説明

廃水の生物処理水含有水の浄化方法及び浄化装置

【課題】生物処理水含有水をRO膜分離処理して浄化するに際して、RO膜の透過流束の低下を防止して、長期に亘り安定した処理を行う。
【解決手段】廃水の生物処理水を含有する、TOC濃度が0.5〜100mg/Lの被処理水をRO膜分離処理して浄化する方法において、被処理水中の多価金属イオンを除去した後、RO膜分離処理する。生物処理水含有水をRO給水とした時のRO膜閉塞主要因物質である蛋白質や高分子多糖類などの比較的粘着性の高いファウリング性物質に対して、バインダー的要因となり、汚染物質の膜面付着を助長させる多価金属イオンを、RO膜分離処理に先立ち除去することにより、このような汚染物質の膜面付着の助長を抑制し、これにより、膜の目詰まりによる透過流束の低下を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水の生物処理水含有水の浄化方法及び浄化装置に係り、詳しくは、廃水の生物処理水を含有する水を逆浸透(RO)膜により膜分離処理して浄化するに際して、RO膜の透過流束の低下を防止して、長期に亘り、安定な処理を行うことができる廃水の生物処理含有水の浄化方法と浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境基準、水質基準は厳しくなる傾向にあり、放流水についても高度に浄化することが望まれている。一方で、水不足解消の目的から各種の排水を回収して再利用するためにも、高度な水処理が望まれている。
【0003】
このような状況において、RO膜分離処理は、水中のイオン類、有機物、微粒子などの不純物を効果的に除去することが可能であることから、近年、排水の二次処理に使用されるケースが多くなってきている。
【0004】
RO膜分離処理に用いられるRO膜としては、一般に、ポリアミド複合膜(PA膜)や酢酸セルロース酸(CA膜)などが提供されている。また、RO膜分離処理においては、透過流束(Flux)の低下を防止して安定した処理を行うために、RO膜分離装置に供給する被処理水(RO膜分離処理の給水)について基準が設けられており、JIS K 3802に規定されるファウリングインデックス(FI)が4以下であることが望まれている。ファウリングインデックスは、その値が小さいほど、RO膜への負荷が少なく、透過流束の低下が起こり難い。
【0005】
従来のRO膜のうち、PA膜は被処理水中に含まれる界面活性剤や糖脂質、蛋白質などの微量のファウリング性物質の吸着により、膜が汚れ、急激に透過流束が低下するために、安定したRO膜分離処理を継続し得ないという欠点がある。CA膜はPA膜に比べて耐汚染性は良好であるが、脱塩率が低く、また操作圧が高いという問題がある。
【0006】
近年、膜表面の荷電性をなくし、かつ親水性を向上させることにより膜を汚れにくくしたRO膜として耐汚染膜が開発されたが、このような耐汚染膜であっても、生物処理水のような高分子多糖類、蛋白質などの比較的粘着性の高い成分を含む水を処理する場合には、その耐汚染効果は低く、やはり経時により透過流束が低下するという問題がある。
【0007】
従来、屎尿系汚水については、膜の目詰まりが少なく、透過液量をそれ程低下させることなく処理水質を向上させることができ、膜の運転寿命を格段に延長させ得る汚水の処理装置として、屎尿系汚水を脱水する手段、脱水手段からの分離水を生物学的硝化脱窒する手段、硝化脱窒手段からの生物処理液を凝集処理する手段、凝集処理手段からの凝集処理液を固液分離することなくそのまま膜分離する手段からなる屎尿系汚水の処理装置が提案されている(特許文献1)。また、微量の有機物を含有する水をオリゴトロフィックバクテリアによる生物処理と膜分離処理とで処理するにあたり、膜の透過流束の低下を防止して長期に亘り安定かつ効率的な処理を行う方法として、生物反応槽の溶存酸素濃度を2mg/L以上に維持する方法が提案されている(特許文献2)。
【0008】
生物処理含有水のRO膜分離処理における膜の目詰まりを防止するためには、蛋白質や高分子多糖類などの比較的粘着性の高いファウリング性物質を予め濾過して除去することが考えられるが、これらのファウリング性物質は非常に小さいものであるため、重力濾過器、圧力濾過器などの濾過器では捕捉されることがなく、濾過による前処理を行っても、RO膜分離装置に流入し、膜の目詰まりの原因となる。孔径0.45μm以下の精密濾過装置で膜濾過した場合には、得られる膜濾過水のファウリングインデックスは4以下となり、RO膜への給水条件は満たすものとなるが、この場合でもRO膜の透過流束の低下を抑制することはできないことが近年明らかになってきた。
【0009】
なお、特許文献3には、半導体洗浄回収水と工業用水を別々に生物処理を行った被処理水をRO膜分離装置を有する純水製造装置及び二次純水製造装置に通水して処理する超純水の製造方法において、Ca2+、Na、K、Clといったイオン類の除去にイオン交換純水装置を用いることが記されている。また、特許文献4では、脱気装置、RO膜分離装置の後に電気再生型脱イオン装置を有する純水製造装置において、カチオン交換樹脂塔を設けることが記述されている。しかし、これらの発明におけるイオン交換は、RO膜透過水のイオン濃度を減少させて、電気再生脱イオン装置などのRO膜分離装置の後段に設けられたプロセスの負荷を軽減したり、最終的に得られる純水のグレードを高めたりすることが目的である。即ち、特許文献3,4において、本願発明が対象とする廃水の生物処理水含有水に比べて極めて清澄であり、RO膜の有機物汚染による透過流束の低下という問題も顕著ではなく、従って、特許文献3,4においては、RO膜の有機物汚染による透過流束の低下を防止するという技術的課題は存在しない。
【特許文献1】特公平7−55318号公報
【特許文献2】特開2000−288578号公報
【特許文献3】特開平7−313994号公報
【特許文献4】特開2000−317457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、廃水の生物処理水を含有する水をRO膜により膜分離処理して浄化するに際して、RO膜の透過流束の低下を防止して、長期に亘り安定した処理を行うことができる廃水の生物処理水含有水の浄化方法及び浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)の廃水の生物処理水含有水の浄化方法は、廃水の生物処理水を含有する、TOC濃度が0.5〜100mg/Lの被処理水を逆浸透膜分離処理して浄化する方法において、該被処理水中の多価金属イオンを除去した後、逆浸透膜分離処理することを特徴とする。
【0012】
請求項2の廃水の生物処理水含有水の浄化方法は、請求項1において、該被処理水をイオン交換樹脂に接触させることにより該被処理水中の多価金属イオンを除去することを特徴とする。
【0013】
請求項3の廃水の生物処理水含有水の浄化方法は、請求項1において、前記多価金属イオンがカルシウムイオンであって、該被処理水中のカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させた後に濾過することにより、該カルシウムイオンを除去することを特徴とする。
【0014】
請求項4の廃水の生物処理水含有水の浄化方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該被処理水は多価金属イオン濃度が10〜1000mg/Lであることを特徴とする。
【0015】
本発明(請求項5)の廃水の生物処理水含有水の浄化装置は、廃水の生物処理水を含有する、TOC濃度が0.5〜100mg/Lの被処理水を逆浸透膜分離処理して浄化する装置において、該被処理水中の多価金属イオンを除去する多価金属イオン除去手段と、該多価金属イオン除去手段の処理水が導入される逆浸透膜分離装置とを備えてなることを特徴とする。
【0016】
請求項6の廃水の生物処理水含有水の浄化装置は、請求項5において、前記多価金属イオン除去手段がイオン交換樹脂塔であることを特徴とする。
【0017】
請求項7の廃水の生物処理水含有水の浄化装置は、請求項5において、前記多価金属イオンがカルシウムイオンであって、前記多価金属イオン除去手段が、該被処理水に炭酸塩及び/又は炭酸ガスを添加してカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させる炭酸成分添加手段と、該炭酸成分添加手段からの水が導入される濾過装置とを有することを特徴とする。
【0018】
請求項8の廃水の生物処理水含有水の浄化装置は、請求項5ないし7のいずれか1項において、該被処理水は多価金属イオン濃度10〜1000mg/Lであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の廃水の生物処理水含有水の浄化方法及び浄化装置によれば、廃水の生物処理水含有水をRO膜分離処理して浄化するに際して、RO膜の透過流束の低下を防止して、長期に亘り安定した処理を行って高水質の処理水を効率的に得ることができる。
【0020】
即ち、前述の如く、RO膜分離装置のRO膜分離処理に先立ち、濾過処理を行うことにより、ファウリングインデックス4以下のRO給水条件を満たす水を得ることができるが、この場合でも、透過流束の経時低下の問題があった。本発明者らは、この問題の原因について鋭意検討した結果、廃水の生物処理水含有水中に含まれる多価金属イオンが、廃水の生物処理水含有水をRO給水とした時のRO膜閉塞主要因物質である蛋白質や高分子多糖類などの比較的粘着性の高いファウリング性物質に対して、バインダー的要因となり、汚染物質の膜面付着を助長させることが原因となっていることを見出した。
【0021】
本発明においては、RO膜分離処理に先立ち、多価金属イオンを除去することにより、このような汚染物質の膜面付着の助長を抑制し、これにより、膜の目詰まりによる透過流束の低下を防止する。
【0022】
なお、一般に2価の金属イオンとアニオンとが不溶性の塩を形成することを防ぐために、キレート剤や、分散剤が使用されることがあるが、これらの使用はスケールの形成を低減する上では有効であるが、生物処理水含有水中の多価金属イオンと有機物による膜汚染の進行を軽減するためには効果が低い。
【0023】
請求項2,6によれば、多価金属イオン除去手段としてイオン交換樹脂を用いることにより、多価金属イオンを陽イオン交換樹脂により効率的に吸着除去することができる。また、更に、陰イオン交換樹脂を用いた場合には、アニオン性高分子を除去して、アニオン性高分子による膜汚染を防止することができる。特に、イオン交換樹脂塔への通水処理では、イオン交換樹脂層を透過することにより、生物処理水含有水中に含まれる固形分も除去されるため、固形分の付着によるRO膜の透過流束の低下も抑制することができる。
【0024】
また、多価金属イオンのうち、特にカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させ、これを濾過除去する請求項3,7によれば、カルシウムイオン等の多価金属イオンを析出させる際に生物処理水含有水のTOCをも同時に取り込んでこれを除去することができ、RO給水をより一層高水質で膜汚染物質の少ないものとすることができる。
【0025】
このようにしてカルシウムイオンを析出させて濾過除去する場合、カルシウムイオンが炭酸カルシウムの飽和濃度以上に除去されるため、RO給水をpH10以上のアルカリ条件で運転することによって、スケールの生成し易い系であっても、カルシウムスケールの問題を引き起こすことなく、また、アルカリ条件とすることによりシリカの溶解度を上昇させて、シリカスケールの問題も防止することができる。
【0026】
なお、本発明によれば、廃水の生物処理水含有水中の多価金属イオンを予め除去しておくことにより、RO膜分離装置内での炭酸カルシウムやリン酸カルシウムなどのカルシウム系スケールの析出を防止することもできる。ただし、この効果は、副次的なものであり、多価金属イオンの濃度、濃縮倍率からスケールの析出が起こる系において有効となる。
【0027】
請求項4,8によれば、特に膜汚染を引き起こし易い水質の被処理水に本発明を有効に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の廃水の生物処理水含有水(以下、単に「生物処理水含有水」と称す場合がある。)の浄化方法及び浄化装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
本発明を適用する生物処理水含有水としては、半導体や液晶などの電子機器製造業、自動車や家電などの機械製造業、鉄鋼、セメント、樹脂やフィルムなどの工業材料製造業、清涼飲料、酒、乳製品などの食品加工業等からの廃水を、標準活性汚泥法、嫌気好気性法、循環式硝化脱窒法、オキシデーションディッチ、回分式活性汚泥法などの浮遊生物方式、微生物固定方式、散水濾床方式、回転円板法、接触酸化法、生物濾過法などの固定床式などの好気性処理法や、嫌気性消化法などの嫌気性処理により処理して得られる、TOC濃度が0.5〜100mg/Lの生物処理水や、これらの生物処理水を含有する、TOC濃度が0.5〜100mg/Lの排水などを挙げることができる。
【0030】
本発明は半導体製造プロセスから排出される有機体炭素(TOC)含有水の生物処理水にも適用可能であるが、その他のプロセスから排出される総合排水(生活排水を含む)の生物処理水を含有する被処理水にも好適に適用することができる。
【0031】
本発明を適用する、生物処理水含有水の水質は、TOC濃度が0.5〜100mg/Lであればよく、特にTOC濃度が1mg/L以上20mg/L以下であることが好ましい。また、生物処理水含有水の多価金属イオン濃度は、10〜1000mg/L、特に20mg/L以上500mg/L以下で、とりわけ100mg/L以上であることが好ましい。
【0032】
なお、ここで多価金属イオン濃度としてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン(溶解性アルミニウム)、鉄イオン(溶存鉄)の総和として代表することができる。
【0033】
本発明を適用する廃水の生物処理水含有水は、多価金属イオンを多量に含み、RO膜の有機物汚染を顕著に助長する、例えば、塩化カルシウム、PAC、塩化鉄等の無機凝集剤を添加して凝集処理を行った無機廃水等を含有することが好ましい。本発明で処理する生物処理水含有水は、特にカルシウムイオン濃度が50mg/L以上、とりわけ100〜500mg/Lであることが好ましく、このようなカルシウムイオン含有生物処理水含有水に対して、本発明を有効に適用することができる。
【0034】
本発明においては、このような生物処理水含有水のRO膜分離処理に先立ち、多価金属イオンを除去する。
【0035】
生物処理水含有水中の多価金属イオンの除去方法としては、陽イオン交換樹脂を用いる方法が挙げられる。使用する陽イオン交換樹脂としては官能基の末端に水素イオンが結合したH型、Naイオンが結合したNa型など多価金属イオンを除去できるものであれば良く、特に制限はないが、弱酸性の陽イオン交換樹脂やキレート型の樹脂使用すると2価の金属イオンを効果的に除去することができる。
【0036】
陽イオン交換樹脂による処理手段としては特に制限はないが、陽イオン交換樹脂を充填した陽イオン交換塔に生物処理水含有水を通水してイオン交換処理する方法が効率的である。この場合、陽イオン交換塔への通水SVは5〜50hr−1が好ましく、10〜30hr−1が更に好ましい。また、通水方法は下向流、上向流、固定床、流動床など特に限定はしない。
【0037】
また、本発明においては、陰イオン交換樹脂による処理を行っても良く、これにより、生物処理水含有水中のアニオン性高分子を除去してRO膜の目詰まりをより一層効果的に防止することができる。この場合、陰イオン交換樹脂としては官能基の末端にヒドロキシルイオンが結合したOH型、Clイオンが結合したCl型など、アニオンを除去できるものであれば良いが、弱塩基性の陰イオン交換樹脂をpH5以下の酸性条件で使用することにより、弱酸、弱塩基の結合力が強まり、有機性アニオンを効果的に除去することができるので、好ましい。
【0038】
陰イオン交換樹脂による処理を行う場合、陽イオン交換塔の前段又は後段に陰イオン交換塔を設けて順次生物処理水含有水を通水するようにしても良く、また、陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とを混合して充填した混床式イオン交換塔を用いても良い。いずれの場合も、その通水条件等は、上述の陽イオン交換塔の通水条件と同様の条件を採用することができる。
【0039】
また、本発明方法においては、陽イオン交換塔の前段(陽イオン交換塔の前段に陰イオン交換塔を設ける場合には、陰イオン交換塔の前段)で圧力濾過、重力濾過、精密濾過、限外濾過、加圧浮上、沈殿などの処理を施して、原水中に含まれる懸濁物質を除去する前処理を行っても良く、これにより、イオン交換樹脂充填塔での差圧上昇を抑制することができる。また、活性炭塔を設置して有機物を吸着除去し、陽イオン交換塔、RO膜分離装置に流入する水のTOC濃度を低下させるようにしても良い。
【0040】
本発明において、多価金属イオンの除去手段としては陽イオン交換樹脂を用いる他、多価金属イオンがカルシウムイオンの場合、カルシウムイオンを炭酸塩として析出させ、これを濾過分離するものであっても良い。
【0041】
この場合には、生物処理水含有水に炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩を添加するか、炭酸ガスを吹き込みことにより、炭酸カルシウム、その他の多価金属の炭酸塩を析出させる。
【0042】
析出した炭酸塩は、砂濾過、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過等の濾過装置で除去する。この濾過装置は2以上を組み合わせて行っても良い。このような炭酸塩析出と濾過除去により、生物処理水含有水中のTOC成分をも除去することができる。なお、炭酸塩又は炭酸ガスの添加量は、除去対象となる金属イオンの当量〜3倍当量が適当であるが、多価金属イオンのキレート剤や分散剤が混入している場合は、使用量を増やす必要がある。この炭酸塩の濾過後は、必要に応じて、pH調整(pH5〜6.5)及び/又は曝気等により残留炭酸成分の除去を行う。
【0043】
このようにして多価金属イオンの除去を行った後の廃水の生物処理水含有水は、次いでRO膜分離装置に通水してRO膜分離処理する。ここで用いるRO膜に特に制限はなく、例えば、ポリアミド複合膜(PA膜)、酢酸セルロース膜(CA膜)、耐汚染膜などを挙げることができるが、特に、界面活性剤や糖脂質、蛋白質などの微量のファウリング性物質の吸着により膜が汚染され易い、全芳香族架橋PA膜に対して有効である。
【0044】
RO膜分離処理は、1機のRO膜分離装置を用いる1段処理に限らず、RO膜分離装置を2段以上の多段に直列配置し、多段RO膜分離処理による高度処理を行うことも可能であり、その際に2段目以降のRO膜分離装置の給水のpHをアルカリ性に調整し、炭酸成分の除去効果を高めるなどの手法を採用することもできる。
【0045】
本発明においては、このようなRO膜分離処理に先立ち、前述のような多価金属イオンの除去を行うことにより、RO膜分離装置の給水の全多価金属イオン濃度が0.5〜100mg/L、特に5〜100mg/L、カルシウムイオン濃度が0.5〜50mg/L、特に5〜50mg/Lとなるようにすることが好ましい。カルシウムイオン等の多価金属イオン濃度がこの範囲より高いと膜の目詰まりの防止効果が十分でなく、この範囲よりも低くしても膜目詰まり防止効果に大差はなく、多価金属イオン除去手段の負荷が徒に増大し、工業的に不利である。
【0046】
また、RO膜分離装置の水回収率を高くすると多価金属イオンと有機性のファウリング性物質とが濃縮されて、両者の結合と膜への付着が起こり易くなることから、RO膜分離装置は水回収率80重量%以下、例えば60〜80重量%で運転することが好ましく、上述のような給水をこのような水回収率でRO膜分離処理することにより、多価金属イオン濃度が1mg/L以上、特に7.5〜500mg/Lで、カルシウムイオン濃度が1mg/L以上、特に7.5〜250mg/LのRO濃縮水を得ることが好ましい。RO濃縮水のカルシウムイオン等の多価金属イオン濃度がこの範囲よりも高いと多価金属イオンと有機性のファウリング物質との結合による膜汚染が起こり、低いと処理コストが必要以上にかかるという不具合が生じる。
【0047】
また、本発明においては、RO膜分離装置の給水にスライムコントロール剤を添加することが好ましい。スライムコントロール剤を添加することにより、RO膜分離装置におけるスライムの発生を防止して、最終処理水の回収率を高めることができる。添加するスライムコントロール剤は非酸化性スライムコントロール剤であることが好ましく、例えば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ベンゾイソチアゾリン−3−オンなどのイソチアゾリン系スライムコントロール剤などを好適に用いることができる。スライムコントロール剤の添加量はRO膜分離装置の給水に対して0.5〜10mg/Lであることが好ましく、特に1〜5mg/Lであることがより好ましい。
【0048】
図1に、本発明の廃水の生物処理水含有水の浄化装置の実施の形態の一例を示す。図1において、生物処理水含有水は陽イオン交換塔1に送られ、陽イオン交換塔1において、生物処理水含有水に含まれる多価金属イオンが除去される。陽イオン交換塔1の処理水はタンク2を経て、スライムコントロール剤が添加された後、ポンプPによりRO膜分離装置3に導入されてRO膜分離処理される。RO膜分離装置3の透過水は最終処理水として取り出され、濃縮水は蒸発濃縮処理されたり、水質に応じて活性炭処理などを施した後、河川や下水に放流される。
【0049】
図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであり、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示のものに限定されるものではない。即ち、前述の如く、陽イオン交換塔の前段に濾過装置や活性炭塔等の前処理手段を設けても良く、また、陰イオン交換塔を陽イオン交換塔の前段又は後段に設けても良い。また、RO膜分離装置は2段以上の多段に設けても良い。更に、多価金属イオン除去手段として、陽イオン交換塔の代りに、炭酸塩又は炭酸ガスを添加して多価金属の炭酸塩を析出させる攪拌槽と、攪拌槽から流出する水を濾過する濾過装置とを設けても良い。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0051】
実施例1
生物処理水として、半導体製造工場排水を生物濾過装置で処理して得られた処理水を用いた。この生物処理水の水質は表1に示す通りであった。この生物処理水をH型陽イオン交換樹脂(ダウケミカル社製「EX−CG」)が充填された陽イオン交換塔にSV30hr−1で通水し、表1に示す陽イオン交換処理水を得た。
【0052】
得られた陽イオン交換処理水に5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを3mg/L添加し、RO膜分離装置(日東電工(株)製「ES−20」)を用いて、操作圧力0.75MPa、水回収率60重量%の条件でRO膜分離処理した。
【0053】
このときのRO膜分離装置の透過流束(Flux)の経時変化を調べ、結果を図2に示した。なお、RO膜の透過水及び濃縮水の水質は表1に示す通りであった。
【0054】
【表1】

【0055】
比較例1
生物処理水の陽イオン交換処理を行わなかったこと以外は実施例1と同条件でRO膜分離処理し、このときのRO膜分離装置の透過流束の経時変化を調べ、結果を図2に示した。
【0056】
図2より明らかなように、RO膜分離処理に先立ち、陽イオン交換処理により多価金属イオンを除去した実施例1においては、無処理の比較例1に比べ透過流束の低下は緩やかであり、通水開始200時間後においては0.1m/m・d程度の透過流束の差が見られた。
【0057】
実施例2
凝集沈殿処理水が混入する場合があるため、多価金属イオンとしてカルシウムイオンとマグネシウムイオンを含む、表2に示す水質の半導体製造工場排水の生物処理水に、pH10.5になるように炭酸ナトリウム(カルシウムイオンの反応当量の4倍)を添加し、30分反応させた後、析出物を平均粒径1.6μmのアンスラサイトと平均粒径0.9μmの砂の二層で濾過処理して、再びpHを6.5とした。この濾過処理水の水質は表2に示す通りであった。この濾過処理水をRO膜分離装置(日東電工(株)製「NTR759HR」)を用いて、操作圧力1.2MPa、水回収率60重量%の条件でRO膜分離処理し、このときのRO膜分離装置の透過流束の経時変化を調べ、結果を図3に示した。なお、RO膜の透過水及び濃縮水の水質は表2に示す通りであった。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例3
半導体製造工場排水の生物処理水に、実施例2と同様にしてpH10.5になるように炭酸ナトリウムを添加し、30分反応させた後、析出物をナノ濾過膜(日東電工(株)製「NTR7250」)で濾過処理した。この濾過処理水の水質は表3に示す通りであった。この濾過処理水を実施例2と同条件でRO膜分離処理し、このときの透過流束の経時変化を調べ、結果を図3に示した。なお、RO膜の透過水及び濃縮水の水質は表3に示す通りであった。
【0060】
【表3】

【0061】
比較例2
実施例1において、半導体製造工場排水の生物処理水をそのままRO膜分離装置に導入したこと以外は同条件でRO膜分離処理し、このときのRO膜分離装置の透過流束の経時変化を調べ、結果を図3に示した。
【0062】
図3より明らかなように、RO膜分離処理に先立ち多価金属イオンの除去を行った実施例2は、無処理の比較例2に比べ、透過流束の低下は緩やかであり、通水開始50秒間後において、既に0.2m/m・dの透過流束の差が見られた。また、析出物をナノ濾過膜で分離除去した実施例3では透過流束の低下は殆ど見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の廃水の生物処理水含有水の浄化装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実施例1及び比較例1におけるRO膜分離装置の透過流束の経時変化を示すグラフである。
【図3】実施例2,3及び比較例2におけるRO膜分離装置の透過流束の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 陽イオン交換塔
2 タンク
3 RO膜分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水の生物処理水を含有する、TOC濃度が0.5〜100mg/Lの被処理水を逆浸透膜分離処理して浄化する方法において、該被処理水中の多価金属イオンを除去した後、逆浸透膜分離処理することを特徴とする廃水の生物処理水含有水の浄化方法。
【請求項2】
請求項1において、該被処理水をイオン交換樹脂に接触させることにより該被処理水中の多価金属イオンを除去することを特徴とする廃水の生物処理水含有水の浄化方法。
【請求項3】
請求項1において、前記多価金属イオンがカルシウムイオンであって、該被処理水中のカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させた後に濾過することにより、該カルシウムイオンを除去することを特徴とする廃水の生物処理水含有水の浄化方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該被処理水は多価金属イオン濃度が10〜1000mg/Lであることを特徴とする廃水の生物処理水含有水の浄化方法。
【請求項5】
廃水の生物処理水を含有する、TOC濃度が0.5〜100mg/Lの被処理水を逆浸透膜分離処理して浄化する装置において、該被処理水中の多価金属イオンを除去する多価金属イオン除去手段と、該多価金属イオン除去手段の処理水が導入される逆浸透膜分離装置とを備えてなることを特徴とする廃水の生物処理水含有水の浄化装置。
【請求項6】
請求項5において、前記多価金属イオン除去手段がイオン交換樹脂塔であることを特徴とする廃水の生物処理水含有水の浄化装置。
【請求項7】
請求項5において、前記多価金属イオンがカルシウムイオンであって、前記多価金属イオン除去手段が、該被処理水に炭酸塩及び/又は炭酸ガスを添加してカルシウムイオンを炭酸カルシウムとして析出させる炭酸成分添加手段と、該炭酸成分添加手段からの水が導入される濾過装置とを有することを特徴とする廃水の生物処理水含有水の浄化装置。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、該被処理水は多価金属イオン濃度が10〜1000mg/Lであることを特徴とする廃水の生物処理水含有水の浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−95425(P2006−95425A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284488(P2004−284488)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】