幼若ホルモン応答エレメント
【課題】本願発明は、幼若ホルモン(JH)に応答して転写を誘導するJH応答エレメント(JHRE)、JHREを用いたJHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイおよびスクリーニング方法、ならびにJHアゴニストおよびアンタゴニストを用いた遺伝子発現制御システムを提供する。また本発明は、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、並びにそれらの利用等を提供する。
【解決手段】JHに対して顕著な応答性を有し、下流の遺伝子の転写をJHに応答して誘導することができる配列(JHRE)を同定した。このJHREは、JHおよびそのアナログに対して用量依存的な転写誘導活性を示し、異種プロモーターと組み合わせて使用することも可能であった。またこのJHREを用いて、哺乳動物細胞を用いたJH誘導発現系を構築することにも成功した。本発明を利用すれば、培養細胞等を用いて、JHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイやスクリーニングを効率よく実施することが可能となる。
【解決手段】JHに対して顕著な応答性を有し、下流の遺伝子の転写をJHに応答して誘導することができる配列(JHRE)を同定した。このJHREは、JHおよびそのアナログに対して用量依存的な転写誘導活性を示し、異種プロモーターと組み合わせて使用することも可能であった。またこのJHREを用いて、哺乳動物細胞を用いたJH誘導発現系を構築することにも成功した。本発明を利用すれば、培養細胞等を用いて、JHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイやスクリーニングを効率よく実施することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幼若ホルモンに応答性を有する遺伝子に由来する幼若ホルモン応答エレメントに関する。また本発明は、該遺伝子、蛋白質、およびエレメントの利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
幼若ホルモン(juvenile hormone: JH)は、昆虫および甲殻類において、胚発生、脱皮・変態、性成熟、休眠などの多彩な生理現象に関与する多機能性ホルモンである(Hartfelder, K. (2000) Brazilian Journal of Medical and Biological Research 33:157-177)。特にJHは哺乳動物においてオルソログがないため、JHの内分泌系を攪乱することは、ヒトや哺乳動物に安全な殺虫手段となる。このような利点から、これまでに化学的に安定なJH類縁体の検索がなされ、例えばメソプレン(methoprene)、ピロプロキシフェン(pyriproxyfen)、フェノキシカルブ(fenoxycarb)等の化合物が開発され、農業害虫や衛生害虫の殺虫剤として利用されている(Minakuchi C. and Riddiford LM. (2006) J. Pestic. Sci. 32: 77-84)。
【0003】
しかしこれらの創農薬における化合物の探索は、昆虫個体を用いたランダムスクリーニング法が主流である。例えばJHアゴニスト・アンタゴニストのスクリーニングは、昆虫個体を用いて脱皮・変態等の異常を詳細に観察することで行われる。但し個体を用いたスクリーニングは多大な時間と労力が必要であり、またこうした個体の観察データだけでは、ヒットした化合物が、真にJHアゴニストあるいはアンタゴニストであるかや、その作用機作は明らかにできない。より簡便かつ直接的にJH作用を評価できる系が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hartfelder, K. (2000) Insect juvenile hormone: from "status quo" to high society. Brazilian Journal of Medical and Biological Research 33: 157-177
【非特許文献2】Minakuchi C. and Riddiford LM. (2006) Insect juvenile hormone action as a potential target of pest management. J. Pestic. Sci. 32: 77-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、JHに応答して転写を上昇させるJH応答エレメント(JHRE)、およびJHREを用いたJHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイおよびスクリーニング方法、ならびにJHアゴニストおよびアンタゴニストを用いた遺伝子発現制御システムを提供する。また本発明は、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、およびその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
インビトロの系で実施可能な、JHアゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングする方法、およびJHによる遺伝子発現制御システムについては、これまでに幾つか報告されている(例えばWO01/002436 (特表2003-505019); WO97/13864 (特表2000-500323); WO98/46724 (特表2002-510195); 特開2004-283080)。しかし、JHアゴニスト・アンタゴニストをハイスループットでスクリーニングするための実用的な方法の開発は未だ十分とは言えない。
【0007】
ところでKruppel homolog l (Kr-h1, CG9167) (Kruppelのuはウー・ウムラウト(u umlaut)) は、C2-H2型のZincフィンガーを持つ転写因子として知られる。最近、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)およびコクヌストモドキ(Tribolium castaneum)の個体において、その発現がJHによって誘導されることが報告され、Kr-h1がJHシグナル伝達に関与することが示唆されている(Minakuchi, C. et al., 2008, Mech Dev. 125: 91-105; Parthasarathy, R. et al., 2008, Mech Dev. 125: 299-313; 水口智江可・篠田徹郎, 2008, 幼若ホルモン(JH)シグナリングにおけるJH誘導性転写因子Kr-h1の役割, 第52回日本応用動物昆虫学会大会講演要旨)。しかしながら、JHによるKr-h1の発現誘導は、個体において確認されているに過ぎず、JHがどのようにKr-h1の発現を誘導しているのかは全く不明であった。JHによる遺伝子発現の制御は、複数の器官や組織が協調的に関わっていると考えられることから、JHによるKr-h1の発現誘導は、複数の器官や組織を介して、間接的にJHにより制御されている可能性が考えられた。
例えば、脳から分泌される前胸腺刺激ホルモンPTTHは、前胸腺に働きかけて脱皮ホルモン(エクダイソン)の合成・分泌を促進し、エクダイソンは皮膚などの多数の遺伝子の発現を誘導する。つまり、in vivo(個体)で見られるPTTHによる皮膚等における遺伝子発現の制御は、エクダイソンを介した間接的なものであり、in vitroでは見られない。JHによるKr-h1の発現も、このように間接的に誘導されている可能性は多分に考えられ、in vitroにおける発現制御やスクリーニング系に利用できるか否かを予想することは困難である。
【0008】
本発明者らは、JHによる発現制御機構を、転写調節機構の解析を通して明らかにするため、ショウジョウバエKr-h1遺伝子のホモログとその転写調節領域をカイコにおいて単離しようと考えた。しかしながら、カイコが属する鱗翅目昆虫とショウジョウバエ(双翅目昆虫)とは系統的に隔たっているため、仮にホモログが存在するとしても相同性は低いことが予想され、ショウジョウバエKr-h1遺伝子をプローブにして単純にカイコcDNAをスクリーニングしても、カイコのKr-h1遺伝子を単離できることは期待できなかった。
そこで、本発明者らはまず、カイコ約2000頭を解剖して側心体を含むアラタ体を収集し、そこから総RNAを抽出し、V-キャッピング法(日立ハイテクサイエンスシステムズ)により完全長アラタ体cDNAライブラリを作製した。さらに、このライブラリから無作為に2万クローンを選択し、その1つ1つのクローンについてDNAを抽出し、これらのクローンに挿入されているcDNAの配列を 5'- および 3'- 側から決定した。これにより、約3万のEST配列からなるデータベースを構築した。
このカイコアラタ体完全長ESTデータベースを、ショウジョウバエKr-h1のアミノ酸配列(Accession numbers NP_477467.1および NP_477466.1 (配列番号:6および8))を用いて検索した結果、ついに、そのオルソログと考えられるクローンを同定することに成功した。同定されたカイコKr-h1(BmKr-h1)のcDNAの塩基配列を配列番号:1および3に、それぞれがコードする蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:2および4に示す。
【0009】
次に本発明者らは、BmKr-h1の転写開始部位周辺から上流約5kbまでのBmKr-h1の転写調節領域のDNA(配列番号:9)を単離し、これを基に複数のレポーターコンストラクトを作製し、インビトロにおけるJH応答性を調べた。すると、カイコKr-h1プロモーターからのレポーター遺伝子の発現は、JHにより有意に上昇したことから、Kr-h1プロモーターの活性化は、複数の器官や組織を介することなく、単一の細胞集団の中でJHにより直接的に誘導されることが明らかとなった。さらに驚くべきことに、カイコKr-h1遺伝子のJHによる発現誘導は、ショウジョウバエKr-h1遺伝子の誘導よりも有意に高いことが判明した(図6および7)。またカイコ以外の鱗翅目昆虫細胞(Sf9)のKr-h1遺伝子においても、JHによりカイコBmN4細胞と同程度の発現誘導が観察された(図14および15)。このように、鱗翅目昆虫のKr-h1遺伝子およびそのプロモーターは、ショウジョウバエに比べてJH応答性が有意に高く、JHによる誘導発現系の構築や、JHのアッセイ、JHアゴニスト・アンタゴニストのスクリーニング等において、極めて有用であることが明らかとなった。
【0010】
BmKr-h1転写調節領域においてJH応答性をもたらすcis因子(JH応答エレメント)を同定するため、BmKr-h1転写調節領域中の配列を様々に欠失させて、JH応答性を調べた。その結果、BmKr-h1の転写開始部位の5'側周辺にはJH応答性をもたらす配列が確かに存在しており、特にBmKr-h1αの転写開始部位(+1)に対して-2165から-2068の配列(配列番号:12)中に活性の高いJHREが存在していることが判明した。
【0011】
この領域をさらに詳しく解析した結果、-2079より上流側の塩基に変異を導入しても、JH応答性は失われないことから(図21および22)、JHREは-2079から-2068(配列番号:39)の中に存在していることが判明した。さらにコクヌストモドキのKr-h1遺伝子の転写開始点上流のDNAを単離して配列を解析したところ、この領域は確かにJHに応答した転写活性を示し、さらにBmKr-h1αのJHREの配列に一致する配列が含まれていることが判明した(図23および24)。さらにBmKr-h1βアイソフォームの転写開始点の上流にも、この配列が存在することが分かった。以上の結果から、JH応答に必須の配列はCTCCACGTG(配列番号42)であると考えられた。
【0012】
次に、この配列に相互作用する転写因子を同定するため、この配列の下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結したレポータープラスミドと共に、様々な転写因子の候補をトランスフェクションして、JH応答性を検証した。その結果、Met (Methoprene-tolerant) 蛋白質(BmMet2)を導入した細胞において、JH応答性の劇的な上昇が観察されたことから、JHREと相互作用して転写を誘導している転写因子はMetであることが判明した。さらに驚くべきことに、Met蛋白質はヒト細胞においても下流の転写を強力に誘導することができ(図28)、さらに昆虫やヒト細胞において上記JHREレポータープラスミドの発現をJH依存的に誘導することが可能であった(図27および29〜31)。
【0013】
以上の結果は、本発明のJHREは、昆虫細胞に留まらず幅広い細胞でJHに応答した転写を誘導することが可能であることを示している。この性質を利用すれば、目的の遺伝子の発現を、様々な細胞においてJHに応答して制御することが可能となる他、この系を用いてJHアゴニスト・アンタゴニストのハイスループットなスクリーニングを実施することも可能となる。例えば、これまでにも遺伝子発現制御システムとして、ステロイドホルモンやテトラサイクリンを用いた哺乳動物用のシステムが実用化されている(例えば、Invitrogen社のGeneSwitch systemやT-REX system)が、JHを用いた遺伝子発現制御システムはほとんど存在していなかった。本発明の転写調節エレメントを用いた遺伝子発現制御システムは、昆虫培養細胞における発現制御のための有用なツールとなるだけでなく、哺乳動物細胞などの他の細胞においても、JHを用いた新しい発現誘導系を可能とするものである。
【0014】
すなわち本発明は、JHに応答して転写を上昇させるエレメント(JHRE)、およびJHREを用いたJHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイおよびスクリーニング方法、ならびにJHアゴニストおよびアンタゴニストを用いた遺伝子発現制御システム等を提供する。また本発明は、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、およびそれらの利用等を提供する。本発明は、具体的には、
〔1〕配列番号:42またはその1塩基を置換した配列を含み、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA、
〔2〕〔1〕に記載のDNAであって、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA、
(a)幼若ホルモン応答遺伝子の転写調節領域おいて、配列番号:42またはその1塩基を置換した配列を含むように切り出された配列であって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有する配列を含むDNA、
(b)上記(a)のDNAにおいて、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含むDNAであって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA、
(c)上記(a)のDNAの塩基配列と90%以上の同一性を有し、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA、
(d)上記(a)のDNAから調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA、
〔3〕該遺伝子がKr-h1(Kruppel homolog 1)またはその相同遺伝子である、〔1〕または〔2〕に記載のDNA、
〔4〕配列番号:9(-4741/+968)、10(-2763/+116)、11(-2165/-2025)、12(-2165/-2068)、31(TcKr-h1 -6299/-2401)、34(TcKr-h1 -351/+48)、35(-477/+106)、36(-2128/-2045)、37(-2128/-2049)、38(-2105/-2068)、39(-2079/-2068)、または幼若ホルモン応答性を有するそれらの断片を含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のDNA、
〔5〕異種プロモーターおよび/または異種遺伝子が機能的に連結されている、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のDNA、
〔6〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
〔7〕〔6〕に記載のベクターを含む、幼若ホルモン応答発現用組成物、
〔8〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAまたは該DNAを含むベクターを含む形質転換体、
〔9〕Met(Methoprene-tolerant)遺伝子が導入されている、〔8〕に記載の形質転換体、
〔10〕昆虫細胞または哺乳動物細胞である、〔8〕または〔9〕に記載の形質転換体、
〔11〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAを含む幼若ホルモン応答性転写エンハンサー、
〔12〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAの、幼若ホルモン応答エレメントとしての使用、
〔13〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAの、Met(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合させるための使用、
〔14〕幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストによる発現制御における〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAの使用、
〔15〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAが導入された細胞に、幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストを接触させる工程を含む、発現制御方法、
〔16〕(a)〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNA、および(b)(i)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、および/または (ii) Met(Methoprene-tolerant)をコードする核酸または該核酸が導入された細胞、を含むキット、
〔17〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAの転写活性を検出する工程を含む、幼若ホルモン作用のアッセイ方法、
〔18〕〔17〕に記載の方法であって、該工程が被験化合物の存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用に及ぼす被験化合物の促進または抑制効果を検出する方法、
〔19〕〔18〕に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を上昇させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を上昇させる化合物を選択する工程をさらに含む方法、
〔20〕〔18〕に記載の方法であって、該工程が幼若ホルモンまたはそのアゴニストのさらなる存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用を低下させる被験化合物の活性を検出する方法、
〔21〕〔20〕に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を低下させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を低下させる化合物を選択する工程をさらに含む方法、
〔22〕殺虫性化合物のアッセイまたはスクリーニングにおいて実施される、〔17〕から〔21〕のいずれかに記載の方法、
〔23〕下記(a)〜(c)に記載のDNA、
(a)配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子、または鱗翅目昆虫における相同遺伝子の配列を含むDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
(b)上記(a)に記載の配列において、1または数個の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
(c)上記(a)に記載の配列から調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然の配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
〔24〕〔23〕に記載のDNAがコードするアミノ酸配列を含む蛋白質、
〔25〕〔24〕に記載の蛋白質の連続する8アミノ酸以上の断片を含む免疫原性ポリペプチド、
〔26〕配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列の連続する15塩基以上を含むか、あるいは配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、プローブまたはプライマーとして用いられる核酸、
〔27〕〔24〕に記載の蛋白質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、
〔28〕〔26〕に記載の核酸、あるいは〔27〕の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチドを含む、幼若ホルモンの検出剤、
〔29〕(a)〔26〕に記載の核酸、あるいは〔27〕の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、および(b)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むキット、
〔30〕Met(Methoprene-tolerant)蛋白質または該蛋白質とDNA結合蛋白質との融合蛋白質をDNAに結合させる工程を含む、該DNAの転写を非昆虫真核細胞において活性化させる方法、
〔31〕Met(Methoprene-tolerant)蛋白質または該蛋白質とDNA結合蛋白質との融合蛋白質、またはそのいずれかをコードする核酸を含む、非昆虫真核細胞における転写活性化剤、
に関する。
【0015】
また本発明は、
〔1〕下記(a)〜(c)に記載のDNA、
(a)配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子の配列、または鱗翅目昆虫における相同遺伝子の配列、またはそれらの遺伝子の転写調節領域中の配列を含むDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
(b)上記(a)に記載のいずれかの配列において、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
(c)上記(a)に記載のいずれかの配列から調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
〔2〕前記(a)のDNAが転写調節領域中の配列を含むDNAである、〔1〕に記載のDNA、
〔3〕配列番号:9または幼若ホルモン応答性を有するその断片を含む、〔2〕に記載のDNA、
〔4〕配列番号:10または幼若ホルモン応答性を有するその断片を含む、〔2〕に記載のDNA、
〔5〕配列番号:11または幼若ホルモン応答性を有するその断片を含む、〔2〕に記載のDNA、
〔6〕配列番号:12または幼若ホルモン応答性を有するその断片を含む、〔2〕に記載のDNA、
〔7〕異種遺伝子が機能的に連結されている、〔2〕から〔6〕のいずれかに記載のDNA、
〔8〕〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
〔9〕幼若ホルモン応答性発現ベクターである、〔8〕に記載のベクター、
〔10〕〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAまたは該DNAを含むベクターを含む形質転換体、
〔11〕配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子または鱗翅目昆虫における相同遺伝子がコードするアミノ酸配列を含む蛋白質、
〔12〕〔11〕に記載の蛋白質の連続する8アミノ酸以上の断片を含むポリペプチド、
〔13〕配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列の連続する15塩基以上を含むか、あるいは配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、プローブまたはプライマーとして用いられる核酸、
〔14〕〔11〕に記載の蛋白質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、
〔15〕〔13〕に記載の核酸、あるいは〔14〕の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチドを含む、幼若ホルモンの検出剤、
〔16〕(a)〔13〕に記載の核酸、あるいは〔14〕の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、および(b)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むキット、
〔17〕幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストによる発現制御における〔2〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAの使用、
〔18〕〔2〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAを含む細胞に、幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストを接触させる工程を含む、発現制御方法、
〔19〕(a)〔2〕から〔7〕のいずれかに記載のDNA、および(b)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むキット、
〔20〕〔2〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAの転写活性を検出する工程を含む、幼若ホルモン作用のアッセイ方法、
〔21〕〔20〕に記載の方法であって、該工程が被験化合物の存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法、
〔22〕〔21〕に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を上昇させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を上昇させる化合物を選択する工程をさらに含む方法、
〔23〕〔21〕に記載の方法であって、該工程が幼若ホルモンまたはそのアゴニストのさらなる存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用を低下させる被験化合物の活性を検出する方法、
〔24〕〔23〕に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を低下させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を低下させる化合物を選択する工程をさらに含む方法、
〔25〕殺虫性化合物のアッセイまたはスクリーニングにおいて実施される、〔20〕から〔24〕のいずれかに記載の方法、
にも関する。
【0016】
なお本願請求項において、同一の請求項を引用する各請求項に記載の発明の2つまたはそれ以上を任意に組み合わせた発明は、それらに引用される上位の請求項に記載の発明において、既に意図されている。また、本明細書に記載した任意の発明要素およびその任意の組み合わせは、本明細書に意図されている。また、それらの発明において、本明細書に記載の任意の要素またはその任意の組み合わせを除外した発明も、本明細書に意図されている。また本発明に関して、明細書中に記載されたある特定の態様は、それを開示するのみならず、その態様を含むより上位の本明細書に開示された発明から、その態様を除外した発明も開示するものである。
【0017】
本発明において遺伝子とは転写される配列に対応する核酸を言い、エクソンおよびイントロンを含む初期転写産物、スプライシングされたRNA、それらをコードする核酸(例えばゲノムDNA、cDNA)等が含まれる。アミノ酸配列をコードする遺伝子とは、そのアミノ酸配列を連続してコードする核酸(mRNAおよびcDNAなど)、ならびに分断されて不連続的にコードする核酸(イントロンなどに分断されてコードするゲノムDNAなど)が含まれる。すなわち、あるアミノ酸配列をコードする遺伝子は、そのアミノ酸配列を連続的または不連続的にコードする限り、イントロン、5'および/または3'非翻訳領域(UTR)等を含んでいてもよい。また本発明においてアミノ酸配列をコードする遺伝子の配列とは、そのアミノ酸配列の全部を連続または不連続にコードする核酸の塩基配列を言う。好ましくは、該塩基配列はそのアミノ酸配列の全部を連続してコードする。該塩基配列は、より長いアミノ酸配列の一部として、そのアミノ酸をコードしていてもよく、あるいは、正確にその長さのアミノ酸配列をコードしていてもよい。該塩基配列は、そのアミノ酸配列をコードする限り、非コード配列(イントロン、5'および/または3'非翻訳領域(UTR)等)を含んでいてもよい。
【0018】
本発明において核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、またその形態にも特に制限はない。核酸は、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、mRNAなどであってよい。また本発明において蛋白質という時は、その鎖長が限定されるものではなく、オリゴペプチドと呼ばれる短いペプチド鎖からなるものを含む。また蛋白質はポリペプチドと呼ばれるものを含む。また本発明の蛋白質および核酸には、単離されたもの、および組み換え体が含まれる。単離された蛋白質および核酸とは、自然の状態から離された蛋白質および核酸を言い、精製されたもの、および人工的に製造されたものが含まれる。組み換え体とは、遺伝子組み換えまたは合成により製造または複製されたものを指し、核酸であればその両端または片端が自然の状態とは同じように繋がっていない核酸を言い、プラスミドや他のベクター中にクローニングされたものや合成核酸が含まれる。組み換え核酸は、天然の核酸をヌクレアーゼや超音波などで切断し、リガーゼなどで再結合することにより製造することができる。また組み換え酵素などを用いて製造することもできる。また、合成された核酸、およびプラスミドやファージあるいはPCR等で増幅された核酸も、本発明において組み換え核酸と言う。また蛋白質であれば、組み換え核酸から発現された蛋白質や合成された蛋白質を組み換え蛋白質と言う。
【0019】
本発明においてDNAには、一本鎖および二本鎖が含まれる。例えば遺伝子のアンチセンス鎖は、mRNAを検出するためのプローブとして、センス鎖はプローブを調製するための鋳型として有用である。またそれぞれの鎖は、PCRによりこの遺伝子を増幅したり、標識したプローブ等を調製する場合の鋳型として有用である。また二本鎖DNAは、この遺伝子の転写や、この遺伝子がコードする蛋白質の製造に有用である。
【0020】
遺伝子の転写調節領域とは該遺伝子の転写を制御している領域であり、通常は遺伝子の上流(センス鎖の5'側領域)にあるが、イントロンやエクソン、5'-および3'-UTR中に存在してもよい。転写を調節する主要な配列は、通常、遺伝子の転写開始部位から上流数千塩基の領域中に存在する。また本発明において転写調節領域中の配列またはDNAとは、それぞれ、遺伝子の転写調節領域の一部または全部を含む配列またはDNAである。また転写調節領域中の配列またはDNAであってJH応答性を有する配列またはDNAとは、転写調節領域の一部または全部を含み、それによりJHに応答して、機能的に連結された下流の遺伝子の転写を制御(促進)する活性を持つ配列またはDNAであり、より具体的には、適切な転写ユニット(転写開始部位、転写配列、および転写終結部位を持ち、場合によりプロモーターおよび/またはエンハンサーをさらに含むDNA構築物)に組み込むことによって、JHに応答して転写を活性化(または上昇)させる配列またはDNAを言う。該配列またはDNAは、転写される配列を持っていてもよく(例えば5'-UTRおよび/またはイントロン)、持たなくてもよい。一般に遺伝子の転写調節領域は転写される配列の5'周辺から上流に向かって数kbpまでの範囲の領域であり、例えば転写開始点から5kb、より好ましくは4kb、3kb、または2kbの範囲内の領域であるが、JH応答性をもたらすために必須な配列は、そのごく一部の配列である。転写調節領域のDNAは、一般に二本鎖DNAとして使用される。
【0021】
天然のJHとしては、JH-I、JH-II、JH-III、JH-0、およびメチルファルネソエート (Methyl Farnesoate)が知られる(Blum,M.S. (Ed.) 1985, Fundamentals of Insect Physiology, John Wiley and Sons, New York)。JHアゴニストおよびJHアナログとしては、メソプレン(methoprene)、フェノキシカルブ(fenoxycarb)、ピリプロキシフェン(pyriproxyfen)、キノプレン(Kinoprene)、ジオフェノラン(Diofenolan)、およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0022】
なお本発明においては、特に別記しない限りJHという用語は、天然および合成JH、およびJHアゴニスト、JH作動性のJHアナログを含めて用いられる。またJH応答性とは、天然および合成JH、JHアゴニスト、またはJH作動性のJHアナログに対して応答性を有することを言い、好ましくはJH-I、JH-II、JH-III、JH-0、およびメソプレンの少なくとも1つに対して応答性を有すること言い、好ましくは天然のJHの少なくとも1つ(例えばJH-I)に対して応答性を有すること言う。またJHの作用を検出するとは、JH、そのアナログまたはアゴニストの活性を検出することが含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、JH応答エレメント(JHRE)、およびJHREを用いたJHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイおよびスクリーニング方法、ならびにJHアゴニストおよびアンタゴニストを用いた遺伝子発現制御システム等が提供された。また本発明により、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、およびそれらの利用が提供された。本発明の遺伝子または蛋白質の発現、あるいはJH応答配列による転写活性化を指標とすることにより、JHを簡便かつ高感度で検出することが可能となる。特に当該遺伝子は、複数の細胞型、組織または器官に媒介されることなく、クローナルな細胞のin vitro培養系においてもJHにより非常に高い効率で発現が誘導される。これにより、個体の表現型等を指標とすることなく、培養細胞を用いてハイスループットなスクリーニング系を構築することが可能となった。また本発明のJH応答配列を利用すれば、目的の遺伝子の発現をJHにより制御することが可能となる。例えば本発明の発現制御系を既存の発現制御系と組み合わせれば、それぞれのシステムを利用して複数の遺伝子の発現を独立に制御することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】BmKr-h1遺伝子(αアイソフォーム)の構造。
【図2】BmKr-h1遺伝子の転写調節領域および転写開始部位周辺の配列。左側の番号はαアイソフォームの転写開始部位に対する位置を示す。αおよびβアイソフォームの転写開始部位は+1 で示されており、αアイソフォームの第1エクソンとβアイソフォームのエクソンを枠で囲って示した。翻訳開始コドン(ATG)の上にアスタリスクをつけた。
【図3】6種のカイコ培養細胞におけるBmKr-h1 遺伝子の JH および 20E に対する応答。各カイコ培養細胞を、JH I (1μg/ml)、20E (0.5μg/ml)、またはその両者を添加した培地中で、25℃下で4時間培養した後に、RNAを抽出し、リアルタイム定量PCRにより、BmKr-h1およびrp49の発現量を定量した。NHはホルモン無添加の培地を表す。
【図4】JHアナログによるBmKr-h1遺伝子の誘導。カイコBmN4細胞およびaff3細胞を、メソプレン(10μM)を添加した培地中で、25℃下で所定の時間培養した後に、RNAを抽出し、リアルタイム定量PCRにより、BmKr-h1およびrp49の発現量を定量した。(MEAN±SD, n=3)
【図5】メソプレン(A)およびJH I処理(B)によるカイコ培養細胞 (aff3) におけるBmKr-h1遺伝子の誘導。各濃度のメソプレンまたはJH Iを添加した培地中で、25℃、2時間培養した後に、RNAを抽出し、リアルタイム定量PCRによりBmKr-h1およびrp49の発現量を定量した。(MEAN±SD, n=3)
【図6】ショウジョウバエ培養細胞(S2)とカイコ培養細胞(BmN4, aff3) におけるJH(メソプレン 10μM)によるKr-h1遺伝子誘導率の比較。メソプレンを(10μM, +JH) 添加した培地中で2時間培養時のDmKr-h1遺伝子 (S2細胞) および BmKr-h1遺伝子 (BmN4細胞, aff3細胞) の誘導倍率。無添加培地(-JH)で2時間培養時の値を1とした。(MEAN±SD, n=3)
【図7】カイコ由来の様々な培養細胞におけるJHによるKr-h1遺伝子誘導。JH-Iまたはメソプレン (各1μM) を添加した培地中で4または6時間培養し、BmKr-h1およびrp49の発現量を定量した。無添加培地(-JH)で培養した時の値(対照)を1とした時のKr-h1遺伝子の誘導倍率を、各バーの上に示した。
【図8】BmKr-h1プロモーターコンストラクトおよびその作製に用いたプライマー。
【図9】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を24well plate に1×106/well で撒種し、1mlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で48h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 1μg、pIZT-Rluc 0.01μgをTransFastTM (Promega) 3μl を用いて25℃, 48hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図10】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で12h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図11】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で12h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μM、20Eは0.5μg/mlになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図12】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を24well plate に1×106/well で撒種し、1mlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で48h培養後、pGL4.14_-2763/+116 1μg、pIZT-Rluc 0.01μgをTransFastTM (Promega) 3μl を用いて25℃, 48hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃で 2, 4, 6, 12, 24, および 48h培養してレポーター活性を測定した。
【図13】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) をガラスチューブに1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で48h培養後、pGL4.14_-2763/+116 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 48hトランスフェクションを行い、その後 JHI, JHII, JHIII, またはメソプレンを添加して25℃で24h培養してレポーター活性を測定した。
【図14】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (BmN4) を24well plate に2×105/well で撒種し、1mlのEx-cell (+10% FBS) 中で25℃で24h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 1μg、pIZT-Rluc 0.01μgをTransFastTM (Promega) 3μl を用いて25℃, 48hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図15】BmKr-h1レポーターアッセイ。ヨトウガ由来培養細胞 (Sf9) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのSf-900 SFM 中で25℃で48h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図16】BmKr-h1レポーターアッセイ。ショウジョウバエ培養細胞 (S2) を96well plate に5×105/well で撒種し、200μlのSchneider (+10% FBS) 中で25℃で48h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図17】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で24h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図18】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で24h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図19】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で48培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図20】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で24h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図21】BmKr-h1のJHRE解析を示す。BmKr-h1のJHREを含む領域である-2165/-2025の様々な箇所の塩基を変異させ、aff3を使ってデュアルシフェラーゼアッセイによりJH応答の変化を調べた。
【図22】BmKr-h1のJHRE解析を示す。図21と同様に、BmKr-h1のJHRE領域の塩基を変異させ、aff3を使ってデュアルシフェラーゼアッセイによりJH応答の変化を調べた。
【図23】コクヌストモドキKr-h1 (TcKr-h1) の転写開始領域のDNA配列を示す。番号は転写開始点(+1)からの位置を示す。
【図24】図23の続き。転写開始点は「+1」で示した。枠はエクソンを、アスタリスクは開始コドンを表す。
【図25】コクヌストモドキKr-h1 (TcKr-h1) のJHRE解析を示す。TcKr-h1のプロモーター領域の配列には、BmKr-h1のJHREの必須配列(CTCCACGTG)が含まれる。この領域を用いて、aff3を使ったデュアルシフェラーゼアッセイによりJH応答の変化を調べた。
【図26】BmKr-h1のプロモーター領域の置換の影響を示す。BmKr-h1のプロモーター領域を、アクチンA3遺伝子(BmA3)またはHSP70遺伝子(BmHSP70)のプロモーター領域に置換し、aff3を使ってJH応答性を調べた。図中に、JHによる発現上昇の比率を示した。いずれのプロモーターを用いても、明確なJH応答が認められた。
【図27】JHREと相互作用する因子の特定を示す。ショウジョウバエS2細胞系を用いて、BmKr-h1のJHREのデュアルシフェラーゼアッセイを行った。BmMet2において、顕著はJH応答性が誘導された。
【図28】Met2の機能解析。GAL4のDNA結合ドメインとBmMet2の融合タンパク質を発現するプラスミド(gal4-DBD_BmMet2)を作製し、UAS-ルシフェラーゼプラスミド(pGL_Luc(UAS_Luc))と共に、ヒト腎臓由来の培養細胞株(HEK293)にco-transfectionして、レポーターアッセイを行った。
【図29】哺乳動物細胞におけるJH応答性の発現誘導。HEK293(0.5×105/well;96well plate)を、MEM + 0.1mM NEAA + 10% FBS中で37℃, 48h培養した後、JHREルシフェラーゼレポータープラスミドであるpGL4.14_-2165/-2025&-49/116、pGL4.14_-2763/116、pGL4.14_JHRE×4&TK、またはpGL4.14_JHRE×5&-49/116のいずれかと、野生型BmMet2を発現するプラスミド(pBIND_BmMet2_-gal4)とを、内部標準レポーターベクター pRL-TK (Promega) と共にLipofectamine 2000を用いてco-transfection (37℃, 48h) を行い、JHI 0.1μMを添加後 (37℃, 24h)、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。コントロールとして、Met2をコードしない空ベクターを用いた。
【図30】コクヌストモドキTcKr-h1のJHREを用いたJH応答性の発現誘導。ショウジョウバエS2細胞およびカイコaff3細胞を1.5×105 /well で96ウェルプレートにまき、10% FBSを含むschneider培地または10% FBSを含むIPL41培地で25℃で24時間培養した。TcKr-h1の-477/+106を含むレポータープラスミド(pGL4.14_Tckrh1_pro)0.2μg、内部標準としてpIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃、24時間トランスフェクションを行い、メソプレン10μMを添加し25℃、24時間培養後にルシフェラーゼアッセイを行った。
【図31】コクヌストモドキTcKr-h1のJHREを用いたヒト細胞におけるJH応答性の発現誘導。HEK293細胞を0.2×105 /well で96ウェルプレートにまき、10% FBSおよび0.1 mM 非必須アミノ酸 (NEAA) を含むMEM培地で37℃で48時間培養した。TcKr-h1の-477/+106を含むレポータープラスミド 0.2μg、gal4-DBD_BmMet2発現プラスミド(pcDNA_BmMet2)または野生型BmMet2(pBIND_BmMet2_-gal4)を発現するプラスミド(pBIND_BmMet2_-gal4)0.2μg、および内部標準レポーターベクター pRL-TK (Promega) 0.2μgをLipofectamine 2000(0.5μg)を用いてco-transfection (37℃, 48h) を行い、JHI 0.1μMを添加後 (37℃, 24h)、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。コントロールとして、Met2をコードしない空ベクター(pcDNA_none)を用いた。
【図32】哺乳動物細胞におけるJH誘導発現の用量依存特性。MEM + 0.1mM NEAA + 10% FBS 200μl で培養したHEK293 (0.2×105/well, 96well plate) に pGL4.14_-2165/-2025&-49/116 および BmMet2発現ベクター(pBIND_BmMet2_-gal4)を、内部標準レポーターベクター pRL-TKと共にLipofectamine 2000を用いてco-transfection (48h) を行い、JH処理(JHI, II, III, MT (methoprene), MF (methyl farnesoate), FA (Farnesoic acid), 24h)を実施し、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。
【図33】カイコ細胞におけるJH誘導発現の用量依存特性。aff3細胞を10% FBSを含むIPL41 200μlで培養し (1.5×105/well, 96well plate)、JH処理後(JHI, II, III, MT (methoprene), MF (methyl farnesoate), FA (Farnesoic acid), 2h)、内在性のBmKr-h1の転写レベルを測定した。内部標準として内在性のribosomal protein 49 (BmRp49) の転写レベルを測定した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、幼若ホルモン(JH)に応答して下流の遺伝子の転写を活性化するJH応答配列(JH応答エレメント (JHRE))を提供する。本発明のDNAには、JH応答性を有する遺伝子の転写調節領域中の配列を含むDNAであって、その配列があることによりJH応答性を有するDNAが含まれる(本発明においてはこれを、JHREを含むDNAとも言う)。より具体的には、本発明のDNAは、JHREの必須配列(CTCCACGTG (配列番号42) またはそれと高度に類似した配列)を含む。また本発明のJHREには、より好ましくは、例えばCCTCCACGTG (配列番号41)、GCCTCCACGTG (配列番号40)、GGCCTCCACGTG (配列番号39)、またはこれらのいずれかと高度に類似した配列を含むものが含まれる。当該DNAは、適当なプロモーターの近傍に挿入されることによりJH応答性を付与するようなDNA、または挿入しない場合と比べJH応答性を上昇させるようなDNAである。このようなDNAは、JHまたはJHアゴニストに応答して転写が促進されるので、その発現を検出することによりJHの作用を評価することができる。従って、これらのDNAは、JHまたはそのアゴニスト、アンタゴニスト等の検出またはスクリーニングのためのマーカーとして、あるいはJHまたはそのアゴニスト、アンタゴニスト等による発現の制御のために有用である。
【0026】
上記DNAは、JH応答性の転写エンハンサーとして用いることができる。すなわち該DNAを転写調節領域(例えば転写開始点から5kb以内、4kb以内、3kb以内、2kb以内、1kb以内、500b以内)に含むDNAにおいて、JHに応答して下流の遺伝子の転写を誘導することができる。本発明のDNAは、転写調節領域において、JHに応答して下流の遺伝子の転写を調節するための配列(すなわちJH応答エレメント)として有用である。
【0027】
JH応答性を有するとは、JHまたはそのアゴニストに応答して発現が上昇するか、または発現を上昇させることを言い、転写調節領域の配列を含むDNAにおいては、ある細胞においてそのDNAの制御下に連結したDNAの転写レベル(またはそこにコードされる蛋白質の発現または活性のレベル)が、JHまたはそのアゴニストに応答して誘導、またはJHまたはそのアゴニストの非存在下に比べて上昇することを言う。転写調節領域のDNAは、適宜他のプロモーター(JH応答性を必ずしも持たないもの)、転写開始部位、およびレポーター遺伝子等と組み合わせて、JH応答性を評価することができる(すなわちレポーターアッセイ)。JHは、天然JHであっても合成JH(例えばメソプレン)であってもよい。合成JHには、JHアゴニスト(JH作動性のJHアナログを含む)が含まれる。
【0028】
また本発明は、CTCCACGTG (配列番号42) またはそれと高度に類似した配列)を含むDNAであって、Met(Methoprene-tolerant)蛋白質(resistance to juvenile hormone (Rst(1)JH)、または juvenile hormone resistence protein とも呼ばれる)に結合する活性を有するDNAを提供する。Met蛋白質をDNAに結合させることにより、昆虫細胞のみならず、哺乳動物細胞などの他の細胞においても、下流の遺伝子の発現を誘導することができる。従ってMet蛋白質に結合するDNA(Met結合エレメント)は、Met蛋白質による発現調節のための調節配列として有用である他、このDNAとMet蛋白質との結合を阻害する化合物のアッセイやスクリーニングにも使用することができる。本発明は、本発明のDNAの、Met蛋白質に結合させるための使用を提供する。このような使用には、Met蛋白質に結合させることによる結果(効果)を得るための使用も含まれる。例えば本発明は、JHまたはそのアゴニストの存在下で、本発明のDNAとMet蛋白質を共存させる工程を含む、Met蛋白質を該DNAと相互作用させる方法に関する。当該方法は、JHに応答して該DNAの転写活性を誘導させるために用いることができる。
【0029】
本発明のDNAとしては、CTCCACGTG配列と同一の配列でなくても、JH応答活性および/またはMet蛋白質結合活性を有する限り、それと高度に類似した配列を含むDNAを使用することができる。このような配列は、CTCCACGTG (配列番号42)(または配列番号39〜41)に対して、1または数個の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列であってよく、より好ましくは1または数個の塩基を置換した配列である。改変された塩基配列は、改変前と65%以上、好ましくは70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、または90%以上の同一性を有する。例えば、改変される塩基は好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個である。一例を挙げれば、例えばCTNCACGTG (例えば CTMCACGTG)、CWCCACGTG (例えば CACCACGTG) などが挙げられる。
【0030】
本発明のDNAは、JH応答性遺伝子の転写調節領域中の配列をさらに含むことができる。例えばJH応答性遺伝子の転写調節領域(例えば転写開始点から5kb以内、好ましくは4kb、3kb、または2kb以内)において、CTCCACGTGまたはそれと高度に類似した配列を含む部分を切り出して使用することができる。JH応答活性を有する限り、切り出す範囲に特に制限はないが、例えば10塩基以上、好ましくは11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50、70、または100塩基以上を切り出して使用するとよい。好ましい態様では、CTCCACGTGまたはそれと高度に類似した配列の5'側(上流側)を、例えば1塩基以上、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、または60塩基以上含むように切り出すことが好ましい。
【0031】
JH応答性遺伝子としては、転写調節領域中にCTCCACGTGまたはそれと高度に類似した配列を含み、該配列がJHに応答して転写を活性化させる活性を有する限り任意のものを使用することができる。JH応答性遺伝子としては、好ましくは最適なJH濃度の存在下において、遺伝子の発現が、JH非存在下に比べ有意に、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、8倍以上、10倍以上上昇する遺伝子である。特にJH応答遺伝子の1つであるKr-H1遺伝子の転写調節領域から配列を切り出して使用することにより、極めて高いJH応答性を発揮する転写調節配列を得ることが可能である。Kr-h1遺伝子としては、例えば鱗翅目昆虫や鞘翅目(甲虫目)昆虫などのKr-h1遺伝子が挙げられ、これらの遺伝子の転写調節配列を好適に用いることができる。例えば鱗翅目昆虫を代表するカイコのKr-h1遺伝子は配列番号1および3、転写領域の配列は配列番号9に示されている。また鞘翅目昆虫を代表するコクヌストモドキ(Tribolium castaneum)のKr-h1遺伝子は配列番号32、転写領域の配列は配列番号31に示されている。また、本発明においてKr-h1遺伝子およびKr-h1蛋白質には、これらの遺伝子および蛋白質の相同遺伝子および相同蛋白質が含まれる。Kr-h1遺伝子を具体的に例示すれば、例えばキョウソヤドリコバチ (Nasonia vitripennis) Kr-h1 (XM_001600244.1, XP_001600294.1)、セイヨウミツバチ (Apis mellifera) Kr-h1 (NM_001011566.1, NP_001011566.1)、エンドウヒゲナガアブラムシ Kr-h1 (Acyrthosiphon pisum) (XM_001946159.1, XP_001946194.1)、ネッタイシマカ (Aedes aegypti) Kr-h1 (XM_001655112.1, XP_001655162.1)、ネッタイイエカ (Culex quinquefasciatus) Kr-h1 (XM_001863494.1, XP_001863529.1)、ガンビアハマダラカ (Anopheles gambiae) Kr-h1 (AGAP009662-PA; XM_318706.4, XP_318706.4) 等を例示することができる。
【0032】
例えばBmKr-h1の転写調節領域中の配列を含む好適なDNAを具体的に例示すれば、BmKr-h1αに対して-4741〜+968(配列番号:9)、-4741〜+116、-4041〜+116、-2763〜+116(配列番号:10)、-4041〜+968、-2763〜-1695、-2565〜+116、-2347〜+116、-2165〜+116、-2165〜-1999および-285〜+116の組み合わせ、-2165〜-2049および-285〜+116の組み合わせ、-2165〜-1999および-192〜+116の組み合わせ、-2165〜-2049および-192〜+116の組み合わせ、-2165〜-1999および-111〜+116の組み合わせ、-2165〜-2049および-111〜+116の組み合わせ、-2165〜-1999および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2049および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2001および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2025および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2045および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2068および-49〜+116の組み合わせ、およびそれらの断片であってJH応答性またはMet蛋白質結合活性を有するものが挙げられるが、それらに限定されない。特に-2165〜-2025(配列番号11)、-2128〜-2045(配列番号36)、-2165〜-2049、-2165〜-2068、-2128〜-2049(配列番号37)、-2105〜-2068(配列番号38)、-2079〜-2063、-2079〜-2068(配列番号39)、またはそれらの断片であってJH応答性を有するもの、特に-2094〜-2089、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2078〜-2068、-2077〜-2068、または-2076〜-2068を含む15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100塩基以上のJH応答性断片またはMet蛋白質結合断片が例示できる。また、配列番号34、35(TcKr-h1の-351/+48、-477/+106)、またはそれらの断片であってJH応答性またはMet結合活性を有するもの、特にCTCCACGTGを含む配列番号34の1〜351の断片であって、JH応答性またはMet結合活性を有する断片を例示することができる。
【0033】
また、例えばキョウソヤドリコバチ (Nasonia vitripennis) Kr-h1の転写調節領域中の配列としては、翻訳開始点から上流-2892/-2884の9塩基を含む配列(例えば -2941/-2842 (配列番号43) を含む配列)が候補として挙げられる。当該領域の塩基配列は、accession番号 AAZX01010451.1 を参照することができる。セイヨウミツバチ (Apis mellifera) Kr-h1の転写調節領域中の配列としては、翻訳開始点から上流-1997/-1989の9塩基を含む配列(例えば -2068/-1926 (配列番号44) を含む配列)が候補として挙げられる。当該領域の塩基配列は、accession番号 NW_001260508.1 を参照することができる。エンドウヒゲナガアブラムシ (Acyrthosiphon pisum) Kr-h1の転写調節領域中の配列としては、翻訳開始点から上流-1221/-1213の9塩基を含む配列(例えば -1260/-1193 (配列番号45) を含む配列)が候補として挙げられる。当該領域の塩基配列は、accession番号 ABLF01017962.1 を参照することができる。その他、AC092216.1(GI:14578097)の相補配列における配列番号46を含む配列などが候補として挙げられる。
【0034】
なお転写調節領域の配列を含むDNAにおけるJH応答性は、そのDNAがJH存在下で絶対的な転写レベルを上昇させるかどうかというよりは、JH非存在下と比べた場合の、JH存在下における転写レベルの上昇の比率(誘導倍率)により測られる。従って、仮にあるDNAをプロモーターに挿入した場合に、そのDNAを挿入しなかった時と比べてJH存在下でさえ転写レベルが低下したとしても、そのDNAを挿入したプロモーターにおいて、JH非存在下における転写レベルがさらに低下したのならば、そのDNAはJH応答性を有している。すなわち、JH非存在下で特異的に(すなわちJH存在下よりも強く)転写のネガティブ調節エレメント(negative regulatory element)として働く配列も、JH応答性を有する配列である。好ましい態様では、本発明のDNAは、JH非存在下に比べ、JH存在下において、転写活性が1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、8倍以上、10倍以上上昇させる活性を有する。JHの最適濃度は、適宜決定することができる。
またMet蛋白質との結合活性は、標識したDNAを用いたプルダウンアッセイや、表面プラズモン共鳴(Biacore)を利用した測定、実施例に記載したone-hybridアッセイと同様のレポーターコンストラクトを利用した系などにより検出することができる。Met蛋白質は、ヘテロダイマーとしてJHREに結合および/またはJHREを介した転写を活性化するものであってもよいが、好ましくは単独でJHREに結合および/またはJHREを介した転写を活性化する。
【0035】
また本発明のDNAには、上記DNAにおいて、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加などにより改変された配列を持つDNAであって、該配列がJH応答性またはMet結合活性を有するDNAが含まれる。例えばJH応答性を持つDNAは、適当なプロモーター中に挿入されることによりJH応答性を付与するか、あるいは挿入しない場合と比べJH応答性を上昇させる。JH応答性の遺伝子の転写調節領域から切り出された配列は、それを適宜改変することにより、JH応答性またはMet結合活性を維持したバリエーションを容易作り出すことが可能である。
【0036】
配列が改変された核酸を調製するための当業者によく知られた方法としては、部位特異的変異誘発法(Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel, TA(1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などが挙げられる。また変異やバリエーションは自然界においても存在する。本発明のDNAには、そのような人工的に作り出したDNA、および天然の、または自然に生じた(naturally occurring)バリエーションであって、JH応用性を持つDNAが含まれる。これらのバリエーションには、多型が含まれる他、JH応答性またはMet結合活性に影響を与えない程度の変異が含まれる。
【0037】
DNAにおいて改変されている塩基数に特に制限はないが、例えばJH応答性またはMet結合活性を有するDNAの全塩基数の30%以内、好ましくは25%以内、20%以内、15%以内、10%以内、5%以内、3%以内、または1%以内であってよい。また、例えば100塩基以内、好ましくは80塩基以内、70塩基以内、60塩基以内、50塩基以内、40塩基以内、30塩基以内、20塩基以内、10塩基以内、5塩基以内、または1塩基が改変されていてよい。これらのDNAは、Kr-h1遺伝子(例えばカイコKr-h1やコクヌストモドキKr-h1、あるいは鱗翅目昆虫や鞘翅目昆虫におけるその相同遺伝子(オルソログ))の転写調節領域のDNAであって、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAの塩基配列(一例を挙げればBmKr-h1の-4741〜+968、-4741〜+116、-4041〜+116、-2763〜+116、-4041〜+968、-2763〜-1695、-2565〜+116、-2347〜+116、-2165〜+116、-2165〜-2025、-2128〜-2045、-2165〜-2049、-2165〜-2068、-2128〜-2049、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2094〜-2089、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2078〜-2068、-2077〜-2068、-2076〜-2068またはそれらの中にあるJH応答性断片)と、連続する少なくとも9塩基、好ましくは10、11、12、13、15、17、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、80、90、または100塩基以上にわたって、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは100%の同一性を持つ配列を含んでいる。
【0038】
ここで塩基配列およびアミノ酸配列の同一性は、比較したい配列をそれぞれ塩基およびアミノ酸が一致するように適宜ギャップを挿入して整列させ、整列された範囲の全アミノ酸または全塩基に対する一致するアミノ酸または塩基の割合 (%) として計算される。配列の整列は、例えばKarlinおよびAltschulによるアルゴリズムであるBLAST(Proc. Natl. Acad. Sei. USA, 1990, 87, 2264-2268、Karlin, S. & Altschul, SF., Proc. Natl. Acad. Sei. USA, 1993, 90, 5873)を用いて行うことができる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTPと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul, SF. et al., J Mol Biol, 1990, 215, 403)。具体的には、塩基配列の同一性を決定するにはblastnプログラム、アミノ酸配列の同一性を決定するにはblastpプログラムを用い、例えばNCBI(National Center for Biothchnology Information)のBLASTのウェブページにおいて「Low complexity」などのフィルターの設定は全てOFFにして、デフォルトのパラメータを用いて計算を行う(Altschul, S.F. et al. (1993) Nature Genet. 3:266-272; Madden, T.L. et al. (1996) Meth. Enzymol. 266:131-141; Altschul, S.F. et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Zhang, J. & Madden, T.L. (1997) Genome Res. 7:649-656)。パラメータの設定は、例えばopen gapのコストはヌクレオチドは5で蛋白質は11、extend gapのコストはヌクレオチドは2で蛋白質は1、nucleotide mismatchのペナルティーは-3、nucleotide matchの報酬は1、expect valueは10、wordsizeはヌクレオチドは11で蛋白質は2、Dropoff (X) for blast extensions in bitsはblastnでは20で他のプログラムでは7、X dropoff value for gapped alignment (in bits)はblastn以外では15、final X dropoff value for gapped alignment (in bits)はblastnでは50で他のプログラムでは25 にする。アミノ酸配列の比較においては、スコアのためのマトリックスとしてBLOSUM62を用いることができる(Henikoff, S. and Henikoff, J. G. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919)。2つの配列の比較を行うblast2sequencesプログラム(Tatiana A et al. (1999) FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)の助けをかりて、2つの配列のアライメントを作成することができる。配列の同一性の算出においては、例えば比較する元となる配列の全範囲のアライメント中(内部に挿入されたギャップは分母に加える)の一致する塩基またはアミノ酸の割合を計算する。元となる配列の外側に配置されたギャップやミスマッチは計算から除外し、アライメント内のギャップはミスマッチと同等にみなして算出する。
【0039】
また本発明のDNAには、上記DNAから調製したプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAが含まれる。また本発明は、Kr-h1遺伝子の転写調節領域中の配列から切り出した、JH応答活性またはMet結合活性を有するDNA、具体的には、カイコKr-h1(配列番号:2または4)をコードするKr-h1遺伝子、コクヌストモドキKr-h1、および他の昆虫におけるその相同遺伝子(オルソログ)の転写調節領域中の配列であってJH応答活性またはMet結合活性を有するDNA、あるいはそれらの相補鎖と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAにも関する。例えばカイコBmKr-h1(配列番号:1または3)またはその転写調節領域のDNA(例えば配列番号:9)、あるいはコクヌストモドキKr-h1(配列番号32)またはその転写調節領域のDNA(例えば配列番号:31)からプローブを調製し、ハイブリダイゼーションによりゲノムDNAライブラリー等をスクリーニングすることにより、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを得ることができる。このようなDNAは、実施例で示したのと同様に、JHに対する高い応答性を有することが期待できる。すなわち転写される配列およびそこにコードされる蛋白質は、JHに応じて発現が誘導され、転写調節領域のDNAは、機能的に連結された遺伝子の転写をJHに応じて活性化させることができることが期待できる。
【0040】
プローブの調製は、例えばカイコBmKr-h1(例えば配列番号:1、3、またはそれらのCDS、あるいはそれらの相補配列)、コクヌストモドキKr-h1(配列番号32またはそのCDS、あるいはその相補配列)、またはそれらの相同遺伝子の転写配列(またはCDSあるいはそれらの相補配列など)、あるいはそれらの転写調節領域(例えば配列番号:9〜12、31のいずれか、あるいはそれらの相補配列)のDNA(センス鎖、アンチセンス鎖、またはその両方)の全体または一部をプローブまたはその鋳型として用いることができ、例えばニックトランスレーション法、ランダムプライマー法、PCR、またはin vitroトランスレーション等により、標識されたプローブを調製することができる(Feinberg, A. P. and Vogelstein, B., 1983, Anal. Biochem. 132, 6-13; Feinberg, A. P. and Vogelstein, B., 1984, Anal. Biochem. 137, 266-267; Saiki RK, et al: Science 230: 1350, 1985、Saiki RK, et al: Science 239: 487, 1988)。ランダムプライマー法としては、ランダムヘキサマー(pd(N)6)またはランダムノナマー(pd(N)9)等を用いればよい(例えば Random Primer DNA Labeling Kit, Takara Bio Inc., Otsu, Japan)。プローブの調製に用いられる鋳型DNAは、例えば連続した20塩基以上、好ましくは30、40、50、70、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、または1000塩基以上である。また、プローブの平均鎖長は、例えば20塩基以上、好ましくは30、40、50、70、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、または1000塩基以上であり、例えば5000塩基以下、好ましくは4000、3000、または2000塩基以下である。プローブに短い鎖長の核酸が含まれていたとしても、ストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションにおいてはそれらのプローブは核酸にハイブリダイズすることができないので影響は少ない。
【0041】
ストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションは、当業者が日常的に行っている(Southern, E. M., J. Mol. Biol., 98:503, 1975; Sambrook and Russell, Molecular Cloning, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, USA, 2001)。具体的には、例えば5×SSC (1×SSC は 150 mM NaCl, 15 mM sodium citrateを含む)、7%(W/V) SDS、100μg/ml 変性サケ精子DNA、5×デンハルト液(1×デンハルト溶液は0.2%ポリビニールピロリドン、0.2%牛血清アルブミン、および0.2%フィコールを含む)を含む溶液中、50℃、好ましくは60℃、より好ましくは65℃でハイブリダイゼーションを行う条件である。ハイブリダイゼーションの時間は適宜調製してよいが、例えば3時間またはそれ以上、好ましくは5時間またはそれ以上、好ましくは8時間またはそれ以上、好ましくは12時間またはそれ以上、例えば5〜15時間程度行う。ハイブリダイゼーション後の洗浄は、ハイブリダイゼーションと同じ温度で、例えば2×SSC, 0.1% SDS中で20分、好ましくは30分、より好ましくは40分洗浄する。より好ましくは、ハイブリダイゼーション後の洗浄を、ハイブリダイゼーションと同じ温度で、1×SSC, 0.1% SDS中、より好ましくは0.5×SSC, 0.1% SDS中、より好ましくは0.2×SSC, 0.1% SDS中、より好ましくは0.1×SSC, 0.1% SDS中で20分、好ましくは30分、より好ましくは40分洗浄する。
【0042】
DNAが由来する生物種としては、例えば所望の昆虫または甲殻類であってよく、好ましくは鱗翅目昆虫または鞘翅目昆虫であり、より好ましくはカイコガ上科(Bombycoidea)、ヤガ上科(Noctuoidea)、マダラガ上科(Zygaenoidea)、スズメガ上科(Sphingoidea)、スガ上科(Yponomeutoidea)、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)昆虫が挙げられ、具体的にはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)、スガ科(Yponomeutidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)の昆虫、より好ましくはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、およびゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、より好ましくはBombyx属(Bombyx mori、Bombyx mandalina)およびコクヌストモドキ属(Tribolium属)の昆虫が挙げられる。
【0043】
転写調節領域のうち、JH応答またはMet結合性に必要な領域(JHRE)はごく一部を占めるに過ぎないと考えられる(実施例参照)。従って転写調節領域のDNAは、JH応答性またはMet結合活性を失わない限り欠失させてもよい。該活性を有するために必須な配列は、その領域を適宜欠失させて該活性が保たれている領域を特定することにより同定することができる(実施例4〜6)。例えば本発明は、配列番号:9の断片であって、JH応答またはMet結合性を有するDNAに関する。このようなDNAには、BmKr-h1αに対して -4741〜+116、-4041〜+116、-2763〜+116、-4041〜+968、-2763〜-1695、-2565〜+116、-2347〜+116、-2165〜+116、-2165〜-2025、-2128〜-2045、-2165〜-2049、-2165〜-2068、-2128〜-2049、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2094〜-2089、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2078〜-2068、-2077〜-2068、または -2076〜-2068 の配列、あるいはそれらのJH応答性断片またはMet結合断片を含むDNAが含まれる。JH応答性を持つ断片を得るためには、例えば実施例に記載したように、PCR、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼ処理、変異導入法等により、適宜断片を調製し、その下流にマーカー遺伝子を連結してJH応答性を調べ、JH応答性を保持したものを選択すればよい。配列番号:12、34〜42の配列には、Kr-h1の主要なJHREの少なくとも1つが含まれていると考えられる。これらの配列の断片であって、JH応答性を有するDNAは、本発明に含まれる。またBmKr-h1αのイントロン配列(配列番号:15)中には、JH応答性をもたらす配列(JHRE)が含まれていることが示唆される。配列番号:15またはその断片を含むDNAであってJH応答性を有するDNAは、本発明に含まれる。これらの断片のJH応答性は、実施例に記載の方法により確認することができる。
【0044】
またBmKr-h1αにおける -2068位の3’側、例えば-2068〜-2025の領域は、3’側から欠失させて行くと次第にJH応答性が低下する(図20)ことから、この領域中にもJH応答性に関与する配列が含まれていることが示唆される。従って、これらの領域に含まれる配列を含むDNAも、本発明のDNAとして優れている。すなわち本発明は、BmKr-h1αに対して -2165〜-2045またはその断片の塩基配列を含むDNAであってMet結合活性またはJH応答性を有する(該配列によりJH応答性がもたらされる)DNAに関する。また本発明は、BmKr-h1αに対して -2165〜-2025(配列番号:11)またはその断片の塩基配列を含むDNAであってMet結合活性またはJH応答性を有する(該配列によりJH応答性がもたらされる)DNAに関する。
特に配列番号:12(BmKr-h1αに対する -2165〜-2068の領域)、38〜42から選択される配列の全部または少なくとも3'末端を含む断片を含み、より下流(3’側、つまり -2167〜)の少なくとも一部の領域も含むDNAは好適である。例えば、配列番号:12、38〜42のいずれか、またはその3’末端の塩基を含む部分配列を含み、それに連続して、BmKr-h1αに対して-2067〜-2045またはその断片をさらに含むDNAであって、JH応答性を有するDNAは、本発明に含まれる。また、より下流(3’)の領域、例えば-2025まで含むDNAは、JH応答性はさらに上昇する(図20)。配列番号:12またはその3’末端の塩基を含む部分配列を含み、それに連続して、BmKr-h1αに対して-2067〜-2025またはその断片をさらに含むDNAであって、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAは、本発明に含まれる。また本発明は、BmKr-h1αに対する -2105〜-2068、または -2165〜-2045の領域、あるいはその断片の塩基配列を含み、その配列によりJH応答性がもたらされるDNAに関する。また本発明は、BmKr-h1αに対する -2105〜-2068、または -2165〜-2025の領域、あるいはその断片の塩基配列を含み、その配列によりJH応答性またはMet結合性がもたらされるDNAに関する。
【0045】
上記DNAは、適宜転写開始部位を含んでよい。転写開始部位に特に制限はなく、例えば鱗翅目昆虫遺伝子に由来する転写開始部位を3’側に連結させることができる。但し、転写開始部位やプロモーター自体の由来はKr-h1である必要はなく、適宜他の遺伝子由来の配列を使用することができる(図26、28)。JHREを含む断片と転写開始部位との距離は、適宜調整してよい。BmKr-h1αの転写開始部位を用いる場合は、例えばBmKr-h1αに対して -285〜+116、-192〜+116、-111〜+116、-49〜+116(配列番号:13)、または転写開始(+1)部位を含むそれらの断片の塩基配列を用いることができるが、これらに限定されない。また、BmKr-h1βの転写開始部位を含む断片を用いてもよい。好適な一例を挙げれば、BmKr-h1αに対して -2165〜-2025と-49/+116の配列を含むDNAが例示できる。BmKr-h1αに対して -2165〜-2025と-49/+116を連結した塩基配列(配列番号:14)を含むDNAは、JH応答性プロモーターとして特に好適である。
【0046】
また、BmKr-h1αのイントロンに相当する領域(+131〜+942;配列番号:15)は、それがなくてもJH応答性は維持されるが、上述の通り、この領域もJH応答性に関与していると考えられる。本発明は、BmKr-h1αのイントロンの塩基配列またはその断片の塩基配列を含むDNAであって、Met結合活性を有するDNAまたは該配列によりJH応答性が上昇するDNAに関する。JH応答性の上昇は、該配列があることによって、JHまたはJHアゴニスト存在下における転写を上昇させることであってもよいし、JHまたはJHアゴニスト非存在下において、転写を抑制させることにより、JHまたはJHアゴニスト存在下における転写誘導(誘導倍率)を上昇させることであってもよい。イントロンまたはその断片の塩基配列は、BmKr-h1の転写開始部位と適宜組み合わせて用いてもよい。例えば BmKr-h1α の -49〜+116(配列番号:13)と組み合わせて用いることができる。あるいは、BmKr-h1β の転写開始部位(配列番号:9の815位のA)周辺の配列を含むような断片も好適である。また、-2165〜-2068(配列番号:12)またはそのJH応答性の断片配列、あるいは、-2165〜-2045、-2165〜-2025、またはそれらのJH応答性の断片配列と組み合わせて用いるのが好ましい。BmKr-h1αイントロンまたはその部分配列を含みJH応答性を上昇させるDNAは、特にSf9やBmN4などの細胞において好適に用いられる。
【0047】
なお本発明のDNAは、Kr-h1遺伝子を含む染色体全体のDNAは含まない。また本発明は、例えば照射や変異原暴露等により生じた、Kr-h1遺伝子を含む断片染色体を構成するようなDNAを含むものでもない。また、accession番号 AADK01001667 (GI number 54108045; Update Date: Oct 12 2004 7:59 PM) で示されるような、カイコ染色体断片の連続配列(コンティグ等)からなるDNAは含まない。本発明のDNAは、好ましくはaccession番号 AADK01001667の少なくとも一部の配列、例えば連続した15、20、50、100、200、500、1000塩基の配列を少なくとも1箇所、好ましくは少なくとも2箇所、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、または7箇所の配列を含まない。具体的には、例えばAADK01001667の 1〜10000番目(配列番号:29)および/または24958〜25957番目(配列番号:30)の少なくとも1箇所、好ましくは少なくとも2箇所、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、または7箇所の連続した15、20、50、100、200、500、1000塩基の配列を含まないものである。例えば本発明のDNAは、配列番号:29またはその相補配列を含まない。より好ましくは、配列番号:29またはその相補配列の連続する800塩基以上の部分配列、より好ましくは600、500、400、300、200、または100塩基以上の部分配列あるいはその相補配列を含まない。また本発明のDNAは、例えば配列番号:30またはその相補配列を含まない。より好ましくは、配列番号:30またはその相補配列の連続する800塩基以上の部分配列、より好ましくは600、500、400、300、200、または100塩基以上の部分配列あるいはその相補配列を含まない。本発明のDNAは通常、Kr-h1遺伝子を含む天然のDNA配列を、連続して25kb以上にわたっては含まない。好ましくは、本発明のDNAは、Kr-h1遺伝子の一部またはKr-h1遺伝子の転写調節領域の一部を含む天然のDNA配列を、少なくとも連続しては20kb以下、好ましくは18kb、15kb、13kb、10kb、9kb、8kb、7kb、または6kb以下しか含まないものである。
【0048】
また本発明は、本発明のMet結合活性またはJH応答性JH応答性を有するDNA(すなわちJHREを含むDNA)を含む所望のプロモーターに関する。JHREは、1個、2、3、4、5、またはそれ以上のコピーを含んでもよい(例えばタンデムに)。またJHに応答して転写を誘導できる限り、順向きおよび逆向きのいずれで使用してもよい。さらに本発明は、JHREを含むDNAに所望のDNAが機能的に連結されているDNAに関する。機能的に連結されているとは、例えば連結されたDNAの転写がJH応答性を示すように連結されていることを言う。連結されるDNAに特に制限はなく、所望の異種遺伝子を連結してよいが、例えば蛋白質をコードするDNA、機能的RNA(アンチセンス、リボザイム、siRNAなど)をコードするDNA、タグ配列などが挙げられる。ここで異種遺伝子とは、JHREに対して、天然において結合している遺伝子以外の遺伝子である。勿論、天然において該転写調節領域のDNAの下流に機能的に連結されている遺伝子(Kr-h1遺伝子)自身を、天然の配列と全く同じではないように連結してもよい。例えば、所望のレポーター遺伝子を連結することにより、JHに反応してレポーター活性を誘導することができる。レポーター遺伝子が連結されたDNAは、様々なアッセイやスクリーニングに有用である。数多くのレポーター遺伝子が知られており、例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ (GUS) 遺伝子、およびGFP遺伝子等を挙げることができる。
【0049】
また本発明のJHREを含むDNAは、上述の通り適当な転写開始部位を含んでよい。転写開始部位は、JHREが由来する遺伝子のものであってもよく、別の遺伝子のものであってもよい。鱗翅目昆虫細胞で利用する場合は、好ましくは鱗翅目昆虫遺伝子の転写開始部位が用いられる。またJHREを含むDNAは、天然の遺伝子とは別の遺伝子の転写調節配列(プロモーターおよび/またはエンハンサー等)を含んでもよい。例えば、所望のプロモーターを、JH応答性を有する本発明の転写調節領域のDNAと組み合わせることによって、転写活性にJH応答性を付与することができる。例えばプロモーターとして、JHREに対して、天然において結合しているプロモーター以外のプロモーター(異種プロモーター)を好適に用いることができる。組み合わせて用いるプロモーターとしては、例えばAutographa californica 核多角体病ウイルスプロモーター(例えば immediate-early 1 (IE-1) 遺伝子プロモーター、delayed-early 39Kプロモーター)、バキュウロウイルスp10プロモーター、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーター、メタロチオネインプロモーター、アクチンプロモーター、リボソーム蛋白質遺伝子、熱ショックタンパク質遺伝子(例えば熱ショックタンパク質70(hsp70))、およびアクチン遺伝子(例えばアクチンA3)のプロモーターなどが挙げられる(図26)。また、哺乳動物細胞等で用いられる所望のプロモーター、例えはアデノウイルス、レトロウイルス、CMV(cytomegalovirus)、およびHSV(Herpes simplex virus)を含むウイルス遺伝子のプロモーター、アクチンプロモーター、EF1αプロモーター等と組み合わせてもよい(図28、29、31)。
【0050】
また本発明は、カイコBmKr-h1蛋白質(配列番号:2および4)をコードするDNA、および鱗翅目昆虫における、カイコBmKr-h1蛋白質の相同蛋白質をコードするDNA、ならびにこれらのDNAによってコードされるRNAおよび蛋白質に関する。これらの核酸および蛋白質は、JHにより高効率に発現が誘導される。従って、これらの核酸および蛋白質は、JHの天然のマーカーとして非常に有用である。
これらの蛋白質および該蛋白質をコードする核酸には多型および/または変異体が含まれる。変異しているDNAまたは蛋白質でもJH応答性が維持されていれば、それらをJHの天然のマーカーとして用いることができる。このような変異には、天然の、または自然に生じた(naturally occurring)変異、および人為的に導入した変異が含まれる。天然型の配列が少数改変されてもその影響は低いので、元の機能は失われず、個体の生存に影響を与える可能性は低い(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413、Bowie et al., Science (1990) 247, 1306-1310)。従って、変異が鱗翅目昆虫細胞においてバイアビリティーおよびJH応答性を失わせない限り、天然の配列からの変異は許容される。また、元の遺伝子の塩基配列に僅かな変異を導入したり、改変体をコードする遺伝子を元の遺伝子と置換すれば、JH応答性を有する元々の遺伝子のプロモーターの制御下に改変体を発現させることができる。これにより、元の遺伝子にタグ配列を挿入したり、特定の制限酵素部位を導入または削除することができる。これらのDNAは、個体において、JHに応じて発現が誘導されるので、個体を使ったJHのアッセイやスクリーニングにおけるマーカーとして有用である。
【0051】
ここで鱗翅目昆虫におけるその相同遺伝子・相同蛋白質には、実施例において単離された遺伝子・蛋白質以外のカイコ遺伝子・蛋白質の多型や変異体を含む。またJH応答性を有するとは、JHまたはそのアゴニストに応答して発現が上昇するか、または発現を上昇させることを言い、遺伝子および蛋白質においては、天然にそれらを発現するある細胞において、それぞれその遺伝子および蛋白質の発現がJHまたはそのアゴニストにより誘導されるか、またはJHまたはそのアゴニストの非存在下に比べて上昇することを言う。JH応答性は好ましくはin vitro、例えばクローナルな細胞集団において観察されるものである。JH応答性を調べるための細胞としては、昆虫細胞、例えば鱗翅目昆虫の脂肪体細胞、胚子由来細胞、卵巣由来細胞等が挙げられ、具体的にはBmN4(Funakoshi Co., Tokyo, Japan)、Sf9(Gidwin, G., et al. 1993, Focus 15, 44; Invitrogen)、Sf21 (Harris, R., et al. 1997, Focus 19, 6; Invitrogen)、SES-BoMo-C129 (NIAS Genebank (National Institute of Agrobiological Sciences Genebank; Tsukuba, Ibaraki, Japan) MAFF No. 275026; 今西重雄 (1998) 昆虫培養細胞系の保存リスト 蚕糸・昆虫農業技術研究所研究資料 24: 45-56)、SES-BoMo-J125K6 (MAFF No. 275032; 今西重雄 (1998) 同上)、NIAS-Bm-aff3細胞(Takahashi, T. et al. (2006) J. Insect Biotech. Sericol. 75: 79-84)、Oyanagi2(Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41)などが用いられる。JHは、天然JHであっても合成JH(例えばメソプレン)であってもよい。合成JHには、JHアゴニスト(JH作動性のJHアナログを含む)が含まれる。
【0052】
すなわち本発明には、カイコBmKr-h1蛋白質(例えば配列番号:2または4)またはその鱗翅目昆虫における相同蛋白質のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸を置換、欠失、および/または付加したアミノ酸配列を含む蛋白質であって、JH応答性を有する蛋白質および該蛋白質をコードするDNAが含まれる。例えばこのようなDNAを非組み換え状態で有する細胞において、該DNA(またはコードされる蛋白質)の発現がJH応答性を有する限り、それらはJHマーカーとして有用である。改変されているアミノ酸は、例えば150アミノ酸以内、好ましくは100以内、80以内、70以内、60以内、50以内、40以内、30以内、20以内、10以内、5以内、または1アミノ酸である。また本発明には、配列番号:2または4のアミノ酸配列と高い同一性(70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは100%)を有するアミノ酸配列からなる蛋白質であって、JH応答性を有する蛋白質が含まれる。ここでJH応答性を有する蛋白質とは、天然のプロモーターの制御下に結合されている状態でJHに応じて発現が誘導または上昇することである。JH応答性は、例えば当該遺伝子を天然に含む細胞をin vitroで培養し、JHを添加して当該遺伝子の発現が誘導または上昇するかどうかを検出することにより確認することができる。
【0053】
また本発明には、カイコBmKr-h1遺伝子のコード配列(例えば配列番号:1または3のCDS)またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子のコード配列において、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含み、JH応答性を有するDNAおよび該DNAによりコードされる蛋白質が含まれる。改変される塩基は、例えば500塩基以内、好ましくは450以内、400以内、350以内、300以内、250以内、200以内、150以内、100以内、80以内、60以内、50以内、40以内、30以内、20以内、15以内、10以内、または5以内である。また本発明には、配列番号:1または3のコーディング配列(CDS)と高い同一性(70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは100%)を有する配列を含み、JH応答性を有するDNAおよびそこにコードされる蛋白質が含まれる。ここでJH応答性を有するとは、天然のプロモーターの制御下に結合されている状態でJHに応じてこのDNAの転写またはそこにコードされている蛋白質の発現が誘導または上昇することである。
【0054】
また本発明のDNAには、カイコBmKr-h1蛋白質(例えば配列番号:2または4)のアミノ酸配列をコードするDNA(例えば配列番号:1または3)から調製したプローブあるいは鱗翅目昆虫におけるその相同遺伝子(オルソログ)のDNAから調製したプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、JH応答性を有するDNAおよびそこにコードされる蛋白質が含まれる。また本発明は、カイコBmKr-h1蛋白質(例えば配列番号:2または4)のアミノ酸配列をコードするDNA(例えば配列番号:1または3)あるいは鱗翅目昆虫におけるその相同遺伝子(オルソログ)のDNA、あるいはそれらの相補鎖と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、JH応答性を有するDNAおよびそこにコードされる蛋白質にも関する。例えばカイコBmKr-h1(配列番号:1または3)からプローブを調製し、ハイブリダイゼーションによりゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを得ることができる。ハイブリダイゼーションの条件は、本明細書に記載した条件を用いればよい。プローブは、例えば配列番号:1または3あるいはそれらのコーディング配列の一部または全部、あるいはその相補配列からなっていてよい。ハイブリダイゼーションにより単離されるDNAは、カイコBmKr-h1と同様に、JHに対する高い応答性を有することが期待できる。すなわち転写される配列およびそこにコードされる蛋白質は、JHに応じて発現が誘導され、転写調節領域のDNAは、機能的に連結された遺伝子の転写をJHに応じて活性化させることができることが期待される。
【0055】
上記の本発明の蛋白質は、適宜他の蛋白質またはペプチドと連結して融合蛋白質とすることができる。融合蛋白質を作製するには、目的の蛋白質をコードするDNA同士をフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。融合に付される他の蛋白質としては、特に限定されないが、例えばマーカー蛋白質やタグペプチドが挙げられる。本発明は、例えば配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列またはその断片の片端または両端に、タグや他の蛋白質など所望のアミノ酸配列が付加された配列からなる蛋白質、該蛋白質をコードする核酸が含まれる。
【0056】
融合に付されるポリペプチドをより具体的に例示すれば、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210)、数個(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, または10)のHis(ヒスチジン)残基、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7タグ、HSVタグ、SV40T抗原の断片等の公知のタグペプチドが挙げられる。付加するポリペプチドの長さは、例えば50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、25アミノ酸以内、20アミノ酸以内、15アミノ酸以内、または10アミノ酸以内であるが、それに限定されない。また、融合に付される他の蛋白質としては、例えば、GST(グルタチオン S-トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合蛋白質)等が挙げられる。GSTやMBPとの融合蛋白質は、インビトロで発現させた蛋白質を回収するためによく用いられている(Guan, C. et al. (1987) Gene, 67, 21-30; Maina, C.V. et al. (1988) Gene, 74, 365-373; Riggs, P.D. (1990) In Expression and Purification of Maltose-Binding Protein Fusions. F.M. Ausebel, R. Brent, R.E. Kingston, D.D. Moore, J.G. Seidman, J.A. Smith and K. Struhl (Eds.), Current Protocols in Molecular Biology, pp. 16.6.1-16.6.10; Bar-Peled and Raikhel (1996) Anal. Biochem. 241:140-142; Brew K, et al. (1975) JBC 250(4):1434-44; H. Youssoufian, (1998) BioTechniques 24(2):198-202)。融合蛋白質の境界部にペプチダーゼ切断配列を設計しておくことにより、蛋白質を精製後にGSTやMBP部分を切り離し、目的の蛋白質だけを回収することができる。
【0057】
また本発明は、本明細書に記載された核酸が挿入されたベクターに関する。当該ベクターには、JH応答性またはMet結合性を有する本発明のDNAを含むベクター、および上記BmKr-h1蛋白質または鱗翅目昆虫の相同蛋白質をコードするDNAを含むベクターが含まれる。ベクターとしては特に制限はないが、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、コスミド、YAC(yeast artificial chromosome)、BAC(bacterial artificial chromosome)、PAC(P1-derived artificial chromosome)、TAC(transformation-competent artificial chromosome)等が利用できる。ウイルスベクターとしては、バキュロウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等が挙げられるが、これらに限定されない。JH応答性またはMet結合性を有する転写調節領域の配列を含むDNA(すなわちJHREを含むDNA)は、その下流に所望の遺伝子が結合されていてもよいし、いなくてもよい。例えば後で所望の遺伝子を挿入できるように、マルチクローニングサイトが連結されていてもよい。本発明は、本発明のJHREを含むベクター、該JHREの制御下に外来遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含むベクター、および、該JHREの下流(例えば10、8、7、6、5、4、3、2、または1kb、あるいはそれら以内)に任意の遺伝子を機能的に挿入するための部位を有する構造のDNAを含むベクターに関する。そのような部位としては、例えば制限酵素認識配列、クロナーゼ等の組み換え酵素標的配列、TAクローニング部位などが挙げられる。本発明のJHREを含むベクターは、JH応答性発現ベクターとして有用である。また、蛋白質コード配列などの転写される配列をコードするDNAは、適宜所望のプロモーター配列が上流に連結されていてもよい。またベクターには、適宜ターミネーターをさらに含んでいてもよい。
【0058】
バキュロウイルスベクターを用いた発現系については、Bailey MJ, Possee RD (1991): Manipulation of baculovirus vectors. In. Murray EJ (ed): "Methods in Molecular Biology." Clifton, NJ: The Humana Press, vol. 7, pp. 147-168、Patel et al., "The baculovirus expression system", in DNA Cloning 2: Expression Systems, 2nd Edition, Glover et al. (eds.), pp. 205-244 (Oxford University Press 1995)、Ausubel (1995) pp. 16-37, 16-57, Richardson (ed.), Baculovirus Expression Protocols (The Humana Press, Inc. 1995)、Lucknow, "Insect Cell Expression Technology", in Protein Engineering: Principles and Practice , Cleland et al. (eds.), pp. 183-218 (John Wiley & Sons, Inc. 1996) なども参考に構築することができる。
【0059】
また本発明は、上記ベクターを保持する宿主に関する。宿主としては、所望の細胞および非ヒト生物であってよく、例えば大腸菌、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、線虫細胞、植物、非ヒト動物(例えば昆虫、線虫 (例えばCaenorhabditis elegans)、哺乳動物 (例えばラット、マウス))等が挙げられる。昆虫としては特に鱗翅目昆虫、より好ましくはカイコガ上科(Bombycoidea)、ヤガ上科(Noctuoidea)、マダラガ上科(Zygaenoidea)、スズメガ上科(Sphingoidea)、スガ上科(Yponomeutoidea)、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)の昆虫が挙げられ、具体的にはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)、スガ科(Yponomeutidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)の昆虫、より好ましくはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、およびゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)昆虫、例えばBombyx属昆虫(例えば Bombyx mori、Bombyx mandalina)、Spodoptera属昆虫(例えば Spodoptera frugiperda)、およびコクヌストモドキ属(Tribolium属)昆虫(例えばTribolium confusum)が挙げられる。
哺乳動物細胞としては、例えばヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、サル細胞が挙げられ、293細胞(ATCC CRL-1573)、HeLa細胞(ATCC CCL-2)などを例示できるが、それらに限定されない。
昆虫細胞としては、例えば鱗翅目昆虫の脂肪体細胞、胚子由来細胞、卵巣由来細胞等が挙げられ、具体的にはBmN4(Funakoshi Co., Tokyo, Japan)、Sf9(Gidwin, G., et al. 1993, Focus 15, 44; Invitrogen)、Sf21 (Harris, R., et al. 1997, Focus 19, 6; Invitrogen)、SES-BoMo-C129 (NIAS Genebank (National Institute of Agrobiological Sciences Genebank; Tsukuba, Ibaraki, Japan) MAFF No. 275026; 今西重雄 (1998) 昆虫培養細胞系の保存リスト 蚕糸・昆虫農業技術研究所研究資料 24: 45-56)、SES-BoMo-J125K6 (MAFF No. 275032; 今西重雄 (1998) 同上) などが挙げられる。またNIAS-Bm-aff3細胞(Takahashi, T. et al. (2006) J. Insect Biotech. Sericol. 75: 79-84)、Oyanagi2(Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41)なども好ましい。JH応答性を有する転写調節領域の配列を含むDNAを用いて、JHによる発現制御やJHのアッセイまたはスクリーニングなどを行う場合は、鱗翅目昆虫細胞に導入することが好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、宿主とベクターに合わせて、例えば、カルシウム法、リン酸カルシウム沈殿法 (Virology, Vol.52, p.456, 1973)、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9; Mandel, M. & Higa, A., Journal of Molecular Biology, 1970, 53, 158-162、Hanahan, D., Journal of Molecular Biology, 1983, 166, 557-580)、酢酸リチウム法(BD Yeastmaker Yeast Transformation System 2, BD Bioscience/Clontech)、リポフェクタミンや各種トランスフェクション試薬(TransITTM Transfection Reagents, Mirus Bio Corporation)を用いた方法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法等の公知の方法で行うことができる。生体内へ導入する場合は、ex vivoまたはin vivoにより導入することができる。
【0060】
また形質転換体は、Met(Methoprene-tolerant)(resistance to juvenile hormone (Rst(1)JH)、または juvenile hormone resistence protein とも呼ばれる)遺伝子(Ashok M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 2761-2766, 1998)がさらに導入されていてもよい。Metは本発明のJHREからのJH依存的な転写を誘導する。従ってMetを発現する宿主細胞に本発明のJHRE(該Metに結合する配列)を含むDNAを導入することによって、該DNAからの転写をJH依存的に誘導することが可能である。Met遺伝子を内在的に発現しない細胞においては、Met遺伝子を導入して発現させることで、JHREからの転写を誘導することができる(図29〜32)。Met蛋白質としては、本発明のDNAに結合またはJH依存的転写を誘導する限り制限はないが、例えばAccession番号 NM_001114985.1 (NP_001108457.1)(Bombyx mori juvenile hormone resistence protein II) が挙げられる。また、それ以外の候補としては、例えば NM_001099342.1 (NP_001092812.1) (Tribolium castaneum methoprene-tolerant)、AY955097.1 (AAX55681.1) (Aedes aegypti)、XM_001864544.1 (XP_001864579.1) (Culex quinquefasciatus)、XM_395005.3 (XP_395005.3) (Apis mellifera)、XM_001606725.1 (XP_001606775.1) (Nasonia vitripennis)、XM_316059.4 (XP_316059.4) (Anopheles gambiae)、NM_078571.2 (NP_511126.2)、NM_078605.1 (NP_511160.1) 等が挙げられる。
【0061】
また本発明は、Met(Methoprene-tolerant)遺伝子が導入された非昆虫真核細胞に関する。驚くべきことに、Metによる転写活性化は昆虫細胞に限られなかった(図29、32)。従って、Metは真核細胞一般において、結合したDNAからの転写をJHに応答して誘導することが期待できる。Met遺伝子としては、例えばAccession番号 NM_001114985.1 (NP_001108457.1)(Bombyx mori juvenile hormone resistence protein II)が挙げられるが、これに限定されない。MetをDNAに結合させるには、本発明のJHREを使用することができる他、例えば配列特異的なDNA結合蛋白質をMetと融合させ、これにより標的配列に特異的にMetを結合させることも可能である(図28)。DNA結合蛋白質としては、例えば配列特異的に結合する様々なDNA結合蛋白質を用いることができるが、GAL4 DNA結合ドメイン(GAL4 DNA-BD) のほか、LexA DNA結合ドメイン、SRF DNA結合ドメイン、MCM1 DNA結合ドメインなどが例示できる。標的DNAを転写調節領域に持つ遺伝子を有する非昆虫真核細胞にJHを添加すれば、JH依存的にその遺伝子の発現を誘導することが可能である。細胞としては、哺乳動物細胞、植物細胞、酵母、線虫細胞を含む所望の真核細胞を用いることができる。また本発明は、上記細胞の、JH依存的発現のための使用を提供する。また本発明は、Met遺伝子が導入された非昆虫真核細胞を含む非ヒト個体にも関する。Met遺伝子が導入された昆虫以外のトランスジェニック真核生物(トランスジェニック動物およびトランスジェニック植物等)は、JHに応答してMetが結合するDNAの転写が誘導される。
【0062】
また本発明は、本発明のDNAのトランスジェニック動物および植物、ならびに該DNAが導入されたその器官、組織および細胞に関する。また本発明は、本発明のDNAを天然に有する昆虫(例えば鱗翅目または鞘翅目昆虫)において、当該DNAに他のDNAが挿入または置換されたノックイン動物に関する。トランスジェニック動植物は、本発明の蛋白質のin vivoにおける生産等に有用である。また本発明のDNAを天然に有する昆虫において、その下流に他の遺伝子をノックインすれば、その遺伝子をJHに応答して発現させることができる。またJHREを含むDNAをカイコ等の鱗翅目昆虫に導入すれば、JHに応答して所望の遺伝子を発現させることができる。宿主として動物を使用する場合、例えば哺乳類動物および昆虫を用いる系がよく知られている。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993; Bio/Technology, Vol.12, p.699-702, 1994)。昆虫としては、例えばカイコを用いることができる(Nature, Vol.315, p.592-594, 1985; Nature Biotech. 21: 52-56, 2002)。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、所望のタンパク質をコードするDNAを植物発現用ベクターに挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ(Nicotiana tabacum等)に感染させ、葉より所望のタンパク質を得ることができる(Eur. J. Immunol., Vol.24, p.131-138, 1994)。
【0063】
ベクターから蛋白質を発現させた場合は、発現した蛋白質を回収することにより組み換え蛋白質を製造することができる。宿主細胞としては、組み換え蛋白質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、大腸菌等のバクテリア、酵母、種々の動植物細胞(昆虫細胞を含む)などを用いることが可能である。宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。宿主細胞内で発現させた組み換え蛋白質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することができる。上記のように、組み換え蛋白質は他の蛋白質との融合蛋白質として発現させてもよい。例えば、マルトース結合蛋白質との融合蛋白質(pMALベクター, New England BioLabs)、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質(pGEXベクター, Amersham Pharmacia Biotech)、ヒスチジンタグを付加した蛋白質(pETベクター, Novagen)として、蛋白質を製造することが可能である。組み換え蛋白質をマルトース結合蛋白質などとの融合蛋白質として発現させた場合には、アミロースカラムなどを用いて容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。GSTとの融合蛋白質として発現した場合は、グルタチオンカラムを、Hisタグを付加した蛋白質は、ニッケルカラムを利用して、蛋白質を精製・回収することができる。
【0064】
本発明の蛋白質はJHに応答して発現するので、該蛋白質およびそれをコードする核酸は、JHのマーカーとして使用することができる。すなわち本発明は、本発明の蛋白質またはその断片、あるいはそれらのコードする核酸(例えば転写される配列またはその一部)を含むJHマーカーに関する。また本発明は、これらの蛋白質および核酸のJHマーカーとしての使用に関する。ここで、JHとはJHアゴニスト、JHの作動性アナログを含む。例えばJHのアゴニストやアンタゴニストをスクリーニングする際に、細胞に被験化合物を添加し、これらのマーカーを検出する。発現を誘導する化合物は、JHアゴニストの候補となる。またJH存在下で発現を調べれば、JHアンタゴニストをスクリーニングすることも可能である。
【0065】
蛋白質の発現は、例えばその蛋白質に結合する抗体により検出することができる。抗体は、本発明の蛋白質またはその断片を含むポリペプチドを免疫原として、周知の方法により作製することができる。すなわち、本発明の蛋白質またはその抗原性断片を含むポリペプチドは、それに結合する抗体を含むJHマーカー検出用組成物を作製するための試薬となる。例えば配列番号:2または4(BmKr-h1)のアミノ酸配列をコードする遺伝子またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子からなるJH応答性を有するDNAがコードする蛋白質およびそれらの断片は、該蛋白質の発現を検出するための抗体を作製するために有用である。断片の長さは、免疫原性があるものであればよいが、例えば8アミノ酸またはそれ以上、好ましくは9アミノ酸またはそれ以上、より好ましくは10、11、12、13、14、15、16、18、20、25、28、30、35、40、50、または60アミノ酸またはそれ以上である。また、断片には、さらにアミノ酸またはポリペプチドが付加されていてもよい。それらは上記の断片と融合蛋白質として結合していてもよいし、別の結合形態で、例えば共有結合または非共有結合により結合していてもよい。付加されるアミノ酸の数は、例えば30アミノ酸以下、好ましくは25、20、18、15、13、10、8、5、3、2アミノ酸またはそれ以下、例えば1アミノ酸である。例えば抗原として用いる場合は、血清アルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの所望のキャリア蛋白質と結合させて用いることができる。
【0066】
断片として特に好ましい部位は、例えば配列番号:2の1〜44番目からなる断片(好ましくは1〜34番目からなる断片)、228〜268番目からなる断片、275〜348番目からなる断片、配列番号:4の1〜57番目からなる断片(好ましくは1〜47番目からなる断片、さらに好ましくは1〜15番目からなる断片)、あるいはそれらの断片の部分配列であって、少なくとも8アミノ酸、好ましくは少なくとも9、10、11、12、13、14、15、16、18、20、50、100アミノ酸またはそれ以上の断片である。これらの断片またはその部分配列からなる断片を含むポリペプチドは、それに結合する抗体の作製に有用である。
【0067】
また本発明は、本発明の蛋白質またはその断片に結合する抗体に関する。当該抗体は、好ましくは配列番号:2または4(BmKr-h1)のアミノ酸配列からなる蛋白質またはその鱗翅目昆虫における相同蛋白質であってJH応答性を有する遺伝子から天然に発現される蛋白質に特異的に結合する抗体である。特異的に結合するとは、該蛋白質に対して、他の蛋白質に対するよりも有意に強く結合することを言い、好ましくは他の蛋白質には実質的に(すなわち非特異的抗体を使った対照と比べ有意に強くは)結合しない抗体である。例えば、配列番号:2または4(BmKr-h1)のアミノ酸配列からなる蛋白質または鱗翅目昆虫における相同蛋白質に対する結合が、他の昆虫の相同蛋白質、例えばショウジョウバエの相同蛋白質に対する結合よりも強いものが好ましい。抗体の結合性は、周知の方法により、例えば解離定数(Kd)を算出することにより決定できる。本発明の抗体は、カイコBmKr-h1または鱗翅目昆虫の相同蛋白質に対する親和性が、ショウジョウバエの相同蛋白質(accession number NP_477467.1 (GI No. 17137730, Version 1, Undate date: Jan 4 2008 7:45 PM) および accession number NP_477466.1 (GI No. 17137728, Version 1, Undate date: Jan 4 2008 7:45 PM))(配列番号:6および8) に対する親和性よりも高いものであって、好ましくは有意に、より好ましくは2倍以上、より好ましくは5、8、10、20、50、100、200倍以上高い。あるいは当該抗体は、同じモル数の蛋白質を標的とした場合、ショウジョウバエの相同蛋白質に比べ、鱗翅目昆虫の相同蛋白質に対するシグナル強度が有意に高いことが好ましく、より好ましくは2倍以上、より好ましくは5、8、10、20、50、100、200倍以上高い。抗体を用いた蛋白質の検出は、ウェスタンブロットまたは免疫沈降などの周知の方法により実施することが可能である。特に、ショウジョウバエの相同蛋白質の断片とは一致しない断片(好ましくは同一性が80%以下、例えば75、70、65、または60%以下)、例えば、配列番号:2の1〜44番目からなる断片(好ましくは1〜34番目からなる断片)、228〜268番目からなる断片、275〜348番目からなる断片、配列番号:4の1〜57番目からなる断片(好ましくは1〜47番目からなる断片、さらに好ましくは1〜15番目からなる断片)、あるいはそれらの断片の部分配列であって、少なくとも8アミノ酸、好ましくは少なくとも9、10、11、12、13、14、15、16、18、20、50、100アミノ酸またはそれ以上の断片に結合する抗体は、本発明において好適である。
【0068】
本発明の抗体は、上述の通り、本発明の蛋白質またはその部分ペプチドを抗原として用いることにより調製することが可能である。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明の蛋白質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去した血清より調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記蛋白質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual, E. Harlow and D. Lane, ed., Cold Spring Harbor Laboratory (Cold Spring Harbor, NY, 1988))。これにより得られた抗体は、本発明の蛋白質の検出などに利用することが可能である。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、およびこれら抗体の抗原結合部を含むポリペプチド(Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、およびsingle chain Fv (scFv) などを含む)が含まれる。また本発明は、抗血清などの、上記抗体を含む組成物にも関する。
【0069】
本発明のJH応答性遺伝子およびその発現は、本発明のDNAを基に調製したプローブまたはプライマー等を用いて、ノーザンハイブリダイゼーションまたはRT-PCR等により検出することもできる。本発明は、カイコBmKr-h1蛋白質(例えば配列番号:2または4)のアミノ酸配列をコードする遺伝子(例えば配列番号:1または3)またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子の塩基配列あるいはそれらの相補配列の少なくとも一部を含む核酸に関する。このような核酸は、好ましくは上記遺伝子(配列番号:1または3あるいはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子)の転写される配列(特にCDS)あるいはそれらの相補配列の連続する少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、30、33、35、40、45、50、55、60、100、200、300ヌクレオチドまたはそれ以上を含む。またこのような核酸は、好ましくはゲノム上で隣接する他の遺伝子の塩基配列(例えば隣の遺伝子の転写される配列)またはその相補配列を部分的にも含まない。またこのような核酸は、例えば、上記遺伝子(配列番号:1または3あるいはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子)の塩基配列またはそれらの相補配列を含むゲノムDNAの塩基配列の連続する20000ヌクレオチド以上は含まない核酸、例えば連続する15000、10000、8000、5000、3000、2000、1000、500、300、250、200、150、100、80、60、50、45、40、35、30、25、または20ヌクレオチド以上は含まない核酸であってよい。また核酸の全長は、20000ヌクレオチド以下、例えば15000、10000、8000、5000、3000、2000、1000、500、300、250、200、150、100、80、60、50、45、40、35、30、25、または20ヌクレオチド以下であってよい。これらの核酸は、遺伝子の発現を検出するためのプローブまたはプライマーとして、あるいは、鱗翅目昆虫における相同遺伝子を単離するためのプローブまたはプライマーとして有用である。
【0070】
また本発明は、カイコBmKr-h1遺伝子(配列番号:1または3)またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子からなるDNA、またはその相補配列からなるDNAに、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸に関する。ストリンジェントな条件とは、具体的には本明細書に記載した条件である。このような核酸は、好ましくは配列番号:1または3またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子の塩基配列あるいはそれらの相補配列と70%、好ましくは80%、90%、95%、またはそれ以上の同一性を有する。核酸の全長は、20000ヌクレオチド以下、例えば15000、10000、8000、5000、3000、2000、1000、500、300、250、200、150、100、80、60、50、45、40、35、30、25、または20ヌクレオチド以下であってよい。
【0071】
上記核酸は、好ましくはカイコBmKr-h1遺伝子(配列番号:1または3)またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子からなるDNAまたはその相補配列からなるDNAに特異的にハイブリダイズする核酸である。特異的にハイブリダイズするとは、該DNAまたはその相補配列からなるDNAに対して、他の核酸に対するよりも有意に強くハイブリダイズすることを言い、好ましくは他の核酸には実質的に(すなわちバックグラウンドと比べ有意に強くは)ハイブリダイズしないことを言う。例えば、配列番号:1または3、あるいは鱗翅目昆虫における相同遺伝子またはそれらの相補配列からなるDNAに対するハイブリダイゼーションが、鱗翅目以外の昆虫の相同遺伝子、例えばショウジョウバエの相同遺伝子(accession number NM_058119 (GI No. 24582139, Version 3, Undate date: Jan 4 2008 7:45 PM) および accession number NM_058118 (GI No. 24582138, Version 3, Undate date: Jan 4 2008 7:45 PM))(配列番号:5および7) またはその相補配列からなるDNAに対するハイブリダイゼーションよりも強いものが好ましい。核酸のハイブリダイゼーションの強度は、周知の方法、例えば同じモル数をブロットしたメンブレンに対してハイブリダイゼーションを行い、シグナルの強さを比較することにより知ることができる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば本明細書に記載した条件であってよく、両者のシグナルの差を最大化するために、温度を上げるなどして適宜調節することができる。本発明の核酸は、カイコBmKr-h1または鱗翅目昆虫の相同遺伝子に対するハイブリダイゼーションのシグナルが、ショウジョウバエの相同遺伝子に対するそれよりも、少なくともある最適化されたハイブリダイゼーションの条件下において、好ましくは2倍以上、より好ましくは5、8、10、20、50、100、200倍以上高い。その溶解温度(Tm)の差は、例えば 5℃以上、好ましくは7、8、9、10、11、12、13、14、15、18、20、25、30℃またはそれ以上である。
【0072】
また上記核酸の、完全に相補的なDNAに対するTmは、モノカチオン濃度150mM、ホルムアミド不含の条件下で、例えば50℃以上、好ましくは55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、または75℃以上である。Tmは、20mer程度のヌクレオチドであればTm = 2x(A+T) + 4x(G+C) により、より長いヌクレオチドであれば、DNA/DNAハイブリッドは Tm = 81.5 + 16.6(log(M)) + 0.41(%GC) - 500/n で、DNA/RNAハイブリッドは Tm = 79.8 + 18.5(log(M)) + 0.58(%GC) - 11.8(%GC)^2 - 820/n で近似される(ここで、Mはモノカチオンのモル濃度、nはヌクレオチドの鎖の長さを表す)。1%のミスマッチは、Tmを約1.4℃上昇させる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994); Wetmur JG, Davidson N (1968) J Mol Biol 31: 349-370; Casey J, Davidson N (1977) Nucleic Acids Res 4: 1539-1552)。
【0073】
上記核酸、抗体、および抗体の抗原結合部位を含むポリペプチドは、本発明の遺伝子および蛋白質を検出するための試薬として用いることができる。また本発明の遺伝子および蛋白質は、JHに応答して発現が誘導または促進されるので、上記核酸または抗体等を用いてその発現を検出することにより、JHのアッセイを行うことができる。本発明は、上記核酸、抗体、または抗体の抗原結合部位を含むポリペプチドのJHのアッセイにおける使用、JH検出における使用、およびJH測定における使用に関する。また本発明は、上記核酸、抗体、または抗体の抗原結合部位を含むポリペプチドを含むJH検出剤、およびJH測定剤に関する。これらの試薬は、単体として用いることもできるし、例えば核酸であれば、センス鎖プライマーとアンチセンス鎖プライマーを組み合わせてもよい。センス鎖とアンチセンス鎖のプライマーのペアは、本発明の遺伝子の発現をRT-PCRにより検出するために有用である。また本発明は、上記核酸、抗体、または抗体の抗原結合部位を含むポリペプチドを含む、JHアッセイ用組成物、JH検出用組成物、およびJH測定用組成物にも関する。組成物は、適当な担体および/または媒体、例えば水、生理食塩水、pH緩衝液、その他の薬学的に許容される所望の担体と組み合わせてよい。また本発明は(a)上記核酸、抗体、および抗体の抗原結合部位を含むポリペプチド、および(b)JH、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むパッケージおよびキットに関する。このパッケージおよびキットは、JHの検出、アッセイ、または測定のために用いることができる。
【0074】
また本発明は、JH(JHアゴニストを含む)またはJHアンタゴニストによる発現制御における、JH応答性またはMet結合活性を有する上記本発明のDNAの使用に関する。ここで発現制御とは、JHおよび/またはJHアンタゴニストにより、発現を上昇および/または低下させることである。転写調節領域中の配列を含むJH応答性DNA(JHREを含むDNA)は、その制御下のDNAの発現を、JHまたはJHアンタゴニストに応答して制御できる。従って、例えばJHまたはJHアゴニストを添加することにより発現を上昇させることができ、JHまたはJHアゴニストを除去することにより発現を低下させることができる。またJHアンタゴニストにより発現を抑制することができ、JHアンタゴニストを除去することにより発現を上昇させることができる。発現制御のためには、標的とするDNAを、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNA(JHREを含むDNA)の制御下になるよう配置する。すなわち本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNAの制御下に標的とするDNAを配置することを含む、該DNAの発現をJH(JHアゴニストを含む)またはJHアンタゴニストにより発現制御可能なDNA構築物を製造する方法に関する。また、このDNA構築物を含む細胞にJH(JHアゴニストを含む)またはJHアンタゴニストを添加または除去することを含む、該標的DNAの発現をJH(JHアゴニストを含む)またはJHアンタゴニストにより制御する方法にも関する。また本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNAを含むエンハンサーを提供する。エンハンサーとは、転写を増強するための配列である。本発明のエンハンサーは、JHに応答して転写を活性化するために使用される。エンハンサーは、発現ベクターなどの発現ユニットを含む核酸の転写調節領域に組み込んで使用することができる。またJHに応答して転写を活性化するための配列は、JH応答エレメントとも言う。本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNAの、JH応答エレメントとしての使用を提供する。JH応答エレメントは、発現ベクターなどの発現ユニットを含む核酸の転写調節領域に組み込んで、JHに応答して下流の遺伝子を発現させるために使用することができる。JHにより発現を制御する際に、さらにエクジソンを組み合わせることもできる。エクジソンとしては、20-ヒドロキシエクジソン (20E) を用いることができる。JH(JHアゴニストを含む)とエクジソンを組み合わせることで、JH単独と比べて発現誘導効果は増強され得る。用いられるDNAとしては、例えば配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子の転写調節領域のDNA、および鱗翅目昆虫における相同遺伝子の転写調節領域の配列を含むDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNAが含まれる。さらに、それらの転写調節領域の配列を含むDNAにおいて、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加したDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA、およびそれらの転写調節領域の配列を含むDNAから調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNAが含まれる。
【0075】
例えば、本発明のDNAの下流(センス鎖における3'側)に、標的となるDNAを機能的に連結することにより、標的DNAの発現を、本発明のDNAの制御下におくことができる。「機能的に連結した」とは、標的DNAの転写がJHに応答して誘導または促進されるように結合されていることを言う。またプロモーターとしては、適宜所望のプロモーターを用いることができる。プロモーター活性を有するDNAと標的遺伝子を機能的に連結させることは、当業者においては一般的な遺伝子工学技術を用いて、簡便に行い得ることである。また本発明のJHREは、標的DNAに直接連結していなくても、JHに応じて標的DNAの転写が誘導または促進されるように、間接的に配置することもできる。例えば、標的DNAを構成的プロモーター(恒常的活性化プロモーター)の下流に連結しておき、その間に、配列特異的組み換え酵素の標的配列のペアに挟まれたスペーサーDNAが挿入されたDNA構築物を作製する。スペーサーDNA中には、転写終結配列(ターミネーター)が含まれることが好ましく、あるいは、蛋白質の翻訳を妨げるように、ストップコドンが存在してもよい。そして、JHREを含むプロモーターの下流に、該配列特異的組み換え酵素をコードするDNAを連結する。JHに応答して、JHREを含むプロモーターから配列特異的組み換え酵素が発現し、それにより構成的プロモーターと標的DNAの間にあるスペーサーDNAが取り除かれ、標的DNAの発現が誘導される。このように、間接的にJHREを含むプロモーターと標的DNAを機能的に連結し、JHREを含むプロモーターの制御下に標的DNAを配置することもできる。配列特異的組み換え酵素としては、CreリコンビナーゼやFlpリコンビナーゼがよく用いられる。本発明は、本発明のJH応答性DNA(JHREを含むDNA)の下流にCreリコンビナーゼやFlpリコンビナーゼなどの配列特異的組み換え酵素をコードするDNAが結合した核酸にも関する。JHREによる発現の制御は、in vitroおよびin vivoにおいて実施することができる。JHREを含むDNAを鱗翅目昆虫に導入したトランスジェニックは、JHに応答して目的の遺伝子の発現を制御するために用いることができる。また、後述のJHアッセイやスクリーニングにおいても有用である。
【0076】
また本発明は、本発明のJH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)を含む、JHまたはそのアンタゴニストによる発現制御剤(発現誘導剤、抑制剤)に関する。本制御剤は、転写調節領域に組み込むことにより、JH等に応答して下流の遺伝子の発現を制御することができる(すなわちJH応答性転写エンハンサーとしての使用)。また本制御剤は、JH応答を阻害するためにデコイとして用いることもできる。また本発明は、本発明のJHREを含むDNAの、JHまたはそのアンタゴニストによる発現制御における使用に関する。また本発明は、JHREを含むDNAの制御下に配置された、目的とするDNAを含む細胞において、JHまたはそのアンタゴニストを作用させるおよび/または除去する工程を含む、目的とするDNAの発現を制御(それぞれ促進および/または抑制)する方法に関する。
【0077】
また本発明は、(a)本発明のJH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)、および(b)Met(Methoprene-tolerant)をコードする核酸または該核酸が導入された細胞を含むパッケージおよびキットに関する。Met遺伝子としては、例えばAccession番号 NM_001114985.1 (NP_001108457.1)(Bombyx mori juvenile hormone resistence protein II) が挙げられるが、これに限定されない。このパッケージおよびキットは、JH、そのアゴニスト、またはアンタゴニストをさらに含んでもよい。また本発明は、(a)本発明のJH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)、および(b)JH、そのアゴニスト、またはアンタゴニストを含むパッケージおよびキットに関する。これらのパッケージおよびキットは、標的DNAの発現をJHまたはそのアゴニスト、アンタゴニストにより制御するために有用である。このパッケージおよびキットは、細胞をさらに含むことができる。細胞としては、Metを発現する細胞が好ましい。また本発明は、(a)本発明のJH応答性の転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)、および(b)鱗翅目または鞘翅目昆虫細胞を含むパッケージおよびキットに関する。鱗翅目または鞘翅目昆虫細胞としては特に制限はないが、JH応答性の高い細胞が好ましい。好ましい細胞としては、例えばカイコガ上科(Bombycoidea)、ヤガ上科(Noctuoidea)、マダラガ上科(Zygaenoidea)、スズメガ上科(Sphingoidea)、スガ上科(Yponomeutoidea)、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)昆虫の細胞が挙げられ、具体的にはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)、スガ科(Yponomeutidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、より好ましくはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、およびゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、例えばBombyx属昆虫(例えば Bombyx mori、Bombyx mandalina)、Spodoptera属昆虫(例えば Spodoptera frugiperda)およびコクヌストモドキ属(Tribolium属)の細胞が挙げられる。特に脂肪体細胞、胚子由来細胞、卵巣由来細胞等に由来する細胞を用いることができる。
より具体的にはBmN4(Funakoshi Co., Tokyo, Japan)、Sf9(Gidwin, G., et al. 1993, Focus 15, 44; Invitrogen)、Sf21 (Harris, R., et al. 1997, Focus 19, 6; Invitrogen)、SES-BoMo-C129 (NIAS Genebank MAFF No. 275026)、SES-BoMo-J125K6 (MAFF No. 275032)、NIAS-Bm-aff3細胞(Takahashi, T. et al. (2006) J. Insect Biotech. Sericol. 75: 79-84)、Oyanagi2(Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
また本発明は、本発明のJH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程を含む転写活性の検出方法に関する。また本発明は、該JH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程を含む、JH作用のアッセイ方法を提供する。JH作用のアッセイ方法は、具体的には、(a)該DNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程、(b)転写活性の上昇はJH作用の上昇、転写活性の低下はJH作用の低下に関連づける工程、を含む方法である。ここでJH作用のアッセイとは、JH、JHアゴニスト、またはJHアンタゴニスト、あるいはそれらの活性を定性的および/または定量的に測定することをいい、これらの活性の有無の検出、活性レベルの決定などであってよい。JHREを含むDNAの転写活性は、JHに応じて上昇する。従って、転写活性が上昇すれば、JHの作用が上昇したことが分かり、転写活性が低下すれば、JHの作用が低下したことが分かる。例えば2つの試料について転写活性を測定し、2つの試料間における転写活性の違いにより、JHの作用のレベルを比較することができる。2つの試料は、互いに別の試料であってもよいし、同じ試料を異なる時間に測定したものであってもよい。また、一方の試料として、予めJH濃度が分かっているものを使用することにより、他方の試料に含まれるJHレベルを定量することもできる。このような方法も、上記の本発明の方法に含まれる。
【0079】
このアッセイは、JHREを含むDNAを含む天然の鱗翅目昆虫またはその細胞(例えば非遺伝子組み換え体、あるいは遺伝子組み換え体ではあっても、本発明のJHREを含むDNAを含まないDNAについて組み換えたもの)を用いて実施することもできるし、あるいはJHREを含むDNAに適当な異種遺伝子を連結したDNAを導入した細胞または個体(例えば鱗翅目または鞘翅目昆虫細胞)あるいは鱗翅目または鞘翅目昆虫を用いて実施することもできる。またJHに応答してJHREからの転写を活性化させる限り、昆虫細胞以外でも所望の細胞を用いて実施することが可能で、例えばMetを強制発現する細胞を用いることもできる(図29、32)。JHREを含むDNAを導入していない昆虫細胞を用いる場合は、内在性のKr-h1 mRNAまたはKr-h1蛋白質の発現を検出することができる。JHREを含むDNAを導入した細胞を用いる場合は、その制御下の遺伝子の発現を検出すればよく、JHREを含むDNAの下流にレポーター遺伝子を連結した場合はその遺伝子の発現を、また下流にCreリコンビナーゼ等を連結して、Cre/loxP系により間接的に他の遺伝子を発現させる場合は、適宜指標となる遺伝子の発現を検出すればよい。またこのアッセイは細胞や組織、または個体を用いて行ってよく、例えば培養細胞系、組織培養系、または器官培養系などを用いたin vitroのアッセイ、並びに個体を用いたin vivoアッセイが含まれる。用いられる細胞や組織、器官、個体は適宜選択されるが、好ましくは鱗翅目または鞘翅目昆虫、例えばカイコガ上科(Bombycoidea)、ヤガ上科(Noctuoidea)、マダラガ上科(Zygaenoidea)、スズメガ上科(Sphingoidea)、スガ上科(Yponomeutoidea)、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)昆虫に由来するものであり、具体的にはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)、スガ科(Yponomeutidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)昆虫、より好ましくはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、およびゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)昆虫、例えばBombyx属昆虫(例えば Bombyx mori、Bombyx mandalina)、Spodoptera属昆虫(例えば Spodoptera frugiperda)およびコクヌストモドキ属(Tribolium属)に由来するものが用いられる。特に脂肪体細胞、胚子由来細胞、卵巣由来細胞等に由来する細胞を好適に用いることができる。
より具体的にはBmN4(Funakoshi Co., Tokyo, Japan)、Sf9(Gidwin, G., et al. 1993, Focus 15, 44; Invitrogen)、Sf21 (Harris, R., et al. 1997, Focus 19, 6; Invitrogen)、SES-BoMo-C129 (NIAS Genebank MAFF No. 275026)、SES-BoMo-J125K6 (MAFF No. 275032)、NIAS-Bm-aff3細胞(Takahashi, T. et al. (2006) J. Insect Biotech. Sericol. 75: 79-84)、Oyanagi2(Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
上記のアッセイは、様々な化合物がJH作用に及ぼす影響を試験するために特に有用である。すなわち本発明は、本発明のJH応答性の転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程を含む、JH作用をアッセイする方法であって、該工程が被験化合物の存在下で行われ、それによりJHの作用に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法に関する。すなわち本発明は、JHの作用に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法であって、被験化合物の存在下で、該DNAの転写活性を検出する工程を含む方法を提供する。また本発明は、被験化合物の存在下で、該DNAの転写活性を検出する工程を含む、該転写活性に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法そのものにも関する。被験化合物がJH活性を持つ場合、転写活性は上昇する。それを検出することで、JH作用の定性的または定量的な検出が可能となる。JH活性を定量するには、例えば予め決まった濃度のJHを含む1つまたは複数の試料をレファレンスとして用いてアッセイを行い、それらの値と比較すればよい。
【0081】
具体的には本発明は、(a)被験化合物の存在下で、JH応答性転写活性を有する本発明のDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程、および(b)被験化合物による転写活性の上昇はJH作用の上昇、転写活性の低下はJH作用の低下に関連づける工程を含むアッセイ方法を含む。天然の細胞、組織、または個体を用いて検出を行う場合は、本発明のJHマーカー(Kr-h1 mRNAまたは蛋白質)の発現を検出する。レポーターアッセイを行う場合は、上記JHREを含むDNAの制御下にレポーター遺伝子を発現させ、レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。被験化合物の非存在下、あるいは低濃度存在下に比べて発現を誘導または上昇させる化合物は、JHアゴニストの候補となる。本発明は、そのような化合物を選択する工程をさらに含む、JHの作用を上昇させる化合物のスクリーニング方法にも関する。
【0082】
被験化合物としては特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。被験化合物は、単体または他の化合物と組み合わせて適用してよい。例えば、未知の化合物を含み得る被験試料を用いてもよい。被験化合物は、例えば細胞の培養液への添加、個体への経口投与または注射などにより投与される。被検化合物が核酸または蛋白質の場合には、例えば、ベクターを導入して発現させてもよい。被験化合物の非存在下において測定した場合(対照)と比較して、被験化合物が発現レベルを変化させれば、被験化合物がJHREの転写活性を調節する化合物であることが分かる。
【0083】
被験化合物がJHアンタゴニストとしての活性を持つ場合、転写活性は低下する。それを検出することで、JH作用をアンタゴナイズする活性の定性的または定量的な検出が可能となる。JHアンタゴニストのアッセイを行う場合、例えばJHまたはJHアゴニストの存在下でアッセイを行ってもよい。すなわち本発明は、JH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程を含む、JH作用のアッセイ方法であって、該工程が、(i) 被験化合物、および (ii) JHまたはJHアゴニストの存在下で行われ、それによりJH作用を低下させる被験化合物の活性を検出する方法に関する。より簡潔には、本発明は、JHの作用に及ぼす被験化合物の効果(特にJHの作用を低下させる効果)を検出する方法であって、(i) 被験化合物、および (ii) JHまたはJHアゴニストの存在下で、該DNAの転写活性を検出する工程を含む方法を提供する。また本発明は、(i) 被験化合物、および (ii) JHまたはJHアゴニストの存在下で、該DNAの転写活性を検出する工程を含む、該転写活性に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法そのものにも関する。
【0084】
具体的には本発明は、(a)(i) 被験化合物、および (ii) JHまたはJHアゴニストの存在下で、JH応答性の転写活性を有する本発明のDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程、および(b)被験化合物による転写活性の上昇はJH作用の上昇、転写活性の低下はJH作用の低下に関連づける工程を含むアッセイ方法を含む。被験化合物の非存在下、あるいは低濃度存在下に比べて発現を低下させる化合物は、JHアンタゴニストの候補となる。本発明は、そのような化合物を選択する工程をさらに含む、JHの作用を低下させる化合物のスクリーニング方法にも関する。アッセイおよびスクリーニングの実施においては、以下の文献も参照のこと:「昆虫テクノロジー研究」に関する調査報告書」平成19年3月 社団法人 農林水産先端技術産業振興センター pp. 30-31, pp. 85-87, pp. 193-197;昆虫テクノロジー研究とその産業利用(2005) 川崎健次郎・野田博明・木内信 監修 シーエムシー出版 pp. 190-197;WO01/002436; WO97/13864; WO98/46724; 特開2004-283080。
【0085】
また本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNAとMet蛋白質を、JHまたはJHアゴニストの存在下で共存させる工程を含む、Met蛋白質と該DNAとを相互作用させる方法に関する。本発明において、Met蛋白質がJHREに結合する転写活性化因子であることが判明した。両者を結合させることで、該DNAの下流の遺伝子の転写を活性化させることができる。また、両者の結合を調節する化合物をスクリーニングすれば、JH作用を調節する化合物を得ることができる。例えば害虫や天敵昆虫などのMetとJHREとの相互作用を検出することにより、それらの生物に対するJHアゴニスト、アンタゴニストのアッセイやスクリーニングが可能となる。
【0086】
また本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAおよびMet蛋白質を接触させる工程、および両者の結合を検出する工程を含む、該DNAと該Met蛋白質との結合を検出する方法に関する。両者の接触は、適宜JH、JHアナログ等の存在下で行う。また本発明は、被験化合物の存在下で該DNAと該Met蛋白質とを接触させる工程、および該DNAと該Met蛋白質との結合を検出する工程を含む、被験化合物が該結合に及ぼす効果を検出する方法に関する。被験化合物の非存在下と比べて、該結合が増強されれば、その化合物は該結合を促進する化合物と判断される。被験化合物の非存在下と比べて、該結合が低下すれば、その化合物は該結合を阻害する化合物と判断される。該結合を増強または低下させる化合物を選択する工程により、該DNAと該Met蛋白質との結合を促進または抑制する化合物のスクリーニングを実施することができる。
【0087】
スクリーニングによリ得られる化合物は、JHアゴニストまたはJHアンタゴニストとして用いることができ、例えば、JHの作用を制御することにより、脱皮や変態などを制御するために使用することができる。化合物は、適宜、所望の担体および/または媒体と組み合わせて組成物とすることができる。担体および/または媒体としては、例えば滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤等が挙げられる。これらの化合物および組成物は、JH撹乱作用を利用した、昆虫特異的な殺虫剤(insecticide)、昆虫成長抑制剤(insect development inhibitor (IDI))、昆虫成長制御剤(insect growth regulator (IGR))等として利用できる。
【実施例】
【0088】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書に引用された文献は全て本明細書の一部として組み込まれる。
【0089】
〔実施例1〕カイコKruppel-homolog 1 (BmKr-h1) cDNAのクローニング
完全長アラタ体cDNAに由来するESTデータベースの構築
カイコ4齢幼虫(品種;はばたき)約2000頭を解剖してアラタ体(側心体を含む)を集め、総RNAを抽出した。得られた約20μgのRNAを用いてV-キャッピング法(日立ハイテクサイエンスシステムズ)によって完全長アラタ体cDNAライブラリを作製した。このライブラリから無作為に2万クローンを抽出して5'- および 3'- 側からシークエンスを行い、約3万のEST配列からなるデータベースを構築した。
【0090】
BmKr-h1 cDNAおよび遺伝子の配列および構造
上記で構築したカイコアラタ体完全長ESTデータベースから同一の遺伝子に由来すると考えられる6個のクローンを同定した。この6クローンがコードし得るアミノ酸配列を調べたところ、ショウジョウバエKruppel-homolog 1 (Kr-h1; CG18783) のアミノ酸配列(配列番号:6および8)に対して相同性を有し、オルソログと考えられた。そのうち5クローン(fcaL-P41K11, fcaL-P35K20, fcaL-P53H11, fcaL-P02L21, fcaL-P07E22)は、5' 末端配列が同一であり、完全長cDNAと考えられた。他の1クローン(fcaL-P37A01)は5' 末端配列が異なっており、異なるプロモーターから転写されるアイソフォーム(β-isoform)と考えられた。
前者から2クローン (fcaL-P02L21, fcaL-P07E22) を選び全長の配列をシークエンスしたところ両者の配列は完全に一致した。この配列をBmKr-h1(α-isoform)としてDDBJに登録した(アクセッション番号;AB360766)。
BmKr-h1 cDNAの塩基配列を配列番号:1に、予測アミノ酸配列を配列番号:2に示した。本cDNAは1918bpで、123bpの5'-UTR、1047bpのORF(124-1170 (ストップコドンを含む))、および748bpの3'-UTRを含んでいた。ORFには、348アミノ酸残基からなるペプチドがコードされていた(配列番号:2)。カイコ (BmKr-h1) と、ショウジョウバエ (DmKr-h1)、コクヌストモドキ (TcKr-h1)、ミツバチ (AmKr-h1) のオルソログ間のホモロジー(アミノ酸配列一致率)は、それぞれ32.4%、37.7%、42.0% であった。
【0091】
〔実施例2〕BmKr-h1遺伝子の構造
BmKr-h1 cDNA配列を用いてNCBIに登録されているカイコゲノム配列を検索し、BmKr-h1遺伝子を含むDNA配列を同定し、両者の比較により、遺伝子構造およびプロモーター配列を同定した。
具体的には、上記のBmKr-h1 cDNA配列を用いてNCBIに登録されているカイコゲノム配列を検索(blastn)した結果、同遺伝子を含むゲノム断片配列情報 (25957bp) を得た(DDBJアクセッション番号;AADK01001667)。BmKr-h1 cDNA配列およびゲノム配列(AADK01001667)を比較した結果、BmKr-h1α遺伝子は、第1エクソン(130bp)、第2エクソン(1788bp)および812bpのイントロンから構成され、翻訳は第1エクソンの124bpから開始され、第2エクソンの1170bp(cDNAでの位置)で停止すると予想された(図1)。
一方、β-アイソフォームの遺伝子構造は、α-アイソフォームのイントロンの途中に転写開始部位および翻訳開始コドンを有しており、α-アイソフォームの第2エクソンとインフレームで繋がる単一のエクソンからなっていた(図2)。β-アイソフォームのcDNAの塩基配列およびコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:3および4に示す。β-アイソフォームは361アミノ酸残基からなり、α-アイソフォームのN末端の2残基およびβ-アイソフォームのN末端の15残基は、それぞれのアイソフォームにユニークな配列であった。
【0092】
〔実施例3〕JHによるBmKr-h1遺伝子の誘導 (定量PCR)
各種のカイコ培養細胞にJH (JHミミックを含む) を処理後、RNAを抽出し、定量RT-PCRにより、BmKr-h1遺伝子がJHにより誘導されるかどうかを調べた。また、対照実験として脱皮ホルモン (20-ヒドロキシエクジソン) や、JH類縁物質に対する応答も調べた。また、比較のためショウジョウバエS2細胞におけるDmKr-h1遺伝子のJHに対する応答も調べた。詳細な実験手順を以下に示す。
【0093】
[方法]
細胞培養およびホルモン処理
カイコ脂肪体由来細胞株NIAS-Bm-aff3(aff3と略記; Takahashi, T. et al., J. Insect Biotech. Sericol. (2006) 75: 79-84)、カイコ胚子由来細胞株SES-BoMo-J125K6(K6と略記;NIAS Genebank MAFF No. 275032; 今西重雄 (1998) 昆虫培養細胞系の保存リスト 蚕糸・昆虫農業技術研究所研究資料 24: 45-56), Oyanagi2(oy2とも略記する;Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41), NIAS-Bm-M1(M1と略記;Suzuki MG, et al., Mol. Cell. Biol. 28: 333-343, 2008), SES-BoMo-C129(C129と略記;MAFF No. 275026; 今西重雄 (1998) 同上)、ショウジョウバエ由来細胞株S2 (Invitrogen)およびヤガSpodoptera frugiperda由来細胞株Sf9 (Invitrogen) を実験に用いた。各細胞株は以下の培地で培養した。aff3, IPL41 + 10%または15% FBS; K6, MGM448 + 10%FBS; oy2, IPL-41 + 15%FBS; M1, IPL-41 + 15%FBS; C129, MGM448 + 10%FBS; S2, Schneider's Drosophila Medium (Invitrogen) + 10%FBS; Sf9, Sf900 II SFM (Invitrogen)。
幼若ホルモン (JH) としてJH I (SciTech)またはメソプレン (SDS Biotech) を用いた。20-ヒドロキシエクジソン (20E) は、Sigma社のものを用いた。トルエンまたはメタノールに溶解したJHをPEG20000でコートした液シンバイアルに移した後、窒素気流により溶媒を除去し、所定の濃度になるように適当な培地を所定量加え、超音波処理により溶解した。対照区として溶媒のみを用いて同じ培地を処理した。JH処理は、古い培地を除去し、JH入りまたは対照区としてJHを含まない培地を加えることで行った。通常の試験には、市販の24穴または96穴の細胞培養用プラスチックプレートを用いたが、濃度応答試験では容器へのJHの吸着を防ぐためシリコナイズしたガラス試験管(直径12mm x 75mm)を実験に用いた。
【0094】
定量PCR
培養細胞から、RNeasyTM Plus Mini Kit (QIAGEN)またはTRIzolTM (Invitrogen)を用いて総RNAを抽出し、逆転写反応により、1st strand cDNAを作製した。cDNAの作製は、Advantage-RT-for-PCRキット(Clontech)、Ready-To-Go T-Primed First-Strand Kit (GE Healthcare)、またはPrimeScriptTM RT reagent Kit (Takara)のいずれかを用いて行った。得られたcDNAをtemplateとしてリアルタイム定量PCR法により、Kr-h1遺伝子とリボゾーマルタンパク質rp49(内部標準)の発現量を測定し、rp49に対するKr-h1の発現量の比を算出した。サンプルcDNAと同時に各遺伝子のcDNAを含むプラスミドの稀釈系列をスタンダードとし、以下の定量用プライマーを用いてPCR反応を行った。カイコKr-h1: BmKrh1-QF1 ACCCATACTGGCGAGCGACCAT(配列番号:16), BmKrh1-QR1, CCTCTCCTTTGTGTGAATACGACGG(配列番号:17); カイコrp49: Bmrp49-F CAGGCGGTTCAAGGGTCAATAC(配列番号:18), Bmrp49-R TGCTGGGCTCTTTCCACGA(配列番号:19); ショウジョウバエ Kr-h1: DmKrh1A-QF1 CTTGGATTACGATTTGCGGTCG(配列番号:20), DmKrh1-QR1 TTAGTGGAGGCGGAACCTGGA(配列番号:21); ショウジョウバエrp49: DmRp49-QF1 AAGCACTTCATCCGCCACCAG(配列番号:22), DmRp49-QR1 TGTTGGGCATCAGATACTGTCCCT(配列番号:23)。
定量装置はLightCyclerTM DX400 (Roche)またはLightCyclerTM 480 (Roche)を、定量用の試薬はSYBRTM Premix Ex Taq (Takara)を用いた。PCR条件は Shinoda and Itoyama (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 11986-11991, 2003) に準じた方法で行った。
【0095】
[結果]
JHによるBmKr-h1遺伝子の誘導
JH I処理をした複数のカイコ培養細胞(aff3, oyanagi2, C129, M1, K6)においてKr-h1の発現量を定量PCRにより調べた結果、いずれの細胞においてもKr-h1はJH I単独処理により、処理後4時間で顕著に誘導された(図3)。また、aff3ではKr-h1はエクダイソン(20E)により、ほとんど誘導されず、JHと20Eの相乗効果も認められなかったが、K6細胞においては、20E単独でもKr-h1遺伝子の誘導が認められ、またJHと20Eによる相乗的な誘導効果が認められた。このように、20Eに対するKr-h1遺伝子の応答は細胞株により差が認められたが、JHによるKr-h1の顕著な誘導効果は試験したカイコ培養細胞に共通していた。
次に、aff3およびBmN4細胞を用いて、JH処理後のKr-h1遺伝子発現を経時的に調べた(図4)。その結果、いずれの細胞でもJHアナログ(メソプレン 10μM)処理後30分で顕著に誘導され、2時間でピークを迎えた。発現誘導のレベルは、BmN4よりもaff3の方が約5倍高かった。aff3細胞を用いて、メソプレンおよびJH Iに対する濃度応答性を調べたところ(2時間培養)、いずれの場合も濃度依存的な応答が認められた(図5)。また、メソプレンでは10 nM, JH Iでは10 pMという極低濃度で誘導が見られた(図5)。
細胞種の違いによる、JHに対するKr-h1遺伝子の誘導性の違いを比較するために、JH(メソプレン 10μM)を加えた培地、および無添加の培地で2時間培養し、Kr-h1の発現を調べた(図6)。その結果、無添加培地に対するJH 入り培地でのKr-h1遺伝子の発現誘導の比率は、ショウジョウバエS2細胞ではわずか3倍であるのに対し、カイコ BmN4細胞では24倍、さらにaff3細胞では 39万倍と著しい誘導効果が認められた。
以上の結果から、カイコ培養細胞では、Kr-h1遺伝子がJHにより、短時間、低濃度で著しく誘導されることが明らかになった。
さらに、様々なカイコ培養細胞においてJH-Iまたはメソプレン(1μM)によるKr-h1遺伝子の発現誘導を調べたところ、低用量のJH-Iまたはメソプレンにも関わらず、全ての細胞でKr-h1遺伝子発現の著しい誘導が観察された(図7)。この結果は、鱗翅目昆虫のKr-h1遺伝子の発現は、JHにより顕著に誘導されることを示唆している。
【0096】
〔実施例4〕BmKr-h1プロモーターのクローニングとレポーターコンストラクトの作製
[方法]
予測されたBmKr-h1遺伝子配列に基づき、BmKr-h1の転写開始点から上流約4.7k, 4.0k、および2.8kbの位置にforwardプライマー(BmKrh1_Pro-F2-attB1, BmKrh1_Pro-F3-attB1, BmKrh1_Pro-F4-attB1)を、翻訳開始点直上および第2エクソン5' 端にreverseプライマー(BmKrh1_Pro-R2-attB2, BmKrh1_Pro-R1-attB2)を設計した(図8)。これらのforwardプライマーおよびreveresプライマーを組み合わせて用いて、カイコゲノムDNAを鋳型とし、KOD FX DNAポリメラーゼ (TOYOBO)を用いたPCRによって、BmKr-h1プロモーター領域(一部イントロン含む)を増幅し、ゲートウェイシステムを用いてプラスミドベクターpDONR221(Invitrogen)にサブクローニングした。
これとは別に、ルシフェラーゼレポーターアッセイ用ベクターを構築するため、pGL4.14 (Promega) のマルチクローニングサイト(EcoRVサイト)にpIB/V5-His-DEST (Invitrogen) のattB1配列からattB2配列(609-2292)を挿入してgateway化したプラスミドpGL4.14-DESTを構築した。
上記でサブクローニングしたBmKr-h1プロモーター領域を含む断片を、ゲートウェイシステムを用いて、ルシフェラーゼレポーターアッセイ用ベクターpGL4.14-DESTにサブクローニングし、シークエンスを行うとともに、次項に述べるデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイに供した。各レポーターコンストラクトの名称、作製に用いたプライマーの種類、対応するBmKr-h1遺伝子のプロモーターの位置は図8に示した。
【0097】
レポーターアッセイ
Kr-h1プロモーターのJH誘導性の評価は、Dual-Luciferase Reporter Assay System (Promega) を用いて行った。内部標準レポーターベクターとして、pRL-null (Promega)のウミシイタケ(レニラ)ルシフェラーゼ遺伝子(rluc)をpIZT/V5-His-DEST (invitrogen)のIE2 promoterの下流に挿入したプラスミドpIZT-rlucを作製して用いた。ホタルルシフェラーゼレポーターベクターpGL4.14に、Kr-h1の転写開始点近傍の配列を挿入した試験レポーターベクターと内部標準レポーターベクターpIZT-rluc(ウミシイタケルシフェラーゼ)を、TransfastTM Transfection Reagent (Promega) を用いて、培養細胞に同時にトランスフェクションし、一定時間放置(通常24時間)後に、JHなどを加えた培地と交換し、さらに一定時間放置(通常24時間)後に、細胞を回収し、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。測定は、1420 ARVOマルチラベルカウンター (PerkinElmer) を用いた。試験プロモーターの活性は、ホタルルシフェラーゼの測定値/ウミシイタケルシフェラーゼの測定値により行った。
【0098】
[結果]
BmKr-h1上流、第1エクソン、およびイントロンの一部領域を含むルシフェラーゼレポーターコンストラクトを作製し、aff3細胞を用いてデュアルルシフェラーゼアッセイを行い、JHに対する応答性を調べた(図9)。
その結果、翻訳開始点直上から、上流約4.7k, 4.0k, 2.8kを含むコンストラクトpGL4.14_-4741/+116, pGL4.14_-4041/+116, pGL4.14_-2763/+116) にはいずれもほぼ同等の強いJH応答性が認められた(図9)。一方、上流4.7kまたは4.0kとイントロンを含むコンストラクト(pGL4.14_-4741/+968, pGL4.14_-4041/+968)にもJH応答性が認められたが、その転写レベルはイントロンを含まないものよりも弱かった(図9、10)。
次に、上流約4.0kおよびイントロンを含むコンストラクト(pGL4.14_-4041/+968)と、上流約2.8kを含むコンストラクト(pGL4.14_-2763/+116)を用いて、JHとエクダイソン(20E)に対する応答を調べた(図11)。pGL4.14_-4041/+968では弱いJH誘導とともに20E単独による誘導が認められ、また両者を混ぜるとより強い誘導が認められた。一方、pGL4.14_-2763/+116では、JH単独により強く誘導されるが、20E単独よる誘導は認められず、逆に 20EはJHによる誘導を抑制する傾向が認められた。
以上の結果から、翻訳開始点直上から約 2.8k(-2763/+116)の領域(配列番号:10)に、JH単独で応答する配列(JH応答配列; JHRE)が存在することがわかった。一方、イントロンには20E誘導性配列および上流域からの転写誘導を抑制する配列が存在することが示唆された。
【0099】
顕著なJH応答性を示したレポーターコンストラトpGL4.14_-2763/+116を用いて、JH誘導性を経時的に調べた結果、JH(メソプレン)を含む培地ではレポーターの誘導は4時間後から認められ、48時間まで徐々に増加した(図12)。一方、JHを含まない培地ではレポーターの活性は48 時間までほぼ変化なく低いレベルであった(図12)。
各種JHに対するpGL4.14_-2763/+116の応答を調べた結果、JH IおよびJH IIは、10-5〜10-9Mの広い範囲でほぼ同レベルの強い応答が認められた(図13)。JH IIIおよびメソプレンでは10-5〜10-7Mで強い応答が認めれたが、10-8〜10-9Mでは応答が低下する傾向が認められた。
上記のデータは、全てカイコaff3細胞を用いて調べた結果である。次に、他の細胞でも同様の応答が認められるか調べた。
BmN4細胞においては、イントロンを含むレポーターコンストラクトpGL4.14_-4041/+968に約5倍程度のJH 応答性が認められ、イントロンを含まないコンストラクトにおいても JHによる2倍前後の誘導が見られた(図14)。ヨトウガ由来の培養細胞Sf9においても、イントロンを含むレポーターコンストラクトpGL4.14_-4041/+968で約5倍程度の高いJH 応答性が認められた。イントロンを含まないコンストラクではレポーターの活性は低下したが、JHによる2〜3倍程度の誘導が見られた(図15)。これらの結果から、BmKr-h1のイントロン(配列番号:15)中には、JH応答性に関連する配列が含まれていることが示唆された。ショウジョウバエの培養細胞S2では、試験したいずれのコンストラクトにもJHによる誘導性は認められなかった(図16)。
以上の結果から、BmKr-h1プロモーターのJH応答性は、細胞の種類によって差はあるものの、調べた全ての鱗翅目昆虫細胞で明確なJH応答性を示すことが明らかになった。また、上記で試験した中では、aff3、K6、Oyanagi2、および C129細胞のJH応答性が顕著に高く、特にaff3細胞とpGL4.14_-2763/+116の組み合わせが最も良好なJH 応答性を示すことが明らかになった。
【0100】
〔実施例5〕BmKr-h1プロモーターに含まれるJH応答配列(JHRE)の同定
[方法]
BmKr-h1上流約2.8kを含むコンストラクト(pGL4.14_-2763/+116)に強いJH誘導活性が認められたので、この領域の一部を含むレポータープラスミドを作製して、レポーターアッセイを繰り返し、JH応答領域の絞り込みを行った。
[結果]
BmKr-h1上流約2.8kの領域(-2763/116)に含まれるJH応答配列 (JHRE)を同定するために、その一部を削り込んだ各種コンストラクトを作製し、レポーターアッセイを繰り返し行った。
図10 および 11 に示したように、-4041/-2649, -2763/-1695および-1966/-839の領域をプロモーターを持たないレポータープラスミドpGL4.14に直接つないだ場合、-4041/-2649 および -1966/-839 には転写活性化能およびJHおよび20Eへの有意な応答性は認められなかったが、-2763/-1695は、オーセンティックな転写開始部位がないにも関わらずJH応答性の発現が認められた。
また、-2763/+116領域を5’側から順次削り込んでアッセイを行うと、-1978/116およびそれより短いコンストラクトには有意なJH応答性が認められなかった(図17)。一方、-2565/+116, -2347/+116, -2165/+116を含むコンストラクトにはいずれも元の-2763/+116と同レベルのJH応答性が認められた(図18)。このことから、JHREは-2165から+116の領域中に存在し、また転写開始点近傍のプロモーター配列は必ずしもJH応答性に必須ではない可能性が示唆された。
次にinverse PCRによって、-2165/+116の中央部分の配列を削った各種コンストラクトを作製しアッセイを行った (図19)。その結果、転写開始点近傍の配列の長さ(-285/+116, -192/+116, -111/+116, および-49/+116)に関わらず、-2165/-1999の断片を含むコンストラクトは、いずれもかなり強いJH応答性が認められた。上流域をさらに削り込んだ-2165/-2049でもJH応答性は維持されたが、-2165/-2094では応答性が消失した。また、転写開始点近傍のプロモーター領域を比較すると、-49/+116を持つコンストラクトと上流域の組み合わせが最もJH応答性が高く、-2165/-1999と-49/+116の組み合わせでは、元の-2165/+116と同レベルのJH誘導性が認められた(図19)。
-2165/-1999 および -49/+116を含むコントラクトの上流部分(JHRE)をさらに削り込んでアッセイを行った。その結果、5’側から-2089 またはそれより短く削ったものでは、いずれもJH 応答能が消失した(図20)。一方、JHREを 3’側から削った場合、-2025 まで応答性が変わらず、-2045, -2068 と削り込みを進めるにつれJH応答性が低下するもののJH応答性は維持された(図20)。
図20の結果では、-2165〜-2068を含むコンストラクトで明確なJH応答が見られることから、この配列の断片中に少なくとも主要なJHREの1つが含まれていることが示唆される。また、高いJH応答性を得るためには、-2165〜-2068よりも3’側の配列を含むことが好ましく、-2165〜-2045、より好ましくは -2165〜-2025を含むことで、さらに高いJH誘導性が得られることが示された。特に、-2165/-2025のJHRE領域と-49/+116の領域の組み合わせで(配列番号:14)、元の-2763/+116とほぼ同等のJH誘導性が得られることが明らかになった。
【0101】
〔実施例6〕JHREとBmKr-h1プロモーター領域の解析
BmKr-h1のJHRE領域(-2165/-2025)において、JH応答に寄与している配列を明らかにするために、この領域中で、転写調節に実際に役割を果たしている可能性があるGTG、CAC、GAG、CTC配列をAAAもしくはTTT配列に変換したレポーターベクターを作製し、カイコの培養細胞(aff3)を使ったレポーターアッセイによってJH応答性を検証した(図21、22)。その結果、野生型ではJH処理により約22倍の応答が認められたのに対し、-2105CACAC、-2082GTG(図21)、-2089CGCG(図22)に突然変異を入れると、JHによる誘導率が5倍以下に低下するものの、JH応答性は失われなかった。-2105CACAC、-2105CAC、-2103CAC、-2089CGCG、-2082GTG などは依然としてJH誘導が見られることから、-2080またはそれより上流の領域は、JH応答性の増強には寄与しているものの、JH応答性に必須ではないと判断された。また、-2062またはそれより下流の部位の変異でもJH応答性は失われなかったことから、JH応答性に必須のJH応答配列は、-2079/-2063の範囲内に包含されていることが示唆された。また-2068まででJH応答性が見られる(図20)ことを考えれば、-2079/-2068(配列番号39)の配列でJH応答に十分であることが示唆される。そして -2073CACGTGTと -2076CTCに変異を入れるとJH誘導率は著しく低下した。以上の結果から、BmKr-h1のJHRE領域(-2165/-2025)において、JH応答性に必須の配列は-2076および-2073の部位に局在しており、より高いJH応答のためには-2105/-2068(配列番号38)が重要な機能を果たすことが示唆された。
【0102】
コクヌストモドキのKr-h1遺伝子(TcKr-h1)のプロモーター領域の配列(図23および24)を解析した結果、BmKr-h1のJHREの-2076/-2068(CTCCACGTG)と完全に一致する配列が見出された。そこでこの部位を含むTcKr-h1上流配列を用いてaff3細胞によるレポーターアッセイを行ったところ、顕著なJH応答性が確認された(図25)。以上から、BmKr-h1の-2076/-2068(CTCCACGTG;配列番号42)がJH応答エレメント(JHRE)の必須配列であり、この配列が、Kr-h1遺伝子のJH応答に主要な役割を果たしていることが示唆された。これと全く同一の配列は、上記の実験においてJH応答性に関与することが確認されているβアイソフォーム転写開始点上流に相当するαアイソフォームのイントロンI領域にも見出された。このように同一の配列が全く異なる昆虫間で保存されていることから、上記JHREによるJH応答は昆虫一般で共通していることが示唆される。
【0103】
続いて、JH応答におけるプロモーターの特異性を解析した。上記の実施例で絞り込んだBmKr-h1のプロモーター領域(-49/116)と、カイコのアクチンA3遺伝子(BmA3)およびHSP70遺伝子(BmHSP70)のプロモーター領域をスワッピングし、aff3を使ったレポーターアッセイによりJH応答性を検証した。その結果、他の遺伝子のプロモーターを用いてもJHに対する応答が確認されたことから(図26)、JH応答において特定なプロモーターは必須でないことが示された。
【0104】
〔実施例7〕JHREと相互作用するJHシグナル伝達分子の同定
BmKr-h1のJHREと相互作用するトランス因子群を特定するために、JHRE(-2165/-2025&-49/116)の下流にルシフェラーゼレポーター遺伝子を導入したプラスミドと、候補となるトランス因子群の発現プラスミドを、培養細胞に co-transfectionしてレポーターアッセイを行い、JHによる誘導性に与える影響を検証した。トランス因子としては、Met(methoprene tolerant)、ARNT(aryl hydrocarbon nuclear receptor translocator)、およびHIF 1α(Hypoxia-inducible factor 1α)を含むbHLH-PAS familyの転写因子(Met、ARNT、HIF1α)、および脱皮ホルモン受容体のサブユニットであるUSP(ultraspiracle)を選択し、これらのcDNAを、それぞれカイコからクローニングして用いた。また培養細胞には、JHに対するKr-h1の応答がカイコの培養細胞に比べて低い(2.5倍程度)ショウジョウバエのS2培養細胞を用いた。その結果、レポータープラスミドを単独で導入した場合には、JHによるレポーター活性の有意な誘導は認められないが、BmMet2をco-transfectionするとJHによる非常に高い誘導(約20倍)が観察された(図27)。一方、他の因子をco-transfectionした場合にはJH応答性の有意な上昇は認められなかった。以上の結果から、BmMet2がJH依存的にJH応答配列と相互作用することが示された。
【0105】
続いて、JHシグナル伝達経路におけるBmMet2の機能をより明確にするために、内在性のJH受容体を持たないと考えられる哺乳類培養細胞系を用いてone-hybridアッセイによる解析を行った。初めに、BmMet2がJH依存的な転写活性化能を有するかどうか検証するために、GAL4のDNA結合ドメインとBmMet2の融合タンパク質を発現するプラスミド(gal4-DBD_BmMet2)を作製し、アデノウイルスmajor lateプロモーター上流にGAL4結合部位(UAS)をタンデムに5コピー組み込んだUAS-ルシフェラーゼプラスミド(pG5luc vector, Promega)と共に、ヒト腎臓由来の培養細胞株(HEK293)にco-transfectionして、レポーターアッセイを行った。
その結果、驚くべきことに哺乳動物細胞であるにも関わらず、gal4-DBD_BmMet2を導入した実験区において、JHに対する強い応答(約13倍)が確認された(図28)。この結果は、Metによる転写活性化は昆虫細胞に依存しないことを示している。また、gal4-DBDをco-transfectionした場合には、JHによる誘導は全く起こらないことから、MetはJH依存的に転写活性化能を付与されることが示唆された。
【0106】
さらに、gal4-DBD_BmMet2の発現プラスミドからgal4-DBD領域を削り、野生型のBmMet2を発現するプラスミド(pBIND_BmMet2_-gal4)と、4種のJHREルシフェラーゼレポータープラスミドpGL4.14_-2165/-2025&-49/116、pGL4.14_-2763/116、pGL4.14_JHRE×4&TK、またはpGL4.14_JHRE×5&-49/116(pGL4.14_JHREx4&TK:-2128/-2045を4個タンデムに並べた配列+Tymidine kinaseプロモーター、pGL4.14_JHREx5&-49/116:-2128/-2045 (配列番号36) を5個タンデムに並べた配列+BmKr-h1の-49/116プロモーター)のいずれかを、HEK293にco-transfectionし、レポーターアッセイを行った。その結果、BmMet2を導入した場合、いずれのレポーターでもJH処理区では無処理に比べてレポーター活性が2.4倍誘導された(図29)。JHによる誘導は、VP16-ADやgal4-DBDを導入した対照区では起こらなかった。
【0107】
哺乳動物細胞であるHEK293細胞がJH受容体として機能する内在性分子を持っている可能性は極めて低いと考えられる。したがって、Metは単独でJHを受容し、JHREに直接結合し、JH依存的に転写活性化能を付与され、下流の遺伝子の転写を誘導することが示唆された。この結果は、MetがJHの直接の受容体であり、しかもこの一成分のみでJHを受容し、JHREを介した転写を活性化できることを初めて実証するものである。
【0108】
〔実施例8〕TcKr-h1のJHREを用いたJH応答性の解析
MetによるJH応答が、コクヌストモドキのJHREでも同様に観察されるかを調べた。ショウジョウバエS2細胞およびカイコaff3細胞を1.5×105 /well で96ウェルプレートにまき、10% FBSを含むschneider培地または10% FBSを含むIPL41培地で25℃で24時間培養した。TcKr-h1の-477/+106を含むレポータープラスミド(pGL4.14_Tckrh1_pro)0.2μg、内部標準としてpIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃、24時間トランスフェクションを行い、その後メソプレン10μMを添加し25℃、24時間培養後にルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、BmMet2を発現するS2細胞において強いJH応答が観察されたことから、TcKr-h1のJHREも、BmKr-h1のJHREと同様にMet蛋白質存在下でJH応答を示すことが確認された(図30)。
同様の実験をヒト細胞(HEK293)を用いて行った。HEK293細胞を0.2×105 /well で96ウェルプレートにまき、10% FBSおよび0.1 mM 非必須アミノ酸 (NEAA) を含むMEM培地で37℃で48時間培養した。TcKr-h1の-477/+106を含むレポータープラスミド 0.2μg、gal4-DBD_BmMet2発現プラスミド(pcDNA_BmMet2)または野生型BmMet2(pBIND_BmMet2_-gal4)を発現するプラスミド(pBIND_BmMet2_-gal4)0.2μg、および内部標準レポーターベクター pRL-TK (Promega) 0.2μgをLipofectamine 2000(0.5μg)を用いてco-transfection (37℃, 48h) を行い、JHI 0.1μMを添加後 (37℃, 24h)、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。コントロールとして、Met2をコードしない空ベクター(pcDNA_none)を用いた。その結果、Met蛋白質を発現するHEK293ではいずれも明確なJH応答が見られたことから、TcKr-h1のJHREは、BmKr-h1のJHREと同様に、ヒト細胞においてもMet蛋白質存在下でJH応答を示すことが確認された(図31)。
【0109】
〔実施例9〕JHREによる転写活性のJH用量応答性
JHREのJH応答が、哺乳動物細胞においても用量依存的にみられるかをHEK293細胞を用いて調べた。MEM + 0.1mM 非必須アミノ酸 (NEAA) + 10% FBS 200μl で培養したHEK293 (0.2×105/well, 96well plate) に pGL4.14_-2165/-2025&-49/116 および BmMet2発現ベクター(pBIND_BmMet2_-gal4)を、内部標準レポーターベクター pRL-TKと共にLipofectamine 2000を用いてco-transfection (48h) を行い、JH処理(JHI, II, III, MT (methoprene), MF (methyl farnesoate), FA (Farnesoic acid), 24h)を実施し、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、各種JHとも明確な用量応答反応を示した。図33は、カイコ細胞aff3における内在性BmKr-h1のJH誘導発現の用量依存特性を示す。ヒト細胞における各種JHによる応答性の違いは、aff3における内在性BmKr-h1のそれとよく一致しており、JHREを用いたアッセイ系は、昆虫以外の細胞を用いた場合でも、昆虫細胞を用いたアッセイを再現できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明により、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、該遺伝子のJHREを含むDNA、およびそれらの利用が提供された。本発明の遺伝子または蛋白質の発現、あるいはJHREによる転写活性化を指標とすることにより、JHを迅速かつ高感度で検出することが可能となる。特に当該遺伝子は、培養細胞においてもJHにより非常に高い効率で発現が誘導されるので、個体のみならず培養細胞を用いてもハイスループットなスクリーニング系を構築することが可能となった。また本発明のJHREを利用すれば、JHによる発現制御システムを構築することも可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、幼若ホルモンに応答性を有する遺伝子に由来する幼若ホルモン応答エレメントに関する。また本発明は、該遺伝子、蛋白質、およびエレメントの利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
幼若ホルモン(juvenile hormone: JH)は、昆虫および甲殻類において、胚発生、脱皮・変態、性成熟、休眠などの多彩な生理現象に関与する多機能性ホルモンである(Hartfelder, K. (2000) Brazilian Journal of Medical and Biological Research 33:157-177)。特にJHは哺乳動物においてオルソログがないため、JHの内分泌系を攪乱することは、ヒトや哺乳動物に安全な殺虫手段となる。このような利点から、これまでに化学的に安定なJH類縁体の検索がなされ、例えばメソプレン(methoprene)、ピロプロキシフェン(pyriproxyfen)、フェノキシカルブ(fenoxycarb)等の化合物が開発され、農業害虫や衛生害虫の殺虫剤として利用されている(Minakuchi C. and Riddiford LM. (2006) J. Pestic. Sci. 32: 77-84)。
【0003】
しかしこれらの創農薬における化合物の探索は、昆虫個体を用いたランダムスクリーニング法が主流である。例えばJHアゴニスト・アンタゴニストのスクリーニングは、昆虫個体を用いて脱皮・変態等の異常を詳細に観察することで行われる。但し個体を用いたスクリーニングは多大な時間と労力が必要であり、またこうした個体の観察データだけでは、ヒットした化合物が、真にJHアゴニストあるいはアンタゴニストであるかや、その作用機作は明らかにできない。より簡便かつ直接的にJH作用を評価できる系が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hartfelder, K. (2000) Insect juvenile hormone: from "status quo" to high society. Brazilian Journal of Medical and Biological Research 33: 157-177
【非特許文献2】Minakuchi C. and Riddiford LM. (2006) Insect juvenile hormone action as a potential target of pest management. J. Pestic. Sci. 32: 77-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、JHに応答して転写を上昇させるJH応答エレメント(JHRE)、およびJHREを用いたJHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイおよびスクリーニング方法、ならびにJHアゴニストおよびアンタゴニストを用いた遺伝子発現制御システムを提供する。また本発明は、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、およびその利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
インビトロの系で実施可能な、JHアゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングする方法、およびJHによる遺伝子発現制御システムについては、これまでに幾つか報告されている(例えばWO01/002436 (特表2003-505019); WO97/13864 (特表2000-500323); WO98/46724 (特表2002-510195); 特開2004-283080)。しかし、JHアゴニスト・アンタゴニストをハイスループットでスクリーニングするための実用的な方法の開発は未だ十分とは言えない。
【0007】
ところでKruppel homolog l (Kr-h1, CG9167) (Kruppelのuはウー・ウムラウト(u umlaut)) は、C2-H2型のZincフィンガーを持つ転写因子として知られる。最近、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)およびコクヌストモドキ(Tribolium castaneum)の個体において、その発現がJHによって誘導されることが報告され、Kr-h1がJHシグナル伝達に関与することが示唆されている(Minakuchi, C. et al., 2008, Mech Dev. 125: 91-105; Parthasarathy, R. et al., 2008, Mech Dev. 125: 299-313; 水口智江可・篠田徹郎, 2008, 幼若ホルモン(JH)シグナリングにおけるJH誘導性転写因子Kr-h1の役割, 第52回日本応用動物昆虫学会大会講演要旨)。しかしながら、JHによるKr-h1の発現誘導は、個体において確認されているに過ぎず、JHがどのようにKr-h1の発現を誘導しているのかは全く不明であった。JHによる遺伝子発現の制御は、複数の器官や組織が協調的に関わっていると考えられることから、JHによるKr-h1の発現誘導は、複数の器官や組織を介して、間接的にJHにより制御されている可能性が考えられた。
例えば、脳から分泌される前胸腺刺激ホルモンPTTHは、前胸腺に働きかけて脱皮ホルモン(エクダイソン)の合成・分泌を促進し、エクダイソンは皮膚などの多数の遺伝子の発現を誘導する。つまり、in vivo(個体)で見られるPTTHによる皮膚等における遺伝子発現の制御は、エクダイソンを介した間接的なものであり、in vitroでは見られない。JHによるKr-h1の発現も、このように間接的に誘導されている可能性は多分に考えられ、in vitroにおける発現制御やスクリーニング系に利用できるか否かを予想することは困難である。
【0008】
本発明者らは、JHによる発現制御機構を、転写調節機構の解析を通して明らかにするため、ショウジョウバエKr-h1遺伝子のホモログとその転写調節領域をカイコにおいて単離しようと考えた。しかしながら、カイコが属する鱗翅目昆虫とショウジョウバエ(双翅目昆虫)とは系統的に隔たっているため、仮にホモログが存在するとしても相同性は低いことが予想され、ショウジョウバエKr-h1遺伝子をプローブにして単純にカイコcDNAをスクリーニングしても、カイコのKr-h1遺伝子を単離できることは期待できなかった。
そこで、本発明者らはまず、カイコ約2000頭を解剖して側心体を含むアラタ体を収集し、そこから総RNAを抽出し、V-キャッピング法(日立ハイテクサイエンスシステムズ)により完全長アラタ体cDNAライブラリを作製した。さらに、このライブラリから無作為に2万クローンを選択し、その1つ1つのクローンについてDNAを抽出し、これらのクローンに挿入されているcDNAの配列を 5'- および 3'- 側から決定した。これにより、約3万のEST配列からなるデータベースを構築した。
このカイコアラタ体完全長ESTデータベースを、ショウジョウバエKr-h1のアミノ酸配列(Accession numbers NP_477467.1および NP_477466.1 (配列番号:6および8))を用いて検索した結果、ついに、そのオルソログと考えられるクローンを同定することに成功した。同定されたカイコKr-h1(BmKr-h1)のcDNAの塩基配列を配列番号:1および3に、それぞれがコードする蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:2および4に示す。
【0009】
次に本発明者らは、BmKr-h1の転写開始部位周辺から上流約5kbまでのBmKr-h1の転写調節領域のDNA(配列番号:9)を単離し、これを基に複数のレポーターコンストラクトを作製し、インビトロにおけるJH応答性を調べた。すると、カイコKr-h1プロモーターからのレポーター遺伝子の発現は、JHにより有意に上昇したことから、Kr-h1プロモーターの活性化は、複数の器官や組織を介することなく、単一の細胞集団の中でJHにより直接的に誘導されることが明らかとなった。さらに驚くべきことに、カイコKr-h1遺伝子のJHによる発現誘導は、ショウジョウバエKr-h1遺伝子の誘導よりも有意に高いことが判明した(図6および7)。またカイコ以外の鱗翅目昆虫細胞(Sf9)のKr-h1遺伝子においても、JHによりカイコBmN4細胞と同程度の発現誘導が観察された(図14および15)。このように、鱗翅目昆虫のKr-h1遺伝子およびそのプロモーターは、ショウジョウバエに比べてJH応答性が有意に高く、JHによる誘導発現系の構築や、JHのアッセイ、JHアゴニスト・アンタゴニストのスクリーニング等において、極めて有用であることが明らかとなった。
【0010】
BmKr-h1転写調節領域においてJH応答性をもたらすcis因子(JH応答エレメント)を同定するため、BmKr-h1転写調節領域中の配列を様々に欠失させて、JH応答性を調べた。その結果、BmKr-h1の転写開始部位の5'側周辺にはJH応答性をもたらす配列が確かに存在しており、特にBmKr-h1αの転写開始部位(+1)に対して-2165から-2068の配列(配列番号:12)中に活性の高いJHREが存在していることが判明した。
【0011】
この領域をさらに詳しく解析した結果、-2079より上流側の塩基に変異を導入しても、JH応答性は失われないことから(図21および22)、JHREは-2079から-2068(配列番号:39)の中に存在していることが判明した。さらにコクヌストモドキのKr-h1遺伝子の転写開始点上流のDNAを単離して配列を解析したところ、この領域は確かにJHに応答した転写活性を示し、さらにBmKr-h1αのJHREの配列に一致する配列が含まれていることが判明した(図23および24)。さらにBmKr-h1βアイソフォームの転写開始点の上流にも、この配列が存在することが分かった。以上の結果から、JH応答に必須の配列はCTCCACGTG(配列番号42)であると考えられた。
【0012】
次に、この配列に相互作用する転写因子を同定するため、この配列の下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結したレポータープラスミドと共に、様々な転写因子の候補をトランスフェクションして、JH応答性を検証した。その結果、Met (Methoprene-tolerant) 蛋白質(BmMet2)を導入した細胞において、JH応答性の劇的な上昇が観察されたことから、JHREと相互作用して転写を誘導している転写因子はMetであることが判明した。さらに驚くべきことに、Met蛋白質はヒト細胞においても下流の転写を強力に誘導することができ(図28)、さらに昆虫やヒト細胞において上記JHREレポータープラスミドの発現をJH依存的に誘導することが可能であった(図27および29〜31)。
【0013】
以上の結果は、本発明のJHREは、昆虫細胞に留まらず幅広い細胞でJHに応答した転写を誘導することが可能であることを示している。この性質を利用すれば、目的の遺伝子の発現を、様々な細胞においてJHに応答して制御することが可能となる他、この系を用いてJHアゴニスト・アンタゴニストのハイスループットなスクリーニングを実施することも可能となる。例えば、これまでにも遺伝子発現制御システムとして、ステロイドホルモンやテトラサイクリンを用いた哺乳動物用のシステムが実用化されている(例えば、Invitrogen社のGeneSwitch systemやT-REX system)が、JHを用いた遺伝子発現制御システムはほとんど存在していなかった。本発明の転写調節エレメントを用いた遺伝子発現制御システムは、昆虫培養細胞における発現制御のための有用なツールとなるだけでなく、哺乳動物細胞などの他の細胞においても、JHを用いた新しい発現誘導系を可能とするものである。
【0014】
すなわち本発明は、JHに応答して転写を上昇させるエレメント(JHRE)、およびJHREを用いたJHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイおよびスクリーニング方法、ならびにJHアゴニストおよびアンタゴニストを用いた遺伝子発現制御システム等を提供する。また本発明は、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、およびそれらの利用等を提供する。本発明は、具体的には、
〔1〕配列番号:42またはその1塩基を置換した配列を含み、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA、
〔2〕〔1〕に記載のDNAであって、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA、
(a)幼若ホルモン応答遺伝子の転写調節領域おいて、配列番号:42またはその1塩基を置換した配列を含むように切り出された配列であって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有する配列を含むDNA、
(b)上記(a)のDNAにおいて、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含むDNAであって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA、
(c)上記(a)のDNAの塩基配列と90%以上の同一性を有し、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA、
(d)上記(a)のDNAから調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA、
〔3〕該遺伝子がKr-h1(Kruppel homolog 1)またはその相同遺伝子である、〔1〕または〔2〕に記載のDNA、
〔4〕配列番号:9(-4741/+968)、10(-2763/+116)、11(-2165/-2025)、12(-2165/-2068)、31(TcKr-h1 -6299/-2401)、34(TcKr-h1 -351/+48)、35(-477/+106)、36(-2128/-2045)、37(-2128/-2049)、38(-2105/-2068)、39(-2079/-2068)、または幼若ホルモン応答性を有するそれらの断片を含む、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のDNA、
〔5〕異種プロモーターおよび/または異種遺伝子が機能的に連結されている、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のDNA、
〔6〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
〔7〕〔6〕に記載のベクターを含む、幼若ホルモン応答発現用組成物、
〔8〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAまたは該DNAを含むベクターを含む形質転換体、
〔9〕Met(Methoprene-tolerant)遺伝子が導入されている、〔8〕に記載の形質転換体、
〔10〕昆虫細胞または哺乳動物細胞である、〔8〕または〔9〕に記載の形質転換体、
〔11〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAを含む幼若ホルモン応答性転写エンハンサー、
〔12〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAの、幼若ホルモン応答エレメントとしての使用、
〔13〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAの、Met(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合させるための使用、
〔14〕幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストによる発現制御における〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAの使用、
〔15〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAが導入された細胞に、幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストを接触させる工程を含む、発現制御方法、
〔16〕(a)〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNA、および(b)(i)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、および/または (ii) Met(Methoprene-tolerant)をコードする核酸または該核酸が導入された細胞、を含むキット、
〔17〕〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAの転写活性を検出する工程を含む、幼若ホルモン作用のアッセイ方法、
〔18〕〔17〕に記載の方法であって、該工程が被験化合物の存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用に及ぼす被験化合物の促進または抑制効果を検出する方法、
〔19〕〔18〕に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を上昇させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を上昇させる化合物を選択する工程をさらに含む方法、
〔20〕〔18〕に記載の方法であって、該工程が幼若ホルモンまたはそのアゴニストのさらなる存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用を低下させる被験化合物の活性を検出する方法、
〔21〕〔20〕に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を低下させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を低下させる化合物を選択する工程をさらに含む方法、
〔22〕殺虫性化合物のアッセイまたはスクリーニングにおいて実施される、〔17〕から〔21〕のいずれかに記載の方法、
〔23〕下記(a)〜(c)に記載のDNA、
(a)配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子、または鱗翅目昆虫における相同遺伝子の配列を含むDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
(b)上記(a)に記載の配列において、1または数個の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
(c)上記(a)に記載の配列から調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然の配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
〔24〕〔23〕に記載のDNAがコードするアミノ酸配列を含む蛋白質、
〔25〕〔24〕に記載の蛋白質の連続する8アミノ酸以上の断片を含む免疫原性ポリペプチド、
〔26〕配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列の連続する15塩基以上を含むか、あるいは配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、プローブまたはプライマーとして用いられる核酸、
〔27〕〔24〕に記載の蛋白質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、
〔28〕〔26〕に記載の核酸、あるいは〔27〕の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチドを含む、幼若ホルモンの検出剤、
〔29〕(a)〔26〕に記載の核酸、あるいは〔27〕の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、および(b)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むキット、
〔30〕Met(Methoprene-tolerant)蛋白質または該蛋白質とDNA結合蛋白質との融合蛋白質をDNAに結合させる工程を含む、該DNAの転写を非昆虫真核細胞において活性化させる方法、
〔31〕Met(Methoprene-tolerant)蛋白質または該蛋白質とDNA結合蛋白質との融合蛋白質、またはそのいずれかをコードする核酸を含む、非昆虫真核細胞における転写活性化剤、
に関する。
【0015】
また本発明は、
〔1〕下記(a)〜(c)に記載のDNA、
(a)配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子の配列、または鱗翅目昆虫における相同遺伝子の配列、またはそれらの遺伝子の転写調節領域中の配列を含むDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
(b)上記(a)に記載のいずれかの配列において、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
(c)上記(a)に記載のいずれかの配列から調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA、
〔2〕前記(a)のDNAが転写調節領域中の配列を含むDNAである、〔1〕に記載のDNA、
〔3〕配列番号:9または幼若ホルモン応答性を有するその断片を含む、〔2〕に記載のDNA、
〔4〕配列番号:10または幼若ホルモン応答性を有するその断片を含む、〔2〕に記載のDNA、
〔5〕配列番号:11または幼若ホルモン応答性を有するその断片を含む、〔2〕に記載のDNA、
〔6〕配列番号:12または幼若ホルモン応答性を有するその断片を含む、〔2〕に記載のDNA、
〔7〕異種遺伝子が機能的に連結されている、〔2〕から〔6〕のいずれかに記載のDNA、
〔8〕〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
〔9〕幼若ホルモン応答性発現ベクターである、〔8〕に記載のベクター、
〔10〕〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAまたは該DNAを含むベクターを含む形質転換体、
〔11〕配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子または鱗翅目昆虫における相同遺伝子がコードするアミノ酸配列を含む蛋白質、
〔12〕〔11〕に記載の蛋白質の連続する8アミノ酸以上の断片を含むポリペプチド、
〔13〕配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列の連続する15塩基以上を含むか、あるいは配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、プローブまたはプライマーとして用いられる核酸、
〔14〕〔11〕に記載の蛋白質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、
〔15〕〔13〕に記載の核酸、あるいは〔14〕の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチドを含む、幼若ホルモンの検出剤、
〔16〕(a)〔13〕に記載の核酸、あるいは〔14〕の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、および(b)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むキット、
〔17〕幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストによる発現制御における〔2〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAの使用、
〔18〕〔2〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAを含む細胞に、幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストを接触させる工程を含む、発現制御方法、
〔19〕(a)〔2〕から〔7〕のいずれかに記載のDNA、および(b)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むキット、
〔20〕〔2〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAの転写活性を検出する工程を含む、幼若ホルモン作用のアッセイ方法、
〔21〕〔20〕に記載の方法であって、該工程が被験化合物の存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法、
〔22〕〔21〕に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を上昇させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を上昇させる化合物を選択する工程をさらに含む方法、
〔23〕〔21〕に記載の方法であって、該工程が幼若ホルモンまたはそのアゴニストのさらなる存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用を低下させる被験化合物の活性を検出する方法、
〔24〕〔23〕に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を低下させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を低下させる化合物を選択する工程をさらに含む方法、
〔25〕殺虫性化合物のアッセイまたはスクリーニングにおいて実施される、〔20〕から〔24〕のいずれかに記載の方法、
にも関する。
【0016】
なお本願請求項において、同一の請求項を引用する各請求項に記載の発明の2つまたはそれ以上を任意に組み合わせた発明は、それらに引用される上位の請求項に記載の発明において、既に意図されている。また、本明細書に記載した任意の発明要素およびその任意の組み合わせは、本明細書に意図されている。また、それらの発明において、本明細書に記載の任意の要素またはその任意の組み合わせを除外した発明も、本明細書に意図されている。また本発明に関して、明細書中に記載されたある特定の態様は、それを開示するのみならず、その態様を含むより上位の本明細書に開示された発明から、その態様を除外した発明も開示するものである。
【0017】
本発明において遺伝子とは転写される配列に対応する核酸を言い、エクソンおよびイントロンを含む初期転写産物、スプライシングされたRNA、それらをコードする核酸(例えばゲノムDNA、cDNA)等が含まれる。アミノ酸配列をコードする遺伝子とは、そのアミノ酸配列を連続してコードする核酸(mRNAおよびcDNAなど)、ならびに分断されて不連続的にコードする核酸(イントロンなどに分断されてコードするゲノムDNAなど)が含まれる。すなわち、あるアミノ酸配列をコードする遺伝子は、そのアミノ酸配列を連続的または不連続的にコードする限り、イントロン、5'および/または3'非翻訳領域(UTR)等を含んでいてもよい。また本発明においてアミノ酸配列をコードする遺伝子の配列とは、そのアミノ酸配列の全部を連続または不連続にコードする核酸の塩基配列を言う。好ましくは、該塩基配列はそのアミノ酸配列の全部を連続してコードする。該塩基配列は、より長いアミノ酸配列の一部として、そのアミノ酸をコードしていてもよく、あるいは、正確にその長さのアミノ酸配列をコードしていてもよい。該塩基配列は、そのアミノ酸配列をコードする限り、非コード配列(イントロン、5'および/または3'非翻訳領域(UTR)等)を含んでいてもよい。
【0018】
本発明において核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、またその形態にも特に制限はない。核酸は、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、mRNAなどであってよい。また本発明において蛋白質という時は、その鎖長が限定されるものではなく、オリゴペプチドと呼ばれる短いペプチド鎖からなるものを含む。また蛋白質はポリペプチドと呼ばれるものを含む。また本発明の蛋白質および核酸には、単離されたもの、および組み換え体が含まれる。単離された蛋白質および核酸とは、自然の状態から離された蛋白質および核酸を言い、精製されたもの、および人工的に製造されたものが含まれる。組み換え体とは、遺伝子組み換えまたは合成により製造または複製されたものを指し、核酸であればその両端または片端が自然の状態とは同じように繋がっていない核酸を言い、プラスミドや他のベクター中にクローニングされたものや合成核酸が含まれる。組み換え核酸は、天然の核酸をヌクレアーゼや超音波などで切断し、リガーゼなどで再結合することにより製造することができる。また組み換え酵素などを用いて製造することもできる。また、合成された核酸、およびプラスミドやファージあるいはPCR等で増幅された核酸も、本発明において組み換え核酸と言う。また蛋白質であれば、組み換え核酸から発現された蛋白質や合成された蛋白質を組み換え蛋白質と言う。
【0019】
本発明においてDNAには、一本鎖および二本鎖が含まれる。例えば遺伝子のアンチセンス鎖は、mRNAを検出するためのプローブとして、センス鎖はプローブを調製するための鋳型として有用である。またそれぞれの鎖は、PCRによりこの遺伝子を増幅したり、標識したプローブ等を調製する場合の鋳型として有用である。また二本鎖DNAは、この遺伝子の転写や、この遺伝子がコードする蛋白質の製造に有用である。
【0020】
遺伝子の転写調節領域とは該遺伝子の転写を制御している領域であり、通常は遺伝子の上流(センス鎖の5'側領域)にあるが、イントロンやエクソン、5'-および3'-UTR中に存在してもよい。転写を調節する主要な配列は、通常、遺伝子の転写開始部位から上流数千塩基の領域中に存在する。また本発明において転写調節領域中の配列またはDNAとは、それぞれ、遺伝子の転写調節領域の一部または全部を含む配列またはDNAである。また転写調節領域中の配列またはDNAであってJH応答性を有する配列またはDNAとは、転写調節領域の一部または全部を含み、それによりJHに応答して、機能的に連結された下流の遺伝子の転写を制御(促進)する活性を持つ配列またはDNAであり、より具体的には、適切な転写ユニット(転写開始部位、転写配列、および転写終結部位を持ち、場合によりプロモーターおよび/またはエンハンサーをさらに含むDNA構築物)に組み込むことによって、JHに応答して転写を活性化(または上昇)させる配列またはDNAを言う。該配列またはDNAは、転写される配列を持っていてもよく(例えば5'-UTRおよび/またはイントロン)、持たなくてもよい。一般に遺伝子の転写調節領域は転写される配列の5'周辺から上流に向かって数kbpまでの範囲の領域であり、例えば転写開始点から5kb、より好ましくは4kb、3kb、または2kbの範囲内の領域であるが、JH応答性をもたらすために必須な配列は、そのごく一部の配列である。転写調節領域のDNAは、一般に二本鎖DNAとして使用される。
【0021】
天然のJHとしては、JH-I、JH-II、JH-III、JH-0、およびメチルファルネソエート (Methyl Farnesoate)が知られる(Blum,M.S. (Ed.) 1985, Fundamentals of Insect Physiology, John Wiley and Sons, New York)。JHアゴニストおよびJHアナログとしては、メソプレン(methoprene)、フェノキシカルブ(fenoxycarb)、ピリプロキシフェン(pyriproxyfen)、キノプレン(Kinoprene)、ジオフェノラン(Diofenolan)、およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0022】
なお本発明においては、特に別記しない限りJHという用語は、天然および合成JH、およびJHアゴニスト、JH作動性のJHアナログを含めて用いられる。またJH応答性とは、天然および合成JH、JHアゴニスト、またはJH作動性のJHアナログに対して応答性を有することを言い、好ましくはJH-I、JH-II、JH-III、JH-0、およびメソプレンの少なくとも1つに対して応答性を有すること言い、好ましくは天然のJHの少なくとも1つ(例えばJH-I)に対して応答性を有すること言う。またJHの作用を検出するとは、JH、そのアナログまたはアゴニストの活性を検出することが含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、JH応答エレメント(JHRE)、およびJHREを用いたJHアゴニストおよびアンタゴニストのアッセイおよびスクリーニング方法、ならびにJHアゴニストおよびアンタゴニストを用いた遺伝子発現制御システム等が提供された。また本発明により、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、およびそれらの利用が提供された。本発明の遺伝子または蛋白質の発現、あるいはJH応答配列による転写活性化を指標とすることにより、JHを簡便かつ高感度で検出することが可能となる。特に当該遺伝子は、複数の細胞型、組織または器官に媒介されることなく、クローナルな細胞のin vitro培養系においてもJHにより非常に高い効率で発現が誘導される。これにより、個体の表現型等を指標とすることなく、培養細胞を用いてハイスループットなスクリーニング系を構築することが可能となった。また本発明のJH応答配列を利用すれば、目的の遺伝子の発現をJHにより制御することが可能となる。例えば本発明の発現制御系を既存の発現制御系と組み合わせれば、それぞれのシステムを利用して複数の遺伝子の発現を独立に制御することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】BmKr-h1遺伝子(αアイソフォーム)の構造。
【図2】BmKr-h1遺伝子の転写調節領域および転写開始部位周辺の配列。左側の番号はαアイソフォームの転写開始部位に対する位置を示す。αおよびβアイソフォームの転写開始部位は+1 で示されており、αアイソフォームの第1エクソンとβアイソフォームのエクソンを枠で囲って示した。翻訳開始コドン(ATG)の上にアスタリスクをつけた。
【図3】6種のカイコ培養細胞におけるBmKr-h1 遺伝子の JH および 20E に対する応答。各カイコ培養細胞を、JH I (1μg/ml)、20E (0.5μg/ml)、またはその両者を添加した培地中で、25℃下で4時間培養した後に、RNAを抽出し、リアルタイム定量PCRにより、BmKr-h1およびrp49の発現量を定量した。NHはホルモン無添加の培地を表す。
【図4】JHアナログによるBmKr-h1遺伝子の誘導。カイコBmN4細胞およびaff3細胞を、メソプレン(10μM)を添加した培地中で、25℃下で所定の時間培養した後に、RNAを抽出し、リアルタイム定量PCRにより、BmKr-h1およびrp49の発現量を定量した。(MEAN±SD, n=3)
【図5】メソプレン(A)およびJH I処理(B)によるカイコ培養細胞 (aff3) におけるBmKr-h1遺伝子の誘導。各濃度のメソプレンまたはJH Iを添加した培地中で、25℃、2時間培養した後に、RNAを抽出し、リアルタイム定量PCRによりBmKr-h1およびrp49の発現量を定量した。(MEAN±SD, n=3)
【図6】ショウジョウバエ培養細胞(S2)とカイコ培養細胞(BmN4, aff3) におけるJH(メソプレン 10μM)によるKr-h1遺伝子誘導率の比較。メソプレンを(10μM, +JH) 添加した培地中で2時間培養時のDmKr-h1遺伝子 (S2細胞) および BmKr-h1遺伝子 (BmN4細胞, aff3細胞) の誘導倍率。無添加培地(-JH)で2時間培養時の値を1とした。(MEAN±SD, n=3)
【図7】カイコ由来の様々な培養細胞におけるJHによるKr-h1遺伝子誘導。JH-Iまたはメソプレン (各1μM) を添加した培地中で4または6時間培養し、BmKr-h1およびrp49の発現量を定量した。無添加培地(-JH)で培養した時の値(対照)を1とした時のKr-h1遺伝子の誘導倍率を、各バーの上に示した。
【図8】BmKr-h1プロモーターコンストラクトおよびその作製に用いたプライマー。
【図9】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を24well plate に1×106/well で撒種し、1mlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で48h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 1μg、pIZT-Rluc 0.01μgをTransFastTM (Promega) 3μl を用いて25℃, 48hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図10】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で12h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図11】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で12h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μM、20Eは0.5μg/mlになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図12】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を24well plate に1×106/well で撒種し、1mlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で48h培養後、pGL4.14_-2763/+116 1μg、pIZT-Rluc 0.01μgをTransFastTM (Promega) 3μl を用いて25℃, 48hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃で 2, 4, 6, 12, 24, および 48h培養してレポーター活性を測定した。
【図13】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) をガラスチューブに1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で48h培養後、pGL4.14_-2763/+116 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 48hトランスフェクションを行い、その後 JHI, JHII, JHIII, またはメソプレンを添加して25℃で24h培養してレポーター活性を測定した。
【図14】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (BmN4) を24well plate に2×105/well で撒種し、1mlのEx-cell (+10% FBS) 中で25℃で24h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 1μg、pIZT-Rluc 0.01μgをTransFastTM (Promega) 3μl を用いて25℃, 48hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図15】BmKr-h1レポーターアッセイ。ヨトウガ由来培養細胞 (Sf9) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのSf-900 SFM 中で25℃で48h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図16】BmKr-h1レポーターアッセイ。ショウジョウバエ培養細胞 (S2) を96well plate に5×105/well で撒種し、200μlのSchneider (+10% FBS) 中で25℃で48h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図17】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で24h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図18】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で24h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図19】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で48培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図20】BmKr-h1レポーターアッセイ。カイコ培養細胞 (aff3) を96well plate に1.5×105/well で撒種し、200μlのIPL41 (+10% FBS) 中で25℃で24h培養後、図示したpGL4.14コンストラクト 0.2μg、pIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃, 24hトランスフェクションを行い、その後メソプレンを10μMになるよう添加して25℃, 24h培養してレポーター活性を測定した。
【図21】BmKr-h1のJHRE解析を示す。BmKr-h1のJHREを含む領域である-2165/-2025の様々な箇所の塩基を変異させ、aff3を使ってデュアルシフェラーゼアッセイによりJH応答の変化を調べた。
【図22】BmKr-h1のJHRE解析を示す。図21と同様に、BmKr-h1のJHRE領域の塩基を変異させ、aff3を使ってデュアルシフェラーゼアッセイによりJH応答の変化を調べた。
【図23】コクヌストモドキKr-h1 (TcKr-h1) の転写開始領域のDNA配列を示す。番号は転写開始点(+1)からの位置を示す。
【図24】図23の続き。転写開始点は「+1」で示した。枠はエクソンを、アスタリスクは開始コドンを表す。
【図25】コクヌストモドキKr-h1 (TcKr-h1) のJHRE解析を示す。TcKr-h1のプロモーター領域の配列には、BmKr-h1のJHREの必須配列(CTCCACGTG)が含まれる。この領域を用いて、aff3を使ったデュアルシフェラーゼアッセイによりJH応答の変化を調べた。
【図26】BmKr-h1のプロモーター領域の置換の影響を示す。BmKr-h1のプロモーター領域を、アクチンA3遺伝子(BmA3)またはHSP70遺伝子(BmHSP70)のプロモーター領域に置換し、aff3を使ってJH応答性を調べた。図中に、JHによる発現上昇の比率を示した。いずれのプロモーターを用いても、明確なJH応答が認められた。
【図27】JHREと相互作用する因子の特定を示す。ショウジョウバエS2細胞系を用いて、BmKr-h1のJHREのデュアルシフェラーゼアッセイを行った。BmMet2において、顕著はJH応答性が誘導された。
【図28】Met2の機能解析。GAL4のDNA結合ドメインとBmMet2の融合タンパク質を発現するプラスミド(gal4-DBD_BmMet2)を作製し、UAS-ルシフェラーゼプラスミド(pGL_Luc(UAS_Luc))と共に、ヒト腎臓由来の培養細胞株(HEK293)にco-transfectionして、レポーターアッセイを行った。
【図29】哺乳動物細胞におけるJH応答性の発現誘導。HEK293(0.5×105/well;96well plate)を、MEM + 0.1mM NEAA + 10% FBS中で37℃, 48h培養した後、JHREルシフェラーゼレポータープラスミドであるpGL4.14_-2165/-2025&-49/116、pGL4.14_-2763/116、pGL4.14_JHRE×4&TK、またはpGL4.14_JHRE×5&-49/116のいずれかと、野生型BmMet2を発現するプラスミド(pBIND_BmMet2_-gal4)とを、内部標準レポーターベクター pRL-TK (Promega) と共にLipofectamine 2000を用いてco-transfection (37℃, 48h) を行い、JHI 0.1μMを添加後 (37℃, 24h)、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。コントロールとして、Met2をコードしない空ベクターを用いた。
【図30】コクヌストモドキTcKr-h1のJHREを用いたJH応答性の発現誘導。ショウジョウバエS2細胞およびカイコaff3細胞を1.5×105 /well で96ウェルプレートにまき、10% FBSを含むschneider培地または10% FBSを含むIPL41培地で25℃で24時間培養した。TcKr-h1の-477/+106を含むレポータープラスミド(pGL4.14_Tckrh1_pro)0.2μg、内部標準としてpIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃、24時間トランスフェクションを行い、メソプレン10μMを添加し25℃、24時間培養後にルシフェラーゼアッセイを行った。
【図31】コクヌストモドキTcKr-h1のJHREを用いたヒト細胞におけるJH応答性の発現誘導。HEK293細胞を0.2×105 /well で96ウェルプレートにまき、10% FBSおよび0.1 mM 非必須アミノ酸 (NEAA) を含むMEM培地で37℃で48時間培養した。TcKr-h1の-477/+106を含むレポータープラスミド 0.2μg、gal4-DBD_BmMet2発現プラスミド(pcDNA_BmMet2)または野生型BmMet2(pBIND_BmMet2_-gal4)を発現するプラスミド(pBIND_BmMet2_-gal4)0.2μg、および内部標準レポーターベクター pRL-TK (Promega) 0.2μgをLipofectamine 2000(0.5μg)を用いてco-transfection (37℃, 48h) を行い、JHI 0.1μMを添加後 (37℃, 24h)、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。コントロールとして、Met2をコードしない空ベクター(pcDNA_none)を用いた。
【図32】哺乳動物細胞におけるJH誘導発現の用量依存特性。MEM + 0.1mM NEAA + 10% FBS 200μl で培養したHEK293 (0.2×105/well, 96well plate) に pGL4.14_-2165/-2025&-49/116 および BmMet2発現ベクター(pBIND_BmMet2_-gal4)を、内部標準レポーターベクター pRL-TKと共にLipofectamine 2000を用いてco-transfection (48h) を行い、JH処理(JHI, II, III, MT (methoprene), MF (methyl farnesoate), FA (Farnesoic acid), 24h)を実施し、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。
【図33】カイコ細胞におけるJH誘導発現の用量依存特性。aff3細胞を10% FBSを含むIPL41 200μlで培養し (1.5×105/well, 96well plate)、JH処理後(JHI, II, III, MT (methoprene), MF (methyl farnesoate), FA (Farnesoic acid), 2h)、内在性のBmKr-h1の転写レベルを測定した。内部標準として内在性のribosomal protein 49 (BmRp49) の転写レベルを測定した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、幼若ホルモン(JH)に応答して下流の遺伝子の転写を活性化するJH応答配列(JH応答エレメント (JHRE))を提供する。本発明のDNAには、JH応答性を有する遺伝子の転写調節領域中の配列を含むDNAであって、その配列があることによりJH応答性を有するDNAが含まれる(本発明においてはこれを、JHREを含むDNAとも言う)。より具体的には、本発明のDNAは、JHREの必須配列(CTCCACGTG (配列番号42) またはそれと高度に類似した配列)を含む。また本発明のJHREには、より好ましくは、例えばCCTCCACGTG (配列番号41)、GCCTCCACGTG (配列番号40)、GGCCTCCACGTG (配列番号39)、またはこれらのいずれかと高度に類似した配列を含むものが含まれる。当該DNAは、適当なプロモーターの近傍に挿入されることによりJH応答性を付与するようなDNA、または挿入しない場合と比べJH応答性を上昇させるようなDNAである。このようなDNAは、JHまたはJHアゴニストに応答して転写が促進されるので、その発現を検出することによりJHの作用を評価することができる。従って、これらのDNAは、JHまたはそのアゴニスト、アンタゴニスト等の検出またはスクリーニングのためのマーカーとして、あるいはJHまたはそのアゴニスト、アンタゴニスト等による発現の制御のために有用である。
【0026】
上記DNAは、JH応答性の転写エンハンサーとして用いることができる。すなわち該DNAを転写調節領域(例えば転写開始点から5kb以内、4kb以内、3kb以内、2kb以内、1kb以内、500b以内)に含むDNAにおいて、JHに応答して下流の遺伝子の転写を誘導することができる。本発明のDNAは、転写調節領域において、JHに応答して下流の遺伝子の転写を調節するための配列(すなわちJH応答エレメント)として有用である。
【0027】
JH応答性を有するとは、JHまたはそのアゴニストに応答して発現が上昇するか、または発現を上昇させることを言い、転写調節領域の配列を含むDNAにおいては、ある細胞においてそのDNAの制御下に連結したDNAの転写レベル(またはそこにコードされる蛋白質の発現または活性のレベル)が、JHまたはそのアゴニストに応答して誘導、またはJHまたはそのアゴニストの非存在下に比べて上昇することを言う。転写調節領域のDNAは、適宜他のプロモーター(JH応答性を必ずしも持たないもの)、転写開始部位、およびレポーター遺伝子等と組み合わせて、JH応答性を評価することができる(すなわちレポーターアッセイ)。JHは、天然JHであっても合成JH(例えばメソプレン)であってもよい。合成JHには、JHアゴニスト(JH作動性のJHアナログを含む)が含まれる。
【0028】
また本発明は、CTCCACGTG (配列番号42) またはそれと高度に類似した配列)を含むDNAであって、Met(Methoprene-tolerant)蛋白質(resistance to juvenile hormone (Rst(1)JH)、または juvenile hormone resistence protein とも呼ばれる)に結合する活性を有するDNAを提供する。Met蛋白質をDNAに結合させることにより、昆虫細胞のみならず、哺乳動物細胞などの他の細胞においても、下流の遺伝子の発現を誘導することができる。従ってMet蛋白質に結合するDNA(Met結合エレメント)は、Met蛋白質による発現調節のための調節配列として有用である他、このDNAとMet蛋白質との結合を阻害する化合物のアッセイやスクリーニングにも使用することができる。本発明は、本発明のDNAの、Met蛋白質に結合させるための使用を提供する。このような使用には、Met蛋白質に結合させることによる結果(効果)を得るための使用も含まれる。例えば本発明は、JHまたはそのアゴニストの存在下で、本発明のDNAとMet蛋白質を共存させる工程を含む、Met蛋白質を該DNAと相互作用させる方法に関する。当該方法は、JHに応答して該DNAの転写活性を誘導させるために用いることができる。
【0029】
本発明のDNAとしては、CTCCACGTG配列と同一の配列でなくても、JH応答活性および/またはMet蛋白質結合活性を有する限り、それと高度に類似した配列を含むDNAを使用することができる。このような配列は、CTCCACGTG (配列番号42)(または配列番号39〜41)に対して、1または数個の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列であってよく、より好ましくは1または数個の塩基を置換した配列である。改変された塩基配列は、改変前と65%以上、好ましくは70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、または90%以上の同一性を有する。例えば、改変される塩基は好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、さらに好ましくは1個である。一例を挙げれば、例えばCTNCACGTG (例えば CTMCACGTG)、CWCCACGTG (例えば CACCACGTG) などが挙げられる。
【0030】
本発明のDNAは、JH応答性遺伝子の転写調節領域中の配列をさらに含むことができる。例えばJH応答性遺伝子の転写調節領域(例えば転写開始点から5kb以内、好ましくは4kb、3kb、または2kb以内)において、CTCCACGTGまたはそれと高度に類似した配列を含む部分を切り出して使用することができる。JH応答活性を有する限り、切り出す範囲に特に制限はないが、例えば10塩基以上、好ましくは11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、40、50、70、または100塩基以上を切り出して使用するとよい。好ましい態様では、CTCCACGTGまたはそれと高度に類似した配列の5'側(上流側)を、例えば1塩基以上、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、または60塩基以上含むように切り出すことが好ましい。
【0031】
JH応答性遺伝子としては、転写調節領域中にCTCCACGTGまたはそれと高度に類似した配列を含み、該配列がJHに応答して転写を活性化させる活性を有する限り任意のものを使用することができる。JH応答性遺伝子としては、好ましくは最適なJH濃度の存在下において、遺伝子の発現が、JH非存在下に比べ有意に、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、8倍以上、10倍以上上昇する遺伝子である。特にJH応答遺伝子の1つであるKr-H1遺伝子の転写調節領域から配列を切り出して使用することにより、極めて高いJH応答性を発揮する転写調節配列を得ることが可能である。Kr-h1遺伝子としては、例えば鱗翅目昆虫や鞘翅目(甲虫目)昆虫などのKr-h1遺伝子が挙げられ、これらの遺伝子の転写調節配列を好適に用いることができる。例えば鱗翅目昆虫を代表するカイコのKr-h1遺伝子は配列番号1および3、転写領域の配列は配列番号9に示されている。また鞘翅目昆虫を代表するコクヌストモドキ(Tribolium castaneum)のKr-h1遺伝子は配列番号32、転写領域の配列は配列番号31に示されている。また、本発明においてKr-h1遺伝子およびKr-h1蛋白質には、これらの遺伝子および蛋白質の相同遺伝子および相同蛋白質が含まれる。Kr-h1遺伝子を具体的に例示すれば、例えばキョウソヤドリコバチ (Nasonia vitripennis) Kr-h1 (XM_001600244.1, XP_001600294.1)、セイヨウミツバチ (Apis mellifera) Kr-h1 (NM_001011566.1, NP_001011566.1)、エンドウヒゲナガアブラムシ Kr-h1 (Acyrthosiphon pisum) (XM_001946159.1, XP_001946194.1)、ネッタイシマカ (Aedes aegypti) Kr-h1 (XM_001655112.1, XP_001655162.1)、ネッタイイエカ (Culex quinquefasciatus) Kr-h1 (XM_001863494.1, XP_001863529.1)、ガンビアハマダラカ (Anopheles gambiae) Kr-h1 (AGAP009662-PA; XM_318706.4, XP_318706.4) 等を例示することができる。
【0032】
例えばBmKr-h1の転写調節領域中の配列を含む好適なDNAを具体的に例示すれば、BmKr-h1αに対して-4741〜+968(配列番号:9)、-4741〜+116、-4041〜+116、-2763〜+116(配列番号:10)、-4041〜+968、-2763〜-1695、-2565〜+116、-2347〜+116、-2165〜+116、-2165〜-1999および-285〜+116の組み合わせ、-2165〜-2049および-285〜+116の組み合わせ、-2165〜-1999および-192〜+116の組み合わせ、-2165〜-2049および-192〜+116の組み合わせ、-2165〜-1999および-111〜+116の組み合わせ、-2165〜-2049および-111〜+116の組み合わせ、-2165〜-1999および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2049および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2001および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2025および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2045および-49〜+116の組み合わせ、-2165〜-2068および-49〜+116の組み合わせ、およびそれらの断片であってJH応答性またはMet蛋白質結合活性を有するものが挙げられるが、それらに限定されない。特に-2165〜-2025(配列番号11)、-2128〜-2045(配列番号36)、-2165〜-2049、-2165〜-2068、-2128〜-2049(配列番号37)、-2105〜-2068(配列番号38)、-2079〜-2063、-2079〜-2068(配列番号39)、またはそれらの断片であってJH応答性を有するもの、特に-2094〜-2089、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2078〜-2068、-2077〜-2068、または-2076〜-2068を含む15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100塩基以上のJH応答性断片またはMet蛋白質結合断片が例示できる。また、配列番号34、35(TcKr-h1の-351/+48、-477/+106)、またはそれらの断片であってJH応答性またはMet結合活性を有するもの、特にCTCCACGTGを含む配列番号34の1〜351の断片であって、JH応答性またはMet結合活性を有する断片を例示することができる。
【0033】
また、例えばキョウソヤドリコバチ (Nasonia vitripennis) Kr-h1の転写調節領域中の配列としては、翻訳開始点から上流-2892/-2884の9塩基を含む配列(例えば -2941/-2842 (配列番号43) を含む配列)が候補として挙げられる。当該領域の塩基配列は、accession番号 AAZX01010451.1 を参照することができる。セイヨウミツバチ (Apis mellifera) Kr-h1の転写調節領域中の配列としては、翻訳開始点から上流-1997/-1989の9塩基を含む配列(例えば -2068/-1926 (配列番号44) を含む配列)が候補として挙げられる。当該領域の塩基配列は、accession番号 NW_001260508.1 を参照することができる。エンドウヒゲナガアブラムシ (Acyrthosiphon pisum) Kr-h1の転写調節領域中の配列としては、翻訳開始点から上流-1221/-1213の9塩基を含む配列(例えば -1260/-1193 (配列番号45) を含む配列)が候補として挙げられる。当該領域の塩基配列は、accession番号 ABLF01017962.1 を参照することができる。その他、AC092216.1(GI:14578097)の相補配列における配列番号46を含む配列などが候補として挙げられる。
【0034】
なお転写調節領域の配列を含むDNAにおけるJH応答性は、そのDNAがJH存在下で絶対的な転写レベルを上昇させるかどうかというよりは、JH非存在下と比べた場合の、JH存在下における転写レベルの上昇の比率(誘導倍率)により測られる。従って、仮にあるDNAをプロモーターに挿入した場合に、そのDNAを挿入しなかった時と比べてJH存在下でさえ転写レベルが低下したとしても、そのDNAを挿入したプロモーターにおいて、JH非存在下における転写レベルがさらに低下したのならば、そのDNAはJH応答性を有している。すなわち、JH非存在下で特異的に(すなわちJH存在下よりも強く)転写のネガティブ調節エレメント(negative regulatory element)として働く配列も、JH応答性を有する配列である。好ましい態様では、本発明のDNAは、JH非存在下に比べ、JH存在下において、転写活性が1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、8倍以上、10倍以上上昇させる活性を有する。JHの最適濃度は、適宜決定することができる。
またMet蛋白質との結合活性は、標識したDNAを用いたプルダウンアッセイや、表面プラズモン共鳴(Biacore)を利用した測定、実施例に記載したone-hybridアッセイと同様のレポーターコンストラクトを利用した系などにより検出することができる。Met蛋白質は、ヘテロダイマーとしてJHREに結合および/またはJHREを介した転写を活性化するものであってもよいが、好ましくは単独でJHREに結合および/またはJHREを介した転写を活性化する。
【0035】
また本発明のDNAには、上記DNAにおいて、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加などにより改変された配列を持つDNAであって、該配列がJH応答性またはMet結合活性を有するDNAが含まれる。例えばJH応答性を持つDNAは、適当なプロモーター中に挿入されることによりJH応答性を付与するか、あるいは挿入しない場合と比べJH応答性を上昇させる。JH応答性の遺伝子の転写調節領域から切り出された配列は、それを適宜改変することにより、JH応答性またはMet結合活性を維持したバリエーションを容易作り出すことが可能である。
【0036】
配列が改変された核酸を調製するための当業者によく知られた方法としては、部位特異的変異誘発法(Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer, W. et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel, TA(1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488-492、Kunkel (1988) Methods Enzymol. 85, 2763-2766)などが挙げられる。また変異やバリエーションは自然界においても存在する。本発明のDNAには、そのような人工的に作り出したDNA、および天然の、または自然に生じた(naturally occurring)バリエーションであって、JH応用性を持つDNAが含まれる。これらのバリエーションには、多型が含まれる他、JH応答性またはMet結合活性に影響を与えない程度の変異が含まれる。
【0037】
DNAにおいて改変されている塩基数に特に制限はないが、例えばJH応答性またはMet結合活性を有するDNAの全塩基数の30%以内、好ましくは25%以内、20%以内、15%以内、10%以内、5%以内、3%以内、または1%以内であってよい。また、例えば100塩基以内、好ましくは80塩基以内、70塩基以内、60塩基以内、50塩基以内、40塩基以内、30塩基以内、20塩基以内、10塩基以内、5塩基以内、または1塩基が改変されていてよい。これらのDNAは、Kr-h1遺伝子(例えばカイコKr-h1やコクヌストモドキKr-h1、あるいは鱗翅目昆虫や鞘翅目昆虫におけるその相同遺伝子(オルソログ))の転写調節領域のDNAであって、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAの塩基配列(一例を挙げればBmKr-h1の-4741〜+968、-4741〜+116、-4041〜+116、-2763〜+116、-4041〜+968、-2763〜-1695、-2565〜+116、-2347〜+116、-2165〜+116、-2165〜-2025、-2128〜-2045、-2165〜-2049、-2165〜-2068、-2128〜-2049、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2094〜-2089、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2078〜-2068、-2077〜-2068、-2076〜-2068またはそれらの中にあるJH応答性断片)と、連続する少なくとも9塩基、好ましくは10、11、12、13、15、17、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、80、90、または100塩基以上にわたって、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは100%の同一性を持つ配列を含んでいる。
【0038】
ここで塩基配列およびアミノ酸配列の同一性は、比較したい配列をそれぞれ塩基およびアミノ酸が一致するように適宜ギャップを挿入して整列させ、整列された範囲の全アミノ酸または全塩基に対する一致するアミノ酸または塩基の割合 (%) として計算される。配列の整列は、例えばKarlinおよびAltschulによるアルゴリズムであるBLAST(Proc. Natl. Acad. Sei. USA, 1990, 87, 2264-2268、Karlin, S. & Altschul, SF., Proc. Natl. Acad. Sei. USA, 1993, 90, 5873)を用いて行うことができる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTPと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul, SF. et al., J Mol Biol, 1990, 215, 403)。具体的には、塩基配列の同一性を決定するにはblastnプログラム、アミノ酸配列の同一性を決定するにはblastpプログラムを用い、例えばNCBI(National Center for Biothchnology Information)のBLASTのウェブページにおいて「Low complexity」などのフィルターの設定は全てOFFにして、デフォルトのパラメータを用いて計算を行う(Altschul, S.F. et al. (1993) Nature Genet. 3:266-272; Madden, T.L. et al. (1996) Meth. Enzymol. 266:131-141; Altschul, S.F. et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Zhang, J. & Madden, T.L. (1997) Genome Res. 7:649-656)。パラメータの設定は、例えばopen gapのコストはヌクレオチドは5で蛋白質は11、extend gapのコストはヌクレオチドは2で蛋白質は1、nucleotide mismatchのペナルティーは-3、nucleotide matchの報酬は1、expect valueは10、wordsizeはヌクレオチドは11で蛋白質は2、Dropoff (X) for blast extensions in bitsはblastnでは20で他のプログラムでは7、X dropoff value for gapped alignment (in bits)はblastn以外では15、final X dropoff value for gapped alignment (in bits)はblastnでは50で他のプログラムでは25 にする。アミノ酸配列の比較においては、スコアのためのマトリックスとしてBLOSUM62を用いることができる(Henikoff, S. and Henikoff, J. G. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10915-10919)。2つの配列の比較を行うblast2sequencesプログラム(Tatiana A et al. (1999) FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)の助けをかりて、2つの配列のアライメントを作成することができる。配列の同一性の算出においては、例えば比較する元となる配列の全範囲のアライメント中(内部に挿入されたギャップは分母に加える)の一致する塩基またはアミノ酸の割合を計算する。元となる配列の外側に配置されたギャップやミスマッチは計算から除外し、アライメント内のギャップはミスマッチと同等にみなして算出する。
【0039】
また本発明のDNAには、上記DNAから調製したプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAが含まれる。また本発明は、Kr-h1遺伝子の転写調節領域中の配列から切り出した、JH応答活性またはMet結合活性を有するDNA、具体的には、カイコKr-h1(配列番号:2または4)をコードするKr-h1遺伝子、コクヌストモドキKr-h1、および他の昆虫におけるその相同遺伝子(オルソログ)の転写調節領域中の配列であってJH応答活性またはMet結合活性を有するDNA、あるいはそれらの相補鎖と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAにも関する。例えばカイコBmKr-h1(配列番号:1または3)またはその転写調節領域のDNA(例えば配列番号:9)、あるいはコクヌストモドキKr-h1(配列番号32)またはその転写調節領域のDNA(例えば配列番号:31)からプローブを調製し、ハイブリダイゼーションによりゲノムDNAライブラリー等をスクリーニングすることにより、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを得ることができる。このようなDNAは、実施例で示したのと同様に、JHに対する高い応答性を有することが期待できる。すなわち転写される配列およびそこにコードされる蛋白質は、JHに応じて発現が誘導され、転写調節領域のDNAは、機能的に連結された遺伝子の転写をJHに応じて活性化させることができることが期待できる。
【0040】
プローブの調製は、例えばカイコBmKr-h1(例えば配列番号:1、3、またはそれらのCDS、あるいはそれらの相補配列)、コクヌストモドキKr-h1(配列番号32またはそのCDS、あるいはその相補配列)、またはそれらの相同遺伝子の転写配列(またはCDSあるいはそれらの相補配列など)、あるいはそれらの転写調節領域(例えば配列番号:9〜12、31のいずれか、あるいはそれらの相補配列)のDNA(センス鎖、アンチセンス鎖、またはその両方)の全体または一部をプローブまたはその鋳型として用いることができ、例えばニックトランスレーション法、ランダムプライマー法、PCR、またはin vitroトランスレーション等により、標識されたプローブを調製することができる(Feinberg, A. P. and Vogelstein, B., 1983, Anal. Biochem. 132, 6-13; Feinberg, A. P. and Vogelstein, B., 1984, Anal. Biochem. 137, 266-267; Saiki RK, et al: Science 230: 1350, 1985、Saiki RK, et al: Science 239: 487, 1988)。ランダムプライマー法としては、ランダムヘキサマー(pd(N)6)またはランダムノナマー(pd(N)9)等を用いればよい(例えば Random Primer DNA Labeling Kit, Takara Bio Inc., Otsu, Japan)。プローブの調製に用いられる鋳型DNAは、例えば連続した20塩基以上、好ましくは30、40、50、70、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、または1000塩基以上である。また、プローブの平均鎖長は、例えば20塩基以上、好ましくは30、40、50、70、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、または1000塩基以上であり、例えば5000塩基以下、好ましくは4000、3000、または2000塩基以下である。プローブに短い鎖長の核酸が含まれていたとしても、ストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションにおいてはそれらのプローブは核酸にハイブリダイズすることができないので影響は少ない。
【0041】
ストリンジェントな条件下におけるハイブリダイゼーションは、当業者が日常的に行っている(Southern, E. M., J. Mol. Biol., 98:503, 1975; Sambrook and Russell, Molecular Cloning, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, USA, 2001)。具体的には、例えば5×SSC (1×SSC は 150 mM NaCl, 15 mM sodium citrateを含む)、7%(W/V) SDS、100μg/ml 変性サケ精子DNA、5×デンハルト液(1×デンハルト溶液は0.2%ポリビニールピロリドン、0.2%牛血清アルブミン、および0.2%フィコールを含む)を含む溶液中、50℃、好ましくは60℃、より好ましくは65℃でハイブリダイゼーションを行う条件である。ハイブリダイゼーションの時間は適宜調製してよいが、例えば3時間またはそれ以上、好ましくは5時間またはそれ以上、好ましくは8時間またはそれ以上、好ましくは12時間またはそれ以上、例えば5〜15時間程度行う。ハイブリダイゼーション後の洗浄は、ハイブリダイゼーションと同じ温度で、例えば2×SSC, 0.1% SDS中で20分、好ましくは30分、より好ましくは40分洗浄する。より好ましくは、ハイブリダイゼーション後の洗浄を、ハイブリダイゼーションと同じ温度で、1×SSC, 0.1% SDS中、より好ましくは0.5×SSC, 0.1% SDS中、より好ましくは0.2×SSC, 0.1% SDS中、より好ましくは0.1×SSC, 0.1% SDS中で20分、好ましくは30分、より好ましくは40分洗浄する。
【0042】
DNAが由来する生物種としては、例えば所望の昆虫または甲殻類であってよく、好ましくは鱗翅目昆虫または鞘翅目昆虫であり、より好ましくはカイコガ上科(Bombycoidea)、ヤガ上科(Noctuoidea)、マダラガ上科(Zygaenoidea)、スズメガ上科(Sphingoidea)、スガ上科(Yponomeutoidea)、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)昆虫が挙げられ、具体的にはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)、スガ科(Yponomeutidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)の昆虫、より好ましくはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、およびゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、より好ましくはBombyx属(Bombyx mori、Bombyx mandalina)およびコクヌストモドキ属(Tribolium属)の昆虫が挙げられる。
【0043】
転写調節領域のうち、JH応答またはMet結合性に必要な領域(JHRE)はごく一部を占めるに過ぎないと考えられる(実施例参照)。従って転写調節領域のDNAは、JH応答性またはMet結合活性を失わない限り欠失させてもよい。該活性を有するために必須な配列は、その領域を適宜欠失させて該活性が保たれている領域を特定することにより同定することができる(実施例4〜6)。例えば本発明は、配列番号:9の断片であって、JH応答またはMet結合性を有するDNAに関する。このようなDNAには、BmKr-h1αに対して -4741〜+116、-4041〜+116、-2763〜+116、-4041〜+968、-2763〜-1695、-2565〜+116、-2347〜+116、-2165〜+116、-2165〜-2025、-2128〜-2045、-2165〜-2049、-2165〜-2068、-2128〜-2049、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2094〜-2089、-2079〜-2063、-2079〜-2068、-2078〜-2068、-2077〜-2068、または -2076〜-2068 の配列、あるいはそれらのJH応答性断片またはMet結合断片を含むDNAが含まれる。JH応答性を持つ断片を得るためには、例えば実施例に記載したように、PCR、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼ処理、変異導入法等により、適宜断片を調製し、その下流にマーカー遺伝子を連結してJH応答性を調べ、JH応答性を保持したものを選択すればよい。配列番号:12、34〜42の配列には、Kr-h1の主要なJHREの少なくとも1つが含まれていると考えられる。これらの配列の断片であって、JH応答性を有するDNAは、本発明に含まれる。またBmKr-h1αのイントロン配列(配列番号:15)中には、JH応答性をもたらす配列(JHRE)が含まれていることが示唆される。配列番号:15またはその断片を含むDNAであってJH応答性を有するDNAは、本発明に含まれる。これらの断片のJH応答性は、実施例に記載の方法により確認することができる。
【0044】
またBmKr-h1αにおける -2068位の3’側、例えば-2068〜-2025の領域は、3’側から欠失させて行くと次第にJH応答性が低下する(図20)ことから、この領域中にもJH応答性に関与する配列が含まれていることが示唆される。従って、これらの領域に含まれる配列を含むDNAも、本発明のDNAとして優れている。すなわち本発明は、BmKr-h1αに対して -2165〜-2045またはその断片の塩基配列を含むDNAであってMet結合活性またはJH応答性を有する(該配列によりJH応答性がもたらされる)DNAに関する。また本発明は、BmKr-h1αに対して -2165〜-2025(配列番号:11)またはその断片の塩基配列を含むDNAであってMet結合活性またはJH応答性を有する(該配列によりJH応答性がもたらされる)DNAに関する。
特に配列番号:12(BmKr-h1αに対する -2165〜-2068の領域)、38〜42から選択される配列の全部または少なくとも3'末端を含む断片を含み、より下流(3’側、つまり -2167〜)の少なくとも一部の領域も含むDNAは好適である。例えば、配列番号:12、38〜42のいずれか、またはその3’末端の塩基を含む部分配列を含み、それに連続して、BmKr-h1αに対して-2067〜-2045またはその断片をさらに含むDNAであって、JH応答性を有するDNAは、本発明に含まれる。また、より下流(3’)の領域、例えば-2025まで含むDNAは、JH応答性はさらに上昇する(図20)。配列番号:12またはその3’末端の塩基を含む部分配列を含み、それに連続して、BmKr-h1αに対して-2067〜-2025またはその断片をさらに含むDNAであって、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAは、本発明に含まれる。また本発明は、BmKr-h1αに対する -2105〜-2068、または -2165〜-2045の領域、あるいはその断片の塩基配列を含み、その配列によりJH応答性がもたらされるDNAに関する。また本発明は、BmKr-h1αに対する -2105〜-2068、または -2165〜-2025の領域、あるいはその断片の塩基配列を含み、その配列によりJH応答性またはMet結合性がもたらされるDNAに関する。
【0045】
上記DNAは、適宜転写開始部位を含んでよい。転写開始部位に特に制限はなく、例えば鱗翅目昆虫遺伝子に由来する転写開始部位を3’側に連結させることができる。但し、転写開始部位やプロモーター自体の由来はKr-h1である必要はなく、適宜他の遺伝子由来の配列を使用することができる(図26、28)。JHREを含む断片と転写開始部位との距離は、適宜調整してよい。BmKr-h1αの転写開始部位を用いる場合は、例えばBmKr-h1αに対して -285〜+116、-192〜+116、-111〜+116、-49〜+116(配列番号:13)、または転写開始(+1)部位を含むそれらの断片の塩基配列を用いることができるが、これらに限定されない。また、BmKr-h1βの転写開始部位を含む断片を用いてもよい。好適な一例を挙げれば、BmKr-h1αに対して -2165〜-2025と-49/+116の配列を含むDNAが例示できる。BmKr-h1αに対して -2165〜-2025と-49/+116を連結した塩基配列(配列番号:14)を含むDNAは、JH応答性プロモーターとして特に好適である。
【0046】
また、BmKr-h1αのイントロンに相当する領域(+131〜+942;配列番号:15)は、それがなくてもJH応答性は維持されるが、上述の通り、この領域もJH応答性に関与していると考えられる。本発明は、BmKr-h1αのイントロンの塩基配列またはその断片の塩基配列を含むDNAであって、Met結合活性を有するDNAまたは該配列によりJH応答性が上昇するDNAに関する。JH応答性の上昇は、該配列があることによって、JHまたはJHアゴニスト存在下における転写を上昇させることであってもよいし、JHまたはJHアゴニスト非存在下において、転写を抑制させることにより、JHまたはJHアゴニスト存在下における転写誘導(誘導倍率)を上昇させることであってもよい。イントロンまたはその断片の塩基配列は、BmKr-h1の転写開始部位と適宜組み合わせて用いてもよい。例えば BmKr-h1α の -49〜+116(配列番号:13)と組み合わせて用いることができる。あるいは、BmKr-h1β の転写開始部位(配列番号:9の815位のA)周辺の配列を含むような断片も好適である。また、-2165〜-2068(配列番号:12)またはそのJH応答性の断片配列、あるいは、-2165〜-2045、-2165〜-2025、またはそれらのJH応答性の断片配列と組み合わせて用いるのが好ましい。BmKr-h1αイントロンまたはその部分配列を含みJH応答性を上昇させるDNAは、特にSf9やBmN4などの細胞において好適に用いられる。
【0047】
なお本発明のDNAは、Kr-h1遺伝子を含む染色体全体のDNAは含まない。また本発明は、例えば照射や変異原暴露等により生じた、Kr-h1遺伝子を含む断片染色体を構成するようなDNAを含むものでもない。また、accession番号 AADK01001667 (GI number 54108045; Update Date: Oct 12 2004 7:59 PM) で示されるような、カイコ染色体断片の連続配列(コンティグ等)からなるDNAは含まない。本発明のDNAは、好ましくはaccession番号 AADK01001667の少なくとも一部の配列、例えば連続した15、20、50、100、200、500、1000塩基の配列を少なくとも1箇所、好ましくは少なくとも2箇所、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、または7箇所の配列を含まない。具体的には、例えばAADK01001667の 1〜10000番目(配列番号:29)および/または24958〜25957番目(配列番号:30)の少なくとも1箇所、好ましくは少なくとも2箇所、より好ましくは少なくとも3、4、5、6、または7箇所の連続した15、20、50、100、200、500、1000塩基の配列を含まないものである。例えば本発明のDNAは、配列番号:29またはその相補配列を含まない。より好ましくは、配列番号:29またはその相補配列の連続する800塩基以上の部分配列、より好ましくは600、500、400、300、200、または100塩基以上の部分配列あるいはその相補配列を含まない。また本発明のDNAは、例えば配列番号:30またはその相補配列を含まない。より好ましくは、配列番号:30またはその相補配列の連続する800塩基以上の部分配列、より好ましくは600、500、400、300、200、または100塩基以上の部分配列あるいはその相補配列を含まない。本発明のDNAは通常、Kr-h1遺伝子を含む天然のDNA配列を、連続して25kb以上にわたっては含まない。好ましくは、本発明のDNAは、Kr-h1遺伝子の一部またはKr-h1遺伝子の転写調節領域の一部を含む天然のDNA配列を、少なくとも連続しては20kb以下、好ましくは18kb、15kb、13kb、10kb、9kb、8kb、7kb、または6kb以下しか含まないものである。
【0048】
また本発明は、本発明のMet結合活性またはJH応答性JH応答性を有するDNA(すなわちJHREを含むDNA)を含む所望のプロモーターに関する。JHREは、1個、2、3、4、5、またはそれ以上のコピーを含んでもよい(例えばタンデムに)。またJHに応答して転写を誘導できる限り、順向きおよび逆向きのいずれで使用してもよい。さらに本発明は、JHREを含むDNAに所望のDNAが機能的に連結されているDNAに関する。機能的に連結されているとは、例えば連結されたDNAの転写がJH応答性を示すように連結されていることを言う。連結されるDNAに特に制限はなく、所望の異種遺伝子を連結してよいが、例えば蛋白質をコードするDNA、機能的RNA(アンチセンス、リボザイム、siRNAなど)をコードするDNA、タグ配列などが挙げられる。ここで異種遺伝子とは、JHREに対して、天然において結合している遺伝子以外の遺伝子である。勿論、天然において該転写調節領域のDNAの下流に機能的に連結されている遺伝子(Kr-h1遺伝子)自身を、天然の配列と全く同じではないように連結してもよい。例えば、所望のレポーター遺伝子を連結することにより、JHに反応してレポーター活性を誘導することができる。レポーター遺伝子が連結されたDNAは、様々なアッセイやスクリーニングに有用である。数多くのレポーター遺伝子が知られており、例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β-グルクロニダーゼ (GUS) 遺伝子、およびGFP遺伝子等を挙げることができる。
【0049】
また本発明のJHREを含むDNAは、上述の通り適当な転写開始部位を含んでよい。転写開始部位は、JHREが由来する遺伝子のものであってもよく、別の遺伝子のものであってもよい。鱗翅目昆虫細胞で利用する場合は、好ましくは鱗翅目昆虫遺伝子の転写開始部位が用いられる。またJHREを含むDNAは、天然の遺伝子とは別の遺伝子の転写調節配列(プロモーターおよび/またはエンハンサー等)を含んでもよい。例えば、所望のプロモーターを、JH応答性を有する本発明の転写調節領域のDNAと組み合わせることによって、転写活性にJH応答性を付与することができる。例えばプロモーターとして、JHREに対して、天然において結合しているプロモーター以外のプロモーター(異種プロモーター)を好適に用いることができる。組み合わせて用いるプロモーターとしては、例えばAutographa californica 核多角体病ウイルスプロモーター(例えば immediate-early 1 (IE-1) 遺伝子プロモーター、delayed-early 39Kプロモーター)、バキュウロウイルスp10プロモーター、バキュロウイルスポリヘドリンプロモーター、メタロチオネインプロモーター、アクチンプロモーター、リボソーム蛋白質遺伝子、熱ショックタンパク質遺伝子(例えば熱ショックタンパク質70(hsp70))、およびアクチン遺伝子(例えばアクチンA3)のプロモーターなどが挙げられる(図26)。また、哺乳動物細胞等で用いられる所望のプロモーター、例えはアデノウイルス、レトロウイルス、CMV(cytomegalovirus)、およびHSV(Herpes simplex virus)を含むウイルス遺伝子のプロモーター、アクチンプロモーター、EF1αプロモーター等と組み合わせてもよい(図28、29、31)。
【0050】
また本発明は、カイコBmKr-h1蛋白質(配列番号:2および4)をコードするDNA、および鱗翅目昆虫における、カイコBmKr-h1蛋白質の相同蛋白質をコードするDNA、ならびにこれらのDNAによってコードされるRNAおよび蛋白質に関する。これらの核酸および蛋白質は、JHにより高効率に発現が誘導される。従って、これらの核酸および蛋白質は、JHの天然のマーカーとして非常に有用である。
これらの蛋白質および該蛋白質をコードする核酸には多型および/または変異体が含まれる。変異しているDNAまたは蛋白質でもJH応答性が維持されていれば、それらをJHの天然のマーカーとして用いることができる。このような変異には、天然の、または自然に生じた(naturally occurring)変異、および人為的に導入した変異が含まれる。天然型の配列が少数改変されてもその影響は低いので、元の機能は失われず、個体の生存に影響を与える可能性は低い(Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81, 5662-5666 、Zoller, M. J. & Smith, M. Nucleic Acids Research (1982) 10, 6487-6500 、Wang, A. et al., Science 224, 1431-1433、Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79, 6409-6413、Bowie et al., Science (1990) 247, 1306-1310)。従って、変異が鱗翅目昆虫細胞においてバイアビリティーおよびJH応答性を失わせない限り、天然の配列からの変異は許容される。また、元の遺伝子の塩基配列に僅かな変異を導入したり、改変体をコードする遺伝子を元の遺伝子と置換すれば、JH応答性を有する元々の遺伝子のプロモーターの制御下に改変体を発現させることができる。これにより、元の遺伝子にタグ配列を挿入したり、特定の制限酵素部位を導入または削除することができる。これらのDNAは、個体において、JHに応じて発現が誘導されるので、個体を使ったJHのアッセイやスクリーニングにおけるマーカーとして有用である。
【0051】
ここで鱗翅目昆虫におけるその相同遺伝子・相同蛋白質には、実施例において単離された遺伝子・蛋白質以外のカイコ遺伝子・蛋白質の多型や変異体を含む。またJH応答性を有するとは、JHまたはそのアゴニストに応答して発現が上昇するか、または発現を上昇させることを言い、遺伝子および蛋白質においては、天然にそれらを発現するある細胞において、それぞれその遺伝子および蛋白質の発現がJHまたはそのアゴニストにより誘導されるか、またはJHまたはそのアゴニストの非存在下に比べて上昇することを言う。JH応答性は好ましくはin vitro、例えばクローナルな細胞集団において観察されるものである。JH応答性を調べるための細胞としては、昆虫細胞、例えば鱗翅目昆虫の脂肪体細胞、胚子由来細胞、卵巣由来細胞等が挙げられ、具体的にはBmN4(Funakoshi Co., Tokyo, Japan)、Sf9(Gidwin, G., et al. 1993, Focus 15, 44; Invitrogen)、Sf21 (Harris, R., et al. 1997, Focus 19, 6; Invitrogen)、SES-BoMo-C129 (NIAS Genebank (National Institute of Agrobiological Sciences Genebank; Tsukuba, Ibaraki, Japan) MAFF No. 275026; 今西重雄 (1998) 昆虫培養細胞系の保存リスト 蚕糸・昆虫農業技術研究所研究資料 24: 45-56)、SES-BoMo-J125K6 (MAFF No. 275032; 今西重雄 (1998) 同上)、NIAS-Bm-aff3細胞(Takahashi, T. et al. (2006) J. Insect Biotech. Sericol. 75: 79-84)、Oyanagi2(Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41)などが用いられる。JHは、天然JHであっても合成JH(例えばメソプレン)であってもよい。合成JHには、JHアゴニスト(JH作動性のJHアナログを含む)が含まれる。
【0052】
すなわち本発明には、カイコBmKr-h1蛋白質(例えば配列番号:2または4)またはその鱗翅目昆虫における相同蛋白質のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸を置換、欠失、および/または付加したアミノ酸配列を含む蛋白質であって、JH応答性を有する蛋白質および該蛋白質をコードするDNAが含まれる。例えばこのようなDNAを非組み換え状態で有する細胞において、該DNA(またはコードされる蛋白質)の発現がJH応答性を有する限り、それらはJHマーカーとして有用である。改変されているアミノ酸は、例えば150アミノ酸以内、好ましくは100以内、80以内、70以内、60以内、50以内、40以内、30以内、20以内、10以内、5以内、または1アミノ酸である。また本発明には、配列番号:2または4のアミノ酸配列と高い同一性(70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは100%)を有するアミノ酸配列からなる蛋白質であって、JH応答性を有する蛋白質が含まれる。ここでJH応答性を有する蛋白質とは、天然のプロモーターの制御下に結合されている状態でJHに応じて発現が誘導または上昇することである。JH応答性は、例えば当該遺伝子を天然に含む細胞をin vitroで培養し、JHを添加して当該遺伝子の発現が誘導または上昇するかどうかを検出することにより確認することができる。
【0053】
また本発明には、カイコBmKr-h1遺伝子のコード配列(例えば配列番号:1または3のCDS)またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子のコード配列において、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含み、JH応答性を有するDNAおよび該DNAによりコードされる蛋白質が含まれる。改変される塩基は、例えば500塩基以内、好ましくは450以内、400以内、350以内、300以内、250以内、200以内、150以内、100以内、80以内、60以内、50以内、40以内、30以内、20以内、15以内、10以内、または5以内である。また本発明には、配列番号:1または3のコーディング配列(CDS)と高い同一性(70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上、最も好ましくは100%)を有する配列を含み、JH応答性を有するDNAおよびそこにコードされる蛋白質が含まれる。ここでJH応答性を有するとは、天然のプロモーターの制御下に結合されている状態でJHに応じてこのDNAの転写またはそこにコードされている蛋白質の発現が誘導または上昇することである。
【0054】
また本発明のDNAには、カイコBmKr-h1蛋白質(例えば配列番号:2または4)のアミノ酸配列をコードするDNA(例えば配列番号:1または3)から調製したプローブあるいは鱗翅目昆虫におけるその相同遺伝子(オルソログ)のDNAから調製したプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、JH応答性を有するDNAおよびそこにコードされる蛋白質が含まれる。また本発明は、カイコBmKr-h1蛋白質(例えば配列番号:2または4)のアミノ酸配列をコードするDNA(例えば配列番号:1または3)あるいは鱗翅目昆虫におけるその相同遺伝子(オルソログ)のDNA、あるいはそれらの相補鎖と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、JH応答性を有するDNAおよびそこにコードされる蛋白質にも関する。例えばカイコBmKr-h1(配列番号:1または3)からプローブを調製し、ハイブリダイゼーションによりゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを得ることができる。ハイブリダイゼーションの条件は、本明細書に記載した条件を用いればよい。プローブは、例えば配列番号:1または3あるいはそれらのコーディング配列の一部または全部、あるいはその相補配列からなっていてよい。ハイブリダイゼーションにより単離されるDNAは、カイコBmKr-h1と同様に、JHに対する高い応答性を有することが期待できる。すなわち転写される配列およびそこにコードされる蛋白質は、JHに応じて発現が誘導され、転写調節領域のDNAは、機能的に連結された遺伝子の転写をJHに応じて活性化させることができることが期待される。
【0055】
上記の本発明の蛋白質は、適宜他の蛋白質またはペプチドと連結して融合蛋白質とすることができる。融合蛋白質を作製するには、目的の蛋白質をコードするDNA同士をフレームが一致するように連結してこれを発現ベクターに導入し、宿主で発現させればよい。融合に付される他の蛋白質としては、特に限定されないが、例えばマーカー蛋白質やタグペプチドが挙げられる。本発明は、例えば配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列またはその断片の片端または両端に、タグや他の蛋白質など所望のアミノ酸配列が付加された配列からなる蛋白質、該蛋白質をコードする核酸が含まれる。
【0056】
融合に付されるポリペプチドをより具体的に例示すれば、例えば、FLAG(Hopp, T. P. et al., BioTechnology (1988) 6, 1204-1210)、数個(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, または10)のHis(ヒスチジン)残基、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-mycの断片、VSV-GPの断片、p18HIVの断片、T7タグ、HSVタグ、SV40T抗原の断片等の公知のタグペプチドが挙げられる。付加するポリペプチドの長さは、例えば50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、25アミノ酸以内、20アミノ酸以内、15アミノ酸以内、または10アミノ酸以内であるが、それに限定されない。また、融合に付される他の蛋白質としては、例えば、GST(グルタチオン S-トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)、イムノグロブリン定常領域、β−ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合蛋白質)等が挙げられる。GSTやMBPとの融合蛋白質は、インビトロで発現させた蛋白質を回収するためによく用いられている(Guan, C. et al. (1987) Gene, 67, 21-30; Maina, C.V. et al. (1988) Gene, 74, 365-373; Riggs, P.D. (1990) In Expression and Purification of Maltose-Binding Protein Fusions. F.M. Ausebel, R. Brent, R.E. Kingston, D.D. Moore, J.G. Seidman, J.A. Smith and K. Struhl (Eds.), Current Protocols in Molecular Biology, pp. 16.6.1-16.6.10; Bar-Peled and Raikhel (1996) Anal. Biochem. 241:140-142; Brew K, et al. (1975) JBC 250(4):1434-44; H. Youssoufian, (1998) BioTechniques 24(2):198-202)。融合蛋白質の境界部にペプチダーゼ切断配列を設計しておくことにより、蛋白質を精製後にGSTやMBP部分を切り離し、目的の蛋白質だけを回収することができる。
【0057】
また本発明は、本明細書に記載された核酸が挿入されたベクターに関する。当該ベクターには、JH応答性またはMet結合性を有する本発明のDNAを含むベクター、および上記BmKr-h1蛋白質または鱗翅目昆虫の相同蛋白質をコードするDNAを含むベクターが含まれる。ベクターとしては特に制限はないが、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、ファージ、コスミド、YAC(yeast artificial chromosome)、BAC(bacterial artificial chromosome)、PAC(P1-derived artificial chromosome)、TAC(transformation-competent artificial chromosome)等が利用できる。ウイルスベクターとしては、バキュロウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等が挙げられるが、これらに限定されない。JH応答性またはMet結合性を有する転写調節領域の配列を含むDNA(すなわちJHREを含むDNA)は、その下流に所望の遺伝子が結合されていてもよいし、いなくてもよい。例えば後で所望の遺伝子を挿入できるように、マルチクローニングサイトが連結されていてもよい。本発明は、本発明のJHREを含むベクター、該JHREの制御下に外来遺伝子が機能的に結合した構造を有するDNAを含むベクター、および、該JHREの下流(例えば10、8、7、6、5、4、3、2、または1kb、あるいはそれら以内)に任意の遺伝子を機能的に挿入するための部位を有する構造のDNAを含むベクターに関する。そのような部位としては、例えば制限酵素認識配列、クロナーゼ等の組み換え酵素標的配列、TAクローニング部位などが挙げられる。本発明のJHREを含むベクターは、JH応答性発現ベクターとして有用である。また、蛋白質コード配列などの転写される配列をコードするDNAは、適宜所望のプロモーター配列が上流に連結されていてもよい。またベクターには、適宜ターミネーターをさらに含んでいてもよい。
【0058】
バキュロウイルスベクターを用いた発現系については、Bailey MJ, Possee RD (1991): Manipulation of baculovirus vectors. In. Murray EJ (ed): "Methods in Molecular Biology." Clifton, NJ: The Humana Press, vol. 7, pp. 147-168、Patel et al., "The baculovirus expression system", in DNA Cloning 2: Expression Systems, 2nd Edition, Glover et al. (eds.), pp. 205-244 (Oxford University Press 1995)、Ausubel (1995) pp. 16-37, 16-57, Richardson (ed.), Baculovirus Expression Protocols (The Humana Press, Inc. 1995)、Lucknow, "Insect Cell Expression Technology", in Protein Engineering: Principles and Practice , Cleland et al. (eds.), pp. 183-218 (John Wiley & Sons, Inc. 1996) なども参考に構築することができる。
【0059】
また本発明は、上記ベクターを保持する宿主に関する。宿主としては、所望の細胞および非ヒト生物であってよく、例えば大腸菌、酵母、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、線虫細胞、植物、非ヒト動物(例えば昆虫、線虫 (例えばCaenorhabditis elegans)、哺乳動物 (例えばラット、マウス))等が挙げられる。昆虫としては特に鱗翅目昆虫、より好ましくはカイコガ上科(Bombycoidea)、ヤガ上科(Noctuoidea)、マダラガ上科(Zygaenoidea)、スズメガ上科(Sphingoidea)、スガ上科(Yponomeutoidea)、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)の昆虫が挙げられ、具体的にはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)、スガ科(Yponomeutidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)の昆虫、より好ましくはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、およびゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)昆虫、例えばBombyx属昆虫(例えば Bombyx mori、Bombyx mandalina)、Spodoptera属昆虫(例えば Spodoptera frugiperda)、およびコクヌストモドキ属(Tribolium属)昆虫(例えばTribolium confusum)が挙げられる。
哺乳動物細胞としては、例えばヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、サル細胞が挙げられ、293細胞(ATCC CRL-1573)、HeLa細胞(ATCC CCL-2)などを例示できるが、それらに限定されない。
昆虫細胞としては、例えば鱗翅目昆虫の脂肪体細胞、胚子由来細胞、卵巣由来細胞等が挙げられ、具体的にはBmN4(Funakoshi Co., Tokyo, Japan)、Sf9(Gidwin, G., et al. 1993, Focus 15, 44; Invitrogen)、Sf21 (Harris, R., et al. 1997, Focus 19, 6; Invitrogen)、SES-BoMo-C129 (NIAS Genebank (National Institute of Agrobiological Sciences Genebank; Tsukuba, Ibaraki, Japan) MAFF No. 275026; 今西重雄 (1998) 昆虫培養細胞系の保存リスト 蚕糸・昆虫農業技術研究所研究資料 24: 45-56)、SES-BoMo-J125K6 (MAFF No. 275032; 今西重雄 (1998) 同上) などが挙げられる。またNIAS-Bm-aff3細胞(Takahashi, T. et al. (2006) J. Insect Biotech. Sericol. 75: 79-84)、Oyanagi2(Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41)なども好ましい。JH応答性を有する転写調節領域の配列を含むDNAを用いて、JHによる発現制御やJHのアッセイまたはスクリーニングなどを行う場合は、鱗翅目昆虫細胞に導入することが好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、宿主とベクターに合わせて、例えば、カルシウム法、リン酸カルシウム沈殿法 (Virology, Vol.52, p.456, 1973)、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9; Mandel, M. & Higa, A., Journal of Molecular Biology, 1970, 53, 158-162、Hanahan, D., Journal of Molecular Biology, 1983, 166, 557-580)、酢酸リチウム法(BD Yeastmaker Yeast Transformation System 2, BD Bioscience/Clontech)、リポフェクタミンや各種トランスフェクション試薬(TransITTM Transfection Reagents, Mirus Bio Corporation)を用いた方法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法等の公知の方法で行うことができる。生体内へ導入する場合は、ex vivoまたはin vivoにより導入することができる。
【0060】
また形質転換体は、Met(Methoprene-tolerant)(resistance to juvenile hormone (Rst(1)JH)、または juvenile hormone resistence protein とも呼ばれる)遺伝子(Ashok M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 2761-2766, 1998)がさらに導入されていてもよい。Metは本発明のJHREからのJH依存的な転写を誘導する。従ってMetを発現する宿主細胞に本発明のJHRE(該Metに結合する配列)を含むDNAを導入することによって、該DNAからの転写をJH依存的に誘導することが可能である。Met遺伝子を内在的に発現しない細胞においては、Met遺伝子を導入して発現させることで、JHREからの転写を誘導することができる(図29〜32)。Met蛋白質としては、本発明のDNAに結合またはJH依存的転写を誘導する限り制限はないが、例えばAccession番号 NM_001114985.1 (NP_001108457.1)(Bombyx mori juvenile hormone resistence protein II) が挙げられる。また、それ以外の候補としては、例えば NM_001099342.1 (NP_001092812.1) (Tribolium castaneum methoprene-tolerant)、AY955097.1 (AAX55681.1) (Aedes aegypti)、XM_001864544.1 (XP_001864579.1) (Culex quinquefasciatus)、XM_395005.3 (XP_395005.3) (Apis mellifera)、XM_001606725.1 (XP_001606775.1) (Nasonia vitripennis)、XM_316059.4 (XP_316059.4) (Anopheles gambiae)、NM_078571.2 (NP_511126.2)、NM_078605.1 (NP_511160.1) 等が挙げられる。
【0061】
また本発明は、Met(Methoprene-tolerant)遺伝子が導入された非昆虫真核細胞に関する。驚くべきことに、Metによる転写活性化は昆虫細胞に限られなかった(図29、32)。従って、Metは真核細胞一般において、結合したDNAからの転写をJHに応答して誘導することが期待できる。Met遺伝子としては、例えばAccession番号 NM_001114985.1 (NP_001108457.1)(Bombyx mori juvenile hormone resistence protein II)が挙げられるが、これに限定されない。MetをDNAに結合させるには、本発明のJHREを使用することができる他、例えば配列特異的なDNA結合蛋白質をMetと融合させ、これにより標的配列に特異的にMetを結合させることも可能である(図28)。DNA結合蛋白質としては、例えば配列特異的に結合する様々なDNA結合蛋白質を用いることができるが、GAL4 DNA結合ドメイン(GAL4 DNA-BD) のほか、LexA DNA結合ドメイン、SRF DNA結合ドメイン、MCM1 DNA結合ドメインなどが例示できる。標的DNAを転写調節領域に持つ遺伝子を有する非昆虫真核細胞にJHを添加すれば、JH依存的にその遺伝子の発現を誘導することが可能である。細胞としては、哺乳動物細胞、植物細胞、酵母、線虫細胞を含む所望の真核細胞を用いることができる。また本発明は、上記細胞の、JH依存的発現のための使用を提供する。また本発明は、Met遺伝子が導入された非昆虫真核細胞を含む非ヒト個体にも関する。Met遺伝子が導入された昆虫以外のトランスジェニック真核生物(トランスジェニック動物およびトランスジェニック植物等)は、JHに応答してMetが結合するDNAの転写が誘導される。
【0062】
また本発明は、本発明のDNAのトランスジェニック動物および植物、ならびに該DNAが導入されたその器官、組織および細胞に関する。また本発明は、本発明のDNAを天然に有する昆虫(例えば鱗翅目または鞘翅目昆虫)において、当該DNAに他のDNAが挿入または置換されたノックイン動物に関する。トランスジェニック動植物は、本発明の蛋白質のin vivoにおける生産等に有用である。また本発明のDNAを天然に有する昆虫において、その下流に他の遺伝子をノックインすれば、その遺伝子をJHに応答して発現させることができる。またJHREを含むDNAをカイコ等の鱗翅目昆虫に導入すれば、JHに応答して所望の遺伝子を発現させることができる。宿主として動物を使用する場合、例えば哺乳類動物および昆虫を用いる系がよく知られている。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993; Bio/Technology, Vol.12, p.699-702, 1994)。昆虫としては、例えばカイコを用いることができる(Nature, Vol.315, p.592-594, 1985; Nature Biotech. 21: 52-56, 2002)。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、所望のタンパク質をコードするDNAを植物発現用ベクターに挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ(Nicotiana tabacum等)に感染させ、葉より所望のタンパク質を得ることができる(Eur. J. Immunol., Vol.24, p.131-138, 1994)。
【0063】
ベクターから蛋白質を発現させた場合は、発現した蛋白質を回収することにより組み換え蛋白質を製造することができる。宿主細胞としては、組み換え蛋白質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、大腸菌等のバクテリア、酵母、種々の動植物細胞(昆虫細胞を含む)などを用いることが可能である。宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。宿主細胞内で発現させた組み換え蛋白質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することができる。上記のように、組み換え蛋白質は他の蛋白質との融合蛋白質として発現させてもよい。例えば、マルトース結合蛋白質との融合蛋白質(pMALベクター, New England BioLabs)、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質(pGEXベクター, Amersham Pharmacia Biotech)、ヒスチジンタグを付加した蛋白質(pETベクター, Novagen)として、蛋白質を製造することが可能である。組み換え蛋白質をマルトース結合蛋白質などとの融合蛋白質として発現させた場合には、アミロースカラムなどを用いて容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。GSTとの融合蛋白質として発現した場合は、グルタチオンカラムを、Hisタグを付加した蛋白質は、ニッケルカラムを利用して、蛋白質を精製・回収することができる。
【0064】
本発明の蛋白質はJHに応答して発現するので、該蛋白質およびそれをコードする核酸は、JHのマーカーとして使用することができる。すなわち本発明は、本発明の蛋白質またはその断片、あるいはそれらのコードする核酸(例えば転写される配列またはその一部)を含むJHマーカーに関する。また本発明は、これらの蛋白質および核酸のJHマーカーとしての使用に関する。ここで、JHとはJHアゴニスト、JHの作動性アナログを含む。例えばJHのアゴニストやアンタゴニストをスクリーニングする際に、細胞に被験化合物を添加し、これらのマーカーを検出する。発現を誘導する化合物は、JHアゴニストの候補となる。またJH存在下で発現を調べれば、JHアンタゴニストをスクリーニングすることも可能である。
【0065】
蛋白質の発現は、例えばその蛋白質に結合する抗体により検出することができる。抗体は、本発明の蛋白質またはその断片を含むポリペプチドを免疫原として、周知の方法により作製することができる。すなわち、本発明の蛋白質またはその抗原性断片を含むポリペプチドは、それに結合する抗体を含むJHマーカー検出用組成物を作製するための試薬となる。例えば配列番号:2または4(BmKr-h1)のアミノ酸配列をコードする遺伝子またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子からなるJH応答性を有するDNAがコードする蛋白質およびそれらの断片は、該蛋白質の発現を検出するための抗体を作製するために有用である。断片の長さは、免疫原性があるものであればよいが、例えば8アミノ酸またはそれ以上、好ましくは9アミノ酸またはそれ以上、より好ましくは10、11、12、13、14、15、16、18、20、25、28、30、35、40、50、または60アミノ酸またはそれ以上である。また、断片には、さらにアミノ酸またはポリペプチドが付加されていてもよい。それらは上記の断片と融合蛋白質として結合していてもよいし、別の結合形態で、例えば共有結合または非共有結合により結合していてもよい。付加されるアミノ酸の数は、例えば30アミノ酸以下、好ましくは25、20、18、15、13、10、8、5、3、2アミノ酸またはそれ以下、例えば1アミノ酸である。例えば抗原として用いる場合は、血清アルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの所望のキャリア蛋白質と結合させて用いることができる。
【0066】
断片として特に好ましい部位は、例えば配列番号:2の1〜44番目からなる断片(好ましくは1〜34番目からなる断片)、228〜268番目からなる断片、275〜348番目からなる断片、配列番号:4の1〜57番目からなる断片(好ましくは1〜47番目からなる断片、さらに好ましくは1〜15番目からなる断片)、あるいはそれらの断片の部分配列であって、少なくとも8アミノ酸、好ましくは少なくとも9、10、11、12、13、14、15、16、18、20、50、100アミノ酸またはそれ以上の断片である。これらの断片またはその部分配列からなる断片を含むポリペプチドは、それに結合する抗体の作製に有用である。
【0067】
また本発明は、本発明の蛋白質またはその断片に結合する抗体に関する。当該抗体は、好ましくは配列番号:2または4(BmKr-h1)のアミノ酸配列からなる蛋白質またはその鱗翅目昆虫における相同蛋白質であってJH応答性を有する遺伝子から天然に発現される蛋白質に特異的に結合する抗体である。特異的に結合するとは、該蛋白質に対して、他の蛋白質に対するよりも有意に強く結合することを言い、好ましくは他の蛋白質には実質的に(すなわち非特異的抗体を使った対照と比べ有意に強くは)結合しない抗体である。例えば、配列番号:2または4(BmKr-h1)のアミノ酸配列からなる蛋白質または鱗翅目昆虫における相同蛋白質に対する結合が、他の昆虫の相同蛋白質、例えばショウジョウバエの相同蛋白質に対する結合よりも強いものが好ましい。抗体の結合性は、周知の方法により、例えば解離定数(Kd)を算出することにより決定できる。本発明の抗体は、カイコBmKr-h1または鱗翅目昆虫の相同蛋白質に対する親和性が、ショウジョウバエの相同蛋白質(accession number NP_477467.1 (GI No. 17137730, Version 1, Undate date: Jan 4 2008 7:45 PM) および accession number NP_477466.1 (GI No. 17137728, Version 1, Undate date: Jan 4 2008 7:45 PM))(配列番号:6および8) に対する親和性よりも高いものであって、好ましくは有意に、より好ましくは2倍以上、より好ましくは5、8、10、20、50、100、200倍以上高い。あるいは当該抗体は、同じモル数の蛋白質を標的とした場合、ショウジョウバエの相同蛋白質に比べ、鱗翅目昆虫の相同蛋白質に対するシグナル強度が有意に高いことが好ましく、より好ましくは2倍以上、より好ましくは5、8、10、20、50、100、200倍以上高い。抗体を用いた蛋白質の検出は、ウェスタンブロットまたは免疫沈降などの周知の方法により実施することが可能である。特に、ショウジョウバエの相同蛋白質の断片とは一致しない断片(好ましくは同一性が80%以下、例えば75、70、65、または60%以下)、例えば、配列番号:2の1〜44番目からなる断片(好ましくは1〜34番目からなる断片)、228〜268番目からなる断片、275〜348番目からなる断片、配列番号:4の1〜57番目からなる断片(好ましくは1〜47番目からなる断片、さらに好ましくは1〜15番目からなる断片)、あるいはそれらの断片の部分配列であって、少なくとも8アミノ酸、好ましくは少なくとも9、10、11、12、13、14、15、16、18、20、50、100アミノ酸またはそれ以上の断片に結合する抗体は、本発明において好適である。
【0068】
本発明の抗体は、上述の通り、本発明の蛋白質またはその部分ペプチドを抗原として用いることにより調製することが可能である。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明の蛋白質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去した血清より調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記蛋白質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual, E. Harlow and D. Lane, ed., Cold Spring Harbor Laboratory (Cold Spring Harbor, NY, 1988))。これにより得られた抗体は、本発明の蛋白質の検出などに利用することが可能である。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、およびこれら抗体の抗原結合部を含むポリペプチド(Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、およびsingle chain Fv (scFv) などを含む)が含まれる。また本発明は、抗血清などの、上記抗体を含む組成物にも関する。
【0069】
本発明のJH応答性遺伝子およびその発現は、本発明のDNAを基に調製したプローブまたはプライマー等を用いて、ノーザンハイブリダイゼーションまたはRT-PCR等により検出することもできる。本発明は、カイコBmKr-h1蛋白質(例えば配列番号:2または4)のアミノ酸配列をコードする遺伝子(例えば配列番号:1または3)またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子の塩基配列あるいはそれらの相補配列の少なくとも一部を含む核酸に関する。このような核酸は、好ましくは上記遺伝子(配列番号:1または3あるいはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子)の転写される配列(特にCDS)あるいはそれらの相補配列の連続する少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、30、33、35、40、45、50、55、60、100、200、300ヌクレオチドまたはそれ以上を含む。またこのような核酸は、好ましくはゲノム上で隣接する他の遺伝子の塩基配列(例えば隣の遺伝子の転写される配列)またはその相補配列を部分的にも含まない。またこのような核酸は、例えば、上記遺伝子(配列番号:1または3あるいはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子)の塩基配列またはそれらの相補配列を含むゲノムDNAの塩基配列の連続する20000ヌクレオチド以上は含まない核酸、例えば連続する15000、10000、8000、5000、3000、2000、1000、500、300、250、200、150、100、80、60、50、45、40、35、30、25、または20ヌクレオチド以上は含まない核酸であってよい。また核酸の全長は、20000ヌクレオチド以下、例えば15000、10000、8000、5000、3000、2000、1000、500、300、250、200、150、100、80、60、50、45、40、35、30、25、または20ヌクレオチド以下であってよい。これらの核酸は、遺伝子の発現を検出するためのプローブまたはプライマーとして、あるいは、鱗翅目昆虫における相同遺伝子を単離するためのプローブまたはプライマーとして有用である。
【0070】
また本発明は、カイコBmKr-h1遺伝子(配列番号:1または3)またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子からなるDNA、またはその相補配列からなるDNAに、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸に関する。ストリンジェントな条件とは、具体的には本明細書に記載した条件である。このような核酸は、好ましくは配列番号:1または3またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子の塩基配列あるいはそれらの相補配列と70%、好ましくは80%、90%、95%、またはそれ以上の同一性を有する。核酸の全長は、20000ヌクレオチド以下、例えば15000、10000、8000、5000、3000、2000、1000、500、300、250、200、150、100、80、60、50、45、40、35、30、25、または20ヌクレオチド以下であってよい。
【0071】
上記核酸は、好ましくはカイコBmKr-h1遺伝子(配列番号:1または3)またはその鱗翅目昆虫における相同遺伝子からなるDNAまたはその相補配列からなるDNAに特異的にハイブリダイズする核酸である。特異的にハイブリダイズするとは、該DNAまたはその相補配列からなるDNAに対して、他の核酸に対するよりも有意に強くハイブリダイズすることを言い、好ましくは他の核酸には実質的に(すなわちバックグラウンドと比べ有意に強くは)ハイブリダイズしないことを言う。例えば、配列番号:1または3、あるいは鱗翅目昆虫における相同遺伝子またはそれらの相補配列からなるDNAに対するハイブリダイゼーションが、鱗翅目以外の昆虫の相同遺伝子、例えばショウジョウバエの相同遺伝子(accession number NM_058119 (GI No. 24582139, Version 3, Undate date: Jan 4 2008 7:45 PM) および accession number NM_058118 (GI No. 24582138, Version 3, Undate date: Jan 4 2008 7:45 PM))(配列番号:5および7) またはその相補配列からなるDNAに対するハイブリダイゼーションよりも強いものが好ましい。核酸のハイブリダイゼーションの強度は、周知の方法、例えば同じモル数をブロットしたメンブレンに対してハイブリダイゼーションを行い、シグナルの強さを比較することにより知ることができる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば本明細書に記載した条件であってよく、両者のシグナルの差を最大化するために、温度を上げるなどして適宜調節することができる。本発明の核酸は、カイコBmKr-h1または鱗翅目昆虫の相同遺伝子に対するハイブリダイゼーションのシグナルが、ショウジョウバエの相同遺伝子に対するそれよりも、少なくともある最適化されたハイブリダイゼーションの条件下において、好ましくは2倍以上、より好ましくは5、8、10、20、50、100、200倍以上高い。その溶解温度(Tm)の差は、例えば 5℃以上、好ましくは7、8、9、10、11、12、13、14、15、18、20、25、30℃またはそれ以上である。
【0072】
また上記核酸の、完全に相補的なDNAに対するTmは、モノカチオン濃度150mM、ホルムアミド不含の条件下で、例えば50℃以上、好ましくは55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、または75℃以上である。Tmは、20mer程度のヌクレオチドであればTm = 2x(A+T) + 4x(G+C) により、より長いヌクレオチドであれば、DNA/DNAハイブリッドは Tm = 81.5 + 16.6(log(M)) + 0.41(%GC) - 500/n で、DNA/RNAハイブリッドは Tm = 79.8 + 18.5(log(M)) + 0.58(%GC) - 11.8(%GC)^2 - 820/n で近似される(ここで、Mはモノカチオンのモル濃度、nはヌクレオチドの鎖の長さを表す)。1%のミスマッチは、Tmを約1.4℃上昇させる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994); Wetmur JG, Davidson N (1968) J Mol Biol 31: 349-370; Casey J, Davidson N (1977) Nucleic Acids Res 4: 1539-1552)。
【0073】
上記核酸、抗体、および抗体の抗原結合部位を含むポリペプチドは、本発明の遺伝子および蛋白質を検出するための試薬として用いることができる。また本発明の遺伝子および蛋白質は、JHに応答して発現が誘導または促進されるので、上記核酸または抗体等を用いてその発現を検出することにより、JHのアッセイを行うことができる。本発明は、上記核酸、抗体、または抗体の抗原結合部位を含むポリペプチドのJHのアッセイにおける使用、JH検出における使用、およびJH測定における使用に関する。また本発明は、上記核酸、抗体、または抗体の抗原結合部位を含むポリペプチドを含むJH検出剤、およびJH測定剤に関する。これらの試薬は、単体として用いることもできるし、例えば核酸であれば、センス鎖プライマーとアンチセンス鎖プライマーを組み合わせてもよい。センス鎖とアンチセンス鎖のプライマーのペアは、本発明の遺伝子の発現をRT-PCRにより検出するために有用である。また本発明は、上記核酸、抗体、または抗体の抗原結合部位を含むポリペプチドを含む、JHアッセイ用組成物、JH検出用組成物、およびJH測定用組成物にも関する。組成物は、適当な担体および/または媒体、例えば水、生理食塩水、pH緩衝液、その他の薬学的に許容される所望の担体と組み合わせてよい。また本発明は(a)上記核酸、抗体、および抗体の抗原結合部位を含むポリペプチド、および(b)JH、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むパッケージおよびキットに関する。このパッケージおよびキットは、JHの検出、アッセイ、または測定のために用いることができる。
【0074】
また本発明は、JH(JHアゴニストを含む)またはJHアンタゴニストによる発現制御における、JH応答性またはMet結合活性を有する上記本発明のDNAの使用に関する。ここで発現制御とは、JHおよび/またはJHアンタゴニストにより、発現を上昇および/または低下させることである。転写調節領域中の配列を含むJH応答性DNA(JHREを含むDNA)は、その制御下のDNAの発現を、JHまたはJHアンタゴニストに応答して制御できる。従って、例えばJHまたはJHアゴニストを添加することにより発現を上昇させることができ、JHまたはJHアゴニストを除去することにより発現を低下させることができる。またJHアンタゴニストにより発現を抑制することができ、JHアンタゴニストを除去することにより発現を上昇させることができる。発現制御のためには、標的とするDNAを、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNA(JHREを含むDNA)の制御下になるよう配置する。すなわち本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNAの制御下に標的とするDNAを配置することを含む、該DNAの発現をJH(JHアゴニストを含む)またはJHアンタゴニストにより発現制御可能なDNA構築物を製造する方法に関する。また、このDNA構築物を含む細胞にJH(JHアゴニストを含む)またはJHアンタゴニストを添加または除去することを含む、該標的DNAの発現をJH(JHアゴニストを含む)またはJHアンタゴニストにより制御する方法にも関する。また本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNAを含むエンハンサーを提供する。エンハンサーとは、転写を増強するための配列である。本発明のエンハンサーは、JHに応答して転写を活性化するために使用される。エンハンサーは、発現ベクターなどの発現ユニットを含む核酸の転写調節領域に組み込んで使用することができる。またJHに応答して転写を活性化するための配列は、JH応答エレメントとも言う。本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNAの、JH応答エレメントとしての使用を提供する。JH応答エレメントは、発現ベクターなどの発現ユニットを含む核酸の転写調節領域に組み込んで、JHに応答して下流の遺伝子を発現させるために使用することができる。JHにより発現を制御する際に、さらにエクジソンを組み合わせることもできる。エクジソンとしては、20-ヒドロキシエクジソン (20E) を用いることができる。JH(JHアゴニストを含む)とエクジソンを組み合わせることで、JH単独と比べて発現誘導効果は増強され得る。用いられるDNAとしては、例えば配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子の転写調節領域のDNA、および鱗翅目昆虫における相同遺伝子の転写調節領域の配列を含むDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNAが含まれる。さらに、それらの転写調節領域の配列を含むDNAにおいて、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加したDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA、およびそれらの転写調節領域の配列を含むDNAから調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNAが含まれる。
【0075】
例えば、本発明のDNAの下流(センス鎖における3'側)に、標的となるDNAを機能的に連結することにより、標的DNAの発現を、本発明のDNAの制御下におくことができる。「機能的に連結した」とは、標的DNAの転写がJHに応答して誘導または促進されるように結合されていることを言う。またプロモーターとしては、適宜所望のプロモーターを用いることができる。プロモーター活性を有するDNAと標的遺伝子を機能的に連結させることは、当業者においては一般的な遺伝子工学技術を用いて、簡便に行い得ることである。また本発明のJHREは、標的DNAに直接連結していなくても、JHに応じて標的DNAの転写が誘導または促進されるように、間接的に配置することもできる。例えば、標的DNAを構成的プロモーター(恒常的活性化プロモーター)の下流に連結しておき、その間に、配列特異的組み換え酵素の標的配列のペアに挟まれたスペーサーDNAが挿入されたDNA構築物を作製する。スペーサーDNA中には、転写終結配列(ターミネーター)が含まれることが好ましく、あるいは、蛋白質の翻訳を妨げるように、ストップコドンが存在してもよい。そして、JHREを含むプロモーターの下流に、該配列特異的組み換え酵素をコードするDNAを連結する。JHに応答して、JHREを含むプロモーターから配列特異的組み換え酵素が発現し、それにより構成的プロモーターと標的DNAの間にあるスペーサーDNAが取り除かれ、標的DNAの発現が誘導される。このように、間接的にJHREを含むプロモーターと標的DNAを機能的に連結し、JHREを含むプロモーターの制御下に標的DNAを配置することもできる。配列特異的組み換え酵素としては、CreリコンビナーゼやFlpリコンビナーゼがよく用いられる。本発明は、本発明のJH応答性DNA(JHREを含むDNA)の下流にCreリコンビナーゼやFlpリコンビナーゼなどの配列特異的組み換え酵素をコードするDNAが結合した核酸にも関する。JHREによる発現の制御は、in vitroおよびin vivoにおいて実施することができる。JHREを含むDNAを鱗翅目昆虫に導入したトランスジェニックは、JHに応答して目的の遺伝子の発現を制御するために用いることができる。また、後述のJHアッセイやスクリーニングにおいても有用である。
【0076】
また本発明は、本発明のJH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)を含む、JHまたはそのアンタゴニストによる発現制御剤(発現誘導剤、抑制剤)に関する。本制御剤は、転写調節領域に組み込むことにより、JH等に応答して下流の遺伝子の発現を制御することができる(すなわちJH応答性転写エンハンサーとしての使用)。また本制御剤は、JH応答を阻害するためにデコイとして用いることもできる。また本発明は、本発明のJHREを含むDNAの、JHまたはそのアンタゴニストによる発現制御における使用に関する。また本発明は、JHREを含むDNAの制御下に配置された、目的とするDNAを含む細胞において、JHまたはそのアンタゴニストを作用させるおよび/または除去する工程を含む、目的とするDNAの発現を制御(それぞれ促進および/または抑制)する方法に関する。
【0077】
また本発明は、(a)本発明のJH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)、および(b)Met(Methoprene-tolerant)をコードする核酸または該核酸が導入された細胞を含むパッケージおよびキットに関する。Met遺伝子としては、例えばAccession番号 NM_001114985.1 (NP_001108457.1)(Bombyx mori juvenile hormone resistence protein II) が挙げられるが、これに限定されない。このパッケージおよびキットは、JH、そのアゴニスト、またはアンタゴニストをさらに含んでもよい。また本発明は、(a)本発明のJH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)、および(b)JH、そのアゴニスト、またはアンタゴニストを含むパッケージおよびキットに関する。これらのパッケージおよびキットは、標的DNAの発現をJHまたはそのアゴニスト、アンタゴニストにより制御するために有用である。このパッケージおよびキットは、細胞をさらに含むことができる。細胞としては、Metを発現する細胞が好ましい。また本発明は、(a)本発明のJH応答性の転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)、および(b)鱗翅目または鞘翅目昆虫細胞を含むパッケージおよびキットに関する。鱗翅目または鞘翅目昆虫細胞としては特に制限はないが、JH応答性の高い細胞が好ましい。好ましい細胞としては、例えばカイコガ上科(Bombycoidea)、ヤガ上科(Noctuoidea)、マダラガ上科(Zygaenoidea)、スズメガ上科(Sphingoidea)、スガ上科(Yponomeutoidea)、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)昆虫の細胞が挙げられ、具体的にはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)、スガ科(Yponomeutidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、より好ましくはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、およびゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、例えばBombyx属昆虫(例えば Bombyx mori、Bombyx mandalina)、Spodoptera属昆虫(例えば Spodoptera frugiperda)およびコクヌストモドキ属(Tribolium属)の細胞が挙げられる。特に脂肪体細胞、胚子由来細胞、卵巣由来細胞等に由来する細胞を用いることができる。
より具体的にはBmN4(Funakoshi Co., Tokyo, Japan)、Sf9(Gidwin, G., et al. 1993, Focus 15, 44; Invitrogen)、Sf21 (Harris, R., et al. 1997, Focus 19, 6; Invitrogen)、SES-BoMo-C129 (NIAS Genebank MAFF No. 275026)、SES-BoMo-J125K6 (MAFF No. 275032)、NIAS-Bm-aff3細胞(Takahashi, T. et al. (2006) J. Insect Biotech. Sericol. 75: 79-84)、Oyanagi2(Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
また本発明は、本発明のJH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程を含む転写活性の検出方法に関する。また本発明は、該JH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程を含む、JH作用のアッセイ方法を提供する。JH作用のアッセイ方法は、具体的には、(a)該DNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程、(b)転写活性の上昇はJH作用の上昇、転写活性の低下はJH作用の低下に関連づける工程、を含む方法である。ここでJH作用のアッセイとは、JH、JHアゴニスト、またはJHアンタゴニスト、あるいはそれらの活性を定性的および/または定量的に測定することをいい、これらの活性の有無の検出、活性レベルの決定などであってよい。JHREを含むDNAの転写活性は、JHに応じて上昇する。従って、転写活性が上昇すれば、JHの作用が上昇したことが分かり、転写活性が低下すれば、JHの作用が低下したことが分かる。例えば2つの試料について転写活性を測定し、2つの試料間における転写活性の違いにより、JHの作用のレベルを比較することができる。2つの試料は、互いに別の試料であってもよいし、同じ試料を異なる時間に測定したものであってもよい。また、一方の試料として、予めJH濃度が分かっているものを使用することにより、他方の試料に含まれるJHレベルを定量することもできる。このような方法も、上記の本発明の方法に含まれる。
【0079】
このアッセイは、JHREを含むDNAを含む天然の鱗翅目昆虫またはその細胞(例えば非遺伝子組み換え体、あるいは遺伝子組み換え体ではあっても、本発明のJHREを含むDNAを含まないDNAについて組み換えたもの)を用いて実施することもできるし、あるいはJHREを含むDNAに適当な異種遺伝子を連結したDNAを導入した細胞または個体(例えば鱗翅目または鞘翅目昆虫細胞)あるいは鱗翅目または鞘翅目昆虫を用いて実施することもできる。またJHに応答してJHREからの転写を活性化させる限り、昆虫細胞以外でも所望の細胞を用いて実施することが可能で、例えばMetを強制発現する細胞を用いることもできる(図29、32)。JHREを含むDNAを導入していない昆虫細胞を用いる場合は、内在性のKr-h1 mRNAまたはKr-h1蛋白質の発現を検出することができる。JHREを含むDNAを導入した細胞を用いる場合は、その制御下の遺伝子の発現を検出すればよく、JHREを含むDNAの下流にレポーター遺伝子を連結した場合はその遺伝子の発現を、また下流にCreリコンビナーゼ等を連結して、Cre/loxP系により間接的に他の遺伝子を発現させる場合は、適宜指標となる遺伝子の発現を検出すればよい。またこのアッセイは細胞や組織、または個体を用いて行ってよく、例えば培養細胞系、組織培養系、または器官培養系などを用いたin vitroのアッセイ、並びに個体を用いたin vivoアッセイが含まれる。用いられる細胞や組織、器官、個体は適宜選択されるが、好ましくは鱗翅目または鞘翅目昆虫、例えばカイコガ上科(Bombycoidea)、ヤガ上科(Noctuoidea)、マダラガ上科(Zygaenoidea)、スズメガ上科(Sphingoidea)、スガ上科(Yponomeutoidea)、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)昆虫に由来するものであり、具体的にはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、ヤガ科(Noctuidae)、メイガ科(Pyralidae)、スズメガ科(Sphingidae)、スガ科(Yponomeutidae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)昆虫、より好ましくはカイコガ科(Bombycidae)、ヤママユガ科(Saturniidae)、およびゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)昆虫、例えばBombyx属昆虫(例えば Bombyx mori、Bombyx mandalina)、Spodoptera属昆虫(例えば Spodoptera frugiperda)およびコクヌストモドキ属(Tribolium属)に由来するものが用いられる。特に脂肪体細胞、胚子由来細胞、卵巣由来細胞等に由来する細胞を好適に用いることができる。
より具体的にはBmN4(Funakoshi Co., Tokyo, Japan)、Sf9(Gidwin, G., et al. 1993, Focus 15, 44; Invitrogen)、Sf21 (Harris, R., et al. 1997, Focus 19, 6; Invitrogen)、SES-BoMo-C129 (NIAS Genebank MAFF No. 275026)、SES-BoMo-J125K6 (MAFF No. 275032)、NIAS-Bm-aff3細胞(Takahashi, T. et al. (2006) J. Insect Biotech. Sericol. 75: 79-84)、Oyanagi2(Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
上記のアッセイは、様々な化合物がJH作用に及ぼす影響を試験するために特に有用である。すなわち本発明は、本発明のJH応答性の転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程を含む、JH作用をアッセイする方法であって、該工程が被験化合物の存在下で行われ、それによりJHの作用に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法に関する。すなわち本発明は、JHの作用に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法であって、被験化合物の存在下で、該DNAの転写活性を検出する工程を含む方法を提供する。また本発明は、被験化合物の存在下で、該DNAの転写活性を検出する工程を含む、該転写活性に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法そのものにも関する。被験化合物がJH活性を持つ場合、転写活性は上昇する。それを検出することで、JH作用の定性的または定量的な検出が可能となる。JH活性を定量するには、例えば予め決まった濃度のJHを含む1つまたは複数の試料をレファレンスとして用いてアッセイを行い、それらの値と比較すればよい。
【0081】
具体的には本発明は、(a)被験化合物の存在下で、JH応答性転写活性を有する本発明のDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程、および(b)被験化合物による転写活性の上昇はJH作用の上昇、転写活性の低下はJH作用の低下に関連づける工程を含むアッセイ方法を含む。天然の細胞、組織、または個体を用いて検出を行う場合は、本発明のJHマーカー(Kr-h1 mRNAまたは蛋白質)の発現を検出する。レポーターアッセイを行う場合は、上記JHREを含むDNAの制御下にレポーター遺伝子を発現させ、レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。被験化合物の非存在下、あるいは低濃度存在下に比べて発現を誘導または上昇させる化合物は、JHアゴニストの候補となる。本発明は、そのような化合物を選択する工程をさらに含む、JHの作用を上昇させる化合物のスクリーニング方法にも関する。
【0082】
被験化合物としては特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。被験化合物は、単体または他の化合物と組み合わせて適用してよい。例えば、未知の化合物を含み得る被験試料を用いてもよい。被験化合物は、例えば細胞の培養液への添加、個体への経口投与または注射などにより投与される。被検化合物が核酸または蛋白質の場合には、例えば、ベクターを導入して発現させてもよい。被験化合物の非存在下において測定した場合(対照)と比較して、被験化合物が発現レベルを変化させれば、被験化合物がJHREの転写活性を調節する化合物であることが分かる。
【0083】
被験化合物がJHアンタゴニストとしての活性を持つ場合、転写活性は低下する。それを検出することで、JH作用をアンタゴナイズする活性の定性的または定量的な検出が可能となる。JHアンタゴニストのアッセイを行う場合、例えばJHまたはJHアゴニストの存在下でアッセイを行ってもよい。すなわち本発明は、JH応答性転写活性を有するDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程を含む、JH作用のアッセイ方法であって、該工程が、(i) 被験化合物、および (ii) JHまたはJHアゴニストの存在下で行われ、それによりJH作用を低下させる被験化合物の活性を検出する方法に関する。より簡潔には、本発明は、JHの作用に及ぼす被験化合物の効果(特にJHの作用を低下させる効果)を検出する方法であって、(i) 被験化合物、および (ii) JHまたはJHアゴニストの存在下で、該DNAの転写活性を検出する工程を含む方法を提供する。また本発明は、(i) 被験化合物、および (ii) JHまたはJHアゴニストの存在下で、該DNAの転写活性を検出する工程を含む、該転写活性に及ぼす被験化合物の効果を検出する方法そのものにも関する。
【0084】
具体的には本発明は、(a)(i) 被験化合物、および (ii) JHまたはJHアゴニストの存在下で、JH応答性の転写活性を有する本発明のDNA(JHREを含むDNA)の転写活性を検出する工程、および(b)被験化合物による転写活性の上昇はJH作用の上昇、転写活性の低下はJH作用の低下に関連づける工程を含むアッセイ方法を含む。被験化合物の非存在下、あるいは低濃度存在下に比べて発現を低下させる化合物は、JHアンタゴニストの候補となる。本発明は、そのような化合物を選択する工程をさらに含む、JHの作用を低下させる化合物のスクリーニング方法にも関する。アッセイおよびスクリーニングの実施においては、以下の文献も参照のこと:「昆虫テクノロジー研究」に関する調査報告書」平成19年3月 社団法人 農林水産先端技術産業振興センター pp. 30-31, pp. 85-87, pp. 193-197;昆虫テクノロジー研究とその産業利用(2005) 川崎健次郎・野田博明・木内信 監修 シーエムシー出版 pp. 190-197;WO01/002436; WO97/13864; WO98/46724; 特開2004-283080。
【0085】
また本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有する本発明のDNAとMet蛋白質を、JHまたはJHアゴニストの存在下で共存させる工程を含む、Met蛋白質と該DNAとを相互作用させる方法に関する。本発明において、Met蛋白質がJHREに結合する転写活性化因子であることが判明した。両者を結合させることで、該DNAの下流の遺伝子の転写を活性化させることができる。また、両者の結合を調節する化合物をスクリーニングすれば、JH作用を調節する化合物を得ることができる。例えば害虫や天敵昆虫などのMetとJHREとの相互作用を検出することにより、それらの生物に対するJHアゴニスト、アンタゴニストのアッセイやスクリーニングが可能となる。
【0086】
また本発明は、JH応答性またはMet結合活性を有するDNAおよびMet蛋白質を接触させる工程、および両者の結合を検出する工程を含む、該DNAと該Met蛋白質との結合を検出する方法に関する。両者の接触は、適宜JH、JHアナログ等の存在下で行う。また本発明は、被験化合物の存在下で該DNAと該Met蛋白質とを接触させる工程、および該DNAと該Met蛋白質との結合を検出する工程を含む、被験化合物が該結合に及ぼす効果を検出する方法に関する。被験化合物の非存在下と比べて、該結合が増強されれば、その化合物は該結合を促進する化合物と判断される。被験化合物の非存在下と比べて、該結合が低下すれば、その化合物は該結合を阻害する化合物と判断される。該結合を増強または低下させる化合物を選択する工程により、該DNAと該Met蛋白質との結合を促進または抑制する化合物のスクリーニングを実施することができる。
【0087】
スクリーニングによリ得られる化合物は、JHアゴニストまたはJHアンタゴニストとして用いることができ、例えば、JHの作用を制御することにより、脱皮や変態などを制御するために使用することができる。化合物は、適宜、所望の担体および/または媒体と組み合わせて組成物とすることができる。担体および/または媒体としては、例えば滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、保存剤等が挙げられる。これらの化合物および組成物は、JH撹乱作用を利用した、昆虫特異的な殺虫剤(insecticide)、昆虫成長抑制剤(insect development inhibitor (IDI))、昆虫成長制御剤(insect growth regulator (IGR))等として利用できる。
【実施例】
【0088】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書に引用された文献は全て本明細書の一部として組み込まれる。
【0089】
〔実施例1〕カイコKruppel-homolog 1 (BmKr-h1) cDNAのクローニング
完全長アラタ体cDNAに由来するESTデータベースの構築
カイコ4齢幼虫(品種;はばたき)約2000頭を解剖してアラタ体(側心体を含む)を集め、総RNAを抽出した。得られた約20μgのRNAを用いてV-キャッピング法(日立ハイテクサイエンスシステムズ)によって完全長アラタ体cDNAライブラリを作製した。このライブラリから無作為に2万クローンを抽出して5'- および 3'- 側からシークエンスを行い、約3万のEST配列からなるデータベースを構築した。
【0090】
BmKr-h1 cDNAおよび遺伝子の配列および構造
上記で構築したカイコアラタ体完全長ESTデータベースから同一の遺伝子に由来すると考えられる6個のクローンを同定した。この6クローンがコードし得るアミノ酸配列を調べたところ、ショウジョウバエKruppel-homolog 1 (Kr-h1; CG18783) のアミノ酸配列(配列番号:6および8)に対して相同性を有し、オルソログと考えられた。そのうち5クローン(fcaL-P41K11, fcaL-P35K20, fcaL-P53H11, fcaL-P02L21, fcaL-P07E22)は、5' 末端配列が同一であり、完全長cDNAと考えられた。他の1クローン(fcaL-P37A01)は5' 末端配列が異なっており、異なるプロモーターから転写されるアイソフォーム(β-isoform)と考えられた。
前者から2クローン (fcaL-P02L21, fcaL-P07E22) を選び全長の配列をシークエンスしたところ両者の配列は完全に一致した。この配列をBmKr-h1(α-isoform)としてDDBJに登録した(アクセッション番号;AB360766)。
BmKr-h1 cDNAの塩基配列を配列番号:1に、予測アミノ酸配列を配列番号:2に示した。本cDNAは1918bpで、123bpの5'-UTR、1047bpのORF(124-1170 (ストップコドンを含む))、および748bpの3'-UTRを含んでいた。ORFには、348アミノ酸残基からなるペプチドがコードされていた(配列番号:2)。カイコ (BmKr-h1) と、ショウジョウバエ (DmKr-h1)、コクヌストモドキ (TcKr-h1)、ミツバチ (AmKr-h1) のオルソログ間のホモロジー(アミノ酸配列一致率)は、それぞれ32.4%、37.7%、42.0% であった。
【0091】
〔実施例2〕BmKr-h1遺伝子の構造
BmKr-h1 cDNA配列を用いてNCBIに登録されているカイコゲノム配列を検索し、BmKr-h1遺伝子を含むDNA配列を同定し、両者の比較により、遺伝子構造およびプロモーター配列を同定した。
具体的には、上記のBmKr-h1 cDNA配列を用いてNCBIに登録されているカイコゲノム配列を検索(blastn)した結果、同遺伝子を含むゲノム断片配列情報 (25957bp) を得た(DDBJアクセッション番号;AADK01001667)。BmKr-h1 cDNA配列およびゲノム配列(AADK01001667)を比較した結果、BmKr-h1α遺伝子は、第1エクソン(130bp)、第2エクソン(1788bp)および812bpのイントロンから構成され、翻訳は第1エクソンの124bpから開始され、第2エクソンの1170bp(cDNAでの位置)で停止すると予想された(図1)。
一方、β-アイソフォームの遺伝子構造は、α-アイソフォームのイントロンの途中に転写開始部位および翻訳開始コドンを有しており、α-アイソフォームの第2エクソンとインフレームで繋がる単一のエクソンからなっていた(図2)。β-アイソフォームのcDNAの塩基配列およびコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:3および4に示す。β-アイソフォームは361アミノ酸残基からなり、α-アイソフォームのN末端の2残基およびβ-アイソフォームのN末端の15残基は、それぞれのアイソフォームにユニークな配列であった。
【0092】
〔実施例3〕JHによるBmKr-h1遺伝子の誘導 (定量PCR)
各種のカイコ培養細胞にJH (JHミミックを含む) を処理後、RNAを抽出し、定量RT-PCRにより、BmKr-h1遺伝子がJHにより誘導されるかどうかを調べた。また、対照実験として脱皮ホルモン (20-ヒドロキシエクジソン) や、JH類縁物質に対する応答も調べた。また、比較のためショウジョウバエS2細胞におけるDmKr-h1遺伝子のJHに対する応答も調べた。詳細な実験手順を以下に示す。
【0093】
[方法]
細胞培養およびホルモン処理
カイコ脂肪体由来細胞株NIAS-Bm-aff3(aff3と略記; Takahashi, T. et al., J. Insect Biotech. Sericol. (2006) 75: 79-84)、カイコ胚子由来細胞株SES-BoMo-J125K6(K6と略記;NIAS Genebank MAFF No. 275032; 今西重雄 (1998) 昆虫培養細胞系の保存リスト 蚕糸・昆虫農業技術研究所研究資料 24: 45-56), Oyanagi2(oy2とも略記する;Annual Report 2007, National Institute of Agrobiological Sciences, pp. 37-41), NIAS-Bm-M1(M1と略記;Suzuki MG, et al., Mol. Cell. Biol. 28: 333-343, 2008), SES-BoMo-C129(C129と略記;MAFF No. 275026; 今西重雄 (1998) 同上)、ショウジョウバエ由来細胞株S2 (Invitrogen)およびヤガSpodoptera frugiperda由来細胞株Sf9 (Invitrogen) を実験に用いた。各細胞株は以下の培地で培養した。aff3, IPL41 + 10%または15% FBS; K6, MGM448 + 10%FBS; oy2, IPL-41 + 15%FBS; M1, IPL-41 + 15%FBS; C129, MGM448 + 10%FBS; S2, Schneider's Drosophila Medium (Invitrogen) + 10%FBS; Sf9, Sf900 II SFM (Invitrogen)。
幼若ホルモン (JH) としてJH I (SciTech)またはメソプレン (SDS Biotech) を用いた。20-ヒドロキシエクジソン (20E) は、Sigma社のものを用いた。トルエンまたはメタノールに溶解したJHをPEG20000でコートした液シンバイアルに移した後、窒素気流により溶媒を除去し、所定の濃度になるように適当な培地を所定量加え、超音波処理により溶解した。対照区として溶媒のみを用いて同じ培地を処理した。JH処理は、古い培地を除去し、JH入りまたは対照区としてJHを含まない培地を加えることで行った。通常の試験には、市販の24穴または96穴の細胞培養用プラスチックプレートを用いたが、濃度応答試験では容器へのJHの吸着を防ぐためシリコナイズしたガラス試験管(直径12mm x 75mm)を実験に用いた。
【0094】
定量PCR
培養細胞から、RNeasyTM Plus Mini Kit (QIAGEN)またはTRIzolTM (Invitrogen)を用いて総RNAを抽出し、逆転写反応により、1st strand cDNAを作製した。cDNAの作製は、Advantage-RT-for-PCRキット(Clontech)、Ready-To-Go T-Primed First-Strand Kit (GE Healthcare)、またはPrimeScriptTM RT reagent Kit (Takara)のいずれかを用いて行った。得られたcDNAをtemplateとしてリアルタイム定量PCR法により、Kr-h1遺伝子とリボゾーマルタンパク質rp49(内部標準)の発現量を測定し、rp49に対するKr-h1の発現量の比を算出した。サンプルcDNAと同時に各遺伝子のcDNAを含むプラスミドの稀釈系列をスタンダードとし、以下の定量用プライマーを用いてPCR反応を行った。カイコKr-h1: BmKrh1-QF1 ACCCATACTGGCGAGCGACCAT(配列番号:16), BmKrh1-QR1, CCTCTCCTTTGTGTGAATACGACGG(配列番号:17); カイコrp49: Bmrp49-F CAGGCGGTTCAAGGGTCAATAC(配列番号:18), Bmrp49-R TGCTGGGCTCTTTCCACGA(配列番号:19); ショウジョウバエ Kr-h1: DmKrh1A-QF1 CTTGGATTACGATTTGCGGTCG(配列番号:20), DmKrh1-QR1 TTAGTGGAGGCGGAACCTGGA(配列番号:21); ショウジョウバエrp49: DmRp49-QF1 AAGCACTTCATCCGCCACCAG(配列番号:22), DmRp49-QR1 TGTTGGGCATCAGATACTGTCCCT(配列番号:23)。
定量装置はLightCyclerTM DX400 (Roche)またはLightCyclerTM 480 (Roche)を、定量用の試薬はSYBRTM Premix Ex Taq (Takara)を用いた。PCR条件は Shinoda and Itoyama (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 11986-11991, 2003) に準じた方法で行った。
【0095】
[結果]
JHによるBmKr-h1遺伝子の誘導
JH I処理をした複数のカイコ培養細胞(aff3, oyanagi2, C129, M1, K6)においてKr-h1の発現量を定量PCRにより調べた結果、いずれの細胞においてもKr-h1はJH I単独処理により、処理後4時間で顕著に誘導された(図3)。また、aff3ではKr-h1はエクダイソン(20E)により、ほとんど誘導されず、JHと20Eの相乗効果も認められなかったが、K6細胞においては、20E単独でもKr-h1遺伝子の誘導が認められ、またJHと20Eによる相乗的な誘導効果が認められた。このように、20Eに対するKr-h1遺伝子の応答は細胞株により差が認められたが、JHによるKr-h1の顕著な誘導効果は試験したカイコ培養細胞に共通していた。
次に、aff3およびBmN4細胞を用いて、JH処理後のKr-h1遺伝子発現を経時的に調べた(図4)。その結果、いずれの細胞でもJHアナログ(メソプレン 10μM)処理後30分で顕著に誘導され、2時間でピークを迎えた。発現誘導のレベルは、BmN4よりもaff3の方が約5倍高かった。aff3細胞を用いて、メソプレンおよびJH Iに対する濃度応答性を調べたところ(2時間培養)、いずれの場合も濃度依存的な応答が認められた(図5)。また、メソプレンでは10 nM, JH Iでは10 pMという極低濃度で誘導が見られた(図5)。
細胞種の違いによる、JHに対するKr-h1遺伝子の誘導性の違いを比較するために、JH(メソプレン 10μM)を加えた培地、および無添加の培地で2時間培養し、Kr-h1の発現を調べた(図6)。その結果、無添加培地に対するJH 入り培地でのKr-h1遺伝子の発現誘導の比率は、ショウジョウバエS2細胞ではわずか3倍であるのに対し、カイコ BmN4細胞では24倍、さらにaff3細胞では 39万倍と著しい誘導効果が認められた。
以上の結果から、カイコ培養細胞では、Kr-h1遺伝子がJHにより、短時間、低濃度で著しく誘導されることが明らかになった。
さらに、様々なカイコ培養細胞においてJH-Iまたはメソプレン(1μM)によるKr-h1遺伝子の発現誘導を調べたところ、低用量のJH-Iまたはメソプレンにも関わらず、全ての細胞でKr-h1遺伝子発現の著しい誘導が観察された(図7)。この結果は、鱗翅目昆虫のKr-h1遺伝子の発現は、JHにより顕著に誘導されることを示唆している。
【0096】
〔実施例4〕BmKr-h1プロモーターのクローニングとレポーターコンストラクトの作製
[方法]
予測されたBmKr-h1遺伝子配列に基づき、BmKr-h1の転写開始点から上流約4.7k, 4.0k、および2.8kbの位置にforwardプライマー(BmKrh1_Pro-F2-attB1, BmKrh1_Pro-F3-attB1, BmKrh1_Pro-F4-attB1)を、翻訳開始点直上および第2エクソン5' 端にreverseプライマー(BmKrh1_Pro-R2-attB2, BmKrh1_Pro-R1-attB2)を設計した(図8)。これらのforwardプライマーおよびreveresプライマーを組み合わせて用いて、カイコゲノムDNAを鋳型とし、KOD FX DNAポリメラーゼ (TOYOBO)を用いたPCRによって、BmKr-h1プロモーター領域(一部イントロン含む)を増幅し、ゲートウェイシステムを用いてプラスミドベクターpDONR221(Invitrogen)にサブクローニングした。
これとは別に、ルシフェラーゼレポーターアッセイ用ベクターを構築するため、pGL4.14 (Promega) のマルチクローニングサイト(EcoRVサイト)にpIB/V5-His-DEST (Invitrogen) のattB1配列からattB2配列(609-2292)を挿入してgateway化したプラスミドpGL4.14-DESTを構築した。
上記でサブクローニングしたBmKr-h1プロモーター領域を含む断片を、ゲートウェイシステムを用いて、ルシフェラーゼレポーターアッセイ用ベクターpGL4.14-DESTにサブクローニングし、シークエンスを行うとともに、次項に述べるデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイに供した。各レポーターコンストラクトの名称、作製に用いたプライマーの種類、対応するBmKr-h1遺伝子のプロモーターの位置は図8に示した。
【0097】
レポーターアッセイ
Kr-h1プロモーターのJH誘導性の評価は、Dual-Luciferase Reporter Assay System (Promega) を用いて行った。内部標準レポーターベクターとして、pRL-null (Promega)のウミシイタケ(レニラ)ルシフェラーゼ遺伝子(rluc)をpIZT/V5-His-DEST (invitrogen)のIE2 promoterの下流に挿入したプラスミドpIZT-rlucを作製して用いた。ホタルルシフェラーゼレポーターベクターpGL4.14に、Kr-h1の転写開始点近傍の配列を挿入した試験レポーターベクターと内部標準レポーターベクターpIZT-rluc(ウミシイタケルシフェラーゼ)を、TransfastTM Transfection Reagent (Promega) を用いて、培養細胞に同時にトランスフェクションし、一定時間放置(通常24時間)後に、JHなどを加えた培地と交換し、さらに一定時間放置(通常24時間)後に、細胞を回収し、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。測定は、1420 ARVOマルチラベルカウンター (PerkinElmer) を用いた。試験プロモーターの活性は、ホタルルシフェラーゼの測定値/ウミシイタケルシフェラーゼの測定値により行った。
【0098】
[結果]
BmKr-h1上流、第1エクソン、およびイントロンの一部領域を含むルシフェラーゼレポーターコンストラクトを作製し、aff3細胞を用いてデュアルルシフェラーゼアッセイを行い、JHに対する応答性を調べた(図9)。
その結果、翻訳開始点直上から、上流約4.7k, 4.0k, 2.8kを含むコンストラクトpGL4.14_-4741/+116, pGL4.14_-4041/+116, pGL4.14_-2763/+116) にはいずれもほぼ同等の強いJH応答性が認められた(図9)。一方、上流4.7kまたは4.0kとイントロンを含むコンストラクト(pGL4.14_-4741/+968, pGL4.14_-4041/+968)にもJH応答性が認められたが、その転写レベルはイントロンを含まないものよりも弱かった(図9、10)。
次に、上流約4.0kおよびイントロンを含むコンストラクト(pGL4.14_-4041/+968)と、上流約2.8kを含むコンストラクト(pGL4.14_-2763/+116)を用いて、JHとエクダイソン(20E)に対する応答を調べた(図11)。pGL4.14_-4041/+968では弱いJH誘導とともに20E単独による誘導が認められ、また両者を混ぜるとより強い誘導が認められた。一方、pGL4.14_-2763/+116では、JH単独により強く誘導されるが、20E単独よる誘導は認められず、逆に 20EはJHによる誘導を抑制する傾向が認められた。
以上の結果から、翻訳開始点直上から約 2.8k(-2763/+116)の領域(配列番号:10)に、JH単独で応答する配列(JH応答配列; JHRE)が存在することがわかった。一方、イントロンには20E誘導性配列および上流域からの転写誘導を抑制する配列が存在することが示唆された。
【0099】
顕著なJH応答性を示したレポーターコンストラトpGL4.14_-2763/+116を用いて、JH誘導性を経時的に調べた結果、JH(メソプレン)を含む培地ではレポーターの誘導は4時間後から認められ、48時間まで徐々に増加した(図12)。一方、JHを含まない培地ではレポーターの活性は48 時間までほぼ変化なく低いレベルであった(図12)。
各種JHに対するpGL4.14_-2763/+116の応答を調べた結果、JH IおよびJH IIは、10-5〜10-9Mの広い範囲でほぼ同レベルの強い応答が認められた(図13)。JH IIIおよびメソプレンでは10-5〜10-7Mで強い応答が認めれたが、10-8〜10-9Mでは応答が低下する傾向が認められた。
上記のデータは、全てカイコaff3細胞を用いて調べた結果である。次に、他の細胞でも同様の応答が認められるか調べた。
BmN4細胞においては、イントロンを含むレポーターコンストラクトpGL4.14_-4041/+968に約5倍程度のJH 応答性が認められ、イントロンを含まないコンストラクトにおいても JHによる2倍前後の誘導が見られた(図14)。ヨトウガ由来の培養細胞Sf9においても、イントロンを含むレポーターコンストラクトpGL4.14_-4041/+968で約5倍程度の高いJH 応答性が認められた。イントロンを含まないコンストラクではレポーターの活性は低下したが、JHによる2〜3倍程度の誘導が見られた(図15)。これらの結果から、BmKr-h1のイントロン(配列番号:15)中には、JH応答性に関連する配列が含まれていることが示唆された。ショウジョウバエの培養細胞S2では、試験したいずれのコンストラクトにもJHによる誘導性は認められなかった(図16)。
以上の結果から、BmKr-h1プロモーターのJH応答性は、細胞の種類によって差はあるものの、調べた全ての鱗翅目昆虫細胞で明確なJH応答性を示すことが明らかになった。また、上記で試験した中では、aff3、K6、Oyanagi2、および C129細胞のJH応答性が顕著に高く、特にaff3細胞とpGL4.14_-2763/+116の組み合わせが最も良好なJH 応答性を示すことが明らかになった。
【0100】
〔実施例5〕BmKr-h1プロモーターに含まれるJH応答配列(JHRE)の同定
[方法]
BmKr-h1上流約2.8kを含むコンストラクト(pGL4.14_-2763/+116)に強いJH誘導活性が認められたので、この領域の一部を含むレポータープラスミドを作製して、レポーターアッセイを繰り返し、JH応答領域の絞り込みを行った。
[結果]
BmKr-h1上流約2.8kの領域(-2763/116)に含まれるJH応答配列 (JHRE)を同定するために、その一部を削り込んだ各種コンストラクトを作製し、レポーターアッセイを繰り返し行った。
図10 および 11 に示したように、-4041/-2649, -2763/-1695および-1966/-839の領域をプロモーターを持たないレポータープラスミドpGL4.14に直接つないだ場合、-4041/-2649 および -1966/-839 には転写活性化能およびJHおよび20Eへの有意な応答性は認められなかったが、-2763/-1695は、オーセンティックな転写開始部位がないにも関わらずJH応答性の発現が認められた。
また、-2763/+116領域を5’側から順次削り込んでアッセイを行うと、-1978/116およびそれより短いコンストラクトには有意なJH応答性が認められなかった(図17)。一方、-2565/+116, -2347/+116, -2165/+116を含むコンストラクトにはいずれも元の-2763/+116と同レベルのJH応答性が認められた(図18)。このことから、JHREは-2165から+116の領域中に存在し、また転写開始点近傍のプロモーター配列は必ずしもJH応答性に必須ではない可能性が示唆された。
次にinverse PCRによって、-2165/+116の中央部分の配列を削った各種コンストラクトを作製しアッセイを行った (図19)。その結果、転写開始点近傍の配列の長さ(-285/+116, -192/+116, -111/+116, および-49/+116)に関わらず、-2165/-1999の断片を含むコンストラクトは、いずれもかなり強いJH応答性が認められた。上流域をさらに削り込んだ-2165/-2049でもJH応答性は維持されたが、-2165/-2094では応答性が消失した。また、転写開始点近傍のプロモーター領域を比較すると、-49/+116を持つコンストラクトと上流域の組み合わせが最もJH応答性が高く、-2165/-1999と-49/+116の組み合わせでは、元の-2165/+116と同レベルのJH誘導性が認められた(図19)。
-2165/-1999 および -49/+116を含むコントラクトの上流部分(JHRE)をさらに削り込んでアッセイを行った。その結果、5’側から-2089 またはそれより短く削ったものでは、いずれもJH 応答能が消失した(図20)。一方、JHREを 3’側から削った場合、-2025 まで応答性が変わらず、-2045, -2068 と削り込みを進めるにつれJH応答性が低下するもののJH応答性は維持された(図20)。
図20の結果では、-2165〜-2068を含むコンストラクトで明確なJH応答が見られることから、この配列の断片中に少なくとも主要なJHREの1つが含まれていることが示唆される。また、高いJH応答性を得るためには、-2165〜-2068よりも3’側の配列を含むことが好ましく、-2165〜-2045、より好ましくは -2165〜-2025を含むことで、さらに高いJH誘導性が得られることが示された。特に、-2165/-2025のJHRE領域と-49/+116の領域の組み合わせで(配列番号:14)、元の-2763/+116とほぼ同等のJH誘導性が得られることが明らかになった。
【0101】
〔実施例6〕JHREとBmKr-h1プロモーター領域の解析
BmKr-h1のJHRE領域(-2165/-2025)において、JH応答に寄与している配列を明らかにするために、この領域中で、転写調節に実際に役割を果たしている可能性があるGTG、CAC、GAG、CTC配列をAAAもしくはTTT配列に変換したレポーターベクターを作製し、カイコの培養細胞(aff3)を使ったレポーターアッセイによってJH応答性を検証した(図21、22)。その結果、野生型ではJH処理により約22倍の応答が認められたのに対し、-2105CACAC、-2082GTG(図21)、-2089CGCG(図22)に突然変異を入れると、JHによる誘導率が5倍以下に低下するものの、JH応答性は失われなかった。-2105CACAC、-2105CAC、-2103CAC、-2089CGCG、-2082GTG などは依然としてJH誘導が見られることから、-2080またはそれより上流の領域は、JH応答性の増強には寄与しているものの、JH応答性に必須ではないと判断された。また、-2062またはそれより下流の部位の変異でもJH応答性は失われなかったことから、JH応答性に必須のJH応答配列は、-2079/-2063の範囲内に包含されていることが示唆された。また-2068まででJH応答性が見られる(図20)ことを考えれば、-2079/-2068(配列番号39)の配列でJH応答に十分であることが示唆される。そして -2073CACGTGTと -2076CTCに変異を入れるとJH誘導率は著しく低下した。以上の結果から、BmKr-h1のJHRE領域(-2165/-2025)において、JH応答性に必須の配列は-2076および-2073の部位に局在しており、より高いJH応答のためには-2105/-2068(配列番号38)が重要な機能を果たすことが示唆された。
【0102】
コクヌストモドキのKr-h1遺伝子(TcKr-h1)のプロモーター領域の配列(図23および24)を解析した結果、BmKr-h1のJHREの-2076/-2068(CTCCACGTG)と完全に一致する配列が見出された。そこでこの部位を含むTcKr-h1上流配列を用いてaff3細胞によるレポーターアッセイを行ったところ、顕著なJH応答性が確認された(図25)。以上から、BmKr-h1の-2076/-2068(CTCCACGTG;配列番号42)がJH応答エレメント(JHRE)の必須配列であり、この配列が、Kr-h1遺伝子のJH応答に主要な役割を果たしていることが示唆された。これと全く同一の配列は、上記の実験においてJH応答性に関与することが確認されているβアイソフォーム転写開始点上流に相当するαアイソフォームのイントロンI領域にも見出された。このように同一の配列が全く異なる昆虫間で保存されていることから、上記JHREによるJH応答は昆虫一般で共通していることが示唆される。
【0103】
続いて、JH応答におけるプロモーターの特異性を解析した。上記の実施例で絞り込んだBmKr-h1のプロモーター領域(-49/116)と、カイコのアクチンA3遺伝子(BmA3)およびHSP70遺伝子(BmHSP70)のプロモーター領域をスワッピングし、aff3を使ったレポーターアッセイによりJH応答性を検証した。その結果、他の遺伝子のプロモーターを用いてもJHに対する応答が確認されたことから(図26)、JH応答において特定なプロモーターは必須でないことが示された。
【0104】
〔実施例7〕JHREと相互作用するJHシグナル伝達分子の同定
BmKr-h1のJHREと相互作用するトランス因子群を特定するために、JHRE(-2165/-2025&-49/116)の下流にルシフェラーゼレポーター遺伝子を導入したプラスミドと、候補となるトランス因子群の発現プラスミドを、培養細胞に co-transfectionしてレポーターアッセイを行い、JHによる誘導性に与える影響を検証した。トランス因子としては、Met(methoprene tolerant)、ARNT(aryl hydrocarbon nuclear receptor translocator)、およびHIF 1α(Hypoxia-inducible factor 1α)を含むbHLH-PAS familyの転写因子(Met、ARNT、HIF1α)、および脱皮ホルモン受容体のサブユニットであるUSP(ultraspiracle)を選択し、これらのcDNAを、それぞれカイコからクローニングして用いた。また培養細胞には、JHに対するKr-h1の応答がカイコの培養細胞に比べて低い(2.5倍程度)ショウジョウバエのS2培養細胞を用いた。その結果、レポータープラスミドを単独で導入した場合には、JHによるレポーター活性の有意な誘導は認められないが、BmMet2をco-transfectionするとJHによる非常に高い誘導(約20倍)が観察された(図27)。一方、他の因子をco-transfectionした場合にはJH応答性の有意な上昇は認められなかった。以上の結果から、BmMet2がJH依存的にJH応答配列と相互作用することが示された。
【0105】
続いて、JHシグナル伝達経路におけるBmMet2の機能をより明確にするために、内在性のJH受容体を持たないと考えられる哺乳類培養細胞系を用いてone-hybridアッセイによる解析を行った。初めに、BmMet2がJH依存的な転写活性化能を有するかどうか検証するために、GAL4のDNA結合ドメインとBmMet2の融合タンパク質を発現するプラスミド(gal4-DBD_BmMet2)を作製し、アデノウイルスmajor lateプロモーター上流にGAL4結合部位(UAS)をタンデムに5コピー組み込んだUAS-ルシフェラーゼプラスミド(pG5luc vector, Promega)と共に、ヒト腎臓由来の培養細胞株(HEK293)にco-transfectionして、レポーターアッセイを行った。
その結果、驚くべきことに哺乳動物細胞であるにも関わらず、gal4-DBD_BmMet2を導入した実験区において、JHに対する強い応答(約13倍)が確認された(図28)。この結果は、Metによる転写活性化は昆虫細胞に依存しないことを示している。また、gal4-DBDをco-transfectionした場合には、JHによる誘導は全く起こらないことから、MetはJH依存的に転写活性化能を付与されることが示唆された。
【0106】
さらに、gal4-DBD_BmMet2の発現プラスミドからgal4-DBD領域を削り、野生型のBmMet2を発現するプラスミド(pBIND_BmMet2_-gal4)と、4種のJHREルシフェラーゼレポータープラスミドpGL4.14_-2165/-2025&-49/116、pGL4.14_-2763/116、pGL4.14_JHRE×4&TK、またはpGL4.14_JHRE×5&-49/116(pGL4.14_JHREx4&TK:-2128/-2045を4個タンデムに並べた配列+Tymidine kinaseプロモーター、pGL4.14_JHREx5&-49/116:-2128/-2045 (配列番号36) を5個タンデムに並べた配列+BmKr-h1の-49/116プロモーター)のいずれかを、HEK293にco-transfectionし、レポーターアッセイを行った。その結果、BmMet2を導入した場合、いずれのレポーターでもJH処理区では無処理に比べてレポーター活性が2.4倍誘導された(図29)。JHによる誘導は、VP16-ADやgal4-DBDを導入した対照区では起こらなかった。
【0107】
哺乳動物細胞であるHEK293細胞がJH受容体として機能する内在性分子を持っている可能性は極めて低いと考えられる。したがって、Metは単独でJHを受容し、JHREに直接結合し、JH依存的に転写活性化能を付与され、下流の遺伝子の転写を誘導することが示唆された。この結果は、MetがJHの直接の受容体であり、しかもこの一成分のみでJHを受容し、JHREを介した転写を活性化できることを初めて実証するものである。
【0108】
〔実施例8〕TcKr-h1のJHREを用いたJH応答性の解析
MetによるJH応答が、コクヌストモドキのJHREでも同様に観察されるかを調べた。ショウジョウバエS2細胞およびカイコaff3細胞を1.5×105 /well で96ウェルプレートにまき、10% FBSを含むschneider培地または10% FBSを含むIPL41培地で25℃で24時間培養した。TcKr-h1の-477/+106を含むレポータープラスミド(pGL4.14_Tckrh1_pro)0.2μg、内部標準としてpIZT-Rluc 0.002μgをTransFastTM (Promega) 0.6μl を用いて25℃、24時間トランスフェクションを行い、その後メソプレン10μMを添加し25℃、24時間培養後にルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、BmMet2を発現するS2細胞において強いJH応答が観察されたことから、TcKr-h1のJHREも、BmKr-h1のJHREと同様にMet蛋白質存在下でJH応答を示すことが確認された(図30)。
同様の実験をヒト細胞(HEK293)を用いて行った。HEK293細胞を0.2×105 /well で96ウェルプレートにまき、10% FBSおよび0.1 mM 非必須アミノ酸 (NEAA) を含むMEM培地で37℃で48時間培養した。TcKr-h1の-477/+106を含むレポータープラスミド 0.2μg、gal4-DBD_BmMet2発現プラスミド(pcDNA_BmMet2)または野生型BmMet2(pBIND_BmMet2_-gal4)を発現するプラスミド(pBIND_BmMet2_-gal4)0.2μg、および内部標準レポーターベクター pRL-TK (Promega) 0.2μgをLipofectamine 2000(0.5μg)を用いてco-transfection (37℃, 48h) を行い、JHI 0.1μMを添加後 (37℃, 24h)、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。コントロールとして、Met2をコードしない空ベクター(pcDNA_none)を用いた。その結果、Met蛋白質を発現するHEK293ではいずれも明確なJH応答が見られたことから、TcKr-h1のJHREは、BmKr-h1のJHREと同様に、ヒト細胞においてもMet蛋白質存在下でJH応答を示すことが確認された(図31)。
【0109】
〔実施例9〕JHREによる転写活性のJH用量応答性
JHREのJH応答が、哺乳動物細胞においても用量依存的にみられるかをHEK293細胞を用いて調べた。MEM + 0.1mM 非必須アミノ酸 (NEAA) + 10% FBS 200μl で培養したHEK293 (0.2×105/well, 96well plate) に pGL4.14_-2165/-2025&-49/116 および BmMet2発現ベクター(pBIND_BmMet2_-gal4)を、内部標準レポーターベクター pRL-TKと共にLipofectamine 2000を用いてco-transfection (48h) を行い、JH処理(JHI, II, III, MT (methoprene), MF (methyl farnesoate), FA (Farnesoic acid), 24h)を実施し、デュアルシフェラーゼアッセイを行った。その結果、各種JHとも明確な用量応答反応を示した。図33は、カイコ細胞aff3における内在性BmKr-h1のJH誘導発現の用量依存特性を示す。ヒト細胞における各種JHによる応答性の違いは、aff3における内在性BmKr-h1のそれとよく一致しており、JHREを用いたアッセイ系は、昆虫以外の細胞を用いた場合でも、昆虫細胞を用いたアッセイを再現できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明により、JHに高い応答性を有する遺伝子、蛋白質、該遺伝子のJHREを含むDNA、およびそれらの利用が提供された。本発明の遺伝子または蛋白質の発現、あるいはJHREによる転写活性化を指標とすることにより、JHを迅速かつ高感度で検出することが可能となる。特に当該遺伝子は、培養細胞においてもJHにより非常に高い効率で発現が誘導されるので、個体のみならず培養細胞を用いてもハイスループットなスクリーニング系を構築することが可能となった。また本発明のJHREを利用すれば、JHによる発現制御システムを構築することも可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:42またはその1塩基を置換した配列を含み、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAであって、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)幼若ホルモン応答遺伝子の転写調節領域おいて、配列番号:42またはその1塩基を置換した配列を含むように切り出された配列であって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有する配列を含むDNA。
(b)上記(a)のDNAにおいて、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含むDNAであって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA。
(c)上記(a)のDNAの塩基配列と90%以上の同一性を有し、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA。
(d)上記(a)のDNAから調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA。
【請求項3】
該遺伝子がKr-h1(Kruppel homolog 1)またはその相同遺伝子である、請求項1または2に記載のDNA。
【請求項4】
配列番号:9、10、11、12、31、34、35、36、37、38、39、または幼若ホルモン応答性を有するそれらの断片を含む、請求項1から3のいずれかに記載のDNA。
【請求項5】
異種プロモーターおよび/または異種遺伝子が機能的に連結されている、請求項1から4のいずれかに記載のDNA。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターを含む、幼若ホルモン応答発現用組成物。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAまたは該DNAを含むベクターを含む形質転換体。
【請求項9】
Met(Methoprene-tolerant)遺伝子が導入されている、請求項8に記載の形質転換体。
【請求項10】
昆虫細胞または哺乳動物細胞である、請求項8または9に記載の形質転換体。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAを含む幼若ホルモン応答性転写エンハンサー。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAの、幼若ホルモン応答エレメントとしての使用。
【請求項13】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAの、Met(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合させるための使用。
【請求項14】
幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストによる発現制御における請求項1から5のいずれかに記載のDNAの使用。
【請求項15】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAが導入された細胞に、幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストを接触させる工程を含む、発現制御方法。
【請求項16】
(a)請求項1から5のいずれかに記載のDNA、および(b)(i)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、および/または (ii) Met(Methoprene-tolerant)をコードする核酸または該核酸が導入された細胞、を含むキット。
【請求項17】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAの転写活性を検出する工程を含む、幼若ホルモン作用のアッセイ方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、該工程が被験化合物の存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用に及ぼす被験化合物の促進または抑制効果を検出する方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を上昇させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を上昇させる化合物を選択する工程をさらに含む方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、該工程が幼若ホルモンまたはそのアゴニストのさらなる存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用を低下させる被験化合物の活性を検出する方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を低下させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を低下させる化合物を選択する工程をさらに含む方法。
【請求項22】
殺虫性化合物のアッセイまたはスクリーニングにおいて実施される、請求項17から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
下記(a)〜(c)に記載のDNA。
(a)配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子、または鱗翅目昆虫における相同遺伝子の配列を含むDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA。
(b)上記(a)に記載の配列において、1または数個の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA。
(c)上記(a)に記載の配列から調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然の配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA。
【請求項24】
請求項23に記載のDNAがコードするアミノ酸配列を含む蛋白質。
【請求項25】
請求項24に記載の蛋白質の連続する8アミノ酸以上の断片を含む免疫原性ポリペプチド。
【請求項26】
配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列の連続する15塩基以上を含むか、あるいは配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、プローブまたはプライマーとして用いられる核酸。
【請求項27】
請求項24に記載の蛋白質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド。
【請求項28】
請求項26に記載の核酸、あるいは請求項27の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチドを含む、幼若ホルモンの検出剤。
【請求項29】
(a)請求項26に記載の核酸、あるいは請求項27の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、および(b)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むキット。
【請求項30】
Met(Methoprene-tolerant)蛋白質または該蛋白質とDNA結合蛋白質との融合蛋白質をDNAに結合させる工程を含む、該DNAの転写を非昆虫真核細胞において活性化させる方法。
【請求項31】
Met(Methoprene-tolerant)蛋白質または該蛋白質とDNA結合蛋白質との融合蛋白質、またはそのいずれかをコードする核酸を含む、非昆虫真核細胞における転写活性化剤。
【請求項1】
配列番号:42またはその1塩基を置換した配列を含み、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAであって、下記(a)〜(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)幼若ホルモン応答遺伝子の転写調節領域おいて、配列番号:42またはその1塩基を置換した配列を含むように切り出された配列であって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有する配列を含むDNA。
(b)上記(a)のDNAにおいて、1または複数の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含むDNAであって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA。
(c)上記(a)のDNAの塩基配列と90%以上の同一性を有し、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA。
(d)上記(a)のDNAから調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、幼若ホルモンに応答して転写を上昇させる活性またはMet(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合する活性を有するDNA。
【請求項3】
該遺伝子がKr-h1(Kruppel homolog 1)またはその相同遺伝子である、請求項1または2に記載のDNA。
【請求項4】
配列番号:9、10、11、12、31、34、35、36、37、38、39、または幼若ホルモン応答性を有するそれらの断片を含む、請求項1から3のいずれかに記載のDNA。
【請求項5】
異種プロモーターおよび/または異種遺伝子が機能的に連結されている、請求項1から4のいずれかに記載のDNA。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターを含む、幼若ホルモン応答発現用組成物。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAまたは該DNAを含むベクターを含む形質転換体。
【請求項9】
Met(Methoprene-tolerant)遺伝子が導入されている、請求項8に記載の形質転換体。
【請求項10】
昆虫細胞または哺乳動物細胞である、請求項8または9に記載の形質転換体。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAを含む幼若ホルモン応答性転写エンハンサー。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAの、幼若ホルモン応答エレメントとしての使用。
【請求項13】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAの、Met(Methoprene-tolerant)蛋白質に結合させるための使用。
【請求項14】
幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストによる発現制御における請求項1から5のいずれかに記載のDNAの使用。
【請求項15】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAが導入された細胞に、幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニストを接触させる工程を含む、発現制御方法。
【請求項16】
(a)請求項1から5のいずれかに記載のDNA、および(b)(i)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、および/または (ii) Met(Methoprene-tolerant)をコードする核酸または該核酸が導入された細胞、を含むキット。
【請求項17】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAの転写活性を検出する工程を含む、幼若ホルモン作用のアッセイ方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、該工程が被験化合物の存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用に及ぼす被験化合物の促進または抑制効果を検出する方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を上昇させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を上昇させる化合物を選択する工程をさらに含む方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、該工程が幼若ホルモンまたはそのアゴニストのさらなる存在下で行われ、それにより幼若ホルモンの作用を低下させる被験化合物の活性を検出する方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、該方法が幼若ホルモンの作用を低下させる化合物のスクリーニングにおいて実施され、該DNAの転写活性を低下させる化合物を選択する工程をさらに含む方法。
【請求項22】
殺虫性化合物のアッセイまたはスクリーニングにおいて実施される、請求項17から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
下記(a)〜(c)に記載のDNA。
(a)配列番号:2または4のアミノ酸配列をコードするカイコ遺伝子、または鱗翅目昆虫における相同遺伝子の配列を含むDNAであって、幼若ホルモン応答性を有するDNA。
(b)上記(a)に記載の配列において、1または数個の塩基を置換、欠失、および/または付加した配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA。
(c)上記(a)に記載の配列から調製したプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする天然の配列を含み、幼若ホルモン応答性を有するDNA。
【請求項24】
請求項23に記載のDNAがコードするアミノ酸配列を含む蛋白質。
【請求項25】
請求項24に記載の蛋白質の連続する8アミノ酸以上の断片を含む免疫原性ポリペプチド。
【請求項26】
配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列の連続する15塩基以上を含むか、あるいは配列番号:1または3あるいはそれらの相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、プローブまたはプライマーとして用いられる核酸。
【請求項27】
請求項24に記載の蛋白質に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド。
【請求項28】
請求項26に記載の核酸、あるいは請求項27の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチドを含む、幼若ホルモンの検出剤。
【請求項29】
(a)請求項26に記載の核酸、あるいは請求項27の抗体またはその抗原結合断片を含むポリペプチド、および(b)幼若ホルモン、そのアゴニスト、またはアンタゴニスト、を含むキット。
【請求項30】
Met(Methoprene-tolerant)蛋白質または該蛋白質とDNA結合蛋白質との融合蛋白質をDNAに結合させる工程を含む、該DNAの転写を非昆虫真核細胞において活性化させる方法。
【請求項31】
Met(Methoprene-tolerant)蛋白質または該蛋白質とDNA結合蛋白質との融合蛋白質、またはそのいずれかをコードする核酸を含む、非昆虫真核細胞における転写活性化剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図23】
【図24】
【図32】
【図33】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図23】
【図24】
【図32】
【図33】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2009−297021(P2009−297021A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115312(P2009−115312)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】
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