説明

広帯域分散補償回路

【課題】中心周波数から離れた透過帯域を有する広帯域分散補償回路を提供する。
【解決手段】第1のスラブ導波路、アレイ導波路、第2のスラブ導波路を縦列接続したアレイ導波路回折格子と、位相シフタおよび反射器とを有する分散補償回路と、アレイ導波路回折格子のFSRと等しい周波数周期を有するインターリーバ回路と、第1のスラブ導波路とインターリーバ回路とを接続する等光路長の2本の接続導波路とを備え、接続導波路は、FSRの1/2の周波数だけ異なる周波数の2つの光が入射されたときに、第2のスラブ導波路の光スペクトル面上の同じ位置に結像するように、第1のスラブ導波路と接続する位置が設定されており、インターリーバ回路が、入射光を、FSRの1/2の周波数ごとに、異なる接続導波路に切り替えて出力することにより、第2のスラブ導波路の光スペクトル面の中心部分からの拡がりをフリースペクトラルレンジの1/2に抑えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信ネットワークの伝送装置において、光ファイバの群速度分散を補償する分散補償回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の分散補償回路を図6に示す。分散補償回路は、図6に示すように、第1のスラブ導波路201と、アレイ導波路202と、第2のスラブ導波路203と、位相シフタ204と、反射器205とにより構成されている。分散補償回路において、第1のスラブ導波路201から入射された入射光は、第1のスラブ導波路201と、アレイ導波路202と、第2のスラブ導波路203とで構成されるアレイ導波路回折格子を透過することにより分光される。分光(周波数分解)された光の各成分は、その位相が位相シフタ204によりシフトされた後、反射器205で反射されて再びアレイ導波路回折格子を透過して出力される。
【0003】
位相シフタ204は、第2のスラブ導波路203に形成されたレンズ形状の溝に、第2のスラブ導波路203の屈折率とは異なる屈折率の樹脂などが充填されることにより形成されている。位相シフタ204を形成する溝をレンズと同じ2次曲線形状に設計することにより、周波数面上で中心周波数を軸として2次関数的な位相を付与することを可能として、群速度分散を補償している。また、位相シフタ204として充填される樹脂は、屈折率の温度依存性が大きいものが望ましく用いられている。位相シフタ204による分散量を可変にするため、ヒータ(図示せず)などにより温度を変えて位相シフト量の変化を実現している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Ikuma, H. Takahashi, S. Fukushima, and H. Tsuda, "Tunable Optical Dispersion Compensator Module Using Integrated Multiple Lenses in an Arrayed-Waveguide Grating," 35th European Conference on Optical Communication (ECOC 2009), Vienna, Austria, Paper 7.2.6, Sept. 20-24, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の分散補償回路では、中心周波数から離れた信号光は、損失が大きくなるという問題、即ち、透過帯域幅が狭いという問題があった。アレイ導波路回折格子は、一般的に、透過帯域周辺の周波数領域において透過率が低くなる。このため、従来の分散補償回路では、アレイ導波路回折格子を信号光が2回透過するので、透過帯域が狭くなると考えられる。したがって、従来の分散補償回路で広帯域の信号光を分散補償しようとすると、信号光の強度スペクトルが大きく変化して信号が劣化する問題があった。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、中心周波数から離れた周波数でも透過率が大幅に低下しない広帯域分散補償回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、光が入出力される第1のスラブ導波路、アレイ導波路、および第2のスラブ導波路を縦列接続して構成されるアレイ導波路回折格子と、前記アレイ導波路と接続されていない前記第2のスラブ導波路の、スペクトル面上に設けられた位相シフタおよび端部に設けられた反射器とを有する分散補償回路と、前記アレイ導波路回折格子のフリースペクトラルレンジと等しい周波数応答周期を有するインターリーバ回路と、前記アレイ導波路回折格子の第1のスラブ導波路と前記インターリーバ回路とを接続する等しい光路長の2本の接続導波路とを備え、前記2本の接続導波路は、前記フリースペクトラルレンジの1/2の周波数だけ異なる周波数の2つの入射光が入射されたときに、該2つの入射光が、前記アレイ導波路回折格子の第2のスラブ導波路の光スペクトル面上の同じ位置に結像するように、前記第1のスラブ導波路と接続する位置が設定されており、前記インターリーバ回路が、入射された光を、前記フリースペクトラルレンジの1/2の周波数ごとに、異なる前記接続導波路に切り替えて出力することにより、前記第2のスラブ導波路の光スペクトル面の中心部分からの拡がりを前記フリースペクトラルレンジの1/2に抑えていることを特徴とする広帯域分散補償回路である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の広帯域分散補償回路において、前記位相シフタは、前記光スペクトルに対して放物状のフーリエ位相変化を与えることで群速度分散値を制御することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の広帯域分散補償回路において、前記2本の接続導波路が前記第1のスラブ導波路と接続する位置における接続導波路の間隔は、前記フリースペクトラルレンジの1/2の周波数のスペクトル間隔と等しいことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の広帯域分散補償回路の概略構成を示す図である。
【図2】インターリーバの構成の一例を示す図である。
【図3】2つの接続導波路と第1のスラブ導波路との接続部の構成を示す図である。
【図4】(a)は第1の接続導波路107への入射光に対するアレイ導波路回折格子の透過率αと群遅延βを示し、(b)は第2の接続導波路108への入射光に対するアレイ導波路回折格子の透過率αと群遅延βを示す図である。
【図5】分散値を100ps/nmに設定した場合の透過特性について、本発明の広帯域分散補償回路と従来の分散補償回路を比較した図である。
【図6】従来の分散補償回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明では、フリースペクトラルレンジ(FSR: Free Spectral Range)が大きいアレイ導波路回折格子のスペクトル面の中央近傍を分散補償動作に利用するために、信号光をインターリーバにより二つの周波数成分に分割し、各々の周波数成分をアレイ導波路回折格子の第1のスラブ導波路の異なる位置から入力させる構成としている。この構成により、信号光の中心周波数から離れた周波数成分の光も、アレイ導波路回折格子のスペクトル面の中央部分近傍を透過する(スペクトル面の中央部分の拡がりがFSRの1/2に抑えられる)ため、透過帯域の狭窄化が抑圧され、分散補償に伴う信号劣化が低減することになるので、従来よりも広帯域の分散補償回路を構成することができる。
【0012】
図1に本発明にかかる広帯域分散補償回路の構成の一例を示す。広帯域分散補償回路100は、第1のスラブ導波路101と、アレイ導波路102と、第2のスラブ導波路103と、位相シフタ104と、反射器105と、インターリーバ106と、第1の接続導波路107と、第2の接続導波路108とを備えてなる。広帯域分散補償回路100において、第1のスラブ導波路101と、アレイ導波路102と、第2のスラブ導波路103と、位相シフタ104と、反射器105とは従来の分散補償回路200(図6参照)と同様の構成を採用することができる。本発明の広帯域分散補償回路100は、この分散補償回路200と同様に構成される第1のスラブ導波路101の入出力端に、2つ接続導波路107、108を介してインターリーバ106を接続して構成されている。
【0013】
図2にインターリーバ106の構成の一例を示す。インターリーバ106は、一端から入射された光を、インターリーバ106のFSRの1/2(半分)の周波数ごとに周期的に切り替えて、他端に接続された2つの接続導波路107、108に出力している。インターリーバ106は、入力2ポート、出力2ポートの方向性結合器61a〜61eを縦列に多段接続した構成を採用することができ、例えば図2に示す構成とすることができる。図2において各方向性結合器61a〜61eの角度はアーム1 62a〜62d、アーム2 63a〜63d間の過剰位相変化を表している。インターリーバ106のFSR(周波数応答周期と等しい)は、第1のスラブ導波路101と、アレイ導波路102と、第2のスラブ導波路103とで構成されるアレイ導波路回折格子のFSRと同じになるように設定されている。
【0014】
インターリーバ106に一端が接続された第1の接続導波路107及び第2の接続導波路108は、他端が第1のスラブ導波路101(アレイ導波路回折格子)に接続されている。図3は第1の接続導波路107及び第2の接続導波路108と第1のスラブ導波路101(アレイ導波路回折格子)との接続部の構成を示す図である。第1の接続導波路107と第2の接続導波路108とは、同じ光路長を有している。第1の接続導波路107及び第2の接続導波路108と、第1のスラブ導波路101との接続位置は、アレイ導波路回折格子のFSRの1/2(半分)の周波数だけ異なる周波数の2つの入射光を入射されたときに、アレイ導波路回折格子のFSRの半分の周波数に相当する周波数差を持つ2つの異なる信号光成分が第2のスラブ導波路103のスペクトル面上で同じ位置に結像するように調整されている。具体的には、第1の接続導波路107及び第2の接続導波路108と第1のスラブ導波路101との接続位置における第1の接続導波路107と第2の接続導波路108との間隔が、FSRの半分の周波数のスペクトル間隔と等しくなるようにする。
【0015】
第1のスラブ導波路101に入射した光は、アレイ導波路回折格子を導波する。アレイ導波路回折格子では、信号光の第1のスラブ導波路101への入射位置と信号光の周波数に依存して、第2のスラブ導波路103のスペクトル面上の集光位置が変化する。そのため、第1の接続導波路107及び第2の接続導波路108と第1のスラブ導波路101との接続位置が調整されることで、アレイ導波路回折格子のFSRの半分の周波数に相当する周波数差を持つ二つの異なる信号光成分が第2のスラブ導波路103のスペクトル面上で同じ位置に結像するようにできる。
【0016】
図4に、第1の接続導波路107への入射光と第2の接続導波路108への入射光の周波数に対するアレイ導波路回折格子の透過率αと群遅延βを模式的に示す。図4(a)は第1の接続導波路107への入射光についての透過率αと群遅延βを示し、図4(b)は第2の接続導波路108への入射光についての透過率αと群遅延βを示している。ここで信号光は、アレイ導波路回折格子のFSRと等しいFSRを有するインターリーバ106によって、FSRの1/2の周期で、第1の接続導波路107と第2の接続導波路108から切り替わって入出力されるため、広帯域分散補償回路100では、図4において斜線で囲まれた部分(a、b、c、d、e、fに示す部分)の特性を合成した入出力特性を有することとなる。さらに図4に示した群遅延特性は、位相シフタ104によってスペクトルに対して放物状のフーリエ位相変化を与えることでその傾き、即ち、群速度分散値が制御される。
【0017】
ここで広帯域分散補償回路100の一例として、具体的にアレイ導波路回折格子のパラメータを設計した例を示す。チャネル間隔を10GHz、チャネル数を20、アレイ本数を52、回折次数を967、スラブ長を4060.69μm、ΔLを1030.68μm、アレイピッチ/開口を12μm/10.5μm、入出力ピッチ/開口を18μm/15μmとした。また、ベースとなるアレイ導波路回折格子のFSRは200GHzである。インターリーバ106は図2に示す構成のものを用いた。
【0018】
これらのパラメータに設定して広帯域分散補償回路100を構成し、分散値を100ps/nmに設定した場合の透過特性と、従来構成の分散補償回路の分散値を100ps/nmに設定した場合の透過特性とを比較したのが、図5である。従来例では、ベースとなるアレイ導波路回折格子のFSRは100GHzである。本発明の広帯域分散補償回路100では、ベースとなるアレイ導波路回折格子のFSRは200GHzである。
【0019】
図4に示すように、広帯域分散補償回路100では、アレイ導波路回折格子のFSRの半分の周波数毎に、即ち、100GHz毎に光が主に伝搬する接続導波路107、108が切り替わる。したがって、アレイ導波路回折格子に位相シフタ104と、反射器105とを含めた分散補償回路全体としてのFSRは、アレイ導波路回折格子のFSRの半分の100GHzとなる。図5には、分散補償回路の特性を示すが、100GHz毎に同様の特性が繰り返される。この図から明らかなように、本発明では、透過特性の狭窄化を抑圧でき、透過帯域が拡大されている。
【0020】
このように本発明にかかる広帯域分散補償回路100によれば、可変分散補償回路における透過特性を平坦に近づけて、信号光の強度スペクトル分布を出来る限り変化させず、分散補償を行うことが出来る。これによって、分散補償時の信号帯域狭窄化による信号劣化を低減することが可能である。したがって、本発明の広帯域分散補償器100を用いれば、従来の10Gb/sだけでなく、40Gb/sなどのより高速で広帯域の信号に対しても分散補償することが可能となり、光通信システムの高速化に貢献が可能である。
【符号の説明】
【0021】
101、201:第1のスラブ導波路
102、202:アレイ導波路
103、203:第2のスラブ導波路
104、204:位相シフタ
105、205:反射器
106:インターリーバ
107:第1の接続導波路
108:第2の接続導波路
61a〜61e:方向性結合器
62a〜62d:アーム1
63a〜63d:アーム2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が入出力される第1のスラブ導波路、アレイ導波路、および第2のスラブ導波路を縦列接続して構成されるアレイ導波路回折格子と、前記アレイ導波路と接続されていない前記第2のスラブ導波路の、スペクトル面上に設けられた位相シフタおよび端部に設けられた反射器とを有する分散補償回路と、
前記アレイ導波路回折格子のフリースペクトラルレンジと等しい周波数応答周期を有するインターリーバ回路と、
前記アレイ導波路回折格子の第1のスラブ導波路と前記インターリーバ回路とを接続する等しい光路長の2本の接続導波路とを備え、
前記2本の接続導波路は、前記フリースペクトラルレンジの1/2の周波数だけ異なる周波数の2つの入射光が入射されたときに、該2つの入射光が、前記アレイ導波路回折格子の第2のスラブ導波路の光スペクトル面上の同じ位置に結像するように、前記第1のスラブ導波路と接続する位置が設定されており、前記インターリーバ回路が、入射された光を、前記フリースペクトラルレンジの1/2の周波数ごとに、異なる前記接続導波路に切り替えて出力することにより、前記第2のスラブ導波路の光スペクトル面の中心部分からの拡がりを前記フリースペクトラルレンジの1/2に抑えていることを特徴とする広帯域分散補償回路。
【請求項2】
前記位相シフタは、前記光スペクトルに対して放物状のフーリエ位相変化を与えることで群速度分散値を制御することを特徴とする請求項1に記載の広帯域分散補償回路。
【請求項3】
前記2本の接続導波路が前記第1のスラブ導波路と接続する位置における接続導波路の間隔は、前記フリースペクトラルレンジの1/2の周波数のスペクトル間隔と等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の広帯域分散補償回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29544(P2013−29544A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163555(P2011−163555)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】