説明

廃棄物の処理方法及び廃棄物処理装置

【課題】 硫酸ピッチなどの酸成分又は苛性スラッジなどのアルカリ成分を含有する廃棄物の処理方法及び廃棄物処理装置を提供する。
【解決手段】 本発明の廃棄物の処理方法は、開口部が廃棄物の一部により閉塞された金属容器を、中和処理槽の内底部に配置された架台上に、開口部が下方を向くようにして載置し、その後、アルカリ又は酸を投入し、金属容器から廃棄物の少なくとも一部を流出させることを特徴とする。また、本発明の廃棄物処理装置101は、中和処理槽1と、その内底部11に配置され、廃棄物が収容された金属容器を開口部を下方に向けて載置するための架台2と、中和処理槽1の上部開口部12の一部を覆う蓋部15に付設された攪拌機3と、金属容器と攪拌機3との間に設けられた接触防止柵4と、中和処理槽1の上部開口部12からガスを排出するためのガス排出装置5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の処理方法及び廃棄物処理装置に関する。更に詳しくは、本発明は、潤滑剤及び重質油等の石油製品の硫酸洗浄精製工程等において発生する硫酸ピッチなどの酸成分又はアルミニウムのエッチング等において発生する苛性スラッジなどのアルカリ成分を含有する廃棄物の処理方法及び廃棄物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸成分又はアルカリ成分を含有する廃棄物の処理は容易ではない。例えば、酸成分を含有する廃棄物である硫酸ピッチには、硫酸、タール分及び油分等が含有されており、強酸性であるため、排水基準に適合させるためには極めて大量の水により希釈する必要がある。従って、水により希釈して処理する方法は現実的ではない。また、強酸性であるため、適正な管理をしないとドラム缶等の容器が腐食され、漏出した硫酸ピッチが土壌等に浸透し、土壌汚染及び地下水汚染が引き起こされることもある。更に、土壌に含有されていた金属類が溶解され、更なる地下水汚染が発生することもある。また、硫酸が含有されているため、そのまま焼却処分した場合は、大気汚染が発生し、焼却設備が損壊することもある。そのため、通常、中和処理をし、その後、焼却処分されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−103483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、硫酸ピッチ等の廃棄物は、油分の揮発等により経時的に粘度が高くなる傾向にあり、空気との接触等により酸化されて固化することもある。このように固化してしまった場合は、硫酸ピッチ等をドラム缶などの金属容器から取り出すことができなくなる。従来、このように固化したときは、ドラム缶を切り開いたりして硫酸ピッチ等を取り出していたが、処理に長時間を必要とし、処理量が制限されているのが現状である。
本発明は、上記の従来の問題を解決するものであり、固化してしまった硫酸ピッチ等の廃棄物を、ドラム缶などの金属容器を切り開いたりすることなく、容易に取り出すことができる廃棄物の処理方法及び廃棄物処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
硫酸ピッチ等の廃棄物が空気との接触等により酸化されて固化し、ドラム缶などの金属容器から取り出すことができなくなった場合、従来は容器を切り開いて取り出すことのみがなされていた。本発明は、この方法とはまったく発想を異にするものであり、ドラム缶などの金属容器を開口部を下方に向けて中和処理槽に投入し、中和反応による昇温等によって固化した硫酸ピッチ等を軟化させ、併せて中和させて流出させるものであり、操作が容易であって、且つ硫酸ピッチ等の廃棄物の全量を容器から容易に取り出すことができる。更に、取り出された廃棄物は中和されているため、その後の取り扱い及び処理が容易である。
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.酸成分又はアルカリ成分を含有する廃棄物が収容され、且つ開口部が該廃棄物の一部により閉塞された金属容器を、中和処理槽の内底部に配置された架台上に、該開口部が下方を向くようにして載置し、その後、該中和処理槽に、該廃棄物に酸成分が含有される場合はアルカリ又は該廃棄物にアルカリ成分が含有される場合は酸を投入し、該金属容器から該廃棄物の少なくとも該一部を流出させることを特徴とする廃棄物の処理方法。
2.上記中和処理槽に予め予備処理液が貯留されている上記1.に記載の廃棄物の処理方法。
3.上記廃棄物の少なくとも上記一部を上記金属容器から流出させ、その後、該金属容器を上記中和処理槽から取り出す上記1.又は2.に記載の廃棄物の処理方法。
4.上記酸成分と上記アルカリとの反応熱又は上記アルカリ成分と上記酸との反応熱により、上記廃棄物を軟化させる上記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
5.上記廃棄物が硫酸ピッチである上記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
6.中和処理槽と、該中和処理槽の内底部に配置され、酸成分又はアルカリ成分を含有する廃棄物が収容された金属容器を開口部を下方に向けて載置するための架台と、該中和処理槽の上部開口部の一部を覆う蓋部に付設された攪拌機と、該金属容器と該攪拌機との間に設けられ、該金属容器と該攪拌機との接触を防止するための接触防止柵と、該中和処理槽の該上部開口部からガスを排出するためのガス排出装置と、を備えることを特徴とする廃棄物処理装置。
7.上記ガス排出装置にはガスを吸引除去するためのガス吸引口が設けられている上記6.に記載の廃棄物処理装置。
8.上記中和処理槽の上記上部開口部の他部の一部を覆う蓋が配設された上記6.又は7.に記載の廃棄物処理装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の廃棄物の処理方法によれば、ドラム缶等の容器から取り出すことができなくなってしまった硫酸ピッチ等の廃棄物を、容器を切り開いたりすることなく、取り出すことができる。この方法では、作業環境等も良好であり、且つ廃棄物の全量を効率よく取り出すことができる。
また、中和処理槽に予め予備処理液が貯留されている場合は、より効率よく廃棄物を処理することができる。
更に、廃棄物の少なくとも一部を金属容器から流出させ、その後、金属容器を中和処理槽から取り出す場合は、取り出された廃棄物の全量を中和させることができ、後工程における廃棄物処理が容易である。
また、酸成分とアルカリとの反応熱又はアルカリ成分と酸との反応熱により廃棄物を軟化させる場合は、ヒーター等による加熱を必要とせず、省エネルギーであるとともに、より簡易な装置により、簡便な操作で廃棄物を処理することができる。
更に、廃棄物が硫酸ピッチである場合は、この従来から処理が面倒であった廃棄物を、効率よく処理することができる。
本発明の廃棄物処理装置は、簡易な構造であり、簡便な操作によって、ドラム缶等の容器から取り出すことができなくなってしまった硫酸ピッチ等の廃棄物を取り出すことができ、作業環境も良好である。
また、ガス排出装置にガスを吸引除去するためのガス吸引口が設けられている場合は、この吸引口から、処理操作によって発生する有害なガスを効率よく吸引除去することができる廃棄物処理装置とすることができる。
更に、中和処理槽の上部開口部の他部の一部を覆う蓋が配設された場合は、ガスの作業環境への漏出がより抑えられ、特に良好な作業環境とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を、例えば、図1〜6を用いて詳しく説明する。
[1]廃棄物の処理方法
上記「廃棄物」には、酸成分又はアルカリ成分が含有されている。酸成分が含有される廃棄物としては、潤滑剤及び重質油等の石油製品の硫酸洗浄精製工程等において発生する硫酸ピッチ、及びこの硫酸ピッチと廃硫酸との混合物等が挙げられる。廃硫酸は、有機合成及び重質油精製等において用いられた硫酸であり、硫酸分の他に油分及び有機化合物等が含有される。この廃硫酸は硫酸ピッチと同質のものであるため硫酸ピッチと同工程で処理することができる。また、アルカリ成分が含有される廃棄物としては、アルミニウムのエッチング等において発生する苛性スラッジ等が挙げられる。
【0009】
上記「金属容器」は、廃棄物を出し入れするための開口部を有する容器本体であり、廃棄物の保管時には開口部は蓋により閉止される。容器本体の形状は特に限定されないが、通常、取り扱い及び保管等が容易な円筒形である。更に、容器本体及び蓋の材質も、収容される廃棄物により容易に腐食されずに保管することができる限り、特に限定されない。容器本体及び蓋は、酸及びアルカリに対する耐食性が高いことが好ましいが、コストの観点から一般に鋼鉄製のものが用いられる。この金属容器としてはドラム缶が用いられることが多く、このドラム缶は、一端面の全面を開口させることができる、所謂、オープンドラムでもよく、一端面に直径25〜60mmの開口部が設けられたドラム缶でもよい。ドラム缶としては、廃棄物処理の作業性が良好であり、処理効率が高いオープンドラムが好ましい。このドラム缶等の金属容器の内容積も特に限定されず、50〜200リットルのものが提供されており、特に内容積200リットルのものが多い。
【0010】
廃棄物が収容された金属容器は、廃棄物が漏出しないように開口部が蓋により閉止され、保管される。しかし、完全に密閉することはできない場合が多く、保管の状況にもよるが、経時とともに廃棄物に含有される有機溶媒等が揮散して粘度が上昇し、且つ侵入した空気により特に蓋近傍の上記「廃棄物の一部」が酸化され固化することで、開口部が閉塞されてしまい、蓋を取り外しても廃棄物を取り出すことができなくなることがある。そこで、本発明では、中和処理槽の内底部に配置された架台上に、金属容器の開口部が下方を向くようにして載置し、その後、アルカリ又は酸を投入して廃棄物を処理する。この際、金属容器がオープンドラムであれば、蓋を取り外して載置すればよく、一端面に径小の開口部が設けられたドラム缶では、この一端面を切り取り、全面を開口部としてから載置することが好ましい。
【0011】
中和処理槽には、予め予備処理液が貯留されていてもよく、貯留されていなくてもよいが、予め予備処理液が貯留されていることが好ましい。この予備処理液としては、水又は低濃度の酸若しくはアルカリの水溶液が用いられる。この低濃度とは、3N以下、特に2N以下、更に1.5N以下(通常、0.5N以上)であり、酸成分を含有する廃棄物の場合はアルカリの水溶液が用いられ、アルカリ成分を含有する廃棄物の場合は酸の水溶液が用いられる。予め予備処理液が貯留されている場合、金属容器は、その開口部の側が下方を向くようにして中和処理槽に投入され、従って、開口部の側が予備処理液に浸漬された状態で架台上に載置される。予め貯留されている予備処理液の貯留量は特に限定されないが、金属容器の開口部の側から、金属容器の高さの1/4〜1/1、特に1/4〜1/3の部分が予備処理液に浸漬される貯留量であることが好ましい。
【0012】
酸成分を含有する廃棄物の場合に中和処理槽に投入されるアルカリは特に限定されず、酸成分の種類等によって選定することが好ましい。通常、酸成分が弱酸であれば弱アルカリが用いられ、酸成分が強酸であれば強アルカリが用いられる。例えば、硫酸ピッチのように強酸が含有される廃棄物である場合は、水酸化ナトリウム等の強アルカリが用いられる。また、アルカリ成分を含有する廃棄物の場合に中和処理槽に投入される酸も特に限定されず、アルカリ成分の種類等によって選定することが好ましい。通常、アルカリ成分が弱アルカリであれば弱酸が用いられ、アルカリ成分が強アルカリであれば強酸が用いられる。例えば、苛性スラッジのように強アルカリが含有される廃棄物である場合は、硫酸等の強酸が用いられる。
【0013】
アルカリ又は酸は、これらと水とをそれぞれ別個に中和処理槽に投入して用いてもよいし、予めアルカリ又は酸を水に溶解させて調製した水溶液を用いてもよい。これらは作業性等を考慮して適宜選択することが好ましい。アルカリ又は酸と水とをそれぞれ別個に投入するときの各々の量比は特に限定されず、アルカリ又は酸が水に溶解して水溶液になったときの濃度が0.5〜3N、特に1〜2Nとなる投入量であることが好ましい。一方、水溶液を用いるときの濃度も特に限定されず、同様に0.5〜3N、特に1〜2Nであることが好ましい。このようにして投入されたアルカリ又は酸及び水若しくは水溶液が処理液となる。一方、予め中和処理槽に予備処理液が貯留されている場合は、この予備処理液と、投入されたアルカリ又は酸及び水若しくは水溶液とが混合されて処理液となる。
尚、アルカリ又は酸は、廃棄物に含有される酸成分又はアルカリ成分の全量を中和することができる投入量とすることが好ましく、このようにすれば、処理後、中和処理槽から取り出される油分及び流動物が中性になり、これらの取り扱い及び処理が容易である。
【0014】
アルカリ又は酸及び水、並びに予め調製した水溶液は、処理液のpHと温度とを計測しながら徐々に投入することが好ましい。処理液は中性近傍に保持されることが好ましく、そのpHは6〜8、特に6.7〜7.3の範囲に保持されることが好ましい。更に、処理液の温度は中和熱により昇温するが、この温度は60〜90℃、特に80〜90℃の範囲に維持されることが好ましい。この温度は、例えば、硫酸ピッチを水酸化ナトリウムにより中和する場合は、80〜90℃、特に78〜88℃の範囲に維持されることが好ましい。アルカリ又は酸及び水、並びに予め調製した水溶液の投入が過度に急速であると、急激な反応によってガスの発生が激しくなり、ドラム缶等の金属容器が架台上で揺動したりすることがあるため好ましくない。
【0015】
尚、アルカリを過剰に投入して処理液のpHが高くなってしまったとき、及び酸を過剰に投入して処理液のpHが低くなってしまったときは、補助中和剤として硫酸等の酸、又は水酸化ナトリウム等のアルカリを投入し、処理液を中性近傍に保持することができる。しかし、この補助中和剤の使用は、本来無用な操作であるばかりでなく、処理すべき廃液も増加するため、補助中和剤の使用を必要とすることのないように処理液のpHと温度とを十分に確認しながら処理することが好ましい。
【0016】
この廃棄物の処理方法では、処理液が昇温することにより廃棄物が軟化し、且つ廃棄物に含有される酸成分又はアルカリ成分が、投入されるアルカリ又は酸と反応することで、特にドラム缶等の金属容器の開口部を閉塞している廃棄物の一部に空隙等が生じ、廃棄物の流出が開始される。廃棄物のうち酸化等されて固化しているのは、全体のどのくらいであるかは、保管されていた状況、保管されていた期間、及び金属容器の腐食、破損の程度等により一定ではない。例えば、開口部近傍の一部の廃棄物のみの場合もあり、内部まで固化していることもある。また、金属容器が腐食、破損しておれば、空気と接触することにより、腐食部分及び破損部分を中心として固化することもある。
【0017】
固化の状況が上記のいずれであっても、廃棄物が金属容器から流出し易くなった時点で、金属容器を中和処理槽から取り出すことが好ましい。このように金属容器を中和処理槽から取り出し、その後、必要に応じて処理液の全体のpH及び温度を均一にするため、攪拌を継続し、次いで、中和処理槽の内底部に溜まった流動物を流動物取出口から取り出し、例えば、地下コンクリート槽等に移送し、その後、既設の処理装置により各種の処理を施すことができる。この流動物は、固液分離し、次いで、固形分は、無機物が多く含有されるときは埋め立て、有機物が多く含有されるときは焼却等の方法により処理することができる。一方、液体は、必要に応じて油水分離し、油分は再生燃料油等の原料として処理し、水分は生物処理等により処理することができる。更に、流出した油分は処理液の上部に滞留するため、中和処理槽の壁面上部に設けられた油分取出口から取り出すことができる。取り出された油分は、油水分離し、油分及び水分はそれぞれ上記と同様にして処理することができる。
【0018】
[2]廃棄物処理装置
本発明の廃棄物処理装置101は、中和処理槽1と、中和処理槽1の内底部11に配置され、酸成分又はアルカリ成分を含有する廃棄物が収容された金属容器を開口部を下方に向けて載置するための架台2と、中和処理槽1の上部開口部12の一部を覆う蓋部15に付設された攪拌機3と、金属容器と攪拌機3との間に設けられ、金属容器と攪拌機3との接触を防止するための接触防止柵4と、中和処理槽1の上部開口部12からガスを排出するためのガス排出装置5と、を備える。
【0019】
上記「中和処理槽1」の内部形状は特に限定されないが、通常、方形である。また、寸法は、所定本数の金属容器6を、その開口部を下方に向けて収納することができればよく、縦(奥行き)横(幅)の各々の寸法は同じでもよく、異なっていてもよい。更に、中和処理槽の内部の深さは、金属容器の全体を収納できればよく、金属容器の高さより200〜300mm深ければよい。過度に大きい中和処理槽は、作業し難いばかりでなく、処理時に発生するガス等により金属容器が揺動した場合に、転倒することがあるため好ましくない。また、処理液も大量に貯留されることになり、より多くの処理液が処理に寄与しないことになり、且つそれらの処理が必要となるため好ましくない。
【0020】
更に、中和処理槽1の材質も特に限定されないが、少なくとも内面は酸及びアルカリに対する耐食性に優れた材料からなることが好ましく、少なくとも内面はステンレス鋼及びチタン等の耐食性に優れた金属、並びに繊維強化プラスチックがコーティングされた鋼板等の耐食性に優れた複合材などからなることが好ましい。
【0021】
上記「架台2」は、中和処理槽1の内底部11に配置される。この架台は、架台上に載置された金属容器の開口部のうちの多くの部分が架台により塞がれることのないように、少なくとも金属容器が載置される上面は網状又は格子状であることが好ましい。この架台も酸及びアルカリに対する耐食性に優れた材質からなることが好ましく、ステンレス鋼及びチタン等の耐食性に優れた金属、並びに繊維強化プラスチックがコーティングされた鋼板等の耐食性に優れた複合材などからなることが好ましい。この架台の材質は、中和処理槽の少なくとも内面と同じであってもよく、異なっていてもよい。また、架台の高さも特に限定されず、金属容器からの廃棄物の取り出し量によって設定することが好ましい。この高さは、例えば、100〜300mm、特に120〜200mmとすることができる。
【0022】
上記「攪拌機3」は、中和処理槽1の上面の一部を覆う蓋部15に付設されている。この攪拌機は特に限定されず、例えば、回転翼の回転により処理液が攪拌される一般的な攪拌機とすることができる。攪拌翼は回転軸の長さ方向の1箇所のみに取り付けられていてもよく、2箇所以上に取り付けられていてもよい。攪拌により、処理液を、特に中和処理槽1の上方においても下方においても均一にするためには、攪拌翼は回転軸の長さ方向の2箇所以上に取り付けられていることが好ましい。この攪拌翼の取り付け数は、例えば、金属容器が内容積200リットルのドラム缶である場合、2〜3個であることが好ましい。攪拌機3としては、循環ポンプ等を用いることもできる。
【0023】
この廃棄物処理装置を用いて廃棄物を処理する場合、中和反応等によりガスが発生し、このガス等により架台2に載置されたドラム缶等の金属容器6が揺動することがある。特に、この金属容器6が攪拌機3と接触したときは、攪拌機が損壊するとともに、中和処理槽1の内面が傷付き、この傷から腐食が進行することもある。従って、中和処理槽1の、架台2上に載置された金属容器6と攪拌機3との間に、金属容器6と攪拌機3との接触を防止するための上記「接触防止柵4」が設けられる。この接触防止柵は、攪拌による処理液の均一化が妨げられることなく、且つ金属容器の転倒が防止されるものであることが好ましく、例えば、中和処理槽の横方向の対向する内壁面に固定された複数本のパイプ等が挙げられる。このパイプ等からなる接触防止柵も、ステンレス鋼及びチタン等の耐食性に優れた金属からなることが好ましい。
【0024】
中和反応の際には前記のようにガスが発生し、このガスは廃棄物によっては有毒である場合もある。そのため、中和処理槽1の上部開口部12からガスを排出するための上記「ガス排出装置5」が取り付けられている。この廃棄物処理装置では、ドラム缶等の金属容器の出し入れを容易にするため、上面のより多くの部分が開放されていることが好ましい。しかし、多くの部分が開放されている場合、発生したガスが外部に流出し、作業環境の観点で好ましくない。従って、ガス排出装置5が取り付けられ、環境へのガスの流出が防止され、又は少なくとも抑えられる。
【0025】
ガス排出装置5には、ガス吸引口53が設けられていることが好ましく、このガスガス吸引口53は、ガスを吸引し、除去するために付設されたガス除去装置に接続されていることが好ましい。このように強制的にガスを吸引し、除去することにより、十分に良好な作業環境とすることができる。
【0026】
上記のように、本発明の廃棄物処理装置では、中和処理槽1の上面の多くの部分が開放されていることが好ましいが、開放部分が多いほど環境へのガスの流出が多くなる。このガスの流出を抑えるため、中和処理槽1の上部開口部12の蓋部15を除く他部のうちの一部を覆う蓋16を配設することもできる。この蓋は、容易に着脱するためには軽量であることが好ましいが、強度も必要であるため、重量と強度とを勘案して適宜の材質のものを選択することが好ましい。更に、耐食性を有していることが好ましく、可能な限り薄い、例えば、厚さ0.5〜1mmのステンレス鋼板等からなる蓋16であることが好ましい。
【0027】
本発明の廃棄物処理装置は、この装置のみが配置された処理施設としてもよく、既設の廃棄物処理施設に併設してもよい。廃油、廃液等を効率よく後処理するためには、図6のように、既設の廃棄物処理施設内に配置することが好ましい。また、廃棄物処理装置を配置する処理室71と(図6では、処理室に2台の廃棄物処理装置101が配置されている。)、酸成分又はアルカリ成分が含有される廃棄物が収容された金属容器を保管するための保管室72とを設けることが好ましく、処理室及び保管室は発生したガス等が外部に漏出するのが抑えられる構造とすることがより好ましい。
【0028】
更に、処理室71及び保管室72には、発生したガス等を各々の内部空間から排出するための排気管9が配設されていることが好ましく、それぞれの廃棄物処理装置が備えるガス排出装置5からのガスと併せて、廃棄物処理ヤード73に配置された排ガス処理装置に移送し、処理することが好ましい。また、各々の廃棄物処理装置から排出された油分及び流動物も、この廃棄物処理ヤード73に配置された固液分離装置、並びに油分及び分離された液体の各々を処理する廃液処理装置及び固形分を処理する装置により処理することが好ましい。更に、分離された液体に油分が多く含有される場合は油水分離し、分離された油分を別途処理してもよい。また、処理室71及び保管室72のそれぞれの床はコンクリート等により形成し、処理室71及び保管室72の側方には側溝8を設け、処理中の廃棄物が漏液した場合は、この側溝8に集液する構造とすることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
この実施例では、硫酸ピッチが収容された内容積200リットルのドラム缶2本を、中和処理槽の架台に載置し、水と水酸化ナトリウムフレークとを投入して、硫酸ピッチに含有される硫酸を中和し、廃棄物を取り出した。
【0030】
[1]廃棄物処理装置
用いた廃棄物処理装置101は図1及び3〜6のとおりである。
中和処理槽1の外寸は、幅が1500mm、奥行きが1500mm、高さ(外底面から上面までの寸法)が1535mmである。中和処理槽は厚さ2mmのステンレス鋼板からなり、上面の奥行き方向に幅400mmの蓋部15が設けられ、上面のうちの他の部分が上部開口部12となっている。従って、上部開口部の寸法は、幅方向が約1500mm、奥行き方向が約1100mmである。蓋部15の中心部には攪拌機3が付設されており、この攪拌機には、図3のように、攪拌翼が2段配設されている。更に、蓋部15の端縁部には、図1〜3のように、後方に突き出すようにガス排出装置5が取り付けられ、このガス排出装置には、発生するガスを吸入するための金属メッシュからなるガス吸入口52及び吸入されたガスを吸引し、除去するためのガス吸引口53が設けられており、吸引されたガスは排気管9へと移送される。
【0031】
中和処理槽1の内底部11には、直径20mmのステンレス鋼棒からなり、図4のような平面形状であり、高さが150mmである架台2が配置されている。この架台は中和処理槽に固定されてはおらず、必要に応じて取り出して付着した廃棄物等を容易に取り除くことができる。また、図3及び図5のように、中和処理槽の幅方向の対向する内壁面に溶接により固定された直径20mmの4本のステンレス鋼棒からなる接触防止柵4が設けられている。また、中和処理槽の側面の底部から900mmの位置に油分取出口13が設けられ、側面の底部近傍に固形分を含有する液状物を取り出す流動物取出口14が設けられている。
尚、図示はしないが、処理時には、処理液のpHを測定するためのpH測定電極及び処理液の温度を測定するサーミスタが配設されている。
【0032】
[2]廃棄物の処理方法
上記[1]に記載の廃棄物処理装置101を用いて、直径600mm、高さ900mm、内容積200リットルのオープンドラムに収容された硫酸ピッチを処理した。
中和処理槽1には、予め1.25Nの水酸化ナトリウム水溶液700リットルを予備処理液として投入した。中和処理槽の幅と奥行が各々約1500mmであるため、処理液の深さは約310mmとなる。また、攪拌機3の回転翼を300rpmの回転数で回転させ、ガス除去装置(図示せず)を稼働させて、ガス排出装置5のガス吸入口52から3m/分の速度で空気及び発生するガスを吸入させた。このようにして処理の準備をした。
【0033】
上記のようにして処理の準備をし、その後、硫酸ピッチが収容されたオープンドラム2本を、その開口部が下方を向くようにして、中和処理槽1の内底部11に配置された架台2上に、フォークリフトにより順次載置した。次いで、水と水酸化ナトリウムフレークとの投入を開始した。この水酸化ナトリウムフレークは、硫酸の濃度が10Nと推定される硫酸ピッチに含有される硫酸の全量を中和するのに必要される投入量とし、水は処理終了時にオープンドラムの全体が処理液に浸漬される投入量とした。水と水酸化ナトリウムフレークとは、処理液のpHと温度とを監視しながら、pHが急激に変化することなく6〜8の範囲に保たれ、且つ処理液の温度が80〜85℃の範囲となるように徐々に投入した。
【0034】
水と水酸化ナトリウムフレークとの投入を開始してから30分後に処理液の温度が80℃に到達し、固化していた硫酸ピッチが軟化し始めたと推定される。また、水と水酸化ナトリウムフレークとの投入開始から3時間後には、オープンドラムから硫酸ピッチが流出するのが確認された。この時点で中和処理槽から2本のオープンドラムを取り出し、その後、更に1時間攪拌を継続し、次いで、上層の油分を油分取出口13から取り出し、その他の部分を流動物取出口14から取り出した。取り出された廃油は20リットルであり、油水分離した後、油分は再生燃料油の原料として処理し、水分は生物処理により処理した。更に、取り出された流動物は1080リットルであり、凝集処理した後、脱水機で固液分離し、固形分は埋立処分し、水分は生物処理した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、硫酸ピッチのような酸成分を含有する廃棄物、及び苛性スラッジ等のアルカリ成分を含有する廃棄物、が収容され、且つ廃棄物の固化によって、廃棄物を金属容器から取り出すことができなくなった場合等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の廃棄物処理装置の一例の斜視図である。
【図2】図1の廃棄物処理装置において、中和処理槽の上部開口部に、その一部を覆う蓋が配設された様子を示す斜視図である。
【図3】本発明の廃棄物処理装置を側面からみた模式図である。
【図4】本発明の廃棄物処理装置を上面からみた(ガス排出装置は図示を省略する。)模式図である。
【図5】本発明の廃棄物処理装置を裏面からみた(ガス排出装置は図示を省略する。)模式図である。
【図6】本発明の廃棄物処理装置が設置された廃棄物処理室、廃棄物が収容された容器(ドラム缶)を保管するための保管室、及び併設された各種処理設備を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
101;廃棄物処理装置、1;中和処理槽、11;内底部、12;上部開口部、13;油分取出口、14;流動物取出口、15;蓋部、16;蓋、2;架台、3;攪拌機、4;接触防止柵、5;ガス排出装置、51;衝立、52;ガス吸入口、53;ガス吸引口、6;金属容器、71;廃棄物処理装置配置室、72;金属容器保管室、73;廃棄物処理ヤード、8;側溝、9;排気管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分又はアルカリ成分を含有する廃棄物が収容され、且つ開口部が該廃棄物の一部により閉塞された金属容器を、中和処理槽の内底部に配置された架台上に、該開口部が下方を向くようにして載置し、その後、該中和処理槽に、該廃棄物に酸成分が含有される場合はアルカリ又は該廃棄物にアルカリ成分が含有される場合は酸を投入し、該金属容器から該廃棄物の少なくとも該一部を流出させることを特徴とする廃棄物の処理方法。
【請求項2】
上記中和処理槽に予め予備処理液が貯留されている請求項1に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項3】
上記廃棄物の少なくとも上記一部を上記金属容器から流出させ、その後、該金属容器を上記中和処理槽から取り出す請求項1又は2に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項4】
上記酸成分と上記アルカリとの中和熱又は上記アルカリ成分と上記酸との中和熱により、上記廃棄物を軟化させる請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項5】
上記廃棄物が硫酸ピッチである請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の廃棄物の処理方法。
【請求項6】
中和処理槽と、
該中和処理槽の内底部に配置され、酸成分又はアルカリ成分を含有する廃棄物が収容された金属容器を開口部を下方に向けて載置するための架台と、
該中和処理槽の上部開口部の一部を覆う蓋部に付設された攪拌機と、
該金属容器と該攪拌機との間に設けられ、該金属容器と該攪拌機との接触を防止するための接触防止柵と、
該中和処理槽の該上部開口部からガスを排出するためのガス排出装置と、を備えることを特徴とする廃棄物処理装置。
【請求項7】
上記ガス排出装置にはガスを吸引除去するためのガス吸引口が設けられている請求項6に記載の廃棄物処理装置。
【請求項8】
上記中和処理槽の上記上部開口部の他部の一部を覆う蓋が配設された請求項6又は7に記載の廃棄物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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