説明

廃プラスチックから流動点降下潤滑油基油成分を調製する方法及びその使用

流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法は、ポリエチレンを含むプラスチック供給材料を約450℃〜約700℃の範囲の温度の熱分解帯において約3分〜約1時間の範囲の滞留時間で熱分解して、熱分解流出液を得るステップ;熱分解流出液の少なくとも一部を接触異性化脱ろう帯において異性化脱ろう触媒で異性化脱ろうして、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む異性化脱ろう流出液を得るステップ;及び約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を回収するステップを含む。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、潤滑油基油の潤滑特性(例えば、流動点)を改善するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラスチック供給材料から流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法に関する。より具体的には、本開示は、プラスチック供給材料を熱分解し、異性化することにより、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法に関する。本開示はさらに、潤滑油基油を流動点降下潤滑油基油ブレンド成分とブレンドすることにより、潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法、並びに流動点降下潤滑油基油ブレンド成分及び潤滑油基油を含む潤滑油基油ブレンドに関する。
【0002】
背景
自動車、ディーゼルエンジン、車軸、変速機及び産業上の用途に用いられる完成潤滑油は、2つの一般的な成分である潤滑油基油及び添加物からなっている。潤滑油基油は、これらの完成潤滑油における主成分であり、完成潤滑油の特性に著しく寄与している。一般的に、個々の潤滑油基油及び個々の添加剤の混合物を変化させることにより、いくつかの潤滑油基油を用いて様々な完成潤滑油を製造する。
【0003】
とくに、Original Equipment Manufacturers(OEM)、American Petroleum Institute)(API)、Association des Constructeurs d’Automobiles(ACEA)、American Society of Testing and Materials(ASTM)及びSociety of Automotive Engineers(SAE)などの多くの運営組織は、潤滑油基油及び完成潤滑油の仕様を規定している。完成潤滑油の仕様は、優れた低温特性、高い酸化安定性及び低い揮発性を有する製品をますます要求しつつある。現在のところ、今日製造されている潤滑油基油のわずかな割合のものがこれらの要求仕様を満たすことができるにすぎない。
【0004】
潤滑油基油は、100℃で約3cSt以上の、例えば、100℃で約4cSt以上の粘度、約9℃以下の、例えば、−15℃以下の流動点、及び通常約90以上の、例えば、約100以上の粘度指数(VI)を有する潤滑油基油である。一般的に、潤滑油基油は、現在の通常のグループI又はグループII中性軽油以下のノアク揮発度(Noack volatility)を有するべきである。グループII潤滑油基油は、300ppm以下の硫黄含量、90%以上の飽和分(saturates)及び80〜120のVIを有するものと規定されている。グループIII潤滑油基油は、300ppm以下の硫黄含量、90%以上の飽和分及び120を超えるVIを有するものと規定されている。
【0005】
潤滑油基油は、添加物の添加の前の上記の特性を有する炭化水素製品を意味する。添加物の1つのクラスは、流動点降下剤である。流動点は、潤滑油基油の動きが認められる最も低い温度である。完成潤滑油の適切な流動点仕様を満たすためには、流動点降下剤を添加することにより潤滑油基油の流動点を低下させることがしばしば必要である。流動点降下剤は、一般的に、大きいワックス結晶格子の形成を抑制することによって潤滑油基油中のパラフィンと相互作用するペンダント炭化水素鎖を有するポリマーである。それらは、一般的に、油中のワックス形成成分と共結晶化するワックス様パラフィン部分及び結晶成長を妨げる極性部分を有する。本技術分野で知られている流動点降下剤の例は、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、酢酸ビニルオレフィンコポリマー、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのアルキルエステル、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルキルフェノール及びα−オレフィンコポリマーである。多くの流動点降下剤は、環境温度で固体であり、使用前に溶媒で希釈しなければならない。通常の流動点降下剤は、高価であり、完成潤滑油を調製する費用にかなり加算される。
【0006】
したがって、流動点降下剤を調製する費用がより少ない方法が求められている。
【0007】
さらに、安価であり、容易に入手可能な原材料を使用する、流動点降下剤を調製する方法が求められている。流動点降下剤の大幅な収率をもたらす、流動点降下剤を調製する方法も求められている。
【0008】
概要
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法を本明細書に記載する。その最も広い側面において、該方法は、ポリエチレンを含むプラスチック供給材料を約450℃〜約700℃の範囲の温度の熱分解帯において約3分〜約1時間の範囲の滞留時間で熱分解して、熱分解流出液を得るステップ;熱分解流出液の少なくとも一部を接触異性化脱ろう帯において異性化脱ろう触媒で異性化脱ろうして、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む異性化脱ろう流出液を得るステップ;及び約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を回収するステップを含む。
【0009】
とりわけ、そのような方法は流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の大幅な収率をもたらすことが発見された。潤滑油基油に添加するとき、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、流動点を低下させることができる。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、潤滑油基油の粘度指数を増加させ、硫黄含量を低下させ、及び/又はノアク揮発度を低下させる可能性も有する。
【0010】
潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法も本明細書に記載する。そのような方法は、上述の方法により調製される流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を利用するものである。より具体的には、そのような方法は、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製するステップ及び潤滑油基油と流動点降下潤滑油基油ブレンド成分とをブレンドするステップを含む。
【0011】
潤滑油基油の潤滑特性を改善する他の方法も本明細書で開示する。この方法によれば、低い流動点を有する潤滑油基油ブレンドを提供するために、潤滑油基油を、熱分解され、触媒的に異性化脱ろうされたポリエチレンを含むプラスチック供給材料から回収され、約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する、十分な量の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分とブレンドする。
【0012】
潤滑油基油の潤滑特性を改善する他の方法を本明細書で開示する。それは、次のステップを含む:(a)熱分解されたポリエチレンを含むプラスチック供給材料に由来する熱分解済みプラスチック供給材料の少なくとも一部を接触異性化脱ろう帯において異性化脱ろう触媒と接触させることにより、熱分解済みプラスチック供給材料を異性化脱ろうして、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む異性化脱ろう流出液を得るステップ;(b)約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を回収するステップ;及び(c)潤滑油基油より低い流動点を有する潤滑油基油ブレンドを生成するために流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を潤滑油基油と適切な割合でブレンドするステップ。
【0013】
さらに、約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する、熱分解及び接触異性化脱ろうに付されたプラスチック供給材料の生成物であり、プラスチック供給材料がポリエチレンを含む、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を本明細書で開示する。
【0014】
最後に、上述のような流動点降下潤滑油基油ブレンド成分及び潤滑油基油を含む潤滑油基油ブレンドを本明細書に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本明細書で述べた流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法の概略の流れ図である。
【0016】
詳細な説明
定義
「廃プラスチック」又は「廃ポリエチレン」という用語は、使用に付され、廃物、廃棄物又はリサイクル用材料とみなされるプラスチック又はポリエチレンを意味する。
【0017】
「未使用プラスチック」又は「未使用ポリエチレン」という用語は、新しく、及び/又は新たに調製され、使用に付されなかったプラスチック又はポリエチレンを意味する。
【0018】
本明細書で用いているように、「添加物」は、完成潤滑油が該当する仕様に適合するように完成潤滑油における特定の特性を改善するために、潤滑油基油に添加される化学物質を意味する。
【0019】
「流動点」は、炭化水素画分(例えば、潤滑油基油又は流動点降下潤滑油基油ブレンド成分)が注意深く制御された条件下で流動し始める温度を意味する。本開示において、流動点を示す場合、特に断らない限り、流動点は、標準的な分析方法ASTM D−5950又は同等の分析方法により測定した。
【0020】
「曇り点」は、流動点と補完関係にあり、炭化水素画分(例えば、潤滑油基油又は流動点降下潤滑油基油ブレンド成分)が注意深く制御された条件下で曇りを発生し始める温度を意味する。本開示において、曇り点を示す場合、特に断らない限り、曇り点は、標準的な分析方法ASTM D−5773−95又は同等の分析方法により測定した。
【0021】
「動粘度」は、ASTM D−445又は同等の分析方法により測定した動粘度を意味する。
【0022】
「粘度指数」(VI)は、ASTM D−2270−93(1998)又は同等の分析方法により測定したVIを意味する。
【0023】
「同等の分析方法」は、標準的な分析方法(すなわち、ASTMの方法)により得られる結果と実質的に同じである結果を与える分析方法を意味する。
【0024】
本明細書で用いられる「中間細孔径」は、多孔性無機酸化物が焼成された形である場合の約5.3〜約6.5オングストロームの範囲の有効細孔開口部を意味する。
【0025】
「金属」又は「活性金属」は、元素状態又は硫化物、酸化物及びその混合物などのある種の形態の1つ又は複数の金属を意味する。金属成分が実際に存在する状態にかかわりなく、それらが元素状態で存在するものとして濃度を計算する。
【0026】
「分子量」は、ASTM D−2503−02又は同等の分析方法により測定した分子量を意味する。
【0027】
「沸点範囲」は、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の10%ポイントの範囲を意味する。本開示において、沸点範囲を測定するのに用いる方法は、沸点範囲が1000°Fを上回るのか、又は1000°Fを下回るのかに依存する。1000°Fを上回る沸点範囲を有する炭化水素の場合、沸点範囲は、標準的な分析方法D−6352又は同等の分析方法を用いて測定した。1000°Fを下回る沸点範囲を有する炭化水素の場合、沸点範囲は、標準的な分析方法D−2887又は同等の分析方法を用いて測定した。
【0028】
「10%ポイント」は、炭化水素画分中に存在する10重量%の炭化水素が大気圧で蒸発する温度を意味する。「フィッシャー−トロプシュ由来」は、付加される水素を除く、実質的な部分が、後の処理ステップにかかわりなく、フィッシャー−トロプシュ法由来である炭化水素流を意味する。
【0029】
「ノアク揮発度」は、炭化水素画分及び潤滑油基油が供用中に揮発する傾向を意味する。これは、通常、ASTM D5800−05手順Bに従って試験する。ノアク揮発度を計算するより簡便な方法及びASTM D5800−05とよく相関するものは、ASTM D6375−05による熱重量分析装置(TGA)試験を用いることによるものである。
【0030】
「アルキル分枝」は、一般式C2n+1を有する一価遊離基を意味する。本開示はいくつかのより大きい分枝の存在を排除しないが、一般的に、本明細書で述べる流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の分子に存在するアルキル分枝における「n」は、整数1、2又は3である(すなわち、アルキルはメチル、エチル又はプロピルである)。本明細書で述べる流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の分枝特性は、以下の7ステップ法に従って炭素13NMRを用いて油の試料を分析することにより測定することができる。方法の記述において引用する参考文献は、方法の各ステップの詳細を記載している。ステップ1及び2は、新たな方法からの最初の材料についてのみ実施する。
1)DEPTパルスシーケンスを用いてCH分枝中心及びCH分枝終結点を特定する(Doddrell,D.T.、D.T.Pegg、M.R.Bendall、Journal of Magnetic Resonance 1982、48巻、323頁以降)。
2)APTパルスシーケンスを用いて複数の分枝を開始する炭素(第四級炭素)の非存在を確認する(Patt,S.L.、J.N.Shoolery、Journal of Magnetic Resonance 1982、46巻、535頁以降)。
3)作表及び計算値を用いて種々の分枝炭素共鳴を特定の分枝位置及び長さに帰属させる(Lindeman,L.P.、Journal of Qualitative Analytical Chemistry 43巻、1971 1245頁以降;Netzel,D.A.ら、Fuel、60巻、1981、307頁以降)。

【表1】


4)その末端メチル炭素の積分強度を単一炭素の強度(=総積分/混合物中の分子当たりの炭素の数)と比較することにより、各種炭素位置における分枝出現の相対頻度を定量化する。末端及び分枝メチルの両方が同じ共鳴位置に存在する、2−メチル分枝の独特のケースについては、分枝出現の頻度の計算を行う前に強度を2で割った。4−メチル分枝の割合を計算し、表にする場合、二重計算を避けるために4+メチルへのその寄与を差し引かなければならない。
5)平均炭素数を計算する。平均炭素数は、試料の分子量を14(CHの式量)で割ることにより、潤滑油材料について十分な正確さで求めることができる。
6)分子当たりの分枝の数は、ステップ4で見いだされた枝の和である。
7)100個の炭素原子当たりのアルキル分枝の数を、分子当たりの分枝の数(ステップ6)×100/平均炭素数から計算する。
【0031】
測定は、フーリエ変換NMR分光計を用いて行うことができる。好ましくは、測定は、7.0T以上の磁石を有する分光計を用いて行う。すべての場合に、芳香族炭素が存在しなかったことを質量分析、UV又はNMR調査により確認した後、スペクトル幅を約0〜80ppm対TMS(テトラメチルシラン)の飽和炭素領域に限定した。クロロホルム−d1中15〜25重量パーセントの溶液を45度のパルスで、続いて0.8秒の取得時間により励起させた。不均一な強度データを最小限にするために、プロトンデカップラーを、励起パルス前の10秒遅延中はオフにし、取得中にはオンにした。総実験時間は、11〜80分であった。DEPT及びAPTシーケンスは、Varian又はBruker操作マニュアルに記載された軽微な改変を加えて、文献における記述に従って行った。
【0032】
DEPTは、分極移動による無歪み増強(Distortionless Enhancement by Polarization Transfer)である。DEPTは、第四級を示さない。DEPT 45シーケンスは、プロトンに結合したすべての炭素にシグナルを与える。DEPT 90は、CH炭素のみを示す。DEPT 135は、CH及びCHを上に、CHを相から180度(下)に示す。APTは、結合プロトン試験(Attached Proton Test)である。これは、すべての炭素を見ることを可能にするが、CH及びCHが上にある場合、第四級及びCHは下にある。これらのシーケンスは、すべての分枝メチルが対応するCHを有すはずであるという点で有用である。そして該メチルは、化学シフト及び相により明確に同定される。両方が引用した参考文献に記載されている。各試料の分枝特性は、試料全体がイソパラフィン性であるという計算上の仮定を用いてC−13NMRにより測定することができる。様々な量で油試料中に存在した可能性があるn−パラフィン又はナフテンについては、補正は行わなかった。ナフテン含量は、電界イオン化質量分析(FIMS)を用いて測定することができる。
【0033】
FIMS分析は、試験する少量(約0.1mg)の潤滑油基油をガラス毛細管に入れることにより行った。毛細管を質量分析計の固体プローブの先端部に設置し、プローブを約10−6トールで操作した質量分析計で1分当たり100℃で約50℃から600℃まで加熱した。用いた質量分析計は、Micromass飛行時間型質量分析計であった。エミッターは、Fl操作用に設計されたCarbotec 5umエミッターであった。ロックマス(lock mass)として用いたペンタフルオロクロロベンゼンの一定流量を細い毛細管を介して質量分析計に供給した。重量パーセントを面積パーセントから直接求めるように、すべての化合物型の応答因子を1.0と仮定した。
【0034】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法
プラスチック供給材料から流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法を本明細書で開示する。そのような方法は、熱分解ステップ、接触異性化脱ろうステップ及び回収ステップを含む。熱分解ステップ中、プラスチック供給材料が熱分解されて、熱分解流出液が得られる。接触異性化脱ろうステップ中、熱分解流出液の少なくとも一部が異性化脱ろう触媒により異性化されて、異性化脱ろう流出液が得られる。この異性化脱ろう流出液は、ワックスであり、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む。回収ステップ中、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分が回収される。
【0035】
図1は、本明細書で述べる、その最も広い側面による方法の概略の流れ図である。図1に示すように、プラスチック供給材料10が熱分解条件が存在する熱分解帯20に入り、供給材料10が熱分解流出液30に熱分解される。次に、熱分解流出液40の少なくとも一部が、熱分解流出液40が異性化脱ろう流出液60に異性化される接触異性化脱ろう帯50に入ることができる。異性化脱ろう流出液60は、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む。
【0036】
分離ステップは、熱分解ステップの後、接触異性化脱ろうステップの後、又は熱分解ステップ及び接触異性化脱ろうステップの両方の後に行うことができる。
【0037】
分離ステップを熱分解ステップの後に行う場合、熱分解流出液30を流れ70を介して第1の分離帯80に最初に通す。この分離帯80において、熱分解流出液が参照番号90及び100により示されるような2つ又はそれ以上の流れに分離される。次に、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を生成する可能性を有する流れであり、本明細書で100と呼ぶこれらの流れの1つを接触異性化脱ろう帯50に送ることができる。
【0038】
あるいは又はさらに、分離ステップを異性化脱ろうステップの後に行うことができる。そのような分離ステップは、第2の分離帯110により図1に示す。この分離帯110は、異性化脱ろう流出液60を2つ又はそれ以上の画分120及び130に分別し、それにより、異性化脱ろう流出液60から流動点降下潤滑油基油ブレンド成分130を回収するために、接触異性化脱ろう帯50の次にあってよい。この場合、画分120をさらに処理して、さらなる価値のある生成物を得ることができる。しかし、分離ステップを熱分解ステップと接触異性化脱ろうステップとの間で用いる場合、異性化脱ろう流出液60は、接触異性化脱ろうステップの後の分離ステップが必要でないような流動点降下潤滑油基油ブレンド成分であり得ることに注意すべきである。
【0039】
熱分解ステップ
プラスチック供給材料から流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法における第1のステップは、熱分解ステップである。これは、プラスチック供給材料の少なくとも一部が分解され、それにより熱分解流出液を生成する、熱分解条件の熱分解帯でプラスチック供給材料を接触させることを含む。
【0040】
本明細書で述べる方法は、プラスチック供給材料を用いるため有利である。プラスチック供給材料は、廃プラスチック、未使用プラスチック及びその混合物からなる群から選択することができる。
【0041】
廃プラスチックは、容易に入手可能な安価な原材料であり、深刻な環境問題である。米国環境保護庁(USEPA)の固形廃棄物局(Office of Solid Waste)からの最新の報告書によれば、米国におけるプラスチック包装の約62%がポリエチレン製である。報告書は、プラスチック廃棄物(リサイクル後)が1970年に年間わずか400万トンと比べて1995年に年間約1800万トンと最も早く成長しつつある廃棄物であることをさらに述べている。したがって、本方法は、費用対効果が高いだけでなく、環境にやさしいものでもあり得る。
【0042】
プラスチック供給材料
上述のように、プラスチック供給材料は、廃プラスチック、未使用プラスチック及びその混合物からなる群から選択することができる。プラスチック供給材料に廃プラスチックを使用することは本方法の費用の削減となるが、廃プラスチックを使用することは必要でない。したがって、プラスチック供給材料は、未使用プラスチックを全面的に含んでいてよい。
【0043】
プラスチック供給材料は、ポリエチレンも含んでいてよい。プラスチック供給材料がポリエチレンを含む場合、ポリエチレンは、廃ポリエチレン、未使用ポリエチレン及びその混合物からなる群から選択することができる。さらに、プラスチック供給材料がポリエチレンを含む場合、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン及びその混合物からなる群から選択することができる。プラスチック供給材料は、約80重量%〜約100重量%のポリエチレン、例えば、約95重量%〜約100重量%のポリエチレンを含んでいてよい。
【0044】
本明細書で開示した方法の1つの態様において、プラスチック供給材料は、フィッシャー−トロプシュ由来ワックスをさらに含んでいてよい。そのようなフィッシャー−トロプシュ由来ワックスは、1000°F+範囲で沸騰する大量の物質を含み得るものであり、したがって、潤滑油基油に関連する一般的な沸点範囲(すなわち、おおむね650〜1000°F)をおおむね上回る範囲で沸騰させ得る。熱分解により、そのようなフィッシャー−トロプシュ由来ワックスの沸点範囲が潤滑油基油の沸点範囲に低下し得るので、そのようなフィッシャー−トロプシュ由来ワックスをプラスチック供給材料に含めることができる。フィッシャー−トロプシュ由来ワックスを含めることは規模の経済を活用するものであることを理解すべきである。
【0045】
一般的に、供給材料は、熱分解帯に輸送するために適切なサイズに粉砕し、次いで、固体を容器に供給する通常の手段により熱分解帯に輸送する。場合によって、粉砕されたプラスチック供給材料を加熱し、最初に溶媒に溶解することができる。次に、この加熱材料をオーガー又は他の通常の手段により熱分解帯に通すことができる。最初の供給の後、熱分解帯からの加熱液化供給材料の一部を場合によって除去し、供給材料を溶解するための熱源とするために供給材料にリサイクルすることができる。
【0046】
プラスチック供給材料は、廃プラスチックに通常関連するある種の混入物、例えば、紙ラベル及び金属キャップを含み得る。供給材料は、例えば、約20ppm未満の塩素も含み得る。本明細書で述べる方法の1つの態様において、供給材料中の塩素の実質的な部分は、供給材料に塩素捕捉化合物(例えば、炭酸ナトリウム)を加えることにより除去することができる。そのような塩素捕捉化合物は、熱分解帯中で塩素と反応して、塩化ナトリウムを生成し、これが熱分解帯の底部の残留物の一部となる。他の態様において、塩素吸着剤(例えば、アルミナ上ナトリウム)を熱分解帯から下流の蒸気ライン中で用いて、塩素を除去することができる。他の態様において、供給材料の塩素含量を約5ppm未満に減少させることができる。
【0047】
熱分解条件
熱分解帯中の熱分解条件は、約450℃〜約700℃、例えば、約450℃〜約600℃の温度を含み得る。一般的に、プラスチック供給材料は、約3分〜約1時間の熱分解帯中滞留時間を有する。
【0048】
通常の熱分解技術は、大気圧以上において操作する条件を示している。圧力を下方に調節することにより、望まれる生成物の収率を制御することができる。より軽質のワックスの熱分解流出液が望まれる場合、熱分解帯の圧力は、ほぼ大気圧、例えば、約0.75気圧〜約1気圧であるべきである。より重質のワックスの熱分解流出液が望まれる場合、熱分解帯の圧力は、大気圧以下、例えば、約0.75気圧以下、又は約0.5気圧以下であるべきである。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、熱分解帯の大気圧以下の圧力を用いたバッチ熱分解方式で操作する場合、熱分解したプラスチックは上に向かい、二次的分解が起り得る前に熱分解帯から出て行き、結果として、より重質のワックスの収率がより大きくなると考えられる。
【0049】
熱分解帯の圧力は、真空により、又は例えば、窒素、水素、蒸気、メタン若しくは熱分解帯からリサイクルされる軽質分(light ends)から選択される不活性ガス(すなわち、熱分解帯において不活性のように挙動する)の添加により制御することができる。不活性ガスは、プラスチックのガス状生成物の分圧を低下させる。熱分解帯生成物の重量を制御するうえで重要なものは分圧である。
【0050】
熱分解流出液
熱分解流出液(液体部分)は、n−パラフィン及び一部のオレフィンを含む。熱分解流出液中の1−オレフィンの割合は、約25重量%〜約75重量%、例えば、約40重量%〜約60重量%であり得る。熱分解流出液は、望ましくないS、N及び芳香族化合物も含んでいる可能性がある。
【0051】
重要なことに、ワックスが熱分解流出液中に存在して、熱分解流出液が高い流動点を有する原因となる可能性がある。より具体的には、これらのワックスは、より高い分子量の直鎖ノルマル及びわずかに分枝状のパラフィン系ワックスである。したがって、より低い流動点を有し、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分として使用するのに適する画分を含むワックス性がより低い組成物に熱分解流出液を変換するために、さらなる処理が一般的に必要である。
【0052】
接触異性化脱ろうステップ
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法におけるさらなるステップは、接触異性化脱ろうステップである。接触異性化脱ろうは、接触脱ろうの一形態である。これは、ワックスを除去したり、ワックスを分解するのではなく、ワックスを異性化することにより、より低い流動点を実現するものである。異性化脱ろうは、米国特許第5,135,638号に教示されており、当文献は、全体として参照により本明細書に組み込まれている。本明細書で述べる方法の接触異性化脱ろうステップは、米国特許第5,135,638号に教示されているように実施することができ、当開示は、全体として参照により本明細書に組み込まれている。
【0053】
接触異性化脱ろうステップは、熱分解流出液の一部又はすべてを異性化脱ろう触媒により異性化するステップを含む。接触異性化脱ろうステップは、熱分解流出液中のワックスを減少させ、実質的に除き、又は完全に除き、より低い流動点及び高いVIを有する異性化脱ろう流出液を得るものである。異性化脱ろう流出液は、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分として有用であるような十分に低い流動点、十分に高いVI及び十分に高い沸点を有する画分を含む。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、VI改善剤(improver)としても有用である可能性がある。
【0054】
分離プロセスである溶媒脱ろうと異なり、接触異性化脱ろうは、n−パラフィンをイソパラフィンに変換する。このプロセスは、ワックスを分解のみによって除去するプロセスより低い流動点及び高いVIを有する異性化脱ろう流出液を発生させることができる。したがって、本方法の接触異性化脱ろうステップは、ワックスの変換がより高く、これがより大きい流動点低下をもたらすため、有利である。
【0055】
しかし、当業者は、より高いワックス変換がより高い収率損失をもたらすことを認識するであろう。したがって、熱分解流出液の少なくとも一部を異性化するに際して、流動点と収率とをバランスさせなければならない。
【0056】
異性化脱ろう流出液
異性化脱ろう流出液は、約900°F〜約1100°F、例えば、約950°F〜約1100°Fの沸点範囲を有する画分を含む。そのような画分は、約12cSt〜約18cStの100℃での動粘度を有し得る。そのような画分は、さらに約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有し得る。より具体的には、そのような画分は、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分である。この画分と他の画分は、通常の分離プロセスにより分離することができる。他の画分(例えば、より低沸点又はより軽質画分)は、処理して、その潤滑特性が本明細書で述べる方法により改善される潤滑油基油などの他の有用な生成物を生成させることができる。
【0057】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、約130〜約180の範囲のVIを有し得る。したがって、これは、完成潤滑油のVIを増加させることもできる。
【0058】
本明細書で開示する流動点降下潤滑油基油ブレンド成分が異性化脱ろう流出液の実質的な部分であるので、本方法は、フィッシャー−トロプシュワックスから流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を製造する方法より有利である。一般的に、フィッシャー−トロプシュ由来ワックスの処理は、10重量%未満の量の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を有する生成物をもたらすにすぎない。しかし、本明細書で述べる方法は、より大きいパーセントの流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む生成物をもたらすことができる。これは、プラスチック供給材料の分子量範囲がフィッシャー−トロプシュ由来ワックスの分子量範囲よりはるかに大きく、一般的に数千倍又はそれ以上大きい可能性があるためである。したがって、熱分解条件を調節することにより、かなりの量の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を製造することが可能である。
【0059】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は異性化脱ろう流出液の少なくとも約10重量%であることができる。あるいは、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は異性化脱ろう流出液の少なくとも約20重量%であることができる。他の選択肢として、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は異性化脱ろう流出液の少なくとも約30重量%であることができる。
【0060】
本方法は、安価であり、容易に入手可能である廃プラスチックをプラスチック供給材料に含めることができるため、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を製造する他の方法より有利でもある。
【0061】
異性化脱ろう触媒
異性化接触脱ろうは、異性化脱ろうが可能なあらゆる固体触媒又は固体触媒の混合物を含む。触媒は、中間細孔径分子ふるい又は複数の種類の中間細孔径分子ふるいの混合物であってよい。中間細孔径を有する分子ふるいは、独特の分子ふるい特性を有する傾向がある。エリオナイト及びチャバザイトなどの小細孔ゼオライトと異なり、それらは、ある程度の分枝を有する炭化水素が分子ふるいの空隙に入ることを可能にする。フォージャサイト及びモルデナイトなどのより大きい細孔のゼオライトと異なり、それらは、n−アルカン及びわずかに分枝したアルカンと例えば、第四級炭素原子を有するより大きい分枝アルカンとを区別することができる。
【0062】
分子ふるいの有効細孔径は、標準的吸着技術及び既知の最小動的分子径の炭化水素性化合物を用いて測定することができる。Breck、Zeolite Molecular Sieves、1974(特に第8章);Andersonら、J.Catalysis、58巻、114頁(1979);及び米国特許第4,440,871号(これらの文献の関連部分は参照により本明細書に組み込まれている)を参照のこと。細孔径を測定するために吸着測定を実施するに際して、標準的技術を用いる。特定の分子が約10分未満に分子ふるい上のその平衡吸着値の少なくとも95%に達しない場合、その分子は排除されたとみなすことが都合がよい(p/po=0.5;25℃)。
【0063】
中間細孔径分子ふるいは、5.3〜6.5オングストロームの動的分子径を有する分子をほとんど障害なしに一般的に収容する。そのような化合物(及びそれらのオングストローム単位の動的分子径)の例は、n−ヘキサン(4.3)、3−メチルペンタン(5.5)、ベンゼン(5.85)及びトルエン(5.8)である。6〜6.5オングストロームの範囲の動的分子径を有する化合物は、個々のふるいによっては、細孔内に入ることができるが、侵入速度はそれほど速やかではなく、場合によっては完全に排除される。6〜6.5オングストロームの範囲の動的分子径を有する化合物は、シクロヘキサン(6.0)、2,3−ジメチルブタン(6.1)及びm−キシレン(6.1)などである。一般的に、約6.5オングストロームを超える動的分子径を有する化合物は、細孔開口部に侵入せず、したがって、分子ふるい格子の内部に吸収されない。そのようなより大きい化合物の例は、o−キシレン(6.8)、1,3,5−トリメチルベンゼン(7.5)及びトリブチルアミン(8.1)などである。
【0064】
1つの態様において、有効細孔径範囲は、約5.5〜約6.2オングストロームである。上述の有効細孔径は本発明の実施上重要であるが、そのような有効細孔径を有するすべての中間細孔径分子ふるいが本明細書で開示する方法の実施において有利に使用できるとは限らない。実際に、本明細書で開示する方法の実施において用いられる中間細孔径分子ふるい触媒は、X線結晶解析により測定される非常に特異的な細孔形状及び細孔径を有することが必要である。第1に、結晶内チャンネルは、平行でなければならず、相互に連結されていてはならない。そのようなチャンネルは、通常、1−D拡散タイプ、又は短縮して1−D細孔と呼ばれる。1−D、2−D及び3−Dなどのゼオライト内チャンネルの分類は、分類がその全体として参照により本明細書に組み込まれている(特に75頁参照)、R.M.Barrer、in Zeolites、Science and Technology、F.R.Rodrigues、L.D.Rollman及びC.Naccache編、NATO ASI Series、1984により示されている。既知の1−Dゼオライトは、カンクリナイト、ハイドレート、ラウモンタイト、マザイト、モルデナイト及びゼオライトLなどである。
【0065】
しかし、上に示した1−D細孔ゼオライトのいずれも、本方法の実施において有用な触媒に関する第2の必須の基準を満たしていない。この第2の必須の基準は、細孔は一般的に形状が楕円でなければならないことであり、これは細孔が本明細書で短軸及び長軸と呼ぶ2つの不等軸を示さなければならないということを意味する。本明細書で用いる楕円という用語は、特定の楕円又は長円形が必要であることを意味するのではなく、細孔が2つの不等軸を示すことを意味する。特に、本方法の実施において有用な触媒の1−D細孔は、通常のX線結晶解析測定により測定される約3.9オングストローム〜約4.8オングストロームの短軸及び約5.2オングストローム〜約7.0オングストロームの長軸を有さなければならない。
【0066】
異性化プロセスに用いる触媒は、酸性成分、並びに白金及び/又はパラジウム水素化成分を有する。1つの態様によれば、酸性成分は、関連する開示が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4,440,871号に記載されている中間細孔径のシリコアルミノリン酸塩分子ふるいを適切に含んでいてよい。
【0067】
中間細孔径のシリコアルミノリン酸塩分子ふるいは、SAPO−11、例えば、SM−3(文献が全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第5,208,005号に教示されている)であってよい。他の適切な中間細孔径のシリコアルミノリン酸塩分子ふるいは、SAPO−31及びSAPO−41である。本明細書で述べる方法は、AlO及びPO四面体酸化物単位を含む中間細孔径非ゼオライト性分子ふるい、並びに少なくとも1つのVIII族金属を含む触媒を用いて実施することもできる。具体例としての適切な中間細孔径非ゼオライト性分子ふるいは、全体として参照により本明細書に組み込まれている欧州特許出願第158,977号明細書に示されている。
【0068】
本方法の中間細孔径ゼオライトの群は、ZSM−22、ZSM−23、SSZ−32(文献が全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第5,252,527号に教示されている)及びZSM−35を含む。これらの触媒は、一般的に、それらの束縛指数によって表されるそれらの内部構造の尺度に基づく中間細孔径触媒であるとみなされる。内部構造への出入の高度な制限をもたらすゼオライトは、束縛指数の高い値を有し、一方、ゼオライトの内部構造への比較的自由な侵入を可能にするゼオライトは、束縛指数の低い値を有する。束縛指数を測定する方法は、全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4,016,218号に十分に記述されている。
【0069】
約1〜約12の範囲内の束縛指数値を示すゼオライトは、中間細孔径ゼオライトとみなされる。この範囲内にあるとみなされるゼオライトは、ZSM−5、ZSM−11などである。しかし、中間細孔径ゼオライトを注意深く検討したところ、それらのすべてがC20+パラフィンに富む、例えば、C22+パラフィンに富むパラフィン含有原材料の異性化用の触媒として効率が高いとは限らないことが見いだされた。特に、VIII族金属と併用したZSM−22、ZSM−23及びZSM−35を含む群は、20個の炭素原子又はそれ以上の分子のパラフィン含量を有する炭化水素原材料が、原材料の最終的な歩留まりを減少させることなく、予想外に効率のよい異性化を受ける手段を提供し得ることが見いだされた。
【0070】
非常に多種多様な合成アルミノケイ酸塩の生成のために従来技術の手法を用いることが知られている。これらのアルミノケイ酸塩は、文字又は他の都合のよい記号により示されるようになった。本方法の適切なゼオライトの1つであるZSM−22は、四面体におけるすべての酸素原子がケイ素又はアルミニウムの四面体原子間で共有され、主としてSiOの網目構造(すなわち、結晶内陽イオンを除く)とともに存在し得るときに生ずる、結晶性3次元連続骨格ケイ素含有構造又は結晶を含む高度にケイ酸質の物質である。ZSM−22の記述は、米国特許第4,556,477号、米国特許第4,481,177号及び欧州特許出願第102,716号明細書に完全に示されている。これらの文献は、それらの全体として参照により本明細書に組み込まれている。
【0071】
さらに、合成されたままのZSM−22の最初の陽イオンは、通常のイオン交換技術を用いて他のイオンにより少なくとも一部置換することができる。イオン交換の前に、ZSM−22ゼオライト結晶を前焼成することが必要であり得る。置換イオンは、周期表のVIII族、特に、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ロジウム及びルテニウムから選択されるものである。
【0072】
ZSM−22は、正ヘキサンを自由に吸着し、約4オングストロームより大きい細孔寸法を有する。さらに、該ゼオライトの構造は、より大きい分子の侵入の抑制をもたらす。文献が全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4,016,246号に示されている手順により測定される、ZSM−22の束縛指数は、約2.5〜約3.0と測定された。
【0073】
用いることができる他のゼオライトは、内容が全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4,076,842号に開示されているZSM−23と呼ばれる合成結晶性アルミノケイ酸塩である。ZSM−22と同様に、合成されたままのZSM−23の最初の陽イオンは、本技術分野でよく知られている技術により少なくとも一部を他の陽イオンとのイオン交換により、置換することができる。本方法において、これらの陽イオンは、上述のようなVIII族金属を含む。用いることができる他の分子ふるいは、例えば、両方が全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4,533,649号及び第4,836,910号に記載されているようなシータ−1、全体として参照により本明細書に組み込まれている欧州特許出願第065,400号明細書に記載されているようなNu−10、及び全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4,483,835号に記載されているようなSSZ−20などである。成功であることが認められた他の中間細孔径ゼオライトは、内容が全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4,016,245号に開示されているZSM−35である。合成されたままのZSM−35の最初の陽イオンは、他の陽イオンとのイオン交換を含む、本技術分野でよく知られている技術を用いて除去することができる。本方法において、陽イオン交換を用いて、合成されたままの状態の陽イオンを上述したVIII族金属で置換する。
【0074】
中間細孔径分子ふるいは、少なくとも1つのVIII族金属と混合して用いる。VIII族金属は、白金及びパラジウムの少なくとも1つ、並びに場合によって、モリブデン、ニッケル、バナジウム、コバルト、タングステン、亜鉛及びその混合物などの他の触媒活性を有する金属からなる群から選択することができる。1つの態様において、VIII族金属は、白金及びパラジウムの少なくとも1つからなる群から選択される。金属の量は、分子ふるいの約0.01重量%〜約10重量%、例えば、分子ふるいの約0.2重量%〜約5重量%の範囲であってよい。触媒活性を有する金属を分子ふるいに導入する技術は、文献に開示されており、先在性金属組み込み技術及びイオン交換などの活性触媒を生成させるための分子ふるいの処理、ふるい調製時の含浸又は吸蔵が本方法に使用するのに適している。そのような技術は、全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第3,236,761号、第3,226,339号、第3,236,762号、第3,620,960号、第3,373,109号、第4,202,996号、第4,440,781号及び第4,710,485号に開示されている。
【0075】
比較的小さい結晶径の触媒を本方法を実施するのに用いることができる。1つの態様において、平均結晶径は、約10mu以下である。他の態様において、平均結晶径は、約5mu以下である。他の態様において、平均結晶径は、約1mu以下である。他の態様において、平均結晶径は、約0.5mu以下である。
【0076】
触媒は、触媒上の強酸部位の数を減少させ、それにより、分解対異性化の選択性を低くする金属を含んでいてもよい。本明細書で述べる方法の1つの態様において、金属は、マグネシウム及びカルシウムなどのIIA族金属である。
【0077】
強酸性はまた、窒素化合物、例えば、NH又は有機窒素化合物を供給材料に導入することによって低下させることができるが、総窒素含量は、50ppm未満、例えば、10ppm未満とすべきである。触媒の物理的形態は、用いる触媒反応器の種類によって決まり、顆粒又は粉末の形であってよく、また望ましくは、流動層反応用にシリカ若しくはアルミナ結合剤を通常用いて、より容易に使用できる形(例えば、より大きい凝集体)、すなわち、丸剤、小球、球、押出成形物、又は十分な触媒−反応物接触に調和する制御されたサイズの他の形状に圧縮する。
【0078】
触媒は、流動触媒として、又は固定若しくは移動層で、また1つ若しくは複数の反応段階で用いることができる。
【0079】
接触異性化脱ろう段階に用いる中間細孔径分子ふるいは、ワックス成分の非ワックス成分への選択的変換をもたらす。処理中、パラフィンの異性化が起って、油の流動点を供給材料の流動点未満に低下させ、優れた粘度指数特性を有する低流動点生成物に寄与する潤滑油沸点範囲材料を生成させる。中間細孔径分子ふるいの選択性のため、低沸点生成物の収率が低下し、それにより、原材料の経済的価値が維持される。
【0080】
中間細孔径分子ふるい触媒は、様々な物理的形態に製造することができる。分子ふるいは、粉末、顆粒又は2メッシュ(タイラー)ふるいを通過し、40メッシュ(タイラー)ふるい上に保持されるのに十分な粒径を有する押出し成形物などの成形生成物の形であってよい。結合剤を用いた押出しによるなどの触媒を成形する場合に、シリコアルミノリン酸塩は、乾燥する前に押し出すか、または乾燥するかもしくは部分的に乾燥し、次に押し出すことができる。
【0081】
分子ふるいは、接触異性化脱ろう帯に用いる温度及び他の条件に抵抗性を示す他の材料と複合させることができる。そのようなマトリックス材料は、活性及び不活性材料、並びに合成又は天然ゼオライト、並びにクレー、シリカ及び金属酸化物などの無機材料などである。後者は、天然に存在するものであるか、又はシリカ及び金属酸化物の混合物を含む、ゼラチン状沈殿物、ゾル若しくはゲルの形であってよい。不活性材料は、反応の速度を制御する他の手段を用いずに生成物を経済的に得ることができるように、接触異性化脱ろうステップにおける変換の量を制御するための希釈剤として適切に機能する。分子ふるいは、天然に存在するクレー、例えば、ベントナイト及びカオリンに混入することができる。これらの材料、すなわち、クレー、酸化物などは、触媒の結合剤として部分的に機能する。石油精製において、触媒は、触媒を破壊して、処理上の問題をもたらす粉末状物質にする傾向のある乱暴な取扱いをしばしば受けるため、良好な破砕強さを有する触媒を提供することが望ましい。
【0082】
分子ふるいと複合させることができる天然に存在するクレーは、モンモリロナイト及びカオリンファミリーを含み、それらのファミリーは、サブベントナイト、並びにDixie、McNamee、Georgia及びFloridaクレーとして一般的に知られているカオリン又は主な鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ジオカイト(diokite)、ナクライト若しくはアナウキサイトである他のものを含む。ハロイサイト、セピオライト及びアタプルガイトなどの繊維性クレーも担体として用いることができる。そのようなクレーは、最初に採掘されたままの、または焼成、酸処理もしくは化学的修飾に最初に付されたままの、生の状態で用いることができる。
【0083】
前述の材料に加えて、分子ふるいは、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア、シリカ−ベリリア、シリカ−チタニア、チタニア−ジルコニアなどの多孔性マトリックス材料及びマトリックス材料の混合物、並びにシリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−マグネシア及びシリカ−マグネシア−ジルコニアなどの三成分組成物と複合させることができる。マトリックスは、共ゲルの形であってよい。
【0084】
本方法に用いる触媒は、合成及び天然フォージャサイト、(例えば、X及びY)エリオナイト及びモルデナイトなどの他のゼオライトとも複合させることができる。それは、ZSM系列のものなどの純粋に合成のゼオライトとも複合させることができる。ゼオライトの組合せも多孔性無機マトリックス中で複合させることができる。
【0085】
接触異性化脱ろう条件
本明細書で述べる本方法の接触異性化脱ろうステップは、供給材料を、触媒の固定静止層、固定流動層又は移動層を含む接触異性化脱ろう帯に接触させることによって実施することができる。1つの態様において、構成は、供給材料を例えば、水素の存在下で静止固定層を通して滴下させる、トリクルベッド操作である。
【0086】
接触異性化脱ろう帯に用いる条件は、用いる供給材料及び流出液の望まれる流動点に依存する。一般的に、温度は、約200℃〜約475℃、例えば、約250℃〜約450℃である。圧力は、一般的に約15psig〜約2000psig、例えば、約50psig〜約1000psig又は約100psig〜約600psigである。方法は、低圧で実施することができる。LHSVは、約0.1〜約20、例えば、約0.1〜約5又は約0.1〜約1.0であってよい。低い圧力及び低い液時空間速度は、供給材料のより多くの異性化とより少ない分解をもたらし、ひいては収率の増加をもたらす、異性化選択率の増大をもたらす。
【0087】
本明細書で述べる方法により潤滑油基油の潤滑特性(例えば、流動点)を改善するために流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を用いるとき、潤滑油基油ブレンドの流動点を、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の流動点及び潤滑油基油の流動点の両方を下回る値に低下させることができることが見いだされた。したがって、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の流動点を潤滑油基油ブレンドの目標流動点に低下させることは必要でない可能性がある。したがって、異性化の実際の程度は、さもなければ予想されるものほど高い必要がない可能性があり、接触異性化脱ろう帯は、より低い厳しさで操作することができ、分解がより少なく、収率損失がより少なくなる可能性がある。さらに、接触異性化脱ろう帯に入る流れは、過度に異性化させるべきでなく、そうでない場合には、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分として用いるのに適する高沸点画分を生成させるその能力が損なわれることになることが見いだされた。
【0088】
1つの態様において、水素は、接触異性化脱ろうステップ中接触異性化脱ろう帯に存在する。水素対供給材料比は、約500〜約30000SCF/bbl、例えば、約1000〜約10000SCF/bblであってよい。一般的に、水素は、流出液から分離され、接触異性化脱ろう帯にリサイクルされる。
【0089】
任意の水素化仕上げ
接触異性化脱ろうステップの後に水素化仕上げと呼ばれる温和な水素化を用いることが望ましい場合がある。したがって、異性化脱ろう流出液を場合によって水素化仕上げして、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む、より安定な生成物を生成させることができる。したがって、任意の水素化仕上げステップは、接触異性化脱ろうステップに続いていてよい。
【0090】
水素化仕上げは、一般的に、約190℃〜約340℃の範囲の温度で、約400psig〜約3000psigの圧力で、約0.1〜約20の空間速度(LHSV)で、約400〜約1500SCF/bblの水素リサイクル率で行う。
【0091】
適切な水素化触媒としては、通常の金属水素化触媒、特にコバルト、ニッケル、パラジウム及び白金などのVIII族金属などが挙げられる。金属は、一般的にボーキサイト、アルミナ、シリカゲル、シリカ−アルミナ複合体及び結晶性アルミノケイ酸塩ゼオライトなどの担体を伴う。本明細書で述べる方法の1つの態様において、水素化金属は、パラジウムである。望まれる場合、VIII族非貴金属をモリブデン酸塩とともに用いることができる。金属酸化物又は硫化物を用いることができる。適切な触媒は、文献が全体として参照により本明細書に組み込まれている米国特許第3,852,207号、第4,157,294号、第3,904,513号及び第4,673,487号に開示されている。
【0092】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分
上述のように、本明細書で述べる方法は、プラスチック供給材料から流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を製造するものである。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、約900〜1100°Fの沸点範囲及び約−15〜0℃の流動点を有する高沸点画分である。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分はまた、約12〜18cStの100℃での動粘度を有し得る。
【0093】
潤滑油基油、例えば、グループII又はグループIII軽又は中間中性潤滑油基油に少量加えるとき、そのような高沸点画分は、流動点降下剤として有用である。そのような高沸点画分を潤滑油基油に加えるとき、完成潤滑油の流動点を、高沸点画分(別名は流動点降下潤滑油基油ブレンド成分)の流動点及び潤滑油基油の流動点の両方より低くすることができることが発見された。したがって、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の流動点を完成潤滑油の目標流動点に低下させることは通常必要でない。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の異性化の実際の程度は、さもなければ予想されるものほど高くなくてよい。一般的に、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の分子における分枝の平均の程度は、100個の炭素原子当たり少なくとも5つのアルキル分枝であり得る。1つの態様において、分枝の平均の程度は、100個の炭素原子当たり約6〜約8つのアルキル分枝であり得る。
【0094】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、約130〜180のVIも有し得る。結果として、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、潤滑油基油に少量添加するとき、VI改善剤としても有用であり得る。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分をVI改善剤として用いることにより、完成潤滑油を製造するために潤滑油基油に添加しなければならない通常の粘度指数改善剤の量が著しく減少する。例えば、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、自動車エンジンオイル製剤に用いられる通常のVI改善剤の量の最大20%の代用とすることができることがわかった。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を用いることにより、通常のVI改善剤を用いることに伴う費用を低減することができるので、これは有利である。通常のVI改善剤はエンジン沈着物の一因であるので、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分をVI改善剤の一部の代用とすることにより、そのような沈着物を減少させ、エンジンをより長期間にわたり清浄な状態にすることができるという理由から、これはさらに有利である。
【0095】
さらに、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、それが添加される潤滑油基油の硫黄含量を低下させる可能性を有する。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を潤滑油基油とブレンドすることにより、潤滑油基油の硫黄含量が低下し得る。例えば、流動点降下潤滑油基油は、潤滑油基油が実際に硫黄仕様を満たすように、硫黄仕様をほぼ満たしている下限に近い硫黄含量を有する通常の石油由来の潤滑油基油とブレンドすることができる。この特性は、300ppm以下の硫黄を含まなければならないグループII潤滑油基油について特に重要である。
【0096】
さらに、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、非常に低いノアク揮発度により特徴づけることができる。したがって、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、それがブレンドされる潤滑油基油のノアク揮発度を低下させる可能性がある。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分が実際にノアク揮発度を低下させるかどうかは、用いる流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の量に依存する。
【0097】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の平均分子量は、少なくとも600であってよい。例えば、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の平均分子量は、少なくとも700又は少なくとも800であってよい。
【0098】
1つの態様において、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、少なくとも約30重量%、例えば、少なくとも約40重量%又は少なくとも約50重量%のパラフィン含量を有する。
【0099】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、本質的に無極性である点が本技術分野で知られている流動点降下剤と異なる。本明細書で述べる流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の利点の1つは、通常の意味での添加物でない点である。むしろ、それは、プラスチック供給材料の熱分解及び接触異性化脱ろう後に回収される高沸点画分である。したがって、それは、通常の添加物の使用に関連づけられた問題に結びつかない。
【0100】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、容易に入手可能で、安価な供給源である廃プラスチックから製造され得るため、他の流動点降下剤より改善されたものでもある。
【0101】
潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法
潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法も本明細書で開示する。該方法は、(1)本明細書で述べる方法により流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製するステップ及び(2)流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を潤滑油基油とブレンドするステップを含む。流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を潤滑油基油とブレンドすることにより、潤滑油基油ブレンドが得られる。
【0102】
ブレンド方法は、本技術分野で知られている。あらゆる通常のブレンド方法を用いることができる。
【0103】
潤滑油基油ブレンド
上の方法により製造された潤滑油基油ブレンドは、潤滑油基油と同様に用いることができる。例えば、本明細書で述べる潤滑油基油ブレンドは、エンジンオイルとして用いることができる。
【0104】
潤滑油基油ブレンドは、潤滑油基油の流動点より低い流動点を有する。潤滑油基油ブレンドは、潤滑油基油の流動点より少なくとも3℃低い流動点を有していてよい。あるいは、潤滑油基油ブレンドは、潤滑油基油の流動点より少なくとも6℃低い流動点を有していてよい。他の選択肢として、潤滑油基油ブレンドは、潤滑油基油の流動点より少なくとも9℃低い流動点を有していてよい。潤滑油基油ブレンドは、約−9℃を下回る流動点を有し得る。あるいは、潤滑油基油ブレンドは、約−15℃以下の流動点を有し得る。
【0105】
さらに、潤滑油基油ブレンドは、潤滑油基油のVIより高いVIを有し得る。例えば、潤滑油基油ブレンドは、潤滑油基油のVIより少なくとも3高いVIを有し得る。潤滑油基油ブレンドは、約90を超えるVIを有し得る。1つの態様において、潤滑油基油ブレンドのVIは、100又はそれより高くてよい。他の態様において、潤滑油基油ブレンドのVIは、110より高くてよい。
【0106】
潤滑油基油ブレンドは、約3cStより高い100℃での動粘度を有し得る。1つの態様において、潤滑油基油ブレンドは、約3cSt〜約8cStの100℃での動粘度を有する。他の態様において、潤滑油基油ブレンドは、約3cSt〜約7cStの100℃での動粘度を有する。
【0107】
潤滑油基油ブレンドをエンジンオイルとして使用することを目的とする場合、曇り点は、0℃以下であってよい。
【0108】
ブレンドの前には、流動点の低下の程度は、それぞれ潤滑油基油及び流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の流動点を観測することによって予測することはできない。潤滑油基油ブレンドの流動点は、潤滑油基油の流動点と流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の流動点の単に比例平均ではない可能性がある。それどころか、潤滑油基油ブレンドの流動点が、予想されるより著しく低い可能性があり、多くの場合に、ブレンドの個々の成分の流動点より低い可能性があることを意味するプレミアムが認められる。これは、流動点降下ブレンド成分が潤滑油基油ブレンドの3.5重量%以下を含むときにも該当し得る。
【0109】
さらに、ブレンドの前には、VIの増加の程度は、それぞれ潤滑油基油及び流動点降下潤滑油基油ブレンド成分のVIを観測することによって予測することはできない。流動点と同様に、潤滑油基油ブレンドのVIは、潤滑油基油と流動点降下潤滑油基油ブレンド成分のVIの単に比例平均ではない可能性がある。それよりもむしろ、潤滑油基油ブレンドのVIが、予想されるより著しく高い可能性があり、多くの場合に、ブレンドの個々の成分のVIより高い可能性があることを意味するプレミアムが認められる。VIのそのような増加があるため、グループIIプラス潤滑油基油、すなわち、110〜120のVIを有する潤滑油基油からグループIII潤滑油基油、すなわち、120より大きいVIを有する潤滑油基油を製造することが可能になる。グループIIプラス潤滑油基油も、約110未満のVIを有するグループII潤滑油基油から調製することができる。
【0110】
潤滑油基油ブレンドの望ましい曇り点は、潤滑油基油ブレンド中の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の量を決定し得る。潤滑油基油ブレンドについて曇り点をできる限り低く維持することが通常望ましい。したがって、潤滑油基油ブレンドの望まれる流動点を満たすのに十分な流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の最小限の量を潤滑油基油とブレンドすることができる。
【0111】
潤滑油基油ブレンドの望まれるVIも潤滑油基油ブレンド中の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分の量を決定し得る。上述のように、流動点降下潤滑油基油成分は、潤滑油基油ブレンドの流動点を低下させるだけでなく、潤滑油基油ブレンドの粘度も増加させ得る。したがって、潤滑油基油とブレンドする流動点降下潤滑油基油成分の量は、潤滑油基油ブレンドの望まれる粘度によって制限され得る。
【0112】
潤滑油基油ブレンドは、約15重量%以下の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含んでいてよい。あるいは、潤滑油基油ブレンドは、7重量%以下の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含んでいてよい。他の選択肢として、潤滑油基油ブレンドは、3.5重量%以下の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含んでいてよい。
【0113】
本明細書で述べる方法により調製される潤滑油基油ブレンドは、通常の流動点降下剤と適合性がある。同様に、本明細書で述べる方法により調製される潤滑油基油ブレンドは、通常のVI改善剤と適合性がある。したがって、完成潤滑油を調製するために必要な場合、流動点及び/又はVIをさらに改善することを目的とする添加物を潤滑油基油ブレンドに加えることができる。流動点降下剤は、一般的に完成潤滑油の約0.1〜約1重量%を含んでいてよい。VI改善剤は、一般的に完成潤滑油の約0.1〜約1.0重量%を含んでいてよい。
【0114】
潤滑油基油
潤滑油基油は、通常の石油由来潤滑油基油、合成潤滑油基油、通常の石油由来潤滑油基油の混合物、合成潤滑油基油の混合物、又は通常の石油由来潤滑油基油(単数又は複数)と合成潤滑油基油(単数又は複数)の混合物であってよい。具体例としての合成潤滑油基油は、フィッシャー−トロプシュ合成から回収された潤滑油基油である。潤滑油基油は、軽中性潤滑油基油又は中間中性潤滑油基油であってよい。潤滑油基油は、グループII潤滑油基油又はグループIII潤滑油基油であってもよい。
【0115】
潤滑油基油は、約2.5cSt〜約7cSt、例えば、約3cSt〜約7cStの100℃での動粘度を有していてよい。
【0116】
潤滑油基油の10%ポイントは、約625°F〜約790°Fであってよい。潤滑油基油の90%ポイントは、約725°F〜約950°F、例えば、約725°F〜約900°Fであってよい。
【0117】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は潤滑油基油の曇り点を上昇させ得るので、曇り点の一定の上昇を見越すために、潤滑油基油の曇り点を潤滑油基油ブレンドの目標曇り点より低くすることができる。特定の完成潤滑油を製造するために用いる潤滑油基油ブレンドは、0℃以下の曇り点をしばしば必要とする。したがって、そのような潤滑油基油ブレンドについては、潤滑油基油の曇り点は、0℃未満であってよい。
【0118】
本明細書で述べる潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法は、110未満のVIを有する潤滑油基油について用いる場合に特に有利である。その理由は、そのような潤滑油基油は、かなりの量のVI改善剤を添加しない場合には、高品質の潤滑油を調製するのに通常不適切であるためである。本明細書で述べる流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を用いたときに認めることができるVIの増加のため、通常の添加物を用いずに、不十分な潤滑油基油のVIを著しく改善することができる。本明細書で述べる流動点降下潤滑油基油ブレンド成分は、VIを増加させることにより、110未満のVIを有するグループII潤滑油基油をグループIIプラス潤滑油基油に、又はグループIIプラス潤滑油基油をグループIII潤滑油基油に等級を上げることを可能にする。
【0119】
以下の例は、説明のためのものであって、限定するものではない。

【0120】
(例1)
50重量%の低密度ポリエチレン/50重量%のフィッシャー−トロプシュワックスを975°F、大気圧及び1LHSV(1時間の滞留時間、プラスチックに基づく)で熱分解にかけた。収率を表Iに示すが、900〜1100°F範囲で30wt%超を示す。熱分解の液体生成物を約650°Fで蒸留し、次いで、650°F+蒸留残分を異性化脱ろうにかけて、900〜1100°F範囲で20重量%超の異性化脱ろう生成物を得た。
【表2】

【0121】
(例2)
高密度ポリエチレンを大気圧のもとで650℃で、6分間の滞留時間で熱分解にかけた。650°F+生成物をアルミナ上Ni−Mo触媒上で水素処理して、残留窒素化合物を除去した。次いで、この油をSAPO−11上Pt触媒上で665°F、1950psig、及び0.5LHSV(6分の滞留時間)で異性化脱ろうした。これにより、表IIに示すように、900〜1100°F沸点範囲における18重量%に近い異性化脱ろう生成物が得られた。より具体的には、900〜1100°F沸点範囲画分は、700〜1000°F画分の約30重量%及び1000°F+画分のほぼすべてのであった。
【0122】
表IIにおいて、プラスチックからの総収率は、プラスチック供給材料に基づく収率を意味し、熱分解装置における収率及び異性化を含むその後のステップにおける収率の両方を考慮に入れている。
【表3】

【0123】
本明細書で述べた流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分、潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法、及び潤滑油基油ブレンドをその特定の態様に関連して述べたが、添付の特許請求の範囲で定義する流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分、潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法、及び潤滑油基油ブレンドの精神及び範囲から逸脱することなく、特に述べなかった付加、欠失、改変及び置換を行うことができることは、当業者により十分に理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製する方法:
ポリエチレンを含むプラスチック供給材料を約450℃〜約700℃の範囲の温度の熱分解帯において約3分〜約1時間の範囲の滞留時間で熱分解して、熱分解流出液を得ること;
熱分解流出液の少なくとも一部を接触異性化脱ろう帯において異性化脱ろう触媒で異性化脱ろうして、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む異性化脱ろう流出液を得ること;及び
約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を回収すること。
【請求項2】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分が100℃で約12cSt〜約18cStの動粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分が約130〜約180の粘度指数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
流動点降下潤滑油基油ブレンド成分が約950°F〜約1100°Fの範囲で沸騰する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
異性化脱ろう流出液の少なくとも20重量%が流動点降下潤滑油基油ブレンド成分である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
異性化脱ろう流出液の少なくとも30重量%が流動点降下潤滑油基油ブレンド成分である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
異性化脱ろう触媒が中間細孔径分子ふるいを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
中間細孔径分子ふるいが、ZSM−22、ZSM−23、SSZ−32、ZSM−35、SAPO−11、SM−3及びその混合物からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ポリエチレンが、廃ポリエチレン、未使用ポリエチレン及びその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ポリエチレンが、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン及びその混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
プラスチック供給材料が少なくとも約95重量%のポリエチレンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
プラスチック供給材料を熱分解帯において熱分解する前にプラスチック供給材料を粉砕することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
プラスチック供給材料がフィッシャー−トロプシュ由来ワックスをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する、熱分解及び接触異性化脱ろうに付されたプラスチック供給材料の生成物であり、プラスチック供給材料がポリエチレンを含む、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分。
【請求項15】
以下を含む、潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法で:
請求項1に記載の方法により流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を調製すること;及び
前記潤滑油基油と前記流動点降下潤滑油基油ブレンド成分とをブレンドすること。
【請求項16】
潤滑油基油が、グループII軽中性潤滑油基油、グループII中間中性潤滑油基油、グループIII軽中性潤滑油基油、グループIII中間中性潤滑油基油及びその混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項14に記載の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分;及び
潤滑油基油
を含む潤滑油基油ブレンド。
【請求項18】
潤滑油基油が、グループII軽中性潤滑油基油、グループII中間中性潤滑油基油、グループIII軽中性潤滑油基油、グループIII中間中性潤滑油基油及びその混合物からなる群から選択される、請求項17に記載の潤滑油基油ブレンド。
【請求項19】
以下を含む、潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法:
低い流動点を有する潤滑油基油ブレンドを提供するために、潤滑油基油を、熱分解され、触媒的に異性化脱ろうされたポリエチレンを含むプラスチック供給材料から回収され、約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する、十分な量の流動点降下潤滑油基油ブレンド成分とブレンドすること。
【請求項20】
潤滑油基油ブレンドの流動点が潤滑油基油の流動点より少なくとも3℃低い、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
潤滑油基油ブレンドの流動点が潤滑油基油の流動点より少なくとも6℃低い、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
潤滑油基油ブレンドの流動点が潤滑油基油の流動点より少なくとも9℃低い、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
潤滑油基油が、グループII軽中性潤滑油基油、グループII中間中性潤滑油基油、グループIII軽中性潤滑油基油、グループIII中間中性潤滑油基油及びその混合物からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
潤滑油基油を流動点降下潤滑油基油ブレンド成分とブレンドすることにより、高い粘度指数を有する潤滑油基油ブレンドを得る、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
潤滑油基油ブレンドの粘度指数が潤滑油基油の粘度指数より少なくとも3高い、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
以下を含む、潤滑油基油の潤滑特性を改善する方法:
(a)熱分解されたポリエチレンを含むプラスチック供給材料に由来する熱分解済みプラスチック供給材料の少なくとも一部を接触異性化脱ろう帯において異性化脱ろう触媒と接触させることにより、熱分解済みプラスチック供給材料を異性化脱ろうして、流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を含む異性化脱ろう流出液を得ること;
(b)約900°F〜約1100°Fの範囲で沸騰させ、約−15℃〜約0℃の範囲の流動点を有する流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を回収すること;及び
(c)潤滑油基油より低い流動点を有する潤滑油基油ブレンドを製造するために流動点降下潤滑油基油ブレンド成分を潤滑油基油と適切な割合でブレンドすること。
【請求項27】
異性化脱ろう流出液の少なくとも20重量%が流動点降下潤滑油基油ブレンド成分である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
異性化脱ろう流出液の少なくとも30重量%が流動点降下潤滑油基油ブレンド成分である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
潤滑油基油ブレンドの流動点が潤滑油基油の流動点より少なくとも3℃低い、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
潤滑油基油ブレンドの流動点が潤滑油基油の流動点より少なくとも6℃低い、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
潤滑油基油ブレンドの流動点が潤滑油基油の流動点より少なくとも9℃低い、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
潤滑油基油が、グループII軽中性潤滑油基油、グループII中間中性潤滑油基油、グループIII軽中性潤滑油基油、グループIII中間中性潤滑油基油及びその混合物からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
ブレンドステップ(c)により、潤滑油基油より高い粘度指数を有する潤滑油基油ブレンドを得る、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
潤滑油基油ブレンドの粘度指数が潤滑油基油の粘度指数より少なくとも3高い、請求項33に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−508808(P2011−508808A)
【公表日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540698(P2010−540698)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/084119
【国際公開番号】WO2009/085447
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】