説明

床吹き出し空調兼用排煙システム

【課題】火災室内の煙層を乱すことなく、かつ、煙層降下を制御可能な床吹き出し空調兼用排煙システムを提供する。
【解決手段】居室2の床34全面に設けた多数の給気口36から空調空気を上方に吹き出して居室2の空調を行う床吹き出し空調手段と、居室2内で火災が発生した際の煙を天井24に設けた排煙口26から居室2外に排出する排煙手段とを備える床吹き出し空調兼用排煙システム100であって、給気口36への給気経路32内に、火災が発生した際における給気口36から居室2内への給気量を調整可能なダンパー38を設けるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の居室内で発生した火災に伴う煙を居室外に排出する排煙システムに関し、特に床全面吹き出し式の室内空調設備を兼ね備えた床吹き出し空調兼用排煙システムに関する。
【背景技術】
【0002】
火災が発生した居室(火災室)で排煙を行うことは、在室者(居室内に居る人)の火災初期における避難安全性を確保する上で重要である。この場合、初期火災時に発生する煙の降下を防ぐことが重要となる。
【0003】
ところで、近年のオフィスビル等の建物では高気密化が進んでおり、図5に示すように、火災時の機械排煙時において火災室2と室外廊下等4との間に過剰な圧力差が生じやすい。この場合、火災室2への給気経路を別途設けなければ火災室2の出口扉6の開閉が困難となり、初期火災時における火災室2内からの在室者の避難行動に支障をきたすおそれがある。また、所要の排煙風量の確保が困難となり、排煙効率が悪化するおそれもある。
【0004】
このような気密性の高い建物において、火災室と室外廊下等との間に適切な差圧を保持するようにした排煙システムまたは設備が知られている(例えば、特許文献1または2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−269511号公報
【特許文献2】特開2000−14811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、火災室2への給気経路を有する場合であっても、図6に示すように、給気口8が集中して配置してあると、大きな風速の給気流によって火源10上の上昇気流や煙層12が乱され、煙層降下が部分的に早まることがある。また、給気口8が壁際に配置してあると、壁への熱損失等によって降下した煙が給気流に乗って室内に拡散することがある。このように、煙層12が乱されたり、部分的に煙層降下が早まると、在室者の避難行動に支障をきたすおそれがある。
【0007】
他方、盛期火災における消火活動時には、火災室の温度が上昇することによって見かけの排煙風量が低下し、煙が火災室の外へ流出しやすくなる。この煙が火災室の外の消火活動拠点に及ぶと、消火活動に支障をきたすおそれがある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、火災室内の煙層を乱すことなく、かつ、煙層降下を制御可能な床吹き出し空調兼用排煙システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る床吹き出し空調兼用排煙システムは、居室の床全面に設けた多数の給気口から空調空気を上方に吹き出して前記居室の空調を行う床吹き出し空調手段と、前記居室内で火災が発生した際の煙を天井に設けた排煙口から前記居室外に排出する排煙手段とを備える床吹き出し空調兼用排煙システムであって、前記給気口への給気経路内に、火災が発生した際における前記給気口から前記居室内への給気量を調整可能なダンパーを設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る床吹き出し空調兼用排煙システムは、上述した請求項1において、前記ダンパーの開度は、前記居室内外の圧力が略等しくなるように調整制御されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る床吹き出し空調兼用排煙システムは、上述した請求項1または2において、前記ダンパーの開度は、前記排煙手段による排煙量に基づいて調整制御されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る床吹き出し空調兼用排煙システムは、上述した請求項1から3のいずれか一つにおいて、前記ダンパーの開度は、平常時および初期火災における避難時には開状態に、盛期火災における消火活動時には閉状態に調整制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、居室の床全面に設けた多数の給気口から空調空気を上方に吹き出して前記居室の空調を行う床吹き出し空調手段と、前記居室内で火災が発生した際の煙を天井に設けた排煙口から前記居室外に排出する排煙手段とを備える床吹き出し空調兼用排煙システムであって、前記給気口への給気経路内に、火災が発生した際における前記給気口から前記居室内への給気量を調整可能なダンパーを設けたので、火災発生時にダンパーの開度を小さく調整することで給気口からの給気量、つまり給気風速を小さくすることができる。
【0014】
この場合、床上の室内空間には低速で一様な上昇気流が形成され、室内上方に形成される煙層は、この一様な上昇気流に乗って天井の排煙口に入り室外に排出される。このため、室内上方の煙層が乱されることはなく、かつ、部分的に煙層降下が早まることもない。したがって、火災室内の煙層を乱すことがない。また、ダンパーの開度を増減調整することによって煙層降下を制御することもできる。
【0015】
さらに、床上の室内空間に一様な上昇気流を作り出すことができるので、出火位置が室内の何処であっても、火源からの煙を一様な上昇気流により室内上方に導くことができる。このため、出火位置に関わりなく煙の流動を安定的に制御することができる。
【0016】
また、ダンパーの開度を火災の各局面に応じて増減調整すれば、火災室内における煙降下の促進および抑制を所望のタイミングにて制御することができる。例えば、この場合、初期火災の避難時に火災室内外で過剰な圧力差が生じないように給気量を調整すれば、煙降下を防止するとともに、出口扉に差圧による過剰な力が作用せず、扉の開操作が楽になるので、在室者の室外への避難行動が容易となる。また、盛期火災の消火活動時に火災室の圧力を下げ、火災室内外で圧力差が生じるように給気量を調整すれば、室外への煙の流出を起こりにくくすることができ、室外の消火活動拠点の安全性を高め、消火活動を効果的に支援することができる。
【0017】
一方、火災が発生していない平常時には、床全面吹き出し式の空調設備として利用することで、設備の省エネルギー化を図ることもできる。また、排煙手段による排煙量を増すような方策を講じる必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明に係る床吹き出し空調兼用排煙システムの好適な実施の形態を説明する。図1は、本発明に係る床吹き出し空調兼用排煙システムの初期火災における避難時の状況を示す概略側断面図である。図2は、本発明に係る床吹き出し空調兼用排煙システムの盛期火災における消火活動時の状況を示す概略側断面図である。
【0019】
図1および図2に示すように、本発明に係る床吹き出し空調兼用排煙システム100は、出口扉6を備える居室2に適用され、排煙用ファン20と、排煙用ダクト22と、天井24の全面にわたって設けた多数の排煙口26と、給気用ファン28と、空調機30と、給気経路としての給気用ダクト32と、床34の全面にわたって設けた多数の吹き出し口36(給気口)と、給気ダクト32内に設けた給気風量調整用ダンパー38とを含んで構成される。また、本システム100は、排気用ダクト40と、防火用ダンパー42とをさらに含む。
【0020】
排煙用ファン20、排煙用ダクト22および排煙口26は、本発明の排煙手段として機能し、給気用ファン28、空調機30、給気用ダクト32および吹き出し口36は、本発明の床吹き出し空調手段として機能する。
【0021】
上記の構成において、火災発生時に給気風量調整用ダンパー38の開度を小さく調整することで床全面の多数の吹き出し口36(給気口)からの給気風量(給気量)、つまり給気風速を低速に調整することができる。この給気風速としては、例えば、数cm/秒程度以下としてよい。この場合、図1に示すように、床34上の室内空間には低速で一様な上昇気流が形成され、室内上方に形成された煙層12はこの気流に乗り、天井24の全面の多数の排煙口26から一様に吸引されて室外へ排出される。このため、煙層12が乱されることはなく、部分的に煙層降下が早まることもない。また、排煙手段において排煙風量を増すような方策を講じる必要もない。
【0022】
また、上記の構成によれば、床34上の室内空間に一様な上昇気流を作り出すことができるので、出火位置が室内の何処であっても、火源10からの煙を一様な上昇気流により室内上方に導くことができる。このため、出火位置に関わりなく煙の流動を安定的に制御することができる。
【0023】
一方、居室2内に火災が発生していない平常時には、上記の構成を床全面吹き出し式の空調設備として利用することで、設備の省エネルギー化を図ることもできる。
【0024】
排煙用ファン20は、居室2内の煙を室外に排出する気流を起こすためのファンであり、排煙用ダクト22に接続され、居室外に設けられる。排煙用ファン20としては、排煙設備に通常用いる排煙ファンを使用することができる。
【0025】
排煙用ダクト22は、排煙口26と居室外部とを連通するダクトであり、天井24の裏から居室外にわたり配設される。排煙用ファン20を稼動すると排煙用ダクト22内に気流が生じ、居室内の煙は排煙口26を通じて室外に排出される。排煙用ダクト22としては、排煙設備に通常用いるダクトを使用してもよく、耐熱処理を施した空調設備用のダクトを使用してもよい。
【0026】
排煙口26は、天井チャンバー方式による一般的な排煙用のスリットであり、このスリットは、居室2の天井24の全面に多数分散して設けてある。排煙口26としては、スリットに限るものではなく排煙設備に通常用いる他の態様の排煙口を用いてもよい。天井24の裏には天井チャンバー44が形成され、排煙用ダクト口22aが連通してある。火災発生時の居室2内の煙は排煙口26を介して天井チャンバー44に導かれ、排煙用ダクト22を通って室外に排出される。この場合、排煙用ダクト22には防火用のダンパーを設けずに、排煙用ファン20を鎮火まで継続稼動させてもよい。
【0027】
給気用ファン28は、外気を空調機30に導入して空調機30からの空調空気を居室2内に送り出すためのファンであり、空調機30ともども居室外に設けられる。給気用ファン28としては、床吹き出し空調設備用の一般的な空調ファンを用いることができる。なお、上記の実施形態においては、給気用ファン28が空調機30の構成要素ではない場合について説明しているが、このようにする代わりに、給気用ファン28が空調機30の構成要素であってもよい。
【0028】
給気用ダクト32は、空調機30からの空調空気を吹き出し口36に導くために設けられ、床34の下のOAスペース46に連通し、OAスペース46を介して床面の吹き出し口36と連通している。
【0029】
排気用ダクト40は、居室2内の空気を室外に導くために設けられ、居室2内外を連通している。排気用ダクト40内の防火用ダンパー42は、火災を検知した場合に閉塞するように不図示の制御手段によってその開閉動作が制御されてある。このようにすることで、居室2内で発生した煙が排気用ダクト40を通過することによる室外の空調機30への煙の侵入を防止することができる。この場合、給気用ファン28をそのまま稼働させて火災室2外から新鮮な外気を導入して給気に用いるようにする。
【0030】
吹き出し口36は、給気用ダクト32からの空調空気を居室2内に吹き出すための小径の給気口であり、居室2の床34の全面に多数分散して設けてある。居室2の床34は、多数の小孔が一様に設けてある板状の穴あきOA床材(不図示)と、OA床材の上面に貼付けた通気性カーペット(不図示)とにより構成することができる。この穴あきOA床材は、概ね50〜60cm角の寸法のものを用いることができる。
【0031】
給気風量調整用ダンパー38は、給気用ダクト32内に設けてあり、ダンパー38の開度を増減調整することによって、吹き出し口36から居室2内への給気風量を増減調整できるようにされてある。例えば、ダンパー38の開度は、平常時および初期火災における避難時には、図3に示すように、全開状態として給気風量を大きくすることができる。また、盛期火災における消火活動時には、図4に示すように、閉状態または全閉状態として給気風量を小さくすることができる。
【0032】
このように、給気風量調整用ダンパー38の開度を火災の各局面に応じて増減調整すれば、火災室2内における煙降下を所望のタイミングにて制御することができる。例えば、図1に示すように、初期火災の避難時に火災室2内外で過剰な圧力差が生じないように給気量を調整すれば、煙降下を抑制または防止するとともに、出口扉6に差圧による過剰な力が作用しなくなるので、扉6の開操作が楽になり、在室者の室外廊下等4への避難行動が容易となる。
【0033】
したがって、本発明によれば、給気口8が集中して配置された図6の従来のシステムのように、在室者の火災室2からの避難時において、火源10の上昇気流が押し倒されて煙が乱されることがない。また、安定な成層として形成されてある煙層12を敢えてかき乱すこともない。さらに、排煙風量に見合った給気風量を供給すれば、火災室2内外で過剰な差圧を生じることなく排煙を適切に行うことができる。このように、本発明によれば、火災室2内の煙層12を乱すことがなく、かつ、煙層降下の促進および抑制を所望のタイミングで制御することができる。
【0034】
一方、図2に示すように、避難後の盛期火災の消火活動時には、煙層12の温度や層の厚みが増すことによって排煙効果が万一低下した場合であっても、吹き出し口36から吹き出される風速を低めて火災室2内の圧力を相対的に下げ、火災室2内外で圧力差が生じるように給気量を調整すれば、室外への煙の流出を起こりにくくすることができ、室外の消火活動拠点の安全性を高め、消火活動を効果的に支援することができる。
【0035】
上記の実施形態において、給気風量調整用ダンパー38は、開度を手動で増減調整可能に構成してもよく、例えば、火災状況に応じて消防隊等によってダンパー38の開度が操作されるようにしてもよい。この場合、火災室2からの在室者の避難後の盛期火災時に、ダンパー38の開度を閉状態にすることにより、出口扉6の隙間等からの漏煙を抑制して煙を火災室2内に確実に封じ込めることができる。
【0036】
また、給気風量調整用ダンパー38は、火災室2内外の圧力差を検知するセンサ(不図示)からの信号に基づいて、開度を自動で増減調整可能に構成してもよい。例えば、この場合、圧力差を検知したセンサからの信号を受けたモータ等(不図示)の駆動でダンパー38の開度を増減制御し、火災室2内外の圧力差を自動的に増減制御してもよい。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、火災発生時に給気風量調整用ダンパーの開度を小さく調整することで給気口からの給気量、つまり給気風速を小さくすることができる。この場合、床上の室内空間には低速で一様な上昇気流が形成され、室内上方の煙層は、この一様な上昇気流に乗って天井の排煙口に入り室外に排出される。このため、煙層を乱すことがない。また、給気風量調整用ダンパーの開度を増減調整することによって煙層降下を制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る床吹き出し空調兼用排煙システムの初期火災における避難時の状況の一例を示す概略側断面図である。
【図2】本発明に係る床吹き出し空調兼用排煙システムの盛期火災における消火活動時の状況の一例を示す概略側断面図である。
【図3】開状態の給気風量調整用ダンパーの一例を示す概略側断面図である。
【図4】閉状態の給気風量調整用ダンパーの一例を示す概略側断面図である。
【図5】従来の排煙システムまたは設備の一例を示す概略側断面図であり、給気経路を有しない場合の図である。
【図6】従来の排煙システムまたは設備の一例を示す概略側断面図であり、給気経路を有する場合の図である。
【符号の説明】
【0039】
2 火災室(居室)
4 室外廊下等
6 出口扉
8 給気口
10 火源
12 煙層
20 排煙用ファン
22 排煙用ダクト
22a 排煙用ダクト口
24 天井
26 排煙口
28 給気用ファン
30 空調機
32 給気用ダクト(給気経路)
34 床
36 吹き出し口(給気口)
38 給気風量調整用ダンパー
40 排気用ダクト
42 防火用ダンパー
44 天井チャンバー
46 OAスペース
100 床吹き出し空調兼用排煙システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
居室の床全面に設けた多数の給気口から空調空気を上方に吹き出して前記居室の空調を行う床吹き出し空調手段と、前記居室内で火災が発生した際の煙を天井に設けた排煙口から前記居室外に排出する排煙手段とを備える床吹き出し空調兼用排煙システムであって、
前記給気口への給気経路内に、火災が発生した際における前記給気口から前記居室内への給気量を調整可能なダンパーを設けたことを特徴とする床吹き出し空調兼用排煙システム。
【請求項2】
前記ダンパーの開度は、前記居室内外の圧力が略等しくなるように調整制御されることを特徴とする請求項1に記載の床吹き出し空調兼用排煙システム。
【請求項3】
前記ダンパーの開度は、前記排煙手段による排煙量に基づいて調整制御されることを特徴とする請求項1または2に記載の床吹き出し空調兼用排煙システム。
【請求項4】
前記ダンパーの開度は、平常時および初期火災における避難時には開状態に、盛期火災における消火活動時には閉状態に調整制御されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の床吹き出し空調兼用排煙システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−88567(P2010−88567A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259664(P2008−259664)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】