説明

床用被覆組成物および床用被覆組成物用添加剤

【課題】 床用被覆組成物および床用被覆組成物用添加剤を提供する。
【解決手段】 1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを床用被覆組成物に添加することにより、従来のレベリング剤であるトリブトキシエチルホスフェートよりも、床用被覆組成物のレベリング性、モップさばき性等の諸特性を向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床用被覆組成物および床用被覆組成物用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の床用被覆組成物には、トリブトキシエチルホスフェートが可塑剤およびレベリング剤として使用されている。しかし、トリブトキシエチルホスフェートはリンを含むため、これを床用被覆組成物に配合すると廃水中にリンが含まれることとなり環境上好ましくない。また、有機リン含有化合物、特に農薬として使用されている材料には神経毒性がある物質もあり、有機リン含有化合物の使用が忌避されるという社会的風潮がある。このため、トリブトキシエチルホスフェートに代わる、リンを含有していない可塑剤およびレベリング剤が求められている。
【0003】
トリブトキシエチルホスフェートに代わる床用被覆組成物用レベリング剤として、特開昭59−206476号には、線状脂肪族アルコールのポリアルコキシレートが記載されている。特開平6−80933号には、アジピン酸エステル類をレベリング剤として使用することが記載されている。特開平11−315255号には、クマリンまたはその誘導体をレベリング剤として使用することが記載されている。また、特開2004−107586号にも特定の構造を有する可塑剤と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルタイプの非イオン性界面活性剤との組み合わせにより、レベリング性を向上させることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−206476号
【特許文献2】特開平6−80933号
【特許文献3】特開平11−315255号
【特許文献4】特開2004−107586号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らが上述のような公知のレベリング剤について検討したところ、その効力はトリブトキシエチルホスフェートの効力と比較して満足いくものではなかった。よって、本発明は、トリブトキシエチルホスフェートを含む床用被覆組成物と比べて同等以上のレベリング性およびその他の利点を有する床用被覆組成物を提供することを目的とする。また、トリブトキシエチルホスフェートと比べて同等以上のレベリング性およびその他の利点を床用被覆組成物に付与できる、床用被覆組成物用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は第1の態様として、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを含む床用被覆組成物を提供する。
また、本発明は第2の態様として、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを含む床用被覆組成物用添加剤を提供する。
さらに、本発明は第3の態様として、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを、床用被覆組成物に加えることを含む、床用被覆組成物のレベリング性改良方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の床用被覆組成物は、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを含むことにより、優れたレベリング性、モップさばき性等の諸特性を有するという有利な効果を有する。特に、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルは、トリブトキシエチルホスフェートよりも少ない量で、床用被覆組成物のレベリング性、モップさばき性等の諸特性を向上させ得るという有利な効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の床用被覆組成物は、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを含む。本発明の床用被覆組成物に含まれる、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、および2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルの合計量は、床用被覆組成物のポリマー固形分100重量部に基づいて、好ましくは、0.005〜50重量部、より好ましくは、0.01〜20重量部である。
【0009】
本発明においては、二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルは、当該モノエステルを構成する二価アルコール部分、(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸部分のいずれか、または両方が異なる複数のエステルの混合物であっても良い。同様に、三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルは、当該モノエステルまたはジエステルを構成する三価アルコール部分、(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸部分のいずれか、または両方が異なる複数のエステル混合物であっても良い。また、本発明においては、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、および2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルの両方が同時に使用されても良い。
【0010】
本発明において、三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルが使用される場合には、モノエステルおよびジエステルのいずれか一方のみが使用されても良いし、両方が使用されても良い。また、モノエステルおよびジエステルの両方が使用される場合には、モノエステルおよびジエステルの比率は特に限定されるものではない。
【0011】
本発明において、二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、および三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルは、いずれも任意の公知の方法により製造したものを使用することができ、また市販のものを使用することも可能である。本発明の目的に反しない限りは、本発明の床用被覆組成物および床用被覆組成物用添加剤は、二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、および三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルの製造の際に生じる副生成物を含んでいても良い。例えば、二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルの製造に際して、ジエステル体が形成される場合があるが、かかるジエステル体が本発明の床用被覆組成物に含まれていても良い。本願発明において、二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルとジエステルの混合物が使用される場合には、好ましくは当該混合物中のモノエステル体の量は60モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上であり、さらにより好ましくは90モル%以上である。さらに、モノエステル体が100モル%すなわちジエステル体を含まないのが最も好ましい。また、三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルの製造に際して、トリエステル体が形成される場合があるが、かかるトリエステル体が本発明の床用被覆組成物に含まれていても良い。本願発明において、三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルおよび/またはジエステルと、トリエステルとの混合物が使用される場合には、好ましくは当該混合物中のモノエステル体およびジエステル体の合計量は60モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上であり、さらにより好ましくは90モル%以上である。さらに、モノエステル体およびジエステル体の合計が100モル%すなわちトリエステル体を含まないのが最も好ましい。本発明において使用されるエステルの製造に際し同時に副生成物が生成する場合には、必要に応じて、当該副生成物を除去または低減した後に、目的のエステルを本発明に供することも可能である。
【0012】
本発明において、二価アルコールおよび三価アルコールは、特に限定されるものではなく、任意の公知の二価アルコールおよび三価アルコールであって良い。二価アルコールは、好ましくは、分子量が5000以下、より好ましくは分子量が1000以下である。具体的には、好ましい二価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールが挙げられる。三価アルコールは、好ましくは、分子量が5000以下、より好ましくは分子量が1000以下である。具体的には、好ましい三価アルコールとしては、グリセロール、トリメチロールプロパンが挙げられる。
本発明において、(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸は、炭素数が7〜10の脂肪族モノカルボン酸であれば特に限定されるものではなく、直鎖、分岐鎖のいずれの構造を有していても良い。好ましくは、脂肪族モノカルボン酸は、(C8−C9)脂肪族モノカルボン酸であり、より好ましくは、分岐鎖(C8−C9)脂肪族モノカルボン酸であり、さらにより好ましくは、イソノナン酸(3,5,5−トリメチルヘキサン酸)またはオクチル酸(2−エチルヘキサン酸)が挙げられる。
【0013】
本発明における「床用被覆組成物」は、フロアポリッシュ組成物およびフロアシーラー組成物を包含する組成物であって、当該技術分野においてはフロアケア組成物とも称される。ここで、フロアポリッシュ組成物とは、当該組成物から形成される塗膜が剥離剤などで床から剥離できる組成物を意味する。また、フロアシーラー組成物とは、基本的に、当該組成物から形成される塗膜の剥離が難しい組成物をいうが、フロアポリッシュ組成物のように床材の保護にも用いられ得る。
【0014】
本発明の床用被覆組成物は、好ましくは酸官能性残基を有する1以上の水不溶性エマルションポリマーの水性懸濁物または分散物を含み、任意に多価金属イオンまたは錯体架橋剤を含む。たとえば、そのような水不溶性エマルションポリマーは、米国特許第A−3328325、米国特許第A−3467610、米国特許第A−3554790、米国特許第A−3573329、米国特許第A−3711436、米国特許第A−3808036、米国特許第A−4150005、米国特許第A−4517330、米国特許第A−5149745、米国特許第A−5319018、米国特許第A−5574090、および米国特許第A−5676741に開示されている。
【0015】
好ましくは、水不溶性エマルションコポリマーは少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも40℃のTgを有する(Tgはフォックス式(Fox Equation)を用いて算出された。1/Tg=WA/TgA+WB/TgB 、式中、Tgはガラス転移温度(゜K)であり、TgAおよびTgBは、AおよびBのホモポリマーのガラス転移温度であり、さらにWAおよびWBはコポリマーのAおよびB成分それぞれの重量分率を示す(T.G.Fox,Bull.Am.Phys.Soc.1,123,(1956)))。
【0016】
水不溶性ポリマーは好ましくは、少なくとも1つのビニル芳香族モノマーを0重量%〜70重量%まで、好ましくは10重量%〜50重量%;少なくとも1つの酸モノマーを3重量%〜50重量%、好ましくは5重量%〜20重量%;さらに、(C1−C20)アルキル(メタ)アクリレート、好ましくは(C1−C12)アルキル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1つのモノマーを97重量%以下、好ましくは30重量%〜97重量%、さらにより好ましくは30重量%〜70重量%、含むモノマー混合物から生成される。
【0017】
好ましくは、ビニル芳香族モノマーはアルファ、ベータエチレン性不飽和芳香族モノマーであり、好ましくは、スチレン、ビニルトルエン、2−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−クロロスチレン、o−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、アリルフェニルエーテル、アリルトルイルエーテルおよびアルファ−メチルスチレンからなる群から選択される。
【0018】
好ましくは、酸モノマーはアルファ、ベータモノエチレン性不飽和酸であり、好ましくは、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、クロトン酸、シトラコン酸、アクリルオキシプロピオン酸、アクリル酸、メタアクリル酸およびイタコン酸からなる群から選択される。メタアクリル酸は最も好ましい。水不溶性フィルム形成性ポリマーを形成するために共重合されることのできる他のモノエチレン性不飽和酸モノマーは、不飽和脂肪族ジカルボン酸の部分的エステルおよびそのような酸のアルキルハーフエステルである。例えば、イタコン酸メチル、イタコン酸ブチル、フマル酸エチル、フマル酸ブチルおよびマレイン酸メチルのような、1〜6の炭素原子を含むアルキル基を有するイタコン酸、フマル酸およびマレイン酸のアルキルハーフエステルが挙げられる。
【0019】
モノマー混合物は、メチルメタアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタアクリレート、n−ブチルアクリレート、ブチルメタアクリレート、iso−ブチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、シクロプロピルメタアクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタアクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタアクリレート、アセトアセトキシブチルアクリレート、アセトアセトキシブチルメタアクリレート、2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピルアクリレート、2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピルメタアクリレート、およびアリルアセトアセテートから選択されるモノマーを少なくとも1つ、97重量%以下で含む。
【0020】
モノマー混合物は、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、シス−およびトランス−クロトノニトリル、アルファ−シアノスチレン、アルファ−クロロアクリロニトリル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソブチル−およびブチル−ビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ビニルアセテート、イソボルニルメタアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、ブタンジオールアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;および2−メルカプトプロピルメタアクリレート、2−スルホエチルメタアクリレート、メチルビニルチオールエーテルおよびプロピルビニルチオエーテルのようなビニルチオール、のような極性または分極性のイオン非形成性の親水性モノマーを少なくとも1つ、0重量%〜40重量%で含むこともできる。
【0021】
モノマー混合物は、エステルの酸部分が芳香族および(C1からC18)脂肪族酸から選択されるモノマー性ビニルエステルを少なくとも1つ、0重量%〜10重量%で含むこともできる。そのような酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、n−吉草酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ガンマ−クロロ酪酸、4−クロロ安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、o−トルイル酸、2,4,5−トリメトキシ安息香酸、シクロブタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1−(p−メトキシフェニル)シクロヘキサンカルボン酸、1−(p−トルイル)−1−シクロペンタンカルボン酸、ヘキサン酸、ミリスチン酸およびp−トルイル酸を含む。モノマーのヒドロキシビニル部分は、例えば、ヒドロキシエチレン、3−ヒドロキシペンタ−1−エン、3,4−ジヒドロキシブタ−1−エン、および3−ヒドロキシ−ペンタ−1−エンのようなヒドロキシビニル化合物から選択されることができ、そのような誘導体は、実際には酢酸およびヒドロキシエチレンのような前駆体化合物から調製することができないが、化合物が酢酸およびヒドロキシエチレンに由来すると考えられる酢酸ビニルモノマーの場合のように、純粋に形式的であると理解される。
【0022】
水分散性水不溶性ポリマーの調製方法は公知である。乳化重合の実際は、D.C.Blackley,Emulsion Polymerization(Wiley,1975)に詳細に論じられている。ラテックスポリマーは内部可塑化(internally plasticized)ポリマーエマルジョンを使用しても形成される。内部可塑化ポリマーエマルジョンの調製は米国特許第A−4150005号に詳細に記載されており、さらに非内部可塑化(non−internally plasticized)床用被覆エマルジョンポリマーの調製は米国特許第A−3573239号、米国特許第A−3328325号、米国特許第A−3554790号および米国特許第A−3467610号に記載されている。
【0023】
前述の公知の乳化重合技術は、ポリマーラテックスを調製するために使用することができる。すなわち、モノマーは陰イオン性または非イオン性分散剤で乳化され、全モノマー重量に対して約0.5%〜10%の分散剤が使用されることが好ましい。酸モノマーは水溶性で、使用される他のモノマーを乳化するのを助ける分散剤として役立つ。アンモニウムまたはカリウムパーサルフェートのようなフリーラジカル型の重合開始剤は単独でまたは、カリウムメタビスルフェートまたはナトリウムチオスルフェートのような促進剤と共に使用することができる。開始剤および促進剤は、一般に触媒と呼ばれ、共重合されるモノマー重量に基づいてそれぞれ0.1%〜2%の比率で使用することができる。重合温度は、例えば室温から90℃、またはそれ以上であり、公知である。
【0024】
エマルジョンの重合方法に適する乳化剤の例としては、ナトリウムビニルスルホネートおよびナトリウムメタアリルスルホネートのような、アルキル、アリール、アルカリールおよびアルアルキルスルホネート、サルフェートおよびポリエーテルサルフェートのアルカリ金属およびアンモニウム塩;ホスホエチルメタアクリレートのような、対応するホスフェートおよびホスホネート;およびアルコキシル化された脂肪酸、エステル、アルコール、アミン、アミドおよびアルキルフェノールが挙げられる。
【0025】
メルカプタン、ポリメルカプタンおよびポリハロゲン化合物を含む連鎖移動剤は、ポリマー分子量を制御するために、重合される混合物中に含まれることが望まれる場合がある。
【0026】
床用被覆組成物は好ましくは、前述の任意の態様で定義される水不溶性ポリマー、ポリマー中の酸残基の0%〜100%当量の少なくとも1つの多価金属イオンまたは錯体架橋剤、および任意の少なくとも1つの、米国特許第A−4517330号に示されるような、塩基性水酸基またはアルカリ金属の塩を含む。多価金属は好ましくは遷移金属であることができる。遷移金属イオンまたは錯体架橋剤の量がポリマー中の酸残基の25〜80当量%、および/または、アルカリ金属に対する遷移金属のモル比が1.0:0.25〜1.0:2.0である床用被覆組成物が好ましい。遷移金属量がポリマー中の酸残基の30〜70当量%、および/またはアルカリ金属に対する遷移金属のモル比が1.0:0.5〜1.0:1.5である組成物がより好ましい。
【0027】
本発明に役立つ多価およびアルカリ金属イオンおよび錯体架橋剤は公知である。これらは、例えば、米国特許第A−3328325号、米国特許第A−3467610号、米国特許第A−3554790号、米国特許第A−3573329号、米国特許第A−3711436号、米国特許第A−3808036号、米国特許第A−4150005号、米国特許第A−4517330号、米国特許第A−5149745号および米国特許第A−5319018号に開示されている。好ましい多価金属錯体としては、ジアンモニウム亜鉛(II)およびテトラアンモニウム亜鉛(II)イオン、カドミウムグリシネート、ニッケルグリシネート、亜鉛グリシネート、ジルコニウムグリシネート、亜鉛アラネート、銅ベータ−アラネート、亜鉛ベータ−アラネート、亜鉛バラネート、銅ビス−ジメチルアミノアセテートを含む。
【0028】
多価およびアルカリ金属イオンおよび錯体架橋化合物は、特にpHが6.5から10.5の範囲で、床用被覆組成物の水性溶媒に容易に溶ける。しかしながら、これらの化合物を含む被覆組成物は乾燥した時に、本質的に水に不溶であるが除去可能な被覆物を形成する。多価金属錯体も溶液として水不溶性フィルム形成性ポリマーラテックスに添加することができる。これは、希釈アンモニアのようなアルカリ溶液中に金属錯体を溶解することによって達成することができる。アンモニアは多価金属化合物と錯体を形成するので、カドミウムグリシネートのような化合物は、アンモニア水溶液に溶解されたとき、カドミウムアンモニアグリシネートと名付けられる。記述される他の多価金属錯体も同様に名付けられる。
【0029】
適合するためには、多価金属錯体はアルカリ溶液中で安定でなければならないが、床用被覆組成物のフィルム形成の間の金属イオンの解離が遅れるため、過剰に安定な錯体は望ましくない。床用被覆組成物は、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃未満の最低造膜温度(MFT)を有すべきである。多価金属イオンおよび錯体架橋剤は、配合の任意の段階で床用被覆組成物に添加することができる。1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルは、配合の任意の段階で床用被覆組成物に添加することができる。同様に、アルカリ金属の塩基性塩は、配合の任意の段階で多価金属イオンおよび錯体架橋剤に添加することができる。
【0030】
好ましくは、本発明の床用被覆組成物は次の主要成分を含む。
a)固形分として10−100重量部の水不溶性ポリマー、当該水不溶性ポリマーは多価金属錯体および/またはアルカリ金属塩基性塩とあらかじめ架橋されているかまたは後に架橋されていてもよい;
b)固形分として0−90重量部のワックスエマルジョン;
c)固形分として0−90重量部のアルカリ可溶性樹脂(ASR);
d)ポリマー固形分100重量部に対して、0.01−20重量部の、施用温度において床用被覆フィルムを形成するのに充分な、湿潤剤、乳化剤および分散剤、消泡剤、螢光増白剤、造膜用溶剤、並びにその他の添加剤;
f)ポリマー固形分100重量部に対して0.005〜50部、好ましくは0.01〜20部の、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステル;
e)全ポリッシュ固形分を0.5%〜45%、好ましくは5%〜30%にするのに充分な水。なお、上記比率に関する記載において、a)、b)およびc)の合計は100重量部である。また、上記比率に関する記載において、成分f)は成分d)に含まれない。また、上記比率に関する記載に限らず、本願明細書を通じて、ある組成に関するある成分について「0」を含む数値範囲が規定されている場合には、当該成分は任意成分であり、当該成分を含んでいても良いし、含んでいなくても良いことを意味する。
【0031】
c)が存在する場合には、c)の量はa)の100重量%以下、好ましくは、a)の3重量%〜25重量%である。満足な床用被覆組成物はASRを含まずに調製される。この様に、ASRは耐久性のある床用被覆組成物の必須成分ではない。床用被覆ビヒクル組成物および他の配合物材料d)およびf)の固有の性質に依存して、全配合物コストを適度に減少させ、レベリングおよび光沢を改良し、さらに、床用被覆のアルカリストリッパに対する感受性を増加させるために、床用被覆の配合者により望まれる最終的な特性のバランスおよびASRの品質に依存して、ASRは任意に添加される。
【0032】
公知の湿潤剤、乳化剤および分散剤、消泡剤、螢光増白剤、造膜用溶剤は、配合者により望まれる性能のバランスに応じ、公知の量で使用することができる。香料または臭気マスキング剤、染料または着色剤、殺菌剤および静菌剤のような他の配合材料も任意に床用被覆組成物に含まれる。さらに、床用被覆組成物は、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステル以外の、他のレベリング剤または可塑剤を他の成分として含んでいてもよい。
【0033】
本発明の他の態様は、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを含む床用被覆組成物用添加剤である。本発明の床用被覆組成物用添加剤は床用被覆組成物に任意の公知の時点、方法で添加することができる。また、床用被覆組成物用添加剤の床用被覆組成物への添加量は、エステルの量が上記範囲となる量であればよい。本発明の床用被覆組成物用添加剤は、当該エステルを含んでいれば良いが、任意に、媒体など他の物質を含むことができる。当該媒体としては、特に限定されるものではないが、当該エステルを安定に保持できるものが好ましい。
【0034】
1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルは、床用被覆組成物において、レベリング剤または可塑剤として機能しうる。よって本発明は、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを含むレベリング剤または可塑剤も、その1態様として包含する。
【0035】
本発明の他の態様は、1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを、床用被覆組成物に加えることを含む、床用被覆組成物のレベリング性改良方法である。当該エステルは床用被覆組成物に任意の公知の時点、方法で添加することができる。また、当該エステルの床用被覆組成物への添加量は、床用被覆組成物のレベリングを改良するのに充分な量であれば良く、すなわち、床用被覆組成物のポリマー固形分100重量部に基づいて、好ましくは、0.005〜50重量部、より好ましくは、0.01〜20重量部である。
以下、実施例で本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
試験1.モノエステル体による床用被覆組成物の諸特性の向上
レベリング剤としてジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルを含む床用被覆組成物(実施例1〜5)、レベリング剤としてジエチレングリコールのオクチル酸モノエステルを含む床用被覆組成物(実施例6)、およびレベリング剤を含まない床用被覆組成物(比較例1)を調製し、その諸特性を比較した。実施例1〜6および比較例1の床用被覆組成物に含まれる成分および量は表1に示される。表1中のレベリング剤(比率)以外の欄の数字は、使用される成分の重量(g)を示す。調製方法は、200mLガラス瓶にスターラーを入れ、撹拌しつつ、表1に示される成分を表1に示される上から順に加えた。全ての成分の添加が終了した後1時間撹拌を続け、床用被覆組成物を完成した。
【0037】
実施例1〜5において実際に使用されたレベリング剤は、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルとジエチレングリコールのイソノナン酸ジエステルの混合物(表1中では、DEG−C9と表示する)であり、表1中のレベリング剤(比率)の欄には、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルとジエチレングリコールのイソノナン酸ジエステルとのモル比が示される。すなわち、例えば表1中のレベリング剤(比率)の実施例1において「90/10」とあるのは「ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステル/ジエチレングリコールのイソノナン酸ジエステル(モル比)」が90/10であることを示す。
また、実施例6において実際に使用されたレベリング剤は、ジエチレングリコールのオクチル酸モノエステルとジエチレングリコールのオクチル酸ジエステルの混合物(表1中では、DEG−C8と表示する)であり、モノエステル体/ジエステル体の比率が75/25のものである。
【0038】
【表1】

【0039】
表1中の成分は以下の通りである。
プライマル1531B:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
ローダインS−100:チバ・スペシャリティケミカルズ社製 フッ素系界面活性剤、
デュラプラス2:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
E−4000:東邦化学工業(株)製 ワックスエマルション、
FSアンチフォーム013:ダウ・コーニング社製 消泡剤、
DEG−C9:ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルとジエチレングリコールのイソノナン酸ジエステルの混合物、
DEG−C8:ジエチレングリコールのオクチル酸モノエステルとジエチレングリコールのオクチル酸ジエステルの混合物。
【0040】
調製された床用被覆組成物は、30cm×30cmの塩化ビニル製床タイルに、塗布手段として産業用紙ワイパーである、キムワイプ; S−200(120X150mm)を使って、ウェット膜厚が10mL/m2となるように塗布された。塗布の際にモップさばき性を評価した。
また、床用被覆組成物の塗布面を室温で一週間乾燥させ、乾燥後の塗布面のレベリング性、グロス(光沢)、耐ヒールマーク性(耐ブラックヒールマーク性、耐スカッフ性)、耐水性、耐洗剤性、剥離性、密着性を各1回評価した。各特性の評価方法は以下の通りである。
【0041】
モップさばき性
モップさばき性とは、床用被覆組成物を床タイルに紙ワイパーを使って塗布する際の塗布の操作性を、操作者の手に感じられる抵抗感で評価したものである。
評価方法は以下の通りである。
優秀 ポリッシュ塗布時に全く抵抗を感じない。
良好 ポリッシュ塗布時にほどんど抵抗を感じない。
普通 ポリッシュ塗布時にわずかに抵抗を感じる。
不良 ポリッシュ塗布時に抵抗を感じる。
【0042】
レベリング性
レベリング性は、基本的にはJIS K3920およびASTM D3052に準じて評価を行った。すなわち、ポリッシュ塗布の最後に、レベリング性の良し悪しの目安として、クロス(×)マークをつけた。塗膜が乾燥した後、クロスマークを目視評価し、次のように判断した。
優秀 ×マークが確認されない
良好 わずかに×マークが確認される。塗膜の隆起がない
普通 わずかに×マークと塗膜の隆起が確認される
不良 明らかに×マークが確認され、塗膜の隆起も認められる
【0043】
光沢度(グロス)
光沢度は、基本的にはJIS K3920 およびASTM D1455に準じて評価を行った。すなわち、塗膜が乾燥した後、光沢度計(BYK Gardner(micro TRI gloss)を用いて測定(20°,60°)を行い、次のように判断した。
優秀 光沢度90°以上である。
良好 光沢度90°未満、80°以上である。
普通 光沢度80°未満、70°以上である。
不良 光沢度70°未満である。
【0044】
耐ヒールマーク性(耐ブラックヒールマーク性、耐スカッフ性)
耐ヒールマーク性は、基本的にはJIS K3920およびASTM D3052に準じて評価を行った。すなわち、白いホモジニアスのタイルを用い、塗膜が乾燥した後、ヒールマーク試験機に塗布されたタイルを据付け、所定の時間、試験を行った。その後、目視によりブラックヒールマーク(BHM)およびスカッフ(Scuff、えぐれ傷)マークの存在割合を目視により観察した。
優秀 ブラックヒールマークおよびスカッフマークが全く観察されない。
良好 ブラックヒールマークおよびスカッフマークがわずかに観察される。
普通 ブラックヒールマークおよびスカッフマークが多少観察される。
不良 ブラックヒールマークおよびスカッフマークが多く観察される。
【0045】
耐水性
耐水性は、基本的にはJIS K3920およびASTM D1793に準じて評価を行った。すなわち、塗膜を乾燥した後、水を1mL滴下し、1時間静置した。その後、水を吸い取り、水分が乾燥した後の塗膜の変化を下記の通り観察した。
優秀 塗膜に変化が観察されない。
良好 塗膜にほとんど変化が観察されない。
普通 塗膜にわずかに変化が観察される。
不良 塗膜が抜け落ち、白化が確認される。
【0046】
耐洗剤性
耐洗剤性は、基本的にはJIS K3920およびASTM D3207に準じて評価を行った。すなわち、ウオッシャビリティマシンに標準洗浄液を所定量注ぎ、所定の時間、塗膜を洗浄した後、塗膜の落ちがないかどうか目視にて観察した。
優秀 塗膜に変化が観察されない。
良好 塗膜にほとんど変化が観察されない。
普通 塗膜がわずかに抜け落ち、下地の基材がわずかに観察される。
不良 塗膜が抜け落ち、下地の基材が確認される。
【0047】
剥離性
剥離性は、基本的にはJIS K3920およびASTM D1792に準じて評価を行った。すなわち、ウオッシャビリティマシンに標準剥離剤を所定量注ぎ、所定時間塗膜を洗浄した後、塗膜が剥離されているかどうか目視にて観察する。
優秀 塗膜が完全に除去される。
良好 塗膜がわずかに残る。
普通 塗膜の一部が残る。
不良 塗膜の剥離が観察されない。
【0048】
密着性(テープ接着性)
密着性は、基本的にはJIS A5536に準じて評価を行った。すなわち、所定の粘着テープを塗膜に貼り付け、直角にはがしたときの塗膜の残存率を測定する。
優秀 残存率90%以上。
良好 残存率80%以上、90%未満。
普通 残存率60%以上、80%未満。
不良 残存率60%未満。
【0049】
実施例1〜6および比較例1におけるモップさばき性、レベリング性、光沢度および耐ヒールマーク性を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルまたはジエチレングリコールのオクチル酸モノエステルを含む、本願発明の床用被覆組成物である、実施例1〜6においては、当該モノエステル体を含まない床用被覆組成物である比較例1と比較して、モップさばき性、レベリング性、光沢度および耐ヒールマーク性のいずれの特性も向上されていた。さらに、表2には示されていないが、耐水性、耐洗剤性、剥離性および密着性については、実施例1〜6と比較例1において違いは認められなかった。以上のことから、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルまたはジエチレングリコールのオクチル酸モノエステルは、床用被覆組成物のモップさばき性、レベリング性、光沢度および耐ヒールマーク性を向上させ得ることが明らかとなった。
【0052】
また、モップさばき性およびレベリング性は、レベリング剤として使用されたエステル混合物中のモノエステル体、すなわち、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルの割合が増加するに従って、その特性の向上が認められた。このことから、床用被覆組成物の特性の向上には、エステル混合物中の二価アルコールのモノエステル体が有用であることが明らかとなった。
さらに、実施例2および3から明らかなように、床用被覆組成物がフッ素系界面活性剤を含まなくても、上記本願発明の有利な効果は認められた。フッ素系界面活性剤は一般的に基材に対する濡れを発現させ、床用被覆組成物でも有用な成分になっている。しかしながら本願のレベリング剤を用いた場合、フッ素系界面活性剤を取り除いても濡れ性を保持できることが分かった。
【0053】
試験2.トリブトキシエチルホスフェートとの比較
レベリング剤として、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルを含む床用被覆組成物(実施例1および2)を、レベリング剤としてトリブトキシエチルホスフェートを含む床用被覆組成物(比較例2)とその諸特性について比較検討を行った。床用被覆組成物の調製、諸特性の評価は試験1の記載に従って行った。なお、実施例1および2の結果は、試験1に記載されたものである。床用被覆組成物に含まれる成分および量は表3に示され、諸特性は表4に示される。
【0054】
【表3】

【0055】
表3中の成分は以下の通りである。
プライマル1531B:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
ローダインS−100:チバ・スペシャリティケミカルズ社製 フッ素系界面活性剤、
デュラプラス2:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
E−4000:東邦化学工業(株)製 ワックスエマルション、
FSアンチフォーム013:ダウ・コーニング社製 消泡剤、
DEG−C9:ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルとジエチレングリコールのイソノナン酸ジエステルの混合物。
【0056】
【表4】

【0057】
実施例1および2においては、比較例2において使用されたトリブトキシエチルホスフェートの量よりも、エステル全体としては同量であるが、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステル体としてはより少ない量が使用された。しかし、実施例1および2のいずれにおいても、モップさばき性は比較例2よりも優れていた。また、レベリング性、光沢度および耐ヒールマーク性のいずれにおいても、実施例1および2は比較例2と同等の効力を有していた。また、耐水性、耐洗剤性、剥離性および密着性については、実施例1および2と比較例2との間で違いは認められなかった。このことから、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルは、従来使用されてきたレベリング剤であるトリブトキシエチルホスフェートより優れたレベリング剤として、床用被覆組成物において機能し得ることが明らかとなった。
【0058】
3.他の公知のレベリング剤との比較
テキサノールを増量した比較例3、レベリング剤として線状アルコールのポリエトキシレートである、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを含む比較例4、レベリング剤としてコアゾール(ダウ・ケミカル社製;グルタル酸、アジピン酸コハク酸のジイソブチルエステル混合物)を含む比較例5、レベリング剤として芳香族系エステルである安息香酸イソデシルを含む比較例6の各床用被覆組成物の諸特性を、レベリング剤として、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルを含む実施例1の床用被覆組成物の諸特性と比較した。なお、実施例1の結果は、試験1に記載されたものである。床用被覆組成物に含まれる成分および量は表5に示され、諸特性は表6に示される。
【0059】
【表5】

【0060】
表5中の成分は以下の通りである。
プライマル1531B:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
ローダインS−100:チバ・スペシャリティケミカルズ社製 フッ素系界面活性剤、
デュラプラス2:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
E−4000:東邦化学工業(株)製 ワックスエマルション、
FSアンチフォーム013:ダウ・コーニング社製 消泡剤、
DEG−C9:ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルとジエチレングリコールのイソノナン酸ジエステルの混合物。
【0061】
【表6】

【0062】
実施例1は、比較例3〜6のいずれに対しても、優れたレベリング性および光沢度(グロス)を有していた。また、耐水性、耐洗剤性、剥離性および密着性については、実施例1と比較例3〜6との間で違いは認められなかった。このことから、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルは、従来使用されてきた公知の各種レベリング剤よりも優れたレベリング剤として、床用被覆組成物において機能し得ることが明らかとなった。
【0063】
試験4.各種エステル体の検討
実施例7においては、レベリング剤として、エチレングリコールのイソノナン酸モノエステル82モル%/エチレングリコールのイソノナン酸ジエステル18モル%の比率のエステル混合物(表7中では、EG−C9と表示する)を1.17g使用した以外は、実施例1と同じ組成、方法で床用被覆組成物を調製し、そのレベリング性を評価した。
実施例8においては、レベリング剤として、プロピレングリコールのイソノナン酸モノエステル75モル%/プロピレングリコールのイソノナン酸ジエステル25モル%の比率のエステル混合物(表7中では、PG−C9と表示する)を1.17g使用した以外は、実施例1と同じ組成、方法で床用被覆組成物を調製し、そのレベリング性を評価した。
実施例9においては、レベリング剤として、ジエチレングリコールのオクチル酸モノエステル92モル%/ジエチレングリコールのオクチル酸ジエステル8モル%の比率のエステル混合物(表7中では、DEG−C8と表示する)を1.17g使用した以外は、実施例1と同じ組成、方法で床用被覆組成物を調製し、そのレベリング性を評価した。
実施例10においては、レベリング剤として、プロピレングリコールのオクチル酸モノエステル83モル%/プロピレングリコールのオクチル酸ジエステル17モル%の比率のエステル混合物(表7中では、PG−C8と表示する)を1.17g使用した以外は、実施例1と同じ組成、方法で床用被覆組成物を調製し、そのレベリング性を評価した。
実施例11においては、レベリング剤として、エチレングリコールのオクチル酸モノエステル71モル%/エチレングリコールのオクチル酸ジエステル29モル%の比率のエステル混合物(表7中では、EG−C8と表示する)を1.17g使用した以外は、実施例1と同じ組成、方法で床用被覆組成物を調製し、そのレベリング性を評価した。
実施例7〜11の各組成とレベリング性を表7に示す。
【0064】
【表7】

【0065】
表7中の成分は以下の通りである。
プライマル1531B:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
ローダインS−100:チバ・スペシャリティケミカルズ社製 フッ素系界面活性剤、
デュラプラス2:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
E−4000:東邦化学工業(株)製 ワックスエマルション、
FSアンチフォーム013:ダウ・コーニング社製 消泡剤、
EG−C9:エチレングリコールのイソノナン酸モノエステルとエチレングリコールのイソノナン酸ジエステルの混合物、
PG−C9:プロピレングリコールのイソノナン酸モノエステルとプロピレングリコールのイソノナン酸ジエステルの混合物、
DEG−C8:ジエチレングリコールのオクチル酸モノエステルとジエチレングリコールのオクチル酸ジエステルの混合物、
PG−C8:プロピレングリコールのオクチル酸モノエステルとプロピレングリコールのオクチル酸ジエステルの混合物、
EG−C8:エチレングリコールのオクチル酸モノエステルとエチレングリコールのオクチル酸ジエステルの混合物。
【0066】
実施例7〜10においてはレベリング性は「良好」、実施例11においてはレベリング性は「普通〜良好」であった。これに対して、レベリング剤を含まない床用被覆組成物である比較例1においては、試験1において示された通り、レベリング性は「不良〜普通」であった。このことから、実施例7〜11で使用されたエステルについても、レベリング性の向上が認められた。また、従来のレベリング剤であるトリブトキシエチルホスフェートを使用した比較例2においては、試験2に記載されるようにレベリング性は「良好」であったが、実施例7〜10では、モノエステル体の量で考えると、より少ない量で同等の効果を示すという有利な効果を奏することがことが明らかとなった。なお、実施例11のレベリング性は比較例2よりも若干劣っていたが、これは実施例11におけるレベリング性向上の活性成分と考えられるモノエステル体の量が少ないためと考えられた。
【0067】
試験5.各種エステル体の検討−2
以下の実施例12〜16、並びに比較例7および8においては、アクリルポリマーエマルジョンとして、デュラプラス2の代わりに、JP−308(ローム・アンド・ハース社製)を使用した。調製方法は、実施例1と同様に200mLガラス瓶にスターラーを入れ、撹拌しつつ、表8に示される成分を表8に示される順に加えた。全ての成分の添加が終了した後1時間撹拌を続け、床用被覆組成物を調製し、そのレベリング性を評価した。実施例12〜16、並びに比較例7および8の組成およびレベリング性を表8に示す。
【0068】
実施例12は、レベリング剤として、エチレングリコールのイソノナン酸モノエステル82モル%/エチレングリコールのイソノナン酸ジエステル18モル%の比率のエステル混合物(表8中では、EG−C9と表示する)を1.80g使用した。
実施例13は、レベリング剤として、プロピレングリコールのイソノナン酸モノエステル75モル%/プロピレングリコールのイソノナン酸ジエステル25モル%の比率のエステル混合物(表8中では、PG−C9と表示する)を1.80g使用した。
実施例14は、レベリング剤として、グリセロールのイソノナン酸モノエステル72モル%/グリセロールのイソノナン酸ジエステル22モル%/グリセロールのイソノナン酸トリエステル4モル%の比率のエステル混合物(表8中では、GL−C9と表示する)を1.80g使用した。
実施例15は、レベリング剤として、ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステル55モル%/ジエチレングリコールのイソノナン酸ジエステル17モル%/トリメチロールプロパンのイソノナン酸モノエステル13モル%/トリメチロールプロパンのイソノナン酸ジエステル11モル%/トリメチロールプロパンのイソノナン酸トリエステル2モル%の比率のエステル混合物(表8中では、DEG−C9/TMP−C9と表示する)を1.80g使用した。
実施例16は、レベリング剤として、エチレングリコールのオクチル酸モノエステル71モル%/エチレングリコールのオクチル酸ジエステル29モル%の比率のエステル混合物(表8中では、EG−C8と表示する)を1.80g使用した。
比較例7は、レベリング剤を使用しなかった。
比較例8は、レベリング剤としてトリブトキシエチルホスフェートを1.80g使用した。
【0069】
【表8】

【0070】
表8中の成分は以下の通りである。
プライマル1531B:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
ローダインS−100:チバ・スペシャリティケミカルズ社製 フッ素系界面活性剤、
JP308:ローム・アンド・ハース社製 アクリルポリマーエマルション、
E−4000:東邦化学工業(株)製 ワックスエマルション、
FSアンチフォーム013:ダウ・コーニング社製 消泡剤、
EG−C9:エチレングリコールのイソノナン酸モノエステルとエチレングリコールのイソノナン酸ジエステルの混合物、
PG−C9:プロピレングリコールのイソノナン酸モノエステルとプロピレングリコールのイソノナン酸ジエステルの混合物、
GL−C9:グリセロールのイソノナン酸モノエステルとグリセロールのイソノナン酸ジエステルとグリセロールのイソノナン酸トリエステルの混合物、
DEG−C9/TMP−C9:ジエチレングリコールのイソノナン酸モノエステルと、ジエチレングリコールのイソノナン酸ジエステルと、トリメチロールプロパンのイソノナン酸モノエステルと、トリメチロールプロパンのイソノナン酸ジエステルと、トリメチロールプロパンのイソノナン酸トリエステルとの混合物、
EG−C8:エチレングリコールのオクチル酸モノエステルとエチレングリコールのオクチル酸ジエステルの混合物。
【0071】
実施例12〜15においてはレベリング性は「良好」、実施例16においてはレベリング性は「普通〜良好」であった。これに対して、レベリング剤を含まない床用被覆組成物である比較例7においては、上述した通り、レベリング性は「不良〜普通」であった。このことから、ポリマー固形分を変更しても、実施例12〜16で使用されたエステルについてレベリング性の向上が認められた。また、従来のレベリング剤であるトリブトキシエチルホスフェートを使用した比較例8においては、レベリング性は「良好」であったが、実施例12〜15では、エステルの全体量では同量であるが、活性成分の量で考えると、より少ない量で同等の効果を示すという有利な効果を奏することがことが明らかとなった。なお、実施例16のレベリング性は比較例8よりも若干劣っていたが、これは実施例16におけるレベリング性向上の活性成分の量が少ないためと考えられた。また、実施例12については、モップさばき性、グロスおよび耐ヒールマーク性も評価され、いずれも「良好」であった。
【0072】
実施例14の結果から、三価アルコールのC9脂肪族モノカルボン酸モノエステルおよびジエステルが、床用被覆組成物のレベリング性の向上に寄与することが明らかとなった。また、実施例15の結果から、二価アルコールのC9脂肪族モノカルボン酸モノエステルと、三価アルコールのC9脂肪族モノカルボン酸モノエステルおよびジエステルとの同時使用が、床用被覆組成物のレベリング性の向上に寄与することが明らかとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または
2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステル
を含む床用被覆組成物。
【請求項2】
脂肪族モノカルボン酸が、(C8−C9)脂肪族モノカルボン酸である、請求項1記載の床用被覆組成物。
【請求項3】
二価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールからなる群から選択され、三価アルコールがグリセロール、トリメチロールプロパンからなる群から選択される請求項1または2に記載の床用被覆組成物。
【請求項4】
1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または
2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステルを床用被覆組成物のポリマー固形分100重量部に基づいて0.005〜50重量部含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の床用被覆組成物。
【請求項5】
1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または
2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステル
を含む床用被覆組成物用添加剤。
【請求項6】
1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または
2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステル
を含むレベリング剤または可塑剤。
【請求項7】
1)二価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステル、または
2)三価アルコールの(C7−C10)脂肪族モノカルボン酸モノエステルまたはジエステル
を、床用被覆組成物に加えることを含む、床用被覆組成物のレベリング性改良方法。

【公開番号】特開2006−299185(P2006−299185A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126420(P2005−126420)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】