説明

廃オイルエレメントの処理方法およびその処理用焼却炉

【課題】大量の廃オイルエレメントを短時間で一気に処理すると共に、処理された廃オイルエレメントの資源としての再利用も容易に可能とすることを課題とする。
【解決手段】多数の使用済みの廃オイルエレメント1…を焼却炉10に投入し、バーナー14…により加熱し、廃オイルエレメント1…内部に含まれるオイルを軟化流出あるいはガス化させ、次いでこれらに引火させ、以後は焼却炉10内へ送気することによりこれらオイルまたはガスの自然燃焼により燃焼を継続させ、この燃焼により、使用済みの廃オイルエレメント1内に含まれるオイルおよびフィルターなどの有機物を完全に燃焼させ、焼け残った廃オイルエレメント1…を燃焼炉10から取り出し、これらを金属資源として再利用に供し得るように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は使用済みとなった廃オイルエレメントの処理方法およびその処理用焼却炉に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車や船舶の内燃機関の内部に設けられる潤滑油路には、潤滑油内に混入した異物を除去するためのオイルエレメントが設けられている。
【0003】
このオイルエレメント1は、図5に示すように一端のみが開口した筒状容器2の中に筒状のオイルフィルター3を同心状に固定し、筒状容器2の蓋体4に設けた流通孔4bからオイルを流入させ、オイルフィルター3で異物を濾しとったオイルを蓋体4に設けた流通孔4aから流出させる構造とされている。図中2aは油路取り付け基盤(図示せず)に対するシールゴムリングを示す。
これらオイル流通孔4a、4bは、図6に示すように中心孔4aと、その周囲を取り巻いて環状に配置された複数の周辺孔4b…4bとからなる。
【0004】
また、以上のほかオイルエレメントの内部には図5に示すように、オイルフィルター3の固定板6や、固定板6を介してオイルフィルター3を筒状容器2の中に固定するばね5が設けられ、さらにオイルフィルター3が完全に目詰まりしてもオイルの流通が確保されるように固定板6の内側にボール7aとばね7bとからなるボール弁7が設けられている。
【0005】
ところで、このオイルエレメントの目詰まりの頻度は比較的高い。しかも、オイルフィルター3が目詰まりすれば交換寿命となる。従って、使用済みで廃棄されるオイルエレメント1の数はかなり大量となる。
【0006】
しかもこのような使用済みの廃オイルエレメント1には、筒状容器2内にオイルが残留するほかオイルフィルター3にも含浸オイルが残留している。そして、使用済みのオイルエレメント1を廃棄するにはまずこのような残留オイルを除去する必要がある。
【0007】
しかし、オイルエレメント1は、筒状容器2の底にオイル流通孔4a、4bのみが開口し、内容積に比し開口が極めて小さい形態をなす。したがって内部に残留するオイルを完全に抽出除去することはきわめて困難で、迅速な脱オイル処理は殆ど不可能となる。
【0008】
このような問題を解消するため、廃オイルエレメント1の筒状容器2を輪切りにより分解し、内部のオイルフィルター3やボール弁7などをばらばらに分離し、それぞれを必要な再利用資源に分別することができるようにする装置が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】実用新案登録3053140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、大量に廃棄されるオイルエレメントを、一個々々裁断により分解処理していたのでは処理に時間がかかり実用的でない問題がある。しかも裁断と同時に筒状容器内に残留するオイルや、オイルフィルターの含浸オイルが流出したり飛散したりすることもあるのでそのための処理方法を講じる必要がある。その上、廃オイルを回収すればその処理も必要となる。さらに、このオイルが完全に除去されない限り、廃オイルエレメントの分別再利用も困難となるなどさまざまな問題がある。
【0010】
この発明は上記問題を解決することを目的としてなされたものであり、大量の廃オイルエレメントを短時間で一気に処理すると共に、処理された廃オイルエレメントの資源としての再利用も容易に可能とすることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためこの発明の廃オイルエレメントの処理方法は、多数の使用済みの廃オイルエレメントを焼却炉に投入し、バーナーにより加熱し、前記廃オイルエレメント内部に含まれるオイルを軟化流出あるいはガス化させ、次いでこれらに引火させ、以後は前記焼却炉内へ送気することによりこれらオイルまたはガスの自然燃焼により燃焼を継続させ、この燃焼により、前記使用済みの廃オイルエレメント内に含まれるオイルおよびフィルターなどの有機物を完全に燃焼させ、焼け残った前記廃オイルエレメントを前記燃焼炉から取り出し、これらを金属の再利用に供し得るように構成したものである。
【0012】
上記方法において、廃オイルエレメント内に含まれるオイルが自然燃焼し始めた後に前記バーナーの燃焼を停止させるようにすることもできる。また、前記焼却炉を温水ボイラーの加熱炉とすることもできる。
【0013】
また、この方法を実施するための焼却炉は、使用済みの廃オイルエレメントの投入口を備え、内部に多数の廃オイルエレメントを集積することのできる燃焼室と、この燃焼室内壁より前記オイルエレメントの集積体内に突き出されたバーナーと空気供給管と、前記燃焼室から燃焼ガスを排出する煙道とを備えて構成される。
【0014】
上記焼却炉として、煙道に水と熱交換する熱交換器を設けても良く、さらに必要に応じて、煙道に脱硫装置を設け、あるいは塵灰除去装置を設けることができる。また、焼却炉の煙道には黒煙検知センサーを設けることもできる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、いかに大量に廃オイルエレメントが発生しても、一括して焼却処理することで、迅速に処理ができる。また、オイルやフィルターなどの有機物はすべて燃焼または熱分解させてしまうので、残留物は金属しかなく、したがって再利用が非常に容易となる。
【0016】
しかも燃焼には、最初は空気供給管をバーナーとして機能させて加熱燃焼を行うが、廃オイルエレメントに含まれるオイルやフィルターが自然燃焼し始めれば、以後は空気供給管への燃料を供給することなく自然に燃焼が継続する。したがって有機物を熱分解させるための燃料供給も不要となり、非常に安価に処理が可能となる。
【0017】
なお、高温となり始めた時点で、一時に大量の残留オイルが燃焼し始め、その結果不完全燃焼による黒煙が発生することがあるが、黒煙検知センサーにより送気量を増やすことで解消できる。
【0018】
また、焼却炉として、温水ボイラーの加熱炉を用いることもでき、例えば公衆浴場や温水プールの熱源などとして使用することもできるなどの効果もある。この場合は、廃オイルエレメントの焼却処理のための燃料を熱源としても利用できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、この発明の実施の形態である廃オイルエレメントの処理方法について説明する。
図1は、この発明の方法を実施するための廃オイルエレメントの処理用焼却炉の側断面図、図2は図1のA−A矢視断面図、図3は図1のB−B線矢視断面図である。
【0020】
廃オイルエレメントの処理用焼却炉10は、図示例の場合は炉体が立方体形状をなす。そしてその一面に使用済みとされた廃オイルエレメント1の投入口11が設けられ、この投入口11は観音開きの扉12、12で密閉できるようにされている。
【0021】
投入口11より炉内下方が燃焼部11aとされ、下部の炉壁13から空気供給管14…14が延出配置されている。この空気供給管14は基部が炉壁13外部に設けられたダクト15に連通し、ダクト15にはそれぞれ空気供給用のブロワ16、16が連通されている。同様な機能を有する空気孔17…17が他の炉壁13にも多数設けられている。
【0022】
空気供給管14…は、燃焼部11aに投入され堆積された廃オイルエレメント1…の堆積物内に火炎または空気を満遍なく強制的に送り込むためのもので、長短長さが異なる複数本が設けられている。また、この空気供給管14…は図4に拡大して示すように外周に水冷ジャケット18を有し、炉内の高温から保護されるようにされている。図中18aは給水管、18bは排水管を示す。
【0023】
また、この空気供給管14の中にバーナー14aが併設されており、灯油などを霧化した液体燃料やLPガスや都市ガスなどの供給管14bが連通され、炉内に火炎を吹き付けることができるようにされている。
また、炉壁13の上部にはのぞき孔19(図1)が設けられ、燃焼状態が炉外より観察できるようにされている。
【0024】
燃焼部11aから、火格子11c…11cを境にして煙道11bが設けられている。なお、煙道11bは燃焼部11aからほぼ水平に伸びたあと上方へ向けて折り返す経路とされている。折り返した煙道11bは図2に示すように上部で三つの平行な煙道に分岐され、この部分に燃焼ガスの熱を水へ熱交換する熱交換器23が設けられている。
【0025】
この熱交換器23には、温度計、水量計を備えたセンサーサ24が設けられている。そして、この熱交換器23の内部は、貯湯タンク25(図2、図3)に連通されている。
そして、分岐された煙道11bの末端は煤塵除去、あるいは脱硫装置21を介して煙突22に連通されている。
【0026】
煙突22には、黒煙検知センサー20が設けられている。黒煙を検知することにより制御装置20a(図2)に指令が出され、ブロワ16を制御することで燃焼空気の送気を増やすようにされている。なお、黒煙がなくなれば、その検知情報により制御装置20a(図2)に指令が出され、ブロワ16を制御することで燃焼空気の送気を低減するようにされている。
【0027】
図中26は貯湯タンク25より蒸気を排出する排気管を示し煙突22に接続されている。また、この貯湯タンク25の湯は、浴場あるいは温水プールの温水源として利用される。
【0028】
次に、廃オイルエレメントの処理方法について説明する。
廃オイルエレメントの処理用焼却炉10の扉12、12を開き、使用済みの鹿オイルエレメント1…を、図1に点線で示すように燃焼部11aが満たされるまで投入し集積する。
次いで、扉12、12を閉じブロワ16を駆動し、空気供給管14…、空気孔17…に空気を供給するとともにバーナー14aに霧化液体燃料やLPガス、都市ガスなどの燃料を供給し着火する。
【0029】
投入集積された廃オイルエレメント1…は、バーナー14aから噴出する火炎で加熱される。やがて廃オイルエレメント1…内部のオイルが過熱軟化されその姿勢によって流通孔4a、4bから残留オイルが流出したり、あるいはオイルエレメント1内でオイルがガス化され噴出したりする。
【0030】
このような状態になると流出したオイルあるいは噴出したガスに引火し、以後はこのような反応が連鎖的に生じるので自発的な燃焼が継続されるようになる。
従ってこの状態となれば、バーナー14aの燃焼を止め、空気供給管14からの空気供給だけとしても廃オイルエレメント1…内部の残留オイルやフィルターなどの有機物が燃え尽きるまで燃焼が継続される。そして、燃焼最高温度は800℃〜900℃程度に達する。
【0031】
なお、燃焼初期においてオイルあるいは噴出したガスが一時に大量に燃焼し始めると、不完全燃焼を起こして黒煙が発生することがあるが、これは煙突に設けられたセンサー20で検知され、送気量を増やすことで解消される。
【0032】
したがって、たとえオイルエレメント1の開口部となる流通孔4a、4bが小さなものであっても内部に残留するオイルやオイルフィルターなどの有機物は、高温により完全に燃焼されあるいは炭化されて、ガスまたは無機物となる。
【0033】
そして、このように燃え尽きてしまえば、焼却炉の扉2を開放して処理された廃オイルエレメント1…を燃焼部11aから取り出し、続いて新たな廃オイルエレメント1…を投入し、扉2を閉めて再び燃焼を開始するのである。
【0034】
したがって燃焼を終えた後の廃オイルエレメント1…は、無機物のみの塊となるので、そのままでも金属としての再利用が可能となる。また、このオイルエレメントの処理方法は、廃オイルエレメント1…をいわば燃料として利用することも可能であり、浴場や温水プールの湯の熱源としても利用できる。
【発明の実施例】
【0035】
投入口11の開口幅2m、投入口11および燃焼部11aの合計高さ2m、奥行き0.7mの焼却炉であって、背後に図1〜図3に示す構造の煙道11bと熱交換器23を備えた温水ボイラーを構築した。この温水ボイラーの燃焼部11aに、ドラム缶2本に集積した廃オイルフィルター1…を投入した。
【0036】
次いでブロワー16を駆動すると共にバーナー14aにLPガスを供給して着火し、空気供給管14から送気しつつ燃焼を開始した。着火後1〜2分で、廃オイルエレメント1から流出した廃オイルおよびガスに引火し始め、炉内に火炎が次第に広がり始めた。この時点でバーナー14aの燃焼を中止し、以後は送気することにより廃オイルのみの燃焼に移行させた。。
【0037】
約3分経過後、火炎が焼却炉全体に広がると共に黒煙が発生し始めた。なお、これは黒煙検知センサー20により検知され、ブロワからの送気量を増すことでまもなく解消された。
燃焼開始から約10分経過後、炉内温度は850℃に達し、炉内全体が赤熱した状態となった。そのまま燃焼を継続し、50分経過後、オイルの燃え尽きのため次第に火勢が衰え始め、約1時間経過後、炉内に送気しているにもかかわらず火勢はかなり衰えた。
【0038】
その後、送気を止め、炉内の赤熱状態が収まるまで温度低下を待って扉12を開き、掻き出し棒で燃焼済みのオイルエレメントを炉外へ掻き出した。
炉外で常温まで冷却させた処理済の廃オイルエレメントを観察したところ、金属製よりなる筒状容器および内部部品は乾いた状態で灰色〜黒色となっていた。また、内部のフィルターは完全に炭化していた。
【0039】
したがって、これらは、いわゆるくず鉄としてそのまま再利用可能な状態となっていた。
また、温水ボイラーでは1時間経過時点で2tの水が沸騰するまで熱せられていた。
【0040】
以上説明したようにこの発明の方法によれば、従来廃棄処理が非常に面倒であったオイルエレメントを大量にかつ短時間で一気に処理することができる。しかも、この処理において燃焼時の熱を加熱用熱源として利用できるのでエネルギーの有効利用を図ることができるなど種々の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の方法を実施するオイルエレメントの処理用焼却炉の側断面図である。
【図2】 図1のA−A線矢視断面図である。
【図3】 図1のB−B線矢視断面図である。
【図4】 空気供給管の拡大断面図である。
【図5】 オイルエレメントの断面図である。
【図6】 オイルエレメントの底面図である。
【符号の説明】
1 オイルエレメント
10 廃オイルエレメントの処理用焼却炉
11 廃オイルエレメントの投入口
12 扉
11a 燃焼部
11b 煙道
11c 火格子
14 空気供給管
15 ダクト
16 空気供給用のブロワ
17 空気孔
20 黒煙検知センサー
23 熱交換器
24 温度計、水量計を備えたセンサー
25 貯湯タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の使用済みの廃オイルエレメントを焼却炉に投入し、バーナーにより加熱し、前記廃オイルエレメント内部に含まれるオイルを軟化流出あるいはガス化させ、次いでこれらに引火させ、以後は前記焼却炉内へ送気することによりこれらオイルまたはガスの自然燃焼により燃焼を継続させ、この燃焼により、前記使用済みの廃オイルエレメント内に含まれるオイルおよびフィルターなどの有機物を完全に燃焼させ、焼け残った前記廃オイルエレメントを前記燃焼炉から取り出し、これらを金属の再利用に供し得るように構成した廃オイルエレメントの処理方法。
【請求項2】
前記廃オイルエレメント内に含まれるオイルが自然燃焼し始めた後に前記バーナーの燃焼を停止させるようにした請求項1の廃オイルエレメントの処理方法。
【請求項3】
前記焼却炉が温水ボイラーの加熱炉である請求項1または2の廃オイルエレメントの処理方法。
【請求項4】
使用済みの廃オイルエレメントの投入口を備え、内部に多数の廃オイルエレメントを集積することのできる燃焼室と、この燃焼室内壁より前記オイルエレメントの集積体内に突き出されたバーナーと空気供給管と、前記燃焼室から燃焼ガスを排出する煙道とを備えてなる廃オイルエレメントの処理用焼却炉。
【請求項5】
煙道に水と熱交換する熱交換器が設けられてなる請求項4の廃オイルエレメントの処理用焼却炉。
【請求項6】
煙道に脱硫装置が設けられている請求項4または5の廃オイルエレメントの処理用焼却炉。
【請求項7】
煙道に塵灰除去装置が設けられている請求項4〜6いずれかの廃オイルエレメントの処理用焼却炉。
【請求項8】
煙道に黒煙検知センサが設けられ、黒煙検知により前記燃焼室内への送気量を増やす制御装置を有する請求項4〜7いずれかの廃オイルエレメントの処理用焼却炉。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−250519(P2006−250519A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112743(P2005−112743)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(593144231)株式会社野崎組 (1)
【Fターム(参考)】