説明

廃棄物最終処分場の表層構造

【課題】廃棄物の表層部全面に通気性と浸水性を兼ね備えた廃棄物最終処分場の敷設構造を提供せんとする。
【解決手段】敷設勾配方向に繊維を並べた繊維状物中に多孔質の非通水性もしくは難通水性膜を積層した多数の通気一部遮水シートを、前記敷設勾配の下方側の前記シートの上部の一部分を上方側のシートの一部に重ねた逆瓦ぶき構造とした廃棄物最終処分場の表層構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物最終処分場の表層構造に関し、特に、一般廃棄物や産業廃棄物を含む廃棄物を埋めたてた廃棄物最終処分場における表層部の敷設構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在行なわれているものとしては、土砂等を廃棄物最終処分場に覆土する覆土工法と、覆土の代わりに遮水シートやアスファルトで廃棄物最終処分場の表層に施すキャッピング工法が知られている。
【0003】
しかし、今問題になることとして、覆土工法では廃棄物中に空気を取り入れるといった好気性雰囲気により、多少の降雨量による水分の供給を図る上で、廃棄物中の有機物を分解して自然な土壌に戻すというメリットはあるものの、多量の降雨量を調整できないために廃棄物中へ過剰の浸透水が入ることで、前記有機物の分解が進まないばかりか、浸透水が廃棄物最終処分場から大量の汚水が処分場外である周囲に排出することで地下水の汚染や生物への悪影響を与え、これを回避するため溜池やろ過設備など設備施設の設置といった費用が必要となるといった欠点がある。一方、キャッピング工法は廃棄物中へ浸透水が入らないために、降雨時の雨水はそのまま廃棄物を通らずに流出していたので上記した設備や費用が掛らないというメリットはあったものの、処分場内の廃棄物が嫌気性の環境となって廃棄物の分解による土壌化へ遅れを招いて安定土壌への長期化をやむなくし、その途中においてメタンガスやアンモニアなどの悪性ガスを発生させて環境汚染問題を生じるといった欠点が生じてくる。
【0004】
これらの欠点を解消する、すなわち覆土工法によるろ過設備等の設備や費用が掛るといった欠点を軽減し、またキャッピング工法による廃棄物の分解に時間が掛って、悪性ガスによる大気汚染といった欠点を解消するために、特許第3354920号が提案されている。
しかしながら、この提案発明は透水性を有する部分は今まで用いられてきた通常の覆土工法を平坦地に、また透水性又は難水性を有する部分に遮水シートやアスファルト等の遮水基材を傾斜面に、交互に、いい換えれば縞模様に最終覆土を形成したものである。このことは、施工時には傾斜面には覆土を施し、その間の平坦地に遮水シートかアスファルト等の遮水基材を各個に異なる面積に応じて施工していかなければならず、そのために手間が掛って工期が長くなり工費が掛ってしまう他に、使用上も特に遮水基材を被覆した直下方向では降雨による浸水むらが生じて全体として十分な廃棄物の分解が生じ難いという問題点がある。
【特許文献1】特許第3354920号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解決したものであり、表層部全面に通気性と透水を兼ね備えた埋立地の廃棄物最終処分場における表層部の敷設構造を提供せんとする。
すなわち、本発明は比較的少ない降雨量の際にも雨水の廃棄物への浸透量を確保して処分場全体に満遍なく行きわたらせることができ、豪雨時や降雨量の多い時期にもある一定値以上の雨水の浸透を防止することができるようにする。また、埋立廃棄物内部の状況や処分場からの浸出水の設備施設の容量に合せて各通気一部遮水シートの重ね合せ状態を制御することで廃棄物への浸透雨量の設計ができるようにする。さらに、繊維状物を各種公知材料を選択することにより、本発明の表層上の覆土厚の調節ができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的に鑑みてなされたものであり、その要旨は、埋立地に埋めたてた廃棄物最終処分場における表層部の敷設構造であって、該表層部の敷設は多数の長尺物の通気一部遮水シートの幅方向の一部を順に重ね合せ、しかも重ね合せた敷設勾配の下方側の通気一部遮水シートを上方側の上部に重ねた逆瓦ぶき構造とし、前記通気一部遮水シートの断面が敷設勾配方向に繊維を並べた繊維状物の断面中に多孔質の非通水性もしくは難通水性膜を積層することにより、敷設した前記通気一部遮水シートの非通水性もしくは難通水性膜の上方に雨水を流下させるとともに、下方に浸透した雨水を廃棄物のほぼ全面に降水するようにしたことにある。
【0007】
上記発明によれば、敷設勾配方向に並べた透水性を有する繊維状物の断面の中に非通水性もしくは難通水性膜を積層した通気一部遮水シートのうち、下方側を上方側に一部重ねて逆瓦ぶきに敷設しているので、多量の降雨量の場合でも通気一部遮水シートより上部での降雨はそのまま該シート上を滑り落ち、その滑り落ちた降水の一部はその下方側に一部重ね合せた通気一部遮水シートの非通水性もしくは難通水性膜の上方で滑り落ちることを続けて行くことで廃棄物最終処分場外に流出するか水処理施設に溜められて処理され、また通気一部遮水シートの非通水性もしくは難通水性膜の下方に侵入した降水は過飽和状態となって廃棄物内に満遍なく浸水していく。
【0008】
上記発明とは別の発明として、前記逆瓦ぶき構造の重ね合せ部分の幅を変化させること、すなわち重ね合せ幅を大きくとること、すなわち重ね合せ部の総延長面積を大きくとることで、通気一部遮水シートの上方側から滑り落ちてきた水は既に下方側にある通気一部遮水シートの非通水性もしくは難通水性膜の下部に浸水して、直接廃棄物と相対した箇所において水を飽和状態になった総面積を小さくし、したがって廃棄物の透水量も小さくする。これとは逆に、重ね合せ部の総面積を小さくすることは、もともと通気一部遮水シート面積が上記と同じ大きさであることから、水を飽和状態にした総面積は大きくなり、透水量も大きくなる。
【0009】
なお、非通水性もしくは難通水性膜の通気一部遮水シートの断面における上下高さの位置を変えることで、その下部の繊維状物の断面積を大きくすれば、その分廃棄物上へ落下する水量が大きくなるようにも考えられるが、実験によれば上方の通気一部遮水シートから滑り落ちてくる水は、下方の通気一部遮水シート下部における繊維状物内が水で飽和状態になっており、落下する水量が過飽和状態となって廃棄物上へ落下する水量より遅くて大量のために、落下水は下方の通気一部遮水シートに乗り上げて下方に大量に滑水することで非通水性もしくは難通水性膜の通気一部遮水シートの断面における上下の位置にあまり影響を及ぼさないことが判った。
【0010】
なお、通気一部遮水シートの構造としては、非通水性もしくは難通水性膜とその下部の繊維状物とを、ニードルパンチか接着剤もしくは非通水性もしくは難通水性膜を熱融着し、前記膜の上方の繊維状膜は単に重ねて、その上に覆土を施せば良い。
【0011】
また、他の発明として、上記敷設勾配方向に並べた繊維状物を長繊維不織布とすることで、本発明の目的とする小径の目の詰まった長い繊維状の布体を得ることができる。
さらに、非通水性もしくは難通水性膜としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はポリ塩化ビニルの膜から選ばれるが、産業廃棄物から気化する耐メタンガスや耐アンモニアを考慮して、ポリプロピレンが好ましい。
さらにまた、本発明は多数の通気一部遮水シートを上記構成のように一部重ねて敷設しているので、敷設上部に覆土して植栽したり、遊歩道や運動場を設けることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、繊維状物の断面中に非通水性もしくは難通水性膜を積層した多数の通気一部遮水シートを逆瓦ぶき構造にしたものを廃棄物最終処分場における表層部構造としたことにより、重ね合せた上方側の通気一部遮水シートから滑落した雨水は下方側の通気一部遮水シートの端部に突き当り、連続して突き当った雨水の一部は非通水性もしくは難通水性膜の上方に雨水を流下させるとともに、膜下方の雨水は既に飽和状態にある繊維状物に侵入して、過飽和状態になった量だけ廃棄物へ落下し、その落下量と同程度の量だけ侵入を継続していく。このために、雨水の廃棄物への浸透量は上方の通気一部遮水シートから流下したものは、単に下方にある通気一部遮水シートの非通水性もしくは難通水性膜の上方と下方に分けられるだけでなく、下方の繊維状物中に雨水が浸入する量も繊維状物から廃棄物へ落下した量と同程度の量が浸透していくために、降雨量の大小や繊維状物の断面密度に大きな違いはなくほぼ定量に近い水量を落下させることが可能になった。したがって、本発明では豪雨時や降雨量の多い時でも、下部繊維状物中へは通常の雨量とほぼ同じ程度の水量を廃棄物中に浸透できる。このことにより、廃棄物中に浸透してからの溜水を処理する水処理施設が、従来上記のように水量を十分には調整できなかったものよりも、小規模のもので利用可能になる。
【0013】
また、地域による年間雨量平均、内部の埋立廃棄物の状況に合せて、個々の通気一部遮水シートの幅や、前記した上下各通気一部遮水シートの重合部を調整して、雨量の廃棄物への適切な浸透量を確保することができる。
さらに、繊維状物はその繊維の長手方向を敷設勾配方向に並べることは本発明の必須条件であるが、その繊維状物を例えば長繊維不織布を用いることにより、下方側の通気一部遮水シート下部先端にまで十分に浸透水を行きわたらせることができ、より満遍なく廃棄物への透水を行なうことができる。
さらに、非通水性もしくは難通水性膜としては、廃棄物からメタンガスやアンモニアなどを通すに適した直径0.01 mm〜0.1 mmの小孔を有する多孔質体のボリエチレン、ジオテキスタイル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルのいずれか選ばれたものを適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、敷設勾配方向に繊維を並べた繊維状物の断面中に、非通水性もしくは難通水性膜を有する多数の通気一部遮水シートを、各シートの敷設勾配の下方側を上方側の上部に一部分を重ねた逆瓦ぶき構造としたものであり、埋立地に埋めたてた廃棄物最終処分場の表層部に敷設した構造である。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施例を添付図面に沿って説明する。
図1は、本発明に使用する長尺物の通気一部遮水シートの一部断面図である。
同図のシートの断面の厚さは3 mm又は5 mmであり、幅の長さは1000 mm〜2000 mmであり、長尺の長さ方向の寸法は廃棄物最終処分場の敷設幅に応じて切断して使用する。1は通気一部遮水シートであり、該シート1には繊維状物として繊維を一方向に並べた長繊維不織布3の上部にアンモニアやメタンガスを通す多孔質(図示せず)のポリエチレン膜2が熱融着している。また、このポリエチレンの上部には上記と同質の長繊維不織布4が載置する等で重合している。ここで、上記多孔質の孔径は雨水を通さず、アニモニアやメタンガスを通すに必要な0.01μm〜0.5μmの多数の孔が設けられており、長繊維不織布4の繊維は直径約0.02 mmのものが多数帯状になって通常の不織布と同じ製法により作られている。
図2は、図1の通気一部遮水シート1を埋立てが完了した廃棄物層5の最終処分場上に敷設した本発明である廃棄物最終処分場Aの概念図で、図3は図2の丸Xで囲んだ要部拡大の説明図である。図3は、敷設勾配の下方側の通気一部遮水シートの一部である上端部を上方側の一部上部に重ね合せたものであるが、その上に雨が降ると図面上右側の前記構造のシート1から左側のシート1'方向に雨水が流れ落ち、右側のシート1上を流れ落ちた雨水の一部は左側のシート1'右端に突き当って、その一部は多孔質のポリエチレンより下部の長繊維不織布4中に浸透してその長繊維に沿って流下するが、この雨水の浸透量は過飽和状態となって長繊維不織布4の下方にある廃棄物層5に満遍なく降水する(濃色の矢印)。一方、上記突き当った雨水の中で上記多孔質のポリエチレンより下部の長繊維内に浸透した水量より約3倍の水量は多孔質ポリエチレンの上方を流れ落ちて行くことが実験により明らかになった。その理由は、多孔質ポリエチレンの下部の長繊維不織布4内は水量が飽和状態にあり、左側シート1'の右端に突き当った雨水は飽和状態の水の中に入りきれずに多孔質ポリエチレンの上部に乗り上げて落下することにあると考えられる。
【0016】
つぎに、図4aは上図3における左側シート1'の右端部を右側シート1の左端部上に一部重ね合せた部分をより大きくして各通気一部遮水シートの幅を狭くしたものであり、図4bは重ね合せた部分を小さくして各通気一部遮水シートAの幅を広くしたものである。このように成形した全体構造のもの(図4a)は、年間降雨量が大きい多雨地域に採用することで、その水量の多くを廃棄物中へ通水させずにシートA上を流出させるが、年間が比較的少雨地域ではシートAの重ね合せ幅を小さくすることにより降雨時における廃棄物への降水量を大きくした。
また、本発明における多孔質体のポリエチレンの上部にある長繊維不織布は、必ずしも上記多孔質ポリエチレンと融着や接着することなく、単に重ね合せておくことで多孔質ポリエチレンの多孔部分から上方に出たアンモニアやメタンガスを直接塞ぐことないように、余裕を与えたものである。
なお、本発明の廃棄物最終処分場の表層構造上に覆土を均等に施すことにより、植栽や遊歩道又は公園などに利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明では、多孔質の非通水性もしくは難通水性膜を繊維状物の断面中に積層した多数の通気一部遮水シートを、敷設勾配方向の下方側の上端部を上方側の下端部上に重ね合わせることによって、廃棄物上に満遍なく透水することを可能にしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に用いる通気一部遮水シートの断面を説明した概略図である。
【図2】図1のシートを逆瓦ぶき構造にした、本発明の廃棄物最終処分場における表層部の概略図である。
【図3】図2のX部分の拡大図である。
【図4】(a)は、図3の通気一部遮水シートの重合部を大きくとった平面説明図であり、(b)は、図3の通気一部遮水シートの重合部を小さくとつた平面説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1 通気一部遮水シート
2 多孔質の非通水性もしくは難通水性膜(多孔質のポリエチレン)
3 下部の繊維状物(長繊維不織布)
4 上部の繊維状物(長繊維不織布)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋立地に埋めたてた廃棄物最終処分場における表層部の敷設構造であって、該表層部の敷設は多数の長尺物の通気一部遮水シートの幅方向の一部を順に重ね合せ、しかも重ね合せた敷設勾配の下方側の通気一部遮水シートを上方側の上部に重ねた逆瓦ぶき構造とし、前記通気一部遮水シートの断面が敷設勾配方向に繊維を並べた繊維状物の断面中に多孔質の非通水性もしくは難通水性膜を積層することにより、敷設した前記通気一部遮水シートの非通水性もしくは難通水性膜の上方に雨水を流下させるとともに、下方に浸透した雨水を廃棄物のほぼ全面に降水するようにしたことを特徴とする廃棄物最終処分場の表層構造。
【請求項2】
前記逆瓦ぶき構造の重ね合せ部分の幅長を変化させることにより、廃棄物最終処分場の廃棄物への雨水の単位面積当りの浸透量を変化可能にした請求項1に記載の廃棄物最終処分場の表層構造。
【請求項3】
前記繊維状物が、長繊維不織布である請求項1又は2に記載の廃棄物最終処分場の表層構造。
【請求項4】
前記非通水性もしくは難通水性膜が、多孔質である、ポリエチレン、ジオテキスタイル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルのいずれかから選ばれたものである請求項3に記載の廃棄物最終処分場の表層構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−262092(P2009−262092A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116867(P2008−116867)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 廃棄物学会が2007年11月1日に第18回廃棄物学会研究発表会 講演論文集IIを発行
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(000204099)太洋興業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】