説明

平角エナメル線及びその製造方法

【課題】丸形エナメル線を圧延して得られる平角エナメル線の表面積を大きくでき、表皮効果による電流の流れ難さを低減した低ロス高効率の平角エナメル線及びその製造方法を提供する。
【解決手段】導体100にエナメル皮膜101を形成した丸エナメル線110が複数本接合され、この接合した丸エナメル線110を上下から押し潰して、各導体100を分割平角導体100dとし、これらの外周に平角エナメル皮膜103を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル線、特に線の断面が平角形状をした低ロス高効率な平角エナメル線及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータ等コイル巻の占積率を向上させるために断面形状が平角形状をした平角エナメル線が使用されている。この平角エナメル線は、特許文献4に示されるように、丸エナメル線を圧延して平角エナメル線とするものである。
【0003】
近年モータ等の更なる高出力、高効率化のため、駆動電圧及び駆動周波数が高くなってきている。平角エナメル線は、丸形エナメル線と違ってその表面積が大きくなるため、高周波電流がエナメル線の導体を流れる時の表皮効果による抵抗を低減できる利点がある。
【0004】
しかし、単一のエナメル線を圧延して平角エナメル線としても、導体の外周に絶縁層が被覆されているため、絶縁層を剥離させずに圧延率を上げて導体の表面積を上げることは困難である。又、単一の平角エナメル線では、印加周波数が高くなるにしたがい導体の表面付近に電流が集中し導体内部には電流が流れ難くなり、表皮効果による抵抗の上昇を防ぐことができず、また高電圧駆動にしても効率が悪くなる問題がある。
【0005】
また、丸導体を所望の寸法に圧延した平角導体とし、その平角導体の外周にエナメル皮膜を形成して平角エナメル線とする方法もあるが、平角導体のエッジ部を所望の厚さにするのは困難であり、単一の丸エナメル線を圧延する方が優位である。
【0006】
表皮効果を低減するために、特許文献1〜3には、単一エナメル線を平行に並べたり、これを多段に集合させると共にその外周に絶縁被覆を施した集合線が提案され、また特許文献1ではその集合線を押し潰して集合線を長円形にすることも提案されている。
【0007】
この集合線は、エナメル線を集合させるため、全体としての導体の表面積が大きくなり、高周波電流を流れる際の表皮効果による抵抗を低減でき、駆動周波数を上げても表皮効果によるロスが低い低ロス高効率の集合線とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平5−83933号公報
【特許文献2】特開平3−129609号公報
【特許文献3】特開2007−227265号公報
【特許文献4】特開平5−258614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、エナメル線の導体断面積は、使用するモータ等の機器で決まっており、単に集合させただけでは、導体の断面積が大きくなるだけで、単一の平角エナメル線としてモータ等コイル巻の占積率を向上させるための巻き線としては使用できない問題がある。また集合した後に圧延ロールで押し潰してもその集合線が変形して長円形になるだけで、占有率の向上にはなるが、各導体の表面積自体に変化はない。
【0010】
従って、平角エナメル線の導体の断面積を変えずに、導体の表面積を大きくし、しかも圧延時に絶縁物の剥離が生じない平角エナメル線を得ることは困難である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、丸形エナメル線を圧延して得られる平角エナメル線の表面積を大きくでき、表皮効果による電流の流れ難さを低減した低ロス高効率の平角エナメル線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、導体にエナメル皮膜を形成した丸エナメル線が複数本接合され、この接合した丸エナメル線を上下から押し潰して、各導体を分割平角導体とし、これらの外周に平角エナメル皮膜を形成したことを特徴とする平角エナメル線である。
【0013】
請求項2の発明は、前記丸エナメル線同士が粘着用皮膜で一体に接合され、その粘着用皮膜で接合され、押し潰された丸エナメル線の粘着用皮膜の外周に平角エナメル皮膜が形成される請求項1記載の平角エナメル線である。
【0014】
請求項3の発明は、導体にエナメル皮膜を形成した丸エナメル線を複数本接合し、その接合した丸エナメル線をロール圧延又はダイスを通過させて各丸エナメル線を上下から押し潰して、各導体を分割平角導体とし、これらの外周に平角エナメル皮膜を形成したことを特徴とする平角エナメル線の製造方法である。
【0015】
請求項4の発明は、前記丸エナメル線のエナメル皮膜の外周に粘着用皮膜を形成すると共にその粘着用皮膜で丸エナメル線を接合し、その状態で上下から押し潰し、その粘着用皮膜の外周に平角エナメル皮膜を形成する請求項3記載の平角エナメル線の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、平角エナメル線を製造する際に、製造する平角エナメル線の導体の断面積に見合った複数本の丸エナメル線を並べると共にこれを密に集合した状態で押し潰し、その外周に平角エナメル皮膜を形成することで、表皮効果による電流の流れ難さを低減した低ロス高効率の平角エナメル線とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の平角エナメル線の製造フローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
図1は、導体断面が実質的に2分割された平角エナメル線を製造するフローチャートを示す図である。
【0020】
先ず、図1において、110は、丸エナメル線で、導体100の外周に丸エナメル皮膜101が形成されて構成される。丸エナメル皮膜101は、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂などのベース塗料を塗布し、これを加熱・焼き付けして形成される。
【0021】
この丸エナメル線110は、形成する平角エナメル線の導体と断面積が同じとなるよう、図1(a)では、丸エナメル線110が2本で、その2本の導体100の断面積が、形成する平角エナメル線の導体と断面積と同じとなるような導体100の径の丸エナメル線110を準備する。なお、この丸エナメル線110は、形成する平角エナメル線の導体の縦横断面寸法に合わせて3本でもそれ以上でもよい。
【0022】
次に図1(b)に示すように、丸エナメル線110の外周に粘着用塗料を塗布して粘着用皮膜102を形成した後、図1(c)に示すように2本の丸エナメル線110を、粘着用皮膜102により粘着させると共に接合する。
【0023】
丸エナメル線110を粘着させる方法としては粘着塗料を塗布後焼き付ける工程において近接又は接した状態で、塗料塗布後、硬化する前に接触粘着させる。その後炉内で焼付け硬化を行なうことで強固に接着させる。また熱融着、アルコール融着、UV融着など各種自己融着塗料を塗布した丸エナメル線110同士をそれぞれ加熱、アルコール塗布、UV照射した後ダイス等に挿入させ接触、加圧させた状態で融着させる。
【0024】
この粘着・接着した2本の丸エナメル線110をロール圧延またはダイス通過させることで、図1(d)に示すように、上下方向(厚さ方向)を押し潰す。この押し潰しにより、2本の導体100は、形成する平角エナメル線の導体の縦横寸法と同じでかつそれが分割された状態の分割平角導体100dとなる。
【0025】
次に、図1(e)に示すように、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂などのベース塗料を塗布し、塗装用の平角形状の穴を有するダイスを通過させ、余分なベース塗料を絞り、焼き付けるという工程を数回繰り返すことで、外径が所定の寸法の平角エナメル線120を製造する。
【0026】
この平角エナメル線120は、導体121が複数に丸エナメル線110の導体100からなる分割平角導体100dで形成され、絶縁物としての丸エナメル皮膜101で分けられた構造となるもので、実質的に所望の断面形状に形成した平角導体にエナメル皮膜を施した平角エナメル線と同等のものが得られ、しかも分割平角導体100dは事前に丸エナメル皮膜101が施されたものであるため、平角導体にエナメル皮膜を施す際の酸化膜除去やエッジ部での塗膜厚の不足といった不具合もない。
【0027】
また、丸エナメル線110を所望の本数並べて圧延するだけなので、所望の寸法の平角導体を有する平角エナメル線120を得ることができる。
【0028】
これにより、本発明は、モータ等の高効率化が進み、更なる小型化、高出力、省エネが実現できる。
【符号の説明】
【0029】
100 導体
100d 分割平角導体
101 エナメル皮膜
103 平角エナメル皮膜
120 平角エナメル線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体にエナメル皮膜を形成した丸エナメル線が複数本接合され、この接合した丸エナメル線を上下から押し潰して、各導体を分割平角導体とし、これらの外周に平角エナメル皮膜を形成したことを特徴とする平角エナメル線。
【請求項2】
前記丸エナメル線同士が粘着用皮膜で一体に接合され、その粘着用皮膜で接合され、押し潰された丸エナメル線の粘着用皮膜の外周に平角エナメル皮膜が形成される請求項1記載の平角エナメル線。
【請求項3】
導体にエナメル皮膜を形成した丸エナメル線を複数本接合し、その接合した丸エナメル線をロール圧延又はダイスを通過させて各丸エナメル線を上下から押し潰して、各導体を分割平角導体とし、これらの外周に平角エナメル皮膜を形成したことを特徴とする平角エナメル線の製造方法。
【請求項4】
前記丸エナメル線のエナメル皮膜の外周に粘着用皮膜を形成すると共にその粘着用皮膜で丸エナメル線を接合し、その状態で上下から押し潰し、その粘着用皮膜の外周に平角エナメル皮膜を形成する請求項3記載の平角エナメル線の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−28938(P2011−28938A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171963(P2009−171963)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】