説明

廃水処理方法及び廃水処理装置

【課題】 硝酸態窒素を含む産業廃水等に脱窒細菌を添加し、硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理を行う際に、その処理速度を早めること。
【解決手段】 硝酸態窒素を含む廃水に対し、当該廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000mg/l以下となるように所定の希釈水で希釈した後、脱窒細菌を添加して廃水中の硝酸態窒素の濃度を低下させる。ここで、希釈水としては、希釈後の廃水中の塩濃度が4%〜10%の適正範囲内となるものを用いる。その結果、前記適正範囲外となる塩濃度の場合に比べ、脱窒細菌による脱窒活性が大幅に向上して廃水処理速度が早まることになり、硝酸態窒素の濃度を所定値に低下させるのに要する時間が約半分以上短縮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃水処理方法及び廃水処理装置に係り、更に詳しくは、硝酸態窒素を含む産業廃水等に脱窒細菌を添加し、硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理を行う際に、その処理速度を早めることのできる廃水処理方法及び廃水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硝酸態窒素の濃度が10000g/m程度となる高濃度の産業廃水は、その濃度を200g/m程度にまで減少させて廃棄することが要請される。ここで、廃水中の硝酸態窒素の濃度を減少させるには、硝酸態窒素の濃度が十分の一程度になるように、産業廃水を水道水等の希釈水により希釈した上で、脱窒細菌を添加し、当該脱窒細菌の作用によって硝酸態窒素を窒素ガスに変える生物学的な廃水処理方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。
【特許文献1】特開2002−273476号公報
【特許文献2】特開2003−33799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記希釈水として、水道水の代わりに工場内で排出される写真廃液処理水を用いたところ、廃水中の硝酸態窒素の濃度が所定値まで減少する時間を大幅に短縮することができた。そして、本発明者らは、鋭意実験及び研究を行った結果、脱窒細菌が添加される際の産業廃水の塩濃度の値によって、脱窒細菌による脱窒活性が大幅に向上することを知見した。
【0004】
本発明は、このような発明者の知見に基づいて案出されたものであり、その目的は、硝酸態窒素を含む産業廃水等に脱窒細菌を添加し、硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理を行う際に、脱窒細菌による脱窒活性を向上させ、廃水処理速度を早めることができる廃水処理方法及び廃水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、硝酸態窒素を含む廃水に脱窒細菌を添加し、前記硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理方法において、
前記廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000mg/l以下の状態で、当該廃水中の塩濃度を4%〜10%の範囲内に調整する、という手法を採っている。
【0006】
(2)また、硝酸態窒素を含む廃水に対し、当該廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000mg/l以下となるように所定の希釈水で希釈した後、脱窒細菌を添加して廃水中の硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理方法において、
希釈後の廃水中の塩濃度が4%〜10%の範囲内となる希釈水を用いる、という手法を採っている。
【0007】
(3)更に、本発明は、硝酸態窒素を含む廃水に脱窒細菌を添加することにより、前記硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理装置において、
前記廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000mg/l以下の状態で、当該廃水中の塩濃度を4%〜10%の範囲内に調整する調整手段を備える、という構成を採っている。
【0008】
なお、本明細書において、「硝酸態窒素」とは、NO−N及びNO−Nの総称を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、脱窒細菌を廃水に添加する際、当該廃水中の塩濃度が4%〜10%の範囲内になるように調整すると、その範囲外の塩濃度の場合に比べ、脱窒細菌による脱窒活性が大幅に向上して廃水処理速度が早まることになり、硝酸態窒素の濃度を所定値に低下させるのに要する時間が約半分以上短縮可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、硝酸態窒素を含む産業廃水に対して本発明を適用する場合につき説明する。
【0011】
前記産業廃水としては、製錬廃水、肥料製造廃水、火薬製造廃水、金属表面処理廃水等を例示できる。これら産業廃水は、硝酸態窒素の濃度が10000g/m以上と高濃度になっているため、先ず、希釈水を加えて産業廃水中の硝酸態窒素の濃度を5000g/m以下に希釈する。特には、1000g/m〜2000g/mに希釈するのが好ましい。
【0012】
ここで、希釈水としては、特に限定されるものではなく、水道水、写真廃液処理水等、要するに、希釈後の廃水の塩濃度が4%〜10%の範囲内になるような塩成分を含み、且つ、脱窒細菌の活性を阻害しない限り、何でもよい。ここでは、例えば、本出願人の工場で排出される排水を希釈水として使用することができる。この排水とは、病院などから回収した写真廃液(現像液、定着液)を高温酸化装置にて処理することによって得られる処理水であり、窒素成分は含まれず、塩成分として硫酸ナトリウムを多く含み、塩濃度が10%程度となる処理水である。
【0013】
なお、塩としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を例示できる。
【0014】
次いで、希釈後の廃水に脱窒細菌を添加する。これにより、当該脱窒細菌の作用で硝酸態窒素を窒素ガスに変える脱窒反応が行われ、廃水中の硝酸態窒素の濃度が低下することになる。ここで、このような生物処理時に、廃水の塩濃度を4%〜10%の適正範囲内にすることによって、脱窒細菌による脱窒活性を大幅に向上させることができ、前記適正範囲外の塩濃度に比べ、おおよそ二倍の処理速度が得られることになる。なお、脱窒細菌の菌体濃度は、3000g/m以上必要で、好ましくは、5000g/m〜10000g/mが良い。
【0015】
前記脱窒細菌は、自己で確保しているものの他、下水処理場の汚泥の中に含まれるものを用い、脱窒能力を高めるために馴養を行った上で、前述したように廃水に添加する。
【0016】
なお、家庭用廃水のように、硝酸態窒素の濃度が1000g/m以下の廃水については、前述した希釈水の添加が不要になるため、廃水の塩濃度が4%〜10%の適正範囲内になるように、塩の添加等の調整を行う。
【0017】
また、前述の廃水処理方法は、脱窒細菌を使った廃水処理装置に適用可能である。つまり、産業廃水を処理する廃水処理装置の場合は、廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000g/m以下となるように、廃水を希釈水で希釈する調整手段と、希釈後の廃水に対して脱窒細菌を添加して生物処理を行う生物処理手段とを備えている。ここでの希釈水も、希釈後の廃水の塩濃度が4%〜10%の適正範囲内となるような塩成分を含み、且つ、脱窒細菌の活性を阻害しないものが用いられる。このため、前記調整手段は、廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000mg/l以下の状態で、当該廃水中の塩濃度を4%〜10%の適正範囲内に調整する作用を奏する。
【0018】
なお、家庭用廃水を処理する廃水処理装置の場合は、廃水に脱窒細菌を添加して生物処理を行う生物処理手段と、前記廃水の塩濃度を4%〜10%の適正範囲に調整する調整手段とを備えている。
【0019】
以下、本発明の効果を実証するための実験を行った。
【0020】
図1に示されるように、本実験に用いた実験装置10は、貴金属回収工程から排出される製錬廃水を希釈した供給液を貯蔵するタンク11と、タンク11の供給液が供給され、当該供給液に対し脱窒細菌による脱窒反応をさせる反応槽12と、タンク11から反応槽12に供給液を供給するポンプ14と、反応槽12からの排出液から脱窒細菌を沈降分離させる沈降槽15とを備えている。
【0021】
前記供給液は、次のようにして得られた。先ず、前記製錬廃水を硝酸態窒素の濃度が1500g/m程度になるように水道水で希釈する。その後、反応槽12内での脱窒反応に必要となる有機物(酢酸)を添加し、その濃度を約2250g/mとした。そして、5mol/lの水酸化ナトリウムでpHを7に調整するとともに、脱窒細菌の栄養塩として、リン(NaHPO−P)を添加し、その濃度が常時20g/mとなるようにした。そして、塩としての硫酸ナトリウムの添加等による調整を行い、1、4、7、10、13、16%となる6種類の塩濃度の供給液がそれぞれ得られた。
【0022】
前記反応槽12は、その上部が開放しており、当該上部にタンク11からの供給液が滴下されるようになっている一方、所定高さに沈降槽15への排出口17が形成されており、当該排出口17の付近が供給液の水面となって、当該水面がほぼ一定高さに保持されるようになっている。つまり、供給液は、反応槽12に供給された分だけ外部に排出されることになる。また、反応槽12内には、供給液を撹拌する撹拌翼18が設けられており、供給液の撹拌動作が常時行われる。反応槽12内の脱窒細菌の濃度であるが、実験開始前の状態で9000g/mとした。なお、本実験では、反応槽12内に脱窒細菌の流出を防ぐ担体を入れていない。
【0023】
前記沈降槽15は、反応槽12から排出される生物処理後の排出液(以下、「処理液」という。)の中に含まれる脱窒細菌を沈降させることで、処理液から脱窒細菌を分離するものである。分離された脱窒細菌は、所定のサイクルで反応槽12内に戻される。つまり、本実験は、何日にも亘って継続的に行われる実験であるが、常時は、反応槽12からの処理液が沈降槽15を通過して外部に排出され、その通過時に、脱窒細菌がその自重で沈降槽15内に沈降する。そして、1日1度、ポンプ14の駆動及び反応槽12内の撹拌動作を止めるとともに、反応槽12から沈降槽15への処理液の排出を止めることで実験を一旦中断し、沈降槽15内に沈降した脱窒細菌を反応槽12内に戻してから、実験を再開するようにした。
【0024】
次に、本実験手順につき説明する。なお、本実験は室温(20℃〜25℃)下で行った。
【0025】
前記6種類の塩濃度の供給液それぞれに対し、所定日数経過後に段階的に供給流量を増大させることで反応槽12内の窒素負荷を高め、各流量時に硝酸態窒素除去速度を求めた。この硝酸態窒素除去速度は、1菌体が1日に処理できる硝酸態窒素の量を表し、次式によって求められる。
【数1】

【0026】
ここで、入口硝酸態窒素濃度は、タンク11からの供給液が反応槽12に滴下される前における供給液の硝酸態窒素の濃度(約1500g/m)である。
出口硝酸態窒素濃度は、反応槽12内の処理液が沈降槽15に排出される直前における処理液の硝酸態窒素の濃度であり、所定間隔で測定された値である。
なお、これら各硝酸態窒素濃度の測定時には、脱窒細菌を極力採取しないように、ポンプ14の駆動及び反応槽12内の撹拌動作を一旦止め、その後30分程度静置することで脱窒細菌を反応槽12内に沈降させ、その上澄み液を採取するようにした。
【0027】
菌体濃度は、反応槽12内の脱窒細菌の濃度であり、反応槽12内の液を撹拌している状態で槽内の液3mlを採取し、それを濾過、乾燥した後で、脱窒細菌の量を測定し、反応槽12内の菌体濃度に換算したものである。なお、菌体濃度を都度測定するのは、実験時に反応槽12内から処理液が排出されるため、実験開始前の状態(9000g/m)から多少変化するからである。
【0028】
滞留時間は、供給液が反応槽12内に供給されてから排出されるまでの時間であり、次式によって求められる。
【数2】

【0029】
供給液の流量は、0.116ml/min、0.174ml/min、0.232ml/min、0.29ml/min、0.348ml/minの順で段階的に高めていった。なお、流量の増大は、反応槽12から排出される処理液中の硝酸態窒素の濃度が240g/m以下まで処理されたときを条件とした。
【0030】
以上の実験の結果、各塩濃度の供給液に対し、硝酸態窒素除去速度の最高値は、図2の通りとなった。図2より、塩濃度が4%〜10%の供給液の場合、その他の塩濃度の場合に比べ実用的に高い廃水処理速度が得られることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の効果を実証するための実験装置の概略構成図。
【図2】供給液の塩濃度と硝酸態窒素除去速度の最高値との関係を示す図表。
【符号の説明】
【0032】
10 実験装置
11 タンク
12 反応槽
14 ポンプ
15 沈降槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸態窒素を含む廃水に脱窒細菌を添加し、前記硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理方法において、
前記廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000mg/l以下の状態で、当該廃水中の塩濃度を4%〜10%の範囲内に調整することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項2】
硝酸態窒素を含む廃水に対し、当該廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000mg/l以下となるように所定の希釈水で希釈した後、脱窒細菌を添加して廃水中の硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理方法において、
希釈後の廃水中の塩濃度が4%〜10%の範囲内となる希釈水を用いたことを特徴とする廃水処理方法。
【請求項3】
硝酸態窒素を含む廃水に脱窒細菌を添加することにより、前記硝酸態窒素の濃度を低下させる廃水処理装置において、
前記廃水中の硝酸態窒素の濃度が5000mg/l以下の状態で、当該廃水中の塩濃度を4%〜10%の範囲内に調整する調整手段を備えたことを特徴とする廃水処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−61764(P2006−61764A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244480(P2004−244480)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年4月2日から4日 社団法人化学工学会主催の「化学工学会第69年会(2004)」において文書をもって発表
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(596133201)松田産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】