説明

廃塩酸液から塩酸を回収する塩酸回収装置および塩酸回収方法

【要 約】
【課 題】 鋼材の酸洗設備にて発生する廃塩酸液から塩酸を効率良く回収するとともに、設備投資の増加を抑制し、かつ設備機器のメンテナンスを軽減できる塩酸回収装置および塩酸回収方法を提供する。
【解決手段】 廃塩酸液をリアクターに導入して酸化鉄と塩酸含有ガスに分離し、塩酸含有ガスを第1吸収塔に導入して洗浄水を噴射することによって塩酸水溶液と第1排ガスに分離し、塩酸水溶液を回収する一方で、第1排ガスを第2吸収塔へ導入して希塩酸水溶液を噴霧することによって希塩酸水溶液と第2排ガスに分離し、第2排ガスを洗浄塔へ導入し、希塩酸水溶液を第2吸収塔に循環させ、かつ希塩酸水溶液の一部を第1吸収塔へ導入し、さらに希塩酸水溶液の一部を排気ファンの羽に噴霧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の酸洗設備にて発生する廃塩酸液から塩酸を回収する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材の酸洗設備にて発生する廃塩酸液から塩酸を回収する技術は、従来から種々検討されている(たとえば特許文献1等)。それらの技術は、いずれも廃塩酸液に含まれるFeCl2を分解して塩酸(HCl)を回収するものであり、その工程は図2に示す通りである。なお、ここでは図2を参照して、FeCl2を分解するリアクターとして培焼炉リアクターを用いる例について説明する。
【0003】
廃塩酸液は、図2に示す通り、廃塩酸液配管1を介して培焼炉リアクター2へ導入される。培焼炉リアクター2内でFeCl2の分解反応(4FeCl2+4H2O+O2→2Fe23+8HCl)が進行する。
この分解反応で発生したHClを含有するガス(以下、塩酸含有ガスという)は、塩酸含有ガス配管3を介して第1吸収塔5へ導入される。なお、従来の技術で使用する吸収塔は1機であり、その吸収塔に番号を付す必要はないが、本発明との差異を示すために第1吸収塔と記す。
【0004】
第1吸収塔5には水配管4を介して水が供給され、第1吸収塔5内で塩酸含有ガスに噴霧される。そして、噴霧される水に塩酸含有ガス中のHClが溶解して塩酸水溶液となり、塩酸回収配管11を介して回収される。
その一方で、第1吸収塔5から排出される排ガス(以下、第1排ガスという)は、第1排気配管6を介して洗浄塔(図示せず)へ導入される。第1排ガスにはHClが残留しているので、洗浄塔内で中和剤(たとえばNaOH等)を注入して中和処理を施す。第1排ガスにHClが多量に残留する場合は、中和剤の消費量が増大して、塩酸回収コストが上昇する。
【0005】
そのため、第1吸収塔5におけるHClの回収効率を高める必要がある。ところが第1吸収塔5のみを使用する従来の技術でHClの回収効率を高めるためには、その第1吸収塔5を大型化せざるを得ないので、大規模な設備投資が必要となる。
また従来の技術では、HClの回収効率が低いという問題の他に、塩酸含有ガス配管3や第1排気配管6に配設される排気ファン13が振動するという問題がある。その振動は、培焼炉リアクター2内で発生するFe23の微粒子が塩酸含有ガスや第1排ガスに混入して排気ファン13の羽に付着し、羽の重心が変動することによって生じるものである。したがってFe23の微粒子の付着量が増加すれば、排気ファン13の振動が大きくなり、塩酸回収装置の稼動に支障をきたすので、定期的に排気ファン13を分解洗浄する等のメンテナンスの負荷が増大する。
【特許文献1】特開昭57-61602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、鋼材の酸洗設備にて発生する廃塩酸液から塩酸を効率良く回収するとともに、設備投資の増加を抑制し、かつ設備機器のメンテナンスの負荷を軽減できる塩酸回収装置および塩酸回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、鋼材の酸洗設備で発生する廃塩酸液から塩酸を回収する塩酸回収装置であって、廃塩酸液から塩酸含有ガスを分離するリアクターと、塩酸含有ガスに洗浄水を噴霧して塩酸水溶液と第1排ガスに分離する第1吸収塔と、第1排ガスに循環使用する洗浄水を噴射して希塩酸水溶液と第2排ガスに分離する第2吸収塔と、塩酸含有ガスをリアクターから第1吸収塔へ導入する塩酸含有ガス配管と、第1排ガスを第1吸収塔から第2吸収塔へ導入する第1排気配管と、塩酸水溶液を第1吸収塔から回収する塩酸回収配管と、第2排ガスを第2吸収塔から洗浄塔へ導入する第2排気配管と、希塩酸水溶液を第2吸収塔から回収しさらに第2吸収塔へ循環させる循環配管と、循環配管から分岐して希塩酸水溶液の一部を第1吸収塔へ導入する分岐配管と、第2排気配管に配設される排気ファンの羽に第2吸収塔から回収した希塩酸水溶液を噴霧するためのファン洗浄用配管と、を有する塩酸回収装置である。
【0008】
本発明の塩酸回収装置においては、排気ファンの羽に噴霧した希塩酸水溶液を回収して第2吸収塔へ導入する希塩酸回収配管を有することが好ましい。
また本発明は、鋼材の酸洗設備で発生する廃塩酸液から塩酸を回収する塩酸回収方法において、廃塩酸液をリアクターに導入して酸化鉄と塩酸含有ガスに分離し、塩酸含有ガスを第1吸収塔に導入して洗浄水を噴射することによって塩酸水溶液と第1排ガスに分離し、塩酸水溶液を回収する一方で、第1排ガスを第2吸収塔へ導入して循環使用する洗浄水を噴射することによって希塩酸水溶液と第2排ガスに分離し、第2排ガスを洗浄塔へ導入するとともに、希塩酸水溶液を第2吸収塔に循環させ、かつ希塩酸水溶液の一部を第1吸収塔へ導入し、さらに希塩酸水溶液の一部を第2排ガスの配管に配設される排気ファンの羽に噴霧する塩酸回収方法である。
【0009】
本発明の塩酸回収方法においては、排気ファンの羽に噴霧した希塩酸水溶液を回収して第2吸収塔へ導入することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鋼材の酸洗設備にて発生する廃塩酸液から塩酸を効率良く回収できる。また、本発明を適用するための既存設備の改造工事あるいは新規設備の建設工事における設備投資の増加を抑制できる。さらに、稼動後のメンテナンスの負荷を軽減でき、かつ稼働率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明を適用して塩酸を回収する工程の例を示すフロー図である。鋼材の酸洗設備にて発生する廃塩酸液は、図1に示す通り、廃塩酸液配管1を介して培焼炉リアクター2へ導入される。廃塩酸液には塩素がFeCl2として含有されており、培焼炉リアクター2内でFeCl2の分解反応(4FeCl2+4H2O+O2→2Fe23+8HCl)が進行する。
この分解反応で発生したHClを含有するガス(すなわち塩酸含有ガス)は、塩酸含有ガス配管3を介して第1吸収塔5へ導入される。第1吸収塔5には循環配管9から分岐された分岐配管10を介して希塩酸水溶液が供給され、第1吸収塔5内で塩酸含有ガスに噴霧される。そして、噴霧される希塩酸水溶液に塩酸含有ガス中のHClが溶解して塩酸水溶液となり、塩酸回収配管11を介して回収される。
【0012】
その一方で、第1吸収塔5から排出される排ガス(すなわち第1排ガス)は、第1排気配管6を介して第2吸収塔7へ導入される。第2吸収塔7には循環配管9を介して循環使用される洗浄水が供給され、第2吸収塔7内で第1排ガスに噴霧される。その結果、第1排ガスに残留するHClが洗浄水に溶解して、希塩酸水溶液となる。循環使用することで塩酸濃度が上昇するが、第1排ガスに残留するHClの溶解によって生じる塩酸濃度の上昇はわずかである。そのため、ここでは第1排ガスに噴霧する前の洗浄水とHClが溶解して塩酸濃度がわずかに上昇した希塩酸水溶液とを特に区別せず、それらを総称して希塩酸水溶液と記す。
【0013】
第1排ガス中のHClを溶解した希塩酸水溶液は、循環配管9を介して再び第2吸収塔7へ導入されて、第1排ガスに噴霧される。
希塩酸水溶液の一部は、分岐配管10を介して第1吸収塔5へ導入される。その希塩酸水溶液は、塩酸含有ガスに噴霧され、塩酸含有ガス中のHClが溶解することによって塩酸水溶液となり、塩酸回収配管11を介して回収される。このようにして塩酸含有ガス中のHClのみならず、第1排ガスに残留するHClも塩酸水溶液として回収できる。
【0014】
希塩酸水溶液の一部を第1吸収塔5へ導入することによって、第2吸収塔7で循環使用する希塩酸水溶液の循環量が減少する。そこで、必要に応じて第2吸収塔7へ水配管4を介して水を供給して希塩酸水溶液の循環量を維持する。第2吸収塔7へ水を導入することによって希塩酸水溶液の塩酸濃度が低下するが、循環使用する上で問題はない。むしろ、希塩酸水溶液の循環使用による塩酸濃度の過剰な上昇を防止できるので、設備機器の腐食を防止するとともに、塩酸の安定した回収が可能となる。
【0015】
第2吸収塔7から排出される排ガス(以下、第2排ガスという)は、第2排気配管8を介して洗浄塔(図示せず)へ導入される。第2排ガスには極めて微量のHClが残留しているので、洗浄塔内で中和剤(たとえばNaOH等)を注入して中和処理を施す。その際、使用する中和剤は、HClの残留濃度が極めて微量であるから少量で良い。
以上に説明した通り、本発明によれば廃塩酸液から塩酸を効率良く回収できる。しかも本発明では小型の吸収塔を2機使用するので、既存の吸収塔(1機)に第2吸収塔を併設すれば良く、改造工事の設備投資の増加を抑制できる。また新たに吸収塔を2機新設する場合も、大型の吸収塔の新設に比べて、建設工事の設備投資の増加を抑制できる。
【0016】
さらに本発明では、第2吸収塔7で循環使用する希塩酸水溶液の一部を用いて、第2排気配管8に配設される排気ファン13を洗浄する。希塩酸水溶液で排気ファン13を洗浄するための配管をファン洗浄用配管12として図1に示す。
つまり、培焼炉リアクター2内でFe23の微粒子が発生するのは避けられず、その微粒子が塩酸含有ガス,第1排ガス,第2排ガスに混入して排気ファン13の羽に付着するので、希塩酸水溶液を排気ファン13の羽に噴霧することによってFe23の微粒子を溶解して洗い流す。その結果、排気ファン13の振動を防止でき、メンテナンスの負荷を軽減できる。しかも排気ファン13の洗浄や交換のための稼動停止を削減できるので、塩酸回収装置の稼働率が向上する。なお、希塩酸水溶液の塩酸濃度は低いので、排気ファン13の腐食は発生し難いが、耐食性の素材(たとえばチタン材等)からなる排気ファンを使用することが好ましい。
【0017】
塩酸濃度の低い希塩酸水溶液を用いて排気ファン13の洗浄を行なうので、排気ファン13が腐食する惧れはなく、常に希塩酸水溶液を噴霧できる。そのため、制御系を非常に簡素化でき、設備故障等を大幅に低減できる。
また、排気ファン13の羽に噴霧した希塩酸水溶液を回収して、第2吸収塔へ導入しても良い。希塩酸水溶液を排気ファン13から回収して第2吸収塔へ導入する配管(以下、希塩酸回収配管という)を設けることによって、希塩酸水溶液が第2吸収塔から第1吸収塔5へ導入されるので、希塩酸水溶液中のHClも塩酸水溶液として回収できる。なお図1では、希塩酸回収配管は図示を省略する。
【実施例】
【0018】
図1に示すように吸収塔を2機使用して、廃塩酸液から塩酸を回収した。すなわち、廃塩酸液を培焼炉リアクター2へ導入して廃塩酸液中のFeCl2を分解し、得られた塩酸含有ガスを第1吸収塔5へ導入し、さらに水を噴霧した。第1吸収塔5から排出される第1排ガスを第2吸収塔7へ導入して希塩酸水溶液を噴霧した。その希塩酸水溶液を第2吸収塔7で循環使用しながら、希塩酸水溶液の一部を第1吸収塔5へ導入して、水とともに塩酸含有ガスに噴霧した。このようにして得られた塩酸水溶液を第1吸収塔から回収した。また第2吸収塔7で循環使用する希塩酸水溶液の一部を用いて、第2排気配管8に配設される排気ファン13を洗浄した。さらに、必要に応じて第2吸収塔へ洗浄水を導入することによって、希塩酸水溶液の循環量を維持した。第2吸収塔7から排出される第2排ガスは、洗浄塔(図示せず)で中和処理を施した後、煙突から放散した。これを発明例とする。
【0019】
一方、従来は図2に示すように、吸収塔を1機使用して廃塩酸液から塩酸を回収していた。すなわち、廃塩酸液を培焼炉リアクター2へ導入して廃塩酸液中のFeCl2を分解し、得られた塩酸含有ガスを第1吸収塔5へ導入し、さらに水を噴霧した。このようにして得られた塩酸水溶液を第1吸収塔5から回収した。第1吸収塔5から排出される第1排ガスは、洗浄塔(図示せず)で中和処理を施した後、煙突から放散した。これを従来例とする。
【0020】
塩酸回収装置を稼動させた6ケ月の期間中に、排気ファンの洗浄を行なった回数は、発明例が皆無であったのに対して、従来例は9回であった。このことから、本発明を適用すればメンテナンスの負荷を軽減できることが確かめられた。
さらに、上記のメンテナンス負荷の軽減によって、稼働率の向上および塩酸回収効率の向上が確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用して塩酸を回収する工程の例を示すフロー図である。
【図2】従来の塩酸を回収する工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0022】
1 廃塩酸液配管
2 培焼炉リアクター
3 塩酸含有ガス配管
4 水配管
5 第1吸収塔
6 第1排気配管
7 第2吸収塔
8 第2排気配管
9 循環配管
10 分岐配管
11 塩酸回収配管
12 ファン洗浄用配管
13 排気ファン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の酸洗設備で発生する廃塩酸液から塩酸を回収する塩酸回収装置であって、前記廃塩酸液から塩酸含有ガスを分離するリアクターと、前記塩酸含有ガスに洗浄水を噴霧して塩酸水溶液と第1排ガスに分離する第1吸収塔と、前記第1排ガスに循環使用する洗浄水を噴射して希塩酸水溶液と第2排ガスに分離する第2吸収塔と、前記塩酸含有ガスを前記リアクターから前記第1吸収塔へ導入する塩酸含有ガス配管と、前記第1排ガスを前記第1吸収塔から前記第2吸収塔へ導入する第1排気配管と、前記塩酸水溶液を前記第1吸収塔から回収する塩酸回収配管と、前記第2排ガスを前記第2吸収塔から洗浄塔へ導入する第2排気配管と、前記希塩酸水溶液を前記第2吸収塔から回収しさらに前記第2吸収塔へ循環させる循環配管と、前記循環配管から分岐して前記希塩酸水溶液の一部を前記第1吸収塔へ導入する分岐配管と、前記第2排気配管に配設される排気ファンの羽に前記第2吸収塔から回収した希塩酸水溶液を噴霧するためのファン洗浄用配管と、を有することを特徴とする塩酸回収装置。
【請求項2】
前記排気ファンの羽に噴霧した希塩酸水溶液を回収して前記第2吸収塔へ導入する希塩酸回収配管を有することを特徴とする請求項1に記載の塩酸回収装置。
【請求項3】
鋼材の酸洗設備で発生する廃塩酸液から塩酸を回収する塩酸回収方法において、前記廃塩酸液をリアクターに導入して酸化鉄と塩酸含有ガスに分離し、前記塩酸含有ガスを第1吸収塔に導入して洗浄水を噴射することによって塩酸水溶液と第1排ガスに分離し、前記塩酸水溶液を回収する一方で、前記第1排ガスを第2吸収塔へ導入して循環使用する洗浄水を噴射することによって希塩酸水溶液と第2排ガスに分離し、前記第2排ガスを洗浄塔へ導入するとともに、前記希塩酸水溶液を前記第2吸収塔に循環させ、かつ前記希塩酸水溶液の一部を前記第1吸収塔へ導入し、さらに前記希塩酸水溶液の一部を前記第2排ガスの配管に配設される排気ファンの羽に噴霧することを特徴とする塩酸回収方法。
【請求項4】
前記排気ファンの羽に噴霧した希塩酸水溶液を回収して前記第2吸収塔へ導入することを特徴とする請求項3に記載の塩酸回収方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−274906(P2009−274906A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127258(P2008−127258)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】