説明

廃液の処理方法、含硫化合物の処理方法

【課題】廃液からの硫化水素の発生を防ぐことが可能な廃液の処理方法を提供する。
【解決手段】バッチ内で硫黄と第1の硫黄を含む化合物とを反応させた後、バッチ内に残存する硫黄と第2の含硫化合物との混合物を、液状の第3の含硫化合物で洗浄する。そして、この洗浄により発生する、硫黄、第2の含硫化合物、及び、第3の含硫化合物を含む廃液に、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合することで、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物とを共重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄を含む廃液、特に硫化水素の発生源となる含硫化合物を含む廃液の処理方法、及び、含硫化合物の処理方法に係る。
【背景技術】
【0002】
高屈折プラスチックレンズ等に使用されるプラスチック基材の製造には、原料として硫黄原子と、硫黄原子を構造内に有する化合物、いわゆる含硫化合物とが用いられている。例えば、屈折率の高いプラスチックレンズには、硫黄原子と、硫黄と反応可能な化合物とを重合反応させた樹脂組成物を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。そして、硫黄と反応可能な樹脂としては、例えば、チオール化合物やエピチオ化合物等のような構造内に硫黄を含む化合物が用いられている。
【0003】
高屈折率プラスチックレンズの製造方法では、硫黄原子と含硫化合物とを反応容器内で混合して反応させてプレポリマーを製造する。さらに、製造したプレポリマーを成形型内で熱重合等により硬化させ、プラスチック基材を製造する。
【0004】
一方、バッチ内で製造したプレポリマーを成形型などに移した後、バッチ内を洗浄する必要がある。洗浄するバッチ内には、例えば、合成されたプレポリマーや、原料としてバッチ内に投入された未反応の硫黄及び含硫化合物等にからなる種々の混合物が残存している。
これらの混合物を洗浄するためには、原料の硫黄及び含硫化合物、反応物のプレポリマーを充分に溶解することが可能な溶媒を用いる必要がある。このような溶媒として、一般的にはハロゲン化合物溶剤や、チオール化合物に代表される含硫化合物などが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−197005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液状のチオール化合物やポリチオール化合物を洗浄に用いた場合、このチオール化合物やポリチオール化合物と硫黄との反応により硫化水素ガスが発生する。このように、構造内に硫黄を含む化合物(含硫化合物)の溶液中に硫黄が存在すると、反応により硫化水素が発生する。
このような硫化水素が発生している状態の含硫化合物の廃棄処分では、そのまま焼却などの処分を行うことは可能ではあるが、処分までの保管条件、取り扱い方法等によっては、作業者が硫化水素にさらされることになる。このため、含硫化合物を含む廃液の取り扱いが非常に困難となる。
このように、バッチ内を洗浄した際に発生する廃液、さらに、硫黄が溶解又は分散した状態の含硫化合物溶液の処理が問題となっている。
【0007】
上述した問題の解決のため、本発明においては、バッチ内を洗浄した際の廃液からの硫化水素の発生を防ぐことが可能な廃液の処理方法、及び、含硫化合物の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の廃液の処理方法は、バッチ内で硫黄と第1の硫黄を含む化合物とを反応させた後、バッチ内に残存する硫黄と第2の含硫化合物との混合物を、液状の第3の含硫化合物で洗浄する。そして、この洗浄により発生する、硫黄、第2の含硫化合物、及び、第3の含硫化合物を含む廃液に、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合する。共重合可能な化合物の混合により、第3の含硫化合物と、共重合可能な化合物とを共重合させることを特徴とする。
また、本発明の含硫化合物の処理方法は、構造内に硫黄を含む液状の含硫化合物と、前記含硫化合物に溶解若しくは分散している硫黄とに、前記含硫化合物と共重合可能な化合物を混合し、前記含硫化合物と前記共重合可能な化合物とを共重合させることを特徴とする。
【0009】
本発明の廃液の処理方法、及び、含硫化合物の処理方法によれば、バッチ内を洗浄する液状の含硫化合物を含む廃液と、この含硫化合物と共重合可能な化合物とを混合し、含硫化合物と、共重合可能な化合物とを共重合させる。この共重合により、含硫化合物と硫黄との反応を抑制することができ、硫化水素の発生を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、含硫化合物の処理において、硫黄と含硫化合物との反応による硫化水素の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための具体的な形態を説明する前に、本発明の概要について説明する。まず、屈折率1.6以上の高屈折プラスチック基材や、プラスチックレンズ等の製造方法について説明する。
【0012】
高屈折率のプラスチック基材の製造には、屈折率を向上させるために、構造内に硫黄を含む化合物(第1の含硫化合物)に硫黄を混合する。さらに加硫触媒を加えることにより、硫黄を含む化合物中への硫黄の取り込み、いわゆる加硫を行う。
【0013】
第1の含硫化合物としては、エピチオ基を少なくとも1つ以上有する化合物、及び、チオール基を少なくとも1つ以上有する化合物を用いる。特に、末端に2つ以上のエピチオ基を有するエピチオ化合物、及び、末端に2つ以上のチオール基を有するチオール化合物を用いることが好ましい。さらに、第1の含硫化合物中の硫黄の含有率を高めるために、チオール化合物やエピチオ化合物の主鎖又は側鎖等の構造中にスルフィド結合を有することが好ましい。
【0014】
硫黄は、例えば、硫黄原子を有する無機化合物として添加することができる。硫黄原子を有する無機化合物としては、例えば、硫黄(単体)、硫化水素、二硫化炭素、セレノ硫化炭素、硫化アンモニウム、二酸化硫黄、三酸化硫黄等の硫黄酸化物、チオ炭酸塩、硫酸及びその塩、硫酸水素塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩、過硫酸塩、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩、二塩化硫黄、塩化チオニル、チオホスゲン等のハロゲン化物、硫化硼素、硫化窒素、硫化珪素、硫化リン、硫化砒素、金属硫化物、金属水硫化物等が挙げられる。
これらの中で、特に好ましくは、硫黄(単体)である。
【0015】
さらに、必要に応じて上記硫黄及び第1の含硫化合物にエポキシ化合物や、プラスチック基材の特性を向上させるための添加剤を加える。
そして、これらの原料をバッチ内で、混合及び反応させることにより、プラスチック基材の材料となるプレポリマーを製造する。
【0016】
次に、製造したプレポリマーをバッチ内から取り出し、硬化触媒等を添加して成形型内に充填する。成形型内で熱重合等を行い、固化させてプラスチック基材を成型する。
成型したプラスチック基材を成形型から取り出すことにより、プラスチック基材を製造する。そして、所望の加工方法でプラスチック基材を加工することにより、プラスチックレンズや光学部材等を形成する。
【0017】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
上述のプラスチック基材の製造方法では、バッチ内で、プラスチック基材の原料となる硫黄と、エピチオ化合物やチオール化合物等の第1の含硫化合物を反応させて、プレポリマーを製造している。このため、バッチ内からプレポリマーを取り出した後、反応に用いてバッチの内部を洗浄する必要がある。
【0018】
バッチ内にて上述の原料を反応させた後、バッチ内には、上述の原料同士の反応により形成されたプレポリマー、及び、硫黄と第1の含硫化合物との反応物、第1の含硫化合物同士の反応物、及び、第1の含硫化合物同士の反応物に硫黄が架橋した化合物等、並びに、原料として投入されて未反応第1の含硫化合物等、複数の原料や化合物が混合された状態で存在する。従って、上記の混合物がプレポリマーを取り出した後に、バッチ内には、これらの複数の原料や化合物の混合物が残存する。これら反応後にバッチ内に残存する複数の原料や化合物の混合物を、第2の含硫化合物とする。また、バッチ内には、第2の含硫化合物と共に、原料として投入された未反応の硫黄が含まれている。
【0019】
バッチ内の洗浄には、バッチ内に残存する上述の第2の含硫化合物である、例えば、プレポリマー等の反応物や、硫黄や第1の含硫化合物等の未反応原料を、充分に溶解することが可能な溶媒を用いる。特に、原料の硫黄単体を溶解することができる溶媒と、プラスチック基材用のプレポリマーとを溶解することができる溶媒は限られている。このような溶媒としては、硫黄や含硫化合物の溶解性に優れた、構造内に硫黄を含む液状の有機化合物を用いる。特に、構造内にスルフィド結合を有するチオール化合物を用いることが好ましい。この構造内に硫黄を含む液状の有機化合物を、第3の含硫化合物とする。
第3の含硫化合物としては、液状のチオール化合物、又は、液状のポリチオール化合物を用いることが好ましい。
【0020】
液状のチオール化合物及びポリチオール化合物としては、例えば、ジメルカプトエチルスルフィド、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、テトラキスメルカプトメチルメタン、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセテート、2,3−ジメルカプトプロパノール、ジメルカプトメタン、トリメルカプトメタン、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3,5−ベンゼントリチオール、1,2−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3−ジメルカプトメチルベンゼン、1,4−ジメルカプトメチルベンゼン、1,3,5−トリメルカプトメチルベンゼン、トルエン−3,4−ジチオール、1,2,3−トリメルカプトプロパン、1,2,3,4−テトラメルカプトブタン等を用いることができる。
【0021】
バッチ内に液状の第3の含硫化合物を供給し、硫黄及び第2の含硫化合物を第3の含硫化合物に溶解させることにより、バッチ内を洗浄することができる。
そして、バッチ内を洗浄したことにより、第3の含硫化合物に、第2の含硫化合物及び硫黄が溶解又は分散した状態の廃液が発生する。この廃液には、硫黄と第3の含硫化合物とが同時に存在するため、硫黄と第3の含硫化合物との反応により硫化水素が発生する。
例えば、第3の含硫化合物が末端にチオール基を有する場合には、下記化学式(1)の反応により、硫化水素が発生する。
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、Rは、スルフィド結合を有する有機基、又は、スルフィド結合を有しない有機基を表す。m,xは、任意の整数を表す。)
【0024】
また、例えば、第2の含硫化合物として末端にエピチオ基を有する化合物が含まれていて、第3の含硫化合物として末端にチオール基を有する化合物とが含まれる場合には、廃液中の硫黄と第3の含硫化合物とによる上記化学式(1)の反応により、スルフィド結合を有する化合物と、硫化水素とが発生する。そして、硫化水素と第2の含硫化合物とによる下記化学式(2)〜(3)の反応で、廃液から硫化水素が発生する。
【0025】
【化2】

【0026】
(式中、Rは、スルフィド結合を有する有機基、又は、スルフィド結合を有しない有機基を表す。)
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、Rは、スルフィド結合を有する有機基、又は、有しない有機基を表す。n,yは、任意の整数を表す。)
【0029】
第2の含硫化合物にエピチオ基を有する化合物が含まれている場合には、上記化学式(2)に示すように、エピチオ基と硫化水素の硫黄ラジカル(S)との反応により、エピチオ基が開環し、チオール基が発生する。そして、化学式(3)に示すように、チオール基と硫黄とが反応し、スルフィド結合を有する化合物と、硫化水素とが発生する。
【0030】
また、例えば第2の含硫化合物にチオール基を有する化合物が含まれている場合には、このチオール基と硫黄とが化学式(1)や化学式(3)と同様に反応することで、硫化水素が発生する。
【0031】
上記の反応により、バッチ内を洗浄した廃液から硫化水素が発生している場合には、この廃液を処分するまでの保管条件、取り扱い方法等によって、作業者が硫化水素にさらされる等、廃液の取り扱いが非常に困難である。
そこで、廃液からの硫化水素の発生を抑えるために、第3の含硫化合物に共重合可能な化合物を、廃液に混合する。そして、第3の含硫化合物と、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物とを反応させることにより、硫化水素の発生を抑制する。
【0032】
第3の含硫化合物に共重合可能な化合物としては、1官能のイソシアネート基を有する化合物、又は、2官能以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物を用いることが好ましい。
【0033】
例えば、第3の含硫化合物が末端にチオール基を有する場合には、このチオール基に対して共重合可能な化合物、例えば、イソシアネート基を有する化合物を反応させる。下記化学式(4)に示す反応により、第3の含硫化合物に含まれるチオール基を含む化合物と、イソシアネート基を含む化合物とが共重合する。
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、Rは、有機基を表す。Rは、スルフィド結合を有する有機基、又は、有しない有機基を表す。n,mは、任意の整数を表す。)
【0036】
化学式(4)の反応では、廃液中に含まれる硫黄が関与しない。このため、廃液中に、チオール基を有する第3の含硫化合物と硫黄とが含まれている場合にも、下記化学式(5)に示す反応が起きる。
【0037】
【化5】

【0038】
(式中、Rは、有機基を表す。Rは、スルフィド結合を有する有機基、又は、有しない有機基を表す。n,m,xは、任意の整数を表す。)
【0039】
化学式(5)に示すように、チオール基とイソシアネート基が反応することにより、硫黄とチオール基との反応を抑制する。このため、上記化学式(1)で示すような、チオール基と硫黄との反応による硫化水素の発生を抑制することができる。
【0040】
また、例えば、第2の含硫化合物にエピチオ基を有する化合物が含まれている場合には、上記化学式(2)の反応により、チオール基が発生する。そして、このチオール基と、上述の第3の含硫化合物と共重合可能な化合物とが反応する。このチオール基と第3の含硫化合物と共重合可能な化合物との反応は、化学式(4)に示す第3の含硫化合物と、これと共重合可能な化合物との反応と、同様に行われる。このため、上記化学式(5)と同様に、エピチオ基を有する化合物が含まれている第2の含硫化合物と硫黄とが廃液に含まれている場合にも、硫黄とチオール基との反応を抑制し、硫化水素の発生を抑えることができる。
【0041】
さらに、第2の含硫化合物にチオール基を有する化合物が含まれている場合にも、上記化学式(4)と同様に、第2の含硫化合物に含まれる化合物のチオール基と、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物のイソシアネート基とが反応する。このため、チオール基を有する化合物が含まれている第2の含硫化合物と硫黄とが廃液に含まれている場合にも、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合することにより、硫黄とチオール基との反応を抑制し、硫化水素の発生を抑えることができる。
【0042】
上述のように、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を廃液に混合することで、第3の含硫化合物と硫黄との反応による硫化水素の発生を防ぐことができる。また、第2の含硫化合物にチオール基やエピチオ基を有する化合物が含まれている場合にも、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を廃液に混合することで、第3の含硫化合物と硫黄との反応を抑制するのと同様に、硫化水素の発生を抑制することができる。
【0043】
また、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として、共重合可能な官能基を2つ以上有する化合物を用いることにより、第3の含硫化合物及び第2の含硫化合物と、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物とを共重合させ、この共重合体を高分子化する。さらに、共重合体の分子量を増大させることにより、廃液を固化させることができる。
【0044】
例えば、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として2官能以上のイソシアネート化合物を用いることにより、第3の含硫化合物と、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物とによる相互共重合体を形成し、高分子化することができる。さらに、重合を進めて相互共重合体の分子量を増加させることにより、廃液内の粘度が上昇し、廃液自体が固化した状態となる。
また、第2の含硫化合物として、チオール基及びエピチオ基等の共重合可能な官能基を2つ以上有する化合物が含まれる場合には、この化合物と第3の含硫化合物と共重合可能な化合物とによる相互共重合体を形成し、高分子化することができる。そして、共重合体の分子量を増大させることにより廃液の粘度を高めて固化させることができる。
【0045】
廃液中の第2、第3の含硫化合物を高分子化するためには、廃液中に含まれる第2、第3の含硫化合物のチオール基及びエピチオ基等の硫黄との反応により硫化水素を発生する官能基に対して、第3の含硫化合物と共重合する官能基が同官能基当量以上となるように、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合する。例えば、廃液に対して、同官能基当量以上のイソシアネート基が含まれるように、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合する。
【0046】
第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を同官能基当量以上に混合することにより、理論上、廃液に含まれる硫化水素の発生原因となる官能基を全てで共重合することができるため、硫黄との反応による硫化水素の発生をなくすことができる。さらに、共重合体の高分子化による廃液の固化を促進することができる。
【0047】
なお、上述の廃液処理方法においては、第3の含硫化合物によりバッチ内を洗浄する際に、バッチ内には、第2の含硫化合物に加えて有機溶媒やその他の揮発成分が含まれている場合がある。この場合にも、有機溶媒の存在下で第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合してもよく、また、蒸留により有機溶媒や揮発成分を除去した後、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合してもよい。
【0048】
また、上述の説明では、バッチ内に存在する第2の含硫化合物として、チオール化合物及びエピチオ化合物を主に説明したが、第2の含硫化合物はこの化合物以外のプラスチック基材の原料となる各種の原料、添加剤等が含まれる。特に、硫黄との混合により硫化水素を発生する反応が起る含硫化合物が第2の含硫化合物に含まれていれば、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物により、硫化水素の発生を抑制することができる。
【0049】
また、上述の説明では、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として、イソシアネート化合物を主に説明したが、イソシアネート以外の化合物にも、第3の含硫化合物との共重合により、硫化水素の発生を抑制することができる化合物であれば本発明に適用することができる。
【0050】
上述の説明では、プラスチック基材の製造工程において発生する洗浄廃液について説明しているが、本発明は、廃液の処理方法に限定されない。液状の含硫化合物に硫黄が溶解又は分散している状態では、含硫化合物と硫黄との上記化学式(1)の反応と同様に、硫化水素が発生する。このため、硫黄が溶解又は分散している含硫化合物に対して、含硫化合物と共重合可能な化合物を混合することにより、上記化学式(5)の反応と同様に、含硫化合物と、この含硫化合物と共重合可能な化合物とによる共重合体が形成される。このため、含硫化合物と硫黄との反応による硫化水素の発生を抑制することができる。
さらに、共重合可能な化合物として、共重合可能な官能基を2つ以上有する化合物を用いることにより、含硫化合物と、この含硫化合物と共重合可能な化合物とを共重合させ、共重合体を高分子化することができる。そして、共重合体の分子量を増大させることにより、含硫化合物溶液を固化することができる。
【実施例】
【0051】
実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
(含硫黄混合物Aの作製)
まず、第2の含硫化合物に相当する含硫黄混合物Aを作製した。
硫黄70.0質量部と、第1の含硫化合物としてビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド399.6質量部とを、窒素雰囲気下60℃にて20分撹拌溶解した。さらに、この溶液に加硫触媒として、2−メルカプト−N−メチルイミダゾールを0.15質量部加えて1時間反応させた後、20℃に冷却した。この溶液に、ジメルカプトエチルスルフィド(DMES)を30.4質量部、硬化触媒としてテトラブチルホスホニウムブロミド0.02質量部を加え、40hPa減圧のもと30分撹拌脱気を行なった。得られた種々の含硫化合物の混合物(第2の含硫化合物)と、硫黄との混合物を、混合物Aとした。
【0052】
(第3の含硫化合物の混合)
1Lビーカーに混合物Aを15.0質量部、第3の含硫化合物としてジメルカプトエチルスルフィド285.0質量部、ジメチル錫ジクロリド0.1質量部を混合した。
【0053】
(第3の含硫化合物と共重合可能な化合物の混合)
混合物Aと第3の含硫化合物とに、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として、ポリイソシアネート化合物のキシレンジイソシアネート(XDI)286.0質量部を加えて1分間撹拌混合を行った。この後、混合液を1000mlのアイボーイ広口瓶(PP製;アズワン)へ入れ替えて蓋をした。これを35℃の恒温炉に1週間保管した。
【0054】
1週間経過後の混合物A、第3の含硫化合物、及び、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物の混合液からの硫化水素の発生はなく、無臭であった。硫化水素の発生量を、有毒ガス検知警報機(株式会社ジコー社製、製品名GBL−H)で測定した結果、発生濃度は0ppmであった。また、固化させる際の発熱は最大43℃であった。
【0055】
(実施例2)
第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として、ポリイソシアネート化合物をイソホロンジイソシアネート(IPDI)330.0質量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2とした。
【0056】
1週間経過後の混合液からの硫化水素の発生はなく、無臭であった。また、混合液かららの硫化水素の発生濃度は0ppmであった。また、固化させる際に発生する重合熱は最大40℃であった。
【0057】
(実施例3)
第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として、ポリイソシアネート化合物をヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)327.0質量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3とした。
【0058】
1週間経過後の混合液からの硫化水素の発生はなく、無臭であった。また、混合液かららの硫化水素の発生濃度は0ppmであった。また、固化させる際に発生する重合熱は最大47℃であった。
【0059】
(実施例4)
(含硫黄混合物Bの作製)
硫黄0.5質量部と、第1の含硫化合物及び第3の含硫化合物に相当するジメルカプトエチルスルフィド(DMES)99.5質量部とを、窒素雰囲気下40℃にて10分撹拌溶解した。さらに、この溶液に、トリエチルアミンを全量に対して0.01wt%を滴下した。発生する硫化水素を処理しながら2時間撹拌を行ない、さらに5hPa減圧のもと1時間撹拌脱気を行なった。得られた種々の含硫化合物の混合物(第2の含硫化合物と第3の含硫化合物との混合物)と、硫黄との混合物を混合物Bとした。
【0060】
(第3の含硫化合物と共重合可能な化合物の混合)
1Lビーカーに混合物Bを285.0質量部、ジメチル錫ジクロリド0.1質量部を混合し、さらに、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として、ポリイソシアネート化合物のキシレンジイソシアネート(XDI)271.0質量部を加え1分間撹拌混合を行った。この後、混合液を1000mlのアイボーイ広口瓶(PP製;アズワン)へ入れ替えて蓋をした。これを35℃の恒温炉に1週間保管した。
【0061】
1週間経過後の混合物B、及び、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物の混合液からの硫化水素の発生はなく、無臭であった。硫化水素の発生量を測定した結果、発生濃度は0ppmであった。また、固化させる際の発熱は最大44℃であった。
【0062】
(実施例5)
第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として、ポリイソシアネート化合物をイソホロンジイソシアネート(IPDI)315.0質量部に変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、実施例5とした。
【0063】
1週間経過後の混合液からの硫化水素の発生はなく、無臭であった。また、混合液かららの硫化水素の発生濃度は0ppmであった。また、固化させる際に発生する重合熱は最大42℃であった。
【0064】
(実施例6)
第3の含硫化合物と共重合可能な化合物として、ポリイソシアネート化合物をヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)311.0質量部に変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、実施例6とした。
【0065】
1週間経過後の混合液からの硫化水素の発生はなく、無臭であった。また、混合液かららの硫化水素の発生濃度は0ppmであった。また、固化させる際に発生する重合熱は最大48℃であった。
【0066】
(実施例7〜9)
上述の実施例1〜3において第3の含硫化合物の混合する際に、第3の含硫化合物と共に、有機溶媒としてクロロホルムを30.0質量部加えた以外は、実施例1〜3と同様の操作を行い、それぞれ実施例7、実施例8、実施例9とした。
【0067】
1週間経過後の実施例7、実施例8及び実施例9の各混合液からの硫化水素の発生はなく、無臭であった。また、混合液からの硫化水素の発生濃度は0ppmであった。また、固化させる際に発生する重合熱は、実施例7が最大42℃、実施例8が最大38℃、実施例9が最大46℃であった。
【0068】
(実施例10〜12)
上述の実施例4〜6において混合物Bを作製する際に、DMESと共に有機溶媒としてクロロホルムを30.0質量部加えた以外は、実施例4〜6と同様の操作を行い、それぞれ実施例10、実施例11、実施例12とした。
【0069】
1週間経過後の実施例10、実施例11及び実施例12の各混合液からの硫化水素の発生はなく、無臭であった。また、混合液からの硫化水素の発生濃度は0ppmであった。また、固化させる際に発生する重合熱は、実施例10が最大43℃、実施例11が最大41℃、実施例12が最大47℃であった。
【0070】
(比較例1)
1Lビーカーに上記混合物Aを15.0質量部、第3の含硫化合物としてDMES285.0質量部、ジメチル錫ジクロリド0.1質量部を混合し1分間撹拌混合を行った。この後、1000mlのアイボーイ広口瓶(PP製;アズワン)へ入れ替えて蓋をした。これを35℃の恒温炉に1週間保管した。
【0071】
1週間経過後の比較例1の混合液からは、多量の硫化水素の発生があり、硫化水素の発生量を測定した結果、発生濃度は100ppm以上の測定値を示した。
【0072】
(比較例2)
混合物B500.0質量部を1000mlのアイボーイ広口瓶(PP製;アズワン)へ入れて蓋をした。これを35℃の恒温炉に1週間保管した。
【0073】
1週間経過後の比較例2の混合液からは、多量の硫化水素の発生があり、硫化水素の発生量を測定した結果、発生濃度は100ppm以上の測定値を示した。
【0074】
(比較例3)
比較例1において第3の含硫化合物の混合する際に、第3の含硫化合物と共に有機溶媒としてクロロホルムを各30.0質量部添加した以外は、実施例1と同様の操作を行い比較例3とした。
【0075】
1週間経過後の比較例3の混合液からは、多量の硫化水素の発生があり、硫化水素の発生量を測定した結果、発生濃度は100ppm以上の測定値を示した。
【0076】
(比較例4)
比較例2において混合物Bを作製する際に、DMESと共に有機溶媒としてクロロホルムを各30.0質量部添加した以外は、実施例4と同様の操作を行い比較例4とした。
【0077】
1週間経過後の比較例4の混合液からは、多量の硫化水素の発生があり、硫化水素の発生量を測定した結果、発生濃度は100ppm以上の測定値を示した。
【0078】
上記実施例1〜12及び比較例1〜4の結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例においては、イソシアネート化合物を混合していることにより、1週間後の混合液からの硫化水素の発生が無かった。これに対し、比較例では、100ppm以上の硫化水素が発生した。
従って、第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合することにより、硫黄と含硫化合物とが含まれる混合液からの硫化水素の発生を抑制することができた。
【0081】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッチ内で硫黄と第1の含硫化合物とを反応させた後、前記バッチ内に残存する前記硫黄と第2の含硫化合物との混合物を、液状の第3の含硫化合物で洗浄し、
前記洗浄により発生する、前記硫黄、前記第2の含硫化合物、及び、前記第3の含硫化合物を含む廃液に、前記第3の含硫化合物と共重合可能な化合物を混合し、
前記第3の含硫化合物と前記共重合可能な化合物とを共重合させることにより、前記廃液を処理する
ことを特徴とする廃液の処理方法。
【請求項2】
前記第3の含硫化合物が、末端に2つ以上のチオール基を有する液状のチオール化合物であることを特徴とする請求項1に記載の廃液の処理方法。
【請求項3】
前記第3の含硫化合物と共重合する前記共重合可能な化合物の官能基が、同官能基当量以上となるように前記共重合可能な化合物を混合することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃液の処理方法。
【請求項4】
第3の含硫化合物と前記共重合可能な化合物との共重合体の分子量を増大させ、前記廃液を固化することを特徴とする請求項3に記載の廃液の処理方法。
【請求項5】
前記共重合可能な化合物が、イソシアネート化合物又はポリイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の廃液の処理方法。
【請求項6】
前記第2の含硫化合物が、チオール化合物、ポリチオール化合物から選ばれる少なくとも1種類以上を含んでいることを特徴とする請求項1乃至5に記載の廃液の処理方法。
【請求項7】
構造内に硫黄を含む液状の含硫化合物と、前記含硫化合物に溶解若しくは分散している硫黄とに、前記含硫化合物と共重合可能な化合物を混合し、前記含硫化合物と前記共重合可能な化合物とを共重合させることを特徴とする含硫化合物の処理方法。

【公開番号】特開2010−240563(P2010−240563A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91421(P2009−91421)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】