説明

平行平板電極配置装置及び方法

イオンビームを軸(Z)に沿って誘導するシステムであり、上部平板電極帯(1u、2u、3u、4u、5u)と下部平板電極帯(1d、2d、3d、4d、5d)を有する少なくとも一つのセクションを有し、この電極は、ビーム軸及び少なくとも一つのセクションの端部にある周縁場境界を含む面に対して平行方向には略対称で、垂直方向には略非対称である電場を少なくとも一つ生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子を横方向に収束させるように設計された電極システムを導入した荷電粒子輸送装置に関する。より具体的には、本発明はほぼ平行に配置された平板上にある電極帯による所望の横場の形成や、その変形例および応用例に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術では、棒状電極によって形成される多重極場で引き起こされる横方向力により、荷電粒子は真空中又はバッファガス中で輸送される。この棒状電極は粒子ビームに平行方向に、及び粒子ビームの周りに配置されるものである。かかる場はDC場、即ち定直流場(constant direct current fields)でも、RF場、即ち高速変動する高周波場(quickly varying high-frequency fields)でも可能である。荷電粒子をかなりの長距離、強度損失なく輸送することが必要な多くのアプリケーションでは、このような場が重要である。一般に、このようなアプリケーションは、輸送領域中のバッファガス圧、又は真空中の残留ガス圧によって特徴付けることが可能である。
【0003】
従来技術の粒子輸送の仕組みには以下のようなものがある。
1. バッファガスのガス圧が数ミリバールから数バールである領域における荷電粒子の輸送。G. Eicemanの論文(非特許文献1を参照)にあるように、かかる領域には以下のものを収容することができる。
1.1. イオン移動度分光計 (ion-mobility spectrometer, IMS)、又は、
1.2. FAIMSとしても知られる微分型電気移動度分光計(differential mobility spectrometer, DMS)。
2. バッファガスのガス圧がマイクロバール未満から数ミリバールである領域内での荷電粒子の輸送。かかる領域内では以下のものを収容することができる。
2.1. 「ビーム冷却器」:この内部でイオンがバッファガスの原子や分子に衝突し、その過程で運動エネルギーをこれらに与える。これによってイオンが「冷却」され、イオンビームの占有する位相空間(phase-space)が減少する。
2.2. 「コリジョンセル」:この内部で分子イオンがバッファガスの原子や分子と衝突することにより、フラグメントに分裂する。
2.3. 「移送ライン(transfer line)」:これによってイオンを高圧領域から低圧領域に、または逆方向に輸送することができる。
3. 残留ガス圧が約1マイクロバール未満の領域における荷電粒子の輸送。かかる領域には、以下のものを収容することができる。
3.1. 粒子加速器又は粒子ビーム誘導システムなどにあるようなビーム輸送チャネル、又は、
3.2. 扇形場、RF四重極、又はエネルギー等時性飛行時間型システム(energy-isochronous time-of flight system)から成る質量分析計(非特許文献2を参照)。
【0004】
前述の例では、当初存在する荷電粒子のうちほぼ全て(又は、少なくとも大部分)が輸送ラインの端部に到達することが重要である。従来技術では、曲線状のビーム軸Zを持つ輸送ラインに沿って荷電粒子ビームを繰り返し再収束させる、一つ又は多くのレンズを用いることによってこれを達成することができる。
【0005】
デカルトのXY座標系をこのビーム軸に対して垂直に適用すると、回転対称である電気レンズ又は磁気レンズを用いることによって、ビーム軸に向かう荷電粒子をX方向とY方向において同時に収束させることができる。もっとも、H.Wollnikの論文(非特許文献3を参照)にあるように、四重極(つまり4-poles)の磁気レンズ又は電気レンズも、荷電粒子をX又はY方向のいずれかに収束させたり他の方向に拡散させたりするのに好適に用いることができる。
【0006】
ある場合には、荷電粒子をビーム軸方向に、又はビーム軸から離れる方向に誘導する非線形力を示す、六重極、又は八重極(つまり6-poles又は8-poles)の磁極又は電極を用いることが可能である。四重極、六重極、八重極の装置(通常、多重極と呼ばれる)全てにおいて、荷電粒子にかかる全体作用(overall action)は、荷電粒子をX、Y両方向のビーム軸方向に誘導するものである。この全体作用が生じるのは、荷電粒子が受ける力が、各多重極においてビーム軸から離れる方向よりもビーム軸へ向かう方向の方が全体として大きいからである。この理由は、荷電粒子が多重極を通過する際にこれらの力が軸からの距離に伴い増加するからであり、粒子がビーム軸に向かう力を受ける際にはビームの直径が常により大きくなる一方、粒子がビーム軸から離れる方向の力を受ける際にはビーム直径がより小さくなるためである。
【0007】
分割した短い四、六、八重極装置を用いることによって荷電粒子ビームを効率的に輸送することが可能であるが、電極に高周波RF電位を印加すれば、より長い単一の装置を用いることも可能である(非特許文献4を参照)。この場合、イオンはRF多重極を通過する際と同様の収束力及び拡散力を受ける。
【0008】
従来技術では、多重電極は2N = 4, 6, 8...の棒状電極で形成され、その棒状電極は等しい方位角間隔(azimuthal interval)Δθ=π/Nでもってイオンビーム軸と平行、かつ、イオンビーム軸を取り囲むように配置され、偶数番目の電極には電位+VNOが、奇数番目の電極には電位-VNOが印加される。最も一般的な多重極は四重極であり、図1で示すように2N=4 の電極配列を有し、直径2G0の開口の周囲にπ/2の方位角間隔で4つの電極が配置されるという特徴を有する。
【0009】
円筒座標R, θ, Zでは、2N電極における電位VN(R,θ)はZから独立しており、以下のように表すことができる。
VN(R,θ) = VNO(R/G0)N*COS[N(θ-Φ)] (1)
ここで、θはZ軸周りの方位角、Φはθ=0の平面、即ち図1のXZ面に対する2N電極の配置の回転方位角である。もっとも、有限な形状公差をもつ現実の電極を利用する場合、式(1)の正確な電位分布は、通常は近似値でしかない。
【0010】
図1で示すような古典的なN=2の2N電極の場合、式(1)の電位分布V2(R, θ-Φ)は、θを方位角として、頂点がθ-Φ=0, π/2, π, 3π/4にある電極に電位+V20、-V20、+V20、-V20を印加することによって近似される。式(l)のV2(R, θ-Φ)を正確に示すためには、電極はXY平面上で双曲線状に形成しなければならない。電極が対称であるため、電位分布V(R, θ-Φ)は4回対称であり、Φは、θ=0に対して電極配置が回転する角度であり、Φ=0、Φ=π/4の場合は図1に示されている通りである。E2=gradV2(G0)である場は直径2G0のいわゆる開口円に沿って一定である一方、電位は図1の波線に沿って消える。結果として荷電粒子に生じる力はこの円に沿って一定の大きさをとるが、その方向は図1の小矢印で示した方向に変化する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】G.Eiceman, "Ion Mobility Spectrometry", CRC-Press, Boca Raton, 2006
【非特許文献2】P.H.Dawson, "Quadrupole Mass Spectrometry and its Application", Elsevier, Amsterdam 1976
【非特許文献3】H.Wollnik, "Optics of Charged Particles", Acad. Press, Orlando, 1987
【非特許文献4】P.H.Dawson, "Quadrupole Mass Spectrometry and its Application", Elsevier, Amsterdam 1976
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
典型的実施例の態様は次のようなものである。
イオンビームを、ほぼ連続したビーム軸に沿わせ、前記イオンビーム中のイオンに力を加える場を少なくとも一つ通るように誘導するシステムであり、前記システムは、
上部平板と下部平板を含むほぼ平坦な平板多重極を含むセクションであり、前記力が前記ビーム軸を含む平面に平行な方向にほぼ対称であるか又は垂直な方向にほぼ反対称であるようなセクションを少なくとも一つと、
前記上部平板及び下部平板のそれぞれが、対応する電位を有する複数の第一電極帯を含み、当該第一電極帯は、前記少なくとも一つの場のうち少なくとも一部分を生成するようなものと、
を含むシステムであって、
前記少なくとも一つのセクションの各端部に周縁場の境界が配置され、前記第一電極帯は十分に薄く、平坦であるシステム。
【0013】
このシステムでは、前記上部平板と前記下部平板は、前記少なくとも一つのセクションにある前記平面に対してほぼ平行又は傾斜のいずれかであるように配置されており、前記上部平板と前記下部平板の外挿交差線は前記イオンビーム軸に対しほぼ垂直である。
【0014】
このシステムでは、前記少なくとも一つのセクションは、真っ直ぐなセクションと、前記平面内で湾曲したセクションのいずれかを少なくとも一つ含み、前記少なくとも一つのセクションのうち真っ直ぐなものは、前記イオンビーム軸に対して平行な前記第一電極帯のうちほぼ四角形のものを含み、前記少なくとも一つのセクションのうち湾曲したものは、前記イオンビーム軸からほぼ一定の距離にある前記第一電極帯のうちほぼ湾曲したものを含むものである。
【0015】
このシステムでは、少なくとも一つのセクションにあるイオンビーム軸は直線状、湾曲状、曲線状の少なくとも一つである。
【0016】
このシステムでは、各第一電極帯は、(a)直線状の端部、及び(b)湾曲した端部の少なくとも一つを有し、前記イオンビーム軸に対してほぼ垂直方向の幅は各第一電極帯のイオンビーム軸方向の長さより小さなものである。また、複数の第一電極帯の長さ及び偏向角のうち一つが、複数の第一電極帯のうち隣接したものの少なくとも一つと等しいものである。また、複数の第一電極帯の長さ及び偏向角のうち一つが、複数の第一電極帯のうち隣接したもののうち少なくとも一つと等しくなく、前記イオンビーム軸からのそれぞれの距離に対し線形的及び非線形的のいずれかに変動するものである。
【0017】
本システムでは、前記複数の第一電極帯の少なくとも一つの幅が前記イオンビーム軸に沿って増加する。また、前記複数の第一電極帯の幅の、前記上部平板と前記下部平板との間の距離に対する比が、前記イオンビーム軸に沿って一定、及び可変のいずれかである。また、前記イオンビーム軸に沿った場を形成するため、前記複数の第一電極帯の少なくとも2つに電位が一定の時間印加される。
【0018】
本システムでは、前記複数の第一電極帯のうち少なくとも一つの幅が中央部分で最大となるように、当該幅がイオンビーム軸に沿って減少、及び増加する。
【0019】
本システムでは、前記複数の第一電極帯のうちいくつかのものの幅が、前記イオンビームからより離れたところでより大きくなる。
【0020】
本システムでは、前記複数の第一電極帯のうち中央のものの幅が該第一電極帯のうち隣接したものの幅と等しいか、又は大きなものである。
【0021】
本システムでは、前記イオンが、一定時間印加される、より大きなイオン誘引電位を有し、かつ、前記イオンのうち少なくとも一部を放出させるための開口部を有する、前記上部平板と前記下部平板のいずれか一つに向けて誘導される。
【0022】
本システムでは、前記イオンは、一定時間前記平面に平行な場を形成するために前記第一電極帯に印加された相異なる電位によって、前記平面沿いに誘導される。
【0023】
本システムは、前記平面の第一面と第二面に対してほぼ垂直に配置された複数の第二電極帯を更に含み、前記第二電極帯は十分に薄くて平らである。本システムでは、前記第二電極帯は、(a)ほぼ四角形のもの、(b)ほぼ湾曲したもののいずれかであり、前記イオンビーム軸から一定の短い距離だけ離れている。また、前記複数の第二電極帯の幅は、前記平面から離れるにつれてより大きくなる。また、前記複数の第二電極帯の少なくとも一つの幅は、イオンビーム軸に沿って増加する。さらに、前記複数の第二電極帯の少なくとも一つの幅が中央部で最大となるように、当該幅が前記イオンビーム軸に沿って増加、及び減少する。また、前記イオンは、前記第二電極帯に一定時間印加される、より大きなイオン誘引電位と、前記第一面と前記第二面に前記イオンの少なくとも一部を放出させるための開口部を有する、前記第一面及び前記第二面のいずれか一つに向けて誘導される。また、本システムは、低圧のバッファガスの中、イオン−原子間衝突又はイオン−分子間衝突を殆ど生じない程度に残留ガス圧が低い真空イオン輸送システムにおいて、平板多重極がイオンビームを輸送する為に利用されるシステムであり、質量分析能を提供するためにRF多重極場及びDC多重極場が形成され、前記第一面と第二面の間の距離が、前記上部平板と前記下部平板の間の距離より、十分に小さいものである。さらに本システムでは、(a)ほぼ一定の電位、及び(b)正弦波状の電位、の少なくとも一つが前記複数の第二電極帯のそれぞれに印加される。さらに本システムでは、(a)ほぼ一定の電位、及び(b)矩形波状の電位、の少なくとも一つが、前記複数の第二電極帯のそれぞれに印加される。また、前記複数のRF電位の少なくとも一つは、前記複数の第二電極帯の一つに加えられる少なくとも一つの周波数を有し、該少なくとも一つの周波数は各々、周波数及び位相の少なくとも一つにおいて、相異なることが可能である。
【0024】
本システムでは、前記第一電極帯は、前記電極帯の各々に沿う電位がほぼ一定であるように、導電性材料、及び導電性の表面を有する材料のうち一つを有する。
【0025】
本システムでは、前記第一電極帯は一又は複数のワイヤを有するグループから成る。
【0026】
本システムでは、前記第一電極帯は、それぞれ絶縁性の又はわずかに導電性を有する基板の上に導電性素材の複数のパッチを有するものであって、プリント基板として形成される。また、前記複数のパッチは、前記複数の第一電極帯のいずれか一つの厚みより小さいか、若しくはそれに等しいエリアによって分離されている。さらに、RF電位が印加された場合、前記パッチによって形成される高周波場を遮蔽するように形成される、導電性の層が設けられる。
【0027】
本システムでは、前記複数のRF電位の少なくとも一つは、前記複数の第一電極帯の一つに加えられた周波数の少なくとも一つを有し、該少なくとも一つの周波数は各々、周波数及び位相の少なくとも一つにおいて互いに相異なることが可能である。また、少なくとも前記二重極場は、他の多重極場で、前記少なくとも一つのセクションにおけるものから独立した周波数によって調節される。
【0028】
本システムでは、前記複数の第一電極帯のそれぞれに、(a)ほぼ一定の電位、及び(b)正弦波状の電位、の少なくとも一つが印加される。
【0029】
本システムでは、前記複数の第一電極帯のそれぞれに、(a)ほぼ一定の電位、及び(b)矩形波状の電位、の少なくとも一つが印加される。.
【0030】
本システムでは、前記複数の第一電極帯のうち外側のものは共通電位となっており、前記複数の第一電極帯のうち中央ではないが内側のものは前記共通電位より十分に大きな電位を有し、前記複数の第一電極帯のうち中央のものは前記複数の第一電極帯のうち前記内側のものより十分に小さな電位を有する。
【0031】
本システムでは、前記平板多重極はイオン移動度分光計(ion mobility spectrometer, IMS)、又は微分型電気移動度分光計(differential mobility spectrometer, DMS)の中にある、数バールから1ミリバール未満の高圧バッファガス内に存在する前記平面に向けてイオンビームを収束するように用いられ、前記イオンが前記イオンビーム軸に沿って運動するように、RF多重極場とDC多重極場が前記平板多重極によって供給される。
【0032】
本システムでは、前記平板多重極は、ビーム冷却器の、約1ミリバールから1マイクロバール未満の中間的なバッファガス圧下でのイオンビーム輸送に用いられ、該ビーム冷却器では、イオンビーム位相空間が減少するようにイオンがイオン−原子間、又はイオン−分子間衝突によってエネルギーを失い、前記イオンが前記イオンビーム軸に沿って運動するようにRF多重極場が前記平板多重極に供給される。
【0033】
本システムでは、前記平板多重極は、コリジョンセルの、約1ミリバールから1マイクロバール未満の中間的なバッファガス圧下でのイオンビーム輸送に用いられ、該コリジョンセルでは、イオン−原子間、又はイオン−分子間衝突によって分子がフラグメント化し、フラグメントイオンが抽出される。
【0034】
本システムでは、前記平板多重極は、イオン−原子間又はイオン−分子間衝突が殆ど生じない程度の低圧バッファガス・真空イオン輸送システムにおけるイオンビーム輸送に用いられ、質量分析能を供給するためにRF多重極場とDC多重極場が形成される。
【0035】
本システムでは、前記平板多重極内部のイオンを線形四重極イオントラップ内のようにトラップするため、平板多重極の場が、前記イオンビーム軸に対してイオンを反発するような電位に保たれた、ほぼ長方形で、回転する、スリットタイプの電極又はグリッドによって制限され、RF多重極場とDC多重極場が質量分析能を供給するために形成される。
【0036】
典型的実施例の上記態様および特徴は、添付の図面を参照しつつ本発明の特定の実施例を説明することにより一層明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は従来技術であって棒状電極から成る四重極の電極配置を示したものである。θを方位角として、棒状電極の四重極の頂点(apex)はθ-Φ=0, π/2, π, 3π/4である。例Aでは、Φ=0である電極の配置、例BではΦ=π/4である電極の配置が示されている。
【図2】図2は、2G0の距離を隔てた2枚の平行平板の上に、長さLの薄くて平坦な複数の第一電極帯を配置した典型的実施例の一つを示したものである。幅w1、w2、w3、w4、w5の中央部のX、Y位置によって相異なる電極帯を特徴付け、棒状電極を用いた従来技術の多重極のX、Y位置におけるのとほぼ同一の電位をこれらの電極帯に印加すると、多重極におけるのと同様の多重極電位分布が得られる。
【図3】図3は、図2におけるのと同様、2G0の距離を隔てた2枚の平行平板の上に、複数の薄くて平らな第一電極帯を配置した典型的実施例の一つを示したものである。ここで示された例では電極帯は湾曲しており、ビーム軸Zが偏向角Φを持つ半径ρの円であれば、円弧状となる。複数の相異なる電極帯の平均全長は、左から右方向に、次の通りである:Φ[ρ+(w1/2+w2+w3/2)], Φ[ρ+(w2+w3)/2], Φρ, Φ[ρ-(w3+w4)/2], Φ[ρ-(w3/2-w4-w5/2)]。
【図4】図4は、Yu、Ydにおける2つの板の上に配置された薄くて平坦な第一電極帯と、Xt、Xrの位置に配置された2つの直交する面の上に置かれた、薄くて平坦な第二電極帯とから成る典型的実施例の一つを示している。このような電極帯の配置について、Aにはイオンビーム軸Zが直線状の場合を、Bにはイオンビーム軸Zが湾曲した場合を示している。
【図5】図5は図2の変形例である、電極帯の配置の典型的実施例を示している。ここでは、薄くて平らな第一電極帯が、互いに傾斜した2つの平板上に配置され、これらの距離間隔2G(Z)がZに伴い変化するものが示されている。これにより、多重極の強度がZ座標に沿って変化し、Z方向の場もまた変化する。
【図6】図6は本発明の典型的実施例の一つを示しており、図2及び図5の電極帯の配列において、「テーパー状第一電極帯」を利用しうる方法を2つ示している。即ち、Z位置が変わると、テーパー状第一電極帯2、3、4の幅w(Z)が変化する例であり、これによって多重極場がZと伴に変化し、かつ、例Bに示されているようにZ方向の場と共に変化する。例Aでは、特定の電極帯の幅w(Z)の、二つの平板間の距離2G(Z)に対する比が変化し、w(Z)/G(Z)(w/G比とも呼ばれる)は、ほぼZから独立した値となる。
【図7】図7は、図6におけるのと同様の「テーパー状第一電極帯」を利用して、図2、又は図5の電極帯の配置におけるZ方向に直流(DC)場を印加する2つの可能な方法の典型的一実施例を示している。ここで示す例では、電極帯は2個の平行平板上に配置されており、例Aでは電極帯3に印加されるのと同一のRF及びDC電位が電極帯3aにも印加されているが、これらの電極帯にDC及びRF電位を追加することが可能である。例Bでは、電極帯2a、3a、4aで同様のことがなされる。
【図8】図8は図7に類似した2つのシステムの典型的一実施例を示しており、この場合、薄くて平坦な第一電極帯の平均長さは異なっている。これによって、平板多重極の入口又は出口の境界線は、湾曲し、また多くの場合傾斜したものになる。例Aでは異なる複数の電極帯の幅が全て一定であり、側面が直線状となっている様子が示されている。一方、例Bでは4個の電極帯でその幅が変化しており、側面が湾曲したものと直線状のものの両方があることが示されている。
【図9】図9は、図7で示したものと同様の動作を行う平板多重極の典型的一実施例を示している。ここでイオン誘引電位がこれらの中央電極帯に追加的に印加された場合、イオンにZ方向の力が作用し、表示された配置の電極帯の中央部分のあたりにイオンを集中させる。これは例Aでは、2個の台形状の中央電極帯によって実現される。一方、例Bではこの2個の台形状中央電極帯は円状の突出部が付加されるという特徴を有し、より強い力をこのシステムの中央部にもたらす。また、両方の例で開口部が示されており、その中を、上部又は下部平板上の第一電極帯に対してほぼ垂直にイオンが引き出されうる。Aの場合イオンが集中した後の短い時間にDC場をZ方向に形成できるよう、中央電極帯をZ方向に分割することも示唆されている。これはBの場合にも可能である。このイオン引き出しの前の時点で、突出領域の中央にイオンを移動することが可能である。
【図10】図10は典型的一実施例を示しており、回路基板(circuit boards)のエッチングプリント技術を用いて形成された、絶縁性の、またはわずかに導電性を有する基板(5)の上に、平坦で薄い第一電極帯(2、3)が、金属パッチとして形成されている。ここで示した例では、電極帯の動作中の配置において、接地された遮蔽(1、4)も設けられている。
【図11】図11は平板多重極の前後に配置された周縁場制限部(fringe field limiter)を示している。例Aではこのような周縁場制限部が2つ、平板多重極の各端部の上に示されており、制限部A1、A2、A3、A4の全てがスリットタイプの構造に形成されている。例Bではこのような周縁場制限部が2つ、平板多重極の各端部の上に示されており、制限部B1、B2、B3、B4の全てが枠構造に形成されている。
【図12】図12は(A)長方形の枠タイプ、(B)スリットタイプ、(C)環状タイプの周縁場制限部を示している。これらの例は全てワイヤー格子(grid)のあるものとないものとが示されているが、これは網状の格子に交換することも可能である。
【図13】図13は4つの平板多重極A、B、C、Dと従来技術の棒状四重極質量分析器を組み合わせたものを示しており、これらは全て同一の直線Z軸に沿って配置されている。ここで示した例では、棒状四重極が平板多重極Dの下流に配置されているが、いずれか2つの平板多重極の間に配置することも可能である。平板多重極は全て、スリットタイプの周縁場制限部によって隔てられているように示されているが、これらの制限部を2つの平板多重極の間の1つに減らしたり、完全に省略したり、他のタイプの周縁場制限部に変更したりすることも可能である。イオンが平板多重極Dに対して垂直に引き出し可能であることも示されている。
【図14】図14は平板多重極をいくつか組み合わせたものを示しており、湾曲したZ軸を示している多重極Cを除き、全ての多重極はZ軸が直線であるという特徴を有する。この平板多重極は、コリジョンセルとして利用するのに特に適している。コリジョンセル内部ではイオン分子がイオン−原子間、又はイオン−分子間の衝突によってフラグメント化され、これは例えば平板多重極Dで質量分析され得る。これは、電極帯にRF及びDC電位の適切なものが印加された場合に、本システムがRF四重極フィルタ、又は質量分析リニアイオントラップとして動作するためである。もっとも、平板多重極Dは、イオンをその中央に集中させて上部平板から垂直に放出させる、又はイオンビームを棒状四重極の質量分析器に移送させる平板多重極としても利用できる。
【図15】図15は2つの平行平板Pu、Pd上にある5つの電極帯を示しており、これらはZ方向に分割されている。このような構造により、特定のX値で特徴付けられる全ての電極帯にX依存性のDC及びRF電位を印加し、かつ、特定のZ値で特徴付けられる全ての電極帯にZ依存性のRF及びDC電位を追加することが可能になる。図15は、接地された平板G2u、G1u及びG1d、G2dの間にそれぞれ配置された、Lu、Ldの位置にある平板に対するリード線によって、いかにして異なる電極に異なる電位が印加され得るかも示している。これは多層回路基板(circuit boards)のプリント技術によって行うことができる。
【図16】図16はZ方向に分割され、図15に示した2枚の平行平板Pu、Pdの上に配置された5つを示している。もっとも図16では、必要なRF電力を減らし、生成されるRF漂遊場も同様に減らすため、能動素子は電極帯に非常に近接して配置されている。これらの能動素子が容器の中に収納されているのが示されており、その中の残留ガス圧はイオンが移動する場所のものとは異なっていてもよい。場合によっては、水冷用のCu、Cdをこの容器に供給してももよい。
【図17】図17は、適切なRF、又はDC電位を対応する電極に印加した場合にアインツェルレンズにおける場を生成できるように形成された電極帯を示している。同じ方法でイオンミラーによる場と同様、「油浸レンズ」も形成可能である。これらは一般に回転対称な電極のみによって形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の典型的実施例について、添付の図を参照しつつ、より詳細に説明を行う。以下の説明では、図が異なっても同一の構成要素には同一の参照番号を用いる。この明細書で定義した詳細な構造や構成要素の形状のようなものは、本発明を総合的に理解するための助けにすぎない。従って、本発明は、定義されたこれらのものを欠いても実施することが可能であることは明らかである。また、周知の機能や構造についての詳細は記していないが、これは不要な詳細によって本発明が不明確になりかねないからである。
【0039】
図2は本発明の典型的な一実施例を示しており、2組の5つの電極帯によって多重極電位分布の重ね合わせが生成されるが、多くのケースでは、電極帯の数はこれより多くても少なくても好ましい。2G0の距離だけ離たれた平行平板上に、電極帯が配置されている。これは、図1で示した従来技術の四重極と同一の開口直径を利用可能とするためである。図2で示されたように、W1、W2、W3、W4、W5の幅をとるそれぞれの平板上に電極帯が5個存在し、WとWは他の電極帯より大きく、基本的にはXと-Xはかなり大きな値まで伸ばすことができる。さらに、中央平面には1a、2a、3a、4a、5aのポイントと、これらのポイントを通り、Z軸に平行なとが示されている。もっとも、図2では、電極帯の配置を簡易するために:
・電極帯の位置と幅がXに対してほぼ対称として描かれており、
・異なる電極帯の幅は上部平板と下部平板でほぼ同一、つまりYに対してもほぼ対称であるように描かれている。
もっとも、電極帯がX若しくはYに対して、又はその双方に対して非対称であったとしても、平板多重極 (即ち、相互にほぼ平行で、複数の薄くて平らな電極帯をそれぞれ有する上部平板と下部平板)を構築することも可能である。
【0040】
式(1)によって表される2N極の電位分布は、N≧2として、異なる方位角の位置でビーム軸周りにΔθ=π/Nだけ離れ、等距離G0に配置された棒状電極によって得ることができるが、平行平板上の薄くて平らな電極帯(「平板多重極」とも呼ばれる)によって、ほぼ同一の分布を生成できるか、少なくとも近似した分布とすることができる。これらの平板上の電極帯は高い機械的精度で形成することが可能であり、電位分布は異なる機器に亘って正確に再生可能である。また、電極帯をこのように配置すると、2G0を大幅に小さくし、またN=1の多重極(つまり、二重極)であるシステムを、高精度で形成して構築することが可能となる。
【0041】
図2で示した板、Y0=±G0に位置する平板の中間にXZ平面を規定すると、電極帯の位置、及びそれに従って式(l)の値が求まるはずであるポイントが、Xが各電極帯の中央部に位置すると近似して、θ=artan(G0/X)及びR=G0/sinθであるところに見いだされる。このような電極帯の配置において、Y=±G0の位置にある電極帯の全てに±V10の電位を増すことで、先に述べた精密な二重極(N=1)電位分布を、確立された多重極電位分布に対して加える。
【0042】
このように、電極帯を2平板の配置にすると、電位分布VNを円筒座標ではなくX-Y-Zのデカルト座標系で記述できる点において有利である。かかる場合、式(l)は次のように書き換えなければならない。
VN(X,Y)=(VN0/G0N)[cos(NΦ)*RE(X+iY)N+ i*sin(NΦ)*IM(X+iY)N] (2)
図2の平板の間の領域、つまり、-G0≦Y≦G0 (N=1, 2, 3, 4...)の領域では、以下の関係が見いだされる。
N=1: V1(X,Y)=(V10/G0)[X*cos(Φ)-Y*sin(Φ)] (3a)
N=2: V2(X,Y)=(V2O/G02)[(X2-Y2)*cos(2Φ)-(±2XY)*sin(2Φ)] (3b)
N=3: V3(X,Y)=(V30/G03)[(X2-3Y2)X*cos(3Φ)-(3X2-Y2)Y*sin(3Φ)] (3c)
N=4: V4(X,Y)=(V40/G04)[(X4-6X2Y2+Y4)*cos(4Φ)-(X2-Y2)(±4XY)*sin(4Φ)] (3d)
ここで、VN0は直径2G0の開口円での最大電位である。もしΦ=0で特性化された電位分布を形成したいなら、電極自体をX=0に対して対称に配置し、+X 及び-Xの位置にある電極帯上の電位をほぼ同一にしなければならない。
【0043】
Y=±G0という特徴を有するこのような2つの平行平板上において異なるX値に配置された電極帯が相当多い場合、上記の式(3)(a)-(d)を電極帯の適切な電位V(X,±G0)の決定のために用いることができる。
N=1: V1(X,±G0)=V10{(X/G0)*cos(Φ)-[±sin(Φ)]} (4a)
N=2: V2(X,±G0)=V20{[(X/G0)2-l]cos(2Φ)-(±2X/G0)sin(2Φ)} (4b)
N=3: V3(X,±G0)=V30{(X/G0)[(X/G0)2-3]cos(3Φ)±[l-3(X/G0)2]sin(3Φ)} (4c)
N=4: V4(X,±G0)=V40{[(X/G0)4-6(X/G0)2+l]cos(4Φ)±(4X/G0)[l-(X/G0)2]sin(4Φ)} (4d)
【0044】
電極帯が一つのX値では特性化されず、むしろX域に広がる場合、式(4a)-(4d)から決定される電位は近似値に過ぎず、最終的に得られた電位分布は、多重極電位の所望の重畳VN(X, Y)の合計の近似に過ぎない。もっとも、対応する電位分布は、境界条件である電極帯の配置や電位を境界条件としてラプラスの方程式を計算することによって正確に決定することができる。このようにして図2に示された直径2G0の円に沿った電位分布を得、この電位分布のフーリエ分析から異なる多重極の要素の大きさを見いだす。その理由は、異なる2N極の大きさはこの円に沿ってcos[N(θ-Φ)]として変化するからである。異なる電極の電位を変化させることによって、多重極の所望の重畳を概算することができる。異なる電極帯について異なって選択されたXの幅に関してこの過程を繰り返すことで、この結果を繰り返して改善することができる。
【0045】
多くの場合、Z軸、つまりイオンビームの軸はまっすぐであることが望まれるが、この軸を湾曲、または円状にしたい場合もある。[H. Wollnik, "Optics of Charged Particles", Acad Press, Orlando 1987]に説明されているような「環状コンデンサー(toroidal condenser)」に対応する場を、図2に類似した電極の配置によって形成することが可能であり、これが図3に図示されている。ここでは、図2の四角形の(例えば長方形や台形だが、これに制限されるものではない)電極帯を湾曲した(例えば環状だが、これに制限されるものではない)部分で置換している。図3においても、図2と同様、5個の電極帯が2組のみ示されているが、多くの場合においては、これより少ない、又はこれより多くの電極帯が推奨されることがある。異なる湾曲部における電位が異なれば、半径方向の、つまり図3ではX方向の場を構築することが可能である。この場合、ビーム軸はほぼ円状であり、曲率中心をも含むXZ平面内に位置している。このような、図3に示した電極のかかる配置によれば、開口直径2G0を図2とほぼ同一にすることができる。図2と同様、図3においても、各平板上にはw1、w2、w3、w4、w5の幅をもつ5つの電極帯が存在するのが示されており、w1、及びw5は他の電極帯よりも大きいものが選択されている。それに加え1a、2a、3a、4a、5aのポイントが中央平面に示され、これらのポイントを通過し、湾曲したZ軸と同心状である線も同様に示されている。ここではかかる同心性を平行として言及する。
【0046】
図2及び図3では、電極帯は全てほぼ同一の幅であるように示されているが、明らかに異なるものを選択すると都合がよい場合があり得る。イオンビーム付近の電位を特に精密に決めるため、例えばイオンビーム付近の電極帯の一つ又はいくつかを、数個の小さな電極帯に切断し、それらに対してわずかに異なる電位を印加することができる。また一方、中央の電極帯の幅は近傍のものより広いものを選択することも可能であり、このとき、中央の電極帯の幅が平板の間隔より十分広いものである場合には、多重極の電位分布における8極の要素が増加する。
【0047】
図2に示された電極帯の配置によって、真っ直ぐな軸を有する精密な四重極、または他の多重極の場を、図3に示された、円形状のZ軸を有する環状コンデンサー(toroidal condenser)の電極帯の配置で達成することが可能である。もっとも、少なくともより大きなG0値では、X方向において十分に広い構造が必要とされる。電極帯をYu、Ydの位置にある平行平板上の電極帯に、XZ基準平面を垂直に横断する面上の、つまり、ここで言及したようなオルト面上の付加的電極帯を加えることによって、このような広い構造をより小さなものにすることが可能である。このようなシステムにおいてZ- 軸が直線である場合、Yu、Ydの位置にある平板上の電極帯、及びXl、Xrの位置にあるオルト面上の電極帯は、ほぼ長方形であろう。湾曲したZ軸の場合、Yu、Ydの位置にある平板上の電極帯は、ほぼ環状の断片形であり、オルト面上の電極帯はほぼ円筒状だろう。これら電極帯自体の形状は図4に図示されている。このようなシステムでは、Xl、Xrの位置にあるオルト面に沿った電位分布によって場が最大X値及び最小X値に制限されるように、長方形の多重極場領域が形成される。電位分布の精度は、Yu、Ydの位置にある平行平板上の電極帯の形状とその電位によって、実質的に決定される。
【0048】
平行平板上の電極帯に加え、オルト面上の付加的電極帯を利用することが大抵の場合には推奨されるが、オルト面上の電極帯の援助がない場合にのみ、平行平板上の電極帯によって同一の所望の電位分布を得ることができるという点に注目すべきである。このような場合、直径2G0の開口円の内部の電位分布は、電極帯2、3、4、及びその電位の幅wによって主に形成される。電極帯1、5によって、類似した、しかし非常に小さな影響が生じる。かかる変化はZ軸上のポイントの電位にも影響を与えることに留意することが重要である。しかし、Z軸の電位を不変に保つために、上部平板上の電極帯の全てに対して特定のRF、DC電位Vuを常に付加、又は差し引き、下部平板上の電極帯の全てに対し、別のRF、DC電位Vdを付加、又は差し引きすることができる。
【0049】
電極帯1、5の電位が接地電位に選ばれ、電極帯3もほぼこの電位である場合には、V0値とほぼ同一の電位を電極帯2、4に印加することによって、通常、適切な場の配置を求めることが可能である。電極帯2、3、4は、全てほぼ2G0の幅を有する(つまり、w2=w3=w4=2G0)場合には、例えば、Z軸周りの電位分布は、V20がV0のかなりの割合を占める式(1)のN=2に示されているように、純然たる四重極におけるものとほぼ同様であることが分かる。
【0050】
異なる幅w2、w4の電極帯のおのおののu、dペア間の隙間の中央部を特徴付ける、図2、図3における1a、2a、3a、4a、5aのポイントにおける電位V1、V2、V3、V4、V5を計算すると、電位V2及びV4が比w2/G0及びw4/G0と伴に実質的に増加し、低電位V1、V3、V5は同様の依存性を示す。
【0051】
2個の平行平板上の電極帯の間の詳細な電位分布は数値的に決定すべきであるが、(w/G)比がZに伴って実質的に変化していない場合には、異なる電極帯の間隔2G(Z)及び幅w(Z)がZに伴い変化するが、Z軸沿いの電位は、ほぼ一定に保たれている、と言うことが可能である。従って、このような場合、多重極の強度は、Zに伴って増減することが予想できる。他の場合には、Z方向の場の様子と同様、より複雑な電位分布が予想されるはずである。従って、このような場合、RF電位を異なる電極帯に印加するとZ方向のイオンにRFの作用が及び、異なる電極帯にDC電位を印加するとイオンはZ方向に加速、又は減速することが見いだされる。
前記w/G比の変化は以下によって実現され得る。
1.電極帯の長さ方向に亘ってG0からG0(1-δG)にZが増加するに伴ってG(Z)を減少させることによって。例えば、図5に示すように、2個の平板を互いに対して傾斜させることによって。
2.図2の「長方形」の電極帯と対照して、「テーパー状四辺形」電極帯(図6参照)を利用することによって、又は、図3の「湾曲した電極帯」と対照して「テーパー状湾曲」電極帯(図示せず)を利用することによって。つまり、電極帯2u、2dの幅w2をw2からw2(1+δw2)に増加させ、電極帯4u、4dをZに伴いw4からw4(1+δw4)に増加させることによって。大抵の場合には図6に示したようにδw2≒δw4が選択されるが、最も一般的にはδw2はδw4と等しくないであろう。
(w/G)比のZ依存性変化は、平板間隔G(Z)を変化させることにより、又は幅w(Z)のテーパー状電極帯を利用することにより達成されうる。もっとも、これら2つの変形例は結合することもできる。
【0052】
テーパー状直線電極帯の配列が2種類、図6に示されているが、テーパー状湾曲電極帯であっても(図示はないが)同様に可能である。両方の場合において、横断多重極強度はZに伴い増加する。更に、Bの場合、電位もZ軸に沿って変化するが、Aの場合にはZ軸沿いの電位はZに実質上非依存である。なぜなら、幅w(Z)の異なる電極帯のテーパーの角度は、平板間隔G(Z)と同様、(w/G)比がほぼ一定となるように選択されているからである。
【0053】
Z軸沿いの電位変化によって、平板多重極のボリュームの範囲内でZ方向にDC場が形成される。バッファガスで満たされた、図2又は図3に似せて電極帯を配置したZ軸沿いにイオンビームを通過させる際に、このような場は大変有用である。かかる場合、すなわち、イオンをZ軸に沿って押すようなガスの圧力傾斜、又はZ方向の電場がなければ、イオン−原子間衝突、又はイオン−分子間衝突によってイオンはエネルギーを失い、最終的には前進運動が停止してしまう。このような電場は、従来技術における棒状、又は環状構造によって形成することが可能だが、本発明の典型的実施例によると、図5、6、7に示される、傾斜した、又はテーパー状の電極帯によってかかる場が形成される。このような場は、図6の例Bに示されたテーパー状電極帯の配置における電極帯3にDC電位を印加することで形成可能である。このようなZ方向の場はまた、図7の例Aで示されたテーパー状電極配置において、電極帯3aに電極帯3のRF、DC電位と、それに加え、イオン誘導電位又はイオン反発DC電位を印加することで、また、図7の例Bにおいて電極帯2a、3a、4aに電極帯2、3、4のRF、DC電位と、それに加え、イオン誘導電位又はイオン反発電位を印加することで、形成可能である。
【0054】
いくつかの場合では、平板多重極の入口境界線が湾曲した場合である図8のように、異なる複数の電極帯の長さを変化させると便利である。このような境界線は、平板多重極の出口と同様、入口部でも形成可能であり、図8で示すような湾曲したものとすることが可能であるが、傾斜、または非円形に湾曲した形とすることも可能である。これらの変形例は全て、イオンビームに対する横方向の力を制御するための更なる方法を可能にする。
【0055】
テーパー状電極帯の原理の特別な一変形例が図9に示されている。この場合、これらの電極帯に追加されたDC電位がZ位置の中央方向に向けて導くような力を及ぼすように、電極帯は二重のテーパー状態で示されている。この方法は、平板多重極の湾曲した軸のセクションと同様、真っ直ぐな軸のセクションにも適用可能である。いずれの場合にも、イオンはZ位置の真ん中に小クラウド(small cloud)としてまとまる。次に、イオンをこの位置から以下のいずれかの方向に引き出すことができる。
1.図9に示した引出オリフィスを通るY方向にイオンを引き出すことができる。このオリフィスは、図9では長方形で示されているが、最適イオンを引き出すことが可能な異なる形状でも構わない。イオン引出は、上部の電極帯と下部平板の電極帯に一定の時間異なる電位を印加することによりなされる。
2.異なるX位置で特徴付けられる複数の異なる電極帯に異なる電位を一定の時間印加することで、イオンをX方向に引き出すことができる。ただし、上部平板の電極帯に一定の時間印加される電位と、下部平板の電極帯に一定の時間印加される電位は、ほぼ同一である。このようなX方向へのイオン引出は、湾曲した軸のセクションの場合に特に有用である可能性がある。湾曲した軸のセクションでは、凹面方向に引出が生じた場合にイオン雲(ion cloud)を凝集させ、凸面方向に引出が生じた場合にイオン雲を分散させる傾向がある。
3.Z方向に場を加えることにより、イオンをZ方向に引き出すことができる。これは、多重極の入り口と出口にある周縁場制限部に異なる電位を印加することによって、又は、二重のテーパー状湾曲電極帯を2つのテーパー状のものに分割することによって形成されうる。その一つ目はZに伴いその幅が増加するが、2つ目はZに伴いその幅が減少する。このような場合、次に、異なるDC場を2個のテーパー状電極帯に一定の時間印加することができる。
【0056】
重畳双極子場を含む、又は含まない多重極を、図2〜図9に従って「平板」上の電極帯を異なる方法で形成することにより、構築することが可能である。これらは以下のようにして構築することができる。
1.絶縁された金属片によって構築され、その個所では、これらの電極帯が取り付け構造がイオンの位置から全く、またはほとんど見えないように取り付けられなければならない。
2.絶縁された金属ワイヤによって構築される。各ワイヤ、又は異なるグループのワイヤに対して異なった電位が印加される。イオンが移動する空間を十分に排気して、その真空度が最終的に非常に低くなるようにしなければならない場合に、このような設計は有利となりうる。
3.例えばセラミック基板の物質、又はエポキシ基板の物質の上のプリント基板(図10参照)の上に金属パッチとして構築することができる。これは、大抵の利用の場合、低いガス排出要因を有するよう選択されなければならない。これは、電極帯の高精度な配置を特徴付ける優れた方法である。このような配置では、図10に示したように、接地された導電層を基板物質の反対側に配置することで、RF場を効果的に遮蔽することも可能になる。多重極層のプリント基板を用いることで、かかる遮蔽層を基板の厚みの真ん中に配置することが可能である。この技術では、2層又は複層の遮蔽も可能である。プリント基板構造の場合、絶縁基板が帯電しても、電位分布全体にわずかな影響しか及ぼさないよう、異なる電極帯が小さな隙間のみで隔てられているときに有利である。隙間は金属パッチの厚みより小さなものが最適である。
4.わずかに導電性を有するプリント基板上に金属パッチとして構築することができる。これは、プリント基板全体の上にわずかに導電性を有するフィルムを蒸着することによって、又は、いわゆる「グリーンセラミック」のような、わずかな導電性を有する基材を用いることによってなし得る。この場合、異なる電極パッチ間の電位は線形補完される。
【0057】
平板多重極の特性は、式(1)によって記述されるいずれの多重極電位分布の電位VNOも容易に変更可能である点であり、従って対応する多重極の強さも変化可能である点にある。これは、DCの要素のために不変に行われ得るか、又は、時間関数として行われうる。従って、多重極電位の強さを、同一若しくは異なる周波数で、又は双極子場としての位相シフトで変更することが特に可能である。これによって、例えば、1つの周波数の多重極場に、もう一つの周波数の回転場を加えることが可能である。このような配置は、イオン分子の断片化に有用となりうる([V.Raznikov et al., Rap. Comm. in Mass Spectrom. 15(2001)1912])。
【0058】
また、時間と共にこれらの周波数のいずれをも変化させることが可能である。これは、例えば、移動度分光計(mobility spectrometer)や微分型電気移動度分光計(differential mobility spectrometer)に好都合であり、より小さな、または大きな質量のイオンが異なる収束強度を受けられる。さらに、優位な極性が四重極のものであるような平板多重極は、可変の強度、又は可変の傾斜角Φ(この値は不変、又は時間に伴い変化させることから選択可能である)を有する四重極を形成することができる、適応性のある装置である。
【0059】
さらに、平板多重極は周波数だけではなく、速やかに電圧を切り替えて操作することも可能であり、これは、例えば、棒状電極で構成されたデジタルイオントラップにおいても行われている([P.H.Dawson, "Quadrupole Mass Spectrometry and its Application", Elsevier, Amsterdam 1976])。これは、周波数が複雑に混合することが要求される場合や、一定の、又はパルス状のDC電位をこのシステムに同様に付加する場合に、特に有益となり得る。
【0060】
平板多重極は、大抵の場合、周縁場制限部によって仕切られている。周縁場制限部の2個の形態は図11に示されている。 周縁場制限部によって、平板多重極内で形成される場が平板多重極から遠くへ拡がりすぎることが回避される。このような周縁場制限部は図12に示されている。これらは、
a. 長方形、円形、又は楕円形のフレームとして作成可能である。
b. プリント基板として形成された多重極の設計に容易に統合できる「スリットタイプ」の隔壁として作成可能である。
このような隔壁は、全て図12に示すように格子(grid)によって制限されており、このような場合、フレーム構造はミラーとしての重要性しか有さない。
【0061】
もし、電極帯A2、A3、又はB2、B3に、XZ基準面における電位とほぼ同一の電位を印加した場合、平板多重極の電場は当然停止するだろう。電極帯A1、A4、又はB1、B4は、この場合省略可能である。もっとも、周縁場制限部には、他に以下のような用途がある。
1.イオン反発DC電位を電極A2、A3、又はB2、B3に印加すると、平板多重極内に既に存在するイオンは逃れることができず、Z軸沿いを往復移動するであろう。従って、もし適切な電位が電極帯に印加されれば、平板多重極は、単にイオンを保持し、それらの質量を分析し、又は、図9について述べた際に既に言及したように、X、Y、又はZ方向に纏めて抽出できるようにするイオントラップとして利用することが可能である。このようなトラップ作用は2個のテーパー状電極帯によって支援され、または既に述べたように単独で達成されうる。
2.イオン誘引DC電位を図11に示した平板多重極の出口側に設けられた電極A3又はB3に、イオン反発DC電位を電極A4又はB4に印加すると、短いイオントラップ領域が形成されるであろう。そのイオントラップ領域からは、電極帯A4又はB4の電位をイオン誘引電位に変更するだけで、イオンをZ方向に引き出すことが可能である。
【0062】
平板多重極は、異なった用途にも利用可能である。以下にその概要を示し、図13、14にその一部を図示するが、他にも、利用可能な多くの組み合わせが存在する。
1.平板多重極はイオンを一つのセクションから次のセクションに移動できる。これは、Z軸に沿って単に物理的に分離するものであってもよいし、又はイオンを一つの分析タイプから別の分析タイプに移動させるものであってもよい。
2.平板多重極は、ビーム冷却器としても利用可能であり、そこでは、イオンがイオン−原子間、又はイオン−分子間衝撃によってエネルギーを失い、イオン集団がより小さな位相空間の量に圧縮される。これは、単に平板多重極の全長に亘ってイオンを通過させるか、又は図11について述べた際に上で記したようにイオンをトラップすることによってなし得る。
3.平板多重極は、コリジョンセルとして利用することが可能である。そこでは、イオン分子がイオン−原子間、又はイオン−分子間衝突によってフラグメント化される。これで得られたイオンのフラグメントは、次に扇形場分析器、四重極フィルタ、又は飛行時間型質量分析計で質量分析されることが可能である。このようなイオン分子のフラグメンテーションは、イオンをイオンコリジョンセルとして用いる平板多重極の全長に亘って一回通過させることのみによって、又は、図11について述べた際に上で記したようにイオンをトラップすることによって、達成可能である。
4.平板多重極は、四重極型質量分析器として利用することができる。単に平板多重極の全長に亘ってイオンを一度通過させることによって質量分析を行うことができ、かかる場合を質量フィルタ(マスフィルタ)という。しかし、この平板多重極を質量分析イオントラップとして使用することによって、質量分析を行うことができる。この場合、イオンは図11について述べた際に上で記したようにトラップされる。
【0063】
1、2、3の場合、異なる電極帯にRF電位を印加するのみで充分である場合が殆どである。しかし、この場合には、低質量イオンのみが除去され、他の全てのイオンが通過できるだろう。異なる電極帯にDC電位を付加的に印加すると、大抵は質量範囲の狭い、特定のイオンのみが残存するだろう。2、3の場合、かかる質量分析能は、異なる電極帯にRFのみならずDC電位を印加することによっても実行可能である。もっとも、このような場合、通常は限られた分析能で充分である。
【0064】
異なる平板多重極を組み合わせたものを、図13、14に示す。これらの図では、異なる平板多重極が果たさなければならない課題は決定されていない。本明細書では以下で実行可能な構成を提案する。しかし、他に多くの可能性が存在する。
【0065】
図13では4個の平板多重極A、B、C、Dがあり、従来技術の棒状四重極が同一のZ軸に加えられている。この構成では、平板多重極Aを移動度分光計として、平板多重極Bを移送セクションとして、平板多重極Cを質量分析器として、平板多重極Dを、最後の棒状四重極質量分析器内に移動してゆくイオン分子をフラグメント化するコリジョンセルとして、利用できる可能性がある。
【0066】
例えば図13に示した構成に、例えば異なる分析器をより充分に切り離し、又は、ビーム冷却のような追加的機能を供給するような移送装置として、追加的平板多重極を取り付けることも可能である。当然、棒状四重極の質量分析器を平板多重極Dの後部に追加する代わりに、2個の平板多重極の間に設置することも可能である。平板多重極は全て、周縁場制限部で分離されたものとして図示されているが、必要なら簡略化も可能であり、又は対応する平板多重極をイオントラップとして利用できるようにイオン反発電極として利用することも可能である。
【0067】
図14には図13で示したものと類似した平板多重極の構成が示されている。しかし、この場合、平板多重極の一つが中心線の湾曲した平板多重極としてはっきりと示されている。便宜上、この中心線の湾曲した平板多重極の偏向角はπが選択されているが、任意の他の角度も同様に選択可能である。この中心線の湾曲した平板多重極Cをコリジョンセルとして用いた場合、適切なRF、及びDC電位を電極帯に印加すれば、多重極Dは質量分析器として、又は他の質量分析器(図示せず)への移送装置として用いることが可能である。平板多重極Dは、イオンを平板多重極の中心に集中させ、その上板から垂直に、例えば飛行時間型質量分析器の内部に向けて排出するような平板多重極として用いることが可能である。もっとも、この平板多重極Dは他の質量分析器への移送装置としても用いることが可能であり、これは、従来技術の棒状四重極として示されているものと同様である。このような場合、例えば、平板多重極Aをビーム冷却器として、平板多重極Bを、コリジョンセルでフラグメント化する特定の分子質量のプリカーサイオンを選別するための質量分析器として操作することが可能である。ここでは、平板多重極Cがコリジョンセルであろう。
【0068】
図15は2個の平行平板Pu、Pd上の5個の電極板を示しており、これらは5個の異なるX値の位置に、全てZ軸に平行に配置されている(図2も参照のこと)。もっとも、図15では、これらの5個の電極帯は、異なる平均Z値を特徴とする4つのセクションに分割される。この典型的実施例では、対応するX依存性DC、及びRF電位を、特定のX値で特徴付けされる電極帯の全てに対して印加し、ほぼ同一のZ依存性RF、及びDC電位を特定のZ値で特徴付けされる電極帯の全てに加えることが意図されている。Pu、及びPdの位置の電極帯に対してこのような印加がなされるので、Z方向にDC場を構築することが可能である。
【0069】
異なる電極帯に全く異なる電位を印加するワイヤが十分に多く存在するため、ここではこの課題を、接地された平板G2u、G1u、及びG1d、G2dの間にそれぞれ設置されたリード線Lu、Ldを利用してどのように遂行できるかが示されている。これによって、リード線をストリップライン技術によって形成することができる。また、異なる複数の電極帯によって形成されたRF場の効率的なRF遮蔽を行うことができる。このような構造は、多層のプリント基板技術によって構築可能である。この場合、下部平板Pdと同様、上部平板Puにも3倍の基板を絶縁することが必要となる。しかし、この図には単純化、及び明確化の観点からこれらの基板は図示していない。
【0070】
図16においてもZ方向に5分割された電極帯が、図15のような2個の平行平板Pu及びPd上に示されている。ここで示したケースでは、リード線が、接地(グラウンド)レベルとの間で付加的電気容量を形成しないように、また、付加的抵抗負荷とならないように、最終能動電圧制御エレメントが対応する最終電極帯に十分に近接して配置されている。このような配置によって、必要なRF電力の大きさを、イオン光学系の残りのRF場と同様に減少させることが可能である。しかし、かかる実施例では、これらの能動素子が配置されたプリント基板に対する水、又は他の液体による冷却の供給を要する可能性がある。このような冷却管は、Cu、Cdとして図示されている。これらの能動素子は容器の中に収納されているのが示されている。この容器内の残留ガス圧はイオンが移動する領域のものと相違させることが可能である。
【0071】
図17は、的確なRF又はDC電位が対応する電極に対して印加された場合、回転対称の加速又は減速レンズの場を生成できるように形成された電極帯を示している。この場合、イオンは電位V0のところからスタートし、電位V1まで減速又は加速された後、電位Vmまで加速又は減速される。V1≠V0の場合を回転対称な油浸レンズといい、V1=V0の場合を回転対称なアインツェルレンズという。
【0072】
電極帯を同様に構成した場合、回転対称なイオンミラーによる場を生成できることが、従来技術の飛行時間型質量分析計用のイオンミラーで知られている。もっとも、この場合には場は回転対称な電極によって生成されるのが一般である。
【0073】
前述の実施例と効果は単に典型的なものに過ぎず、制限するものとして解釈されるものではない。本教示は他のタイプの装置に直ちに適用することが可能である。また、明細書の典型的実施例は具体例を示すものであり、特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。また、当業者にとっては多くの代替、修正、変形が明白であろう。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本実施例は様々なタイプの荷電粒子分析器で利用することができる。このような荷電粒子分析器としては、環境中の痕跡分析(trace analysis)に用いる移動度分光計(mobility spectrometers)や、生物学、医学、薬学分野のみならず、地質学又は材料科学に応用される無機化学分野で用いられる質量分析計がある。もっとも、本実施例は電子ビーム分析、又はエアロゾル分析、又はエアロゾル輸送にも適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを、ほぼ連続したビーム軸に沿わせ、前記イオンビーム中のイオンに力を加える場を少なくとも一つ通るように誘導するシステムであり、前記システムは、
上部平板と下部平板を含むほぼ平坦な平板多重極を含むセクションであり、前記力が前記ビーム軸を含む平面に平行な方向にほぼ対称であるか又は垂直な方向にほぼ反対称であるようなセクションを少なくとも一つと、
前記上部平板及び下部平板のそれぞれが、対応する電位を有する複数の第一電極帯を含み、当該第一電極帯は、前記少なくとも一つの場のうち少なくとも一部分を生成するようなものと、
を含むシステムであって、
前記少なくとも一つのセクションの各端部に周縁場の境界が配置され、前記第一電極帯は十分に薄く、平坦であるシステム。
【請求項2】
前記上部平板と前記下部平板は、前記少なくとも一つのセクションにある前記平面に対してほぼ平行又は傾斜のいずれかであるように配置されており、前記上部平板と前記下部平板の外挿交差線はイオンビーム軸に対しほぼ垂直である請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも一つのセクションは、真っ直ぐなセクションと、前記平面内で湾曲したセクションのいずれかを少なくとも一つ含み、前記少なくとも一つのセクションのうち真っ直ぐなものは、前記イオンビーム軸に対して平行な前記第一電極帯のうちほぼ四角形のものを含み、前記少なくとも一つのセクションのうち湾曲したものは、前記イオンビーム軸からほぼ一定の距離にある前記第一電極帯のうちほぼ湾曲したものを含むものである、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも一つのセクションにある前記イオンビーム軸は、直線状、湾曲状、曲線状の少なくとも一つである、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
各第一電極帯は、(a)直線状の端部、及び(b)湾曲した端部の少なくとも一つを有し、前記イオンビーム軸に対してほぼ垂直方向の幅は各第一電極帯のイオンビーム軸方向の長さより小さなものである、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
複数の第一電極帯の長さ及び偏向角のうち一つが、複数の第一電極帯のうち隣接したものの少なくとも一つと等しいものである、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
複数の第一電極帯の長さ及び偏向角のうち一つが、複数の第一電極帯のうち隣接したもののうち少なくとも一つと等しくなく、前記イオンビーム軸からのそれぞれの距離に対し線形的及び非線形的のいずれかに変動するものである、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記複数の第一電極帯の少なくとも一つの幅が前記イオンビーム軸に沿って増加する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数の第一電極帯の幅の、前記上部平板と前記下部平板との間の距離に対する比が、前記イオンビーム軸に沿って一定、及び可変のいずれかである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記イオンビーム軸に沿った場を形成するため、前記複数の第一電極帯の少なくとも2つに電位が一定の時間印加される、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記複数の第一電極帯のうち少なくとも一つの幅が中央部分で最大となるように、当該幅がイオンビーム軸に沿って減少、及び増加する、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記複数の第一電極帯のうちいくつかのものの幅が、前記イオンビームからより離れたところでより大きくなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記複数の第一電極帯のうち中央のものの幅が該第一電極帯のうち隣接したものの幅と等しいか、又は大きなものである、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記イオンが、一定時間印加される、より大きなイオン誘引電位を有し、かつ、前記イオンのうち少なくとも一部を放出させるための開口部を有する、前記上部平板と前記下部平板のいずれか一つに向けて誘導されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記イオンは、一定時間前記平面に平行な場を形成するために前記第一電極帯に印加された相異なる電位によって、前記平面沿いに誘導される、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記平面の第一面と第二面に対してほぼ垂直に配置された複数の第二電極帯を更に含み、前記第二電極帯は十分に薄くて平らである、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記第二電極帯は、(a)ほぼ四角形のもの、(b)ほぼ湾曲したもののいずれかであり、前記イオンビーム軸から一定の短い距離だけ離れている、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記複数の第二電極帯の幅は、前記平面から離れるにつれてより大きくなる、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記複数の第二電極帯の少なくとも一つの幅は、イオンビーム軸に沿って増加する、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記複数の第二電極帯の少なくとも一つの幅が中央部で最大となるように、当該幅が前記イオンビーム軸に沿って増加、及び減少する、請求項16に記載のシステム。
【請求項21】
前記イオンは、前記第二電極帯に一定時間印加される、より大きなイオン誘引電位と、前記第一面と前記第二面に前記イオンの少なくとも一部を放出させるための開口部を有する、前記第一面及び前記第二面のいずれか一つに向けて誘導される、請求項16に記載のシステム。
【請求項22】
低圧のバッファガスの中、イオン−原子間衝突又はイオン−分子間衝突を殆ど生じない程度に残留ガス圧が低い真空イオン輸送システムにおいて、平板多重極がイオンビームを輸送する為に利用される、請求項16に記載のシステムであり、質量分析能を提供するためにRF多重極場及びDC多重極場が形成され、前記第一面と第二面の間の距離が、前記上部平板と前記下部平板の間の距離より、十分に小さいものであるシステム。
【請求項23】
(a)ほぼ一定の電位、及び(b)正弦波状の電位、の少なくとも一つが前記複数の第二電極帯のそれぞれに印加される、請求項16に記載のシステム。
【請求項24】
(a)ほぼ一定の電位、及び(b)矩形波状の電位、の少なくとも一つが、前記複数の第二電極帯のそれぞれに印加される、請求項16に記載のシステム。
【請求項25】
前記複数のRF電位の少なくとも一つは、前記複数の第二電極帯の一つに加えられる少なくとも一つの周波数を有し、該少なくとも一つの周波数は各々、周波数及び位相の少なくとも一つにおいて、相異なることが可能である、請求項16に記載のシステム。
【請求項26】
前記第一電極帯は、前記電極帯の各々に沿う電位がほぼ一定であるように、導電性材料、及び導電性の表面を有する材料のうち一つを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項27】
前記第一電極帯は一又は複数のワイヤを有するグループから成る、請求項1に記載のシステム。
【請求項28】
前記第一電極帯は、それぞれ絶縁性の又はわずかに導電性を有する基板の上に導電性素材の複数のパッチを有するものであって、プリント基板として形成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項29】
前記複数のパッチは、前記複数の第一電極帯のいずれか一つの厚みより小さいか、若しくはそれに等しいエリアによって分離されている、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
更に、RF電位が印加された場合、前記パッチによって形成される高周波場を遮蔽するように形成される、導電性の層を少なくとも一つ含む、請求項28に記載のシステム。
【請求項31】
前記複数のRF電位の少なくとも一つは、前記複数の第一電極帯の一つに加えられた周波数の少なくとも一つを有し、該少なくとも一つの周波数は各々、周波数及び位相の少なくとも一つにおいて互いに相異なることが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項32】
少なくとも前記二重極場は、他の多重極場で、前記少なくとも一つのセクションにおけるものから独立した周波数によって調節されている、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記複数の第一電極帯のそれぞれに、(a)ほぼ一定の電位、及び(b)正弦波状の電位、の少なくとも一つが印加されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項34】
前記複数の第一電極帯のそれぞれに、(a)ほぼ一定の電位、及び(b)矩形波状の電位、の少なくとも一つが印加されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項35】
前記複数の第一電極帯のうち外側のものは共通電位となっており、前記複数の第一電極帯のうち中央ではないが内側のものは前記共通電位より十分に大きな電位を有し、前記複数の第一電極帯のうち中央のものは前記複数の第一電極帯のうち前記内側のものより十分に小さな電位を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項36】
請求項1に記載のシステムであって、前記平板多重極はイオン移動度分光計(ion mobility spectrometer, IMS)、又は微分型電気移動度分光計(differential mobility spectrometer, DMS)の中にある、数バールから1ミリバール未満の高圧バッファガス内に存在する前記平面に向けてイオンビームを収束するように用いられ、前記イオンが前記イオンビーム軸に沿って運動するように、RF多重極場とDC多重極場が前記平板多重極によって供給されるシステム。
【請求項37】
請求項1に記載のシステムであって、前記平板多重極は、ビーム冷却器の、約1ミリバールから1マイクロバール未満の中間的なバッファガス圧下でのイオンビーム輸送に用いられ、該ビーム冷却器では、イオンビーム位相空間が減少するようにイオンがイオン−原子間、又はイオン−分子間衝突によってエネルギーを失い、前記イオンが前記イオンビーム軸に沿って運動するようにRF多重極場が前記平板多重極に供給されるシステム。
【請求項38】
請求項1に記載のシステムであって、前記平板多重極は、コリジョンセルの、約1ミリバールから1マイクロバール未満の中間的なバッファガス圧下でのイオンビーム輸送に用いられ、該コリジョンセルでは、イオン−原子間、又はイオン−分子間衝突によって分子がフラグメント化し、フラグメントイオンが抽出されるシステム。
【請求項39】
請求項1に記載のシステムであって、前記平板多重極は、イオン−原子間又はイオン−分子間衝突が殆ど生じない程度の低圧バッファガス・真空イオン輸送システムにおけるイオンビーム輸送に用いられ、質量分析能を供給するためにRF多重極場とDC多重極場が形成されるシステム。
【請求項40】
前記平板多重極内部のイオンを線形四重極イオントラップ内のようにトラップするため、平板多重極の場が、前記イオンビーム軸に対してイオンを反発するような電位に保たれた、ほぼ長方形で、回転する、スリットタイプの電極又はグリッドによって制限され、RF多重極場とDC多重極場が質量分析能を供給するために形成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項41】
前記複数の第一電極帯の少なくとも一つの全長が少なくとも2つのセクションに分離され、それらに対して、前記イオンビーム沿いに場を構築するように異なるRF、及びDC電位が加えられる、請求項1に記載のシステム。
【請求項42】
前記複数の第二電極帯の少なくとも一つの全長が少なくとも2つのセクションに分離され、それらに対して、前記イオンビーム沿いに場を構築するように異なるRF、及びDC電位が加えられる、請求項16に記載のシステム。
【請求項43】
前記複数の第一電極帯の少なくとも一つが、当該少なくとも一つの第一電極帯を含む平板内で曲げられている請求項1に記載のシステムであり、当該少なくとも一つの第一電極帯はアインツェルレンズ、加速レンズ、およびイオンミラーのいずれか一つの等電位線の形状に近似するように配置されているシステム。
【請求項44】
前記複数の第二電極帯の少なくとも一つが、当該少なくとも一つの第二電極帯を含むオルト面内で曲げられている請求項16に記載のシステムであり、当該少なくとも一つの第二電極帯はアインツェルレンズ、加速レンズ、およびイオンミラーのいずれか一つの等電位線の形状に近似するように配置されているシステム。
【請求項45】
少なくとも一つの平板多重極の相異なる第一電極帯に対して印加される電位が、多層プリント基板内にある少なくとも2つの接地層の間に配置されたリード線によって供給される、請求項1に記載のシステム。
【請求項46】
少なくとも一つの平板多重極の相異なる電極帯に対する電位が、電極帯が取り付けられたプリント基板上に配置された能動電子素子によって印加される、請求項1に記載のシステム。
【請求項47】
少なくとも一つの平板多重極の相異なる第一電極帯に対する電位が、ボックス内に配置された能動電子素子によって印加され、その内部の残留ガス圧はイオンが移動するところの残留ガス圧と違えることが可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項48】
前記プリント基板が水で冷却される、請求項46に記載のシステム。
【請求項49】
プリント基板が水で冷却される、請求項47に記載のシステム。
【請求項50】
電極帯に適切な電位が印加された場合、前記第一電極帯は、回転対称な静電レンズの、又は、回転対称なイオンミラーの電位分布を提供するように形成される、請求項1に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2009−538501(P2009−538501A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511989(P2009−511989)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/019747
【国際公開番号】WO2007/136373
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】