説明

底部ヒーター設備の温水流量改善方法、保守方法

【課題】新たな設備を付加する必要がなく低コストで、しかも、短期間、低環境負荷で底部ヒーター設備の温水流量を改善させることができる、底部ヒーター設備の温水流量改善方法、保守方法を提供する。
【解決手段】低温地下式貯槽の底版の下面に設けられた砕石層に、砕石層の周縁から中心に向かって温水を通水する底部ヒーター設備において、温水の循環により生じた砕石層内の詰まりによって温水流量が設計流量以下に低下した場合に、枯草菌を温水に投入し、引き続き温水の循環を実施することで、砕石層内の詰まりを除去し温水流量を改善させることを特徴とする底部ヒーター設備の温水流量改善方法、ならびに、温水流量改善後、温水流量を維持すべく枯草菌を補給することを特徴とする底部ヒーター設備の保守方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、底部ヒーター設備の温水流量改善方法、保守方法に関し、特にLNG地下式貯槽等の低温地下式貯槽の底版コンクリートの下面に設けられた砕石層の周縁から中心に向かって温水を通水する底部ヒーター設備の温水流量改善方法、保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)を貯蔵するタンクは、防災安全面や周辺環境との調和のために鉄筋コンクリート製の円筒形地下タンクとしたものが多く、地下タンク底部には、LNGの冷熱(−162℃)によって底版下の地盤が凍結しないように、底版の下面側にヒーターが設けられている(例えば、特許文献1参照)。このヒーター設備として、配管ヒーター型と砕石層ヒーター型の底部ヒーターが設けられることが多い。配管ヒーター型の底部ヒーターは底版コンクリート内に埋設され、配管内に加熱媒体を流通させてコンクリート躯体の温度低下の防止を図るヒーターであり、平面渦巻状の配管が底版の全面を覆うように設置されている。一方、砕石層ヒーター型の底部ヒーターは、底版コンクリートの下面と地盤との間に砕石を積層し、この砕石層内に温水を通水して底版コンクリートを温めるヒーターであり、所定温度の温水を循環させている。
【0003】
図1は、底部ヒーターとして、砕石層ヒーターと配管ヒーターを組み合せたLNG地下式貯槽1の一例を示した断面図である。この種の地下式貯槽では貯槽底面が地下約25〜40mに位置するため、底版コンクリート2(以下、「底版」と省略する。)には地下水による揚水圧が作用する。そのため、図示したように、地下式貯槽1は揚水圧に抵抗できるように底版厚を十分大きくした強度版構造となっている。また側壁3と底版2の間に打ち継ぎ目を設けるため、底版2の周縁と側壁3の下端との間に目地部11を設け、両者をピン結合するような設計とし、目地部における漏水防止のために、底版・側壁目地部11は水が凍結する温度に設定している。
【0004】
底版2の下面には砕石を敷き詰めて構築された底部ヒーター4が設けられ、さらに下面近くの底版内には、配管ヒーターとしてブラインヒーター5が設けられている。通常時は底部ヒーター4に所定温度の温水が供給され、地下式貯槽1下方の地盤の凍結防止が図られている。底版ヒーター4が故障した場合など緊急時には、バックアップ設備としてブラインヒーター5を稼働させる。
【0005】
ところで、図1に示したように、底版2の下面側に底部ヒーター4を設置した場合には、供給管6より供給した温水を、底版2の下面に、リング状に設置された半径25〜32mのSUS製の散水管4bに供給し、散水管に設けた散水孔(図示していない)から砕石層4aに散水する。砕石層は、粒径約20mmの砕石が充填されたもので、約40%前後の空隙率を有している。砕石層4aに散水された温水は、底版2の下面を温めることで、凍結線の位置を制御し、地盤の凍結を防止する。そして、砕石層4aに散水された温水は、砕石層を周縁から中心に向かって通水し、砕石層4aの中央部に設置した集水ピット4cに集められた後、集水管7、揚水ポンプ8及び戻り管9を介して汲み上げられる。揚水ポンプ8には、集水した水中の異物を除去するためのストレーナー(図示していない)が設置されている。汲み上げられた温水は、熱交換器10で温められた後、再び、供給管6へ循環されるように設計されている。設計流量は地下式貯槽によって異なるが、約35〜60m/hrである。
【0006】
しかしながら、砕石層ヒーター型の底部ヒーター4は、長年の使用によって砕石層の空隙部に目詰まりが発生し、温水供給量が減少するという問題点を有していることが判った。底部ヒーターの供給流量が減少すると、底版を温めるのに十分な量の温水を通水できなくなるため、底版の中心から略同一半径位置の温度のバラツキが大きくなる。温水が設計流量以下に減少した場合は、地下タンク底部へ供給される熱量の不足によって、底版のコンクリート温度が低下し、最終的にはその下にある地盤が凍結する。このような地盤凍結が発生すると、過大な凍結土圧が作用する、或いは、地下湧水の排水ができなくなる等、LNG地下タンクの安全性が損なわれる恐れがある。
【0007】
そのため、底部ヒーターの供給流量が減少した場合には、温水の水圧を上昇させるなどして流量を改善する方策を実施するが、この手法では効果の持続性がなく、抜本的な解決には至らなかった。特に、温水流量の低下が進行した場合には、即効性があり、かつ経済的な対策が求められていた。さらに、砕石層は地下水層と接しており、対策を実施するには環境への影響も考慮する必要がある。バックアップ設備としてのブラインヒーターによる加温に全面的に切替える方法を採った場合には、ブラインヒーターの故障等に備えて、更なるバックアップ設備を設ける必要が生じるなどコスト面で課題があり、底部ヒーターの目詰まりを解消する簡便な方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−182797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、新たな設備付加を必要とせずに低コストで、しかも、短期間、低環境負荷で、底部ヒーター設備の温水流量を改善することができる、底部ヒーター設備の温水流量改善方法、保守方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、枯草菌を温水に投入することによって、砕石層内の詰まりを除去し温水流量を短期間で改善できると共に、効果の持続性があることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)低温地下式貯槽の底版の下面に設けられた砕石層に、砕石層の周縁から中心に向かって温水を通水する底部ヒーター設備において、温水の循環により生じた砕石層内の詰まりによって温水流量が設計流量よりも低下した場合に、枯草菌を温水に投入し、引き続き温水の循環を実施することで、砕石層内の詰まりを除去し温水流量を改善させることを特徴とする底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
(2)温水流量が設計流量よりも低下し、かつ、底版の温度のバラツキが所定値以上に増加した場合に、枯草菌を温水に投入することを特徴とする前記(1)に記載の底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
(3)底版の温度のバラツキは、底版の中心より略同一半径位置における温度のバラツキであることを特徴とする上記(2)に記載の底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
(4)温水流量が必要流量以下に低下した場合に、底版と側壁間の目地部の凍結止水を確保できる範囲で、温水の温度を上げることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載の底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
(5)枯草菌を投入した後に、供給管と戻り管の水頭差を複数回変化させることで、砕石層内の詰まりの除去を促進することを特徴とする上記(1)〜(4)いずれかに記載の底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
(6)低温地下式貯槽の底版の下面に設けられた砕石層に、砕石層の周縁から中心に向かって温水を通水する底部ヒーター設備において、上記(1)〜(5)いずれかに記載の方法で温水流量を改善させた後、温水流量を維持すべく枯草菌を補給することを特徴とする底部ヒーター設備の保守方法。
【発明の効果】
【0012】
以上説明した通り、本発明の底部ヒーター設備の温水流量改善方法によれば、温水流量が低下した場合に枯草菌を温水に投入し、必要に応じて供給管と戻り管の水頭差を複数回変化させるだけで、砕石層内の詰まりを除去し、短期間で底部ヒーター設備の温水流量を低コスト、低環境負荷で改善することができる。また、改善後は温水流量を安定的に維持することができる。これらにより、ブラインヒーターを稼働する必要がなく、設備投資を抑止できる。さらに、枯草菌を温水に投入することにより、散水管、散水孔、集水ピット、集水管に沈着した汚れ、ヌメリを除去できる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】低温地下式貯槽の底部ヒーター構成例を示した断面図である。
【図2】低温地下式貯槽の底部ヒーター構成例を示した全体図である。
【図3】底版温度の推移を示した図である(実施例2)。
【図4】底版・側壁目地部温度の推移を示した図である(実施例2)。
【図5】底部ヒーターの温水供給流量の推移を示した図である(実施例2)。
【図6】温水温度変更前(温水温度11℃)の底版下面の温度分布を示すサーモグラフィの画像である(実施例2)。
【図7】温水温度変更後(温水温度16℃)の底版下面の温度分布を示すサーモグラフィの画像である(実施例2)。
【図8】温水供給流量改善後の底版下面の温度分布を示すサーモグラフィの画像である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の底部ヒーター設備の温水流量改善方法及び保守方法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の底部ヒーター設備の構成例を示した断面図である。図2は、低温地下式貯槽の底部ヒーター構成例を示した全体図である。底部ヒーター設備に通水する温水温度は、底版と側壁間の目地部11の凍結止水を確保できる範囲で、一定温度に設定されている。供給管6から送り出した温水は、リング状に配置された散水管4bに入り、散水管にある直径5mmの散水孔(図示していない)から砕石層4aに散水された後、砕石層の周縁から砕石層の中を通って中心に向かって通水し、集水ピット4cに集められる。そして、集水管7、揚水ポンプ8を介して、戻り管9から戻された温水は、熱交換器10で温められた後、再び供給管6から底部ヒーターへ循環するように構成されている。
【0016】
本発明の底部ヒーター設備の温水流量改善方法は、低温地下式貯槽の底版の下面に設けられた砕石層に、砕石層の周縁から中心に向かって温水を通水する底部ヒーター設備において、温水の循環により生じた砕石層内の詰まりによって温水流量が設計流量以下に低下した場合に、枯草菌を温水に投入し、引き続き温水の循環を実施することで、砕石層内の詰まりを除去し温水流量を改善させることを特徴とするものである。この枯草菌投入により、循環系統の砕石層内の詰まりが除去されることで、温水流量が短期間に改善されるとともに、効果の持続性もある。
また、砕石層内は部分的に詰まりが発生するため、詰まった部分の温水流量が低下することにより、底版の温度分布にバラツキが生じる。枯草菌投入により、この部分的な詰まりを除去して砕石層の温水の流れをより均一化でき、底版の温度分布のバラツキも解消される。
さらに、枯草菌を温水に投入後、温水を停止する必要がなく連続循環できるため、低温地下式貯槽の運用を継続したまま温水流量を改善できる。
【0017】
枯草菌(Bacillus subtilis)は、自然環境から分離したものや、市販の枯草菌に分類される微生物を使用することができる。
【0018】
本発明の底部ヒーター設備の温水流量改善方法においては、温水流量が設計流量以下に低下した場合に枯草菌を投入するが、ここで「設計流量」とは、熱量計算から求められる「必要流量」に安全裕度(1.5〜2.0程度)を考慮した値である。「必要流量」とは、底版コンクリートの温度を一定に保つために必要な温水流量である。必要流量の算出方法は次の通りである。まず、熱伝導解析等により底版へ供給すべき必要熱量を算出する。この必要熱量(kcal/hr)を、底版の熱容量と温水の設計温度降下量(送り温度と戻り温度の設計温度差)で割ることで必要流量を計算する(式1参照)。
【0019】
(式1)
必要流量(m3/hr)=必要熱量(kcal/hr)/(熱容量(kcal/m3・℃)×設計温度降下量(℃))
【0020】
枯草菌の投入は、温水流量が設計流量よりも低下し、かつ、底版の温度のバラツキが所定値以上に増加した場合に行うことが、より好ましい。ここで、「底版の温度のバラツキ」は、底版の中心より略同一半径位置における温度のバラツキを意味する。この底版の温度のバラツキは、底版下面に設置した温度センサの計測結果を以て把握することができ、温度センサを設置する際の設置位置は、任意であるが、底版の中心から周縁までの距離を略等分する位置に同心円状に3〜4列設置し、各列には8〜16個の温度センサを設置するのが一般的である。通常、温水流量の低下が生じた場合、同心円上における温度のバラツキは2〜4℃である。
【0021】
そのため、枯草菌を温水に投入する好ましい時期は、少なくとも一列の同心円上における温度のバラツキ、即ち計測した温度の最高値と最低値の差が、温水の設計温度降下量(例えば2℃)以上の場合に設定することが好ましい。温度のバラツキが温水の設計温度降下量以上になっている場合には、砕石層が部分的に詰まって温水流量が局部的に低下している可能性が高いと判断できるためである。底版の温度の計測頻度は任意であるが、定期的に1日1回計測するのが良い。
【0022】
枯草菌を投入する場合、投入場所は特に限定されないが、操作性を考慮すると温水の供給管6又は戻り管9に投入するのが良い。枯草菌投入量は特に限定されないが、投入量が多過ぎると枯草菌の沈着物剥離作用で温水供給流量が急激に変化するので好ましくない。そのため、枯草菌の効果を確認しながら、温水量に対し、枯草菌数が4×10個/m以上となるように投入するのが好ましい。投入は一回で良いが、複数回実施しても良い。
【0023】
また、本発明の底部ヒーター設備の温水流量改善方法においては、温水流量が熱量計算から求められる必要流量以下に低下した場合に、底版と側壁間の目地部の凍結止水を確保できる範囲で、温水の温度を上げることが好ましい。目地部温度は、実測した熱伝導率と温水送り温度(通常は約11℃)をパラメータとして推定可能であり、目地部温度の管理値は−2℃である。底版と側壁間の目地部の凍結止水を確保できる範囲で温水の温度を上げることにより、低温地下式貯槽の機能を損なわずに枯草菌の投入効果を高めることができる。
【0024】
また、上記した本発明の底部ヒーター設備の温水流量改善方法においては、枯草菌を投入した後に、供給管と戻り管の水頭差を複数回変化させることで、砕石層内の詰まりの除去を促進させることが好ましい。前記水頭差を変化させる操作(フラッシング)を実施することにより、砕石層内の圧力を一時的に大きく変動させることで、砕石層内の詰まりの原因物質を剥がし、砕石層内からの除去を促進させることができる。フラッシングを行う時期は任意であるが、枯草菌を投入した後、温水流量が微増もしくは微減するなど変化が確認された後(例えば、2〜5週間後)に行うことが好ましい。投入直後にフラッシングを行うと、沈着物が急激に剥がれ、予期せぬ新たな目詰まりの発生により却って流量が低下する等の恐れがあるからである。
【0025】
フラッシングは、供給管と戻り管の立坑内の水位差を1m〜3m程度動揺させて水頭差を与え、砕石層内の温水の供給圧力を変化させることにより行うことができる。最初のフラッシングを温水流量の変化が確認された後に実施し、その後は、2〜5週間或いはそれ以上の間隔で、温水流量が安定するまで複数回実施する。
【0026】
温水への枯草菌投入によって、砕石層内に沈着した汚れやヌメリを剥離・分解させることができるが、さらに、複数回フラッシングすることで砕石層内の詰まりの除去を促進させることができる。枯草菌投入後の温水流量の変化は、一時的な流量の増減であり、沈着物の剥がれによるものと推察される。そのため、枯草菌投入による温水流量の変化を確認した後にフラッシングを行うことで、沈着物の剥離と除去が段階的に起こるので、枯草菌の効果による急激な沈着物の剥がれによる目詰まりなどのトラブルを防止する効果もある。
【0027】
また、本発明の底部ヒーター設備の保守方法では、低温地下式貯槽の底版の下面に設けられた砕石層に、砕石層の周縁から中心に向かって温水を通水する底部ヒーター設備において、上記いずれかの方法で温水流量を改善させた後、温水流量を維持すべく枯草菌を補給する。温水中の枯草菌濃度は、砕石層に浸入する地下水(真水ないし海水)による希釈や温水自身の浸出により減少するため、枯草菌を補給することによって枯草菌濃度を維持することができる。補給の頻度は特に規定されず、温水流量の変化に応じて適宜補給しても良く、定期的に補給しても良い。定期的に補給する場合、通常その補給間隔は1ヶ月から1年の間で設定される。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
本実施例では、図1に構成図を示した、LNG地下式貯槽A(温水供給流量:設計流量60m/hr、必要流量28m/hr)について、試験を実施した。
【0030】
温水の供給温度11℃で実施した(設計温度降下量は2℃である)。戻り管の立坑から、9〜10℃の温水中に、市販の液状の枯草菌の生菌剤を温水系統内の保有水量に対し約10ppm(枯草菌数は4×10個/m以上)となるように投入し、気中部の配管側面に付着した液剤を流すため、濾過水を管壁面に沿わして投入した。
【0031】
枯草菌投入後まもなく、温水流量が僅かに増減する変化が見られたが、引き続き、定常どおり温水の循環を実施した。枯草菌を投入してから約5週間後に温水流量の減少が顕著になったことから、温水系統内のフラッシング(水位変動による水洗)を実施した。このフラッシングでは、常時における供給管と戻り管の立坑内の水位差を+1m程度を動揺させる操作を4回行った。
【0032】
その結果、枯草菌投入前は28m/hrであった温水流量が、44m/hrにまで改善した。改善後の流量に対する当初流量の比である流量改善率は1.6(=44/28)となった。その後、約1年間経過した後も温水供給流量は約50m/hrで安定した流量が確保されていた。
【0033】
(実施例2)
本実施例では、LNG地下式貯槽B(温水供給流量:設計流量60m/hr、必要流量28m/hr)について、試験を実施した。このLNG地下式貯槽Bは、実施例1のLNG地下式貯槽Aと同じタイプのものである。
【0034】
温水の供給温度を、底版コンクリートと側壁コンクリート間の目地部の凍結止水を確保できる範囲で上昇させた。温水の温度は16℃に設定した。図3は底版コンクリート温度の推移を示した図であり、図4は底版・側壁目地部温度の推移を示した図である。
【0035】
試験の結果、図3からわかるとおり、底版コンクリートの温度は、2ヵ月で5℃上昇して収束した。また、図4からわかるとおり、温水供給温度を上げても、底版・側壁目地部の温度は、変更後8ヵ月程度で凍結止水を確保できる温度に収束した。
【0036】
図6は温水温度変更前(温水温度11℃)の底版下面の温度分布を示すサーモグラフィの画像であり、図7は、温水温度変更後(温水温度16℃)の底版下面の温度分布を示すサーモグラフィの画像である。
【0037】
図6と図7を比較するとわかるとおり、底部ヒーターに供給する熱量を増加させることにより、底版温度の向上は見られた。しかしながら、底版の中心より略同一半径位置(同心円上)における温度のバラツキは、温水温度変更前は、底版の周縁で2.4℃、底版半径の2/3の半径位置で2.1℃、同1/3の半径位置で1.5℃であったのに対し、温水温度変更後は、底版の周縁で1.0℃、同2/3の半径位置で2.7℃、同1/3の半径位置で2.2℃であった。温水の供給温度を上げることにより、全体的に底版の温度を上げることはできたが、底版温度のバラツキを改善することはできなかった。
【0038】
次に、温水の供給温度を16℃に維持したままで枯草菌の投入を実施した。戻り管の立坑から、温水中に、市販の液状の枯草菌の生菌剤を、温水系統内の保有水量に対し約10ppm(枯草菌数は4×10個/m以上)となるように投入し、気中部の配管側面に付着した液剤を流すため、濾過水を管壁面に沿わして投入した。
【0039】
枯草菌投入後まもなく、温水流量に変化が見られたが、引き続き、定常どおり温水の循環を実施した。図5は、底部ヒーター供給流量の推移を示したグラフである。図5には、参考としてLNG地下式貯槽Bでの設計流量(60m/hr)のラインを記入した。
【0040】
枯草菌を投入してから約3週間後に、温水流量に変化が顕著になったことから温水系統内のフラッシング(水位変更による水洗)を実施した。このフラッシングでは、常時における供給管と戻り管の立坑内の水位差を+1m程度を動揺させる操作を5回行った。
【0041】
その結果、枯草菌投入前は14m/hrであった温水流量が、28m/hrまで改善した。流量改善率は2.0(=28/14)となった。その後、約1年間経過した後も温水供給流量は25〜28m/hrで推移し、おおむね安定した流量が確保されていた。また、枯草菌投入前にあった悪臭(どぶ臭)も解消された。
【0042】
実施例1と比較すると、温水の供給温度を5℃上げたことで、枯草菌を投入してからフラッシングできるまでの期間が約2週間短縮でき、さらに、流量改善率も向上した。
【0043】
図8は、温水供給流量改善後の底版コンクリート下面の温度分布を示すサーモグラフィの画像である。図7と図8を比較するとわかるとおり、枯草菌を投入して砕石層内の目詰まりを解消することによって、枯草菌投入前は、底版の同心円上の温度のバラツキが各1.0℃、2.7℃、2.2℃であったが、枯草菌投入後は、各1.3℃、1.2℃、1.1℃となり、温度分布のバラツキが小さくなった。
【0044】
図5に示したとおり、枯草菌を投入した後、更にフラッシングを行うことにより温水供給流量は改善し、約1年間の温水供給流量は安定して推移した。この間、枯草菌の生菌剤を約10ppm(枯草菌数は4×10個/m以上)で1回補給したが、これにより温水供給流量を維持できることがわかる。
【0045】
上記の結果より、枯草菌投入によって温水供給流量を改善・維持できることが確認されたので、底部ヒーターの供給流量減少という厳しい状況を脱することができた。
【0046】
(実施例3〜5)
本実施例では、図1に構成図を示した、温水流量の低下が見られた他のLNG地下式貯槽について、試験を実施した。
【0047】
実施例2と同様、戻り管に設けられた取出口から、市販の液状の枯草菌の生菌剤を、投入1回あたり、温水中の濃度が約10ppm(枯草菌数は4×10個/m以上)となるように投入し、その後、実施例2と同様、フラッシングを行った。各地下式貯槽における、枯草菌投入回数及びフラッシング回数は表1に示した通りとし、試験は1年間にわたって実施した。
【0048】
表1に、実施例1〜5において、温水流量改善処理をする前の温水供給流量(減少時流量)と、改善処理をした後の温水供給流量(改善後流量)を示した。また、余剰水と補給水の量も示した。ここで余剰水とは、循環系統中の温水が地下水の流入等により増加したため、系統から除去した水量を表し、補給水とは、同じく循環系統中の温水が地下水への流出等により減少したため、系統へ補給した水量を表す。なお、各流量は測定平均値である。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果から、全ての貯槽について、枯草菌の投入効果が認められた。温水の減少時流量が少ない場合(実施例1、2、5)は、枯草菌投入後にフラッシングを行うことにより流量改善効果が発現し、温水の減少時流量が多い場合(実施例3、4)は、枯草菌投入後にフラッシングを行わなくても流量改善効果があることがわかる。
【0051】
また、表1の結果から、減少時流量が少ない地下式貯槽は、余剰水(すなわち、砕石層に隣接する地盤からの浸入水)が多いことがわかる。
【0052】
(比較例1)
図1に構成図を示した、LNG地下式貯槽F(温水供給流量:設計流量35m/hr、必要流量20m/hr)について、枯草菌を投入せずに試験を実施した。
【0053】
温水の供給温度11℃で温水の循環を実施している上記低温地下式貯槽の底部ヒーター設備において、温水系統内のフラッシング(水位変動による水洗)を実施した。このフラッシングでは、常時における供給管と戻り管の立坑内の水位差を+1.3m程度動揺させる操作を複数回行った。
【0054】
その結果、フラッシング前は20m/hrであった温水流量が、フラッシングにより30m/hrにまで改善した。改善後の流量に対する当初流量の比である流量改善率は1.5(=30/20)となった。しかしながら、約5年経過後に、温水供給流量は22m/hrに減少した。
【0055】
そこで、2回目のフラッシングを実施した。このフラッシングでは、常時における供給管と戻り管の立坑内の水位差を+6m程度動揺させる操作を複数回行ったが、フラッシング後の温水流量は21m/hrであり、改善効果は見られなかった。
【0056】
約4年経過後に、温水供給流量が12m/hrに低下したので、3回目のフラッシングを実施した。このフラッシングでは、常時における供給管と戻り管の立杭内の水位差を+2.6m程度動揺させる操作を複数回行ったが、フラッシング後の温水流量は11m/hrであり、改善効果は見られなかった。
【0057】
約4年経過後に、温水供給流量が7m/hrに低下したので、4回目のフラッシングを実施した。このフラッシングでは、常時における供給管と戻り管の立杭内の水位差を+1.5m程度動揺させる操作を複数回行ったが、フラッシング後の温水流量は10m/hrであり、改善効果は見られなかった。
【0058】
上記の結果より、温水の減少時流量が多い場合は、フラッシング(1回目)を行うことにより流量改善効果が発現するが効果の持続性はなく、また、温水の減少時流量が少ない場合は、フラッシング(2回目〜4回目)を行っただけでは流量改善効果が発現しないことがわかる。
【0059】
(実施例6)
枯草菌を投入したLNG地下式貯槽について、温水流量を維持すべく枯草菌を継続的に補給した。補給の頻度は定期的に行い、補給間隔は1ヶ月から1年の間で設定した。補給にかかるコストが比較的安価であることから、温水流量が低下していたLNG地下式貯槽(実施例1、2)については3ヶ月から6ヶ月の補給間隔とした。
【0060】
なお、枯草菌投入前から温水流量が比較的多く、設計流量に近かったLNG地下式貯槽(実施例3、4)についても枯草菌を継続的に補給した。前述の通り、補給にかかるコストが比較的安価であることから、予防保全のためにこれらの投入を継続した。
【0061】
(試験例)
次に、温水流量の低下と、侵入水に含まれている塩分との関係を調べるために、構造形式が同一で近接している実施例1(地下式貯槽A)と実施例2(地下式貯槽B)における、余剰水の成分を分析したミネラル成分分析結果を、表2に示した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2の結果から、温水供給流量の低下が大きかった地下式貯槽Bでは、温水供給流量の低下が比較的少なかった地下式貯槽Aに比べて、余剰水に含まれる無機イオンが多いことがわかる。上述の内容及び表2の結果から、海水などに由来する無機イオンが多く含まれている余剰水が浸入しやすい底部ヒーターである場合には、温水供給流量が低下する現象が生じ易いことがわかる。また、表1の結果からヌメリが原因で生じた温水供給流量の低下は、枯草菌の投入によって改善可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の底部ヒーター設備の温水流量改善方法は、低環境負荷で周辺地盤に悪影響を及ぼす恐れが無く、新たな設備付加も不要であることから、LNG地下式貯槽の底部ヒーター設備の温水流量改善方法として、実用的な価値が大きい。また、LNG地下式貯槽以外でも、底部ヒーター設備の温水流量改善方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 低温地下式貯槽(LNG地下タンク)
2 底版コンクリート
3 側壁コンクリート
4 底部ヒーター
4a 砕石層
4b 散水管
4c 集水ピット
5 ブラインヒーター
6 供給管
7 集水管
8 揚水ポンプ
9 戻り管
10 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温地下式貯槽の底版の下面に設けられた砕石層に、砕石層の周縁から中心に向かって温水を通水する底部ヒーター設備において、温水の循環により生じた砕石層内の詰まりによって温水流量が設計流量よりも低下した場合に、枯草菌を温水に投入し、引き続き温水の循環を実施することで、砕石層内の詰まりを除去し温水流量を改善させることを特徴とする底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
【請求項2】
温水流量が設計流量よりも低下し、かつ、底版の温度のバラツキが所定値以上に増加した場合に、枯草菌を温水に投入することを特徴とする請求項1に記載の底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
【請求項3】
底版の温度のバラツキは、底版の中心より略同一半径位置における温度のバラツキであることを特徴とする請求項2に記載の底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
【請求項4】
温水流量が必要流量以下に低下した場合に、底版と側壁間の目地部の凍結止水を確保できる範囲で、温水の温度を上げることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
【請求項5】
枯草菌を投入した後に、供給管と戻り管の水頭差を複数回変化させることで、砕石層内の詰まりの除去を促進することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の底部ヒーター設備の温水流量改善方法。
【請求項6】
低温地下式貯槽の底版の下面に設けられた砕石層に、砕石層の周縁から中心に向かって温水を通水する底部ヒーター設備において、請求項1〜5いずれかに記載の方法で温水流量を改善させた後、温水流量を維持すべく枯草菌を補給することを特徴とする底部ヒーター設備の保守方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate