説明

廃棄物処分方法、廃棄物処分数値シミュレーションプログラムおよび廃棄物処分支援装置。

【課題】廃棄物への空気注入を考慮した数値シミュレーションにより、ごみ埋立地の固形廃棄物の安定化を促進させる。
【解決手段】廃棄物の組成を分析し、該廃棄物を無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相、液相および気相に分割して、各相の体積率を定めるとともに、それらの各相に含まれる化合物ならびに好気性菌および嫌気性菌から成る微生物の初期濃度を定める組成分析ステップ;廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間を定める空気注入条件設定ステップ;および各相における化合物および微生物の濃度の時間的変化量を演算して、廃棄物から分解生成される全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つを予測する生成物予測ステップ;を含み、廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間の適否を判断して、廃棄物に空気注入して処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好気性および嫌気性の雰囲気下で廃棄物を処理する技術の分野に属し、特に、廃棄物の組成に基づいて固相・液相・気相に分類して空気注入を考慮した数値シミュレーションによる新規な廃棄物処分方法、廃棄物処分数値シミュレーションプログラムおよび廃棄物処分支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ごみ(廃棄物)を埋立処分するごみ埋立地は、世界中の各地域で最も普及している廃棄物処理施設である。ごみ埋立地内にごみが閉じ込められ、浸出水や埋立ガスなどのエミッションが環境負荷として小さくなり、外部環境に曝されても環境負荷にならないこと(安定化)が望まれる。
【0003】
主に都市ごみを埋立対象とする都市ごみ(都市固形廃棄物)埋立地の安定化を高めるために、従来からごみ埋立地のガス抜き立渠に浸出水を循環させる方法(例えば、特許文献1参照)や、生物学的反応速度論を用いて嫌気性微生物(嫌気性菌)を制御する方法(例えば、特許文献2参照)などがあるが、微生物分解をより効果的に促進させるためには、このように物理的に浸出水を循環させることや嫌気性微生物を制御することよりも、ごみ埋立地の固形廃棄物を好気雰囲気下に維持し、有機物質の分解が促進されるようにすることが重要となる(非特許文献1〜4参照)。
【0004】
しかしながら、経済的および技術的な要因に基づく制約により、多くの開発途上国では嫌気式のごみ埋立地が一般的に採用されている。開発途上国におけるごみ埋立地に関する問題の一つは、長期間にわたって高濃度の有機物質および窒素を含有する浸出水が発生し、これが環境汚染を引き起こすことである(例えば、非特許文献5〜10参照)。
さらに、嫌気状態のごみ埋立地から発生する環境上の問題、例えば、浸出水中に有機炭素(全有機炭素、Total Organic Carbon;TOC)および窒素(全窒素、Total
Nitrogen;T−N)が高濃度で存在すること、安定化に長時間要すること、温室効果ガス(Green House Gas;GHG)が多量に発生することなどが、次第に問題視されている。嫌気状態のごみ埋立地は、温室効果ガス(GHG)の主要な発生源の一つでもある。ごみ埋立地から放出されるメタンガスの量は、人為的なGHG全放出量のおよそ3〜4%であると推定されている(IPCC2006)。したがって、地球温暖化を防止する観点から、ごみ埋立地の固形廃棄物の好気分解を増進させ、ごみ埋立地からのGHGの放出を減少させることが所望されている。
【0005】
好気分解を増進させる従来の方法としては、廃棄物中に有孔の通気管を備える方法(例えば、特許文献3参照)や、埋立地内の温度を華氏約130度から華氏約150度までの範囲内に維持して埋立地に酸素源を注入する方法(例えば、特許文献4参照)、廃棄物を上下分割して仮想的な堆積層とし、各堆積層の上面に、複数個の噴出孔を備える副配管を設置し、当該噴出孔から空気を噴出させる方法(例えば、特許文献5参照)がある。しかし、これら従来の方法は、好気分解を増進させるのみであり、ごみ埋立地全体で最適なごみ処理を行えるまでには至っていない。
【0006】
このような状況のなか、好気嫌気化埋立工法(aerobic-anaerobic landfill method;AANLM)ごみ埋立地は、好気性埋立のごみ埋立地の利点を取り入れると同時に、運転コストも低減する新たなごみ埋立地として注目されている。
好気嫌気化埋立工法とは、下水処理における好気プロセスによるBOD成分の分解、硝化
および嫌気プロセスによる脱窒に基づき、嫌気性埋立の固形廃棄物層に適当な埋立年数と深さを目掛けて空気を注入して埋立てられた固形廃棄物の安定化を図るものであり、その固形廃棄物中に好気雰囲気を作り出すことにより、TOCおよびT−Nの分解を促進する。TOCの分解中に、好気分解によりメタンガス(地球温度化係数が二酸化炭素の25倍である)の発生が抑制されるだけでなく、ごみ埋立地の固形廃棄物が早期に安定化されることも期待できる。これは、好気分解の分解速度が嫌気分解よりも大きいためである(非特許文献11、12参照)。
【0007】
好気嫌気化埋立工法に関連する従来の廃棄物処分方法としては、廃棄物からの浸出水のORP値に基づくpH値に応じて好気性と嫌気性を交互に使い分けて制御する方法がある(例えば、特許文献6参照)。また、浸出水のBOD/COD又はBOD/TOCの少なくとも一方の値xが条件式(0.05≦x≦0.3、より好ましくは、0.08≦x≦0.1)を満足した場合に、好気性環境から嫌気性環境へ移行させ、好気性環境と嫌気性環境とを交互に繰り返して形成することにより、廃棄物及び浸出水の安定化を図る方法がある(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−216440号公報
【特許文献2】特開2007−289914号公報
【特許文献3】特開昭64−47486号公報
【特許文献4】特表2001−509735号公報
【特許文献5】特開2002−336812号公報
【特許文献6】特開2000−325906号公報
【特許文献7】特開2009−101317号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hanashima, M., Yamasaki, K., Matsufuji, Y., Tanaka, M., and Ikeguchi,T. (1983) Technological progress of inland reclamation in Japan. InternationalLand Reclamation Conference and Exhibition Reclamation 83, 327-336
【非特許文献2】Hanashima, M., Yamasaki, K., Kuroki, T., and Onishi, K. (1981)Heat and gas flow analysis in semiaerobic lnadfill. Journal of theEnvironmental Engineering Division, Proceedings of the American Society ofCivil Engineers, Vol. 107, No. EE1, 1-9
【非特許文献3】Mitchell, D.A., von Meien, O.F., and Krieger, N. (2003) Recentdevelopments in modeling of solid-state fermentation: heat and mass transfer inbioreactors. Biochemical Engineering Journal 13, 137?147.
【非特許文献4】Mitchell, D.A., von Meien, O.F., and Krieger, N. (2004) A review ofrecent developments in modeling of microbial growth kinetics and intraparticlephenomena in solid-state fermentation. Biochemical Engineering Journal 17, 15?26
【非特許文献5】Pohland, F.G. (1975) Accelerated solid waste stabilization andleachate treatment by leachate recycle through sanitary landfills. Progress inWater Technology, 7, 753?765.
【非特許文献6】Barlaz, M.A., Ham, R.K., and Schaefer, D.M. (1990) Methane productionfrom municipal refuse: a review of enhancement techniques and microbialdynamics. Critical Reviews in Environmental Control, 19(6), 557?584.
【非特許文献7】Stessela, R.I. and Murphy, R.J. (1992) A lysimeter study of theaerobic landfill. Waste Management & Research, 10, 485-503.
【非特許文献8】Mitchell, D.A., Stuart, D.M., and Tanner, R.D. (1999) Solid-state fermentation?microbial growth kinetics, in: M.C. Flickinger, S.W. Drew(Eds.), The Encyclopedia of Bioprocess Technology: Fermentation, Biocatalysisand Bioseparation, 5, 2407?2429.
【非特許文献9】Hudgins, M., and Harper, S. (1999) Operational characteristics of twoaerobic landfill systems. The Seventh International Waste Management andLandfill Symposium, Sardinia, 4 October.
【非特許文献10】Kjeldsen, P., Barlaz, M.A., Rooker, A.P., Baun, A., Ledin,A., and Christensen, T.H. (2002) Present and long term composition of MSWlandfill leachate: a review. Critical Reviews in Environmental Science andTechnology32(4), 297?336.
【非特許文献11】Cossu, R., and Rossetti, D. (2003) Pilot scale experienceswith sustainable landfilling based on the PAF conceptual model. Proceedings ofthe Ninth International Waste Management and Landfill Symposium, Cagliari, 6?10October.
【非特許文献12】Bilgili, M.S., Demir, A., and Ozkaya, B. (2006) Quality and quantityof leachate in aerobic pilot-scale landfills. Environmental Management, Vol.38, No. 2, 189-196.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の廃棄物処分方法は、ごみ埋立地内の気液固混合系の多相間にわたる複雑な微生物系を取り扱う好気嫌気化埋立工法において、オペレータの経験的な要素や勘に依存する割合が高く、ごみ埋立地の安定化の制御が粗くなりがちであるという課題を有する。また、廃棄物の種類(組成)や経時的変化(経年変化)までも考慮されたものは見当たらない。
【0011】
本発明の目的は、上記課題を解決するために提案されたものであり、廃棄物への空気注入を考慮した数値シミュレーションを行うことにより、好気嫌気化埋立工法でのごみ埋立地内の複雑な微生物(バクテリア)系を考慮してごみ埋立地の固形廃棄物の安定化を促進するとともに、浸出水の特性(水質)を向上させ、GHG、TOC等の発生を制御することが可能な新しいタイプの廃棄物処分方法を提供することにある。特に、このような制御を可能とするにより、廃棄物由来の環境負荷の低減および廃棄物の早期安定化を図ることができる新規な廃棄物処分方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、好気嫌気化埋立工法でのごみ埋立地内の複雑な微生物系を、廃棄物の種類や経時的変化を考慮に入れてモデル化し、空気の注入条件を考慮して気液固混合系の多相間にわたる微生物系を把握することができる精度の高い数値シミュレーション方法を新たに見出した。さらに、この数値シミュレーション方法を用いて、埋立てされた廃棄物を効率的に処理できる最適な嫌気性または好気性条件を与える最適条件を得ることにより、廃棄物を高度に安定化することができる廃棄物処分方法を新たに見出した。また、この廃棄物処分方法を用いたごみ埋立地からスケールアップした場合にも、高度に安定化されたごみ処分場(ごみ処分装置)を構築できることを見出した。
【0013】
かくして、本発明に従えば、数値シミュレーションに基づいて、好気性および嫌気性の雰囲気下に廃棄物を処理する廃棄物処分方法において、
前記数値シミュレーションが、
(1)前記廃棄物の組成を分析し、該廃棄物を無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相、液相および気相に分割して、各相の体積率を定めるとともに、それらの各相に含まれる化合物ならびに好気性菌および嫌気性菌から成る微生物の初期濃度を定める
組成分析ステップ;
(2)前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間を定める空気注入条件設定ステップ;および
(3)前記各相における前記化合物および前記微生物の濃度の時間的変化量を演算して、前記廃棄物から分解生成される全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの予測を求める生成物予測ステップを含み、
前記生成物予測ステップが、
(3)−1:前記難分解性有機物固相および易分解性有機物固相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度を積分し、
(3)−2:前記液相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
(3)−3:前記気相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量と微小時間における前記廃棄物に注入する空気量とを積分し、
(3)−4:さらに、前記微生物について、前記難分解性有機物固相、易分解性有機物固相および液相における当該微生物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの前記予測を求め、
前記求められた予測に基づいて、前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間の適否を判断して、前記廃棄物に空気注入して処理することを特徴とする廃棄物処分方法が提供される。
全有機炭素量とは、一般に水中に含まれる有機物中の炭素の総量を示す。全窒素量とは、一般に水中に含まれる窒素の総量を示す。また、温室効果ガスとは、一般に二酸化炭素ガスおよびメタンガスを示す。
【0014】
また、必要に応じて、前記予測に基づいて、数値シミュレーションにおける前記体積率および前記初期濃度のうち少なくとも1つを補正することを特徴とする廃棄物処分方法も提供される。
【0015】
また、本発明に従えば、好気性および嫌気性の雰囲気下に空気を注入して廃棄物を処理するに際して、該廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間の適否を判断するのに用いる廃棄物処分プログラムにおいて、
(1)前記廃棄物の組成を分析して定めた、該廃棄物を構成する無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相、液相の各体積率と、それらの各相に含まれる化合物ならびに好気性菌および嫌気性菌から成る微生物の初期濃度とを記憶する組成分析メモリ記憶手段、
(2)前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間を記憶する空気注入データ記憶手段、
(3)前記各相における前記化合物および前記微生物の濃度の時間的変化量を演算して、前記廃棄物から分解生成される全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの予測を求める生成物予測演算手段としてコンピュータを機能させ、
前記生成物予測演算手段が、
(3)−1:前記難分解性有機物固相および易分解性有機物固相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度を積分し、
(3)−2:前記液相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
(3)−3:前記気相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当
たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量と微小時間における前記廃棄物に注入する空気量とを積分し、
(3)−4:さらに、前記微生物について、前記難分解性有機物固相、易分解性有機物固相および液相における当該微生物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの前記予測を求めることを特徴とする廃棄物処分プログラムが提供される。
【0016】
また、必要に応じて、前記予測に基づいて、数値シミュレーションにおける前記体積率および前記初期濃度のうち少なくとも1つを補正する補正演算手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする廃棄物処分プログラムも提供される。
また、本発明に従えば、廃棄物処分制御プログラムを記憶したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体が提供される。
【0017】
また、本発明に従えば、数値シミュレーションに基づいて、好気性および嫌気性の雰囲気下に廃棄物を処理する廃棄物処分支援装置において、
(1)前記廃棄物の組成を分析し、該廃棄物を無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相、液相および気相に分割して、各相の体積率を定めるとともに、それらの各相に含まれる化合物ならびに好気性菌および嫌気性菌から成る微生物の初期濃度を定める組成分析手段;
(2)前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間を定める空気注入条件設定手段;および
(3)前記各相における前記化合物および前記微生物の濃度の時間的変化量を演算して、前記廃棄物から分解生成される全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの予測を求める生成物予測手段を備え、
前記生成物予測手段が、
(3)−1:前記難分解性有機物固相および易分解性有機物固相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度を積分し、
(3)−2:前記液相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
(3)−3:前記気相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量と微小時間における前記廃棄物に注入する空気量とを積分し、
(3)−4:さらに、前記微生物について、前記難分解性有機物固相、易分解性有機物固相および液相における当該微生物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの前記予測を求め、
前記求められた予測に基づいて、前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間の適否を判断して、前記廃棄物に空気注入して処理することを特徴とする廃棄物処分支援装置が提供される。
【0018】
また、必要に応じて、前記予測に基づいて、数値シミュレーションにおける前記体積率および前記初期濃度のうち少なくとも1つを補正することを特徴とする廃棄物処分支援装置も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法における一次元ごみ埋立地モデルを示す。
【図2】本発明の実施形態に係る廃棄物処分支援装置のブロック図、データ図、フローチャートを示す。
【図3】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法およびその装置における数値シミュレーションを実証するための実施例のライシメータ(ごみ埋立模型槽)の概略図および空気注入から40日目のライシメータ内の浸出水のTOC濃度およびT−N濃度を示す。
【図4】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法およびその装置における数値シミュレーションを実証するための実施例のライシメータ内の浸出水中のTOC、T−N、ライシメータ内の浸出水のT−N、NH4+−N、NO2−NおよびNO3−Nの濃度に関する数値シミュレーションの結果を示す。
【図5】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法およびその装置における数値シミュレーションを実証するための実施例のライシメータ実験における40日目のライシメータ内ガス組成分布を示す。
【図6】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法およびその装置における数値シミュレーションを実証するための実施例のライシメータ内の埋立ガス組成分布と、1年間のTOC、T−NおよびGHGの排出量に関する数値シミュレーションの結果を示す。
【図7】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法およびその装置における数値シミュレーションを実証するための実施例の無機物固相、難分解性有機物固相および易分解性有機物固相の体積比を変更して補正された場合のTOC、T−NおよびGHG排出量の変動に関する数値シミュレーションの結果を示す。
【図8】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法およびその装置における数値シミュレーションを実証するための実施例のごみ埋立地への空気注入流量を変更した場合および間欠的に空気注入した場合のTOC、T−NおよびGHG排出量に関する数値シミュレーションの結果を示す。
【図9】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法およびその装置における数値シミュレーションを実証するための実施例のごみ埋立地への空気注入箇所を複数化させた場合のTOC、T−NおよびGHG排出量に関する数値シミュレーションの結果を示す。
【図10】本発明の実施形態に係る廃棄物処分方法およびその装置における数値シミュレーションを実証するための実施例のごみ埋立地の廃棄物層の高さが異なる場合のTOC、T−NおよびGHG排出量に関する数値シミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係る廃棄物処分方法は、好気性および嫌気性の雰囲気下においてごみ処理の効率性を左右する重要な因子が、ごみ埋立地に空気を注入する際の空気注入条件であり、従来のように経験や勘に頼って空気をごみ埋立地に注入するのではなく、最適な空気注入条件を得ることが重要であるという考えに基づくものである。
【0021】
本実施形態に係る廃棄物処分方法において、図1に示すように、ごみ埋立地のモデルが、実際のごみ埋立地の状況に適合するか否かを左右する重要な因子(変数)として、気相、液相、および固相(無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相)から成る各相の割合(体積率)ならびに廃棄物中の有機物濃度であり、これが、空気注入条件(深さ、流量、時機および期間)に応じて、ごみ埋立地の深さ方向に経時的に変化するもので
ある(以下、固相の体積率をεs、無機物固相の体積率をεsior、難分解性有機物固相の体積率をεshar、易分解性有機物固相の体積率をεseas、液相の体積率をεl、気相の体積率をεgを用いて示す)。本実施形態において用いる数値シミュレーションの特徴は、このような考察の基に構築されていることにある。
【0022】
かくして、本実施形態に係る数値シミュレーションを用いて廃棄物の処理を行うに当たっては、図1に示すように、先ず、廃棄物の組成を分析して、上記各相の体積率(εs:εsior、εshar、εseas、εl、εg)ならびに廃棄物中に含まれる微生物(菌)や、有機炭素、有機窒素などの有機物を主とする各種化合物の初期濃度を定める。一方、所期の廃棄物処分状況に応じて、前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間を定めておく。
【0023】
本実施形態に係る数値シミュレーションにおいては、上記に従い定められた各相の体積率ならびに廃棄物中に含まれる微生物(菌)や、有機炭素、有機窒素などの有機物を主とする各種化合物の初期濃度を用いて、マスバランス(各相に含まれる化合物および微生物の濃度の時間変化量)を演算するステップが含まれる。このステップで、前記化合物および前記微生物の相間移動が経時的に発生していることから、各相のマスバランスは、各々互いに独立して演算されるものではなく、各相のマスバランスを時間軸に対して同時並行演算されることにより、前記廃棄物から分解生成される全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つを予測することができる。
【0024】
前記演算するステップは、上記マスバランスについて具体的な数式を用いて、以下、1−1.第j分解性固相、1−2.液相、1−3.気相、および1−4.バクテリアの項目に分けて分説する。廃棄物層における気相、液相、有機物による微生物分解速度の異なる分解性固相の各相j(非分解性固相は含まない)における成分kのマスバランスは、基本的に以下の式(1)〜(4)から構成される。
【0025】
数式を構成する変数としては、相jにおける成分kの反応速度(生成速度)Bk,j(kg/m3/h)、相j中のkの濃度Ck,j(kg/m3)
、相jの体積含有率?j(-)、相jにおけるkの移動フラックスJk,j(kg/m2/h)、送気によるガス成分kの供給速度Sk,g(kg/m3/h)、時間t(h)、相jにおける菌種kの菌体濃度Xk,j(kg/m3)、深さz(m)を使用する。
1−1.第j分解性固相
難分解性有機物固相および易分解性有機物固相から成る各分解性固相におけるマスバランスは、式(1)に示される。
【0026】
【数1】

【0027】
各分解性固相における前記化合物kは、各分解性固相中の炭素および窒素である。式(1)におけるBk,jは、反応項であり、具体的には、有機物分解による各分解性固相中の炭素および窒素の微小時間における体積率当たりの生成速度を表す。式(1)を積分(時間積分および位置積分)することにより、当該炭素および窒素の最終濃度が得られる。
【0028】
1−2.液相
液相におけるマスバランスは、式(2)に示される。
【0029】
【数2】

【0030】
液相における前記化合物kは、溶存炭素、溶存窒素および溶存ガスである。右辺第1項は移動項(微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量)であり,具体的には、水分移動等による溶存成分の移動を表す項である。右辺第2項は、反応項であり、有機物分解や気相-液相間のガス移動等による溶存成分の微小時間における体積率当たりの生成速度を表す。式(2)を積分(時間積分および位置積分)することにより、当該溶存炭素、溶存窒素および溶存ガスの最終濃度が得られる。
【0031】
1−3.気相
気相におけるマスバランスは、式(3)に示される。
【0032】
【数3】

【0033】
気相における前記化合物kは、空気の主成分および埋立地から発生する埋立ガス成分である。右辺第1項は移動項(微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量)であり,具体的には、拡散や移流等によるガス成分の移動を表す。右辺第2項は反応項であり、微生物による作用や気相-液相間のガス移動によるガス成分の微小時間における体積率当たりの生成速度を表す。右辺第3項は空気注入による送気項であり,注入位置で注入された微小時間におけるガス成分の供給(注入量)を表す。式(3)を積分(時間積分および位置積分)することにより、当該空気の主成分および埋立地から発生する埋立ガス成分の最終濃度が得られる。
【0034】
1−4.バクテリア
相jにおける菌種kの微生物のマスバランス(菌体物質収支)は、前記難分解性有機物固相、易分解性有機物固相および液相にについて適用され、式(4)に示される。
【0035】
【数4】

【0036】
左辺は時間項であり,各微生物の濃度の微小時間における体積率あたりの時間的変化量を表す項である。右辺第1項は移動項(微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量)であり,液相中に存在する微生物の場合に考慮する水分移動に伴う菌体移動を表す。右辺第2項は反応項であり,体積率当たりの微生物の増殖および死滅等を表す。式(4)を積分(時間積分および位置積分)することにより、当該液相における各微生物の最終濃度を得る。
【0037】
なお、無機物固相の体積率εsiorは、廃棄物の全体積を割り出す際に定義されるが、無機物固相における前記化合物および微生物の物質移動は考慮されないことから、本実施形態のマスバランス式においては使用されない。
【0038】
以上のような数値シミュレーションの結果として、浸出水の水質(全有機炭素量および全有機窒素量)、埋立地からの温室効果ガス(二酸化炭素,メタン等)の排出量や,廃棄物中の有機物残存量等の指標値を得る。必要に応じて、この得られた指標値が、所望の値を外れている(一般的には高い)ときは、上記各相の体積率および/または廃棄物中に含まれる微生物(菌)や、有機炭素、有機窒素などの有機物を主とする各種化合物の初期濃度を補正して、再び数値シミュレーションを行い、必要に応じてこのような数値シミュレーションを繰り返す。このような補正により、所望の数値シミュレーション結果が得られない場合には、空気注入条件(深さ、流量、時機および期間)の設定を変更して、再度数値シミュレーションを行い、最適な空気注入条件を得ることができる。
【0039】
このような数値シミュレーションを行うことにより、全有機炭素量及び全有機窒素量等の生成に関して所望の低い値が得られると予測される空気を注入する位置(深さ方向の位置)、流量および期間(注入時間、注入間隔)を定めることができる。本実施形態における数値シミュレーションの結果が、実際のごみ埋立地における全有機炭素量及び全有機窒素量の生成状況と良好に一致することは確認されている(後述の実施例参照)。後述の実施例では、上述した体積率ならびに有機物濃度が、空気注入条件(深さ、流量、時機および期間)に応じて、ごみ埋立地の深さ方向に経時的に変化しているという考えに基づいて、深さ方向に異なる位置で空気注入を実施している。
【0040】
本実施形態に係る廃棄物処分方法に基づく廃棄物処分支援装置を、図2に基づいて説明する。図2は、本実施形態に係る廃棄物処分支援装置のブロック構成を示す。
本実施形態に係る廃棄物処分支援装置は、図2に示すように、データの入力を受付ける入力装置としての入力部10と、該入力部10から入力された廃棄物の各種データ(例えば、重量、体積、含水率等)に基づいて廃棄物の組成を分析し、該廃棄物を無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相、液相および気相に分割して、各相の体積率を定めるとともに、それらの各相に含まれる化合物ならびに好気性菌および嫌気性菌から成る微生物の初期濃度を定める組成分析部11と、廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間が前記入力部10から入力され、この入力された各空気に関する各値を各空気注入条件として設定する空気注入条件設定部12と、組成分析部11で分析されて定められたデータおよび空気注入条件設定部12で設定されたデータを各々記憶するメモリとしての記憶部2と、この記憶部2に記憶された各データに基づいて前記数値シミュレーションを演算するCPUとしての演算部3と、この演算部3の演算結果を出力する出力装置としての出力部4とから構成される。入力部10は、外部から廃棄物の種類、廃棄物に注入する注入空気(空気の注入位置、流量、時機および期間)に関するデータの入力を受付ける。記憶部2は、組成分析部11で分析されて定められた初期濃度および体積率を組成分析データとして記憶する組成分析メモリ21と、空気注入条件設定部12で予め設定された注入する注入空気に関する注入空気データを記憶する注入空気メモリ22とから構成される。
【0041】
演算部3は、上記式(1)に基づいて、難分解性有機物固相および易分解性有機物固相に関するマスバランスを演算する難分解性有機物固相演算部31および易分解性有機物固相演算部32と、上記式(2)に基づいて、液相に関するマスバランスを演算する液相演算部33と、上記式(3)に基づいて、気相に関するマスバランスを演算する気相演算部34と、微生物の収支に関して演算する微生物演算部35と、これらの演算結果に基づいて、TOC、T−NおよびGHGを演算する予測演算部36と、TOC、T−NおよびGHGの演算結果に基づいて前記体積比εを補正する補正演算部37とから構成される。
ここで、上記の難分解性有機物固相演算部31、易分解性有機物固相演算部32、液相演算部33、気相演算部34、および微生物演算部35の各演算部は、互いに独立して演算を行うものではなく、同一時点における各相間の物質移動量を同時並行に演算し、同時点における解を同時に算出するものである。
【0042】
出力部4は、演算部3で演算されたTOCの演算結果を出力するTOC出力部41と、演算部3で演算されたT−Nの演算結果を出力するT−N出力部42と、演算部3で演算されたGHGの演算結果を出力するGHG出力部43とから構成される。
組成分析メモリ21に記憶される組成分析データは、廃棄物の各相における体積率εおよび各相に含まれる化合物の初期濃度から構成される。例えば、ある廃棄物の組成に基づいて、無機物固相の体積率は0.2、難分解性有機物固相の体積率は0.1、易分解性有機物固相の体積率は0.2、液相の体積率は0.15、
気相の体積率は0.35であることが得られる。
【0043】
また、注入空気メモリ22に記憶される注入空気データは、注入空気に関する注入空気メモリとしての位置項目、流量項目、時機項目および期間項目から構成される。この期間項目は、空気を注入する期間が指定される。また、この時機項目は、必要に応じて空気を注入する間隔および該間隔ごとの流量の変化を指定することができる。例えば、廃棄物の1.5mの深さに2.5リットル/分の一定の流量で20日間空気を注入することや、廃棄物の2.5mの深さに1.0リットル/分の流量で10日ごとに1.0リットル/分の流量を増量し、50日間空気を注入すること等の空気注入条件を設定することができる。
【0044】
以下、本実施形態に係る廃棄物処分方法の流れを、上記の図2に記載の廃棄物処分支援装置を用いて説明する。
まず、前記入力部10は、廃棄物に関するデータを受付ける。前記記憶部2は、この受付けたデータを前記組成分析メモリ21に記憶する。前記演算部3は、各相および微生物のマスバランスに基づいて、TOC、T−NおよびGHGを演算する。TOC出力部41、T−N出力部42およびGHG出力部43は、各々、算出されたTOC、T−NおよびGHGを出力する。TOC、T−NおよびGHGの出力は、端末ディスプレイ上に画面出力することや、プリンタにより紙出力することが可能である。
【0045】
TOC、T−NおよびGHGの値が、目標とする範囲を逸脱した場合には、補正演算部37により、上記の各相の体積比εが補正され、数値シミュレーションを再実行することができる。この補正は、体積比εを±50パーセントの範囲内で補正することが好ましく、より好ましくは、±30パーセントの範囲内で補正する。また、廃棄物中の有機物や微生物の初期濃度に対しても、ごみの種類などに応じて同様に変化させることができる。この補正は、廃棄物における各相の体積比εの変化(経時的、ごみ埋立地の深さ方向)を反映している。
【0046】
補正演算部37は、TOC、T−NおよびGHGが閾値内に存在するかを判断する。補正演算部37は、この判断により閾値内に存在する場合には、TOC、T−NおよびGHGの演算が精度よく実施されたと判断し、数値シミュレーション演算を終了する。
また、閾値内に存在しない場合には、補正演算部37は、TOC、T−NおよびGHGの演算の精度が低いと判断できることから、この場合には、前記組成分析メモリ21に記憶された前記体積比εを±50パーセントの範囲内で補正し、再度数値シミュレーションを行う。このように補正を行うことから、数値シミュレーションで初期値として設定した体積比εにずれがある場合に補正できることとなり、数値シミュレーションの演算精度を向上させることができる。この補正では、前記体積比εを対象としたが、廃棄物の初期条件に関するものであれば特に制限はなく、例えば、微生物の濃度や、微生物の栄養源である廃棄物中の有機炭素、有機窒素などの濃度も補正することもできる。
【0047】
数値シミュレーションの結果が、この補正によってもTOC、T−NおよびGHGの値が所望でない場合には、注入空気の各条件(空気の注入位置、流量、時機および期間)を変更することができ、適切な空気注入の注入位置、流量、時機(間隔)および期間を得ることができる。
【0048】
なお、前記実施形態においては、出力部4が、TOC、T−NおよびGHGを算出したが、これらの指標値に限定されず、他の炭素量、窒素量および排出ガスに関する一般的な指標値、例えば、TONおよびT−Cも同様に算出することができる。また、前記実施形態においては、式(1)の第j分解性固相を、難分解性有機物固相および易分解性有機物固相の2つに分けたが、この形式に限定されず、例えば、難分解性有機物固相、中分解性有機物固相および易分解性有機物固相の3つに分けることも可能である。また、初期設定した空気注入の位置に関して、複数の空気注入の位置を同時に初期設定し、得られた各々のTOC、T−NおよびGHGを出力部4が同時に出力することも可能である。
【0049】
また、本実施形態は、データの入力を受付ける入力装置、データを記憶するメモリ、演算を行うCPU、データを出力する出力装置を備えるハードウェア資源により実現される。この場合、ハードウェア資源を制御するソフトウェアのプログラム自体が本実施形態の機能を実現することになり、そのプログラム自体は本実施形態を構成する。また、そのプログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばプログラムを格納した記録媒体は本実施形態を構成する。当該コンピュータプログラムの記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等の磁気記録媒体および光磁気記録媒体がある。
【0050】
本発明の特徴を更に具体的に示すため、以下に実施例を記すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0051】
本発明に係る実施例では、本発明の実施例に係る一次元ごみ埋立地モデルとして、空気の注入を考慮した一次元ごみ埋立地モデルを構築し、好気嫌気化埋立工法を数値シミュレーションを用いて演算した。
【0052】
本発明の実施例に係る一次元ごみ埋立地モデルは,図1に示すように、廃棄物層が非分解性固相(無機物固相)、分解速度の異なる複数の分解性固相(難分解性有機物固相および易分解性有機物固相)、液相、および気相に分割されて構成される。
本発明の実施例に係る一次元ごみ埋立地モデルに含まれる一連の反応としては、基本的には、ごみに含まれる有機物が微生物の作用により分解され,分解生成物は溶質または埋立ガスとなり,埋立地からの浸出水の排除およびガス排出によって埋立地外へと排出される。さらに、埋立地の溶質中の溶存態アンモニアは,硝化菌の作用により亜硝酸および硝酸へと変換され,脱窒菌の作用により硝酸が窒素ガスに変換される。
【0053】
さらに詳細には、本発明の実施例に係る一次元ごみ埋立地モデルにおいて、難分解性有機物は、難分解性有機物固相の加水分解菌により分解されて易分解性有機物となる。易分解性有機物は、易分解性有機物固相の嫌気性および好気性加水分解により分解されて有機炭素および窒素として液相に溶解する。溶解された有機炭素は、液相中に嫌気性菌により分解されてメタンおよび二酸化炭素ガスとなり、また、液相中の好気性菌により分解されて二酸化炭素ガスとなる。アンモニア(態)窒素は亜硝酸菌により亜硝酸(態)窒素に変化し、亜硝酸(態)窒素は好気条件下に硝酸菌により硝酸(態)窒素に変化する。硝酸(態)窒素は、嫌気(性)条件下に脱窒菌により窒素ガスに変化する。液相の溶質およびバクテリア(菌)は浸透により移送される。ガスの移動は、拡散および移流によって生じる

【0054】
本発明に係る実施例では、このような一次元ごみ埋立地モデルを用いて、ごみ埋立地内の諸現象、例えば、有機物質の生分解、微生物の活性、水分の移動、溶質移動およびガス移動に着目して空気をごみ埋立地の内部に注入する条件を考慮し、数値シミュレーションを行った。また、この数値シミュレーションの妥当性を検証するためにライシメータを使用した。ライシメータとは、金属またはコンクリート製の柱状容器から成る実験装置であり、該容器に土壌を充填し、該容器の内部での土壌や土壌内の微生物に関する様々な特性を計測するものである。
【0055】
以下、本実施例においては、図3(a)に記載のライシメータによりモデル化されたごみ埋立地内の各相に対して、上記のマスバランス式(1)〜(4)に対応する以下のマスバランス式(10)〜式(33)を用いて数値シミュレーションを実施した。なお、これらのマスバランス式(10)〜式(33)は、上記のマスバランス式(1)〜(4)に基づく実施例の1つに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0056】
(実施例1)
一次元ごみ埋立地モデルの適合性確認
本発明の廃棄物処分方法に係る実施例1を図3から図5、および図6(a)に従い説明する。実施例1では、まず上記に述べた一次元ごみ埋立地モデルの適合性を確認することを目的とした。
図3は、ごみ埋立地を模擬したライシメータの概略図および空気注入から40日目のライシメータ内の浸出水のTOC濃度およびT−N濃度を示す。図4は、ライシメータ内の浸出水中のTOC、T−N、ライシメータ内の浸出水のT−N、NH4+−N、NO2-−NおよびNO3-−Nの濃度に関する本実施形態の数値シミュレーションの結果を示す。図5は、ライシメータ実験における40日目のガス組成分布を示す。図6は、ライシメータ内の埋立ガス組成分布と、1年間のTOC、T−NおよびGHGの排出量とに関する本実施形態の数値シミュレーションの結果を示す。
【0057】
本実施形態に係る実施例では、上記のマスバランス式(1)〜(4)に基づいて、ごみ埋立地内の諸現象を高精度に把握するために、固相に関しては、前述のように、無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相の3つに分割した。すなわち、本実施形態に係る実施例の一次元ごみ埋立地モデルにおいては、廃棄物は、気相、液相、無機物固相(非分解性固相)、難分解性有機物固相(分解性固相)および易分解性有機物固相(分解性固相)から成るものと廃棄物組成を仮定した。
【0058】
各固相では、金属、ガラス、セラミックおよび石類、ならびに5mm以下の粒子類の幾分かを無機成分と仮定した。プラスチック、ゴムおよび皮類、木、竹およびワラ類の50%、ならびに5mm以下の粒子類を難分解性物質と仮定した。紙類、布類、厨芥、木、竹およびワラ類の50%、5mm以下の粒子類の幾分かを易分解性物質と仮定した。5mm以下の粒子類中の無機物質、難分解性物質および易分解性無機物質の質量パーセントは、全質量中のそれらの3成分の質量パーセントから5mm以下の粒子類の質量を差し引いたものに等しいと仮定した。また、体積比は、サンプル抽出されたごみの固体から浸出した液量を液相の体積と仮定し、ごみの固体の体積を固相の体積とすると共に、ごみの全体積から当該液相および固相の体積を除外した体積を気相の体積と仮定した。
【0059】
さらに、本実施形態に係る一次元ごみ埋立地モデルにおいて、以下を仮定した。
(a) 水分の体積含有量およびガスの体積含有量は、位置的および時間的に一定である。(b) 水分の平均断面速度は、位置的および時間的に一定であり、年平均降雨強度の40%に相当する。
(c) 気相の構成成分は、メタンガス、二酸化炭素ガス、酸素ガスおよび窒素ガスである。
(d) 液相のガス濃度と気相のガス濃度との間には常に平衡状態が成立している。
(e) 溶解するメタンガスおよび窒素ガスは無視できる。
(f) 死滅したバクテリアは分解を受け、バクテリアの基質として利用されるが、難分解性有機物固相中の死滅バクテリアは易分解性有機物質に変化する。
(g) 各相の体積比は一定とし、難分解性有機物固相および易分解性有機物固相中の有機物質が分解された場合にもこのことが当てはまる。
(h) ライシメータ内の温度は一定であり、外気温度20℃に等しい。すなわち、バクテリアの活性により生じる熱はライシメータの壁から外気に放散され、ライシメータの内部に蓄熱されない。
【0060】
また、上記の難分解性有機物固相演算部31は、難分解性有機物固相について、嫌気性菌により難分解性有機物が分解されて易分解性有機物が生成されることに基づいて、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度を積分する。
易分解性有機物固相演算部32は、易分解性有機物固相について、前記難分解性有機物が分解されることによる易分解性有機物の生成、および、易分解性有機物に含まれる有機炭素および有機窒素が好気性菌および嫌気性菌により分解されて消失することに基づいて、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度を積分する。
【0061】
液相演算部33は、液相について、前記移動フラックスを平均断面速度に濃度勾配を乗じた値とし、前記易分解性有機物が分解されて有機炭素、有機窒素およびアンモニアが生成されること、好気性菌、嫌気性菌および脱窒菌により有機炭素が分解されて消失すること、亜硝酸菌によりアンモニアが分解されて亜硝酸が生成されること、硝酸菌により亜硝酸が分解されて硝酸が生成されること、該脱窒菌により硝酸が分解されて窒素ガスが生成されること、および、前記有機炭素、有機窒素、アンモニア、亜硝酸および硝酸が流入出することに基づいて、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分する。
【0062】
気相演算部34は、気相については、前記移動フラックスを前記液相への気体溶解が含まれる移流分散方程式(CDE)に基づくものとし、前記液相の嫌気性菌により有機炭素が分解されてメタンガスが生成されること、前記液相の好気性菌および嫌気性菌により有機炭素が分解されて二酸化炭素ガスが生成されること、前記易分解性有機物固相の好気性菌、前記液相の好気性菌、亜硝酸菌および硝酸菌により酸素ガスが消費されること、前記液相の脱窒菌により硝酸が分解されて窒素ガスが生成されること、前記空気注入に伴い酸素ガスおよび窒素ガスが流入すること、および、前記メタンガス、二酸化炭素ガス、酸素ガスおよび窒素ガスが流入出することに基づいて、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量と微小時間における前記廃棄物に注入する空気量とを積分する。
【0063】
また、各相の微生物に対して修正Monod式を考慮した。該修正Monod式は、好気性細菌の増殖速度はDO(溶存酸素量)濃度が高くなるほど、また嫌気性細菌の増殖速度はDO濃度が低くなるほど大きくなると考え、従来のMonod式を以下のように修正したものである。
【0064】
【数5】

【0065】
ここで、Rは増殖速度、μは比増殖速度、Xは菌体濃度、μmaxは最大比増殖速度、fSは基質影響因子、fDOは溶存酸素影響因子、CSは基質濃度、KSは基質半飽和定数、CDOは溶存酸素濃度、KDOは溶存酸素半飽和定数である。記号右下のjは相j(=
Shar:難分解性有機物固相, Seas:易分解性有機物固相, l:液相)におけるものであることを示し、記号右上のkは微生物の種類(= ':嫌気性菌, NO2:亜硝酸菌,
NO3:硝酸菌, DN:脱窒菌, または無し:好気性菌)を示す。fDOの式(8)は好気性菌、亜硝酸菌、硝酸菌に適用し、式(9)は嫌気性菌、脱窒菌に適用する。なお、難分解性有機物固相においては、考慮する影響因子はfSのみをとし、fDOは考慮しない(=1とする)。
【0066】
2−1−1.難分解性有機物固相
上記式(1)に基づく難分解性有機物固相中の炭素および窒素のマスバランスを式(10)および式(11)で示す。ここで両辺にεの項が含まれていないのは、上記式(1)の時間項(左辺)および反応項(右辺)に同値のεが積算されており、相殺されたためである。
【0067】
【数6】

【0068】
上記式において、tは時間(h)を示し、CC,Shar (kg-C/m3)およびCN,Shar
(kg-N/m3)は、難分解性有機物固相における炭素および窒素の濃度を示し、R'Shar (kg-cell/m3/h)は、修正Monod式によって表される増加速度を示し、Y'C,Shar
(kg-cell/kg-C)、Y'C,X,Shar
(kg-cell/kg-C)、Y'N,Shar (kg-cell/kg-N)およびY'C,X,Shar
(kg-cell/kg-N)は、難分解性有機物固相における加水分解バクテリアの産生速度(収率)を示す。
【0069】
2−1−2.易分解性有機物固相
上記式(1)に基づく易分解性有機物固相中の炭素および窒素のマスバランスを式(12
)および式(13)で示す。上記の難分解性有機物固相の場合と異なる点は、上記前提(f)に基づく難分解性有機物固相からの物質移動が含まれることである。
【0070】
【数7】

【0071】
上記式において、εShar (-)およびεSeas (-)は、それぞれ、難分解性有機物固相および易分解性有機物固相の体積比を示し、CC,Seas
(kg-C/m3)およびCN,Seas (kg-N/m3)は、それぞれ、易分解性有機物固相における炭素濃度および窒素濃度を示し、バクテリア活性に関する変数において右肩印(’)をつける場合およびつけない場合は、それぞれ、嫌気性加水分解バクテリアおよび好気性加水分解バクテリアであることを示し、易分解性有機物固相中の各バクテリアに関して、RSeas
(kg-cell/m3/h)は、修正Monod式によって表される増加速度を示し、YC,Seas
(kg-cell/kg-C)、YC,X,Seas (kg-cell/kg-C)、YN,Seas
(kg-cell/kg-N)およびYC,X,Seas (kg-cell/kg-N)は産生速度(収率)を示し、Kd,Seas
(1/h)は、比消滅速度を示し、XSeas (kg-cell/m3)は濃度を示す。
【0072】
2−2.液相
上記式(2)に基づく液相中の有機炭素、アンモニア(態)窒素、亜硝酸(態)窒素、亜硝酸(態)窒素および硝酸(態)窒素のマスバランスを式(14)〜式(17)で示す。
【0073】
【数8】

【0074】
上記式において、z(m)は、深さを示し、εl (-)は、液相の体積比率を示し、u (m/h)は、液体の平均断面速度を示し、CC,l
(kg-C/m3)、CNH4,l (kg-N/m3)、CNO2,l
(kg-N/m3)およびCNO3,l (kg-N/m3)は、それぞれ、液相中の有機炭素、アンモニア(態)窒素、亜硝酸(態)窒素、亜硝酸(態)窒素および硝酸(態)窒素の濃度を示し、バクテリア活性に関する変数において右肩に’、NO2,
NO3 およびDNと付けている場合、および右肩に何も付けていないのは、それぞれ、液相中の嫌気バクテリア、亜硝酸バクテリア、硝酸バクテリア、脱窒バクテリア、および好気バクテリアであることを示し、Rl
(kg-cell/m3/h)は、修正Monod式によって表される増加速度を示し、液相中の各バクテリアに関して、YC,l
(kg-cell/kg-C)、YC,X,l (kg-cell/kg-C)、YN,l (kg-cell/kg-N)およびYN,X,l
(kg-cell/kg-N)は産生速度(収率)を示し、Kd,l (1/h)は比消滅速度を示し、Xl
(kg-cell/m3)は濃度を示す。
【0075】
上記式(14)〜(17)は、いずれも、左辺が液相濃度の時間変化を考慮する時間項であり、右辺第1項は水分移動等による溶存成分の移動を考慮した移動項であり、右辺第2項以降は有機物分解や気相-液相間のガス移動等による溶存成分の生成および消失を考慮した反応項である。すなわち、上記式(2)に基づいて構築された式である。
また、液相へのガス溶解を、以下の式(18)および式(19)で示す。
【0076】
【数9】

【0077】
上記式において、CCO2,l (kg-C/m3)およびCO2,l (kg-O/m3)は、それぞれ、液相におけ
る溶解二酸化炭素濃度および溶解酸素濃度を示し、HCO2 (-)およびHO2 (-)は、それぞれ、二酸化炭素および酸素についてのヘンリー定数(無次元)を示し、CCO2,g
(kg-C/m3)およびCO2,g (kg-O/m3)は、それぞれ、気相における二酸化炭素濃度および酸素濃度を示す。
【0078】
2−3.気相
上記式(3)に基づく気相中のメタン、二酸化炭素、酸素、窒素のマスバランスを式(20)〜式(23)で示す。また、二酸化炭素および酸素の液相への溶解を式(24)および式(25)で示す。
【0079】
【数10】

【0080】
上記式において、εg (-)は、気相の体積比を示し、v (m/h)はDarcy則によって決定されるガス速度を示し、CCH4,g
(kg-C/m3)およびCN2,g (kg-N/m3)は、それぞれ、気相中のメタン濃度および窒素濃度を示し、Dk,g
(m2/h)は、ガス成分kの拡散係数を示し、ξg (-)は、ガス路の屈曲係数を示し、Y'CO2,l
(kg-cell/kg-C)およびYCO2,l (kg-cell/kg-C)は、二酸化炭素の生成速度を示し、YO2
(kg-cell/kg-O)の4つのバージョンは、酸素の消費速度を示し、QO2,g (kg-O/h)およびQN2,g (kg-N/h)は、酸素および窒素の供給速度を示す。
【0081】
上記式を、式(21)を例として説明する。式(21)は、以下の元々の式(A)と式(B)から得られたものである。式(A)については、左辺の2つの項はいずれも時間項であり,各々液相および気相での酸素ガス濃度の時間変化を考慮する項である。右辺第1項から第3項は移動項であり,移流分散方程式(Convection
Dispersion Equation;CDE)を含むガス成分の移動を考慮する項である。右辺第4項から第6項は反応項であり,
微生物による作用や気相-液相間の酸素ガス移動による酸素ガス成分の生成や消費を考慮する項である。右辺第7項は空気注入による送気項であり,送気位置において送気によるガス成分の供給を考慮する項である。すなわち、式(A)は、上記の式(3)に基づく酸素ガスのマスバランスを示している。この式(A)に式(B)を代入して得られた式が式(21)である。他の式(20)、式(22)および式(23)も同様に上記の式(3)に基づくものである。
【0082】
【数11】

【0083】
また、上記の送気項は、時間および/または位置の関数として示すことができる。さらに、この送気項は、時間や位置に対して一定とすることもできるが、例えば、間欠的な動作を示すパルス状の関数や、正弦関数などを使用して定義することもできる。ごみ埋立地への空気注入により空気が連続的に供給される場合には、この送気項を、時間や位置に対して一定な関数として示すことができる。また、ごみ埋立地への空気注入により空気が断続的に供給される場合には、この送気項を、時間や位置に対してパルス関数、正弦関数、またはそれらを組み合わせた関数を使用して示すことができる。この場合には、例えば、10日に1度の割合で空気を注入することや、1ヶ月に1度の割合で徐々に増量した空気を注入することを数値シミュレーションすることができることから、空気注入の位置、流量、時機および期間を複雑かつ詳細に設定できることとなり、連続的な空気注入のみでは得られないごみの生分解に関して従来に無い最適な空気注入条件を見出せる可能性を有する。このように、本実施形態では、従来のように経験や勘に頼るのみでは得られることが困難な複雑な空気注入条件を得ることができ、該空気注入条件により、空気を注入されたごみ埋立地においてこれまでに無い効率的な生分解を促進することができる。
【0084】
2−4.バクテリア
上記式(4)に基づく各相中のバクテリアのマスバランスを式(26)〜式(33)で示す。
【0085】
【数12】

【0086】
上記の式において、各相の体積比ε、ならびに有機物および微生物の初期濃度の他、ごみ埋立地の挿入深さz、および酸素の供給速度QO2,g(kg−O/h)を用いて酸素供給の度合い(空気の導入量)を予め設定し、一般に使用される差分法、ラプラス変換法、フーリエ変換法、テーラー展開などを用いて偏微分項を展開し、コンピュータで数値シミュレーションを行った。
【0087】
この数値シミュレーションにおいて、例えば、上記式(14)において差分法を適用して数値解を得ることを考える。時間項および移動項における偏微分を差分表式で表すと、式(14)は以下の式(34)のように展開される。ここで、Δtは時間ステップ、Δzは空間ステップであり、式(34)では左辺に時刻t+Δtの変数が含まれる項、右辺にその他の項が配置されている。時刻tにおける各変数の値が与えられると右辺の値が決定され、時刻t+Δtにおける各変数の値を算定することができる。このことによって、時間変化に伴う各変数の値の変化を逐次的に算定することができる。
【0088】
【数13】

【0089】
各相の体積比εは、それらの構成成分の質量パーセントと密度に基づいて決められる。T−Nは、NH4+−N、NO2-−N、NO3-−Nの合計であると仮定することができ、そして、NH4+−Nの増加およびNO3-−Nの消費の両方は、主として嫌気バクテリアによって起こり、嫌気状態は溶存酸素濃度で判断されることから、液相中のT−Nに対する空気供給条件に影響を受ける。また、TOCは溶存有機炭素濃度(Cc,l)として表される。
【0090】
埋立地から排出されるT−Nの量は,浸出水発生量と底面における上記のT−N濃度の積を時間で積分することで求められる。同様に,TOCの量は,浸出水発生量と底面における溶存有機炭素濃度の積を時間で積分することで求められる。また、空気導入量は,上記の送気項の値を時間で積分することで求められる。また、数値シミュレーションの初期値設定により2箇所以上のごみ埋立地の導入口から空気を導入する場合の数値シミュレーション結果を求めることもできる。
【0091】
以下、ライシメータを用いて、上記の式(5)〜式(33)に沿った数値シミュレーション結果の妥当性を、ライシメータ内の浸出水特性および検証した。40日目の浸出水中のTOCおよびT−Nの濃度およびガス組成を調べて数値シミュレーションの結果とライシメータ実験とを比較した。ライシメータ実験では、浸出水サンプルおよびガスサンプルを定期的に採取した。
【0092】
各相の体積比εは、廃棄物組成から、無機物固相が0.2、難分解性有機物固相が0.1、易分解性有機物固相が0.2、液相が0.15、 気相が0.35と設定された。考慮した微生物は、難分解性有機物固相における加水分解菌、易分解性有機物固相における好気性加水分解菌および嫌気性加水分解菌、液相における好気性菌、嫌気性菌、亜硝酸菌、硝酸菌および脱窒菌の8種である。
【0093】
上記式(5)〜(33)に含まれる各相の前記化合物および前記微生物の初期濃度は、CC,Shar 210 kg-C/m3、CN,Shar
10.5 kg-N/m3, CC,Seas 340 kg-C/m3, CN,Seas
17 kg-N/m3, CC,l 2.2 kg-C/m3, CNH4,l
3.1 kg-N/m3, CNO2,l 0.05 kg/m3, CNO3,l
0.05 kg/m3, XShar 0.03 kg-cell/m3, XSeas
0.32 kg-cell/m3, X'Seas 0.32 kg-cell/m3,
Xl 1.25 kg-cell/m3, X'l 3 kg-cell/m3,
XNO2l 0.2 kg-cell/m3, XNO3l
0.2 kg-cell/m3, XDNl 0.1
kg-cell/m3, CCH4,g 0 kg-C/m3, CCO2,g
0 kg-C/m3, CO2,g 0.28 kg-O/m3, CN2,g
0.92 kg-N/m3, CCO2,l 0 kg-C/m3, CO2,l
0.0089 kg-C/m3と設定された。
【0094】
A.ライシメータ内の浸出水特性
まず、ライシメータ内の浸出水特性を調べた。浸出水特性は、ごみ埋立地が環境に与え
る負荷を推測するのに主要な指数の一つである。好気嫌気化埋立工法を実施する一つの重要な目的は、ごみ埋立地内の有機炭素および窒素の濃度を低くすることである。好気嫌気化埋立工法が意図するのは、空気の供給条件を調整して浸出水の特性(品質)を向上させることである。
【0095】
A−1.ライシメータ実験
まず、数値シミュレーション結果の妥当性を検証するための実験データを取得するために、老港埋立地(中国上海の南東に所在)に3槽のライシメータを設置した。ライシメータの概略図を図3(a)に示す。当該3槽のライシメータA、BおよびCは、高さが3mであり、直径1mの寸法で同一の構成である。まず、ライシメータAは上面から0.5m(深さ)の位置に空気注入パイプを槽内の水平方向に取り付け、次にライシメータBは上面から2.5m(深さ)の位置に空気注入パイプを槽内の水平方向に取り付けた。ライシメータCは、対照として空気注入を行わなかった。各ライシメータA、BおよびCの底部はバラスで被覆して、浸出水の流出が容易となり浸出水タンクに集められるようにした。各ライシメータA、BおよびCの上面は、大気に開放して雨水が流入するようにした。また、各ライシメータA、BおよびCは、各々深さ0.5m毎に温度検知装置、ガスサンプリングパイプおよび浸出水のサンプリングパイプを各々取り付けた。
【0096】
なお、本実施形態では、空気注入パイプを槽内の水平方向に取り付けたが、空気注入パイプを槽内の垂直方向(深さ方向)に取り付けた場合に対しても、数値シミュレーションの初期値(上記各相の体積率ならびに廃棄物中に含まれる微生物(菌)や、有機炭素、有機窒素などの有機物を主とする各種化合物の初期濃度)を適宜変更することのみで、同様に数値シミュレーションを実施することができる。
【0097】
老港埋立地において埋立後5〜8年経過したごみを掘り出し、このごみを3槽のライシメータA、BおよびCに充填した。ライシメータA、BおよびCにごみを充填している際に、充填層高さ0.5m毎に500gのごみサンプルを採集して組成分析に供した。下記のごみ組成は全ごみサンプルの平均組成である。セラミックおよび石類が28.6%、ガラス6.6%、木、竹およびワラ類6.5%、厨芥6.0%、プラスチック類4.7%、5mm以下の粒状物43.0%であった。この物質組成を考察すると(但し、5mm以下の粒状物は除く)、セラミックおよび石類、ガラスおよび金属のような無機物質が63.7%、木、竹、ワラ類、プラスチック、布、ゴム、皮類のような難分解性の物質が24.0%、厨芥および紙類のような易分解性の物質が12.3%である。現場透水試験を実施したところ、実験に供したごみの飽和透水係数は最大2.0×10-2cm/sという高い透水性を示した。このことから、実験に供したごみは透気性も高く、ライシメータ中のガスは容易に移動可能であったと考えられる。
【0098】
空気供給パイプを介してライシメータA、BおよびCに各々空気をポンプで注入した。ライシメータAにおいては、0.5mの深さに1リットル/分の流量で空気を供給した。ライシメータBにおいては、2.5mの深さに1リットル/分の流量で空気を供給した。ライシメータCは、対照として空気注入を行わずに作動させた。
【0099】
サンプル孔を介してライシメータA、BおよびCから浸出水サンプルを抜き出し、該浸出水サンプル中のTOCおよびT−Nを測定した。TOCは、島津製作所製のTOC測定装置によって測定した。キャリアガスは酸素であり、130〜150mL/分の流量で供給した。酸素ガス圧は200kPaとした。T−Nの測定は、紫外線吸光光度計を用いて行った。ごみ埋立地のガス組成は、GC−14Bクロマトグラフィー(島津製作所製)により測定した。クロマトグラフィーのカラムはφ2mm×10mのステンレス鋼カラムとした。サンプル注入口におけるカラムおよびTCD検知器の温度は、それぞれ、40および90℃とした。キャリアガスは窒素であり、その流量を30mL/分とした。
図3(b)および(c)は、40日目のライシメータA、BおよびC内の浸出水のTOC濃度およびT−N濃度を示す。
【0100】
図3(b)にライシメータ内のTOC濃度分布を示す。ライシメータAにおける深さ0.5mでのTOC濃度は、他の2つのライシメータBおよびCと比較してほぼ同じであった。これは上面からの酸素侵入に由来し、上面近くでの酸素濃度は好気バクテリアには充分であり、何れの場合においても液相中のTOCが活発に分解されることに因ると考えられる。また、空気注入位置が2.5mであるライシメータBにおいては、他の2つのライシメータAおよびCよりもTOC濃度が明らかに低かった。
【0101】
図3(c)にライシメータA、BおよびC内のT−N濃度分布を示す。表層のT−N濃度には、ライシメータA、BおよびC間で違いがみられたが、中層および底層においてはライシメータA、BおよびC間で大きな差異がみられなかった。
【0102】
A−2.数値シミュレーション
大型ライシメータを用いる実験により、一般に、各種の指標を測定することが容易となり、さらに、特定の条件を調整して関連する理論を検証することも簡単となる。しかしながら、ライシメータ実験は、完全な成果を得るのに長時間を要し、限られた期間に幾つかの場合についてしか終了できない。さらに、ライシメータ実験を実施するコストは高い。ライシメータによって生じるこれらの制約を考慮すると、ごみ埋立地モデルを用いる数値シミュレーションにより、費用と時間を低減して目的を達成することが可能となる。
既述したごみ埋立地モデルの仮定事項および算出式に基づいて、図3(a)に示すように、高さが3mであり直径が1mであるライシメータに対して、3つの空気注入条件、すなわち、空気の注入位置を上面から0.5m(深さ)、1.5m(深さ)および2.5m(深さ)として、1リットル/分の注入速度とした場合、ならびに、対照として空気注入を行わない場合の計4つの場合について、数値シミュレーションを行った。数値シミュレーションの初期値としては、各相の初期体積率(εs(=εshar+εseas+εior),
εl,
εg)のみならず,難分解性有機物固相および易分解性有機物固相の有機物中の炭素および窒素の初期濃度(Cc,shar, Cn,shar, Cc,seas,
Cn,seas)も廃棄物組成データとして与える。
【0103】
数値シミュレーションの結果を、40日目におけるTOC濃度、T−N濃度およびガス組成に関するライシメータ実験のデータと比較して、ごみ埋立地モデルにおける仮定事項、算出式および各種パラメータの適合性を調べた。さらに、1年間にわたる浸出水の排出に伴うTOCおよびT−Nの排出量ならびにGHGの放出量を数値シミュレーションにより推測し、最適な空気注入条件を検討した。
【0104】
図4(a)は、ライシメータ内の浸出水中のTOCについての数値シミュレーションの結果を示すものである。上面近くの領域では、上記4つの場合の全てにおいて、TOCの濃度は殆ど同じであることが認められる。また、0.5mにおいて空気を注入した場合について検討すると、空気注入のない場合に比べて、浸出水中のTOC濃度はそれ程減少していない。一方、2.5mにおいて空気注入した場合は、深い場所ほど、空気注入のない場合に比べて明らかにTOCが低下している。これらの結果は、上記のライシメータ実験の結果とよく一致している。
【0105】
図4(b)は、数値シミュレーションにおけるライシメータ内の浸出水のT−N、NH4+−N、NO2-−NおよびNO3-−Nの濃度を示す。T−N濃度分布は、同図(b)に示すように、全ての場合について殆ど同じであり、この結果は、ライシメータ実験ときわめてよく一致している。また、NH4+−NおよびNO2-−Nの濃度分布についても、全ての場合で殆ど同じである。中層から底層にかけての深さにおけるNO3-−Nのグラフを検討
すると、空気注入がない場合にNO3-−N濃度が最小となり、一方、2.5mで空気を供給した場合にNO3-−N濃度が最大となっている。
【0106】
B.ライシメータ内のガス組成
次に、ごみ埋立地のガス組成を調べた。ごみ埋立地のガス組成は、ごみ埋立地によって生じる環境汚染を推測する別の重要な指標である。好気嫌気化埋立工法を実施する一つの重要な目的は、ごみ埋立地から排出される環境負荷の高いガスの濃度を抑制することである。好気嫌気化埋立工法が意図するのは、空気の供給条件を調整して埋立地からの排出ガスの質を向上させることである。
【0107】
B−1.ライシメータ実験
図5は、ライシメータ内の40日目のガス組成分布である。ライシメータB(2.5mで空気注入)においては、空気注入深さ付近の酸素濃度は、上方の層よりも高くなっている。これに対して、ライシメータA(0.5mで空気注入)においては、ガス組成に対する空気注入の影響は見出されない。ライシメータAおよびCにおいては、CH4ガスの濃度はライシメータBよりも高かった。
【0108】
B−2.数値シミュレーション
ライシメータ内の埋立ガス組成分布の数値シミュレーションの結果を図6(a)に示す。CO2の組成に関しては、2.5mに空気を供給した場合に気相中の体積割合が最低となることが認められた。この傾向は、ライシメータ実験のデータと同じである。図6(a)の右側はCH4組成を示すものであるが、0.5mに空気供給した場合のCH4組成分布は、空気注入しない場合と似ており、1.5および2.5mにおいて空気を注入した場合にはCH4の組成割合がそれより低くなっていた。この傾向は実験データとよく一致していることが確認された。
上記の実験結果から、本数値シミュレーション結果が、ライシメータを用いた実験データと合致することが確認された。このことから、本実施形態における一次元ごみ埋立地モデルの適合性が確認された。
【0109】
(実施例2)
ライシメータから排出される炭素および窒素の量の数値シミュレーション
実施例2では、上記の実施例1の結果により適合性が確認された一次元ごみ埋立地モデルを用いて、1年間のTOC、T−NおよびGHGの排出量に関する数値シミュレーションを実施し、その検証を行った。その数値シミュレーション結果を図6(b)に示す。
ごみ埋立地モデルにおいては、炭素および窒素は2つの経路を介してごみ埋立地から排出されるものとした。第1の経路は、浸出水から排出されるものであり、第2の経路はガス放出によるものである。浸出水排出による炭素の排出は溶解された有機炭素の形態で行われ、ガス放出によるものはCO2やCH4のような温室効果ガスの形態で行われる。浸出水を介する窒素の排出は、NH4+、NO2-およびNO3-の形態で行われ、ガス放出によるものは、N2ガスの形態で行われ、脱窒(脱硝)プロセスによりNO3-がN2ガスに変換される。図6(b)は、1年間のTOC、T−NおよびGHGの排出量に関する数値シミュレーションの結果を示す。
【0110】
図6(b)の左側に示されるように、空気の注入深さが深くなるほど、TOCの排出量が減少し、T−Nの排出量が増加していることが認められる。2.5mに空気注入した場合に、TOC排出量が最小となり、これは空気注入しない場合よりも27%少なく、一方、T−N排出量は最大となり、これは空気注入しない場合よりも19%多い。これは、2.5mに空気注入することにより、DO濃度が高くなり好気性加水分解が促進されるとともに、脱窒(脱硝)反応が抑制されるためと考えられる。TOCの排出を改良するためには2.5mにおける空気注入が最善であり、一方、T−Nの排出を抑制するには空気注入
しないことが最善であると推測される。
【0111】
図6(b)の右側は、1年間にわたりライシメータから放出されるGHGの数値シミュレーションの結果を示す。ここでは、CH4の地球温暖化係数(25)を考慮して、CH4量は25倍にした。GHG放出量は、空気の注入深さが深くなるほど減少することが認められる。2.5mに空気注入する場合にGHG放出量放出量は最小となり、これは、空気注入のない場合より25%少ない。2.5mに空気注入すると、最大限に嫌気性発酵が抑制され好気性発酵が促進されて、検討した事例のうち、GHG放出を制御するのに最適であると考えられる。
上記の実施例から、本実施形態のごみ埋立地のモデルに対して数値シミュレーションを用いることにより、最適な空気注入条件を決定できることがわかった。
【0112】
浸出水特性については、空気注入の深さが深くなるほど、TOCの排出量は減少した。一方、空気注入深さが深くなるほど、T−Nの排出量は増加した。GHGの放出は、空気注入が深くなるほど減少した。したがって、検討した事例のうち、最深の深さ(本実施例では2.5m)に空気注入することが、TOC排出およびGHG放出量放出の減少にとって最善であると考えられる。さらに、検討した事例のうち、空気を注入しない場合がT−N排出の減少には最善であると考えられる。
【0113】
(実施例3)
数値シミュレーションの補正
本実施例ではさらに、TOC、T−NおよびGHG排出量が、廃棄物の種類から想定される範囲を逸脱した場合には、上記の各相の体積比εを変更して補正し、再度数値シミュレーションを実行することができる。この補正は、体積比εを±50パーセントの範囲内で補正することが好ましく、より好ましくは、±30パーセントの範囲内で補正する。この補正は、廃棄物における各相の体積比εの変化(経時的、ごみ埋立地の深さ方向)を反映している。
【0114】
図7に、無機物固相、難分解性有機物固相および易分解性有機物固相の体積比εior、εSharおよびεSeasを変更して補正された場合のTOC、T−NおよびGHG排出量の変動に関する本実施例の数値シミュレーション結果を示す。図7(a)は、εSおよびεiorをそれぞれ0.5、0.2に固定し、εSharとεSeasの和は0.3であるという条件の下で、εSeasの値を0.1、0.2、0.3と変化させたものである。すなわち、(εSeas、εShar)=(0.1、0.2)、(0.15、0.15)、(0.2、0.1)の3つの場合に対して数値シミュレーションを行った。空気注入深さは2.5m、空気注入流量は1リットル/分と設定した。この3条件のうち(εSeas、εShar)=(0.2、0.1)は、実施例1のライシメータを使用した実験データのライシメータBと共通する実験条件である。このことから、図3(b)および(c)で示されたライシメータBの実験結果と比較して、εSeasを小さくするほど当該ライシメータBの実験結果と隔離していることから、(εSeas、εShar)=(0.2、0.1)の設定により、数値シミュレーション精度は十分に維持されていると判断することができる。
【0115】
図7(b)は、εSを0.5に固定し、かつεSharとεSeasの比を1:2に固定するという条件の下で、εiorの値を0.1、0.2、0.3と変化させたものである。すなわち、εior、εSeasおよびεSeasの値が(εior、εSeas、εShar)=(0.1、0.37、0.13)、(0.2、0.2、0.1)、(0.3、0.13、0.07)の3つの場合に対して数値シミュレーションを行った。空気注入深さおよび空気注入流量は図7と同様にそれぞれ2.5m、1リットル/分と設定した。この3条件のうち(εior、εShar、εSeas)=(0.2、0.2、0.1)は、実施例1のライシメータを使用した実験データのライシメータBと共通する実験条件である。このことから、図3(b)および(c)
で示されたライシメータBの実験結果と比較して、(εior、εShar、εSeas)=(0.3、0.13、0.07)の設定のほうが、当該ライシメータBの実験結果に近いため、(εior、εShar、εSeas)=(0.3、0.07、0.13)に体積率を補正することより、数値シミュレーション精度を向上できることが判断できる。
【0116】
(実施例4)
流量変更を行った数値シミュレーション
上記の数値シミュレーションにより所望の結果が得られない場合には、空気注入の設定条件を変更し、再度数値シミュレーションすることにより実際の最適な注入条件を設定することができる。
上記までの実施例では、空気注入速度を一定とし、空気を連続的に供給したが、本発明は、さらに、空気注入する位置、流量、時機および期間を自在に設定すること、例えば、空気注入箇所を複数化させること、空気注入速度を変更すること、一定時間毎に空気を供給することができ、この場合には、好気−嫌気ごみ埋立地法において、別の観点からさらに最適な空気注入条件の指針を得ることができる。
【0117】
図8(a)にごみ埋立地(前記ライシメータ)への空気注入流量を変更した場合のTOC、T−NおよびGHG排出量に関する本実施形態の数値シミュレーションの結果を示す。流量が1、3および5リットル/分の場合、および空気注入なしの場合を比較したものである。何れの場合も、送気位置は2.5mと設定した。T−NおよびGHG排出量においては、流量1リットル/分の場合が最善であり、TOC排出量においては流量5リットル/分の場合が最善であるという結果が得られた。
【0118】
図8(b)にごみ埋立地へ間欠的に空気注入した場合のTOC、T−NおよびGHG排出量に関する本実施形態の数値シミュレーションの結果を示す。連続注入した後に1ヶ月間注入を停止することを1年間繰り返した。連続注入期間は、1、2および3ヶ月間と設定した。比較対象として、空気注入なしの場合も示した。注入期間が短いほど、T−N排出量を抑制できるという結果が得られた。TOC排出量においては、注入期間の違いによる大きな差異はみられなかったが、わずかながら注入期間が2ヶ月間の場合が最善であるという結果が得られた。GHG排出量についても、注入期間が2ヶ月間の場合が最善であった。TOCおよびGHG排出量においては、検討した注入期間の中の中央値である2リットル/分の場合が最善であるという結果が得られた。
【0119】
図9にごみ埋立地への空気注入箇所を複数化させた場合のTOC、T−NおよびGHG排出量に関する本実施形態の数値シミュレーションの結果を示す。ここでは深さ0.5および2.5mの2箇所からそれぞれ1リットル/分の流量で空気注入した。比較対象として、空気注入なしの場合および深さ2.5mのみから1リットル/分の流量で空気注入した場合も示す。空気注入位置を1箇所とした場合と2箇所とした場合では、得られた結果に大きな差異は見られなかったが、わずかながら2箇所注入の方がTOC排出量は少なく、T−NおよびGHG排出量は多くなるという結果が得られた。
【0120】
(実施例5)
数値シミュレーションのスケールアップ
上記までの実施例では、本数値シミュレーション方法を用いて、埋立てされた廃棄物を効率的に処理できる最適な嫌気性または好気性条件を与える最適条件を得ることにより、廃棄物を高度に安定化することができる廃棄物処分方法が新たに見出された。さらに、本実施例では、この廃棄物処分方法を用いたごみ埋立地からスケールアップした場合にも、高度に安定化されたごみ処分場(ごみ処分装置)を構築できることを確認した。
図10にごみ処分場の廃棄物層の高さが異なる場合のTOC、T−NおよびGHG排出量に関する本実施形態の数値シミュレーション結果を示す。廃棄物層の高さは3、4および
5mの3通りとし、空気注入深さをそれぞれ2.5、3.5および4.5と設定した。空気注入流量は何れの場合も1リットル/分とした。廃棄物層の高さが高くなるにつれて、TOC排出量、T−N排出量、GHG排出量の何れもが増加し、特にGHG排出量が顕著に増加するという結果が得られた。廃棄物層の高さが異なる場合についても、上記の実施例と同様に、本実施形態による数値シミュレーションによって、高度なごみ処分場の安定化を図るための空気注入の位置、流量、時機および期間に関する指針を得ることができる。
【符号の説明】
【0121】
10 入力部
11 組成分析部
12 空気注入条件設定部
2 記憶部
21 組成分析メモリ
22 注入空気メモリ
3 演算部
31 難分解性有機物固相演算部
32 易分解性有機物固相演算部
33 液相演算部
34 気相演算部
35 微生物演算部
36 予測演算部
37 補正演算部
4 出力部
41 TOC出力部
42 T−N出力部
43 GHG出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値シミュレーションに基づいて、好気性および嫌気性の雰囲気下に廃棄物を処理する廃棄物処分方法において、
前記数値シミュレーションが、
(1)前記廃棄物の組成を分析し、該廃棄物を無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相、液相および気相に分割して、各相の体積率を定めるとともに、それらの各相に含まれる化合物ならびに好気性菌および嫌気性菌から成る微生物の初期濃度を定める組成分析ステップ;
(2)前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間を定める空気注入条件設定ステップ;および
(3)前記各相における前記化合物および前記微生物の濃度の時間的変化量を演算して、前記廃棄物から分解生成される全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの予測を求める生成物予測ステップを含み、
前記生成物予測ステップが、
(3)−1:前記難分解性有機物固相および易分解性有機物固相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度を積分し、
(3)−2:前記液相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
(3)−3:前記気相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量と微小時間における前記廃棄物に注入する空気量とを積分し、
(3)−4:さらに、前記微生物について、前記難分解性有機物固相、易分解性有機物固相および液相における当該微生物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの前記予測を求め、
前記求められた予測に基づいて、前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間の適否を判断して、前記廃棄物に空気注入して処理することを特徴とする廃棄物処分方法。
【請求項2】
前記予測に基づいて、数値シミュレーションにおける前記体積率および前記初期濃度のうち少なくとも1つを補正することを特徴とする請求項1の廃棄物処分方法。
【請求項3】
好気性および嫌気性の雰囲気下に空気を注入して廃棄物を処理するに際して、該廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間の適否を判断するのに用いる廃棄物処分プログラムにおいて、
(1)前記廃棄物の組成を分析して定めた、該廃棄物を構成する無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相、液相の各体積率と、それらの各相に含まれる化合物ならびに好気性菌および嫌気性菌から成る微生物の初期濃度とを記憶する組成分析データ記憶手段、
(2)前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間を記憶する空気注入データ記憶手段、
(3)前記各相における前記化合物および前記微生物の濃度の時間的変化量を演算して、前記廃棄物から分解生成される全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの予測を求める生成物予測演算手段としてコンピュータを機能させ、
前記生成物予測演算手段が、
(3)−1:前記難分解性有機物固相および易分解性有機物固相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度を積分し、
(3)−2:前記液相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
(3)−3:前記気相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量と微小時間における前記廃棄物に注入する空気量とを積分し、
(3)−4:さらに、前記微生物について、前記難分解性有機物固相、易分解性有機物固相および液相における当該微生物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの前記予測を求めることを特徴とする廃棄物処分プログラム。
【請求項4】
前記予測に基づいて、数値シミュレーションにおける前記体積率および前記初期濃度のうち少なくとも1つを補正する補正演算手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする請求項3の廃棄物処分プログラム。
【請求項5】
請求項3または請求項4の廃棄物処分制御プログラムを記憶したコンピュータが読み取り可能な記憶媒体。
【請求項6】
数値シミュレーションに基づいて、好気性および嫌気性の雰囲気下に廃棄物を処理する廃棄物処分支援装置において、
(1)前記廃棄物の組成を分析し、該廃棄物を無機物固相、難分解性有機物固相、易分解性有機物固相、液相および気相に分割して、各相の体積率を定めるとともに、それらの各相に含まれる化合物ならびに好気性菌および嫌気性菌から成る微生物の初期濃度を定める組成分析手段;
(2)前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間を定める空気注入条件設定手段;および
(3)前記各相における前記化合物および前記微生物の濃度の時間的変化量を演算して、前記廃棄物から分解生成される全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの予測を求める生成物予測手段を備え、
前記生成物予測手段が、
(3)−1:前記難分解性有機物固相および易分解性有機物固相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度を積分し、
(3)−2:前記液相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
(3)−3:前記気相については、当該相に含まれる化合物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量と微小時間における前記廃棄物に注入する空気量とを積分し、
(3)−4:さらに、前記微生物について、前記難分解性有機物固相、易分解性有機物固相および液相における当該微生物の微小時間における体積率当たりの生成速度と当該相の微小時間における体積率あたりの移動フラックスの位置変化量とを積分し、
全有機炭素量、全窒素量および温室効果ガス量のうちの少なくとも1つの前記予測を求め、
前記求められた予測に基づいて、前記廃棄物に注入する空気の注入位置、流量、時機および期間の適否を判断して、前記廃棄物に空気注入して処理することを特徴とする廃棄物処分支援装置。
【請求項7】
前記予測に基づいて、数値シミュレーションにおける前記体積率および前記初期濃度のうち少なくとも1つを補正することを特徴とする請求項6の廃棄物処分支援装置。

【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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