する支持部の磨耗の軽減や異音の低減等が図られ得る。更に、本実施形態では、下端案内部72における最上端の最大厚寸法が、濾板20の外周部分68の板厚寸法よりも僅かに大きくされて、濾板20の表裏両面から僅かに突出されている。これにより、下方から上昇流動せしめられる処理対象液の流体圧が、濾板20の表面32に溶着された濾過膜シート30の端縁部に直接に作用することが軽減され、濾過膜シート30の耐久性や、剥離耐久性の向上等も図られている。
【0077】
なお、本明細書において記載したノズル部40の下方の基端側突出部46,46による傾斜面48,48や、ノズル部40の左右両側のガード突部50,50およびその傾斜上辺52,52、更に、濾板20の下端縁部における先細断形状の下端案内部72等は、何れも、本発明から独立して、それぞれ単独で発明を構成し得るものである。尤も、本出願では、それらの各発明を、出願の単一性という形式的な要件を充足する目的で、特許請求の範囲において従属的に記載している。即ち、以下の何れの発明も、それぞれ単独で技術的に認識され得るものであるが、本出願では、上記形式的理由から、単独では権利請求していない。
【0078】
剛性を有する濾板の少なくとも一方の面に濾過膜シートを重ね合わせて該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成することにより、該濾板の少なくとも一方の面側に濾過処理面を構成した、処理槽内で鉛直方向に配置されて濾過対象液に浸漬される平板状膜エレメントであって、前記濾過液流路の外方開口部分が、前記濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、該濾板の上端縁部における該ノズル部の基端側下方には、該濾板の両面においてそれぞれ外方に突出して、下方から上方に向かって次第に外方に大きく突出する傾斜面を形成する基端側突出部が設けられている構成の平板状膜エレメント。
【0079】
剛性を有する濾板の少なくとも一方の面に濾過膜シートを重ね合わせて該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成することにより、該濾板の少なくとも一方の面側に濾過処理面を構成した、処理槽内で鉛直方向に配置されて濾過対象液に浸漬される平板状膜エレメントであって、前記濾過液流路の外方開口部分が、前記濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、該濾板の上端縁部において該ノズル部を挟んだ長さ方向の両側に位置して、それぞれ、該濾板の上端縁部から上方に向かって突出するガード突部が設けられている構成の平板状膜エレメント。なお、上記ノズル部を挟んだ両側に設けられたガード突部の少なくとも一方は、該ノズル部に対する遠位側から近位側に向かって次第に上方に大きく突出する傾斜上辺を備えていることが好適である。
【符号の説明】
【0080】
10:膜ユニット、14:平板状膜エレメント、20:濾板、30:濾過膜シート、32:表面(一方の面)、34:濾過処理面、36:裏面(他方の面)、38:非濾過処理面、40:ノズル部(濾過液流路)、42:吸引孔、44:外部管体、46:基端側突出部、48:傾斜面、50:ガード突部、52:傾斜上辺、68:外周部分、70:中央部分
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内で鉛直方向に配置されて濾過対象液に浸漬される平板状膜エレメントであって、
剛性を有する濾板の一方の面に濾過膜シートを重ね合わせて該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成することにより、該濾板の一方の面側に濾過処理面を構成する一方、
該濾板の他方の面を露呈させることにより、該濾板の他方の面側に非濾過処理面を構成した
ことを特徴とする片面濾過式の平板状膜エレメント。
【請求項2】
前記濾過膜シートとして、基材の一方の面だけに高分子濾過層を被着形成した片面濾過層型の濾過膜シートを用いた請求項1に記載の平板状膜エレメント。
【請求項3】
前記濾板の前記他方の面が、前記一方の面における前記濾過膜シートの配設領域に対応する中央部分において、滑らかな滑状表面とされている請求項1又は2に記載の平板状膜エレメント。
【請求項4】
前記濾板の前記他方の面において、前記一方の面における前記濾過膜シートの配設領域に対応する中央部分が、その周囲の外周部分に比して凹んだ凹形状とされている請求項1〜3の何れか1項に記載の平板状膜エレメント。
【請求項5】
前記濾過液流路の外方開口部分が、前記濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、
該濾板の上端縁部における該ノズル部の基端側下方には、該濾板の両面においてそれぞれ外方に突出して、下方から上方に向かって次第に外方に大きく突出する傾斜面を形成する基端側突出部が設けられている
請求項1〜4の何れか1項に記載の平板状膜エレメント。
【請求項6】
前記濾過液流路の外方開口部分が、前記濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、
該濾板の上端縁部において該ノズル部を挟んだ長さ方向の両側に位置して、それぞれ、該濾板の上端縁部から上方に向かって突出するガード突部が設けられている
請求項1〜5の何れか1項に記載の平板状膜エレメント。
【請求項7】
前記ノズル部を挟んだ両側に設けられた前記ガード突部の少なくとも一方は、該ノズル部に対する遠位側から近位側に向かって次第に上方に大きく突出する傾斜上辺を備えている請求項6に記載の平板状膜エレメント。
【請求項8】
平板状膜エレメントの複数をそれぞれが鉛直方向に広がるように且つ互いに水平方向で所定間隔を隔てて重なり合うように位置決め配置されており、処理槽内に設置されて濾過対象液に浸漬されることにより隣り合う各平板状膜エレメントの対向面間にクロスフロー領域が形成されるようにした浸漬型膜分離装置用の膜ユニットにおいて、
剛性を有する濾板の両面にそれぞれ濾過膜シートを重ね合わせて各該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、各該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成した両面濾過式の平板状膜エレメントと、
請求項1〜7の何れか1項に記載の片面濾過式の平板状膜エレメントとの、
両方を採用してそれら両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントとを組み合わせて前記複数の平板状膜エレメントを構成したことを特徴とする浸漬型膜分離装置用の膜ユニット。
【請求項1】
処理槽内で鉛直方向に配置されて濾過対象液に浸漬される平板状膜エレメントであって、
剛性を有する濾板の一方の面に濾過膜シートを重ね合わせて該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成することにより、該濾板の一方の面側に濾過処理面を構成する一方、
該濾板の他方の面を露呈させることにより、該濾板の他方の面側に非濾過処理面を構成した
ことを特徴とする片面濾過式の平板状膜エレメント。
【請求項2】
前記濾過膜シートとして、基材の一方の面だけに高分子濾過層を被着形成した片面濾過層型の濾過膜シートを用いた請求項1に記載の平板状膜エレメント。
【請求項3】
前記濾板の前記他方の面が、前記一方の面における前記濾過膜シートの配設領域に対応する中央部分において、滑らかな滑状表面とされている請求項1又は2に記載の平板状膜エレメント。
【請求項4】
前記濾板の前記他方の面において、前記一方の面における前記濾過膜シートの配設領域に対応する中央部分が、その周囲の外周部分に比して凹んだ凹形状とされている請求項1〜3の何れか1項に記載の平板状膜エレメント。
【請求項5】
前記濾過液流路の外方開口部分が、前記濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、
該濾板の上端縁部における該ノズル部の基端側下方には、該濾板の両面においてそれぞれ外方に突出して、下方から上方に向かって次第に外方に大きく突出する傾斜面を形成する基端側突出部が設けられている
請求項1〜4の何れか1項に記載の平板状膜エレメント。
【請求項6】
前記濾過液流路の外方開口部分が、前記濾板の上端縁部から上方に向かって突出する筒状のノズル部によって構成されており、該ノズル部に対して外部管体が接続可能とされていると共に、
該濾板の上端縁部において該ノズル部を挟んだ長さ方向の両側に位置して、それぞれ、該濾板の上端縁部から上方に向かって突出するガード突部が設けられている
請求項1〜5の何れか1項に記載の平板状膜エレメント。
【請求項7】
前記ノズル部を挟んだ両側に設けられた前記ガード突部の少なくとも一方は、該ノズル部に対する遠位側から近位側に向かって次第に上方に大きく突出する傾斜上辺を備えている請求項6に記載の平板状膜エレメント。
【請求項8】
平板状膜エレメントの複数をそれぞれが鉛直方向に広がるように且つ互いに水平方向で所定間隔を隔てて重なり合うように位置決め配置されており、処理槽内に設置されて濾過対象液に浸漬されることにより隣り合う各平板状膜エレメントの対向面間にクロスフロー領域が形成されるようにした浸漬型膜分離装置用の膜ユニットにおいて、
剛性を有する濾板の両面にそれぞれ濾過膜シートを重ね合わせて各該濾過膜シートの周縁を該濾板に固着すると共に、各該濾過膜シートを透過した濾過液を外部に導く濾過液流路を該濾板に形成した両面濾過式の平板状膜エレメントと、
請求項1〜7の何れか1項に記載の片面濾過式の平板状膜エレメントとの、
両方を採用してそれら両面濾過式の平板状膜エレメントと片面濾過式の平板状膜エレメントとを組み合わせて前記複数の平板状膜エレメントを構成したことを特徴とする浸漬型膜分離装置用の膜ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−189328(P2011−189328A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60226(P2010−60226)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(509000862)志摩環境事業協業組合 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(509000862)志摩環境事業協業組合 (4)
【Fターム(参考)】
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