説明

平版オフセット印刷用インキ、それを用いた印刷適性改良方法およびそれを用いて印刷した印刷物

【課題】地汚れやからみ汚れあるいは刷り出し汚れの軽減を図ることができる平版オフセット印刷用インキ、それを用いることによる印刷適性改良方法、およびそれを用いて印刷した印刷物を提供する。
【解決手段】顔料、樹脂および溶剤を含み、該溶剤が炭素数9〜15の高級アルコールの、エチレンオキサイド(4〜16モル)、およびプロピレンオキサイド(2〜6モル)共付加物(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの結合は、ブロックまたはランダムおよびその組合わせに制限はない。)を含むことを特徴とする平版オフセット印刷用インキ、該平版オフセット印刷用インキを用いた印刷適性改良方法、および該平版オフセット印刷用インキを用いて印刷した印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版オフセット印刷用インキ分野に関して、優れた印刷適性を実現できる平版オフセット印刷用インキを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
平版オフセット印刷は、水と油が反発しあうことを利用した印刷方式である。親油性である画線部と親水性である非画線部とからなる印刷版へ湿し水とインキが順に供給される。湿し水は親水性の非画線部に付着することにより、油性であるインキを反発し、インキは親油性である画線部のみに付着する。このインキは、印刷版からブランケットに転写された後に、紙等の被印刷物に転写され、画像が形成される。
【0003】
しかし、湿し水の供給不足やインキの過剰供給、あるいはインキの過剰乳化による流動性低下といった原因により、印刷版面上で湿し水とインキの供給バランスが損なわれ、印刷版の非画線部にインキが付着し、地汚れやからみ汚れといった問題や、ブラン洗浄や休憩などで一時的に印刷作業が中断後、印刷再開時の刷り始めから印刷版の非画線部にインキが付着し、刷り出し汚れといった問題が起こることにより、印刷適性が不安定になり、印刷物の画像品質の低下の原因となっている。
【0004】
この問題を解決する手段として、特許文献1は非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが選択されているが、ノニルフェノールは環境ホルモン物質として悪影響が懸念されており、生分解性が劣る。
【0005】
【特許文献1】特開2000−7971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、平版オフセット印刷の分野では、環境への影響が少ない成分を含有する平版オフセット印刷用インキであり、該平版オフセット印刷用インキを用いて印刷するだけで、印刷適性の向上、特に汚れに関する問題が解消され、さらに安定して高品質な印刷物を提供できるインキが切望されている。
【0007】
本発明は、地汚れやからみ汚れあるいは刷り出し汚れの軽減を図ることができる平版オフセット印刷用インキ、それを用いることによる印刷適性改良方法、およびそれを用いて印刷した印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため平版オフセット印刷用インキに関し鋭意検討の結果、以下の発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、顔料、樹脂および溶剤を含み、該溶剤が炭素数9〜15の高級アルコールの、エチレンオキサイド(4〜16モル)、およびプロピレンオキサイド(2〜6モル)共付加物(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの結合は、ブロックまたはランダムおよびその組合わせに制限はない。)を含むことを特徴とする平版オフセット印刷用インキに関するものである。
【0010】
また、前記共付加物がインキ組成物全体に対して、0.05〜1重量%含有されている上記記載の平版オフセット印刷用インキに関するものである。
【0011】
さらに、本発明は、顔料、樹脂および溶剤を含み、該溶剤が前記共付加物を含有する平版オフセット印刷用インキを用いた印刷適性改良方法に関するものである。
【0012】
さらに、本発明は、顔料、樹脂および溶剤を含み、該溶剤が前記共付加物を含有する平版オフセット印刷用インキを用いて印刷した印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
平版オフセット印刷において、本発明の顔料、樹脂および溶剤を含み、該溶剤が炭素数9〜15の高級アルコールの、エチレンオキサイド(4〜16モル)、およびプロピレンオキサイド(2〜6モル)共付加物(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの結合は、ブロックまたはランダムおよびその組合わせに制限はない。)を含有する平版オフセット印刷用インキは、印刷版の非画線部へのインキ付着に伴う、地汚れやからみ汚れあるいは刷り出し汚れといった問題が解決できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による平版オフセット印刷用インキは、顔料、樹脂および溶剤を含み、該溶剤が炭素数9〜15の高級アルコールの、エチレンオキサイド(4〜16モル)、およびプロピレンオキサイド(2〜6モル)共付加物(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの結合は、ブロックまたはランダムおよびその組合わせに制限はない。)を含む平版オフセット印刷用インキである。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0015】
本発明を特徴づける前記共付加物は、該平版オフセット用印刷インキ全量に対して、0.05〜1重量%の範囲が適切である。なかでも、より好ましくは0.1〜0.7重量%の範囲である。
0.05重量%より少ない場合、所定の効果が得られず、1重量%より多い場合、所定の効果はあるものの、泡立ちが顕著で、実用上問題がある。
【0016】
本発明を特徴づける該溶剤は炭素数9〜15の高級アルコールの、エチレンオキサイド(4〜16モル)、およびプロピレンオキサイド(2〜6モル)共付加物(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの結合は、ブロックまたはランダムおよびその組合わせに制限はない。)を含むものが好ましい。なかでも、特に好ましいのは炭素数10〜14の高級アルコールの、エチレンオキサイド(6〜15モル)、およびプロピレンオキサイド(2〜5モル)共付加物(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの結合は、ブロックまたはランダムおよびその組合わせに制限はない。)を含むものである。具体例としては、炭素数12および/または炭素数14の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均6、かつプロピレンオキサイドが平均2、エチレンオキサイドが平均7、かつプロピレンオキサイドが平均3、エチレンオキサイドが平均10、かつプロピレンオキサイドが平均2、エチレンオキサイドが平均10、かつプロピレンオキサイドが平均3、エチレンオキサイドが平均14、かつプロピレンオキサイドが平均2、エチレンオキサイドが平均14、かつプロピレンオキサイドが平均3およびエチレンオキサイドが平均10、かつプロピレンオキサイドが平均5の共付加物、炭素数13の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均7.5、かつプロピレンオキサイドが平均2.5、エチレンオキサイドが平均9.5、かつプロピレンオキサイドが平均2.5、およびエチレンオキサイドが平均14.5、かつプロピレンオキサイドが平均2.5の共付加物、炭素数10の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均5.5、かつプロピレンオキサイドが平均2.5、エチレンオキサイドが平均7.5、かつプロピレンオキサイドが平均2.5、およびエチレンオキサイドが平均9.5、かつプロピレンオキサイドが平均2.5の共付加物であるものが例示できる。これら例示した共付加物を含む該溶剤は単独、または2種以上を併用しても良い。エチレンオキサイド付加数が4より小さい場合では、曇点が低くなる傾向があり、エチレンオキサイド付加数が16より大きい場合では、起泡性が大きくなる傾向があるため、良好に使用できない。また、プロピレンオキサイド付加数が2より小さい場合では、洗浄性が劣る傾向があり、プロピレンオキサイド付加数が6より大きい場合では、生分解性が劣る傾向があるため、良好に使用できない。また、高級アルコールの炭素数が9より小さい場合では、低分子量となり、揮発性が高くなる傾向があり、高級アルコールの炭素数が15より大きい場合では、生分解性が劣る傾向があるため、良好に使用できない。
【0017】
本発明で平版オフセット印刷用インキを構成する成分のうち、前記共付加物を含む該溶剤以外の成分に関しては、一般的な平版オフセット印刷用インキに用いられるものが使用できる。
樹脂成分としては、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキッド樹脂、ロジンエステル樹脂、ギルソナイトなど、従来用いられているものが使用できる。
【0018】
また、顔料成分としては、有機顔料ないしは無機顔料であり、具体的には、ジスアゾイエロー、カーミン6B、フタロシアニンブルーなどに代表される有機顔料、およびカーボンブラックなどに代表される無機顔料など、従来用いられているものが使用できる。
【0019】
また、前記共付加物以外の溶剤成分としては、鉱物油として、ノルマルパラフィン系溶剤、イソパラフィン系溶剤、マシン油、シリンダー油などに代表される石油系溶剤、また、植物油として、アマニ油、桐油、大豆油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、ヤシ油などに代表される天然油脂など、従来用いられているものが使用できる。
【0020】
また、本発明の平版オフセット印刷用インキを得るために、顔料分散剤、乳化剤、乾燥防止剤、乾燥促進剤、整面剤、滑剤など、従来用いられているインキ用添加剤が適宜使用できる。
【0021】
本発明の平版オフセット印刷用インキは、従来公知の方法により製造できる。以下、本発明を実施例と比較例を示し、より具体的に説明するが、以下の実施例等のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
[ワニスの調製]
ロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業(株)社製)44重量%、大豆油10重量%、AFソルベント7(新日本石油(株)社製)45.3重量%を反応容器中に仕込み、窒素ガスを吹き込みながら180℃に昇温し、30分撹拌溶解した後、冷却し、ゲル化剤(川研ファインケミカル(株)社製ALCH)0.7重量%を仕込み、150℃にて45分撹拌して、ワニスを得る。
【0023】
[平版オフセット印刷用インキの調製]
実施例1〜8、比較例1〜3
実施例、比較例におけるインキ成分組成を表1に示す。
表1の配合でワニス、顔料(DIC(株)社製Symular Brilliant Carmine 6B)を配合し、3本ロールミルで練肉して、インキベースを得、さらにAFソルベント7(新日本石油(株)社製)、インキ用添加剤、前記共付加物を含む該溶剤を添加、混合し粘度23〜25Pa・sの実施例1〜8、比較例1〜3の平版オフセット印刷用インキを得る。
なお、表1中の本発明の共付加物において、
POE・POPアルキルエーテル Aは、炭素数12および/または炭素数14の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均6、プロピレンオキサイドが平均2の共付加物を示す。
POE・POPアルキルエーテル Bは、炭素数12および/または炭素数14の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均7、プロピレンオキサイドが平均2.5の共付加物を示す。
POE・POPアルキルエーテル Cは、炭素数12および/または炭素数14の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均10、プロピレンオキサイドが平均2の共付加物を示す。
POE・POPアルキルエーテル Dは、炭素数12および/または炭素数14の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均14、プロピレンオキサイドが平均2の共付加物を示す。
POE・POPアルキルエーテル Eは、炭素数12および/または炭素数14の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均10、プロピレンオキサイドが平均5の共付加物を示す。
POE・POPアルキルエーテル Fは、炭素数10の高級アルコールの、エチレンオキサイドが平均5.5、プロピレンオキサイドが平均2.5の共付加物を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
[洗浄性評価]
実施例1〜8、比較例1〜3に示した平版オフセット印刷用インキを、一定のインキ盛りにてRIテスター((株)明製作所製)でPS版の非画線部に展色する(非画線部にインキが付着した状態を想定)。インキがウエット状態のまま、PS版の大きさよりひと回りほど大きい水道水を張った容器内に挿し入れ(湿し水で洗い流す状態を想定)、一定時間保持し、この間におけるPS版からのインキの剥離状態を目視により観察する。
展色したインキの剥離状態について、○:ほとんど剥離する(洗浄性良好)状態、△:付着したインキが残る状態であるが、実用上問題ないもの、×:ほとんど剥離しない(実用上問題ある、洗浄性不良)状態の3段階で評価する。
上記評価方法において、剥離しない状態にあるインキは、印刷中、印刷版の非画線部上に、何らかの原因によりインキが付着した場合、そのまま非画線部に付着しやすく、湿し水で洗い流されにくく(洗浄されにくく)、地汚れやからみ汚れあるいは刷り出し汚れの原因になる。一方、剥離する状態にあるインキは、上記と同様の状態になった場合、非画線部に付着しにくく、湿し水で洗い流され(洗浄され)、地汚れやからみ汚れあるいは刷り出し汚れが発生しない。
【0026】
[泡立ち性評価]
実施例1〜8、比較例1〜3に示した平版オフセット印刷用インキを、乳化試験機(デューク社製D−10)に、インキ50gと蒸留水80gを入れて、10分間撹拌する。乳化余剰水40ccを蓋付きガラス瓶に移し、上下に30回振り、泡立たせた後、静置する。静置時のガラス瓶内の泡の消え具合を観察する。
観察により、○:泡がすぐに消えるもの、△:泡は残るが、実用上問題ないもの、×:泡がほとんど消えない(実用上問題ある)ものの3段階で評価する。
以上の結果を、表2に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
表2の結果から明らかなように、本発明の平版オフセット印刷用インキを使用した場合(実施例1〜8)は、洗浄性が良好であり、地汚れやからみ汚れあるいは刷り出し汚れが発生しにくい。
一方、比較例1においては洗浄性は良好であるが、泡が消えず、実用上問題がある。比較例2および3は、洗浄性が劣る。
【0029】
[実機試験(実印刷機による印刷試験)]
上記実施例1および比較例3の平版オフセット印刷用インキを用いて、4色オフセット輪転機を使用して印刷試験を行ない、汚れが発生する状態を調べた。
印刷機:(株)小森コーポレーション製 4色オフセット輪転機
印刷版:PS版
用紙:コート紙
【0030】
比較例3の平版オフセット印刷用インキを用いて印刷した場合は、印刷版の非画線部にインキが付着し、印刷開始後約30,000部でからみ汚れが発生し、印刷物において画像品質の低下が認められた。
一方、実施例1の平版オフセット印刷用インキを用いて印刷した場合は、上述したようなからみ汚れは発生せず、安定して画像品質の高い印刷物が得られた。
【0031】
比較例3の平版オフセット印刷用インキを用いて印刷した場合は、ブラン洗浄や休憩などで一時的に印刷作業が中断した後、印刷再開時の刷り始めから印刷版の非画線部にインキが付着し、いわゆる刷り出し汚れが発生し、印刷物において画像品質の低下が認められた。
一方、実施例1の平版オフセット印刷用インキを用いて印刷した場合は、上述したような刷り出し汚れは発生せず、印刷再開時の刷り始めから安定して画像品質の高い印刷物が得られた。
【0032】
この試験から明らかなように、比較例3の平版オフセット印刷用インキを用いて印刷して汚れが発生する条件でも、本発明の平版オフセット印刷用インキを用いて印刷したものでは汚れは発生しない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
平版オフセット印刷において、地汚れやからみ汚れあるいは刷り出し汚れといった問題を解決したインキとして有用に使用でき、印刷適性を改良でき、安定した画像品質の高い印刷物が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、樹脂および溶剤を含み、該溶剤が炭素数9〜15の高級アルコールの、エチレンオキサイド(4〜16モル)、およびプロピレンオキサイド(2〜6モル)共付加物(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの結合は、ブロックまたはランダムおよびその組合わせに制限はない。)を含むことを特徴とする平版オフセット印刷用インキ。
【請求項2】
前記共付加物がインキ組成物全体に対して、0.05〜1重量%含有されている請求項1に記載の平版オフセット印刷用インキ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の平版オフセット印刷用インキを用いた印刷適性改良方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の平版オフセット印刷用インキを用いて印刷した印刷物。

【公開番号】特開2010−106094(P2010−106094A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277720(P2008−277720)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】